(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記仮想の第一の垂直線は、前記レールの前記頂辺部に設けられる前記転動体転走溝の左右方向の最も内側を通る仮想の第三の垂直線よりも前記レールの中心線側に位置することを特徴とする請求項1に記載の運動案内装置用のレール。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態の運動案内装置を説明する。
図1は、運動案内装置の斜視図を示し、
図2は断面図を示す。運動案内装置は、長手方向に直線的に伸びるレール1と、このレール1に転動体として多数のボール3を介して長手方向に直線運動可能に組み付けられる移動部材としての移動ブロック2と、を備える。
【0011】
レール1は内部に中空部を有する。中空部はレール1の全長に渡って伸びている。レール1の断面形状は長手方向において一定である。レール1には長手方向に沿って伸びる転動体転走溝としてのボール転走溝1a,1bが形成される。レール1は
図2の中心線に対して左右対称である。ボール転走溝1a,1bはレール1の上面に二条、レール1の左右の側面それぞれに一条ずつ合計四条設けられる。ボール転走溝1a,1bの断面形状は、単一の円弧からなるサーキュラーアーク溝形状である。ボール転走溝1a,1bの曲率半径は、ボール3の半径よりも大きく、ボール転走溝1a,1bとボール3とは一点で接触する。レール1の構造は後述する。
【0012】
図1に示すように、移動ブロック2は、レール1のボール転走溝1a,1bに対向する負荷ボール転走溝2a,2b、負荷ボール転走溝2a,2bに平行な無負荷戻し路4が形成される移動ブロック本体2−1と、移動ブロック本体2−1の移動方向の両端部に設けられる一対のエンドプレート2−2と、を備える。移動ブロック本体2−1の上面には、ねじ5が加工される。テーブル等の案内対象は、ボルトを用いて移動ブロック本体2−1の上面のねじ5に取り付けられる。エンドプレート2−2には、移動ブロック本体2−1の負荷ボール転走溝2a,2bと無負荷戻し路4とを接続するU字状の方向転換路(図示せず)が設けられる。
【0013】
移動ブロック本体2−1の負荷ボール転走溝2a,2b、無負荷戻し路4、エンドプレート2−2の一対の方向転換路によって、ボール循環路が構成される。ボール循環路には、複数のボール3が配列・収容される。複数のボール3は、リテーナ10に一連に回転自在に保持される。リテーナ10は、ボール3間に介在するスペーサ8と、スペーサ8を連結する帯状のバンド9と、を備える。
【0014】
ボール3は、レール1のボール転走溝1a,1bと移動ブロック2の負荷ボール転走溝2a,2bとの間の負荷ボール転走路で圧縮荷重を受ける。レール1に対して移動ブロック2が移動すると、ボール3が負荷ボール転走路を転がる。移動ブロック2の負荷ボール転走溝2a,2bの一端まで転がったボール3は、エンドプレート2−2のU字状の方向転換路内に掬い上げられ、方向転換路を経由した後、無負荷戻し路4に入る。方向転換路及び無負荷戻し路4内では、ボール3は無負荷状態になる。無負荷戻し路4を通過したボール3は、反対側の方向転換路を経由した後、再び負荷ボール転走路に入る。
【0015】
移動ブロック2の移動方向の両端面には、レール1と移動ブロック2との間の隙間を塞ぐシール部材6が取り付けられる。シール部材6は、異物が移動ブロック2の内部に侵入するのを防止する。
【0016】
図2に示すように、移動ブロック本体2−1は、レール1の上面に対向する中央部21aと、その中央部21aの幅方向の左右両側から下方に延びてレール1の左右側面に対向する袖部21bと、を備える。移動ブロック本体2−1の中央部21aには、レール1の上面のボール転走溝1aに対向する負荷ボール転走溝2aが形成される。移動ブロック本体2−1の袖部21bには、レール1の側面のボール転走溝1bに対向する負荷ボール転走溝2bが形成される。負荷ボール転走溝2a,2bの断面形状は、単一の円弧からなるサーキュラーアーク溝形状である。負荷ボール転走溝2a,2bの曲率半径は、ボール3の半径よりも大きく、負荷ボール転走溝2a,2bとボール3とは一点で接触する。
【0017】
レール1の上面のボール転走溝1aの接触角θ1は90度である。接触角θ1は接触角線L1(ボール3とレール1のボール転走溝1aの接触点とボール3と移動ブロック2の負荷ボール転走溝2aの接触点を結んだ線L1)と水平方向のなす角度である。レール1の側面のボール転走溝1bの接触角θ2は約30度である。レール1の上面のボール転走溝1aの接触角θ1が90度であるので、この実施形態の運動案内装置はラジアル荷重を受けるのに適している。
【0018】
