(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
(スタータ)
次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、スタータ1の断面図である。なお、
図1では、中心線より上側にスタータ1の静止状態を示し、下側にスタータ1の通電状態(ピニオンギヤ74とリングギヤ23とが噛合う過程の状態)を示している。
同図に示すように、スタータ1は、不図示のエンジンの始動に必要な回転力を発生するためのものであって、モータ部3と、モータ部3の一方側(
図1における左側)に連結されている出力軸4と、出力軸4上にスライド移動可能に設けられたクラッチ機構5およびピニオン機構70と、モータ部3に対する電源供給路を開閉するスイッチユニット7と、スイッチユニット7の可動接点板8およびピニオン機構70を軸方向に沿って移動させるための電磁装置9とを有している。
【0024】
(モータ部)
モータ部3は、ブラシ付直流モータ51と、ブラシ付直流モータ51の回転軸52に連結され、この回転軸52の回転力を出力軸4に伝達するための遊星歯車機構2とにより構成されている。
ブラシ付直流モータ51は、略円筒状のモータヨーク53と、モータヨーク53の径方向内側に配置され、モータヨーク53に対して回転自在に設けられているアーマチュア54とを有している。モータヨーク53の内周面には、複数(本実施形態では6個)の永久磁石57が、周方向に磁極が交互となるように設けられている。
【0025】
モータヨーク53の他方側(
図1における右側)の端部には、モータヨーク53の開口部53aを閉塞するエンドプレート55が設けられている。エンドプレート55の径方向略中央には、回転軸52の他方側端を回転自在に支持するための滑り軸受56aと、スラスト軸受56bとが設けられている。
アーマチュア54は、回転軸52と、回転軸52の永久磁石57に対応する位置に外嵌固定されているアーマチュアコア58と、回転軸52のアーマチュアコア58よりも遊星歯車機構2側(
図1における左側)に外嵌固定されているコンミテータ61とにより構成されている。
【0026】
アーマチュアコア58は、放射状に形成された複数のティース(不図示)と、周方向に隣接する各ティース間に形成された複数のスロット(何れも不図示)とを有している。周方向に所定間隔をあけた各スロット間には、コイル59が例えば波巻により巻装されている。コイル59の端末部は、コンミテータ61に向かって引き出されている。
【0027】
コンミテータ61には、複数枚(例えば、この実施形態では26枚)のセグメント62が周方向に沿って、かつ互いに電気的に絶縁されるように所定間隔を空けた状態で設けられている。
各セグメント62のアーマチュアコア58側端には、折り返すように曲折形成されたライザ63が設けられている。ライザ63には、アーマチュアコア58に巻装されているコイル59の端末部が接続されている。
【0028】
(遊星歯車機構)
モータヨーク53のエンドプレート55とは反対側には、有底筒状のトッププレート12が設けられている。トッププレート12には、アーマチュアコア58側の内面に、遊星歯車機構2が設けられている。
遊星歯車機構2は、回転軸52と一体成形されたサンギヤ13と、サンギヤ13に噛合され、サンギヤ13を中心に公転する複数のプラネタリギヤ14と、これらプラネタリギヤ14の外周側に設けられた環状の内歯リングギヤ15とにより構成されている。
【0029】
複数のプラネタリギヤ14は、キャリアプレート16により連結されている。キャリアプレート16には、各プラネタリギヤ14に対応する位置に複数の支持シャフト16aが立設されており、ここにプラネタリギヤ14が回転自在に支持されている。また、キャリアプレート16の径方向略中央には、出力軸4がセレーション係合により噛合っている。
【0030】
内歯リングギヤ15は、トッププレート12のアーマチュアコア58側の内周面に一体成形されている。トッププレート12の内周面における径方向略中央には、滑り軸受12aが設けられている。滑り軸受12aは、回転軸52と同軸上に配置されている出力軸4の他方側(
図1における右側端)の端部104aを回転自在に支持している。
【0031】
(ハウジング)
また、トッププレート12には、有底筒状のハウジング17の開口部17aが外嵌固定されている。ハウジング17は、アルミダイキャストにより形成されたものであって、出力軸4、クラッチ機構5、ピニオン機構70、電磁装置9等が内装されている。また、ハウジング17は、不図示のエンジンにスタータ1を固定する役割を有している。
【0032】
ハウジング17の開口部17a側の外周面には、軸方向に沿うように雌ネジ部17bが刻設されている。また、モータヨーク53の他方側(
図1における右端側)に配置されたエンドプレート55には、雌ネジ部17bに対応する位置にボルト孔55aが形成されている。このボルト孔55aにボルト95を挿入し、雌ネジ部17bにボルト95を螺入することによって、モータ部3とハウジング17とが一体化される。
【0033】
ハウジング17の内壁には、後述するクラッチアウタ18のモータ部3側への変位を規制するリング状のストッパ94が設けられている。このストッパ94は、樹脂やゴム等により形成され、クラッチアウタ18が当接した際の衝撃を緩和できるようになっている。
【0034】
図2は、ハウジング17の底部17cの拡大図であり、緩衝部50の説明図である。
ハウジング17の底部17cには、出力軸4と同軸上に断面略円形状の軸受凹部47が形成されている。軸受凹部47の内周面47aには、出力軸4の一方側(
図1における左側)の端部104bを回転自在に支持するためのラジアル軸受けとしての滑り軸受17dが圧入固定されている。滑り軸受17dには所望の基油からなる潤滑油が含浸されており、その内週面に挿入される出力軸4を円滑に摺接させることができるようになっている。
【0035】
また、滑り軸受17dの長さL1は、軸受凹部47の深さH1よりも短く設定されている。このため、滑り軸受17dの一方側(
図2における左側)の端部と軸受凹部47の底部47bとの間に隙間S1が形成される。そして、この隙間S1に緩衝部50が配置される。緩衝部50は、出力軸4からハウジング17の底部17cに向かって作用するスラスト荷重による衝撃を緩和するためのものであって、緩衝手段として、また、荷重受部材としての平ワッシャ50aと、弾性部材としてのゴムダンパ50bとにより構成されている。
【0036】
平ワッシャ50aは、硬度が出力軸4よりも高く耐摩耗性に優れた金属板にプレス加工を施すことにより、円環状に形成されたものである。平ワッシャ50aの具体的な材料としては、例えばSK85等の炭素工具鋼が用いられる。
また、平ワッシャ50aは、出力軸4の一方側の端部104bと、軸受凹部47の底部47bとの間に配置可能な厚さに形成されている。さらに、平ワッシャ50aの直径D4は、軸受凹部47の内周面47aの直径と略同一か、または若干小さくなる程度に設定されている。これにより、平ワッシャ50aは、隙間S1に配置可能となっている。また、平ワッシャ50aの直径D4は、滑り軸受17dの内径D5よりも大きく設定されている。これにより、ハウジング17に滑り軸受17dが圧入された状態において、ハウジング17から平ワッシャ50aとゴムダンパ50bが脱落することがないようになっている(詳細は後述する)。
【0037】
このように形成された平ワッシャ50aは、プレス加工を施した際に生じるバリを軸受凹部47の底部47b側に向けた状態で配置されている。そして、平ワッシャ50aと軸受凹部47の底部47bとの間に、ゴムダンパ50bが配置されている。
