特許第6154243号(P6154243)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6154243
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】液封マウント
(51)【国際特許分類】
   F16F 13/10 20060101AFI20170619BHJP
   F16F 13/26 20060101ALI20170619BHJP
【FI】
   F16F13/10 H
   F16F13/26 D
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-168740(P2013-168740)
(22)【出願日】2013年8月14日
(65)【公開番号】特開2015-36580(P2015-36580A)
(43)【公開日】2015年2月23日
【審査請求日】2016年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000177900
【氏名又は名称】山下ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089509
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 清光
(72)【発明者】
【氏名】久保田 洋介
【審査官】 塚原 一久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−270827(JP,A)
【文献】 特開2002−89613(JP,A)
【文献】 特開平9−158975(JP,A)
【文献】 特開2011−252535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 13/00−13/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防振主体をなし下方へ開放された液室凹部(33)を有する弾性本体部(30)と、この液室凹部(33)を覆うダイヤフラム(50)と、これら液室凹部(33)とダイヤフラム(50)の間に形成される液室を主液室(38)と副液室(52)に区画する仕切部材(40)と、この仕切部材(40)に設けられて主液室(38)と副液室(52)を連通するオリフィス通路(48)とを備え、
これら弾性本体部(30)、仕切部材(40)、ダイヤフラム(50)を外筒(20)内へ収容一体化した液封マウントにおいて、
前記外筒(20)の上部(22)がストッパを兼ね、その上端部を弾性本体部(30)の周囲にて上方へ開口させ、下端部を下方へ開口させるとともに、
前記外筒(20)の下部(24)内側へ収容されて前記液室を構成する液室構成部(18)の外周部と、前記外筒(20)の下部(24)内周面との間に、前記外筒(20)の上端部開口(21)と下端部開口(23)を連通する水抜き通路(68)を形成したことを特徴とする液封マウント。
【請求項2】
前記弾性本体部(30)及び仕切部材(40)の各外周部に、弾性本体部水抜き凹部(39)及び仕切部水抜き凹部(42a)を設けるとともに、
ダイヤフラム(50)を当接支持して外筒(20)の下部(24)内側へ挿入される固定リング(60)を備え、この固定リング(60)の外周部にも固定リング水抜き凹部(66)を設け、
これら弾性本体部水抜き凹部(39)、仕切部水抜き凹部(42a)及び固定リング水抜き凹部(66)を前記外筒(20)の内側にてマウント軸方向で連通させることにより前記水抜き通路(68)を形成したことを特徴とする請求項1の液封マウント。
【請求項3】
前記固定リング(60)は前記外筒(20)内へ圧入されるとともに、前記外筒(20)の下端部の一部(28)を変形させることにより固定されることを特徴とする請求項2の液封マウント。
【請求項4】
前記弾性本体部(30)は前記液室を構成する前記凹部の開口部を囲む下端部(37)に剛性のリング(36)を埋設一体化し、このリング(36)の外周を弾性体層(37b)で覆うとともに、
この弾性体層(37b)に前記弾性本体部水抜き凹部(39)を形成したことを特徴とする請求項1又は2の液封マウント。
【請求項5】
組み立てが液中にて行われることを特徴とする請求項1又は2の液封マウント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンマウント等に使用する液封マウントに係り、特に、有利な水抜き構造を有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
