特許第6154116号(P6154116)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6154116
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】変速機の同期装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 23/06 20060101AFI20170619BHJP
【FI】
   F16D23/06 H
   F16D23/06 C
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-231447(P2012-231447)
(22)【出願日】2012年10月19日
(65)【公開番号】特開2014-84881(P2014-84881A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】592058315
【氏名又は名称】アイシン・エーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114720
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 浩
(72)【発明者】
【氏名】川元 貢
(72)【発明者】
【氏名】羽二生 將
(72)【発明者】
【氏名】加藤 博之
【審査官】 瀬川 裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−329159(JP,A)
【文献】 実用新案登録第2510860(JP,Y2)
【文献】 特許第4570110(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機の同期装置であって、
回転軸の外周上に一体的に回転するハブと、
前記ハブの一側又は両側に位置して前記回転軸に対して相対回転可能に配置したギヤと、
内周に形成したスプラインによって前記ハブの外周上に相対回転不能かつ軸方向に変位可能に設けると共に、同軸方向の変位時に前記スプラインが前記ギヤに形成したスプラインに噛み合って当該ギヤに結合する環状のスリーブと、
前記ハブと前記ギヤの間に配置して外周にスプラインを有すると共に、前記ハブに対して所定角度だけ相対回転可能に組み付けた環状のシンクロナイザリングとを備え、
前記スリーブのスプラインと前記ギヤのスプラインの対向する端部に、それぞれチャンファを形成すると共に、前記シンクロナイザリングのスプラインにおける前記ハブ側の端部にチャンファを形成し、
前記スリーブのチャンファは、一対のチャンファ面を有し、この一対のチャンファ面の先端稜線を外周側に向かうにつれて前記ギヤ側に突出する方向に傾斜させて形成し、
前記シンクロナイザリングのチャンファの先端部は、前記スリーブのチャンファのエッジに対して退避する面を有し、
該シンクロナイザリングのチャンファの先端部は、
前記シンクロナイザリングのスプラインの根元から所定の高さ位置を境界稜線として外周側に形成した第一チャンファと、
前記境界稜線より内周側に形成し且つ稜線角が前記第一チャンファの稜線角より小さい第二チャンファとからなり、
該第一チャンファ及び第二チャンファが、前記回転軸の回転軸線を通過する垂直面に直交する平断面視で台形状に形成され、前記境界稜線が、先端に向かって次第に幅狭になるコの字状に成形し、
前記回転軸から前記シンクロナイザリングのチャンファの稜線角が変わる境界稜線までの半径であるボーク径を、前記スリーブの小径より大きく設定することで、前記第一チャンファ及び第二チャンファの稜線と前記境界稜線との交点付近が前記スリーブのチャンファ面に接触するようにしたことを特徴とする変速機の同期装置。
【請求項2】
前記シンクロナイザリングの第一チャンファの稜線角を、前記スリーブのチャンファの稜線角より大きく設定した
ことを特徴とする請求項1記載の変速機の同期装置。
【請求項3】
前記シンクロナイザリングの第一チャンファの稜線角と、前記スリーブのチャンファの稜線角との差が、0.1°以上で、かつ、30°以下である
ことを特徴とする請求項2に記載の変速機の同期装置。
【請求項4】
前記シンクロナイザリングの第二チャンファの稜線角が、前記スリーブのチャンファの稜線角より小さく設定された
ことを特徴とする請求項1記載の変速機の同期装置。
【請求項5】
前記シンクロナイザリングの第二チャンファの稜線角と、前記スリーブのチャンファの稜線角との差が、0.1°以上で、かつ、10°以下である
ことを特徴とする請求項4に記載の変速機の同期装置。
