【文献】
Database GenBank [online],Accession No. AB688983, 20-DEC-2011 uploaded, [retrieved on 2013-08-28], <http://http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/363987278?sat=3&satkey=20102528>,DEFINITION: Streptomyces sp. MK932-CF8 gene for 16S ribosomal RNA, partial sequence.
【文献】
SCIENCE,2009年 5月,Vol. 324,P. 787-790
【文献】
Cancer Res.,2012年 1月,Vol. 72, No. 6,P. 1494-1503
【文献】
The Prostate,2011年,Vol. 71,P. 1344-1356
【文献】
Pharm. Res.,2012年 3月,Vol. 29,P. 2079-2091
【文献】
新戦略に基づく抗がん剤の開発に関する研究 平成18年度 総括・分担研究報告書,2007年,P. 16-19
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
(新規化合物)
本発明の化合物は、下記一般式(I)で表される化合物であり、本発明者らが分離した新規化合物である。
下記一般式(I)で表される化合物は、後述する物理化学的性質及び構造上の特徴によって、既知の化合物と明確に区別される新規化合物である。
【化3】
ただし、前記一般式(I)において、Xは、下記一般式(IA)及び下記一般式(IB)のいずれかで表される基を表す。
【化4】
ただし、前記一般式(IA)及び前記一般式(IB)において、*は、結合手を表す。
【0018】
これらの中でも、前記一般式(I)で表される化合物は、下記構造式(I)で表される化合物(以下、「アンドロプロスタミン(Androprostamine)A」と称することがある)及び下記構造式(II)で表される化合物(以下、「アンドロプロスタミン(Androprostamine)B」と称することがある)のいずれかであることが好ましい。
【化5】
【化6】
【0019】
<アンドロプロスタミンAの物理化学的性質>
(1) 外観は、白色の粉状である。
(2) 分子式は、C
26H
38N
5O
10Clで表され、分子量は、615である。
(3) 高分解能質量分析(HRESIMS:正イオンモード)による、実験値は、m/z 616.2386(M+H)
+であり、計算値は、m/z 616.2380(C
26H
39N
5O
10Clとして)である。
(4) 比旋光度は、[α]
D23=+76.8°(c0.1,メタノール)である。
(5) メタノール溶液で測定した紫外吸収スペクトルは、下記表1に示すとおりである。
λ
max nm(ε) :227(13,000,sh),289(11,000)
(6) TLCプレート(TLC Silica gel 60F254、メルク製)の薄層クロマトグラフィーにおいて、展開溶媒〔ブタノール:メタノール:水(4:1:2、体積比)〕で展開して測定したRF値は、0.22であり、展開溶媒〔ブタノール:酢酸:水(4:1:2、体積比)〕で展開して測定したRF値は、0.27である。
【0020】
<アンドロプロスタミンBの物理化学的性質>
(1) 外観は、白色の粉状である。
(2) 分子式は、C
31H
45N
6O
11Clで表され、分子量は、712である。
(3) 高分解能質量分析(HRESIMS:正イオンモード)による、実験値は、m/z 713.2903(M+H)
+であり、計算値は、m/z 713.2908(C
31H
46N
6O
11Clとして)である。
(4) 比旋光度は、[α]
D23=+56.8°(c0.2、メタノール)である。
(5) メタノール溶液で測定した紫外吸収スペクトルは、下記表1に示すとおりである。
λ
max nm(ε) :227(15,100,sh),289(12,800)
(6) TLCプレート(TLC Silica gel 60F254、メルク製)の薄層クロマトグラフィーにおいて、展開溶媒〔ブタノール:メタノール:水(4:1:2、体積比)〕で展開して測定したRF値は、0.18であり、展開溶媒〔ブタノール:酢酸:水(4:1:2、体積比)〕で展開して測定したRF値は、0.26である。
【0022】
前記化合物が、前記一般式(I)で表される構造を有するか否かは、適宜選択した各種の分析方法により確認することができ、例えば、前記質量分析法、前記紫外分光法等の分析の他、赤外分光法、プロトン核磁気共鳴分光法、炭素13核磁気共鳴分光法等の分析方法などが挙げられる。
【0023】
前記化合物は、前記一般式(I)で表される化合物の塩であってもよい。
前記塩としては、薬理学的に許容され得る塩であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酢酸塩、クエン酸塩等の有機塩、塩酸塩、炭酸塩などが挙げられる。
【0024】
前記一般式(I)で表される化合物は、前記一般式(I)で表される化合物を生産する微生物から得られたものであってもよいし、化学合成により得られたものであってもよいが、後述する本発明の化合物の製造方法により得られることが好ましい。
【0025】
<用途>
前記一般式(I)で表される化合物は、優れた抗腫瘍作用を有し、安全性の高い化合物である。そのため、前記一般式(I)で表される化合物は、例えば、後述する本発明の医薬組成物や、本発明の抗腫瘍剤等の有効成分として好適に利用可能である。
【0026】
(化合物の製造方法)
本発明の化合物の製造方法は、前記一般式(I)で表される化合物を生産する能力を有するストレプトミセス エスピー(
Streptomyces sp.)MK932−CF8株(受託番号:NITE BP−00838)を培養する工程(以下、「培養工程」と称することがある)を少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の工程を含む。
【0027】
<培養工程>
前記培養工程は、前記一般式(I)で表される化合物を生産する能力を有するストレプトミセス エスピー(
