特許第6153423号(P6153423)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6153423-ナノファイバシート 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6153423
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】ナノファイバシート
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/26 20060101AFI20170619BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20170619BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20170619BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20170619BHJP
   D01F 6/00 20060101ALN20170619BHJP
   D04H 1/4374 20120101ALN20170619BHJP
   D04H 1/728 20120101ALN20170619BHJP
【FI】
   B32B5/26
   B32B5/02 C
   B32B27/00 M
   B32B27/18 A
   B32B27/18 F
   !D01F6/00 A
   !D04H1/4374
   !D04H1/728
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-176069(P2013-176069)
(22)【出願日】2013年8月27日
(65)【公開番号】特開2015-44327(P2015-44327A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100101292
【弁理士】
【氏名又は名称】松嶋 善之
(72)【発明者】
【氏名】東城 武彦
(72)【発明者】
【氏名】甘利 奈緒美
(72)【発明者】
【氏名】金田 学
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−012317(JP,A)
【文献】 国際公開第01/068061(WO,A1)
【文献】 特開2011−132634(JP,A)
【文献】 実開平05−030118(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00−43/00
A61K9/00−9/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれナノファイバを含む第1層と第2層との積層構造を有し、
第1層が、紫外線防御剤を含有する水不溶性ポリマーから構成されるナノファイバのみからなり、
第2層が、薬効成分を含有するナノファイバを含む、ナノファイバシート。
【請求項2】
前記紫外線防御剤の量が、ナノファイバシートの全体に対して1質量%以上30質量%以下であり、
前記紫外線防御剤が無機粉体からなる紫外線反射剤であり、
前記第1層に含まれるナノファイバは、円相当直径が10〜3000nmであり、
前記第1層はその厚みが1μm以上70μm以下であり、
前記第1層のナノファイバ間に液体を保持した状態での紫外線透過率と液体を保持しない状態でのナノファイバの紫外線透過率の比(Wet/Dry)が100以下である請求項1に記載のナノファイバシート。
【請求項3】
紫外線防御剤と薬効成分がそれぞれ別のナノファイバに含有されている請求項1又は2に記載のナノファイバシート。
【請求項4】
第2層側の最外面に粘着剤が付与されている請求項1ないし3のいずれか一項に記載のナノファイバシート。
【請求項5】
薬効成分が消炎鎮痛剤である請求項1ないし4のいずれか一項に記載のナノファイバシート。
【請求項6】
紫外線防御剤が、無機粉体又は有機油性成分である請求項1に記載のナノファイバシート。
【請求項7】
薬効成分を含有するナノファイバを構成するポリマーが水溶性である請求項1ないし6のいずれか一項に記載のナノファイバシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノファイバシートに関する。
【背景技術】
【0002】
消炎鎮痛剤に代表される薬効成分は、紫外線の照射によって分解するなど紫外線の影響を受けやすいものが多い。また、紫外線の照射によって生じた薬効成分の分解生成物に起因する人体への影響も知られている。したがって薬効成分を含む貼付剤を人体に長時間にわたり貼付する場合には、紫外線の遮蔽などの十分な対策を講じる必要がある。
【0003】
ところで、ナノファイバシートは、これを皮膚に貼付しても皮膚への負担が少なく、長時間にわたり違和感なく貼付できるという利点がある。ナノファイバシートと紫外線との関係に関し、特許文献1には、10〜1000nmの繊維径を有する不織布が紫外線遮断効果を有すると記載されている。また、特許文献2には、ナノファイバシートを構成するナノファイバにUVフィルター物質を含有させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−100959号公報
【特許文献2】特表2011−530661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ナノファイバシートを皮膚に長時間貼付していると、皮膚から生じた汗や皮脂がナノファイバ間の空隙に充填され、そのことに起因して紫外線が透過されやすくなり、ナノファイバ単独では紫外線の遮断効果が十分でなくなる。また、ナノファイバ中に紫外線防御剤と薬効成分が混在していると、両者の相互作用が懸念され、薬効成分の変性や、それに起因して副作用が生じる可能性がある。
