(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の技術では、植物の成長促進のために、交流磁界及び電磁波のうち少なくとも一方に加えて、音波を用いる必要があり、言い換えれば、磁界(電磁波)発生装置と、音波発生装置とを用いる必要があり、装置が大型化する可能性があった。なお、このような問題は、植物の成長促進を行う装置に限らず、菌類の成長促進を行う装置にも共通する問題であった。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、植物や菌類の成長促進を行う装置の大型化を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
植物または菌類のいずれか一方である栽培対象物の成長を促進させる成長促進装置であって、
コイルと、
前記栽培対象物を格納する格納容器であって、前記コイルの軸線上に配置される、前記格納容器と、
前記栽培対象物の栽培を行う場合に、前記コイルに、300Hzから100kHzのうちのいずれかの単一周波数の交流電流を流すように制御する交流電源ユニットと、
を備えることを特徴とする成長促進装置。
【0008】
上記構成によれば、音波発生装置を用いることなく、栽培対象物の成長を促進させることができる。この結果、成長促進装置の大型化を抑制することができる。
【0009】
[適用例2]
請求項1に記載の成長促進装置であって、
前記コイルは、軸線が略鉛直方向に沿うように配置され、前記交流電源ユニットによって前記交流電流が流された場合には、前記格納容器に格納された前記栽培対象物に対して、略鉛直方向に沿った交流磁界を付与することを特徴とする成長促進装置。
【0010】
上記構成によれば、栽培対象物に対して略鉛直方向に強い成長促進作用を生じさせることができる。この結果、栽培対象物を短時間で栽培することが可能となる。
【0011】
[適用例3]
請求項1または請求項2に記載の成長促進装置であって、
前記コイルを第1コイルと呼び、前記格納容器を第1格納容器と呼ぶとき、
前記成長促進装置は、
第2コイルと、
前記第2コイルの軸線上に配置される第2格納容器と、
を備え、
前記第1コイルと前記第2コイルは、前記交流電源ユニットに直列または並列で接続されており、
前記交流電源ユニットは、
前記栽培対象物の栽培を行う場合に、前記第1コイルおよび第2コイルに、300Hzから100kHzのうちのいずれかの単一周波数の交流電流を流すように制御することを特徴とする成長促進装置。
【0012】
上記構成によれば、より多くの栽培対象物の成長を促進させることができる。
【0013】
[適用例4]
植物または菌類のいずれか一方である栽培対象物の成長を促進させる成長促進方法であって、
前記栽培対象物を用意する工程と、
前記栽培対象物に対して、300Hzから100kHzのうちのいずれかの単一周波数による交流磁界環境下で栽培する工程と、
を備えることを特徴とする成長促進方法。
【0014】
上記成長促進方法によれば、音波を用いることなく、栽培対象物の成長を促進させることができる。この結果、上記成長促進方法を実現する装置の大型化を抑制することができる。
[形態]
植物または菌類のいずれか一方である栽培対象物の成長を促進させる成長促進装置であって、
第1コイルと、
前記第1コイルとは異なるコイルであって、前記第1コイルと対向する第2コイルと、
前記栽培対象物を格納する格納容器であって、前記第1コイルおよび前記第2コイルの軸線上に配置される、前記格納容器と、
前記第1コイルおよび前記第2コイルに流す交流電流を制御する交流電流ユニットと、
を備え、
前記第1コイルと前記第2コイルは、前記栽培対象物を挟むように配置され、
前記交流電流ユニットは、
前記栽培対象物の栽培を行う場合において、前記第1コイルおよび前記第2コイルに対して、かつ、25kHzの単一周波数の交流電流であり、前記栽培対象物が曝露される磁束密度が50マイクロテスラとなる前記交流電流を流す、
ことを特徴とする成長促進装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、成長促進装置を用いた成長促進方法の実施形態を詳細に説明する。なお、同一の要素には同一符号を用いるものとし、重複する説明は省略する。
【0017】
