【0024】
石油汚染土壌に含まれる炭化水素としては、具体的には、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘプタン、シクロヘキサン、シクロオクタン、デカリン等のシクロアルカン;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、フェノール、クレゾール等の単環芳香族炭化水素;ナフタレン、アントラセン、フエナンスレン、ビフェニル、フェノールフタレイン、トリフェニルメタン等の多環芳香族炭化水素;1,1-ジクロロエタン、クロロホルム、1,2-ジクロロプロパン、ジブロモクロロメタン、1,1,2-トリクロロエタン、2-クロロエチルビニルエーテル、テトラクロロエテン(PCE)、クロロベンゼン、1,2-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、ブロモジクロロメタン、トランス-1,3-ジクロロプロペン、シス-1,3-ジクロロプロペン、ブロモホルム、クロロメタン、ブロモメタン、塩化ビニル、クロロエタン、1,1-ジクロロエテン、トランス-1,2-ジクロロエテン、トリクロロエテン(TCE)、ジクロロベンゼン、シス-1,2-ジクロロエテン、ジブロモエタン、1,4-ジクロロブタン、1,2,3-トリクロロプロパン、ブロモクロロメタン、2,2-ジクロロプロパン、1,2-ジブロモメタン、1,3-ジクロロプロパン等の含ハロゲン炭化水素;長鎖直鎖炭化水素;長鎖環状炭化水素等が例示される。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0045】
実験方法
・総細菌数
50 ml容遠沈管に土壌1.0 gを量り取り、表1に示すDNA抽出緩衝液(pH 8.0)を8.0 ml、20%(w/v)ドデシル硫酸ナトリウム溶液を1.0 ml加え、1,500 rpm、室温で20分間撹拌した。撹拌後、50 ml容遠沈管から滅菌済み1.5 mlマイクロチューブに1.5 ml分取し、16℃、8,000 rpmで10分間遠心分離した。水層を新たなマイクロチューブに700μl分取し、フェノール・クロロホルム・イソアミルアルコール(25:24:1、v/v)を700μl加えて混和した後、16℃、13,000 rpmで10分遠心分離した。遠心分離後、水層を新たなマイクロチューブに500μl分取し、2-プロパノールを300μl加えて緩やかに混和し、16℃、13,000 rpmで15分遠心分離した。遠心分離後、上清を除去し、70%(v/v)エタノールを500μl加え16℃、13,000 rpmで5分遠心分離した。遠心分離後、上清を除去しアスピレーターで30分間減圧乾燥させた。これに表2に示すTE 10:1緩衝液(pH 8.0)を50μl加えよく溶解させ、これを環境DNA溶液とした。
【0046】
アガロース2.0 g、表3に示す50×TAE緩衝液(pH 8.0) 4.0 ml及び0.1 mMエチジウムブロマイド溶液20μlに蒸留水を加えて200 mlとし、1.0 %アガロースゲルを作製した。環境DNA溶液5.0μlにローディングダイ(東洋紡、大阪) 1.0μlを混合し、全量6.0μl、既知量のDNAを含むスマートラダー(ニッポンジーン、富山) 1.5μlをアガロースゲルにアプライした。これを100 Vで40分間電気泳動を行った後、アガロースゲルにUV照射し、DNAバンドを確認した。KODAK 1D Image Analysis software (KODAK、NY、USA)を用いてスマートラダーのDNAバンドを解析し、蛍光強度に対するDNA量の検量線を作成した。この検量線を用いて、各サンプルDNA溶液のDNAバンドの蛍光強度からDNA量を求め、各土壌1.0 g当たりの環境DNA量を下記式を用いて算出した。
Y = 4.0 × 10
9 X(R
2 = 0.99)[Y;土壌バクテリア数(cells/g-soil)、X;環境DNA量(μg/g-soil)]
を用いて土壌バクテリア数を算出した。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
