特許第6154283号(P6154283)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6154283
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】サーミスタ素子および温度センサ
(51)【国際特許分類】
   C03C 10/04 20060101AFI20170619BHJP
   C03C 10/06 20060101ALI20170619BHJP
   C04B 35/44 20060101ALI20170619BHJP
   C04B 41/86 20060101ALI20170619BHJP
   H01C 7/04 20060101ALI20170619BHJP
   G01K 7/22 20060101ALI20170619BHJP
【FI】
   C03C10/04
   C03C10/06
   C04B35/44
   C04B41/86 T
   H01C7/04
   G01K7/22 N
【請求項の数】8
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2013-215640(P2013-215640)
(22)【出願日】2013年10月16日
(65)【公開番号】特開2015-78089(P2015-78089A)
(43)【公開日】2015年4月23日
【審査請求日】2016年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 諭
(72)【発明者】
【氏名】山口 朋紀
(72)【発明者】
【氏名】坂 慎二
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 洋史
(72)【発明者】
【氏名】沖村 康之
【審査官】 右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−060404(JP,A)
【文献】 特開2009−182250(JP,A)
【文献】 特開2009−170555(JP,A)
【文献】 特開2011−232332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 10/04
C03C 10/06
C04B 35/44
C04B 41/86
G01K 7/22
H01C 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーミスタ組成物からなるサーミスタ部と、前記サーミスタ部を被覆する被覆層と、を備えるサーミスタ素子であって、
前記被覆層は、少なくともSiO 、BaO、及びAlを含み、SiOについては前記被覆層の合計モル数に対して45〜75モル%であり、Alについては前記被覆層の合計モル数に対して2〜10モル%であり、BaOについては前記被覆層の合計モル数に対して20〜40モル%であり、SiO、BaO、及びAlの合計が90モル%〜100モル%になるように選択される含有割合で含有し、Bについては前記被覆層の合計モル数に対して0.1モル%以下であり、
前記被覆層は、結晶化度70%以上の結晶化ガラスであること、
を特徴とするサーミスタ素子。
【請求項2】
前記被覆層は、ZrO を含有しており、ZrOについては前記被覆層の合計モル数に対して0モル%より大きく10モル%以下であること、
を特徴とする請求項1に記載のサーミスタ素子。
【請求項3】
前記被覆層は、結晶相がBaSi(斜方晶)、BaSi10(単斜晶)、BaAlSiの中から選ばれる少なくとも一つ以上の結晶相を含有すること、
を特徴とする請求項1または請求項2に記載のサーミスタ素子。
【請求項4】
前記サーミスタ部は、ABO(但し、AはSr及び/又はYを含み、BはAlを含む。)で示されるペロブスカイト相を含むこと、
を特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載のサーミスタ素子。
【請求項5】
前記ABOにおけるBが更にCr、Mn及びFeの内の少なくとも一種を含むこと、
を特徴とする請求項4に記載のサーミスタ素子。
【請求項6】
前記サーミスタ部は、このサーミスタ部に含まれるペロブスカイト相よりも低導電性であって、前記ペロブスカイト相を形成する金属元素から選択される少なくとも一種の金属元素をMeとする場合に、組成式MeOxで表記される金属酸化物の少なくとも一種を含有する金属酸化物相を含有すること、
を特徴とする請求項4または請求項5に記載のサーミスタ素子。
【請求項7】
前記金属酸化物相に含まれる酸化物が、SrAlであること、
を特徴とする請求項6に記載のサーミスタ素子。
【請求項8】
請求項1〜7のうちいずれか一項に記載のサーミスタ素子を有する温度センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーミスタ組成物からなるサーミスタ部とサーミスタ部を被覆する被覆層とを備えるサーミスタ素子、およびこのようなサーミスタ素子を有する温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サーミスタ組成物からなるサーミスタ部と、サーミスタ部を被覆する被覆層と、を備えるサーミスタ素子が知られている。また、このようなサーミスタ素子を有する温度センサが知られている。
【0003】
サーミスタ素子の被覆層は、サーミスタ部が還元されて抵抗特性が変化するのを抑制するために備えられており、例えば、結晶化ガラスで形成されたものがある(特許文献1,特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−170555号公報
【特許文献2】特開2009−182250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、被覆層における結晶化ガラスの結晶化度が低い場合、被覆層の非晶質相とサーミスタ部とが反応することにより、サーミスタ部の抵抗特性が変化してしまい、サーミスタ素子の温度検出精度が低下する可能性がある。
【0006】
また、サーミスタ素子が、900℃等の高温域に長時間曝され続けると、被覆層における結晶化ガラスの結晶相や結晶化度が変化する可能性がある。つまり、結晶相の変化(非晶相から結晶化する場合も含む)は、体積変化を伴う場合があり、高温下での使用により結晶相が変化すると、サーミスタ部と被覆層の間にかかる応力の変化や電極の剥離などによって、サーミスタ部の抵抗特性が変化する可能性がある。
【0007】
さらに、高温下での使用により、クラックの発生によって被覆層の機械的強度が低下すると、被覆層によるサーミスタ部の還元抑制の効果を維持できなくなる可能性がある。
これらのことから、被覆層に結晶化ガラスを用いても、高温下で長時間使用する場合においては、サーミスタ部の抵抗特性が変動して、サーミスタ素子の温度検出精度が低下する可能性がある。
