特許第6154676号(P6154676)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6154676
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】空間周波数再現装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 9/02 20060101AFI20170619BHJP
   G01B 11/24 20060101ALI20170619BHJP
【FI】
   G01B9/02
   G01B11/24 D
【請求項の数】17
【全頁数】44
(21)【出願番号】特願2013-131491(P2013-131491)
(22)【出願日】2013年6月24日
(65)【公開番号】特開2015-4643(P2015-4643A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2016年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000101330
【氏名又は名称】アストロデザイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101269
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 道夫
(72)【発明者】
【氏名】武居 利治
(72)【発明者】
【氏名】武田 重人
(72)【発明者】
【氏名】西澤 恒幸
(72)【発明者】
【氏名】有馬 龍穂
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 茂昭
【審査官】 八木 智規
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−28208(JP,A)
【文献】 特開平6−3128(JP,A)
【文献】 特開2013−238450(JP,A)
【文献】 特開2011−252862(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第2653830(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 9/00− 9/10
G01B 11/00−11/30
G02B 19/00−21/00
G02B 21/06−21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コヒーレントな光を出射する光源と、
該光源から出射された光を、相互に異なる周波数に変調させつつ相互に近接した状態に分離して照射される2つの光とする第1の手段と、
前記2つの光を1次元走査あるいは2次元走査する第2の手段と、
前記走査された2つの光を測定対象物に照射する第3の手段と、
前記2つの光が分離された方向に対して略垂直な方向を境界線とし、該境界線を挟んで測定対象物からの反射光あるいは透過光を少なくとも2つ以上に分けて受光して電気信号に変換する第4の手段と、
前記境界線を挟んだ各領域に関して第4の手段で光電変換された各々の電気信号の周波数に応じて増幅度を変化させつつ増幅すると共に、増幅された信号の差信号や和信号を作成する第5の手段と、
この差信号や和信号の位相差あるいは強度差を求めて計測値を得る第6の手段と、
を含む空間周波数再現装置。
【請求項2】
前記第1の手段は、音響光学素子または空間変調器とされ、これら音響光学素子または空間変調器に2つの変調信号を加えた請求項1に記載の空間周波数再現装置。
【請求項3】
前記第2の手段は、1次元走査素子を2つ組み合わせて2次元走査としたものあるいは、2次元走査素子とした請求項1または請求項2に記載の空間周波数再現装置。
【請求項4】
前記第3の手段は、測定対象物に平行光、収束光または発散光を照射させるものである請求項1から請求項3のいずれかに記載の空間周波数再現装置。
【請求項5】
前記第6の手段は、変調された2つの周波数の差に基づくヘテロダイン検波を用いたものである請求項1から請求項4のいずれかに記載の空間周波数再現装置。
【請求項6】
収束照射或いは平行照射される光を測定対象物に照射する光源と、
収束照射或いは平行照射の照射光軸上に位置し、前記測定対象物から出射された光束を受光して処理する第1の光処理部材と、
第1の光処理部材からの透過光の内の照射光軸を挟んだ各側部分の光をそれぞれ受光する2つの分割受光素子を少なくとも有する第1の受光素子と、
前記照射光軸に対して第1の受光素子の分割受光素子が受光する各側にそれぞれ傾きを有した傾斜光軸上に位置し、かつ、前記測定対象物から出射された光束をそれぞれ受光して処理すると共に該光束と第1の光処理部材から出射された光束とをそれぞれ干渉させる一対の第2の光処理部材と、
該一対の第2の光処理部材により干渉された各光束を受光する一対の第2の受光素子と、
前記2つの分割受光素子で光電変換された各々の電気信号の周波数に応じて増幅度を変化させつつ増幅すると共に、前記一対の第2の受光素子で光電変換された各々の電気信号の周波数に応じて増幅度を変化させつつ増幅して、前記2つの分割受光素子の増幅された電気信号の出力間の出力和や出力差および、一対の第2の受光素子の増幅された電気信号の出力間の出力和や出力差をそれぞれ検出する出力和差検出部と、
を含む空間周波数再現装置。
【請求項7】
前記光源から測定対象物に照射される光が収束照射とされ、
前記第1の光処理部材が、前記測定対象物から出射された光束を平行な光束に変換する第1のレンズを含み、
前記第2の光処理部材が、前記測定対象物から出射された光束をそれぞれ平行な光束とする一対の第2のレンズ及び、第1のレンズから出射された光束と前記各第2のレンズから出射された光束とをそれぞれ干渉させる光学素子とされる請求項6に記載の空間周波数再現装置。
【請求項8】
前記光源から測定対象物に照射される光が平行照射とされ、
前記第1の光処理部材が、前記測定対象物から出射された光束を分割する第1のビームスプリッターとされ、
前記第2の光処理部材が、前記測定対象物から出射された光束と第1のビームスプリッターで分割された光束とをそれぞれ干渉させる一対の第2のビームスプリッターとされる請求項6に記載の空間周波数再現装置。
【請求項9】
前記第2のレンズからの出射光を前記光学素子に反射させる反射鏡が第2のレンズと光学素子との間に配置され、
前記第1の光処理部材が、前記第1のレンズの他に、第1のレンズから出射された平行な光束を分割する第1のビームスプリッターを含み、
該光学素子が、
記反射鏡から反射された光束と前記第1のビームスプリッターで分割された光束とを合成させる第2のビームスプリッターを含む請求項7に記載の空間周波数再現装置。
【請求項10】
前記一対の第2の受光素子が、複数の分割受光素子によりそれぞれ構成され、かつ照射光軸を挟んで相互に対称な位置に配置されている請求項6から請求項9のいずれかに記載の空間周波数再現装置。
【請求項11】
測定対象物に収束照射或いは平行照射される光を照射する光源と、
収束照射或いは平行照射の照射光軸に対して傾きを有した傾斜光軸上に有って2つの光束を相互に干渉させる第1の光学素子と、
第1の光学素子で干渉された光束をそれぞれ検出する複数の第1の受光素子と、
収束照射或いは平行照射の照射光軸に対して第1の光学素子と逆の傾きを有した傾斜光軸上に有って2つの光束を相互に干渉させる第2の光学素子と、
第2の光学素子で干渉された光束をそれぞれ検出する複数の第2の受光素子と、
複数の第1の受光素子で光電変換された各々の電気信号の周波数に応じて増幅度を変化させつつ増幅すると共に、複数の第2の受光素子で光電変換された各々の電気信号の周波数に応じて増幅度を変化させつつ増幅して、複数の第1の受光素子の任意の受光出力と複数の第2の受光素子の任意の受光出力との和や差の出力値を検出する出力和差検出部と、
を含む空間周波数再現装置。
【請求項12】
前記光源から測定対象物に照射される光が収束照射とされ、
収束照射の照射光軸に対して傾きを有した傾斜光軸上に位置し、かつ、前記測定対象物から出射された光束を平行な光束とするレンズを有し、
前記第1の光学素子が、該レンズに入射される光束の前記照射光軸に近い該レンズの部分を通過する第1の光束と該照射光軸から遠い該レンズの一方の半面を通過する第2の光束とを干渉させ、
前記第2の光学素子が、前記傾斜光軸に対して前記第1の光学素子と反対方向に配置され、前記第1の光束と前記第2の光束とを干渉させる請求項11記載の空間周波数再現装置。
【請求項13】
前記光源から測定対象物に照射される光が平行照射とされ、
前記第1および第2の光学素子が、
傾斜光軸上に位置し、かつ、前記測定対象物から出射された光束を収束させる第1のレンズと、
該第1のレンズから出射される光束の照射光軸に近い該第1のレンズの一方の半面の第1の光束を平行な光束とする第2のレンズと、
照射光軸から遠い該第1のレンズの他方の半面の第2の光束を平行な光束とする第3のレンズと、
第2のレンズと第3のレンズより出射された光束同士を干渉させる光学素子と、
をそれぞれ有する請求項11に記載の空間周波数再現装置。
【請求項14】
前記第1および第2の光学素子は、
前記第1の光束を反転する第1のプリズムと、
第1のプリズムからの光束と前記第2の光束とをシフトして重ねる第2のプリズムと、
を含む請求項11に記載の空間周波数再現装置。
【請求項15】
前記第1および第2の光学素子は、
前記第2の光束を反射するミラーと、
前記第1の光束と該ミラーで反射された光束を合成するビームスプリッターと、
を含む請求項11に記載の光学系分解能向上装置。
【請求項16】
前記第1および第2の光学素子は、収束レンズもしくは、収束レンズと拡大光学系である請求項11に記載の光学系分解能向上装置。
【請求項17】
前記第1および第2の光学素子は、収束レンズと該収束レンズの焦点付近に配置されたグレーティングである請求項11に記載の空間周波数再現装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光の照射により表面状態のプロファイルや細胞等の表面状態の計測や観察を極めて高い分解能で実現させる空間周波数再現装置に関し、顕微鏡等の光学機器の分解能を向上させ、かつ、レンズにより取得された欠落された空間周波数情報を正確に再現することにより行路差情報等の観察や計測を正確に行う装置に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来の光学的顕微鏡では、回折限界以下の測定対象物を観測したり計測したりすることが出来なかった。これに代わるものとして、プローブ顕微鏡(STM,AFM,NFOS等)や走査型電子顕微鏡等が開発され、多くの分野で使われている。この走査型電子顕微鏡は、走査電子プローブとしてきわめて細いビームを用いているので、分解能が高く、焦点深度が光学顕微鏡に比べて著しく大きい。しかしながら、細胞のように導電性の低い測定対象物の観測には、測定対象物である試料に導電性のよい白金パラジウムや金をコートする必要性がある。このため、細胞自体の破損を伴うことが多く、当然のことながら生きたままの細胞を観測、計測することは、不可能であった。
【0003】
また、プローブ顕微鏡は、測定対象物に対して近接して配置されたプローブをさらに接近させ、原子間力やトンネル電流、光近接場等を利用して、測定対象物との距離を計測するものである。しかしながら、プローブを高速に移動させることは困難であり、かつ、測定対象物との距離が非常に近いので取り扱いが難しく、さらに2次元的な情報を取得するまでに時間が膨大に必要であった。
【0004】
この一方、従来の光学的な行路差を検出する手段としては、共焦点顕微鏡やデジタルホログラム顕微鏡等が知られている。
前者の共焦点顕微鏡は、測定対象物にスポットを照射しそのスポットに対してピンホールを介して共焦点位置に配置した受光素子にて受光した光量が最大になるように対物レンズ、または測定対象物を動かすことにより、測定対象物の高さ情報や行路差情報を取得していた。
また、後者のデジタルホログラム顕微鏡は、測定対象物に対して略平行なレーザー光を照射し、測定対象物で回折された光を対物レンズにて集光し、レファランスとなる平面波とCCD等のエリアセンサ上にて干渉させてホログラムを作成し、この干渉縞を計算にて解析することにより元の測定対象物からの波面を復元して、行路差情報を取得するものである。
【0005】
ところが、前者の共焦点顕微鏡では、基本的にスポット内に位相分布があるとビームが変形し誤情報となる。特に測定対象物が細胞等の屈折率変化など波面が位相的に変化するようなものに対しては、その値の信頼性は乏しいと言わざるを得ない。また、受光した光量が最大になるように対物レンズや測定対象物を動かす必要性があるので、リアルタイム性に欠けている。
【0006】
後者のデジタルホログラム顕微鏡では、対物レンズで回折された光を集光し、その波面を再生して情報としているが、対物レンズで集光できる空間周波数は、対物レンズのNAによりカットオフ周波数が制限されると同時に、DCからカットオフ周波数までほぼ線形に取得できる周波数は減少していくことになる。いわゆるMTF曲線がこれにあたる。
したがって、取得した波面情報は測定対象物が実際に有している空間周波数情報を全く正確に反映しておらず、誤った行路差情報を与えていた。
【0007】
また、細胞等を特定の波長による蛍光発色を行わせることにより、細胞等の化学変化を分析したいという要求も知られている。しかし、結像光学系においては本来、対物レンズによる開口制限がある為に、取り入れられる空間周波数に限界があると同時に、空間周波数のコントラストも周波数が高くなるにつれて線形的に漸減する。
この為に、周波数の高い構造部分で蛍光発色するとそのコントラストは低下してしまい、正確な濃度測定等を行うことは困難であった。
【0008】
他方、距離を高精度に測定したり、微少なものを高精度に測定したり観察したりするには、へテロダイン干渉法がよく知られている。ここでは、光を用いた光ヘテロダイン法について述べるが、他の電磁波においても同様な考え方で実施されている。この光ヘテロダイン法は、周波数の異なる2つのレーザー光を干渉させて、その差の周波数のビート信号を作成し、このビート信号の位相変化を波長の1/500程度の分解能で検出するものである。つまり、この光ヘテロダイン法によれば、表面の高さ方向の変化を計測しつつ測定対象物までの距離を測定したり、被測定物自体を測定や観察したりできる。
【0009】
そして、下記特許文献1の特開昭59−214706号公報には、音響光学素子を用いて異なる波長からなる2つのビームを隣接して発生させ、これら2ビーム間の位相変化を検出し、その位相変化を累積して表面プロファイルを得る方法が開示されている。ただし、この特許文献1は、ビームプロファイルよりも僅かに大きく2つのビームを近接させ、2つのビームプロファイル内の平均的な位相差をヘテロダイン検波で検出して、順次積分することにより、凹凸情報を得るものであった。
