(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ワモンゴキブリの虫体及び/又は糞に対して、(A)有機溶媒による抽出工程と、(B)該抽出工程により得られた抽出物を、順相系シリカゲルカラムクロマトグラフィー、逆相系シリカゲルカラムクロマトグラフィー及びイオン交換樹脂カラムクロマトグラフィーを組み合わせた分離精製工程を実施することにより得られる、請求項1〜3のいずれか記載のゴキブリ集合誘引物質又はその塩。
ワモンゴキブリの虫体及び/又は糞に対して、(A)有機溶媒による抽出工程と、(B)該抽出工程により得られた抽出物を、順相系シリカゲルカラムクロマトグラフィー、逆相系シリカゲルカラムクロマトグラフィー及びイオン交換樹脂カラムクロマトグラフィーを組み合わせた分離精製工程を実施することで得られる、請求項1〜5のいずれかに記載のゴキブリ集合誘引物質又はその塩の精製方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はゴキブリ集合フェロモン、並びに該ゴキブリ集合フェロモンを含むゴキブリ集合誘引剤又はゴキブリ駆除剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ワモンゴキブリの虫体及び糞に、ゴキブリ集合誘引物質が含まれることを見出し、さらに研究を続け、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下に関する。
〔1〕C
13H
16O
3の分子式(分子量220)であるゴキブリ集合誘引物質又はその塩。
〔2〕ワモンゴキブリの虫体及び/又は糞から得られる前記〔1〕記載のゴキブリ集合誘引物質又はその塩。
〔3〕ワモンゴキブリの虫体及び/又は糞に対して、(A)有機溶媒による抽出工程と、(B)該抽出工程により得られた抽出物を、順相系シリカゲルカラムクロマトグラフィー、逆相系シリカゲルカラムクロマトグラフィー及びイオン交換樹脂カラムクロマトグラフィーを組み合わせた分離精製工程を実施することにより得られ、C
13H
16O
3の分子式(分子量220)である、ゴキブリ集合誘引物質又はその塩。
〔4〕前記抽出工程(A)が以下の(1)〜(2)、前記分離精製工程(B)が以下の(3)〜(8)である前記〔3〕記載のゴキブリ集合誘引物質又はその塩。
(1)ワモンゴキブリの虫体及び/又は糞をn−ヘキサンで洗浄した後、その残渣をメタノール/ジクロロメタン混合溶媒で抽出し、溶媒を除去し抽出物を得る工程;
(2)前記工程(1)で得た抽出物をジクロロメタンに溶解させ、続いて炭酸ナトリウム水溶液との液−液分配法により得られたジクロロメタン層を分離して、溶媒を除去し、ジクロロメタン抽出物を得る工程;
(3)前記工程(2)で得た抽出物を、順相系シリカゲルカラムクロマトグラフィーで、ジクロロメタン/n−ヘキサン混合溶媒、続いて酢酸エチル/n−ヘキサン混合溶媒を展開溶媒として用いる分離を繰り返し、酢酸エチル/n−ヘキサン分画溶液から溶媒を除去し、酢酸エチル/n−ヘキサン溶出物を得る工程;
(4)前記工程(3)で得た抽出物を、イオン交換樹脂によるカラムクロマトグラフィーで、移動相をメタノール/水混合溶媒で分離し、メタノール/水溶出物を得る工程;
(5)前記工程(4)で得た溶出物を、移動相が酢酸エチル/n−ヘキサン混合溶媒である順相系HPLCで分画し、分取したフラクションから溶媒を除去し溶出物を得る工程;
(6)前記工程(5)で得た溶出物を、移動相がメタノールである逆相系HPLCで分画し、溶出物を得る工程;
(7)前記工程(6)で得た溶出物を、移動相がイソプロパノール/メタノール混合溶媒である逆相系HPLCで分画し、溶出物を得る工程;
(8)前記工程(7)で得た溶出物を、移動相が酢酸エチル/n−ヘキサン混合溶媒である順相系HPLCで分画し、分取したフラクションから溶媒を除去する工程。
〔5〕ワモンゴキブリの虫体及び/又は糞に対して、(A)有機溶媒による抽出工程と、(B)該抽出工程により得られた抽出物を、順相系シリカゲルカラムクロマトグラフィー、逆相系シリカゲルカラムクロマトグラフィー及びイオン交換樹脂カラムクロマトグラフィーを組み合わせた分離精製工程を実施することで得られるC
13H
16O
3の分子式(分子量220)であるゴキブリ集合誘引物質又はその塩の精製方法。
〔6〕前記抽出工程(A)が以下の(1)〜(2)、前記分離精製工程(B)が以下の(3)〜(8)である前記〔5〕記載のC
13H
16O
3の分子式(分子量220)であるゴキブリ集合誘引物質又はその塩の精製方法。
(1)ワモンゴキブリの虫体及び/又は糞をn−ヘキサンで洗浄した後、その残渣をメタノール/ジクロロメタン混合溶媒で抽出し、溶媒を除去し抽出物を得る工程;
(2)前記工程(1)で得た抽出物をジクロロメタンに溶解させ、続いて炭酸ナトリウム水溶液との液−液分配法により得られたジクロロメタン層を分離して、溶媒を除去し、ジクロロメタン抽出物を得る工程;
(3)前記工程(2)で得た抽出物を、順相系シリカゲルカラムクロマトグラフィーで、ジクロロメタン/n−ヘキサン混合溶媒、続いて酢酸エチル/n−ヘキサン混合溶媒を展開溶媒として用いる分離を繰り返し、酢酸エチル/n−ヘキサン分画溶液から溶媒を除去し、酢酸エチル/n−ヘキサン溶出物を得る工程;
(4)前記工程(3)で得た溶出物を、イオン交換樹脂によるカラムクロマトグラフィーで、移動相をメタノール/水混合溶媒で分離し、メタノール/水溶出物を得る工程;
(5)前記工程(4)で得た溶出物を、移動相が酢酸エチル/n−ヘキサン混合溶媒である順相系HPLCで分画し、分取したフラクションから溶媒を除去し溶出物を得る工程;
(6)前記工程(5)で得た溶出物を、移動相がメタノールである逆相系HPLCで分画し、溶出物を得る工程;
(7)前記工程(6)で得た溶出物を、移動相がイソプロパノール/メタノール混合溶媒である逆相系HPLCで分画し、溶出物を得る工程;
