(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
集電層と、該集電層の少なくとも片面に設けられ、主として二次元的に連結されてなる複数のスピネル型マンガン酸リチウム系単結晶粒子から構成され且つセラミックス焼結体で構成される活物質板とを備えた第一電極及び第二電極と、
前記第一電極及び前記第二電極の間で前記活物質板と接触可能に設けられ、リチウムイオン伝導性を有する電解質と、
を備えた蓄電素子。
【発明を実施するための形態】
【0011】
蓄電素子
図1に、本発明による蓄電素子の構成を模式的に示す。
図1に示される蓄電素子10は、第一電極12、第二電極14及び電解質16を備えてなる。第一電極12は、集電層12aと、この集電層の少なくとも片面に設けられる活物質板12bとを備えてなる。同様に、第二電極14は、集電層14aと、この集電層の少なくとも片面に設けられる活物質板14bとを備えてなる。活物質板12b,14bは、主として二次元的に連結されてなる複数のスピネル型マンガン酸リチウム系単結晶粒子Sから構成される。電解質16は、第一電極12及び第二電極14の間で活物質板12b,14bと接触可能に設けられ、リチウムイオン伝導性を有する。なお、
図1に示される電解質16は固体電解質であるが、電解液の形態であってもよい。
【0012】
このように、第一電極12及び第二電極14は構成に相違は無く、荷電状態ないし印加電圧に応じて正負極いずれにも機能しうる無極性電極である。すなわち、リチウムイオンを吸蔵脱離可能な電極12,14を無極性電極として用い、リチウムイオン伝導性の電解質16と組み合わせることで、電極間電位差に応じてリチウムイオンが電極12,14間で双方向に移動可能となる。これは、第一電極12及び第二電極14における活物質板12b,14bを構成するスピネル型マンガン酸リチウムは、リチウムイオンの吸蔵により酸化還元電位が低下し、かつ、リチウムイオンの脱離により酸化還元電位が上昇する性質を有するからである。このようにリチウムイオンの吸蔵や脱離に応じて酸化還元電位が変化することで、充放電が可能となる。したがって、このような性質を有する両電極12,14間にリチウムイオン伝導性を有する電解質16を介在させることで正負極を問わずに双方向の充放電が可能となり、無極性蓄電素子としての機能が確保される。すなわち、充電においては、活物質基本組成に由来して当初はリチウムイオン量が等しい第一電極12及び第二電極14間に電圧が印加されると、高電位側の電極から固体電解質を経て低電位の電極にリチウムイオンが移動する結果、電荷が蓄積される。一方、放電においては、低電位側の電極から固体電解質を経て高電位の電極にリチウムイオンが移動する結果、両電極は等電位となり電位差はゼロとなる。そして、第一電極12及び第二電極14は構成に相違は無いので、逆方向に充電させた場合であっても同様の原理により電荷が蓄積されて放電される。
【0013】
したがって、LiMn
2O
4なる活物質基本組成を想定した場合、第一電極の活物質板12bの組成がLi
1−αMn
2O
4(式中0<α≦1である)で表されるとき、第二電極の活物質板14bの組成がLi
1+αMn
2O
4と表され、第一電極の組成がLi
1+αMn
2O
4(式中0<α≦1である)で表されるとき、第二電極の組成がLi
1−αMn
2O
4と表されることができる。この表現を用いて上述の充放電を説明すると、まず、放電完了時における蓄電素子10の電位差Eは0であり(すなわち両電極は等しい平衡電位E
eqを有する)リチウムの増減量を示す係数αは第一電極12及び第二電極14共に同じ0である。そして、蓄電素子10が充電されると、第一電極12の平衡電位がE
minと低下してリチウムイオンの供給及び挿入によりリチウム量が1+αに増加する一方、第二電極14の平衡電位がE
maxと上昇してリチウムイオンの脱離及び放出によりリチウム量が1−αに減少する結果、蓄電素子10には電位差E=E
max−E
min>0が生じる。なお、この充電とは逆方向に充電を行った場合には、先の充電の場合と第一電極12及び第二電極14における電位及びリチウム量の関係が逆転し、蓄電素子10には反対の電位差E=E
min−E
max<0が生じる。このように、本発明による蓄電素子10は無極性の極めて簡素な構成でありながら双方向に充放電可能である。特に、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)はLi
2Mn
2O
4の組成になるまでリチウムを吸蔵できる一方、Mn
2O
