(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
段階b)において、粗製メタクリル酸含有水溶液の総質量に対して30質量%より多くの粗製メタクリル酸含有水溶液が、第一の析出領域にみちびかれる、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【技術分野】
【0001】
本発明はメタクリル酸の製造方法に関する。
【0002】
メタクリル酸(MAA)は、広範な用途において使用される。メタクリル酸は容易に重合でき、コポリマー中でのその存在は、軟化温度および硬度を低減し、且つ、表面コーティングおよび接着剤の付着を改善する。カルボン酸である場合、それを、変換方法によって、メタクリレート、メタクリルアミド、N−置換メタクリルアミド、およびメタクリロイルクロリドへと変換できる。メタクリル酸を含有するポリマーは、表面コーティング、皮革およびテキスタイル産業のための助剤、凝集剤、イオン交換体、および土壌改質剤において使用される。
【0003】
メタクリル酸の商業的な製造は、とりわけ、イソブチレン、tert−ブタノール、メタクロレインまたはイソブチルアルデヒドの、不均一触媒気相酸化によって行われる。そのように得られたガス状の反応相を、冷却および凝縮によってメタクリル酸水溶液へと変換し、随意に低沸点物質、例えばアセトアルデヒド、アセトン、酢酸、アクロレインおよびメタクロレインから分離し、その後、溶媒抽出塔へと導入して、適した抽出剤、例えば短鎖炭化水素を用いてメタクリル酸を抽出し且つ分離する。分離されたメタクリル酸は一般に、その後、例えば蒸留によってさらに精製されて、純粋なメタクリル酸が得られる。かかる公知の方法は、例えばEP0710643号、US4618709号、US4956493号、EP386117およびUS5248819号内に記載されている。
【0004】
気相反応相は一般に、様々な副生成物、例えば芳香族カルボン酸、例えばテレフタル酸、安息香酸、トルイル酸およびその種のもの、マレイン酸、シトラコン酸、アルデヒド、およびとりわけポリマーも含む。かかる高沸点生成物は冷却に際して固化する傾向があり、そのことがパイプおよび装置の閉塞、並びにメタクリル酸および反応混合物中の他の生成物の重合の増加をみちびくことがあり、そのことが閉塞をみちびき、ダウンタイムの増加および効率の減少をもたらす。これらの問題は、上記の文献内では取り組まれていない。さらには、それらの副生成物のいくつかは、それ自体、商業的に興味深く、例えばテレフタル酸(TPA)はポリエチレンテレフタレート(PET)のコモノマーであり、且つ、ハイブリッド骨格材料における重要な成分であり、ガスの貯蔵、分離および精製のために、および触媒中で使用される。従って、テレフタル酸の回収は興味深い。
【0005】
本発明の課題は、一般に、従来技術の方法の前記の欠点を可能な限り克服することである。
【0006】
さらなる課題は、可能な最大限の析出により、パイプおよび装置の閉塞を減少または除去することによって、メタクリル酸の製造方法の全体的な効率および/または収率を高めることである。
【0007】
上記の課題を解決するために、以下の段階を含むメタクリル酸の製造方法が寄与する:
a) 粗製メタクリル酸含有水溶液中に少なくとも部分的に溶解された少なくとも1つの不純物を含む、粗製メタクリル酸含有水溶液を準備する段階、
b) 少なくとも1つの不純物の少なくとも一部を、粗製メタクリル酸含有水溶液から析出して、少なくとも1つの固体の不純物と母液とを形成する段階、
c) 少なくとも1つの固体の不純物の少なくとも一部を母液から分離して、精製されたメタクリル酸含有水溶液と、固体の不純物とを得る段階、
d) 精製されたメタクリル酸含有水溶液からメタクリル酸を分離する段階。
【0008】
本発明による方法の好ましい態様において、工程段階a)は、以下の工程段階:
a1) C
4化合物を気相酸化してメタクリル酸含有生成物ガスを得る段階、
a2) メタクリル酸含有生成物ガスと、急冷剤とを接触させて、粗製メタクリル酸含有水溶液中に少なくとも部分的に溶解された少なくとも1つの不純物を含む粗製メタクリル酸含有水溶液を得る段階
を含む。
【0009】
本発明による方法の段階a1)において気相酸化に供されるC
4化合物は、好ましくはイソブチレン、tert−ブチルアルコール、イソブチルアルデヒドおよびメタクロレインから選択されるC
4化合物、またはそれらの2つまたはそれより多くの混合物である。本発明の好ましい態様において、C