(8)前記工程(7)で得た溶出物を、移動相が酢酸エチル/n−ヘキサン混合溶媒である順相系HPLCで分画し、分取したフラクションから溶媒を除去する工程。
〔7〕前記〔4〕に記載の工程(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)若しくは(7)で得られる抽出物及び溶出物を含むゴキブリ誘引剤。
〔8〕前記〔4〕に記載の工程(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)若しくは(7)で得られる抽出物及び溶出物を含むゴキブリ駆除剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れたゴキブリ集合誘引効果を有するゴキブリ集合誘引物質及びその塩を得ることができ、該ゴキブリ集合誘引物質を使用して、高いゴキブリ誘引効果を有するゴキブリ誘引剤及びゴキブリ駆除剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において「ゴキブリ」とは、分類学上の昆虫網ゴキブリ目に属する種類のうち、シロアリを除く昆虫を意味し、例えば、チャバネゴキブリ(Blattella germanica)、ワモンゴキブリ(Periplaneta americana)、クロゴキブリ(Periplaneta fuliginosa)、ヤマトゴキブリ(Periplaneta japonica)等が含まれるが、これらには限定されない。
【0014】
本発明において、「ゴキブリ集合誘引」とは、ゴキブリの成虫/幼虫又はオス/メスの区別に関わらず同種個体を寄り集まらせることを意味する。本発明において、「同種個体」とは、前記の「ゴキブリ」を意味する。本発明において、「ゴキブリ集合誘引物質」とは、ゴキブリ集合誘引活性を有する物質を意味し、以後「ゴキブリ集合誘引化合物」又は「ゴキブリ集合フェロモン」ともいう。
【0015】
本発明は、C
13H
16O
3の分子式(分子量220)であるゴキブリ集合誘引活性物質及びその塩に関する。塩としては、特に限定されないが、酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩等が挙げられる。酸付加塩としては、特に限定されず、例えば、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等の有機酸塩が挙げられ、金属塩としては、特に限定されず、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等が挙げられ、有機アミン付加塩としては、特に限定されず、例えば、トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、プロカイン塩、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン塩、モルホリン塩、ピペリジン塩等の付加塩が挙げられ、薬理学的に許容されるアミノ酸付加塩としては、特に限定されず、例えば、リジン塩、グリシン塩、フェニルアラニン塩等の付加塩等が挙げられる。
【0016】
前記ゴキブリ集合誘引活性物質は、
図1に示したマススペクトルを有し、C
13H
16O
3の分子式であり、分子量は220である。また、前記ゴキブリ集合誘引活性物質は、UV吸収スペクトルにおいて258nm付近及び318nm付近に吸収極大をもつ。前記ゴキブリ集合誘引活性物質は、後記する精製方法によりワモンゴキブリの虫体及び/又は糞から得られる。
【0017】
前記ゴキブリ集合誘引活性物質を、ワモンゴキブリの虫体及び/又は糞を原料とする前記ゴキブリ集合誘引活性物質の精製方法は、(A)有機溶媒を用いた抽出工程、及び(B)カラムクロマトグラフィーを用いた分離精製工程を含む。
【0018】
前記工程(A)で用いる有機溶媒は、極性有機溶媒及び無極性有機溶媒のいずれも用いることができる。前記極性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、アミルアルコール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、アセチルアセトン、又はシクロヘキサノン等のケトン類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸等の有機酸等が挙げられる。前記無極性有機溶媒としては、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、2,2,4−トリメチルペンタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の飽和炭化水素類;クロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、四塩化炭素、クロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン等のハロゲン化アルキル類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、アニソール又はベラトロール等のエーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、安息香酸エチル又はフタル酸ジメチル等のエステル類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類等が挙げられる。これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上を組み合わせるときの混合比率は特に限定されず、組み合わせる溶媒の種類、又は抽出する化合物の種類により適宜選択される。本発明において、アルコール類、飽和炭化水素類及び/又はハロゲン化アルキル類が好ましい。
【0019】
