【実施例】
【0030】
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
実験例1〜4においては、それぞれ表1〜4に示す配合の質量比で原料を混合し、本発明の目地処理材用組成物を用いた目地処理材を作製した。
なお、実験例1〜4で作製した試料はいずれも参考例となる。そして、実際の施工現場同様、
図1に示す、石膏ボードの小口部の突き付け部を鉋で削ることにより作製したVカット目地11(
図1中、Vカット目地の幅12は6mm、深さ13は6mmとなっている)へ目地処理材を1回塗布し、十分に乾燥した後、目地部のくぼみを「ヤセ」としてダイヤルゲージを用いて測定し、評価した。作業性が良好な目地処理材は、石膏ボード表面と目地部の高さが略同一になるまで、すなわち、目地部のくぼみがなくなるまで、目地処理材の再塗布・再乾燥を繰り返した。そして、その回数は各表中、目地部が平滑になるまでの塗布回数として記録した。
【0032】
作業性の評価は、作業性が良好であるものを丸、良好でないものを×として評価した。作業性が良好でないものとは、目地処理材が十分伸びない等の理由で目地部への充填が困難な場合を意味している。
【0033】
そして、表中の「水/粉体(%)」とは水の質量の、主材、無機質中空粒子、鎖状または層状構造を有する鉱物、樹脂剤、硬化調整剤、増粘剤の合計質量に対する比を百分率で示したものであり、各試料の粘度、濃度が作業する上で最適になるように水を調整、添加した。
【0034】
また、樹脂剤、硬化調整剤、増粘剤としては、目地処理材において一般的に使用されているものを使用することができる。本
実験例においては、樹脂剤としてポリビニルアルコールを、硬化調整剤として二水石膏を、増粘剤としてセルロースエーテルをそれぞれ使用した。
【0035】
なお、
実験例1、2については、主材として焼石膏を使用して反応硬化形の目地処理材とした。また、
実験例3、4については、主材として炭酸カルシウムを使用して乾燥硬化形の目地処理材とした。
[実験例1]
【0036】
上述のように、主材として焼石膏を使用した。また、無機質中空粒子としてはシラスバルーンを、鎖状または層状構造を有する鉱物としてはマイカをそれぞれ使用し、その添加量を変化させて、性能を評価した。また、比較例として、無機質中空粒子、鎖状または層状構造を有する鉱物を添加していないブランク試料、シラスバルーン、マイカのいずれかしか添加していない試料についても検討を行なった。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
無機質中空粒子と、鎖状または層状構造を有する鉱物とを併用して使用した
実験例1(試料No.011〜015)では、ヤセが0.2〜0.4mmとなった。なお、無機質中空粒子と、鎖状または層状構造を有する鉱物を添加せず、同様に実施した比較例であるブランク試料(試料No.111)ではヤセが1.0mmであったことから、本発明によりヤセを半分以下とすることができた。これに対して、併用せずにいずれか一方のみを添加した比較例(試料No.112、113)では0.8、1.0mmとなっており、ヤセの低減について併用した場合に比べて効果が小さいことが分かる。特に、試料No.113のマイカのみを添加した場合は、添加していない場合と全く変化がない結果となった。つまり、マイカのみではヤセを低減させる効果はなかった。また、本発明と同程度のヤセとなるように、無機質中空粒子を多く入れた比較例(試料No.114)では、ヤセは低減するものの、作業性が損なわれ、Vカット目地部に容易に目地処理材を充填することができず、実際の使用に耐えられるものではなかった。
【0038】
以上のように、無機質中空粒子と鎖状または層状構造を有する鉱物とを組み合わせることによって、それぞれ個別に添加した場合とは異なり、作業性を良好なものとしつつも、ヤセを大幅に低減させることができた。これは両者を同時に添加することによって何らかの相互作用が生じたためと考えられる。また、ヤセが低減したため目地部が平坦になるまでの塗布回数が3回から2回と少なくすることができ、工期の短縮が可能となった。
[実験例2]
【0039】
本
実験例においては、
実験例1と同様に、主材として焼石膏を使用した。ただし、無機質中空粒子として、フライアッシュ、パーライト、ガラスバルーンを、鎖状または層状構造を有する鉱物として、ワラストナイト、アタパルジャイト、ベントナイト、セピオライトをそれぞれ使用した。また、比較例として、無機質中空粒子、鎖状または層状構造を有する鉱物の添加量を変化させて検討を行った。表2に結果を示す。
【0040】
【表2】
表2に示すように、本発明の目地処理材用組成物を用いた試料(試料No.021〜025)は、いずれもヤセが0.5mm以下と少なく、作業性も良好なものとなった。また、
実験例1の場合と同様に塗布回数を2回にまで少なくできることができた。つまり、無機質中空粒子、鎖状または層状構造を有する鉱物であれば特定の材料に限定されることなく使用でき、本発明の目的を達成できることが分かる。