4の組成になるまでLiを放出することができる点で、双方向の充放電に極めて適しているといえる。また、特許文献1にみられるような正負極間を短絡するような構成を採る必要も無いので、少ない損失で充放電可能である。その上、実装において極性の識別が不要となるので、製造コストや作業負荷も低減できる。
【0014】
ここで、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)は、Liを取り込んでLi
1+αMn
2O
4に変化する際及びLiを放出してLi
1−αMn
2O
4に変化する際に、格子体積の変化量が大きいという特性を有する。とりわけ、Liを取り込んでLi
1+αMn
2O
4に変化する際の格子体積の変化は、立方晶から正方晶への結晶構造変化をともなうため、特に大きい。このため、マンガン酸リチウム粉末が導電助材と混合された構造の従来型電極においては、充放電サイクルを重ねることで、活物質粉末と導電助材の接触不良(すなわち活物質と導電助剤が外れる)が起こり、放電容量が大きく低下するという問題がある。この点、本発明の蓄電素子において用いる活物質板12b,14bは、
図1に示されるように、主として二次元的に連結されてなる複数のスピネル型マンガン酸リチウム系単結晶粒子Sから構成されている。この構成においては、集電層12a,14aに一端で結合してなる各単結晶粒子Sがその他端において電解質16と接触する。つまり、集電層12a,14aと電解質16は単層に配列された単結晶粒子Sを介してリチウムイオン伝導可能に接続されている。すなわち、活物質板12b,14bの厚さは、単結晶粒子Sの各々の厚さ方向の粒径と概ね一致する。その意味で、そのような複数ないし多数の単結晶粒子Sから構成される活物質板12b,14bは厚さ方向に粒子の重なりに起因する粒界が実質的に又は殆ど無い構造ということができ、リチウムイオン伝導の粒界による阻害が起こりにくい構造となっている。その上、本発明の構成においては、活物質板12b,14bを構成する殆ど全ての単結晶粒子Sが集電層12a,14aと(好ましくは焼結により)結合しているため、体積変化しても剥離しない。しかも、体積変化に起因して割れやすい粒界が電極に対して略垂直な方向に沿ってしか存在しないため、割れたとしても、集電層12a,14aと電解質16の間のリチウムイオン伝導パスが粒界で分断されることがなく、それ故、集電への影響がない。これらの種々の要因により、本発明の蓄電素子においては、極性の識別が不要な極めて簡素な構成でありながら、サイクル特性を大いに向上することができる。
【0015】
第一電極及び第二電極
第一電極12は、集電層12aと、この集電層の少なくとも片面に設けられる活物質板12bとを備えてなる。同様に、第二電極14は、集電層14aと、この集電層の少なくとも片面に設けられる活物質板14bとを備えてなる。活物質板12b,14bはそれぞれ集電層12a,14aに焼結により結合されることで、体積変化に起因する剥離を確実に防止できるように構成されるのが好ましい。
【0016】
集電層12a,14aは、主として導電体からなる集電体の層であり、板、箔又は膜の形態でありうる。集電層の材質は、ステンレス、金、白金、パラジウム、銅、ニッケル、銀、およびそれらの合金等の導電体であって、活物質板12b,14bと同時に焼成一体化可能なものであるのが好ましいが、金属箔を加工したものであってもよい。集電層の材質は、金属に限られるものではなく、リチウムイオン伝導体と電子伝導体の複合物であってもよい。集電層12a,14aの寸法は特に限定されないが、厚さは単位面積当たりの集電容量の観点から、0.1〜20μmが好ましく、より好ましくは0.2〜10μm、さらに好ましくは1〜5μmである。
【0017】
活物質板12b,14bは、主として二次元的に連結されてなる複数のスピネル型マンガン酸リチウム系単結晶粒子Sから構成される。この活物質板は、粒成長時に、結晶粒子の粒成長が活物質板の厚さまで達しないものがあるため、結晶粒子が重なり合う部分が局所的に存在しうるが、概して厚さ方向に結晶粒子を1個だけ含むものである。すなわち、活物質板12b,14bの厚さは、単結晶粒子Sの各々の厚さ方向の粒径と概ね一致する。その意味で、活物質板12b,14bは厚さ方向に粒子の重なりに起因する粒界が実質的に又は殆ど無い構造ということができる。この活物質板は、結晶粒子を1個だけ含む部分が、活物質板の面積割合で70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、理想的には約100%である。
【0018】