ゴムダンパ50bは略リング状に形成されたものであって、その外径は、平ワッシャ50aの直径D4よりも若干小さくなるように設定されている。これにより、平ワッシャ50aのバリによってゴムダンパ50bが損傷してしまうことを防止できる。ゴムダンパ50bの材料としては、例えばアクリルゴムや二トリルゴム等を用いることが好ましい。
【0038】
ここで、軸受凹部47の底部47bには、外周側に環状の第1逃げ溝47cが形成されている。換言すれば、軸受凹部47の底部47bには、平ワッシャ50aの外周縁部に対応する位置に、第1逃げ溝47cが形成されている。この第1逃げ溝47cは、ゴムダンパ50bを収納する収納部として機能する。第1逃げ溝47cを形成することにより、隙間S1の幅W1が無駄に大きくなってしまうことを防止できる。この第1逃げ溝47cの深さH2はゴムダンパ50bの厚みの約半分の深さに設定され、溝幅D6はゴムダンパ50bの厚みの約3倍程度に設定されている。
これにより、平ワッシャ50aが出力軸4のスラスト荷重を受けた際の撓み量を、軸受凹部47の底部47bによって規制することができる。すなわち、平ワッシャ50aが出力軸4のスラスト荷重を受けて撓んだ際、平ワッシャ50aの一面が軸受凹部47の底部47bに当接し、それによってゴムダンパ50bの圧縮による径方向内外側への膨張を許容するとともに、軸方向の圧縮量を規制しつつ、平ワッシャ50aが必要以上に撓んでしまうことを防止できる。
【0039】
また、軸受凹部47の底部47bには、径方向略中央に平面視略円形状の第2逃げ溝47dが形成されている。換言すれば、軸受凹部47の底部47bには、平ワッシャ50aの内周縁部に対応する位置に、平面視略円形状の第2逃げ溝47dが形成されている。
第2逃げ溝47dを形成することにより、次段に示すように、グリスを貯留することが出来る。
【0040】
また、隙間S1には、平ワッシャ50aと出力軸4の一方側の端部104bとの摺接時の摩擦を軽減するためのグリスが塗布される。このグリスに、滑り軸受17dに含浸される潤滑油と同種の基油を含むものが採用されているため、滑り軸受17dの潤滑油を長期間保持できる。
【0041】
図1に示すように、出力軸4の他方側の端部104aには、回転軸52の一方側の端部52aを挿入可能な凹部4aが形成されている。凹部4aの内周面には、滑り軸受4bが圧入されており、出力軸4と回転軸52とが相対回転可能に連結されるようになっている。また、出力軸4の軸方向略中央には、ヘリカルスプライン19が形成されている。ヘリカルスプライン19には、後述するクラッチ機構5のクラッチアウタ18がヘリカル噛合されている。
【0042】
(クラッチ機構)
図3は、クラッチ機構5およびピニオン機構70の分解斜視図、
図4は、クラッチ機構5およびピニオン機構70の断面図、
図5はクラッチ機構5の平面図である。
図3〜
図5に示すように、クラッチ機構5は、有底筒状のクラッチアウタ18と、このクラッチアウタ18と同心円状に形成されたクラッチインナ22と、クラッチアウタ18の周壁18aとパーツ配置部としてのクラッチインナ22の外周面22aとの間に配置された円柱状のクラッチローラ111、およびスプリングとしてのコイルスプリング112と、クラッチアウタ18の開口部18b側に配置された環状部材としてのスラストプレート113と、このスラストプレート113とクラッチアウタ18とを外側から覆うクラッチカバー114とを備えている。
【0043】
ここで、クラッチ機構5は、クラッチアウタ18側からの回転力はクラッチインナ22に動力を伝達するが、クラッチインナ22側からの回転力はクラッチアウタ18に伝達しない、いわゆる公知のワンウェイクラッチ機能を有している。これにより、エンジン始動時に、クラッチアウタ18よりもクラッチインナ22の方が速くなるオーバーラン状態になった際、不図示のエンジンのリングギヤ23側からの回転力を遮断するようになっている。
また、クラッチ機構5は、クラッチアウタ18とクラッチインナ22との間に生じるトルク差、および回転速度差が所定値以内の場合、互いに回転力を伝達する一方、トルク差および回転速度差が所定値を越えた場合、回転力の伝達が遮断されるいわゆるトルクリミッタ機能も備えている。
【0044】
クラッチアウタ18の底壁18cには、径方向略中央にスリーブ18dがモータ部3側に向かって突出形成されている。スリーブ18dは、クラッチアウタ18の周壁18aよりも縮径された形になっており、出力軸4に外嵌された状態になっている。そして、スリーブ18dの内周面には、出力軸4のヘリカルスプライン19に噛合うヘリカルスプライン18eが形成されている。
なお、出力軸4のヘリカルスプライン19およびクラッチアウタ18のヘリカルスプライン18eの傾斜角度は、軸方向に対して例えば16°程度に設定されている。
【0045】
また、クラッチアウタ18の底壁18cにおける内面側には、スリーブ18dとの接続部に段差部18fが形成されている。この段差部18fには、後述の移動規制部20が当接するようになっている。
さらに、クラッチアウタ18の周壁18aには、内周面側に複数(この実施形態では5つ)の凹部115が周方向に等間隔で形成されている。凹部115は、ローラ収納部115aと、スプリング収納部115bとが連通形成されたものである。
【0046】
ローラ収納部115aは、クラッチローラ111を収納するためのものであって、その深さがスプリング収納部115bとは反対方向、つまり、
図5における反時計回り方向(
図5における矢印CCW方向)に向かうに従って漸次浅くなるように形成されている。
一方、スプリング収納部115bは、コイルスプリング112を収納するためのものであって、コイルスプリング112を周方向に沿って配置可能なように形成されている。そして、コイルスプリング112は、クラッチローラ111を常時
図5における反時計回り方向に向かって付勢している。
【0047】
クラッチアウタ18の開口部18b側に配置されたスラストプレート113は、クラッチローラ111やコイルスプリング112にクラッチアウタ18からの抜け方向のスラスト荷重がかかった際、このスラスト荷重を受けてクラッチローラ111やコイルスプリング112の抜けを防止すると共に、クラッチインナ22のクラッチアウタ18からの抜けを防止するためのものである。
【0048】
スラストプレート113は、略円板状に形成されており、径方向略中央にクラッチインナ22を挿通可能な挿通孔113aが形成されている。また、スラストプレート113の外周円には、4つの回り止め溝113bが周方向に等間隔で形成されている。これら回り止め溝113bは、後述するクラッチカバー114の回り止め凸部116と協働してスラストプレート113が周方向に回転してしまうことを防止するようになっている。
【0049】
このように形成されたスラストプレート113と、クラッチアウタ18とを外側から覆うクラッチカバー114は、クラッチアウタ18の開口部18b側から取り付けられる。クラッチカバー114は有底筒状に形成されており、底壁114aをクラッチアウタ18の開口部18b側に向けた状態で、クラッチアウタ18に外嵌されている。そして、クラッチカバー114の周壁114bの先端(
図4における右側端)をかしめることにより、クラッチアウタ18に固着される。
【0050】
また、クラッチカバー114の底壁114aには、プレス加工等を施すことにより、4つの回り止め凸部114cがスラストプレート113側に向かって突出形成されている。回り止め凸部114cは、底壁114aの外周側に周方向に等間隔で配置されている。また、回り止め凸部114cの直径は、スラストプレート113の回り止め溝113bに挿入可能な大きさに設定されている。これにより、回り止め凸部114cと回り止め溝113bとが協働し、スラストプレート113の周方向への回転が防止される。
