(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
操舵輪に接続されて当該操舵輪と一体に回転する第1シャフトおよび転舵用ラックに噛合するピニオンを備える第2シャフトを有するステアリングシャフトと、前記第1シャフトと前記第2シャフトとの間に介在し、第1シャフトに対して第2シャフトを相対的に回転駆動することにより、操舵輪の操舵角に対する転舵輪の転舵角の比である舵角比を変更する舵角比可変手段とを備え、操舵輪の操作に基づく転舵輪の転舵角に、当該操舵輪の操舵方向と同方向の転舵角を加えることにより舵角比を変更するリードステア動作を実行する車両における前記操舵輪の自励振動検知方法であって、
前記操舵輪の舵角の方向と当該操舵輪の回転速度の方向とに基づき、操舵輪が切り戻しの状態にあることを検知する切り戻し状態検知工程と
前記操舵輪が切り戻しの状態にあるときに、前記操舵輪の回転角加速度の向きと前記第2シャフトにかかるトルクの向きとに基づき自励振動の有無を検知する振動検知工程と、を含み、
前記切り戻し状態検知工程では、前記操舵輪の舵角の方向と当該操舵輪の回転速度の方向とが異なるときに、操舵輪が切り戻しの状態にあると判断し、
前記振動検知工程では、前記ステアリンの回転角加速度の向きと前記第2シャフトにかかるトルクの向きとが異なるときに自励振動が発生していると判断する、ことを特徴とする、操舵輪の自励振動検知方法。
【背景技術】
【0002】
従来から、操舵輪の操舵角と転舵輪との間の伝達比(舵角比)を変更可能な、モータ駆動式の舵角比可変機構を含み、車速や操舵角に応じて、ステアリング・ホイールの操作(別名では、ハンドル操作と称されることがあるが、ここでは以下、操舵輪の操作と呼称する)に基づく転舵輪の転舵角にモータ駆動に基づく転舵輪の転舵角を上乗せする、いわゆるアクティブステア機能を有する車両用操舵装置が知られている。
【0003】
この種の車両用操舵装置では、上記舵角比可変機構は、運転者が操舵輪を操作しているときの転舵輪の舵角応答性が高められるように、モータの制御プログラムが設定されている。そのため、操舵輪の切込み操舵状態で運転者が手放し運転をすると、すなわち、転舵輪に作用するセルフアライニングトルクを利用して操舵輪を中立(直進)位置に戻そうとして手放し運転(操舵輪に手を添えているが実質的には操舵を行っていない状態を含む)をすると、「発明を実施するための形態」中で詳述するように、操舵輪が回転方向に振動するという現象(自励振動という)が起きる。このような操舵輪の自励振動は、車両の運転性能や安全性を阻害するものではないが、運転者に違和感や不安感を与えかねない。
【0004】
近年では、このような操舵輪の自励振動を抑制する技術として、特許文献1のような車両用操舵装置が提案されている。この車両用操舵装置では、手放し運転が行われているか否かを判別し、手放し運転が行われている場合には、モータ駆動により転舵輪の転舵角を上乗せする制御(リードステア制御)を停止する、又は目標転舵角を変更することにより、操舵輪の自励振動の発生を抑制する。その場合、手放し運転が行われているか否かの判別は、操舵角センサの出力値(操舵角)、操舵角等に基づき設定される目標転舵角(転舵輪の転舵角)、舵角比可変機構のモータの回転角および車速などのパラメータに基づき、当該パラメータの値が定められた条件を充足し、かつその充足状態が一定の時間継続しているか否かによって行われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の車両用操舵装置は、操舵輪の自励振動を抑制する上で有効なものであるが、数多くのパラメータを用いて手放し運転が行われているか否かの判別が行われるため誤差要因が多い。また、上記パラメータが所定の条件を一定時間充足している必要があるため、リードステア制御を停止させるための処理に、遅れが生じることが考えられる。従って、この点に改善の余地がある。