【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない範囲内において、以下の実施例によって限定されるものではない。なお、特にことわらない限り、「%」は質量%、「部」は質量基準とする。
【0046】
<液体クロマトグラフ質量分析(以下、LC−MS分析と略す)条件>
実施例・比較例のLC−MS分析は次の条件で行った。
[LC部分]Agilent Technologies製 1100シリーズ
カラム:Inertsil ODS−2(4.6mmφ×250mm,5μm)、
溶離液:水80.0%−30min→0.0%、メタノール20.0%−30min→100.0%、
カラム温度:40℃、
流量:1mL/min、注入量:5μL(200 ppmメタノール溶液)、
検出器:UV、RI
[MS部分]JMS T100LP(日本電子製)
リングレンズ電圧:10V、イオン化法:APCI+、脱溶媒室温度:350℃、
ニードル電圧:2500V、オリフィス1温度:80℃、オリフィス1電圧:60V、
イオンガイドピーク間電圧:1000V、オリフィス2電圧:5V
【0047】
<水酸基価(OH価)測定条件>
酢酸とピリジンを重量比1:9で混合し、アセチル化試薬とした。サンプルをフラスコに秤量し、アセチル化試薬を加え、80℃で2時間加熱した。反応後、フェノールフタレインを指示薬とし、1mol/l水酸化カリウム水溶液で滴定を行った。
【0048】
<NMR分析>
NMR分析の結果は、各ピークの帰属を次式に記載する番号((1)〜(3))で示す。
【化3】
【0049】
[実施例1](ジペンタエリスリトール3EO付加体アクリレート含有組成物)
<ジペンタエリスリトール3EO付加体アクリレートの合成>
攪拌装置を備えた容量1Lのオートクレーブ内に、ジペンタエリスリトール(広栄化学工業株式会社製、OH価1324)254g(1.0mol)、トルエン127g、KOH0.3gを仕込み、90℃まで昇温、攪拌し、スラリー状の液体とした。次いで130℃に加熱し、エチレンオキサイド176g(4mol)を徐々にオートクレーブ内に導入し反応せしめた。エチレンオキサイドの導入とともに、オートクレーブ内温度は上昇した。随時冷却を加え、反応温度は140℃以下に保つようにした。反応後、140℃にて水銀柱10mmHg以下にて減圧する事で、過剰のエチレンオキサイド、副生するエチレングリコールの重合体を除去した。その後、酢酸にて中和を行い、pH6〜7に調整した。得られたジペンタエリスリトール3EO付加体のOH価は897であった。
【0050】
得られたエチレングリコール変性ジペンタエリスリトール(OH価897)375g(1mol)、アクリル酸562g(7.8mol)、パラトルエンスルホン酸46g、トルエン900g、ハイドロキノン0.9gをガラス製四つ口フラスコに仕込み、空気を吹き込みながら加熱反応を行った。反応で生じた水はトルエンと共沸する事で系外に随時除去した。反応温度は100〜110℃であり、反応終了時に系外へ除去された反応水量は112gであった。反応後、アルカリ水洗、水洗を行い、上層のトルエン層を分離し、トルエンを減圧留去し、一般式(I)、(II)で表される、ジペンタエリスリトール3EO付加体アクリレートを615g(収率88%)得た
【0051】
これにつき、水酸基価の測定、並びに
1H−NMR、
13C−NMR、HPLC、及びLC−MS、水酸基価による分析を実施したところ、水酸基含有ジペンタエリスリトール2EO付加体アクリレートであることが明らかとなった。以下に、NMR分析、及びLC−MS分析の結果を示し、NMRのピークの帰属は上記番号で示す。
【0052】
<3EO付加体アクリレートの
13C−NMR分析(400MHz),in CDCl
3>
45ppm:(2)由来、60ppm:(3)由来、61〜63ppm:エチレンオキサイドが付加した(3)由来、68〜73ppm:(3)に付加したエチレンオキサイド由来、77〜79ppm:重クロロホルム由来、128〜131ppm:エステル結合したアクリル酸由来、165〜167ppm:エステル結合部
【0053】
<3EO付加体アクリレートの
1H−NMR分析(400MHz),in CDCl
3>
3.3〜4.1ppm(16H):(1)、(3)由来、3.6〜4.4ppm(8H):(3)のOHに付加したエチレンオキサイド由来、5.7〜6.4ppm(18H):アクリル酸エステルの2重結合由来、7.3ppm:重クロロホルム由来
【0054】
<3EO付加体アクリレートのLC−MS分析>
