特許第6153800号(P6153800)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6153800リフティングマグネット装置及びリフティングマグネット装置の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6153800
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】リフティングマグネット装置及びリフティングマグネット装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B66C 1/08 20060101AFI20170619BHJP
   B66C 1/06 20060101ALI20170619BHJP
【FI】
   B66C1/08 Z
   B66C1/06 A
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-150601(P2013-150601)
(22)【出願日】2013年7月19日
(65)【公開番号】特開2015-20872(P2015-20872A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2015年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】野中 敦
【審査官】 岡崎 克彦
(56)【参考文献】
【文献】 実開平06−045972(JP,U)
【文献】 特開昭52−109257(JP,A)
【文献】 実開昭56−106414(JP,U)
【文献】 特開2005−082276(JP,A)
【文献】 特開昭54−094661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 1/00−3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の極と、前記複数の極にそれぞれ対応する複数のコイルと、を有するリフティングマグネットと、
前記複数のコイルへの電流の供給を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記リフティングマグネットにより被吊り上げ物の地切りを行うための地切りモードと、前記地切り後に前記リフティングマグネットにより前記被吊り上げ物を吊り上げるための吊り上げモードと、を切り替え可能であり、前記吊り上げモードにおいて励磁される前記極の数が前記地切りモードにおいて励磁される前記極の数よりも多くなるように前記複数のコイルへの前記電流の供給を制御し、
前記複数の極は、前記被吊り上げ物を吊り上げる吊り上げ方向に垂直な断面の断面積が同一であり、対応する前記コイルのそれぞれに所定の電力が供給されて励磁された場合、互いに等しい磁力を発生する、リフティングマグネット装置。
【請求項2】
前記吊り上げモードにおいて励磁される前記極は、前記被吊り上げ物を吊り上げる吊り上げ方向に垂直な断面の断面積の合計が前記地切りモードにおいて励磁される前記極と比べて2倍以上である、請求項1に記載のリフティングマグネット装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記吊り上げモードにおいて、前記地切りモードで励磁された前記極に加えて更に他の前記極を励磁するように前記複数のコイルへの前記電流の供給を制御する、請求項1又は2に記載のリフティングマグネット装置。
【請求項4】
前記リフティングマグネットを複数吊り下げる吊ビームを更に備え、
前記制御手段は、複数の前記リフティングマグネットのそれぞれについて、前記複数のコイルへの前記電流の供給を制御する、請求項1〜3の何れか一項に記載のリフティングマグネット装置。
【請求項5】
複数の極と、前記複数の極にそれぞれ対応する複数のコイルと、を有するリフティングマグネット装置の制御方法であって、
前記リフティングマグネットにより被吊り上げ物の地切りを行う地切り工程と、
前記地切り工程の後に前記リフティングマグネットにより前記被吊り上げ物を吊り上げる吊り上げ工程と、
を含み、
前記吊り上げ工程では、励磁される前記極の数が前記地切り工程において励磁される前記極の数よりも多くなるように前記複数のコイルへの電流の供給が制御され