液封マウントは、防振主体をなす略円錐台形状の弾性本体部と、その頂部に一体化した第1取付金具と、裾状に広がった底部外周を囲む円筒状の外筒と、外筒自体もしくは外筒へ取付けられたブラケットからなる第2の取付部材と、外筒の内側に設けられて弾性本体部の開口を覆うダイヤフラムと、この弾性本体部とダイヤフラム間に形成される液室と、この液室を主液室と副液室に区画する仕切部材と、この仕切部材に設けられて主液室と副液室を連絡するオリフィス通路とを備え、第1取付金具側から入力される振動を、オリフィス通路の液柱共振にて吸収する防振装置である。なお、この液封マウントについて、第1取付金具を通る中心線であるマウント軸上において、弾性本体部の頂部側を上方、底部側を下方ということにする。
また、第1取付金具を含む弾性本体部の周囲を上方に開口した筒状のストッパ部材で囲んだものもある。このようなストッパ部材を設けた場合には、ストッパ部材の上方開口から雨などの水が入りこんで、弾性本体部とストッパ部材の間に溜まることがあるので、この水が溜まらないように、ストッパ部材に排水用の穴または通路を設けたものもある(一例として特許文献1参照)。
さらに、外筒をストッパ部材と一体にした長いものとし、この内部へ弾性本体部、仕切部材及びダイヤフラムを順に挿入して積み重ね、ダイヤフラム側の外筒端部をカシメることにより全体を一体化して組み立てる積み上げ式の組立構造を有するものも公知である(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3732271号公報
【特許文献2】特許第3636730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載されたもの(従来例1)は、ストッパ部材が比較的短く、その下端部を、液室を囲むカップ状にした外筒の上端縁をなすフランジへカシメるようになっており、このストッパ部材の下端部の一部をカシメずに径方向外方へ膨出させて、外筒のフランジとの間に水抜き用の通路を形成し、この通路を通してストッパ部材の内側から水を保持部材の外方へ落下させて排水するようになっている。
このようにすると、ストッパ部材に排水用の開口部を設けないので、強度低下のおそれがなく、かつ組立時に保持部材の上端縁をなすフランジで塞がれてしまうおそれもない。
しかし、特許文献2に記載する、長い外筒内へ構成各部材を挿入して組み立てる積み上げ式組立構造(従来例2)を採用すると、外筒は長さ方向にて単一部材であるため、上記従来例1のような水抜き構造を長さ方向中間部に設けることは困難である。すなわち、従来例1はストッパ部材と外筒が分離した別部材になっているため、この連結部を利用して水抜き構造を形成できるが、外筒をストッパ部材兼用の単一部材とした場合にはこのような連結部が存在しないためである。しかも従来例1のような膨出部を外筒に形成しようとすれば、外筒の長さ方向中間部を部分的に内側から径方向外方へ膨出させることになるが、このような成形や加工は困難であり、さらにこの膨出部を利用して水抜き通路にするためには、上記従来例1と異なって膨出部先端を開口させなければならない。したがって、従来例2に従来例1の水抜き構造を採用することはできない。
このため、この長い外筒の長さ方向中間部に予め水抜き用の開口を形成しておくことも考えられる。しかしこの場合には、外筒の強度低下を招かないように開口をできるだけ小さくしなければならず、その結果、組立時に開口が弾性本体部で塞がれないように高い精度の作業が要求され、組立性が低下する。
そこで、本願はこのような課題を解決できる水抜き構造を実現する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため請求項1に記載した発明は、防振主体をなし下方へ開放された液室凹部(33)を有する弾性本体部(30)と、この液室凹部(33)を覆うダイヤフラム(50)と、これら液室凹部(33)とダイヤフラム(50)の間に形成される液室を主液室(38)と副液室(52)に区画する仕切部材(40)と、この仕切部材(40)に設けられて主液室(38)と副液室(52)を連通するオリフィス通路(48)とを備え、
これら弾性本体部(30)、仕切部材(40)、ダイヤフラム(50)を外筒(20)内へ収容一体化した液封マウントにおいて、
前記外筒(20)の上部(22)がストッパを兼ね、その上端部を弾性本体部(30)の周囲にて上方へ開口させ、下端部を下方へ開口させるとともに、
