(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2の湿式電気集塵機では、高効率でSO
3ミストを除去するために、SO
3ミストを予備荷電する装置、液滴を噴霧する装置、及び、液滴を捕集するデミスタ等は必須の構成となっていた。
これに対し、本発明は、SO
3ミストの濃度が比較的低い条件に対して、より簡素な装置構成により高いSO
3ミスト及びダストの除去性能を確保できる湿式電気集塵装置及び除塵方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、ガス中に含まれる低濃度のSO
3ミスト及びダストを除去する湿式電気集塵装置であって、前記SO
3ミスト及び前記ダストを含む前記ガスの流通方向に沿って対向して配置され、直流電界を形成する第1の電極及び第2の電極と、前記第1の電極及び前記第2の電極の対向面に、前記ガスの流通方向に沿って所定の間隔で配列されて形成された複数の放電部と、を備える電界形成部を有し、前記ガスの流通方向に直交する方向に、前記第1の電極の前記放電部と前記第2の電極の前記放電部とが互いに逆極性のコロナ放電を交互に発生させ、前記ガスが前記電界形成部に到達する前に、前記SO
3ミスト及び前記ダストを予備荷電せずに、かつ、前記ガス中に誘電体を散布しないで、前記電界形成部に前記ガスを導き、前記SO
3ミスト及び前記ダストに交互に逆極性の電荷を付与するとともに前記ガスが前記第1の電極と前記第2の電極との間を通過する際に、前記第1の電極及び前記第2の電極が前記コロナ放電により帯電された前記SO
3ミスト及び前記ダストを捕集する湿式電気集塵装置を提供する。前記ガス中に含まれる低濃度のSO
3ミスト及びダストは、10ppm以下であ
る。
【0008】
また本発明は、ガス中に含まれる
10ppm以下と低濃度のSO
3ミスト及びダストを除去する除塵方法であって、対向する第1の電極と第2の電極との間に直流電界を形成する電界形成工程と、前記SO
3ミスト及び前記ダストの予備荷電を行わずに、かつ、前記ガスに誘電体を散布せずに、帯電されていない前記SO
3ミスト及び前記ダストを含
む前記ガスを、
前記直流電界が形成された前記第1の電極と第2の電極との間に導く第1のガス導入工程と、前記直流電界中に、前記第1の電極と前記第2の電極とで互いに逆極性のコロナ放電を交互に発生させて、前記ガスが前記第1の電極と前記第2の電極との間を通過する際に、前記SO
3ミスト及び前記ダストに、前記コロナ放電により逆極性の電荷を交互に付与する第1の帯電工程と、前記第1の電極及び前記第2の電極が、帯電された前記SO
3ミスト及び前記ダストを捕集する第1の捕集工程と
、を含む除塵方法を提供する。
【0009】
本願発明者らは、直流電界中でコロナ放電により逆極性の電荷を交互に付与する構成とした湿式電気集塵装置において、10ppm以下と低濃度のSO
3ミストを含むガスを流通させた場合には、SO
3ミスト及びダストを予備荷電せず、且つ、SO
3ミスト等を捕集するための液滴を噴霧しなくても、SO
3ミスト及びダストを高効率で除去することが可能であることを見出した。これは、SO
3ミスト濃度が低い場合には湿式電気集塵装置の電極間に存在する帯電粒子が少なくなるために、予備荷電や液滴噴霧がなくても捕集に必要な放電電流を確保することができるためである。これによって、SO
3ミストやダストには電極間を流通する間に直流電界中のコロナ放電により逆極性の電荷が確実に交互に付与される。帯電の極性が変わるのに要する時間は非常に短いため極性変化の捕集性能への影響は小さい。このため、SO
3ミストやダストは蛇行運動をしながら電極に引き付けられて、電極に付着し捕集される。本発明に依れば、SO
3ミスト濃度が低い場合にはSO
3ミストやダストの高い移動速度が確保できるため、ガス流通路内に誘電体の液滴が無くても電流低下による捕集性能の低下を抑制することができ、電極のみで高い捕集効率を得ることができる。
従って、本発明の湿式電気集塵装置では、SO
3ミスト等を予め帯電させる予備荷電部や誘電体の液滴を噴霧する手段を設ける必要がなくなる。更に、SO