【請求項6】
前記シンクロナイザリングのチャンファ面の各稜線は、0.1mm以上で、かつ、10mm以下のR曲線で形成している
ことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の変速機の同期装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機の同期装置に関し、特にシフト操作性を改善する変速機の同期装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シンクロメッシュ機構を採用する変速機は、回転軸に空転状態で装着された遊転ギヤの一つに、回転軸と同回転するクラッチハブとスプライン等で嵌合したスリーブが軸方向に移動することによりコーン状のシンクロナイザリングを介して遊転ギヤに摩擦力を付与し、遊転ギヤのスリーブに対する回転速度差を無くした状態でスリーブを更に軸方向に移動してスリーブと遊転ギヤとを同期状態で噛み合わせるものである。
【0003】
シフトレバーを操作して前記スリーブを軸方向へ移動させてシンクロナイザリングを介してギヤの回転と同期させ、スリーブのスプラインをギヤのスプラインに噛み合わせる。
前記スリーブのスプラインを前記ギヤのスプラインへ円滑に噛み合わせるために、前記スリーブのスプラインと前記ギヤのスプラインの対向する端部に、それぞれチャンファを形成している。シンクロナイザリングのスプラインの端部にもチャンファを形成している。
【0004】
従来の変速機の同期装置としては、種々の問題を解決するために、特許文献1に示したようにシンクロナイザリングのチャンファの先端部に、スリーブのチャンファのエッジ部に対して退避するカット面を形成している。その理由は、シンクロナイザリングのチャンファ面が削られてチャンファ角度が減少すると、ボーク比が崩れてギヤ鳴りが起こる。しかし、スリーブのチャンファのエッジ部に対して前記カット面が退避することによって、シンクロナイザリングのチャンファ面の角度の減少を防止し、ギヤ鳴りを防止するものである。
【0005】
また、特許文献2では、シンクロナイザリングのチャンファ面はスプラインの根元から所定の高さを境界にして稜線角が異なるようにしている。シンクロナイザリングにおける半径方向内側の稜線角を半径方向外側の稜線角より小さく、かつ0より大きくすることによって、境界稜線と先端稜線との交点がスリーブ側に突出した先端頂点を形成する。その結果、シンクロナイザリングのチャンファがスリーブのチャンファのエッジ部によって削られることを回避しているので、スリーブがシンクロナイザリングを押分けるときに生じる抵抗力が小さくなり、スリーブを小さな力で操作することができる。
【0006】
また、特許文献3では、スリーブ、ギヤ、シンクロナイザリングの各チャンファの稜線角を異なるようにしている。その結果、スリーブのチャンファが、シンクロナイザリングのチャンファに当たる箇所と、ギヤのチャンファに当たる箇所が異なるため、スリーブの偏摩耗を防止し、耐久性が向上する。
また、シンクロナイザリングのチャンファの稜線角は、スリーブのチャンファの稜線角より大きく設定している。その結果、スリーブの歯がシンクロナイザリングの歯の根元側に当たるため、シンクロナイザリングの破損を防止し、耐久性が向上する。
また、スリーブ、ギヤの各チャンファの面頂角を異なるようにし、角度が小さい方のチャンファに面頂角方向のR面を設けている。また、ギヤのチャンファに稜線角方向のR面を設けている。その結果、スリーブとギヤとの摩擦係数が低くなるため、「ギヤ押し分け力」が減り、シフトの操作性が向上する。
さらに、ギヤのチャンファの稜線角を途中で変えて二段に形成し、外径側チャンファの稜線角とスリーブのチャンファの稜線角とほぼ一致するようにしている。それによって、外径側チャンファがスリーブのチャンファに対して面接触するために、ギヤの偏摩耗の防止、同期性能の向上、シンクロナイザリングの破損防止となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−329159号公報
【特許文献2】特許第4570110号公報
【特許文献3】実用新案登録第2510860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の技術においては、シンクロナイザリングのチャンファのカット面は、スリーブのチャンファのエッジ部に対して退避することで、スリーブのチャンファのエッジ部がシンクロナイザリングのチャンファ面と当接しないようにしている。それでも、シンクロナイザリングのチャンファの稜線角が、そのチャンファの根元から上端まで同じであるので、スリーブがシンクロナイザリングを押し分ける時に、スリーブのチャンファ面がシンクロナイザリングのチャンファ面と面接触にて摺動する。そのために、スリーブがシンクロナイザリングを押し分ける時の摺動抵抗が増加する。また、スリーブのチャンファのエッジがシンクロナイザリングのチャンファ面に食い込む可能性がある。したがって、シフトの操作性の向上のため、悪化要因のチャンファ面の当たり改善を図る必要がある。