前記複数の極は、前記被吊り上げ物を吊り上げる吊り上げ方向に垂直な断面の断面積が同一であり、対応する前記コイルのそれぞれに所定の電力が供給されて励磁された場合、互いに等しい磁力を発生する、リフティングマグネット装置の制御方法。
【請求項6】
前記吊り上げ工程では、前記地切り工程で励磁された前記極に加えて更に他の前記極を励磁するように前記複数のコイルへの電流の供給が制御される、請求項5に記載のリフティングマグネット装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リフティングマグネット装置及びリフティングマグネット装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被吊り上げ物(鋼板等)を磁力によって吸引して吊り上げるリフティングマグネットとして、下記特許文献1に挙げるものが知られている。このリフティングマグネットは、極(磁性体)と、極を励磁するために電流を流すコイルとを備えている。ここで、リフティングマグネットの吸引力は、通常、コイルへの電流の供給を制御することによって調整される。
【0003】
具体的には、被吊り上げ物の吊り上げ時の安全性を確保するために、コイルに供給される電流を定格電流以下とした状態で地切りを行い、コイルに供給される電流を定格電流とした状態で被吊り上げ物の吊り上げを行っている。つまり、コイルに供給される電流を地切り時よりも吊り上げ時の方が大きくなるように調整することによって、吊り上げ時の吸引力を地切り時の吸引力よりも大きくし、吊り上げ時における被吊り上げ物の落下等を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−82276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、コイルに供給される電流とリフティングマグネットの吸引力とは、単純な比例関係にはない。また、リフティングマグネットの吸引力は、コイルに供給される電流以外にも、例えば、被吊り上げ物の表面と極の当接面との間のギャップや温度等によって影響を受ける。従って、コイルに供給される電流を調整する従来の方法では、コイルに供給される電流をどの程度調整すれば地切り時の吸引力に対して吊り上げ時の吸引力を十分大きくすることができるか、すなわち十分な安全率(吊り上げ時の吸引力/地切り時の吸引力)を確保できるかを、作業者が容易に把握できないという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、地切り時に対する吊り上げ時の安全率を容易に確保することができるリフティングマグネット装置及びリフティングマグネット装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係るリフティングマグネット装置は、複数の極と、複数の極にそれぞれ対応する複数のコイルと、を有するリフティングマグネットと、複数のコイルへの電流の供給を制御する制御手段と、を備え、制御手段は、リフティングマグネットにより被吊り上げ物の地切りを行うための地切りモードと、地切り後にリフティングマグネットにより被吊り上げ物を吊り上げるための吊り上げモードと、を切り替え可能であり、吊り上げモードにおいて励磁される極の数が地切りモードにおいて励磁される極の数よりも多くなるように複数のコイルへの電流の供給を制御することを特徴とする。
【0008】
本発明に係るリフティングマグネット装置では、リフティングマグネットに複数の極と各極に対応する複数のコイルとが設けられており、制御手段が、吊り上げモードの方が地切りモードよりも励磁される極の数が多くなるように、複数のコイルへの電流の供給を制御する。従って、このリフティングマグネット装置によれば、励磁される極の数の増加によって、地切り時に対する吊り上げ時の安全率を容易に確保することができる。
【0009】
本発明に係るリフティングマグネット装置では、複数の極は、被吊り上げ物を吊り上げる吊り上げ方向に垂直な断面の断面積が同一であってもよい。
このリフティングマグネット装置では、各極の吊り上げ方向に垂直な断面の断面積が全て同一であるので、励磁された場合に発揮される吸引力の大きさを、全ての極でほぼ等しくすることができる。従って、地切り時に励磁される極の数に対する吊り上げ時に励磁される極の数の比率に応じて、地切り時に対する吊り上げ時の安全率をより確実に確保することができる。