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みて成されたものであり、手放し運転による操舵輪の自励振動を抑制するために、リードステア制御をより迅速に停止させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の車両用操舵装置は、操舵輪に接続されて当該操舵輪と一体に回転する第1シャフトと転舵用ラックに噛合するピニオンを備える第2シャフトとを有するステアリングシャフトと、前記第1シャフトと前記第2シャフトとの間に介在し、第1シャフトに対して第2シャフトを相対的に回転駆動することにより、操舵輪の操舵角に対する転舵輪の転舵角の比である舵角比を変更する舵角比可変手段と、前記操舵輪の回転に伴い変化する物理量とその変化の方向を検出する第1検出手段と、前記第1シャフトにかかるトルクの方向を検出する第2検出手段と、前記第1、2検出手段の検出結果に基づき、操舵輪操作に基づく転舵輪の転舵角に当該操舵輪の操舵方向と同方向の転舵角を加えることにより舵角比を変更するリードステア動作の実行およびその停止を行うべく前記舵角比可変手段を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記リードステア動作の実行中、前記操舵輪が切り戻しの状態にあって、かつ、前記物理量である、操舵輪の回転角加速度の向きと前記第2シャフトにかかるトルクの向きとが互いに異なる状態が発生したときに前記リードステア動作を停止させるものである。
【0009】
この車両用操舵装置によれば、操舵輪の切り込み操舵の後、転舵輪に作用するセルフアライニングトルクを利用して操舵輪を中立(直進)位置に戻すべく手放し運転(操舵輪に手を添えているが実質的には操舵を行っていない状態を含む)が行われ、これにより操舵輪に自励振動が生じた場合でも、この自励振動を速やかに解消することが可能となる。すなわち、このようにして操舵輪を中立(直進)位置に戻そうとすると、セルフアライニングトルクによりステアリングシャフトが回転し、この回転を受けて舵角比可変手段が第2シャフトを回転駆動することで、手放し状態にある第1シャフトが逆方向に回転する(戻される)。これが操舵輪に生じる自励振動の最初の波動である。操舵輪が把持されて操舵されていれば、このように操舵輪が逆方向に回転することがなく、第1シャフトの操舵加速度の向きと第2シャフトのトルクの向きとは同じであるが、上記のように第1シャフトが逆方向に回転する(戻される)と、第1シャフトの操舵加速度の向きと第2シャフトのトルクの向きとが一時的に逆向きとなる。従って、このように第1シャフトの操舵加速度の向きと第2シャフトのトルクの向きとが異なる現象が検知され、当該検知に基づきリードステア動作が停止されることで、自励振動が速やかに解消され、当該自励振動が継続することが抑制される。
【0010】
この車両用操舵装置において、前記制御手段は、前記物理量である、操舵輪の舵角の方向と、前記物理量である、当該操舵輪の回転速度の方向とが異なる場合に、当該操舵輪が切り戻しの状態にあると判断する。
【0011】
この構成によれば、操舵輪が切り戻しの状態にあることを正確に、検知することができる。
【0012】
なお、上記の車両用操舵装置において、前記第1シャフトの回転トルクを検出するトルクセンサと、操舵輪の操作に伴う前記トルクセンサの検出トルクに応じたアシストトルクを前記転舵用ラックに与えるアクチュエータとを含むパワーステアリング手段をさらに備える場合には、前記第2検出手段は、前記トルクセンサであるのが好適である。
【0013】
この構成によれば、第2シャフトにかかるトルクの向きを検知する手段として、パワーステアリング手段のトルクセンサが共用されるため、合理的な構成となる。
【0014】
一方、本発明は、操舵輪に接続されて当該操舵輪と一体に回転する第1シャフトおよび転舵用ラックに噛合するピニオンを備える第2シャフトを有するステアリングシャフトと、前記第1シャフトと前記第2シャフトとの間に介在し、第1シャフトに対して第2シャフトを相対的に回転駆動することにより、操舵輪の操舵角に対する転舵輪の転舵角の比である舵角比を変更する舵角比可変手段とを備え、操舵輪の操作に基づく転舵輪の転舵角に、当該操舵輪の操舵方向と同方向の転舵角を加えることにより舵角比を変更するリードステア動作を実行する車両における前記操舵輪の自励振動検知方法であって、前記操舵輪の舵角の方向と当該操舵輪の回転速度の方向とに基づき、操舵輪が切り戻しの状態にあることを検知する切り戻し状態検知工程と、前記操舵輪が切り戻しの状態にあるときに、前記操舵輪の回転角加速度の向きと前記第2シャフトにかかるトルクの向きとに基づき自励振動の有無を検知する振動検知工程と、を含み、前記切り戻し状態検知工程では、前記操舵輪の舵角の方向と当該操舵輪の回転速度の方向とが同じ場合に、操舵輪が切り戻しの状態にあると判断し、前記振動検知工程では、前記操舵輪の回転角加速度の向きと前記第2シャフトにかかるトルクの向きとが互いに逆のときに自励振動が発生していると判断するものである。
【0015】
