特許第6154420号(P6154420)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6154420サーボモータの回転角度を計測する計測方法および計測装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6154420
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】サーボモータの回転角度を計測する計測方法および計測装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/24 20060101AFI20170619BHJP
   B23K 11/11 20060101ALI20170619BHJP
【FI】
   B23K11/24 336
   B23K11/11 550A
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-67718(P2015-67718)
(22)【出願日】2015年3月27日
(65)【公開番号】特開2016-185564(P2016-185564A)
(43)【公開日】2016年10月27日
【審査請求日】2016年6月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100157211
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100159684
【弁理士】
【氏名又は名称】田原 正宏
(72)【発明者】
【氏名】青木 俊道
【審査官】 竹下 和志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−35951(JP,A)
【文献】 特開平10−94882(JP,A)
【文献】 特開平9−150278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00 − 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボモータ(14)により駆動される可動電極(11)と該可動電極に対向して配置された対向電極(12)とが取付けられたスポット溶接ガン(13)における前記サーボモータの回転角度を計測する計測方法において、
基準可動電極(11a)および基準対向電極(12a)が前記スポット溶接ガンに取付けられた状態で、前記サーボモータを駆動して前記基準可動電極を前記基準対向電極に接触させたときの前記サーボモータの回転角度を第一回転角度として取得する第一回転角度取得工程と、
前記基準可動電極を前記基準対向電極に対して所定の加圧力で押込んだときの前記サーボモータの回転角度を第二回転角度として取得する第二回転角度取得工程と、
前記第一回転角度と前記第二回転角度との間の偏差を回転角度補正量として取得する回転角度補正量取得工程と、
計測されるべき可動電極(11b)および計測されるべき対向電極(12b)が前記スポット溶接ガンに取付けられた状態で、前記第二回転角度を取得したときと同じ加圧力で前記計測されるべき可動電極を前記計測されるべき対向電極に対して押込んだときの前記サーボモータの回転角度を第三回転角度として取得する第三回転角度取得工程と、
前記第三回転角度を前記回転角度補正量により補正して、第四回転角度として取得する第四回転角度取得工程とを含む計測方法。
【請求項2】
前記第四回転角度取得工程後に、前記第一回転角度と前記第四回転角度との間の偏差を求める工程を更に含む、請求項1に記載の計測方法。
【請求項3】
前記第一回転角度取得工程においては、前記サーボモータの電流または推定外乱トルクを監視し、
前記電流または前記推定外乱トルクが所定の閾値を超えたときに、前記基準可動電極が前記基準対向電極に接触したと判断し、前記基準可動電極を停止させて前記サーボモータの回転角度を前記第一回転角度として取得する、請求項1または2に記載の計測方法。
【請求項4】
前記第一回転角度取得工程においては、前記サーボモータに対して所定のトルクリミットを適用し、
前記基準可動電極が前記基準対向電極に接触して前記トルクリミットにより前記基準可動電極が停止したときの前記サーボモータの回転角度を前記第一回転角度として取得する、請求項1または2に記載の計測方法。
【請求項5】
前記第一回転角度取得工程において、前記基準可動電極または前記基準対向電極の少なくとも一方の画像を撮像位置において順次撮像し、
撮像された画像に基づいて前記基準可動電極が前記基準対向電極に接触したときの前記サーボモータの回転角度を前記第一回転角度として取得する、請求項1または2に記載の計測方法。
【請求項6】
前記所定の加圧力は、前記サーボモータの電流または推定外乱トルクが、前記可動電極を移動させるときに発生する前記サーボモータに対する負荷よりも十分に大きいようにした、請求項1から4のうちいずれか一項に記載の計測方法。