【0008】
本発明は、900℃の温度に長時間曝されても、サーミスタ部の抵抗特性の変動を抑制でき、温度検出精度の低下を抑制できるサーミスタ素子を提供すること、およびこのようなサーミスタ素子を用いた温度センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、サーミスタ組成物からなるサーミスタ部と、サーミスタ部を被覆する被覆層と、を備えるサーミスタ素子であって、被覆層は、少なくともSiO、BaO、及びAlを含み、SiO については被覆層の合計モル数に対して45〜75モル%であり、Alについては被覆層の合計モル数に対して2〜10モル%であり、BaOについては被覆層の合計モル数に対して20〜40モル%であり、SiO、BaO、及びAlの合計が90モル%〜100モル%になるように選択される含有割合で含有し、Bについては被覆層の合計モル数に対して0.1モル%以下であり、被覆層は、結晶化度70%以上の結晶化ガラスであること、を特徴とするサーミスタ素子である。
【0010】
被覆層は、上記の組成を有することで、被覆層の製造時の焼付温度が比較的低温(例えば、1100℃以下)であっても、緻密な結晶化ガラスとして形成される。このように、緻密な結晶化ガラスとしての被覆層を備えることで、サーミスタ部および被覆層の組成変動が生じ難く、サーミスタ部の抵抗値及び、その特性の変動が生じにくくなる。
【0011】
被覆層におけるSiO の含有量を前記下限値以上に設定することで、ガラスの軟化温度が高くなり、被覆層の耐熱性が向上する。被覆層におけるSiOの含有量を前記上限値以下に設定することで、ガラスが軟化し易くなり流動性が良好となるため、被覆作業が容易になるという利点がある。
【0012】
被覆層におけるAlの含有量を前記下限値以上に設定することで、ガラスの失透が生じがたくなり、被覆層の形成が容易となる。つまり、失透が生じると被覆層中に空隙が生じて十分な被覆層を形成できず、このような場合、サーミスタ部の密閉性を確保できない虞があるが、被覆層におけるAlの含有量を前記下限値以上に設定することで、失透に起因した不具合の発生を抑制できる。
【0013】
被覆層におけるAlの含有量を前記上限値以下に設定することで、被覆層とサーミスタ部とが反応し難くなり、サーミスタ部の抵抗特性が変化し難くなる。
被覆層におけるBaOの含有量を前記下限値以上に設定することで、熱膨張率が小さくなりすぎないため、サーミスタ部との熱膨張率の差が生じ難くなり、被覆層に割れ等を生じ難くなる。被覆層におけるBaOの含有量を前記上限値以下に設定することで、被覆層の耐熱性が良好となる。
【0014】
被覆層におけるBの含有量を前記上限値以下に設定することで、サーミスタ部が長時間に亘って高温に曝されても、被覆層を形成する成分がサーミスタ部へ移動し難くなるため、サーミスタ部における組成変動が生じにくくなる。このため、本発明のサーミスタ素子は、被覆層とサーミスタ部とが反応し難くなり、サーミスタ部の抵抗特性(電気的特性)が変化し難くなる。
【0015】
被覆層が結晶化度70%以上の結晶化ガラスであることから、サーミスタ素子が高温に長時間曝されても、被覆層の成分がサーミスタ部へ移動し難いため、サーミスタ部の組成変動が少なくなり、サーミスタ部の抵抗特性が変化し難くなる。
【0016】
また、被覆層が結晶化度70%以上の結晶化ガラスであることから、結晶相の変化に伴う被覆層の体積変化が少なくなるため、サーミスタ部と被覆層の間にかかる応力の変化や電極の剥離などが生じ難くなり、サーミスタ部の抵抗特性が変化し難くなる。
【0017】
よって、本発明のサーミスタ素子によれば、900℃の温度に長時間曝されても、サーミスタ部の抵抗特性の変動を抑制でき、温度検出精度の低下を抑制できる。
上述のサーミスタ素子においては、被覆層は、Bを無含有である、という構成を採ることができる。
【0018】
これにより、より一層、サーミスタ部が長時間に亘って高温に曝されても、被覆層を形成する成分がサーミスタ部へ移動し難くなるため、サーミスタ部における組成変動が生じにくくなる。このため、本発明のサーミスタ素子は、より一層、被覆層とサーミスタ部とが反応し難くなり、サーミスタ部の抵抗特性(電気的特性)が変化し難くなる。
【0019】
なお、「無含有である」とは、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析によってもBが検出ないし同定できないことを意味する。
上述のサーミスタ素子においては、被覆層は、ZrOを含有しており、ZrO については被覆層の合計モル数に対して0モル%より大きく10モル%以下である、という構成を採ることができる。
【0020】
被覆層は、ジルコニア(ZrO )を含有することで、結晶相が析出しやすくなる。
また、ジルコニアの含有量が過剰になると、失透が生じやすくなるため、ジルコニアの上限値を定めることで失透を抑制できる。
【0021】
よって、本発明のサーミスタ素子によれば、被覆層の結晶化度を高めることができるとともに、失透に起因する不具合を抑制できるため、より一層、サーミスタ部の抵抗特性の変動を抑制でき、温度検出精度の低下を抑制できる。
【0022】
なお、ZrOについては被覆層の合計モル数に対して0.1モル%以上とすることで、結晶相が十分に析出しやすくなるため、好ましい。
上述のサーミスタ素子においては、被覆層は、結晶相がBaSi(斜方晶)、BaSi10(単斜晶)、BaAlSiの中から選ばれる少なくとも一つ以上の結晶相を含有する、という構成を採ることができる。
【0023】
このような構成の被覆層は、900℃に長時間曝されても結晶相が変化し難い結晶相である。
つまり、結晶相の変化に伴う被覆層の体積変化が少なくなるため、サーミスタ部と被覆層の間にかかる応力の変化や電極の剥離などが生じ難くなり、サーミスタ部の抵抗特性が変化し難くなる。
【0024】
なお、上述のサーミスタ素子においてはさらに、被覆層は、BaSi21の結晶相を無含有とする、という構成を採ることができる。
BaSi21の結晶相は、900℃に長時間曝されたときに結晶相の変化に伴う被覆層の体積変化を引き起こすおそれがあるため、当該結晶相を無含有とすることがより好ましい。
【0025】
よって、本発明のサーミスタ素子によれば、900℃の温度に長時間曝されても、サーミスタ部の抵抗特性の変動を抑制でき、温度検出精度の低下を抑制できる。
上述のサーミスタ素子においては、サーミスタ部は、ABO(但し、AはSr及び/又はYを含み、BはAlを含む。)で示されるペロブスカイト相を含む、という構成を採ることができる。
【0026】
このようなサーミスタ部を備えたサーミスタ素子は、低温領域から600℃を超える高温度領域までに亘る広い温度範囲における温度検知が可能となる。
