特許第6154275号(P6154275)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6154275抗菌・抗ウィルス性塗料及び抗菌・抗ウィルス性塗膜の形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6154275
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】抗菌・抗ウィルス性塗料及び抗菌・抗ウィルス性塗膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/00 20060101AFI20170619BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20170619BHJP
   C09D 5/14 20060101ALI20170619BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20170619BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20170619BHJP
   C09D 161/28 20060101ALN20170619BHJP
【FI】
   C09D133/00
   B05D5/00 Z
   C09D5/14
   C09D7/12
   B32B27/30 A
   !C09D161/28
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-201343(P2013-201343)
(22)【出願日】2013年9月27日
(65)【公開番号】特開2015-67658(P2015-67658A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】302045705
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 陽一
(72)【発明者】
【氏名】首藤 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】井戸田 靖弘
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−071031(JP,A)
【文献】 特開平01−265594(JP,A)
【文献】 特開2013−071893(JP,A)
【文献】 特開2000−191409(JP,A)
【文献】 特開2008−189596(JP,A)
【文献】 特開2010−195782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
A01N 1/00− 65/48
A01P 1/00− 23/00
05D 1/00− 7/26
B32B 1/00− 43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル−メラミン系樹脂塗料に、下記式(1)で表される4級アンモニウム塩(A)と、炭素数6以上の炭化水素基及び2以上のカルボキシル基を有する多価カルボン酸(B)とを配合してなり、前記多価カルボン酸(B)が芳香族多価カルボン酸であることを特徴とする抗菌・抗ウィルス性塗料。
【化1】
(式(1)中、Rは炭素数8〜22のアルキル基を表し、R2A,R2B,R2Cはそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を表す。Xはハロゲン原子を表す。)
【請求項2】
請求項1において、前記4級アンモニウム塩(A)がオクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド及び/又はヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライドであることを特徴とする抗菌・抗ウィルス性塗料。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記4級アンモニウム塩(A)を前記アクリル−メラミン系樹脂塗料の固形分100重量部に対して1〜10重量部含有することを特徴とする抗菌・抗ウィルス性塗料。
【請求項4】
請求項1ないしのいずれか1項において、前記4級アンモニウム塩(A)と前記多価カルボン酸(B)とを、4級アンモニウム塩(A):多価カルボン酸(B)=1:0.01〜0.5のモル比で含むことを特徴とする抗菌・抗ウィルス性塗料。
【請求項5】
請求項1ないしのいずれか1項に記載の抗菌・抗ウィルス性塗料を、処理対象面に付着させた後、加熱処理することを特徴とする抗菌・抗ウィルス性塗膜の形成方法。