前記有機溶媒のうち、n−ヘキサン、ジクロロメタン及びメタノール/ジクロロメタン混合溶媒を用いることが好ましい。該メタノール/ジクロロメタン混合溶媒の混合比率は任意の値とすることができるが、好ましくは1/99〜5/95(v/v)である。
【0020】
前記工程(A)は、好適には、以下の(1)及び(2)の工程を含む:
(1)ワモンゴキブリの虫体及び/又は糞をn−ヘキサンで洗浄した後、メタノール/ジクロロメタン混合溶媒で抽出し、溶媒を除去して抽出物を得る工程;
(2)前記工程(1)で得た抽出物をジクロロメタンに溶解させ、続いて炭酸ナトリウム水溶液を加えて液−液分配法により得られたジクロロメタン層を分離して、溶媒を除去し、ジクロロメタン抽出物を得る工程。
【0021】
前記工程(1)において、n−ヘキサンによる洗浄方法、及びメタノール/ジクロロメタン溶液による抽出方法は、特に限定されないが、固液抽出により行うことが好ましい。固液抽出は、常法に従って行うことができ、例えば、固体の供試サンプル(虫体及び/又は糞)に、溶媒(n−ヘキサン又はメタノール/ジクロロメタン溶液)を加えた後、吸引濾過又は自然流下による濾過により固体サンプルと溶媒を分離させることで行うことができる。また、メタノール/ジクロロメタン)抽出溶液の溶媒の除去は、例えば、ロータリーエバポレータを用いた減圧留去により行うことができる。
【0022】
前記工程(2)において、工程(1)で得られた抽出物をジクロロメタンに溶解させた溶液に加える1N炭酸ナトリウム水溶液の量は、特に限定されないが、通常、前記ジクロロメタン溶液と1N炭酸ナトリウム水溶液との比率が、1/1(v/v)となるように加える。1N炭酸ナトリウム水溶液を加えた後は、常法に従い液−液分配を行うことができる。常法に従い、ジクロロメタン層と、炭酸ナトリウム水溶液層を分離し、ジクロロメタン層の溶媒を除去し抽出物を得る。ジクロロメタン層の溶媒の除去方法は特に限定されず、例えば、ロータリーエバポレータを用いた減圧留去により行うことができる。
【0023】
前記工程(B)は、順相系シリカゲルクロマトグラフィー、逆相系シリカゲルクロマトグラフィー及びイオン交換樹脂カラムクロマトグラフィーによる精製工程を組み合わせていてよい。
【0024】
前記工程(B)で用いる溶媒は、プロトン性溶媒、非プロトン性溶媒のいずれも用いることができる。前記プロトン性溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、アミルアルコール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール等のアルコール類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸等の有機酸等が挙げられる。前記非プロトン性溶媒としては、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、2,2,4−トリメチルペンタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の飽和炭化水素類;クロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、四塩化炭素、クロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン等のハロゲン化アルキル類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、アニソール又はベラトロール等のエーテル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、アセチルアセトン、又はシクロヘキサンノン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、安息香酸エチル又はフタル酸ジメチル等のエステル類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類等を挙げることができる。これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上を組み合わせるときの混合比率は特に限定されず、組み合わせる溶媒の種類、又は抽出する化合物の種類により適宜選択される。本発明においては、水、アルコール類、飽和炭化水素、エステル類、及び/又はニトリル類が好ましい。
【0025】
本発明の好ましい態様において、工程(B)は以下の(3)〜(8)の工程を含む:
(3)前記工程(2)で得た抽出物を、順相系シリカゲルカラムクロマトグラフィーで、ジクロロメタン/n−ヘキサン混合溶媒、続いて酢酸エチル/n−ヘキサン混合溶媒を展開溶媒として用いる分離を繰り返し、酢酸エチル/n−ヘキサン分画溶液から溶媒を除去し、酢酸エチル/n−ヘキサン溶出物を得る工程;
(4)前記工程(3)で得た溶出物を、イオン交換樹脂によるカラムクロマトグラフィーで、移動相をメタノール/水混合溶媒で分離し、メタノール/水溶出物を得る工程;
(5)前記工程(4)で得た溶出物を、移動相が酢酸エチル/n−ヘキサン混合溶媒である順相系HPLCで分画し、分取したフラクションから溶媒を除去し溶出物を得る工程;
(6)前記工程(5)で得た溶出物を、移動相がメタノールである逆相系HPLCで分画し、溶出物を得る工程;
(7)前記工程(6)で得た溶出物を、移動相がイソプロパノール/メタノール混合溶媒である逆相系HPLCで分画し、溶出物を得る工程;
(8)前記工程(7)で得た溶出物を、移動相が酢酸エチル/n−ヘキサン混合溶媒である順相系HPLCで分画し、分取したフラクションから溶媒を除去する工程。
【0026】
前記工程(3)〜(8)において、各工程で得られた各分画溶液は、後記するリニアトラックオルファクトメーターを用いた生物試験に供し、ゴキブリ集合誘引活性の高い画分を選択して、次の工程/又は操作に用いる。