【0010】
本発明に係るリフティングマグネット装置では、吊り上げモードにおいて励磁される極は、被吊り上げ物を吊り上げる吊り上げ方向に垂直な断面の断面積の合計が地切りモードにおいて励磁される極と比べて2倍以上であってもよい。
このリフティングマグネット装置によれば、吊り上げ時に励磁される極の断面積の合計を地切り時に励磁される極の断面積の合計の2倍以上とすることで、地切り時に対する吊り上げ時の安全率を2以上とすることができる。従って、吊り上げ時の安全性をより確実に確保することができる。
【0011】
本発明に係るリフティングマグネット装置では、制御手段は、吊り上げモードにおいて、地切りモードで励磁された極に加えて更に他の極を励磁するように複数のコイルへの電流の供給を制御してもよい。
このリフティングマグネット装置によれば、地切り時に励磁させた極を、吊り上げ時においても引き続き励磁させたままとし、更に他の極を励磁させる。従って、吊り上げ時の吸引力が地切り時の吸引力と比べてより確実に大きくなるので、吊り上げ時の安全性を十分に確保することができる。また、このリフティングマグネット装置では、地切り時に励磁させた極を吊り上げ時に消磁させる場合と比べて、効率的に運用することができる。
【0012】
本発明に係るリフティングマグネット装置は、リフティングマグネットを複数吊り下げる吊ビームを更に備え、制御手段は、複数のリフティングマグネットのそれぞれについて、複数のコイルへの電流の供給を制御してもよい。
このリフティングマグネット装置では、吊ビームに吊り下げられた複数のリフティングマグネットにより、長尺状の鋼板等を被吊り上げ物として容易に吊り上げることができる。
【0013】
本発明に係るリフティングマグネット装置の制御方法は、複数の極と、複数の極にそれぞれ対応する複数のコイルと、を有するリフティングマグネット装置の制御方法であって、リフティングマグネットにより被吊り上げ物の地切りを行う地切り工程と、地切り工程の後にリフティングマグネットにより被吊り上げ物を吊り上げる吊り上げ工程と、を含み、吊り上げ工程では、励磁される極の数が地切り工程で励磁される極の数よりも多くなるように複数のコイルへの電流の供給が制御されることを特徴とする。
【0014】
本発明に係るリフティングマグネット装置の制御方法では、リフティングマグネットに複数の極と各極に対応する複数のコイルとが設けられており、吊り上げ工程の方が地切り工程よりも励磁される極の数が多くなるように、複数のコイルへの電流の供給が制御される。従って、このリフティングマグネット装置の制御方法によれば、励磁される極の数の増加によって、地切り時に対する吊り上げ時の安全率を容易に確保することができる。
【0015】
本発明に係るリフティングマグネット装置の制御方法では、吊り上げ工程では、地切り工程において励磁された極に加えて更に他の極を励磁するように複数のコイルへの電流の供給が制御されてもよい。
このリフティングマグネット装置の制御方法によれば、地切り時に励磁させた極を、吊り上げ時においても引き続き励磁させたままとし、更に他の極を励磁させる。従って、吊り上げ時の吸引力が地切り時の吸引力と比べてより確実に大きくなるので、吊り上げ時の安全性を十分に確保することができる。また、このリフティングマグネット装置の制御方法では、地切り時に励磁させた極を吊り上げ時に消磁させる場合と比べて、効率的に運用することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、地切り時に対する吊り上げ時の安全率を容易に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るリフティングマグネット装置を示す概略側面図である。
図2】(a)は、図1に示すリフティングマグネットの縦断面図であり、(b)は、(a)のIIb−IIb線に沿った断面図であり、(c)は、図1に示すリフティングマグネットの底面図である。
図3】地切りモードのリフティングマグネットの状態を示す概略側面図である。
図4】(a)は、図3に示すリフティングマグネットの縦断面図であり、(b)は、(a)のIVb−IVb線に沿った断面図であり、(c)は、図3に示すリフティングマグネットの底面図である。
図5】吊り上げモードのリフティングマグネットの状態を示す概略側面図である。