前記外筒(20)の下部(24)内側へ収容されて前記液室を構成する液室構成部(18)の外周部と、前記外筒(20)の下部(24)内周面との間に、前記外筒(20)の上端部開口(21)と下端部開口(23)を連通する水抜き通路(68)を形成したことを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載した発明は、上記請求項1において、前記弾性本体部(30)及び仕切部材(40)の各外周部に、弾性本体部水抜き凹部(39)及び仕切部水抜き凹部(42a)を設けるとともに、
ダイヤフラム(50)を当接支持して外筒(20)の下部(24)内側へ挿入される固定リング(60)を備え、この固定リング(60)の外周部にも固定リング水抜き凹部(66)を設け、
これら弾性本体部水抜き凹部(39)、仕切部水抜き凹部(42a)及び固定リング水抜き凹部(66)を前記外筒(20)の内側にてマウント軸方向で連通させることにより前記水抜き通路(68)を形成したことを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載した発明は、上記請求項2において、前記固定リング(60)は前記外筒(20)内へ圧入されるとともに、前記外筒(20)の下端部の一部(28)を変形させることにより固定されることを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載した発明は、上記請求項1又は2において、前記弾性本体部(30)は前記液室を構成する前記凹部の開口部を囲む下端部(37)に剛性のリング(36)を埋設一体化し、このリング(36)の外周を弾性体層(37b)で覆うとともに、
この弾性体層(37b)に前記弾性本体部水抜き凹部(39)を形成したことを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載した発明は、上記請求項1又は2において、組み立てが液中にて行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、外筒(20)の下部(24)内側へ収容されて液室を構成する液室構成部(18)の外周部と、外筒(20)の内周面との間に、外筒(20)の上端部開口(21)と下端部開口(23)を連通する水抜き通路(68)を形成したので、外筒(20)の内側へ液室構成部(18)を収容して組み立てると、上下の開口部を連通し、外筒(20)の内側かつ液室の外方を通って排水する水抜き通路(68)が簡単に形成される。
したがって、一部が上方へ開口するストッパを兼ねた長い外筒(20)であっても、その長さ方向中間部に水抜き用の開口を設けずに水抜き通路(68)を容易に形成できる。
しかも、外筒(20)の強度に影響しない場所である液室構成部(18)の外周部に水抜き通路(68)を設けることができ、外筒(20)の側面に水抜き用の開口を設けないのでその強度低下を招くこともない。
そのうえ、マウント軸方向にて溝や凹部を一致させて外筒の内周面との間に水抜き通路を形成したので、組立時に弾性本体部で外筒の開口を塞ぐこともないから、組立時の作業性が向上する。
【0011】
請求項2の発明によれば、弾性本体部(30)及び仕切部材(40)の各外周部に、弾性本体部水抜き凹部(39)及び仕切部水抜き凹部(42a)を設けるとともに、ダイヤフラム(50)を固定するための固定リング(60)を設け、この固定リング(60)にも固定リング水抜き凹部(66)を設けたので、組立時に、弾性本体部(30)、仕切部材(40)、ダイヤフラム(50)及び固定リング(60)を外筒(20)の内部へ収容し、各水抜き凹部(39、42a、66)を一致させて積み上げれば、外筒(20)との間に水抜き通路(68)が形成される。したがって、マウント軸方向へ連通し、外筒(20)の内側かつ液室の外方を通って排水する水抜き通路(68)を簡単に形成できる。
また、マウント軸方向にて液室構成部(18)の構成各部材を積み上げることにより、外筒(20)の内周面との間に水抜き通路(68)を形成したので、組立時に弾性本体部で外筒の側面に形成された開口を塞ぐようなこともないから、組立時の作業性が向上する。
【0012】
請求項3の発明によれば、固定リング(60)を外筒(20)内へ圧入することにより、組立時に仮止めでき、かつ外筒(20)の開口端部を部分的に変形させて固定することにより、全体を強固に一体化できる。
【0013】