【0051】
また、クラッチカバー114の底壁114aには、径方向略中央にクラッチインナ22を挿通可能な挿通孔114dが形成されている。挿通孔114dの周縁には、略円環状のリブ114eが軸方向外側に向かって立ち上がり形成されている。これにより、クラッチカバー114の底壁114aの剛性が確保される。
【0052】
図4に詳示するように、クラッチインナ22は、クラッチアウタ18のスリーブ18dよりも拡径形成されており、クラッチインナ22と出力軸4との間に、空隙K1が形成されるようになっている。そして、出力軸4の空隙K1に対応する位置には、後述するリターンスプリング21が挿入されている。
【0053】
また、クラッチインナ22のスラストプレート113に対応する箇所から先端側(一方側、
図4における左側)には、外周面が段差により縮径された環状板配置部としての縮径部22bが一体成形されている。この縮径部22bの段差部としての段差面22cに、スラストプレート113が当接する。また、クラッチアウタ18の底壁18cに、クラッチインナ22の縮径部22bとは反対側の端部が当接する。これにより、スラストプレート113とクラッチアウタ18の底壁18cとで、クラッチインナ22が軸方向で挟持された形になる。このため、クラッチアウタ18とクラッチインナ22の相対位置が決まると共に、クラッチインナ22のクラッチアウタ18からの抜けが防止される。
【0054】
また、出力軸4の空隙K1に対応する位置において、ヘリカルスプライン19よりも一方側(
図1における左側)には、略リング状の移動規制部20が外嵌されている。移動規制部20は、サークリップ20aによって軸方向一方側への移動が規制された状態になっている。
また、移動規制部20の外径は、クラッチアウタ18の段差部18fに当接可能な大きさに設定されている。これにより、クラッチ機構5が一方側にスライド移動したときには、クラッチアウタ18のスリーブ18dと移動規制部20とが干渉する。これにより、クラッチ機構5の一方側へのスライド移動量が規制される。
【0055】
さらに、出力軸4に挿入されているリターンスプリング21は、移動規制部20とクラッチアウタ18のスリーブ18dとの間に圧縮変形した状態になっている。これにより、クラッチアウタ18は、常時モータ部3側へ向かって押し戻されるように付勢される。
このように構成されたクラッチ機構5には、クラッチインナ22の先端に、ピニオン機構70が一体的に設けられている。
【0056】
(ピニオン機構)
ピニオン機構70は、クラッチインナ22の先端に一体成形された筒状のピニオンインナ71を有している。ピニオンインナ71の内周面には、軸方向両側にそれぞれ出力軸4にピニオンインナ71を摺動可能に支持するための2つの滑り軸受72,72が設けられている。
【0057】
ここで、ピニオンインナ71からクラッチインナ22に亘って、その外周面は段差により徐々に拡径するように形成されている。すなわち、ピニオンインナ71は、一方側(
図4における左側)に配置された第1筒部171と、この第1筒部171のクラッチインナ22側に一体成形され、外径が第1筒部171の外径よりも大きく設定された第2筒部172とにより構成されている。第2筒部172の外径は、クラッチインナ22の縮径部22bの外径と同一に設定されている。つまり、第2筒部172の外周面と縮径部22bの外周面とは滑らかに接続された状態になっている。
【0058】
換言すれば、
図4に示すように、クラッチインナ22に一体成形されたピニオンインナ71のうち、最外径となる第2筒部172の外径をD1とし、クラッチインナ22におけるスラストプレート113が配置される縮径部22bの外径をD2とし、クラッチインナ22におけるクラッチローラ111やコイルスプリング112が配置される外周面22aの外径をD3としたとき、各外径D1〜D3は、
D1≦D2≦D3・・・(1)
を満たすように設定されている。
【0059】
また、第1筒部171の外周面には、ヘリカルスプライン73が形成されている。このヘリカルスプライン73に、エンジン(不図示)のリングギヤ23に噛合可能なピニオンギヤ74がヘリカルスプライン嵌合されている。
【0060】
図6は、ピニオンギヤ74の一部拡大図である。
図4、
図6に示すように、ピニオンギヤ74の内周面には、一方側(
図4における左側)に、ヘリカルスプライン73に噛合うヘリカルスプライン74aが形成されている。これにより、ピニオンギヤ74は、ピニオンインナ71上を僅かに回転しながらスライド移動可能に設けられた状態になる。
【0061】
また、ピニオンギヤ74は、複数のヘリカル歯174により構成されている。各ヘリカル歯174のリングギヤ23側の端面には、周方向両端に、それぞれ第1歯面取り部174aと第2歯面取り部174bとが形成されている。第1歯面取り部174aは、ピニオンギヤ74の回転方向(矢印Y1参照)前方に形成され、第2歯面取り部174bは、ピニオンギヤ74の回転方向後方に形成されている。
また、第1歯面取り部174aの面取り量よりも第2歯面取り部174bの面取り量が大きく設定されている。複数のヘリカル歯174間には、歯溝174cが設けられ、ピニオンギヤ74の矢印Y1方向への回転により、リングギヤ23の各歯部は、第2歯面取り部174bを介して歯溝174cに滑り込む。これにより、ピニオンギヤ74とリングギヤ23とが噛合う際、第2歯面取り部174bがガイドとなって、スムーズに噛合う(詳細は後述する)。
【0062】
また、ピニオンギヤ74の内周面には、ヘリカルスプライン74aの他方側(
図4における右側)に、段差により拡径された拡径部75が形成されている。この拡径部75により、ピニオンインナ71の第1筒部171とピニオンギヤ74との間に収納部76が形成される。収納部76のクラッチ機構5側に形成されている開口部は、ピニオンインナ71の第2筒部172によって閉塞された状態になっている。
すなわち、ピニオンギヤ74は、一方側の端部が第1筒部171に摺動可能に支持されていると共に、他方側の端部が第2筒部172に摺動可能に支持されている。これにより、ピニオンギヤ74は、ピニオンインナ71に対して大きくがたつくことなく軸方向にスライド移動する。
【0063】
収納部76には、第1筒部171の外周面を取り囲むように形成されたピニオンスプリング11が収納されている。ピニオンスプリング11は、収納部76に収納された状態で、ピニオンギヤ74に形成された拡径部75の段差面75aと、ピニオンインナ71の第2筒部172の端面172aとにより圧縮変形されている。これによりピニオンギヤ74は、ピニオンインナ71に対してリングギヤ23側に向かって付勢された状態になる。
また、ピニオンインナ71の一方側(
図4における左側)の外周面には、止め輪77が設けられている。これにより、ピニオンインナ71に対して出力軸4の一方側にピニオンギヤ74が抜けてしまうことを防止できる。
【0064】
一方、リングギヤ23も、ピニオンギヤ74と同様に複数のヘリカル歯123により構成されている。ここで、リングギヤ23とピニオンギヤ74との歯のねじれ方向は、ピニオンギヤ74がリングギヤ23を駆動する状態、つまり、リングギヤ23がピニオンギヤ74よりも高速回転しようとしている状態でピニオンギヤ74に飛び込み方向(
図4における左方向)のスラスト荷重が作用するように設定されている。
【0065】
(電磁装置)