【0027】
前記工程(3)の順相系シリカゲルクロマトグラフィーは、好ましくはシリカゲルを充填したオープンカラムクロマトグラフィーである。シリカゲルを充填したオープンカラムによる抽出物の分画は、常法に従って行うことができる。例えば、抽出物を、カラムに充填したシリカゲルの上に載せ、減圧下で溶媒を流すことで行うことができる。また、得られた抽出溶液から、溶媒を除去する方法は特に限定されず、例えば、ロータリーエバポレータを用いた減圧留去により行うことができる。
【0028】
前記工程(3)で用いるジクロロメタン/n−ヘキサン混合溶媒の混合比率は、任意の値とすることができるが、好ましくは5/95〜40/60(v/v)、精製効率を高めるために、より好ましくは5/95〜20/80(v/v)、さらに好ましくは8/92〜15/85(v/v)である。また、酢酸エチル/n−ヘキサン混合溶媒の混合比率は、任意の値とすることができるが、好ましくは0.5/99.5〜15/85(v/v)、精製効率を高めるために、より好ましくは0.5/99.5〜10/90(v/v)である。
【0029】
前記工程(4)のイオン交換樹脂を充填したオープンカラムによる溶出物の分画は、常法に従って行うことができる。例えば、乾固した溶出物を、メタノールなどの溶媒に再溶解させ、イオン交換樹脂とともに懸濁したままカラムにのせ、順次溶媒を流すことで行うことができる。得られた溶出溶液の溶媒除去方法又は濃縮方法は、特に限定されず、例えば、ロータリーエバポレータを用いた減圧留去又は減圧濃縮により行うことができる。イオン交換樹脂は、好ましくはポーラスポリマービーズ(例えばCHP20P、三菱化学株式会社製)である。
【0030】
前記工程(4)において、メタノール/水の混合比率は、任意の値とすることができるが、好ましくは100/0〜70/30(v/v)、精製効率を高めるために、より好ましくは100/0〜80/20(v/v)である。
【0031】
前記工程(4)の好ましい態様では、前記工程(3)で得た溶出物を、イオン交換樹脂を充填したオープンカラムで、移動相をメタノール/水(85/15(v/v))、続いてメタノール/水(95/5(v/v))として分離する。
【0032】
前記工程(5)において、酢酸エチル/n−ヘキサンの混合比率は、任意の値とすることができるが、好ましくは1/99〜10/90(v/v)であり、精製効率を高めるために、より好ましくは1/99〜5/95(v/v)である。
【0033】
前記工程(5)において、順相系HPLCによる精製は、例えば、以下の方法により行うことができる。順相カラムを装着させたHPLCを用い、移動相に酢酸エチル/n−ヘキサン混合溶液を使用し、前記工程(4)で得た溶出物を、前記順相カラムを通過させることにより行うことができる。前記順相カラムは、例えば、シリカゲルカラム(COSMOSIL 5SL-II、ナカライテスク株式会社製、φ4.6×150mm)を用いることができる。詳細な精製条件は、実施例に記載した。
【0034】
前記工程(6)において、移動相は、メタノール又はアセトニトリルを用いることができ、メタノール/アセトニトリルの混合溶媒を用いることもできる。混合比率は特に限定されず、任意の値とすることができるが、好ましくは100%メタノールである。
【0035】
前記工程(6)において、逆相系HPLCによる精製は、例えば、以下の方法により行うことができる。逆相カラムを装着させたHPLCを用い、移動相に100%メタノールを使用し、前記工程(5)で分取した溶出溶液を、前記逆相カラムを通過させることにより行うことができる。前記逆相カラムは、例えば、ODSカラム(COSMOSIL 5AR-II、ナカライテスク株式会社製、φ4.6×150mm)を用いることができる。詳細な精製条件は、実施例に記載した。
【0036】
前記工程(7)において、イソプロパノール/メタノールの混合比率は、任意の値とすることができるが、好ましくは20/80〜80/20(v/v)、精製効率を高めるために、より好ましくは35/65〜65/35(v/v)である。
【0037】
前記工程(7)において、HPLCによる精製は、例えば、以下の方法により行うことができる。逆相カラムを装着させたHPLCを用い、移動相にイソプロパノール/メタノール(50/50(v/v))溶液を使用し、前記工程(6)で得た溶出物を、前記逆相カラムを通過させることにより行うことができる。前記逆相カラムは、例えば、COSMOSIL πNAPカラム(ナカライテスク株式会社製、φ4.6×150mm)を用いることができる。詳細な精製条件は、実施例に記載した。
【0038】
前記工程(8)において酢酸エチル/n−ヘキサンの混合比率は、任意の値とすることができるが、好ましくは0.5/99.5〜10/90(v/v)であり、精製効率を高めるために、より好ましくは0.5/99.5〜5/95(v/v)である。
【0039】
前記工程(8)において、HPLCによる精製は、例えば、以下の方法により行うことができる。順相カラムを装着させたHPLCを用い、移動相に酢酸エチル/n−ヘキサン(1/99(v/v))溶液を使用し、前記工程(7)で得た溶出物を、前記順相カラムを通過させることにより行うことができる。前記順相カラムは、例えば、シリカゲルカラム(COSMOSIL 5SL-II、ナカライテスク株式会社製、φ4.6×150mm)を用いることができる。詳細な精製条件は、実施例に記載した。また、溶媒の除去方法は、特に限定されず、例えば、ロータリーエバポレータを用いた減圧留去により行うことができる。
【0040】
本発明の精製法により得られる化合物は、ゴキブリ集合誘引活性を有する。ゴキブリ集合誘引活性は、リニアトラックオルファクトメーター(
図2)を用いた生物試験により確認することができる。
【0041】