Streptomyces sp.)MK932−CF8株(受託番号:NITE BP−00838)を培養して、下記一般式(I)で表される化合物を製造する工程である。
なお、前記MK932−CF8株を、放射線照射やその他の変異処理に供することにより、前記一般式(I)で表される化合物の生産能を高めることも可能である。更に、遺伝子工学的手法による前記一般式(I)で表される化合物の生産も可能である。
【0028】
前記微生物が前記一般式(I)で表される化合物を生産する能力を有することを分析する方法としては、例えば、該微生物の培養物、好ましくは、液体培養後の培養上清中又は固体培養後の固体培地中の成分の、抗腫瘍作用を分析する方法、各種分析法により前記一般式(I)で表される化合物を検出する方法などが挙げられる。
【0029】
前記抗腫瘍作用を分析する方法においては、前記微生物の培養物が抗腫瘍作用を有する場合、前記微生物は前記一般式(I)で表される化合物を生産する能力を有すると判断することができる。
具体的には、ヒト等の培養癌細胞に前記培養物を添加し、公知の方法で該培養癌細胞の増殖抑制作用を分析し、前記培養癌細胞の増殖が抑制された場合、前記微生物の培養物が抗腫瘍作用を有すると判断することができる。
【0030】
前記培養は、前記一般式(I)で表される化合物を生産する生産菌(以下、単に「化合物類生産菌」と称することがある)を栄養培地(以下、単に「培地」と称することがある)中に接種し、前記一般式(I)で表される化合物の生産に良好な温度で培養することによって行われる。
【0031】
前記栄養培地としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、従来放線菌の培養に利用されている公知のものを使用することができ、液体培地であってもよく、固体(寒天)培地であってもよい。
前記栄養培地に添加する栄養源としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、市販されている大豆粉、小麦胚芽、押し麦、ペプトン、綿実粕、酵母エキス、肉エキス、コーン・スティープ・リカー、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、尿素等の窒素源;トマトペースト、グリセリン、デンプン、グルコース、ガラクトース、デキストリン、バクトソイトン等の炭水化物、脂肪等の炭素源;などが挙げられる。
更に、食塩、炭酸カルシウム等の無機塩を培地に添加して使用することもでき、その他、必要に応じて微量の金属塩を培地に添加して使用することもできる。
これらの材料は、前記化合物類生産菌が利用し、前記一般式(I)で表される化合物の生産に役立つものであればよく、公知の培養材料は全て用いることができる。
【0032】
前記一般式(I)で表される化合物の生産のための種母としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、平板培地、斜面培地、半斜面培地等の培地上で前記化合物類生産菌を培養した生育物などを使用することができる。
【0033】
前記培養の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、好気的条件で培養することが好ましい。
前記培養の温度としては、前記化合物類生産菌の発育が実質的に阻害されずに、前記一般式(I)で表される化合物を生産し得る範囲であれば、特に制限はなく、使用する生産菌に応じて適宜選択することができるが、25℃〜35℃が好ましい。
前記培養の期間としては、特に制限はなく、前記一般式(I)で表される化合物の蓄積に合わせて適宜選択することができる。
【0034】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記培養工程で得られた培養物から前記一般式(I)で表される化合物を採取する採取工程、前記培養工程で得られた培養物又は前記採取工程で得られた前記一般式(I)で表される化合物を洗浄する洗浄工程、前記採取工程で得られた前記一般式(I)で表される化合物を更に精製する精製工程などが挙げられる。前記洗浄工程や前記精製工程は、公知の方法で適宜行われる。
【0035】
<<採取工程>>
前記採取工程は、前記培養工程で得られた培養物から前記一般式(I)で表される化合物を採取する工程である。前記一般式(I)で表される化合物は、上述した物理化学的性質を有するので、その性状に従って培養物から採取することができる。ここで、本発明において、採取とは、前記一般式(I)で表される化合物を、前記培養物から分離及び/又は精製することを意味する。
【0036】
前記培養物としては、前記培養工程で得られ、前記一般式(I)で表される化合物を含むものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、菌体、液体培養後の培養上清、固体培養後の固体培地、及びこれらの混合物などが挙げられる。これらの中でも、前記培養物としては、液体培養後の培養上清及び/又は固体培養後の固体培地を用いることが、前記一般式(I)で表される化合物を効率よく得ることができる点で好ましい。
なお、前記培養物として、前記菌体を用いる場合は、適当な有機溶媒を用いた抽出方法や、菌体破砕による溶出方法などにより、前記一般式(I)で表される化合物を菌体から抽出し、これを分離及び/又は精製に供してもよい。
【0037】
前記採取の方法としては、特に制限はなく、微生物の生産する代謝物を採取するのに用いられる方法を適宜選択することができる。例えば、溶媒抽出法、各種吸着剤に対する吸着親和性の差を利用する方法、クロマトグラフ法などが挙げられる。これらの方法を単独又は適宜組み合せて、場合によっては反復使用することにより、前記一般式(I)で表される化合物を分離及び/又は精製することができる。
【0038】
前記溶媒抽出法に用いる溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、メタノール、アセトン、ブタノール、アセトニトリルなどが挙げられる。
【0039】
前記吸着剤としては、特に制限はなく、公知の吸着剤の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリスチレン系吸着樹脂などが挙げられる。