図1に戻り、ハウジング17の内周面には、クラッチ機構5よりもモータ部3側に、電磁装置9を構成するヨーク25が内嵌固定されている。ヨーク25は磁性材からなる有底筒状に形成されており、底部25aの径方向略中央の大部分が大きく開口されている。また、ヨーク25の底部25aとは反対側端には、磁性材からなる円環状のプランジャホルダ26が設けられている。
これらヨーク25、およびプランジャホルダ26によって径方向内側に形成される収納凹部25bに、略円筒状に形成された励磁コイル24が収納されている。励磁コイル24は、コネクタを介してイグニションスイッチ(何れも不図示)に電気的に接続されている。
【0066】
励磁コイル24の内周面と出力軸4の外周面との間には、プランジャ機構37が励磁コイル24に対して軸方向にスライド移動可能に設けられている。
プランジャ機構37は、磁性材で形成された略円筒状のスイッチプランジャ27と、このスイッチプランジャ27と出力軸4の外周面との間に配置されたギヤプランジャ80とを有している。
【0067】
これらスイッチプランジャ27とギヤプランジャ80とは、互いに同心円状に設けられ、軸方向に相対移動可能に設けられている。また、プランジャホルダ26とスイッチプランジャ27との間には、スイッチリターンスプリング27aが設けられている。このスイッチリターンスプリング27aは、板ばね材により形成されたものであって、プランジャホルダ26に対してスイッチプランジャ27をモータ部3側(
図1における右側)に付勢するようになっている。
【0068】
スイッチプランジャ27のモータ部3側端には、外フランジ部29が一体成形されている。この外フランジ部29の外周部側には、スイッチシャフト30がホルダ部材30aを介して軸方向に沿って立設されている。このスイッチシャフト30は、モータ部3のトッププレート12および後述するブラシホルダ33を貫通している。スイッチシャフト30のトッププレート12から突出した端部には、ブラシ付直流モータ51のコンミテータ61に隣接配置された、スイッチユニット7の可動接点板8が連結されている。
【0069】
可動接点板8は、スイッチシャフト30に対して軸方向に沿ってスライド移動可能に取り付けられていると共に、スイッチスプリング32によって浮動的に支持されている。そして、可動接点板8は、後述のブラシホルダ33に固定されているスイッチユニット7の固定接点板34に対し、接近離反可能になっている。
【0070】
固定接点板34は、スイッチシャフト30を挟んでコンミテータ61側である径方向内側に配置された第1固定接点板34aと、コンミテータ61とは反対側である径方向外側に配置された第2固定接点板34bとに分割構成されている。これら第1固定接点板34a、および第2固定接点板34bに、可動接点板8が跨るように当接するようになっている。可動接点板8が第1固定接点板34aおよび第2固定接点板34bに当接することにより、第1固定接点板34aおよび第2固定接点板34bが電気的に接続される。
【0071】
また、スイッチプランジャ27の内周面には、後述するギヤプランジャ80と当接および離反するリング部材28が一体的に設けられている。リング部材28は、スイッチプランジャ27がリングギヤ23側へ向かって移動する際、初期的にギヤプランジャ80をリングギヤ23側に向かって押圧するためのものである。
【0072】
ここで、クラッチ機構5のクラッチアウタ18は、リターンスプリング21によりギヤプランジャ80側に向かって付勢されている。したがって、スタータ1の静止状態(
図1における中心線より上側)において、クラッチ機構5は、ギヤプランジャ80およびリング部材28を介して、スイッチプランジャ27を他方側(
図1における右側)に押圧している。これにより、可動接点板8は他方側に押圧されて、固定接点板34と離反した状態となっている。
【0073】
また、スタータ1の静止状態において、固定接点板34と可動接点板8との間の距離をL2とし、リングギヤ23とピニオンギヤ74との間の距離をL3としたとき、距離L2,L3は、
L2<L3・・・(2)
を満たすように設定されている。これにより、リングギヤ23とピニオンギヤ74とが噛合う直前にピニオンギヤ74が回転し始めることになり、リングギヤ23とピニオンギヤ74とが噛合い易くなる(詳細は後述する)。
【0074】
このように構成されたスイッチプランジャ27の径方向内側に配置されたギヤプランジャ80は、径方向内側に配置されたプランジャインナ81と、径方向外側に配置されたプランジャアウタ85と、プランジャインナ81とプランジャアウタ85との間に配置されるプランジャスプリング91とを備えている。
プランジャインナ81は、樹脂等により略円筒状に形成されている。プランジャインナ81の内径は、出力軸4に外挿可能なように、出力軸4の外径よりも若干大きく形成されている。これにより、プランジャインナ81は、出力軸4に対して軸方向にスライド移動可能に設けられている。
【0075】
プランジャインナ81のクラッチ機構5側の端部81aには、径方向外側に張り出した外フランジ部82が一体的に形成されている。そして、プランジャインナ81がクラッチ機構5側にスライド移動したとき、プランジャインナ81の端部81aがクラッチアウタ18のスリーブ18dに当接し、クラッチ機構5およびピニオン機構70をリングギヤ23側にスライド移動させるようになっている。
一方、プランジャインナ81のモータ部3側の端部81bには、径方向外側に向かって突出する爪部83が周方向に複数個所設けられている。また、プランジャインナ81には、爪部83のクラッチ機構5側に、周方向に沿って溝部84が形成されている。
【0076】
プランジャアウタ85は、プランジャインナ81と同様に樹脂等により略円筒状に形成されている。プランジャアウタ85の内径は、プランジャインナ81の外フランジ部82の外径よりも若干大きく設定されており、プランジャインナ81に外挿されている。
【0077】
プランジャアウタ85のモータ部3側の端部85aには、径方向内側に張り出した内フランジ部86が一体的に形成されている。内フランジ部86の内径は、プランジャインナ81の爪部83の外径よりも小さく、かつプランジャインナ81の溝部84の底部の外径よりも大きくなるように設定されている。そして、プランジャインナ81の溝部84内にプランジャアウタ85の内フランジ部86を配置することで、プランジャインナ81とプランジャアウタ85とが一体化される。
【0078】
また、プランジャアウタ85の内フランジ部86の厚さは、プランジャインナ81の溝部84の幅よりも薄く設定されている。これにより、プランジャアウタ85の内フランジ部86とプランジャインナ81の溝部84との間に、クリアランスが設けられる。したがって、プランジャインナ81およびプランジャアウタ85は、プランジャアウタ85の内フランジ部86とプランジャインナ81の溝部84とのクリアランス分だけ、軸方向に相対的にスライド移動可能となっている。
【0079】
また、プランジャアウタ85のモータ部3側の端部85aには、径方向外側に張り出した外フランジ部87が一体的に形成されている。外フランジ部87は、スイッチプランジャ27のリング部材28と当接する当接部として機能している。
また、プランジャアウタ85の外周面には、外フランジ部87のクラッチ機構5側に、リング状の鉄心88が設けられている。鉄心88は、例えば樹脂モールドにより、プランジャアウタ85と一体成形されている。鉄心88は、励磁コイル24に電流が供給されたときに発生する磁束により吸引されるようになっている。
【0080】
プランジャインナ81の外フランジ部82と、プランジャアウタ85の内フランジ部86との間には、収納部90が形成されている。収納部90には、プランジャインナ81の外周面を取り囲むように形成されたプランジャスプリング91が収納されている。