4化合物はメチルtert−ブチルエーテル(MTBE)またはエチルtert−ブチルエーテル(ETBE)の解離から誘導され、且つ、工程段階a)は、さらなる工程段階:
aa1) MTBEを解離させて、少なくとも1つのC
4化合物、好ましくは、イソブチレンおよびtert−ブチルアルコールの少なくとも1つ、およびメタノールを得る段階
を含む。
【0010】
MTBEは、イソブチレンのための供給原料として広く使用されており、且つ、MTBEの解離は当該技術分野でよく知られている。MTBEの解離は、当業者に公知の任意の適した手段によって行うことができる。適した触媒および反応条件は、例えばEP1149814号、WO04/018393号、WO04/052809号; Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、第五版、Vol.A4、488ページ; V. Fattore, M. Massi Mauri, G. Oriani, G. Paret, Hydrocarbon Processing、1981年8月、101−106ページ; Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、第五版、Vol. A16, 543−550ページ; A. Chauvel, G. Lefebvre, "Petrochemical Processes, Technical and Economic Characteristics"、Vol. 1、Editions Technip、Paris、1989、213ページ以降.; US5336841号、US4570026号、およびそこで挙げられている参考文献内に記載されている。これらの参考文献の開示は、参照をもって本願内に含まれ、且つ、本発明の開示の一部を形成する。
【0011】
MTBEの解離の2つの主生成物は、C
4化合物のイソブチレンおよびメタノールである。さらなるC
4化合物の第三ブタノールが解離反応生成物相内に含まれていることもある。イソブチレンおよび第三ブタノールのいずれかまたは両方を、原料として工程段階a1)に供給し、この工程段階のための原料のC
4化合物の含有量全体を構成するか、または他の源からのさらなるC
4含有量に追加することができる。例えば、少なくとも1つのC
4化合物とメタノールとを互いから可能な限り分離し、且つ解離からの任意の副生成物であって気相酸化に悪影響を及ぼしかねないものを除去するために、MTBEの解離とそのように得られた少なくとも1つのC
4化合物を工程段階a1)における気相酸化に供給することとの間に1つまたはそれより多くの中間の分離段階および/または精製段階があることが可能である。分離および/または精製は、当業者に公知であり且つ適していると考えられる任意の手段によるものであってよい。適した精製および分離方法は、例えばEP1149814号、WO04/018393号およびWO04/052809号内に記載されている。メタノールの分離後、C
4化合物のイソブチレンを主成分として含む解離相を、その後、随意に精製し、且つ原料として工程段階a1)に供給することができる。適した精製方法は、当業者に公知であり、且つ、好ましくは蒸留、抽出、吸着、吸収、クロマトグラフィーまたは洗浄の少なくとも1つ、好ましくは蒸留および抽出の少なくとも1つ、好ましくは少なくとも1つの蒸留、および少なくとも1つの抽出を含む。未反応のMTBEをこの段階においてC
4化合物相から少なくとも部分的に分離することができる。分離されたMTBEを随意に精製し、且つ少なくとも部分的に解離反応にリサイクルすることができる。
【0012】
本発明による方法の段階a1)における気相酸化は、好ましくは少なくとも1つの酸化触媒の存在下で行われる。C
4化合物がイソブチレンまたはtert−ブチルアルコールである場合、メタクリル酸を含む気相を得るための気相酸化を一段階で行うことができ、この場合、本願の文脈における一段階とは、メタクロレインへの最初の酸化とメタクリル酸へのさらなる酸化とが、実質的に同じ反応領域において少なくとも1つの触媒の存在下で行われることを意味するとみなされる。選択的に、段階a1)における気相酸化を、1つより多くの段階、好ましくは二段階で、好ましくは互いに分離された2つまたはそれより多くの反応領域において行うことができ、この場合、2つまたはそれより多くの触媒が好ましくは存在し、各々の触媒は好ましくは互いの触媒とは別途の反応領域内に存在する。二段階の気相酸化においては、第一の段階で、好ましくは、C
4化合物がメタクロレインへと少なくとも部分的に酸化され、続いてメタクロレインがメタクリル酸へと少なくとも部分的に酸化される。従って、例えば、第一の反応段階において、好ましくは、少なくとも1つのC