前記吸着剤の市販品の具体例としては、アンバーライトXAD(ローム・アンド・ハース社製)、ダイヤイオン(登録商標)HP−20(三菱化学株式会社製)などが挙げられる。
【0040】
前記クロマトグラフ法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、薄層クロマトグラフ法、順相あるいは逆相カラムを用いた分取用高速液体クロマトグラフ(分取用HPLC)法などが挙げられる。
前記クロマトグラフ法に用いる担体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イオン交換樹脂、ゲル濾過、シリカゲル、アルミナ、活性炭などが挙げられる。
前記クロマトグラフ法に用いる担体の市販品の具体例としては、アンバーライト(登録商標)CG50(シグマアルドリッチ株式会社製)等のイオン交換樹脂;トヨパール(登録商標)HW−40F(東ソー株式会社製)、セファデックス(登録商標)LH−20(GEヘルスケア社製)等のゲル濾過;CAPCELL PAK SG120(資生堂株式会社製)等のシリカゲル;などが挙げられる。
【0041】
前記吸着剤や前記クロマトグラフ法における担体から前記一般式(I)で表される化合物を溶出させる方法としては、特に制限はなく、該吸着剤や該担体の種類や性質等に応じて適宜選択することができる。例えば、ポリスチレン系吸着樹脂の場合には、溶出溶媒として、含水アルコール、含水アセトン等を用いて溶出する方法などが挙げられる。
【0042】
以上のようにして前記一般式(I)で表される化合物を製造することができる。
【0043】
(微生物)
本発明の微生物は、下記一般式(I)で表される化合物を生産する能力を有する微生物であって、前記微生物が、ストレプトミセス エスピー(
Streptomyces sp.)MK932−CF8株(受託番号:NITE BP−00838)である。
【化7】
ただし、前記一般式(I)において、Xは、下記一般式(IA)及び下記一般式(IB)のいずれかで表される基を表す。
【化8】
ただし、前記一般式(IA)及び前記一般式(IB)において、*は、結合手を表す。
【0044】
前記一般式(I)で表される化合物は、下記構造式(I)及び下記構造式(II)のいずれかで表される化合物であることが好ましい
【化9】
【化10】
【0045】
前記ストレプトミセス エスピー(
Streptomyces sp.)MK932−CF8株(受託番号:NITE BP−00838)は、本発明者らが神奈川県横浜市の土壌より分離した菌株である。前記MK932−CF8株の菌学的性状は、以下の通りである。
【0046】
1.形態
分枝した基生菌糸より、らせん形成を有する気菌糸を伸長する。成熟した胞子鎖は、10個〜50個の卵円形の胞子を連鎖する。胞子の大きさは、幅が0.4μm〜0.5μm、長さが0.8μm〜0.9μmで、胞子の表面は平滑である。輪生枝、菌糸束、胞子のう及び運動性胞子は認められない。
【0047】
2.各種培地における生育状態
色の記載について[ ]内に示す標準は、コンティナー・コーポレーション・オブ・アメリカのカラー・ハーモニー・マニュアル(Container Corporation of America の color harmonymanual)を用いた。
(1)イースト・麦芽寒天培地(ISP−培地2、27℃培養)
うす黄茶[2ng,Dull Gold]の発育上に、ピンク白[7ba,Pink Tint]〜明るい灰[e,Gray]の気菌糸を着生し、可溶性色素は認められない。
(2)オートミール寒天培地(ISP−培地3、27℃培養)
うす黄[2ba,Pearl]の発育上に、明るい灰[3fe,Silver Gray]〜灰[3ml,Beaver Gray]の気菌糸を着生し、培養10日目より気菌糸の湿潤化が観察された。可溶性色素は認められない。
(3)スターチ・無機塩寒天培地(ISP−培地4、27℃培養)
うす黄[2ba,Pearl]の発育上に、明るい灰[2fe,Covert Gray]の気菌糸を着生し、可溶性色素はうすピンクを帯びていた。0.1モル塩酸及び0.1モル水酸化ナトリウムの添加による発育の色及び可溶性色素の変化は認められない。
(4)グリセリン・アスパラギン寒天培地(ISP−培地5、27℃培養)
うす黄[2ba,Pearl]〜うすピンク[7 1/2gc,Dusty Rose]の発育上に、明るい灰[3fe,Silver Gray]の気菌糸を着生し、培養10日目より気菌糸の湿潤化が観察される。可溶性色素は認められない。
(5)シュクロース・硝酸塩寒天培地(27℃培養)
うす黄茶[2ng,Dull Gold]の発育上に、うす黄[1 1/2ea,Lt Yellow]の気菌糸を着生し、可溶性色素は茶色味を帯びた。0.1モル塩酸及び0.1モル水酸化ナトリウムの添加による発育の色及び可溶性色素の変化は認められない。
【0048】
3.生育温度範囲
(1)生育温度範囲
イースト・スターチ寒天培地〔1.0質量%溶性デンプン(でんぷん(溶性)、小宗化学薬品株式会社製)、0.2質量%イーストエキス(粉末酵母エキスS、日本製薬株式会社製)、2.6質量%ひも寒天(岐阜細寒天、北原産業株式会社製)、;pH7.0〕を用い、10℃、20℃、24℃、27℃、30℃、37℃、又は45℃の各温度で試験した結果、10℃及び45℃での生育は認められず、20℃〜37℃の範囲で生育した。生育至適温度は30℃付近である。
(2)スターチの加水分解(スターチ・無機塩寒天培地、ISP−培地4、27℃培養)
培養後3日目にはスターチの加水分解が認められ、その作用は中等度である。
【0049】
4.菌体成分
細胞壁中の2,6−ジアミノピメリン酸は、LL−型である。
なお、前記菌体成分は、薄層クロマトグラフィーにより分析した。
【0050】
5.16S rRNA遺伝子解析
16S rRNA遺伝子の部分塩基配列(1,432bp)を決定し、DNAデータベース(DNA Data Bank of Japan)に登録された公知菌株のデータと比較した。
その結果、MK932−CF8株の塩基配列は、以下に示すように、ストレプトミセス(
Streptomyces)属放線菌の16S rRNA遺伝子と高い相同性を示した。即ち、
Streptomyces platensis(99%)、
S.