【請求項7】
サーボモータ(14)により駆動される可動電極(11)と該可動電極に対向して配置された対向電極(12)とが取付けられたスポット溶接ガン(13)における前記サーボモータの回転角度を計測する計測装置(20)において、
基準可動電極(11a)および基準対向電極(11b)が前記スポット溶接ガンに取付けられた状態で、前記サーボモータを駆動して前記基準可動電極を前記基準対向電極に接触させたときの前記サーボモータの回転角度を第一回転角度として取得する第一回転角度取得部(21)と、
前記基準可動電極を前記基準対向電極に対して所定の加圧力で押込んだときの前記サーボモータの回転角度を第二回転角度として取得する第二回転角度取得部(22)と、
前記第一回転角度と前記第二回転角度との間の偏差を回転角度補正量として取得する回転角度補正量取得部(23)と、
計測されるべき可動電極(11b)および計測されるべき対向電極(12b)が前記スポット溶接ガンに取付けられた状態で、前記第二回転角度を取得したときと同じ加圧力で前記計測されるべき可動電極を前記計測されるべき対向電極に対して押込んだときの前記サーボモータの回転角度を第三回転角度として取得する第三回転角度取得部(24)と、
前記第三回転角度を前記回転角度補正量により補正して、第四回転角度として取得する第四回転角度取得部(25)とを含む計測装置。
【請求項8】
前記第四回転角度を取得した後で、前記第一回転角度と前記第四回転角度との間の偏差を求める偏差算出部(26)を更に含む、請求項7に記載の計測装置。
【請求項9】
前記第一回転角度取得部は、前記サーボモータの電流または推定外乱トルクを監視し、
前記電流または前記推定外乱トルクが所定の閾値を超えたときに、前記基準可動電極が前記基準対向電極に接触したと判断し、前記基準可動電極を停止させて前記サーボモータの回転角度を前記第一回転角度として取得する、請求項7または8に記載の計測装置。
【請求項10】
前記第一回転角度取得部は、前記サーボモータに対して所定のトルクリミットを適用し、
前記基準可動電極が前記基準対向電極に接触して前記トルクリミットにより前記基準可動電極が停止したときの前記サーボモータの回転角度を前記第一回転角度として取得する、請求項7または8に記載の計測装置。
【請求項11】
前記第一回転角度取得部は、前記基準可動電極または前記基準対向電極の少なくとも一方の画像を撮像位置において順次撮像する撮像部(30)をさらに含み、
撮像された画像に基づいて前記基準可動電極が前記基準対向電極に接触したときの前記サーボモータの回転角度を前記第一回転角度として取得する、請求項7または8に記載の計測装置。
【請求項12】
前記所定の加圧力は、前記サーボモータの電流または推定外乱トルクが、前記可動電極を移動させるときに発生する前記サーボモータに対する負荷よりも十分に大きいようにした、請求項7から10のうちいずれか一項に記載の計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接ガンを駆動するサーボモータの回転角度を計測する計測方法およびそのような方法を計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、スポット溶接ガンには、サーボモータにより駆動される可動電極と、可動電極に対向して配置される対向電極とが備えられている。可動電極の位置制御は、可動電極の先端と対向電極の先端とが接触または当接するときのサーボモータの接触回転角度に基づいて行われる。
【0003】
しかしながら、スポット溶接においては、溶接を行うたびに可動電極および/または対向電極の先端が変形または摩滅したり、酸化皮膜が可動電極および/または対向電極に付着する場合がある。このような場合には、溶接電流を可動電極および対向電極に効率的に流せなくなる。
【0004】
従って、可動電極および対向電極の表面を定期的にドレスする必要があるが、このようなドレス作業によって可動電極および対向電極の先端位置が変化する。前述したように、接触回転角度に基づいて可動電極の位置制御を行っているので、ドレス作業後において、接触回転角度を再び検出する必要がある。
【0005】
ここで、特許文献1においては、可動電極の先端に加わる負荷が第一閾値に達するまで可動電極を固定電極に押付ける押付工程と、負荷が第一閾値に達すると可動電極を後退させて、可動電極の先端に加わる負荷が第一閾値よりも小さい第二閾値に達したときの可動電極の軸の位置を基準位置として記憶する記憶工程と、が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献2においては、可動電極が動作することのできる最小限のトルクリミットを求めている。そして、可動電極が対向電極に接触してトルクリミットに達すると、可動電極を停止させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−283059号公報