A.第1実施例:
A1.装置構成:
図1は、第1実施例としての成長促進装置10の全体構成を示す図である。成長促進装置10は、植物を栽培する場合に、植物の成長を促進させるための装置である。成長促進装置10は栽培ユニット100と交流電源ユニット120とを備える。
図1では、図の上下方向が鉛直方向と等しい。
図1には、鉛直方向ggと、鉛直方向に対して垂直な方向(単に水平方向とも呼ぶ)ssが示されている。
【0018】
栽培ユニット100は、植物104を配置するための装置である。栽培ユニット100は、格納容器101と、保護層102と、コイル103A、103Bと、植物104と、培地105と、を備える。
【0019】
栽培ユニット100の各要素の構成は、以下の通りである。すなわち、格納容器101は、直径35mm、高さ120mmの円筒状ガラス容器である。格納容器101は、コイル103Aとコイル103Bの中心点を結ぶ直線(軸線C(後述))上に配置されると共に、側面101Aが鉛直方向ggに沿うように配置される。格納容器101は、中空部108を有する。格納容器101は、中空部108に培地105が配置される。培地105は、植物104を格納する。格納容器101は、ガラスに限られず、透磁率の高い他の素材、例えば、木、陶器、樹脂、または、発泡スチロールから構成されてもよい。また、格納容器101は、略筒状ではなく、略半球状や略円錐状でもよい。なお、格納容器101の底部は水はけを良くするために穴が開けられていてもよい。
【0020】
植物104は、上述したように、格納容器101中の培地105に格納される。本実施例では、植物104は、水平方向よりも、鉛直方向に成長し易い植物を用いている。具体的には、植物104は、チューリップ、ヒヤシンスやクロッカスのような観葉植物を用いることができる。また、植物104は、スプラウト類(緑豆もやし、大豆もやし、発芽大豆、そばの新芽、ブロッコリースプラウト、アルファルファなど)等の食用植物を用いることができる。
【0021】
培地105は脱脂綿に水を含ませて構成される。培地105は、脱脂綿に水を含ませた構成の代わりにロックウールや水耕栽培用高分子ポリマー等を用いることもできる。さらに、培地105は培養土を用いることもできる。
【0022】
保護層102は、筒状であり、厚さ5mmの発砲スチロールで構成される。保護層102は、格納容器101が配設される中空部107を有する。保護層102は、保湿及び保温機能と、格納容器101を外的な力から保護する機能とを有する。なお、保護層102は、発泡スチロールではなく、透磁率の高い他の素材、例えば、木や陶器や樹脂あるいはガラスから構成されてもよい。また、保護層102は、略筒状ではなく、略円錐状や、略半球状、あるいは動物や植物をモチーフとした立体構造形でもよい。本実施例では、保護層102を設けているが、これに限られるものではなく、格納容器101が栽培過程において十分な強度が保てるならば、保護層102を設けなくてもよい。
【0023】
コイル103A、103Bは、同一の形状であり、直径45mmの輪状に構成され、交流電源ユニット120とそれぞれ接続される。コイル103A、103Bは、保護層102の側面に沿って、保護層102の周りを囲むように配置される。すなわち、コイル103A、103Bは、その断面が、水平方向に沿うように、配置される。また、コイル103A、103Bは、植物104を挟むように配置されると共に、互いに軸線(以下では、軸線Cとも呼ぶ)が一致し、鉛直方向に22.5mm離れて配置される。
【0024】
コイル103A、103Bは、交流電源ユニット120によって同相の交流電流が流されると、交流磁界を生じさせる。特に、コイル103A、103Bは、コイル103Aの断面とコイル103Bの断面の間では軸線C方向に沿った交流磁界を生じさせる。この交流磁界の方向をコイル間磁界方向B(
図1参照)とも呼ぶ。このコイル間磁界方向Bは、鉛直方向と同じ方向である。コイル103A、103Bによって生じる交流磁界の磁束密度は、交流磁界の方向がコイル間磁界方向Bである場合に、最大となる。従って、コイル103A、103Bは、交流電流が流されると、コイル103Aの断面とコイル103Bの断面との間に配置された植物104に対して、磁束密度が最大となる交流磁界であって、鉛直方向ggに沿った交流磁界を曝露することができる。
【0025】
