【課題を解決するための手段】
【0012】
モル質量44,013kg.mol
−1の亜酸化窒素N
2Oは、笑気ガス、一酸化二窒素、酸化窒素、酸化二窒素とも呼ばれている。その臨界点は、P
c=72.51barおよびT
c=36.42℃に位置している。その飽和蒸気圧(気体相がその液体相と平衡になる時点での圧力)は、[0+20]℃の間隔で31.3barから50.6barの間で変動する。この同じ間隔では、その液体相の比重は、907.4kg.m
−3から786.6kg.m
−3まで移るが、その気体相の比重は、84.9kg.m
−3から158.1kg.m
−3まで増大する。したがって、亜酸化窒素は強度に揮発性の化合物である。温度および圧力の条件に依存して、N
2Oは、その臨界点を超えて二相形態(液体/気体の熱力学的平衡)または単相形態で存在し得る。正常な温度および圧力の条件下では、亜酸化窒素は液体/気体平衡になっている。
【0013】
本発明によれば、亜酸化窒素は液体形態である。亜酸化窒素は部分的に気体の形態になっていてもよい。
【0014】
液体形態のN
2Oの存在は、それにより燃料の可溶化が可能となり、したがって、溶媒として働くという点で特に有利である。次いで、亜酸化窒素は液体燃料相に溶け込む。
【0015】
次いで、液体N
2O相は燃料との混合物になる。
【0016】
実際、酸化種および可燃性種は、同じ相にある。
【0017】
単元推進薬中の平衡にあるN
2Oから成る気体相の存在は、気体状N
2Oが加圧気体として働くという点でも興味深い。
【0018】
「加圧気体」とは、単元推進薬を加圧して、推進機に向かう流体管路中へのそれらの排出を可能とするためにタンク内に用いられる中性気体(すなわち、化学反応への参加を意図していない)を意味する。次いで、この操作モードに関連したシステムは「肯定的排除(positive expulsion)を備える」と言う。ヘリウム(He)および二窒素(N
2)は、最も一般的な加圧気体である。追加のガスに頼ると、タンク内の有効容積の損失および吸収による単元推進薬中における微量の気体の存在等、ある種の欠点を引き起こす。
【0019】
本発明によれば、燃料は、単元推進薬の液体相中に導入されたイオン性化合物である。
液体相は、
1)室温で単離され、少なくとも一部が液体形態で存在しているN
2O中に可溶化したときに固体塩の形態にある燃料、または
2)少なくとも一部が液体形態で存在しているN
2Oとの二元混合物における燃料の溶融塩、または
3)少なくとも液体形態で存在しているN
2Oとの二元混合物における、有機もしくは無機のエネルギー溶媒中に溶解した燃料のイオン性溶液(イオン性溶媒を用いた場合、これは溶融塩である)
から構成されていてもよい。
【0020】
溶媒の中でもイオンを含有する液体は、イオン性溶液と呼ばれる。
【0021】
実施形態1)によれば、該塩は、一般に極性であり、標準的な温度条件下で固体であり、N
2O中に可溶である。
【0022】
一例示として、1,5−ジアミノ−4−メチル−テトラゾリウムアジドを挙げることができる。
【0023】
実施形態2)によれば、該塩は、一般に室温において純粋な液体の形態で存在(RTIL:室温イオン性液体)し、−20℃未満の溶融温度を有し、N
2Oと二元混合物を形成する。
【0024】
一例示として、3−アジド−1,2,4−トリアゾリウム5−ニトロ−テトラゾレートを挙げることができる。
【0025】
実施形態3)によれば、該塩は、標準的な条件下で固体であり、液体形態で存在しているN
2Oとの混合物においてそれ自体がイオン性溶液を形成するために、溶媒中に溶解する。溶媒は有利には、例えばメタノール等、エネルギー溶媒である。
【0026】
一例示として、メタノール中の混合物中の1,5−ジアミノ−4−メチル−テトラゾリウムジニトロアミドを挙げることができる。
【0027】
N
2Oが少なくとも一部が液体形態で存在している場合、該液体相は、溶液中にこの割合のN
2Oを含有する。