プランジャスプリング91は、収納部90に収納された状態で、プランジャインナ81の外フランジ部82と、プランジャアウタ85の内フランジ部86とにより圧縮変形させられている。そして、プランジャインナ81はクラッチ機構5側に向かって、プランジャアウタ85はモータ部3側に向かって、それぞれ付勢された状態となっている。
【0081】
また、
図1に示すように、スタータ1の静止状態(
図1における中心線より上側の状態)では、プランジャインナ81のクラッチ機構5側の端部81aと、クラッチアウタ18のスリーブ18dの端部は、接触しないようになっている。そして、クラッチアウタ18は、リターンスプリング21の付勢力によって、ストッパ94に押し付けられた状態となっている。これにより、スタータ1の静止状態では、プランジャスプリング91の付勢力によって、クラッチ機構5を押出さない、つまり、ピニオン機構70を不用意に押出さないようになっている。
【0082】
一方、スタータ1の通電状態(
図1における中心線より下側の状態)では、ギヤプランジャ80がクラッチ機構5側に最大変位したとき、プランジャインナ81のクラッチ機構5側の端部81aは、常にクラッチアウタ18のスリーブ18dと当接した状態になっている。
すなわち、プランジャスプリング91は、クラッチ機構5とギヤプランジャ80との間に軸方向の空隙が形成されてしまうことを防止し、クラッチ機構5のガタつきを吸収するように構成されている。
【0083】
(ブラシホルダ)
また、遊星歯車機構2のモータ部3側には、ブラシホルダ33が設けられている。ここで、第2固定接点板34bの外周側には、軸方向に折曲して一体成形された切起し部34cが設けられている。この切起し部34cに形成されている挿通孔34dを介して、軸端子44aがブラシホルダ33の外壁33aを貫通し、さらにスタータ1の径方向外側に軸端子44aが突出するよう設けられている。
【0084】
また、軸端子44aの突出側の先端には、不図示のバッテリの陽極が電気的に接続されるターミナルボルト44bが取付けられている。さらに、ブラシホルダ33には、固定接点板34やスイッチシャフト30の周囲を保護するカバー45が装着されている。ブラシホルダ33およびカバー45は、モータヨーク53およびハウジング17に挟持された状態で固定されている。ブラシホルダ33には、コンミテータ61の周囲に、4個のブラシ41が径方向に沿って進退可能に配置されている。
【0085】
各ブラシ41の基端側には、ブラシスプリング42が設けられている。このブラシスプリング42によって、各ブラシ41がコンミテータ61側に向かって付勢され、各ブラシ41の先端がコンミテータ61のセグメント62に摺接するようになっている。
4個のブラシ41は、2個の陽極側ブラシと2個の陰極側ブラシとで構成され、このうち2個の陽極側ブラシが不図示のピグテールを介して固定接点板34の第1固定接点板34aに接続されている。一方、固定接点板34の第2固定接点板34bには、ターミナルボルト44bを介して不図示のバッテリの陽極が電気的に接続される。
【0086】
すなわち、固定接点板34に可動接点板8が当接した際、ターミナルボルト44b、固定接点板34、ピグテール(不図示)を介し、4個のブラシ41のうちの2個の陽極側ブラシに電圧が印加され、コイル59に電流が供給されるようになっている。
また、4個のブラシ41のうち、2個の陰極側ブラシは、不図示のピグテールを介してリング状のセンタープレートに接続されている。そして、このセンタープレート、ハウジング17、および不図示の車体を介して、バッテリの陰極に4個のブラシ41のうちの2個の陰極側ブラシが電気的に接続されるようになっている。
【0087】
(ハウジングの滑り軸受および緩衝部の組立手順)
次に、
図1、
図2に基づいてハウジング17の滑り軸受17dおよび緩衝部50の組立手順について説明する。
図1、
図2に示すように、まず、ハウジング17の軸受凹部47内における第1逃げ溝にゴムダンパ50bを装着し、隙間S1にグリスを塗布する。この状態で、軸受凹部47内に平ワッシャ50aを挿入し、緩衝部50を組み付ける。
続いて、この緩衝部50を組み付けた状態で、ハウジング17の軸受凹部47内に滑り軸受17dを圧入固定するが、平ワッシャの直径D4は滑り軸受17dの内径D5より大きく設定されているため、組立てられた緩衝部50が不用意に脱落することがない。
【0088】
(クラッチ機構およびピニオン機構の組立手順)
次に、
図1、
図3に基づいてクラッチ機構5およびピニオン機構70の組立手順について説明する。
図1、
図3に示すように、まず出力軸4の一方側の端部104bにクラッチアウタ18のスリーブ18dを向け、一方側の端部104bからスリーブ18dを挿入する。そして、出力軸4に形成されているヘリカルスプライン19と、スリーブ18dに形成されているヘリカルスプライン18eとをヘリカルスプライン嵌合させる。
【0089】
続いて、出力軸4の一方側の端部104b側から、リターンスプリング21、移動規制部20を、この順で挿入した後、出力軸4にサークリップ20aを取り付けて移動規制部20の出力軸4からの抜けを防止する。
次に、出力軸4の一方側の端部104bにクラッチインナ22の第2筒部172側を向け、一方側の端部104bからクラッチインナ22を挿入する。そして、クラッチアウタ18の底壁18cに第2筒部172を当接させた状態で、出力軸4の一方側からクラッチアウタ18のローラ収納部115aにクラッチローラ111を収納すると共に、スプリング収納部115bにコイルスプリング112を収納する。
【0090】
次に、出力軸4の一方側と同じ方向となるクラッチインナ22の第1筒部171側からスラストプレート113を挿入し、このスラストプレート113をクラッチインナ22の段差面22cに当接させる。そして、スラストプレート113によってクラッチアウタ18の開口部18bを閉塞する。
【0091】
ここで、クラッチインナ22のスラストプレート113に対応する箇所から先端側(一方側、
図1における左側)には、外周面が段差により縮径された縮径部22bが一体成形されている。また、クラッチインナ22の先端に一体成形されたピニオンインナ71は、一方側(
図1における左側)に配置された第1筒部171と、この第1筒部171のクラッチインナ22側に一体成形され、外径が第1筒部171の外径よりも大きく設定された第2筒部172とにより構成されている。
すなわち、クラッチインナ22およびピニオンインナ71は、先端側に向かって徐々に段差により縮径するように形成されており、ピニオンインナ71の第2筒部172の外径D1、クラッチインナ22の縮径部22bの外径D2、および外周面22aの外径D3は、式(1)を満たすように設定されている。このため、クラッチインナ22の第1筒部171側からスラストプレート113を挿入することが可能になっている。
【0092】
続いて、クラッチアウタ18の開口部18b側からクラッチカバー114を取り付け、スラストプレート113にクラッチカバー114の底壁114aを当接させる。そして、この状態でクラッチカバー114の周壁114bの先端(
図4における右側端)をかしめることにより、クラッチアウタ18にクラッチカバー114を固着する。これにより、クラッチ機構5の組立が完了する。
【0093】
次に、ピニオンインナ71の第1筒部171にピニオンスプリング11、ピニオンギヤ74をこの順で挿入する。そして、ピニオンインナ71に形成されているヘリカルスプライン73と、ピニオンギヤ74に形成されているヘリカルスプライン74aとをヘリカルスプライン嵌合させる。そして、ピニオンインナ71の一方側(