スピネル型マンガン酸リチウム系単結晶粒子Sは、リチウムとマンガンを構成元素として含むスピネル構造のマンガン酸リチウム系化合物からなる粒子であり、複数ないし多数の単結晶粒子Sが主として二次元的に連結されてなることで一枚の活物質板12b,14bを構成する。このような形態の活物質は正極活物質としては公知のものであり、例えば前述した特許文献3においても正極活物質として開示されている。しかしながら、本発明においては活物質板12b,14bは荷電状態ないし印加電圧に応じて正負極いずれにも機能しうる無極性電極を構成する。
【0019】
活物質板12b,14bを構成する単結晶粒子Sは、マンガン酸リチウム系化合物からなる。本発明においてマンガン酸リチウム系化合物は、スピネル構造を有する限り、マンガン酸リチウムの基本組成LiMn
2O
4又はこれに類する組成を有する化合物であることができる。具体的には、単結晶粒子Sは、一般式:
LiM
xMn
2−xO
4 (1)
(式中、Mは、Li、Fe、Ni、Mg、Zn、Al、Co、Cr、Si、Sn、P、V、Sb、Nb、Ta、Mo及びWからなる群より選択される少なくとも一種の置換元素であり、前記少なくとも一種の元素と共にTi、Zr及びCeからなる群から選択される少なくとも一種が更に含んでいてもよく、0≦x<0.55、好ましくは0<x<0.4、より好ましくは0.05<x<0.15である)
で表される組成を有するのが好ましい。これは、Liは+1価、Fe、Mn、Ni、Mg及びZnは+2価、B、Al、Co及びCrは+3価、Si、Ti、Sn、Zr及びCeは+4価、P、V、Sb、Nb及びTaは+5価、Mo及びWは+6価のイオンとなり、いずれの元素も、理論上はLiMn
2O
4中に固溶するものであるからである。なお、Co及びSnについては+2価の場合、Fe、Sb及びTiについては+3価の場合、Mnについては+3価又は+4価の場合、Crについては+4価又は+6価の場合もあり得る。従って、置換元素Mは混合原子価を有する状態で存在する場合がある。また、酸素については、必ずしも上記の化学式で表されることを必須とせず、結晶構造を維持するための範囲内で欠損して又は過剰に存在していてもよい。
【0020】
一般式(1)においてMnをLiで置換した場合(Li過剰の場合)には、マンガン酸リチウム系化合物の化学式は、Li
(1+x)Mn
(2−x)O
4となる。なお、xの値は、0.05〜0.15であることが好ましい。xの値が0.05以上であると、MnをLiで置換したことによるサイクル特性の向上の効果が十分に得られる。また、格子歪(η)の値が小さくてもサイクル特性の低下を回避できる。一方、xの値が0.15以下であると、初期容量を例えば100mAh/g以上と大きくすることができる。
【0021】
一方、一般式(1)においてMnをLi以外の置換元素Mで置換した場合には、Li/Mn比は、1/(2−X)(即ち、Li/Mn比>0.5)となる。Li/Mn>0.5の関係を満たすマンガン酸リチウムを用いると、LiMn
2O
4で表される化学式のマンガン酸リチウムを用いた場合に比して結晶構造が更に安定化されるため、より高温でのサイクル特性に優れたリチウム二次電池を製造することができる。
【0022】
単結晶粒子Sは、全Mnの25〜55mol%が、Ni、Co、Fe、Cu、Cr等で置換されたマンガン酸リチウム系化合物(例えば、LiNi
0.5Mn
1.5O
4)からなる粒子であってもよい。このようなマンガン酸リチウム系化合物を用いることにより、得られる正極活物質は、高温サイクル特性が改善されたリチウム二次電池を製造可能な正極活物質であるだけでなく、充放電電位を高くして、エネルギー密度を増加させることができるため、いわゆる5V級の起電力を有するリチウム二次電池を製造することができる。
【0023】
活物質板12b,14bは、ビスマス化合物を含みうる。ビスマス化合物に含まれるビスマスの含有割合は、マンガン酸リチウム系化合物に含まれるマンガンに対して、0.005〜0.5mol%であり、0.01〜0.2mol%であることが好ましく、0.01〜0.1mol%であることが更に好ましい。0.005mol%以上であると、高温でのサイクル特性に優れる。一方、0.5mol%以下であると、初期容量の低下を回避できる。なお、ビスマスの含有割合は、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析装置(商品名「ULTIMA2」、堀場製作所社製)を用いて、リチウム、マンガン、ビスマスを定量し、その定量結果に基づいて算出することができる。ビスマス化合物の例としては、酸化ビスマスや、ビスマスとマンガンの化合物等が挙げられるが、ビスマスとマンガンの化合物であることが好ましい。ビスマスとマンガンの化合物の例としては、Bi