hygroscopicus subsp.
glebosus(99%)、
S.
libani subsp.
rufus(99%)、
S.
caniferus(99%)、
S.
nigrescens(98%)、
S.
catenulae(98%)などである。なお、前記括弧内の数値(%)は、塩基配列の相同値を示す。
【0051】
以上の菌学的性状を要約すると、MK932−CF8株は、その形態上、よく分枝した基生菌糸より、らせん形成を有する気菌糸を伸長し、その先端は卵円形の胞子を連鎖する。種々の培地で、うす黄〜うす黄茶の発育上に明るい灰〜灰の気菌糸を着生する。生育至適温度は30℃付近である。スターチの水解性は中等度である。
MK932−CF8株の細胞壁中の2,6−ジアミノピメリン酸はLL−型である。
MK932−CF8株の16SrRNA遺伝子の部分塩基配列を解析し、公知菌株のデータと比較したところ、ストレプトミセス属放線菌と高い相同性を示した。
【0052】
以上の結果より、MK932−CF8株は、ストレプトミセス(
Streptomyces)属に属するものと考えられた。そこで、MK932−CF8株をストレプトミセス・エスピー(
Streptomyces sp.)MK932−CF8株とした。
なお、前記MK932−CF8株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に寄託申請し、2009年11月13日に国内寄託され、その後、2013年7月17日にブダペスト条約に基づく国際寄託への移管請求がされ、受託番号NITE BP−00838として国際寄託されている。
【0053】
なお、他の菌にも見られるように、前記MK932−CF8株は、性状が変化し易いが、例えば、前記MK932−CF8株に由来する突然変異株(例えば、紫外線、エックス線、放射線、薬品等の変異処理により取得できる人工変異株や、自然変異株)、形質接合体、遺伝子組換体などであっても、前記一般式(I)で表される化合物を生産する能力を有するものは、本発明の微生物に含まれる。
【0054】
(医薬組成物)
本発明の医薬組成物は、本発明の前記化合物を少なくとも含有し、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
【0055】
<一般式(I)で表される化合物>
前記医薬組成物中の前記一般式(I)で表される化合物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記医薬組成物は、前記一般式(I)で表される化合物そのものであってもよい。
【0056】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、例えば、薬理学的に許容され得る担体の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、添加剤、補助剤、水などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
前記添加剤又は前記補助剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、殺菌剤、保存剤、粘結剤、増粘剤、固着剤、結合剤、着色剤、安定化剤、pH調整剤、緩衝剤、等張化剤、溶剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、結晶析出防止剤、消泡剤、物性向上剤、防腐剤などが挙げられる。
【0058】
前記殺菌剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム等のカチオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0059】
前記保存剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、クレゾールなどが挙げられる。
【0060】
前記粘結剤、増粘剤、固着剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、デンプン、デキストリン、セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルデンプン、プルラン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、グアーガム、ローカストビーンガム、アラビアゴム、キサンタンガム、ゼラチン、カゼイン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、エチレン・プロピレンブロックポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0061】
前記結合剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0062】
前記着色剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化チタン、酸化鉄などが挙げられる。
【0063】
前記安定化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トラガント、アラビアゴム、ゼラチン、ピロ亜硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、チオグリコール酸、チオ乳酸などが挙げられる。
【0064】
前記pH調整剤又は前記緩衝剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0065】
前記等張化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖などが挙げられる。
【0066】