3ミストやダストが電極で捕集されるために、湿式電気集塵装置の後段にデミスタ等の液滴を捕集する手段を設ける必要がなくなる。従って、装置構成を簡略化しつつ、高い捕集性能を得ることができる。
【0010】
なお、本明細書において、「SO
3ミスト」とはガス中のミストにSO
3ガスが取り込まれたものであると定義する。単に「SOx」、「SO
2」、「SO
3」と記載する場合はガス状態であることを意味する。
【0011】
上記湿式電気集塵装置において、前記電界形成部の上流側に設けられ、前記SO
3ミスト及び前記ダストを帯電させる予備荷電部と、前記電界形成部の上流側に設けられ、前記ガス中に誘電体を散布する誘電体スプレー部と、前記ガス中に含まれるSO
3ミストの濃度が高い
(10ppmを超える)場合に、前記予備荷電部及び前記誘電体スプレー部を作動させ、前記ガス中に含まれる前記SO
3ミストの濃度が低い
(10ppm以下の)場合に、前記予備荷電部及び前記誘電体スプレー部を停止させる制御部とを有することが好ましい。
【0012】
この場合、前記電界形成部の上流側に、前記ガス中の前記SO
3ミストの濃度を取得する濃度取得部を有することが好ましい。
【0013】
上記除塵方法において、前記ガス中のSO
3ミストの濃度が所定値以下である場合に、前記第1のガス導入工程、前記第1の帯電工程、及び、前記第1の捕集工程を含む第1の除塵工程を実施し、前記ガス中の前記SO
3ミストの濃度が所定値よりも大きい場合に第2の除塵工程を実施し、前記第2の除塵工程は、前記SO
3ミスト及び前記ダストを予め帯電させる予備荷電工程と、前記ガス中に誘電体を噴霧する噴霧工程と、帯電された前記SO
3ミスト及び前記ダストと、前記誘電体とを、直流電界が形成された前記第1の電極と第2の電極との間に導く第2のガス導入工程と、前記直流電界中に逆極性の前記コロナ放電を交互に発生させて、前記ガスが前記第1の電極と前記第2の電極との間を通過する際に、前記SO
3ミスト及び前記ダストに逆極性の電荷を交互に付与し、前記誘電体に逆極性の電荷を交互に付与するとともに誘電分極させる第2の帯電工程と、前記誘電体に前記SO
3ミスト及び前記ダストを付着させる付着工程と、前記電極が、前記SO
3ミスト、前記ダスト、及び、前記誘電体を捕集する第2の捕集工程を含むことが好ましい。
【0014】
この場合、前記ガス中の前記SO
3ミストの濃度を取得する濃度取得工程を更に含み、該濃度取得工程で取得された前記SO
3ミストの濃度に基づいて、前記第1の除塵工程及び前記第2の除塵工程のいずれかを実施することが好ましい。
【0015】
上記発明では、SO
3ミスト等を予め帯電させる予備荷電部や、誘電体の液滴を噴霧するスプレーを設けた構成としても、湿式電気集塵装置に流入するガス中のSO
3ミスト濃度に応じて予備荷電部やスプレーの作動を制御する。こうすることにより、予備荷電部や噴霧スプレーを設けた湿式電気集塵装置であっても、低コストで運転しつつ、高い捕集性能を維持させることができる。
【0016】
上記湿式電気集塵装置において、前記SO
3ミスト及び前記ダストが付着した前記第1の電極及び前記第2の電極の表面を洗浄する洗浄部を更に有することが好ましい。
上記除塵方法において、前記電極に付着した前記SO
3ミスト、前記ダス
トを洗浄して除去する洗浄工程を更に含むことが好ましい。
【0017】
電極表面に付着したSO
3ミストは、一般に金属製とされる電極を腐食させる原因となる。電極表面へのダストの残留は荷電障害の要因にもなり得る。上記構成として電極を洗浄すれば、装置メンテナンスが容易となり運転コストを削減することが可能である。
【発明の効果】
【0018】
SO
3ミスト濃度が低い排ガス処理装置に本発明の湿式電気集塵装置及び除塵方法を適用すれば、簡易な工程により高い捕集性能で湿式電気集塵装置を運転させることができる。特に、CO
2回収装置を設置するプラントにおいては低濃度のSO
3ガスがCO
2回収装置に流入しても、CO
2回収率に悪影響を及ぼす。このため、本発明の湿式電気集塵装置をSO
3ミスト濃度が概ね10ppm以下のCO
2回収装置の上流に設けることは有効である。
SO
3ミスト濃度が低いため、予備荷電部、誘電体噴霧手段及び誘電体捕集手段を省略する除塵を適用することが可能である。この場合は装置構成が簡略化される上、高いSO