図4における左側)の外周面に止め輪77を取り付け、ピニオンギヤ74のピニオンインナ71からの抜けを防止する。これにより、ピニオン機構70の組立が完了する。
【0094】
(スタータの動作)
次に、スタータ1の動作について説明する。
図1における中心線の上側の状態に示すように、励磁コイル24に電流を供給する前のスタータ1の静止状態にあっては、リターンスプリング21によって付勢されたクラッチアウタ18が、ピニオンギヤ74と一体化されているクラッチインナ22を引っ張った状態でモータ部3側(
図1における右側)へ一杯に付勢されている。そして、クラッチ機構5のクラッチアウタ18がストッパ94に当接した位置で停止しており、ピニオンギヤ74とリングギヤ23との噛合いが断たれた状態になっている。
【0095】
また、スタータ1の静止状態では、プランジャインナ81の一方側の端部81aとクラッチアウタ18のスリーブ18dとの間には、僅かにクリアランスが形成されている。このため、リターンスプリング21の付勢力によって、ストッパ94にクラッチアウタ18が押圧される。これにより、スタータ1の静止状態では、プランジャスプリング91の付勢力によって、クラッチ機構5を押圧しない、つまり、不用意にピニオン機構70をリングギヤ23側に押出さないようにすることができる。
【0096】
また、スイッチプランジャ27は、スイッチリターンスプリング27aにより押し戻され、モータ部3側(
図1における右側)へ一杯に移動している。そして、スイッチプランジャ27の外フランジ部29がトッププレート12に当接した状態で停止している。さらに、外フランジ部29に立設されているスイッチシャフト30の可動接点板8は、固定接点板34に対して離反しており、電気的に切断されている。
【0097】
そして、この状態から車両のイグニションスイッチ(不図示)をオンすると、励磁コイル24に電流が供給されて励磁され、スイッチプランジャ27およびギヤプランジャ80に磁束が通る磁路が形成される。これにより、スイッチプランジャ27およびギヤプランジャ80がリングギヤ23側(
図3における左側)へ向かってスライド移動する。
【0098】
ここで、スタータ1の静止状態において、スイッチプランジャ27とプランジャホルダ26とのギャップ(軸方向クリアランス)は、ギヤプランジャ80の鉄心88とプランジャホルダ26とのギャップ(軸方向クリアランス)よりも小さく設定されている。このため、スイッチプランジャ27に発生する吸引力は、ギヤプランジャ80に発生する吸引力よりも大きいので、ギヤプランジャ80に先行してスイッチプランジャ27がスライド移動しようとする。
【0099】
このとき、スイッチプランジャ27の内周面にリング部材28が一体的に設けられていることから、このリング部材28がギヤプランジャ80を押圧し、初期的にギヤプランジャ80をリングギヤ23側に向かって押圧することで、スイッチプランジャ27およびギヤプランジャ80が一体となってリングギヤ23側へ向かってスライド移動する。
【0100】
また、クラッチアウタ18は、スリーブ18dが出力軸4にヘリカルスプライン嵌合されており、スリーブ18dがギヤプランジャ80のプランジャインナ81と当接している。ここで、出力軸4のヘリカルスプライン19およびクラッチアウタ18のヘリカルスプライン18eの傾斜角度は、軸方向に対して例えば16°程度に設定されている。
このため、クラッチアウタ18は、スイッチプランジャ27およびギヤプランジャ80がリングギヤ23側へスライド移動すると、出力軸4に対して、ヘリカルスプライン18eの傾斜角度分、若干相対回転しながら押出される。
【0101】
また、ピニオン機構70も、クラッチ機構5を介してギヤプランジャ80のスライド移動に連動し、リングギヤ23側へ押出される。さらに、スイッチプランジャ27が吸引されてリングギヤ23側へ向かってスライド移動すると、固定接点板34に可動接点板8が接触する。ここで、可動接点板8は、スイッチシャフト30に対して軸方向に沿って変位可能なように浮動的に支持されているので、スイッチスプリング32の押圧力が可動接点板8および固定接点板34に加わることになる。
【0102】
図7は、固定接点板34に可動接点板8が接触した際のスタータ1の断面図である。
ここで、
図1に示すようなスタータ1の静止状態において、固定接点板34と可動接点板8との間の距離をL2とし、リングギヤ23とピニオンギヤ74との間の距離をL3としたとき、距離L2,L3は、式(2)を満たすように設定されている。このため、
図7に示すように、固定接点板34に可動接点板8が接触した時点では、リングギヤ23にピニオンギヤ74が噛合されていない。
【0103】
固定接点板34に可動接点板8が接触すると、4個のブラシ41のうちの2個の陽極側ブラシにバッテリ(不図示)の電圧が印加され、コンミテータ61のセグメント62を介してコイル59が通電される。
すると、アーマチュアコア58に磁界が発生し、この磁界とモータヨーク53に設けられている永久磁石57との間で磁気的な吸引力や反発力が生じる。これにより、アーマチュア54が回転し始める。そして、アーマチュア54が回転することにより、アーマチュア54の回転軸52の回転力が遊星歯車機構2を介して出力軸4に伝達され、出力軸4が回転し始める。
【0104】
出力軸4が回転し始めることにより、ピニオンギヤ74が回転し始める。さらに、リングギヤ23側に向かってスイッチプランジャ27およびギヤプランジャ80がスライド移動することにより、ピニオンギヤ74が回転しながらリングギヤ23側へ押出される。
このとき、ピニオンギヤ74とリングギヤ23との噛合わせ位相がずれていると、リングギヤ23にピニオンギヤ74が歯当たりして噛合わない。この場合、ピニオン機構70の収納部76に収納されたピニオンスプリング11が圧縮変形し、ピニオンギヤ74のリングギヤ23に対する歯当たりの衝撃を吸収しつつ、ピニオンギヤ74に、リングギヤ23側に向かう付勢力を付与する。
【0105】
すなわち、リングギヤ23にピニオンギヤ74が歯当たりして噛み合いに失敗しても、ピニオンギヤ74は、リングギヤ23に当接したままこのリングギヤ23側に向かう付勢力が付与された状態で回転し続ける。そして、リングギヤ23との噛合わせ位相が合ったところで、リングギヤ23にピニオンギヤ74が飛び込む。
このように、リングギヤ23にピニオンギヤ74が歯当たりした状態であっても、スイッチプランジャ27を所定の位置にまで押出すことができると共に、歯当たりによるリングギヤ23およびピニオンギヤ74の摩耗を抑制でき、スタータ1の耐久性向上を図ることができる。また、ピニオンギヤ74が回転しながらリングギヤ23側へ押出されるので、リングギヤ23にピニオンギヤ74が噛合い易くなる。
【0106】
図8は、リングギヤ23にピニオンギヤ74が噛合うときの動作説明図である。なお、
図8において、矢印Y2は、ピニオンギヤ74の回転方向を示し、矢印Y3は、リングギヤ23の回転方向を示す。また、
図8に示すピニオンギヤ74の回転方向(矢印Y2)と、
図6に示す矢印Y1の回転方向は互いに対応している。
同図に示すように、リングギヤ23とピニオンギヤ74との噛合わせ位相が合うと、リングギヤ23側にピニオンギヤ74が押し出される。このとき、ピニオンギヤ74のヘリカル歯174には、回転方向(
図6におけるY1、
図8における矢印Y2参照)後方に第2歯面取り部174bが形成されているので、この第2歯面取り部174bがガイドとなって、リングギヤ23にピニオンギヤ74がスムーズに噛合う。
【0107】