上述のサーミスタ素子においては、サーミスタ部は、前記ABOにおけるBが更にCr、Mn及びFeの内の少なくとも一種を含む、という構成を採ることができる。
【0027】
このようなサーミスタ部を備えたサーミスタ素子は、さらに好適に且つ長期間安定して、低温領域から600℃を超える高温度領域までに亘る広い温度範囲における温度検知をすることができる。
【0028】
上述のサーミスタ素子においては、サーミスタ部は、このサーミスタ部に含まれるペロブスカイト相よりも低導電性であって、ペロブスカイト相を形成する金属元素から選択される少なくとも一種の金属元素をMeとする場合に、組成式MeOxで表記される金属酸化物の少なくとも一種を含有する金属酸化物相を含有する、という構成を採ることができる。
【0029】
つまり、このサーミスタ素子に備えられるサーミスタ部は、自身に含まれる導電性ペロブスカイト相よりも低導電性の金属酸化物(MeOx)を含有する金属酸化物相を有する。そして、その金属酸化物の含有量を調整することにより、検知対象とする温度範囲における温度勾配係数(B定数)を維持しつつ、サーミスタ素子の抵抗値を所望の値にシフトさせることができる。
【0030】
上述のサーミスタ素子においては、金属酸化物相に含まれる金属酸化物がSrAlである、という構成を採ることができる。
金属酸化物相に含まれる金属酸化物がSrAlであると、このサーミスタ素子を高温下で使用する場合には、サーミスタ部における金属酸化物相とペロブスカイト相との反応が困難になる。
【0031】
これにより、サーミスタ部の抵抗特性が変動し難くなり、サーミスタ素子としての温度検出精度の低下を抑制できる。
上記目的を達成するための本発明の温度センサは、上述のいずれかのサーミスタ素子を有する。
【0032】
この温度センサは、上記のように優れた作用を奏するサーミスタ素子を有することから、900℃の温度に長時間曝されても、サーミスタ部の抵抗特性の変動を抑制でき、温度検出精度の低下を抑制できる。
【発明の効果】
【0033】
本発明のサーミスタ素子および温度センサによれば、900℃の温度に長時間曝されても、サーミスタ部の抵抗特性の変動を抑制でき、温度検出精度の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】温度センサの内部構成を表す部分破断断面図である。
図2】サーミスタ素子の内部構造を表す断面図である。
図3図2のサーミスタ素子におけるA−A視断面における断面図である。
図4】実施例1の耐久前(初期)における被覆層のX線回折図である。
図5】実施例2の耐久前(初期)における被覆層のX線回折図である。
図6】実施例3の耐久前(初期)における被覆層のX線回折図である。
図7】比較例1の耐久前(初期)における被覆層のX線回折図である。
図8】実施例1の耐久後における被覆層のX線回折図である。
図9】実施例2の耐久後における被覆層のX線回折図である。
図10】実施例3の耐久後における被覆層のX線回折図である。
図11】比較例1の耐久後における被覆層のX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
尚、本発明は、以下の実施形態(実施例)に何ら限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採り得ることはいうまでもない。
【0036】
[1.第1実施形態]
[1−1.全体構成]
本実施形態のサーミスタ素子21を備える温度センサ1の全体の構成について、図1に基づいて説明する。図1は、温度センサの内部構成を表す部分破断断面図である。
【0037】
温度センサ1は、感温素子としてサーミスタ素子21を備えている。温度センサ1は、自動車の排気管の取付部に装着され、サーミスタ素子21を排気ガスの流れる排気管内に配置することで排気ガスの温度を検出する。
【0038】
温度センサ1は、一対の金属製のシース芯線3(電極線3)を筒状部材5の内側にて絶縁保持したシース部材7と、先端側が閉塞した軸線方向に延びる筒状の金属チューブ9(ハウジング9)と、金属チューブ9を支持する取付部材11と、六角ナット部13およびネジ部15を有するナット部材17と、取付部材11の後端側に内嵌する外筒19と、を備えている。
【0039】
なお、軸線方向とは、温度センサ1の長手方向であり、図1においては図の上下方向に相当する。また、温度センサ1における先端側は図における下側であり、温度センサ1における後端側は図における上側である。
【0040】
この温度センサ1は、金属チューブ9の先端側の内部に、温度に応じて電気的特性が変化する感温素子としてのサーミスタ素子21を備える。なお、サーミスタ素子21の詳細については、後述する。
【0041】
シース芯線3は、先端部が例えばレーザ溶接によりサーミスタ素子21のリード部25と接続されており、後端部が例えば抵抗溶接により加締め端子27と接続されている。これにより、シース芯線3は、自身の後端側が加締め端子27を介して外部回路(例えば、車両の電子制御装置(ECU)等)接続用の外部リード線29と接続されている。
【0042】
なお、一対のシース芯線3および一対の加締め端子27は、絶縁チューブ31により互いに絶縁され、外部リード線29は、導線を絶縁性の被覆材にて被覆され耐熱ゴム製のグロメット33の内部を貫通する状態で配置される。
【0043】
シース部材7は、金属製の筒状部材5と、導電性金属からなる一対のシース芯線3と、を備える。なお、シース部材7は、筒状部材5と2本のシース芯線3との間に充填されるシリカ等の絶縁粉末(図示省略)を備える。この絶縁粉末は、筒状部材5と2本のシース芯線3との間を電気的に絶縁するとともに、シース芯線3を保持するために備えられる。
【0044】
取付部材11は、径方向外側に突出する突出部35と、突出部35の後端側に位置すると共に軸線方向に延びる後端側鞘部37と、を有している。この取付部材11は、金属チューブ9の後端側の外周面を取り囲んで金属チューブ9を支持する。
【0045】
金属チューブ9は、耐腐食性金属(例えば、耐熱性金属でもあるSUS310Sなどのステンレス合金)からなり、鋼板の深絞り加工によりチューブ先端側が閉塞した軸線方向に延びる筒状をなし、筒状のチューブ後端側が開放した形態で構成されている。
【0046】
この金属チューブ9は、径が小さく設定された先端側の小径部41と、径が小径部41よりも大きく設定された後端側の大径部43と、小径部41と大径部43との間の段差部45と、を備えている。
【0047】
また、金属チューブ9の内部には、サーミスタ素子21およびセメント39が充填されている。セメント39は、サーミスタ素子21の周囲に充填されることで、サーミスタ素子21の揺動を防止している。なお、セメント39は、非晶質のシリカにアルミナ骨材を含有した絶縁材で形成されている。
【0048】
さらに、サーミスタ素子21のリード部25の後端側とシース芯線3の先端側とは、レーザ溶接によって一体に接合されている。