3ミスト除去性能が得られるため有利となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、排ガス処理装置の一例のブロック図である。排ガス処理装置1はボイラ(燃焼炉)2の下流側の煙道に設けられる。排ガス処理装置1は、脱硝装置3と、エアヒータ4と、乾式電気集塵装置5と、湿式脱硫装置6と、湿式電気集塵装置10と、CO
2回収装置7と、煙突8とを備える。
ボイラ2は、例えば石炭など、硫黄分を1〜2質量%程度含有する燃料を燃焼させるボイラとされる。石炭中の硫黄分は、JIS M8812及びJIS M8813に記載される方法で分析される。
脱硝装置3は、ボイラ2から流入する燃焼排ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)を除去する。
エアヒータ4は、燃焼排ガスと押し込みファン(不図示)によって要求される燃焼用空気とを熱交換させるものである。これにより、燃焼用空気は燃焼排ガスの顕熱によって加熱され、ボイラ2へと供給される。
乾式電気集塵装置5は、燃焼排ガス中の煤塵を静電気力によって捕集するものである。
【0021】
湿式脱硫装置6は、吸収剤を含む水溶液を燃焼排ガス中に噴霧し、吸収剤と排ガス中のSOxとを反応させて、排ガス中から主にSO
2を除去する。
湿式脱硫装置6は、石膏石灰法、ナトリウム法、水マグ法を採用したものとされる。吸収剤は、石膏石灰法の場合CaO(石灰)、ナトリウム法の場合NaOH、水マグ法の場合Mg(OH)
2とされる。湿式脱硫装置6は、排ガスの流通路に直列になるように複数設置しても良い。
湿式脱硫装置6内で入口部に脱硫冷却塔が設置される。排ガスは脱硫冷却塔を通過する際に急冷され、60℃前後の水分飽和に近い排ガスが湿式脱硫装置6から排出される。この冷却過程でガス状のSO
3がSO
3ミストに変化する。
湿式脱硫装置6によりSO
3ミストの一部も除去されるが、SO
2の除去率が90%以上であるのに対し、SO
3ミスト除去率は高々20%前後と低い。このため、SO
3ミストの大部分が湿式脱硫装置6を通過する。
【0022】
湿式電気集塵装置10は、乾式電気集塵装置5及び湿式脱硫装置6で捕集しきれなかった煤塵やSO
3ミストを静電気力によって除去する。
【0023】
CO
2回収装置7は、排ガス中に含まれる二酸化炭素を除去する。浄化されたガスは、煙突8を通じて大気中に放出される。
【0024】
本実施形態では1〜2質量%程度の硫黄分を含む燃料が使用される。このため、湿式脱硫装置6の下流側における排ガス中のSO
3ミスト濃度は10ppm以下にまで低減されている。例えば重油やアスファルト等といった硫黄分を多く含む(3〜6%程度)燃料を用いた場合、同様の工程を経た後に湿式脱硫装置6の下流側の排ガス中に含まれるSO
3ミスト濃度は50ppm以上となる。すなわち、本実施形態の湿式電気集塵装置10に流入する排ガスは、低濃度のSO
3ミストを含むことになる。
【0025】
<第1実施形態>
図2は、第1実施形態に係る湿式電気集塵装置の概略図である。湿式電気集塵装置10は、ガスの流通方向に直列になるように配列された2つの電界形成部11a,11bを備える。排ガスは、湿式電気集塵装置10の下方から流入し、電界形成部11a,11bを通過して上方から排出される。なお、
図2では電界形成部は2つ設けているが、湿式電気集塵装置10の要求性能に応じて1つまたは3つ以上の電界形成部が設置されても良い。
【0026】
図2に示すように、各電界形成部11a、11bの上方にそれぞれ洗浄スプレー13が設置されても良い。洗浄スプレー13は不図示のタンクに接続され、洗浄スプレー13から洗浄水が各電界形成部11a、11bに対して散布される。
図2のように電界形成部が複数設置される場合、電界形成部11bの下側(最下段以外の電界形成部の下側)には、洗浄水を回収する気液分離器12としてチムニートレイが設置される。
【0027】
図2では、排ガスが湿式電気集塵装置10の下方から上昇するように流通する構成とされているが、湿式電気集塵装置の上方から下降する構成とされても良いし、横方向に排ガスが流通するように電界形成部が配列される構成とされても良い。
【0028】
