特許第6154050号(P6154050)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6154050風車翼、風車ロータ及び風力発電装置並びにボルテックスジェネレータの取付方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6154050
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】風車翼、風車ロータ及び風力発電装置並びにボルテックスジェネレータの取付方法
(51)【国際特許分類】
   F03D 1/06 20060101AFI20170619BHJP
【FI】
   F03D1/06 A
【請求項の数】15
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-155525(P2016-155525)
(22)【出願日】2016年8月8日
【審査請求日】2016年12月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】深見 浩司
【審査官】 松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−070638(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02484896(EP,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0328692(US,A1)
【文献】 国際公開第01/016482(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0328688(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
翼本体と、
前記翼本体の表面に取付けられたボルテックスジェネレータと、を備え、
前記ボルテックスジェネレータは、互いに異なる翼長方向位置において、前記翼本体の表面から突出してそれぞれ設けられた複数のフィンをそれぞれ含む複数のフィンセットを含み、
前記複数のフィンセットは、前記複数のフィンセットのうち第1フィンセットの前縁からの距離に比べて、前記フィンセットのうち前記第1フィンセットよりも翼根に近い第2フィンセットの前記前縁からの距離が小さくなるように配置され、
前記複数のフィンセットは、前記翼本体の翼長方向における前記翼本体の翼根の位置と前記翼本体の最大コード長位置との間の少なくとも一部の領域において、前記翼長方向において隣り合う2つの前記フィンセットを結ぶ直線と前記翼根の中心軸とが前記翼本体の表面の平面展開図上にてなす角度θが前記翼根に近づくにつれて大きくなるように配置されることを特徴とする風車翼。
【請求項2】
前記複数のフィンセットは、前記翼根位置における前記翼本体の外径をdとし、前記風車翼が取り付けられる風車の設計周速比をλとし、前記風車翼を含む風車ロータの回転中心と前記翼本体の先端との間の距離をRとし、前記隣り合う2つの前記フィンセットのうち前記翼根に近いフィンセットの前記回転中心からの距離をrとし、前記rと前記Rとの比(r/R)である無次元半径位置をμとしたとき、前記翼根の前記位置と前記最大コード長位置との間の少なくとも一部の領域において、前記角度θが下記式
【数1】

を満たすように配置されたことを特徴とする請求項1に記載の風車翼。
【請求項3】
前記複数のフィンセットは、前記角度θが、θ≦(0.0034/μ)×(180/π)[°]を満たすように配置されたことを特徴とする請求項2に記載の風車翼。
【請求項4】
前記複数のフィンセットは、前記角度θが、θ≧(0.0021/μ)×(180/π)[°]を満たすように配置されたことを特徴とする請求項2又は3に記載の風車翼。
【請求項5】
前記複数のフィンセットは、前記風車翼を含む風車ロータの回転中心と前記翼本体の先端との間の距離をRとし、前記隣り合う2つの前記フィンセットのうち前記翼根に近いフィンセットの前記回転中心からの距離をrとし、前記rと前記Rとの比(r/R)である無次元半径位置をμとしたとき、少なくとも前記無次元半径位置μが0.10≦μ≦0.15の範囲において、角度θが前記翼根に近づくにつれて大きくなるように配置されたことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の風車翼。
【請求項6】
前記複数のフィンは、少なくとも、前記翼本体の翼厚tと、前記翼本体のコード長cとの比である翼厚比(t/c)が70%≦(t/c)≦85%を満たす前記翼長方向の領域において、角度θが前記翼根に近づくにつれて大きくなるように配置されたことを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の風車翼。
【請求項7】
前記フィンセットは、前記翼本体の表面に固定される基部と、前記基部上に立設される1本又は2本の前記フィンと、を有するVGユニットを含むことを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の風車翼。
【請求項8】
前記ボルテックスジェネレータは、前記翼本体の負圧面において、該負圧面に沿った風の流れの乱流域内に設置されることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一項に記載の風車翼。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか一項に記載の風車翼と、
前記風車翼が取り付けられるハブと、
を備えることを特徴とする風車ロータ。
【請求項10】
請求項9に記載の風車ロータを備えることを特徴とする風力発電装置。
【請求項11】
風車翼の表面へのボルテックスジェネレータの取付方法であって、
前記ボルテックスジェネレータは複数のフィンをそれぞれ含む複数のフィンセットを含み、