そして、このような構成の温度センサ1は、例えば、排気管に設けられたセンサ取付部にネジ部15が螺合固定されて、自身の先端が排気管の内部に配置されることで、測定対象ガスの温度を検出する。
【0049】
[1−2.サーミスタ素子]
次に、サーミスタ素子21について説明する。
図2は、サーミスタ素子21の内部構造を表す断面図であり、図3は、図2のサーミスタ素子21におけるA−A視断面における断面図である。
【0050】
図2および図3に示すように、サーミスタ素子21は、サーミスタ部22と、一対の電極部24と、一対のリード部25と、被覆層26と、を備える。
サーミスタ部22は、温度によって電気的特性(電気抵抗値)が変化する導電性酸化物焼結体を主体に形成されている。サーミスタ部22は、四角柱形状に形成されている。
【0051】
一対の電極部24は、サーミスタ部22の上面および下面に形成されている。
一対のリード部25は、それぞれの一端が電極部24に接続されることで、サーミスタ部22と電気的に接続されている。
【0052】
被覆層26は、サーミスタ部22の全体を覆うとともに、リード部25の一部を覆うように形成されており、その外観は円筒形状である。
[1−3.サーミスタ部]
サーミスタ部22は、導電性であり、ペロブスカイト型結晶構造を有するペロブスカイト相を含有する。好適なペロブスカイト相としては、組成式(M1M2)(M3M4)Oの値a、b、c、d、eが、下記の条件式を満たす導電性のペロブスカイト相を挙げることができる。
【0053】
0≦a≦0.400
0.600≦b≦1.000
0.200≦c≦0.600
0.400≦d≦0.800
2.80≦e≦3.30
前記組成式において、M1はペロブスカイト相のAサイトに位置する第2族元素のうち少なくとも1種の元素を示し、M2はペロブスカイト相のAサイトに位置する、Laを除く第3族元素のうち少なくとも1種の元素を示し、M3は第4族、第5族、第6族、第7族、第8族、第9族、第10族、第11族及び第12族元素のうち少なくとも1種の元素を示し、M4は第13族元素のうち少なくとも1種の元素を示す。なお、この発明において、「周期律表」は「無機化学命名法 −IUPAC1990年勧告−、G.J.LEIGH編、山崎一雄訳・著」に記載された周期律表に従う。なお、値eについては、蛍光X線分析を用いたM1、M2、M3、M4の各元素の組成比から、e=2.80〜3.30の範囲内にあるか否かを確認することができる。
【0054】
この発明におけるサーミスタ部に含まれる更に好適なペロブスカイト相は、組成式SrFec1Mnc2Crc3Alで示すことができる。この組成式における値a、b、c1、c2、c3、d、eが、下記の条件式を満たす。なお、Fe、Mn、Crについてはそれらの少なくとも1種が含有されればよく、全ての元素が必須ではない。また、この発明におけるより一層好適なサーミスタ部は、前記組成式で示される導電性のペロブスカイト相と、このペロブスカイト相よりも導電性の低い金属酸化物相例えばSrAlとからなる。
【0055】
0≦a≦0.400
0.600≦b≦1
0.200≦(c1+c2+c3)≦0.600
0≦c3/(c1+c2+c3)≦0.18
0.400≦d≦0.800
2.80≦e≦3.30
なお、値eについては、蛍光X線分析を用いたY、Sr、Fe、Mn、Al、Cr、Oの各元素の組成比と、後述する方法で算出した面積分率、または、粉末X線回折分析により同定した結晶相の存否及び存在比から、e=2.80〜3.30の範囲内にあるか否かを確認することができる。この発明においては、具体的には、ペロブスカイト相と金属酸化物相例えばSrAlの存在比とを特定し、各金属元素の量をペロブスカイト相と金属酸化物相とに振り分ける。ついで、金属酸化物相(SrAl)に含まれるOの数が4であると定めた上で、つまり、SrAlについては、酸素の欠損はないとして、金属酸化物相に用いられているOの量を算出することで、ペロブスカイト相におけるOの数eを算出することができる。
【0056】
また、サーミスタ部が上記ペロブスカイト相及び上記金属酸化物相のそれぞれを含む場合、当該サーミスタ部の断面積Sに対するペロブスカイト相の総面積PS占める割合(面積分率)については、サーミスタ素子の抵抗値の調整の観点から、0.20≦SP/S≦0.80とすることが好ましい。なお、ここでいう面積分率は、次のようにして算出することができる。まず、サーミスタ部又はサーミスタ部と同じ組成の焼結体を樹脂に埋め込み、3μmのダイヤペーストを用いたバフ研磨処理を行って断面を研磨した試料を作製する。その後、走査型電子顕微鏡(JEOL社製 商品名:JSM−6460LA)により、断面を倍率3000倍で写真撮影する。撮影した組織写真のうち、40μm×30μmの視野を画像解析装置にて解析し、視野(断面積S)に対するペロブスカイト相の総面積SPの占める割合(面積分率)SP/Sを求めることができる。
【0057】
また、サーミスタ部を形成するペロブスカイト相は、一般式ABO3で示すこともできる。前記ペロブスカイト相におけるAサイト及びBサイトを占める元素を適切に選択すると、このサーミスタ部は、適度の導電性を有し、低温度例えば−40℃〜600℃を超える高温度までの温度領域において温度を検知することができるようになる。この発明において好適なサーミスタ部を形成する好適なペロブスカイト相は、そのAサイトがSr及び/又はYを含み、BサイトはAlを含む。サーミスタ部がこのようなペロブスカイト型結晶構造を有するペロブスカイト相を含有すると、例えば−40℃から例えば1000℃までの温度領域において温度を検知することができる。更に好適なペロブスカイト相は、そのAサイトがSr及び/又はYを含み、BサイトはAlと、Cr、Mn及びFeから選択される少なくとも一種の元素を含む。BサイトにAlとその他の前記特定の元素とが存在するペロブスカイト型結晶構造を有するペロブスカイト相を含有するサーミスタ部を備える温度センサは、低温度領域例えば−40℃から高温度領域例えば1000℃までの広範囲な温度領域における温度の検知をすることができる。
【0058】
この発明における好適なサーミスタ部は、組成式中のa、b、c、d、eが上記条件式を満たし、ペロブスカイト型結晶構造を有する導電性のペロブスカイト相と、上記ペロブスカイト相よりも導電性が低く、上記ペロブスカイト相を構成する金属元素から選択された少なくとも1種の金属元素をMeとしたとき、組成式MeOxで表記される結晶構造を有する少なくとも1種の金属酸化物相と、を含む導電性酸化物焼結体である。
【0059】