【特許文献2】特許第4880021号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、スポット溶接ガンを使用して長期間が経過すると、経年劣化により、スポット溶接ガンの減速機やベアリングなどの機械要素が摩滅したり、潤滑油としてのグリスが劣化する。このため、可動電極を動作させる際の摺動抵抗が増加するようになる。その結果、摺動抵抗が増加する前と比較して、サーボモータの電流が増加する。
【0009】
このような状況において特許文献1の技術を適用すると、摺動抵抗により負荷が増えるので、可動電極が対向電極に接触していなくても、接触したとみなされる事態が起こる。ここで、特許文献1において前述した摺動抵抗の増加を考慮して第一閾値を比較的大きく設定することも可能である。しかしながら、この場合には、負荷が第一閾値に達するまで可動電極が対向電極を押込むことになる。このため、可動電極を後退させたとしても、減速機のヒステリシスによって可動電極が対向電極に接触し続ける事態が生じうる。
【0010】
また、特許文献2においては、トルクリミットを設定するために、対向電極とワークとの間に十分な距離を確保して、対向電極がワークに接触しないようにすることが望ましい。電極の検査は生産稼働中に行う必要があるものの、対向電極とワークとの間に十分な距離を確保するのに時間がかかるので好ましくない。
【0011】
この点に関し、特許文献2においてトルクリミットを予め設定することも考えられる。しかしながら、特許文献1の場合と同様に、機械要素の経年劣化によって可動電極の動作時に必要な電流またはトルクが増加した場合には、可動電極が対向電極に接触する前に停止することになる。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、スポット溶接ガンの機械要素が経年劣化した場合であっても回転角度を正確に求めることのできる計測方法およびそのような方法を実施する計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達成するために1番目の発明によれば、サーボモータにより駆動される可動電極と該可動電極に対向して配置された対向電極とが取付けられたスポット溶接ガンにおける前記サーボモータの回転角度を計測する計測方法において、基準可動電極および基準対向電極が前記スポット溶接ガンに取付けられた状態で、前記サーボモータを駆動して前記基準可動電極を前記基準対向電極に接触させたときの前記サーボモータの回転角度を第一回転角度として取得する第一回転角度取得工程と、前記基準可動電極を前記基準対向電極に対して所定の加圧力で押込んだときの前記サーボモータの回転角度を第二回転角度として取得する第二回転角度取得工程と、前記第一回転角度と前記第二回転角度との間の偏差を回転角度補正量として取得する回転角度補正量取得工程と、計測されるべき可動電極および計測されるべき対向電極が前記スポット溶接ガンに取付けられた状態で、前記第二回転角度を取得したときと同じ加圧力で前記計測されるべき可動電極を前記計測されるべき対向電極に対して押込んだときの前記サーボモータの回転角度を第三回転角度として取得する第三回転角度取得工程と、前記第三回転角度を前記回転角度補正量により補正して、第四回転角度として取得する第四回転角度取得工程とを含む計測方法が提供される。
2番目の発明によれば、1番目の発明において、前記第四回転角度取得工程後に、前記第一回転角度と前記第四回転角度との間の偏差を求める工程を更に含む。
3番目の発明によれば、1番目または2番目の発明において、前記第一回転角度取得工程においては、前記サーボモータの電流または推定外乱トルクを監視し、前記電流または前記推定外乱トルクが所定の閾値を超えたときに、前記基準可動電極が前記基準対向電極に接触したと判断し、前記基準可動電極を停止させて前記サーボモータの回転角度を前記第一回転角度として取得する。
4番目の発明によれば、1番目または2番目の発明において、前記第一回転角度取得工程においては、前記サーボモータに対して所定のトルクリミットを適用し、前記基準可動電極が前記基準対向電極に接触して前記トルクリミットにより前記基準可動電極が停止したときの前記サーボモータの回転角度を前記第一回転角度として取得する。
5番目の発明によれば、1番目または2番目の発明において、前記第一回転角度取得工程において、前記基準可動電極または前記基準対向電極の少なくとも一方の画像を撮像位置において順次撮像し、撮像された画像に基づいて前記基準可動電極が前記基準対向電極に接触したときの前記サーボモータの回転角度を前記第一回転角度として取得する。
6番目の発明によれば、1番目から4番目のいずれかの発明において、前記所定の加圧力は、前記サーボモータの電流または推定外乱トルクが、前記可動電極を移動させるときに発生する前記サーボモータに対する負荷よりも十分に大きいようにした。