【0009】
特許文献2および特許文献3の技術においては、同期状態の初期に、スリーブのチャンファのエッジがシンクロナイザリングのチャンファ面の境界稜線に当接し、その状態で、スリーブがシンクロナイザリングを押し分ける。この時、当接箇所が前記境界稜線であるので、スリーブが摺動するときに生じる抵抗力が小さいために、シフト力積の低減が図られる。
なお、シフト力積とは、変速機のシフトの操作性を、操作時間と操作力の積で表したものである。前記シフト力積の値が小さいほど、シフトの操作性が優れていることになる。したがって、シフト力積のさらなる低減を図ることは、シフトの操作性が向上することになる。
【0010】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、シンクロナイザリングの押し分けストロークを短縮し、シフトの操作性を改善した変速機の同期装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の変速機の同期装置は、回転軸の外周上に一体的に回転するハブと、前記ハブの一側又は両側に位置して前記回転軸に対して相対回転可能に配置したギヤと、内周に形成したスプラインによって前記ハブの外周上に相対回転不能かつ軸方向に変位可能に設けると共に、同軸方向の変位時に前記スプラインが前記ギヤに形成したスプラインに噛み合って当該ギヤに結合する環状のスリーブと、前記ハブと前記ギヤの間に配置して外周にスプラインを有すると共に、前記ハブに対して所定角度だけ相対回転可能に組み付けた環状のシンクロナイザリングとを備え、前記スリーブのスプラインと前記ギヤのスプラインの対向する端部に、それぞれチャンファを形成すると共に、前記シンクロナイザリングのスプラインにおける前記ハブ側の端部にチャンファを形成し、前記スリーブのチャンファは、一対のチャンファ面を有し、この一対のチャンファ面の先端稜線を外周側に向かうにつれて前記ギヤ側に突出する方向に傾斜させて形成し、前記シンクロナイザリングのチャンファの先端部は、前記スリーブのチャンファのエッジに対して退避する面を有し、該シンクロナイザリングのチャンファの先端部は、前記シンクロナイザリングのスプラインの根元から所定の高さ位置を境界稜線として外周側に形成した第一チャンファと、前記境界稜線より内周側に形成し且つ稜線角が前記第一チャンファの稜線角より小さい第二チャンファとからなり、該第一チャンファ及び第二チャンファが、前記回転軸の回転軸線を通過する垂直面に直交する平断面視で台形状に形成され、前記境界稜線が、先端に向かって次第に幅狭になるコの字状に成形し、前記回転軸から前記シンクロナイザリングのチャンファの稜線角が変わる境界稜線までの半径であるボーク径を、前記スリーブの小径より大きく設定することで、前記第一チャンファ及び第二チャンファの稜線と前記境界稜線との交点付近が前記スリーブのチャンファ面に接触するようにしたことを特徴とする。
【0013】
また、前記シンクロナイザリングの第一チャンファの稜線角、前記スリーブのチャンファの稜線角より大きく設定したものとしてもよい
【0014】
また、前記シンクロナイザリングの第一チャンファの稜線角と、前記スリーブのチャンファの稜線角との差が、0.1°以上で、かつ、30°以下であるものとしてもよい
【0015】
また、前記シンクロナイザリングの第二チャンファの稜線角が、前記スリーブのチャンファの稜線角より小さく設定されたものとしてもよい
【0016】
また、前記シンクロナイザリングの第二チャンファの稜線角と、前記スリーブのチャンファの稜線角との差が、0.1°以上で、かつ、10°以下であるものとしてもよい
【0017】
また、前記シンクロナイザリングのチャンファ面の各稜線は、0.1mm以上で、かつ、10mm以下のR曲線で形成しているものとしてもよい
【発明の効果】
【0018】
また、本発明によれば、スリーブによってシンクロナイザリングを押し分ける際、前記シンクロナイザリングのチャンファが、回転軸線を通過する垂直面に直交する平面視で台形状に形成されているので、スリーブのチャンファがシンクロナイザリングのチャンファを押し分けるストローク(「押し分けストローク」という)を短縮することができる。その結果、押し分け力積を低減できるため、シフトの操作性が向上する。また、押し分けストロークが短縮するので、シフト力積も低減できる。
