(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6154313
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】電極チップ用マガジン
(51)【国際特許分類】
B23K 11/36 20060101AFI20170619BHJP
B23K 11/30 20060101ALI20170619BHJP
【FI】
B23K11/36
B23K11/30
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-264210(P2013-264210)
(22)【出願日】2013年12月20日
(65)【公開番号】特開2015-120173(P2015-120173A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2016年6月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】313015100
【氏名又は名称】OBARA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100082670
【弁理士】
【氏名又は名称】西脇 民雄
(74)【代理人】
【識別番号】100180068
【弁理士】
【氏名又は名称】西脇 怜史
(72)【発明者】
【氏名】菅野 考司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 良夫
【審査官】
篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−172913(JP,A)
【文献】
特開2005−046888(JP,A)
【文献】
特開2002−079381(JP,A)
【文献】
実開平02−074143(JP,U)
【文献】
特表2009−502518(JP,A)
【文献】
特開2013−059782(JP,A)
【文献】
特開2005−118834(JP,A)
【文献】
特開平07−251274(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0106878(US,A1)
【文献】
米国特許第05734141(US,A)
【文献】
独国特許出願公開第102013012590(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00 − 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗溶接機で用いる電極チップを交換するために、複数の交換用電極チップを収納するとともに所定の位置から順次取り出すことができる電極チップ用マガジンであって、
前記電極チップを挿入できる収納孔を同一円周上に複数有するハウジングと、
前記円の中心を軸心として前記ハウジングに回動可能に取り付けられる表側部材と、
前記ハウジングと前記表側部材とを連結して前記回動を一方向に付勢する付勢部材とを備え、
かつ、前記表側部材が、前記電極チップの取出し口を備えるとともに前記ハウジングの側に突出するストッパーを備え、
前記ハウジングに、隣り合う前記収納孔を連通する連絡溝を形成し、前記連絡溝は、前記ストッパーの一部が前記連絡溝内を通過可能に形成され、
前記方向の先頭に位置する電極チップを前記ストッパーに当接させることによって、前記回動を停止させるとともに、前記先頭の電極チップを前記取出し口に位置させることを特徴とする電極チップ用マガジン。
【請求項2】
前記連絡溝は円環状の溝であり、その中心軸は、前記ハウジング及び前記表側部材の回転軸と同軸であることを特徴とする請求項1に記載の電極チップ用マガジン。
【請求項3】
前記ハウジングが前記円周上に係止部を備え、最後に位置する電極チップが取り出されたときに、前記係止部を前記ストッパーに当接させることによって、前記回動を停止させることを特徴とする請求項1又は2に記載の電極チップ用マガジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗溶接機で用いる電極チップを交換するために、複数の交換用電極チップを収納する電極チップ用マガジンに関する。
【背景技術】
【0002】
金属などのワークを接合する方式として抵抗溶接が知られている。この抵抗溶接にて用いられる溶接ガンとしては、対向して設けられる一対の電極チップを備えるC型やX型の溶接ガンや、シリーズ溶接やインダイレクト溶接などのワークの片側から溶接電極を押し当てる片側溶接ガンなどがある。