本実施形態の湿式電気集塵装置の変形例として、湿式電気集塵装置の上流側に脱硫装置を、下流側に過冷却塔を設け、それぞれ湿式電気集塵装置と一体化した構造を採用することができる。
一体構造として排ガスが湿式電気集塵装置の下方から上昇する構成とした場合、脱硫装置上に湿式電気集塵装置が設置され、湿式電気集塵装置上に過冷却塔が設置される。この場合、過冷却塔の洗浄水や循環水が下段に設置される湿式電気集塵装置に到達することによる影響を排除するため、電界形成部11bの洗浄スプレー13の上などにも気液分離手段が設置される。
【0029】
本実施形態の湿式電気集塵装置10では、従来の湿式電気集塵装置と異なり、電界形成部の上流側にSO
3ミスト及びダストを帯電させる予備荷電部が設けられていない。また、電界形成部の上流側に、排ガス中に誘電体(水)をミスト状に散布するスプレーは設置されていない。
【0030】
図3は、第1実施形態に係る湿式電気集塵装置の電界形成部の拡大概略図である。電界形成部は、アース電極(第1の電極)14と印加電極(第2の電極)15とが対向して配置されている。複数のアース電極14及び複数の印加電極15を交互に配置しても良い。アース電極14及び印加電極15は平板状とされる。アース電極14及び印加電極15の対向面は、ガスの流通方向に沿って配置されている。アース電極14は接地されている。印加電極15は、高電圧電源16に接続される。
【0031】
アース電極14及び印加電極15の対向面には、それぞれ複数の放電部17が形成されている。アース電極14及び印加電極15内で、放電部17はガスの流通方向に沿って所定の間隔で配列されている。一方、アース電極14の放電部17と印加電極15の放電部17とは、互いにずらして配置される。
図3では、アース電極14及び印加電極15内での放電部17間の間隔をLとしたときに、アース電極14及び印加電極15とでは放電部17がL/2の位相差で交互に配列されている。
【0032】
本実施形態において、1つの放電部17は、複数の突起形状の放電極18で構成される。
図3の紙面奥行方向に、複数の放電極18が所定の間隔で配列されている。
図3では、ガスの流通方向に平行な断面で見たときに、1つの放電部17内で1列の放電極18が形成されるが、ガスの流通方向に複数列の放電極18を形成しても良い。
【0033】
洗浄スプレー13を設置する場合は、アース電極14及び印加電極15のそれぞれの上方に、スプレーノズル19が設置される。
【0034】
図4は、電界形成部の別の例の拡大概略図である。
図4の電界形成部21では、アース電極24は平板状である。アース電極24には、ガスの流通方向に沿って複数の放電部27が設けられる。アース電極24の放電部27では、ガスの流通方向と垂直な方向に複数の放電極28が配列される。また、放電極28はガスの流通方向に沿って1列または複数列形成される。
【0035】
印加電極25は、放電枠30に複数の平板部31a,31bがガスの流通方向に沿って配列される構成となっている。平板部31a,31bは、交互に配置される。
【0036】
平板部31aは、アース電極24の放電部27が形成された部分に対向する位置に配置される。平板部31aはガスの流通方向に略垂直になる方向に延在する平面状となっており、アース電極24に設置した放電部からの放電電流を受けるために設置される。
【0037】
平板部31bは、アース電極24の放電部27が形成されていない平面部分に対向する位置に配置される。平板部31bには、複数の突起状の放電極28が設置される。平板部31bに形成される放電極28は、ガスの流通方向と垂直な方向に複数本形成される。また
図4では、放電極28はガスの流通方向に沿って複数列形成されている。
放電部27が形成された平板部31bは、所定の間隔Lで配列される。アース電極24の放電部27と印加電極25の放電部27(平板部31b)とは、L/2の位相差でずらして配置されている。
【0038】
図5は、電界形成部の別の例の拡大概略図である。
図5の電界形成部41は、アース電極44は平板状である。アース電極44のガス入口側(
図5では下側)のみに放電部47が設けられ(