図6】(a)は、図5に示すリフティングマグネットの縦断面図であり、(b)は、(a)のVIb−VIb線に沿った断面図であり、(c)は、図5に示すリフティングマグネットの底面図である。
図7】第1の変形例に係るリフティングマグネットの(a)地切りモードにおける断面図及び(b)吊り上げモードにおける断面図である。
図8】第2の変形例に係るリフティングマグネットの(a)地切りモードにおける断面図及び(b)吊り上げモードにおける断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係るリフティングマグネット装置1を示す概略側面図である。図1に示すリフティングマグネット装置1は、図示しないクレーン等に取り付けられ、リフティングマグネット2の磁力によって鋼板等の被吊り上げ物を運搬するための装置である。リフティングマグネット装置1は、図1に示す吊り上げ方向Cに被吊り上げ物を吊り上げる。吊り上げ方向Cは、鉛直方向(上下方向)に相当する。
【0020】
このリフティングマグネット装置1は、リフティングマグネット2と、リフティングマグネット2を吊り下げる吊ビーム3と、リフティングマグネット2への電流の供給を制御する制御盤(制御手段)4とを備えている。リフティングマグネット装置1は、2つのリフティングマグネット2A,2Bを備えている。
【0021】
吊ビーム3は、長尺状の部材であり、長手方向の両端側のそれぞれにリフティングマグネット2A,2Bを吊り下げることで、長尺の鋼板等の被吊り上げ物を運搬することに利用される。図1に示されるように、吊ビーム3は、長手方向における一端側の下部にリフティングマグネット2Aを吊り下げており、他端側の下部にリフティングマグネット2Bを吊り下げている。
【0022】
吊ビーム3の上部には、クレーンフック5と連結するための連結部6が設けられている。連結部6は、吊ビーム3の長手方向における一端側及び他端側にそれぞれ設けられている。吊ビーム3は、各連結部6が各クレーンフック5に連結されることにより、図示しないクレーンに吊り下げられている。
【0023】
吊ビーム3の下部には、リフティングマグネット2A,2Bを吊り下げるための吊り具7がそれぞれ設けられている。各吊り具7の上端は、吊ビーム3の下部に連結されている。また、各吊り具7の下端は、リフティングマグネット2の上部(後述する筐体9の板部9a)に連結されている。すなわち、リフティングマグネット2A,2Bは、吊り具7を介して、吊ビーム3に吊り下げられている。
【0024】
制御盤4は、例えば図示しないクレーンに設けられた制御室R内に配置されている。ただし、制御盤4が配置される位置は上記以外の場所であってもよい。制御盤4は、リフティングマグネット2に電流を供給するための電源8と接続されている。電源8は、電流の供給源となるものであれば何でもよく、例えばバッテリー、発電装置、あるいは発電所で発電された電気を供給する送電線等であってもよい。制御盤4は、電源ケーブル等で構成される電流供給ラインLを介して各リフティングマグネット2に接続されている。
【0025】
続いて、図2を用いてリフティングマグネット2について詳細に説明する。なお、リフティングマグネット2Aとリフティングマグネット2Bとは同一の構成を有しているため、リフティングマグネット2Aの説明のみを行い、リフティングマグネット2Bの説明は省略する。
【0026】
図2(a)は、リフティングマグネット2Aの縦断面図である。図2(b)は、図2(a)のIIb−IIb線に沿った断面図である。図2(c)は、リフティングマグネット2Aの底面図である。図2に示されるように、リフティングマグネット2Aは、鉄製の筐体9を有している。この筐体9の内側には、複数(ここでは4つ)の極10(極10A〜10D)と、複数の極10にそれぞれ対応する複数のコイル11(コイル11A〜11D)と、ステンレス鋼製の底板12とが配置されている。
【0027】
筐体9は、図1に示したように吊り具7の下端に連結される四角形状の板部9aと、板部9aの周縁から下方に延在する四角筒状の筒部9bとを有している。極10A〜10Dは、いずれも同一の正四角柱状をなしており、吊り上げ方向Cに沿って延在している。極10A〜10Dを吊り上げ方向Cに垂直に切った断面(以下、単に「断面」という)の形状は、吊り上げ方向Cの位置にかかわらず同一の正方形状をなしている。また、図2(b)に示されるように、極10A〜10Dの断面の形状及び断面積は、いずれも同一である。