この方法によれば、操舵輪の切り込み操舵の後、転舵輪に作用するセルフアライニングトルクを利用して操舵輪を中立(直進)位置に戻すべく手放し運転が行われた場合に生じする操舵輪の自励振動を速やかに検知することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、手放し運転による操舵輪の自励振動を速やかに検知してリードステア制御を迅速に停止させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0019】
図1は、本発明に係る車両用操舵装置(操舵輪の自励振動検知方法が適用される車両用操舵装置)を示すシステム構成図である。同図中において、符号10は運転者が操舵する操舵輪である。操舵輪10は、車体に回転可能に支持されたステアリングシャフト12の一端に固定されている。ステアリングシャフト12の他端にはピニオン18が備えられており、このピニオン18が、転舵輪に繋がるラック軸20(本発明の転舵用ラックに相当する)に噛合している。すなわち、操舵輪10の操作に伴うステアリングシャフト12の回転は、ピニオン18を介してラック軸20の軸方向の往復移動に変換され、このラック軸20の往復移動により転舵輪22の舵角(転舵角)が変更される。
【0020】
ステアリングシャフト12には、操舵輪10の操舵角に対する転舵輪22の転舵角の比である舵角比(操舵角/転舵角)を変更するための舵角比可変アクチュエータ14(本発明の舵角比可変手段に相当する)が設けられている。詳しくは、前記ステアリングシャフト12は、前記操舵輪10が固定される第1シャフト11aと、前記ピニオン18を備える第2シャフト11bとを含み、これらシャフト11a、11bが舵角比可変アクチュエータ14を介して互いに連結された構成を有する。舵角比可変アクチュエータ14は、シャフト11a、11bを互いに連結する、例えば遊星歯車機構などからなる差動機構15aと、この差動機構15aを駆動するモータ15bとを含み、操舵輪10の操作に伴う第1シャフト11aの回転に、モータ15bの駆動による回転を上乗せして第2シャフト11bを回転させる。つまり、舵角比可変アクチュエータ14は、操舵輪10の操作(操舵角θs)に基づく転舵輪22の転舵角(STE転舵角θa)に、前記モータ15bの駆動に基づく転舵輪22の転舵角(ACT角θb)を上乗せする(加減する)ことにより前記舵角比を変更する。
【0021】
また、車両用操舵装置は、運転者の操舵輪10の操作による操舵トルクに対してトルク(アシストトルク)を付加するEPS(electric power steering)アクチュエータ24(本発明のパワーステアリング手段に相当する)を備えている。当例のEPSアクチュエータ24は、所謂ラックアシスト型のアクチュエータであり、モータ25(
図2に示す)の駆動力(アシストトルク)をねじ送り機構等を介して前記ラック軸20に伝達することにより操舵トルクをアシストする。
【0022】
車両用操舵装置は、さらに、各種センサからの入力信号に基づいて、前記舵角比可変アクチュエータ14およびEPSアクチュエータ24を制御する操舵コントローラ30を備えている。操舵コントローラ30は、周知のマイクロコンピュータをベースとする制御装置であって、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばROMやRAM等、プログラム及び各種データを格納するメモリと、電気信号の入出力を行うための入出力(I/O)バスとを備えている。
【0023】
図2に示すように、操舵コントローラ30は、舵角比可変アクチュエータ14を制御するための機能構成として、回転角演算部32、モータ制御部33および振動検出部34とを含む。また、EPSアクチュエータ24を制御するための機能構成として、アシストトルク演算部36およびモータ制御部38を含む。
【0024】
操舵コントローラ30には、車両に設けられた複数のセンサから種々の情報が入力されている。本発明の説明に必要な範囲で説明すると、
図1に示すように、車両には、ステアリングシャフト12の操舵角、より具体的には、第1シャフト11aの操舵角を検出する操舵角センサ26と、ピニオン18の近傍位置のステアリングシャフト12(第2シャフト11b)の回転トルク(ピニオントルクと称す)を検出するトルクセンサ27と、車両の走行速度を検出する車速センサ28とが設けられており、これら各センサ26〜28からの信号が、CAN(Controller Area Network)等の車内ネットワークを介して操舵コントローラ30に入力されている。
【0025】