また、シンクロナイザリングのチャンファの先端部に面を形成したので、押し分け時においてシンクロナイザリングの歯元に集中する応力が軽減される。そのため、シンクロナイザリングのスプラインの強度が増加する。また、台形形状により、シンクロナイザリングのチャンファがコンパクトになり、材料低減に伴い、コスト低減にもつながる。
また、スリーブのスプラインが、シンクロナイザリングのスプラインを押し分ける量(「押し分け量」という)も小さくすることができる。そのため、ハブに対してシンクロナイザリングを所定角度だけ相対回転可能とするインデックス部におけるシンクロナイザリングの回転変化量が少なくなるので、エンジン回転変動による“たたき”から生じる前記インデックス部の摩耗が減少するため、インデックス部の耐久性が向上する。
【0019】
また、シンクロナイザリングのチャンファが、回転軸線を通過する垂直面に対する側面視で台形状に形成されているので、前記シンクロナイザリングのチャンファの先端部の面と、第一チャンファと第二チャンファの境界稜線との交点付近が、前記スリーブのチャンファ面に接触する。これにより、シンクロナイザリングの前記交点付近が前記スリーブのチャンファ面を摺動するため、スリーブのチャンファのエッジで削られることに比べて摩擦抵抗が低くなり、押し分け力が小さくなるので、シフト操作性が向上する。
【0020】
また、シンクロナイザリングのボーク径は、スリーブの小径より大きくすることで、前記シンクロナイザリングの先端部の面と、第一チャンファと第二チャンファの境界稜線との交点付近が、確実に前記スリーブのチャンファの面に接触する。そのため、前記スリーブのチャンファのエッジで削られるような動きが回避され、摩擦抵抗が低くなり、押し分け力が小さくなるので、シフト操作性が向上する。
【0021】
また、シンクロナイザリングの第一チャンファの稜線角は、スリーブのチャンファの稜線角より大きいので、第一チャンファがスリーブのチャンファのエッジと接触するのを避ける逃げ部が形成される。それによって、前記シンクロナイザリングのチャンファの先端部の面と、第一チャンファと第二チャンファの境界稜線との交点付近が、前記スリーブのチャンファ面に接触する。そのため、前記スリーブのチャンファのエッジで削られるような動きが回避され、摩擦抵抗が低くなり、押し分け力が小さくなるのでシフト操作性が向上する。
【0022】
また、シンクロナイザリングの第一チャンファの稜線角と、スリーブのチャンファの稜線角との差が、0.1°以上で、かつ、30°以下であることで、前記シンクロナイザリングのチャンファの先端部の面と、第一チャンファと第二チャンファの境界稜線との交点付近が、前記スリーブのチャンファ面に確実に接触することができる。これにより、スリーブのチャンファのエッジがシンクロナイザリングのチャンファ面に食い込まないようにできる。
【0023】
また、シンクロナイザリングの第二チャンファの稜線角は、スリーブのチャンファの稜線角より小さいので、第二チャンファがスリーブのチャンファのエッジと接触するのを避ける逃げ部が形成される。それによって、前記シンクロナイザリングのチャンファの先端部の面と、第一チャンファと第二チャンファの境界稜線との交点付近が、前記スリーブのチャンファ面に接触する。そのため、前記スリーブのチャンファのエッジで削られるような動きが回避され、摩擦抵抗が低くなり、押し分け力が小さくなるのでシフト操作性が向上する。
【0024】
また、シンクロナイザリングの第二チャンファの稜線角と、スリーブのチャンファの稜線角との差が、0.1°以上で、かつ、10°以下であることで、前記シンクロナイザリングのチャンファの先端部の面と、第一チャンファと第二チャンファの境界稜線との交点付近が、前記スリーブのチャンファ面に確実に接触することができる。これにより、スリーブのチャンファのエッジがシンクロナイザリングのチャンファ面に食い込まないようにできる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明の一の実施形態に係る変速機の同期装置の概略を示す断面図である。
図2図2は、シンクロナイザリングのチャンファが、スリーブのチャンファに接触する時の状態を示す側面図である。
図3図3は、シンクロナイザリングにおけるスプラインのチャンファの概略を示す斜視図である。
図4図4は、シンクロナイザリングのチャンファが、スリーブのチャンファに接触する時の状態を示す平面図である。図である。