4化合物のメタクロレインへの酸化のために適した少なくとも1つの触媒が存在し、且つ、第二の反応段階において、メタクロレインのメタクリル酸への酸化のために適した少なくとも1つの触媒が存在する。
【0013】
気相触媒酸化のための適した反応条件は、例えば温度約250℃〜約450℃、好ましくは約250℃〜約390℃、および圧力約1atm〜約5atmである。空間速度は、1時間あたり約100〜約6000(NTP)、および好ましくは1時間あたり約500〜約3000で変化できる。C
4原料、例えばイソブチレンの、メタクロレインおよび/またはメタクリル酸への酸化、例えば気相触媒酸化、並びにそのための触媒は、文献、例えばUS5248819号、US5231226号、US5276178号、US6596901号、US4652673号、US6498270号、US5198579号、US5583084号からよく知られている。
【0014】
イソブチレンまたはtert−ブタノールのメタクロレインおよび/またはメタクリル酸への酸化のために適した特に好ましい触媒および方法は、EP0267556号内に記載され、且つ、メタクロレインのメタクリル酸への酸化のために適した特に好ましい触媒および方法は、EP0376117号内に記載されている。これらの文献は、参照をもって本願内に含まれ、且つ、本発明の開示の一部を形成する。
【0015】
本発明による方法における、メタクロレインからメタクリル酸への気相酸化は、好ましくは温度約250〜約350℃およびそれ未満、圧力約1〜約3atm、および容積負荷約800〜約1800Nl/l/hで行われる。
【0016】
酸化剤として、一般には酸素が、例えば空気の形態で、または純粋な酸素、もしくは反応条件下で不活性な少なくとも1つのガス、例えば窒素または二酸化炭素の少なくとも1つで希釈された酸素の形態で使用され、この際、酸化剤としては空気が好ましく、且つ、希釈ガスとしては窒素および/または二酸化炭素が好ましい。二酸化炭素が希釈ガスとして使用される場合、好ましくは、これは燃焼、好ましくは反応ガスおよび/または副生成物の触媒燃焼または熱的燃焼からリサイクルされた二酸化炭素である。本発明による方法の段階a1)における気相酸化に供されるガスは、好ましくは水も含み、それは一般には水蒸気の形態で存在する。酸素、単数または複数の不活性ガス、および水を反応相に導入するか、または気相反応の前もしくは気相反応の間、または気相反応の前および間に、C
4化合物と混合できる。
【0017】
本発明による方法の好ましい実施態様において、少なくとも1つのC
4化合物、空気または酸素およびリサイクルされた酸化反応器流出ガス、好ましくはリサイクル前に燃焼された酸化反応器流出ガスを含む混合物を、段階a1)に供給する。反応器流出ガスは好ましくは、分離条件、および燃焼段階の存在および燃焼段階の作用に依存して、少なくとも1つの未反応のC
4化合物、少なくとも1つの炭素酸化物、窒素および酸素、並びに水を含む。
【0018】
本発明による二段階の気相酸化において、第一の段階におけるC
4化合物:O
2:H
2O:不活性ガスの好ましい容積比は、一般に、1:0.5〜5:1〜20:3〜30、好ましくは1:1〜3:2〜10:7〜20である。第二の段階におけるメタクロレイン:O
2:H
2O:不活性ガスの容積比は、好ましくは1:1〜5:2〜20:3〜30、好ましくは1:1〜4:3〜10:7〜18である。
【0019】
本発明による方法の段階a2)において、メタクリル酸を含む気相を急冷剤と接触させることによって冷却し且つ凝縮して(一般に急冷として知られる)、粗製メタクリル酸含有水溶液の形態での凝縮物を得る。前記冷却および凝縮を当業者に公知であり且つ適していると考えられる任意の手段によって、例えばメタクリル酸含有気相をその成分の少なくとも1つ、特に水およびメタクリル酸の少なくとも1つの露点未満の温度に冷却することによって行うことができる。適した冷却方法は、当業者に公知であり、例えば少なくとも1つの熱交換器を用いた、および/または気相に液体、例えば水、水性組成物または有機溶剤、例えば芳香族または脂肪族炭化水素、またはそれらの少なくとも2つの混合物から選択される有機溶剤を噴霧することによる冷却であり、その際、好ましい有機溶剤は急冷条件下で比較的低い蒸気圧を有し、例えばヘプタン、トルエンまたはキシレンであり、その際、水が本発明による急冷液として好ましく、且つ、急冷段階自体において形成された凝縮物の少なくとも一部がさらにより好ましい。