【0028】
極10A〜10Dは、下から見て、板部9aの四隅(四角筒状の筒部9bの内側の四隅)に沿うようにそれぞれ配置されている。具体的には、図1の図示左手前側には、極10Aが配置されている。図1の図示右手前側には、極10Bが配置されている。図1の図示左奥側には、極10Cが配置されている。図1の図示右奥側には、極10Dが配置されている。極10A〜10Dの側面には、コイル11A〜11Dがそれぞれ巻回されている。これらのコイル11A〜11Dには、電流供給ラインLを介して制御盤4から電流が供給される。
【0029】
極10は、例えば鉄等の強磁性体である。極10の周囲に巻回されたコイル11に電流が流れることにより、当該極10は、励磁されて磁束(磁場)を発生させる。具体的には、コイル11Aに電流が流れると極10Aが励磁される。コイル11Bに電流が流れると極10Bが励磁される。コイル11Cに電流が流れると極10Cが励磁される。コイル11Dに電流が流れると極10Dが励磁される。これにより、励磁された極10の下面13(下面13A〜13D)は、磁力によって鋼板等の被吊り上げ物を吸引する力(吸引力)を発揮する。
【0030】
極10A〜10Dの下面13A〜13Dは、筒部9bの下端面9cよりも下方に突出している。底板12は、筒部9bの内側に設けられ、コイル11A〜11Dの下側を覆う部材である。具体的には、底板12は、コイル11A〜11Dの下方、且つ筒部9bの下端面9cよりも上方に設けられている。また、底板12には、極10を貫通させるための貫通孔が設けられており、極10は、当該貫通孔を貫通している。
【0031】
続いて、制御盤4による電流の供給制御について説明する。制御盤4は、リフティングマグネット2A,2Bの8つのコイル11への電流の供給を制御する制御手段である。制御盤4は、リフティングマグネット2により被吊り上げ物の地切りを行うための地切りモードと、地切り後にリフティングマグネット2により被吊り上げ物を吊り上げるための吊り上げモードと、を切り替え可能である。制御盤4は、吊り上げモードにおいて励磁される極10の数が地切りモードにおいて励磁される極10の数よりも多くなるように各コイル11への電流の供給を制御する。
【0032】
ここで、「地切り」とは、クレーンの巻き上げ操作等によって被吊り上げ物を地面から離し、その後クレーンの巻き上げ操作を一旦停止して被吊り上げ物のバランス(安定性)を確認するまでの一連の作業を意味する。また、「吊り上げ」とは、被吊り上げ物のバランスを確認した後(地切り後)に、被吊り上げ物を更に上方に吊り上げる作業(被吊り上げ物の運搬作業を含む)を意味する。
【0033】
図3及び図4を用いて、地切り時における制御盤4による電流の供給制御、及びリフティングマグネット2の状態について説明する。図3は、地切りモードのリフティングマグネット2の状態を示す図である。図4(a)は、図3に示すリフティングマグネット2Aの縦断面図である。図4(b)は、図4(a)のIVb−IVb線に沿った断面図である。図4(c)は、図3に示すリフティングマグネット2Aの底面図である。
【0034】
図3及び図4(c)において、励磁された極10を黒塗りで示す。また、図4(a)及び図4(b)において励磁された極10及び制御盤4から電流が供給されているコイル11をドット柄のハッチングで示す。
【0035】
制御盤4は、鋼板(被吊り上げ物)Tの地切りを行う際には、地切りモードに設定される。なお、制御盤4の地切りモードの設定(切替)は、例えば制御盤4に接続された操作器を介した作業者の操作により行われてもよい。本実施形態では、地切りモードは、鋼板Tを吊り下げた際のバランスを考慮して、鋼板Tの長手方向における両端側それぞれ2つずつ(計4つ)のコイル11に電流が供給されるように予め設定されている。
【0036】
具体的には、地切りモードに設定された制御盤4は、リフティングマグネット2Aのコイル11A,11Cに電流を供給すると共に、リフティングマグネット2Bのコイル11B,11Dに電流を供給する。制御盤4は、リフティングマグネット2Aのコイル11B,11D及びリフティングマグネット2Bのコイル11A,11Cには、電流を供給しない。
【0037】