図5では放電部47は2つ)、ガス下流側には放電部は設けられていない。アース電極44の放電部47は、ガスの流通方向と垂直な方向に複数の放電極48が形成される。放電極48はガスの流通方向に沿って1列または複数列形成される。
【0039】
印加電極45は、放電枠50に複数の平板部51a,51bがガスの流通方向に沿って配列される。ガス上流で平板部51aと平板部51bが交互に配列される。放電極が設けられない平板部51aは、アース電極44の放電部47に対向する位置に設けられる。ガス下流側では、放電極48が形成された平板部51bのみが所定間隔で配列される。
【0040】
第1実施形態の湿式電気集塵装置を用いて除塵する方法を、
図2及び
図3を参照して以下で説明する。
電界形成部11a,11bでは、アース電極14と印加電極15との間に直流電界が形成されている。また、通常の湿式電気集塵装置では印加電極に負の高電圧を印加するため、アース電極14の放電極18から正のコロナ放電が発生され、印加電極15の放電極18から負のコロナ放電が発生されている。
【0041】
排ガス処理装置1の脱硝装置3〜湿式脱硫装置6を通過してSO
3ミストが10ppm以下に低減された排ガスは、下方から湿式電気集塵装置10の内部に流入する。この排ガス中には、乾式電気集塵装置5及び湿式脱硫装置6で除去しきれなかったダストも含まれる。
【0042】
湿式脱硫装置6の脱硫冷却塔により、排ガスは60℃程度まで急冷される。SO
3は60℃前後の水分飽和ガスになる過程で気相析出し、SO
3が取り込まれた硫酸ミスト(SO
3ミスト)として存在する。SO
3ミストの粒径は、脱硫冷却塔入口の温度と出口の温度との温度差が大きいほど細かくなるが、概ね平均粒径0.1μm前後である。
【0043】
第1実施形態の湿式電気集塵装置10では、電界形成部11aの上流側に予備荷電部が設置されない。このため、電界形成部11a、11bの入口では、SO
3ミスト及びダストは帯電されていない状態である。また、
図2の湿式電気集塵装置10では、電界形成部11aの上流側に誘電体(水)を噴霧するスプレーは設置されていない。従って、第1実施形態においては、電界形成部11aの直前で排ガス中に系外から噴霧された誘電体のミストは含まれていない。
【0044】
帯電されていないSO
3ミスト及びダストを含み、上記の系外から供給された誘電体ミストを含まない排ガスが、直流電界及びコロナ放電が発生されている電界形成部11a,11bに流入する。湿式電気集塵装置10内でのガスの流速は、5m/sec以下に制御されている。
【0045】
電界形成部11a,11bに流入したSO
3ミスト及びダストは、コロナ放電により帯電する。アース電極14の放電極18と、印加電極15の放電極18とでは異なる極性でコロナ放電が発生されているので、SO
3ミスト及びダストは電界形成部11a,11bを流通する間に帯電極性が交互に変化する。
【0046】
上述のようにSO
3ミストは微細であるため、コロナ放電でミストやダストに電荷が与えられると、単位ガス量当たりの電荷密度が非常に高くなる。単極性のコロナ放電を発生させている場合は、単位ガス量当たりの電荷密度が高くなると、コロナ放電による電流が大幅に抑制されて、帯電性能が低下してしまう。本実施形態では、上述のように、ガスの流通方向に正及び負のコロナ放電を交互に発生させている。このため、各放電部の放電エリアには放電の極性と逆極性に帯電されたSO
3ミスト及びダストが供給されることになる。この結果、空間の電荷が中和されて空間電荷量が減ることになり電流の抑制効果が改善される。極性の転換時間は非常に短く、ガス流速5m/sec以下の条件ではSO
3ミストの捕集性能への影響はほぼ無視できる。
【0047】
帯電したSO
3ミスト及びダストは、電界形成部11a,11bを流通する間、直流電界の影響を受けて若干蛇行しながら進行し、アース電極14または印加電極15に接近する。アース電極14または印加電極15に接近したSO
3ミスト及びダストは、アース電極14または印加電極15に付着して捕集される。これにより、排ガス中からSO
3ミスト及びダストが除去される。
【0048】
洗浄スプレー13を設置する場合は、スプレーノズル19から洗浄水をアース電極14及び印加電極15に対して連続的あるいは間欠的に散布する。電極14,15に付着したSO