請求項4の発明によれば、弾性本体部(30)の開口部周囲にリング(36)を埋設一体化しても、リング(36)の外周側に下端部(37)の弾性体層(37b)を設け、ここに弾性本体部水抜き凹部(39)を設けることにより、リング(36)を弾性本体部水抜き凹部(39)内へ露出させず、リング(36)が金属製でも錆びにくくすることができる。
また、弾性体層(37b)を外筒(20)の内周面へ密接させるので、弾性本体部水抜き凹部(39)をシールできる。
【0014】
請求項5の発明によれば、全体を液中にて組み立てるとき、弾性本体部(30)と外筒(20)の間に液体が溜まっても水抜き通路を利用して速やかに水抜きできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る液封マウントの斜視図
図2】同正面図
図3】同平面図
図4】同底面図
図5図3の5−5線断面図
図6】全体の組立図
図7】弾性本体部と仕切部材の組立図
図8】仕切部材の組立図
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、図1〜3に示すように、液封マウント10は、マウント軸線CT上にて上部をボルト12によりエンジンブラケット14へ取付けられ、エンジンブラケット14は延出端部の取付穴15にて、ボルトでエンジン(それぞれ図示省略)へ取付けられる。
【0017】
下部は脚形状のブラケット16a、16bにて図示しない車体へ取付けられている。マウント軸CTは液封マウント10の中心軸線であり、この方向が防振すべき主たる振動の入力方向となる。ブラケット16a、16bは液封マウント10を車体へ取付けるための第2取付金具をなし、取付穴17にて図示しないボルトにより車体へ取付けられる。
【0018】
なお、本願において上下方向は、図2及び5の状態を規準とし、図の上方側を液封マウント10の上方側とする。すなわち、マウント軸CTは上下方向に向けて配置され、このマウント軸CT上にて後述する第1取付金具34側が上方になる。
【0019】
図5及び図6に示すように、液封マウント10は筒状の長い外筒20内へ、弾性本体部30、仕切部材40及びダイヤフラム50を組み込んで一体化される。なお、図6において仕切部材40を構成する各部(42・44・46)の断面は、図8中において、蓋部材42が6A−6A線に沿うものであり、弾性仕切部材44が6B−6B線に沿うものであり、下部ホルダ46が6C−6C線に沿うものである。
【0020】
外筒20は上下両端に上端部開口21及び下端部開口23を備え、上方側の細径部22と下方側の太径部24とからなる2段に太さが変化する金属製の円筒状部材である。
細径部22はストッパとして機能する部分であり、その上端部26は上端部開口部21を囲み、その周囲は部分的に中心方向へ折れ曲がって内フランジ状をなすストッパ部27になっている。上端部開口部21はボルト12が通るための開口部として上下に開放されている。
細径部22と太径部24の境界部は段差部25をなしている。段差部25上には、90°間隔で外方に膨出する突部25aが形成されている。
【0021】
太径部24は外筒20の下部をなし、後述する液室構成部18が嵌合される部分であり、その下端部24aは上下に開放された下端部開口23を囲み、その開口縁部は若干外方へめくれるように曲がっている。下端部24aの一部は爪28をなし、組立時に内方へ折り曲げられるようになっている。
太径部24の周囲には、車体取付脚としてのブラケット16a、16bが溶接されている。
【0022】
弾性本体部30は防振主体をなす略円錐台状のゴム等からなる弾性体32と、その上部中央に一体化された第1取付金具34と、下部周囲に一体化されたリング36とを備え、弾性体32の内側は下方へ開放された液室凹部33が形成され、この液室凹部33内に作動液が充填されて主液室38が形成される。
【0023】
第1取付金具34にはネジ穴が形成され、ここにボルト12が締結されるようになっている。また、第1取付金具34の上部は径方向へ拡大する張り出し部35をなし、この上方にストッパ部27が重なり、リバウンド時のストッパをなしている。なお、バウンド時は、第1取付金具34の上端部開口21から突出する上部周囲に嵌合されるフランジ部材13がストッパ部27へ当接するようになっている。
【0024】
液室凹部33の開口部周囲はリング36によって補強されている。リング36は弾性本体部30の下端部37に一体化されている。下端部37は下方へ向かって裾状に広がる弾性体32の下端外周部であり、ここにリング36が埋設一体化される。下端部37の外周面は太径部24の内周面と略平行であり、太径部24の内周面へ圧入されて嵌合密着する。下端部37の上端部は弾性体32の裾状部外表面へ繋がる肩部をなし、ここが段差部25に当接支持される。