なお、地切りモードで電流が供給されるコイル11として設定されるコイル11の組み合わせは上記に限定されない。例えば、地切りモードでは、鋼板Tの長手方向の中央部側のコイル11に電流が供給されるように設定されてもよい。すなわち、地切りモードでは、リフティングマグネット2Aのコイル11B,11D及びリフティングマグネット2Bのコイル11A,11Cにのみ電流が供給されるように設定されてもよい。または、地切りモードでは、鋼板Tの長手方向の中央部側及び端部側のそれぞれのコイル11に電流が供給されるように設定されてもよい。すなわち、地切りモードでは、リフティングマグネット2Aのコイル11B,11C及びリフティングマグネット2Bのコイル11B,11Cにのみ電流が供給されるように設定されてもよい。
【0038】
ここで、リフティングマグネット2Aにおいて電流が供給されたコイル11A,11Cに対応する極10A,10Cは、励磁され、図4(a)に示す磁束方向Dの磁束を有する磁場を生成する。これにより、鋼板Tは、リフティングマグネット2Aにおいて励磁された極10A,10Cの下面13A,13Cに、磁力によって吸引されることとなる。
【0039】
同様に、リフティングマグネット2Bにおいて電流が供給されたコイル11B,11Dに対応する極10B,10Dは、励磁され、磁場を生成する。これにより、鋼板Tは、リフティングマグネット2Bにおいて励磁された極10B,10Dの下面13B,13Dに、磁力によって吸引されることとなる。
【0040】
次に、図5及び図6を用いて、吊り上げ時における制御盤4による電流の供給制御、及びリフティングマグネット2の状態について説明する。図5は、吊り上げモードのリフティングマグネット2の状態を示す図である。図6(a)は、図5に示すリフティングマグネット2Aの縦断面図である。図6(b)は、図6(a)のVIb−VIb線に沿った断面図である。図6(c)は、図5に示すリフティングマグネット2Aの底面図である。
【0041】
図5及び図6(c)において、励磁された極10を黒塗りで示す。また、図6(a)及び図6(b)において励磁された極10及び制御盤4から電流が供給されているコイル11をドット柄のハッチングで示す。
【0042】
制御盤4は、鋼板Tの吊り上げを行う際には、吊り上げモードに設定される。なお、制御盤4の吊り上げモードの設定(切替)は、例えば制御盤4に接続された操作器を介した作業者の操作により行われてもよい。吊り上げモードに設定された制御盤4は、リフティングマグネット2A,2Bの計8つの全てのコイル11に電流を供給する。これにより、各リフティングマグネット2A,2Bにおいて電流が供給された全てのコイル11A〜11Dに対応する全ての極10A〜10Dは、励磁され、地切りモードよりも大きな磁束(磁場)を発生させる。これにより、鋼板Tは、リフティングマグネット2A,2Bの全ての極10A〜10Dの下面13A〜13Dに、磁力によって吸引されることとなる。
【0043】
以上説明したリフティングマグネット装置1では、リフティングマグネット2A,2Bに複数(本実施形態では8つ)の極10と各極10にそれぞれ対応する複数のコイル11とが設けられている。また、制御盤4が、吊り上げモードの方が地切りモードよりも励磁される極10の数が多くなるように、コイル11への電流の供給を制御する。従って、このリフティングマグネット装置1によれば、励磁される極10の数の増加によって、地切り時に対する吊り上げ時の安全率を容易に確保することができる。
【0044】
また、全ての極10の形状が同一であり、各極10の吊り上げ方向Cに垂直な断面の断面積が全て同一であるので、励磁された場合に発揮される吸引力の大きさを、全ての極10でほぼ等しくすることができる。従って、地切り時に励磁される極10の数(本実施形態では4つ)に対する吊り上げ時に励磁される極10の数(本実施形態では8つ)の比率に応じて、地切り時に対する吊り上げ時の安全率をより確実に確保することができる。
【0045】
また、吊り上げ時に励磁される極10の断面積の合計を地切り時に励磁される極10の断面積の合計の2倍以上(本実施形態では2倍)とすることで、地切り時に対する吊り上げ時の安全率を2以上(本実施形態では「2」)とすることができる。従って、吊り上げ時の安全性をより確実に確保することができる。
【0046】
また、地切り時に励磁させた極10A,10Cを吊り上げ時においても引き続き励磁させたままとし、更に他の極10B,10Dを励磁させている。従って、吊り上げ時の吸引力が地切り時の吸引力と比べてより確実に大きくなるので、吊り上げ時の安全性を十分に確保することができる。また、地切り時に励磁させた極10A,10Cを吊り上げ時に消磁させる場合と比べて、効率的に運用することができる。
