特許第6153762号(P6153762)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6153762
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】成形装置及び成形方法
(51)【国際特許分類】
   B22C 9/06 20060101AFI20170619BHJP
   B22D 17/22 20060101ALI20170619BHJP
   B29C 45/40 20060101ALI20170619BHJP
   B29C 49/70 20060101ALI20170619BHJP
   B29C 45/73 20060101ALI20170619BHJP
【FI】
   B22C9/06 B
   B22C9/06 A
   B22D17/22 D
   B22D17/22 F
   B29C45/40
   B22D17/22 K
   B29C49/70
   B29C45/73
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-86641(P2013-86641)
(22)【出願日】2013年4月17日
(65)【公開番号】特開2014-210272(P2014-210272A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2016年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】592209548
【氏名又は名称】株式会社小出製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】小出 悟
(72)【発明者】
【氏名】三橋 正博
【審査官】 荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−290187(JP,A)
【文献】 特公平04−008138(JP,B2)
【文献】 特開2012−125815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 9/00− 9/06
B22D 17/00−17/22
B29C 45/00−45/73
B29C 49/00−49/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティの少なくとも一部を区画する型面と、該型面と間隔を隔てて設けられた冷却空間と、該冷却空間の一部を共有した状態で該型面に開口するピン孔と、を有する型本体と、該ピン孔に摺動可能に装着された押出ピン及び/又は鋳抜きピンと備え、該冷却空間の端部には、該冷媒を該冷却空間に導入する冷媒導入部及び該冷媒を該冷却空間から排出する冷媒排出部を有する成形型と、
前記冷媒排出部に設けられ、前記冷却空間から前記冷媒を排出する吸引式の冷媒導入出装置と、
を有し、
前記冷媒導入出装置により前記冷媒を吸引して前記冷却空間を陰圧にした状態で、前記キャビティに被成形物を充填することを特徴とする成形装置。
【請求項2】
前記ピン孔は一端側で前記型面に開口し他端側で前記冷却空間に開口する主ピン孔部と該主ピン孔部の延びる方向に設けられ一端側が該冷却空間に開口し他端側が該型面と背向する裏面に開口する副ピン孔部とを有する請求項1に記載の成形装置
【請求項3】
前記ピン孔を複数有する請求項1又は2に記載の成形装置
【請求項4】
キャビティの少なくとも一部を区画する型面と、該型面と間隔を隔てて設けられた冷却空間と、該冷却空間の一部を共有した状態で該型面に開口するピン孔と、を有する型本体と、該ピン孔に摺動可能に装着された押出ピン及び/又は鋳抜きピンと、を備え、該冷却空間の端部には、該冷媒を該冷却空間に導入する冷媒導入部及び該冷媒を該冷却空間から排出する冷媒排出部を有する成形型と、
前記冷媒排出部に設けられ、前記冷却空間から前記冷媒を排出する吸引式の冷媒導入出装置と、
を有する成形装置で成形体を成形する成形方法であって、
前記冷媒導入出装置により前記冷媒を吸引して、前記冷却空間を陰圧に保つ工程と、
前記冷却空間を陰圧に保持した状態で被成形物を前記キャビティに充填する工程と、
を有することを特徴とする成形方法。
【請求項5】
