特許第6153940号(P6153940)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6153940
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】可変圧平を有する患者インターフェース
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/008 20060101AFI20170619BHJP
   A61F 9/009 20060101ALI20170619BHJP
【FI】
   A61F9/008 152
   A61F9/009
【請求項の数】19
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-548866(P2014-548866)
(86)(22)【出願日】2012年12月20日
(65)【公表番号】特表2015-506193(P2015-506193A)
(43)【公表日】2015年3月2日
(86)【国際出願番号】US2012070781
(87)【国際公開番号】WO2013096539
(87)【国際公開日】20130627
【審査請求日】2015年11月4日
(31)【優先権主張番号】13/336,324
(32)【優先日】2011年12月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510060361
【氏名又は名称】アルコン レンゼックス, インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100180194
【弁理士】
【氏名又は名称】利根 勇基
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】フェレンク ラクシ
(72)【発明者】
【氏名】イルヤ ゴールドシュレジャー
【審査官】 伊藤 孝佑
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/022745(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/121066(WO,A1)
【文献】 特開平06−277248(JP,A)
【文献】 特表2011−509811(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0071254(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/008
A61F 9/009
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科手術用レーザシステムの遠位端に取り付け可能なレンズ支持システムと、
前記レンズ支持システムにより支持されかつ眼球表面に接触するよう構成された接眼レンズと、
前記レンズ支持システムおよび前記接眼レンズのうちの少なくとも1つに連結された調節可能な連結器であって、
前記眼球表面の非中心領域に連結されること、
中心圧平により前記眼球表面の中心領域に接触するよう前記接眼レンズを適応させて、前記眼科手術用レーザシステムが、眼球の水晶体の、白内障レーザ処置、嚢切開、水晶体リシス、光崩壊および水晶体チョップのうちの少なくとも1つを実行することを可能にすること、
拡張圧平により前記中心領域よりも大きい前記眼球表面の拡張領域に接触するよう前記接眼レンズを適応させて、前記眼科手術用レーザシステムが、角膜輪部減張切開、弓形切開、前眼房アクセス切断、前眼房入口切断、フラップ切断および角膜屈折処置のうちの少なくとも1つを実行することを可能にすること、および
前記レンズ支持システムに対する該調節可能な連結器の構成を変化させることによって前記中心圧平と前記拡張圧平との間の変化を可能にすること、
を行うよう構成された調節可能な連結器と、
を含む、可変圧平患者インターフェース。
【請求項2】
前記調節可能な連結器は、前記眼球表面の前記非中心領域に対する連結を解放することなく、前記接眼レンズの前記中心圧平と前記拡張圧平との間の前記変化を可能にするよう構成された、
請求項1に記載の可変圧平患者インターフェース。
【請求項3】
前記中心圧平と前記拡張圧平との間の変化を可能にするよう構成された前記調節可能な連結器は、
前記中心圧平から前記拡張圧平への変化、および
前記拡張圧平から前記中心圧平への変化、
のうちの少なくとも1つを可能にするよう構成された前記調節可能な連結器を含む、請求項1に記載の可変圧平患者インターフェース。
【請求項4】
前記調節可能な連結器は前記レンズ支持システムに一体化されている、請求項1に記載の可変圧平患者インターフェース。
【請求項5】
前記調節可能な連結器は、
前記眼球表面との気密接触を形成するよう構成された吸引リングと、
前記接眼レンズ、前記吸引リング、および前記眼球表面により形成されたドッキングチャンバに吸引ポンプを接続するための真空ホースと、
を含み、
前記吸引リングはリング、スカート、コーン、および気密構造体のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の可変圧平患者インターフェース。
【請求項6】
前記眼球表面の前記中心領域に接触する前記接眼レンズは、前記眼科手術用レーザシステムが、眼球の水晶体の白内障レーザ処置、嚢切開、水晶体リシス、光崩壊、および水晶体チョップのうちの少なくとも1つを行うことを可能にし、
前記眼球表面の前記拡張領域に接触する前記接眼レンズは、前記眼科手術用レーザシステムが、角膜輪部減張切開、弓形切開、前眼房アクセス切断、前眼房入口切断、フラップ切断、および角膜屈折処置のうちの少なくとも1つを行うことを可能にする、請求項1に記載の可変圧平患者インターフェース。
【請求項7】
前記中心領域の半径は2〜5mmの範囲にあり、
前記拡張領域の半径は4〜9mmの範囲にある、
請求項1に記載の可変圧平患者インターフェース。
【請求項8】
前記中心圧平を有するよう前記接眼レンズを適応させるよう構成された前記調節可能な連結器は、前記接眼レンズを第1レンズ位置に配置するよう構成された前記調節可能な連結器を含み、
前記拡張圧平を有するよう前記接眼レンズを適応させるよう構成された前記調節可能な連結器は、前記接眼レンズを第2レンズ位置に配置するよう構成された前記調節可能な連結器を含み、
前記中心圧平と前記拡張圧平との間の変化を可能にするよう構成された前記調節可能な連結器は、前記第1レンズ位置と前記第2レンズ位置との間の前記接眼レンズの再配置を可能にするよう構成された前記調節可能な連結器を含む、
請求項1に記載の可変圧平患者インターフェース。
【請求項9】
前記眼科手術用レーザシステムは、
前記レンズ支持システム、前記接眼レンズ、および前記調節可能な連結器のうちの少なくとも1つに連結されたアクチュエータであって、機械的、摩擦利用型、バネ加圧型、接着剤利用型、圧搾空気型、化学型、熱型、磁気型、電気型、または電磁システムのうちの少なくとも1つを含むアクチュエータを含み、