【0025】
仕切部材40は弾性本体部30の液室凹部33を閉じる部材であり、蓋部材42、弾性仕切部材44、下部ホルダ46を一体化したものである。仕切部材40にはオリフィス通路48が設けられ、このオリフィス通路48により、仕切部材40及びダイヤフラム50間に形成される副液室52と主液室38間を連絡し、所定の共振周波数にて液柱共振を生じるようになっている。仕切部材40の詳細構造は後述する。
【0026】
ダイヤフラム50は、仕切部材40の下方から副液室52を覆うとともに、副液室52の容積変化に応じて変形自在であり、仕切部材40との間に形成される副液室52の容積変化に追随するようになっている。ダイヤフラム50の外周部は厚肉の外周厚肉固定部54をなし、この外周厚肉固定部54を仕切部材40(下部ホルダ46)の下面へ当接するようになっている。
【0027】
ダイヤフラム50の外周厚肉固定部54は、固定リング60にて固定される。固定リング60は円筒状の本体部62からなる金具であり、下端部は内方へ内フランジ状に折り曲げられたフランジ部64をなし、ここが底部となって外周厚肉固定部54へ重なるようになっている。
【0028】
さらに、本体部62は外筒20の太径部24の内側へ圧入固定され、上端は蓋部材42の外周部下面へ当接する。また本体部62の外周面は後述する固定リング水抜き凹部66(図6参照)を除いて太径部24の内周面に密接する。
【0029】
図4に示すように、固定リング60フランジ部64が4つの爪28をそれぞれ内側へ折り曲げられることにより固定される。4つの爪28は周方向へ等間隔で設けられず、2つずつが1組をなして近接配置され、この組が略180°間隔で配置されている。互いに接近している1組の爪28の間に水抜き通路68の下端部が開口している。この水抜き通路68は、固定リング60本体部62に形成された固定リング水抜き凹部66と太径部24の間に形成されている。固定リング水抜き凹部66は周方向へ90°間隔で設けられている。
【0030】
太径部24の下端部24aは若干外方へ開き気味になっており、本体部62との間に若干の隙間が生じている。但し、下端部24aより上方では、圧入により本体部62の外周面が太径部24の内周面と密接している。また、太径部24の下端部24aのうち、爪28の付け根部分は、爪28を内側へ折り曲げることにより、内方へ入り込み一部が本体部62の外周面へ当接するように変形している。
【0031】
しかしこのように爪28の付け根部分が変形しても、固定リング水抜き凹部66が本体部62の一部を径方向内方へ凹入させて形成されているため、水抜き通路68が塞がれるおそれはない。
しかも、固定リング水抜き凹部66は図示するように、接近した1組の爪28の中間に位置せず、若干一方の爪28側へ偏って位置しているが、このように偏っていても水抜き通路の形成に何ら問題がないから、位置合わせにおける組立精度を緩和できる。
【0032】
また、接近した1組の爪28の間に水抜き通路68(固定リング水抜き凹部66)が位置することによって、太径部24の内周面との間隔を一定にして水抜き通路68を安定させて維持することができる。なお、間隔の開いた爪28間にも固定リング水抜き凹部66が位置する。但し、こちらの固定リング水抜き凹部66は水抜き通路68を構成しないため、このような固定部間のスパンが長い場所に位置しても問題がない。
【0033】
図5に示すように、固定リング60の内側に仕切部材40とダイヤフラム50が嵌合される。フランジ部64はダイヤフラム50外周厚肉固定部54を下方から支持している。
ダイヤフラム50外周厚肉固定部54、これが当接する下部ホルダ46及びこれに嵌合する弾性仕切部材44の各外周部は、環状壁をなす本体部62の内側へ嵌合する。本体部62の上端は、蓋部材42の外周部下面へ当接する。
【0034】
したがって、予めダイヤフラム50と仕切部材40を嵌合した固定リング60を、太径部24の内側へその下端部24a側から圧入すれば、これらで液室凹部33を塞ぐとともに、外筒20と一体化できる。
【0035】
なお、外筒20の内側へ収容される弾性本体部30の下部、仕切部材40、ダイヤフラム50及び固定リング60は液室構成部18(図6参照)をなす。
この液室構成部18は、固定リング60を太径部24へ圧入することにより外筒20へ仮止めされる。
【0036】