7番目の発明によれば、サーボモータにより駆動される可動電極と該可動電極に対向して配置された対向電極とが取付けられたスポット溶接ガンにおける前記サーボモータの回転角度を計測する計測装置において、基準可動電極および基準対向電極が前記スポット溶接ガンに取付けられた状態で、前記サーボモータを駆動して前記基準可動電極を前記基準対向電極に接触させたときの前記サーボモータの回転角度を第一回転角度として取得する第一回転角度取得部と、前記基準可動電極を前記基準対向電極に対して所定の加圧力で押込んだときの前記サーボモータの回転角度を第二回転角度として取得する第二回転角度取得部と、前記第一回転角度と前記第二回転角度との間の偏差を回転角度補正量として取得する回転角度補正量取得部と、計測されるべき可動電極および計測されるべき対向電極が前記スポット溶接ガンに取付けられた状態で、前記第二回転角度を取得したときと同じ加圧力で前記計測されるべき可動電極を前記計測されるべき対向電極に対して押込んだときの前記サーボモータの回転角度を第三回転角度として取得する第三回転角度取得部と、前記第三回転角度を前記回転角度補正量により補正して、第四回転角度として取得する第四回転角度取得部とを含む計測装置が提供される。
8番目の発明によれば、7番目の発明において、前記第四回転角度を取得した後で、前記第一回転角度と前記第四回転角度との間の偏差を求める偏差算出部を更に含む。
9番目の発明によれば、7番目または8番目の発明において、前記第一回転角度取得部は、前記サーボモータの電流または推定外乱トルクを監視し、前記電流または前記推定外乱トルクが所定の閾値を超えたときに、前記基準可動電極が前記基準対向電極に接触したと判断し、前記基準可動電極を停止させて前記サーボモータの回転角度を前記第一回転角度として取得する。
10番目の発明によれば、7番目または8番目の発明において、前記第一回転角度取得部は、前記サーボモータに対して所定のトルクリミットを適用し、前記基準可動電極が前記基準対向電極に接触して前記トルクリミットにより前記基準可動電極が停止したときの前記サーボモータの回転角度を前記第一回転角度として取得する。
11番目の発明によれば、7番目または8番目の発明において、前記第一回転角度取得部は、前記基準可動電極または前記基準対向電極の少なくとも一方の画像を撮像位置において順次撮像する撮像部をさらに含み、撮像された画像に基づいて前記基準可動電極が前記基準対向電極に接触したときの前記サーボモータの回転角度を前記第一回転角度として取得する。
12番目の発明によれば、7番目から11番目のいずれかの発明において、前記所定の加圧力は、前記サーボモータの電流または推定外乱トルクが、前記可動電極を移動させるときに発生する前記サーボモータに対する負荷よりも十分に大きいようにした。
【発明の効果】
【0014】
1番目の発明においては、可動電極を移動させるときに発生しうるサーボモータに対する負荷が種々の要因により変動した場合、例えば機械要素が経年劣化した場合であっても、可動電極と対向電極とが互いに接触または当接するときのサーボモータの回転角度を正確に計測することができる。
2番目および8番目の発明において、計測されるべき可動電極および計測されるべき対向電極のそれぞれが、基準可動電極および基準対向電極と同種の場合には、回転角度の変化量に基づいて基準可動電極および基準対向電極の先端位置の変化量を把握することができる。
3番目から5番目および9番目から11番目の発明においては、基準となる第一回転角度を正確に求めることができる。
6番目および12番目の発明においては、基準可動電極が基準対向電極を確実に押込んでいる状態もしくは計測されるべき可動電極が計測されるべき対向電極を確実に押込んでいる状態で、第二回転角度と第三回転角度を取得することができる。
【0015】
添付図面に示される本発明の典型的な実施形態の詳細な説明から、本発明のこれら目的、特徴および利点ならびに他の目的、特徴および利点がさらに明解になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に基づく計測装置を含むスポット溶接システムの略図である。
図2A】回転角度の取得を説明するための第一の図である。
図2B】回転角度の取得を説明するための第二の図である。
図3A】本発明に基づく計測方法における第一回転角度取得工程、第二回転角度取得工程および回転角度補正量取得工程を示す図である。
図3B】本発明に基づく計測方法における第三角度取得工程および第四角度取得工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の図面において同様の部材には同様の参照符号が付けられている。理解を容易にするために、これら図面は縮尺を適宜変更している。