前記複数のフィンが互いに異なる翼長方向位置において前記風車翼の表面から突出するように、かつ、前記複数のフィンセットが、前記風車翼の翼長方向における前記風車翼の翼根の位置と前記風車翼の最大コード長位置との間の少なくとも一部の領域において、前記翼長方向において隣り合う2つの前記フィンセットを結ぶ直線と前記翼根の中心軸とが前記風車翼の表面の平面展開図上にてなす角度θが前記翼根に近づくにつれて大きくなるように、前記複数のフィンセットを前記風車翼に取付ける取付ステップを備え
前記複数のフィンセットは、前記複数のフィンセットのうち第1フィンセットの前縁からの距離に比べて、前記フィンセットのうち前記第1フィンセットよりも翼根に近い第2フィンセットの前記前縁からの距離が小さくなるように配置される
ことを特徴とするボルテックスジェネレータの取付方法。
【請求項12】
前記取付ステップでは、前記翼根位置における前記風車翼の外径をdとし、前記風車翼が取り付けられる風車の設計周速比をλとし、前記風車翼を含む風車ロータの回転中心と前記風車翼の先端との間の距離をRとし、前記隣り合う2つの前記フィンセットのうち前記翼根に近いフィンセットの前記回転中心からの距離をrとし、前記rと前記Rとの比(r/R)である無次元半径位置をμとしたとき、前記翼根の前記位置と前記最大コード長位置との間の少なくとも一部の領域において、前記角度θが下記式
【数2】

を満たすように、前記複数のフィンセットを配置して前記風車翼に取付ける
ことを特徴とする請求項11に記載のボルテックスジェネレータの取付方法。
【請求項13】
前記取付ステップでは、前記角度θが、θ≦(0.0034/μ)×(180/π)[°]を満たすように前記複数のフィンセットを配置して前記風車翼に取付けることを特徴とする請求項12に記載のボルテックスジェネレータの取付方法。
【請求項14】
前記取付ステップでは、前記角度θが、θ≧(0.0021/μ)×(180/π)[°]を満たすように前記複数のフィンセットを配置して前記風車翼に取付けることを特徴とする請求項12又は13に記載のボルテックスジェネレータの取付方法。
【請求項15】
前記取付ステップでは、前記風車翼を含む風車ロータの回転中心と前記風車翼の先端との間の距離をRとし、前記隣り合う2つの前記フィンセットのうち前記翼根に近いフィンセットの前記回転中心からの距離をrとし、前記rと前記Rとの比(r/R)である無次元半径位置をμとしたとき、少なくとも前記無次元半径位置μが0.10≦μ≦0.15の範囲において、角度θが前記翼根に近づくにつれて大きくなるように前記複数のフィンセットを配置して前記風車翼に取付けることを特徴とする請求項11乃至14の何れか一項に記載のボルテックスジェネレータの取付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、風車翼、風車ロータ及び風力発電装置並びにボルテックスジェネレータの取付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
風車翼の空力的性能を改善して風車の運転効率を向上させる観点から、風車翼の表面に沿った流れの剥離を抑制するために、風車翼の表面にボルテックスジェネレータが設けられることがある。そして、風車翼の空力的性能を向上させるため、風車翼の表面におけるボルテックスジェネレータの配置に関して、様々な試みがなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、風車翼面に沿った流れの剥離を抑制する渦を生成するためのフィンが、風車翼の翼長方向に沿って直線状に配列されたボルテックスジェネレータが開示されている。
また、特許文献2及び3には、上述のフィンが、ピッチ軸に対して所定の角度で傾斜する直線に沿って配列されたボルテックスジェネレータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2799710号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2014/0140856号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第2548800号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
風車翼面におけるボルテックスジェネレータのフィンの配列を適切に選択することによって、風車の運転効率が向上することが期待される。
しかしながら、特許文献1〜3では、風車翼面におけるフィンの配置と風車の運転効率との関係について、具体的な検討がなされていない。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、風車の運転効率を向上可能な風車翼、風車ロータ及び風力発電装置並びにボルテックスジェネレータの取付方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る風車翼は、
翼本体と、
前記翼本体の表面に取付けられたボルテックスジェネレータと、を備え、
前記ボルテックスジェネレータは、互いに異なる翼長方向位置において、前記翼本体の表面から突出してそれぞれ設けられた複数のフィンをそれぞれ含む複数のフィンセットを含み、
前記複数のフィンセットは、前記翼本体の翼長方向における前記翼本体の翼根の位置と前記翼本体の最大コード長位置との間の少なくとも一部の領域において、前記翼長方向において隣り合う2つの前記フィンセットを結ぶ直線と前記翼根の中心軸とが前記翼本体の表面の平面展開図上にてなす角度θが前記翼根に近づくにつれて大きくなるように配置される。
【0008】
なお、本明細書において、「翼長方向」とは、翼本体の翼根と翼先端とを結ぶ方向のことである。また、本明細書において、風車翼の「コード長」とは、ある翼長方向位置における翼本体の前縁と後縁とを結ぶ線(コード)の長さのことである。
【0009】
本発明者の鋭意検討の結果、風車翼の翼根側の領域において、風車翼の翼長方向に沿って風車翼の翼根に近づくほど、風車翼の表面で風の流れが剥離する位置が前縁側にずれ、かつ、翼長方向位置の変化に対する剥離位置の変化の度合いが大きくなることが明らかとなった。