前記アクチュエータは、前記接眼レンズを再配置することにより前記中心圧平と前記拡張圧平との間の前記変化が可能となるよう、前記調節可能な連結器を作動させるよう構成された、
請求項8に記載の可変圧平患者インターフェース。
【請求項10】
前記調節可能な連結器を前記レンズ支持システムに接続することと、
前記接眼レンズが前記第1レンズ位置に配置される第1コネクタ構成を取ることと、
前記接眼レンズが前記第2レンズ位置に配置される第2コネクタ構成を取ることと、
前記第1コネクタ構成と前記第2コネクタ構成との間での構成の変化を可能にすることと、
を行うよう構成された可撓性コネクタを含む、請求項8に記載の可変圧平患者インターフェース。
【請求項11】
前記レンズ支持システムおよび前記調節可能な連結器は別個の要素であり、
前記可変圧平患者インターフェースは、
前記接眼レンズが前記第1レンズ位置に配置される第1相対的位置を取るよう前記レンズ支持システムおよび前記調節可能な連結器を適応させることと、
前記接眼レンズが前記第2レンズ位置に配置される第2相対的位置を取るよう前記レンズ支持システムおよび前記調節可能な連結器を適応させることと、
前記レンズ支持システムおよび前記調節可能な連結器が前記第1相対的位置と前記第2相対的位置との間で変化することを可能にすることと、
を行うよう構成された位置決め機構を含む、
請求項8に記載の可変圧平患者インターフェース。
【請求項12】
前記調節可能な連結器は、前記レンズ支持システムの中空円筒に摺動可能に係合することが可能な中空円筒を含み、
前記位置決め機構は前記レンズ支持システムの前記円筒を前記調節可能な連結器の前記円筒にロックするよう構成された、
請求項11に記載の可変圧平患者インターフェース。
【請求項13】
前記調節可能な連結器は、
内側真空ホースに連結された内側ドッキングチャンバを画成する内側吸引リングと、
外側真空ホースに連結された外側ドッキングチャンバを画成する外側吸引リングと、
を含み、
前記内側真空ホースおよび前記外側真空ホースは、それぞれ前記内側ドッキングチャンバおよび前記外側ドッキングチャンバを1つまたは複数の真空ポンプに連結する能力を有する、
請求項1に記載の可変圧平患者インターフェース。
【請求項14】
前記可変圧平患者インターフェースは、第1吸引が前記外側真空ホースを通して前記外側ドッキングチャンバに印加されたときには、前記接眼レンズが前記眼球表面の前記中心領域に接触することを可能にするよう構成され、
前記可変圧平患者インターフェースは、第2吸引が前記内側真空ホースを通して前記内側ドッキングチャンバに印加されたときには、前記接眼レンズが前記眼球表面の前記拡張領域に接触することを可能にするよう構成された、
請求項13に記載の可変圧平患者インターフェース。
【請求項15】
前記中心圧平を有するよう前記接眼レンズを適応させるよう構成された前記調節可能な連結器は、第1レンズ形状を取るよう前記接眼レンズの形状を適応させるよう構成された前記調節可能な連結器を含み、
前記拡張圧平を有するよう前記接眼レンズを適応させるよう構成された前記調節可能な連結器は、第2レンズ形状を取るよう前記接眼レンズの形状を適応させるよう構成された前記調節可能な連結器を含み、
前記中心圧平と前記拡張圧平との間の変化を可能にするよう構成された前記調節可能な連結器は、前記接眼レンズの前記形状が前記第1レンズ形状と前記第2レンズ形状との間で変化することが可能となるよう構成された前記調節可能な連結器を含む、
請求項1に記載の可変圧平患者インターフェース。
【請求項16】
前記眼科手術用レーザシステムは
前記レンズ支持システム、前記接眼レンズ、および前記調節可能な連結器のうちの少なくとも1つに連結されたアクチュエータであって、機械的、摩擦利用型、バネ加圧型、接着剤利用型、圧搾空気型、化学型、熱型、磁気型、電気型、または電磁システムのうちの少なくとも1つを含むアクチュエータ、
を含み、
前記アクチュエータは、前記接眼レンズの前記形状を変化させることにより前記中心圧平と前記拡張圧平との間の前記変化が可能となるよう、前記調節可能な連結器を作動させるよう構成された、
請求項15に記載の可変圧平インターフェース。
【請求項17】
前記アクチュエータは、前記調節可能な連結器に印加される吸引を増加することにより前記接眼レンズの前記形状を変化させるよう構成された吸引ポンプを含み、
前記接眼レンズはその形状を変化させる能力を有する物質を含む、
請求項16に記載の可変圧平患者インターフェース。
【請求項18】
前記接眼レンズはレオロジー流体を含み、
前記アクチュエータは磁場を印加することにより前記接眼レンズの可撓性を変化させるよう構成された、
請求項16に記載の可変圧平患者インターフェース。
【請求項19】
前記アクチュエータは前記レンズ支持システムを前記眼球に向かって降下させ、それにより前記接眼レンズの前記形状が変化する、請求項16に記載の可変圧平患者インターフェース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2011年12月23日に出願された米国特許出願整理番号第13/336,324号の優先権を合衆国法典第35巻第119条の下で主張するものであり、この出願全体は引用することにより本明細書に援用される。
【0002】
本特許文献は眼科手術のための患者インターフェースに関する。さらに詳細には、本特許文献は、複数のステップを有する眼科手術手順のための可変圧平を有する患者インターフェースに関する。
【背景技術】
【0003】
多くの眼科手術手順は、フェムト秒パルスのレーザビームを用いて標的眼組織を光崩壊または切断することにより実行が可能である。切断は、レーザビームの焦点スポットを2次元または3次元の走査パターンで走査することにより形成が可能である。各フェムト秒パルスは、レーザの焦点スポットにおいてプラズマすなわちキャビテーション気泡を形成することが可能である。これらの微小な気泡の層により標的組織が2つの部分に分離され、巨視的な外科的切断の形成が可能となる。これらの気泡の容積は、標的組織の容積的光崩壊を生じさせることができる。
【0004】
組織にプラズマを形成することが可能な最小パルスエネルギー密度はプラズマ閾値と呼称される。プラズマ閾値は各眼組織に対して固有である。プラズマ閾値未満のエネルギー密度を有するパルスは気泡を形成しない。一方、実質的にプラズマ閾値を越えるエネルギー密度を有するパルスは、付随する損傷および好ましくない熱効果を標的組織に生じさせ得る。したがって既存の眼科手術システムは通常、プラズマ閾値をわずかにのみ越えるエネルギー密度を有するレーザパルスを供給するよう設計されている。係るシステムは望ましい切断を標的組織に形成することができ、しかもレーザパルスの過度のエネルギーに起因する熱効果および付帯的損傷は限定的かつ最小である。
【0005】