オルファクトメーターとは、一般的に、昆虫の揮発性成分への反応を観察するために用いられる生物検定装置をいい、装置分岐部で誘引成分を含む気流に被験昆虫が誘引されるようにした装置である(日林誌、89(2)2007『揮発性成分のニホンキバチ成虫に対する誘引活性試験を行うオルファクトメーターの作成』p135-137、農業環境研究叢書 第17号『農業生態系の保全に向けた生物機能の活用』p108-134)。
【0042】
生物試験を具体的に説明する。
図2の中央の筒の上部の1から吸引すると、左右の筒の上部(2a及び2b)から空気が入り、横筒を通ってそれぞれ中央の筒上部へと流れる気流が発生する仕組みとなっている。左筒がコントロール側、右筒がサンプル側である。
図2の筒に吊下げた金属製のディスクである3にサンプルを塗布し、中央の筒下部の4に供試虫(7〜10日齢の幼虫)を入れ、中央の筒上部からポンプでゆっくり吸引する(2.5L/分)。25±1℃、相対湿度40〜60%、全暗の条件で、供試虫を5分間自由に行動させ、その後コントロール側及びサンプル側に移動した供試虫を数える。その後、下記式から余剰比係数(EPI値)を算出する。
【数1】
(式中、NSはサンプル側に移動した供試虫の数、NCはコントロール側に移動した供試虫の数である。)
【0043】
本発明の別の態様は、分子式がC
13H
16O
3(分子量220)であり、
図1に示すマススペクトルを有するゴキブリ集合誘引物質を含むゴキブリ駆除剤に関する。
【0044】
本発明のゴキブリ駆除剤における前記ゴキブリ集合誘引物質の配合量は、ゴキブリ集合誘引効果が発揮されれば特に限定されず、剤形や適用方法、使用場所に応じて適宜選択することができる。通常2.0×10
−7ppm〜1ppm(2.0×10
−11〜1.0×10
−4重量%)であり、好ましくは4.0×10
−6ppm〜0.5ppm(4.0×10
−10〜5.0×10
−5重量%)である。
【0045】
本発明のさらに別の態様は、前記工程(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)若しくは(7)で得られた抽出物又は溶出物を含むゴキブリ駆除剤に関する。前記ゴキブリ集合誘引物質のみならず、前記工程(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)若しくは(7)で得られた抽出物又は溶出物(以下、工程(1)で得られた抽出物を粗抽出物ともいう。)も、ゴキブリ集合誘引物質として優れたゴキブリ集合誘引効果を有する。これらの抽出物又は溶出物の内、高いゴキブリ集合誘引効果を示すこと、及び操作が簡易であることから、工程(1)で得られた抽出物を用いることが好ましい。
【0046】
本発明のゴキブリ駆除剤における前記工程(1)で得られた抽出物の配合量は、ゴキブリ集合誘引効果が発揮されれば特に限定されず、剤形や適用方法、使用場所に応じて適宜選択することができる。通常3ppm〜200000ppm(3.0×10
−4〜20重量%)であり、好ましくは50ppm〜20000ppm(5.0×10
−3〜2重量%)である。
【0047】
本発明の好ましい態様では、例えば、本発明のゴキブリ集合誘引物質を、殺虫剤を含む食毒剤に混入したり、粘着式捕虫器に使用したりしてもよく、粉剤、粒剤、エアゾール剤、液剤、シートなどの各種ゴキブリ駆除剤に適宜適用して駆除効果の増強を図ることができる。
【0048】
前記殺虫剤としては、特に限定されないが、例えば、ピレトリン、アレスリン、フラメトリン、レスメトリン、フェノトリン、ペルメトリン、フタルトリン、イミプロトリン、シフェノトリン、ペルメトリン、フェンバレレート、エトフェンプロクス、プラレトリン、フェンフルトリン、トランスフルトリン等のピレスロイド剤;フェニトロチオン、トリクロルホン、ジクロルボス、ピリダフェンチオン、ダイナジノン、フェンチオン等の有機リン剤;カルバリル、メチルカルバミン酸−2−(1−メチルプロピル)フェニル(BPMC)、プロポキサー、セビン等のカーバメート剤;メトキサジアゾン等のオキサジアゾール系殺虫剤;テトラヒドロ−5,5−ジメチル−2(1H)−ピリミジノイン〔3−〔4−(トリフルオロメチル)フェニル〕−1−〔2−〔4−(トリフルオロメチル)フェニル〕エテニル〕−2−プロペニリデン〕ヒドラゾン等のヒドラゾン系殺虫剤;ヒドラメチルノン、ホウ酸、ホウ酸塩等が挙げられ、これらは、マイクロカプセル化又はサイクロデキストリンで包接化されてもよい。食毒剤を調製するために用いられる担体としては、ケイ酸、カオリン、タルク等の各種鉱物質粉末;木粉、とうもろこし粉、小麦粉、でんぷん等の各種植物質粉末;糖蜜、脱脂粉乳、魚粉等の成分;又は、アビオン等の賦形剤、固着剤等を挙げることができる。また、粘着式捕虫器に使用される基材としては、天然ゴム系、又は、ポリブテン、ポリイソブテンを主体とし、ロジン、パラフィンワックス等で粘着力を高めた合成ゴム系粘着物を例示できる。その他、必須ではないが、芳香剤、防臭剤、殺菌剤、安定剤、溶剤等の補助成分を適宣配合することによって、効力の優れた多目的組成物が得られる。
【0049】
こうして得られたゴキブリ駆除剤は、台所、倉庫、冷蔵庫の裏等、ゴキブリが排廻する場所に適用すれば、チャバネゴキブリ、ワモンゴキブリ等に対し高い駆除効果を奏するものである。本発明のゴキブリ駆除剤の形態は特に限定されず、液剤又は固剤とすることができる。
【0050】
前記液剤の調製において用いられる担体としては、特に限定されないが、例えば、水;メタノール、エタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ヘキサン、ケロシン、パラフィン、石油ベンジン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル等のエステル類;ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類等を挙げることができる。前記液剤は、さらに、通常の塗膜形成剤、乳化剤、分散剤、展着剤、湿潤剤、安定剤、噴射剤等の添加剤を配合することができ、塗布形態、接着剤形態、乳剤、分散剤、懸濁剤、ローション、ペースト、クリーム、噴霧剤、エアゾール等の形態で利用することができる。