【0028】
液体形態の燃料は、特に明示的原因(衝撃、断熱圧縮等)の熱機械的刺激および静電気的刺激に対する、単元推進薬の高度な安定性を保証する可能性を与える。
【0029】
該燃料は、それがN
2Oと相溶性でありかつそのイオン性質のために揮発性が低下したものである。特に、単元推進薬の貯蔵条件下では、燃料は、非揮発性とみなすことができる。
【0030】
「相溶性の」という用語はここで、燃料が、標準的な条件下のその相に応じて、
・可溶性または混和性であり、それぞれ液体N
2Oとの固体−液体二元混合物または液体−液体二元混合物を形成でき、
・標準的な条件下で液体N
2Oとの熱力学的に安定な混合物を生じさせる
ことを意味する。
【0031】
燃料は、N
2Oを低減するが任意選択により特定の酸化性基を含み得る種にすべきである。
【0032】
宇宙推進に必要となるエネルギー密度要件を満たすために、燃料は、エネルギー化合物の塩から選択される。
【0033】
エネルギー化合物とは、高いエネルギー密度および物質密度を有する分子または分子の組合せを意味する。これは、数千kJ.kg
−1(典型的には2,000〜3,000kJ.kg
−1)に達し得る高い正の標準的形成エンタルピーと、一般に1,000kg.m
−3を超える大きな比重とによって表される。これは次いで、HEDM(高エネルギー密度物質)と呼称される。特定のHEDMは、非凡な性能を実証するが、それらの不安定性(エネルギーの非制御下放出)のために使用の限界を有し、爆発性物質のカテゴリーに分類されている。これは特に、ペンタゾールの誘導体の場合である。さらに、宇宙推進に特有の追加用特徴は、これらのエネルギー化合物の燃焼による生成物のモル質量に関する。後者の質量は、高い火炎温度/モル質量比(T
ad/M)を保証するために可能な限り低くして(一般には30g.mol
−1未満)高い比推力を保証しなければならない。
【0034】
本発明によれば、燃料(「還元剤」とも呼ばれる)は、上に提示した基準を満たす、直鎖または複素環カチオンおよび直鎖または複素環アニオンの任意の組合せである。アニオンおよび/またはカチオンは一般に、アミノ基、アジド基、シアノ基、プロパルギル基、トリプロパルギル基およびグアニジル基等、1個または幾つかの窒素含有および/または不飽和エネルギー基を含む。
【0035】
燃料は一般に、塩の形態の窒素含有誘導体である。したがって、前記塩のアニオンおよび/またはカチオンは、1個または幾つかの窒素原子を含んでいてもよい。
【0036】
前記カチオンは、脂肪族、環状または芳香族の第四級アミン等、窒素含有誘導体から選択してもよい。
【0037】
前記カチオンは特に、
・アンモニウムイオン、ヒドロキシルアンモニウムイオン、ヒドラジニウムイオンおよびそれらの誘導体等の直鎖アニオン、
・ピペリジニウム、ピペラジニウム、およびそれらの誘導体等の飽和複素環カチオン、ならびに
・アジニウム、アゾリウム、ジアゾリウム、トリアゾリウムおよびテトラゾリウム、特にピリジニウム、ピロリウム、イソオキサゾリウム、ピラゾリウム、オキサゾリウム、ピラゾリウム、イミダゾリウム、オキサジアゾリウム、トリアゾリウム、オキサトリアゾリウム、テトラゾリウム、ピロリジウム、トリアジニウム、ピリダジニウム、ピリミジニウム、ピラジニウム、ピペリジニウム、1,2,3−または1,2,4−トリアゾリウム、1,4,5−または2,4,5−テトラゾリウム、ならびに、それらの−イニウム類縁体および−イジニウム類縁体、およびそれらの誘導体等、芳香族またはそれ以外のいずれかの複素環カチオンから選択してもよい。
【0038】
より詳細には、前記カチオンは、アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、トリアゾリウムイオン、テトラゾリウムイオンおよびそれらの誘導体から選択してもよい。
【0039】
「イオン誘導体」という表現は、前記イオンの形態の窒素原子を有する化合物を指す。
【0040】