たとえシステムが走査パターン全域に沿ってプラズマ閾値を超過するエネルギー密度を有するレーザビームを供給するよう設計されていたとしても、実際上の状況ではレーザビームのエネルギー密度は、走査パターンの1部分に沿ってプラズマ閾値未満へと一時的に低下してしまうこともある。これらの部分においては標的組織が光崩壊または切断されず、その結果、眼科手術手順の有効性が低下してしまうであろう。したがって、眼科手術過程の走査パターン全域を通してレーザビームのエネルギー密度をプラズマ閾値よりわずかに高く保持することが可能な手術用レーザシステムを設計することが優先順位の高い課題となっている。
【0006】
レーザビームのエネルギー密度に影響を及ぼす要因はいくつか存在する。エネルギー密度は、焦点スポットにおけるレーザビームのピーク強度に比例し、焦点スポットの面積に反比例する。焦点スポットの面積は通常、(2〜5マイクロメートル)2のオーダーである。この焦点スポットの面積はとりわけ、レーザビームの開口数に、手術用レーザシステムの光学系の品質に、およびレーザビームが光学系から発せられた後、眼組織を通過する間に経験する散乱に、依存する。焦点スポットの面積が光の波動性により規定される回折限界値よりも小さくなることはできない。原則的に、大部分の効果的な光学系のいくつかは、手術容積(surgical volume)内における走査パターンの全域を通して焦点スポットが回折限界値に近い状態で、レーザビームを供給する能力を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
残念ながら、実際的にはレーザビームは多くの場合、レーザビーム自体の歪み、ビーム走査−合焦光学系における歪み、および組織自体における歪みに起因して、しばしば限定的に走査パターンの少なくとも1部分において回折に及ばないことがある。したがって、眼科手術中に走査パターン全域を通してプラズマ閾値をわずかな量だけ越えるエネルギー密度を有するレーザビームを供給することが可能となるよう、実際的な用途においてさえビーム歪みを低減および最小化するシステムおよび方法を設計することは依然として大きな課題である。
【0008】
フェムト秒レーザ眼科手術は現在、とりわけレーシック処置のための角膜フラップ形成、基質内手術、および白内障手術を含む様々な眼科処置のために用いられる。これらの手術は、角膜、水晶体嚢、水晶体における様々な場所における切開、切断、および光崩壊の形成を含む。特に、白内障手術の第1段階は、水晶体嚢における嚢切開と、水晶体における光崩壊、水晶体リシス、水晶体チョップ、または白内障処置と、を含み得る。水晶体は眼球の深い中心領域(3〜10mmの範囲の大きいzC深さであるが、横方向は2〜5mmまたは3〜4mmの範囲で制限された中心半径rC内)に配置される。ここで、zC深さは角膜とレーザシステムの光学系とが交叉する眼球の頂端から測定することができ、横方向半径rCは眼球またはレーザシステムの光軸から測定することができる。
【0009】
白内障手術の第1段階の後、角膜に集中する第2段階が行われる。この第2段階は、角膜に入口切断、アクセス切断、角膜輪部減張切開、弓形切開部、またはちょうつがいフラップを形成することを含み得る。これらの切断部は、浅い周辺角膜領域に形成され得る(0〜2mmのより小さいzP深さであるがrCとrPとの間の周辺半径はより大きい。ただし周辺半径rPは4〜9mmまたは5〜8mmの範囲であり得る)。
【0010】
多数の眼科手術用レーザシステムでは、患者インターフェース(PI)を眼球にドッキングして眼球を不動化させることにより、レーザビームの標的精度が高められる。患者インターフェースは通常、接眼レンズを含む。接眼レンズはシステム光学系から眼組織へとレーザビームを案内するために角膜と直接的に接触する。患者インターフェースの接眼レンズと角膜との間に接触表面を形成することは、多くの場合、圧平と呼称される。患者インターフェースは真空吸引により眼球に取り付けられた吸引リングも含み得る。PIを眼球上に降下させる際に真空吸引を吸引リングに印加すると、大気圧が患者インターフェースを押圧し、それにより接眼レンズが眼球に押圧されることとなる。
【0011】
多数の白内障手術は、眼球を不動化するためにPIを角膜にドッキングすることにより開始される。ドッキングの後、手術用レーザビームを正確に誘導するために標的領域の測定が較正され、その後、手術手順の第1段階および第2段階が実行される。手術過程全体の実行中、眼球を定位置に保持するために、ドッキングは解放されない。これにより、初回の較正を手術過程全体を通して使用することが可能となり、PIを再ドッキングすることが不要となる。かかる再ドッキングは、かなりの時間を要する追加的なステップとなり得る。
【0012】
残念ながら、患者インターフェースにより眼球に印加される圧力が圧平の実行中に増加すると、眼球の眼組織、および眼組織を隔てる境界が係る圧力増加により変形してしまう可能性がある。異なる組織の屈折率が異なるため、レーザビームが、標的領域に達する途中で、変形された眼組織の変形された境界を通過する際に、システム設計計算には含まれなかった歪みがレーザビームに生じることとなる。これらの計算外の歪みにより、レーザビームのエネルギー密度がプラズマ閾値より低くなる程度にまで焦点スポットの寸法が大きくなり得る。その結果、標的組織の適切な切断が不可能となり、それにより手術の効率が質的に劣化してしまう。
【0013】
嚢切開の具体例において、PIによる高圧は角膜にしわを生じさせ得る。角膜組織の屈折率は背後にある房水の屈折率と異なるため、水晶体に達する途中に、しわが与えられた角膜−房水境界においてより大きい歪みがレーザビームに生じ得る。その結果、エネルギー密度がプラズマ閾値より小さくなってしまうこともある。係る微弱なビームは水晶体嚢を切断することができず、そのため部分的につながった組織が残され、したがって嚢切開が不完全となってしまうこともある。嚢切開が不完全となると、医師がさらに機械的ツールを用いて切断を行うことが必要となり、係るツールを用いての切断は精度が実質的に低いため、組織が不必要に断裂してしまうこともある。
【0014】
ビームのエネルギー密度が低下することに加えて、角膜のしわにより角膜−房水境界面の向きが変えられてしまい、レーザビームがその意図された標的から誤方向に誘導されてしまう恐れが生じる。
【0015】
最終的に、患者インターフェースに圧力が印加されることにより、他の種類の望ましくない結果(例えば、標的とする水晶体がずれることもしくは傾斜すること、追加的な機構によりレーザビームがその意図された標的から逸脱してしまうことなど)が導入され得る。
【0016】
したがって角膜上に印加される患者インターフェースの圧力を低減するレーザシステムおよび手術方法は上述の3つの問題点の悪影響を低減し、それにより手術に関する精度および性能が改善され得る。
【0017】
PIの圧力により角膜にしわが生じることに関連する問題は、ビームが角膜を越えて標的領域に向かう途中でしわを有する角膜境界を横切って誘導される場合にのみ、しわによる悪影響が生じることを認識することにより低減され得る。なぜなら、しわを有する角膜境界がビームに歪みを生じさせ、それによりビームのエネルギー密度が低下することは、係るビーム経路に対してのみ生じるためである。