【0051】
前記添加剤としては、例えばニトロセルロース、アセチルセルロース、アセチルブチリルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体;酢酸ビニル樹脂等のビニル系樹脂;アルキッド系樹脂、ユリア系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコン系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ゴム、ポリビニルアルコール等の塗膜形成剤;石鹸類;ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテル;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル;ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸グリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、高級アルコールの硫酸エステル、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ等のアルキルアリールスルホン酸塩等の界面活性剤;液化石油ガス、ジメチルエーテル、フルオロカーボン、液化炭酸ガス等の噴射剤;カゼイン、ゼラチン、アルギン酸等を挙げることができる。
【0052】
前記固剤の調製において用いられる担体としては、例えばケイ酸、カオリン、活性炭、ベントナイト、珪藻土、タルク、クレー、炭酸カルシウム、陶磁器粉等の鉱物質粉末;木粉、大豆粉、小麦粉、澱粉等の植物質粉末;又はシクロデキストリン等の包接化合物等を挙げることができる。さらに、該固剤の調製において、例えばトリシクロデカン、シクロドデカン、2,4,6−トリイソプロピル−1,3,5−トリオキサン、トリメチレンノルボルネン等の昇華性担体;又はパラジクロロベンゼン、ナフタレン、樟脳等の昇華性防虫剤等を用い、上記誘引活性物質を溶融混合または擂潰混合後に成型して昇華性固剤とすることもできる。
【0053】
また、本発明のゴキブリ集合誘引物質は、例えばポリビニルアルコールやカルボキシメチルセルロース等を用いたスプレードライ法;ゼラチン、ポリビニルアルコール、アルギン酸等を用いた液中硬化法;コアセルベーション法等に従いマイクロカプセル化した形態に調製することもでき、ベンジリデン−D−ソルビトール、カラギーナン等のゲル化剤を用いてゲルの形態に調製することもできる。さらに、本発明のゴキブリ集合誘引物質に犬猫忌避剤、鳥の忌避剤、蛇の忌避剤、殺虫・殺ダニ剤、効力増強剤、酸化防止剤、齧歯類動物駆除及び忌避剤、昆虫成長制御物質、摂餌物質、他の誘引活性成分、殺菌剤、防黴剤、防腐剤、着香料、着色料、誤食防止剤等を配合することもできる。
【0054】
本発明の別の態様は、分子式がC
13H
16O
3(分子量220)であり、
図1に示すマススペクトルを有するゴキブリ集合誘引物質を含むゴキブリ誘引剤に関する。本発明のゴキブリ誘引剤に用いる前記分子量220の化合物は、ワモンゴキブリの虫体又は糞から精製して得ることもでき、化学合成により得ることもできる。
【0055】
本発明のさらに別の態様は、前記精製工程(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)若しくは(7)で得られた抽出物又は溶出物を含むゴキブリ誘引剤に関する。
【0056】
本発明のゴキブリ誘引剤の剤形、添加剤、担体等は、前記ゴキブリ駆除剤と同様であって良い。
【実施例】
【0057】
次に、実験例、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0058】
本実施例において、ゴキブリ集合誘引活性は、上記したリニアトラックオルファクトメーター(線形通路付き嗅覚計)(
図2)を用いた生物試験により行った。
【0059】
各精製工程におけるそれぞれの画分の生物試験の結果を
図3に「相対力価(%)」として示した。「相対力価(%)」は、それぞれの画分の用量(単位:ミリグラム糞当量MGFE)と生物試験の結果から得た余剰比係数(EPI)の用量・反応関係のプロビット分析から求められる数値で、基準試料の力価を100%としたときの当該画分試料の力価(%)である。相対力価は基準試料の中央有効用量(ED50)値を当該試料のED50値で割った数値に相当する。
図3は基準試料を1% MeOH/CH
2Cl
2画分としたときのそれぞれの画分の相対力価(%)を示す。
【0060】
〔GC−EI
+−MS測定(EI
+:Electron Ionization、positive mode)〕
測定条件:
GC:7890A(Agilent社製)
・カラム:HP-5MS、30m×0.25mmID、膜厚0.25μm
・オーブン:60℃(2分)→10℃/分→290℃(5分)
・注入口温度:230℃
・Heガス流量:1mL/分(定流量モード)
・注入量:1μL
・注入法:スプリットレスモード (パージ:1分)
MS:JMS-T100GCV(日本電子製)
・イオン源:EI/FI/FD共用イオン
・イオン化法:EI
+ (70eV, 300μA)
・イオン源温度:230℃
・スペクトル記録間隔:0.4秒 (待ち時間;0.003秒)
・測定質量範囲:m/z 35-500
・質量校正:PFK
・精密質量解析用キャリブラント:ペンタメチルシクロトリシロキサン m/z207.0329
〔GC−FI
+−MS測定(FI
+:Field Ionization、positive mode)〕
測定条件:
GC:7890A(Agilent社製)
・カラム:HP-5MS、30m×0.25mmID、膜厚0.25μm
・オーブン:60℃(2分)→10℃/分→290℃(5分)