8.8〜11.5分:エチレンオキサイド重合体ジアクリレート、14〜16分:ジペンタエリスリトールエチレンオキサイド変性モノアクリレート、16〜20分:ジペンタエリスリトールエチレンオキサイド変性ヘキサアクリレート
【0055】
<顔料分散液の調製>
酸化チタン[石原産業社製「タイペークR−930」]50部、顔料分散剤[ルーブリゾール社製「ソルスパーズ32000」]5部、N,N−ジエチルアクリルアミド45部[興人(株)製「DEAA」]からなる混合物を、ボールミルを用いて4時間混練することにより顔料濃度50重量%の顔料分散剤液を調製した。
【0056】
<顔料を含有するインク組成物の調製>
前記顔料分散剤液40部、ジフェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキシド[チバジャパン社製「Irgacure TPO」]3部、ジエチルチオキサントン[日本化薬(株)製「カヤキュアDETX−S」]3部、上記で得られた3EO付加体アクリレート54部をボールミルを用いて25℃で4時間混練して本発明のインクジェット印刷用インク組成物を製造した。
【0057】
[実施例2](ジペンタエリスリトール4EO付加体アクリレート含有組成物)
<ジペンタエリスリトール4EO付加体アクリレートの合成>
攪拌装置を備えた容量1Lのオートクレーブ内に、ジペンタエリスリトール(広栄化学工業株式会社製、OH価1324)254g(1.0mol)、トルエン127g、KOH0.3gを仕込み、90℃まで昇温、攪拌し、スラリー状の液体とした。次いで130℃に加熱し、エチレンオキサイド220g(5mol)を徐々にオートクレーブ内に導入し反応せしめた。エチレンオキサイドの導入とともに、オートクレーブ内温度は上昇した。随時冷却を加え、反応温度は140℃以下に保つようにした。反応後、140℃にて水銀柱10mmHg以下にて減圧する事で、過剰のエチレンオキサイド、副生するエチレングリコールの重合体を除去した。その後、酢酸にて中和を行い、pH6〜7に調整した。得られたジペンタエリスリトール4EO付加体のOH価は765であった。
【0058】
得られたエチレングリコール変性ジペンタエリスリトール(OH価765)440g(1mol)、アクリル酸562g(7.8mol)、パラトルエンスルホン酸50g、トルエン900g、ハイドロキノン1gをガラス製四つ口フラスコに仕込み、空気を吹き込みながら加熱反応を行った。反応で生じた水はトルエンと共沸する事で系外に随時除去した。反応温度は100〜110℃であり、反応終了時に系外へ除去された反応水量は113gであった。反応後、アルカリ水洗、水洗を行い、上層のトルエン層を分離し、トルエンを減圧留去し、一般式(I)、(II)で表される、ジペンタエリスリトール4EO付加体アクリレートを665g(収率87%)得た。
【0059】
これにつき、水酸基価の測定、並びに
1H−NMR、
13C−NMR、HPLC、及びLC−MS、水酸基価による分析を実施したところ、水酸基含有ジペンタエリスリトール4EO付加体アクリレートであることが明らかとなった。以下に、NMR分析、及びLC−MS分析の結果を示し、NMRのピークの帰属は上記番号で示す。
【0060】
<4EO付加体アクリレートの
13C−NMR分析(400MHz),in CDCl
3>
45ppm:(2)由来、60ppm:(3)由来、61〜63ppm:エチレンオキサイドが付加した(3)由来、68〜73ppm:(3)に付加したエチレンオキサイド由来、77〜79ppm:重クロロホルム由来、128〜131ppm:エステル結合したアクリル酸由来、165〜167ppm:エステル結合部
【0061】
<4EO付加体アクリレートの
1H−NMR分析(400MHz),in CDCl
3>
3.3〜4.1ppm(16H):(1)、(3)由来、3.6〜4.4ppm(16H):(3)のOHに付加したエチレンオキサイド由来、5.7〜6.4ppm(18H):アクリル酸エステルの2重結合由来、7.3ppm:重クロロホルム由来
【0062】
<4EO付加体アクリレートのLC−MS分析>
8.8〜11.5分:エチレンオキサイド重合体ジアクリレート、14〜16分:ジペンタエリスリトールエチレンオキサイド変性モノアクリレート、16〜20分:ジペンタエリスリトールエチレンオキサイド変性ヘキサアクリレート
【0063】
<顔料分散液の調製、及び、顔料を含有するインク組成物の調製>
上記の3EO付加体アクリレートに代えて、得られた4EO付加体アクリレートを用いた他は、実施例1と全く同様に行った。