図5図5(A)は、図1においてI−I線の断面を右方向に視たとき、あるいは図5(B)において矢視VB−VB線のインデックス部を示す側面図で、図5(B)は、図5(A)のハブのインデックス部を上から視た平面図である。
図6図6(A)は、従来のスリーブのチャンファが、シンクロナイザリングのチャンファを押し分ける時の押し分けストロークを示す平面図で、図6(B)は、本実施形態のスリーブのチャンファが、シンクロナイザリングのチャンファを押し分ける時の押し分けストロークを示す平面図である。
図7図7(A)は、従来のスリーブのチャンファが、シンクロナイザリングのチャンファを押し分ける時の押し分け量を示す平面図で、図7(B)は、本実施形態のスリーブのチャンファが、シンクロナイザリングのチャンファを押し分ける時の押し分け量を示す平面図である。
図8図8(A)は、従来のシンクロナイザリングのチャンファが、チャンファの面頂角を鋭角化したスリーブによって押し分けられる状態を示す平面図で、図8(B)は、本実施形態のシンクロナイザリングのチャンファが、前記スリーブによって押し分けられる状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面に示した実施形態に基づき本発明の変速機の同期装置をさらに詳細に説明する。図1は、本発明の一の実施形態に係る変速機の同期装置の概略を示すものである。
【0027】
本実施形態の変速機の同期装置10は、スプラインによって回転軸11の外周上に、回転方向に固定される一方、軸方向にスライド可能に配置され、前記回転軸11と一体的に回転するハブ20と、前記ハブ20の両側に位置してそれぞれ前記回転軸11の外周上に相対回転可能に配置したギヤ30と、を備えている。
なお、ハブ20と、その両側のギヤ30における同期機構は、同様の構造であるので、一方の側についてのみ説明し、他方の側の説明は省略する。
【0028】
前記ギヤ30は、外周に歯部31が形成されており、ハブ20側に位置してピースギヤ部32が一体的に設けられている。ピースギヤ部32の外周にはスプライン33が形成され、前記ピースギヤ部32のハブ20側にはコーン面34が形成されている。
【0029】
環状のスリーブ21が、その内周に形成したスプライン22によって、前記ハブ20の外周上に相対回転不能かつ軸方向に変位可能に設けられている。前記スリーブ21は、シフトレバーの操作によって軸方向に変位すると、前記スプライン22が前記ピースギヤ部32に形成したスプライン33に噛み合ってギヤ30に結合する構成である。
また、前記スリーブ21の内周には、複数のキー24が周方向の複数の所定位置で、前記ハブ20の外周側に形成した穴部28内に設けたスプリング23によって外向きに押圧係合されている。なお、図1では複数のキー24のうち一つのみを図示している。
【0030】
前記ハブ20と前記各ギヤ30のピースギヤ部32の間には、環状のシンクロナイザリング40がそれぞれ配置されている。前記各シンクロナイザリング40は、当該シンクロナイザリング40に形成した溝26へ挿入された前記キー24によって周方向に隙間をおいて係止され、前記溝26の周方向の位置および長さに関係して、ハブ20とスリーブ21に対して所定角度範囲だけ相対的に回動できる構成である。
図1においてハブ20の右側に位置するシンクロナイザリング40は、最も内側に位置するインナーリング40aと、中間に位置するミドルリング40bと、最も外側に位置するアウターリング40cと、からなる。ただし、このマルチシンクロナイザリングに限定されず、シングルシンクロナイザリングでも適用可能である。
前記各シンクロナイザリング40の外周には、前記スリーブ21のスプライン22と噛み合い可能なスプライン41を設けている。一方、前記各シンクロナイザリング40の内周には、前記ピースギヤ部32のコーン面34へ接触するコーン面42を形成している。
【0031】
前記スリーブ21のスプライン22と前記ピースギヤ部32のスプライン33の対向する端部には、それぞれチャンファ25,35を形成している。さらに、前記シンクロナイザリング40のスプライン41における前記ハブ20側の端部にも、チャンファを形成している。
【0032】
前記スプライン22のチャンファ25は、各スプライン22の歯の幅方向の中心線に対して対称的に配置された一対のチャンファ面からなる。その一対のチャンファ面の先端稜線25aは、外周側(図2において上側)に向かうにつれてギヤ30側へ突出する方向に傾斜している。
【0033】
前記シンクロナイザリング40のチャンファ45の先端部は、図3および図4に示すように前記スリーブ21のチャンファ25のエッジ26に対して退避する面43を有する。しかも、図4に示すように回転軸線を通過する垂直面に直交する平面視で台形状をなしている。