2Mn
4O
10やBi
12MnO
20の化学式で表される化合物が挙げられる。これらの中でも、Bi
2Mn
4O
10の化学式で表される化合物が特に好ましい。なお、ビスマス化合物は、X線回折測定(以下、「XRD測定」ともいう)又は電子線マイクロアナリシス(以下、「EPMA測定」ともいう)により同定することができる。ビスマス化合物、とりわけビスマスとマンガンの化合物が、単結晶粒子の表面又は複数の単結晶粒子が相互に連結する粒界部からのMnの溶出を抑制し、サイクル特性を向上させる効果があると推察される。そのため、ビスマス化合物は、単結晶粒子の表面及び複数の単結晶粒子が相互に連結する粒界部のいずれかに存在することが好ましい。なお、ビスマス化合物は、例えば、電子顕微鏡(商品名「JSM−6390」、日本電子社製)を用いてその存在を確認することができる。
【0024】
活物質板12b,14bは、典型的には板状の形状を有し、その寸法は特に限定されないが、厚さは、単位面積当りの活物質容量の観点から、0.1〜300μmが好ましく、より好ましくは10〜200μm、さらに好ましくは20〜100μmである。
【0025】
本発明の好ましい態様によれば、
図1に示されるように、集電層12a,14aの片面にのみ活物質板12b,14bが設けられ、それにより集電層が外部集電層として構成されてなる。このような外部集電層付き電極は、
図1に示されるような単位セル型の蓄電素子10や後述する
図2に示されるような積層型蓄電素子20の外表面に位置する電極として適する。
【0026】
本発明の別の好ましい態様によれば、第一電極及び第二電極の少なくともいずれか一方の集電層の両面に活物質板が設けられ、それにより集電層が内部集電層として構成されてもよい。例えば、後述する
図2の蓄電素子20に示されるように、集電層12a’の両面に2枚の活物質板12b’,12b’が設けられ、かつ、集電層14a’の両面に2枚の活物質板14b’,14b’が設けられ、それにより各集電層12a’,14a’が内部集電層として構成されてもよい。このような内部集電層付き電極12’,14’は、
図2に示されるような積層型蓄電素子20の内部に位置する電極として適する。
【0027】
内部集電層は少なくとも1つの開口部を有し、開口部がスピネル型マンガン酸リチウム系単結晶粒子で充填されてなるものであってもよく、これにより開口部を通じて単結晶粒子が結合しているので、集電層との密着性をより一層向上することができる。したがって、開口部は集電層の全域にわたって複数ないし多数点在しているのが好ましい。また、この開口部を備えた内部集電層付き電極は、開口部内に充填される単結晶粒子を介して両面間でリチウムイオンが移動可能に構成されているため、単位セル型蓄電素子及び積層型蓄電素子を問わず、蓄電素子の外表面に位置する電極としても利用可能である。このような開口部の形状は特に限定されず、格子状、メッシュ状、無数の微細孔を有する構造等であることができるが、好ましくは格子状である。開口部には活物質が充填される必要があるところ、格子状にすれば、活物質の充填が容易にできることに加え、集電体の平坦性も確保しやすく、電極間距離が一定となり、電界集中が生じにくくなる。
【0028】
電解質
電解質16はリチウムイオン伝導性を有する電解質であり、
図1に示されるように固体電解質であってもよいし、電解質が溶解された電解液の形態であってもよい。例えば、電気特性や取り扱い易さから、有機溶媒等の非水系溶媒にリチウム塩等の電解質塩を溶解させた、非水溶媒系の電解液が好適に用いられる。もっとも、ポリマー電解質、ゲル電解質、有機固体電解質、又は無機固体電解質も電解質として問題なく用いることができる。例えば、無機固体電解質を用いることで、液漏れが無く安全性の高い全固体蓄電素子を構成することができる。また、起電力が1.2V以下である場合には、水溶液系の電解質も用いることができる。
【0029】
非水電解液の溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピオンカーボネート等の鎖状エステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の誘電率の高い環状エステル;鎖状エステルと環状エステルの混合溶媒;等を用いることができ、鎖状エステルを主溶媒とした環状エステルとの混合溶媒が特に適している。
【0030】