・石油分解菌数
前述するのと同様の方法で、環境DNA溶液とアガロースゲルを調製した。環境DNA溶液15μlにローディングダイ(東洋紡、大阪) 2.0μlを混合し、全量17μlをアガロースゲルにアプライした。これを100 Vで40分間電気泳動を行った後、アガロースゲルにUV照射し、DNAバンドを確認した。アガロースゲルからDNAバンドを切り出し、環境DNAを精製した。KAPA SYBR FAST qPCR Master Mixを10μl、10μMのフォワードプライマー(5'-AACTAYMTCGARCAYTAYGG-3')及びリバースプライマー(5'-TGRTCKSWRTGNCGYTGVARGTG-3')を1μl、ROX highを0.4μl、精製した環境DNAを1〜5μl含む20μlの反応液を200μl容チューブに加え、Applied Biosystems 7300 Real Time System (アプライドバイオシステムズ、USA)にセットして、リアルタイムPCRを行った。PCRの反応条件は、95℃・5〜10分の加熱後、95℃・15〜30秒、60℃・30〜60秒の反応を40サイクルとした。なお、リアルタイムPCRに用いた試料のうち、KAPA SYBR、ROX highは、KAPA SYBR qPCR kit (KAPA BIOSYSTEMS、大阪)のプロトコールに従って用いた。得られたCt値から以下の式を使って石油分解菌数を算出した。
石油分解菌数(cells/g-sample) = (3×10
14) × e
(-0.516×Ct値)
この方法により、石油分解菌を特異的に高感度で定量することができる。
【0051】
・油分分析
サンプルに含まれる油分はIR(HORIBA oil content analyzer OCMA-355, 堀場製作所、京都)で分析した。
【0052】
・全炭素(TC)の測定
サンプルのTCは全炭素計(TOC-V CPH, 島津製作所、京都)を用いて測定した。
【0053】
試験例1(土壌中における石油分解菌の分布)
バイオスティミュレーションにおいては土着の石油分解菌数を把握することが重要である。そこで、新たに設計したプライマーセットを用いて様々な土壌中における石油分解菌の分布を調べた。総細菌数及び石油分解菌数は上記の方法によって調べた。その結果を表4に示す。
【0054】
今回試験に用いた全ての土壌から石油分解菌が検出された。このことから、石油分解菌は環境土壌中に広く分布していることが示唆された。総細菌数に占める石油分解菌の割合は0.10〜4.32%であった。自然界の窒素循環を担うアンモニア酸化細菌や亜硝酸酸化細菌は0.002〜4.2%の割合で存在していることが知られており、石油分解菌はこれら細菌とほぼ同等な割合で存在していた。
【0055】
【表4】
【0056】
試験例2(堆肥中における石油分解菌の分布)
石油汚染土壌の浄化を行うためには、石油分解菌が多数含まれる資材を使うことでより高い効果を期待できると考えられる。そこで、堆肥中における石油分解菌の分布を調べた。その結果を表5に示す。
【0057】
堆肥中に含まれる総細菌数、石油分解菌数は、共に自然土壌よりも高い傾向を示した。また、鶏糞堆肥中の石油分解菌数は他の堆肥に比べて多い傾向が見られた。
【0058】
【表5】
【0059】
試験例3(土着の石油分解菌活性化によるバイオレメディエーションの効率化)
石油分解菌を多く含む有機資材を用いることで石油汚染土壌のバイオレメディエーションが効率化するかどうかを調べるため、油分濃度、総細菌数、及び石油分解菌数の関係を解析した。
【0060】
有機資材は発酵鶏糞(アグリエヌワイ社製)を用いて、土壌のTCが20,000 mg/kg-soil (5%添加)、C/N比が8になるように添加し、無機塩[4 × MSW (per liter: 4.84 g (NH
4)
2NO
3, 57.28 g Na
2HPO
4・12H
2O, 21.78 g KH
2PO
4, 2 g NaCl, 0.986 g MgSO
4, 11 mg FeSO
4・7H