前記回転角演算部32は、操舵角センサ26からの情報(操舵角)と前記車速センサ28からの情報(車速)とに基づき、前記舵角比可変アクチュエータ14による転舵角の上乗せ量の目標値を演算するものである。
【0026】
ここで、舵角比可変アクチュエータ14による転舵角の上乗せ(加減)について詳述する。この車両用操舵装置では、車両の操作性および走行安定性の向上のために、車速および操舵速度に応じて、運転者の操舵輪10の操作に基づく転舵輪22の転舵角(STE転舵角θa)に、前記モータ15b(舵角比可変アクチュエータ14)の駆動に基づく転舵輪22の転舵角(ACT角θb)を上乗せする制御、つまり、舵角比(操舵角/転舵角)を変更する制御が操舵コントローラ30により実行される。
【0027】
この場合、
図3(a)に示すように、操舵輪10の操作(操舵角θs)に基づくSTE転舵角θaに、その操舵方向と同方向のACT転舵角θbを上乗せすることにより、操舵輪10の操舵角θsに対する転舵輪22の転舵角θtの比率(舵角比)を変更する制御がリードステア制御である。リードステア制御は、主に、低中速時、車両操作性向上のために実行される。
【0028】
なお、これとは逆に、
図3(b)に示すように、STE転舵角θaに、その操舵方向と逆方向のACT転舵角θbを上乗せする、つまり、ACT転舵角θbを減算することにより、操舵輪10の操舵角θsに対する転舵輪22の転舵角θtの比率(舵角比)を変更する制御を行うことも可能である。この舵角を減らすリードステア制御は、主に、高速時、車両挙動が不安定な領域に移行するのを未然に防止するために実行される。
【0029】
前記回転角演算部32は、操舵輪10の操作が行われると、操舵角センサ26および車速センサ28からの情報(車速および操舵角)に基づき、舵角比可変アクチュエータ14により上乗せするACT転舵角θbの目標値(目標ACT転舵角θbt)を演算し、その結果をモータ制御部33に出力するものである。具体的には、操舵角を微分することにより操舵速度(操舵角速度)を求め、この操舵速度と車速に基づき、予め定められたマップ等から目標ACT転舵角θbtを求めるとともに、その向き(+/−)、つまり、一般的なリードステア制御、又は舵角を減らすリードステア制御の何れを実行するかを判別し、その結果をモータ制御部33に出力する。
【0030】
モータ制御部33は、回転角演算部32の演算結果(目標ACT転舵角θbt)に基づき、当該目標ACT転舵角θbtに対応する制御信号を出力することにより、前記モータ15b(舵角比可変アクチュエータ14)をフィードバック制御するものである。
【0031】
振動検出部34は、操舵角センサ26からの情報(操舵角)に基づき操舵速度および操舵加速度(操舵角加速度)を演算し、操舵角、操舵速度および操舵加速度と、前記トルクセンサ27からの情報(ピニオントルク)とに基づき、操舵輪10の後記自励振動を検出し、上記リードステア制御を停止すべく回転角演算部32に信号を出力するものである。前記回転角演算部32は、振動検出部34から信号入力があった場合には、リードステア制御を停止する処理を実行する。具体的には、現在の車速が、リードステア制御が実行される速度域(リードステア制御速度域と称す)であるか否かを判別し、現在の車速がリードステア制御速度域に該当する場合には、目標ACT転舵角θbtを「0」にする。これによりリードステア制御を実質的に停止させる。なお、操舵加速度は、振動検出部34において、操舵角センサ26から得られた操舵速度を微分することにより求められる。すなわち、当例では、操舵角、操舵速度および操舵加速度が本発明の物理量に相当し、操舵角センサ26および振動検出部34が本発明の第1検出手段に相当する。また、トルクセンサ27が本発明の第2検出手段に相当する。
【0032】
前記アシストトルク演算部36は、トルクセンサ27からの情報(ピニオントルク)と車速センサ28からの情報(車速)とに基づき、前記EPSアクチュエータ24による目標アシストトルクを演算し、その結果をモータ制御部38に出力するものであり、前記モータ制御部38は、アシストトルク演算部36で求められた目標アシストトルクに対応する制御信号を出力することにより、前記モータ25(EPSアクチュエータ24)をフィードバック制御する。
【0033】
次に、リードステア制御を停止させるための前記操舵コントローラ30の制御について詳細に説明する。なお、ここでは、操舵コントローラ30の具体的な制御について説明する前に、リードステア制御を停止させる必要性について説明する。
【0034】