前記ピン孔は一端側で前記型面に開口し他端側で前記冷却空間に開口する主ピン孔部と該主ピン孔部の延びる方向に設けられ一端側が該冷却空間に開口し他端側が該型面と背向する裏面に開口する副ピン孔部とを有する請求項4に記載の成形方法。
【請求項6】
前記ピン孔を複数有する請求項4又は5に記載の成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造、ダイキャストあるいは射出成形等に使用される成形型を備えた成形装置及び成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鋳造、ダイキャストあるいは射出成形等の成形型を用いる技術分野では、種々の形状の成形型を使用して成形品を製造している。通常、鋳造等に用いられる成形型には、成形型の型面で区画(形成)されるキャビティに流れ込んだ高温の金属等の被成形物を冷却するための冷媒を充填する冷却空間が具備されている。
【0003】
成形型には冷却された成形品を成形型から押し出して取り出すための押出ピンが装着されている。また、成形型には成形品に中空の鋳抜き箇所を形成するための鋳抜きピンが装着されているものがある。そのような成形型には、押出ピン及び/又は鋳抜きピンを挿入し且つ摺動可能にするためのピン孔が、成形型のキャビティを区画する型面に開口している。ピン孔とこれに挿入される押出ピン及び/又は鋳抜きピンとの間には隙間(クリアランス)が存在するため、押出ピン及び/又は鋳抜きピンは摺動可能となる。ここで、仮に、ピン孔及び冷却空間の両者に重複する空間が存在すれば(換言すると、ピン孔が冷却空間の一部を冷却空間と共有していれば)、冷却空間とキャビティとがピン孔と押出ピン及び/又は鋳抜きピンとのクリアランスを介して連通することとなり、そうすると、冷却空間に充填される冷媒がキャビティに漏れる事態が想定される。このような事態を回避するため、従来の成形型は、ピン孔と冷却空間の両者に重複する空間を設けない構造に限定されていた。
【0004】
例えば、特許文献1には、押出ピン32が挿入される押出し孔86、及び、鋳抜きピン28が挿入される鋳抜き孔58、62が形成されている成形型が開示されている。同文献に記載の押出し孔及び鋳抜き孔は、冷却空間である冷却水往路46、78又は冷却水復路48、80と重複する空間を有さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−125815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり、従来の成形型においては、冷却空間に充填される冷媒がキャビティに漏れる事態を回避するため、ピン孔と冷却空間の両者に重複する空間を設けない構造に限定されていた。つまり、ピン孔の配置と冷却空間の配置とに制限があり、ピン孔の位置を避けるように冷却空間を配置せざるを得なかった。そうすると、成形型において所望する箇所のすべてに冷却空間を配置することができず、その結果として、冷却空間に充填される冷媒がキャビティに流れ込んだ溶湯などに対して冷却機能を十分に発揮しているとはいえなかった。
【0007】
本発明は、ピン孔及び冷却空間の配置に自由度を与え、冷却作用を十分に発揮できる冷却空間の配置を実現できる成形型を提供することを目的とする。さらには、迅速な冷却を実現するための成形型を備えた成形装置及び成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の成形装置は、キャビティの少なくとも一部を区画する型面と、該型面と間隔を隔てて設けられた冷却空間と、該冷却空間の一部を共有した状態で該型面に開口するピン孔と、を有する型本体と、該ピン孔に摺動可能に装着された押出ピンと備え、該冷却空間の端部には、該冷媒を該冷却空間に導入する冷媒導入部及び該冷媒を該冷却空間から排出する冷媒排出部を有する成形型と、前記冷媒排出部に設けられ、前記冷却空間から前記冷媒を排出する吸引式の冷媒導入出装置と、を有し、前記冷媒導入出装置により前記冷媒を吸引して前記冷却空間を陰圧にした状態で、前記キャビティに被成形物を充填することを特徴とする。従来の技術常識に反し、本発明では、ピン孔は冷却空間の一部を冷却空間と共有している。そのため、ピン孔及び冷却空間は、お互いの位置に影響されずに所望の箇所に配置できる。従来の成形型と比較して、ピン孔及び冷却空間の配置の自由度が格段に高くなり、好適な箇所に配置することができるため、溶湯などの冷却される液体(流体)の冷却効率及び冷却速度を高めることができる。