【0006】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得るナノファイバシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、それぞれナノファイバを含む第1層と第2層との積層構造を有し、
第1層が、紫外線防御剤を含有する水不溶性のポリマーから構成されるナノファイバを含み、
第2層が、薬効成分を含有するナノファイバを含む、ナノファイバシートを提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、汗や皮脂を吸収しても紫外線防御性能を維持し得るナノファイバシートが提供される。更に、汗や皮脂を吸収可能なシートにすることにより、皮膚への密着性や追従性、長時間保持性を飛躍的に向上できるナノファイバシートが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、エレクトロスピニング法を実施するための装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明のナノファイバシートは、第1層と第2層との積層構造を有する。第1層及び第2層はいずれもナノファイバを含む。本発明のナノファイバシートは、第1層及び第2層の2層構造でもよく、あるいは、第1層及び第2層に加えて1層以上の他の層を有する多層構造でもよい。他の層は、第1層と第2層との間に位置していてもよく、あるいは第1層よりも外側又は第2層よりも外側に位置していてもよい。更に、第1層と第2層との間に、各層を構成するナノファイバが混在した混合層を形成してもよい。
【0011】
ナノファイバを含む第1層及び第2層は、ナノファイバのみから構成されていることが好ましい。尤も、第1層及び第2層が、ナノファイバに加えて他の成分を含むことは妨げられない。本発明で用いることができるナノファイバは、その太さを円相当直径で表した場合、一般に10〜3000nm、特に10〜1000nmのものである。ナノファイバの太さは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって測定することができる。第1層に含まれるナノファイバの太さと、第2層に含まれるナノファイバの太さは同じでもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0012】
ナノファイバの長さは本発明において臨界的でなく、ナノファイバの製造方法に応じた長さのものを用いることができる。また、ナノファイバは、第1層及び/又は第2層において、一方向に配向した状態で存在していてもよく、あるいはランダムな方向を向いていてもよい。更に、ナノファイバは、一般に中実の繊維であるが、これに限られず例えば中空であってもよい。
【0013】
第1層及び第2層においては、ナノファイバは、それらの交点において結合しているか、又はナノファイバどうしが絡み合っている。それによって、第1層及び第2層は、それ単独でシート状の形態を保持することが可能となる。ナノファイバどうしが結合しているか、あるいは絡み合っているかは、ナノファイバシートの製造方法によって相違する。
【0014】
第1層と第2層とは、それらを構成するナノファイバの種類によって特徴付けられる。詳細には、第1層は、紫外線防御剤を含有する水不溶性のポリマーから構成されるナノファイバを含む。一方、第2層は、薬効成分を含有するナノファイバを含む。このような構成となっているナノファイバシートを、その第2層の側をヒトの皮膚等の対象物に貼付すると、第2層を構成するナノファイバに含まれる薬効成分が皮膚に吸収され、その薬効が発現する。その一方で、ナノファイバシートの貼付状態において外方側に位置する第1層は、それに含まれるナノファイバに含有される紫外線防御剤の作用によって紫外線を吸収し、紫外線を第2層にまで到達させにくくする。その結果、ナノファイバシートを長時間にわたって肌に貼付した結果、汗や皮脂がナノファイバの空隙に充填されて、ナノファイバそのものに起因する紫外線遮断効果が低下しても、第2層に含まれている薬効成分が紫外線による影響を受けづらくなる。
【0015】
第1層において紫外線防御剤は、ナノファイバ内に含まれていてもよく、あるいはナノファイバの表面に存在していてもよい。紫外線防御剤の量は、紫外線の吸収作用を十分に発現させる観点から、ナノファイバシートの全体に対して 1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることが更に好ましい。また、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることが更に好ましい。例えば紫外線防御剤の量は、ナノファイバシートの全体に対して 1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、3質量%以上30質量%以下であることが更に好ましい。例えば液体クロマトグラフィー又は熱重量測定等によって測定することができる。
【0016】
紫外線防御剤は、紫外線反射剤と紫外線吸収剤に分類される。紫外線反射剤としては例えば無機粉体などを用いることができる。紫外線吸収剤としては例えば有機油性成分などを用いることができる。これらの紫外線防御剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。上述の紫外線防御剤に加えて、光化学反応の連鎖を停止する抗酸化タイプの光安定剤を使用することも可能である。その典型例は、トコフェロール(ビタミンE)及び油溶性アスコルビン酸誘導体(ビタミンC)である。
【0017】