【0010】
従って、この特許文献1によれば、半導体ウェハーのようなフラットであることが前提となるような測定対象物に対して、その凸凹情報を計測することは出来たが、ビームプロファイル内の情報を引き出すことはできなかった。このため、面内であるビームプロファイル内の分解能を高くすることは出来なかった。
【0011】
この一方、従来よりDPC(Differential Phase Contrast)法と呼ばれる手法が知られている。これは、最初Dekkers and de Langにより電子顕微鏡に適用された技術であり、その後、Sheppard and Wilson等により光学的顕微鏡への拡張がなされた技術である。このDPC法は、試料に照射された電磁波に対してファーフィールドであって、電磁波の照射軸に対して対称に配置されたディテクタ同士で検出した0次回折光と1次回折光との干渉の結果の差動信号を求めることにより、試料のプロファイル情報を得るものである。しかし、このDPC法も空間周波数が高くなると、これら0次回折光と1次回折光とが干渉できなくなり、その空間周波数が再現されない結果として、測定ができなくなることがあった。
【0012】
つまり、電磁波を用いた一般的な装置類を含め、従来の電磁波を用いた結像型の顕微鏡においては、アッべの理論の限界とされる分解能を超えることはできなかった。この限界は、波動の有する回折現象の結果であり、越えることの出来ない理論限界とされていた。したがって、光学顕微鏡はもとより、電子顕微鏡においても使用している実質的な波長による限界を打破することは困難であった。
また、結像光学系を基にした従来のさまざまな顕微鏡では、レンズの開口制限により、取得できる空間周波数が制限を受けると同時に、空間周波数が高くなるにつれ、試料のコントラストが漸減していた。この為、位相情報等の行路差情報や蛍光発色により濃度情報を正確に取得することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭59−214706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上のように、従来のヘテロダイン検波を用いた距離測定器においては、与える電磁波の波長以下の分解能で、距離を測定することは出来なかった。従って、電磁波の照射領域を波長以下に小さくしても、波長と同程度以上の領域の平均的な距離を算出することしか出来なかった。
【0015】
同じように従来のヘテロダイン検波を用いた光測定器においても、半導体ウェハーのようなフラットに近いものを主な測定対象としていた。このため、面内の分解能を高くするには、電子顕微鏡やAFM(原子間力顕微鏡)等の近接場を用いざるを得なかった。
しかし、電子顕微鏡に関しては、特に生物や細胞等に対して加工処理する必要性があるので、生きたままの観察や屈折率分布の測定は不可能であった。他方、AFMは、処理速度が十分でないことから、リアルタイムに状態の変化を見ることが出来ないので、生物、細胞の観測には不向きであり、また、測定対象物に対してプローブを近接させなくてはならず、使い勝手も悪かった。
【0016】
ここで、結像光学系を用いた従来の顕微鏡における対物レンズのOTF特性について、以下に説明する。
結像光学系を用いた従来の顕微鏡においては、対物レンズにて捉える対称物の空間周波数の1次回折光の成分と0次回折光の成分とが干渉して像形成を行う。このため、レンズの開口に1次回折光が入射されないと、その空間周波数は再現されないことになる。他方、低い周波数から高い周波数に至るにつれてその1次回折光の回折角は次第に大きくなるので、レンズに入力される1次回折光の量が減っていくことになる。その結果として、1次回折光が入力されない周波数がカットオフになり、低い周波数から高い周波数に至る途中で、変調度が次第に落ちていくようになる。
【0017】
以上が対物レンズのOTF特性である。したがって、結像系においては対物レンズに入力される1次回折光には自ずと限界があるので、再現される測定対象物の空間周波数に関連して分解能も自ずと限界があることになる。
他方、前記したデジタルホログラム顕微鏡のように、対物レンズを使って結像させるような光学系においては、測定対象物により回折されたレーザー光は、開口の大きさに制限のある対物レンズに入射した時点で、このレーザー光の有する空間周波数の一部が欠落した情報となっている。すなわち、空間周波数が高くなるほど、対物レンズに入力される空間周波数は徐々に低下する。このために、レファランスの波面と干渉させて作ったホログラムは、測定対象物の有する本来の情報を反映していない。この結果、計算にて再生した行路差情報は全くの誤情報となっている。
【0018】
以上の定性的な説明を定量化して、以下に詳細に説明する。
図17のように開口半径がaで焦点距離がfの対物レンズ31に平行光束が入射しているとする。なお、図17においては、照射光軸を光軸L0で表し、この光軸L0に対して角度Θだけ傾く傾斜光軸を光軸L1で表している。通常の結像を用いた顕微鏡では、図17のように光束が試料Sを透過する透過型となるが、光束が試料Sで折り返される反射型として考えてもよい。また、式を簡単にするために、1次元の開口として扱う。
【0019】
また、簡単のために試料Sが高さhでピッチdの正弦波状の形状をしているものとする。すなわち、光学的な位相θが以下の式で表される。
θ=2π(h/λ)sin(2πx/d)・・・・・(1)式
試料Sから回折された光の振幅Eは、焦点距離fだけ離れた面において、(1)式のフーリエ変換とレンズの開口とのコンボリューションとして、与えられるので、以下のように表される。ただし、(1)式の位相のフーリエ変換であるベッセル関数は、±1次まで取るものとする。
【0020】
【数1】
【0021】
ここで、(2)式のフーリエ変換が結像に寄与する。
したがって、強度Iは下記(3)式のようになる。
【0022】
【数2】
【0023】
この式の意味するところは、d=λf/2a=0.5λ/NAより小さいピッチの情報は欠落するということである。これは、矩形開口のビーム径(sinc(ka)=0の最初の暗環半径wは、ka=πを満たすので、w=0.5λ/NAとなる )と一致する。また、d>0.5λ/NAでもdが小さいほど変調度が低下することを意味している。これを1/dの空間周波数と変調度との関係を示せば、MTFとなっている。ただし、位相情報を単に結像しただけでは、コントラストを有した像形成はされることはなく、位相差顕微鏡のように0次回折光に位相遅れを生じさせる光学素子等を用いてコントラストを生じさせるような手段が必要である。
【0024】
以上に示したように、通常の結像光学系では、対物レンズ31のNAによって再現される空間周波数のリミットは、必然的にd=λf/2a=0.5λ/NAとなり、この値よりも小さいものは、どのようにしても再現されないことになる。これに伴って、対物レンズにより情報を取得するデジタルホログラム顕微鏡を含む従来の光学顕微鏡では、正確な強度情報や行路差情報を取得することはできなかった。
【0025】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、面内の分解能が高く、しかも面外において高さや屈折率分布に対する分解能が高く、また、通常の結像光学系では取得不可能な空間周波数を取得して測定対象物の有する空間周波数情報を正確に再現することで、実効上分解能の高い空間周波数再現装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
請求項1に係る空間周波数再現装置は、コヒーレントな光を出射する光源と、
該光源から出射された光を、相互に異なる周波数に変調させつつ相互に近接した状態に分離して照射される2つの光とする第1の手段と、
前記2つの光を1次元走査あるいは2次元走査する第2の手段と、
前記走査された2つの光を測定対象物に照射する第3の手段と、
前記2つの光が分離された方向に対して略垂直な方向を境界線とし、該境界線を挟んで測定対象物からの反射光あるいは透過光を少なくとも2つ以上に分けて受光して電気信号に変換する第4の手段と、
前記境界線を挟んだ各領域に関して第4の手段で光電変換された各々の電気信号の周波数に応じて増幅度を変化させつつ増幅すると共に、増幅された信号の差信号や和信号を作成する第5の手段と、
この差信号や和信号の位相差あるいは強度差を求めて計測値を得る第6の手段と、
を含む。
【0027】
請求項1に係る空間周波数再現装置の作用を以下に説明する。
本発明においては、光源からの光を音響光学素子や空間光変調器等の第1の手段でDSB変調し、周波数と出射方向の僅かに異なる2つの光であるビームを作るようにする。この2つのビームを変調周波数とは無関係な1次元もしくは2次元の走査光学素子である第2の手段により、第3の手段である対物レンズに向けて走査することで、この対物レンズを介して測定対象物上を2つの近接したビームが走査することになる。
【0028】
測定対象物が反射物体である場合には、音響光学素子とほぼ共役な位置に配置された第4の手段である受光素子により、ビームの僅かに異なる周波数差(ビート信号)を検出して、2つのビート信号を取得することができる。また、測定対象物が透過物体である場合には、ファーフィールドではあるが、測定対象物からあまり離れていない位置に配置した同じく受光素子により、これら2つのビート信号を検出することができる。
【0029】
また、これら2つの近接したビームは第2の手段により連続して走査されているので、試料の凹凸変化や屈折率変化等により行路差変化が生じた場合、この試料の構造に基づきビームの周波数が変調される。この周波数は受光素子で取得される空間周波数と1対1に対応している。
この一方、試料で回折された0次回折光と±1次回折光との間の干渉が強度情報や行路差情報となる。したがって、試料に含まれる空間周波数が高くなればなるほど、±1次回折光の回折角が大きくなって干渉度は低下する。
【0030】
このとき、第4の手段である受光素子で受光された光は光電変換され、空間周波数と対応する電気信号の周波数に応じて電気的に増幅する第5の手段により、実効的に取得した空間周波数を平坦化することができる。したがって、この第5の手段による平坦化により、試料が本来有する空間周波数を正確に復元できたことになる。尚、電気的に増幅する方法としては、各受光素子の出力を増幅する回路ゲインを変えても良いし、各受光素子からの出力をA/D変換してデジタル的に増幅係数をかけて演算しても良い。また、電気的な増幅は、高周波強調や平滑化の様な画像処理として用いることができる。
【0031】
ここで、受光素子として、2つの光の分離方向に対して略垂直な方向に延びる境界線を挟んで2つ以上に分割されている分割受光素子を用いた場合、分割受光素子のすべての和信号や、境界線を挟んだ受光素子同士の差信号をこの第5の手段が作成する。そして、第6の手段がこれら信号を基にして僅かに異なる周波数差(ビート信号)をヘテロダイン検波して、入力した信号との位相ずれを計測する。つまり、この第6の手段において、例えば全受光素子の出力の和信号に基づき、実効上、対物レンズで集光された2つのビームの分離度に応じた位相差のビーム径に相当する領域の積分値を与える。このため、微分干渉顕微鏡とほぼ等価な分解能を得るのに伴い、この分解能で受光素子と試料との間の距離が得られる。
【0032】
さらに分解能を高くするには、2以上に分割された各受光素子の内の隣り合った位置にある受光素子同士の差信号を利用すればよい。このようにすると、実効上、対物レンズで集光された2つのビームの分離度に応じた位相差の微分のビーム径に相当する領域の積分値を与える。この場合には、和信号と比較して、位相差の生じている部分のみが位相差に寄与するので、感度が著しく高くなる。従って、ビームの分離度に応じた分解能に匹敵する横分解能の向上が図れる。これは、通常の微分干渉顕微鏡には見られない際立った特長となる。この結果、波長で支配されている横分解能よりもはるかに高い横分解を得ることが出来る。
【0033】
また、2つのビームをかなり近接して配置すると、受光素子のすべての和信号は試料の強度情報を表すことになる。このことから、染色された状態での透過度等を正確に評価するには、上記したような受光された空間周波数の電気的に増幅することによってフラット化することは、非常に有効な手段となる。
なぜならば、少なくとも対物レンズで受光される空間周波数までは、染色状態が試料の構造に依存しないことが明確にわかるので、正確な解析ができる。従来の結像特性を利用した多くの顕微鏡では、対物レンズに入射される空間周波数はその時点で失われているので、いくら画像処理やほかの方法等で補正しても類推でしかなく、正確ではなかった。
【0034】
以上をまとめると、本発明が適用された顕微鏡では、非常に高い面内分解能を有し、さらに2次元走査を一度行うことで、高さや屈折率分布を測定することが出来るので、生きたままの細胞やマイクロマシンなどの状態変化などの3次元計測をリアルタイムに行うことができる。このため、従来の2次元情報を取得し、3次元方向に積算していくようなレーザー走査型共焦点顕微鏡などとは比較にならない大きな特徴を有することとなる。
さらに、本発明を透過型の顕微鏡に適用した場合、生物や細胞を生きたままかつ高い分解能で観察、計測できる。このため、細胞等を不活性化して計測する電子顕微鏡にはない大きな特徴を有することとなる。
【0035】
また、受光素子で検出された電気信号の周波数の増幅率を適正化することで、対応する空間周波数を補正することが可能となり、レンズにより欠落した空間周波数情報を復元することが可能となる。したがって、取得した観測対象の強度情報や行路差情報がきわめて正確な情報となり、従来のレンズを用いた計測器にはない大きな特徴となる。
【0036】
他方、請求項6に係る空間周波数再現装置は、収束照射或いは平行照射される光を測定対象物に照射する光源と、
収束照射或いは平行照射の照射光軸上に位置し、前記測定対象物から出射された光束を受光して処理する第1の光処理部材と、
第1の光処理部材からの透過光の内の照射光軸を挟んだ各側部分の光をそれぞれ受光する2つの分割受光素子を少なくとも有する第1の受光素子と、
前記照射光軸に対して第1の受光素子の分割受光素子が受光する各側にそれぞれ傾きを有した傾斜光軸上に位置し、かつ、前記測定対象物から出射された光束をそれぞれ受光して処理すると共に該光束と第1の光処理部材から出射された光束とをそれぞれ干渉させる一対の第2の光処理部材と、
該一対の第2の光処理部材により干渉された各光束を受光する一対の第2の受光素子と、
前記2つの分割受光素子で光電変換された各々の電気信号の周波数に応じて増幅度を変化させつつ増幅すると共に、前記一対の第2の受光素子で光電変換された各々の電気信号の周波数に応じて増幅度を変化させつつ増幅して、前記2つの分割受光素子の増幅された電気信号の出力間の出力和や出力差および、一対の第2の受光素子の増幅された電気信号の出力間の出力和や出力差をそれぞれ検出する出力和差検出部と、
を含む。
【0037】