なお、コイル103A、103Bは、栽培中に鉛直方向に沿った交流磁界を生じさせるために設置するものであるから、この目的を達成するために、たとえばコイル103A、103Bは植物104に曝露する磁界の磁束密度を部分的に変化させるため、あるいは磁界環境を均質化するために3つ以上設置してもよい。あるいは、コイルを中空ソレノイド1つのみとして、中空ソレノイド内部に保護層102及び格納容器101を格納する構造でもよい。また、コイル103A、103Bは、その断面形状が、輪(円)形以外の形状、例えば、四角形状などの多角形のものを用いてもよい。
【0026】
なお、コイル103A、103Bによって生じる磁界は、コイル103Aの断面とコイル103Bの断面から離れるにしたがって放射状に磁力線は拡散し、言い換えれば、コイル103Aの断面とコイル103Bの断面から離れるにしたがって磁束密度が小さくなる。
【0027】
上記栽培ユニット100の各寸法は適宜変更可能である。
【0028】
交流電源ユニット120は、交流電流発生回路121によって生成した交流電流を電流増幅回路122によって増幅するための装置である。交流電源ユニット120は、交流電流発生回路121と、電流増幅回路122と、電源123とを備える。
【0029】
交流電流発生回路121は300Hzから100kHzまでの交流電流を発生させる回路である。また、電流増幅回路122は、格納容器101内部の最大磁束密度を調整する回路である。
【0030】
導線110は電流増幅回路122から生じた交流電流を各コイル103へ流すための導線であり、各コイル103には同相の交流電流が流れる。
【0031】
電源123は商用交流を用いるためにADコンバータが内蔵されており、交流電流発生回路121及び電流増幅回路122に対して駆動電力を供給する。ただし、成長促進装置全体を小型化あるいは可搬化するために電源123は直流バッテリーや電池を用いることもできる。電源123に直流バッテリーや電池を用いた場合、ADコンバータは不要である。さらに、電源123は上記商用交流ならびに直流バッテリーあるいは電池の双方が使えるようにスイッチによって切り替える機構を設けてもよい。かつ、電源のスイッチをオフにすることで栽培ユニット100の内部に交流磁界を発生させないようにすることもできる。
【0032】
交流電源ユニット120は、交流電流発生回路121によって生成した交流電流を電流増幅回路122によって増幅するための装置である。交流電流発生回路は300Hzから100kHzまでの交流電流を発生させるための周波数可変装置が設けられている。また、電流増幅回路は、格納容器101内部の最大磁束密度を調整するための電流可変装置が設けられている。電流I(アンペア)と格納容器101内部の最大磁束密度B(テスラ)は、コイル103A、103Bの半径をa(メートル)、空気中の透磁率をuとして以下(数1)により計算できる。
【数1】
【0033】
この栽培装置を用いることにより、格納容器内部の交流磁界環境を25kHzの周波数で電流増幅回路122のボリュームつまみの調整によって最大55マイクロテスラ(実効値)の環境を作成することができる。また電源123のスイッチを切ることにより日常の磁界環境で栽培することもできる。
【0034】
交流電源ユニット120の構成は、交流電流発生回路121として低周波発振回路、また電流増幅回路122にはオペアンプを用いた増幅回路と電圧電流変換回路によって作成した。また電源123はADコンバータを用いてコンセントから商用交流を直流電源に変換して、交流電流発生回路121及び電流増幅回路122へ電力を供給する。
【0035】
交流電流発生回路121によって十分な電流が得られる場合には、電流増幅回路122は省略してもよい。また、十分な電流を得るために、電流増幅回路122は多段設けてもよい。
【0036】
A2.実験結果:
上記成長促進装置10を用いて、植物104を栽培した場合と、上記成長促進装置を用いずに、植物104を栽培した場合とを比較する栽培実験を行った。以下にこれらの栽培実験について説明する。
【0037】
栽培実験では、植物104として、カイワレダイコンを用いた。
【0038】
栽培実験は以下の3つの実験を行った。
(1)10マイクロテスラ磁界曝露群(Exposed−10):播種後栽培終了(播種から168時間)まで継続的に25kHz、最大10マイクロテスラ(実効値)の磁界環境に曝露する。