非水電解液の調製にあたって上述の溶媒に溶解させる電解質塩としては、例えば、LiClO
4、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiSbF
6、LiCF
3SO
3、LiC
4F
9SO
3、LiCF
3CO
2、Li
2C
2F
4(SO
3)
2、LiN(RfSO
2)(Rf′SO
2)、LiC(RfSO
2)
3、LiC
nF
2n+1SO
3(n≧2)、LiN(RfOSO
2)
2(式中、Rf及びRf′はフルオロアルキル基である)等を用いることができる。これらは、それぞれ単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。上述の電解質塩の中でも、炭素数2以上の含フッ素有機リチウム塩が特に好ましい。この含フッ素有機リチウム塩は、アニオン性が大きく且つイオン分離しやすいので、上述の溶媒に溶解し易いからである。非水電解液中における電解質塩の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.3mol/l以上が好ましく、より好ましくは0.4mol/l以上であって、1.7mol/l以下、より好ましくは1.5mol/l以下である。
【0031】
無機固体電解質の好ましい例としては、ガーネット系セラミックス材料、窒化物系セラミックス材料、ペロブスカイト系セラミックス材料、硫化物系セラミックス材料及びリン酸系セラミックス材料、ゼオライト系材料からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。ガーネット系セラミックス材料の例としては、Li−La−Zr−O系材料(具体的には、Li
7La
3Zr
2O
12など)、Li−La−Ta−O系材料(具体的には、Li
7La
3Ta
2O
12など)が挙げられ、特許文献4〜6に記載されているものも用いることができる。窒化物系セラミックス材料の例としては、Li
3N、LiPONなどが挙げられる。ペロブスカイト系セラミックス材料の例としては、Li−La−Zr−O系材料(具体的には、LiLa
1−xTi
xO
3(0.04≦x≦0.14)など)が挙げられる。硫化物系セラミックス材料の例としては、Li
2S−P
2S
5、Li
2S−P
2S
3、Li
2S−P
2S
3−P
2S
5、Li
2S−SiS
2、LiI−Li
2S−P
2S
5、LiI−Li
2S−SiS
2−P
2S
5、Li
2S−SiS
2−Li
4SiO
4、Li
2S−SiS
2−Li
3PO
4、Li
3PS
4−Li
4GeS
4、Li
3.4P
0.6Si
0.4S
4、Li
3.25P
0.25Ge
0.76S
4、Li
4−xGe
1−xP
xS
4、Li
7P
3S
11等が挙げられる。リン酸系セラミックス材料の例としては、Li−Al−Ti−P−O,Li−Al−Ge−P−O、及びLi−Al−Ti−Si−P−O(具体的には、Li
1+x+yAl
xTi
2−xSi
yP
3−yO
12(0≦x≦0.4、0<y≦0.6)など)が挙げられる。
【0032】
特に好ましいリチウムイオン伝導性無機固体電解質は、ガーネット系セラミックス材料である。とりわけ、Li、La、Zr及びOを含んで構成されるガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する酸化物焼結体が、焼結性に優れて緻密化しやすく、かつ、イオン伝導率も高いことから好ましい。この種の組成のガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造はLLZ結晶構造と呼ばれ、CSD(Cambridge Structural Database)のX線回折ファイルNo.422259(Li
7La
3Zr
2O
12)に類似のXRDパターンを有する。なお、No.422259と比較すると構成元素が異なり、またセラミックス中のLi濃度などが異なる可能性があるため、回折角度や回折強度比が異なる場合もある。Laに対するLiのモル数の比Li/Laは2.0以上2.5以下であることが好ましく、Laに対するZrのモル比Zr/Laは0.5以上0.67以下であるのが好ましい。このガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造はNb及び/又はTaをさらに含んで構成されるものであってもよい。すなわち、LLZのZrの一部がNb及びTaのいずれか一方又は双方で置換されることにより、置換前に比べて伝導率を向上させることができる。