・注入口温度:230℃
・Heガス流量:1mL/分(定流量モード)
・注入量:2μL
・注入法:スプリットレスモード (パージ:1分)
MS:JMS-T100GCV(日本電子製)
・イオン源:EI/FI/FD共用イオン
・イオン化法:FI
+ (0-40mA)
・イオン源温度:OFF
・カソード電圧:-10000V
・スペクトル記録間隔:0.4秒 (待ち時間;0.03秒)
・測定質量範囲:m/z 35-500
・質量校正:PFK
・精密質量解析用キャリブラント:オクタメチルシクロテトラシロキサン m/z281.05169
【0061】
〔実施例1〕
ゴキブリ集合誘引化合物(ゴキブリ集合フェロモン)の精製及び同定
【0062】
工程(1)
ワモンゴキブリの幼虫ないしは成虫を飼育している箱から糞を回収し、集合誘引物質の材料として−20℃で冷凍保存した。試料1kgを5Lのガラスカラムに詰め、10Lの溶媒にて順次抽出を行なった。まず、減圧下、100%n−ヘキサンで試料を洗浄した後、メタノール/ジクロロメタン(1/99(v/v))混合溶液で自然流下にて抽出した。最後に100%メタノールで残りを抽出した。それぞれの画分のワモンゴキブリ若齢幼虫の集合誘引活性を、リニアトラックオルファクトメーターによる生物試験で確認したところ、メタノール/ジクロロメタン(1/99(v/v))混合溶液画分に活性が集中した。以下これを粗抽出物という。
【0063】
工程(2)
粗抽出物を乾固して100%ジクロロメタンに再溶解させた後、同量の1N炭酸ナトリウム水溶液を用いて常法により液々分配を行ない、ジクロロメタン画分と酸性画分を得た。生物試験を行なったところ、ジクロロメタン画分に活性が集中した。
【0064】
工程(3)
前記ジクロロメタン画分に対して、シリカゲルオープンカラム(Wakogel C-200、和光純薬工業株式会社)で段階溶出を行なった。試料に対して、溶質重量の3倍のシリカゲルと同量の焼成珪藻土(Celite 545、ナカライテスク株式会社)を加え懸濁した後、ロータリーエバポレータを用いて粉体になるまで試料を乾燥した。これを、カラムに詰めた溶質重量の10倍のシリカゲルの上にのせ、減圧下、以下の3種の溶媒をそれぞれ溶質重量の約200倍量用いて順次溶出した。得られたジクロロメタン/n−ヘキサン(10/90(v/v))混合溶液、酢酸エチル/n−ヘキサン(5/95(v/v))混合溶液、及び100%酢酸エチル溶出画分を生物試験したところ、活性は酢酸エチル/n−ヘキサン(5/95(v/v))混合溶液画分に集中した。
【0065】
この酢酸エチル/n−ヘキサン(5/95(v/v))混合溶液画分について、再度、シリカゲルオープンカラムで精製した。担体量を溶質重量の30倍量、溶媒量を600倍量にして、ジクロロメタン/n−ヘキサン(20/80(v/v))混合溶液、酢酸エチル/n−ヘキサン(1/99(v/v))混合溶液、100%酢酸エチルで段階溶出を行なったところ、酢酸エチル/n−ヘキサン(1/99(v/v))混合溶液画分にのみ活性が認められた。
【0066】
工程(4)
酢酸エチル/n−ヘキサン(1/99(v/v))混合溶液画分に対して、ポーラスポリマービーズ(CHP20P、三菱化学株式会社)のオープンカラムによる精製を行なった。試料を乾固した後、100%メタノールに再溶解させ、溶質量の3倍量のポリマービーズとともに懸濁したままカラムにのせた。メタノール/水(85/15(v/v))、メタノール/水(95/5(v/v))、さらに100%メタノールによる段階溶出を行ない、溶出液を濃縮後、ジクロロメタンに転溶した。生物試験の結果、メタノール/水(95/5(v/v))混合溶液画分に活性が集中した。
【0067】
工程(5)
活性化合物を含むメタノール/水(95/5(v/v))混合溶液画分をさらにHPLC(LC−10AT、島津製作所)で精製した。まずシリカゲルカラム(COSMOSIL 5SL−II、ナカライテスク株式会社、φ4.6×150mm)を用いて順相で精製を行なった。移動相溶媒に酢酸エチル/n−ヘキサン(2/98(v/v))を使用し(1mL/分)、UV検出器(SPD−10MAVP、島津製作所)で254nmの吸収をモニタした。0.5分ごとに分取した各画分の生理活性を調べたところ、6.5分から7分の画分に活性が集中した。
【0068】
工程(6)
次に、ODSカラム(COSMOSIL 5AR−II、ナカライテスク株式会社、φ4.6×150mm)を用いて逆相で精製を行なった。移動相には100%メタノールを使用し、0.2mL/分で緩やかに展開した。同様に分画し、生物試験を行なったところ、活性は10分から11分の画分に集中した。
【0069】
工程(7)
さらにCOSMOSIL πNAPカラム(φ4.6×150mm、ナカライテスク株式会社)による精製を行なった。πNAPはシリガゲル担体をナフチル基で化学修飾した固定相である。移動相にはイソプロパノール/メタノール(50/50(v/v))を用いた(0.2mL/分)。UV吸収ピークを参照しながら分画を行ない、得られた画分を生物試験したところ、12分から13分の画分にのみ活性があった。
【0070】
工程(8)
この画分について、酢酸エチル/n−ヘキサン(1/99(v/v))でシリカゲルカラムによる順相HPLCで再度精製したところ、9.5分から10.5分の溶出時間にUV吸収ピークが見られた。このピークを分取して生物試験を行なったところ、この画分にのみ活性が認められた。
【0071】
前記工程(8)で得られた分取画分をGC(N6890、アジレント・テクノロジー株式会社、HP−5カラム)で分析をしたところ、単一のピークを与えた。極性カラムであるHP−FFAPカラム(アジレント・テクノロジー株式会社)で分析した場合でも、単一のピークであった。なお同じ分析条件で行なった分取GCと分取した画分の生物試験から、誘引活性を有する化合物のピークは、今回の精製で得られた単一ピークと完全に一致することを確認した。