また、請求項11に係る空間周波数再現装置は、測定対象物に収束照射或いは平行照射される光を照射する光源と、
収束照射或いは平行照射の照射光軸に対して傾きを有した傾斜光軸上に有って2つの光束を相互に干渉させる第1の光学素子と、
第1の光学素子で干渉された光束をそれぞれ検出する複数の第1の受光素子と、
収束照射或いは平行照射の照射光軸に対して第1の光学素子と逆の傾きを有した傾斜光軸上に有って2つの光束を相互に干渉させる第2の光学素子と、
第2の光学素子で干渉された光束をそれぞれ検出する複数の第2の受光素子と、
複数の第1の受光素子で光電変換された各々の電気信号の周波数に応じて増幅度を変化させつつ増幅すると共に、複数の第2の受光素子で光電変換された各々の電気信号の周波数に応じて増幅度を変化させつつ増幅して、複数の第1の受光素子の任意の受光出力と複数の第2の受光素子の任意の受光出力との和や差の出力値を検出する出力和差検出部と、
を含む。
【0038】
つぎに、請求項6及び請求項11に係る空間周波数再現装置の作用を以下に説明する。
前述のようにDPC法は、測定対象物である試料に照射された電磁波に対してファーフィールドであって、電磁波の照射軸に対して対称に配置されたディテクタ同士の差動信号を検出することにより、試料のプロファイル情報を得るものである。
この一方、本発明者たちは、音響光学素子等を用いることで、相互にわずかに異なる周波数を有しつつ相互にわずかな位置ずれを生じさせた2つのビームを走査させ、ファーフィールドに配置した複数の受光素子の差動出力をヘテロダイン検波する方式を案出している。
そして、本発明は、DPC法とヘテロダイン法を融合させたような手法を用いたものともいえる。
【0039】
ところで、光を用いての像の形成は、像自体の有する空間周波数の0次回折波と±1次回折波の干渉によるものと考えてよい。光学系のMTF曲線は、光学系の対物レンズが受け取る1次回折光の量に直接的に関係する。したがって、対物レンズに入射されない1次回折光を有する空間周波数は、結像に寄与しないために、必然的にカットされる。この最大の空間周波数が光学系のカットオフ周波数となる。
【0040】
一方、光学的なDPC法においては、レーザーのようなコヒーレント光を用いる。つまり、試料に照射されたコヒーレント光の1次回折光と0次回折光との干渉の結果が、コヒーレント光の光軸に対して対称でファーフィールドに配置された受光素子に反映されることで、測定対象物である試料が測定または観察される。この際、試料の空間周波数が決定されるのは、結像光学系と同様になる。
【0041】
ここで、試料から反射され、あるいは試料を透過された光の0次回折光は、照射された時の光の絞り角、すなわち、対物レンズのNAに依存した広がり角を有して、試料から出射される。同様に1次回折光は、空間周波数に依存した方向に角度を変え、さらに0次回折光と同じ広がり角で出射される。このことから、受光素子上で0次回折光と±1次回折光が重なり合った部分だけで、試料のプロファイル情報が得られる。
【0042】
以上より、空間周波数が高いと、これら0次回折光と1次回折光とが干渉できなくなり、その空間周波数が再現されないことになる。そこで、これらの0次回折光と1次回折光とを受光素子に導く前に干渉させることで、再現される空間周波数の大幅な向上が実現される。このことから、試料と受光素子の間の空間に、干渉計(ファブリペロー、マッハ・ツェンダ等)を構築して、この箇所で0次回折光と1次回折光を干渉させている。
【0043】
さらに、このようにしても高い空間周波数では、1次回折光の0次回折光との干渉度合いが低下していくことになる。これに対して、レーザー光であるビームの走査に合わせて、前述したように試料の構造に基づいて変調された周波数を適正に増幅することで、検出限界までの空間周波数に対応した周波数まで電気的に増幅することができる。これに伴って、空間周波数の正しい再現を行うことで、横分解能がきわめて高いと同時にきわめて正確な行路差情報を取得することができる。
【0044】
以下の受光素子間の出力を取得する際も、空間周波数に応じた周波数を増幅することで、空間周波数の正しい再現を行うことができる。なお、試料の強度情報を主に取得したい場合には、受光素子の和信号を取得すれば良い。
なぜなら、試料が位相物体であると、±1次回折光は、お互いに180度位相がずれているので、0次回折光と干渉させた結果、位相情報は受光素子間の差信号をなって表れる。一方、試料が強度物体であると、±1次回折光は同位相となるので、0次回折光と干渉させた結果、強度情報は受光素子間の和信号となって表れるからである。
【0045】
他方、0次回折光および1次回折光の各主光線軸の間に光軸を有するレンズを配置する。このレンズで、試料から回折された0次回折光もしくは1次回折光を平行光束とし、その片方の光に対して、ダブプリズムのような光学素子で像を反転し、さらに0次回折光と1次回折光が重なるようにロンボイドプリズムのような光学素子で平行シフトして、0次回折光と1次回折光を干渉させることが考えられる。これを1次回折光と0次回折光との間及び−1次回折光と0次回折光との間の2系統で行うことにより、ファーフィールドに配置した2組の受光素子の和信号や差動信号がより大きな空間周波数情報を有することになり、実質的に分解能が向上する。
【0046】
また、0次回折光および1次回折光の各主光線軸の間に光軸を有するレンズを配置する。このレンズで、0次回折光の一部と1次回折光、−1次回折光の一部を拡大して分割受光素子のピッチと形成された干渉ピッチとがほぼ同じになるように調整して、選択的に受光素子を使うことが考えられる。
【0047】
さらに、0次回折光および1次回折光の各主光線軸の間に光軸を有するレンズを配置する。このレンズで、試料から回折された0次回折光もしくは1次回折光を平行光束とし、拡大レンズ系により受光素子に0次回折光と1次回折光とを導くことで、受光素子上では、拡大された干渉縞が形成される。この際、対象物が位相情報である場合、1次回折光と0次回折光との間及び−1次回折光と0次回折光との間の2系統で行い、一方の受光素子が最大光量のときに他方の受光素子でほぼ0になるように、受光素子を調整する。試料からの情報が強度情報である場合には、1次回折光と0次回折光との間及び、−1次回折光と0次回折光との間の2系統で行い、一方の受光素子が最大光量のときに他方の受光素子でも最大になるように、受光素子を調整する。
【0048】
また、0次回折光および1次回折光の各主光線軸の間に光軸を有するレンズを配置する。このレンズで、試料から回折された0次回折光もしくは1次回折光を平行光束とし、この平行光束をレンズにより集光する。そして、ほぼレンズの焦点付近に配置した適正な格子ピッチを有するグレーティングにより、実質上0次回折光と1次回折光を相互にシフト重ね合わせることで、干渉させる。
【0049】
これにより、ファーフィールドに配置した2組の受光素子の和信号、差動信号がより大きな空間周波数情報を有することになり、実質的な分解能が向上する。さらに、本発明は、試料から出射された0次回折光と1次回折光の干渉情報を用いているので、照射光学系の影響は少ない。したがって、照射スポットが多少大きくても検出される空間周波数を高くすることが可能である。
【0050】
本発明に係る空間周波数再現装置は、画像処理等で行う推定法やレーリー限界にある変調度を無理やりデジタル処理等で引き上げる手法に比較して、本質的に高い空間周波数を物理的に取得しているので、試料の有する本来の情報を取得している。しかも、レンズ等で欠落している空間周波数情報を正確に再現しているので、きわめて信頼性の高い情報とすることができる。
また、ファーフィールドに配置した2組の受光素子の差動信号が本来有する奥行き情報も同時に取得している。このため、横分解能と同時に縦分解能にも優れた空間周波数再現装置を提供することができ、レーザー走査顕微鏡に好適なものである。
【発明の効果】
【0051】
上記に示したように、本発明の空間周波数再現装置は、僅かに周波数の異なる2つのコヒーレントな光を近接して試料に投射し、その反射光あるいは透過光を用いて、試料に投射した照射領域の重なる部分の中心にある境界線を挟んで2つ以上のディテクタを配置した構成となっている。そして、これら2つ以上のディテクタからの和信号または差信号より得たヘテロダイン信号より位相差あるいは強度差を検出する。
【0052】
この様にすると、回折限界以上の面内分解能で、試料の表面プロファイルや透過物体の厚み、屈折率分布等を正確に観察、計測することが可能となる。特に、差信号を用いると、この効果は大きくなる。このため、細胞や微生物の状態変化や表面状態の過渡的な変化等を、観察、計測することができる。
【0053】
さらに、対物レンズで取得される空間周波数をビームスポットの走査と受光素子にて電気信号に変換している。このことで、対物レンズのMTF曲線による空間周波数の欠落量を電気的な周波数増幅により復元して、空間周波数を再現することができる。したがって、試料の有する強度情報や行路差情報が正確に再現される。また、2つのビームをかなり近接して配置すると、受光素子の和信号は試料の強度情報を表すので、染色された状態での透過度等を正確に評価できる。
【0054】
他方、製品化されている裸眼立体ディスプレイや偏光めがねを使用した3次元ディスプレイ等を用いれば、ビデオレートの3次元立体画像を表示することもできるので、教育や研究、医療において、有用な装置とすることができる。また、非常に近接したほぼ同一の行路を通る2つのビームを用いているので、外乱等の影響を受けにくい観察や測定ができる。
【0055】
この一方、上記したように、本発明の空間周波数再現装置は、試料に収束照射された光の信号をファーフィールドに配置された複数の受光素子の光軸を含む線に対して対称な受光素子同士の出力和や出力差として検出するような装置とされている。また、試料からの1次回折光と0次回折光および−1次回折光と0次回折光の全部あるいは一部を実効上干渉させる光学系を配置し、それぞれの干渉強度を受光する対称的に配置した受光素子間で和信号や差信号を取得することにした。
【0056】
実効上干渉させる光学系は、0次回折光と±1次回折光を別個に入射させるレンズを用いて、平行光とした0次回折光と±1次回折光を干渉させる光学系とするか、0次回折光の光軸に対して傾斜させた光軸を有する2組のレンズにより、0次回折光と±1次回折光の一部をシフトして重ねて干渉させる光学系、結像系又は拡大光学系とする。この様にすると、同じNAを有するレンズを用いた結像光学系と比較して、1.5倍以上の空間周波数を取得することが可能となる。したがって、通常の結像光学系では得られない鮮明な光学像を得ることができる。
また、各受光素子で検出された信号の周波数は空間周波数に対応しているので、レンズのMTF曲線に対応して周波数の増幅度を変化させることで、試料の有する空間周波数を正しく反映した行路差情報を取得することができる。さらに、試料の有する微細部分の行路差情報や強度情報を観察したい場合には、電気的な高周波の強調を行うことで、空間周波数の高周波領域の強調を行うことができる。
【0057】
さらに、ヘテロダイン方式との融合により、位相変化および強度変化をきわめて精度よく検出することができる点と、受光素子で受光される光が非常に微弱でも検出回路系のゲインを高くすることで、高精度に検出できる点と、検出される信号は変調信号だけなので、外乱光の影響を受けることもなくなる点から、さらに高精度な検出ができる。このことから、非常に微弱でコントラストの低い位相情報やわずかな屈折率変化に対しても非常に高い分解能で観察、計測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】本発明の空間周波数再現装置に係る実施例1を示す光学系のブロック図である。
図2図1の対物レンズおよび測定対象物周辺部分を拡大して示す図である。
図3】実施例1による測定対象物上における光照射領域を表す説明図である。
図4】本発明の空間周波数再現装置に係る実施例1において測定対象物が通常のものであって、通常の結像光学系のMTF曲線を示す図である。
図5】本発明の空間周波数再現装置に係る実施例1において測定対象物が位相物体のときの差出力に基づく光学系のMTF曲線を示す図である。
図6】本発明の空間周波数再現装置に係る実施例1に適用される分割受光素子の配置の一例を示す図である。
図7】本発明の空間周波数再現装置に係る実施例2を示す光学系のブロック図である。
図8】本発明の空間周波数再現装置に係る実施例3に適用される空間変調器を示す図であって、(A)は空間変調器の模式図であり、(B)は空間変調器に印加される電圧、電流のパターンを示す図である。
図9】本発明の空間周波数再現装置に係る実施例4を示した光学系を表す概略図である。
図10】DPC法における透過光学系を表すブロック図である。
図11】DPC法における反射光学系を表すブロック図である。
図12】本発明の空間周波数再現装置に係る実施例5を示した光学系を表す概略図である。
図13】本発明の空間周波数再現装置に係る実施例6を示した光学系を表す概略図である。
図14】本発明の空間周波数再現装置に係る実施例7を示した光学系を表す概略図である。
図15】本発明の空間周波数再現装置に係る実施例8を示した光学系を表す概略図である。
図16】本発明の空間周波数再現装置に係る実施例9を示した光学系を表す概略図である。
図17】通常の結像光学系の原理を説明する原理図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下に、本発明に係る空間周波数再現装置の実施例1から実施例9を各図面に基づき、詳細に説明する。
【実施例1】
【0060】
本発明に係る空間周波数再現装置の実施例1の概念を以下に説明する。
光源から出射されたレーザーのようなコヒーレントな光を、第1の手段である音響光学素子や空間変調器により実質上2つの異なる周波数の光に変調させる。この時、例えば音響光学素子を用いると、この音響光学素子の表面弾性波と光の相互作用により、回折縞が変調を受ける。ドップラーシフトを受けた光は、周波数変調を受けるとともに、±1次の回折光となって出射される。他方、空間光変調器を用いる場合には、この空間光変調器に書き込んだ回折縞を変調させることでも、同様な効果をもたらす。
【0061】
このようにして、周波数変調を受けた光が相互に近接した2つの光に分離されつつ第1の手段から出射される。この2つの光を第2の手段である瞳伝達光学系や2次元走査デバイス等により2次元に走査し、第3の手段である対物レンズ等で試料に照射させる。この試料から離れた位置であって、2つの光の分離方向に沿って2以上に分割されて配置された受光素子を第4の手段とする。この受光素子が、試料から反射し、あるいは試料を透測定対象物G1過した光を、2つの光の分離方向に対して略垂直な方向に伸びる境界線を挟んだ光として、それぞれ受光する。
【0062】
この様にして受光素子で受光された光は光電変換される。前記の境界線を挟んだ各領域に関して第4の手段の受光素子で光電変換された各々の電気信号の周波数に応じて第5の手段が増幅度を変化させつつ、増幅する。