さらに、前記シンクロナイザリング40のチャンファ45の先端部は、図2および図3に示すように前記スプライン41の根元から所定の高さ位置を境界稜線44として外周側に形成した第一チャンファ45aと、前記境界稜線44より内周側に形成した第二チャンファ45bと、からなる。前記第二チャンファ45bの稜線角βは、前記第一チャンファ45aの稜線角αより小さく形成している。しかも、図2に示すように回転軸線を通過する垂直面に対する側面視で台形状をなしている。
【0034】
本実施形態では、前記シンクロナイザリング40のチャンファ45における先端部の面43は、図4に示すように軸方向に対してほぼ直交するように形成している。しかし、前記スリーブ21のチャンファ25のエッジ26に対して退避する面43であれば、軸方向に対して斜めに交差するように形成してもよい。
【0035】
また、前記シンクロナイザリング40のボーク径は、図2に示すように前記スリーブ21の小径より大きくしている。なお、ボーク径とは、前記シンクロナイザリング40のチャンファ45の稜線角が変わる位置までの径である。
【0036】
また、本実施形態の同期装置10においては、図5に示すようにシンクロナイザリング40とハブ20の相対位置を決めるためのインデックス部27を有している。図5(A)は、図1においてI−I線の断面を右方向に視たときの一部を示し、特にインデックス部27を示している。あるいは、図5(B)において矢視VB−VB線のインデックス部27を示す側面図である。図5(B)は、図5(A)のハブ20のインデックス溝27aを上から視た図である。
【0037】
シンクロナイザリング40は、例えばアウターリング40cが周方向の複数の所定位置にてハブ20側に突出した複数のインデックス凸部27bを有している。ハブ20は、前記各インデックス凸部27bを挿入して係合するための複数のインデックス溝27aを有する。しかも、シンクロナイザリング40とハブ20とが所定範囲(所定角度だけの範囲)で相対回転可能となるように、各インデックス溝27aと各インデックス凸部27bは、図5(B)に示すように隙間Aを有して係合している。
【0038】
次に、上記の変速機の同期装置10の動作を説明する。
シフトレバーを操作してスリーブ21を軸方向に移動させると、スリーブ21とキー24は中央の突起でかみ合っているので、スリーブ21の力はキー24に伝わり、前記キー24によってシンクロナイザリング40のコーン面42がピースギヤ部32のコーン面34へ押し付けられ、初期摩擦力を発生させる。その摩擦力によって、シンクロナイザリング40はハブ20およびスリーブ21に対して回動され、所定角度範囲の一方の末端位置に押し付けられて停止する。この時、シンクロナイザリング40のスプライン41のチャンファ45は、スリーブ21のスプライン22のチャンファ25に相対して、スリーブ21のスライドを阻止する状態になる。
【0039】
スリーブ21がさらに軸方向に移動すると、キー24とのかみ合いがはずれ、前記スリーブ21はチャンファ25面を介して直接、シンクロナイザリング40のチャンファ45面へ押し付ける。このとき、シンクロナイザリング40のコーン面42とピースギヤ部32のコーン面34との摩擦トルクは、スリーブ21のチャンファ25面で発生する押し分けトルクより大きくなる必要がある。前記摩擦トルクが前記押し分けトルクより小さい場合は、同期完了できず、シンクロナイザリング40を押し分けてスリーブ21が進み、ギヤ鳴りが発生する。同期が完了するまでの間に前記コーン面34,42同士の動摩擦がある限りは、スリーブ21のスライドが阻止されて同期が促される。
【0040】
同期が完了すると、スリーブ21とギヤ30との間の回転速度差が無くなる。すると、シンクロナイザリング40のコーン面42とピースギヤ部32のコーン面34との摩擦トルクが減少し、スリーブ21はチャンファ25でシンクロナイザリング40を前述した所定角度範囲の一方の末端位置から戻してスライドし、ピースギヤ部32のスプライン33に噛み合うことになる。
【0041】
次に、スリーブ21がシンクロナイザリング40を押し分ける作用について説明する。
本実施形態では、前記シンクロナイザリング40のチャンファ45が、回転軸線を通過する垂直面に直交する平面視で台形状に形成されているので、図6に示すようにスリーブ21のスプライン22がシンクロナイザリング40のスプライン41を押し分けるストローク(「押し分けストローク」という)を短縮することができる。
【0042】
図6は、従来のシンクロナイザリング50のチャンファ51あるいは本実施形態のシンクロナイザリング40のチャンファ45と、スリーブ21のチャンファ25との接触状態を示すものである。