この金属酸化物相は、サーミスタ部における前記導電性ペロブスカイト相に含まれる金属元素から選択される少なくとも一種の金属元素の酸化物(組成式MeOx)を含有する。この金属元素は、サーミスタ部におけるペロブスカイト相に含まれる金属元素と同じ種類の金属元素である。金属酸化物相を形成する金属酸化物は、複酸化物であってもよい。金属酸化物相を形成する金属酸化物としては、例えばペロブスカイト相が(Y,Sr)(Mn,Al,Cr)Oで示されるときには組成式SrY、SrY、SrAl、YAlO、YAl12を挙げることができ、これらの中でもSrAlが金属酸化物相を形成する金属酸化物として好適である。この金属酸化物相がSrAlを含んでいると、高温下にこのサーミスタ素子が曝されても、ペロブスカイト相にSr及び/又はAlが移行してこれらがペロブスカイト相と反応することがなく、したがって、サーミスタ部の温度による特性変化が抑制される。
【0060】
本実施形態におけるサーミスタ部22は、以下のようにして製造することができる。
先ず、導電性ペロブスカイト相を含む仮焼粉末を調製する。導電性ペロブスカイト相を含む仮焼粉末を調製する際の原料としては、ペロブスカイト相を組成式M1M2M3M4としたときのa、b、c、d、eが前記した範囲内にあるように、M1、M2,M3、M4の炭酸塩又は酸化物が好適例として挙げられる。なお、元素M1としては周期律表第2族の元素即ちMg、Ca、Sr、Baから選択される少なくとも1種以上の元素が挙げられ、Mg、Ca、及びSrから選ばれる1種またはそれ以上の元素が好適であり、元素M2としてはLaを除く第3族の元素即ちY、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Yb、Scから選択される少なくとも1種以上の元素が挙げられ、Y、Nd、及びYbから選ばれる1種またはそれ以上の元素が好適であり、元素M3としては周期律表第4族、第5族、第6族、第7族、第8族、第9族、第10族、第11族、第12族の元素即ちTi、Zr、Hf(以上、第4族)、V、Nb、Ta(以上、第5族)、Cr、Mo、W(以上、第6族)、Mn(第7族)、Fe(第8族)、Co(第9族)、Ni(第10族)、Cu(第11族)並びにZn(第12族)から選択される少なくとも1種以上の元素が挙げられ、Mn、Fe及びCrから選ばれる1種またはそれ以上の元素が好適である。また、元素M4としては周期律表第13族の元素即ちAl、Ga、Inから選択される少なくとも1種以上の元素が挙げられ、Al及びGaから選ばれる1種またはそれ以上の元素が好適である。より具体的には、前記原料として、SrCO、Y、Nd、Yb、MgO、CaCO、Cr、MnO、Fe、Al、Ga等を挙げることができる。なお、これら原料は、99%以上の純度を有する市販品を使用することができる。
【0061】
これら原料が混合され、湿式混合のときには更に乾燥されて原料粉末混合物が得られる。この原料粉末混合物は、仮焼され、平均粒径が例えば1〜2μmである仮焼粉末(導電性ペロブスカイト相用の仮焼粉末)に調製される。前記仮焼を行う仮焼温度として、通常の場合、1000〜1500℃を挙げることができ、その仮焼温度で仮焼する時間としては、通常の場合、1〜10時間を挙げることができる。
【0062】
また、金属酸化物相(MeOx)が含まれる場合は、金属酸化物相を含む仮焼粉末を調製する際の原料としては、Meの炭酸塩又は酸化物が好適例として挙げられる。なお、元素MeとしてはY、Sr、Alから選ばれる1種またはそれ以上の元素が好適であり、具体的には、前記原料として、Y、SrCO、Al等を挙げることができる。
【0063】
これら原料が混合され、湿式混合のときには更に乾燥されて原料粉末混合物が得られる。この原料粉末混合物は、仮焼され、平均粒径が例えば1〜2μmである仮焼粉末(金属酸化物相用の仮焼粉末)に調製される。前記仮焼を行う仮焼温度として、通常の場合、1000〜1500℃を挙げることができ、その仮焼温度で仮焼する時間としては、通常の場合、1〜10時間を挙げることができる。
【0064】
次に、上述の導電性ペロブスカイト相用の仮焼粉末と金属酸化物相用の仮焼粉末とを秤量し、これらの仮焼粉末を樹脂ポットと高純度Al球石とを用いて、エタノールを分散媒として、湿式混合粉砕を行う。次いで、得られたスラリーを80℃で2時間乾燥し、サーミスタ合成粉末を得る。
【0065】
次に、サーミスタ合成粉末100重量部に対し、ポリビニルブチラールを主成分とするバインダーを20重量部添加して混合、乾燥する。さらに、250μmメッシュの篩を通して造粒し、造粒粉末を得る。バインダーとしては、ポリビニルブチラールの他に、例えばポリビニルアルコール、アクリル系バインダー等のポリマーを挙げることができ、このようなポリマー以外にもこの技術分野において使用される公知のバインダーを使用することができる。
【0066】
次いで、上述の造粒粉末を、金型成型法により円板形状に成型し、冷間静水圧プレス(プレス圧:1500kg/cm)によって、円板型の未焼成サーミスタ部成形体を得る。
【0067】
その後に、この未焼成サーミスタ部成形体を、例えば大気雰囲気中で、1400〜1600℃で3時間焼成する。得られた焼結体の上下面を研削・研磨して0.35mmの厚さにすることによって円板形状のサーミスタウエハーを作製する。
【0068】
このサーミスタウエハーの特性を安定化させるために、900℃で50時間アニールする。アニール後のサーミスタウエハーの上下面にPtペーストを15μm程度の厚さに厚膜印刷し、乾燥した後に1200℃で4時間焼き付けることにより、電極部24を形成する。
【0069】
次いで、両面に電極部24が焼き付けられたサーミスタウエハーをダイシングマシンにて0.5mm四方にカットする。カットされたチップ状のサーミスタ部22の一対の電極部24に上記と同様のPtペーストを塗布し、直径0.3mmの断面形状を有するPt−Rh合金製のリード部25を貼り付け、1200℃で4時間焼き付けることにより、電極部24を介してサーミスタ部22とリード部25とを接合する。
【0070】
これにより、図2および図3に示す構造のサーミスタ素子21のうち被覆層26を除いた構成(サーミスタ部22、一対の電極部24、一対のリード部25)を得る。
[1−4.被覆層]
次に、サーミスタ素子21の被覆層26について説明する。
【0071】
被覆層26は、少なくともSiO 、BaO、及びAlを含んで構成される結晶化ガラスである。このうち、SiOについては被覆層26の合計モル数に対して45〜75モル%であり、Alについては被覆層26の合計モル数に対して2〜10モル%であり、BaOについては被覆層26の合計モル数に対して20〜40モル%である。また、被覆層26は、SiO、BaO、及びAlの合計が90モル%〜100モル%になるように選択される含有割合で含有しており、Bについては被覆層26の合計モル数に対して0.1モル%以下である。さらに、被覆層26は、結晶化度70%以上の結晶化ガラスである。
【0072】
また、被覆層26は、ZrO を含有しており、ZrOについては被覆層26の合計モル数に対して0モル%より大きく10モル%以下である。
なお、本発明では、被覆層26が必ずしもZrOを含有する必要はなく、後述する実施例6のように、ZrO を含有していない被覆層を備えても良い。