そして、この第5の手段である信号比較器において2つの光の分離方向に対して略垂直な方向を境界線とし、この境界線を挟んで対称な位置にある各々の出力の差信号または和信号を作成する。この差信号または和信号を第6の手段であるデータ処理部においてヘテロダイン検波することにより、位相差の検出をし、あるいは強度差の検出をする。
【0063】
この検出された位相差や強度差は、反射の場合には試料表面のプロファイルの高さ情報を示し、透過の場合には厚みや屈折率分布等の情報、すなわち、行路差情報を示す。この際、図3に示す光の照射領域A,Bを対物レンズで絞った回折限界スポット径と考えればよい。
【0064】
以下、本実施例における空間周波数再現装置の動作原理について詳細に説明する。
図3に示す2つの光の照射領域A,B間の中心距離Δxをこれらの光が有する回折限界以下に設定したとする。この場合、各々の光の照射領域A,Bは、アッべの理論の回折限界以下にはならないが、わずかにずらした各々別の周波数の光であるため、これらの光をヘテロダイン検波することにより、微分情報を取得することができる。この時、2以上に分割されて配置された各受光素子の和信号を用いると、実質的に光学顕微鏡の一種の微分干渉顕微鏡と等価になり、これらの差信号を用いると、微分干渉顕微鏡よりはるかに高い横分解能が得られる。
【0065】
簡単のために1次元で考える。まず、微生物等の試料である測定対象物G1のプロファイルd(x)の位相分布をAejθ(x)とおく。ここで、θ(x)=2πd(x)/λである。本実施例のように反射の場合には、行路差は2倍になるので、観測されるθ(x)の半分を高さ情報とすればよい。
上記のように測定対象物G1上での2つの光の照射領域A,B間の中心距離をΔxとし、光の複素振幅分布をu(x)とする。この場合、測定対象物G1に対して十分離れた場所では、測定対象物G1のプロファイルとビームプロファイルの積のフーリエ変換となる。
【0066】
本空間周波数再現装置においては、一方の受光素子で受信される光は、ej(ωc-ωm)tで変調を受けていることになり、中心距離Δxだけ離れて配置された他方の受光素子で受信される光は、ej(ωc+ωm)tで変調を受けていることになる。
従って、各受光素子上の複素振幅分布Eは、以下のようになる。
E=∫(Aejθ(x) u(x)ejkxdx・ej(ωc-ωm)t+Aejθ(x+Δx) u(x)ejkxdx・ej(ωc+ωm)t
【0067】
これら各受光素子により強度Iの検出を行うと、I=EE*、さらに、2ωmのヘテロダイン検波を行うので、以下の(4)式のようになる。
I(k)=A2∫ej(θ(x)-θ(x'+Δx') u(x) u(x’) ejk(x-x')dxdx’e-j2ωmt
+A2∫e-j(θ(x)-θ(x'+Δx') u(x) u(x’) ejk(x-x')dxdx’ej2ωmt・・・・・(4)式
【0068】
そして、2つの光の重なっている照射領域A,Bのほぼ中心を図2図3の境界線Cとし、この境界線Cを挟んだ位置であって、各々の照射領域A,Bの分離方向に沿った位置に対応して2つの受光素子を測定対象物G1から離して配置する。ここでまず、2つの受光素子で受信した信号の和信号がどのようになるかを考える。測定対象物G1から離れた位置では、フーリエ変換面であると考えられるので、受光素子で受信できる最大空間周波数をKmaxとすると、和信号では強度Iが下記式から求められる。
I=∫I(k)dk(積分範囲は-KmaxからKmax)
=A2∫cos(θ(x)−θ(x’+Δx’)−2ωmt) u(x) u(x’)sin(Kmax(x-x’))/(x-x’)dxdx’
【0069】
受光素子を大きくして広い空間周波数まで受信するように配置すると、
sin(Kmax(x-x’))/(x-x’)=Kδ(x-x’)となるので、以下の(5)式のようになる。
I=A2∫cos(θ(x) −θ(x+Δx) −2ωmt) u(x)2dx・・・・・(5)式
【0070】
すなわち、2つの光の分離位置の位相差を光のプロファイルのウェイトで積分したことになる。
(5)式を変形すると下記の式を得る。
Iq=A2∫cos(θ(x)−θ(x+Δx) u(x)2dx・cos(2ωmt)
Ii=A2∫sin(θ(x)−θ(x+Δx) u(x)2dx・sin(2ωmt)
【0071】
従って、直交変換により、観測される位相差Θは以下の(6)式のようになる。
Θ=tan-1(∫sin(θ(x)−θ(x+Δx)) u(x)2dx/∫cos(θ(x)−θ(x+Δx)) u(x)2dx)・・・・・(6)式
【0072】
この一方、2つの受光素子の差信号を考えると、和信号の場合と同様にして下記の式が得られる。
I=∫I(k)dk(積分範囲は0からKmax)−∫I(k)dk(積分範囲は−Kmaxから0)
=A2∫sin(θ(x)−θ(x’+Δx’)−2ωmt) u(x) u(x’)( cos(Kmax(x-x’)-1)/(x-x’)dxdx’
【0073】
受光素子を大きくして広い空間周波数まで受信するように配置すると、
(cos(Kmax(x-x’)-1)/(x-x’)=δ’(x-x’)+1/x(δ(x)-1)となるので、下記(7)式のようになる。
I=A2∫d/dx(sin(θ(x)―θ(x+Δx)―2ωmt) )u(x)2dx・・・・・(7)式
さらに、この(7)式を変形すると、下記のようになる。
Iq=A2∫d/dx(sin(θ(x)−θ(x+Δx)) u(x)2dx・cos(2ωmt)
Ii=−A2∫d/dx(cos(θ(x)−θ(x+Δx)) u(x)2dx・sin(2ωmt)
【0074】
従って、直交変換により観測される位相差Θは以下の(8)式のようになる。
Θ=tan-1(−∫d/dx(cos(θ(x)−θ(x+Δx)) u(x)2dx/∫d/dx(sin(θ(x)−θ(x+Δx))u(x)2dx)・・・・・(8)式
【0075】
ここで、(6)式と(8)式の比較を行う。定性的には、以下の点がわかる。
まず、(6)式では、照射領域A,Bの中心距離Δxだけ離れた2点の位相差をu(x)の重み関数で、平滑化した結果として得られる位相差を示しているので、照射領域A,B内の平均的な位相差を示している。これは、微分干渉顕微鏡と等価な処理である。
他方、(8)式では、照射領域A,Bの中心距離Δxだけ離れた2点の位相差の微分に対して、u(x)の重み関数で平滑化しているので、おおよそ元の関数を復元していることになる。
従って、照射領域A,Bの分離度に相当する横分解能で、位相差情報および位置情報を取得することが可能となる。
【0076】
ここでは、2つの受光素子を配置した場合を記述したが、照射領域A,Bの重なった領域の中心付近に、2つの光の分離方向に沿って複数の受光素子を測定対象物G1から離して配置した場合も同様になる。特に、差出力を得る場合には、照射領域A,Bの重なった部分の中心付近に対応して配置した複数の受光素子のうちの、対応する複数の受光素子間同士で差演算を行うようにすれば良い。
また、複数の受光素子の和出力だけを用いるのであれば、実質上1つの受光素子を用いることで、同様のことが実現できることになる。
【0077】
尚、説明を簡単にするために取得する空間周波数が広い場合を想定して式を簡略化したが、取得できる空間周波数が大きくない場合には、式中のδ関数の部分がコンボリューションになるだけで、本質的に分解能が向上することに変わりはない。この場合には、測定対象物G1のプロファイル等に多少のボケが生じることになる。
【0078】
上記説明においては位相に関して詳述したが、強度についても同様なことが言える。特に、照射領域A,Bよりも小さいプロファイルの変化に対しては、照射されている領域のフーリエ変換の0次回折波と1次回折波との干渉により形成された干渉縞のファーフィールドにおけるパターンが2つの受光素子で異なる。このため、受光素子の差信号はプロファイルの傾きに反映した強度差となってあらわれる。
以上述べたように、ヘテロダイン検波を用い、フーリエ変換面にて空間周波数情報を処理することにより、特に差演算では非常に高い横分解能の向上をもたらすことができる。
【0079】
すなわち、光電変換されたそれぞれの信号の和信号に基づくヘテロダイン検波では、2つの光であるビームの中心距離だけ離れた2点間の位相差をu(x)の重み関数で平滑化し、この結果として得られる位相差を示している。このため、この和信号に基づくヘテロダイン検波は、ビーム内の平均的な位相差を示していることになるが、これは微分干渉顕微鏡と等価な処理である。
【0080】
この一方、光電変換されたそれぞれの信号の差信号に基づくヘテロダイン検波では、ビームの中心距離だけ離れた2点間の位相差の微分に対して、u(x)の重み関数で平滑化しているので、おおよそ元の関数を復元していることになる。
以上より、ビームを瞳伝達光学系により走査した場合、ビーム分離度に相当する横分解能で、位相差および位置情報を取得することが可能となる。
【0081】
上記においては、光軸を境界線として2分割された受光素子を適用した場合を記述したが、ビームの分離方向に沿って複数の受光素子を試料から離して配置した場合も同様になる。特に、差出力を得る場合には、境界線を挟んで隣り合う受光素子間同士で行うようにすれば良い。また、複数の受光素子の和出力だけを用いるのであれば、実質上1つの受光素子を用いることで、同様のことが実現できることになる。特に、和出力の場合、試料が吸収率や反射率の異なるような強度パターンとなっている場合には有効である。たとえば、対象物が細胞で染色されているような場合である。
【0082】
そして、試料に関し、ビーム内にプロファイルの傾きがあれば、定性的には光が反射または透過する方向が異なるので、2つの受光素子に強度としての差出力が与えられる。具体的に説明すると、ビーム径よりも小さいプロファイルの変化があれば、光が照射されている領域のフーリエ変換の0次回折波と1次回折波との干渉により形成された干渉縞のファーフィールドにおけるパターンが、2つの受光素子間で異なる。このため、これら2つの受光素子の差信号は、プロファイルの傾きを反映した強度差となって表れることになる。
また、詳細は後述するが、対物レンズによる空間周波数はビームの走査と受光素子により電気的な周波数信号に変換しているので、対物レンズが本来有する空間周波数の漸減度を電気的な増幅度で修正することにより、対物レンズで取得できる空間周波数までは完全に復元することができる。
【0083】
以下、本発明に係る空間周波数再現装置の実施例1を図面を用いて具体的に説明する。
図1は、本実施例に係る空間周波数再現装置の構成を示すブロック図である。この図1に示すように、レーザー光が出射される光源であるレーザー光源21と、AODドライバー24が接続されて動作が制御される第1の手段である音響光学素子(AOD)23との間に、コリメーターレンズ22が配置されている。
また、この音響光学素子23に対して、2群のレンズからなる瞳伝達拡大レンズ系25、入力されたレーザー光を2次元走査する2次元走査デバイス26、入力されたレーザー光を分離して出射する偏光ビームスプリッター27が順に並んで配置されている。但し、音響光学素子23に対して、瞳伝達拡大レンズ系25、ビームスプリッター27、2次元走査デバイス26の順に並べて配置しても良い。
【0084】
さらに、この偏光ビームスプリッター27に隣り合って、2群のレンズからなる瞳伝達レンズ系30が位置し、この隣に対物レンズ31が測定対象物G1と対向して配置されている。つまり、これら部材が光軸Lに沿って並んでいることになる。他方、光軸Lが通過する方向に対して直交する方向であって偏光ビームスプリッター27の両隣の位置には、それぞれ光センサである受光素子28及び受光素子29が配置されている。
これら受光素子28、29が、これら受光素子28、29からの信号を比較する信号比較器33にそれぞれ接続され、この信号比較器33が、最終的にデータを処理して測定対象物G1のプロフィル等を得るデータ処理部34に繋がっている。
【0085】
また、このレーザー光源21は、He-Ne等のガスレーザー、もしくは、半導体レーザー、固体レーザーであり、コヒーレントなレーザー光を発生する。このレーザー光をコリメーターレンズ22により平行光束にし、音響光学素子23に入射させる。このとき、レーザー光の入射ビーム径は、後段の瞳伝達拡大レンズ系25との兼ね合いより、絞り機構(図示せず)等を用いて適正化しておくことにする。さらに、この音響光学素子23には、AODドライバー24より、sin(2πfct)sin(2πfmt)のようなDSB変調信号が変調信号として加えられる。
【0086】
この様な変調を行うと、fc+fmとfc-fmの2つの周波数変調が加えられたことになる音響光学素子23は、ブラッグ回折格子のピッチdに相当する音波の粗密波を発生する。すなわち、超音波の速度をVa、印加する周波数をfとすると、d=Va/fとなる。具体的には、この粗密波により、音響光学素子23に入射されたレーザー光であるビームは、±1次回折光に分離され、各々の回折光は周波数fc±fmの周波数で変調される。たとえば、音響光学素子23の材料としてTeO2が用いられるが、この材料の音速は、660m/sである。
【0087】
キャリアー周波数の周波数fcとして40MHzを選択すると、d=16.5μmとなり、He-Neレーザーをレーザー光源21に用いた場合、回折角θは2.19791度程度の角度になる。図1においては、光軸Lが変化していないように図示してあるが、実際には音響光学素子23以降の光学系を回折角θだけ傾けておくか、2次元走査デバイス26にバイアスを付与して、回折角θの傾きを実効上与えておくことにする。
【0088】
このキャリアー周波数に10KHz程度の周波数fmを加えると、±1次回折光はθ=2.19847度とθ=2.19737度となり、40.01MHzと39.99MHzでそれぞれ変調されることになる。この角度を維持したまま、対物レンズ31にレーザー光を入射させた場合、対物レンズ31の焦点距離を2mm、NA0.9とすると、ビームの中心距離は、0.6μm程度になり、この時の回折限界はw=0.857μmとなる。つまり、このように回折限界系よりもビームの分離度を小さくしておくことにする。
【0089】
尚、ビームの中心距離であるビーム分離度をより小さくすれば、分解能を向上させることが出来るが、ヘテロダイン検波の周波数を低下させると、処理スピードが遅くなってしまう。この場合、より音速の早い音響光学素子を使用すれば、ブラッグの回折格子ピッチdを大きくすることが出来るので、処理速度を向上させることが出来る。実際、音速Vaが4.2E+3m/s程度のものも知られ、市販されている。
【0090】
ここで、音響光学素子23と偏光ビームスプリッター27との間に配置されている瞳伝達拡大レンズ系25は、音響光学素子23の出射面位置を次の2次元走査デバイス26に共役に伝達するための光学系である。この瞳伝達拡大レンズ系25を通過した光は2次元走査デバイス26に送られるが、対物レンズ31の瞳位置に共役にする瞳伝達レンズ系30により、この2次元走査デバイス26からの光は、角度差を有した±1次回折光として対物レンズ31に入射する。