また、ヘリカル歯174には、回転方向前方に第1歯面取り部174aが形成されているので、リングギヤ23にピニオンギヤ74が飛び込む際に、ピニオンギヤ74のヘリカル歯174の回転方向先端部とリングギヤ23のヘリカル歯123とが衝突した際の負荷を軽減し、ヘリカル歯173,174の耐久性を向上することができる。
ここで、第1歯面取り部174aの面取り量よりも第2歯面取り部174bの面取り量が大きく設定されている。このため、第2歯面取り部174bを、ガイドとして十分機能させることができる一方、第1歯面取り部174aを小さくすることで、ピニオンギヤ74自体の耐久性を向上させることができる。
【0108】
図1に戻り、リングギヤ23にピニオンギヤ74が噛合った後、出力軸4の回転速度が上昇すると、出力軸4のヘリカルスプライン19に噛合されたクラッチアウタ18に慣性力が作用する。このとき、ピニオンギヤ74とリングギヤ23とがヘリカル噛合していることから、ピニオンギヤ74にリングギヤ23方向(飛び込み方向)へのスラスト力が発生する。このため、このスラスト力によってピニオンギヤ74はヘリカルスプライン19に沿うように、リターンスプリング21の付勢力に抗してリングギヤ23側(
図1における左側)へ向かって移動する。
【0109】
また、クラッチアウタ18も、慣性力によってヘリカルスプライン19に沿うように、リターンスプリング21の付勢力に抗してリングギヤ23側(
図1における左側)へ向かって押し出される。
このとき、ギヤプランジャ80には、リングギヤ23側へ向かう吸引力が作用している。このため、ギヤプランジャ80は、クラッチアウタ18のスライド移動に連動するように、クラッチアウタ18を押圧しつつリングギヤ23側へ向かってスライド移動する。これにより、ピニオンギヤ74とリングギヤ23とが所定の噛み合い位置で噛合される。
【0110】
すると、出力軸4の回転力がピニオンギヤ74を介してリングギヤ23に伝達される。そして、リングギヤ23が不図示のクランクシャフトを回転させてエンジンを始動させる。
エンジンが始動し、ピニオンギヤ74の回転速度が出力軸4の回転速度を上回ると、クラッチ機構5のワンウェイクラッチ機能が作用してピニオンギヤ74が空転する。また、エンジンが始動に伴って励磁コイル24への通電を停止すると、クラッチアウタ18に対するリターンスプリング21の付勢力により、ピニオンギヤ74がリングギヤ23から離脱すると共に、可動接点板8が固定接点板34から離反してブラシ付直流モータ51が停止する。これにより、スタータ1の動作が完了する。
【0111】
ここで、
図1、
図8に示すように、ピニオンギヤ74とリングギヤ23とはヘリカル噛合しているため、出力軸4の回転力をピニオンギヤ74からリングギヤ23に伝達すると、ピニオンギヤ74には飛び込み方向(
図1、
図8における左側)に向かってスラスト荷重がかかる(
図1における矢印Y4、
図8における矢印Y5参照)。
ピニオンギヤ74にかかるスラスト荷重は、ピニオンギヤ74の一方側(
図1における左側)に設けられた止め輪77に伝達された後、ピニオンインナ71、クラッチインナ22、クラッチアウタ18および移動規制部20、サークリップ20aを介して、出力軸4に伝達される。このため、出力軸4には、ピニオンギヤ74の飛び込み方向(一方側)に向かってスラスト荷重がかかり、ピニオンギヤ74の飛び込み方向に出力軸4がスライド移動しようとする。
【0112】
また、リングギヤ23にピニオンギヤ74を噛み合わせてエンジンを始動させる途中においては、不図示のクランクシャフトが上死点および下死点を通過する際にリングギヤの回転速度とピニオンギヤの回転速度との速度差が逆転を繰り返す。このような場合、出力軸4にかかるスラスト荷重の向きも逆転を繰り返す。
すなわち、リングギヤ23の回転速度よりもピニオンギヤ74の回転速度が上回っているときは、上述のように、出力軸4には一方側に向かってスラスト荷重がかかり、一方側に出力軸4がスライド移動しようとする。
【0113】
一方、ピニオンギヤ74の回転速度よりもリングギヤ23の回転速度が上回っているときは、ピニオンギヤ74にリングギヤ23から離脱する方向に向かってスラスト荷重がかかる(
図1における矢印Y6参照、
図8における矢印Y7参照)。
ピニオンギヤ74にかかるスラスト荷重は、ピニオンスプリング11、ピニオンインナ71、クラッチインナ22、およびクラッチアウタ18を介して、出力軸4に伝達される。このため、出力軸4には、ピニオンギヤ74の離脱方向(他方側)に向かってスラスト荷重がかかり、ピニオンギヤ74の離脱方向に出力軸4がスライド移動しようとする。そして、これを繰り返すことにより、ハウジング17の底部17cに出力軸4のスラスト荷重が繰り返しかかる。
【0114】
しかしながら、
図2に示すように、ハウジング17の底部17cには、平ワッシャ50aとゴムダンパ50bからなる緩衝部50が設けられているので、平ワッシャ50aが出力軸4のスラスト荷重を受け、出力軸4の移動を規制する。また、ゴムダンパ50bにより、平ワッシャ50aに出力軸4の一方側の端部104bが当接した際の衝撃が緩和される。
【0115】
(クラッチの動作)
続いて、
図5に基づいて、クラッチ機構5の動作について説明する。
同図に示すように、出力軸4にクラッチアウタ18が連れ回される状態では、このクラッチアウタ18は、
図5における時計回り方向(
図5における矢印CW方向)に回転する。すると、クラッチローラ111が、クラッチアウタ18に形成されているローラ収納部115aの凹み深さが浅くなっている側に向かって移動する。
【0116】
このため、クラッチアウタ18とクラッチインナ22との間にクラッチローラ111が噛み込まれ、クラッチアウタ18とクラッチインナ22とが機械的に結合される。すなわち、クラッチアウタ18とクラッチインナ22とによりクラッチローラ111が挟持され、これにより生じる摩擦力によって、クラッチアウタ18の回転がクラッチインナ22に伝達される。
クラッチインナ22が回転すると、これと一体化されているピニオン機構70が回転する。これにより、出力軸4の回転力がピニオン機構70を介してリングギヤ23に伝達され、これによってエンジンが始動する。
【0117】
また、クラッチ機構5は、クラッチアウタ18とクラッチインナ22との間のトルク差が大きくなると、クラッチローラ111が回転してクラッチインナ22に対してクラッチアウタ18が回転し始める。これにより、クラッチアウタ18からクラッチインナ22への回転力の伝達が遮断される。
【0118】
次に、エンジンが始動した場合のクラッチ機構5の動作について説明する。
エンジンが始動し、ピニオン機構70の回転速度が出力軸4の回転速度を上回ると、ピニオンインナ71(クラッチインナ22)とクラッチアウタ18との相対回転方向が逆転する。つまり、クラッチアウタ18は、クラッチインナ22に対して
図5における反時計回り方向(
図5における矢印CCW方向)に回転する状態になる。すると、クラッチローラ111がコイルスプリング112の付勢力に抗し、ローラ収納部115aにおける凹み深さが深くなっている側(
図5における矢印CW方向)に向かって移動する。
【0119】
このため、クラッチアウタ18とクラッチインナ22とによるクラッチローラ111の噛み込みが解除される、つまり、クラッチアウタ18とクラッチインナ22との機械的な結合が解除される。この結果、クラッチアウタ18とクラッチローラ111とが同時に回転し、ピニオン機構70が出力軸4に対して空転する。このため、クラッチインナ22からクラッチアウタ18への回転力の伝達が遮断され、モータ部3の逆転、つまり、スタータ1のオーバーランニング状態が防止される。