【0018】
この認識を活用するために、白内障手術の第1段階(嚢切開および水晶体光崩壊が実行される)の間にのみビームが角膜を越えて誘導および走査されることが想起される。注目すべきことにこの第1段階では、ビームは大きいz深さにおいて走査される一方で、ビームは2〜5mmまたは3〜4mmの範囲の中心半径rc内の眼球の中心領域においてのみ走査される。したがって白内障手術の第1段階は、中心領域に限られた角膜に対して部分的にしか接触しない患者インターフェースにより実行が可能である。とりわけ、係る部分的接触は、部分的圧力のみを印加することにより形成することできる。係る部分的圧力は、角膜の中心領域および周辺領域との完全接触を強いるために必要となる完全圧力よりも小さい。
【0019】
要約すると、白内障手術の第1段階の間は部分的圧力のみを印加して眼球と患者インターフェースとの間に部分的接触のみを形成し、引き続き第2段階に対してはより大きい圧力すなわち完全圧力により拡張接触すなわち完全接触を形成することが可能な患者インターフェースを用いることにより、角膜のしわを低減させ、それにより白内障手術の第1段階の全体を通してエネルギー密度をプラズマ閾値より大きく保つことが可能である。第2段階では、レーザビームは角膜内の走査パターンを通してしか走査されない。したがってレーザビームは、走査パターン内の標的をヒットする前に、変形された角膜−房水境界と交叉しない。その結果、第2段階における完全圧力により生じるしわの悪影響は、著しく減少させることが可能である。
【0020】
しかし上記の認識は、今日の柔軟性に欠ける患者インターフェースで有効に用いることは不可能である。なぜなら既存のシステムでは、ひとたびPIが定位置に固定的にドッキングされると、係るドッキングはもはや変動させることは不可能であり、変動させるべきではないためである。これは、ドッキングが白内障手術の第1段階と第2段階との間で解放され圧平が部分的圧平から完全圧平へと増加されたならば、PIの再ドッキングが必要となり、その結果、測定の再較正および手術計画が必要となることに加えて手術手順時間が延長されることとなり、その両者が実質的な不利な点となるためである。
【0021】
それとは対比的に、新型患者インターフェースの圧平がドッキングを解放することなく可変であるならば、白内障手術の第1局面は部分的圧平のみにより実行が可能であろう。部分的圧平の実行中、PIは、2〜5mmまたは3〜4mmの範囲の接触半径rc内における角膜の中心部分と接触するのみである。係る部分的圧平は、部分的圧力のみを印加することにより達成され得るであろう。その結果、角膜のしわは限定的なものとなるかまたはまったく存在しなくなり、それによりビームのエネルギー密度がプラズマ閾値より小さくなること、ビームが誤方向に誘導されること、および水晶体がずれること、が回避され得る。
【0022】
第1段階の嚢切開および水晶体光崩壊が実質的に完了した後、係る可変圧平患者インターフェースの圧平は、ドッキングを解放することなく、白内障手術の第2段階のために部分的圧平から完全圧平すなわち拡張圧平へと増加され得る。完全圧平すなわち拡張圧平は、圧力を完全圧力へと増加して、接触半径を中心半径rCから周辺半径rP(4〜9mmまたは5〜8mmの範囲)まで増加させることにより達成が可能である。完全圧力へと加圧することにより角膜−房水境界面にしわが生じることとなるであろうが、このしわにより手術性能にもたらされる劣化は限定的なものであるかまたはまったく存在しない。なぜなら白内障手術の第2段階では、切断の形成は角膜組織内部のみに限定され、したがってレーザビームは、走査パターン内の標的をヒットする前に、しわを有する角膜−房水境界面を伝搬する必要がないためである。
【0023】
係る可変圧平患者インターフェースを使用する代替的方法では、上記の第1手術段階および第2手術段階は逆順序での実行が可能である。執刀医は、最初に周辺角膜切断の実行により開始し、次に水晶体および水晶体嚢における中心切断を実行することが可能である。係る方法を用いると、可変圧平患者インターフェースは、最初は手術の角膜段階のために完全圧力で眼球に連結され、次に圧力を部分的値に減少させ、角膜のしわが減少した状態またはまったく存在しない状態で、水晶体の光崩壊および嚢切開が実行され得る。
【0024】
要約すると、上述の考慮は、白内障手術実行中に圧平を変化させることが可能である新型患者インターフェースが、いくつかの今日の柔軟性に欠ける患者インターフェースに関する上述の3つの欠点(すなわちエネルギー密度が低下すること、レーザビームが誤方向に誘導されること、および水晶体がずれること)を回避または実質的に低減することが可能であることを実証する。
【課題を解決するための手段】
【0025】
広範かつ全般的に、本特許文献は係る新型の可変圧平患者インターフェースについて説明する。これらの可変圧平患者インターフェースの実施形態は、眼科手術用レーザシステムの遠位端に取り付け可能なレンズ支持システムと、レンズ支持システムにより支持されかつ眼球表面に接触するよう構成された接眼レンズと、レンズ支持システムおよび接眼レンズのうちの少なくとも1つに連結された調節可能な連結器であって、眼球表面の非中心領域に連結されることと、中心圧平により眼球表面の中心領域に接触するよう接眼レンズを適応させることと、拡張圧平により中心領域よりも大きい眼球表面の拡張領域に接触するよう接眼レンズを適応させることと、中心圧平と拡張圧平との間の変化を可能にすることと、を実行するよう構成された調節可能な連結器と、を含み得る。
【0026】
他の実施形態において、可変圧平患者インターフェースは、眼科手術用レーザシステムの遠位端に取り付け可能なレンズ支持システムであって、中心圧平により眼球表面の中心領域に接触するよう構成された中心接眼レンズを支持することと、中心接眼レンズを拡張接眼レンズに交換することを可能にすることと、拡張圧平により中心領域より大きい眼球表面の拡張領域に接触するよう構成された拡張接眼レンズを支持することと、を実行するよう構成されたレンズ支持システムと、レンズ支持システム、中心接眼レンズ、および拡張接眼レンズのうちの少なくとも1つに連結可能な調節可能な連結器であって、眼球表面の非中心領域に連結されるよう構成された調節可能な連結器と、を含み得る。
【0027】
他の実施形態において、眼科手術の方法は、レンズ支持システムを眼科手術用レーザシステムの遠位端に取り付けることと、レンズ支持システムおよび接眼レンズのうちの少なくとも1つに連結された調節可能な連結器を眼球表面の周辺領域に連結することと、中心圧平を有しかつレンズ支持システムに支持された接眼レンズを眼球表面の中心領域に連結することと、調節可能な連結器により中心圧平と拡張圧平との間の変化を可能にすることと、拡張圧平により中心領域より大きい眼球表面の拡張領域に接眼レンズを連結することと、を含み得る。
【0028】