【0091】
つまり、キャリア周波数fcと変調周波数fmの2つのDSB変調された信号を外部からAODドライバー24を経て、音響光学素子23に入力することで、きわめて接近したこれら2つの光束を作成することができる。
そして、上記のように音響光学素子23の実質的な瞳位置を2次元走査デバイス26の瞳位置に伝達する瞳伝達レンズ系25、光を面上に走査する2次元走査デバイス26および、2次元走査デバイス26の瞳位置を対物レンズ31の瞳に伝達するための瞳伝達レンズ系30を経て、対物レンズ31に、きわめて接近した2方向に出射された光束が入射される。
このようにして、図2の実線で示すビームLAおよび点線で示すビームLBのように、非常に接近して相互に同一径とされる2つのビームを得ることができる。
【0092】
この結果として、対物レンズ31で収束された光束であるビームLA、LBは、きわめて接近された2つのスポットとして、測定対象物G1を面上に走査することになる。この2つのスポットは周波数fc+fmと周波数fc−fmの2つの信号となるので、これらの信号をヘテロダイン検波することにより、測定対象物G1の凸凹情報、屈折率分布を反映した信号が得られる。
【0093】
また、これら2つのビームLA、LBの有する周波数は、「光の振動数+キャリア周波数fc±変調周波数fm」となる。2つの接近したビームの中心距離を上記したように回折限界以下に設定した場合、各々のビームは、アッべの理論の回折限界以下にはならないが、わずかにずらした各々別の周波数の光であるために、ヘテロダイン検波をすることにより、微分情報を取得することができる。さらに、図1に示す受光素子29を2分割以上の受光素子とする。そして、光軸Lを境界線として、この境界線を挟んでビームの分離方向に対して垂直な方向に暗線を有するように、これら受光素子を配置し、その和信号あるいは差信号より、ビート信号を取得させる。この時、和信号を用いると、実質的に微分干渉顕微鏡と等価になり、差信号を用いるとはるかに高い横分解能が得られる。
【0094】
ここで、測定対象物G1に送られる光の性質について具体的に説明する。対物レンズ31で絞られた光は、図2に示すように近接した2つのビームLA、LBとなり、測定対象物G1に送られる。なお、ビームLAの複素振幅EaおよびビームLBの複素振幅Ebは、下記式のようになる。
Ea=Aexpj(2π(fo+fc+fm)t)
Eb=Bexpj(2π(fo+fc-fm)t+δ)
この複素振幅Ebの式のδは、ビームLAを基準としたビームLBの高さ方向の位相差を表わし、foは光の周波数を表す。なお、前述したようにこの2つのビームの間隔は、音響光学素子23に加えた変調周波数fmによって決定されるので、走査速度とは無関係である。
【0095】
図1および図2に示す測定対象物G1で反射されたこの2つのビームLA、LBは、対物レンズ31、瞳伝達レンズ系30および偏光ビームスプリッター27を介して、受光素子29に導かれる。この受光素子29を2次元走査デバイス26の位置と共役な位置に配しておくと、2つのビームLA、LBは同じ位置に戻るので、2つのビームLA、LBの位相差δがビート信号として検出される。
【0096】
すなわち、この受光素子29は図示しない光電変換部を有した構造とされているので、受光素子29上における2つのビームLA、LBの強度Iは、下記式に基づく値で受光素子29の光電変換部により検出され、信号比較器33に送られる。
I=(Ea+Eb)(Ea+Eb)*=A2+B2+2ABcos(2π*2fmt+δ)
これに伴い、図1に示す信号比較器33を用いて、周波数2fmのヘテロダイン検波の位相比較を行うことにより、位相差δを測定することができる。このようにして、位相情報を取得する。
【0097】
ところで、受光素子29と偏光ビームスプリッター27を挟んで対向して配置されている受光素子28も図示しない光電変換部を有した構造とされている。そして、音響光学素子23で生じる回折光の入射ビームのビート信号がこの受光素子28に入射されて、受光素子28の光電変換部により検出される。つまり、音響光学素子23までに光学系等で生じた位相差を受光素子28の光電変換部により検出することになるので、この受光素子28は位相の基準を与える役割をしている。
【0098】
この一方、前述のように受光素子29においては、ビームLAとビームLBの2つのビーム間の位相差情報を加えたビート信号が受光素子29内の光電変換部により検出され、信号比較器33に送られる。したがって、信号比較器33においてこの2つの位相比較を行うことにより、真の位相差δが検出されることになる。この真の位相差δは、ビームLAとビームLBの平均の位相差、すなわち、平均の高さhの差情報であるδh=λδ/4πとなる。ここで、λはレーザー光源21から出射されるレーザー光の波長を表す。
【0099】
信号比較器33と接続されたCPUやメモリ等からなるデータ処理部34にこれらの情報を送り込めば、データ処理部34でこの情報を平面の走査情報とともに記録していき、測定対象物G1の表面のプロファイル情報を簡単に導くことができる。また、さらに高速なデータを取得するには、できるだけ音速Vaの大きい音響光学素子23を用いれば実現できる。
【0100】
他方、本実施例において、ヘテロダイン検波を行うには、照射された変調信号の一部をビームスプリッター27で取り出して受光素子28でレファランス信号を得る。そして、このレファランス信号と2分割された受光素子29で検出された信号とで差動出力を求め、信号比較器33により位相差情報および強度情報を取得し、データ処理部34に送る。
データ処理部34では走査情報とともに取得された情報を画像やデータの形として、ディスプレイに表示したり、メモリにデータとして蓄積したりする。
【0101】
ただし、受光素子28は必ずしも必要ではなく、音響光学素子23に出力する信号、 すなわち音響光学素子23に印加される信号自体と比較してもよい。この場合、回路系や音響光学素子等による遅延が発生するが、予め補正するなどしておけば、位相差検出等に大きな影響を与えることはない。
【0102】
また、測定対象物G1の表面を面上に走査する極めて接近した2つのスポット光は、相互に周波数の異なる光となる。但し、実質上、瞳伝達レンズ系25、30等の拡大光学系を使用することにより、高い周波数でも極めて接近させたスポットにすることができる。これにより高速な走査により高速な情報取得ができることになる。
【0103】
以上より、このような本実施例の空間周波数再現装置の光学系を用いれば、2次元走査を行うたびに3次元計測データを取得することが可能となる。このため、本実施例の空間周波数再現装置によれば、細胞や微生物の状態変化や表面状態の過渡的な変化等を、高速に観察、計測することができる。
【0104】
この一方、このようにして得られた2つの光は、上記手法により分離度を非常に小さくすることができ、実質上1つのビームで走査した情報と変わらない。これに対し、一つのビームで走査し、ファーフィールドに配置した少なくとも2分割された受光素子の差動出力を得る方法が、前記したDPC法である。
【0105】
つまり、DPC法に比較すると、このような本ヘテロダイン法をさらに使用した方法では、ヘテロダイン検出することにより、位相変化および強度変化をきわめて精度よく検出できる点と、受光素子29で受光される光が非常に微弱でも検出回路系のゲインを高くすることで、高精度に検出できる点と、検出される信号は変調信号だけなので、外乱光の影響を受けることもなくなる点とを有することから、さらに高精度な検出ができることになる。
【0106】
また、製品化されている裸眼立体ディスプレイや偏光めがねを使用した3次元ディスプレイ等を用いることにより、3次元立体画像を表示することもできるので、教育や研究、医療において、有用な装置とすることができる。この際、2つのビームの重なりの程度をビーム径よりも小さくしてあるので、2つのビームの行路差はほとんど生じていない。このことから、外乱や振動の影響も2つのビームで同時に生じるので、これらの影響が相殺される。
【0107】
他方、本実施例では、ビームの分離度を個々のビーム径よりも非常に小さくした例を示した。但し、変調周波数を高くすることにより、ビームの分離度が大きくなり、かつ、ビーム径程度の分離度が必要となる場合にも、本発明の光学系が有用であることになる。
【0108】
尚、本実施例においては、2次元走査デバイスを用いた例で説明をしたが、単純な一方向だけのデータが必要なアプリケーションであれば、この2次元走査デバイスを1次元走査デバイスに置き換えても同様な効果が得られることになる。これらの1次元走査デバイスとして、ガルバノミラー、レゾナントミラー、回転ポリゴンミラー等を採用することができる。また、2次元走査デバイスは、上記した1次元走査デバイスをX方向用とY方向用の2つを用意し、瞳伝達レンズ系を介すことにより、実現できる。また、マイクロマシーンの技術を用いたマイクロミラーデバイスを用いても良い。このマイクロミラーデバイスとしては、1次元用、2次元用ともに知られ製品化されている。
【0109】
以上述べたように、フーリエ変換面にて空間周波数情報を処理することにより、特に差演算では非常に高い横分解能の向上をもたらすことができる。また、前述したように強度差信号がプロファイルデータの高さを反映したデータであることも同様である。
【0110】
さらに以下に、通常の光学結像系で欠落する空間周波数情報を再現する原理を説明する。
測定対象物G1で反射された回折光は図1に示す対物レンズ31に入射されるが、この対物レンズ31の開口の大きさに合わせて、回折光の内の高い空間周波数の情報が制限される。つまり、空間周波数が高くなれば高くなるほど、対物レンズ31に入射される高次の回折光の量が漸減していくことになる。このため、測定対象物G1が本来有する強度パターンや位相パターンが受光素子29に正確に反映されないことが起こりうるようになる。
【0111】
次に、この現象を定量的に説明するが、まず、測定対象物G1の強度パターンについて考える。受光素子29の表面は測定対象物G1のファーフィールド面になっているので、受光素子29の表面が測定対象物G1の空間周波数面になっている。たとえば、測定対象物G1がピッチdの正弦波状の強度パターンを有すると想定すると、光の振幅Eは、下記式より求まる。
E=A{1+sin(2πx/d−θ0)}
この強度パターンによる一次回折光E(k)は、上記式のフーリエ変換となるので、空間周波数上で下記式のようになる。
【0112】
【数3】
【0113】
単純化して考えるために対物レンズ31の矩形開口半径をa、焦点距離をfとすると、NA=a/fとなり、照射されるレーザー光の波長をλとすると、測定対象物G1上での合焦状態でのスポット半径wは、下記式より求まる。
w=0.5λ/NA=0.5fλ/a
上記した1次回折光の空間周波数kは対物レンズ31上での光軸Lからの距離をyとすると、下記式から求まる。
k=2πy/λf
これに伴い、光軸Lからの距離yが下記式より求まる値となり、この値を中心とする幅2aのビームが回折光となる。
y=±λf/d
【0114】
ここでy=2aの場合には、1次回折光が完全に対物レンズ31に入射されなくなり、この1次回折光が0次回折光と干渉することがなくなるので、強度パターンによる強度情報が再現されなくなる。これがカットオフ周波数であり、下記式のようになる。
1/d=2a/λf
空間周波数と変調度の関係は上記した考察から得られ、これを図示したものが図4に示すMTF曲線である。
【0115】
他方、レーザー光源21からのレーザー光が走査系とされる2次元走査デバイス26により水平走査方向に速度vで移動しているものとすると、レーザー光の光照射位置xはx=vtとなり、電気的な角周波数ω=2πv/dと空間角周波数k=2π/dとが一義的に対応することになる。
【0116】
以上の考察から明らかなように、受光素子29上での光照射位置の内の空間周波数1/dにおいて、強度情報が再現されなくなる。そして、この空間周波数1/dに対応したものとして、電気的な周波数v/dの情報が考えられる。
したがって、受光素子29をある程度大きい受光素子で構成するか、複数の分割受光素子で構成するとすれば、受光素子29の電気的な周波数情報自体が空間周波数を表していることに相当する。
【0117】
すなわち、レーザー光を走査したことにより、受光素子29が空間周波数情報を取得するという意味において、実効上、受光素子29がレンズの役割を果たしていることになる。したがって、レンズで欠落した空間周波数情報を、受光素子29を用いて電気的な周波数の増幅度を変更することで、復元できるようになる。
尚、複数の分割受光素子を用いた場合には、別々の増幅度で複数の受光素子の信号を増幅した後、和信号として出力しても良いし、別々の空間周波数領域の信号として使用しても良い。
【0118】
次に、MTF曲線の復元させたい帯域をフラット化する点について、説明する。
図4に示したMTF曲線の復元させたい帯域をフラットにするように実効上、線形のハイパスフィルタを受光素子29の増幅回路に付加したり、あるいは信号比較器33内にAD変換器とデジタルフィルタを配置しておいて、受光素子29からの出力をAD変換した後にデジタルフィルタにより、同様に帯域をフラットにするような操作をしたりすればよい。
【0119】
たとえば、図4に示す実線A1とされるMTF曲線の内のカットオフ周波数を2av/λfとすると、このカットオフ周波数に対応するカットオフ角周波数ωはω=2π×2av/λfとなり、このカットオフ角周波数の10%の角周波数ω10は以下のようになる。
ω10=(2π/10)×2av/λf
また、90%の角周波数ω90は以下のようになる。
ω90=(9×2π/10)×2av/λf
そして、10%から90%までのレベルを一定にしたければ、10%の角周波数ω10のゲインを1とし、90%の角周波数ω90のゲインを9にするように滑らかにゲインを変化させる。これにより図4の実線B1で示すように、10%から90%までのMTF曲線のレベルが一定になる。
【0120】
この結果として、このようなハイパスフィルタにより前述のハイパスフィルタやデジタルフィルタを構成すれば、空間周波数をこの帯域でフラットにすることができる。したがって、レンズで欠落した空間周波数を本実施例により完全に復元することができる。もちろん、レンズのカットオフ周波数付近までが有効となる。
【0121】
これに対して、たとえば受光素子の替わりにレンズを用いて測定対象物G1が本来有する強度パターンを考えてみた場合、厳密な意味で空間周波数が高くなると、変調度が低下するので、得られた強度情報を定量化することが困難である。具体的には、細胞等を染色して濃度を測定しようとしても、染色された対象物に構造があると、レンズでは正確な濃度等を測定できない。特に、細胞内の構造等を見ようとする超解像顕微鏡等においては、レンズの有する分解能と同程度かそれ以上の性能を引き出す方法を用いているので、なおさら考慮する必要性があると思われる。
以上より、レンズを用いた結像光学やこれに準じる方法で計測しようとしても、レンズの開口により欠落した空間周波数を光学的に復元することはできなかった。