適した急冷方法は、例えばDE2136396号、EP297445号、EP297788号、JP01193240号、JP01242547号、JP01006233号、US2001/0007043号、US6596901号、US4956493号、US4618709号、US5248819号から当業者に公知であり、アクリル酸およびメタクリル酸の急冷に関するその開示は本願に含まれ、本開示の一部を形成する。本発明によれば、気相を40〜80℃の温度に冷却し、水および/または急冷段階からの凝縮物で洗浄して、メタクリル酸を含む水溶液を得ることが好ましく、前記メタクリル酸を含む水溶液は、種々の量の不純物、例えば酢酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、アクリル酸およびギ酸、並びに芳香族の酸、例えば安息香酸、トルイル酸およびテレフタル酸、およびアルデヒド、例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、アクロレイン、メタクロレイン、ケトンおよび未反応の単数または複数のC
4化合物も含んでいることがある。高純度のメタクリル酸を得るためには、それらの不純物並びに水を、可能な最大限まで、メタクリル酸から分離しなければならない。不純物のいくつかを熱分離法、例えば蒸留によって、または洗浄、抽出およびその種のものによって分離することが可能である一方で、これらの種類の分離は全ての不純物を分離するためには適しておらず、特に、溶剤、例えば水中で乏しい可用性しか有さず、従って溶液からすぐに析出するもの、例えばテレフタル酸のためには適していない。そのような不純物のためには、他の分離手段、例えば本願内に記載されるものがより効果的である。
【0020】
工程段階a2)を出る粗製メタクリル酸含有水溶液は、一般に、約65℃〜約80℃の範囲の温度を有している。この粗製メタクリル酸含有溶液は、好ましくは、第一の冷却段階において、約0〜約75℃の範囲、好ましくは約5〜約65℃の範囲、より好ましくは約10〜約60℃の範囲、さらにより好ましくは約15〜約55℃の範囲、さらにより好ましくは約20〜約45℃の範囲の温度に冷却されて、本発明による方法の段階b)における析出を容易にし、且つ促進する。好ましい範囲内で、低い方の温度が好ましく、なぜなら、それらは少なくとも1つの不純物の析出に有利であるからであり、その際、温度は、メタクリル酸の沈殿もみちびかないように選択されるべきである。粗製メタクリル酸含有溶液の第一の冷却を、本発明による方法の段階a2)の急冷の後、且つ段階b)の前の中間段階において、または、工程段階b)の最初、または工程段階b)の間、またはそれらの任意の組み合わせで行うことができる。
【0021】
本発明による方法の段階b)において、少なくとも一部、好ましくは、粗製メタクリル酸含有水溶液中に存在する少なくとも1つの不純物のそれぞれの量に対して、それぞれ、少なくとも50質量%、好ましくは少なくとも60質量%、より好ましくは少なくとも70質量%、さらにより好ましくは少なくとも80質量%、さらにより好ましくは少なくとも90質量%、より好ましくは少なくとも95質量%の少なくとも1つの不純物が、粗製メタクリル酸含有水溶液から析出されて、少なくとも1つの固体の不純物を形成する。用語「析出物」、「析出」およびその種のものは、任意の析出物、単数または複数の結晶、析出および結晶化、並びに溶解された材料の溶解されていない固体状態への任意の他の移行を意味すると意図されている。析出された少なくとも1つの不純物は、粗製メタクリル酸含有溶液中に含まれる任意の1つまたはそれより多くの不純物であってよく、且つ、好ましくは少なくともテレフタル酸である。
【0022】
本発明による方法の段階b)における析出は、1つの析出段階において、または2つまたはそれより多くの析出段階において行うことができ、その際、二段階の析出が、一般に、粗製メタクリル酸含有溶液からの少なくとも1つの不純物のより良好な分離をもたらすので、本発明によれば好ましい。粗製メタクリル酸含有水溶液は、好ましくは第一の析出領域にみちびかれ、そこで、少なくとも1つの不純物が固体または結晶の形態で析出する。一段階の析出においては、析出物をその後、本発明による方法の段階c)において、任意の適した固体−液体分離手段、例えばろ過、遠心分離またはその種のものによって母液から少なくとも部分的に分離する。二段階の析出においては、第一の析出領域からの析出物を、母液と一緒に、懸濁液またはスラリーの形態で第二の析出領域へとみちびき、そこで、さらなる析出、結晶化および/または結晶成長が生じる。第二の析出領域からの析出物をその後、本発明による方法の段階c)において、当業者に公知であり且つ適していると考えられている任意の固体−液体分離手段、例えばろ過、遠心分離またはその種のものによって母液から少なくとも部分的に分離する。