【0047】
また、このリフティングマグネット装置1では、吊ビーム3に吊り下げられた複数(2つ)のリフティングマグネット2A,2Bにより、長尺状の鋼板Tを容易に吊り上げることができる。また、制御盤4が、複数のリフティングマグネット2A,2Bそれぞれに対して供給電流の制御をまとめて行うので、リフティングマグネットごとに制御盤4が独立している場合と比べて、地切り時に対する吊り上げ時の安全率を容易に確保することができる。
【0048】
次に、本発明の一実施形態に係るリフティングマグネット装置1の制御方法について説明する。リフティングマグネット装置1の制御方法は、リフティングマグネット2により鋼板Tの地切りを行う地切り工程と、地切り工程の後にリフティングマグネット2により鋼板Tを吊り上げる吊り上げ工程と、を含む。そして、制御盤4は、吊り上げ工程において、励磁される極10の数が地切り工程において励磁される極10の数よりも多くなるようにコイル11への電流の供給を制御する。地切り工程においては、上述した地切りモードに制御盤4が設定される。また、吊り上げ工程においては、上述した吊り上げモードに制御盤4が設定される。
【0049】
具体的には、制御盤4は、吊り上げ工程において、励磁される極10の断面積の合計が地切り工程において励磁される極10の断面積の合計の2倍以上となるようにコイル11への電流の供給を制御する。この際、制御盤4は、吊り上げ工程において、地切り工程で励磁された極10に加えて更に他の極10を励磁するようにコイル11への電流の供給を制御する。
【0050】
より具体的には、地切り工程においては、制御盤4は、例えば図3及び図4に示されるように、リフティングマグネット2A,2Bの8つのコイル11のうち、鋼板Tの長手方向における両端に配置された計4つのコイル11にのみ電流を供給する。これにより、リフティングマグネット2Aの極10A,10Cとリフティングマグネット2Bの極10B,10Dとが励磁される。その後、吊り上げ工程においては、制御盤4は、図5及び図6に示されるように、地切り工程において電流を供給していないコイル11に対しても電流を供給する。これにより、地切り工程に励磁させた極10が、吊り上げ工程においても引き続き励磁させられたままとなり、更に他の極10が励磁される。
【0051】
以上説明したリフティングマグネット装置1の制御方法によれば、励磁される極10の数の増加によって、地切り時に対する吊り上げ時の安全率を容易に確保することができる。また、吊り上げ時に励磁される極10の断面積の合計を地切り時に励磁される極10の断面積の合計の2倍以上とすることで、地切り時に対する吊り上げ時の安全率を2以上とすることができ、吊り上げ時の安全性をより確実に確保することができる。また、地切り時に励磁させた極10を、吊り上げ時においても引き続き励磁させたままとし、更に他の極10を励磁させるため、吊り上げ時の吸引力が地切り時の吸引力と比べてより確実に大きくなるので、吊り上げ時の安全性を十分に確保することができる。また、地切り時に励磁させた極10を吊り上げ時に消磁させる場合と比べて、効率的に運用することができる。
【0052】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、リフティングマグネット装置1が備えるリフティングマグネットは、必ずしも図2に示したような正方形の断面形状をなす4極構成のリフティングマグネット2である必要はない。例えば、リフティングマグネット装置1が備えるリフティングマグネットは、図7に示されるようなリフティングマグネット20であってもよいし、図8に示されるようなリフティングマグネット30であってもよい。
【0053】
図7(a)は、地切りモードにおけるリフティングマグネット20の吊り上げ方向に垂直な断面図である。図7(b)は、吊り上げモードにおけるリフティングマグネット20の吊り上げ方向に垂直な断面図である。これらの図に示されるように、リフティングマグネット20は、円形の板部21aと板部21aの周縁から下方に延在する円筒状の筒部21bとを有する筐体21を備えている。この筺体21の内側には、8つの断面円形の極22(極22A〜22H)が、筒部21bの内周面に沿って円状に等間隔で配置されている。極22A〜22Hの側面には、コイル23(コイル23A〜23H)がそれぞれ巻回されている。