【0003】
この抵抗溶接は、アームの先端にシャンクを介して設けられた電極チップをワークに押し当てて、加圧状態で電流を流し、発生するジュール熱によってワークを溶融して接合する方法である。電極チップは使用するにつれて消耗したり表面が荒れたりするため、電極チップが消耗して使用限界まで達したときや、使用から一定期間が経過したときには、未使用または再研磨した電極チップと交換する必要がある。
【0004】
溶接ガンに設けられた電極チップの交換は、生産ラインを止めることなく短時間に自動交換することが求められている。このため、溶接ロボットの近傍に、溶接ガンから電極チップを取り外すための電極チップ取り外し装置や、新しい電極チップを複数装填した電極チップ用マガジンなどが配置され、これらによって自動的に交換作業が行われている。
すなわち、電極チップの交換時期に達すると、溶接ガンはチップ取り外し装置に接近してシャンクから電極チップを取り外す作業を行わせる。次に、溶接ガンは電極チップ用マガジンに接近して、所定の位置にある電極チップにシャンクの先端を差し込むことにより、新しい電極チップをシャンクに嵌合させている。特許文献1には、チップ取り外し装置の一例が記載されている。
【0005】
図8(a)に電極チップの一例を示す。電極チップ70は略円柱状であり、ワークに押し当てられる先端71側が曲面で形成され、シャンクが差し込まれる元部72側には挿入孔73が形成されている。挿入孔73とシャンクの先端は、ともにテーパ面に形成され、このテーパ面で嵌合するようになっている。
【0006】
図9により特許文献2の電極チップ用マガジンについて説明する。(a)は電極チップ用マガジン80の断面図であり、(b)は天側カバー81を取り外した状態での平面図である。
電極チップ用マガジン80の内部には、円弧状の収納路90が形成され、複数個の電極チップ70を収納することができる。複数の電極チップ70は、挿入孔73のある元部72を天側カバー81に向けて互いに当接した状態で収納され、押圧ピース83によって反時計回りに付勢されている。
【0007】
押圧ピース83は、ぜんまいばね84によって付勢されており、反時計回りの最終位置にある電極チップ70Bが押圧ピース83によって付勢されると、先頭位置にある電極チップ70Aまで、全ての電極チップ70が押圧される。
先頭の電極チップ70Aの位置は、電極チップ70Aが抜き取られる位置であり、溶接ガンのシャンクが進入する位置である。天側カバー81は、この電極チップ70Aに対応する部分が切り欠かれ、取出し口82が形成されている。シャンクが差し込まれると、電極チップ70Aはシャンクの先端に嵌合され、シャンクが後退することにより、電極チップ70Aは電極チップ用マガジン80から取り出される。
【0008】
つまり、電極チップ70Aが位置する先頭位置は、次に抜き取られる交換待ちの位置であり、電極チップ70Aが抜き取られると、複数の電極チップ70の全体がその外径に相当する長さを移動して、先頭から2番目に位置していた電極チップ70が先頭位置に移り、交換待ちの状態となる。最後に、最終位置にある電極チップ70Bが交換待ちの状態となり、これが抜き取られると電極チップ用マガジン80が空の状態となる。
【0009】
収納路90に並んだ電極チップ70は、取出し口82に向かって移動する際に、それぞれ先端71が底壁部91に、外周面74が外周側壁部92及び内周側壁部93に摺動した状態で移動させられる。そして、内周側壁部93の側では、電極チップ70は、ぜんまいばね84とは接触することなく移動され、先端71が先端側案内面95に、元部72が元部側案内面96に摺動した状態で移動させられる。この結果、これらの電極チップ70を安定して取出し口82に順次配置させることが可能となる。
【0010】
一般的に、溶接作業を繰り返し行うと、電極チップの先端が変形・摩耗したり、ワークの金属が付着したりするなどし、安定した溶接作業が困難となり溶接不良が生じる。このため、定期的に電極チップ70の表面を研削・研磨等により整形する必要があり、整形作業を行うために電極チップ70を定期的に交換することが必要となっている。整形された電極チップは、新品よりは全長が短くなるが、使用限界に至っていなければ、再度溶接作業に使用することができる。
【0011】