前記医薬組成物中の、前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、前記一般式(I)で表される化合物の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができる。
【0067】
<用途>
前記医薬組成物は、前記一般式(I)で表される化合物を含むため、優れた抗腫瘍作用を有し、安全性の高いものであり、後述する本発明の抗腫瘍剤などに好適に利用可能である。
【0068】
(抗腫瘍剤)
本発明の抗腫瘍剤は、本発明の前記医薬組成物を少なくとも含有し、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
【0069】
<医薬組成物>
前記抗腫瘍剤中の前記医薬組成物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記抗腫瘍剤は、前記医薬組成物そのものであってもよい。
【0070】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、例えば、前記医薬組成物中のその他の成分と同様のものなどが挙げられる。
前記抗腫瘍剤中の、前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、前記一般式(I)で表される化合物の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができる。
【0071】
なお、前記抗腫瘍剤は、1種単独で使用してもよいし、他の成分を有効成分とする医薬や薬剤と併せて使用してもよい。また、前記抗腫瘍剤は、他の成分を有効成分とする医薬や薬剤中に配合された状態で使用してもよい。
【0072】
<抗腫瘍作用>
前記抗腫瘍剤の抗腫瘍作用を調べる方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、後述する試験例に記載の方法などが挙げられる。
【0073】
<剤型>
前記抗腫瘍剤の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、固形剤、半固形剤、液剤などが挙げられる。
【0074】
−固形剤−
前記固形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、内用剤として用いられる場合、例えば、錠剤、チュアブル錠、発泡錠、口腔内崩壊錠、トローチ剤、ドロップ剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、ドライシロップ剤、浸剤などが挙げられる。
前記固形剤が、外用剤として用いられる場合、例えば、坐剤、パップ剤、プラスター剤などが挙げられる。
【0075】
−半固形剤−
前記半固形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、内用剤として用いられる場合、例えば、舐剤、チューインガム剤、ホイップ剤、ゼリー剤などが挙げられる。
前記半固形剤が、外用剤として用いられる場合、例えば、軟膏剤、クリーム剤、ムース剤、インヘラー剤、ナザールジェル剤などが挙げられる。
【0076】
−液剤−
前記液剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、内用剤として用いられる場合、例えば、シロップ剤、ドリンク剤、懸濁剤、酒精剤などが挙げられる。
前記液剤が、外用剤として用いられる場合、例えば、液剤、点眼剤、エアゾール剤、噴霧剤などが挙げられる。
【0077】
<投与>
前記抗腫瘍剤の投与方法、投与量、投与時期、及び投与対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記投与方法としては、例えば、局所投与法、経腸投与法、非経口投与法などが挙げられる。
前記投与量としては、特に制限はなく、投与対象個体の年齢、体重、体質、症状、他の成分を有効成分とする医薬や薬剤の投与の有無など、様々な要因を考慮して適宜選択することができる。
前記投与対象となる動物種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、トリなどが挙げられるが、これらの中でもヒトに好適に用いられる。
【0078】
<用途>
前記抗腫瘍剤は、優れた抗腫瘍作用を有し、安全性が高いため、癌の予防剤又は治療剤として好適に利用可能である。前記抗腫瘍剤は、腫瘍の中でも、アンドロゲン依存性の増殖に対する増殖抑制作用を有するため、好ましくは抗前立腺癌剤として利用でき、また、前立腺癌の予防剤又は治療剤としても好適に利用可能である。更に、アンドロゲンレセプターに依存して増殖をする他の腫瘍(例えば、乳癌、子宮癌など)に対しても予防又は治療剤として利用可能である。
【実施例】
【0079】
以下に本発明の実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0080】
(製造例1)
<アンドロプロスタミンA及びアンドロプロスタミンBの製造>
−種母培養液の調製−
2.0質量%ガラクトース(D−(+)−ガラクトース、和光純薬工業株式会社製)、2.0質量%デキストリン(デキストリン水和物、和光純薬工業株式会社製)、1.0質量%バクトソイトン(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社製)、0.5質量%コーン・スティープ・リカー(向後スターチ株式会社製)、0.2質量%硫酸アンモニウム(和光純薬工業株式会社製)、0.2質量%炭酸カルシウム(和光純薬工業株式会社製)、シリコーン消泡剤〔シリコーン消泡剤(KM−70、信越化学工業株式会社製)と、大豆油(和光純薬工業株式会社製)とを1:1(体積比)で混合した溶液〕30μLを含む液体培地(pH7.4)を震盪フラスコ(500mL容)に110mLずつ分注し、常法により120℃で20分間滅菌した。これらのフラスコ内の滅菌された液体培地に、寒天斜面培地に培養したMK932−CF8株を接種し、27℃で3日間震盪培養し、この培養液を種母培養液とした。