図6(A)に示すように従来のシンクロナイザリング50のチャンファ51の押し分けストロークSと、図6(B)に示すように本実施形態のシンクロナイザリング40のチャンファ45の押し分けストロークSとの差ΔS(=S−S)が明らかである。差ΔSの分だけ、押し分けストロークの短縮を図ることができる。その結果、押し分け力積を低減できるため、シフトの操作性が向上する。
【0043】
なお、押し分け力積とは、押し分け動作の間にかかる力と、力がかかっている時間とを掛けたもので、シフト力積と同様に、押し分け力積の値が小さいほど、シフトの操作性が優れていることになる。
上記のように押し分けストロークが短縮するので、変速機内部でのシフトストロークを低減でき、合わせてノブ上のシフトストロークも低減できる。
【0044】
また、押し分け時において、図6(A)の従来のシンクロナイザリング50では、チャンファ51の先端部に応力が集中するが、図6(B)の本実施形態のシンクロナイザリング40では、チャンファ45の先端部に面43を形成したので、シンクロナイザリング40の歯元に集中する応力が軽減される。そのため、スプライン41の強度が増すことになる。また、押し分けストロークが短縮されるため、スプライン41がコンパクトになり、材料低減で、コスト低減にもつながる。
【0045】
さらに、前記シンクロナイザリング40のチャンファ45が、回転軸線を通過する垂直面に直交する平面視で台形状に形成されているので、図7に示すようにスリーブ21のスプライン22がシンクロナイザリング40を押し分ける量(「押し分け量」という)も小さくすることができる。
図7は、実線が、従来のシンクロナイザリング50のチャンファ51あるいは本実施形態のシンクロナイザリング40のチャンファ45と、スリーブ21のチャンファ25との接触状態を示すものである。二点鎖線は、押し分けが完了した状態を示すものである。
図7(B)に示すように本実施形態のシンクロナイザリング40のチャンファ45の押し分け量Lは、図7(A)に示すように従来のシンクロナイザリング50のチャンファ51の押し分け量Lより小さいことが明らかである。その結果、押し分け力積を低減できるため、シフトの操作性が向上する。
【0046】
さらに、前記の押し分け量Lが小さくなることから、インデックス部27における耐久性が向上する。
上記のインデックス部27では、エンジンの回転変動によって、ハブ20のインデックス溝27aと、シンクロナイザリング40のインデックス凸部27bとで繰り返しの衝突が生じる。上記の隙間Aが小さいために、上記の繰り返しの衝突によってインデックス部27が摩耗することになる。しかも、インデックス部27の接触面圧が高いと、インデックス部27の摩耗が著しくなる。
しかし、上記のように押し分け量Lが小さくなることによって、インデックス部27におけるシンクロナイザリング40の回転変化が小さくなるので、ハブ20のインデックス溝27aと、シンクロナイザリング40のインデックス凸部27bの摩耗を減らす効果、つまりインデックス部27の耐久性が向上する。
【0047】
また、変速機の同期装置10におけるシフト操作性を向上するために、スリーブ21のチャンファ25の面頂角を鋭角化することがある。
図8(A)に示すように従来のシンクロナイザリング50のチャンファ51の場合は、押し分けストロークが大きいために、スリーブ21がシンクロナイザリング50の押し分けを完了する前に、前記スリーブ21がピースギヤ部32のスプライン33のチャンファ35と噛み合う領域に入ってしまう。
その結果、図8(A)の実線で示すピースギヤ部32のように、スリーブ21のチャンファ25面の同じ側が、シンクロナイザリング50とピースギヤ部32に接触して二重押し分けとなる。この場合、スリーブ21には、シンクロナイザリング50とピースギヤ部32の両方を押し分ける力がかかるので重くなる。
あるいは、図8(A)の二点鎖線で示すピースギヤ部32のように、スリーブ21のチャンファ25面の異なる側が、シンクロナイザリング50とピースギヤ部32に対して接触してシフトロックとなる。この場合、スリーブ21がシンクロナイザリング50とピースギヤ部32に阻まれて押し分けることができない。
【0048】
図8においては、図8(A)の従来のシンクロナイザリング50では押し分け完了していない時に、図8(B)の本実施形態のシンクロナイザリング40では押し分け完了している状態を示している。したがって、ストロークの差を寸法Bとすると、本実施形態のシンクロナイザリング40が図8(A)と同じ状態の時では、スリーブ21の先端がB寸法だけ後退することになる。その理由で、スリーブ21のチャンファ25の面頂角を鋭角化した場合であっても、本実施形態のシンクロナイザリング40は、上記の二重押し分けやシフトロックを防止することができる。