図1は本発明に基づく計測装置を含むスポット溶接システムの略図である。図1に示されるスポット溶接システム1は、ロボット10、例えば多関節ロボットと、ロボット10を制御するロボット制御装置20とを主に含んでいる。
【0018】
図1に示されるように、ロボット10のアームの先端にはスポット溶接ガン13が備えられている。ロボット10は、スポット溶接ガン13の後述する対向電極12の先端を所望の位置に位置決めする役目を果たす。
【0019】
なお、図示しない実施形態においては、ロボット10はアーム先端に備えられたハンドによりワークを把持し、台座に設置されたスポット溶接ガン13の対向電極12の先端に対してワークを位置決めする。この場合には、台座がスポット溶接ガン13の姿勢を変化させる駆動機構を備えていてもよい。
【0020】
図1に示されるスポット溶接ガン13はいわゆるC型スポットガンであり、可動電極11と、可動電極11に対向して配置された対向電極12とを含んでいる。可動電極11はサーボモータ14により駆動され、対向電極12に向かって前進すると共に対向電極12から後退する。対向電極12が、可動電極11と共に移動可能であってもよい。また、スポット溶接ガン13が、加圧シリンダにより開閉可能な一対のガンアームにそれぞれ電極が取付けられたX型スポットガンでもよい。
【0021】
可動電極11を駆動するサーボモータ14は、ロボット10に付属する制御軸としてロボット制御装置20によって制御されうる。また、サーボモータ14には、その回転角度を検出する回転角度検出器15が備えられている。
【0022】
ただし、サーボモータ14が図示しない別の制御装置によって制御されてもよい。この場合には、別の制御装置はデジタル通信手段によりロボット制御装置20に接続されていて、ロボット制御装置20との間で、サーボモータ14の制御信号もしくはフィードバック情報の送受信を行うことができる。フィードバック情報は、サーボモータ14の回転角度やサーボモータ14に流れるモータ電流を含む。サーボモータ14の回転角度から可動電極11の位置を求めることができ、またモータ電流からモータトルクを求めることができる。これらもフィードバック情報として取扱うことができる。
【0023】
ロボット制御装置20はデジタルコンピュータであり、サーボモータ14の回転角度を計測する計測装置としての役目を果たす。図1に示されるように、ロボット制御装置20は、基準可動電極11aおよび基準対向電極12aがスポット溶接ガン13に取付けられた状態で、サーボモータ14を駆動して基準可動電極11aを基準対向電極12bに接触させたときのサーボモータ14の回転角度を第一回転角度P1として取得する第一回転角度取得部21と、基準可動電極11aを基準対向電極11bに対して所定の加圧力で押込んだときのサーボモータ14の回転角度を第二回転角度A2として取得する第二回転角度取得部22と、第一回転角度P1と第二回転角度A2との間の偏差を回転角度補正量として取得する回転角度補正量取得部23とを含んでいる。
【0024】
さらに、ロボット制御装置20は、計測されるべき可動電極11bおよび計測されるべき対向電極12bがスポット溶接ガン13に取付けられた状態で、第二回転角度P2を取得したときと同じ加圧力で計測されるべき可動電極11bを計測されるべき対向電極12bに対して押込んだときのサーボモータ14の回転角度を第三回転角度A3として取得する第三回転角度取得部24と、第三回転角度P3を回転角度補正量により補正して、第四回転角度P4として取得する第四回転角度取得部25とを含んでいる。
【0025】
さらに、ロボット制御装置20は、第四回転角度取得部25において第四回転角度P4を取得した後で、第一回転角度P1と第四回転角度P4との間の偏差を求める偏差算出部26と、サーボモータ14に流れる電流または推定外乱トルクを監視する監視部27と、各種データや閾値、例えばサーボモータ14のトルクリミットを記憶する記憶部28とを含んでいる。監視部27および記憶部28は第一回転角度取得部21に関連づけられるか、または第一回転角度取得部21に含まれるのが好ましい。
【0026】
さらに、第一回転角度取得部21において、基準可動電極11aおよび基準対向電極11bの少なくとも一方の画像を撮像位置において順次撮像する撮像部30、例えばカメラがロボット制御装置20に接続されている。そして、ロボット制御装置20は、撮像部30により撮像された画像を順次記憶する画像記憶部29を含んでいる。画像記憶部29および撮像部30は第一回転角度取得部21に関連付けられるのが好ましい。また、ロボット制御装置20は、図示しない外部装置、例えばライン制御盤と通信を行うことができる。
【0027】
ここで、図2Aおよび図2Bは回転角度の取得を説明するための図である。理解を容易にするために、図1に示される回転角度検出器15は、図2Aおよび図2Bにおいて目盛り付きスケールとして示されている。つまり、スケールの目盛りはサーボモータ14の回転角度を表している。