ZrのNb及び/又はTaによる置換量(モル比)は、(Nb+Ta)/Laのモル比が0.03以上0.20以下となる量にすることが好ましい。また、このガーネット系酸化物焼結体はAl及び/又はMgをさらに含んでいるのが好ましく、これらの元素は結晶格子に存在してもよいし、結晶格子以外に存在していてもよい。Alの添加量は焼結体の0.01〜1質量%とするのが好ましく、Laに対するAlのモル比Al/Laは、0.008〜0.12であるのが好ましい。Mgの添加量は0.01〜1質量%以上が好ましく、より好ましくは0.05〜0.30質量%である。Laに対するMgのモル比Mg/Laは、0.0016〜0.07であるのが好ましい。このようなLLZ系セラミックスの製造は、特許文献4〜6に記載されるような公知の手法に従って又はそれを適宜修正することにより行うことができる。
【0033】
固体電解質16は典型的には板状の形状を有し、その寸法は特に限定されないが、厚さは充放電レート特性と機械的強度の観点から、0.005〜5mmが好ましく、より好ましくは0.01〜2mm、さらに好ましくは0.05〜1mmであり、板面の大きさは充放電容量と機械的強度の観点から、0.2mm×0.2mm〜500mm×500mmが好ましく、より好ましくは0.5mm×0.5mm〜200mm×200mmである。
【0034】
積層型蓄電素子
図1に示される蓄電素子10は一対の第一電極12及び第二電極14を有する単位セル型の蓄電素子の例であるが、複数個の蓄電素子が集電体を介して複数個積層されたような、積層型の蓄電素子として構成されてもよい。例えば、
図2に示されるように、第一電極12及び第二電極14の少なくともいずれか一方(
図2では両方)が複数枚設けられ、第一電極12,12’及び第二電極14,14’が電解質16を介して交互に積層されてなり、少なくとも蓄電素子20の内部に位置する電極12’,14’は、集電層12a’,14a’の両面に活物質板12b’,14b’が設けられ、それにより集電層12a’,14a’が内部集電層として構成されてなるのが好ましい。この場合、内部集電層12a’,14a’が少なくとも1つの開口部を有し、開口部がスピネル型マンガン酸リチウム系単結晶粒子で充填されてなるように構成してもよい。蓄電素子20において、外表面に位置する電極12,14は、集電層12a,14aの片面にのみ活物質板12b,14bが設けられ、それにより集電層12a,14aが外部集電層として構成されてなるが、開口部を備えた内部集電層付き電極を積層型蓄電素子20の外表面に位置する電極としても使用することも可能である。これは、開口部内に充填される単結晶粒子(活物質)を介して両面間でリチウムイオンが移動可能に構成されているためである。
【0035】
このような積層構造とすることで、複数の単位セルが直列又は並列に接続された積層セルを構築することができる。直列で接続される場合、集電体12a’を挟んで対向する活物質板12b’,12b’と集電体14a’を挟んで対向する活物質板14b’,14b’はそれぞれ集電体12a’,14a’によってイオン的に絶縁、すなわちリチウムイオンの通過が遮断されるように隔離されて構成されるのが好ましく、この構成は、例えばピンホール等の欠陥が無くなる程度に厚くする集電層を形成することにより実現可能である。このように複数ないし多数の単位セルを直列に配線することで高い電圧を取り出せる蓄電素子が得られる。一方、並列で接続される場合、活物質板12b’/集電層12a’/活物質板12b’の組み合わせ、及び活物質板14b’/集電層14a’/活物質板14b’の組合せがそれぞれ実質的に一つの第一電極12’及び第二電極14’として機能しうる。この場合、実効的に、集電層両主面に配設された活物質板の総厚みとして電極は働くため、蓄電素子の充放電容量は低下しないことになる。また、実効的に働く電極(活物質板)の厚みを薄くできるので、充放電レートが向上しうる。その上、活物質板が薄くなっても、内部集電層に把持され、かつ集電層両主面に配設されるため、電極としての機械的強度は向上しうる。
【0036】
製造方法