【請求項6】
請求項に記載の抗菌・抗ウィルス性塗膜の形成方法により形成された抗菌・抗ウィルス性塗膜。
【請求項7】
表面に、請求項に記載の抗菌・抗ウィルス性塗膜が形成されてなることを特徴とする部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水性に優れた抗菌・抗ウィルス性塗膜を形成することができる抗菌・抗ウィルス性塗料と、この抗菌・抗ウィルス性塗料を用いた抗菌・抗ウィルス性塗膜の形成方法に関する。本発明はまた、この抗菌・抗ウィルス性塗膜の形成方法により形成された抗菌・抗ウィルス性塗膜とこの抗菌・抗ウィルス性塗膜を有する部材に関する。
【背景技術】
【0002】
建築材料に抗菌・抗ウィルス性塗膜を形成する技術として、特許文献1には、アルキルトリメチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩を添加した塗料で表層塗膜を形成する方法が提案されている。特許文献1には、表層塗膜を形成する塗料に更にp−トルエンスルホン酸等の塗膜硬化促進剤を配合すると塗膜の耐久性を高めることができるとの記載もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−71031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、生活環境における衛生観念、美観に対する意識の向上に伴い、抗菌・抗ウィルス性塗膜は多種多様な製品に対して適用されているが、例えば、台所シンクや浴室などの水栓ハンドルなどの水回り部材にあっては、長時間水に濡れた条件下におかれた後でも、抗菌・抗ウィルス性が損なわれないこと、即ち、耐水性に優れた抗菌・抗ウィルス性塗膜であることが要求される。
【0005】
特許文献1の表層塗膜では、耐水性が十分であるとは言えず、水に浸漬すると抗菌・抗ウィルス性が失われるという問題があった。
【0006】
本発明は、耐水性に優れた抗菌・抗ウィルス性塗膜を形成することができる抗菌・抗ウィルス性塗料と、この抗菌・抗ウィルス性塗料を用いた抗菌・抗ウィルス性塗膜の形成方法、この抗菌・抗ウィルス性塗膜の形成方法により形成された抗菌・抗ウィルス性塗膜、並びにこの抗菌・抗ウィルス性塗膜を有する部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、抗菌成分となる4級アンモニウム塩と、特定の多価カルボン酸とを併用することにより、上記課題を解決することができることを見出した。
【0008】
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0009】
[1] アクリル−メラミン系樹脂塗料に、下記式(1)で表される4級アンモニウム塩(A)と、炭素数6以上の炭化水素基及び2以上のカルボキシル基を有する多価カルボン酸(B)とを配合してなり、前記多価カルボン酸(B)が芳香族多価カルボン酸であることを特徴とする抗菌・抗ウィルス性塗料。
【0010】
【化1】
【0011】
(式(1)中、Rは炭素数8〜22のアルキル基を表し、R2A,R2B,R2Cはそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を表す。Xはハロゲン原子を表す。)
【0012】
[2] [1]において、前記4級アンモニウム塩(A)がオクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド及び/又はヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライドであることを特徴とする抗菌・抗ウィルス性塗料。
【0015】
] [1]又は[2]において、前記4級アンモニウム塩(A)を前記アクリル−メラミン系樹脂塗料の固形分100重量部に対して1〜10重量部含有することを特徴とする抗菌・抗ウィルス性塗料。
【0016】
] [1]ないし[]のいずれかにおいて、前記4級アンモニウム塩(A)と前記多価カルボン酸(B)とを、4級アンモニウム塩(A):多価カルボン酸(B)=1:0.01〜0.5のモル比で含むことを特徴とする抗菌・抗ウィルス性塗料。
【0017】
] [1]ないし[]のいずれかに記載の抗菌・抗ウィルス性塗料を、処理対象面に付着させた後、加熱処理することを特徴とする抗菌・抗ウィルス性塗膜の形成方法。
【0018】
] []に記載の抗菌・抗ウィルス性塗膜の形成方法により形成された抗菌・抗ウィルス性塗膜。
【0019】