【0073】
被覆層26は、次のようにしてサーミスタ部22を覆う形態で形成される。
まず、被覆層26を形成するためのガラス粉末を以下のようにして調整する。
即ち、原料粉末として、所定成分(SiO、BaO、Al、ZrO など)がそれぞれ所定割合で含まれる結晶化ガラス粉末100重量部に対し、ポバールを主成分とするバインダーを5重量部添加する。これらを樹脂ポットと高純度Al球石とを用い、水を分散媒として、湿式混合粉砕を行う。次いで得られたスラリーを、スプレードライによって乾燥・造粒することで、ガラス粉末を得る。
【0074】
次に、上述のサーミスタ部22とともに、被覆層26を形成するための上述のガラス粉末を用いて金型成型法にてプレス成型し、図2および図3に示すような円筒形状の未焼成被覆層を形成する。
【0075】
次いで、これを所定の条件で焼付することにより、サーミスタ部22を被覆する所定のな被覆層26を有するサーミスタ素子21が得られる。
[1−5.比較測定]
本発明のサーミスタ素子の効果を確認するために実施した比較測定について説明する。
【0076】
具体的には、本発明のサーミスタ素子21である実施例1〜8と、比較対象のサーミスタ素子である比較例1〜7とについて、大気中で900℃にて500時間保持する耐久前と耐久後とにおいて、それぞれの結晶相の結晶化度の変化と、サーミスタ素子の抵抗値変化とを測定した。
【0077】
本比較測定に用いた実施例1〜8、比較例1〜7は、いずれもサーミスタ部22が[表1]に示す導電性ペロブスカイト相および金属酸化物相を備えて構成されている。
【0078】
【表1】
なお、このサーミスタ素子21について、以下のようにしてB定数(温度勾配定数)を測定した。すなわち、まず、サーミスタ部22を、絶対温度T(100)=373K(=100℃)の環境下に放置し、その状態でのサーミスタ部22の初期抵抗値R(100)を測定した。ついで、サーミスタ部22を、絶対温度T(300)=573K(=300℃)の環境下に放置し、その状態でのサーミスタ部22の初期抵抗値R(300)を測定した。同様に、R(600)及びR(900)についても測定した。
【0079】
そして、B定数:B(100−900)を、[数1]に従って算出した。初期抵抗値R(100)、R(300)、R(600)、R(900)及びB定数:B(100−900)を[表1]に示す。
【0080】
【数1】
本比較測定の実施例1〜8、比較例1〜7は、被覆層が[表2]に示す12種類のガラス組成のうちいずれかで構成されている。
【0081】
【表2】
本比較測定の実施例1〜8、比較例1〜7のそれぞれについて、ガラス組成、被覆層焼付条件を、[表3]に示す。
【0082】
【表3】
ここで、大気中で900℃にて500時間保持する耐久前と耐久後とにおける被覆層の結晶相の変化を確認するために、実施例1〜3及び比較例1におけるサーミスタ素子21における被覆層26のX線回折を実施した。
【0083】
耐久前における被覆層のX線回折図を図4図7に示し、耐久後における被覆層のX線回折図を図8図11に示す。
図4および図8によれば、実施例1では、耐久前(初期)および耐久後のいずれも、被覆層26が結晶相としてBaSi(斜方晶)を含むことが判る。
【0084】
図5および図9によれば、実施例2では、耐久前(初期)および耐久後のいずれも、被覆層26が結晶相としてBaSi10(単斜晶)を含むことが判る。また、実施例2では、耐久後の被覆層26は結晶相としてBaSi(斜方晶)を含んでいる。
【0085】
図6および図10によれば、実施例3では、耐久前(初期)および耐久後のいずれも、被覆層26が結晶相としてBaSi10(単斜晶)を含むことが判る。また、実施例3では、耐久後の被覆層26は結晶相としてBaSi(斜方晶)を含んでいる。
【0086】
図7および図11によれば、比較例1では、耐久前(初期)および耐久後のいずれも、被覆層26が結晶相としてBaSi10(単斜晶)を含むことが判る。また、比較例1では、耐久前(初期)はBaSi10(単斜晶)が少ないが、耐久後はBaSi10(単斜晶)が多いことが判る。
【0087】
ついで、大気中で900℃にて500時間保持する耐久前と耐久後とにおける実施例1〜8、比較例1〜3及び6におけるサーミスタ素子の抵抗変化を確認した。
具体的には、まず、耐久前において、サーミスタ素子21を、絶対温度T(100)=373K(=100℃)の環境下に配置し、その状態でのサーミスタ部22の初期抵抗値Rt(100)を測定した。ついで、サーミスタ素子21を、絶対温度T(300)=573K(=300℃)の環境下に配置し、その状態でのサーミスタ部22の初期抵抗値Rt(300)を測定した。同様に、Rt(600)及びRt(900)についても測定した。
【0088】
なお、初期抵抗値に関し、サーミスタ部22単独で測定した時の初期抵抗値をR、サーミスタ部22が被覆層26を備えた状態(サーミスタ素子21)で測定した時の初期抵抗値をRtとして表している。
【0089】
そして、耐久後においても、同様に、サーミスタ部22の抵抗値を測定することで、熱処理後抵抗値Rt’(100)、Rt’(300)、Rt’(600)、Rt’(900)をそれぞれ測定した。
【0090】
その上で、100℃における初期抵抗値Rt(100)と熱処理後抵抗値Rt’(100)との比較から、熱処理による抵抗変化の温度変化換算値CT(100)(単位:deg.C)を[数2]より算出した。
【0091】
【数2】
同様にして、[数3],[数4],[数5]により温度変化換算値CT(300)、CT(600)、CT(900)をそれぞれ算出した。
【0092】
【数3】
【0093】
【数4】
【0094】
【数5】
算出した温度変化換算値CTの各値を「耐久後の指示温度変化」として[表3]に示す。なお、[表3]には、その他の測定結果(被覆層の結晶化度、被覆層の状態)についても示す。
【0095】
表3に示す測定結果によれば、本実施例1〜8のサーミスタ素子では、熱処理後の温度変化換算値CT(100)、CT(300)、CT(600)、CT(900)が、いずれも絶対値が小さい値を示しており、具体的には±3℃の範囲に納まることが判る。他方、比較例1〜3,6のサーミスタ素子では、熱処理後の温度変化換算値CT(100)、CT(300)、CT(600)、CT(900)が、いずれも絶対値が大きい値を示しており、具体的には±3℃の範囲を超えている。
【0096】
この測定結果によれば、本発明のサーミスタ素子は、900℃の温度に長時間曝されても、サーミスタ部の抵抗特性の変動を抑制でき、温度検出精度の低下を抑制できることが判る。
【0097】
実施例1および実施例2は、被覆層の結晶化度に関しては、耐久前、耐久後ともに結晶化度95%以上であり、非晶質相を殆ど含まない。