上記不飽和複素環状化合物の−イニウム類縁体および−イジニウム類縁体は、例えば部分的不飽和類縁体としてのピロリウムおよびピロリウムの飽和類縁体としてのピロリジニウム等、それぞれ完全および部分的な水素化から生じる、対応する部分的飽和(−イニウム)類縁体および飽和(−イジニウム)類縁体を指す。
【0041】
アンモニウム誘導体として、エチレンジアンモニウム、エタノールアンモニウム、プロピルアンモニウム、モノプロパルギルアンモニウム、トリプロパルギルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、N−トリブチル−N−メチルアンモニウム、N−トリメチル−N−ブチルアンモニウム、N−トリメチル−N−ヘキシルアンモニウム、N−トリメチル−N−プロピルアンモニウム等の飽和アンモニウムを特に挙げることができる。
【0042】
ピロリウム誘導体として、特にアルキル基で置換されたピロリウム、例えばN−メチルピロリウムを例えば挙げることができる。
【0043】
イミダゾリウム誘導体として、特に1個または幾つかのアルキル基および/またはヒドロキシアルキル基で置換されたイミダゾリウム、例えば1−ブチル−2,3−ジメチルアミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1,3−ジメチルイミダゾリウム、1−エタノール−3−メチルイミダゾリウム、1−エチル−3メチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム、メチルイミダゾリウム、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウム、1−プロピル−2,3−ジメチル−イミダゾリウムを挙げることができる。
【0044】
ピロリジニウム誘導体として、特に1個または複数のアルキル基で置換されたピロリジニウム、例えば1−ブチル−1−メチルピロリジニウム、1−エチル−1−メチルピロリジニウム、N−プロピル−N−メチルピロリジニウムを挙げることができる。
【0045】
ピペリジニウム誘導体として、1個または複数のアルキル基で置換されたピペリジニウム、例えば1−メチル−1−プロピルピペリジニウムを挙げることができる。
【0046】
トリアゾリウム誘導体として、1−メチル−1,2,4−トリアゾリウム、3−アジド−1,2,4−トリアゾリウム、1−メチル−3−アジド−1,2,4−トリアゾリウム、4−アミノ−1,2,4−トリアゾリウムを挙げることができる。
【0047】
テトラゾリウム誘導体として、1−アミノ−4,5−ジメチルテトラゾリウム、2−アミノ−4,5−ジメチルテトラゾリウム、1,5−ジアミノ−4−メチルテトラゾリウムを挙げることができる。
【0048】
一例示として、下記系統群のカチオンを挙げることができる。
【0049】
【表1】
【0050】
式中、R1、R2、R3、R4、R5およびR6のそれぞれは独立に、同一または異なり、水素原子、またはアルキル基、CN、CNで置換されたアルキル、NRR’、アジド−(−N
3)、ニトロ、プロパルギル、トリプロパルギルおよびグアニジルを表し、ここで、RR’は、水素原子またはアルキル基を独立に表す。
【0051】
燃料の対イオン(アニオン)は、窒素またはそれ以外のいずれかを含み負電荷を有する任意のアニオンであってもよい。それは特に、
・アジドイオン、硝酸イオン、ニトロアミドイオン、ニトロホルマートイオン、ジニトロアミドイオン、亜硝酸イオン、アセテートイオン、シアナミドイオン、ジシアナミドイオン、ホスフェートイオン、メチルホスホネートイオン、エチルホスホネートイオン等の直鎖アニオン、および
・アゾレート(ピロレート等)、ジアゾレート(ピラゾレート、イミダゾレート等)、トリアゾレート(1,2,3−および1,2,4−トリアゾレート)およびテトラゾレート(ニトロテトラゾレート等)、ならびに、4,5−ジニトロイミダゾレート、5−ニトロテトラゾレート等のそれらの誘導体等の不飽和複素環アニオン