3ミスト及びダストは洗浄水中に取り込まれる。洗浄水は、気液分離器12で回収されるか、湿式電気集塵装置の下部へ落下する。
【0049】
電界によるSO
3ミスト及びダストの移動速度とガス速度とを考慮して電界形成部11a,11bのガス流通方向の長さを必要捕集性能に応じて確保しておけば(例えば4m程度)、排ガス中からSO
3ミスト及びダストを十分に除去することが可能である。
【0050】
本実施形態におけるSO
3ミスト及びダストの捕集性能は、粒子(SO
3ミスト、ダスト)濃度、直流電界の強度、比集塵面積(単位ガス量当たりの電界形成部のアース電極の合計面積)、湿式脱硫装置の冷却塔入口のガス温度の影響を受ける。
【0051】
捕集性能ηは、式(1)で表される。
【数1】
W
k’:粒子の移動速度(m/sec)
f:比集塵面積(s/m)
m:定数
ここで、定数mは粒子の種類に応じて設定される設計因子である。
式(1)によると、捕集性能は粒子の移動速度に依存し、移動速度W
k’が大きいほど捕集性能ηが高くなる。
【0052】
移動速度W
k’は放電電流の影響を大きく受ける。放電電流の電流密度J(A/m
2)は、式(2)で表される。
【数2】
T
g:冷却塔入口のガス温度(℃)
E:直流電界の強度(V/m)
C:粒子(SOxミスト、ダスト)の濃度(ppm)
k
1、a
1、b
1、c
1:定数
【0053】
移動速度W
k’は、式(3)で表される。
【数3】
P/F:電圧と電流密度Jとの積
k
2、a
2、b
2、c
2、d
2:定数
【0054】
放電電流の電流密度Jは、式(2)により算出される。算出された電流密度を用いて、W
k’が算出される。
【0055】
電界形成部を2つ設けた湿式電気集塵装置を用いて、粒子濃度、直流電界の強度、ガス流速、及び、冷却塔入口のガス温度が移動速度に与える影響を検証した。電極面積を一定とした場合、比集塵面積fはガス流速比に相当する。
【0056】
「実施例1」では、上流側及び下流側の電界形成部で、印加電極の全体に
図3及び
図4のように放電部を形成して正及び負のコロナ放電をガスの流通方向に交互に発生させた。
【0057】
「実施例2」では、上流側の電界形成部において、
図5のように湿式電気集塵装置の入口に近い方からアース電極の放電部を2段設置し、後流側は平板とした下流側の電界形成部の印加電極には放電部を形成せず平板とした。すなわち、実施例2では、湿式電気集塵装置の入口側で正及び負のコロナ放電を発生させ、後流側では負のコロナ放電のみを発生させた。
【0058】
「比較例」は、
図4と同様の電界形成部を適用し、電界形成部の前に予備荷電部及び誘電体ミスト噴霧スプレーを設置した構成の湿式電気集塵装置を用いた場合である。比較例では、ガスが電界形成部に流入する前に、予備荷電でSO
3ミストおよびダストを帯電させている。また、ガス中にミストより粒径の大きい液滴をスプレーしている。帯電したSO
3ミストやダストは、クーロン力により誘電分極した液滴に引き付けられて、液滴内に吸収される。大きな液滴は、湿式電気集塵機の下流側に設けられる誘電体捕集手段(デミスタ等)で捕集される。
各実施例及び比較例で電極面積は一定とした。
【0059】
図6は、実施例1及び比較例について湿式電気集塵装置の入口側及び出口側のSO
3ミスト濃度の相関を示したグラフの一例である。同図において、横軸は入口側のSO
3ミスト濃度、縦軸は出口側のSO
3ミスト濃度である。SO
3ミスト濃度はサンプリングして濃度測定を行った結果である。
図6は、入口ガス温度140℃でのデータ例である。
【0060】
図6に示すように、入口側のSO
3ミスト濃度が10ppm以下では、実施例1及び比較例の出口側SO
3ミスト濃度がほぼ同じである。一方、入口側SO
3ミスト濃度が10ppmを超えると、濃度が増大するに従い実施例1のグラフと比較例のグラフとが乖離する。
図6から、上記入口側SO
3ミスト濃度範囲では実施例1と比較例とのSO
3ミストの除去性能がほぼ同じであると言える。
【0061】
図7は、実施例1及び実施例2について、移動速度W
k’の実測値と推定値との相関を表すグラフである。同図において、横軸は移動速度W
k’の推定値、縦軸は移動速度W
k’の実測値である。推定値は式(3)から算出した値である。実測値は、SO