【0081】
−培養工程(固体培養)−
次に、10枚のバット(2,100mL容)に、1バット当たり150gの押し麦(胚芽押し麦、ムソー株式会社製)及び250mLの脱イオン水を含む固体培地を添加し、これを常法により120℃で20分間滅菌した。この固体培地上に前記種母培養液70mLを接種し、30℃で14日間静置培養した。次いで、各バットの固体培地を100体積%エタノール400mLで抽出後、再度70体積%エタノール水溶液400mLで抽出し、培養調整液を得た。
【0082】
−洗浄工程−
このようにして得られた培養調整液8Lを遠心分離し、菌体と培養濾液に分離した。この培養濾液は、減圧下で濃縮し、エタノールを取り除き、脱イオン水を加えることにより、合計2Lの水溶液を得た。この水溶液を500mLの合成吸着剤(ダイヤイオン(登録商標)HP20、三菱化学株式会社製)に付し、2Lの脱イオン水で洗浄した後、2Lの50体積%アセトンで溶出した。この溶出画分を減圧下で濃縮しアセトンを取り除き200mLの水溶液を得た。
【0083】
−採取工程−
前記水溶液を、更にイオン交換樹脂(アンバーライト(登録商標)CG50、シグマアルドリッチ株式会社製)に付し、通過液を得た。この通過液を減圧下で濃縮し、30mLの水溶液を得た。次いで、この水溶液をサイズ排除クロマトグラフ用樹脂(トヨパール(登録商標)HW−40、東ソー株式会社製)によるゲル濾過クロマトグラフィーに供し、脱イオン水で溶出した。得られた溶出画分を減圧下で濃縮乾固し、1.066gの粗精製物を得た。この粗精製物を、1,000mLのゲル濾過クロマトグラフ用担体(セファデックス(登録商標)LH−20、GEヘルスケア社製)によるクロマトグラフィーに供し、50体積%メタノール水で溶出した。得られた画分を濃縮乾固し87.2mgの粗精製物を得た。
【0084】
−精製工程−
得られた粗精製物87.2mgを高速液体クロマトグラフィー(カラム:CAPCELL PAK SG120、資生堂株式会社製)に供し、1体積%トリフルオロ酢酸を含む10体積%アセトニトリル水溶液で溶出した。得られた溶出画分を濃縮乾固し、白色粉末のアンドロプロスタミンAを23.9mg、及び白色粉末のアンドロプロスタミンBを12.0mg、をそれぞれ単離精製した。
【0085】
(製造例2)
<アンドロプロスタミンAの製造>
−培養工程(液体培養)−
1.5質量%ポテトスターチ(バレイショデンプン、吉田製薬株式会社製)、0.75質量%トーストソーヤ(脱脂大豆、日清オイリオグループ株式会社製)、0.25質量%コーン・スティープ・リカー(向後スターチ株式会社製)、0.1質量%酵母エキス(オリエンタル酵母工業株式会社製)、0.15質量%塩化ナトリウム(国産化学株式会社製)、0.025質量%硫酸マグネシウム七水和物(国産化学株式会社製)、0.15質量%炭酸カルシウム(国産化学株式会社製)、0.0005質量%塩化コバルト(II)六水和物(和光純薬株式会社製)を含む液体培地(pH7.2)を震盪フラスコ(500mL容)110mLずつ分注し、常法により120℃で20分間滅菌した。
これらのラスコ内の滅菌された液体培地に、製造例1で調製した種母培養液を、それぞれ3mL接種し、27℃で5日間震盪培養した。
【0086】
−洗浄工程−
得られた培養液2Lを遠心分離し、培養濾液1.6Lを得た。この培養濾液を400mLの合成吸着剤(ダイヤイオン(登録商標)HP20、三菱化学株式会社製)に付し、800mLの脱イオン水で洗浄した後、400mLの10体積%アセトン水で溶出した。この溶出画分を減圧下で濃縮乾固し、1.305gの粗精製物を得た。
【0087】
−採取工程−
前記粗精製物を20mLの50体積%メタノール水に溶解し、900mLのゲル濾過クロマトグラフィー(セファデックス(登録商標)LH−20、GEヘルスケア社製)によるクロマトグラフィーに供し、50体積%メタノール水で溶出した。得られた溶出画分を減圧下で濃縮乾固し、426.1mgの粗精製物を得た。次いで、この粗精製物を20mLの脱イオン水に溶解し、500mLのサイズ排除クロマトグラフ用樹脂(トヨパール(登録商標)HW−40、東ソー株式会社製)によるゲル濾過クロマトグラフィーに供し、脱イオン水で溶出した。得られた溶出画分を減圧下で濃縮乾固し、20.9mgの粗精製物を得た。次いで、この粗精製物を2mLの脱イオン水に溶解し、200mLのゲル濾過クロマトグラフィー(セファデックス(登録商標)LH−20、GEヘルスケア社製)によるクロマトグラフィーに供し、66体積%メタノール水で溶出した。得られた溶出画分を減圧下で濃縮乾固し、9.2mgの粗精製物を得た。
【0088】
−精製工程−
得られた粗精製物を1mLの脱イオン水に溶解し、10mLの逆層クロマトグラフィー(ダイヤイオン(登録商標)CHP20P、三菱化学株式会社製)に付し、脱イオン水−メタノールの濃度勾配溶出を行った。得られた溶出画分を濃縮乾固し、アンドロプロスタミンA 2.4mgを得た。
なお、製造例2の方法では、アンドロプロスタミンBは、得られなかった。
【0089】
<アンドロプロスタミンA及びアンドロプロスタミンBの理化学的性状の分析>
−アンドロプロスタミンAの理化学的性状−
製造例1及び2で得られたアンドロプロスタミンAの理化学的性状は、以下のとおりであった。
(1) 外観は、白色の粉状であった。
(2) 分子式は、C
26H
38N
5O
10Clで表され、分子量は、615であった。
(3) 高分解能質量分析(HRESIMS:正イオンモード)による、実験値は、m/z 616.2386(M+H)
+であり、計算値は、m/z 616.2380(C
26H
39N
5O
10Clとして)であった。
(4) 比旋光度は、[α]
D23=+76.8°(c0.1,メタノール)であった。
(5) メタノール溶液で測定した紫外吸収スペクトルは、前記表1に示すとおりであった。
λ
max nm(ε) :227(13,000,sh),289(11,000)