本発明による蓄電素子はいかなる方法により製造されたものであってもよい。例えば、無機固体電解質を用いた全固体蓄電素子の製造は、(a)いずれもセラミックス焼結体からなる、集電層12a、活物質板12b、固体電解質16、活物質板14b及び集電層14aを積層して積層体を得る工程と、(b)この積層体に加熱及び加圧を同時に施して固相反応により一体化させる工程とを含む方法により行うことができる。このように、本態様に用いられる活物質板及び固体電解質はいずれもセラミックス焼結体で構成されるため、圧粉体、グリーンシート及び気相合成薄膜ではない。本態様の方法では、このセラミックス焼結体からなる第一電極12/固体電解質16/第二電極14の積層体に加熱及び加圧を同時に施すことで、第一電極12、固体電解質16及び第二電極14を固相反応により一体化させることができる。このセラミックス焼結体同士の接合は、グリーンシートの積層で必要とされるような粉末同士の焼結を要しないので、加圧下にて比較的低温で行うことが可能であり、その結果、焼結温度等の極めて高い温度域において高活性の異種粉末間で起こりうる高抵抗な反応層の生成を抑制することができる。その上、同時加熱及び加圧により得られる複合体の接合界面の密着性は驚くほど高い。このように、本態様の方法によれば、比較的低温での接合を可能にして界面における高抵抗な反応層の生成を抑制するとともに、界面における電極及び固体電解質の密着性を高めて接合面積を最大化することができる。このような特徴を有する電極/固体電解質/電極複合体を用いることで、薄型でありながら極めて高い容量の全固体蓄電素子の提供が可能となる。
【0037】
本態様による加熱及び加圧は同時に行われるものであり、加熱しながら加圧している段階を含んでいればよく、加熱及び加圧のタイミングにずれがあってもよい。加熱及び加圧を同時に行う手法の例としては、ホットプレス法(HP)、熱間静水圧プレス法(HIP)、放電プラズマ焼結法(SPS)が挙げられるが、量産性が高く、製造コストを安く抑えることができることからホットプレス法(HP)が好ましい。
【0038】
加熱は600〜800℃の温度で行われるのが好ましく、より好ましくは650〜750℃であり、さらに好ましくは675〜725℃である。加圧は5〜3000kgf/cm
2の圧力で行われるのが好ましく、より好ましくは500〜2500kgf/cm
2、より好ましくは1000〜2000kgf/cm
2である。また、狙いの圧力への到達時間は、0.1〜10hで行われるのが好ましく、1〜7hで行われるのがより好ましく、3〜5hで行われるのがさらに好ましい。さらに、加圧開始のタイミングは、焼成プロファイルにおける昇温過程終了後であることが好ましい。加熱及び加圧は0.05〜10時間行われるのが好ましく、より好ましくは1〜8時間、さらに好ましくは2〜5時間である。このような範囲内であると、界面における高抵抗な反応層の生成をより一層確実に抑制するとともに、界面における電極及び固体電解質の密着性をより一層高めることができる。
【0039】
なお、活物質板と固体電解質の界面抵抗を低減する目的で、活物質板上、もしくは固体電解質上に、活物質板と固体電解質を固相反応で一体化する際に形成される反応層の抵抗をより小さくするような元素からなる層(たとえば厚さ数十nm以下のNbOからなる薄膜)を形成しておいてもよい。
【実施例】
【0040】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0041】
例1
(1)LMOセラミックス板の作製
本発明において第一電極及び第二電極の活物質板として用いられるLMOセラミックス板を以下の手順で作製した。まず、Li
1.08Mn
1.83Al
0.09O
4の化学式となるように、Li
2CO
3粉末(本荘ケミカル社製、ファイングレード、平均粒子径3μm)、MnO
2粉末(東ソー社製、電解二酸化マンガン、FMグレード、平均粒子径5μm、純度95%)、及びAl(OH)
3粉末(昭和電工社製 H−43M、平均粒子径0.8μm)を秤量し、更に、Bi
2O
3粉末(平均粒子径0.3μm、太陽鉱工社製)を、MnO
2原料に含まれるMnに対するBiの添加量が0.4mol%となるように秤量した。この秤量物100質量部と、分散媒としての有機溶媒(トルエン及びイソプロピルアルコールを等量混合した混合液)100質量部とを、合成樹脂製の円筒型広口瓶に入れ、ボールミル(直径5mmのジルコニアボール)で16時間、湿式混合及び粉砕を行って混合粉末を得た。
【0042】
この混合粉末100質量部に対して、バインダーとしてのポリビニルブチラール(エスレックBM−2、積水化学社製)10質量部と、可塑剤(DOP、黒金化成社製)4質量部と、分散剤(レオドールSP−O30、花王社製)2質量部とを添加して混合することで、スラリー状成形原料を得た。得られたスラリー状成形原料を減圧下で撹拌して脱泡することで、スラリーの粘度を4000mPa・sに調整した。粘度を調整したスラリー状成形原料を、ドクターブレード法により、PETフィルムの上に成形してシート状成形体を得た。なお、乾燥後のシート状成形体の厚さを20μmとした。