【0009】
本発明の成形型は、キャビティの少なくとも一部を区画する型面と該型面と間隔を隔てて設けられた冷却空間と該型面に開口するピン孔とを有する型本体と、該ピン孔に摺動可能に装着された押出ピンとを有し、前記ピン孔が前記冷却空間の一部を共有しているものである。本発明の成形型は、鋳造、ダイキャストあるいは射出成形、ブロー成形等に使用されるものであれば制限は無い。本発明の成形型が成形対象とするものは、高温で溶かした金属(溶湯)に限らず、ゾル状の樹脂組成物、加熱により可塑化された合成樹脂、ゴム、ガラス材等でもよい。
【0010】
本発明の成形型の型本体は、キャビティの少なくとも一部を区画する型面と、該型面と間隔を隔てて設けられた冷却空間と、該型面に開口するピン孔とを有する。本発明の成形型の型本体は、成形機に固定されて移動しない固定型の一部でもよく、成形品の取り出し時などに可動できる可動型の一部でもよいし、また、入子や中子のようなキャビティの一部を区画する型であればいかなるものでもよい。
【0011】
型本体の材質は、鉄、銅、アルミニウムなどの各種金属、鋼鉄などの合金、炭素鋼、ダイス鋼(高合金工具鋼:SKD)、高速度工具鋼(ハイスピードスチール:SKH)、熱間工具鋼、合金工具鋼などの金属を主とする材料はもちろん、電鋳品、樹脂、コンクリート、セラミックスなどの他の構造材料でも良い。また、型本体の材質は単一のものに限られず、複数の材質のものを併用してもよい。多部材を組み合わせる例としては、キャビティの一面及び冷却空間の一面を区画する第一部材と、冷却空間の他の面を区画する第二部材とを、互いに接する接触部で密着させることで成形型の型本体としてもよい。高温の溶湯などに接する第一部材は耐熱性の材料で構成されるのが好ましく、そのような材料としては、鋼鉄、炭素鋼、ダイス鋼(高合金工具鋼:SKD)、高速度工具鋼(ハイスピードスチール:SKH)、熱間工具鋼、合金工具鋼などが好ましいものとして例示できる。第二部材は、第一部材ほどに材質の制限を課す必要がないため、適宜、廉価な材料を選択すればよい。第一部材と第二部材が接する接触部には、これらの部材間の隙間を減ずるためのシール部を有するのが好ましい。シール部はシリコーンゴム、ニトリルゴム、スチロールゴム、フッ素樹脂などのOリングに使用される材質からなる。
【0012】
キャビティは、被成形物が流れ込み、冷却されて固定されることで、成形品の形状を決定づける成形型内の空間である。キャビティは、通常、対面する2つの型本体の型面で形成されるが、入子や中子などと呼ばれる型を併用して形成されることもある。本発明におけるキャビティには、あらゆる形状のものが包含され、凹形状のものはもちろん、凸形状のものも含まれる。
【0013】
型面はキャビティの少なくとも一部を区画するものであり、型面の形状が対応するキャビティの形状を決定づける。型面は従来の成形型の製造方法に従い適宜所望の形状で製造できる。
【0014】
冷却空間は冷媒が充填されるための空間であり、型本体内に型面と間隔を隔てて設けられる。冷却空間に充填された冷媒と接した型本体の温度は型面に伝達され、キャビティに流れ込んだ高温の被成形物を冷却する。冷却空間と型面との距離(d)は冷媒の温度が型面に伝達される際の抵抗となる。したがって、距離(d)が短いほど冷却の効果が高く、長くなるにしたがって冷却の効果は低くなる。必要とされる型面の冷却の程度に応じて所望の距離(d)となるよう冷却空間の形状を適宜設計すればよい。冷却効果を高めるために距離(d)を大幅に短くすることがある。そうすると型面に作用する被成形物の圧力により型面が変形することも考えられるので、その際には、この変形を阻止するための補強部を冷却空間内に設けてもよい。補強部の形状は柱状でも突壁状でも良い。また、補強部は1個でも複数個設けても良い。さらに、補強部を突壁状とし、冷媒のガイド壁として機能させることもできる。
【0015】
冷却空間は単独でも良いし、複数設けても良い。冷却空間の形状は、効率的に高温の被成形物を冷却できるよう、また、冷媒のスムースな流れを形成し冷媒の淀み等を防止するように適宜設計すればよい。
【0016】
冷媒は、水道水、冷却水、加温された温水などの水、冷却あるいは加温された無機、有機の液体及び気体から、適宜選択すればよい。冷却の効率性、費用、環境への影響などの面から、特に水が好ましい。