しかしながら、整形後の電極チップが未使用の電極チップ70とともに電極チップ用マガジン80に装填されることによって、さまざまな全長の電極チップ70が存在することとなり、これにより電極チップ70同士の当接面積にばらつきが生じ、それぞれの電極チップ70が受ける押圧ピース83からの付勢力が均等にかからなくなるために電極チップ70が傾き易くなり、収納路90の途中や取出し口82で傾斜・転倒してしまい、電極チップ70を適切に取出し口82に供給できなくなる。また、電極チップ70と収納路90との当接面積にもばらつきが生じるためにそれぞれの摩擦力が異なることとなり、電極チップ70が収納路90に引っ掛かり易くなり、収納路90の途中や取出し口82で傾斜・転倒してしまい、電極チップ70を適切に取出し口82に供給できなくなる。このように、新品の電極チップ(電極チップの軸方向全長が全て同一の電極チップ)70のみを装填したときには見られなかった新たな問題が発生していた。
【0012】
また、特許文献1および特許文献2のように電極チップ同士が当接して配置される電極チップ用マガジンのほかに、特許文献3のように電極チップを独立して収納する形式もある。この形式は電極チップ同士が当接することなく、溶接キャップK(電極チップ)を保持したドラム状キャップ保持体31をその中心に設けられたコイルばねによって回転させ溶接キャップKをアクセス開口40(取出し口)まで移動させる。ドラム状キャップ保持体31のマガジン蓋4に形成されたアクセス開口40にストッパー32を設け、回動してきた溶接キャップKがストッパ
ー32に当接することによりアクセス開口40に溶接キャップKを位置させるものである。
【0013】
しかしながら、電極チップを収納する収納孔の深さ(ドラム状キャップ保持体31の軸方向における厚み)が一律であるために、整形後の電極チップが収納孔の深さよりも短い場合は、電極チップがまだ使用可能な状態であっても収納孔に埋もれてしまい、ストッパーに当たらずに取出し口を通過してしまうこととなり、整形後の電極チップの再利用ができない。逆に、使用限界に極めて近い長さの整形後の電極チップを基準に収納孔の
深さを設定したとすると、新品の電極チップや比較的全長が長い電極チップに関しては、収納孔から露出する面積が増加してしまうために、すなわち
収納孔による電極チップの保持面積が減少してしまうために、取出し口において新品の電極チップや比較的全長が長い電極チップにストッパーが当たった際に、電極チップが収納孔から浮上・傾斜・抜け落ちなどその保持が不安定となり、その結果、電極チップ用マガジンの動作が停止してしまう。
【0014】
また、特許文献2、特許文献3の電極チップ用マガジンは、電極チップを装填する際にマガジン本体の蓋体(特許文献2:天側カバー81、特許文献3:マガジン蓋4)を取り外すことになっており、電極チップの装填に手間が掛るという問題がある。蓋体を取り外すことなく取出し口から装填することも不可能ではないが、指先による無理な作業となる。また、特許文献2のように収納路を有する場合、収納路90内に異物が紛れ込んだ場合には、天側カバー81を取り外さなければ異物に気づく機会がないために、電極チップの傾斜や移動不能等のトラブルを起こし易くなる。
【0015】
さらに、電極チップ用マガジンの固定装置への取り付けは、特許文献2においては取付治具85の取付ピン86によって行なわれ、特許文献3においてはマガジン蓋4がアクセス開口40に対向した位置で蝶番支持片47に枢着されることによって取り付けが行われている。しかし、シャンクの進入による外力を受けると、取付ピン86や蝶番支持片47に過大な応力が作用して取出し口(アクセス開口40)の位置が予め位置合わせを行った位置から変化することがあり、電極チップ70の交換時に作動不能が発生する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2002−79381号公報
【特許文献2】特開2013−59782号公報
【特許文献3】特表2009−502518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、再使用の電極チップ70が装填された場合でも、全ての電極チップ70が取出し口に向かって確実に移動し、取出し口に正確に位置する電極チップ用マガジンを提供することにある。