【0039】
(2)50マイクロテスラ磁界曝露群(Exposed−50):播種後栽培終了(播種から168時間)まで継続的に25kHz、最大50マイクロテスラ(実効値)の磁界環境に曝露する。
【0040】
(3)Control群:電源123のスイッチを切り、日常の磁界環境(1〜300kHzの複合磁界で0.24マイクロテスラ以下)で栽培する。
【0041】
上記(1)と(2)は、上記栽培促進装置10を用いた栽培実験に対応する。従って、(1)の実験を、単に実施例1とも呼び、(2)の実験を、単に実施例2とも呼ぶ。また、上記(3)は、上記栽培促進装置10を用いない栽培実験に対応する。従って、(3)の実験を、比較例とも呼ぶ。
【0042】
各栽培実験における培地上での栽培方法は、以下の通りである。すなわち、格納容器に水耕栽培用液体肥料(ベジタブルライフ:大塚化学株式会社製)をイオン交換水で200倍に希釈した溶液を50mL入れ、水耕栽培用土壌保水材(サンフレッシュGT−1:白石カルシウム株式会社製)を0.5g加えゲル化した後、あらかじめ1%次亜塩素酸ナトリウム水溶液に3時間浸して消毒した種子を並べ1週間(168時間)水耕栽培した。なお、栽培中は中間周波磁界を漏洩しないペルチェ型インキュベータを用いて20.0± 0.1 ℃の温度を保った。
【0043】
上記3つの栽培実験のそれぞれについて、種子の播種から168時間経過における根と茎の長さを測定した。但し、播種から48時間経過時に発芽しなかった種子は測定の対象から除外した。
【0044】
根及び茎の長さは、対象を方眼紙上にピンで固定し、布状メジャーを対象に沿わせて測定した。カイワレダイコンは、胚軸部と根の境界から根毛が見られる。従って、この根毛の生え始め部を目視により判断し、根と茎の境界とした。また、茎は胚軸部を対象とし、根は主根を対象とした。
【0045】
得られたデータは、すべての群間に対してOne−way Factiorical ANOVAにより分散分析し、有意差が見られた群間に関してTukey−Kramer法によって多重比較を行った。
【0046】
図2は、実施例と比較例の栽培実験の実験結果を示す図である。具体的には、
図2は、実施例1、実施例2、および、比較例の栽培実験により栽培したカイワレダイコンに対して、その播種から168時間経過時の根(root)、茎(stalk)、全長(length)の平均長さを表した図である。
【0047】
図2に示すように、実施例1、2のカイワレダイコンの茎及び全長は、曝露する交流磁界の磁束密度の大きさに応じて成長が促進される結果となった。この結果、カイワレダイコンの成長を、日常環境での栽培に比べ播種後168時間で最大約49%(
図2参照)促進することに成功し、栽培促進装置10による栽培方法の有用性が明らかになった。すなわち、本実施例の栽培促進装置10によれば、音波装置を用いずとも、植物104の成長を十分促進でき、装置の大型化を抑制することができる。
【0048】
なお、植物の成長は、内生植物ホルモンの分泌が関与している。誘導電流によって生じる交流磁界により、内生植物ホルモンの分泌が促進され、その結果、植物の成長が促進されたと推考される。
【0049】
本実施例の栽培促進装置10は、水平方向よりも鉛直方向に成長し易い植物104(実験では、カイワレダイコン)に対して、磁束密度が最大となる交流磁界であって、鉛直方向ggに沿った交流磁界を付与している。こうすれば、
図2に示す実験結果も示しているように、植物104に対して鉛直方向に強い成長促進作用を付与することができる。この結果、植物104を短期間で成長させることが可能となる。
【0050】
A3.誘導電流密度に基づく磁界の周波数帯域の検討:
電界や磁界、あるいは電磁界による生体影響には、熱的作用と刺激作用があることが広く知られている。
【0051】
(参考文献1)
International Commission on Non−Ionizing Radiation Protection: Guidelines for Limiting Exposure to Time Varying Electric, Magnetic, and Electromagnetic Fields (up to 300HGz). Health Phys. Vol.74, No.4:494−522, 1998.