前記の無機粉体としては、例えば酸化亜鉛、酸化チタン、などが挙げられる。無機粉体の粒径は、ナノファイバの太さよりも小さくてもよく、あるいは大きくてもよい。無機粉体の一次粒径は、5nm以上であることが好ましく、20nm以上であることが更に好ましい。また、50μm以下であることが好ましく、10μm以下であることが更に好ましい。例えば無機粉体の一次粒径は、5nm以上50μm以下であることが好ましく、20nm以上10μm以下であることが更に好ましい。無機粉体の粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径のことである。
【0018】
一方、前記の有機油性成分としては、メトキシケイヒ酸オクチル、ジメトキシベンジリデンジオキソイミダゾリジンプロピオン酸オクチル、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル、t−ブチルメトキシジベンゾイルメタン、オクチルトリアゾン、パラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【0019】
第1層に含まれるナノファイバは水不溶性のポリマーから構成される。水不溶性ポリマーのナノファイバを第1層に用いることで、本発明のナノファイバシートを長時間にわたって皮膚に貼付した場合であっても、発汗に起因するナノファイバの溶解が起こりにくく、シート形態が維持されるという有利な効果が奏される。この観点から、第1層に含まれるすべてのナノファイバが水不溶性ポリマーから構成されることが好ましいが、前記の有利な効果が損なわれない限り、第1層に含まれるすべてのナノファイバが水不溶性ポリマーから構成されることは要しない。第1層は、その全体が水不溶性であることが好ましい。
【0020】
本明細書において「水不溶性ポリマー」とは、1気圧・23℃の環境下において、ポリマー1g秤量したのちに、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬したポリマーの0.8g以上が溶解しない性質を有する高分子化合物を言う。
【0021】
水不溶性ポリマーとしては、例えばポリビニルブチラール(PVB)樹脂、ポリビニルアルコール(ナノファイバ形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、架橋剤と併用することでナノファイバ形成後に架橋処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール)、ポリ(N−プロパノイルエチレンイミン)グラフト−ジメチルシロキサン/γ−アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ツエイン(とうもろこし蛋白質の主要成分)、ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリル酸樹脂等のアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等が挙げられる。これらの水不溶性ポリマーは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、比較的安全な有機溶媒に可溶であり、かつナノファイバの成形性が良好な化合物であるポリビニルブチラール樹脂を用いることが好ましい。
【0022】
第1層において、水不溶性ポリマーからなるナノファイバは、水不溶性ポリマー及び紫外線防御剤に加えて他の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えば、架橋剤、顔料、填料、界面活性剤、帯電防止剤、発泡剤等が挙げられる。特に、本発明のナノファイバシートを、ヒトの皮膚に貼付する場合、皮膚とナノファイバシートとの一体感を増す観点から、顔料によってナノファイバを着色して、ナノファイバシートの色を皮膚の色に近づけることが有利である。第1層においては、第2層に含まれる薬効成分が含まれることは妨げられないが、薬効成分に対する紫外線の影響を低減させる観点から、第1層には薬効成分が含まれていないことが好ましい。
【0023】
第2層に含まれる薬効成分は、通常の皮膚外用剤に使用されるものであれば特に制限されず、水溶性成分及び脂溶性成分のいずれでもよい。特にその吸収が促進され薬効の増大が期待されるものとしては、例えば、消炎鎮痛剤、副腎皮質ホルモン等のホルモン剤、抗ヒスタミン剤、抗真菌剤、ビタミン剤、収斂剤、金属イオン封鎖剤、催眠・鎮静剤、抗精神病・抗癲癇剤、抗パーキンソン病剤、強心剤、抗不整脈剤、抗狭心症剤、抗高血圧剤、鎮痛剤、引赤発泡剤、皮膚軟化剤、発汗防止・防臭剤、頭髪用剤、プロスタグランジン類、美白剤等が挙げられる。これらの薬効成分は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
薬効成分の具体例としては、酸性ムコポリサッカライド、カミツレ、セイヨウトチノキ、イチョウ、ハマメリエキス、ビタミンE、ニコチン酸誘導体及びアルカロイド化合物から選択される血行促進剤;セイヨウトチノキ、フラボン誘導体、ナフタリンスルホン酸誘導体、アントシアニン、ビタミンP、キンセンカ、コンコリット酸、シラノール、テルミナリア、ビスナガ及びマユスから選択されるむくみ改善剤;アミノフィリン、茶エキス、カフェイン、キサンチン誘導体、イノシット、デキストラン硫酸誘導体、セイヨウトチノキ、エスシン、アントシアニジン、有機ヨウ素化合物、オトギリ草、シモツケ草、スギナ、マンネンロウ、朝鮮人参、セイヨウキヅタ、チオムカーゼ及びヒアルウロニダーゼから選択されるスリム化剤;ケトプロフェン((R,S)−2−(3−ベンゾイルフェニル)プロパン酸)、インドメタシン、ジクロフェナック、dl−カンフル、フルルビプロフェン、トウガラシエキス、ピロキシカム、フェルビナック、サリチル酸メチル及びサリチル酸グリコールから選択される鎮痛剤;ポリオール類、セラミド類及びコラーゲン類から選択される保湿剤;プロテアーゼからなるピーリング剤;チオグリコール酸カルシウムからなる除毛剤;及びγ−オリザノールからなる自律神経調節剤、その他にアスナロ、キキョウ根、ユーカリ、シラカバ、ショウキョウ、ユズ等のエキス類、トラネキサム酸、アラントイン、グリチルレチン酸ステアリル、ナイアシンアミド、Lメントール、ビタミンC等のビタミン類等が挙げられる。