また、固定装置への取り付けと取り外しが容易な電極チップ用マガジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の請求項1に係る電極チップ用マガジンは、抵抗溶接機で用いる電極チップを交換するために、複数の交換用電極チップを収納するとともに所定の位置から順次取り出すことができる電極チップ用マガジンであって、前記電極チップを挿入できる収納孔を同一円周上に複数有するハウジングと、前記円の中心を軸心として前記ハウジングに回動可能に取り付けられる表側部材と、前記ハウジングと前記表側部材とを連結して前記回動を一方向に付勢する付勢部材とを備え、かつ、前記表側部材が、前記電極チップの取出し口を備えるとともに前記ハウジングの側に突出するストッパーを備え、前記ハウジングに、隣り合う前記収納孔を連通する連絡溝を形成し、前記連絡溝は、前記ストッパーの一部が前記連絡溝内を通過可能に形成され、前記方向の先頭に位置する電極チップを前記ストッパーに当接させることによって、前記回動を停止させるとともに、前記先頭の電極チップを前記取出し口に位置させるという手段を採用している。
【0019】
また、本発明の請求項2に係る電極チップ用マガジンは、請求項1に記載の電極チップ用マガジンであって、前記連絡溝は円環状の溝であり、その中心軸は前記ハウジングおよび前記表側部材の回転軸と同軸であるという手段を採用している。
【0020】
また、本発明の請求項3に係る電極チップ用マガジンは、請求項1又は2に記載の電極チップ用マガジンであって、前記ハウジングが前記円周上に係止部を備え、最後に位置する電極チップが取り出されたときに、前記係止部を前記ストッパーに当接させることによって、前記回動を停止させる手段を採用している。
【0021】
また
、電極チップ用マガジンは、抵抗溶接機で用いる電極チップを交換するために、複数の交換用電極チップを収納して固定装置に取り付けられる電極チップ用マガジンであって、前記電極チップが同一円周上に複数装填されるハウジングと、前記ハウジングを挟んで位置する表側部材及び裏側部材を備え、前記表側部材、前記裏側部材又は前記固定装置の少なくとも一つにガイド部材を設け、前記表側部材及び前記固定装置又は前記裏側部材及び前記固定装置の少なくとも一方にロック部材を備えることにより、前記固定装置の所定の位置に固定させる手段を採用している。
【0022】
また
、前記ロック部材は、付勢係合部材と係合溝からなる手段を採用している。
【発明の効果】
【0023】
本発明の電極チップ用マガジンは、複数の交換用電極チップが、ハウジングに設けられた収納孔に1個ずつ収納され、取出し口を備える表側部材に対して付勢部材で付勢されたハウジングが回動する構造としている。このため、電極チップを傾斜させることなく移動させることが可能であり、全ての電極チップを順次正確に取出し口に位置させることができる。
また、隣り合う収納孔を連通する連絡溝をストッパーの通路とすることによって、電極チップとストッパーの当接部分を長くすることが可能となり、再使用の電極チップが装填された場合でも、取出し口に正確に位置させることができる。
また、連絡溝を円環状とし、その中心軸をハウジングおよび表側部材の回転軸と同軸とすることにより、連絡溝内をストッパーがスムーズに移動することができ、確実に全ての電極チップを取出し口に位置させることができる。
また、ハウジングが円周上に係止部を備えることによって、最後の電極チップが取り出されたときに、係止部がストッパーに当接して、ハウジングの回動を直ちに停止させることができる。
また、表側部材、裏側部材又は固定装置の少なくとも一つにガイド部材を設け、前記表側部材及び前記固定装置又は前記裏側部材及び前記固定装置の少なくとも一方にロック部材を設けることによって、電極チップ用マガジンの固定装置への取付け及び固定を容易かつ確実に行うことができる。
また、ロック部材を付勢係合部材と係合溝とすることによって、電極チップ用マガジンの固定装置への取付け及び固定をワンタッチでより容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の電極チップ用マガジンの概要を示し、(a)は概略平面図、(b)は概略側面図である。
【
図2】本発明の電極チップ用マガジンの内部構造を示し、(a)は(b)のB−B矢視における概略平面図、(b)は(a)のA−A矢視における概略断面図である。
【
図3】ハウジングの構造を示し、(a)は概略平面図、(b)は(a)のC−C矢視概略断面図、(c)は(a)のD矢視概略断面図である。
【
図4】カバーの構造を示し、(a)は概略平面図、(b)は(a)のE−E矢視概略断面図である。
【
図5】付勢部材ケースの構造を示し、(a)は概略平面図、(b)は概略正面図、(c)は(a)のF−F矢視概略断面図である。
【
図6】固定軸の構造を示し、(a)は概略断面図、(b)は概略裏面図、(c)はロック部材の一部の外観図である。