【0052】
しかし、上記栽培実験の全過程において±0.1℃の範囲で温度変化が見られなかったため、磁界による熱的作用が生じたとは考えにくい。よって、磁界曝露によって生じる生体内の誘導電流が刺激作用として成長促進メカニズムに関与していると推察する。
【0053】
変動磁界曝露によって物質内に誘導される電流密度は、物質を均質な導電率空間上に置かれた円形ループモデルと仮定すると、これに垂直な磁束ベクトルが入射されたときに生じる電流密度J(A/m)は、周波数f(Hz)、導電率σ(S/m)、ループ半径r(m)、磁束密度B(T)、及び磁束ベクトルと円形ループモデルの断面からなす角度θ(Rad)により数2により導かれる。
【数2】
【0054】
また、本実施例1のように、磁界の放射源と、磁界が曝露される対象物が近接する近傍界の場では、ループコイルアンテナから放射される電界E(V/m)及び磁界H(A/m)は、ループ電流I(A)、ループ面積S(平方m)、波長λ(m)、距離D(m)、及び空間インピーダンスZ(Ω)として、それぞれ数3及び数4で示される。
【数3】
【数4】
【0055】
これらより、曝露する磁界は、周波数を高くするほど生体内により高い誘導電流密度を生じることができる。一方で、磁界の変動に伴って生じる電界によって、生体に熱的影響が生じることが懸念される。
【0056】
電磁界の熱的吸収の割合を示すSAR(Specific Absorption Rate)(W/Kg)は、電磁界中の電界強度E(V/m)と物質の導電率σ(S/m)、及び密度ρ(Kg/立方m)により数5により導かれる。
【数5】
【0057】
よって、電界は周波数に比例するため、高周波になるほど熱的吸収が生じ、成長促進装置10及び植物104が発熱することで栽培に最適な環境をコントロールすることが難しくなる。この熱的作用は生体に対し、特に100kHz以上で顕著になることが上記参考文献1でも示されている。
【0058】
また、コイル103A、103Bに交流電流を流すことによってコイル103A、103B内部に磁界が発生するが、このときコイル103A、103Bの見かけ上の抵抗Z(インピーダンス)は、コイル103A、103BのインダクタンスをL(H)とすると入力する電源の周波数f(Hz)により数6のように変化することが知られている。つまり、周波数の変化は、コイル103A、103Bに入力される電流量が変化することを意味する。したがって所望の磁束密度を得るためには、コイル103A、103Bに流す電流量を制御するための機構が必須となる。
【数6】
【0059】
これらより、発熱作用を生じることなく誘導電流を生じることのできる磁界の周波数帯域は、WHOの規定する中間周波帯(参考文献2)であり、その帯域の中でも特に発熱作用が小さい300Hzから100kHzのうちいずれかの単一周波数を用いる成長促進手法は、交流磁界を用いた成長促進手法として最適であり、音波を用いることなく成長促進ができるため、装置を小型化できる。
【0060】
しかし、上記中間周波帯域の中においても低い周波帯域では、数2より栽培対象物内の誘導電流密度が成長を促進させるほど十分に生じないことが懸念される。コイル103A、103Bに流す電流を大きくすれば、数1より生じる磁束密度が大きくなるため、その結果栽培対象物内の誘導電流密度は大きくなると予測されるが、装置の消費電力はコイル103A、103Bに流れる電流に比例することから考えても効率的ではない。また数6から、周波数が高くなるとコイルに流れる電流は小さくなる。
【0061】
これらを総合的に踏まえ、消費電力と周波数のトレードオフから、十分に成長促進作用が確認できた第1実施例の栽培実験での周波数25kHzを含む、1kHzから100kHzのうちいずれかの単一周波数を用いる成長促進手法は、交流磁界を用いた成長促進手法として適する。