このことは、以下の理由によると考えられる。すなわち、風車翼の翼長方向における翼根の位置と最大コード長位置との間の少なくとも一部の領域では、風車翼の前縁側の形状は円柱で近似することができる。そして、この領域では、風車翼の翼長方向に沿って風車翼の翼根に近づくほど、周速が小さくなる結果、風の相対流入角度(周速ベクトルと相対流入速度ベクトルとがなす角)が大きくなる。このため、風車翼の翼根に近づくほど、風の相対入流角度の増大に応じて、風車翼の表面で風の流れが剥離する位置が前縁側にずれる。また、翼根に近づくほど翼長方向位置の変化に対する風の相対流入角度の変化量は大きいため、翼根に近づくにつれて、翼長方向位置の変化に対する剥離位置の変化の度合いが大きくなる。
この点、上記(1)の構成では、ボルテックスジェネレータを構成する複数のフィンセットは、翼本体の翼長方向における翼根の位置と最大コード長位置との間の少なくとも一部の領域において、翼長方向において隣り合う2つのフィンセットを結ぶ直線と翼根の中心軸とが翼本体の表面の平面展開図上にてなす角度θが翼根に近づくにつれて大きくなるように配置される。よって、上記(1)の構成によれば、翼長方向位置の変化に応じて変化する流れの剥離位置に対応してフィンが設けられるので、風車翼面上において流れの剥離を効果的に遅延させることができる。これにより、風車の運転効率を向上させることができる。
【0010】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記複数のフィンセットは、前記翼根位置における前記翼本体の外径をdとし、前記風車翼が取り付けられる風車の設計周速比をλとし、前記風車翼を含む風車ロータの回転中心と前記翼本体の先端との間の距離をRとし、前記隣り合う2つの前記フィンセットのうち前記翼根に近いフィンセットの前記回転中心からの距離をrとし、前記rと前記Rとの比(r/R)である無次元半径位置をμとしたとき、前記翼根の前記位置と前記最大コード長位置との間の少なくとも一部の領域において、前記角度θが下記式(A)を満たすように配置される。
【数1】
【0011】
本発明者の鋭意検討の結果、風車翼の翼長方向における翼根付近の領域では、翼面上で流れが剥離する位置は、後で詳述するように、翼本体の表面の平面展開図上にて下記式(B)で表される角度ψに対応する位置であり、下記式(B)より、翼面上における剥離の位置は、無次元半径位置μに応じて変化することが明らかとなった。
【数2】
この点、上記(2)の構成では、角度θが上記式(B)で表されるψ以下であるため、翼面上で流れが剥離する位置よりも前縁側にフィンが配置されるので、風車翼面上において流れの剥離をより効果的に遅延させることができる。また、上記(2)の構成では、角度θが3°以上であるので、比較的先端側においても、風車翼面上において流れの剥離を遅延させる効果を十分に得ることができる。
【0012】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)の構成において、前記複数のフィンセットは、前記角度θが、θ≦(0.0034/μ)×(180/π)[°]を満たすように配置される。
(4)幾つかの実施形態では、上記(2)又は(3))の構成において、前記複数のフィンセットは、前記角度θが、θ≧(0.0021/μ)×(180/π)[°]を満たすように配置される。
【0013】
典型的な風車翼では、角度θがθ≦(0.0034/μ)×(180/π)[°]を満たせば、翼長方向位置の変化に対する剥離位置の変化量に照らして角度θが過大になることが防止され、翼根における広い翼長方向範囲において、剥離遅延効果を享受できる。また、典型的な風車翼では、角度θがθ≧(0.0021/μ)×(180/π)[°]を満たせば、翼長方向位置の変化に対する剥離位置の変化量に照らして角度θが過小になることが防止され、翼根における広い翼長方向範囲において、剥離遅延効果を享受できる。
よって、上記(3)又は(4)の構成によれば、風車翼面上において流れの剥離を効果的に遅延させることができる。これにより、風車の運転効率を向上させることができる。
【0014】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れかの構成において、前記複数のフィンセットは、前記風車翼を含む風車ロータの回転中心と前記翼本体の先端との間の距離をRとし、前記隣り合う2つの前記フィンセットのうち前記翼根に近いフィンセットの前記回転中心からの距離をrとし、前記rと前記Rとの比(r/R)である無次元半径位置をμとしたとき、少なくとも前記無次元半径位置μが0.10≦μ≦0.15の範囲において、角度θが前記翼根に近づくにつれて大きくなるように配置される。
【0015】
典型的な風車翼では、μが0.10≦μを満たす領域は、風車翼のハブへの取付け位置からある程度離れた位置であるため、風車翼にボルテックスジェネレータを取り付けることによる風車の性能改善効果をある程度見込める。また、典型的な風車翼では、μがμ≦0.15を満たす領域では、風車翼の前縁側の形状が円柱で精度よく近似できるため、上記(1)で説明した効果が得られる。
よって、上記(5)の構成によれば、風車翼面上において、流れの剥離を効果的に遅延させるために適した領域にフィンが設けられる。これにより、風車の運転効率を効果的に向上させることができる。
【0016】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(5)の何れかの構成において、前記複数のフィンは、少なくとも、前記翼本体の翼厚tと、前記翼本体のコード長cとの比である翼厚比(t/c)が70%≦(t/c)≦85%を満たす前記翼長方向の領域において、角度θが前記翼根に近づくにつれて大きくなるように配置される。
【0017】
典型的な風車翼では、翼厚比(t/c)が(t/c)≦85%を満たす領域は、風車翼のハブへの取付け位置からある程度離れた位置であるため、風車翼にボルテックスジェネレータを取り付けることによる風車の性能改善効果をある程度見込める。また、典型的な風車翼では、翼厚比(t/c)が70%≦(t/c)を満たす領域では、風車翼の前縁側の形状が円柱で精度よく近似できるため、上記(1)で説明した効果が得られる。
よって、上記(6)の構成によれば、風車翼面上において、流れの剥離を効果的に遅延させるために適した領域にフィンが設けられる。これにより、風車の運転効率を効果的に向上させることができる。