【0122】
この一方、本実施例では、電気的な周波数情報に空間周波数を変換しているので、容易に欠落した空間周波数を復元できることになる。
【0123】
次に、測定対象物G1の位相パターンについて考える。
例えば、光軸Lを境界線として、この境界線を挟んでビームの分離方向に対して垂直な方向に境目となる暗線を有するように、複数の受光素子を配置し、それぞれの対応する受光素子同士の差出力を得るようにする。これは測定対象物G1が位相物体である場合に、特に有効である。
この場合、単純化のために測定対象物G1がピッチdの正弦波状の位相パターンであると想定すると、光の振幅Eは下記式で求まる。
【0124】
【数4】
【0125】
なお上記式におけるJ0(A)、J1(A)はベッセル関数である。この位相パターンによる1次回折光E(k)は、上記式のフーリエ変換となるので、空間周波数上で下記式のようになる。
【0126】
【数5】
【0127】
前述と同様に、上記した1次回折光が0次回折光と干渉できなくなるので、位相パターンによる位相情報が再現されなくなるところがカットオフ周波数であることは、強度情報と同じである。但し、位相情報の場合には、強度情報と異なり、光軸Lを境に1次回折光の位相が180度ずれる。このため、光軸Lを境界にした対応する受光素子間で差出力を得るようにして、0次回折光と干渉させる領域を考察することにより、位相Iは下記式で求まる。
【0128】
【数6】
【0129】
このようにすることで、位相差情報である行路差情報を可視化することができる。この場合のMTF曲線は上記した式により導かれ、図5に示したようになる。
他方、前述したように、レーザー光源21からのレーザー光が走査系とされる2次元走査デバイス26により水平走査方向に速度vで移動しているものとすると、レーザー光の光照射位置xはx=vtとなり、電気的な角周波数ω=2πv/dと空間角周波数k=2π/dとが一義的に対応することになる。但し、強度情報と異なる点は、MTF曲線がバンドパス的になっている点である。
【0130】
従って、図5に示したMTF曲線の復元させたい帯域をフラットにするように実効上、バンドエリミネーションフィルタを受光素子29の増幅回路に付加したり、あるいは信号比較器33内にAD変換器とデジタルフィルタを配置しておいて、受光素子29からの出力をAD変換した後にデジタルフィルタにより、同様に帯域をフラットにするような操作をしたりすればよい。
【0131】
この場合のMTF曲線は、カットオフ周波数の1/2の周波数がピークとなるバンドエリミネーションフィルタなので、たとえば、図5に示す実線A2とされるMTF曲線の内のカットオフ周波数が2av/λfとすると、このカットオフ周波数に対応するカットオフ角周波数ωはω=2π×2av/λfとなり、このカットオフ角周波数の50%の角周波数ω50は以下のようになる。
ω50=(5×2π/10)×2av/λf
また、10%の角周波数ω10および90%の角周波数ω90は、以下のようになる。
ω10=(2π/10)×2av/λf
ω90=(9×2π/10)×2av/λf
そして、10%から90%までのレベルを一定にしたければ、50%の角周波数ω50のゲインを1とし、10%の角周波数ω10と90%の角周波数ω90のゲインを5にするように、滑らかにゲインを変化させる。これにより図5の実線B2で示すように、10%から90%までのMTF曲線のレベルが一定になる。
【0132】
この結果として、10%から50%までを5倍から1倍のゲインを有するローパスフィルターとし、50%から90%までを1倍から5倍のハイパスフィルタとなるように構成すれば、空間周波数をこの帯域でフラットにすることができる。したがって、レンズで欠落した空間周波数を本実施例により完全に復元することができる。もちろん、レンズのカットオフ周波数付近までが有効となる。
【0133】
このように、受光素子29で検出される信号の周波数に対して、ゲインを適正化することで、MTF曲線に基づく光学系の空間周波数欠落を補正することができる。さらに、これらの周波数を可変とすることで、さまざまな望ましいデータに変更することができる。たとえば、観察対象の強度情報や行路差情報の変化を微細に観察したい場合には、空間周波数の高い情報を強調すればよい。すなわち、受光素子で得られる信号の高周波を強調するようにゲインを変更すればよい。
【0134】
また、画像処理における平滑化を行いたいのであれば、空間周波数の低周波強調を行えばよい。すなわち、受光素子で得られる信号の低周波を強調するようにゲインを変更すればよい。このように、受光素子の信号に対して、周波数を可変に変更するような機能を有する、一種のイコライザーを具備することで、空間周波数の変更ができるようになる。繰り返しになるが、計測に関しては、MTF曲線をフラット化するのが正しいと考えられる。
【0135】
次に、受光素子29を複数の小さい分割受光素子により構成する構造の一例を図6に示し、この図に基づきこのような受光素子29の構造を以下に説明する。
図6に示すように光軸Lを境界線とし、この境界線を挟んでレーザー光であるビームの分離方向X及びこれと垂直な交差方向Yに複数の分割受光素子を2次元的に配置する。この例の場合は、空間周波数領域を同心円状の3つのエリアに分けた例を示している。
【0136】
つまり、この受光素子29の場合、素子中心とされる光軸Lの周りに8等分でくさび状に形成された内側分割受光素子29Aが配置されている。これら内側分割受光素子29Aの周囲を囲む形で、同じく8等分で台形状に形成された中間分割受光素子29Bが配置されている。さらに、これら中間分割受光素子29Bの周囲を囲む形で、同じく8等分で台形状に形成された外側分割受光素子29Cが配置されている。
【0137】
従って、前述の同心円状の3つのエリアが、大まかに空間周波数の低周波数領域、中間周波数領域、高周波数領域とされ、これに伴い、内側分割受光素子29Aが空間周波数の低周波数領域用とされ、中間分割受光素子29Bが空間周波数の中間周波数領域用とされ、外側分割受光素子29Cが空間周波数の高周波数領域用とされることになる。さらに、これら3つの領域の分割受光素子の増幅率を一定もしくは3つの領域でゲインを変更しておくことにする。その上で、各領域の信号に対して、電気的な周波数による増幅度を変更する。
【0138】
この場合、3つの領域を一つの受光素子で代表するようにした場合と比較して、各周波数領域が独立に設定されているので、電気的にきわめて急峻なフィルタが配置されていることと等価となる。また、受光素子はサイズが大きくなると周波数特性が悪くなるが、このような構造にすることで、この周波数特性の悪化も防げる。
したがって、このように幾つかの分割受光素子で各空間周波数領域を分けて受光することで、走査速度や信号処理速度を全体として向上できるという利点を有することになる。
【0139】
また、ビームを走査するにあたり、水平走査方向が一般に高速走査方向になるが、この水平走査方向の走査デバイスとしては、共振ミラー型のものが使われることが多い。そして、共振ミラー型のものでは正弦波状の走査になり、この正弦波の一部を走査範囲として使うことになる。たとえば、走査範囲を正弦波の80%程度にすると、走査範囲の端部での走査角の速度は中心の速度の60%程度になる。従って、同じ対象物でもその中心の周波数に比較して端部は60%の周波数になる。
【0140】
以上より、走査角か走査速度を計測しておき、この情報に基づき表示位置とともに周波数ゲインの変更を行えばよい。周波数ゲインの変更はデジタル的に位置や速度に対するテーブルを用いて修正すればよい。
【0141】
他方、最近ではマイクロマシーン技術で作成されるマイクロミラーデバイスが登場している。このマイクロミラーデバイスでは、慣性モーメントが低いことから、一走査中における振幅を実効上変えることにより、試料面上での走査速度を一定にできつつある。このようなマイクロミラーデバイスを用いれば走査速度が一定となり、画像を構成する際にもデータの取得タイミングを一定にすれば、等間隔にデータが取得できるとともに、周波数の変更も必要にならずに、簡単になる。尚、このように速度一定にできるデバイスには、ほかに回転ポリゴンミラーや音響光学素子を用いたもの等がある。
【実施例2】
【0142】
本実施例は、実施例1で述べた反射光学系を透過光学系に置き換えた場合の実施例である。
図7は、本実施例に係る透過型の光学系を用いた空間周波数再現装置を示すブロック図である。主要な光学系は実施例1と同じなので説明を割愛するが、本実施例では、図7に示すように、対物レンズ31で集光された光が測定対象物G2を透過することになる。このため、受光素子49は測定対象物G2を挟んで対物レンズ31と反対側に配置されていることが特徴である。つまり、本実施例の場合、対物レンズ31の光軸Lの延長線上に2つのビームの分離方向に対して垂直方向に暗線が伸びる形で分割された受光素子49が配置されている。
【0143】
以上より、本実施例によれば、反射型の光学系に比較し、測定対象物G2に近接して受光素子49を配置できるので、取得できる空間周波数を非常に高く設定することが可能となる。従って、近接した受光素子で得られる電気的な高周波の信号を、実施例2と同様に周波数により信号ゲインを変換することにより、MTF曲線をフラット化して計測に使用したり、高周波強調を行い、細胞等の屈折率変化や形状変化を強調したりすることができる。
【0144】
特に、透過では、無染色、非侵襲で生きたままの細胞の状態変化をリアルタイムに観察できるので、IPS、ES細胞の正常かどうかの検査やがん細胞の有無検査等に大きな役割を果たすことができる。これは、電子顕微鏡のような高倍率であっても生体を殺した状態でないと観測できない測定器とは大きく異なる特徴である。このように、特に透過では受光素子を近接して配置することができるという大きな特徴を有する。これは、前述したように受光素子が一種のレンズと等価であるために、光学レンズでは不可能な空間周波数情報まで、取得できるということを意味する。
【実施例3】
【0145】
本実施例においては、変調を加えるための部材として、音響光学素子23の代替に空間変調器を用いることが特徴である。
図8は、本実施例の空間変調器を示した概念図である。この図8(A)に示すような空間変調器48を構成する磁性ガーネット膜48Aを各ピクセルごとに電圧または電流により駆動できるように、電極(図示せず)を付して、この空間変調器48を図1における音響光学素子23の位置に配置する。そして、磁性ガーネット膜48Aの各ピクセルに電圧、電流を印加することで、磁気光学効果によって各ピクセルの偏光面が回転するが、この偏光面の回転の程度は、印加する電圧、電流の大きさにより決定される。このような構造の空間変調器48として、ピクセル数が128×128であり、15nsの応答速度を有しているものがある。
【0146】
さらに、図1の偏光ビームスプリッター27を通過した光の強度または位相が、短冊状の正弦格子となるように、この空間変調器48の走査方向に対して垂直方向に、図8(B)に示す形で電圧または電流を各ピクセルに印加する。この際、各ピクセルに対して位相のずれた周波数fm=±2πv/dの単振動をさせることで、速度vでこの格子を移動させることができる。
【0147】
つまり、この正弦波状の格子のピッチをd、移動速度をvとすると、下記式となる。
Acos{2π/d(x−vt)}=A/2(expj{2π/d(x−vt)}+expj{−2π/d(x−vt)})
このため、±1次回折光がfm=±2πv/dの変調周波数を有することになる。尚、強度の場合には、0次の直流成分が生じるが、直流成分なので、ビート信号に影響はない。
【0148】
ここで、±1次回折光は、実施例2と同様に正弦格子のピッチと瞳伝達拡大レンズ系の倍率により、ビームが所望の程度重なる程度とする。また、変調周波数fmが8MHz程度になるように速度vを決めれば、実施例2と同様な効果を得ることができる。空間変調器48の応答速度は15nsとしたが、現状の空間変調器はデジタル的に2値となっている。
【0149】
しかしながら、アナログ的に変調することは可能であり、そのときの応答速度も1桁程度悪化する可能性がある程度であり、瞳伝達拡大レンズ系と併用することにより、十分に8MHz以上の変調周波数を得ることは可能である。この場合、実施例2と比較すると、瞳伝達拡大レンズ系が簡素になる。なぜならば、変調周波数は、デバイスの応答速度で決まるが、格子のピッチをできるだけ大きくすると、ビームの分離度は小さくすることができる。
【0150】
したがって、最小の分離度は、デバイスの大きさによって決まるので、適正に選択すれば、高速な走査を行うことが可能となる。なお、上記した空間変調器48のピクセル自体を図8に示した短冊状にすることにより、駆動回路等を簡素化することもできる。
【0151】
なお、音響光学素子23においても、ラマンナス回折を生じるような素子を用いれば、変調周波数をfmとすることで、下記式より±1次回折光がfmの変調周波数を有するようにすることができる。
Acos(2πfmt)=A/2(exp(j2πfmt)+exp(-j2πfmt))
この場合、DSB変調のような変調よりも単純な変調信号で同様の効果をもたらすことができる。
尚、取得した受光素子の周波数のゲインを可変にすることで、MTF曲線をフラット化する等の電気的なゲイン変更に関しては、この実施例においても有効である。
【0152】
以下に、本発明に係る空間周波数再現装置に関する実施例4から実施例9を各図面に基づき、詳細に説明する。
以下の実施例においても、対応する受光素子間の差信号を検出したり、和信号を検出してその周波数を可変にすることで、MTF曲線をフラット化して計測値を正確に得たり、試料に含まれる微細な情報を強調化するなどの効果が期待できることは、前記した実施例と同様なので、詳細は割愛する。また、前述したように強度情報では和信号が大きな意味を有し、行路差情報では差信号が大きな意味を有することは、同様である。
【0153】
さらに、以下の実施例では、大きな特徴を共通にするので、ここでこの特徴をまとめて簡潔に述べる。つまり、特に超解像の領域では、レンズの本来有する分解能を超えるような手法であるので、高範囲においてMTF曲線がフラットでないと、実態とはかけ離れた情報を取得することになる。
【0154】
これは、結像光学系等の従来の光学技術では、本質的に有する問題点である。しかしながら、本手法では前述したように少なくとも超解像をもたらす空間周波数までのMTF曲線をフラット化できることになる。このことは従来の光学顕微鏡には見られない大きな特徴であり、以下の分解能向上手段と相まってきわめて大きな特徴となっている。
【実施例4】
【0155】
本発明に係る空間周波数再現装置の実施例4を以下に図9を参照しつつ説明する。