【
図7】固定装置の構造を示し、(a)は概略平面図、(b)は概略側面図である。
【
図8】電極チップと収納孔との関係を示し、(a)は電極チップの概略平面図及び概略側面図、(b)は連絡溝と電極チップとの説明図である。
【
図9】従来の電極チップ用マガジンを示し、(a)は概略断面図であり、(b)は天側カバーを取り外した状態での概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の電極チップ用マガジンの概要を
図1により説明する。
複数の電極チップ70が装填された電極チップ用マガジン1は、固定装置60に装着された状態で使用される。固定装置60は、上下に板状をなす一対の保持部61、62を備えており、電極チップ用マガジン1の表側部材5及び裏側部材6を、両保持部61、62の間に挟持させて固定するようになっている。
【0026】
図1では、電極チップ70の取出し口22を上に向けた場合を示しているが、実際は、取出し口22を上に向けたものと、下に向けたものとを2個並べて使用することが多い。
そして、図示していないが、電極チップ用マガジン1の近傍に電極チップ70の有無を感知するセンサーが設けられ、電極チップ70が電極チップ用マガジン1に装填されていることを常に確認している。空の状態になると、警報などによって電極チップ70の再装填が促される。再装填は、電極チップ用マガジン1を固定装置60から取り外して行われる。
【0027】
図2により、電極チップ用マガジン1の内部構造を説明する。
電極チップ用マガジン1は、電極チップ70を1個挿入できる収納孔11を同一円周上に複数有するハウジング10と、この円の中心を軸心としてハウジング10に回動可能に取り付けられる表側部材5(カバー20及び付勢部材ケース30)と、ハウジング10と表側部材5とを連結して回動を一方向に付勢する付勢部材50を備えている。これによって、ハウジング10は付勢される。そして、回動可能とするために、付勢部材ケース30には固定軸40が設けられ、固定軸40とハウジング10との間に軸受55が設けられている。ここではハウジング10が付勢部材50によって反時計回りに付勢されているが、付勢方向はこれに限らない。また、付勢部材50としてぜんまいばねを用いて説明するが、コイル式などのばねや重錘なども適用可能である。
【0028】
付勢された電極チップ70は、付勢された方向の先頭に位置する電極チップ70から順次取り出される。次に取り出される電極チップ70は、常に、取出し口22に位置しなければならない。このため、表側部材5となるカバー20は、電極チップ70の取出し口22を備えるとともに、ハウジング10の側に向かって突出するストッパー23を備えている。そして、先頭に位置する電極チップ70がストッパー23に当接することによって、ハウジング10の回動を停止させ、その電極チップ70を取出し口22に位置させるようにしている。
【0029】
図4により、カバー20の構造を説明する。
カバー20は、リング状のカバー板21に、カバー板21の面方向に直交する方向に向かって突出するストッパー23を備えている。また、カバー20は、付勢部材ケース30とともに表側部材5を形成するので、付勢部材ケース30に固定するためにネジ孔24が設けられている。
取出し口22及びストッパー23は、相互に近接して設けられ、付勢される方向の先頭に位置している電極チップ70がストッパー23に当接したときに、その電極チップ70が取出し口22に位置するようになっている。また、取出し口22及びストッパー23は、複数の収納孔11と同一円周上に位置するようにカバー20に設けられている。
【0030】
図3により、ハウジング10の構造を説明する。
ハウジング10は、同一円周上に複数の収納孔11を備えるとともに、隣り合う収納孔11が連絡溝12によって連通されている。電極チップ70を一つ一つ収納孔11に収納することによって、電極チップ70を傾斜させることなく移動させることが可能であり、順次正確に取出し口22に位置させることができる。また、隣り合う収納孔11が連絡溝12によって連通し、ストッパー23の一部が連絡溝12内を通過可能に形成することによって、
図8(b)に示すように、ストッパー23の先端部を連絡溝12内に位置させて、電極チップ70の外周面74に確実に当接させることができる。また、連絡溝12は、円環状をなしており、その中心軸はハウジング10および表側部材5の回転軸と同軸となるように形成されている。
【0031】