(6) TLCプレート(TLC Silica gel 60F254、メルク製)の薄層クロマトグラフィーにおいて、展開溶媒〔ブタノール:メタノール:水(4:1:2、体積比)〕で展開して測定したRF値は、0.22であり、展開溶媒〔ブタノール:酢酸:水(4:1:2、体積比)〕で展開して測定したRF値は、0.27であった。
【0090】
−アンドロプロスタミンBの理化学的性状−
製造例1で得られたアンドロプロスタミンBの理化学的性状は、以下のとおりであった。
(1) 外観は、白色の粉状であった。
(2) 分子式は、C
31H
45N
6O
11Clで表され、分子量は、712であった。
(3) 高分解能質量分析(HRESIMS:正イオンモード)による、実験値は、m/z 713.2903(M+H)
+であり、計算値は、m/z 713.2908(C
31H
46N
6O
11Clとして)であった。
(4) 比旋光度は、[α]
D23=+56.8°(c0.2、メタノール)であった。
(5) メタノール溶液で測定した紫外吸収スペクトルは、前記表1に示すとおりであった。
λ
max nm(ε) :227(15,100,sh),289(12,800)
(6) TLCプレート(TLC Silica gel 60F254、メルク製)の薄層クロマトグラフィーにおいて、展開溶媒〔ブタノール:メタノール:水(4:1:2、体積比)〕で展開して測定したRF値は、0.18であり、展開溶媒〔ブタノール:酢酸:水(4:1:2、体積比)〕で展開して測定したRF値は、0.26であった。
【0091】
(試験例1)
アンドロプロスタミンA及びアンドロプロスタミンBの前立腺癌細胞に対するアンドロゲン依存増殖阻害作用を以下の方法で検討した。
【0092】
−LNCaP細胞を用いた検討−
アンドロゲンに応答し増殖を示すヒト前立腺癌細胞株LNCaP細胞(ATCCより入手)を2体積%cFBS(charcol−treated FBS)を含むフェノールレッド非添加のRPMI培地(ライフテクノロジーズジャパン株式会社製)を用いて5×10
4cells/mLで96ウェルプレートに播種し、37℃、5%CO
2の雰囲気下で24時間培養してLNCaP細胞を完全に接着させた。
なお、前記cFBSは、FBS中に含まれるアンドロゲンを除去するために、FBS(MPバイオメディカルズ社製)に0.5質量%の活性炭を添加して60分間撹拌した後、0.45μmのフィルターに通すことにより滅菌と活性炭の除去を行い調製したものを用いた。
【0093】
前記LNCaP細胞を接着させた96ウェルプレートにおいて、アンドロプロスタミンA又はアンドロプロスタミンBを、終濃度が、0.002μg/mL、0.008μg/mL、0.03μg/mL、0.13μg/mL、0.52μg/mL、2.08μg/mL、8.33μg/mL、又は33.3μg/mLとなるように添加し、更に合成アンドロゲン(R1881、WaterStone Technology社製)を終濃度が1nMとなるように添加した。次いで、5日間、37℃、5%CO
2雰囲気下で培養した。
また、比較対照としては、前記LNCaP細胞を接着させた96ウェルプレートにおいて、アンドロプロスタミンA又はアンドロプロスタミンBを添加せず、合成アンドロゲン(R1881)を終濃度が1nMとなるように添加し、5日間、37℃、5%CO
2雰囲気下で培養した。
5日間培養後、MTT法を用いてLNCaP細胞の細胞増殖を測定した。アンドロプロスタミンA又はアンドロプロスタミンBを添加した系の吸光度を「A」とし、比較対照の系の吸光度を「B」として、下記式(1)により、細胞増殖阻害率(%)を算出した。
細胞増殖阻害率(%)={(B−A)/B}×100 ・・・式(1)
次に、前記細胞増殖阻害率より、LNCaP細胞の細胞増殖を50%抑制する濃度(IC
50値)を判定した。結果を下記表2、並びに、
図1及び
図2に示す。
【0094】
−VCaP細胞を用いた検討−
前記「LNCaP細胞を用いた検討」において、LNCaP細胞を、アンドロゲン低依存性のヒト前立腺癌細胞株VCaP(ATCCより入手)に変えたこと以外は、前記「LNCaP細胞を用いた検討」と同様の方法でVCaP細胞を培養した。
5日間培養後、MTT法を用いてVCaP細胞の細胞増殖を測定し、前記同様の方法で50%抑制する濃度(IC
50値)を判定した。結果を下記表2、並びに、
図3及び
図4に示す。
【0095】
【表2】
【0096】
(試験例2)
試験例1における、アンドロゲン依存増殖阻害作用が特異的であることを確認するため、LNCaP細胞及びVCaP細胞に対する細胞毒性を以下の方法で検討した。
【0097】
LNCaP細胞又はVCaP細胞(共に、ATCCより入手)を2液量%FBS又は10液量%FBSを含むフェノールレッド非添加のRPMI培地(ライフテクノロジーズジャパン株式会社製)を用いて5×10
4cells/mLで96ウェルプレートに播種し、37℃、5%CO
2の雰囲気下で24時間培養して細胞を完全に接着させた。
【0098】
前記96ウェルプレートの2体積%FBSを添加した系において、アンドロプロスタミンA又はアンドロプロスタミンBを、終濃度が、0.002μg/mL、0.008μg/mL、0.03μg/mL、0.13μg/mL、0.52μg/mL、2.08μg/mL、8.33μg/mL、又は33.3μg/mLとなるように添加した。
2体積%FBSを添加した系における比較対照としては、前記LNCaP細胞又はVCaP細胞を接着させた96ウェルプレートにおいて、アンドロプロスタミンA又はアンドロプロスタミンBを添加せず、5日間、37℃、5%CO
2雰囲気下で培養した。
また、前記96ウェルプレートの10体積%FBSを添加した系において、終濃度が、0.002μg/mL、0.008μg/mL、0.03μg/mL、0.13μg/mL、0.52μg/mL、2.08μg/mL、8.33μg/mL、又は33.3μg/mLとなるように調整したアンドロプロスタミンA又はアンドロプロスタミンBを添加した。次いで、5日間、37℃、5%CO