【0017】
冷却空間の端部には、冷媒を冷却空間に導入する冷媒導入部及び冷媒を冷却空間から排出する冷媒排出部を有する。冷媒導入部及び/又は冷媒排出部はそれぞれ1個でも複数個でも良い。また、冷媒導入部及び/又は冷媒排出部は、最も冷却効果の高い位置に設けることができるし、最も冷媒の導入出に好都合な位置に設けることもできる。冷媒導入部及び/又は冷媒排出部は冷媒を送るパイプあるいはホースに容易に着脱できる形態であるのが好ましい。
【0018】
本発明の成形装置は、冷媒導入部及び/又は冷媒排出部が、冷媒を迅速に導入又は排出するためのポンプなどの冷媒導入出装置を有する。また、冷媒導入部及び/又は冷媒排出部に着脱できるパイプやホースを介して冷媒導入出装置を配置することでもよい。冷媒導入出装置は流量計及び流量制御部並びに/又は冷媒温度計を備えているものが好ましい。なお、流量計及び/又は冷媒温度計は冷媒導入出装置と一体化せず、独立して存在してもよい。流量計及び流量制御部並びに冷媒温度計を備えることにより、例えば、冷却空間ごとに排出される冷媒の温度を冷媒温度計で検知し、検知温度に応じて冷媒の流量を好適に制御する冷媒制御方法を提供できる。
【0019】
冷媒導入部に直接又は間接的に配置される冷媒導入出装置は、加圧式の冷媒導入出装置として作用する。加圧式の冷媒導入出装置を用いると、冷却空間内の微小な空間や細管内にもくまなく冷媒を導入することができる。冷媒排出部に直接又は間接的に配置される冷媒導入出装置は、吸引式の冷媒導入出装置として作用する。吸引式の冷媒導入出装置を用いると、冷却空間を流通する冷媒に含まれるスケールなどの不純物(例えば、水に含まれるカルシウムや水垢)が冷却空間内の窪みなどに付着しにくいため、冷却空間の冷却効果を好適に維持できる。よって、加圧式及び吸引式の冷媒導入出装置を組み合わせて用いることが特に好ましい。
【0020】
冷媒導入出装置を駆動させることにより、所望の流速で冷却空間内に冷媒を流通できるのは勿論、必要時に迅速に冷媒を冷却空間に導入することができるし、冷却空間に冷媒が不要な時には迅速に冷媒を排出することができる。冷媒導入出装置を組み合わせた本発明の成形型は、多種多様な成形方法を提供できる。その一例を以下に述べる。キャビティに溶湯などの被成形物を導入する時には、冷却空間に冷媒が不要なので、冷却空間に冷媒が存在していれば冷媒導入出装置を駆動させて冷媒を排出する。その後、被成形物をキャビティに導入し、次いで、冷媒導入出装置を駆動させて冷却空間に冷媒を導入する。そして、被成形物が冷却され固化したら、冷媒を排出すればよい。
また、本発明では、冷媒排出部に設けられた冷媒導入出装置により冷媒を吸引して冷却空間を陰圧にした状態で、キャビティに被成形物を充填することで成形できる。
【0021】
押出ピンは被成形物が冷却され固化した成形品を成形型から押し出して取り出すためのピンであり、型面に開口するピン孔に摺動可能に装着される。押出ピンの材質は、鉄、銅、アルミニウムなどの各種金属、鋼鉄などの合金、炭素鋼、ダイス鋼(高合金工具鋼:SKD)、高速度工具鋼(ハイスピードスチール:SKH)、熱間工具鋼、合金工具鋼などの金属を主とする材料、熱硬化樹脂、セラミックスなどの、適度な強度を有し適度な耐熱性を有するものであれば特に制限は無い。本発明の成形型は押出ピンを1つ有していても良いし、複数有していても良い。
【0022】
鋳抜きピンは成形品に中空の鋳抜き箇所を形成するための鋳抜き用のピンであり、型面に開口するピン孔に摺動可能に装着される。溶湯などの被成形物がキャビティに流れ込む際には鋳抜きピンの鋳抜き部はキャビティ内に突出しており、そして、被成形物が冷却されて固化した後に、鋳抜きピンの鋳抜き部を成形品から引き抜く方向に鋳抜きピンを摺動させることで、成形品の内部に所望の空洞(鋳抜き箇所)を形成することができる。また、溶湯などの被成形物がキャビティに流れ込む際には鋳抜きピンの鋳抜き部をキャビティ外に配置しておき、被成形物のキャビティ内への充填が完了してから鋳抜きピンを摺動させ鋳抜きピンの鋳抜き部をキャビティ内に突出させてもよい。さらに、例えば鋳抜きピンが可動型の型本体に装着されている場合、鋳抜きピンの鋳抜き部を成形品から引き抜く工程を可動の型本体の移動(可動の型本体の型面の成形品からの剥離)と兼ねてもよい。鋳抜きピンの材質は、鉄、銅、アルミニウムなどの各種金属、鋼鉄などの合金、炭素鋼、ダイス鋼(高合金工具鋼:SKD)、高速度工具鋼(ハイスピードスチール:SKH)、熱間工具鋼、合金工具鋼などの金属を主とする材料、熱硬化樹脂、セラミックスなどの耐熱材であれば特に制限は無い。本発明の成形型は鋳抜きピンを1つ有していても良いし、複数有していても良い。鋳抜きピンは高温に曝されるので熱劣化防止のために鋳抜きピン内部に冷却空間を有していても良い。