【0018】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(6)の構成において、前記フィンセットは、前記翼本体の表面に固定される基部と、前記基部上に立設される1本又は2本の前記フィンと、を有するVGユニットを含む。
【0019】
上記(7)の構成によれば、翼本体の表面に固定される基部と、基部上に立設される1本又は2本のフィンと、を有するVGユニットによりフィンセットが構成される。したがって、風車翼面上にVGユニットの単位でフィンを柔軟に配置して、上記(1)に記載したように複数のフィンを配列させることができ、これにより、風車翼面上において流れの剥離を効果的に遅延させることができ、風車の運転効率を向上させることができる。
【0020】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(7)の構成において、前記ボルテックスジェネレータは、前記翼本体の負圧面において、該負圧面に沿った風の流れの乱流域内に設置される。
【0021】
風車翼の負圧面における流れの剥離は、前縁近傍の層流域からその下流側の乱流域に向かって境界層が徐々に厚くなり、後縁に到達する前に流れが剥がれてしまうことで生じる。
この点、上記(8)の構成によれば、負圧面に沿った風の流れの乱流域内にボルテックスジェネレータを設置することで、負圧面からの流れの剥離を抑制することができる。
【0022】
(9)本発明の少なくとも一実施形態に係る風車ロータは、
上記(1)乃至(8)の何れかに記載の風車翼と、
前記風車翼が取り付けられるハブと、
を備える。
【0023】
上記(9)の構成では、ボルテックスジェネレータを構成する複数のフィンセットは、翼本体の翼長方向における翼根の位置と最大コード長位置との間の少なくとも一部の領域において、翼長方向において隣り合う2つのフィンセットを結ぶ直線と翼根の中心軸とが翼本体の表面の平面展開図上にてなす角度θが翼根に近づくにつれて大きくなるように配置される。よって、上記(9)の構成によれば、翼長方向位置の変化に応じて変化する流れの剥離位置に対応してフィンが設けられるので、風車翼面上において流れの剥離を効果的に遅延させることができる。これにより、風車の運転効率を向上させることができる。
【0024】
(10)本発明の少なくとも一実施形態に係る風力発電装置は、上記(9)に記載の風車ロータを備える。
【0025】
上記(10)の構成では、ボルテックスジェネレータを構成する複数のフィンセットは、翼本体の翼長方向における翼根の位置と最大コード長位置との間の少なくとも一部の領域において、翼長方向において隣り合う2つのフィンセットを結ぶ直線と翼根の中心軸とが翼本体の表面の平面展開図上にてなす角度θが翼根に近づくにつれて大きくなるように配置される。よって、上記(10)の構成によれば、翼長方向位置の変化に応じて変化する流れの剥離位置に対応してフィンが設けられるので、風車翼面上において流れの剥離を効果的に遅延させることができる。これにより、風車の運転効率を向上させることができる。
【0026】
(11)本発明の少なくとも一実施形態に係るボルテックスジェネレータの取付方法は、
風車翼の表面へのボルテックスジェネレータの取付方法であって、
前記ボルテックスジェネレータは複数のフィンをそれぞれ含む複数のフィンセットを含み、
前記複数のフィンが互いに異なる翼長方向位置において前記風車翼の表面から突出するように、かつ、前記複数のフィンセットが、前記風車翼の翼長方向における前記風車翼の翼根の位置と前記風車翼の最大コード長位置との間の少なくとも一部の領域において、前記翼長方向において隣り合う2つの前記フィンセットを結ぶ直線と前記翼根の中心軸とが前記風車翼の表面の平面展開図上にてなす角度θが前記翼根に近づくにつれて大きくなるように、前記複数のフィンセットを前記風車翼に取付ける取付ステップを備える。
【0027】
上記(11)の方法では、ボルテックスジェネレータを構成する複数のフィンセットは、風車翼の翼長方向における翼根の位置と最大コード長位置との間の少なくとも一部の領域において、翼長方向において隣り合う2つのフィンセットを結ぶ直線と翼根の中心軸とが風車翼の表面の平面展開図上にてなす角度θが翼根に近づくにつれて大きくなるように配置される。よって、上記(11)の方法によれば、翼長方向位置の変化に応じて変化する流れの剥離位置に対応してフィンが設けられるので、風車翼面上において流れの剥離を効果的に遅延させることができる。これにより、風車の運転効率を向上させることができる。
【0028】
(12)幾つかの実施形態では、上記(11)の方法において、
前記取付ステップでは、前記翼根位置における前記風車翼の外径をdとし、前記風車翼が取り付けられる風車の設計周速比をλとし、前記風車翼を含む風車ロータの回転中心と前記風車翼の先端との間の距離をRとし、前記隣り合う2つの前記フィンセットのうち前記翼根に近いフィンセットの前記回転中心からの距離をrとし、前記rと前記Rとの比(r/R)である無次元半径位置をμとしたとき、前記翼根の前記位置と前記最大コード長位置との間の少なくとも一部の領域において、前記角度θが下記式(A)を満たすように、前記複数のフィンを配置して前記風車翼に取付ける。
【数3】
【0029】
上記(12)の方法では、角度θが上記式(B)で表されるψ以下であるため、翼面上で流れが剥離する位置よりも前縁側にフィンが配置されるので、風車翼面上において流れの剥離をより効果的に遅延させることができる。また、上記(12)の方法では、角度θが3°以上であるので、比較的先端側においても、風車翼面上において流れの剥離を遅延させる効果を十分に得ることができる。
【0030】
(13)幾つかの実施形態では、上記(12)の方法において、
前記取付ステップでは、前記角度θが、θ≦(0.0034/μ)×(180/π)[°]を満たすように前記複数のフィンセットを配置して前記風車翼に取付ける。
【0031】
(14)幾つかの実施形態では、上記(12)又は(13)の方法において、
前記取付ステップでは、前記角度θが、θ≧(0.0021/μ)×(180/π)[°]を満たすように前記複数のフィンセットを配置して前記風車翼に取付ける。