それぞれの析出段階の持続時間は、好ましくは、それぞれの領域の充填水準によって制御され、その際、特定の充填水準が達成されたら、析出物と母液とのスラリー少なくとも一部を次の析出領域および次の工程段階の少なくとも1つにみちびく。これを連続的または不連続的に行うことができる一方で、本発明による方法の特に好ましい態様においては、これを連続的に行う。二段階の析出における析出段階のための好ましい持続時間についての目安としては、第一の析出段階は好ましくは、約1〜約36時間の範囲、好ましくは約2〜約30時間の範囲、より好ましくは約3〜約25時間の範囲、より好ましくは約4〜約20時間の範囲、さらにより好ましくは約3〜約8時間の範囲の持続時間を有する一方で、第二の析出段階は好ましくは、約1〜約24時間の範囲、好ましくは約1〜約20時間の範囲、より好ましくは約1.5〜約15時間の範囲、より好ましくは約2〜約10時間の範囲、さらにより好ましくは約2〜約5時間の範囲の持続時間を有する。
【0023】
本発明による方法においては、段階b)において、析出が、粗製メタクリル酸含有水溶液を撹拌しながら少なくとも部分的に実施されることが好ましい。二段階の析出において、撹拌を1つの段階または両方の段階において行うことができ、好ましくは両方の段階において行う。粗製メタクリル酸含有溶液の撹拌は、一方では、既に析出された固形物を蒸発表面にもたらすことによって、および、他方では既に析出された固形物を溶液のより高く飽和された部分と接触させることによって、析出を補助し、その両方は、析出の増加および析出される固形物の粒径の増加をみちびく。
【0024】
本発明による方法の好ましい態様において、工程段階b)において、粗製メタクリル酸含有水溶液の少なくとも一部、好ましくは、工程段階a2)を出る粗製メタクリル酸含有水溶液の総質量に対して30質量%より多く、好ましくは少なくとも40質量%、より好ましくは少なくとも50質量%、さらにより好ましくは少なくとも60質量%、さらにより好ましくは少なくとも70質量%、さらにより好ましくは少なくとも80質量%、より好ましくは少なくとも90質量%、さらにより好ましくは全てを、第一の析出領域に導入する。工程段階b)における二段階析出の第一の析出段階に相応して、析出は、第一の析出領域において行われる。第一の析出領域における粗製メタクリル酸含有溶液の浸透時間は、上記のとおり、好ましくは充填水準によって、好ましくは連続的な方法が可能であるように制御され、その際、目安としては、粗製メタクリル酸含有溶液は好ましくは第一の析出領域における浸透時間約1〜約36時間の範囲、好ましくは約2〜約30時間の範囲、より好ましくは約3〜約25時間の範囲、より好ましくは約4〜約20時間の範囲、さらにより好ましくは約3〜約8時間の範囲を有し、その間、溶液が好ましくは撹拌される一方で、析出が行われる。粗製メタクリル酸含有溶液の冷却を、第一の析出領域において、または第一の析出領域へ入る際、または入る前に、またはそれらの任意の組み合わせで行うことができる。第一の析出領域に入る前または入る際に冷却する利点は、第一の析出領域に入った後の大容積の溶液を冷却することと比較して、より効率的な溶液の冷却を達成できることであり、なぜなら、それは冷却装置、例えば熱交換器を通じて流れるからである。しかしながら、冷却装置に入るよりかなり前の冷却は、少なくとも1つの不純物の早すぎる析出をもたらすことがあり、そのことは、パイプの閉塞および工程の全体的な効率の低下をもたらしかねない。従って、冷却は好ましくは第一の析出領域への入口、または第一の析出領域内、またはその両方の点に可能な限り近くで実施される。
【0025】
本発明による方法においては、段階b)において、析出シードが、粗製メタクリル酸含有水溶液に供給されることが好ましい。析出シードは、当業者に公知であり、且つ少なくとも1つの不純物の析出の促進のために適していると考えられる任意の材料、例えば微細に分割された固体、好ましくは結晶質固体、例えば少なくとも1つの結晶化助剤、ろ過助剤、および結晶または微細な固体材料の形態での分離されるべき不純物の少なくとも1つであってよい。分離されるべき不純物の少なくとも1つが析出シードとして好ましく、その際、テレフタル酸が特に好ましく、且つ、第一の析出領域から、またはさらなる析出領域から流出し且つ再利用されるテレフタル酸が最も好ましい。本発明の方法の特に好ましい態様において、第一の析出領域および第二の析出領域の少なくとも1つを離れる析出物および母液の流れの形態でのテレフタル酸が、第一の析出領域における粗製メタクリル酸含有水溶液へと返送される。析出シードが第二の析出領域から第一の析出領域へと導かれる場合、これが、第二の析出領域の側方出口を通じて、好ましくは第二の析出領域の上の方の水準、好ましくは第二の析出領域の上半分の水準での側方出口で引き出された微細な析出物の流れの形態であることが好ましい。
