(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
接触燃焼式ガスセンサは、ヒータと温度計を兼ねる白金線コイルに貴金属触媒を担持させたアルミナを球状に焼結させた構造のセンサで、可燃性ガスの接触燃焼に伴う素子の温度変化を検知して被検知ガスの濃度を検出するガスセンサである。一般的には、同じく触媒のないアルミナのみを焼結させた補償素子と共にブリッジ接続することで、爆発限界(LEL)までの可燃性ガスの濃度を、環境温度、湿度の影響が少なく安定して検出することができる。
【0003】
従来、被検知ガスのガス種を識別するに際し、特性の異なる複数のセンサ出力の比率を算出する場合があった。例えば、メタンに反応しないが他の炭化水素系のガスに反応する接触燃焼式ガスセンサと、メタンを含む炭化水素系のガスに反応する接触燃焼式ガスセンサとの2つの出力比率により、自然発生メタン、都市ガス、LPG、プロパンガスの何れかを識別する識別機能付きガス検知器が実用化されている。
【0004】
また、カラムにてガスの成分を分離し、カラムの通過時間の差により各成分の濃度を検出してガスの種類を識別する装置も知られている。
【0005】
尚、本発明における従来技術となる上述した接触燃焼式ガスセンサは、一般的な技術であるため、特許文献等の従来技術文献は示さない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特性の異なる複数のセンサ出力の比率を算出して被検知ガスのガス種を識別する場合、特性の異なる複数の接触燃焼式ガスセンサが必要となるため、大掛かりな構成となっていた。
また、カラムを使用してガス種を識別する場合、時間差によって検出するため、ガス種の識別結果が得られるまである程度の時間を要し、迅速にガス種を識別できなかった。
【0007】
従って、本発明の目的は、簡便な構成で迅速にガス種を識別できる接触燃焼式ガスセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る接触燃焼式ガスセンサは、被検知ガスと感応する検出素子および補償素子を有する接触燃焼式ガスセンサであって、その第一特徴構成は、前記補償素子が被検知ガスと接触することで変化する抵抗値によって被検知ガスの種類を識別するガス種識別手段と、前記検出素子の出力に対して、前記ガス種識別手段によって決定されたガス種に応じた係数を乗じて被検知ガスの濃度を算出する濃度演算手段と、を備えた点にある。
【0009】
補償素子は、被検知ガスの濃度に応じて熱が収奪されることによりその抵抗値が変化する特性を有する。当該補償素子の抵抗値変化を取り出すことで、気体固有の熱伝導率の違いによる微小発熱素子の温度変化を検出する気体熱伝導式センサと等価の挙動を示す出力が得られる。これは、被検知ガスの種類によって異なった出力となる。ガス種識別手段は、このように変化する抵抗値を検知して、気体固有の抵抗値の変化と比較することでガス種の識別が可能となる。
【0010】
また、検出素子は、通電により発熱することで触媒が加熱されて被検知ガスと反応し、その反応熱に応じて(被検知ガスの濃度に応じて)抵抗値が変化する。濃度演算手段は、このように変化する抵抗値を検知して得られた出力値に、ガス種識別手段によって決定されたガス種に応じた係数を乗じることで、被検知ガスの濃度を算出することができる。
【0011】
このように本構成によれば、1つの接触燃焼式ガスセンサのみで同時に特性の異なる2つ(補償素子および検出素子)の出力値が得られるため、複数の接触燃焼式ガスセンサを用いる必要はなく、簡便な構成で迅速にガス種を識別することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示したように、本発明の接触燃焼式ガスセンサXは、検出素子10および補償素子20を有する。