さらに他の実施形態において、眼科手術の方法は、レンズ支持システムを眼科手術用レーザシステムの遠位端に取り付けることと、レンズ支持システムおよび接眼レンズのうちの少なくとも1つに連結された調節可能な連結器を眼球の周辺領域に連結することと、圧平により眼球に接眼レンズを連結することと、眼球に対する調節可能な連結器の連結を保持しつつ接眼レンズの圧平を変化させることと、を含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】眼科手術用レーザシステムを示す図である。
図2A】可変圧平患者インターフェースを示す図である。
図2B】可変圧平患者インターフェースを示す図である。
図3A】アクチュエータを有する可変圧平患者インターフェースの1つの実施形態を示す図である。
図3B】アクチュエータを有する可変圧平患者インターフェースの1つの実施形態を示す図である。
図4A】可撓性コネクタを有する可変圧平患者インターフェースの1つの実施形態を示す図である。
図4B】可撓性コネクタを有する可変圧平患者インターフェースの1つの実施形態を示す図である。
図5A】可変圧平患者インターフェースの1つの実施形態を示す図である。
図5B】可変圧平患者インターフェースの1つの実施形態を示す図である。
図6A】可変圧平患者インターフェースの1つの実施形態を示す図である。
図6B】可変圧平患者インターフェースの1つの実施形態を示す図である。
図7A】可変圧平患者インターフェースの1つの実施形態を示す図である。
図7B】可変圧平患者インターフェースの1つの実施形態を示す図である。
図8A】可変圧平患者インターフェースの1つの実施形態を示す図である。
図8B】可変圧平患者インターフェースの1つの実施形態を示す図である。
図8C】可変圧平患者インターフェースの1つの実施形態を示す図である。
図8D】可変圧平患者インターフェースの1つの実施形態を示す図である。
図9】眼科手術の1つの方法を示す図である。
図10】眼科手術の1つの方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本特許文献は、眼科処置の実行中に角膜組織のしわを低減させることが可能な可変圧平患者インターフェース(VA−PI)の実施形態について説明する。
【0031】
図1は眼科手術用レーザシステム100を示す。眼科手術用レーザシステム100は手術用レーザ110を含み得る。手術用レーザ110は、手術用レーザビーム112を生成し、手術用レーザビーム112をビームスプリッタBS1において光学系120に連結させる。手術用レーザ110は、フェムト秒またはピコ秒の範囲のパルス長さを有するパルスレーザビームを生成する能力を有し得る。光学系120は、パルスレーザビーム112の方向を変え、対物レンズ122および可変圧平患者インターフェースVA−PI200を通して患者10の眼球1にパルスレーザビーム112を供給する。
【0032】
レーザシステム100は画像システム130も含み得る。画像システム130は眼科処置の精度を向上させるために1つまたは複数の画像を執刀医に対して提供し得る。画像は立体顕微鏡画像、ビデオ画像、シャインプルーフ画像、または光干渉断層撮影(OCT)画像を含み得る。画像は画像プロセッサ132により分析され得る。
【0033】
生成された画像は執刀医に案内情報を提供するために案内システム140上に表示され得る。案内システム140の機能の1つは、ドッキングを最適化するために、眼球1の中心および光学系120の中心または光軸を位置合わせするにあたり執刀医を案内することであり得る。いくつかの実施形態において、案内システム140はビデオ顕微鏡のビデオ画像を表示するためのビデオモニタを含み得る。他の実施形態では、案内システムは画像システム130により生成されたOCT画像を表示するためのOCTディスプレイを含み得る。さらに他の実施形態では、案内システム140はビデオ画像およびOCT画像の両方を表示し得る。
【0034】
加えて、案内システム140は、画像プロセッサ132による画像の処理結果に基づいて執刀医を案内するための案内ディスプレイを含み得る。例えば、案内システム140の案内ディスプレイは、光学系120の光学中心または光軸の位置が示されることにより執刀医が光学系120の光軸に対する眼球1の位置を判定することが可能となるよう、眼球1のビデオ画像上に重ね合わされた標的パターンまたは十字記号パターンを含み得る。他のシステムにおいて、案内システム140は、光学系120と眼球1とを位置合わせするための訂正動作を執刀医に示唆するための1つまたは複数の矢印を表示し得る。
【0035】
位置合わせの訂正は、案内システム140によって表示される案内情報に応答して、執刀医により、または手術用レーザシステム100のプロセッサにより、開始され得る。例えば、レーザシステム100のいくつかの実施形態は、ドッキング手順の一部として対物レンズ122を横方向に移動させ対物レンズ122と眼球1の中心とを位置合わせするためのガントリー152およびガントリー制御器154を含み得る。ガントリー152が移動することにより、眼球1と光学系120との横方向すなわち横断方向の位置ずれが補正され得る。
【0036】
眼球1と光学系120の光軸との回転位置ずれすなわち角度位置ずれは、固視灯158を制御眼球1cに投射する固定光源156により補正され得る。患者10は固視灯158の動きを追うよう指示され得る。執刀医は、固視灯158を調節するにつれて、案内システム140の案内ディスプレイ上で標的パターンおよび光学系120の光軸に対する眼球1のビデオ画像の動きを追い、眼球1が光学系120の光軸に対して所望の程度まで位置合わせされるまで固視灯158を調節し続けることができる。
【0037】
図2A図2Bは、眼科手術用レーザシステム100の遠位端(例えば対物レンズ122など)に取り付け可能なレンズ支持システム210と、レンズ支持システム210により支持されかつ眼球表面(例えば角膜など)に接触するよう構成された接眼レンズ220と、を含み得る可変圧平患者インターフェース(VA−PI)200の1つの実施形態を示す。VA−PI200は、レンズ支持システム210および接眼レンズ220のうちの少なくとも1つに連結され得る調節可能な連結器230をさらに含み得る。調節可能な連結器230は、眼球表面の非中心領域すなわち周辺領域に連結されることと、中心圧平により眼球表面の中心領域に接触するよう接眼レンズ220を適応させることと、拡張圧平により中心領域より大きい眼球表面の拡張領域に接触するよう接眼レンズ220を適応させることと、中心圧平と拡張圧平との間の変化を可能にすることと、を行うよう構成され得る。拡張領域は眼球表面の中心領域および周辺領域を含み得る。眼球表面は眼球の角膜を越えて拡張し得る。
【0038】
白内障処置、嚢切開、水晶体リシス、光崩壊、または水晶体チョップを実行するにあたりレーザビーム112が眼球1の水晶体5のみに当てられるならば、本明細書で説明するVA−PI200設計を用いることは白内障手術の第1段階において角膜のしわを最小化し得る。したがって白内障手術の第1段階の実行中にVA−PI200の実施形態を用いることにより、走査パターンに沿ったいずれかの位置においてプラズマ閾値未満にエネルギー密度が低下することと、しわを有する角膜−房水境界面によりレーザビームが誤方向に誘導されることと、水晶体5がずれることまたは回転することと、が回避され得る。これらの理由全部のために、VA−PI200の実施形態を用いることは、白内障手術の精度および効率を向上させ得る。