【0026】
本発明による方法の好ましい態様によれば、少なくとも50質量%の析出シードが、本願内で記載される方法によって測定して1〜200μm、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜50μm、さらにより好ましくは1〜25μmの範囲の粒径を有する。粒径は、ISO 13320−1 :1999(E): 「Particle Size Analysis−Laser Diffraction Methods」に準拠して測定される。
【0027】
本発明によれば、析出シードの粗製メタクリル酸含有水溶液への供給は、撹拌しながら行われ、析出混合物が形成されることが好ましい。この撹拌(好ましくはかきまぜの形態)は、析出中の粗製メタクリル酸含有溶液の撹拌に関連して上述されたものと同じ利点を有する。従って、そのように形成された析出混合物は、析出シードおよび粗製メタクリル酸含有水溶液、並びに粗製メタクリル酸含有水溶液からの任意の析出物を含む混合物である。好ましくは撹拌は、析出混合物にわたる固形物の実質的に均一な分布をみちびく。
【0028】
本発明によれば、析出シードが、さらなる析出領域内で、好ましくは第二の析出領域内で、粗製メタクリル酸含有水溶液に供給される前に、少なくとも部分的に予め形成されていることが好ましい。この態様において、第二の析出領域は、上述の第二の析出段階に相応することができ、そこで、析出シードは粗製メタクリル酸含有水溶液から析出されるべき、または析出された少なくとも1つの不純物である。
【0029】
本発明による方法のこの態様において、析出シードは好ましくは粗製メタクリル酸含有水溶液に、第二の析出領域で側方出口を介して供給される。好ましくは、母液中の懸濁液またはスラリーの形態の微細な析出物の流れは、第二の析出領域の上の方の水準、好ましくは第二の析出領域の上半分における水準での側方出口を通じて引き出される。その後、これは好ましくは、第一の析出領域において粗製メタクリル酸含有水溶液に供給される。
【0030】
本発明による方法の好ましい態様において、析出シードを、第一の析出領域において粗製メタクリル酸含有水溶液に供給し、第一の析出領域が、第一の析出段階に相応する。この方法で、第一の析出段階における少なくとも1つの不純物の析出が促進され且つ加速されるはずであり、それによって、所望の量の析出および/または析出物の所望の粒径を達成するために必要な滞留時間が減少する。
【0031】
好ましくは、本発明による方法において、析出混合物の少なくとも一部を第二の析出領域にみちびく。その後、第二の析出領域にみちびかれた析出混合物を、第二の析出領域において好ましくは撹拌し、その間、さらなる析出および/または結晶成長が生じる。
【0032】
本発明による方法のこの態様において、析出混合物の少なくとも一部を、第一の析出領域での側方出口または下方出口を介して、好ましくは側方出口を介して、第二の析出領域へとみちびく。第一の析出領域の側方出口を介してみちびくことは、特に、第一の析出領域において撹拌が連続的に行われず、例えば、撹拌が行われていない間に、析出物のより大きな固体粒子、例えばより大きな結晶が第一の析出領域の下の方の領域に向かって沈降される一方で、より微細な粒子がより長い間、母液中に懸濁されたままであり、従って、より大きな粒子と比較して第一の析出領域のより高い水準で傾瀉して除去され得る場合に好ましい。原則として、側方出口は、第一の析出領域の任意の水準であってよいが、ただし、この水準は第一の析出領域の最大充填水準以下である。
【0033】
本発明による方法のさらに好ましい態様において、段階b)において、さらなる冷却、好ましくは第二の析出領域における析出混合物の冷却が行われる。このさらなる冷却は、好ましくは約0℃〜約20℃の範囲、好ましくは約5℃〜約15℃の範囲の温度への冷却である。この冷却は好ましくは、同時にメタクリル酸の析出が生じることなく、少なくとも1つの不純物の析出が促進され且つ加速される温度への冷却である。
【0034】
本発明による方法の段階c)において、少なくとも1つの固体の不純物の少なくとも一部が母液から分離され、精製されたメタクリル酸含有水溶液と、固体の不純物とが得られる。
【0035】