図9は、本実施例の空間周波数再現装置の構成を示す概略図である。この図9に示すように、光を照射する光源であるレーザー光源21が図示しない光学装置を介して、対物レンズ31と対向して配置され、このレーザー光源21が照射した光が、透過物の測定対象物である試料Sに収束照射されている。このレーザー光源21の収束照射の照射光軸とされる光軸L0上には、凸レンズとされる第1のレンズであるレンズ75が位置していて、測定対象物である試料Sを透過して出射された光束をレンズ75が平行な光束に変換している。
【0156】
このレンズ75の下方の光軸L0上には、レンズ75から出射された平行な光束をそれぞれ左右に分割する2つの第1のビームスプリッター72A、72Bが連続して配置されており、この下方にこの光を受光する第1の受光素子6が位置している。ただし、この第1の受光素子6は、光軸L0を挟んで位置する2つの分割受光素子6A、6Bにより構成されている。そして、右側寄りの分割受光素子6Aが、レンズ75からの透過光の内の光軸L0の右側寄り部分を受光し、左側寄りの分割受光素子6Bが、レンズ75からの透過光の内の光軸L0の左側寄り部分を受光することになる。
【0157】
この一方、光軸L0に対して図9の右側に傾きを有した傾斜光軸とされる光軸L1上には、凸レンズとされる第2のレンズであるレンズ76が位置しており、このレンズ76が試料Sから出射された光束を平行な光束としている。この光軸L1上には、この平行な光束を反射するための反射鏡78が配置されており、また、この反射鏡78の下方には、第2のビームスプリッター73が位置している。このため、レンズ76と第2のビームスプリッター73との間に配置される反射鏡78が、レンズ76からの出射光を第2のビームスプリッター73側に反射させている。また、第2のビームスプリッター73の下方には、複数の分割受光素子から構成される第2の受光素子群4が位置している。
【0158】
さらに、2つの第1のビームスプリッター72A、72Bの内の上側の第1のビームスプリッター72Aが分割された光束を第2のビームスプリッター73側に送り出している。このため、レンズ75から出射された光束とレンズ76から出射された光束とを第2のビームスプリッター73が干渉させて、この光束を第2の受光素子群4が受光するようにさせている。
【0159】
他方、上記と同様の構成を有したレンズ77、反射鏡79、第2のビームスプリッター74および、第2の受光素子群5が照射光軸L0を挟んで対称に、図9の左側にも配置されている。以上より、2つの第1のビームスプリッター72A、72Bおよび左右の第2のビームスプリッター73、74が、レンズ75から出射された光束とレンズ76、77から出射された光束とを干渉させている。
【0160】
さらに、前述の分割受光素子6A、6B、受光素子群4、5が、これら受光素子6A、6B、受光素子群4、5からの信号を比較するための比較器7にそれぞれ接続されている。そして、この比較器7が、最終的にデータを処理して試料Sのプロフィル等を得るデータ処理部8に繋がっている。このため、比較器7及びデータ処理部8が、光軸L0を挟んで位置する第1の受光素子6の分割受光素子6A、6B間の出力和や出力差および、一対の第2の受光素子群4、5間の出力和や出力差を検出する出力和差検出部とされている。
【0161】
以上のことより、この図9に示す対物レンズ31で収束された光は、測定対象物である試料S上にスポットを形成する。このスポットは理想的には回折限界の径を有し、このスポット径内における試料Sのパターンの空間周波数情報が透過光として回折される。ここで、試料Sの有する空間周波数の1次回折光でレンズ75に入射されない空間周波数を考えた場合、レンズ75には試料Sを透過した0次回折光と上記空間周波数よりも低い空間周波数成分の光が入射される。このことで、レンズ75単体では、レンズ75の有するカットオフ周波数まで、試料Sのパターンが再現されうることになる。
【0162】
ところが、レンズ75に入射されない空間周波数はカットされ、像情報に欠落を生じることになる。そこで、図9に示すように0次回折光の光軸L0に対して、レンズ76及びレンズ77が相互に対称な位置であって、ある傾きを有して配置されている。ここで、0次回折光の光軸L0に対するこのレンズ76及びレンズ77の光軸L1、L2の傾き角は、試料Sのコントラストが最大になる空間周波数に匹敵するようにする。
【0163】
すなわち、レンズ76の光軸L1上の光束は、反射鏡78で折り返され、ビームスプリッター72Aにより分離された0次回折光の光軸L0上の光束とビームスプリッター73により合成される。合成された光自体は受光素子群4に導かれる。したがって、0次回折光とレンズ76から出射される1次回折光とを干渉させて受光素子群4が受光する。このとき、最も高いコントラストを有する光束は、レンズ76の光軸L1に一致する空間周波数の光束となるからである。
【0164】
0次回折光の光軸L0に対し、上記した光学系と反対方向にある同様な光学系について考えた場合、レンズ77の傾斜光軸とされる光軸L2上の光束は反射鏡79で折り返される。このレンズ77の光軸L2上の光束は、ビームスプリッター72Aを経てビームスプリッター72Bにより折り返された0次回折光の光軸L0上の光束と、ビームスプリッター74により合成される。合成された光自体は受光素子群5に導かれる。0次回折光とレンズ77から出射される−1次回折光とを干渉しつつ受光素子群5が受光する。
【0165】
ここで、受光素子群4は複数の分割受光素子よりなり、おのおのの分割受光素子は0次回折光と1次回折光で干渉された干渉縞を適当なピッチでサンプリングした干渉縞強度を取得する。つまり、0次回折光の光軸L0と1次回折光の光軸L1が傾きを持たなければ、光束内で一様な干渉強度となるが、多少傾きを有した場合には一様なピッチの干渉縞を生じるからである。この干渉縞のピッチは、1次回折光の出射角度によるので、レンズ76に入射される空間周波数を反映したものとなる。
【0166】
また、受光素子群5も複数の分割受光素子よりなり、おのおのの分割受光素子は0次回折光と−1次回折光で干渉された干渉縞を適当なピッチでサンプリングした干渉縞強度を取得し、上記と同様に動作する。
【0167】
したがって、受光素子群4、5は、複数の分割受光素子によりそれぞれ構成される形で配置され、空間周波数の反映した情報が取得できるようになる。受光素子群4,5の実質上対応する空間周波数を取得している受光素子の差の出力を取得することにより、より高い空間周波数情報を取得できるようになる。
【0168】
以上は、DPC法の光学系および、発明者たちが提案するDPC法とヘテロダイン法とを組み合わせた光学系において、特に有効となる。簡単のために上記においては透過光学系で説明したが、試料面に対して反射する方向に本空間周波数再現装置を配置しても同様な効果をもたらすことになる。
【0169】
上記光学系により取得できる実質的な空間周波数を大きくできる点を以下に定量的に明らかにする。ただし、説明を簡単にするために試料Sが高さhでピッチdの正弦波状の形状をしているものとする。すなわち、光学的な位相θが以下の式で表される。
θ=2πh/λsin(2πx/d+θ0)・・・・・(9)式
【0170】
試料Sから回折された光の振幅Eは、fだけ離れた面においては、(9)式のフーリエ変換とレンズの開口とのコンボリューションとして、与えられるので、以下のように表される。ただし、(9)式の位相のフーリエ変換であるベッセル関数は±1次まで取るものとする。ここで、E0、E1は、おのおの0次回折光と1次回折光が入射されるレンズ75、レンズ76を経た複素振幅分布である。おのおの(10)、(11)式で表される。
【0171】
【数7】
【0172】
同様にE-1を−1次回折光が入射されるレンズ77を経た振幅分布である複素振幅分布であるとすると、下記(12)式のようになる。
【0173】
【数8】
【0174】
0次回折光の複素振幅分布を表す(10)式と1次回折光の複素振幅分布を表す(11)式とから、レンズ75の光束とレンズ76の光束とをビームスプリッター72A,73で合成して、受光素子群4上で干渉させた結果とされる受光素子群4上の強度I1は、下記式のようになる。
【0175】
【数9】
【0176】
同様に0次回折光の複素振幅分布を表す(10)式と−1次回折光の複素振幅分布を表す(12)式とから、レンズ75の光束とレンズ77の光束とをビームスプリッター74,72Bで合成して受光素子群5上で干渉させた結果とされる受光素子群5上の強度I2は、下記式のようになる。
【0177】
【数10】
【0178】
ただし、上記強度I1と強度I2は簡単のために0次回折光および±1次回折光の光路差が実質上ないものとした。このようにして、受光素子群4と受光素子群5との差出力を表すと下記式のようになる。
【0179】
【数11】
【0180】
ここで、単独の受光素子を用いずに、適正個数の分割受光素子よりなる受光素子群としたのは、受光素子と空間周波数が対応関係にすることになるので、受光量より試料Sに含まれる空間周波数成分の分布も考慮に入れた解析ができるからである。
もし、0次回折光と1次回折光とを干渉させないと、±1次回折光の強度は、下記式のようになり、差出力を取得すると0となる。
【0181】
【数12】
【0182】
また、たとえ和の出力を取得したとしても位相情報θ0は完全に失われることになり、試料Sにその空間周波数が存在するか否かの情報だけとなり、プロファイル情報等の知りたい情報を取得することはできない。
【0183】
以下、上記光学系を具体的に適用して効果のあるDPC法の光学系および、DPC法とヘテロダイン法とを組み合わせた光学系について述べる。ここで、図10はDPC法における透過光学系のブロック図を示し、図11はDPC法における反射光学系のブロック図を示す。
【0184】
まず、図10に示すように、レーザー光源21からの光束はコリメーターレンズ22により平行光束とされ、2次元走査デバイス26に入射される。この2次元走査デバイス26は光を面上に走査するデバイスであり、MEMSやガルバノミラー、レゾナントミラー等で構成されるものである。
【0185】
この平行光束は、2次元走査デバイス26の瞳位置を対物レンズ31の瞳位置に伝達するための瞳伝達レンズ系30を経て、対物レンズ31に入射された後、試料Sに収束される。試料Sに収束された光は透過光となり、受光素子29に入射される。この受光素子29は、試料Sから実質上ファーフィールドとなる位置に配置され、光軸Lに対して対称に少なくとも2分割された受光素子とされている。
【0186】
この結果、光軸L上の平行光束が試料Sの屈折率分布や凸凹により0次回折光と±1次回折光とに分離され、分離されたこれらの光が干渉しつつ、受光素子29に受光される。これに伴い、試料Sの屈折率分布や凸凹の情報が、0次回折光と±1次回折光との干渉情報に基づき、受光素子29内の図示しない光電変換部において、変換される。このとき、光軸Lに対して対象な受光素子29の2つの受光素子間の差出力に試料Sの上記情報が反映される。
【0187】
これに対して、図11は反射光学系のブロック図であり、図10の透過光学系と異なるのは、コリメーターレンズ22と2次元走査デバイス26との間にビームスプリッター27を配置したことである。そして、このビームスプリッター27により光束の一部を取り出し、この光束を少なくとも2分割された受光素子からなる受光素子29によりそれぞれ受光することにより、これらの差出力を検出することである。この際、試料Sからの反射平行光は、実質上ファーフィールド情報であることになる。
【0188】
空間周波数再現装置に係る実施例を表す前述の図1および図7に示す構造は、発明者たちが提案するDPC法とヘテロダイン法とを組み合わせた光学系でもある。ここで、図1はDPC法とヘテロダイン法とを組み合わせた反射光学系のブロック図でもあり、図7はDPC法とヘテロダイン法とを組み合わせた透過光学系のブロック図でもある。
以上より、DPC法とヘテロダイン法とを組み合わせた光学系についての詳細な説明は省略する。但し、これらの光学系が図10および図11に示す光学系と異なるのは、図1および図7に示すように、音響光学素子23によりきわめて接近した2つの光束を作成し、測定対象物である試料Sに照射することにある。
【0189】
また、上記のような光学系の受光素子部分に図9に示す光学系を用いることで、さらに空間周波数の高い情報、すなわち横分解能の大幅な向上が図れるようになる。さらに、試料Sに照射する光束を平行光束として、図9に示すレンズ75,76,77を省き、その他の光学系は上記実施例と同じようにすることで、平行光束系に対する空間周波数再現装置とすることもできる。
なお、本実施例は、試料Sが屈折率や行路差情報との位相差情報を有する場合であるので、受光素子間の差信号に関する説明を主体的に行った。この一方、実施例1で述べたように本実施例でも強度情報については、対応する受光素子同士の和信号や、すべての受光素子の和信号を求めることで、超解像を実現できる。
【0190】
以下の実施例においては、DPC法の光学系の受光素子部分および、DPC法とヘテロダイン法とを組み合わせた光学系の受光素子部分に、以下の実施例の受光素子系を適用すればよいので、受光素子系以外の光学系についての説明は省略する。
【実施例5】
【0191】
本実施例においては、0次回折光の光軸L0に対してレンズを傾斜して設置することで、0次回折光の一部だけでなく、同じレンズを用いた場合に比較してより高い空間周波数を有した1次回折光の一部を取り入れることができ、これら0次回折光と1次回折光の干渉を実現している。
本実施例は、図12に示すように、平行光束が対物レンズ31に入射され、試料Sに収束されるまでは、図9と同様である。ただし、本実施例においては、試料Sを透過した0次回折光の一部と1次回折光の一部とを、0次回折光と1次回折光との間の中間的な傾き角を有した光軸L3だけ傾けた状態のレンズ36に取り入れる。そして、上記一部の1次回折光と上記一部の0次回折光をロンボイドプリズム39のようなものにより、光束同士をシフトして重ね合わせることで、お互いの光束同士を干渉させる。
【0192】
また、ロンボイドプリズム39の一面を半透鏡39Aとし、この半透鏡39Aと反対の面を半透鏡39Bにし、それぞれの面を通過して光を受光する受光素子40,41,42を配置する。ここで、受光素子40と受光素子41は、それぞれ0次回折光の一部と1次回折光の一部との干渉結果を反映する。受光素子42は、レンズ36の0次回折光の一部が含まれる領域に回折される低い空間周波数の1次回折光と0次回折光の一部との干渉結果を反映する。
【0193】
以下の式にて、0次回折光と1次回折光とが干渉した結果について説明する。
まず、図12で示した光学系と同様の光学系を、図12では示していないが0次回折光の光軸L0と対称となるように、−1次回折光に対しても配置する。これら対応する各受光素子の出力差を取得すると以下のように考えられる。説明を簡単にするために、試料Sが高さhでピッチdの正弦波状の形状をしているものとすれば、光学的な位相θが以下の式で表される。
【0194】
θ=2πh/λsin(2πx/d+θ0)・・・・・(9)式
【0195】
試料Sから回折された光の振幅Eは、焦点距離fだけ離れた面において、(9)式のフーリエ変換とレンズの開口とのコンボリューションとして与えられるので、以下のように表される。