2O, 59 mg CaCl
2・2H
2O, 0.801 mg ZnSO
4・7H
2O, 0.06 mg (NH
4)
6Mo
7O
24・4H
2O, 0.08 mg CuSO
4・5H
2O, 0.16 mg CoCl
2・6H
2O, 0.06 mg MnSO
4・5H
2O, 2 g polypeptone, and 1 g yeast extract)]を用いた従来のバイオレメディエーションと比較した。石油汚染土壌は自動車用エンジンオイルのベースオイルを5,000 mg/kg-soilになるように添加することで作製した。油分濃度の変化を
図1、総細菌数の変化を
図2、石油分解菌数の変化を
図3に示す。
【0061】
油分濃度は無機塩を添加した場合では28日で30%のベースオイルを分解した。一方、発酵鶏糞を添加した土壌においては28日で47%のベースオイルを分解した。
【0062】
土壌細菌数は無機塩を添加した場合では7日で1.8 × 10
10 cells/g-soilまで増加したがその後は6.8 × 10
9 cells/g-soilまで減少した。一方で、発酵鶏糞を添加した土壌においては14日で7.1 × 10
10 cells/g-soilまで増加し、28日目も3.3 × 10
10 cells/g-soilまで細菌数が維持されていた。
【0063】
石油分解菌数は無機塩を添加した場合では7日で2.0 × 10
9 cells/g-soilまで増加したがその後は1.4 × 10
8 cells/g-soilまで減少した。一方で、発酵鶏糞を添加した土壌においては7日で3.7 × 10
9 cells/g-soilまで増加し、その後も21日までは2.7 × 10
9 cells/g-soilと比較的高い菌数を維持していた。
【0064】
以上の結果から、発酵鶏糞を添加し、TCを10,000 mg/kg以上、C/N比を8以上に調整することにより総細菌数及び石油分解菌数が高く維持されており、油分分解の促進に繋がったものと考えられる。
【0065】
まとめ
堆肥中には比較的多くの石油分解菌が存在しており、特に鶏糞堆肥に多くの石油分解菌が存在していた。石油汚染土壌に発酵鶏糞を添加し、TC及びC/N比を一定の範囲に調整することにより、土壌細菌及び石油分解菌が増加すると共に高く維持され、油分分解も促進した。
【0066】
試験例4(全炭素、全窒素、C/N比が請求項4の範囲を満たす発酵牛糞堆肥を用いることによるバイオレメディエーションの効率化)
TCが約1,000 mg/kgの土壌に5,000 mg/kgになるように軽油を添加し、本土壌を石油汚染土壌とした。石油汚染土壌にTCが約10,000 mg/kg(油分のTCは除く)になるように表6に示す発酵牛糞堆肥(東商製)又は鶏糞堆肥(坂本産業製)を添加して混合し、室温で13日間静置した。土壌中の油分の定量はIRで行った。その結果を
図4に示す。
【0067】
堆肥中の全炭素、全窒素、C/N比が請求項4の範囲を満たす発酵牛糞を使用することにより、発酵鶏糞を使用した場合よりも油分分解が促進された。これは発酵鶏糞には窒素成分が多く含まれる(C/N比が小さい)ため、資材添加後の土壌中のアンモニア成分が高くなるなどの理由により、油分分解が阻害されたと考えられる。
【0068】
【表6】
【0069】
試験例5(TC及びC/N比調整によるバイオレメディエーションの効率化)
TCが2,000 mg/kgの石油汚染土壌に5,000 mg/kgになるように自動車用エンジンオイルのベースオイル(新日本石油)を添加し、本土壌を石油汚染土壌とした。石油汚染土壌にTCが10,000 mg/kg(油分のTCは除く)になるように鶏糞堆肥(アグリエヌワイ社製)を添加して混合し、室温で28日間静置した。土壌中の油分の定量はIRで行った。その結果を表7に示す。
【0070】
鶏糞堆肥によってTC及びC/N比を調整することによって油分の減少が観察された。TC及びC/N比を調整しなかった土壌は油分の減少が見られなかった。TC及びC/N比を調整することによって土壌中の石油分解菌が活性化されたと考えられる。
【0071】
【表7】