本発明による方法の段階c)において、固体の不純物の少なくとも一部を含む流れが、第二の析出領域の下の方の領域内に配置された出口を介して第二の析出領域を出て、且つ、分離ユニットにみちびかれることが好ましい。固体の不純物の少なくとも一部を含む流れは、好ましくは固体の不純物と母液とを含む、懸濁液またはスラリーの形態での流れである。前記分離ユニットは、1つまたはそれより多くの分離領域を含むことができる。1つより多くの分離領域が含まれる場合、前記の流れは、まず、1つの分離領域にみちびかれ、且つ、この分離領域が満たされた場合にのみ、少なくとも1つのさらなる分離領域にみちびかれてもよいし、または前記の流れは実質的に同時に2つまたはそれより多くの分離領域にみちびかれてもよい。工程段階c)における分離を、当業者に公知であり且つ適していると考えられる任意の固体−液体分離手段によって行うことができ、その際、ろ過および遠心分離が好ましく、且つろ過が特に好ましい。分離された固体の不純物は、好ましくは収集され、且つ、それがさらなる用途、処理または誘導体化(derivatisation)にみちびかれる場合は、随意に洗浄および/または精製される。分離された母液は、精製されたメタクリル酸含有水溶液を形成し、且つ、さらなる工程段階においてさらに処理されて、そこに含有されるメタクリル酸の少なくとも一部が得られる。
【0036】
本発明による方法の段階d)における精製されたメタクリル酸含有水溶液からのメタクリル酸の分離は、好ましくは有機抽出剤への抽出によって行われる。好ましい有機抽出剤は、例えば、少なくとも1つの有機溶剤であり、好ましくは、水相と有機相とを形成できるように、実質的に水と不混和性である少なくとも1つの有機溶剤である。工程段階d)は、水相および有機相の互いからの分離も含む。本発明による方法の段階d)において使用できる好ましい有機溶剤は、メタクリル酸の沸点とは異なる、好ましくはそれよりも低い沸点を有する。好ましくは、本発明による方法において、工程段階d)において使用される有機抽出剤は、大気圧で測定して161℃未満の沸点を有する。その際、有機抽出剤を、さらなる工程段階において、例えば蒸留によって、メタクリル酸から原理的には分離でき、その際、それは好ましくは、分離されるメタクリル酸よりも高い蒸留装置内の水準で、少なくとも部分的に低沸点物として除去される。分離された有機抽出剤またはそれらの一部を、随意に少なくとも1つの冷却および/または精製段階の後に、工程段階d)に返送できる。この段階のための好ましい有機溶剤は、特に、アルカン、および芳香族、好ましくはアルキル芳香族、炭化水素から選択され、その際、C
6〜C
8−から選択される少なくとも1つの有機溶剤が好ましく、その際、ヘプタン、トルエンおよびキシレンが特に好ましく、且つヘプタン、好ましくはn−ヘプタンが最も好ましい。工程段階d)を、当業者に公知であり且つ適していると考えられる任意の手段によって、好ましくは向流抽出として、例えば溶剤抽出塔、パルス充填塔もしくは充填塔、回転抽出機、洗浄塔、相分離器、または有機溶剤を用いた水相の抽出および水相からの有機相の分離に適した他の装置を用いて実施できる。本発明によれば、少なくとも一部、好ましくは少なくとも50質量%、好ましくは少なくとも約70質量%、好ましくは少なくとも約80質量%、より好ましくは少なくとも約90質量%の、メタクリル酸水溶液中に含まれるメタクリル酸を有機抽出剤中に抽出することが好ましい。2つの相: メタクリル酸と抽出剤とを含む有機相、および一般に廃水としてみなされる水相が本発明による工程段階d)において、そのように得られる。前記有機相を好ましくは、分離、好ましくは熱分離法に供して、そこに含有されるメタクリル酸の少なくとも一部を有機抽出剤から分離する。熱分離が使用される場合、これは、好ましくは蒸留であり、それによって抽出剤が好ましくは蒸留塔の塔頂生成物として、もしくは蒸留塔の高い方の水準で取り出される一方で、メタクリル酸またはメタクリル酸を多く含む相は、蒸留塔の塔底生成物として、もしくは抽出溶剤よりも低い水準で取り出される。例えば分留塔または精留塔を使用して、メタクリル酸よりも高い沸点を有する不純物が塔底生成物内に残留し、且つより高純度のメタクリル酸を、塔の底部よりも高い水準で取り出すことができるようにすることも可能である。抽出のために使用される有機溶剤が、メタクリル酸の沸点よりも高い沸点を有する場合、メタクリル酸相を塔頂部および/または塔の高い方の水準で取り出すことも可能である。
【0037】
本発明は、本発明の方法によって得られるテレフタル酸にも関する。
【0038】
本発明を、以下の図面および限定されない実施例によって、より厳密に説明する。
【0039】