【0043】
PETフィルムから剥がしたシート状の成形体を、カッターで12mm角に切り出し、突起の大きさが300μmのエンボス加工を施したジルコニア製セッター(寸法90mm角、高さ1mm)の中央に載置し、大気中で、600℃で2時間脱脂し、その後、900℃で5時間焼成した。これにより、
図3に示されるSEM写真のような、単結晶が平面的に連結したセラミックス板が得られた。
【0044】
(2)LLZセラミックス板の作製
本発明において固体電解質として用いられるLLZセラミックス板を以下の手順で作製した。まず、焼成用原料調製のための各原料成分として、水酸化リチウム(関東化学株式会社)、水酸化ランタン(信越化学工業株式会社)、酸化ジルコニウム(東ソー株式会社)、酸化タンタルを用意した。これらの粉末をLiOH:La(OH)
3:ZrO
2:Ta
2O
5=7:3:1.625:0.1875になるように秤量及び配合し、ライカイ機にて混合して焼成用原料を得た。
【0045】
第一の焼成工程として、上記焼成用原料をアルミナ坩堝に入れて大気雰囲気で600℃/時間にて昇温し900℃にて6時間保持した。
【0046】
第二の焼成工程として、第一の焼成工程で得られた粉末に対しγ−Al
2O
3をAl濃度が0.08wt%となるように添加し、この粉末と玉石を混合し振動ミルを用いて3時間粉砕した。この粉砕粉を篩通しした後、得られた粉末を、金型を用いて約100MPaにてプレス成形してペレット状にした。得られたペレットをマグネシア製のセッター上に乗せ、セッターごとマグネシア製のサヤ内に入れて、Ar雰囲気にて200℃/時間で昇温し、1000℃で36時間保持することにより、35mm×18mmのサイズで厚さ11mmの焼結体を得て、そこから1.5mm×1.5mmのサイズで厚さ0.2mmのLLZセラミックス板を固体電解質として得た。なお、Ar雰囲気として、事前に容量約3Lの炉内を真空引きした後、純度99.99%以上のArガスを電気炉に2L/分で流した。
【0047】
得られた焼結体試料の上下面を研磨した後、以下に示される各種の評価ないし測定を行った。焼結体試料のX線回折測定を行ったところ、CSD(Cambridge Structural Database)のX線回折ファイルNo.422259(Li
7La
3Zr
2O
12)類似の結晶構造が得られた。このことから、得られた試料がLLZ結晶構造の特徴を有することが確認された。また、焼結体試料のAl及びMg含有量を把握するため、誘導結合プラズマ発光分析(ICP分析)により化学分析を行ったところ、Al含有量は0.08wt%、Mg含有量は0.07wt%であった。
【0048】
(3)全固体蓄電素子及びコインセルの作製及び評価
上記(1)で得られたLMOセラミックス板に、集電層となるAu箔(厚さ20μm)を重ね、その反対側に上記(2)で得られたLLZセラミックス板を重ねた。得られた積層物のLLZセラミックス板上に、LMOセラミックス板及びAu箔をさらに重ねてAu/LMO/LLZ/LMO/Au積層物とし、これを焼成条件700℃で5時間、2000kgf/cm
2の圧力でホットプレス焼成した。こうして得られたAu/LMO/LLZ/LMO/Au複合体をステンレス製CR2032ケースに組み込み、コインセルとした。このコインセルに対して、0V〜1.2Vの間で、0.1Cレートの電流密度で充放電を繰り返した。
このとき、1回目の放電容量に対する、50回目の放電容量の維持率は、75%であった。充放電を50回繰り返した後の電池を解体し、Au/LMO/LLZ/LMO/Au複合体の低電位側の電極の断面をSEMで観察したところ、LMOセラミックス板中には、Au〜LLZ間のリチウムイオン伝導パスを分断するような、面内方向のクラックは見られなかった。
【0049】
例2(比較)
LMOセラミックス板の原料調整工程でBi
2O
3を加えなかったこと以外は例1と同様にして、電池を作製した。このとき得られた焼成後のLMOセラミックス板の厚さは10μm程度であり、LMO系単結晶粒子の1次粒径は2μm程度であったことから、厚さ方向に単結晶粒子の重なりに起因する多数の粒界を含む状態であった。この電池における1回目の放電容量に対する50回目の放電容量の維持率は45%であった。充放電を50回繰り返した後の電池を解体し、Au/LMO/LLZ/LMO/Au複合体の低電位側の電極の断面をSEMで観察したところ、LMOセラミックスシート中に、粒界に起因する割れが多数発生し、Au〜LLZ間のリチウムイオン伝導パスを分断するように、面内方向にクラックが走っている様子が観察された。