【0032】
典型的な風車翼では、角度θがθ≦(0.0034/μ)×(180/π)[°]を満たせば、翼長方向位置の変化に対する剥離位置の変化量に照らして角度θが過大になることが防止され、翼根における広い翼長方向範囲において、剥離遅延効果を享受できる。また、典型的な風車翼では、角度θがθ≧(0.0021/μ)×(180/π)[°]を満たせば、翼長方向位置の変化に対する剥離位置の変化量に照らして角度θが過小になることが防止され、翼根における広い翼長方向範囲において、剥離遅延効果を享受できる。
よって、上記(13)又は(14)の方法によれば、風車翼面上において流れの剥離を効果的に遅延させることができる。これにより、風車の運転効率を向上させることができる。
【0033】
(15)幾つかの実施形態では、上記(11)乃至(14)の何れかの方法において、
前記取付ステップでは、前記風車翼を含む風車ロータの回転中心と前記風車翼の先端との間の距離をRとし、前記隣り合う2つの前記フィンセットのうち前記翼根に近いフィンセットの前記回転中心からの距離をrとし、前記rと前記Rとの比(r/R)である無次元半径位置をμとしたとき、少なくとも前記無次元半径位置μが0.10≦μ≦0.15の範囲において、角度θが前記翼根に近づくにつれて大きくなるように前記複数のフィンセットを配置して前記風車翼に取付ける。
【0034】
典型的な風車翼では、μが0.10≦μを満たす領域は、風車翼のハブへの取付け位置からある程度離れた位置であるため、風車翼にボルテックスジェネレータを取り付けることによる風車の性能改善効果をある程度見込める。また、典型的な風車翼では、μがμ≦0.15を満たす領域では、風車翼の前縁側の形状が円柱で精度よく近似できるため、上記(11)で説明した効果が得られる。
よって、上記(15)の方法によれば、風車翼面上において、流れの剥離を効果的に遅延させるために適した領域にフィンが設けられる。これにより、風車の運転効率を効果的に向上させることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、風車の運転効率を向上可能な風車翼、風車ロータ及び風力発電装置並びにボルテックスジェネレータの取付方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】一実施形態に係る風力発電装置の概略構成図である。
図2】一実施形態に係る風車翼の斜視図である。
図3図2に示す翼面上の領域Sの平面展開図である。
図4】一実施形態に係る風車翼の模式図である。
図5図4に示す風車翼のA−Aに沿った模式的な断面図である。
図6】一実施形態に係る風車翼の一部を示す模式図である。
図7】一実施形態に係るVGユニットの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0038】
図1は、幾つかの実施形態に係る風車翼が適用される風力発電装置の概略構成図である。図1に示すように、風力発電装置1は、少なくとも一本(例えば3本)の風車翼2及びハブ4で構成されるロータ(風車ロータ)5を備える。風車翼2は放射状にハブ4に取り付けられており、風車翼2で風を受けることによってロータ5が回転し、ロータ5に連結された発電機(不図示)で発電を行うように構成されている。
なお、図1に示す実施形態において、ロータ5は、タワー6の上方に設けられたナセル14によって支持されている。タワー6は、水上又は陸上に設けられた基礎構造又は浮体構造などの土台構造に立設されていてもよい。
【0039】
図2は、一実施形態に係る風車翼2の斜視図である。図2に示すように、風車翼2は、翼本体3と、翼本体3の表面(翼面)に取付けられたボルテックスジェネレータ20と、を備える。
【0040】
翼本体3は、風力発電装置1のハブ4に取り付けられる翼根7と、ハブ4から最も遠くに位置する翼先端8と、翼根7と翼先端8の間に延在する翼型部と、を含む。また、翼本体3は、翼根7から翼先端8にかけて、前縁11と後縁12とを有する。また、翼本体3の外形は、圧力面(腹面)9と、圧力面9に対向する負圧面(背面)10とによって形成される。
なお、図2において、幾つかの翼長方向位置における翼本体3のコード方向に沿った断面の形状が破線で示されている。また、図2において、符号13は翼本体3の最大コード長位置を示し、符号Oは、円柱状の形状を有する翼根7の中心軸を示す。中心軸Oは、翼長方向と略平行に延びている。
【0041】
図2に示すボルテックスジェネレータ20は、一対の(すなわち2枚の)フィン23をそれぞれ含む複数のフィンセット22を含む。ボルテックスジェネレータ20を構成する複数のフィンセット22のフィン23は、それぞれ、互いに異なる翼長方向位置において翼本体3の表面から突出するように設けられている。
1つのフィンセット22を構成する一対のフィン23は、コード方向の直線に関して対称に配置されていてもよい。
【0042】
なお、本明細書において、「翼長方向」とは、翼根7と翼先端8とを結ぶ方向であり、「翼コード方向」とは、翼本体3の前縁11と後縁12とを結ぶ線(コード)に沿った方向である。また、本明細書において、風車翼の「コード長」とは、ある翼長方向位置における翼本体の前縁と後縁とを結ぶ線(コード)の長さのことである。
【0043】
また、図2に示す例示的な実施形態では、ボルテックスジェネレータ20を構成する各々のフィンセット22は、負圧面10側に設けられている。
2枚のフィン23を含むフィンセット22は、後述するVGユニットであってもよい。
他の実施形態では、フィンセット22は、3枚以上のフィン23を含んでいてもよい。一実施形態では、フィンセット22は、2対のフィン、すなわち合計4枚のフィンを含んでいてもよい。
【0044】
ここで、図3は、図2に示す翼面上の領域Sの平面展開図である。図2に示すように、領域Sは、翼本体3の翼長方向における翼根7の位置と最大コード長位置13との間に位置する。
幾つかの実施形態では、フィンセット22を構成する一対のフィン23は、翼型を有している。フィン23は、風の流入方向の上流側に位置する前縁26と、風の流入方向の下流側に位置する後縁27と、風の流入方向における上流側を向くフィン23の腹面(圧力面)28と、風の流入方向における下流側を向くフィン23の背面(負圧面)29と、を有する(図3参照)。フィン23において、前縁26と後縁27とを結ぶ直線の方向が、フィン23のコード方向である。