【0039】
係る調節可能な連結器230を有するVA−PI200は、眼球表面の非中心領域すなわち周辺領域に対する調節可能な連結器230の連結状態を解放することなく、眼科手術の実行中または眼科手術の一部として、接眼レンズ220の中心圧平と拡張圧平との間の変化を可能にし得る。眼科手術の実行中は時間が重要である一方で解放後における連結の再確立すなわち再ドッキングが時間を要しかつ精度が低い手順であるため、連結を維持することは有利であり得る。
【0040】
VA−PI200のいくつかの実施形態において、中心圧平と拡張圧平との間の変化を可能にするよう構成された調節可能な連結器230は、中心圧平から拡張圧平への変化または拡張圧平から中心圧平への変化を可能にするよう構成された調節可能な連結器230を含み得る。
【0041】
VA−PI200のいくつかの実施形態において、調節可能な連結器230はレンズ支持システム210に一体化され得る。いくつかの場合において、調節可能な連結器230はレンズ支持システム210の1部分であり得る。
【0042】
いくつかの実施形態において、調節可能な連結器230は、眼球表面との気密接触を形成し得る吸引リング231と、接眼レンズ220、吸引リング231、および眼球表面により形成されたドッキングチャンバ233に吸引ポンプ(図示せず)を接続する真空ホース232と、を含み得る。吸引リング231は、リング、スカート、コーン、または眼球表面に対する気密連結を提供する能力を有する任意の他の構造体を含み得る。
【0043】
上述のように、係るVA−PI200を用いることにより、接眼レンズ220は、眼球表面の中心領域に接触するときには、眼科手術用レーザシステム100が、眼球の水晶体の、白内障レーザ処置、嚢切開、水晶体リシス、光崩壊、または水晶体チョップを実行することを可能にし得る。さらに、係るVA−PI200を用いることにより、接眼レンズ220は、眼球表面の拡張領域に接触するときには、眼科手術用レーザシステム100が、角膜輪部減張切開、弓形切開、前眼房アクセス切断(access cut)、前眼房入口切断(entry cut)、フラップ切断、または角膜屈折処置を実行することを可能にする。前述のように、中心領域の中心半径rCは2〜5mm(いくつかの実施形態では3〜4mm)の範囲にあり得、その一方で、周辺領域の周辺半径rPは4〜9mm(いくつかの実施形態では5〜8mm)の範囲にあり得る。
【0044】
図2Aは、レーザビーム112が水晶体5のみに当てられる白内障手術の第1段階では中心半径rCを有する角膜の中心部分のみにVA−PI200が接触でき、したがって角膜組織に生じるしわがわずかのみであるかまたはまったく存在しないことを示す。
【0045】
図2Bは対照的に、白内障手術の第2段階の間に高い圧力が印加されて接触半径を中心rC半径から周辺rP半径に増加させると、図示のように角膜組織にしわが生じ得ることを示す。このようなしわの発生は、嚢切開または白内障処置に対しては、上述の3つの問題点のうちの1つまたは複数を生じさせ得るが、第2段階で実行される角膜処置に対してはほとんど影響を及ぼさない。なぜならこの第2段階では、レーザビームが角膜標的にのみ誘導され、したがってレーザビームはその標的をヒットする前に、しわを有する境界と交叉しないためである。
【0046】
前述のように、いくつかの実施形態では第1手術段階および第2手術段階の実行順序は交換可能である。したがってVA−PI200は、最初はより高い圧力で用いられることができ、その結果、接眼レンズ220は眼球表面の拡張領域に接触する。次に圧力を低くすると、接眼レンズ220が眼球表面の中心領域のみに接触することとなる。
【0047】
VA−PI200のいくつかの実施形態において、圧平は執刀医により手動で調節が可能である。例えばVA−PI200は、どこで執刀医が圧平を調節したとしても、常にレンズ支持システム210を位置範囲内で安定化させることが可能な位置決め機構を含み得る。位置決め機構は機械的摩擦、調節ねじ、レバーアーム、または広範なロック機構に基づき得る。
【0048】
図3A図3Bは、他の実施形態において眼科手術用レーザシステム100が圧平を調節するためのアクチュエータ240を含み得ることを示す。アクチュエータ240は、レンズ支持システム210、調節可能な連結器230、接眼レンズ220、またはこれらの任意の組み合わせに連結され得る。アクチュエータ240は、機械的、摩擦利用型、バネ加圧型、接着剤利用型、圧搾空気型、化学型、熱型、磁気型、電気型、または電磁システムを含み得る。アクチュエータ240はモータ、圧電システム、電子制御システム、バネ加圧システム、または電磁システムにより駆動され得る。アクチュエータ240は、接眼レンズ220の圧平の変化を可能にするために、調節可能な連結器230を作動させ得る。
【0049】
図3Aは、いくつかの実施形態ではアクチュエータ240が、すでにドッキングされた吸引リング231に対してレンズ支持システム210を移動させ、それにより接眼レンズ220の圧平の変化を生じさせることが可能な駆動制御器241(例えば電気モータ、圧電アクチュエータ、機械式アクチュエータ、電磁システムなど)をVA−PI200の外部に含み得ることを示す。
【0050】
図3Bは、他の実施形態では、アクチュエータ240の他の部分242はVA−PI200に一体化され得る一方でアクチュエータ240の駆動制御器部分241がVA−PI200の外部に保持され得ることを示す。係る実施形態では、外側部分241は、一体化部分242に力を印加することにより、接眼レンズ220の圧平を変化させ得る。
【0051】
いくつかの実施形態において、中心圧平を有するよう接眼レンズ220を適応させるよう構成された調節可能な連結器230は接眼レンズ220を第1レンズ位置に配置するよう構成された調節可能な連結器230を含み得、拡張圧平を有するよう接眼レンズ220を適応させるよう構成された調節可能な連結器230は接眼レンズ220を第2レンズ位置に配置するよう構成された調節可能な連結器230を含み得、中心圧平と拡張圧平との間の変化を可能にするよう構成された調節可能な連結器230は、第1レンズ位置と第2レンズ位置との間で接眼レンズ220の再配置を可能にするよう構成された調節可能な連結器230を含み得る。
【0052】
アクチュエータ240を含む実施形態において、アクチュエータ240は、接眼レンズ220を再配置することにより中心圧平と拡張圧平との間の変化を可能にするために、調節可能な連結器230を作動させ得る。
【0053】