【0023】
型面に開口するピン孔は、押出ピン及び/又は鋳抜きピンを摺動可能に挿入させるものである。ピン孔は一端側で型面に開口し他端側で冷却空間に開口する主ピン孔部と該主ピン孔部の延びる方向に設けられ一端側が該冷却空間に開口し他端側が該型面と背向する裏面に開口する副ピン孔部とを有する。本発明の成形装置による成形型において、ピン孔は型本体内部で冷却空間の一部を共有している。詳細に述べると、ピン孔は、主ピン孔部と副ピン孔部の間の空間を、冷却空間と共有している。なお、本発明の成形装置による成形型に存在するピン孔のすべてが型本体内部で冷却空間の一部を共有する必要は無い。本発明の成形装置による成形型には、型本体内部で冷却空間の一部を共有しないピン孔が存在しても良い。本発明の成形装置による成形型において、ピン孔の数は押出ピン及び鋳抜きピンの数と同数存在する。
【0024】
従来の成形型はピン孔及び冷却空間が共有しないように配置の制限をしていた。しかし、本発明の成形装置による成形型はかかる制限を無くしピン孔及び冷却空間の配置に自由度を与えている、すなわち本発明ではピン孔及び冷却空間はお互いの位置に影響されずに所望の箇所に配置できるので、冷却作用を十分に発揮できる冷却空間の配置を実現できる。その結果、溶湯などの被成形物の冷却効率及び冷却速度を高めることができる。
【0025】
また、本発明の成形装置による成形型においては、ピン孔が型本体内部で冷却空間の一部を共有しているため、該ピン孔に装着された押出ピン及び/又は鋳抜きピンは直接に冷却空間内の冷媒と接する。そうすると、キャビティ内の被成形物は押出ピン及び/又は鋳抜きピンを介しても冷却されることが可能である。さらに、押出ピン及び/又は鋳抜きピンが直接に冷却空間内の冷媒と接するため、押出ピン及び/又は鋳抜きピンの熱膨張や熱劣化を抑制することもでき、後述する押出ピン及び/又は鋳抜きピンとピン孔との間の隙間(クリアランス)を好適な範囲内で維持することができる。その結果として、押出ピン及び/又は鋳抜きピンの破損を抑制できる。なお、従来の成形型においては、直接に押出ピン及び/又は鋳抜きピンが冷却空間内の冷媒と接することが無いため、ショット(成形)を重ねることにより、押出ピン及び/又は鋳抜きピンに熱膨張が生じていた。その結果、従来の成形型においては、ピン孔との間の隙間(クリアランス)を好適な範囲内で維持することが困難となり、クリアランス消失などによる押出ピン及び/又は鋳抜きピンの破損が生じていた。
【0026】
押出ピン及び/又は鋳抜きピンと、ピン孔との間には隙間(クリアランス)が存在する。そして、クリアランスを介してキャビティと冷却空間は連通している。ここで、クリアランスの大きさは溶湯などの被成形物がクリアランスを通じて冷却通路へ漏れることが無い程度の範囲に制限されている。クリアランスの大きさはキャビティに充填される被成形物の表面張力に基づいて被成形物がクリアランスに侵入できない程度に適宜設定すればよい。クリアランスの具体的な幅の大きさ(c)は特に限定されないが、0<c≦1.0mm、0.01mm≦c≦0.3mm、0.01mm≦c≦0.05mmの範囲が好ましい範囲として例示できる。クリアランスの幅の大きさ(c)は、型面に開口するピン孔の径を変えた型本体を準備することで調整してもよいし、ピン孔に装着される押出ピン及び/又は鋳抜きピンを他の径のものに換えることで調整しても良い。
【0027】
上述したように、本発明の成形装置による成形型においては例えば冷媒導入出装置を設けることにより、冷却空間内の冷媒の有無をコントロールできるので、必要時のみ冷却空間内に冷媒を導入すること、すなわち溶湯などの被成形物がキャビティに充填される冷媒を冷却空間内に導入することができる。この場合はキャビティが被成形物で充填されるので、冷却空間に導入された冷媒がクリアランスを通じてキャビティに漏れることはない。他方、空気は自在にクリアランスを移動できるため、例えば、キャビティ内の空気が該クリアランスを通じて冷却空間に抜けることができる。つまり、本発明の成形装置による成形型はキャビティ内のガスを抜くことが容易であるから、被成形品の充填時にはキャビティ内にガスが残りにくい構造といえる。さらに、被成形物のキャビティ内への充填時に冷媒導入出装置を稼働させて冷却空間内を陰圧に保つことで、キャビティ内のガス抜きがより好適に為される。よって、本発明の成形装置による成形型にて製造した成形品には巣ができにくい。