【0120】
ここで、クラッチ機構5が出力軸4の軸方向に沿って移動することにより、クラッチローラ111やコイルスプリング112に、クラッチアウタ18からの抜け方向のスラスト荷重がかかる場合がある。しかしながら、クラッチ機構5には、スラストプレート113が設けられているので、このスラストプレート113がクラッチローラ111やコイルスプリング112のスラスト荷重を受けて、クラッチアウタ18からのクラッチローラ111やコイルスプリング112の抜けが防止される。
【0121】
さらに、クラッチインナ22に形成されている縮径部22bの段差面22cに、スラストプレート113の内周縁部113cが当接し、このスラストプレート113とクラッチアウタ18の底壁18cとで、クラッチインナ22を軸方向で挟持した形になっている。このため、クラッチインナ22のクラッチアウタ18からの抜けが防止される。
また、リングギヤ23にピニオンギヤ74が歯当たりして噛み合いに失敗し、例えば、ピニオンギヤ74が後退してスラストプレート113に当接する場合があっても、スラストプレート113の内周縁部113cが縮径部22bの段差面22cに当接しているので、この段差面22cがピニオンギヤ74の荷重を受け、スラストプレート113の変形が防止される。
【0122】
さらに、クラッチカバー114の底壁114aに凸部としての4つの回り止め凸部114cがスラストプレート113側に向かって突出形成されている一方、スラストプレート113に凹部としての4つの回り止め溝113bが形成されている。このため、クラッチアウタ18とクラッチインナ22との間で回転速度差が生じた場合であっても、回り止め凸部114cと回り止め溝113bとが係合し、クラッチカバー114に対するスラストプレート113の回転が防止される。
【0123】
(効果)
したがって、上述の実施形態では、クラッチインナ22とピニオン機構70の一部であるピニオンインナ71とを一体成形し、ピニオンインナ71の第2筒部172の外径D1、クラッチインナ22の縮径部22bの外径D2、および外周面22aの外径D3を、式(1)を満たすように設定している。そして、先端側(
図1、
図4における左側)に向かって徐々に段差により縮径するように形成している。
このため、スラストプレート113をピニオン機構70側から組み付けることができ、クラッチローラ111およびコイルスプリング112の抜け止めと、クラッチインナ22のクラッチアウタ18からの抜け止めを、1つのスラストプレート113で機能させることができる。また、スラストプレート113が、クラッチローラ111やコイルスプリング112の組付け方向と同じ方向から組付け可能となるため、組み付け性が向上する。よって、クラッチ機構5を容易に組み立てることができると共に、部品点数を減少することができるので、製造コストを低減できる。
【0124】
また、クラッチインナ22に形成されている縮径部22bの段差面22cに、スラストプレート113の内周縁部113cを当接させることができるので、段差面22cでスラストプレート113に係るスラスト荷重を受けることができる。このため、スラストプレート113の変形を確実に防止でき、クラッチ機構5の信頼性を高めることができる。
さらに、クラッチカバー114に形成された4つの回り止め凸部114cと、スラストプレート113に形成された4つの回り止め溝113bによって、クラッチカバー114に対するスラストプレート113の回転を防止している。このため、簡素な構造でクラッチカバー114とスラストプレート113との接触箇所がそれぞれ摩耗してしまうことを防止できる。
【0125】
そして、ピニオン機構70を、ピニオンインナ71と、ピニオンギヤ74と、これらピニオンインナ71とピニオンギヤ74とを互いに離反する方向に向かって付勢するピニオンスプリング11とにより構成した。このため、リングギヤ23にピニオンギヤ74が飛び込む際にピニオンギヤ74とリングギヤ23との噛合わせ位相がずれていたとしても、ピニオンギヤ74のリングギヤ23に対する歯当たりの衝撃を緩和することができる。
また、ピニオンスプリング11によって、ピニオンギヤ74が、リングギヤ23に当接したままこのリングギヤ23側に向かう付勢力が付与された状態で回転し続ける。このため、ピニオンギヤ74とリングギヤ23との噛合わせ位相が合った際の噛合いを行い易くすることができる。
【0126】
さらに、ピニオンインナ71とピニオンギヤ74とに分割構成することで、ピニオン機構70側からクラッチ機構5にスラストプレート113を組み付けることを可能にしつつ、ピニオンギヤ74のピッチ円直径を大きく設定することができる。このため、リングギヤ23とピニオンギヤ74との噛合い量を大きくすることができる。これに加え、クラッチ機構5とピニオン機構70との組付けを容易に行うことが可能になる。
【0127】
なお、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
例えば、上述のスタータ1は、自動車の始動用や自動二輪車等に適用することができる。
【0128】
また、上述の実施形態では、ピニオンインナ71からクラッチインナ22に亘って、その外周面は段差により徐々に拡径するように形成されている。しかしながら、これに限られるものではなく、ピニオンインナ71の第2筒部172の外径D1、クラッチインナ22の縮径部22bの外径D2、および外周面22aの外径D3が、式(1)を満たすように設定されていればよい。式(1)を満たすことにより、ピニオン機構70側からクラッチ機構5にスラストプレート113を組み付けることが可能になる。
【0129】
さらに、上述の実施形態では、ピニオン機構70を、ピニオンインナ71と、ピニオンギヤ74と、これらピニオンインナ71とピニオンギヤ74とを互いに離反する方向に向かって付勢するピニオンスプリング11とにより構成する場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、例えば、ピニオン機構70を1つの部材で構成してもよい。この場合、ピニオン機構70の最外径となる箇所、例えばピニオンギヤ74に相当する箇所の外径が、クラッチインナ22の縮径部22bの外径D2と同一か、またはそれ以下に設定されていればよい。
【0130】
そして、上述の実施形態では、クラッチカバー114に形成された4つの回り止め凸部114cと、スラストプレート113に形成された4つの回り止め溝113bによって、クラッチカバー114に対するスラストプレート113の回転を防止する場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、クラッチカバー114、およびスラストプレート113に、相対回転を防止する構造が設けられていればよい。例えば、クラッチカバー114、およびスラストプレート113の何れか一方に少なくとも1つの回り止め凸部114cが形成され、他方に少なくとも1つの回り止め溝113bが形成されていればよい。
【0131】
さらに、上述の実施形態では、スタータ1の静止状態において、固定接点板34と可動接点板8との間の距離をL2とし、リングギヤ23とピニオンギヤ74との間の距離をL3としたとき、距離L2,L3を、L2<L3となるよう設定した場合について説明した。しかしながら、これに限定されるものではなく、スタータ1の静止状態において、固定接点板34と可動接点板8との間の距離をL2とし、リングギヤ23とピニオンギヤ74との間の距離をL3としたとき、距離L2,L3を、L2>L3となるように設定し、ピニオンギヤ74がリングギヤに当接した後でピニオンギヤ74を回転させるものであってもよい。