さらに、固定リング60の底部であるフランジ部64は太径部24の下端部24aに設けられた爪28を内側へ折り曲げることにより固定される。この爪28による固定で、弾性本体部30、仕切部材40、ダイヤフラム50及び固定リング60は、外筒20の内側へ組み入れられ、積み上げられた状態で、段差部25と爪28の間で液密に組立一体化されるとともに、外筒20の内側へ収容一体化された液室構成部18は外筒20に対して、実用範囲では抜け出さない所定の高い抜け荷重が得られる。
【0037】
図5の拡大部に示すように、固定リング60を仕切部材40及びダイヤフラム50に外嵌したとき、固定リング水抜き凹部66は、弾性仕切部材44の仕切部第2水抜き凹部44a及び下部ホルダ46の仕切部第3水抜き凹部46aに外側から重なる。また、固定リング水抜き凹部66の上端部は、蓋部材42の仕切部第1水抜き凹部42aを囲むように蓋部材42の下面へ当接する。
蓋部材42の仕切部第1水抜き凹部42aは、弾性本体部30に設けられている弾性本体部水抜き凹部39の下端部と一致している。
【0038】
このため、固定リング60を仕切部材40及びダイヤフラム50に外嵌しても、固定リング水抜き凹部66と太径部24の内周面との間に排水用通路用の間隙が形成され、この間隙が水抜き通路68の一部となり、蓋部材42の仕切部第1水抜き凹部42aを介して上方の弾性本体部水抜き凹部39に連通して、外筒20の内側にマウント軸方向へ延びる水抜き通路68を形成できる。
【0039】
図7は弾性本体部30と仕切部材40の組立図であり、それぞれを斜視図にて示すものである。弾性本体部30の下端部37における外周面の周囲には、180°間隔で縦溝状の弾性本体部水抜き凹部39が設けられている。また、下端部37の肩部には弾性本体部水抜き凹部39の上部へ連続する切り欠き凹部32aが形成されている。切り欠き凹部32a及び弾性本体部水抜き凹部39は、組立時に突部25aの下へ所定の間隙をなして重なり、水抜き通路68の一部を構成するようになっている(図5中の拡大部参照)。
【0040】
下端部37のうち弾性本体部水抜き凹部39が形成されている部分は、リング36が弾性体32から連続する弾性体層37b(図5中の拡大部参照)により被覆され、弾性本体部水抜き凹部39及び切り欠き凹部32a中にリング36を露出させないようになっている。下端部37の外周面で弾性本体部水抜き凹部39を挟む周方向両側は、上下方向に平行して延びるリブ状のシール37cをなし、弾性体層37bと連続一体に形成されている。シール37cは太径部24の内周面へ密接し、弾性本体部水抜き凹部39のシールをなす。
【0041】
図8は、仕切部材40の組立図であり、蓋部材42、弾性仕切部材44、下部ホルダ46は、それぞれ斜視図になっている。仕切部水抜き凹部41は、仕切部材40の構成各部材における各外周部に形成された仕切部第1水抜き凹部42a、仕切部第2水抜き凹部44a及び仕切部第3水抜き凹部46aで構成される。
【0042】
次に、仕切部材の詳細構造を説明する。
蓋部材42は金属製等の剛性材料からなる円板状をなし、外径は弾性仕切部材44及び下部ホルダ46の各外径よりも大きくなっている。
蓋部材42の周囲に仕切部第1水抜き凹部42aが90°間隔で形成されている。中央部には開口42bが設けられている。
開口42bには十文字形の変形規制部材42cが設けられている。開口42bの外側にはオリフィス通路の主液室側開口42dが形成されている。
【0043】
弾性仕切部材44はゴム等の弾性に富む部材からなる上方へ開放されたカップ状部材であり、外周壁44eには仕切部第2水抜き凹部44aが90°間隔で形成され、仕切部第1水抜き凹部42aと周方向で一致するようになっている。但し、仕切部第2水抜き凹部44aは仕切部第1水抜き凹部42aよりも大きく、かつ径方向内側へ引き込んだ位置に形成されている。
【0044】
弾性仕切部材44の中央部は、開口42bに臨む可動膜部44bであり、その周囲には内周壁44cが形成され、この内周壁44cと外周壁44eの間にオリフィス通路48を構成するオリフィス溝44dが形成されている。
【0045】
下部ホルダ46は樹脂等からなる上方へ開放されたカップ状の剛性部材であり、外周壁46eの一部が90°間隔で切り欠かれ、この切り欠き部に仕切部第3水抜き凹部46aが設けられている。仕切部第3水抜き凹部46aの大きさ及び周方向並びに径方向の各位置は仕切部第2水抜き凹部44aと一致するようになっている。下部ホルダ46の中央部には、可動膜部44bの下方となる位置に開口46bが設けられ、ここに十文字形の変形規制部材46cが設けられている。
【0046】
開口46bと外周壁46eの間は、リング状の底部46dをなし、オリフィス溝44dの底部を支持するようになっている。また、底部46dには、図では見えないが、オリフィス通路48を副液室52へ連通するための副液室側開口が形成されている。