ただし、(9)式の位相のフーリエ変換であるベッセル関数は±1次まで取るものとする。
また、図12に示すように光軸L3をレンズ36のほぼsin-1(NA)に相当する角度ξだけ傾ける。この際、光軸L3に対する垂直方向をy軸とし、(1)式の空間周波数1/dに相当する1次回折光の中心位置をY1とする。
このとき、上記(2)式を参考にして、光軸L3を角度ξだけ傾けた場合、(2)式の0次回折光は中心がaだけずれ、1次回折光の中心軸がy1になるので、下記の(13)式で複素振幅分布E1が与えられる。
【0196】
【数13】
【0197】
同様に0次回折光の光軸L0に対して、1次回折光と対称な光学系における−1次回折光に関しては、下記の(14)式となる。
【0198】
【数14】
【0199】
図12の光学系は、レンズ36の光軸L3を0次回折光と1次回折光との間の境界に実質上シフトして重ねているので、(13)式は、下記の(13)’式となる。
【0200】
【数15】
【0201】
このようにy1=aのときに複素振幅分布E1は最も大きく、y1=2aのときに0となる。
y1=2aは、0次回折光から見れば、3aに相当した空間周波数までの情報を取得したことになる。したがって、同じNAのレンズを用いた時に比較して1.5倍の空間周波数まで取得できたことになる。その分、光学的な分解能が実質的に向上したことになる。
【0202】
他方、0次回折光の光軸L0に対して、1次回折光と対称な光学系における−1次回折光に関しては、同様にして−1次回折光の光軸L2に垂直方向をy’軸とすると、下記の(14)’式となる。
【0203】
【数16】
【0204】
このようにy1=-aのときに複素振幅分布E-1は最も大きく、y1=-2aのときに0となる。
y1=-2aは、0次回折光から見れば、-3aに相当した空間周波数までの情報を取得したことになる。したがって、同じNAのレンズを用いた時に比較して1.5倍の空間周波数まで取得できたことになる。その分、光学的な分解能が実質的に向上したことになるのは、1次回折光と同様である。
この様にして得た情報に対して、受光素子40と受光素子41の和の出力とそれと等価な−1次回折光の受光素子間で差出力ΔIを下記の式により得るようにする。
【0205】
【数17】
【0206】
これは、実質的に実施例5と同様な式となっている。ただし、実施例5に比較すると光学系はよりシンプルで、かつロンボイドプリズムのような簡単な素子で構成しており、レンズを一体的に成形するなどすれば、安定的な光学系とすることが可能である。なお、ロンボイドプリズムを、実質上2つのハーフミラーで構成しても同様な効果をもたらすことができる。
なお、本実施例は、試料Sが屈折率や行路差情報との位相差情報を有する場合であるので、受光素子間の差信号に関する説明を主体的に行った。この一方、実施例1で述べたように本実施例でも強度情報については、対応する受光素子同士の和信号や、すべての受光素子の和信号を求めることで、超解像を実現できる。
【実施例6】
【0207】
本発明に係る空間周波数再現装置の実施例6を図13を参照しつつ、以下に説明する。
図13は、本実施例の空間周波数再現装置の構成を示す概略図である。この図13に示すように、本実施例においては、0次回折光の光軸L0に対して、レンズ36を傾斜して設置している。このことで、0次回折光の一部だけでなく、同じレンズを用いた場合に比較してより高い空間周波数を有した1次回折光の一部を取り入れ、結像光学系にて干渉を実現している。なお、図示しないものの、本実施例においては、軸L0に対して対象な位置に同様な光学系が配置されている。
【0208】
レンズ36を傾けて0次回折光の一部と1次回折光の一部を取得するところまでは、実施例6と同様である。本実施例では、レンズ36により平行光束にした回折光同士をレンズ52にて集光する。このレンズ52により回折光同士が焦点近傍で重なり合って、実質的に干渉する。ただし、0次回折光と±1次回折光との干渉ではないので、試料S自体の結像とは異なる。
【0209】
さらに、レンズ52の実効的な焦点距離を長くすることで、干渉縞のピッチを広げることができる。もし、レンズ36とレンズ52の焦点距離が同じであれば、当然等倍となり、試料Sの空間周波数となる。これに対して、他方の−1次回折光の光学系にて干渉された結果は、ピッチがずれた干渉縞となる。しかしながら、干渉縞のピッチに対して受光素子が大きいと、±1次回折光を受光する素子の位置あわせが困難になる。
【0210】
そこで、拡大光学系53により干渉縞自体を拡大し、受光素子50の大きさにほぼ等しくすれば、±1次回折光で自然と逆位相となるので、0次回折光がバイアスになるような形で明暗が逆になる。この様にすれば、極めて簡単に空間周波数の高い領域まで、情報を取得することができるようになる。本実施例の場合、レンズ52を用いているので、このレンズ52に入射される0次回折光と1次回折光の位相差がそのまま反映される程度の波面収差は許容される。したがって、高額なレンズを用いる必要性はない。
【0211】
ここで、具体的に受光素子の調整方法を簡単に述べる。
試料Sが位相情報である場合、1次回折光と0次回折光との間及び、−1次回折光と0次回折光との間の2系統で行い、一方の受光素子が最大光量のときに他方の受光素子でほぼ0になるように、受光素子を調整する。試料Sが強度情報である場合には、1次回折光と0次回折光との間及び、−1次回折光と0次回折光との間の2系統で行い、一方の受光素子が最大光量のときに他方の受光素子でも最大になるように、受光素子を調整する。
【0212】
なお、本実施例においては、焦点距離が多少異なるレンズであっても、お互いの受光素子の受けとる光量に大きな変化がなく、レンズ面内の波面収差が大きくなければ、干渉縞のピッチが多少変わる程度なので、そのまま用いることができる。また、取得できる空間周波数の限界は、図12とほぼ同じ原理なので、1.5倍程度となる。この光学系は、レンズ系だけを用いて構成しているので、非常にシンプルで、外乱に対しても強い。
【実施例7】
【0213】
本発明に係る空間周波数再現装置の実施例7を図14を参照しつつ、以下に説明する。
図14は、本実施例の空間周波数再現装置の構成を示す概略図である。
この図14に示すように、本実施例においては、試料Sに収束した光を入射せず、比較的大きな径を有する平行光束を入射することとする。この場合において、0次回折光の光軸L0に対して、レンズ36を傾斜して設置することとした。このことで、0次回折光の一部だけでなく、同じレンズを用いた場合に比較してより高い空間周波数を有した1次回折光の一部を取り入れることができる。なお、図示しないものの、本実施例においては、軸L0に対して対象な位置に同様な光学系が配置されている。
【0214】
ただし、レンズ36を傾けて0次回折光の一部と1次回折光の一部を取得するところまでは、実施例6と同様である。本実施例では、0次回折光および1次回折光をそれぞれ集光光束とするが、レンズ36のそれぞれの焦点位置に焦点を有する別々のレンズ64,65を配置し、これらのレンズ64,65により集光光束を平行光束とする。この様に平行光束にした以降は、図12および図13に示す光学系を用いて、0次回折光の一部と1次回折光の一部とを干渉させる。
【0215】
この場合、試料Sに入射される光束径は大きいので、面内の情報が平均化されてしまう。そこで、入射された平行光束に図示しない制限開口を設けることで、その部分の情報として解釈するか、もしくは規則正しいパターン中の不規則パターンの検出が可能となる。つまり、規則正しい1次回折光の方向が設計上予め分かっているので、その1次回折光の方向はレンズ36の焦点にマスクすることで抑えることができる。
【0216】
この一方、それ以外の成分はレンズ64、65に入射されるので、欠陥部からの情報を検出することができる。たとえば、半導体ウェハー上の欠陥検査や、ナノ構造の不均一性の検査等への適用が可能である。なお、取得できる空間周波数の限界は、図12とほぼ同じ原理なので、1.5倍程度となる。
【実施例8】
【0217】
本発明に係る空間周波数再現装置の実施例8を以下に図15を参照しつつ説明する。
図15は、本実施例の空間周波数再現装置の構成を示す概略図である。本実施例は図13と同様な光学系に採用されるものであるが、本実施例においては、この図15に示すように拡大光学系53をなくす替りに、回折格子であるグレーティング54をレンズ52の焦点に配置した構造としている。なお、図示しないものの、本実施例においては、光軸L0に対して対象な位置に同様な光学系が配置されている。
【0218】
この結果、試料Sにより回折された0次回折光と1次回折光がグレーティング54により、さらに回折され、0次回折光と1次回折光が実質上干渉するようになる。図15において、斜線を施した部分が、0次回折光と1次回折光が重なる干渉部Kであるが、光軸L3に対して、逆側にも同様な干渉部Kが存在する。
【0219】
ここで、グレーティング54が正弦波状で構成されていれば、グレーティング54による回折波は、0次回折光、±1次回折光で位相差がない。この場合、光軸L3に対して対称な部分の位相差は同じなので、重なった部分は同相となる。従って、本実施例では、受光素子50はグレーティング54から出力された少なくとも2つの領域の上記干渉部Kを含む部分の光量を取得すればよい。
【0220】
ただし、光軸L0に対して干渉部Kが対称で同相であるが、試料Sで回折された−1次回折光では、この干渉部Kの位相が180度反転する。これに対して、干渉部K以外の強度は、試料Sで回折された±1次回折光の方向で同一となるため、±1次回折光の強度の差動出力を取ると、干渉部Kのみの情報が残ることになる。
【0221】
この一方、グレーティング54が位相差を生じる実質上の正弦波状で構成されていると、グレーティング54による0次回折光と±1次回折光で位相差が180°生じる。この場合、上記したように受光素子50をグレーティング54から出力された少なくとも1つの領域の干渉部Kを含む光量を取得すればよい。ただし、上記と異なる点は、グレーティング54の有する位相差が反映することになるので、グレーティング54のビームに対する位置も反映する。従って、グレーティング54のビームに対する位置調整が必要になる。
【0222】
なお、位置調整は非常に簡単で、あらかじめ用意した、ある空間周波数を有する位相格子の試料Sに対して、走査による観察される両側の受光素子50の強度変調が最大になるように調整し、かつ、両側で位相差が180°になる様にすればよい。±1次回折光の強度の差動出力が、干渉部Kのみの情報が残ることは上記と同様である。
また、本実施例は、試料Sが屈折率や行路差情報との位相差情報を有する場合であるので、受光素子間の差信号に関する説明を主体的に行った。この一方、実施例1で述べたように本実施例でも強度情報については、対応する受光素子同士の和信号や、すべての受光素子の和信号を求めることで超解像を実現できる。
【実施例9】
【0223】
本発明に係る空間周波数再現装置の実施例9を以下に図16を参照しつつ説明する。
図16は、本実施例の空間周波数再現装置の構成を示す概略図である。
本実施例は図15と同様なグレーティング54を別の光学系に採用したものであるが、本実施例においては、この図16に示すように、レンズ75、76、77を有する他、反射鏡78、79を有する実施例5に近似した構造とされている。ただし、ビームスプリッター72A、72B、73、74等が無い替りに、レンズ55が反射鏡78の下方に配置され、このレンズ55と受光素子57との間であって、レンズ55の焦点位置にグレーティング54が配置された構造となっている。
【0224】
さらに、レンズ75が大型とされて、このレンズ75を透過した光束の一部がレンズ55に入射され、実施例9と同様に作用する。また、レンズ56が反射鏡79の下方に配置され、上記と同様にこのレンズ56と受光素子58との間であって、レンズ56の焦点位置にグレーティング54が配置された構造となっている。このため、これらレンズ56、グレーティング54、受光素子58等によっても、上記と同様に作用する。
【0225】
尚、上記実施例1から実施例3において受光素子28を用いたが、この受光素子28を省略し、測定対象物G1,G2がないか、対物レンズ31を大きくデフォーカスしておいて2次元走査を行い、2次元走査情報とともにデータ処理部34のメモリに位相情報を蓄えておくようにすることが考えられる。この位相情報は、光学系、電気系の有する位相ずれであるので、これを基準値として、測定対象物G1,G2のある場合の位相情報を補正することにより真の位相情報を取得することができる。このようにすれば、受光素子28が不要になるとともに、測定対象物G1,G2を観測する前に補正値を求めておくことができ、精度の高い計測が可能となる。
【0226】
このように測定対象物G1,G2を観測する前に補正値を求めておくことで、特に実施例2においては、マイクロ流路に細胞等を流す場合のモニターや細胞形状の判断を行った後に細胞を種わけする等の応用に、絶大な効果をもたらすようになる。
【0227】
すなわち、マイクロ流路は一方向に細胞等を流す素子であるので、実施例1、2の2次元走査デバイス26の代わりに流路の方向に垂直な方向に走査する1次元走査デバイスを用意すればよい。この様にすれば、基準位相は1次元走査方向のみの非常に少ない点に関する位相をメモリーしておけばよいことになるし、光学系も簡素になる。なお、強度情報を取得しても同様な効果が得られることは前述したことと同様なので、省略する。
【0228】
以上、本発明に係る実施の形態を説明したが、本発明は前述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0229】
本発明の空間周波数再現装置は、試料との間の距離や試料の形状を計測できるだけでなく、顕微鏡等のさまざまな種類の測定機器に適用可能となる。
また、本発明の空間周波数再現装置は、顕微鏡だけでなく、さまざまな種類の光学機器や波動を有する電磁波を用いた計測機に適用でき、これら光学機器や波動を有する電磁波を用いた計測機の分解能を向上することができるものである。
【符号の説明】
【0230】
21 レーザー光源
22 コリメーターレンズ
23 音響光学素子
24 AODドライバー
25 瞳伝達拡大レンズ系
26 2次元走査デバイス
27 偏光ビームスプリッター
28,29 受光素子
30 瞳伝達レンズ系
31 対物レンズ
33 信号比較器
34 データ処理部
36 レンズ
39 ロンボイドプリズム
40、41、42 受光素子
48 空間変調器
49 受光素子
50 受光素子
52 レンズ
53 拡大光学系
54 グレーティング
55,56 レンズ
57,58 受光素子
64、65 レンズ
72A、72B 第1のビームスプリッター
73、74 第2のビームスプリッター
75、76、77 レンズ
78、79 反射鏡
G1 測定対象物
G2 測定対象物
S 試料
L、L0、L1、L2、L3 光軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17