【0045】
幾つかの実施形態において、フィン23は、風流入方向に対して所定の角度をなすように傾斜して設けられている。
例えば、図2又は図3に示すボルテックスジェネレータ20においては、風流入方向の上流側から下流側に向けて(すなわち、風車翼2(図2参照)の前縁11側から後縁12側に向けて)、一対のフィン23,23の間の隙間が広がるように各々のフィン23,23が設けられている。
幾つかの実施形態では、風流入方向の下流側から上流側に向けて(すなわち、風車翼2(図2参照)の後縁12側から前縁11側に向けて)、一対のフィン23,23の間の隙間が広がるように各々のフィン23,23が設けられていてもよい。
【0046】
ここで、ボルテックスジェネレータ20の作用について簡単に説明する。
風車翼2の負圧面10における流れの剥離は、前縁11近傍の層流域からその下流側の乱流域に向かって境界層が徐々に厚くなり、後縁12に到達する前に流れが剥がれてしまうことで生じる。
風車翼2に取り付けられたボルテックスジェネレータ20のフィンセット22は、フィン23が生み出す揚力によって、フィン23の背面29側に縦渦を形成する。また、フィン23に流入した流れによって、フィン23の前縁26の最上流側位置から、それよりも後縁27側の頂部に向かうエッジに沿った縦渦が形成される。このようにフィン23により生成される縦渦によって、フィンセット22の後流側において、風車翼2面上の境界層内外でのフィン23の高さ方向における運動量交換が促進される。これにより、風車翼2の表面における境界相が薄くなり、風車翼2の後縁剥離が抑制されるようになっている。
【0047】
幾つかの実施形態では、複数のフィンセット22は、翼本体3の翼長方向における翼根7の位置と最大コード長位置13との間の少なくとも一部の領域において、翼長方向において隣り合う2つのフィンセット22を結ぶ直線と翼根の中心軸Oとが翼本体3の表面の平面展開図上にてなす角度θが翼根7に近づくにつれて大きくなるように配置される。なお、最大コード長位置とは、翼本体3の翼長方向においてコード長が最大となる位置のことである。
【0048】
このことついて、図3を参照して説明する。領域Sには、ボルテックスジェネレータ20を構成するフィンセット22のうち、隣り合う3つのフィンセット22A,22B及び22Cがそれぞれ異なる翼長方向位置に配置されている。フィンセット22A,22B及び22Cは、それぞれ、一対のフィン23A,23A及び23B,23B及び23C,23Cをそれぞれ含む。
図3において、直線O’及び直線O’’は、翼根7の中心軸Oと平行な直線であり、直線L及びLは、それぞれ、フィンセット22Aの中心C及びフィンセット22Bの中心C、及び、フィンセット22Bの中心C及びフィンセット22Cの中心Cを通る直線である。
【0049】
ここで、隣り合う2つのフィンセット22を結ぶ直線は、これらフィンセット22の対応する点を結ぶ直線である。例えば、該直線は、隣り合う2つのフィンセットのそれぞれの中心を結ぶ直線であってもよい。
図3に示す例では、翼本体3の表面の平面展開図上において、翼長方向において隣り合う2つのフィンセット22A,22Bを結ぶ直線Lと、翼根7の中心軸Oに平行な直線O’とがなす角度θ、及び、翼長方向において隣り合う2つのフィンセット22B,22Cを結ぶ直線Lと、翼根7の中心軸Oに平行な直線O’’とがなす角度θは、それぞれ上述の角度θである。
【0050】
そして、図3に示す例では、領域Sに存在するフィンセット22A,22B,22Cは、角度θが翼根7に近づくにつれて大きくなるように配置されている。すなわち、翼根7に近い側の隣り合うフィンセット22A,22Bにより定まる角度θは、翼根7から遠い側の隣り合うフィンセット22B,22Cにより定まる角度θよりも大きい。
【0051】
なお、角度θが翼根7に近づくにつれて大きくなるように配置された隣り合うフィンセット22は、これらのうち翼根7に近いほうのフィンセット22(例えばフィンセット22Aと22Bのうちフィンセット22A)が、前縁11からの距離が小さくなるように配置されている。言い換えれば、隣り合う2つのフィンセット22を結ぶ直線(例えば直線L及び直線L)は、翼根7の中心軸O(又は直線O’又は直線O’’)に対して、翼先端8側に近づくにつれて、後縁12側に近づくように傾いている。
【0052】
本発明者の鋭意検討の結果、風車翼2の翼根7側の領域において、風車翼2の翼長方向に沿って風車翼2の翼根7に近づくほど、風車翼2の表面で風の流れが剥離する位置が前縁側にずれ、かつ、翼長方向位置の変化に対する剥離位置の変化の度合いが大きくなることが明らかとなった。
【0053】
この点、上述の実施形態に係る風車翼2では、ボルテックスジェネレータ20を構成する複数のフィンセット22は、翼本体3の翼長方向における翼根7の位置と最大コード長位置13との間の少なくとも一部の領域において、翼長方向において隣り合う2つのフィンセット22を結ぶ直線Lと翼根7の中心軸Oとが翼本体3の表面の平面展開図上にてなす角度θが翼根7に近づくにつれて大きくなるように配置される。よって、翼長方向位置の変化に応じて変化する流れの剥離位置に対応してフィン23が設けられるので、風車翼面上において流れの剥離を効果的に遅延させることができる。これにより、風車翼2が取り付けられる風車(例えば、風力発電装置1)の運転効率を向上させることができる。
【0054】
図4は、一実施形態に係る風車翼の模式図である。なお、図4において、風車翼2は、該風車翼2が取り付けられるハブ4とともに図示されている。
図4において、rは翼長方向における翼根7の位置であり、rは翼長方向における最大コード長位置(図2において符号13で示す位置)であり、dは翼根位置rにおける翼本体3の外径であり、Dはハブ4の直径であり、Qは風車翼2及びハブ4を含む風車ロータ5の回転中心であり、Rは風車ロータ5の回転中心Qと翼本体3の先端8との間の距離である。
【0055】