図3はレール1の長手方向に直交する断面図を示す。レール1を水平面上に配置したとき、レール1は、水平面上に配置される底辺部11、頂辺部12、及び底辺部11と頂辺部12を繋ぐ左右一対の側壁部14を備える。レール1は中心線C1に関して左右対称である。底辺部11及び頂辺部12は、直線状に形成されており、互いに平行である。側壁部14は、レール1の内側に向かって凹むようにV字に形成される。側壁部14は、直線状の上辺部15と、直線状の下辺部16と、から構成される。上辺部15は頂辺部12に接続される。上辺部15と頂辺部12とのなす角度α1は鋭角である。下辺部16は上辺部15に接続されると共に、底辺部11に接続される。下辺部16と底辺部11とのなす角度α2は鋭角である。上辺部15と下辺部16とのなす角度βは180°未満である。レール1の頂辺部12の上面には、レール1の中心線C1の左右に一条ずつボール転走溝1aが設けられる。
【0019】
レール1の中空部17は、底辺部11、頂辺部12、側壁部14の内側によって画定される。側壁部14の内側の上下方向の中央部17aは側壁部14の外側の上下方向の中央部と同様に中空部17はレール1の外形形状と同様に上下方向の中央部17aがレール1の内側に向かって窪んでいる。中空部17の四隅(頂辺部12と上辺部15との接続部分、及び底辺部11と下辺部16との接続部分)には円弧部17b,17cが設けられる。
【0020】
レール1は、パイプ材の内側及び外側に内金型及び外金型を設け、パイプ材を金型に当てながら引抜き加工することで製造される。引抜き加工を複数回行うと、パイプ材から
図3に示すレール1の断面を得ることができる。レール1の減面率(レール1の断面における中空部17の面積/レール1の外形の面積)は35%以上、望ましくは40%以上である。
【0021】
レール1の底辺部11には、レール1をベースに固定するためのボルトが通される通し孔24が長手方向に間隔を開けて開けられる。通し孔24は、同心円に形成された座繰り孔24b及びねじ部通し孔24aと、を備える。座繰り孔24bの座面には、ボルトの頭部が着座する。ねじ部通し孔24aには、ボルトのねじ部が通る。通し孔24にボルトを通し、ボルトをベースにねじ込むと、ボルトの頭部が座繰り孔24bの座面に着座し、レール1がベースに締結される。レール1の頂辺部12には、底辺部11の通し孔24に対応した位置にボルトを通過させるための孔25が開けられる。孔25の内径はボルト頭部の外径よりも大きい。底辺部11の通し孔24及び頂辺部12の孔25は切削加工によって開けられる。
【0022】
上述のようにレール1は側壁部14が内側に凹んでおり、ラジアル荷重に対して弾性変形し易い形状になっている。このため、中空部17の四隅の円弧部17b,17cに発生する面圧も大きくなり易い。本実施形態においては、中空部17の四隅の円弧部17b,17cに発生する面圧を下げるために以下の工夫がなされている。
【0023】
(1)
図3に示すように、レール1の中空部17の左右方向の最も外側を通る仮想の第一の垂直線41は、レール1の側壁部14の外形形状の最も窪んでいる位置14aを通る仮想の第二の垂直線42よりもレール1の中心線C1側に位置する。このように第一の垂直線41を第二の垂直線42よりも内側に配置することで、レール1の側壁部14の第一の垂直線41と第二の垂直線42との間に柱18(
図3中斜線で示す)のような厚みが存在するようになる。この柱18のような厚みでラジアル荷重を受けることができるので、レール1の中空部17の四隅の円弧部17b,17cに発生する応力を低減することができる。応力の解析結果は後述する。
【0024】
図4では、本実施形態のレールの形状と比較例のレールの形状とを重ね合わせている。
図4の実線が本実施形態のレールの形状であり、
図4の二点鎖線が比較例のレールの形状である。
図4の比較例においては、中空部17´の円弧部17b´,17c´(特に17c´)が外形形状の最も窪んでいる位置を通る仮想の第二の垂直線42よりも外側に突き出ている。比較例のレール1´にラジアル荷重が負荷すると、中空部17´の四隅の円弧部17b´,17c´が板ばねのようにより弾性変形し易くなるので、中空部17´の四隅の円弧部17b´,17c´の応力が大きくなり易い。
【0025】
本実施形態においては、さらに円弧部17b,17cに発生する応力を低減するために、以下の(2)〜(6)の工夫がなされている。
【0026】
(2)
図4に示すように、レール1の中空部17の左右方向の最も外側を通る仮想の第一の垂直線41は、レール1の頂辺部12に設けられるボール転走溝1aの左右方向の最も内側を通る仮想の第三の垂直線43よりもレール1の中心線C1側に位置する。レール1のボール転走溝1aはラジアル荷重が作用する位置になる。第一の垂直線41を第三の垂直線43よりもレール1の中心線C1側に位置させることで、側壁部14と頂辺部12との交差部、及び側壁部14と底辺部11との交差部が板ばねのように弾性変形するのを防止することができ、中空部17の四隅の円弧部17b,17cに発生する応力を低減することができる。
図6の応力の解析結果も参照。
【0027】