【0025】
第2層において薬効成分は、ナノファイバ内に含まれていてもよく、あるいはナノファイバの表面に存在していてもよい。薬効成分の量は、十分な薬効を発現させる観点から、ナノファイバシートの全体に対して一般に1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることが更に好ましい。また、70質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることが更に好ましい。例えば薬効成分の量は、ナノファイバシートの全体に対して1質量%以上70質量%以下であることが好ましく、3質量%以上50質量%以下であることが更に好ましい。薬効成分の量は、例えば液体クロマトグラフィー又は熱重量測定等によって測定することができる。
【0026】
第2層においては、第1層に含まれる紫外線防御剤が含まれることは妨げられないが、薬効成分に対する紫外線の影響を低減させる観点から、第2層には紫外線防御剤が含まれていないことが好ましい。特に、紫外線防御剤と薬効成分がそれぞれ別のナノファイバに含有されており、紫外線防御剤を含有するナノファイバは第1層にのみ含まれており、かつ薬効成分を含有するナノファイバは第2層にのみ含まれていることが好ましい。
【0027】
第2層において、薬効成分を含有するナノファイバを構成するポリマーは、水溶性でもよく、あるいは水不溶性でもよい。ナノファイバシートの貼付状態において、ナノファイバに含有されている薬効成分が、発汗に起因して皮膚から効率よく吸収される観点からは、水溶性ポリマーからナノファイバが構成されていることが好ましい。本明細書において水溶性ポリマーとは、1気圧・23℃の環境下において、ポリマー1gを秤量したのちに、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬したポリマーの0.5g以上が溶解する性質を有する高分子化合物を言う。
【0028】
水溶性ポリマーとしては、例えばプルラン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ポリ−γ−グルタミン酸、変性コーンスターチ、β−グルカン、グルコオリゴ糖、ヘパリン、ケラト硫酸 等のムコ多糖、ペクチン、キシラン、リグニン、グルコマンナン、ガラクツロン、サイリウムシードガム、タマリンド種子ガム、アラビアガム、トラガントガム、変性コーンスターチ、大豆水溶性多糖、アルギン酸、カラギーナン、ラミナラン、寒天(アガロース)、フコイダン、メチルセルロース、ヒドロ キシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の天然高分子;ポリビニルピロリドン(PVP)、部分鹸化ポリビニルアルコール、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム等の合成高分子などが挙げられる。これらの水溶性ポリマーは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの水溶性ポリマーのうち、ナノファイバの調製が容易である観点から、ポリビニルピロリドン、プルラン、部分鹸化ポリビニルアルコール、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド等の合成高分子を用いることが好ましい。一方、水不溶性ポリマーを用いる場合には、第1層に用いられる水不溶性ポリマーと同様のものを用いればよい。
【0029】
第2層において、水溶性ポリマーからなるナノファイバは、水溶性ポリマー及び薬効成分に加えて他の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、第1層に含まれる水不溶性ポリマーからなるナノファイバに関して説明した成分と同様の成分が挙げられる。
【0030】
第2層には、水溶性ポリマーからなり、かつ薬効成分を含有するナノファイバが含まれていることが好ましいが、薬効成分を含有せず、かつ水溶性ポリマーからなるナノファイバが含まれていてもよい。あるいは、薬効成分を含有せず、かつ水不溶性ポリマーからなるナノファイバが含まれていてもよい。発汗によって第2層を首尾よく溶解させる観点からは、第2層は、水溶性ポリマーからなるナノファイバのみから構成されていることが好ましい。つまり第2層は、その全体が水溶性であることが好ましい。
【0031】
また、薬効成分を含有した第2層は、特にエレクトロスピニング法により作製されることが好ましい。その理由は、エレクトロスピニング法は溶液状態から瞬時に乾燥固化された繊維を得ることが可能なため、一般的に結晶として存在する薬効成分を非晶状態のまま繊維中に含有させることができるからである。これによって、薬効成分の肌からの吸収が一層高まることが期待される。このように、薬効成分が非晶状態で含有された場合には、反応性も向上することが予想されるので、薬効成分と紫外線防御剤をそれぞれ別のファイバーに含有することは相互作用を防止する観点からも更に重要になる。
【0032】