から選択してもよい。
【0052】
一例示として、下記系統群のアニオンを挙げることができる。
【0053】
【表2】
【0054】
式中、R1、R2、R3、R4、R5およびR6のそれぞれは独立に、同一または異なり、水素原子、またはアルキル基、CN、CNで置換されたアルキル、NRR’、アジド−(−N
3)、ニトロ、プロパルギル、トリプロパルギルおよびグアニジルを表し、ここで、RR’は、水素原子またはアルキル基を独立に表す。
【0055】
アルキル基とは、1〜20個の炭素原子、好ましくは1〜5個の炭素原子を含み直鎖または分岐鎖を有した飽和炭化水素基を意味する。直鎖である場合、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、およびオクタデシル基を特に挙げることができる。分岐しているまたは1個もしくは複数のアルキル基で置換されている場合、イソプロピル基、tert−ブチル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルブチル基、2−メチルペンチル基、1−メチルペンチル基および3−メチルヘプチル基を特に挙げることができる。
【0056】
対イオン(アニオン)は特に、アジドイオン、硝酸イオン、ジニトロアミドイオン、ジシアナミドイオン、イミダゾレートイオンおよびテトラゾレートイオンならびにそれらの誘導体から選択される。
【0057】
より詳細には、燃料として下記化合物
・アンモニウムアジド(AA)、
・テトラブチルアンモニウムアジド、
・トリアゾリウムニトロテトラゾレート、
・アジドトリアゾリウムニトロテトラゾレート、
・アンモニウムジニトロアミド(ADN)、
・ヒドロキシルアンモニウムアジド(HAA)、
・ヒドラジニウムアジド(HA)、
・硝酸ヒドロキシルアンモニウム(HAN)、
・アンモニウムジニトロアミド(ADN)、
・ヒドラジニウムニトロホルマート(HNF)、
・硝酸アンモニウム(AN)、
・硝酸ヒドラジン(HN)、
・硝酸トリエタノールアンモニウム(TEAN)、
・ヒドロキシルアンモニウムジニトロアミド(HADN)、
・アンモニウム、エチレンジアンモニウム、エタノールアンモニウム、プロピルアンモニウム、モノプロパルギルアンモニウム、トリプロパルギルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、N−トリブチル−N−メチルアンモニウム、N−トリメチル−N−ブチルアンモニウム、N−トリメチル−N−ヘキシルアンモニウム、N−トリメチル−N−プロピルアンモニウム、ピロリニウム、N−メチルピロリニウム、イミダゾリウム、1−ブチル−2,3−ジメチルアミダゾリウム、1−ブチル−3−メチル−イミダゾリウム、1,3−ジメチルイミダゾリウム、1−エタノール−3−メチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム、メチルイミダゾリウム、1−オクチル−3−メチル−イミダゾリウム、1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−(2−ブチニル)−3−メチル−イミダゾリウム、ピロリジニウム、1−ブチル−1−メチルピロリジニウム、1−エチル−1−メチルピロリジニウム、N−プロピル−N−メチル−ピロリジニウム、ピペリジニウムおよび1−メチル−1−プロピルピペリジニウム、1,2,4−トリアゾリウム、1−メチル−1,2,4−トリアゾリウム、3−アジド−1,2,4−トリアゾリウム、1−メチル−3−アジド−1,2,4−トリアゾリウム、4−アミノ−1,2,4−トリアゾリウム、1−アミノ−4,5−ジメチル−テトラゾリウム、2−アミノ−4,5−ジメチル−テトラゾリウム、1,5−ジアミノ−4−メチル−テトラゾリウムのアジド塩、酢酸塩、硝酸塩、ジニトロアミド塩、ジシアナミド塩、メチルホスホン酸塩、4,5−ジニトロイミダゾレート塩、5−ニトロ−テトラゾレート塩およびエチルホスホン酸塩