(3)円弧部17bの最も外側を通る第四の垂直線44は、円弧部17cの最も外側を通る第五の垂直線(第一の垂直線41と一致)よりもレール1の中心線C1側に位置する。後述する応力解析結果に示すように、円弧部17bには円弧部17cよりも大きな応力が発生する。第四の垂直線44を第五の垂直線(第一の垂直線41と一致)よりも内側に納めることで、円弧部17bに発生する応力を抑制することができる。
【0028】
(4)中空部17の四隅の円弧部17b,17cの曲率半径Rは全て等しく設定される。四隅の円弧部17b,17cの曲率半径Rを全て等しくすることで、四隅の円弧部17b,17cでバランスよくラジアル荷重を負荷できるようになり、四隅の円弧部17b,17cに発生する応力の差を低減することができる。
【0029】
(5)中空部17の四隅の円弧部17b,17cの肉厚は他の部分よりも厚い。円弧部17b,17cの肉厚を厚くすることで、円弧部17b,17cに発生する応力を低減することができる。
【0030】
(6)頂辺部12と底辺部11との肉厚の差は、底辺部11の肉厚の10%以内に抑えられている。頂辺部12と底辺部11の厚みをそろえることで、頂辺部12と底辺部11で均等に荷重を受けることができる。
【0031】
なお、上辺部15と下辺部16の交差部19は外金型に接する部分であり、内金型に接する中空部17の四隅の円弧部17b,17cほど発生する応力が問題になることはない。四隅の円弧部17b,17c付近では、頂辺部12と上辺部15が鋭角で交差し、底辺部11と下辺部16とが鋭角で交差しているのに対し、交差部19の付近では、上辺部15と下辺部16とがこれらの鋭角を合算した180度未満の角度で交差していることも理由の一つである。
【実施例】
【0032】
レール1のボール転走溝1aにラジアル荷重を作用させたとき、レール1の円弧部17b,17cに発生する応力を計算した。解析条件は以下のとおりである。(1)荷重:0.5C(9800N、C=動定格荷重)のラジアル荷重をボール転動溝に負荷、(2)拘束条件:レール1の底面を全方向に固定。
【0033】
図5は、レール1に柱のような厚みを存在させた場合と存在させない場合とで、レール1の円弧部17b,17cに発生する応力を比較した結果を示す。
図5(a)はレール1に柱のような厚みを作用させない比較例で、
図5(b)はレールに柱18のような厚みを存在させた本実施例を示す。
図5(b)に示すように、レールに柱18のような厚みを存在せることで、上側の円弧部17bに発生する応力を220MPaから190MPaに低減できた。また、下側の円弧部17cに発生する応力を100MPaから90MPaに低減できた。柱18のような厚みでラジアル荷重を受けることができるので、円弧部17b,17cに発生する応力が低減すると推測される。
【0034】
次に、レール1に柱18のような厚みを存在させた状態で、ボール転走溝1aをレール1の中心線C1側から外側にずらし、そのときに円弧部17b,17cに発生する応力を計算した。
図6において、ボール転走溝1aはレール1の中心線C1側から外側にずれている。ここで、
図6(a)―
図6(c)は、中空部17の左右方向の最も外側を通る仮想の第一の垂直線41がボール転走溝1aの左右方向の最も内側を通る仮想の第三の垂直線43よりもレール1の外側に位置する比較例(比較例といっても柱18のような厚みが存在するので発明の範囲には含まれる)を示し、
図6(d),
図6(e)は、第一の垂直線41が第三の垂直線43よりもレール1の中心線C1側に位置する本実施例を示す。
【0035】
図6に示すように、ボール転走溝1aを外側にずらすことで、上側の円弧部17bに発生する応力が180Mpa(
図6(a))、140Mpa(
図6(b))、100Mpa(
図6(c))、60Mpa(
図6(d))、30Mpa(
図6(e))に低減した。第一の垂直線41を第三の垂直線43よりもレール1の中心線C1側に位置させることが円弧部17bの応力の低減に有効であることがわかった。下側の円弧部17cに発生する応力はボール転走溝1aを外側にずらすことで増加する傾向にあるが、その増加傾向は緩やかであった。
図6(c)から
図6(d)に至る過程で上側の円弧部17bに発生する応力と下側の円弧部17cに発生する応力が反転した。なお、
図6(a)の円弧部17b,17cに発生する応力が
図5(b)の円弧部17b,17cよりも小さいのは、柱18のような厚みが厚くなっていることに起因する。
【0036】
本発明は上記実施形態に限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々変更可能である。
【0037】
例えば、上記実施形態では、レールは直線的に伸びているが、円弧状に湾曲してもよい。
【0038】
レールの上面に転動体転走溝を有するものであれば、接触角は荷重条件に応じて適宜変更可能である。
【0039】
転動体としてはボールの替わりにローラを使用することもできる。