【0041】
これに対して、比較例である試料No.121、122に示すように、無機質中空粒子、鎖状または層状構造を有する鉱物のいずれかを過剰に添加した場合、作業性が悪化しており、実際の使用に耐えないことが分かる。また、同じく比較例である試料No.123、124に示すように、その添加量が一方でも少なければ、ヤセはほとんど低減しなかった。以上の結果から、本発明の目的を達成するためには各成分をそれぞれ所定量添加する必要があることが分かる。
[実験例3]
【0042】
実験例3においては、上述のように、主材として炭酸カルシウムを使用した。また、無機質中空粒子としてはシラスバルーンを、鎖状または層状構造を有する鉱物としてはマイカをそれぞれ使用し、その添加量を変化させて、性能を評価した。また、比較例として、ブランク試料、シラスバルーン、マイカのいずれかしか添加していないものについて検討を行なった。結果を表3に示す。
【0043】
【表3】
表3の結果によれば、無機質中空粒子と、鎖状または層状構造を有する鉱物とを併用して使用した場合(試料No.031〜035)では、ヤセが0.4〜0.8mmとなった。ここで、無機質中空粒子、鎖状または層状構造を有する鉱物を添加せずに同様に実施した比較例であるブランク試料(試料No.131)では、ヤセは1.5mmであったことから、本
実験例では、ヤセを半分以下程度に低減できている。
【0044】
これに対して、いずれか一方のみしか添加していない比較例(試料No.132、133)ではヤセが1.2mm、1.4mmとなっており、併用した場合に比べて効果が小さい。特に、試料No.133のマイカのみを添加した場合はほとんど変化がない。また、ヤセを本発明と同程度のものとするために、無機質中空粒子を多量に配合した比較例である試料No.134は、ヤセについては改善されるものの、作業性が悪く目地処理材としての使用は困難であった。これら結果は、主材として焼石膏を使用した場合と同様の結果を示している。
【0045】
以上のように、主材が炭酸カルシウムでも本発明を適用することによって、作業性を良好なものとしつつもヤセを大幅に低減できた。つまり、本発明は、主材の種類によらず適用できるものであり、目地処理材用組成物全般に適用できるものといえる。
[実験例4]
【0046】
実験例4においては、
実験例3と同様に、主材として炭酸カルシウムを使用した。ただし、無機質中空粒子として、フライアッシュ、パーライト、ガラスバルーンを、鎖状または層状構造を有する鉱物として、ワラストナイト、アタパルジャイト、ベントナイト、セピオライトをそれぞれ使用した。また、比較例として、無機質中空粒子、鎖状または層状構造を有する鉱物の添加量を変化させて検討を行った。表4に結果を示す。
【0047】
【表4】
表4に示すように、本発明の目地処理材用組成物を用いた試料(試料No.041〜045)は、いずれもヤセが0.8〜1.0mmと少なく、作業性も良好なものとなった。また、その結果、
実験例3の場合と同様に塗布回数を3回にまで少なくすることができた。つまり、主材が炭酸カルシウムの場合でも、無機質中空粒子、鎖状または層状構造を有する鉱物を所定量ずつ含むものであれば、無機質中空粒子、鎖状または層状構造を有する鉱物は特定の材料に限定されることなく使用でき、本発明の目的を達成できることが分かる。
【0048】
これに対して、比較例である試料No.141、142に示すように、無機質中空粒子、鎖状または層状構造を有する鉱物のいずれかを過剰に添加した場合、作業性が悪くなるため実使用に耐えないことが分かる。また、比較例である試料No.143、144に示すように、その添加量が一方でも少なければ、ヤセをほとんど低減することはできず、本発明の目的は達成し得ないことが分かる。従って、この場合でも、無機質中空粒子、鎖状または層状構造を有する鉱物をそれぞれ所定量添加することが必要であることが分かる。
【0049】
以上のように、本発明においては、無機質中空粒子と鎖状または層状構造を有する鉱物を同時に所定量、目地処理材に添加することによって、それぞれを単独で添加した場合とは異なり、作業性を良好に保ったまま、目地処理材のヤセを低減することが可能となった。
[実験例5]
【0050】
本
実験例では、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(以下、「CMC-Na」とも記載する)の添加効果について評価を行った。
実験例5で作製した試料のうち、試料No.051、試料No.052、試料No.056が参考例、試料No.053〜試料No.055が実施例となる。
【0051】
主材として焼石膏を使用した。また、無機質中空粒子としてはシラスバルーンを、鎖状または層状構造を有する鉱物としてはマイカをそれぞれ使用し、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の添加量を変化させて、その性能を評価した。
【0052】