実施例3、比較例1では、被覆層の結晶化度が耐久前に比べて耐久後に上昇している。これは耐久試験中に被覆層26の中の非晶質相が変化したものと考えられる。
【0098】
実施例1〜8については、いずれも耐久試験後の温度変化換算値CTの絶対値が3℃以下(CT≦±3℃)であることから、耐久試験によっても、サーミスタ部の電気特性が劣化していないことが判る。従って、実施例1〜8の被覆層26は、サーミスタ部22に悪影響を与えることなく、サーミスタ部22を被覆していることが示された。
【0099】
特に、実施例1は、最も温度変化換算値CTが小さい。これは、結晶化度、結晶相(図4図8)ともに、耐久試験の前後で殆ど変化しないためであると解される。
比較例1は、耐久試験後の温度変化換算値CTの絶対値が3℃より大きい(CT>±3℃)。これは耐久前の被覆層26の結晶化度が、適切な範囲を逸脱しているためと解される。すなわち、熱処理によって被覆層26の結晶相の変化に伴う体積変化が大きく、被覆層26とサーミスタ部22が反応、あるいは、被覆層26とサーミスタ部22との間にかかる応力の変化や電極の剥離などによって、電気特性が変化したと理解することができる。
【0100】
なお、実施例3は、耐久前の被覆層26の結晶化度が74%と、70%を超えているため、熱処理によって被覆層26の結晶相の変化に伴う体積変化が比較的小さいため、比較例1ほどに電気特性が変化しなかったと理解することができる。
【0101】
比較例2,3及び6は、いずれも耐久試験後の温度変化換算値CTの絶対値が3℃より大きい(CT>±3℃)。これは被覆層26を構成する結晶化ガラスの成分が、適切な範囲を逸脱しているためと解される。すなわち、熱処理によって被覆層26とサーミスタ部22とが反応して、サーミスタ部22の電気特性が変化したと理解することが出来る。
【0102】
比較例4及び5は、ガラスの溶融性が悪化し、緻密な被覆層が形成できなかった。これは、被覆層26を構成する結晶化ガラスの成分が適切な範囲を逸脱しているためと解される。
【0103】
比較例7は、ガラスが失透しやすくなり、流動性が低下し、緻密な形成ができなかった。これは被覆層26を構成する結晶化ガラスの成分が適切な範囲を逸脱しているためと解される。
【0104】
[1−6.効果]
以上説明したように、本実施形態の温度センサ1に備えられるサーミスタ素子21においては、被覆層26は、上記の組成を有することで、被覆層26の製造時の焼付温度が比較的低温(例えば、1100℃以下)であっても、緻密な結晶化ガラスとして形成される。このように、緻密な結晶化ガラスとしての被覆層26を備えることで、サーミスタ部22および被覆層26の組成変動が生じ難く、サーミスタ部22の抵抗値及び、その特性の変動が生じにくくなる。
【0105】
上述の実施例5(SiO の含有量が50モル%)と比較例3(SiOの含有量が40モル%)との比較から判るように、被覆層26におけるSiO の含有量を45モル%以上に設定することで、ガラスの軟化温度が高くなり、被覆層26の耐熱性が向上する。
【0106】
上述の実施例6(SiO の含有量が70モル%)と比較例4(SiOの含有量が77モル%)との比較から判るように、被覆層26におけるSiOの含有量を75モル%以下に設定することで、ガラスが軟化し易くなり流動性が良好となるため、被覆作業が容易になるという利点がある。
【0107】
上述の実施例1〜8のいずれも被覆層26を構成するガラスの失透が生じていないことから、被覆層26におけるAlの含有量を2モル%以上に設定することで、ガラスの失透が生じがたくなり、被覆層26の形成が容易となる。つまり、失透が生じると被覆層26中に空隙が生じて十分な被覆層26を形成できず、このような場合、サーミスタ部22の密閉性を確保できない虞があるが、被覆層26におけるAlの含有量を2モル%以上に設定することで、失透に起因した不具合の発生を抑制できる。
【0108】
上述の実施例4(Alの含有量が8モル%)と比較例2(Alの含有量が20モル%)との比較から判るように、被覆層26におけるAlの含有量を10モル%以下に設定することで、被覆層26とサーミスタ部22とが反応し難くなり、サーミスタ部22の抵抗特性が変化し難くなる。
【0109】
上述の実施例7(BaOの含有量が25モル%)と比較例5(BaOの含有量が17モル%)との比較から判るように、被覆層26におけるBaOの含有量を20モル%以上に設定することで、熱膨張率が小さくなりすぎないため、サーミスタ部22との熱膨張率の差が生じ難くなり、被覆層26に割れ等を生じ難くなる。
【0110】
上述の実施例8(BaOの含有量が35モル%)と比較例6(BaOの含有量が45モル%)との比較から判るように、被覆層26におけるBaOの含有量を40モル%以下に設定することで、被覆層26の耐熱性が良好となる。
【0111】
被覆層26におけるBの含有量を0.1モル%以下に設定することで、サーミスタ部22が長時間に亘って高温に曝されても、被覆層26を形成する成分がサーミスタ部22へ移動し難くなるため、サーミスタ部22における組成変動が生じにくくなる。このため、本実施形態のサーミスタ素子21は、被覆層26とサーミスタ部22とが反応し難くなり、サーミスタ部22の抵抗特性(電気的特性)が変化し難くなる。
【0112】
被覆層26が結晶化度70%以上の結晶化ガラスであれば、サーミスタ素子21が高温に長時間曝されても、被覆層26の成分がサーミスタ部22へ移動し難いため、サーミスタ部22の組成変動が少なくなり、サーミスタ部22の抵抗特性が変化し難くなる。また、被覆層26が結晶化度70%以上の結晶化ガラスであることから、結晶相の変化に伴う被覆層26の体積変化が少なくなるため、サーミスタ部22と被覆層26の間にかかる応力の変化や電極の剥離などが生じ難くなり、サーミスタ部22の抵抗特性が変化し難くなる。
【0113】
このことは、[表3]に示す実施例1〜3の「耐久後の指示温度変化」が±3℃以下であるのに対して、比較例1の「耐久後の指示温度変化」のうちCT(600)、CT(900)が±3℃の範囲を超えていることから明らかである。なお、実施例1〜3の「結晶化度(耐久前)」は70%以上であるのに対して、比較例1の「結晶化度(耐久前)」は70%よりも小さい。これらから、被覆層は、結晶化度70%以上の結晶化ガラスで構成されることで、サーミスタ部22の抵抗特性が変化し難くなることが判る。
【0114】
よって、本実施形態のサーミスタ素子21によれば、900℃の温度に長時間曝されても、サーミスタ部22の抵抗特性の変動を抑制でき、温度検出精度の低下を抑制できる。
本実施形態のサーミスタ素子21のうち、実施例1〜5,7,8においては、被覆層26がZrOを含有している。
【0115】
このようにジルコニア(ZrO )を含有する被覆層26は、結晶相が析出しやすくなり、結晶化度をより高くすることが可能となる。
また、本実施形態のサーミスタ素子21においては、被覆層26に含有されるZrOについては被覆層26の合計モル数に対して10モル%以下である。