を特に挙げることができる。
【0058】
したがって、一例示として、
・アンモニウムアジド(AA)、
・テトラブチルアンモニウムアジド、
・トリアゾリウムニトロテトラゾレート、
・アジドトリアゾリウムニトロテトラゾレート、
・アンモニウムジニトロアミド(ADN)、
・ヒドロキシルアンモニウムアジド(HAA)、
・ヒドラジニウムアジド(HA)、
・1−(2−ブチニル)−3−メチル−イミダゾリウムアジド、
・硝酸ヒドロキシルアンモニウム(HAN)、
・アンモニウムジニトロアミド(ADN)、
・ヒドラジニウムニトロホルマート(HNF)、
・硝酸アンモニウム(AN)、
・硝酸ヒドラジン(HN)、
・硝酸トリエタノールアンモニウム(TEAN)、
・ヒドロキシルアンモニウムジニトロアミド(HADN)、
・アンモニウムジシアナミド、
・イミダゾリウムジシアナミド、
・1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミド、
・酢酸1−ブチル−2,3−ジメチルアミダゾリウム、
・酢酸1−ブチル−1−メチルピロリジニウム、ジシアナミド、
・メチルホスホン酸1,3−ジメチルイミダゾリウム、
・1−エタノール−3−メチルイミダゾリウムジシアナミド、
・エチルホスホン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、メチルホスホネート、
・N−トリブチル−N−メチルアンモニウムジシアナミド、
・アンモニウムジシアナミド、
・アンモニウムアジド、
・1−ブチル−3−メチル−イミダゾリウムジシアナミド、
・1,2,4−トリアゾリウム4,5−ジニトロ−イミダゾレート、
・1−メチル−1,2,4−トリアゾリウム4,5−ジニトロ−イミダゾレート、
・3−アジド−1,2,4−トリアゾリウム4,5−ジニトロ−イミダゾレート、
・1−メチル−3−アジド−1,2,4−トリアゾリウム4,5−ジニトロ−イミダゾレート、
・4−アミノ−1,2,4−トリアゾリウム4,5−ジニトロ−イミダゾレート、
・1,2,4−トリアゾリウム5−ニトロ−テトラゾレート、
・1−メチル−1,2,4−トリアゾリウム5−ニトロ−テトラゾレート、
・3−アジド−1,2,4−トリアゾリウム5−ニトロ−テトラゾレート、
・1−メチル−3−アジド−1,2,4−トリアゾリウム5−ニトロ−テトラゾレート、
・4−アミノ−1,2,4−トリアゾリウム5−ニトロ−テトラゾレート、
・硝酸1−アミノ−4,5−ジメチルテトラゾリウム、
・硝酸2−アミノ−4,5−ジメチルテトラゾリウム、
・硝酸1,5−ジアミノ−4−メチルテトラゾリウム、
・1,5−ジアミノ−4−メチルテトラゾリウムジニトロアミド、
・1,5−ジアミノ−4−メチルテトラゾリウムアジド、
・1,5−ジアミノ−4−メチル−テトラゾリウムジニトロアミド
を挙げることができる。
【0059】
これらの塩は一般に市販されている。したがって、AA、HAA、HA、トリアゾリウムニトロテトラゾレート、アジドトリアゾリウムニトロテトラゾレートおよびアンモニウムジニトロアミド(ADN)は特に、EURENCO Bofors(スウェーデン)によって販売されている。
【0060】
上記で列挙した他の塩は、例えば、Solvionicによって販売されている。
【0061】
本発明による塩は、それらが市販されていない場合、特にKeskinがJ. of Supercritical Fluids43(2007) 150−180に記載の方法に従って、特にメタセシスまたは酸−塩基反応によるその諸成分のカップリングにより、公知の方法を適用または応用することで得てもよい。したがって、希求される塩は特に、例えば所望のアニオンを含んだ酸の添加による造塩によって中性形態の化合物から、または、例えばカラム上でのイオン交換により、もしくは所望のアニオンを含んだ酸の存在下での相互間造塩(transsalification)により、もしくはさらにメタセシスによって別のイオン性化合物から調製してもよい。別法として、塩基性媒体中の遊離形態の燃料を再生し、造塩によって新たなイオンを生成することが可能である。例えば、プロトン化または置換(例えばアルキル化)により、対応する塩基から第四級イオンを生成することもまた可能である。硝酸塩、ジニトロアミド塩、アジド塩は、硝酸銀塩、ジニトロアミド塩、アジド塩の存在下で、対応するハロゲン化物からのメタセシスによって有利に調製できる。