] 表面に、[]に記載の抗菌・抗ウィルス性塗膜が形成されてなることを特徴とする部材。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、抗菌・抗ウィルス性塗料中の4級アンモニウム塩(A)が多価カルボン酸(B)とイオン結合することにより、分子量の大きいイオン結合体として抗菌・抗ウィルス性塗膜中に安定に保持されるようになり、水中での4級アンモニウム塩(A)の溶出が防止され、従って、4級アンモニウム塩(A)の溶出による4級アンモニウム塩(A)による抗菌・抗ウィルス性の低下が防止される。
【0021】
このため、台所や浴室等の水栓ハンドルなどの水回り部材に対しても、長期に亘り抗菌・抗ウィルス性を持続することができる耐久性に優れた抗菌・抗ウィルス性塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0023】
[抗菌・抗ウィルス性塗料]
本発明の抗菌・抗ウィルス性塗料は、アクリル系塗料に、下記式(1)で表される4級アンモニウム塩(A)と、炭素数6以上の炭化水素基と2以上のカルボキシル基とを有する多価カルボン酸(B)とを配合してなるものである。
【0024】
【化2】
【0025】
(式(1)中、Rは炭素数8〜22のアルキル基を表し、R2A,R2B,R2Cはそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を表す。Xはハロゲン原子を表す。)
【0026】
<4級アンモニウム塩(A)>
4級アンモニウム塩(A)は、抗菌成分として機能するものであり、前記式(1)において、Rとしては炭素数12〜18、特に16〜18のアルキル基が好ましく、R2A,R2B,R2Cとしてはメチル基が好ましい。Xとしては、塩素原子、臭素原子が挙げられる。
【0027】
式(1)で表される4級アンモニウム塩(A)としては、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド(R=C1225)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド(R=C1633)、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド(R=C1837)などが挙げられるが、これらのうち、特にオクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライドを用いることが、抗菌・抗ウィルス性、安全性の面で好ましい。
【0028】
上記4級アンモニウム塩(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
<多価カルボン酸(B)>
多価カルボン酸(B)は、そのカルボキシル基が抗菌・抗ウィルス成分である4級アンモニウム塩(A)の4級アンモニウム基とイオン結合することでイオン結合体を形成するが、その際に多価カルボン酸(B)が2以上のカルボキシル基を有することにより、1つの多価カルボン酸(B)に2以上の4級アンモニウム塩(A)が結合して分子量の大きいイオン結合体を抗菌・抗ウィルス性塗膜中に形成する。この分子量の大きいイオン結合体は、水に浸漬された場合でも塗膜中から容易には溶出することがなく、抗菌・抗ウィルス性塗膜内に安定に保持されるため、水濡れによる抗菌・抗ウィルス性の低下が防止される。
【0030】
このように分子量の大きいイオン結合体を形成するために、多価カルボン酸(B)のカルボキシル基は2以上である必要がある。多価カルボン酸(B)のカルボキシル基は特に2〜4程度であることが好ましい。
【0031】
また、多価カルボン酸(B)の炭化水素基の炭素数が5以下であると、耐水性に優れた抗菌・抗ウィルス性塗膜を形成し得ない。炭化水素基の炭素数の上限については特に制限はないが、取り扱い性や入手容易性の面から、通常20以下である。
【0032】
多価カルボン酸(B)の炭化水素基は、構造的にも安定なイオン結合体を形成することができることから、芳香族基であることが好ましく、多価カルボン酸(B)は、特に芳香族炭化水素環に2以上のカルボキシル基が結合した芳香族多価カルボン酸であることが好ましい。芳香族多価カルボン酸(B)としては、具体的には、ピロメリット酸、トリメシン酸などが挙げられる。好ましくは芳香族多価カルボン酸(B)はトリメシン酸である。
【0033】
これらの芳香族多価カルボン酸のようにカルボキシル基が放射方向に結合している多価カルボン酸(B)であれば、そのカルボキシル基同士が互いに離隔していることで、4級アンモニウム塩(A)が結合し易く、安定な高分子量イオン結合体を形成することができる。
【0034】
これらの多価カルボン酸(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