リードステア制御は、上記の通り、運転者が操舵輪10の操作を行ったときに、その操舵によるSTE転舵角θaに、操舵輪10の操舵方向と同方向のACT転舵角θbを上乗せするものであり、舵角比可変アクチュエータ14は、運転者が操舵輪10を把持していることを前提として、ACT転舵角θb分だけ第2シャフト11bを第1シャフト11aに対して相対的に回転駆動する。そのため、操舵輪10の切込み操舵状態で運転者が手放し運転をすると、すなわち、転舵輪22に作用するセルフアライニングトルク(S.A.T)を利用して操舵輪10を中立(直進)位置に戻そうと手放し運転(操舵輪10に手を添えているが実質的には操舵を行っていない状態を含む)をすると、操舵輪10が回転方向に振動するという現象(自励振動)が起きる。
【0035】
この自励振動の発生メカニズムについて
図6及び
図7を用いて説明する。例えば、
図6(a)に示すように、低速走行中に運転者が操舵輪10を右方に切り込み操舵した後、操舵輪10から手を離すと(
図7のt11時点)、転舵輪22に作用するS.A.Tにより、
図6(b)に示すように、操舵輪10(ステアリングシャフト12)が中立位置に向かって左回りに回転する。操舵輪10が回転すると、操舵角センサ26からの入力に基づき目標ACT転舵角θbが求められ、
図6(b)中に破線矢印で示すように舵角比可変アクチュエータ14が作動する。つまり、舵角比可変アクチュエータ14は、ステアリングシャフト12のうち、反操舵輪10側の第2シャフト11bに左回りの駆動力を付与する。そのため、手放し状態の操舵輪10は、
図6(c)に示すように、第1シャフト11aと共に逆方向(右回り)に戻されることとなる(
図7の主にt12時点〜t13時点)。このように操舵輪10が右回りに回転すると、この回転に基づき目標ACT転舵角θbが求められ、
図6(d)中に破線矢印で示すように舵角比可変アクチュエータ14が作動する。つまり、今度は、第2シャフト11bを右回り回転させるように舵角比可変アクチュエータ14が作動し、その結果、手放し状態の操舵輪10が左回りに戻されることとなる(
図7の主にt14時点〜t15時点)。以後、このように操舵輪10の回転方向が短時間に入れ替わる現象が繰り返されながら操舵輪10が中立位置に戻される。要するにこの現象が上記の自励振動である。
【0036】
このような操舵輪10の振動は、運転者に違和感や不安感を与えかねないため、速やかに解消する必要がある。
【0037】
前記振動検出部34は、操舵輪10に生じるこのような自励振動の検知に基づき、リードステア制御を停止すべく回転角演算部32に停止信号を出力する。
【0038】
図4は、リードステア制御を停止させるために、振動検出部34が実行する制御の一例を示すフローチャートである。この制御は、例えば車両のIGN(Ignition)スイッチがオンされることによりスタートする。
【0039】
この制御がスタートすると、振動検出部34は、操舵角センサ26およびトルクセンサ27からの信号の読み込みを開始し(ステップS1)、まず、操舵輪10が切り戻し中か否かを判定する(ステップS3/本発明の切り戻し状態検知工程に相当する)。
【0040】
具体的には、振動検出部34は、操舵角と操舵速度とに基づき、これらの方向が異なる場合には、操舵輪10が切り戻されていると判定する。
【0041】
例えば、
図5は、操舵輪10を中立位置から右方に切り込んだ後、t1時点で切り戻した場合(左方に回転させた場合)の操舵角、操舵速度、操舵加速度、およびピニオントルクの変化を示したものであり、同図中の破線は、切り込み操舵後も継続して運転者が操舵輪10を操舵している場合の変化を示し、実線は、切り込み操舵後、運転者が手放し運転した場合の変化を示している。同図に示すように、操舵輪10の切り戻し中は、操舵輪10が中立位置よりも右方に操舵された状態のまま、操舵方向が左向きになることで、操舵角と操舵速度の方向が異なる。これは、運転者が操舵輪10を切り戻し操舵している場合も、手放し状態でS.A.Tにより操舵輪10が切り戻されている場合も同じである。従って、振動検出部34は、このように、操舵角および操舵速度を監視することにより、操舵輪10が切り戻し中か否かを判定する。
【0042】
ステップS3において、操舵輪10が切り戻し中であると判断した場合には、振動検出部34は、第1シャフト11aと第2シャフト11bとの間に捻れ関係が発生したか否かを判定する(ステップS5/本発明の振動検知工程に相当する)。具体的には、振動検出部34は、操舵加速度およびピニオントルクに基づき、これらの方向が異なる場合には、第1シャフト11aと第2シャフト11bとの間に捻れ関係が発生している、すなわち、操舵輪10に自励振動が発生したと判定する。