【0062】
あるいは、さらに省消費電力化を考慮して、20kHzから80kHzのうちいずれかの単一周波数を用いる成長促進手法は、交流磁界を用いた成長促進手法として適する。
【0063】
また、数2より、栽培対象物内部で生じる誘導電流は、曝露される磁界ベクトル方向と栽培対象物の向きが垂直であるほど大きいことがわかる。第1実施例の栽培実験では、カイワレダイコンを栽培対象物としているが、カイワレダイコンは水平方向ssよりも鉛直方向ggに成長し易い植物であり、成長促進装置10による磁界ベクトルと栽培対象物が垂直に近似するため、成長促進手法として最適である。すなわち、水平方向ssよりも鉛直方向ggに成長し易い植物104では、磁界の方向が鉛直方向である成長促進装置10は、成長促進手法として最適であり、音波を用いることなく装置を小型化できる。
【0064】
(参考文献2)
World Health Organization: Electromagnetic fields and public health Intermediate Frequencies(IF), International EMF Project Information Sheet, 1−4, 2005.
【0065】
B.第2実施例:
図3は、第2実施例としての成長促進装置11の全体構成を示す図である。この成長促進装置11は、菌類を栽培する場合に、菌類の成長を促進させるための装置である。第2実施例の成長促進装置11は、第1実施例の成長促進装置10と比較して、培地105の代わりに、菌床106Aを有する点で相違する。第2実施例の成長促進装置11におけるその他の構成は、第1実施例の成長促進装置10と同様であるので、説明を省略する。菌床106Aは、しいたけ、ひらたけ、くりたけ、なめこ、えのき、マッシュルーム、及び酵母等の菌類106Bを栽培するための床である。
図3では、菌床106Aとして、しいたけ用の菌床が示されている。なお、菌床106Aの代わりに、植菌された原木、あるいは酵母を植菌された培地を用いてもよい。
【0066】
菌床106Aにおける菌類も、第1実施例における植物と同様に、内生植物ホルモンが成長促進に関与している。第2実施例の成長促進装置11では、菌床106Aの菌類106Bを磁界中に配置して栽培を実行することができる。従って、菌類106Bは、内生植物ホルモンの分泌が促進され、その結果、菌類106Bの成長が促進されると推察される。このとき、磁界ベクトルに沿うように菌類106Bを配置すれば、より成長速度を速めることができる。
図3における軸線Cは鉛直方向にあり、磁界の向きBと方向が一致している。このため、たとえば菌類106Bとしてえのきたけは成長促進がより効果的となる。
【0067】
C.第3実施例:
図4は、第3実施例の成長促進装置12の全体構成を示す図である。第3実施例の成長促進装置12は、栽培ユニット100Xを備えている点で、第1実施例の成長促進装置10と相違する。第3実施例の成長促進装置12におけるその他の構成は、第1実施例の成長促進装置10と同様であり、説明を省略する。電流増幅回路122から生じた交流電流をコイル103A、103Bへ流すための導線110を分岐させ、栽培ユニット100のコイル103A、103B及び栽培ユニット100Xのコイル103A、103Bに接続する。このように、栽培ユニット100と、栽培ユニット100Xとを交流電源ユニット120に並列接続している。この結果、交流磁界を曝露しながら栽培できる植物の面積を増やすことができる。これにより、多くの栽培対象物を栽培する場合でも電源装置を増設する必要なく、その結果、装置の大型化を抑制することができる。