【0028】
また、図1を参照して分かるように、対向電極12の基端はスポット溶接ガン13の片持ち式のガンアーム13aに取付けられている。この点に関し、図2Aおよび図2Bにおいては片持ち式のガンアーム13aを弾性要素16として模式的に表している。
【0029】
図2Aに示される状態(a)および状態(b)は第一回転角度検出工程および第二回転角度検出工程をそれぞれ示している。状態(a)および状態(b)における可動電極11aおよび対向電極12aはそれぞれ未使用の新しい電極である。このような電極は、回転角度を計測するための基準となる基準可動電極11aおよび基準対向電極12aである。
【0030】
また、図2Bに示される状態(c)および状態(d)は第三回転角度検出工程および第四回転角度検出工程をそれぞれ示している。状態(c)および状態(d)における可動電極11bおよび対向電極12bは任意の状態、例えば或る程度経年劣化した状態にある。例えば図2Bにおいては、研磨により短くされた可動電極11および対向電極12が示されている。このような電極は、回転角度が計測されるべき可動電極11bおよび回転角度が計測されるべき対向電極12bと呼ばれる。
【0031】
なお、図示しない実施例においては、基準可動電極11aおよび基準対向電極12aが経年劣化した電極であると共に、計測されるべき可動電極11bおよび計測されるべき対向電極12bのそれぞれが基準可動電極11aおよび基準対向電極12aよりも長い電極、例えば未使用の電極であってもよい。
【0032】
図3Aは本発明に基づく計測方法における第一回転角度取得工程、第二回転角度取得工程および回転角度補正量取得工程を示す図である。さらに、図3Bは本発明に基づく計測方法における第三角度取得工程および第四角度取得工程を示す図である。以下、図1図3Bを参照しつつ、本発明のサーボモータ14の回転角度を計測する計測方法について説明する。
【0033】
はじめに、基準可動電極11aおよび基準対向電極12aをスポット溶接ガン13に取付ける。そして、図3AのステップS11においては、サーボモータ14を駆動して基準可動電極11aを基準対向電極12aに向かって移動させる。そして、ステップS12において基準可動電極11aが基準対向電極12aの先端に接触したか否かを判定する。
【0034】
ここで、基準可動電極11aが基準対向電極12aに接触したか否かの判断は以下の三つのうちの少なくとも一つの手法(1)〜(3)を用いて行われるものとする。
(1)監視部27が、基準可動電極11aを基準対向電極12aに向かって移動させる際に、サーボモータ14の電流または推定外乱トルクを監視する。そして、基準可動電極11aが基準対向電極12aに接触して電流または推定外乱トルクの増加量がそれぞれの所定の閾値を超えたときに、基準可動電極11aが基準対向電極12aに接触したとみなす。この増加量については、基準可動電極11aが基準対向電極12aを押込まない程度の最小限の値である必要がある。増加量の所定の閾値は実験等により予め求められ記憶部28に記憶されるものとする。ただし、所定の閾値を求めた後でスポット溶接ガン13が経年劣化するので、可能な限り、サーボモータ14の回転角度の計測を望む際に所定値を求めるのが好ましい。
【0035】
(2)基準可動電極11aが動作することのできる最小限のトルクリミットを適用する。この場合、基準可動電極11aが基準対向電極12aに接触すると、基準可動電極11aは基準対向電極12aを押込もうとするための出力すなわちトルクを必要とする。しかしながら、トルクリミットによって出力量が制限されているため、基準可動電極11aは基準対向電極12aを押込むことができず、基準可動電極11aの移動速度が徐々に低下する。そして、移動速度が所定速度まで低下したときに、基準可動電極11aが対向電極に接触したとみなす。なお、移動速度を完全に0まで低下させる必要はない。トルクリミットおよび所定速度は実験等により予め求められ記憶部28に記憶されるものとする。ただし、トルクリミットを求めた後でスポット溶接ガン13が経年劣化するので、可能な限り、サーボモータ14の回転角度の計測を望む際にトルクリミットなどを求めるのが好ましい。
【0036】
(3)基準可動電極11aまたは基準対向電極12aの両方もしくは一方を撮像することのできる撮像部30を利用する(図1を参照されたい)。撮像部30はこれら電極を順次撮像し、その撮像データは画像記憶部29に順次記憶される。そして、基準可動電極11aと基準対向電極12aとが接している状態と同じ特徴を含む、撮像部30の撮像データが得られた場合に、基準可動電極11aが基準対向電極12aに接触したとみなす。なお、基準可動電極11aが基準対向電極12aに接触することが確認できる他の手法を採用することもできる。あるいは、作業者が基準可動電極11aが基準対向電極12aに接触するのを目視で確認してもよい。
【0037】