第1層及び第2層を有する本発明のナノファイバシートは、その厚みが、1μm以上、特に5μm以上であることが好ましく、1000μm以下500μm以下であることが更に好ましい。例えばナノファイバシートの厚みは、1μm以上1000μm以下であることが好ましく、5μm以上500μm以下であることが更に好ましい。ナノファイバシートの厚みは、接触式の膜厚計ミツトヨ社製ライトマチックVL−50A(R5mm超硬球面測定子)を使用することによって測定することができる。測定時にシートに加える荷重は0.01Paとする(以下、この装置を用いた厚みの測定条件は、これと同じである)。
【0033】
ナノファイバシート全体の厚みは上述のとおりであるところ、第1層及び第2層それぞれの厚みは以下のとおりであることが好ましい。第1層に関しては、0.5μm以上100μm以下であることが好ましく、1μm以上70μm以下であることが更に好ましい。第2層に関しては、1μm以上900μm以下であることが好ましく、5μm以上430μm以下であることが更に好ましい。第1層及び第2層の厚みは、両層を分離可能な場合は分離して前述の接触式の膜厚計で測定することができる。一方、分離が困難な場合には、きれいなシート断面を作製し、顕微鏡観察画像から求めてもよい。
【0034】
本発明のナノファイバシートは、微細繊維であるナノファイバの作用によって、それ自身で紫外線遮断効果を有する。紫外線遮断効果の程度は、ナノファイバシートにおける第1層のナノファイバ間に液体を保持した状態(以下、Wet時とも言う。)での紫外線透過率が、好ましくは20%以下、更に好ましくは10%以下である。更にWet時の紫外線透過率と、液体を保持しない状態(以下、Dry時とも言う。)でのナノファイバの紫外線透過率の比(Wet/Dry)が、好ましくは100以下、更に好ましくは70以下である。紫外線透過率は以下の方法で測定される。まず、ナイロンフィルム(ユニチカ社製EMBLEM-ON、厚み25μm)をブランクとして使用し、Dry時は、前述のナイロンフィルムにナノファイバシートの第1層を重ねて装置にセットして測定する。一方Wet時は、ナイロンフィルムの上に界面活性剤を2質量%含有する水溶液を滴下したのち、ナノファイバシートの第1層を貼り付けて測定する。ここで使用する界面活性剤は特に限定されないが、非イオン系界面活性剤が好ましい。活性剤含有水溶液の量はナノファイバシート1cm当たり0.05gとする。この状態下に、日立製の分光光度計 U-3310を用いて紫外線透過率を測定する。
【0035】
本発明のナノファイバシートは、その第2層側の最外面に粘着剤が付与されていることが好ましい。粘着剤の付与によって、ナノファイバシートと皮膚との密着性が向上し、長時間にわたってナノファイバシートが皮膚に貼着した状態を保つことができる。粘着剤としては、例えばオキサゾリン変成シリコーン、アクリル樹脂系接着剤、オレフィン樹脂系接着剤、合成ゴム系の粘着剤等が挙げられる。これらの粘着剤は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
粘着剤は、ナノファイバシートの第2層側の最外面の全面にわたって連続して施されていてもよいが、ナノファイバシートが有する特徴を最大限発揮させる観点からは、必要最小限の量でもって施されていることが好ましい。この目的のために、粘着剤は、ナノファイバシートの第2層側の最外面上に不連続に形成されていることが好ましい。粘着剤を不連続に形成する態様としては、例えば(i)前記最外面上に粘着剤を散点状に分散配置する態様や、(ii)前記最外面上にナノファイバ状の粘着剤を堆積させる態様などが挙げられる。
【0037】
粘着剤を付与する態様が前記の(i)及び(ii)のいずれの場合であっても、粘着剤の厚みは、10nm以上100μm以下、特に50nm以上50μm以下であることが好ましい。粘着剤の厚みは、接触式の膜厚計ミツトヨ社製ライトマチックVL−50Aを使用することによって測定することができる。
【0038】
ナノファイバシートにおける第2層側の最外面に前記粘着剤が付与されていることに加えて、又はそれに代えて、第1層側の最外面に基材層が設けられていてもよい。基材層は、ナノファイバシートの取り扱い性を高める目的で用いられる。具体的には、基材層は、ナノファイバシートの剛性を高める(コシを強くする)目的で用いられる。ナノファイバシートが基材層を有することで、第1層及び第2層のみでは剛性が低く、コシが弱くなりがちなナノファイバシートを、例えばヒトの皮膚等の対象物に貼付するときの操作性が良好になる。
【0039】
ナノファイバシートが適度な剛性を有するようになる観点から、基材層は、そのテーバーこわさが0.01mNm以上0.4mNm以下、特に0.01mNm以上0.2mNm以下であることが好ましい。テーバーこわさは、JIS P8125に規定される「こわさ試験方法」により測定される。
【0040】
テーバーこわさとともに、基材層の厚みも、ナノファイバシートの取り扱い性に影響を及ぼす。この観点から、基材層の厚みは、該基材層12の 材質にもよるが、5μm以上500μm以下、特に10μm以上300μm以下であることが好ましい。基材層の厚みは、接触式の膜厚計ミツトヨ社製ライトマチック VL−50Aを使用することによって測定することができる。
【0041】
基材層は、ナノファイバシートの第1層側の最外面において剥離可能に積層されていることが好ましい。このような構成とすることで、ナノファイバシートを、例えばヒトの皮膚に貼付した後に、基材層をナノファイバシートの第1層側から剥離除去して、第1層及び第2層を、ヒトの皮膚上に残すことが可能になるという利点がある。
【0042】
基材層としては、例えばポリオレフィン系の樹脂やポリエステル系の樹脂を始めとする合成樹脂製のフィルムを用いることができる。基材層を、ナノファイバシートの第1層側に対して剥離可能に積層する場合には、フィルムにおける第1層側との対向面に、シリコーン樹脂の塗布やコロナ放電処理などの剥離処理を施しておくことが、剥離性を高める観点から好ましい。フィルムの厚みやテーバーこわさは、先に述べた範囲に設定することが好ましい。