当該接触燃焼式ガスセンサXは、補償素子20が被検知ガスと接触することで変化する抵抗値によって被検知ガスの種類を識別するガス種識別手段30と、検出素子10の出力に対して、ガス種識別手段30によって決定されたガス種に応じた係数を乗じて被検知ガスの濃度を算出する濃度演算手段40と、を備える。
【0014】
検出素子10は、電気抵抗に対する温度係数が高い白金やタングステン等を含む金属線のコイルの表面が、被検知ガスに対して活性な白金やパラジウムといった貴金属等からなる触媒を坦持するアルミナ等の坦体で被覆されて形成されている。当該検出素子10は、被検知ガス中に置かれたとき、通電により発熱することで自身が備える触媒が加熱されて被検知ガスと反応し、その反応熱に応じて(被検知ガスの濃度に応じて)抵抗値が変化する。
【0015】
補償素子20は、検知素子と同様に被検知ガス中に置かれて通電されることで、検知素子の温度補償を行うための素子であり、検知素子が有する触媒による燃焼熱に応じた抵抗値の変化分のみ取り出すために用いられる。
補償素子20は、例えば検出素子10と同等のコイルの表面がアルミナ等の坦体で被覆されて形成されている。補償素子20は触媒を有しないため、触媒反応による被検知ガスの燃焼が生じないため、被検知ガスに対して不活性とされる。当該補償素子20は、通電されることにより発熱してその周囲を覆うアルミナ等の坦体を加熱するものであり、熱により自らの抵抗値が変化する。
【0016】
通常、接触燃焼式ガスセンサXは、被検知ガスが検出素子10の触媒に接触した際に生じる燃焼反応の発熱により高温となった検出素子10と、被検知ガスによる燃焼反応が発生せず検出素子10よりも低温の補償素子20との間に電気抵抗値の差が生ずることを利用し、雰囲気温度による電気抵抗値の変化分を相殺して被検知ガスの濃度を検出することができる。
【0017】
本発明の接触燃焼式ガスセンサXにおいて、ガス種識別手段30は、補償素子20が被検知ガスの濃度に応じて熱が収奪されることにより変化する抵抗値によって、被検知ガスの種類を識別する。当該補償素子20の抵抗値変化は、被検知ガスの種類によって異なった出力となるため、ガス種の識別が可能となる。特に、メタンおよび13A等の都市ガスと、LPG、プロパン、イソブタン、6A等のガスでは、空気に対する熱伝導率の違いによってセンサ出力の極性が反転するため、容易に識別することができる。
ガス種識別手段30は、このように変化する抵抗値を検知して、気体固有の抵抗値の変化と比較することで、被検知ガスの種類を識別するマイコンなどで構成してあれば、どのような態様であってもよい。
【0018】
濃度演算手段40は、検出素子10及び補償素子20によって得られた出力に対して、ガス種識別手段30によって決定されたガス種に応じた係数を乗じて被検知ガスの濃度を算出する。
検出素子10は、通電により発熱することで触媒が加熱されて被検知ガスと反応し、その反応熱に応じて(被検知ガスの濃度に応じて)抵抗値が変化する。濃度演算手段40は、このように変化する抵抗値を検知して得られた出力値に、ガス種識別手段30によって決定されたガス種に応じた係数を乗じて被検知ガスの濃度を算出するマイコンなどで構成してあれば、どのような態様であってもよい。
当該係数は、ガス種に応じた固有の値を予め決定しておいた数値とするのがよい。
【0019】
本発明の接触燃焼式ガスセンサXにおいて、
図2に示したように、検出素子10および補償素子20は、負荷抵抗RL1,RL2、対辺抵抗R1,R2とブリッジ回路Aを形成している。即ち、当該ブリッジ回路Aは、検出素子10および負荷抵抗RL1が直列接続される枝辺と、補償素子20および負荷抵抗RL2が直列接続される枝辺と、対辺抵抗R1,R2が直列接続される枝辺とが並列に接続され、電源Eから供給される電圧に基づいて所定の電圧が印加される。
【0020】
このようなブリッジ回路Aにおいて、メタンおよびイソブタンのガス種識別を行う場合、検出素子10および負荷抵抗RL1の接続点aと、補償素子20および負荷抵抗RL2の接続点bとの間の電圧を検出することで、濃度検知用出力Vd1が得られる(