図1に図示される本発明による方法の実施態様は、工程の要素の互いについての配列を示す。粗製メタクリル酸含有溶液は、供給部2から析出ユニット3へとみちびかれ、そこで、少なくとも1つの不純物の少なくとも一部が析出して、析出物および母液を形成する。析出物と母液との混合物は、第一の分離ユニットにみちびかれ、そこで、析出物と母液とが互いに分離される。固体の形態で分離された析出物は、望ましい場合には洗浄され、且つ、さらなる工程段階、例えば誘導体化または重縮合(図示せず)にみちびかれるか、または、さらなる成分と反応できる。このことは、析出物がテレフタル酸を含む場合に特に好ましいことがある。母液を第二の分離ユニット5にみちびき、そこで、メタクリル酸が水性の母液から有機溶剤中に抽出される。その代替として、またはそれに加えて、母液の一部または全てを、そこに含有されるメタクリル酸のエステル化のためのエステル化ユニット7、または貯蔵ユニット8にみちびくことができる。第二の分離ユニット5を出るメタクリル酸含有有機相の一部または全てを、精製ユニット6に、またはエステル化ユニット7にみちびくことができる。精製ユニット6内で、メタクリル酸の少なくとも一部が有機抽出剤から分離され、随意にさらに精製される。そのように得られたメタクリル酸を取り出すか、またはエステル化ユニット7にみちびくことができる。エステル化ユニット7において、メタクリル酸をアルコールでエステル化して、エステル相において相応のメタクリル酸エステルを形成する。
【0040】
図2は、破線の内側に本発明による方法の析出ユニット3の好ましい実施態様を示し、さらなる工程の要素を破線の外側に示す。供給部2から、随意に冷却ユニット(図示せず)を介して粗製メタクリル酸含有溶液を滞留容器31にみちびく。随意に、結晶化助剤またはろ過助剤も、リザーバー33から滞留容器31にみちびく。例えば微細な析出物の懸濁液またはスラリーの形態での析出シードは、随意に、出口14から結晶化装置32を出て結晶化装置32からライン11を介して滞留容器31にみちびかれ、且つ、入口15から滞留容器31に入る。
【0041】
滞留容器31の含有物は、該含有物を混合するために、外部または内部の攪拌機(図示せず)を用いて撹拌され得る。冷却または加熱も行うことができる。特定の量の析出が生じる場合、および/または滞留容器31内で特定の充填水準が達成される場合、滞留容器の内容物の少なくとも一部が、ライン10によって、出口12を介して、または出口21を介して、入口13から入って結晶化装置32にみちびかれる。これは好ましくは連続的に行われる。結晶化装置32の内容物は、内部の攪拌機(図示せず)を用いて撹拌され、且つ好ましくは冷却もされる。好ましくは、より大きな析出粒子が結晶化装置32の底部に向かうように撹拌し、そこでそれらが出口17を介して除去され、ライン16を介して、入口18から入って第一の分離ユニット4へとみちびかれることができる。微細な析出粒子は好ましくは、結晶化装置32内に残り、それらのサイズを成長させることができ、その際、それらの少なくとも一部を、析出シードとしてライン11を介して滞留容器31にみちびくことができる。分離ユニット4における分離が、結晶化装置32から原料が入ってくる速度と比較して遅く、分離ユニット4で容量のボトルネックが生じる場合、そのボトルネックが除去されるかまたは散逸されるまで、結晶化装置32の内容物の少なくとも一部を側方出口20で引き出し、ライン19を介してバッファタンク22にみちびくことができる。分離ユニット4における分離並びに他の装置要素およびそこで行われる工程は、
図2に記載されたとおりである。
【0042】
実施例1
TPA含有率600ppmを有する2.5L/hの粗製MAA溶液(37% MAA)を容積8Lの撹拌タンクに供給する。撹拌タンクを13℃に冷却する。撹拌タンクは、容量約40L/hの外部ポンプを有する。27.5L/hを第一の撹拌タンクに戻してリサイクルし、且つ、12.5L/hを、ゆっくりと撹拌しながら結晶化装置(容積8L)へと供給する。この容器も、13℃に外的に冷却する。結晶化装置の上部で、10L/hを引き出し、且つ、第一の撹拌タンクへと返送する。この流れを手動で調整して、25μm未満の粒径を有する微細な粒子を結晶化装置から取り出す。前記の微細な粒子は、第一の撹拌タンクのためのシード結晶である。第二の撹拌タンクの底部で、2.5L/hが取り出され、且つ、ろ過用漏斗内でろ過される。塔底生成物は、110ppmのTPAを含有する。
【0043】
平均粒径は、ISO 13320−1 :1999(E): 「Particle Size Analysis−Laser Diffraction Methods」に準拠して測定される。