ハウジング10の中央下部には軸受箱14が形成されており、ここに軸受55を位置させることができる。また、中央上部には筒状の突出部13が形成されており、内部を固定軸40が貫通するようになっている。突出部13には、ぜんまいばね50の内側端部を固定するために雌ネジ16が形成されている。突出部13の外側には空間15が形成され、ここに、ぜんまいばね50を収納することができる。なお、各収納孔11には、電極チップ70の交換時に抵抗溶接機のアームやシャンクを冷却するための冷却水が入り易いので、液抜きの開口19が設けられている。
【0032】
ハウジング10は、収納孔11が配置される同一円周上であって付勢される方向の最後に位置する収納孔11よりもさらに後方の位置に、ストッパー23に当接することができる係止部17を備えていることが好ましい。係止部17を備えることにより、最後の電極チップ70が取り出されたときに、係止部17がストッパー23に当接して、ハウジング10の回動を直ちに停止させることができる。
【0033】
図5により、付勢部材ケース30の構造を説明する。
付勢部材ケース30は、筒状をなす内筒31及び外筒33と、これらの軸方向の一端に位置する表板35からなる有蓋円筒状をなしている。内筒31、外筒33および表板35によって形成される空間38にぜんまいばね50を位置させるようになっており、ハウジング10の空間15と付勢部材ケース30の空間38とでぜんまいばね50を収容する。また、付勢部材ケース30はカバー20とともに表側部材5を形成している。
内筒31には、その内側面(付勢部材ケース30の中心軸側の面)に固定軸40を位置させて固定するために、雌ネジ32が形成されている。また、外筒33には、ぜんまいばね50の外側端部を固定するために、雌ネジ34a及び開口34bが形成されている。また、表板35には、カバー20を取り外し可能に取り付けるために、雌ネジ39が複数設けられている。
【0034】
表板35は、表側部材5の一部をなしている。そして、電極チップ用マガジン1を固定装置60に装着するときには、表板35の外表面を保持部61の内表面に摺動させて差し込むために、表板35には、ガイド部材36a、36b、37が設けられている。すなわち、電極チップ用マガジン1は、ガイド部材36a、36bに案内されて差し込まれ、ガイド部材37によって所定の位置に固定することができる。
【0035】
図6により、固定軸40について説明する。
固定軸40は、鍔部41及び軸部42を備え、表側部材5(カバー20及び付勢部材ケース30)に一体に固定されるとともに、軸受55を介してハウジング10を回動可能に取り付ける部材である。なお、鍔部41は、電極チップ用マガジン1の裏側部材6を形成している。
固定軸40を付勢部材ケース30に固定するために、軸部42の一端には雄ネジ43が形成され、付勢部材ケース30の雌ネジ32と螺合させて取り付ける。ここでは付勢部材ケース30への固定軸40の固定方式としてネジを開示しているが、例えば摩擦式締結やくさび結合などの他の固定方式も適用可能である。
【0036】
軸部42は、内部にロック部材を構成する付勢係合部材であるボールプランジャー49を装着することにより、電極チップ用マガジン1を固定装置60に装着するときに、所定の場所に、正確に位置させることができるようにしている。
すなわち、軸部42の一端に、ボールプランジャー49を収納する装着孔45が設けられるとともに、装着孔45から鍔部41に向かって雌ネジ46が設けられている。
【0037】
図6(c)に示すように、ボールプランジャー49は、筒状部材の一端からボールの一部が突出した形状であり、内部にあるスプリングによってボールが押圧されている。このボールプランジャー49は、
装着孔45に差し込まれるとともに、雌ネジ46に螺合される雄ネジによって軸方向の位置決めがなされる。なお、雄ネジを備えたボールプランジャーを用いて、雌ネジと螺合させて軸方向の位置決めを行うようにすることもできるが、ネジ螺合以外にも、ボールプランジャー49が適切な高さとなるようにその長さが調整されたスペーサ等を挿入することにより位置決めを行うことも可能である。また、付勢係合部材としてボールプランジャー49を用いているが、スプリングプランジャーなどの固定や位置決めができる他の付勢係合部材も適用可能である。
【0038】
図7により、固定装置60について説明する。
複数の電極チップ70が装填された電極チップ用マガジン1は、固定装置60に装着された状態で使用される。固定装置60は、上下に板状をなす一対の保持部61、62を備えており、電極チップ用マガジン1の表側部材5及び裏側部材6を、両保持部61、62の間に挟持して固定するようになっている。固定装置60は架台などに固定して用いられる。