一実施形態では、複数のフィンセット22は、風車翼2が取り付けられる風車の設計周速比をλとし、隣り合う2つのフィンセット22のうち翼根7に近いフィンセット22のロータ5の回転中心Qからの距離をrとし、rとRとの比(r/R)である無次元半径位置をμとしたとき、翼根位置rと最大コード長位置rとの間の少なくとも一部の領域において、角度θが下記式(A)を満たすように配置される。
【数4】
【0056】
本発明者の鋭意検討の結果、風車翼の翼長方向における翼根付近の領域では、翼面上で流れが剥離する位置は、翼本体の表面の平面展開図上にて下記式(B)で表される角度ψに対応する位置でることがわかった。
【数5】
【0057】
以下に、上記式(B)の導出について説明する。
ここで、図5は、図4に示す風車翼2のA−Aに沿った模式的な断面図である。図4に示す翼本体3の翼長方向において、A−Aで示される領域では、翼本体3の前縁11側の形状を円柱で近似できる。そこで、上記式(B)の導出について説明するため、図5には、翼本体3の前縁11側を円柱で近似した断面図を示している。なお、図5において、符号3’は、翼本体3の前縁11側を近似した円柱の断面を示す。
図5はロータ5の回転中心Qからの距離rの位置(便宜的に半径方向位置rとする)における風車翼2の断面図であるとすると、図5において、cは半径方向位置rにおける翼本体3のコード長であり、tは半径方向位置rにおける翼本体3の翼厚であり、rωは半径方向位置rにおけるロータ5の周速ベクトルを示し、Vは風速ベクトルを示し、Uは相対流入風速ベクトルを示し、φは風車翼2に対する風の流入角を示し、PINは風の流入位置を示し、PVGはボルテックスジェネレータ20を構成するフィンセット22の取付位置を示す。
なお、図5は、翼本体3の前縁11側を円柱で近似した断面図であるので、図5におけるコード長cと翼厚tとの比は、実際の翼本体3におけるコード長cと翼厚tとの比とは異なる場合がある。
【0058】
まず、風車翼2に対する風の流入角φは、φ≒V/rωで近似できる。ここで、無次元半径位置μ=r/R、周速比λ=Rω/Vとそれぞれ定義すると、流入角φは、以下のように表せる。
【数6】
【0059】
また、半径方向位置rが微小量Δrだけ変化したときの無次元半径位置μの変化量をΔμ、流入角φの変化量をΔφとすると、上記式(C)より、Δφは、以下のように表せる。
【数7】
【0060】
ここで、翼面上の位置PINから流入した風は、半径方向位置rによらず、前縁11を通って翼面に沿ってある一定距離進行した負圧面10上の位置Pにおいて流れの剥離が生じると仮定する。このとき、翼本体3の平面展開上において、翼根7の中心軸Oと、半径方向位置rにおける流れの剥離位置及び半径方向位置(r+Δr)における流れの剥離位置を通る直線とがなす角度ψ’は、Δr及びΔφを用いて以下のように表される。
【数8】
【0061】
上述の式(D)及び式(E)より、角度ψ’は、以下のように表される。
【数9】
上記式(F)で表されるψ’の絶対値をψであると定義すれば(ψ=|ψ’|)、上述の式(B)が得られる。
上記式(B)によれば、角度ψに応じた翼面上における剥離の位置は、無次元半径位置μに応じて変化する。
【0062】
この点、上述の実施形態のように、翼根位置rと最大コード長位置rとの間の少なくとも一部の領域において、角度θが上記式(A)を満たす場合、該領域では、角度θが上記式(B)で表されるψ以下であるため、翼面上で流れが剥離する位置Pよりも前縁11側にフィン23及びフィンセット22が配置されるので(図5参照)、風車翼面上において流れの剥離をより効果的に遅延させることができる。また、上述の実施形態のように、角度θが上記式(A)を満たす場合、角度θが3°以上であるため、比較的先端8側においても、風車翼面上において流れの剥離を遅延させる効果を十分に得ることができる。
【0063】
なお、風車ロータ5の回転中心Qから翼根7までの距離をD/2とし(図4参照)、翼本体3の翼長(翼根7から翼先端8までの距離)をLとし(図4参照)、翼長方向における翼根7からの距離をrとしたとき、μ=r/R、R=L+D/2、及び、r=r+D/2より、上述の式(A)を書き換えると、下記式(G)となる。
【数10】
よって、一実施形態では、複数のフィンセット22は、翼根位置rと最大コード長位置rとの間の少なくとも一部の領域において、角度θが上記式(G)を満たすように配置されてもよい。
【0064】
ここで、典型的な風車では、風車ロータ5の回転中心Qから翼根7までの距離(D/2)は、1.0〜3.0m程度である。そこで、一実施形態では、複数のフィンセット22は、翼根位置rと最大コード長位置rとの間の少なくとも一部の領域において、角度θが下記式(H)を満たすように配置されてもよい。
【数11】
なお、上記式(H)は、上記式(G)に(D/2)=1.0を代入したものである。この場合、風車ロータ5の回転中心Qから翼根7までの距離(D/2)や、ロータ5の中心からの距離R,r等によらず、翼本体3の翼長L及び翼根7からの距離をrによって、角度θの範囲を規定することができる。
【0065】
また、典型的な風車では、設計周速比λは8〜11程度であり、翼根位置における翼本体3の外径dと、風車ロータ5の回転中心Qと翼本体3の先端8との間の距離Rとの比(d/R)は、0.047〜0.053程度である。
そこで、幾つかの実施形態では、上述したように翼根位置rと最大コード長位置rとの間の少なくとも一部の領域にて、角度θが上記式(A)を満たす場合において、複数のフィンセット22は、角度θが、θ≦(0.0034/μ)×(180/π)[°]を満たすように配置されていてもよい。
あるいは、幾つかの実施形態では、上述したように翼根位置rと最大コード長位置rとの間の少なくとも一部の領域にて、角度θが上記式(A)を満たす場合において、複数のフィンセット22は、角度θが、θ≧(0.0021/μ)×(180/π)[°]を満たすように配置されていてもよい。
【0066】
典型的な風車翼2では、角度θがθ≦(0.0034/μ)×(180/π)[°]を満たせば、翼長方向位置の変化に対する剥離位置の変化量に照らして角度θが過大になることが防止され、翼根7における広い翼長方向範囲において、剥離遅延効果を享受できる。また、典型的な風車翼2では、角度θがθ≧(0.0021/μ)×(180/π)[°]を満たせば、翼長方向位置の変化に対する剥離位置の変化量に照らして角度θが過小になることが防止され、翼根7における広い翼長方向範囲において、剥離遅延効果を享受できる。