【0072】
この化合物のGC−EI
+−MS測定から、主要なフラグメントとして、m/z=59、162、220を観測した。また、分子イオンを選択的に検出するGC−FI
+−MS測定により、220のフラグメントのみが検出されたことから、分子量を示すM
+は220と判明し、さらにその精密質量解析から、本化合物の分子式はC
13H
16O
3であることを確認した。FI
+−MS測定マススペクトルの結果を
図1に示す。
【0073】
〔試験例1〕
上記の実施例1の工程(1)、(4)及び(8)で得た画分について、後記する方法で試料を調製し、風洞試験に供した。風洞は50×50×150cmの容積で、
図5のように5abに整流部器、5bに圧力緩衝器を持ち、6の位置から室外へ排気する。実験は、風洞の床面から5cm高いステージ(40×130cm)の上で行なった。スタート地点は風下側のステージ端から20cm上流の
図5の7の位置とし、さらに90cm離れた8に試料を塗布した濾紙を設置しゴール地点とした。供試虫である8〜9齢のワモンゴキブリ幼虫を一匹ずつ
図6の容器の筒9に入れ、
図5の7に置いた。供試虫は、
図6の容器の上部の穴10から下段に移り、下段の開放部分11から自発的に外に出ることができる。脱出時から3分間の行動を観察し、ゴールに到達した回数を計測した。ゴール地点8には、
図5に示したように、試料を染み込ませた濾紙(試験区)と溶媒のみを塗布した濾紙(対照区)を設置した。供試虫の全身が濾紙に上がった場合、「到達」と判断した。照明は天井から垂らした電灯を用い、風洞の上に置いた乳白色のアクリル板にて光が均一になるようにした。照度は風洞内で7±0.5lxであった。試験は、風速25cm/s(ゴール地点)、25±2℃の条件で実施した。風洞試験の結果を表1に示す。
〔比較例1〕試験区と対照区ともに溶媒に浸漬後、その溶媒を乾燥させた濾紙(50×100mm)を用いた。溶媒にはジクロロメタン1mLを用い、送風ドライヤーで乾燥後、5分間以上静置した。
〔比較例2〕比較例1と同様に行なった。
〔比較例3〕試料に揮散調節剤であるポリエチレングリコール#300(PEG)が含まれる場合、ポリエチレングリコールの効果を検証する必要がある。そのため、1μLのポリエチレングリコールを1mLのジクロロメタンに添加し、その溶液に濾紙を浸漬した。乾燥は、比較例1と同様の方法で行なった。この濾紙を対照区と試験区に設置し誘引性がないことを確認した。
〔実施例2〕工程(1)で得た抽出物をジクロロメタンに再溶解させ、1MGFE/mLに調製した。1mLの調製液を濾紙に吸収させ、送風ドライヤーで乾燥した。乾燥時間は2分未満であった。乾燥後、5分間以上静置したものを試験区濾紙として試験に用いた。対照区濾紙は、1mLのジクロロメタンを吸収させた後、試験区濾紙と同様に乾燥させたものであった。
〔実施例3〕工程(1)で得た抽出物をジクロロメタンに再溶解させ、10MGFE/mLに調製した以外は、実施例2と同様に行なった。
〔実施例4〕工程(1)で得た抽出物をジクロロメタンに再溶解させ、100MGFE/mLに調製した以外は、実施例2と同様に行なった。
〔実施例5〕工程(4)で得た溶出物をジクロロメタンに再溶解させ、1MGFE/mLに調製した以外は、実施例2と同様に行なった。
〔実施例6〕工程(4)で得た溶出物をジクロロメタンに開放部分11溶解させ、10MGFE/mLに調製した以外は、実施例2と同様に行なった。
〔実施例7〕工程(4)で得た溶出物をジクロロメタンに再溶解させ、100MGFE/mLに調製した以外は、実施例2と同様に行なった。
〔実施例8〕工程(8)で得た集合誘引物質をジクロロメタンに再溶解させ、1MGFE/mLに調製した。その調製液に揮散調節剤として1μL/mLになるようにポリエチレングリコール#300(PEG)を添加した。この揮散剤入りの調製液1mLを濾紙に吸収させ、送風ドライヤーで乾燥させた。乾燥時間は2分未満であった。乾燥後、5分間以上静置したものを試験に用いた。対照区には、同量のポリエチレングリコールを添加したジクロロメタンを吸収させた後、試験区と同様に乾燥させた濾紙を用いた。
〔実施例9〕工程(8)で得た集合誘引物質をジクロロメタンに再溶解させ、10MGFE/mLに調製した以外は、実施例8と同様に行なった。
〔実施例10〕工程(8)で得た集合誘引物質をジクロロメタンに再溶解させ、100MGFE/mLに調製した以外は、実施例8と同様に行なった。
なお、「MGFE」は、上記の各検体(抽出物・溶出物・集合誘引物質)を得るために用いたゴキブリの糞の量を示し、例えば上記「100MGFE/mL」は、ジクロロメタン溶液1mL中に、出発物質のゴキブリの糞100mgから得た各検体が溶解していることを表している。
【0074】
【表1】
【0075】
上記表1から、実施例2〜10は、比較例1、2及び3よりも多くの供試虫を誘引し、本発明のゴキブリ集合誘引物質が有効であることが示された。
【0076】
次に、本発明のゴキブリ集合誘引物質を用いた各種製剤化の具体例を示す。
〔実施例11〕(食毒剤)
ヒドラメチルノン5部、ホウ酸15部、脱脂粉乳10部、ゴマ油5部、グリセリン15部、でんぷん25部、米ぬか20部、精製水5部からなる混合物に、工程(8)で得た集合誘引物質0.1ppmになるように加えてよく混練したものを約10gずつ搾り出して成形し、食毒剤を調製した。
【0077】
〔実施例12〕(捕獲器)
米ぬか30部、魚粉15部及びでんぷん糊剤50部を精製水5部で練ったものに、工程(1)で得た粗抽出物が1つの錠剤あたり100ppmとなるよう添加含有させたものを直径15mmで2mm厚の円盤状に打ち抜き、錠剤(重さ1g)を作製した。
次にポリブテン(分子量900)95部、ポリイソブチレン(分子量120万)5部からなる粘着組成物を調製し、この組成物を8×15cmの広さ、厚さ1mmのボール紙に厚さ0.5mmに塗着して粘着板を得た。この粘着板の中央に、先に作製した錠剤を置き、ゴキブリ誘引捕獲器を得た。