【0068】
なお、
図4は栽培ユニットを2つ接続しているが、これに限らず3つ以上接続することもできる。また、複数の栽培ユニットは交流電源ユニット120に対して導線110によって直列接続してもよい。また、第2実施例の成長促進装置11に、第3実施例と同様の構成を適用してもよい。すなわち、成長促進装置11における栽培ユニット100に、この栽培ユニット同様の栽培ユニットを並列または直列に接続してもよい。
【0069】
D.変形例:
(変形例1)
上記第1実施例の成長促進装置10における栽培ユニット100では、格納容器101の側面101Aが鉛直方向に沿って配置され、発生させる交流磁界の向きが鉛直方向に沿うようにコイル103A、103Bが配置されているが、これに限るものではない。例えば、格納容器101の側面101Aが水平方向に沿って配置されると共に、コイル103A、103Bは、発生させる交流磁界の向きが水平方向になるように、配置されてもよい。この場合、栽培対象物として、好適なのは、鉛直方向よりも水平方向に成長し易い植物および菌類である。例えば、このような栽培対象物として、スイカのようなツル植物を用いることができる。また、栽培対象物(植物104または菌類106B)を格納容器に格納し、格納容器の開口部の一部あるいは全部を蓋をした後、栽培ユニット100の側面を下にして使用してもよい。
【0070】
(変形例2)
上記第1実施例の成長促進装置10における栽培ユニット100では、コイル103A、103Bは、コイル間磁界方向Bが鉛直方向に沿うように配置されているが、これに限られるものではない。例えば、コイル103A、103Bは、コイル間磁界方向Bが略鉛直方向に沿うように配置されていてもよい。ここで、略鉛直方向とは、コイル103A、103Bの中心点を結ぶ直線(中心点間線分とも呼ぶ)と、鉛直方向ggに沿った直線(鉛直方向直線)とが交差した場合に成す鋭角が、0度より大きく45度よりも小さい場合における中心点間線分に沿った方向であることが好ましい。また、略鉛直方向を、中心点間線分と鉛直方向直線とが交差した場合に成す鋭角が、0度より大きく30度よりも小さい場合における中心点間線分に沿った方向であることがさらに好ましい。
【0071】
中心点間線分と鉛直方向直線とが交差した場合に成す鋭角が、30度である場合、鉛直方向に成長する栽培対象物の内部で生じる誘導電流密度の大きさは、最適な磁界曝露方向(鉛直方向gg)の場合で生じる誘導電流の大きさの約87%となる。コイル間磁界方向Bの磁束密度が50マイクロテスラとした場合、栽培対象物に対する交流磁界の垂直成分は、約43マイクロテスラとなり、実施例1(10マイクロテスラの交流磁界曝露)及び実施例2(50マイクロテスラの交流磁界曝露)の栽培実験による結果(
図2)からも、十分成長促進効果を期待できる。
【0072】
また、中心点間線分と鉛直方向直線とが交差した場合に成す鋭角が、45度である場合、鉛直方向に成長する栽培対象物の内部で生じる誘導電流密度の大きさは、最適な磁界曝露方向(鉛直方向gg)の場合で生じる誘導電流の大きさの約71%となる。コイル間磁界方向Bの磁束密度が50マイクロテスラとした場合、栽培対象物に対する交流磁界の垂直成分は、約43マイクロテスラとなり、実施例1(10マイクロテスラの交流磁界曝露)及び実施例2(50マイクロテスラの交流磁界曝露)の栽培実験による結果(
図2)からも、十分成長促進効果を期待できる。
【0073】
以上、実施例、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。