【0047】
46fは位置決め突起であり、内周壁44cの形成された位置決め穴44fを貫通し、蓋部材42に形成された位置決め穴42fへ上端が嵌合することにより、蓋部材42、弾性仕切部材44及び下部ホルダ46の3部材が位置決めされて一体化する。
【0048】
これにより、仕切部第1水抜き凹部42a、仕切部第2水抜き凹部44a、仕切部第3水抜き凹部46aが周方向にて一致し、かつ上下方向にて連続する一つの仕切部水抜き凹部41を形成する。仕切部水抜き凹部41は周方向へ90°間隔で4つ形成される。なお、径方向においては、仕切部第1水抜き凹部42aのみが外方へ突出して位置し、仕切部第2水抜き凹部44aと仕切部第3水抜き凹部46aは内方へ引き込んだ位置で上下方向に重なっている。
【0049】
この仕切部材40が一体化された状態では、主液室38の作動液は開口42bを通して可動膜部44bの上方へ移動可能であり、かつ副液室52の作動液も、開口46bを介して可動膜部44bの下方へ移動可能なため、可動膜部44bが主液室38の内圧変動を吸収する。
【0050】
次に、上端部開口21から外筒20の内側へ入り込んだ雨水等の水を排水するための水抜き構造を説明する。
図5の拡大図に示すように、組立状態では、切り欠き凹部32a及び弾性本体部水抜き凹部39が突部25aの下方に間隔を持って位置し、段差部25の突部25a及びその直下の太径部24との間に上下方向に連通する排水用通路を形成する。
【0051】
弾性本体部水抜き凹部39の下端は仕切部第1水抜き凹部42aと一致する。
仕切部第1水抜き凹部42aは固定リング水抜き凹部66と太径部24の間に形成される排水用通路と連通する。したがって、弾性本体部30側の排水用通路と仕切部材40側の側排水用通路とが連通して水抜き通路68を形成する。
【0052】
但し、弾性本体部水抜き凹部39は周方向へ180°間隔で2ケ所設けられ、仕切部第1水抜き凹部42aは周方向へ90°間隔で4ケ所設けられているため、対向する2ケ所の弾性本体部水抜き凹部39は、4ケ所の仕切部第1水抜き凹部42aのうち、対向するいずれか1組と一致させられ、残りの仕切部第1水抜き凹部42aは水抜き通路に利用されない。このように、弾性本体部30側と仕切部材40側で水抜き凹部の数を異ならせるのは、組立時における位置合わせを容易にするためである。また、段差部25の突部25aも、弾性本体部30の弾性本体部水抜き凹部39と数を異ならせてある。
【0053】
したがって、切り欠き凹部32a→弾性本体部水抜き凹部39→仕切部第1水抜き凹部42a→固定リング水抜き凹部66→外部、となる水抜き通路68が形成される。そこで、上端部開口21から外筒20の内側へ入った水は、図5の拡大部に矢示するように、突部25aと切り欠き凹部32a及び弾性本体部水抜き凹部39の間を通り、さらに仕切部第1水抜き凹部42aから固定リング水抜き凹部66へ入り、太径部24の内側から下方へ排水される。
【0054】
このため、弾性本体部30及び仕切部材40の各外周部に、弾性本体部水抜き凹部39及び仕切部水抜き凹部41を設けることにより、水抜き通路68を外筒20の内周面と液室構成部18の外周部との間に設けることができ、外筒20の強度に影響する側面に水抜き用の開口を設けないようにすることができる。特に、外筒20を上方へ延長させてストッパ部材を兼用させる構成の場合に、強度低下部分がないので好適な構造となる。そのうえ、組立時に外筒20の側面に設けた開口を液室構成部18で塞ぐようなおそれもないので、組立も容易である。
【0055】
また、組立は、外筒20の太径部24内へ、液室構成部18を構成する弾性本体部30、仕切部材40、ダイヤフラム50及び固定リング60を、弾性本体部水抜き凹部39と仕切部第1水抜き凹部42a及び固定リング水抜き凹部66が上下方向で一致するようにして積み上げ、固定リング60のフランジ部64を太径部24の下端部に設けた爪28にて固定するだけであるから、組立と同時に水抜き通路68を形成できる。したがって、容易に水抜き通路68を形成でき、作業性を向上させることができ、積み上げ式の組み立てに適したものになる。
【0056】
しかも、ダイヤフラム50を固定するための固定リング60に固定リング水抜き凹部66を設けて、外筒20との間に水抜き通路68を形成したので、固定リング60でダイヤフラム50を固定しても、水抜き通路68を形成できるようになる。
【0057】