【0043】
基材層としては、通気性を有するシートを用いることもできる。通気性を有するシートを用いることで、上述したシリコーン樹脂の塗布等の剥離処理をことさら行わなくても、基材層を剥離可能に積層することができる。この場合、基材層の通気性は、JIS P8117に 規定される透気抵抗度(ガーレー)で表して、30秒/100ml以下、特に20秒/100ml以下、とりわけ0.01〜20秒/100mlであることが好ましい。通気性を有するシートとしては、例えばメッシュシート;不織布、織布、編み地、紙などの繊維シート;及びそれらの積層体などを用いることができる。繊維シートを構成する繊維としては、繊維形成性の合成樹脂からなる繊維や、コットン及びパルプなどのセルロース系の天然繊維を用いることができる。繊 維シートの坪量は、強度や取り扱い性を考慮して、0.1g/m2以上100g/m2以下、特に0.5g/m2以上50g/m2以下であることが好ましい。一方、通気性を有するシートとしてメッシュシートを用いる場合には、メッシュの目開きは、透気抵抗度が上述した範囲であることを条件として、20メッシュ/インチ以上200メッシュ/インチ以下、特に50メッシュ/インチ以上150メッシュ/インチ以下とすることが好ましい。また、メッシュの線径は、10μm以上200μm以下、特に30μm以上150μm以下であることが好ましい。メッシュシートを構成する材料として は、上述したフィルムを構成する材料と同様のものを特に制限なく用いることができる。
【0044】
本発明のナノファイバシートは、例えばエレクトロスピニング法を用い、平滑な基板の表面にナノファイバを堆積させることで好適に製造することができる。この場合、まず基板の表面に、紫外線防御剤を含有する水不溶性のポリマーから構成されるナノファイバを含む第1層を形成し、次に第1層の上に、薬効成分を含有するナノファイバを含む第2層を形成する。
【0045】
図1には、エレクトロスピニング法を実施するための装置30が示されている。この構造の装置30は、水不溶性層及び水溶性層のいずれの形成にも用いられる。エレクトロスピニング法を実施するためには、シリンジ31、高電圧源32、導電性コレクタ33を備えた装置30が用いられる。シリンジ31は、シリンダ31a、ピストン31b及びキャピラリ31cを備えている。キャピラリ31cの内径は10〜1000μm程度である。シリンダ31a内には、第1層を構成するナノファイバの原料となるポリマーの溶液が充填されている。この溶液の溶媒は、ポリマーの種類に応じ、水若しくは有機溶媒、又は水及び水と相溶性のある有機溶媒の混合溶媒とする。高電圧源32は、例えば10〜40kVの直流電圧源である。高電圧源32の正極はシリンジ31におけるポリマー溶液と導通している。高電圧源32の負極は接地されている。導電性コレクタ33は、例えば金属製の板であり、接地されている。シリンジ31におけるキャピラリ31cの先端と導電性コレクタ33との間の距離は、例えば30〜300mm程度に設定されている。図1に示す装置30は、大気中で運転することができる。運転環境に特に制限はなく、温度20〜40℃、湿度10〜50%RHとすることができる。
【0046】
シリンジ31と導電性コレクタ33との間に電圧を印加した状態下に、シリンジ31のピストン31bを徐々に押し込み、キャピラリ31cの先端からポリマーの溶液を押し出す。押し出された溶液においては、溶媒が揮発し、溶質であるポリマーが固化しつつ、電位差によって伸長変形しながらナノファイバを形成し、導電性コレクタ33に引き寄せられる。このとき、導電性コレクタ33の表面に基材層(図示せず)となるべきシートを配置しておくことで、該基材層の表面に水不溶性ポリマーのナノファイバを堆積させることができる。このようにして形成された水不溶性ポリマーのナノファイバは、その製造の原理上は、無限長の連続繊維となる。
【0047】
上述のポリマーの溶液としては、例えば繊維形成後の処理によって水不溶性となる水溶性のポリマーを含む水溶液を用いることができる。この水溶液には、紫外線防御剤を含有させておく。繊維形成後の処理によって水不溶性となる水溶性のポリマーとしては、完全鹸化ポリビニルアルコールを用いることができる。完全鹸化ポリビニルアルコールは水溶性であるととともに、これを加熱することによって水不溶性に変化するからである。したがって、上述のエレクトロスピニング法によって水不溶性の第1層を形成した後、あるいはナノファイバシート全体を製造した後に、加熱を行うことで、完全鹸化ポリビニルアルコールからなる水不溶性ポリマーを含有するナノファイバを含む水不溶性層が得られる。加熱条件は、温度60〜300℃、時間1〜200分であることが好ましい。
【0048】
また、上述のポリマーの溶液として、有機溶媒に溶解する水不溶性ポリマーが有機溶媒に溶解した溶液が挙げられる。この溶液には、紫外線防御剤を含有させておく。有機溶媒と水不溶性ポリマーとの組み合わせとしては、例えばポリビニルブチラール等とエタノールとの組み合わせ、ポリ乳酸とクロロホルムの組み合わせ、オキサゾリン変成シリコーンとエタノールとの組み合わせ等が挙げられる。
【0049】
第1層が形成されたら、エレクトロスピニング法を一旦停止し、次に水溶性ポリマー又は水不溶性ポリマーが溶解してなる溶液を用いて再びエレクトロスピニング法を行う。この溶液には、薬効成分を含有させておく。2回目のエレクトロスピニング法は、第1層を構成する水不溶性ポリマーのナノファイバの堆積面に対して行う。2回目のエレクトロスピニング法は、1回目のエレクトロスピニング法と同様の条件で行うことができる。このようにして、第1層上に第2層を形成することができる。この場合、エレクトロスピニング法を行う条件によっては、第1層と第2層とが明確に区別できるように両層が形成され、あるいは第1層と第2層との間に、各層を構成するナノファイバが混在した混合層が形成されることもある。