<アクリル系塗料>
本発明において、塗料としては、耐候性、耐久性に優れることから、アクリル系塗料を用いる。この中で密着性、抗菌・抗ウイルス性能との両立の面からアクリル−メラミン系樹脂塗料が好ましい。
【0036】
なお、アクリル系塗料は、溶媒系塗料、水系塗料のいずれであってもよい。
【0037】
<塗料中の4級アンモニウム塩(A)及び多価カルボン酸(B)の含有割合>
本発明の抗菌・抗ウィルス性塗料において、耐水性に優れた抗菌・抗ウィルス性塗膜を形成するために、4級アンモニウム塩(A)と多価カルボン酸(B)との配合割合は、多価カルボン酸(B)のカルボキシル基の数などによっても異なるが、4級アンモニウム塩(A)とカルボン酸(B)のモル比で4級アンモニウム塩(A):多価カルボン酸(B)=1:0.01〜0.5
特に1:0.1〜0.2とすることが好ましい。上記範囲よりも4級アンモニウム塩(A)が少なく多価カルボン酸(B)が多いと、抗菌・抗ウィルス性に劣る傾向があり、逆に4級アンモニウム塩(A)が多くカルボン酸(B)が少ないと、多価カルボン酸(B)を併用することによる耐水性等の改善効果を十分に得ることができない場合がある。
【0038】
また、抗菌・抗ウィルス性塗料中の4級アンモニウム塩(A)の含有量は、過度に少ないと、形成される抗菌・抗ウィルス性塗膜の抗菌・抗ウィルス性が劣る傾向にあり、過度に多いと、塗膜性能が低下する傾向にある。このため、抗菌・抗ウィルス性塗料の4級アンモニウム塩(A)の含有量は、アクリル系塗料の固形分100重量部に対して1〜10重量部、特に4〜6重量部であることが好ましく、この4級アンモニウム塩(A)に対して、多価カルボン酸(B)を上記範囲で含むことが好ましい。
【0039】
<その他の成分>
本発明の抗菌・抗ウィルス性塗料は、アクリル系塗料中に4級アンモニウム塩(A)及び多価カルボン酸(B)を含有するものであればよく、必要に応じて4級アンモニウム塩(A)及び多価カルボン酸(B)以外の他の抗菌成分や塗膜硬化促進剤、着色剤等を含有していてもよい。
【0040】
[抗菌・抗ウィルス性塗膜の形成方法]
本発明の抗菌・抗ウィルス性塗膜の形成方法は、本発明の抗菌・抗ウィルス性塗料を抗菌・抗ウィルス処理対象面に付着させた後、加熱処理して抗菌・抗ウィルス性塗膜を形成するものである。
【0041】
本発明の抗菌・抗ウィルス性塗料を処理対象面に付着させる方法としては特に制限はなく、刷毛塗り、スプレー塗布などの塗布方法であってもよく、処理対象物を直接本発明の抗菌・抗ウィルス性塗料中に所定時間浸漬する方法であってもよい。
【0042】
抗菌・抗ウィルス性塗料を処理対象面に付着させた後の加熱処理温度が低過ぎると、4級アンモニウム塩(A)と多価カルボン酸(B)とのイオン結合による耐水性に優れた抗菌・抗ウィルス性塗膜を形成し得ず、高過ぎても逆に抗菌・抗ウィルス処理面及び処理対象物の熱劣化を引き起こす可能性があることから、この加熱温度は、用いるアクリル系塗料の種類によっても異なるが、好ましくは150〜170℃、より好ましくは155〜165℃とする。加熱時間は、加熱温度によっても異なるが、20〜40分、特に25〜35分とすることが好ましい。
【0043】
なお、上記の抗菌・抗ウィルス性塗膜の形成に先立ち、必要に応じて、処理対象面に、特許文献1に記載されるようなプライマー層や中間塗膜を形成してもよい。
【0044】
このようにして形成される本発明の抗菌・抗ウィルス性塗膜の膜厚としては特に制限はなく、この抗菌・抗ウィルス性塗膜が適用される部材の用途、下地層の有無によっても異なるが、通常10〜30μm程度とされる。この膜厚が薄過ぎると塗膜耐久性に劣るものとなり、厚過ぎると膜剥離の恐れがあり、また、用いる塗料量が多く、不経済である。
【0045】
[抗菌・抗ウィルス性部材]
本発明の抗菌・抗ウィルス性塗膜を適用し得る部材としては特に制限はなく、例えば、手摺、建具、建具のノブ、引手、手掛等の内外装建築部材;台所、洗面所、浴室、トイレ等の水栓ハンドル等の部品;文具、その他の日用品等、幅広い部材に適用することができる。また、その基材についても、金属、樹脂、木材、ガラス、セラミック等の成形部材又は加工部材とすることができ、成形部材としてアルミや樹脂の押出材、アルミや鉄の鋳造品、樹脂の射出成形品が挙げられ、加工部材としてはプレス加工品等が挙げられる。これらのうち、本発明の抗菌・抗ウィルス性塗膜は、その優れた耐水性から、台所、洗面所、浴室、トイレ等の水栓ハンドルといった、水濡れの可能性のある部材に好適に適用される。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0047】