3ミスト濃度をサンプリングによって測定し、その結果からW
k’値を算出した。グラフは入口側SO
3ミスト濃度が10ppm以下の場合である。図では、推定値に対する実測値の標準偏差が0%の線及び標準偏差が所定値σとなる線が示してある。
【0062】
図7によると、実施例1と実施例2とは、移動速度の実測値と推定値とがほぼ同傾向のばらつきとなっている。この結果から、実施例1と実施例2とは電極構造が異なっているが、同程度の捕集性能を有すると言える。
【0063】
以上のように、湿式電気集塵装置に流入するSO
3ミストの濃度が10ppm以下と低い場合には、ミストの予備荷電や誘電体の噴霧を行わなくても捕集性能を向上させることができる。実施例の湿式電気集塵装置では、従来型と同等のSO
3ミスト除去性能を有しながらも予備荷電部や誘電体を噴霧するスプレーが不要となるので、装置のコストダウンを図ることができる。
【0064】
<第2実施形態>
図8は、第2実施形態に係る湿式電気集塵装置の概略図である。湿式電気集塵装置60は、電界形成部61a,61bと、予備荷電部64と、誘電体スプレー部65と、制御部68とを備える。
【0065】
予備荷電部64は、電界形成部61a,61bの上流側で湿式電気集塵装置60の入口に設置される。予備荷電部64は、内部に電極部を備える。電極部は、例えば支持体により支持された複数の突起状の放電極と、平板状の接地極と備える構造とされる。この場合、放電極の先端と接地極とが対向し、支持体と接地極とが略平行になるように配置される。支持体に高圧電源が接続され、放電極でコロナ放電を発生させる。支持体と接地極との間をガスが流通し、コロナ放電により排ガス中のSO
3ミスト及びダストが正または負に帯電される。
【0066】
予備荷電部64の下流に、排ガス中に誘電体(水)を噴霧する誘電体スプレー部65が設置される。誘電体スプレー部65は、1つまたは複数のノズル66と、誘電体をノズル66に送給するポンプ67とで構成される。誘電体スプレー部65から噴霧される誘電体(水)の液滴は、600μm程度である。
【0067】
電界形成部61a,61bは、第1実施形態と同様の構成とされる。
図8では2つの電界形成部を設けているが、要求性能に応じて1つまたは3つ以上の電界形成部を設けても良い。
【0068】
第1実施形態と同様に、電界形成部61a,61bのアース電極及び印加電極のそれぞれの上方に、洗浄スプレー63が設置されても良い。この場合、アース電極及び印加電極の各々の上方にスプレーノズルが設置されると良い。洗浄スプレー63は不図示のタンクに接続される。
電界形成部61aの上方に、洗浄水を回収するチムニートレイ62が設置される。
【0069】
制御部68は、予備荷電部64及び誘電体スプレー部65に接続される。制御部68は、電界形成部61に流入する排ガス中のSO
3ミスト濃度の情報を取得できるようになっている。SO
3ミスト濃度の情報は、ボイラで燃焼される燃料中の硫黄含有量から算出された数値、あるいは、SO
3ミスト濃度の実測値とされる。燃料中の硫黄含有量は、上述のJIS規格に記載の方法により分析される。
【0070】
本実施形態においては、電界形成部61aの上流側にSO
3ミスト濃度を取得する濃度取得部が設置されても良い。濃度取得部は、制御部68に接続される。
濃度取得部は、予備荷電部64より上流側に設置されることが好ましく、例えば湿式電気集塵装置60の入口や、湿式脱硫装置と湿式電気集塵装置との間の流通路に設置される。濃度取得部は、湿式電気集塵装置入口や上記流通路からガスをサンプリングし、SO
3ミスト濃度を光の透過率により計測することが可能である機器とされる。あるいは、濃度取得部は、予備荷電部64での放電電流を計測する機器と制御部68とで構成され、計測された放電電流の値を制御部68が閾値と比較することにより、SO
3ミスト濃度を推定しても良い。
【0071】
図8では、排ガスが湿式電気集塵装置60の下方から上昇するように流通する構成とされているが、湿式電気集塵装置の上方から下降する構成とされても良いし、略水平方向に排ガスが流通するように電界形成部が配列される構成とされても良い。
【0072】
第2実施形態の湿式電気集塵装置を用いて除塵する方法を以下で説明する。