【0054】
このリフティングマグネット20を用いる場合、制御盤4は、地切りモードでは、例えば、円状に並んだ8つのコイル23のうち一つ置きに選んだ4つのコイル23A,23C,23E,23Gに電流を供給するように電流の供給を制御すればよい。このような電流の供給制御によれば、下から見て、筐体21の板部21aの中心を挟むように互いに対向する2対の極22(極22Aと22E,及び、極22Eと22G)が励磁される。これにより、被吊り上げ物を吊り上げる際の安定性を保つことができる。また、制御盤4は、吊り上げモードでは、例えば8つ全てのコイル23に電流を供給するように電流の供給を制御すればよい。
【0055】
図8(a)は、地切りモードにおけるリフティングマグネット30の吊り上げ方向に垂直な断面図である。図8(b)は、吊り上げモードにおけるリフティングマグネット30の吊り上げ方向に垂直な断面図である。これらの図に示されるように、リフティングマグネット30は、長方形状の板部31aと板部31aの周縁から下方に延在する四角筒状の筒部31bとを有する筐体31を備えている。この筺体31の内側には、4つの断面四角形の極32(極32A〜32D)が、板部31aの長手方向に等間隔で配置されている。極32A〜32Dの側面には、コイル33(コイル33A〜33D)がそれぞれ巻回されている。
【0056】
リフティングマグネット30を用いる場合、制御盤4は、地切り時モードでは、例えば、直線状に並んだ4つのコイル33のうち板部31aの長手方向の両端に位置する2つのコイル33A,33Dに電流を供給するように電流の供給を制御すればよい。このような電流の供給制御によれば、例えば1つのリフティングマグネット30によって長尺状の鋼板を吊り上げる場合等において、吊り上げの安定性を高めることができる。具体的には、コイル33A,33Dによって励磁された極32A,32Dによって鋼板の両端側を吸引することで、鋼板をバランスよく吊り上げることができる。また、制御盤4は、吊り上げモードにおいて、例えば4つ全てのコイル33に電流を供給するように電流の供給を制御すればよい。
【0057】
リフティングマグネット20又はリフティングマグネット30を備えるリフティングマグネット装置においても、制御盤4が上述のように電流の供給を制御することにより、リフティングマグネット装置1と同様の作用効果を奏することができる。
【0058】
なお、上述した実施形態及び変形例において、リフティングマグネットは、必ずしも全ての極が同一の断面形状を有する場合に限られない。また、全ての極の断面積が同一である場合に限られない。すなわち、本発明に係るリフティングマグネット装置は、一つのリフティングマグネットにおいて異なる断面形状や断面積の極を有していてもよい。
【0059】
また、筐体の筒部を極と同様の鉄等の強磁性体としてもよい。これにより、筒部を外極として利用することができ、リフティングマグネットの吸引力を高めることができる。
【0060】
また、極としては、上述した鉄等の強磁性体の他、アルニコ磁石等の永久磁石を用いてもよい。この場合にも、複数のコイルへの電流の供給を制御することで励磁される極の数を調整することができ、リフティングマグネット全体での磁束(磁場)の強度を調整することができる。
【0061】
また、リフティングマグネット装置は、必ずしも吊ビームを備えている必要はなく、例えばクレーンフックや特殊車両に直接リフティングマグネットを接続する構成としてもよい。また、リフティングマグネット装置が吊ビームを備える場合において、吊ビームに吊り下げるリフティングマグネットの個数は1個でもよく、3個以上でもよい。
【符号の説明】
【0062】
1…リフティングマグネット装置 2(2A,2B),20,30…リフティングマグネット 3…吊ビーム 4…制御盤(制御手段) 5…クレーンフック 6…連結部 7…吊り具 8…電源 9,21,31…筐体 10(10A〜10D),22(22A〜22H),32(32A〜32D)…極 11(11A〜11D),23(23A〜23H),33(33A〜33D)…コイル 12…底板 C…吊り上げ方向 D…磁束方向 G…地面 L…電流供給ライン R…制御室 T…鋼板(被吊り上げ物)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8