また、保持部61の内表面にはロック部材である係合溝63が設けられており、この係合溝63がボールプランジャー49のボールを受け入れるようになっており、ボールプランジャー49を係合溝63に係合させることによって、電極チップ用マガジン1を固定装置60に位置決めおよび固定している。なお、係合溝63を直接保持部61に設けずにボルト等の別部材とし、保持部61の内表面にその係合溝63を設けた別部材を固定することも可能である。
【0039】
電極チップ用マガジン1を差し込むときは、付勢部材ケース30に設けられたガイド部材36a、36bを、保持部61の内側面に沿わせて前進させる。そして、ガイド部材37を保持部61の先端に当接させたとき、ボールプランジャー49のボールが係合溝
63に落ち込むことによって、電極チップ用マガジン1が固定装置60に対して正確に配置され、取出し口22が正確に位置されることになる。
【0040】
このため、保持部61、62の内表面は滑らかな面に形成し、保持部61の内表面と表側部材5との摺動、及び保持部62の内表面と裏側部材6との摺動を滑らかにすることが好ましい。また、固定装置60の素材には弾性材料を用いるとともに、保持部61、62間の距離を電極チップ用マガジン1の回動軸方向長さよりもやや狭く形成して、両保持部61、62に更なる挟持力を持たせてもよい。
【0041】
ガイド部材36a、36b、37及びロック部材であるボールプランジャー49と係合溝63については、上述の実施例のほかに、表側部材5、裏側部材6又は固定装置60の少なくとも一つにガイド部材36a、36b、37を設け、表側部材5及び固定装置60、又は裏側部材6及び固定装置60の少なくとも一方にロック部材を設けるという条件を満たす設置であれば、上述の実施例と同様に、電極チップ用マガジン1の固定装置60への取付け及び固定をワンタッチでより容易かつ確実に行うことができる。なお、固定装置60にガイド部材36a、36b、37を設ける場合は、表側部材5又は裏側部材6を差し込めるように固定装置60の保持部61又は62の内表面を部分的に切り欠くことによりガイド部材36a、36b、37とすることもできる。
【0042】
本発明の電極チップ用マガジン1は、複数の交換用電極チップ70が、ハウジング10に設けられた収納孔11に1個ずつ収納され、取出し口22を備える表側部材5に対してぜんまいばね50で付勢されたハウジング10が回動する構造としている。このため、電極チップ70を傾斜させることなく移動させることが可能であり、全ての電極チップ70を順次正確に取出し口22に位置させることができる。
また、隣り合う収納孔11を連通する連絡溝12をストッパー23の通路とすることにより、電極チップ70がストッパー23に当接するときの当接部分を長くすることが可能となり、再使用の電極チップ70が装填された場合でも、取出し口22に正確に位置させることができる。
また、連絡溝12を円環状の溝とし、その中心軸をハウジングおよび表側部材の回転軸と同軸とすることにより、連絡溝内をストッパーがスムーズに移動することができ、より確実に全ての電極チップ70を取出し口22に位置させることができる。
また、ハウジング10が円周上に係止部17を備えることによって、最後の電極チップ70が取り出されたときに、係止部17がストッパー23に当接して、ハウジング10の回動を直ちに停止させることができる。
【0043】
また、表側部材5、裏側部材6又は固定装置60の少なくとも一つにガイド部材36a、36b、37を設け、表側部材5及び固定装置60又は裏側部材6及び固定装置60の少なくとも一方にロック部材を設けることによって、電極チップ用マガジン1の固定装置60への取付け及び固定を容易に、確実に行うことができる。
また、ロック部材をボールプランジャー49などの付勢係合部材と係合溝63とで構成することによって、電極チップ用マガジン1の固定装置60への取付け及び固定をワンタッチでより容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0044】
1……電極チップ用マガジン
5……表側部材
6……裏側部材
10……ハウジング
11……収納孔
12……連絡溝
17……係止部
22……取出し口
23……ストッパー
36a、36b、37……ガイド部材
49……ボールプランジャー
50……ぜんまいばね
60……固定装置
63……係合溝
70……電極チップ