【0062】
したがって、US8,034,202、Asikkala,(Application of ionic liquids and microwave activation in selected organic reaction, Acta Univ. Oul. A502, 2008、Singh, Structure bond 2007, 125:35−83、Schneider, Inorganic Chemistry 2008,47(9), 3617−3624に記載された方法を挙げることができる。
【0063】
その他の塩を使用してもよいと理解されている。したがって、市販のアニオンおよびカチオンならびに後者の最適化(所望によるエネルギー性能、および/またはN
2Oとの相溶性、安定性、毒性等の特性に依存する)に応じて、それが、それらの構造を変化させるのに関係する可能性がある。相異なる対イオンは、所与のカチオンまたはアニオンによって得ることができる。
【0064】
本発明の単元推進薬は、混合比の名称で知られO/FまたはOF(酸化剤/燃料の比のこと)としばしば表記されるN
2O/燃料の比(質量による)が一般に0.1から10の間、優先的には1から6の間に含まれるようなものである。
【0065】
推進薬の性能を定量化する手段は、ISPとしばしば表記される比推力によって形成される。比推力は、エンジンが消費された推進薬の重量に等しい推力を提供する間の時間長を表す。したがって、これは、「薬剤による影響の受けにくさ(soberness)」の、したがって、推進薬のエネルギー性能の指標である。ISPは下記のように表される。
【0066】
【数1】
【0067】
式中、C
*、g
0、γ、P
eおよびP
cは、それぞれ、ノズルによって噴出されたガスの固有速度、基準高度における重力、噴出されたガスの平均等エントロピー係数、噴出圧力およびチャンバー内の圧力を表す。
【0068】
噴出されたガスの固有速度は、以下による音の速さに関連する。
【0069】
【数2】
【0070】
式中、R、T
adおよびMは、それぞれ、完全気体普遍定数、チャンバー内の断熱温度(燃焼の存在がある場合のいわゆる「火炎」温度)および噴出されたガスの平均モル質量である。
【0071】
ISPの表現に含まれている噴出圧力とチャンバー圧力の比は、噴出されたガスの性質だけでなくノズルの幾何学的特徴にも依存する。
【0072】
【数3】
【0073】
式中、M
eは、ノズルの噴出区画内の流れのマッハ数であり、ノズルの膨張比を含んだ下記の暗黙的関係によって得ることができる。
【0074】
【数4】
【0075】
ただし、εは、噴出区画(A
e)と音速ネック(sonic neck)(A
col)の区画との比に等しいノズル膨張比である。
【0076】
本発明による単元推進薬は一般に、下記条件下で計算した場合、300sから350sの間に含まれる理論的ISPを有する:10barの燃焼チャンバー内の圧力、ε=100のノズル膨張比およびノズル内の平衡にある膨張。
【0077】
別の目的によれば、本発明はまた、本発明による単元推進薬を調製するための方法にも関する。したがって、前記方法は、燃料とN
2Oとを混合するステップを含む。この混合は、室温で実現できるが、固体塩が標準的な条件下で用いられる場合、最大溶解度は、飛行中の飽和および再結晶のあらゆるリスクを取り除くために、軌道上での単元推進薬の最低貯蔵温度にあるとみなさねばならない。したがって、単元推進薬の合成中には、この閾値が観察されるべきである。軌道での単元推進薬の使用の最低温度は通常、0℃である。