電界形成部61a,61bでは、アース電極と印加電極との間に直流電界が形成されている。また、アース電極及び印加電極の放電極から、負または正のコロナ放電が発生されている。
【0073】
制御部68は、JIS M8812またはJIS M8813に記載の方法により分析された燃料の硫黄含有量を取得する。制御部68は、燃料の硫黄含有量と湿式脱硫装置の性能とから、湿式電気集塵装置60に流入する排ガス中のSO
3ミスト濃度を推定する。
【0074】
あるいは、濃度取得部がSO
3ミスト濃度を計測する場合、湿式電気集塵装置60に流入する排ガス中のSO
3ミスト濃度を上述の機器が計測し、制御部68は、濃度取得部からSO
3ミスト濃度の情報を取得する。
制御部68は、取得したSO
3ミスト濃度と、予め入力されているSO
3ミスト濃度の閾値とを比較する。ここでの閾値は、電界形成部61a,61bでのSO
3ミスト捕集効率や電界形成部61a,61bの電極構造を考慮して決定された値とされる。具体的に、10ppmと設定される。
【0075】
濃度取得部が放電電流を計測する場合、予備荷電部64での放電電流を上述の機器が計測し、制御部68は放電電流の情報を取得する。制御部68にはSO
3ミスト濃度の閾値と放電電流の閾値との相関関係が予め格納されている。制御部68は、計測された放電電流の値とSO
3ミスト濃度と相関づけられた放電電流の閾値とを比較する。
【0076】
取得したSO
3ミスト濃度が閾値以下である場合に、制御部68は予備荷電部64及び誘電体スプレー部65を停止させる。これにより、排ガス中のSO
3ミスト及びダストは予備荷電部64を通過しても帯電されていない状態で電界形成部61a,61bに流入する。また、排ガス中には、系外から供給された誘電体(水ミスト)が含まれていない。
【0077】
電界形成部61a,61bに流入した帯電されていないSO
3ミスト及びダストは、第1実施形態と同様の工程で、電界形成部61a,61bのアース電極及び印加電極に付着して捕集される。
【0078】
取得したSO
3ミスト濃度が閾値を超えた場合、制御部68は予備荷電部64を作動させる。予備荷電部64は、放電極からコロナ放電を発生させる。予備荷電部64内の電極間を通過したガス中に含まれるSO
3ミスト及びダストは、このコロナ放電により正または負に帯電される。帯電されたSO
3ミスト及びダストは、ガスによって電界形成部61に搬送させる。
【0079】
制御部68は、誘電体スプレー部65を作動させる。誘電体スプレー部65は、ポンプ67により誘電体をノズル66に送給し、ノズル66から600μm程度の粒径の水ミストをガス中に噴霧する。噴霧された水ミストは、SO
3ミスト及びダストとともに排ガスによって電界形成部61a,61bに搬送される。
【0080】
電界形成部61a,61bに搬送された水ミストは、逆極性のコロナ放電によって正または負に交互に帯電するとともに、電界形成部に印加された電界により誘電分極する。帯電及び誘電分極した水ミストは、直流電界の影響を受けて蛇行しながらアース電極や印加電極に接近しながら進行する。その間に、帯電した一部のSO
3ミストやダストは、クーロン力により近傍に存在する水ミストに捕集される。なお、大きな液滴は、湿式電気集塵装置の下流側に設けられる誘電体捕集装置(デミスタ等)で捕集される。
【0081】
また、一部のSO
3ミスト及びダストは、コロナ放電により逆極性に交互に帯電する。これにより、蛇行しながら電極に接近するように進行する。アース電極や印加電極に接近したSO
3ミストやダストは、電極に付着して捕集される。
【0082】
洗浄スプレー63を設置する場合は、スプレーノズルから間欠的に洗浄水をアース電極及び印加電極の各々に散布する。電極に付着したSO
3ミスト及びダストは洗浄水中に取り込まれ、チムニートレイ62又で回収されるか、湿式電気集塵装置の下部に落下する。
【0083】
第2実施形態のようにSO
3ミスト濃度に基づいて予備荷電部及び誘電体スプレー部の作動を制御すれば、SO
3ミスト濃度が変動した場合でも除去性能を略一定に保つことができる。また、SO
3ミストが低濃度の場合には予備荷電部及び誘電体スプレー部を作動させないので、低コストでの運転が可能となる。