【0050】
このようにして得られたナノファイバシートは、例えばヒトの皮膚、非ヒト哺乳類の皮膚などに貼付させて用いることができる。この場合、ナノファイバシートにおける第2層側を貼付対象面に対向させ、第1層側が外方を向くように貼付を行う。このように貼付を行うことで、第1層に含まれる紫外線防御剤によって外部からの紫外線が防御されるので、第2層に含まれる薬効成分が紫外線によって受ける影響を低減させることができる。
【0051】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、ナノファイバの製造方法として、エレクトロスピニング法を採用した場合を例にとり説明したが、ナノファイバの製造方法はこれに限られない。
【0052】
また、図1に示すエレクトロスピニング法においては、形成されたナノファイバが板状の導電性コレクタ33上に堆積されるが、これに代えて導電性の回転ドラムを用い、回転する該ドラムの周面にナノファイバを堆積させるようにしてもよい。
【0053】
本発明は、上述した実施形態に関し、更に以下のナノファイバシートを開示する。
<1>
それぞれナノファイバを含む第1層と第2層との積層構造を有し、
第1層が、紫外線防御剤を含有する水不溶性のポリマーから構成されるナノファイバを含み、
第2層が、薬効成分を含有するナノファイバを含む、ナノファイバシート。
【0054】
<2>
前記第1層のナノファイバ間に液体を保持した状態での紫外線透過率と液体を保持しない状態でのナノファイバの紫外線透過率の比(Wet/Dry)が100以下である<1>に記載のナノファイバシート。
<3>
前記第1層のナノファイバ間に液体を保持した状態での紫外線透過率が、好ましくは20%以下、更に好ましくは10%以下である<1>又は<2>に記載のナノファイバシート。
<4>
紫外線防御剤と薬効成分がそれぞれ別のナノファイバに含有されている<1>ないし<3>のいずれか一項に記載のナノファイバシート。
<5>
第2層側の最外面に粘着剤が付与されている<1>ないし<4>のいずれか一項に記載のナノファイバシート。
<6>
粘着剤として、例えばオキサゾリン変成シリコーン、アクリル樹脂系接着剤、オレフィン樹脂系接着剤、合成ゴム系の粘着剤等が挙げられる。これらの粘着剤は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いる<5>に記載のナノファイバシート。
【0055】
<7>
粘着剤は、ナノファイバシートの第2層側の最外面上に不連続に形成されており、
粘着剤を不連続に形成する態様として、(i)前記最外面上に粘着剤を散点状に分散配置する態様、又は(ii)前記最外面上にナノファイバ状の粘着剤を堆積させる態様を用いる<5>又は<6>に記載のナノファイバシート。
<8>
粘着剤の厚みは、10nm以上100μm以下、特に50nm以上50μm以下であることが好ましい<5>ないし<7>のいずれか一項に記載のナノファイバシート。
<9>
薬効成分が消炎鎮痛剤である<1>ないし<8>のいずれか一項に記載のナノファイバシート。
<10>
薬効成分の量は、ナノファイバシートの全体に対して一般に1質量%以上であり、3質量%以上であることが更に好ましく、70質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることが更に好ましく、
薬効成分の量は、ナノファイバシートの全体に対して1質量%以上70質量%以下であることが好ましく、3質量%以上50質量%以下であることが更に好ましい<1>ないし<9>のいずれか一項に記載のナノファイバシート。
<11>
薬効成分が、非晶状態のままナノファイバに含有されている<1>ないし<10>のいずれか一項に記載のナノファイバシート。
【0056】
<12>
紫外線防御剤が、無機粉体又は有機油性成分である<1>ないし<11>のいずれか一項に記載のナノファイバシート
<13>
紫外線防御剤の量は、ナノファイバシートの全体に対して1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることが更に好ましく、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることが更に好ましく、
紫外線防御剤の量は、ナノファイバシートの全体に対して1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、3質量%以上30質量%以下であることが更に好ましい<1>ないし<12>のいずれか一項に記載のナノファイバシート。
<14>
紫外線防御剤は、紫外線反射剤と紫外線吸収剤に分類され、
紫外線反射剤としては、無機粉体を用い、
紫外線吸収剤としては、有機油性成分を用いる<1>ないし<13>のいずれか一項に記載のナノファイバシート。
<15>
無機粉体として、酸化亜鉛、酸化チタン、炭酸カルシウム、タルク等の粘土鉱物を用いる<14>に記載のナノファイバシート。
<16>
無機粉体の一次粒径は、5nm以上であることが好ましく、20nm以上であることが更に好ましく、50μm以下であることが好ましく、10μm以下であることが更に好ましく、
無機粉体の一次粒径は、5nm以上50μm以下であることが好ましく、20nm以上10μm以下であることが更に好ましい<14>又は<15>に記載のナノファイバシート。
【0057】
<17>
有機の油性成分として、メトキシケイヒ酸オクチル、ジメトキシベンジリデンジオキソイミダゾリジンプロピオン酸オクチル、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル、t−ブチルメトキシジベンゾイルメタン、オクチルトリアゾン、パラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシルを用いる<14>に記載のナノファイバシート。