具体的な実験手順としては、表5に示す配合の質量比で各原料を混合し、本発明の目地処理材用組成物を用いた目地処理材を作製した。
【0053】
そして、評価方法としては、
図2に示すような目透し目地を石膏ボードを組み合わせて作製し、
図2中の目地部21に作製した目地処理材を目地が埋まるまで充填し、十分に乾燥した後、目地部のくぼみを「ヤセ」としてダイヤルゲージを用いて測定し、評価した。また、石膏ボード表面と目地部21の高さが略同一になるまで、すなわち、目地部21のくぼみがなくなるまで、目地処理材の再塗布・再乾燥を繰り返した。そして、その回数は各表中、目地部が平滑になるまでの塗布回数として記録した。
【0054】
なお、
図2中の目地部21は直方体形状をしており、その幅22は10mm、深さ23は12.5mmとなっている。
【0055】
作業性の評価は、作業性が良好であるものを丸、多少充填しにくいものについては三角として評価した。多少充填しにくいとは、目地処理材を目地部に充填する際、目地処理材が若干伸びにくく力を要することを意味している。
【0056】
そして、表中の「水/粉体(%)」とは水の質量の、主材、無機質中空粒子、鎖状または層状構造を有する鉱物、樹脂剤、硬化調整剤、増粘剤及びCMC-Naの合計質量に対する比を百分率で示したものであり、各試料の粘度、濃度が作業する上で最適になるように水を調整、添加した。
【0057】
また、樹脂剤、硬化調整剤、増粘剤としては、目地処理材において一般的に使用されているものを使用することができる。本
実験例においては、樹脂剤としてポリビニルアルコールを、硬化調整剤として二水石膏を、増粘剤としてメチルセルロースをそれぞれ使用した。
【0058】
結果を表5に示す。
【0059】
【表5】
表5の結果によれば、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を添加した試料No.052〜055については、添加していない試料No.051と比較して、作業性を損ねることなくヤセが低減していることが分かる。特に試料No.054については試料No.051と比較してヤセが最大で半分にまで低減していることが分かる。また、目地部が平滑になるまでの処理回数も3回から2回に少なくなることも分かる。ただし、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の添加量が特に多い試料No.056については、ヤセの効果については添加していない場合と同程度で十分な性能を有するものの、作業性が若干低下していることが確認された。
【0060】
以上のように本発明の目地処理材用組成物において、CMC及びその塩類を添加することにより、目地処理材として用いた際にヤセを低減させ、繰り返し塗布(充填)する回数についても低減できることが確認できた。これは、無機質中空粒子と、鎖状または層状構造を有する鉱物と、カルボキシメチルセルロース及びその塩類とを同時に添加することによる何らかの相互作用によるもの、又はCMC及びその塩類が有する、目地処理材中に含まれる気泡が破泡すること(気泡がつぶれること)を防ぐ機能によるものと考えられる。
[実験例6]
【0061】
本
実験例においては、主材として炭酸カルシウムを用いた以外は
実験例5と同様にしてカルボキシメチルセルロースナトリウム塩の添加効果について評価を行った。
実験例6で作製した試料はいずれも参考例となる。
【0062】
具体的な実験手順としては、表6に示す配合の質量比で各原料を混合し、本発明の目地処理材用組成物を用いた目地処理材を作製した。
【0063】
そして、評価方法としては、
実験例5と同様にして行った。
【0064】
結果を表6に示す。
【0065】
【表6】
表6の結果によれば、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を添加した試料No.062〜065については、添加していない試料No.061と比較して、作業性を損ねることなくヤセが低減していることが分かる。特に試料No.064については最大で試料No.061と比較してヤセが2/3まで低減していることが分かる。また、目地部が平滑になるまでの処理回数も5回から4回に少なくなることも分かる。ただし、カルボキシメチルセルロースの添加量が特に多い試料No.066については、ヤセの効果については添加していない場合と同程度で十分な性能を有するものの、作業性が若干低下していることが確認された。
【0066】
以上のように本発明の目地処理材用組成物において、CMC及びその塩類を添加することにより、目地処理材として用いた際にヤセを低減させ、繰り返し塗布(充填)する回数についても低減できることが確認できた。これは、無機質中空粒子と、鎖状または層状構造を有する鉱物と、カルボキシメチルセルロース及びその塩類とを同時に添加することによる何らかの相互作用によるもの、又はCMC及びその塩類が有する、目地処理材中に含まれる気泡が破泡すること(気泡がつぶれること)を防ぐ機能によるものと考えられる。