【0049】
前述したように、本実施形態のシンクロナイザリング40のボーク径は、図2に示すように前記スリーブ21の小径より大きくしているので、シンクロナイザリング40の先端部の面43と、第一チャンファ45aと第二チャンファ45bの境界稜線44との交点付近が、確実に前記スリーブ21のチャンファ25の面に接触する。その結果、前記スリーブ21のチャンファ25のエッジで削られるような動きが回避され、押し分け力を小さくすることができ、押し分け力積の値が小さくなるので、シフトの操作性が向上する。
【0050】
また、図2に示すように、前記シンクロナイザリング40の第一チャンファ45aの稜線角αは、前記スリーブ21のチャンファ25の稜線角γより大きくする。なお、前記稜線角γは軸方向に直交する垂線から図2において時計回り方向の角度である。それによって、スリーブ21を押し分ける時に、第一チャンファ45aがスリーブ21のチャンファ25と接触するのを避ける逃げ部が形成される。前記逃げ部は、シンクロナイザリング40の先端部の面43と、第一チャンファ45aと第二チャンファ45bの境界稜線44との交点付近が、前記スリーブ21のチャンファ25面に接触するようにする。その結果、スリーブ21のチャンファ25のエッジで削られるような動きが回避され、押し分け力が小さくなるのでシフト操作性が向上する。
【0051】
前記シンクロナイザリング40の第一チャンファ45aの稜線角αと、前記スリーブ21のチャンファ25の稜線角γとの差θ(=α−γ)が、0.1°以上で、かつ、30°以下であることが望ましい。それによって、シンクロナイザリング40の先端部の面43と、第一チャンファ45aと第二チャンファ45bの境界稜線44との交点付近が、前記スリーブ21のチャンファ25面に確実に接触する設定となる。しかも、前記交点付近がスリーブのチャンファ25面に食い込まないように防止できる。
【0052】
また、図2に示すように、前記シンクロナイザリング40の第二チャンファ45bの稜線角βは、前記スリーブ21のチャンファ25の稜線角γより小さくする。それによって、スリーブ21のチャンファ25がシンクロナイザリング40のチャンファ45を押し分ける時に、第二チャンファ45bがスリーブ21のチャンファ25と接触するのを避ける逃げ部が形成される。前記逃げ部は、シンクロナイザリング40の先端部の面43と、第一チャンファ45aと第二チャンファ45bの境界稜線44との交点付近が、前記スリーブ21のチャンファ25面に接触するようにする。その結果、スリーブ21との接触面積が小さく摩擦抵抗が低くなり、押し分け力が小さくなるのでシフト操作性が向上する。
【0053】
前記シンクロナイザリング40の第二チャンファ45bの稜線角βと、前記スリーブ21のチャンファ25の稜線角γとの差θ(=γ−β)が、0.1°以上で、かつ、10°以下であることが望ましい。それによって、シンクロナイザリング40の先端部の面43と、第一チャンファ45aと第二チャンファ45bの境界稜線44との交点付近が、前記スリーブ21のチャンファ25面に確実に接触する設定となる。しかも、前記交点付近がスリーブのチャンファ25面に食い込まないように防止できる。
【0054】
前記シンクロナイザリング40のチャンファ45面の各稜線44,46は、0.1mm以上で、かつ、10mm以下のR曲線で形成していることが望ましい。これによって、シンクロナイザリング40のチャンファ45面の各稜線44,46がスリーブ21のチャンファ25面に接触する際に、力が分散されることになるので、摩擦抵抗が小さくなり、シフト操作が向上する。
【符号の説明】
【0055】
10 同期装置
11 回転軸
20 ハブ
21 スリーブ
22 スリーブ側スプライン
23 スプリング
24 キー
25 チャンファ
25a 先端稜線
26 エッジ
27 インデックス部
27a インデックス溝 27b インデックス凸部
28 穴部
30 ギヤ
31 歯部
32 ピースギヤ部
33 ギヤ側スプライン
34 コーン面
35 チャンファ
40 シンクロナイザリング(本実施形態の) 40a インナーリング
40b ミドルリング 40c アウターリング
41 リング側スプライン
42 コーン面
43 面
44 境界稜線
45 チャンファ
45a 第一チャンファ 45b 第二チャンファ
46 稜線
50 シンクロナイザリング(従来の)
51 チャンファ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8