図3)。この濃度検知用出力Vd1は、検出素子10および負荷抵抗RL1の接続点aと対辺抵抗R1,R2の接続点cとの間の電圧と、補償素子20および負荷抵抗RL2の接続点bと対辺抵抗R1,R2の接続点cの電圧との差分と等価であり、補償素子20によって周囲の温湿度変動の影響が取り除かれている。
【0021】
また、対辺抵抗R1,R2の接続点cと、補償素子20および負荷抵抗RL2の接続点bと、の間の電圧を検出することで、ガス種識別用出力Vd2が得られる(
図4)。
【0022】
ガス種識別手段30におけるガス種識別の一例を以下に説明する。
まず濃度検知用出力Vd1およびガス種識別用出力Vd2をそれぞれメタンの100%LEL出力で規格化する。次に規格化されたVd1とVd2の比率(規格化Vd2÷規格化Vd1)を計算し、その結果が気体固有の熱伝導率によって異なるため、それを利用してガス種の識別を行う。
【0023】
濃度演算手段40は、ガス種識別手段30によって予測されたガス種に応じてあらかじめ決定しておいた係数を、検出素子10および補償素子20によって得られた出力に乗じることで被検知ガスの濃度を算出する。
【実施例】
【0024】
本発明の実施例について説明する。
本発明の識別機能付接触燃焼式ガスセンサXでの実施について動作説明する。
まず暖機処理後、Vd1、Vd2それぞれのAD変換結果にゼロ点補正を実施して、メタンの実ガス濃度にて校正された濃度値に換算するためのスパン係数を乗算する。これにより、メタンの100%LEL出力で規格化された値となる。その後、ガス種識別処理、濃度表示処理、警報処理を実施する。
【0025】
(ガス種識別処理)
メタンとイソブタンを識別する場合、ガス種識別用出力Vd2の出力は、
図4のようにガス濃度に対してメタンとイソブタンで極性が異なるため、識別が容易である。
濃度検知用出力Vd1とガス種識別用出力Vd2を、それぞれメタン100%LELで規格化し、規格化されたVd1とVd2の比率(規格化Vd2÷規格化Vd1)を計算した(
図5〜7)。
【0026】
その結果、
図7に示したようにメタンのVd1とVd2の比率が約1.0であるに対し、イソブタンのVd1とVd2の比率は約−1.3から約−2.0であった。
【0027】
ガス警報値を1/4LEL(25%LEL)とした識別機能付接触燃焼式ガスセンサXの場合の一例として、識別下限をメタン10%LEL、イソブタンと識別する閾値を−0.5として、メタン100%LELで規格化した濃度値が10%以上かつ、規格化Vd2÷規格化Vd1がマイナス方向に−0.5以上をイソブタンと判断し、それ以外はメタンと判断して2種のガス種を識別した。
必要に応じてLCD表示または、LED表示によりガス種の識別結果を表示部(図外)によって表示した。
【0028】
(濃度表示処理)
識別結果がイソブタンでない場合、濃度検知用出力Vd1をメタン100%LELで規格化した値にさらに直線化処理を実施し、その結果を濃度表示部にメタンの濃度値として表示部(図外)によって表示した。
【0029】
識別結果がイソブタンの場合は、濃度検知用出力Vd1をメタン100%LELで規格化した値に約2倍のイソブタンの濃度に換算する係数を乗算し、さらにイソブタンの直線化処理を実施した後その結果を濃度表示部にイソブタンの濃度値として表示した。この時のイソブタンの直線化処理に、イソブタンの濃度に換算する係数を含めてもよい。
【0030】
(警報処理)
直線化処理後の濃度値が警報設定値に達するか超えた場合にガス濃度警報を警報部(図外)によって発した。
【0031】
一般的に都市ガスや下水工事で爆発事故防止の目的で使用されるガス検知器は、メタン校正で使用されている。
図3に示したようにイソブタンやプロパンはメタンの約1/2の出力であるため、通常の接触燃焼式ガスセンサでは、メタンの約2倍の濃度にならないと発報しない。例えば都市ガス工事では、都市ガスの供給地域とLPG使用の地域が隣接して混在している現場があり、このような現場でのLPG漏洩に関しては、本発明の接触燃焼式ガスセンサXによって、より安全に爆発の危険性の検知が可能となる。