さらに、固定リング60の本体部62を外筒20内へ圧入することにより、組立時に仮止めして全体を一体化できる。また外筒20の爪28を折り曲げて固定リング60のフランジ部64を固定することにより、全体を強固に一体化し、十分に大きな抜け荷重を得ることができる。
【0058】
また、弾性本体部30の下端部37に設ける弾性本体部水抜き凹部39を、リング36の外周を覆う弾性体層37bに形成したので、弾性本体部水抜き凹部39内へリング36を露出させず、リング36が金属製でも錆びにくくすることができる。そのうえ、弾性体層37bを外筒20の内周面へ密接させることにより、弾性本体部水抜き凹部39をシールできる。特に、弾性体層37bと一体のシール37cを設けたので、さらに高いシール性能が得られる。
【0059】
そのうえ、段差部25に突部25aを形成し、この突部25aに重なる弾性体32の一部に切り欠き凹部32aを設け、この切り欠き凹部32aを弾性本体部水抜き凹部39に連通させたので、組立時にも段差部25と弾性体32の間に水抜き通路用の十分な間隙を形成できる。しかも、組立時に弾性本体部30は太径部24側から挿入され、下端部37の肩部が段差部25へ当接されて押しつけられるが、突部25aは段差部25より上方へ突出するように膨出しているので、下端部37の肩部が突部25aとの間隙を塞ぐことがなく、常時排水用通路を確保できる。
また、突部25aは段差部25に形成されるため、成形や加工が太径部24側からできることになり、このような外筒20の長さ方向中間部を径方向外方へ突出させることが可能になった。
【0060】
また、この液封マウント10は作動液と同じ液中にて積み上げ式で組み立てられる。このとき、外筒20と弾性本体部30の周囲との間に液体が大量に入り込む。しかし、この大量の液体も、液封マウント10の組立後に、上端部開口21を上にしてマウント軸CTを上下方向に向けて立てれば、水抜き通路68より速やかに排出される。したがって、液中組立にも適した構造になる。
【0061】
さらに、液中にて上下を反転して組み立てた場合には、外筒20の上端部開口21が下を向き、下端部開口23が上を向いた状態になる。したがって、組立後は、外筒20の下端部開口23の内側となる固定リング60の外周部や爪28の近傍に多くの液体が溜まることになる。しかし、固定リング水抜き凹部66が太径部24の下端部内側に形成されるため、水抜き通路68が太径部24の下端部内側に開口しているので、組み立てた製品を液中から出すと同時に、太径部24の内側に溜まった液体は、水抜き通路68を通って排水される。
【0062】
なお、本願発明は上記説明したものに限定されるものではなく、発明の原理内において種々に変形や応用が可能である。例えば、水抜き通路の数は1又は2以上と任意である。上記説明では、突部25aを4つ、弾性本体部水抜き凹部39を2つ、仕切部水抜き凹部41を4つ、固定リング水抜き凹部66を2つ、と交互に数を変え、組立時の合わせを容易にしつつ、最終的に水抜き通路68を2つとしている。しかし、各水抜き凹部の数を上記と異なる数にしたり、同数にすることもできる。
【0063】
また、固定リング60は弾性仕切部材44及び下部ホルダ46の各外周に外嵌するものではなく、下部ホルダ46の底部へ当接するものでもよい。この場合には、固定リング水抜き凹部66と仕切部水抜き凹部41を上下方向で一致させれば、水抜き通路68の下部側をなす排水通路を形成できる。
【0064】
さらに、ダイヤフラム50の外周厚肉固定部54へ固定リング60に相当する金属等の底部側支持部材を一体化しておけば、この底部側支持部材を太径部24の内側へ圧入したり爪28で固定することができるから、別体の固定リング60を省略できる。この場合には、底部側支持部材に固定リング水抜き凹部66に相当する水抜き凹部を予め形成しておくことになる。
また、固定リング60の固定は、爪28によるばかりでなく、外筒20の下端部24aを部分的に内側へ曲げたり突出させる等して変形させることにより固定してもよい。
【符号の説明】
【0065】
10:液封マウント、20:外筒、22:細径部、24:太径部、25a:突部、28:爪、30:弾性本体部、32:弾性体、36:リング、37:下端部、39:弾性本体部水抜き凹部、40:仕切部材、41:仕切部水抜き凹部、42:蓋部材、42a:仕切部第1水抜き凹部、44:弾性仕切部材、44a:仕切部第2水抜き凹部、46:下部ホルダ、46a:仕切部第3水抜き凹部、50:ダイヤフラム、54:、60:固定リング、62:本体部、66:固定リング水抜き凹部、68:水抜き通路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8