基準可動電極11aが基準対向電極12aに接触したと判定された場合には、図3AのステップS13に進む。ステップS13においては、サーボモータ14を通じて基準可動電極11aを停止させる。次いで、ステップS14においては、第一回転角度取得部21が第一回転角度P1を取得する(図2Aの状態(a)を参照されたい)。なお、状態(a)において基準可動電極11aは基準対向電極12aを押付けていないので、弾性要素16の長さは自然長である。
【0038】
次いで、ステップS15において、基準可動電極11aを所定位置まで後退させて、スポット溶接ガン13を開放する。ただし、ステップS15を省略し、基準可動電極11aが基準対向電極12aに接した状態から次のステップS16に進んでもよい。この場合には、減速機のヒステリシスを考慮する必要はない。
【0039】
ステップS16においては、サーボモータ14を駆動して基準可動電極11aを基準対向電極12aに向かって再び移動させる。そして、基準可動電極11aが基準対向電極12aを加圧する加圧力を確認する。
【0040】
ステップS17においては、加圧力が所定の加圧力に到達したか否かが判定される。この所定の加圧力は、基準可動電極11aが基準対向電極12aを十分に押込むことのできる、0kgfよりも大きな値である。あるいは、所定の加圧力は、サーボモータ14の電流または推定外乱トルクが、基準可動電極11aまたは計測されるべき可動電極11bを移動させるときに発生するサーボモータ14に対する負荷よりも十分に大きいものとする。このような場合には、基準可動電極11aが基準対向電極12aを確実に押込んでいる状態もしくは計測されるべき可動電極11bが計測されるべき対向電極12bを確実に押込んでいる状態で、第二回転角度P2と第三回転角度P3を取得することができる。
【0041】
ここで、基準可動電極11aが基準対向電極12aを所定の加圧力で加圧したか否かの判断は以下のようにして行われるものとする。監視部27が、基準可動電極11aを基準対向電極12aに向かって移動させる際に、サーボモータ14の電流または推定外乱トルクを監視する。そして、基準可動電極11aが基準対向電極12aを加圧して電流または推定外乱トルクの増加量がそれぞれの所定の他の閾値を超えたときに、基準可動電極11aが基準対向電極12aに所定の加圧力で押込んだとみなす。
【0042】
ここで、電流または推定外乱トルクと加圧力との関係を、力センサ等を用いて予め校正し、その校正データをロボット制御装置20の記憶部28に記憶させておくのが好ましい。この場合には、力センサ等を用いることなしに、基準可動電極11aが基準対向電極12aを加圧する加圧力を判別できる。
【0043】
なお、監視部27が電流または推定外乱トルクを監視する際に、所定の加圧力に相当する値まで上昇したことだけでなく、その状態が所定時間にわたって継続されていることも確認するのが好ましい。この場合には、基準可動電極11aが所定の加圧力で基準対向電極12aを押込んだことをより確実に確認することが可能である。なお、基準可動電極11aが基準対向電極12aを所定の加圧力で押込むことを確認できる他の手法を採用してもよい。
【0044】
基準可動電極11aが基準対向電極12aを所定の加圧力で押込んだと判定された場合には、図3AのステップS18に進む。ステップS18においては、サーボモータ14を通じて基準可動電極11aを停止させる。次いで、ステップS19においては、第二回転角度取得部22が第二回転角度P2を取得する(図2Aの状態(b)を参照されたい)。
【0045】
そして、ステップS20においては、回転角度補正量取得部23が、第一回転角度P1と第二回転角度P2との間の偏差を回転角度補正量D(=P2−P1)として算出する。なお、前述した加圧力が作用するので、図2Aの状態(b)に示されるように弾性要素16は、状態(a)の場合と比較して縮んでいる。弾性要素16が縮んだ量は、基準可動電極11aの状態(a)の位置からの移動量であり、回転角度補正量Dに対応する。フックの法則により、(加圧力)=(回転角度補正量D)×(弾性要素16のバネ定数)という関係式が成立する。
【0046】
その後、基準可動電極11aおよび基準対向電極12aを取外して、計測されるべき可動電極11bおよび計測されるべき対向電極12bをスポット溶接ガン13に取付ける。そして、図3BのステップS21において、サーボモータ14を駆動して可動電極11bを対向電極12bに向かって移動させる。
【0047】
次いで、ステップS22においては、可動電極11bが対向電極12bを加圧する加圧力が所定の加圧力に到達したか否かが判定される。この判定は、ステップS17において説明したのと同様であるので再度の説明を省略する。
【0048】
計測されるべき可動電極11bが計測されるべき対向電極12bを所定の加圧力で押込んだと判定された場合には、図3BのステップS23に進む。ステップS23においては、サーボモータ14を通じて、計測されるべき可動電極11bを停止させる。次いで、ステップS24においては、第三回転角度取得部24が第三回転角度P3を取得する(図2Bの状態(c)を参照されたい)。