【0078】
本発明による単元推進薬は、特定の飽和蒸気圧を超えないようにするために、最大許容貯蔵温度を超えないことを確実としながら貯蔵してもよく、MEOP(最大予想動作圧力、動作中に予想される最大圧力)は、10から50barの間、通常は20から40barの間に含まれる。最大貯蔵温度は一般に、0℃から50℃の間に含まれる。単元推進薬は、軌道上で数年の時間長(通常は5年だが、可能性としては最大で15年)の間貯蔵されるように、十分な安定性を有しているべきである。安定性は特に、相分離(脱混合、デカンテーション等)の不在によって表すべきである。
【0079】
別の目的によれば、本発明はまた、本発明による単元推進薬を用いた宇宙推進方法にも関する。宇宙推進とは、発射装置や人工衛星等の宇宙船の推進を意味する。
【0080】
有利なことに、本発明による単元推進薬は、燃焼による動作に適している。燃焼ならば、触媒床なしで、したがって、複雑な推進機構造なしで行うことが可能である。さらに、推進機の寿命は、現用の触媒が腐食、酸化、焼結等による触媒の失活等の現象のために制限要素になっている限りは延長され得る。
【0081】
したがって、本発明による方法は、本発明による単元推進薬の燃焼を含む。
【0082】
燃焼は一般に、制御された点火によって実現される。これは、通例の技術に従って、特に高エネルギースパークプラグを用いて実行してもよい。該スパークプラグは一般に、燃焼室内への単元推進薬の到着時に、注入ヘッド内に位置決めされ、それにより、既燃ガスが燃焼室の反対側端部に配置されたノズルを介して排出される。
【0083】
本発明による方法はまた、タンク内の単元推進薬を加圧するための手段を含んでいてもよい。一般に、ヒドラジンを含み「触媒式単元推進薬」と呼ばれる現用の推進薬システムは、寿命早期(初期圧力)中に20barかつ寿命終了時に5barのオーダーのタンク内の圧力によって動作する。この圧力は、推進薬によって解放されたスペース内での加圧気体の膨張による単元推進薬の空洞化の際に減少する。ある種のシステムは、人工衛星の特務飛行の特定部分にわたってタンク圧力を一定に保つために、タンク圧力の調整を提供する(性能の最適化)。こうしたことは、通信プラットフォームの場合であるが、これは、複雑でコスト高の設備を導入する。
【0084】
本発明の場合、より高いタンク圧力での動作が、N
2Oを主体とした混合物の飽和蒸気圧を考慮に入れるために予期され得る(通常、寿命早期において、25から40barの間に含まれる)。加圧は、N
2Oそれ自体の溶液により、その揮発性のため有利に実現でき、その結果、追加用不活性ガスに頼ることはもはや必要とならない。これにより、タンクの充填レベルならびに液体−ガス対の見かけ比重の増大が起きる。
【0085】
液体相と気相が共存(これらの相の間の平衡)する限り、圧力は、該液体の気化のために(課された一定温度において)一定に留まり、その効果は、タンクの空洞化を補うガス容積を発生させることである。この場合、加圧手段は、タンク内への推進薬の充填のみによって確保してもよい。実際に、液体N
2O画分の気化による液体相と気相の間の平衡の再確立には、温度のわずかな低下(吸熱現象)が伴い、その結果、圧力のわずかな減少が観察される。この現象は、熱制御(サーミスタ)によるタンクの昇温を用いることによって釣り合わせることもできる。この「自己加圧」現象は、二液式エンジン上の圧力調整器と同様に、それにより、それらの最適の性能に近い推進機の動作が可能になるので、主要な利点を表す。
【0086】
液体相が枯渇すれば直ちに、相平衡はもはや実現できなくなる。タンクは次いで、不活性ガスによる加圧に類似した「ブローダウン」モードにおいて、従来法により動作する。
【0087】
本発明による方法はまた、宇宙船のタンク内に単元推進薬を装填する早期ステップを含んでいてもよい。