【0028】
さらに、被成形物のキャビティ内への充填前にあらかじめ冷媒導入出装置を稼働させておき、冷却空間内及び上記クリアランスを介してキャビティ内を陰圧に保つことで、本発明の成形装置による成形型は減圧成形装置又は真空成形装置の一部としても機能できる。この場合は、当然に、押出ピン及び/又は鋳抜きピンと副ピン孔部との間のクリアランスは最低限とされ、好ましくはO−リング等のシール材で押出ピン及び/又は鋳抜きピンと副ピン孔部の一部を密着させるのが良い。減圧成形装置又は真空成形装置の一部として機能する本発明の成形装置による成形型は、冷媒導入出装置を稼働させ冷却空間及びキャビティを陰圧に保つ減圧工程、溶湯などの被成形物をキャビティに充填する充填工程、冷却空間に冷媒を導入しキャビティの被成形物を冷却する冷却工程、冷却空間の冷媒を排出する冷媒排出工程、冷却された成形品を成形型から取り出す取り出し工程を含む成形品の製造方法を提供することができる。取り出し工程では押出ピンが成形品を成形型から押し出す方向に摺動するが、この際、冷媒導入出装置を逆方向に稼働させて空気をクリアランスに向けて供給するようにしてもよい。そうすると、仮にピン孔の一部に固化した被成形物(バリ)が若干付着していても、クリアランスを通過する空気の圧力でバリを除去することができる。
【0029】
また、本発明の成形装置においてはキャビティの減圧度を測定するための圧力検出部及び/又はキャビティの減圧度を制御するための圧力制御部を備えていても良い。圧力検出部及び/又は圧力制御部は冷媒導入出装置に一体化されているのが好ましい。本発明の成形装置による成形型を減圧成形装置又は真空成形装置の一部として機能させる際に、圧力検出部は被成形物の種類、押出ピン及び/又は鋳抜きピンとピン孔との間のクリアランスの大きさ、並びにキャビティの減圧度の関係から、キャビティに充填される被成形物がクリアランスに侵入し得ない圧力を実験によって決定することができ、そして、圧力制御部は上述の減圧工程において又は充填工程前において、キャビティ内の圧力が当該圧力を下回らないよう冷媒導入出装置の稼働条件を制御することができる。
【0030】
なお、本発明の成形装置による成形型は、通常の成形型を製造する方法をそのまま採用して製造してもよいし、従来の成形型の製造方法を本発明の趣旨に沿うよう適宜改良することで製造してもよい。
また、上記課題を解決するための本発明の成形方法は、キャビティの少なくとも一部を区画する型面と、該型面と間隔を隔てて設けられた冷却空間と、該冷却空間の一部を共有した状態で該型面に開口するピン孔と、を有する型本体と、該ピン孔に摺動可能に装着された押出ピン及び/又は鋳抜きピンと、を備え、該冷却空間の端部には、該冷媒を該冷却空間に導入する冷媒導入部及び該冷媒を該冷却空間から排出する冷媒排出部を有する成形型と、前記冷媒排出部に設けられ、前記冷却空間から前記冷媒を排出する吸引式の冷媒導入出装置と、を有する成形装置で成形体を成形する成形方法であって、前記冷媒導入出装置により前記冷媒を吸引して、前記冷却空間を陰圧に保つ工程と、前記冷却空間を陰圧に保持した状態で被成形物を前記キャビティに充填する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明の成形装置による成形型は、ピン孔が前記冷却空間の一部を共有していることを特徴とするため、従来の成形型と異なりピン孔及び冷却空間の配置に制限がなく、ピン孔及び冷却空間はお互いの位置に影響されずに所望の箇所に配置できる。そのため、本発明の成形装置による成形型は、冷却作用を十分に発揮できる冷却空間の配置を実現できる。その結果、溶湯など被成形物の冷却効率及び冷却速度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】実施例1の成形型の断面図である。