【0049】
次いで、ステップS25においては、第四回転角度取得部25は、回転角度補正量Dにより第三回転角度P3を補正して第四回転角度P4(=P3−D)を求める。状態(c)においても弾性要素16は状態(b)の場合と同様の押付力を受けている。状態(b)と状態(c)とにおいて可動電極11a、11bおよび対向電極12a、12bの長さが変化したとしても、弾性要素16は変化しない。このため、前述した関係式は、状態(c)においても成立する。
【0050】
押付力が0になる状態、つまり可動電極11bが対向電極12bに正確に接触する状態にするためには、状態(c)から、回転角度補正量Dだけ可動電極11bを後退させればよい。従って、ステップS25においては、第三回転角度P3および回転角度補正量Dから算出される第四回転角度P4を、計測されるべき可動電極11bおよび計測されるべき対向電極12bが接触するときのサーボモータ14の回転角度として取得する。
【0051】
図2Bに示される状態(d)は、状態(c)から回転角度補正量Dだけ可動電極11bを後退させた状態である。状態(d)においては、研磨された可動電極11bと対向電極12bとが正確に接触している。なお、前述したように第四回転角度P4は関係式から求められるので、実際に状態(d)の状態まで可動電極11bを後退させる必要はない。
【0052】
次いで、ステップS26において、偏差算出部26は、第四回転角度P4と第一回転角度P1との間の偏差を算出する。計測されるべき可動電極11bおよび計測されるべき対向電極12bのそれぞれが、基準可動電極11aおよび基準対向電極12aと同種の場合には、回転角度の変化量に基づいて基準可動電極11aおよび基準対向電極12aの先端位置の変化量を把握することができる。なお、ドレス作業により長さが変化した基準可動電極11aなどが、計測されるべき可動電極11bなどとして使用される場合も同様である。
【0053】
このように、本発明においては、基準可動電極11aおよび基準対向電極12aが用いられたときの回転角度補正量Dによって、計測されるべき可動電極11bおよび計測されるべき対向電極12bが用いられたときの第三回転角度P3を補正している。このため、可動電極11bを移動させるときに発生しうるサーボモータ14に対する負荷が種々の要因により変動した場合、例えば機械要素が経年劣化した場合であっても、計測されるべき可動電極11bと対向電極12bとが互いに接触または当接するときのサーボモータ14の回転角度を正確に求めることができる。
【0054】
この点に関し、従来技術において機械要素が経年劣化した場合には、可動電極が対向電極を押込んだ後のサーボモータの回転角度を、可動電極が対向電極に接触するときの回転角度とみなす可能性があった。このため、従来技術においては閾値やトルクリミットを大きくして誤検出を防止する必要があった。
【0055】
しかしながら、本発明においては、可動電極11bが対向電極12bを押込んだ状態における第三回転角度から、可動電極11bが対向電極12bを押込むことなしに接触している状態における第四回転角度を求めることができる。従って、本発明においては、誤検出を防止しつつ、可動電極11bが対向電極12bに接触するときのサーボモータ14の回転角度を正確に求めることができる。
【0056】
また、第一回転角度P1、第二回転角度P2および回転角度補正量Dを取得するためには、基準可動電極11aおよび基準対向電極12aをスポット溶接ガン13に取付ける必要がある。しかしながら、第一回転角度P1などは一度だけ取得して記憶部28に記憶させればよい。この場合には、計測されるべき可動電極11bおよび対向電極12bが既に取付けられているスポット溶接ガン13から可動電極11bなどを取外す必要がなく、作業効率が低下するのを避けられる。
【0057】
典型的な実施形態を用いて本発明を説明したが、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなしに、前述した変更および種々の他の変更、省略、追加を行うことができるのを理解できるであろう。
【符号の説明】
【0058】
1 スポット溶接システム
10 ロボット
11 可動電極
11a 基準可動電極
11b 計測されるべき可動電極
12 対向電極
12a 基準対向電極
12b 計測されるべき対向電極
13 スポット溶接ガン
13a ガンアーム
14 サーボモータ
15 回転角度検出器
16 弾性要素
20 ロボット制御装置(計測装置)
21 第一回転角度取得部
22 第二回転角度取得部
23 回転角度補正量取得部
24 第三回転角度取得部
25 第四回転角度取得部
26 偏差算出部
27 監視部
28 記憶部
29 画像記憶部
30 撮像部
図1
図2A
図2B
図3A
図3B