【0064】
[実施例3](ジペンタエリスリトール5EO付加体アクリレート含有組成物)
<ジペンタエリスリトール5EO付加体アクリレートの合成>
攪拌装置を備えた容量1Lのオートクレーブ内に、ジペンタエリスリトール(広栄化学工業株式会社製、OH価1324)254g(1.0mol)、蒸留水36g、KOH0.3gを仕込み、90℃まで昇温、攪拌し、スラリー状の液体とした。次いで130℃に加熱し、エチレンオキサイド264g(6mol)を徐々にオートクレーブ内に導入し反応せしめた。エチレンオキサイドの導入とともに、オートクレーブ内温度は上昇した。随時冷却を加え、反応温度は140℃以下に保つようにした。反応後、140℃にて水銀柱10mmHg以下にて減圧する事で、過剰のエチレンオキサイド、副生するエチレングリコールの重合体を除去した。その後、酢酸にて中和を行い、pH6〜7に調整した。得られたジペンタエリスリトール5EO付加体のOH価は706であった。
【0065】
得られたエチレングリコール変性ジペンタエリスリトール(OH価706)477g(1mol)、アクリル酸562g(7.8mol)、パラトルエンスルホン酸52g、トルエン900g、ハイドロキノン1gをガラス製四つ口フラスコに仕込み、空気を吹き込みながら加熱反応を行った。反応で生じた水はトルエンと共沸する事で系外に随時除去した。反応温度は100〜110℃であり、反応終了時に系外へ除去された反応水量は113gであった。反応後、アルカリ水洗、水洗を行い、上層のトルエン層を分離し、トルエンを減圧留去し、一般式(I)、(II)で表される、ジペンタエリスリトール5EO付加体アクリレートを697g(収率87%)得た。
【0066】
これにつき、水酸基価の測定、並びに
1H−NMR、
13C−NMR、HPLC、及びLC−MSによる分析を実施したところ、水酸基含有ジペンタエリスリトール5EO付加体アクリレートであることが明らかとなった。以下に、NMR分析、及びLC−MS分析、水酸基価測定の結果を示し、NMRのピークの帰属は上記番号で示す。
【0067】
<5EO付加体アクリレートの
13C−NMR分析(400MHz),in CDCl
3>
45ppm:(2)由来、60ppm:(3)由来、61〜63ppm:エチレンオキサイドが付加した(3)由来、68〜73ppm:(3)に付加したエチレンオキサイド由来、77〜79ppm:重クロロホルム由来、128〜131ppm:エステル結合したアクリル酸由来、165〜167ppm:エステル結合部
【0068】
<5EO付加体アクリレートの
1H−NMR分析(400MHz),in CDCl
3>
3.3〜4.1ppm(16H):(1)、(3)由来、3.6〜4.4ppm(24H):(3)のOHに付加したエチレンオキサイド由来、5.7〜6.4ppm(18H):アクリル酸エステルの2重結合由来、7.3ppm:重クロロホルム由来
【0069】
<5EO付加体アクリレートのLC−MS分析>
8.8〜11.5分:エチレンオキサイド重合体ジアクリレート、14〜16分:ジペンタエリスリトールエチレンオキサイド変性モノアクリレート、16〜20分:ジペンタエリスリトールエチレンオキサイド変性ヘキサアクリレート
【0070】
<顔料分散液の調製、及び、顔料を含有するインク組成物の調製>
上記の3EO付加体アクリレートに代えて、得られた5EO付加体アクリレートを用いた他は、実施例1と全く同様に行った。
【0071】
[比較例1](ジペンタエリスリトール・ヘキサアクリレート含有組成物)
上記のジペンタエリスリトール3EO付加体アクリレートに代えて、ジペンタエリスリトール・ヘキサアクリレート(日本化薬株式会社製KAYARAD DPHA)を用いた他は、実施例1と全く同様に行った。
【0072】
[比較例2](トリメチロールプロパンアクリレート含有組成物)
上記のジペンタエリスリトール3EO付加体アクリレートに代えて、トリメチロールプロパンアクリレート(サートマー社製SR351S)を用いた他は、実施例1と全く同様に行った。
【0073】
[比較例3](EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート含有組成物)
上記のジペンタエリスリトール3EO付加体アクリレートに代えて、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート(サートマー社製SR454)を用いた他は、実施例1と全く同様に行った。