【0043】
詳しく説明すると、切り込み操舵後も継続して運転者が操舵輪10を操舵していれば、
図5の破線に示すように、操舵輪10の切り戻し期間中(操舵輪10が中立位置に戻るまでの間)は、操舵輪10の操舵加速度の方向と第2シャフト11bにかかるピニオントルクの方向とは同じである。しかし、手放し状態でS.A.Tにより操舵輪10が切り戻されている場合には、切り戻し開始後に、
図6(c)に示すような特有の現象が発生する。具体的には、上述した通り、舵角比可変アクチュエータ14により第2シャフト11bに左回りの駆動力(回転トルク)が付与され、これに伴い第1シャフト11aが逆方向(右回り)に戻されるという現象が発生する。その結果、
図5のt2時点に示すように、操舵角センサ26からの入力に基づく第1シャフト11aの操舵加速度の向きと、トルクセンサ27からの入力に基づく第2シャフト11bのピニオントルクの向きとが一時的に逆向きになる。つまり、第1シャフト11aと第2シャフト11bとの間に捻れ関係が生じる。
【0044】
振動検出部34は、ステップS5において、第1シャフト11aと第2シャフト11bとの間に捻れ関係が生じているか否かを判断し、生じていると判断した場合には、リードステア制御を停止するための停止信号を回転角演算部32に出力し(ステップS7)、このフローチャートに基づく制御を終了する。すなわち、第1シャフト11aと第2シャフト11bとの間の上記の捻れは、要するに自励振動の最初の波動に因るものであり、振動検出部34は、第1シャフト11aの操舵加速度と第2シャフト11bのピニオントルクの向きを監視することで上記捻れを検知し、これにより、自励振動の発生を検知する。そして、この検知に基づき、回転角演算部32に前記停止信号を出力することでリードステア制御を停止させる。
【0045】
以上、本発明かかる車両用操舵装置について説明したが、このような車両用操舵装置によれば、運転者が操舵輪10を切り込み操舵した後、S.A.Tを利用して操舵輪10を中立位置に戻すべく手放し運転をし、これにより操舵輪10に自励振動が発生した場合でも、直ちにリードステア制御が停止される。そのため、操舵輪10が中立位置に戻るまでの間、自励振動が長期的に継続することが防止される。
【0046】
特に、この車両用操舵装置によれば、上記の通り、自励振動の最初の波動により生じる第1シャフト11aと第2シャフト11bとの間の捻れの検知に基づきリードステア制御が停止される。要するに、自励振動の最初の波動の検知に基づきリードステア制御が停止されるため、自励振動は発生するものの非常に速やかに解消されることとなる。そのため、運転者が実質的に自励振動を体感することは殆どなく、自励振動の実質的な発生を抑制できる。従って、運転者がS.A.Tを利用して操舵輪10を中立位置に戻すべく手放し運転をしたような場合でも、運転者に違和感や不安感を与えることを防止できる。
【0047】
しかも、この車両用操舵装置によれば、まず、操舵輪10の操舵角および操舵速度の各々の向きに基づいて操舵輪10が切り戻し中か否かが判別され、操舵輪10が切り戻し中である場合に、さらに操舵輪10(第1シャフト11a)の操舵加速度およびピニオン18(第2シャフト11b)のトルクの各々の向きに基づいて自励振動が発生したか否かが判別される。従って、非常に簡単なロジックで、しかも精度よく自励振動の発生を検知してリードステア制御を停止させることができる。よって、操舵コントローラ30の制御負担が軽いという利点もある。
【0048】
さらに、この車両用操舵装置によれば、自励振動を検知するために必要なパラメータ(操舵角、操舵速度、操舵加速度、ピニオントルク)は、舵角比可変アクチュエータ14およびEPSアクチュエータ24の各制御に用いられる操舵角センサ26およびトルクセンサ27からの情報に基づき取得される。そのため、車両に搭載される既存のセンサ(操舵角センサ26およびトルクセンサ27)から得られる情報を用いた合理的な構成で自励振動の発生を検知することができるという利点もある。
【0049】
なお、以上説した車両用操舵装置は、本発明の車両用操舵装置の好ましい実施形態の例示であって、その具体的な構成は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0050】
さらに、操舵輪は近年スポーツカー等で利用される一対の円弧状の把持部を持つ非円形の形状のものであっても、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。