なお、以下の実施例及び比較例において、抗菌・抗ウィルス性は、以下の方法で評価し
た。
【0048】
<抗菌性:抗菌活性値の測定>
JIS Z 2801に準拠して抗菌試験を行なった。試験対象菌はEscherichia coil(NBRC3972)とした。具体的には、試験片(5cm×5cm)を滅菌シャーレに入れ、接種用菌液0.4mLを試験品に接種し、さらに4cm角のポリプロピレンフィルムで試験片の上面を覆った。これを温度35℃、RH90%以上のデシケーターの中に置き、接触時間10分後の生菌数を下記の測定方法により測定した。また、試験片の代わりに同サイズの無加工フィルム(ABSフィルム)を用いた対照品についても同様に接種用菌液を接種し、接種直後、接触時間10分後の生菌数を試験片と同様に下記の測定方法により測定した。
(生菌数の測定方法)
ポリプロピレンフィルムと試験片をともにストマッカー用滅菌ポリ袋に入れ、SCDLP培地10mLを加え、手またはストマッカーで試験菌を洗い出した。この洗い出し液1mL中の生菌数を、SCDLP寒天培地混釈法により測定した。生菌数は、試験片1cmあたりに換算した。
下記式に従って各試験片の抗菌活性値を算出した。
抗菌活性値=対照品の10分後生菌数対数値−試験片の10分後の生菌数対数値
抗菌活性値3.0以上を抗菌性に非常に優れる(◎)とし、抗菌活性値3.0未満2.0以上を抗菌性に優れる(○)とし、抗菌活性値2.0未満を抗菌性に劣る(×)と評価した。
【0049】
<抗ウィルス性:ウィルス不活化率の測定>
抗菌試験法(JIS Z 2801)に準拠して抗ウイルス試験を行なった。サンプルを保湿シャーレに入れ、供試ウイルス液0.2mLを試験片に接種し、ポリプロピレンフィルムで上面をカバーし、供試ウイルスと試験片との接触効率を高め、室温にて20分間作用させた。作用後、試験片をスチロールケースに入れ、リン酸緩衝生理食塩水10mLを加え、3分間振とうしてウイルスを誘出した。この液をウイルス感染価測定用試料の原液として用いた。ウイルス感染価測定用試料原液をリン酸緩衝生理食塩水で10倍段階希釈した後、測定用試料原液または希釈ウイルス液50μLと5%ウシ胎児血清を含むDulbecco’s modified Eagle’s Medium(DMEM)に懸濁したMadin−Darby canine kidney(MDCK)細胞50μLを96ウェルプレートに植え込み、炭酸ガスふ卵器で4日間培養を行った。培養後、顕微鏡下で細胞変性効果を確認し、Reed‐Muench法を用いてウイルス感染価試験を行ない、その対数減少率をウィルス不活化率として求めた。
ウィルス不活化率99%以上を抗ウィルス性に優れるとし、99%未満を抗ウィルス性に劣る(×)と評価した。
【0050】
[実施例1〜5、比較例1,2、参考例1,2]
表1に示す4級アンモニウム塩と、表1に示すカルボン酸とをそれぞれ表1に示す割合で、アクリル−メラミン系樹脂塗料(関西ペイント社製溶媒系塗料「マジクロン1000」)又はアクリル−ウレタン系樹脂塗料(関西ペイント社製アクリルウレタン系塗料「レタンPG80」)に配合し(ただし、参考例1及び比較例1ではカルボン酸を配合せず)、得られた塗料を亜鉛ダイキャスト部品にスプレー塗布した後、アクリル−メラミン系樹脂塗料は160℃、アクリル−ウレタン系樹脂塗料は80℃で30分間焼成して、各々膜厚20μmの塗膜を形成した。
各々のサンプルを25℃の水中に16時間浸漬する耐水試験を行った後、前述の抗菌性と抗ウィルス性の評価を行い、結果を表1に示した。表1中、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライドは「ODTMAC」と略記し、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライドは「HDTMAC」と略記する。
【0051】
なお、参考例1は、耐水試験を行っていないサンプルの抗菌・抗ウィルス性を示すものである。
【0052】
【表1】
【0053】
表1より明らかなように、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド又はヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライドと共に特定の多価カルボン酸を併用することにより、抗菌・抗ウィルス性塗膜の耐水性を高めることができ、特に多価カルボン酸としてトリメシン酸を用いた場合には、耐水試験後の抗菌・抗ウィルス性に優れることが分かる。なお、実施例4の結果から、多価カルボン酸の添加量が多過ぎると抗菌性が若干低下することが分かる。また、参考例2から、塗料としては、アクリル−ウレタン系樹脂塗料よりもアクリル−メラミン系樹脂塗料が好ましいことが分かる。