【0074】
[比較例4](カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールアクリレート含有組成物)
上記のジペンタエリスリトール3EO付加体アクリレートに代えて、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールアクリレート(日本化薬株式会社製KAYARAD DPCA-60)を用いた他は、実施例1と全く同様に行った。
【0075】
上記の実施例1〜3、及び比較例1〜4のインク組成物についての評価を下記のとおりに行った。
【0076】
[硬化性]実施例1〜3、及び比較例1〜4のインク組成物を、易接着処理PETフィルム(東レ株式会社製ルミラーT-60)の易接着処理面にバーコーターを用いて乾燥膜厚10μmにて塗布した。そして、ベルトコンベア式UV照射装置UV照射装置(GSユアサ UVシステム CSN2-40)、及び、スポット式UV照射装置(USHIO Optical Modulex SX-UID500H)にて、積算照度200mj/cm
2にて硬化を行った。硬化性の確認は、紫外線照射時にステップタブレット(25段、Riston社製)にて遮光し、タックフリーとなる段数を記載した。段数が高い事は遮光度が高いと言う事を示している。即ち、低い露光量でも硬化可能であり、インク組成物の光感度が高く、生産性に優れると言える。
【0077】
[耐スチールウール性]易接着処理PETフィルム(東レ株式会社製ルミラーT-60)に、上記硬化性の評価と同様の手法で硬化皮膜を作成した。そして、00番のスチールウールで500gの荷重を掛けて100回研磨した際の塗膜の状態を目視にて観察し、次の基準で評価した。;
○:傷なし、△:試験片に10本前後の傷が確認できる、×:多数の傷が確認できる。
【0078】
[カール性]易接着処理PETフィルム(東レ株式会社製ルミラーT-60)に硬化性の項目と同様の手法で硬化皮膜を作成し、硬化性の項目と同様の手法で硬化皮膜を作成した。平坦な面にフィルムの4隅の一点を固定し、その時の残りの3点の高さを測定し、その平均値をカール性とした。
【0079】
[吐出性]吐出性評価装置(「インクジェット描画・塗布装置」;マイクロジェット社製NanoPrinter-300)を用いて、吐出性の評価を行った。この評価装置は、ピエゾ素子方式の複数のノズルにより、ヘッド1スキャン分の描画を行うものである。なお、測定室の雰囲気温度は25℃であった。;
ノズル詰まり無し:○、ノズル詰まり有り:×。
【0080】
【表1】
【0081】
表1に示された結果から知られるように、本発明の実施例1〜3のインキ組成物であると、ジペンタエリスリトール・ヘキサアクリレートを用いた比較例1に比べて吐出性を改良することができた。これは、適度のエチレンオキシド変性により、架橋性モノマーそのものの粘度を小さくできたためであると考えられた。なお、具体的なデータは示さないが、ジペンタエリスリトールに12モルのエチレンオキシドを付加した同様のアクリレート(ジペンタエリスリトール12EO付加体アクリレート)に比べても、吐出性は大きく改善されていた。また、ジペンタエリスリトールに8モルのエチレンオキシドを付加した同様のアクリレート(ジペンタエリスリトール8EO付加体アクリレート)に比べても、かなりの改善が見られた。
【0082】
比較例2〜4では、低粘度であり吐出性に優れた架橋性(多官能)モノマーを用いた結果、吐出性及びカール性では良好であったが、硬化性及び耐スチールウール性が低かった。これと比較した場合、本願各実施例のインキ組成物であると、エチレンオキサイド付加モル数を最低限必要な量にコントロールする事で、耐スチールウール性を維持しつつ、被印刷体上のインキ組成物の硬化収縮による印刷物の変形を抑制する事が可能である事が判った。また、硬化性に関しも、ジペンタエリスリトール・ヘキサアクリレートを用いた比較例1に比べて大きく向上した。硬化性が向上したのは、エチレンオキサイド変性により、末端アクリロイル基の運動性及び自由度が向上するからであると考えられる。なお、具体的なデータは示さないが、ジペンタエリスリトールに12モルのエチレンオキシドを付加した同様のアクリレート(ジペンタエリスリトール12EO付加体アクリレート)に比べても、硬化性及び耐スチールウール性が大きく改善されていた。また、ジペンタエリスリトールに8モルのエチレンオキシドを付加した同様のアクリレート(ジペンタエリスリトール8EO付加体アクリレート)に比べても、かなりの改善が見られた。