図2】実施例2の成形型の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明する。これら実施例は本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の範囲はこれら実施例に限定されない。
【0034】
(実施例1)
本発明の成形装置による実施例1の成形型の断面図を図1に示す。
【0035】
本実施例1の成形型は成形装置に固定されて移動しない固定型のものであり、図1に示すように、キャビティ1の一部を区画する型面2と、型面2と距離(d)の間隔を隔てて設けられた冷却空間3と、型面2に開口するピン孔40とを有する高合金工具鋼(SKD61)の型本体5と、ピン孔40に摺動可能に装着された高合金工具鋼(SKD61)の押出ピン6を有する。型面2はキャビティ1を区画しており、型面2の形状がキャビティ1の形状、ひいては成形品の形状を決定づける。冷却空間3は型本体5の内部に型面2と距離(d)の間隔を隔てて設けられる。冷却空間3の型面2側の面は、概ね型面2の形状に合わせた形状となっている。型面2の方向から観察した時、ピン孔40は円形状である。ピン孔40は、一端側で型面2に開口し他端側で冷却空間3に開口する主ピン孔部41と主ピン孔部41の延びる方向に設けられ一端側が冷却空間3に開口し他端側が型面2と背向する裏面7に開口する副ピン孔部42とを有する。ピン孔40のうち主ピン孔部41及び副ピン孔部42を除いた円柱状の部分が冷却空間3と共有する箇所である。ピン孔40に摺動可能に装着された押出ピン6とピン孔40(主ピン孔部41及び副ピン孔部42)との間にはクリアランスが存在する。そして、押出ピン6と主ピン孔部41との間のクリアランスを介してキャビティ1と冷却空間3は連通しているが、該クリアランスの大きさはキャビティ1に充填される溶湯などの被成形物が該クリアランスを通じて冷却通路3へ漏れることが無い程度の範囲に制限されている。押出ピン6は円柱状であり、溶湯などの被成形物がキャビティ1に充填される際には、図1に示す状態で、押出ピン6の上部の円形の上面がキャビティ1の一部を区画する。そして、キャビティ1に充填された被成形物が固化した後に、押出ピン6は固化した成形品を成形型から押し出す方向に摺動する。
【0036】
本発明の実施例1の成形装置を用いた鋳造を詳細に説明する。以下の鋳造は、参考例に該当する。
【0037】
まず、図1の状態の成形型のキャビティ1にアルミニウム溶湯が充填される。冷却空間3は、冷却空間3の端部に位置する冷媒排出部(図示せず)に接続したホースを介して配置されている冷媒導入出装置(真空ポンプ:図示せず)を稼働させることで、やや陰圧となっている。このため、アルミニウム溶湯が充填されたキャビティ1に残存する空気が、押出ピン6と主ピン孔部41との間のクリアランスを通って冷却空間3に移動する。キャビティ1へのアルミニウム溶湯の充填が完了したら、冷却空間3の端部に位置する冷媒導入部(図示せず)から冷却空間3に冷却水を導入する。冷却空間3に導入された冷却水は、冷却水と接する型本体5の冷却空間3を区画する面を低温にする。低温は冷却空間3と型面2との距離(d)を経て型面2に伝達され、キャビティ1に流れ込んだ高温のアルミニウム溶湯を冷却する。
【0038】
冷媒導入出装置を稼働させながら冷却を行うことで、常に新たな冷却水が冷却空間3に供給される。所定の冷却時間が経過しキャビティ1内のアルミニウムの固化が完了した段階で、冷媒導入部において冷却水の導入を停止し冷却空間3を開放系とすることで(例えば、冷媒導入部に外部と連通し得る三方弁を設けておく)、冷却空間内の冷却水は冷媒排出部から迅速に排出される。そして、固化したアルミニウムを成形型から押し出す方向に押出ピン6が摺動することで成形品のアルミニウムが型面2から脱離し、所望の型に成形されたアルミニウム成形品が得られる。
【0039】
(実施例2)
本発明の実施例2の成形装置による成形型の断面図を図2に示す。
【0040】
実施例2の成形型は、基本的に実施例1の成形型を基礎としたものであるため、以下、実施例1と相違する箇所についての説明を行う。
【0041】