ここで、接眼レンズ220が第1レンズ位置にある(例えば第1z深さに配置された)ということは、接眼レンズ220を2〜5mmまたは3〜4mmの範囲の中心半径rC内の眼球表面すなわち角膜に接触させ得る。なおこれは、眼科手術用レーザシステム100が上述の白内障処置のうちの1つを実行することを可能にする。その一方で、接眼レンズ220が第2レンズ位置にある(例えば第2z深さに配置された)ということは、接眼レンズ220を4〜9mmまたは5〜8mmの範囲の周辺半径rP内の眼球表面すなわち角膜に接触させ得る。なおこれは、眼科手術用レーザシステム100が上述の角膜処置のうちの1つを実行することを可能にし得る。
【0054】
図4A図4Bは、VA−PI200のいくつかの実施形態が一体型であり、可撓性コネクタ234を含み得ることを示す。なお可撓性コネクタ234は、調節可能な連結器230をレンズ支持システム210に接続し得る。また可撓性コネクタ234は、接眼レンズ220が第1レンズ位置に配置される第1コネクタ構成を取ることと、接眼レンズ220が第2レンズ位置に配置される第2コネクタ構成を取ることと、第1コネクタ構成と第2コネクタ構成との間で構成の変化を可能にすることと、を実行するよう構成される。
【0055】
可撓性コネクタ234は、広範な種類の物質(可撓性物質、プラスチック、変形可能物質、可塑性物質、バネ作用物質、および磁気カプラを含む)を含み得る。
【0056】
可撓性コネクタ234の第1コネクタ構成は拡張構成であり、第2コネクタ位置は圧縮構成であり得る。可撓性コネクタ234は、とりわけロック機構、位置決め機構、摩擦利用型機構、および電磁機構により第1コネクタ構成および第2コネクタ構成に固定され得る。
【0057】
図5A図5Bは、VA−PI200のいくつかの実施形態が2部品タイプであり、レンズ支持システム210および調節可能な連結器230が分離可能または別個の要素であり得ることを示す。係る実施形態では、VA−PI200は位置決め機構235を含み得る。なお位置決め機構235は、接眼レンズ220が第1レンズ位置に配置される第1相対的位置をレンズ支持システム210および調節可能な連結器230が取るよう適応させることと、接眼レンズ220が第2レンズ位置に配置される第2相対的位置をレンズ支持システム210および調節可能な連結器230が取るよう適応させることと、レンズ支持システム210および調節可能な連結器230が第1相対的位置と第2相対的位置との間で変化可能となることと、を実行するよう構成され得る。
【0058】
いくつかの実施形態では、レンズ支持システム210および調節可能な連結器230が第1相対的位置と第2相対的位置との間で変化することは、レンズ支持システム210が取り付けられた対物レンズ122を移動させることにより達成が可能である。
【0059】
VA−PI200の1つの実施形態では、調節可能な連結器230は、レンズ支持システム210の中空円筒に摺動可能に係合することが可能な中空円筒を含み得、位置決め機構235は、レンズ支持システム210の円筒と調節可能な連結器230の円筒とをロックしそれによりレンズ支持システム210を第1支持位置および第2支持位置に固定するよう構成され得る。
【0060】
図6A図6Bは、VA−PI200のいくつかの実施形態では調節可能な連結器230が内側吸引リング231iおよび外側吸引リング231oを含み得、内側吸引リング231iは内側真空ホース232iに連結された内側ドッキングチャンバ233iを画成し、外側吸引リング231oは外側真空ホース232oに連結された外側ドッキングチャンバ233oを画成することを示す。ここで、内側真空ホース232iは内側ドッキングチャンバ233iを1つまたは複数の真空ポンプ(図示せず)に連結し得、外側真空ホース232oは外側ドッキングチャンバ233oを1つまたは複数の真空ポンプ(図示せず)に連結し得る。前述のように、内側吸引リング231iおよび外側吸引リング231oは、リング、スカート、コーン、または眼球表面に対する気密連結を提供する能力を有する任意の構造体を含み得る。
【0061】
係るVA−PI200は、外側真空ホース232oを通して外側ドッキングチャンバ233oに穏やかな第1吸引が印加されたときには、接眼レンズ220が眼球表面の中心領域のみに接触することを可能にし、内側真空ホース232iを通して内側ドッキングチャンバ233iに増加された第2吸引が印加されたときには、接眼レンズ220が眼球表面の拡張領域に接触することを可能にする。
【0062】
穏やかな第1吸引に起因する第1圧力すなわち部分的圧力の値は、接眼レンズ220が眼球表面の中心領域のみに接触し、それにより角膜に生じるしわが限定的であるかまたはまったく存在せず、したがって、白内障手術の第1段階の白内障処置に対してビーム歪みが最小化されるよう、選択され得る。増加された第2吸引に起因する次の第2圧力すなわち完全圧力は、接眼レンズ220が眼球表面の拡張領域において眼球表面と接触するよう、より高くなり得る。なお前述のように、拡張領域は中心領域および周辺領域を含み得る。増加された第2圧力すなわち完全圧力は角膜にしわを生じさせ得るが、白内障手術の第2段階の角膜処置はこれによる悪影響を被らない。なぜならレーザビームは角膜組織内でのみ走査され、したがって標的に達する途中においてしわを有する角膜境界と交叉しないためである。
【0063】
図7A図7Bは、VA−PI200のいくつかの実施形態では、中心圧平を有するよう接眼レンズ220を適応させるよう構成された調節可能な連結器230は、接眼レンズ220の形状が第1レンズ形状を取るよう適応させるよう構成された調節可能な連結器230を含み得ることと、拡張圧平を有するよう接眼レンズ220を適応させるよう構成された調節可能な連結器230は、接眼レンズ220の形状が第2レンズ形状を取るよう適応させるよう構成された調節可能な連結器230を含み得ることと、中心圧平と拡張圧平との間の変化を可能にするよう構成された調節可能な連結器230は、接眼レンズ220の形状が第1レンズ形状から第2レンズ形状へと変化することを可能にするよう構成された調節可能な連結器230を含み得ることと、を示す。
【0064】
図示のように、第1レンズ形状は、接眼レンズ220が中心領域のみにおいて眼球1に接触することとなる低曲率形状220lであり得る一方で、第2形状は、接眼レンズ220が拡張領域において眼球に接触することを可能にする高曲率形状220hであり得る。
【0065】
この形状変化は、異なる方法により異なる実施形態において具体化され得る。例えば、接眼レンズ220が可撓性を有しかつ変形可能な物質から形成されているシステムでは、接眼レンズ220の形状は、レンズ支持システム210により作用される圧力を増加することにより変化され得る。圧力は、真空ホース232を通して調節可能な連結器230に印加される吸引を増加することにより増加され得る。他の実施形態では、調節可能な連結器230が吸引リング231により眼球に連結された後に執刀医がレンズ支持システム210を眼球1に向かって手動で降下させることにより圧力は増加され得る。
【0066】