【0116】
ジルコニアの含有量が過剰になると、失透が生じやすくなるため、ジルコニアの上限値がこのように定められた被覆層26は、失透を抑制できるため、被覆層26の形成が容易となる。
【0117】
よって、本実施形態のサーミスタ素子21によれば、被覆層26の結晶化度を高めることができるとともに、失透に起因する不具合を抑制できるため、より一層、サーミスタ部22の抵抗特性の変動を抑制でき、温度検出精度の低下を抑制できる。
【0118】
なお、ジルコニアの含有量は、被覆層26の合計モル数に対して0.1モル%以上とすることで、結晶相が充分に析出しやすくなるため、好ましい。
本実施形態のサーミスタ素子21においては、図4〜6、8〜10に示すように、実施例1〜3のいずれも、被覆層26は、結晶相としてBaSi(斜方晶)、BaSi10(単斜晶)、BaAlSiの中から選ばれる少なくとも一つ以上の結晶相を含有する構成である。
【0119】
このような構成の被覆層26は、900℃に長時間曝されても結晶相が変化し難い結晶相である。
また、実施例1〜3は、[表3]の「耐久後の指示温度変化」に示すように、温度変化が±3℃以下であり、サーミスタ部22の抵抗特性が変化し難いことが判る。
【0120】
つまり、実施例1〜3のサーミスタ素子21は、結晶相の変化に伴う被覆層26の体積変化が少なくなるため、サーミスタ部22と被覆層26の間にかかる応力の変化や電極の剥離などが生じ難くなり、サーミスタ部22の抵抗特性が変化し難くなる。
【0121】
よって、本実施形態のサーミスタ素子21によれば、900℃の温度に長時間曝されても、サーミスタ部22の抵抗特性の変動を抑制でき、温度検出精度の低下を抑制できる。
なお、サーミスタ素子21は、実施例6のように、被覆層26がZrO2 を含有しない構成でも良い。
【0122】
次に、本比較測定の実施例1〜8、比較例1〜7は、いずれもサーミスタ部22が上述の[表1]に示す組成を備えて構成されている。
実施例1〜8のサーミスタ素子21においては、サーミスタ部22は、ABO(但し、AはSr及び/又はYを含み、BはAlを含む。)で示されるペロブスカイト相を含む構成である。このようなサーミスタ部22を備えたサーミスタ素子21は、低温領域から600℃を超える高温度領域までに亘る広い温度範囲における温度検知が可能となる。
【0123】
実施例1〜8のサーミスタ素子21においては、サーミスタ部22は、前記ABOにおけるBが更にCr、Mn及びFeの内の少なくとも一種を含む構成である。このようなサーミスタ部22を備えたサーミスタ素子21は、さらに好適に且つ長期間安定して、低温領域から600℃を超える高温度領域までに亘る広い温度範囲における温度検知をすることができる。
【0124】
実施例1〜8のサーミスタ素子21においては、サーミスタ部22は、このサーミスタ部22に含まれるペロブスカイト相よりも低導電性であって、ペロブスカイト相を形成する金属元素から選択される少なくとも一種の金属元素をMeとする場合に、組成式MeOxで表記される金属酸化物の少なくとも一種を含有する金属酸化物相を含有する。
【0125】
つまり、このサーミスタ素子21に備えられるサーミスタ部22は、自身に含まれる導電性ペロブスカイト相よりも低導電性の金属酸化物(MeOx)を含有する金属酸化物相を有する。そして、その金属酸化物の含有量を調整することにより、検知対象とする温度範囲における温度勾配係数(B定数)を維持しつつ、サーミスタ素子21の抵抗値を所望の値にシフトさせることができる。
【0126】
実施例1〜8のサーミスタ素子21においては、金属酸化物相に含まれる金属酸化物がSrAlである。
金属酸化物相に含まれる金属酸化物がSrAlであると、このサーミスタ素子21を高温下で使用する場合には、サーミスタ部22における金属酸化物相とペロブスカイト相との反応が困難になる。
【0127】
これにより、サーミスタ部22の抵抗特性が変動し難くなり、サーミスタ素子21としての温度検出精度の低下を抑制できる。
本実施形態の温度センサ1は、上述のいずれかのサーミスタ素子21を有する。
【0128】
この温度センサ1は、上記のように優れた作用を奏するサーミスタ素子21を有することから、900℃の温度に長時間曝されても、サーミスタ部22の抵抗特性の変動を抑制でき、温度検出精度の低下を抑制できる。
【0129】
[1−7.特許請求の範囲との対応関係]
ここで、特許請求の範囲と本実施形態とにおける文言の対応関係について説明する。
温度センサ1が温度センサの一例に相当し、サーミスタ素子21がサーミスタ素子の一例に相当し、サーミスタ部22がサーミスタ部の一例に相当し、被覆層26が被覆層の一例に相当する。
【0130】
[2.他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0131】
例えば、上記実施形態のサーミスタ素子21は、上記の[表1]に示すように金属酸化物相を有するサーミスタ部22を備える構成であるが、サーミスタ部は必ずしも金属酸化物相を有するものには限られない。具体的には、[表4]に示す組成を有する第2サーミスタ部であってもよい。
【0132】
【表4】
なお、この第2サーミスタ部についても、上記の[表1]に示すサーミスタ部22と同様に、B定数(温度勾配定数)を測定するとともに、初期抵抗値R(100),R(300),R(600),R(900)についても測定した。
【0133】
[表4]に示すように、第2サーミスタ部は、金属酸化物相を有しない構成であるが、B定数[B(100〜900)]が4554K[=B(100〜900)]である。このため、第2サーミスタ部は、各温度を精度良く検知することができる。
【0134】
また、本実施形態のサーミスタ素子21においては、被覆層26は、Bを無含有である構成を採ることができる。
これにより、より一層、サーミスタ部22が長時間に亘って高温に曝されても、被覆層26を形成する成分がサーミスタ部22へ移動し難くなるため、サーミスタ部22における組成変動が生じにくくなる。このため、本実施形態のサーミスタ素子21は、より一層、被覆層26とサーミスタ部22とが反応し難くなり、サーミスタ部22の抵抗特性(電気的特性)が変化し難くなる。
【0135】
なお、「無含有である」とは、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析によってもBが検出ないし同定できないことを意味する。
【符号の説明】
【0136】
1…温度センサ、3…シース芯線(電極線)、5…筒状部材、7…シース部材、9…ハウジング(金属チューブ)、11…取付部材、17…ナット部材、19…外筒、21…サーミスタ素子、22…サーミスタ部、24…電極部、25…リード部、26…被覆層、39…セメント。
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