実施例2の型本体5は、キャビティ1を区画する型面2及び冷却空間3の一面を区画する第一部材51と、冷却空間3の他の面を区画する第二部材52とを、互いに接する接触部53で密着させてなる。アルミニウム溶湯と接する第一部材51は耐熱性の材料の高合金工具鋼(SKD61)からなる。第二部材52は廉価な鉄からなる。このため、費用の面で有利である。また、型本体5の内部の冷却空間3の形状は、第一部材51と第二部材52の表面形状に因って決定される。そのため、冷却空間3を所望の形状とするための作業は第一部材51及び/又は第二部材52の表面形状を加工すれば足りるため、実施例1の単一の部材からなる型本体よりも、たやすく冷却空間3の形状を形成又は変更できる。つまり、型本体5の内部の冷却空間3の形状を所望の形状とする又は冷却空間3の形状を好適なものに適宜変更するのに好都合である。
【0042】
また、実施例2の成形型は、ピン孔43に摺動可能に装着された高合金工具鋼(SKD61)の鋳抜きピン8を有する。鋳抜きピン8は、成形品に円柱形状の鋳抜き箇所を形成するための円柱形状の鋳抜き部81、鋳抜き部81と一体化する円柱形状の鋳抜きピン本体部82、鋳抜きピン本体部82と結合し該鋳抜きピン本体部82よりも大径の円柱形状の鋳抜きピン頭部83からなる。溶湯などの被成形物がキャビティ1に流れ込む際には鋳抜きピン8の鋳抜き部81はキャビティ内に突出しており、そして、被成形物が冷却されて固化した後に、鋳抜きピン8の鋳抜き部81を成形品から引き抜く方向に鋳抜きピン8を摺動させることで、成形品の内部に所望の空洞(鋳抜き箇所)を形成することができる。
【0043】
型面2の方向から観察した時、鋳抜きピン8のピン孔43は円形状である。ピン孔43は、一端側で型面2に開口し他端側で冷却空間3に開口する主ピン孔部44と主ピン孔部44の延びる方向に設けられ一端側が冷却空間3に開口し他端側が型面2と背向する裏面7に開口する副ピン孔部45とを有する。ピン孔43のうち主ピン孔部44及び副ピン孔部45を除いた円柱状の部分が冷却空間3と共有する箇所である。ピン孔43に摺動可能に装着された鋳抜きピン8とピン孔43(主ピン孔部44及び副ピン孔部45)との間にはクリアランスが存在する。そして、鋳抜きピン8と主ピン孔部44との間のクリアランスを介してキャビティ1と冷却空間3は連通しているが、該クリアランスの大きさはキャビティ1に充填される溶湯などの被成形物が該クリアランスを通じて冷却通路3へ漏れることが無い程度の範囲に制限されている。
【0044】
本発明の実施例2の成形装置を用いた鋳造を詳細に説明する。以下の鋳造は、参考例に該当する。
【0045】
まず、図2の状態の成形型のキャビティ1にアルミニウム溶湯が充填される。冷却空間3は、冷却空間3の端部に位置する冷媒排出部(図示せず)に接続したホースを介して配置されている冷媒導入出装置(真空ポンプ:図示せず)を稼働させることで、やや陰圧となっている。このため、アルミニウム溶湯が充填されたキャビティ1に残存する空気が、押出ピン6と主ピン孔部41との間のクリアランス、又は鋳抜きピン8と主ピン孔部44との間のクリアランスを通って冷却空間3に移動する。キャビティ1へのアルミニウム溶湯の充填が完了したら、冷却空間3の端部に位置する冷媒導入部(図示せず)から冷却空間3に冷却水を導入する。冷却空間3に導入された冷却水は、冷却水と接する型本体5(第一部材51)の冷却空間3を区画する面を低温にする。低温は冷却空間3と型面2との距離(d)を経て型面2に伝達され、キャビティ1に流れ込んだ高温のアルミニウム溶湯を冷却する。
【0046】
冷媒導入出装置を稼働させながら冷却を行うことで、常に新たな冷却水が冷却空間3に供給される。所定の冷却時間が経過しキャビティ1内のアルミニウムの固化が完了した段階で、冷媒導入部において冷却水の導入を停止し冷却空間3を開放系とすることで(例えば、冷媒導入部に外部と連通し得る三方弁を設けておく)、冷却空間内の冷却水は冷媒排出部から迅速に排出される。そして、鋳抜きピン8の鋳抜き部81を成形品から引き抜く方向に鋳抜きピン8を摺動させることで、成形品の内部に円柱形状の空洞を形成する。その後、固化したアルミニウムを成形型から押し出す方向に押出ピン6が摺動することで成形品のアルミニウムが型面2から脱離し、所望の型に成形されたアルミニウムが得られる。
【符号の説明】
【0047】
1はキャビティ、2は型面、3は冷却空間、40、43はピン孔、41、44は主ピン孔部、42、45は副ピン孔部、5は型本体、51は第1部材、52は第2部材、53は接合部、6は押出ピン、7は裏面、8は鋳抜きピン、81は鋳抜き部、82は鋳抜きピン本体部、83は鋳抜きピン頭部を示す。dは型面2と冷却空間3の距離を示す。
図1
図2