これにより、風車翼面上において流れの剥離を効果的に遅延させることができる。これにより、風車(例えば風力発電装置1)の運転効率を向上させることができる。
【0067】
図6は、一実施形態に係る風車翼の一部を示す模式図である。なお、図6において、フィンセット22は、後述するVGユニット21(図7参照)により構成されている。
上述したように、幾つかの実施形態では、複数のフィンセット22は、翼長方向における翼根7の位置(r)と最大コード長位置13(r)間の少なくとも一部の領域(図6に示す領域A)において、上述の角度θが翼根7に近づくにつれて大きくなるように配置される。
【0068】
幾つかの実施形態では、上述の領域Aは、無次元半径位置μ(μ=r/R)が0.10≦μ≦0.15の範囲である。
【0069】
典型的な風車翼2では、μが0.10≦μを満たす領域は、風車翼2のハブ4への取付け位置からある程度離れた位置であるため、風車翼2にボルテックスジェネレータ20を取り付けることによる風車の性能改善効果をある程度見込める。また、典型的な風車翼2では、μがμ≦0.15を満たす領域では、例えば図5に示されるように、風車翼2の前縁11側の形状が円柱で精度よく近似できるため、風車翼面上において流れの剥離を効果的に遅延させることができる。
【0070】
あるいは、幾つかの実施形態では、上述の領域Aは、翼本体3の翼厚t(図5参照)と、翼本体3のコード長c(図5参照)との比である翼厚比(t/c)が70%≦(t/c)≦85%を満たす翼長方向の領域である。
【0071】
典型的な風車翼2では、翼厚比(t/c)が(t/c)≦85%を満たす領域は、風車翼2のハブ4への取付け位置からある程度離れた位置であるため、風車翼2にボルテックスジェネレータ20を取り付けることによる風車の性能改善効果をある程度見込める。また、典型的な風車翼2では、翼厚比(t/c)が70%≦(t/c)を満たす領域では、風車翼2の前縁11側の形状が円柱で精度よく近似できるため、風車翼面上において流れの剥離を効果的に遅延させることができる。
【0072】
なお、幾つかの実施形態では、図6に示すように、領域Aよりも翼先端8側に位置する少なくとも一部の領域Bにも、ボルテックスジェネレータ20として複数のフィンセット22又はフィン23を配置してもよい。領域Bでは、複数のフィンセット22又はフィン23は、翼面上に規定される直線に沿って配置されていてもよい。
【0073】
図7は、一実施形態に係るVGユニットの概略構成図である。
図7に示すVGユニット21は、翼本体3の表面に固定される基部24と、基部24条に立設される2本のフィン23と、を含む。基部24は、例えば両面テープ等の接着剤を介して翼本体3の表面に固定されていてもよい。
【0074】
幾つかの実施形態では、2本のフィン23は、それぞれ、翼型を有している。フィン23は、風の流入方向の上流側に位置する前縁26と、風の流入方向の下流側に位置する後縁27と、風の流入方向における上流側を向くフィン23の腹面(圧力面)28と、風の流入方向における下流側を向くフィン23の背面(負圧面)29と、を有する。そして、これらのフィン23によって、上述したように渦が形成されて、風車翼2における流れの剥離が抑制される。
【0075】
幾つかの実施形態では、フィンセット22は、上述のように一対(すなわち2本)のフィン23,23を有するVGユニット21により構成されていてもよい。
あるいは、幾つかの実施形態では、フィンセット22は、1本のフィンを有するVGユニットにより構成されていてもよい。
【0076】
翼本体3の表面に固定される基部24と、基部24上に立設される1本又は2本のフィン23と、を有するVGユニット21によりフィンセット22が構成される場合、風車翼面上にVGユニット21の単位でフィン23を柔軟に配置することができる。これにより、複数のフィン23を適切に配列させることができ、これにより、風車翼面上において流れの剥離を効果的に遅延させることができ、風車(例えば風力発電装置1)の運転効率を向上させることができる。
【0077】
幾つかの実施形態では、ボルテックスジェネレータ20は、翼本体3の負圧面10において、負圧面10に沿った風の流れの乱流域内に設置される。このように、負圧面10に沿った風の流れの乱流域内にフィンセット22含むボルテックスジェネレータ20を設置することで、負圧面10からの流れの剥離を効果的に抑制することができる。
【0078】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0079】
本明細書において、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【符号の説明】
【0080】
1 風力発電装置
2 風車翼
3 翼本体
4 ハブ
5 風車ロータ
6 タワー
7 翼根
8 翼先端
9 圧力面
10 負圧面
11 前縁
12 後縁
13 最大コード長位置
14 ナセル
20 ボルテックスジェネレータ
21 VGユニット
22,22A〜22C フィンセット
23,23A〜23C フィン
24 基部
26 前縁
27 後縁
29 背面
O 中心軸
Q 回転中心
【要約】
【課題】風車の運転効率を向上可能な風車翼を提供する。
【解決手段】風車翼は、翼本体と、前記翼本体の表面に取付けられたボルテックスジェネレータと、を備え、前記ボルテックスジェネレータは、互いに異なる翼長方向位置において、前記翼本体の表面から突出してそれぞれ設けられた複数のフィンをそれぞれ含む複数のフィンセットを含み、前記複数のフィンセットは、前記翼本体の翼長方向における前記翼本体の翼根の位置と前記翼本体の最大コード長位置との間の少なくとも一部の領域において、前記翼長方向において隣り合う2つの前記フィンセットを結ぶ直線と前記翼根の中心軸とが前記翼本体の表面の平面展開図上にてなす角度θが前記翼根に近づくにつれて大きくなるように配置される。
【選択図】 図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7