<18>
第1層において、水不溶性ポリマーからなるナノファイバは、水不溶性ポリマー及び紫外線防御剤に加えて他の成分を含んでおり、
前記他の成分として、架橋剤、顔料、填料、界面活性剤、帯電防止剤又は発泡剤を用いる<1>ないし<17>のいずれか一項に記載のナノファイバシート。
<19>
薬効成分を含有するナノファイバを構成するポリマーが水溶性である<1>ないし<18>のいずれか一項に記載のナノファイバシート。
<20>
ナノファイバシートは、その厚みが、1μm以上、特に5μm以上であることが好ましく、1000μm以下500μm以下であることが更に好ましく、
ナノファイバシートの厚みは、1μm以上1000μm以下であることが好ましく、5μm以上500μm以下であることが更に好ましい<1>ないし<19>のいずれか一項に記載のナノファイバシート。
<21>
第1層の厚みは、0.5μm以上100μm以下であることが好ましく、1μm以上70μm以下であることが更に好ましく、
第2層の厚みは、1μm以上900μm以下であることが好ましく、5μm以上430μm以下であることが更に好ましい<1>ないし<20>のいずれか一項に記載のナノファイバシート。
【0058】
<22>
ナノファイバシートにおける第2層側の最外面に前記粘着剤が付与されていることに加えて、又はそれに代えて、第1層側の最外面に基材層が設けられている<1>ないし<21>のいずれか一項に記載のナノファイバシート。
<23>
第1層及び第2層がいずれもナノファイバのみから構成されている<1>ないし<22>のいずれか一項に記載のナノファイバシート。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0060】
〔実施例1〕
(1)第1層の製造
水不溶性ポリマーとしてポリビニルブチラール(PVB)(積水化学社製 エスレックB BM-1)を用いた。エタノールにPVB及び紫外線反射剤としてのシリコーン処理微粒子酸化亜鉛(テイカ社製 Micro zinc oxide MZ-504R3M)と界面活性剤(花王(株)製サニゾールC)を溶解させて、表1に示す組成のエレクトロスピニング用溶液を得た。この溶液を用い、図1に示す装置によって、ポリエチレンテレフタレートメッシュ(ボルティングクロス テトロン#120、東京スクリーン(株)、テーバーこわさ:0.13mNm、線径63μm、目開き:120メッシュ/インチ)からなる基材層の表面に水不溶性ポリマーのナノファイバから構成される第1層を形成した。第1層の製造条件は次のとおりである。得られた第1層の厚みは20μmであった。
印加電圧:34kV
キャピラリ−コレクタ間距離:260mm
溶液吐出量:1ml/h
環境:23.5℃、38%RH
【0061】
(2)第2層の製造
水不溶性ポリマーとして第1層で使用したPVBを用いた。エタノールとnブチルアルコールを8:2で混合した溶液にPVB及び薬効成分としてのケトプロフェンを溶解させて、表1に示す組成のエレクトロスピニング用溶液を得た。この溶液を用い、(1)と同様の製造条件を用いて、第1層の上に水不溶性ポリマーのナノファイバから構成される第2層を形成した。得られた第2層の厚みは38μmであった。また、得られた第2層を示差走査熱量計(DSC)により発熱ピークを確認した結果、ケトプロフェンが非晶状態で含有されていることが判った。
【0062】
このようにして得られたナノファイバシート全体(基材層を除く)に対する紫外線防御剤の量は5.8%であり、薬効成分の量は32.8%であった。この値は、それぞれの層に含まれる成分の固形分割合と、第1層と第2層の厚みの割合を掛けることで算出した。
【0063】
〔実施例2〕
第1層の製造は実施例1と同様にした。第2層は、次の方法で製造した。水溶性ポリマーとしてポリビニルピロリドン(PVP)(和光純薬工業製 K-90)を用いた。PVP及び薬効成分としてのケトプロフェンをエタノールに溶解して、表1に示す組成のエレクトロスピニング用溶液を得た。この溶液を用い、実施例1と同様の製造条件を用いて、第1層の上に水溶性ポリマーのナノファイバから構成される第2層を形成した。得られた第2層の厚みは38μmであった。ナノファイバシート全体(基材層を除く)に対する紫外線防御剤の量は5.8%であり、薬効成分の量は32.8%であった。
【0064】
〔比較例1〕
本比較例は、紫外線防御剤を含まないナノファイバシートを製造した例である。実施例1において、第1層を形成したポリマーのみを使用して、単層のナノファイバ層を有するナノファイバシートを得た。ナノファイバ層の厚みは20μmであった。
【0065】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られたナノファイバシートについて、第1層のみで紫外線透過率(乾燥時紫外線透過率)を測定した。また、上述の方法で、非イオン系界面活性剤であるポリオキシエチレンメチルグルコシドを2%含有する水溶液によって湿潤させた状態での紫外線透過率(湿潤時紫外線透過率)を測定した。紫外線透過率の測定方法は、上述のとおりである。測定結果を以下の表1に示す。測定結果は、サンプル数3点の平均値を示し、四捨五入して小数点以下2桁で示した。測定は波長390nmで行った。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示す結果から明かなとおり、各実施例で得られたナノファイバシートは、乾燥時のみならず、湿潤時においても低い紫外線透過率を示すことが判る。これに対して、比較例で得られたナノファイバシートは、乾燥時には低い紫外線透過率を示すものの、湿潤時には紫外線透過率が高くなってしまうことが判る。
【符号の説明】
【0068】
30 装置
31 シリンジ
32 高電圧源
33 導電性コレクタ
図1