さらに他の実施形態では、眼科手術用レーザシステム100は、レンズ支持システム210、調節可能な連結器230、接眼レンズ220、またはこれらの組み合わせに連結されたアクチュエータ240を含み得る。アクチュエータ240は、機械的、摩擦利用型、バネ加圧型、接着剤利用型、圧搾空気型、化学型、熱型、磁気型、電気型、または電磁システムを含み得る。アクチュエータ240はモータ、圧電システム、電子制御システム、または電磁システムにより駆動され得る。アクチュエータ240は、接眼レンズ220の形状を変化させることにより中心圧平と拡張圧平との間の変化が可能となるよう、調節可能な連結器230を作動させ得る。
【0067】
いくつかの実施形態において、接眼レンズ220はレオロジー流体を含み得、アクチュエータ240は、磁場を印加することにより接眼レンズ220の可撓性を変化させることが可能である。
【0068】
いくつかの実施形態において、アクチュエータ240はレンズ支持システム210を眼球に向かって降下させ得る。それにより接眼レンズ220の形状が変化し得る。
【0069】
図8A図8Bは、眼科手術用レーザシステム100の遠位端に取り付け可能なレンズ支持システム210を含み得るVA−PI200の1つの実施形態を示す。VA−PI200のこの実施形態は接眼レンズ220自体を交換することにより圧平を変化させることが可能である。レンズ支持システム210は中心接眼レンズ220cを支持し得、中心接眼レンズ220cは中心圧平により眼球表面の中心領域に接触し得る。レンズ支持システム210は、中心接眼レンズ220cを拡張接眼レンズ220eに交換すること、および拡張圧平により中心領域より大きい眼球表面の拡張領域に接触するよう拡張接眼レンズ220eを支持すること、も可能にする。
【0070】
加えてVA−PI200は、レンズ支持システム210、中心接眼レンズ220c、および拡張接眼レンズ220eのうちの少なくとも1つに連結可能な調節可能な連結器230を含み得る。調節可能な連結器230は眼球表面の非中心領域に連結されることが可能である。
【0071】
図8C図8Dは、VA−PI200のいくつかの区画化レンズ式の実施形態においては、拡張接眼レンズ220eが、中心接眼レンズ220cを取り外すことなくレンズ支持システム210に取り付け可能な環状接眼レンズ220aを含み得ることを示す。環状接眼レンズ220aは、白内障手術が第1の中心段階から第2の周辺すなわち角膜段階に進行するときに、眼球表面上に降下させることが可能である。または等価に、環状接眼レンズ220aは、白内障手術が第1の角膜段階から第2の中心段階へと進行するとき、眼球表面から上昇させることが可能である。
【0072】
図9は、眼科手術の方法300が、レンズ支持システムを眼科手術用レーザシステムの遠位端に取り付けること310と、レンズ支持システムおよび接眼レンズのうちの少なくとも1つに連結された調節可能な連結器を眼球表面の周辺領域に連結すること320と、中心圧平を有しかつレンズ支持システムに支持された接眼レンズを眼球表面の中心領域に連結すること330と、調節可能な連結器により中心圧平と拡張圧平との間の変化を可能にすること340と、拡張圧平により中心領域より大きい眼球表面の拡張領域に接眼レンズを連結すること350と、を含み得ることを示す。
【0073】
方法300は、水晶体の光崩壊および嚢切開を伴う白内障手術の中心段階に関して角膜組織に変形およびしわが発生することを低減し得る。それによりエネルギー密度がプラズマ閾値より低くなることと、レーザビームが誤方向に誘導されることと、水晶体がずれることもしくは回転することと、が回避される。これらの理由全部のために、方法300を用いることは、白内障手術の精度および効率を向上させ得る。
【0074】
ここで、眼科手術用レーザシステムは、上述の眼科手術用レーザシステム100であり得、レンズ支持システムは上述のレンズ支持システム210であり得、接眼レンズは上述の接眼レンズ220であり得、調節可能な連結器は上述の調節可能な連結器230であり得る。
【0075】
可能にすること340は、眼球表面の周辺領域に対する調節可能な連結器の連結状態を解放することなく、中心圧平と拡張圧平との間の変化を可能にすることを含み得る。可能にすること340は、眼科手術用レーザシステムを用いて実行される眼科処置の1部分として圧平の変化を可能にすることも含み得る。
【0076】
方法300のいくつかの実施形態において、眼球表面の中心領域に接眼レンズを連結すること330は、眼科手術用レーザシステムが眼球の水晶体の、白内障レーザ処置、嚢切開、水晶体リシス、光崩壊、または水晶体チョップを行うことを可能にすることを含み得、眼球表面の拡張領域に接眼レンズを連結すること350は、眼科手術用レーザシステムが角膜輪部減張切開、弓形切開、前眼房アクセス切断、前眼房入口切断、フラップ切断、または角膜屈折処置を行うことを可能にすることを含み得る。
【0077】
方法300のいくつかの実施形態において、可能にすること340は、調節可能な連結器230により接眼レンズ220の位置および形状のうちの少なくとも1つを変化させることを含み得る。
【0078】
方法300のいくつかの実施形態においてステップの順序は逆転可能である。すなわち、可能にすること340は、中心圧平から拡張圧平への変化を可能にすることを含んでもよく、または拡張圧平から中心圧平への変化を可能にすることを含んでもよい。
【0079】
図10は、眼科手術の方法400が、レンズ支持システムを眼科手術用レーザシステムの遠位端に取り付けること410と、レンズ支持システムおよび接眼レンズのうちの少なくとも1つに連結された調節可能な連結器を眼球の周辺領域に連結すること420と、圧平により眼球に接眼レンズを連結すること430と、調節可能な連結器の連結を眼球に対して保持しつつ接眼レンズの圧平を変化させること440と、を含み得ることを示す。上述のように、この連結の解放を可能にするシステムは連結の再確立を必要とし、この再確立は、時間を要するとともに精度が低く、眼科白内障手術の有効性を損なう可能性を生じさせてしまう。
【0080】
いくつかの実施形態では、調節可能な連結器を連結すること420は、調節可能な連結器の吸引リングに吸引を印加することにより調節可能な連結器を眼球の周辺領域に連結することを含み得、変化させること440は吸引を変化させることを含み得る。
【0081】
本文献は多数の特定例を含むが、これらの特定例は本発明の範囲を限定するものであると解釈されるべきではなく、また特許として請求されるものとして解釈されるべきでもなく、むしろ本発明の特定の実施形態に固有の特徴に関する説明であると解釈されるべきである。本文献において複数の別個の実施形態の文脈において説明される特定の特徴は、単一の実施形態において組み合わせとして具体化されてもよい。逆に、単一の実施形態の文脈において説明される様々な特徴は、複数の実施形態において別個に、または任意の好適な小結合において、具体化され得る。さらに、様々な特徴が上記では特定の組み合わせで作用するものとして説明され、さらには最初はそのように特許として請求されたとしても、請求された組み合わせからの1つまたは複数の特徴が、いくつかの場合においては、その組み合わせから削除され、請求される組み合わせは小結合または小結合における変化例に導かれ得る。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10