2雰囲気下で培養した。
10体積%FBSを添加した系における比較対照としては、前記LNCaP細胞又はVCaP細胞を接着させた96ウェルプレートにおいて、アンドロプロスタミンA又はアンドロプロスタミンBを添加せず、5日間、37℃、5%CO
2雰囲気下で培養した。
5日間培養後、MTT法を用いてLNCaP細胞及びVCaP細胞の細胞増殖を測定した。アンドロプロスタミンA又はアンドロプロスタミンBを添加した系の吸光度を「A」とし、比較対照の吸光度を「B」として、前記試験例1における式(1)により、細胞増殖阻害率(%)を算出した。
次に、前記細胞増殖阻害率より、細胞毒性を示すアンドロプロスタミンA又はアンドロプロスタミンBの濃度(IC
50値)を判定した。結果を下記表3、並びに、
図1〜4に示す。
【0099】
【表3】
【0100】
試験例1及び2の結果から明らかなように、アンドロプロスタミンA及びアンドロプロスタミンBは、前立腺癌のアンドロゲン依存増殖に対し特異的な阻害作用を有していることがわかった。
【0101】
(試験例3)
−LNCaP細胞における前立腺特異的抗原の発現抑制作用の確認−
ヒト前立腺癌細胞株LNCaP細胞(ATCCより入手)を、2体積%cFBSを含むフェノールレッド非添加のRPMI培地(ライフテクノロジーズジャパン株式会社製)を用いて5×10
5cells/mLで3cmシャーレに播種し、37℃、5%CO
2の雰囲気下で24時間培養して細胞を完全に接着させた。なお、前記cFBSは、試験例1と同様のものを用いた。
【0102】
次に、アンドロプロスタミンAを、終濃度が、0.05μg/mL、0.1μg/mL、0.5μg/mL、1μg/mL、5μg/mL、又は10μg/mLとなるように添加し、更に合成アンドロゲン(R1881、WaterStone Technology社製)を終濃度が1nMとなるように添加した。次いで、48時間、37℃、5%CO
2雰囲気下で培養した。
【0103】
前記48時間培養後のLNCaP細胞から、RNA抽出キット(RNeasy (登録商標) キアゲン社製)を用いて総RNAを抽出した。得られた総RNAより1μgを用いて逆転写反応キット(Reverse Transcription System (登録商標) プロメガ社製)を用いてcDNAを合成した。次いで、インターカレーター法によるリアルタイムPCR専用試薬(SYBR Premix Ex Taq II (登録商標) タカラバイオ株式会社製)を用いてリアルタイムPCRを行った。前立腺特異的抗原(PSA:Prostate Specific Antigen)及びアクチンのmRNAの発現量を測定し、アクチンのmRNAの発現量に対するPSAのmRNAの発現量(PSA/アクチン)を算出した。なお、PSA及びアクチンのプライマーはタカラバイオ株式会社から購入した。結果を
図5に示す。
【0104】
−VCaP細胞における前立腺特異的抗原の発現の確認−
前記「LNCaP細胞における前立腺特異的抗原の発現の確認」において、LNCaP細胞を、VCaP細胞に変えたこと以外は、前記「LNCaP細胞における前立腺特異的抗原の発現の確認」と同様の方法でVCaP細胞を培養し、前立腺特異的抗原の発現の確認と同様の方法でアクチンのmRNAの発現量に対するPSAのmRNAの発現量(PSA/アクチン)を算出した。結果を
図6に示す。
【0105】
図5及び
図6の結果より、試験例1の試験系において、合成アンドロゲン(R1881)によりアンドロゲンレセプターの標的遺伝子である前立腺特異抗原のmRNAの発現が誘導され、ここにアンドロプロスタミンAを添加することにより前立腺特異抗原のmRNAの発現が抑制されることがわかった。
【0106】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> 下記一般式(I)で表されることを特徴とする化合物である。
【化11】
ただし、前記一般式(I)において、Xは、下記一般式(IA)及び下記一般式(IB)のいずれかで表される基を表す。
【化12】
ただし、前記一般式(IA)及び前記一般式(IB)において、*は、結合手を表す。
<2> 下記構造式(I)及び下記構造式(II)のいずれかで表される前記<1>に記載の化合物である。
【化13】
【化14】
<3> 下記一般式(I)で表される化合物を生産する能力を有するストレプトミセス エスピー(
Streptomyces sp.)MK932−CF8株(受託番号:NITE BP−00838)を培養して、下記一般式(I)で表される化合物を製造することを特徴とする化合物の製造方法である。
【化15】
ただし、前記一般式(I)において、Xは、下記一般式(IA)及び下記一般式(IB)のいずれかで表される基を表す。
【化16】
ただし、前記一般式(IA)及び前記一般式(IB)において、*は、結合手を表す。
<4> 下記一般式(I)で表される化合物を生産する能力を有する微生物であって、前記微生物が、ストレプトミセス エスピー(
Streptomyces sp.)MK932−CF8株(受託番号:NITE BP−00838)であることを特徴とする微生物である。
【化17】
ただし、前記一般式(I)において、Xは、下記一般式(IA)及び下記一般式(IB)のいずれかで表される基を表す。
【化18】
ただし、前記一般式(IA)及び前記一般式(IB)において、*は、結合手を表す。
<5> 前記<1>から<2>のいずれかに記載の化合物を含有することを特徴とする医薬組成物である。
<6> 前記<5>に記載の医薬組成物を含有し、抗腫瘍作用を有することを特徴とする抗腫瘍剤である。
<7> 前記<6>に記載の抗腫瘍剤を含有し、癌の予防又は治療に用いられることを特徴とする癌の予防剤又は治療剤である。
<8> 前記<5>に記載の医薬組成物を含有し、前立腺癌の増殖抑制作用を有することを特徴とする抗前立腺癌剤である。
<9> 前記<8>に記載の抗前立腺癌剤を含有し、前立腺癌の予防又は治療に用いられることを特徴とする前立腺癌の予防剤又は治療剤である。