【実施例1】
【0060】
本発明に係る空間周波数再現装置の実施例1の概念を以下に説明する。
光源から出射されたレーザーのようなコヒーレントな光を、第1の手段である音響光学素子や空間変調器により実質上2つの異なる周波数の光に変調させる。この時、例えば音響光学素子を用いると、この音響光学素子の表面弾性波と光の相互作用により、回折縞が変調を受ける。ドップラーシフトを受けた光は、周波数変調を受けるとともに、±1次の回折光となって出射される。他方、空間光変調器を用いる場合には、この空間光変調器に書き込んだ回折縞を変調させることでも、同様な効果をもたらす。
【0061】
このようにして、周波数変調を受けた光が相互に近接した2つの光に分離されつつ第1の手段から出射される。この2つの光を第2の手段である瞳伝達光学系や2次元走査デバイス等により2次元に走査し、第3の手段である対物レンズ等で試料に照射させる。この試料から離れた位置であって、2つの光の分離方向に沿って2以上に分割されて配置された受光素子を第4の手段とする。この受光素子が、試料から反射し、あるいは試料を透測定対象物G1過した光を、2つの光の分離方向に対して略垂直な方向に伸びる境界線を挟んだ光として、それぞれ受光する。
【0062】
この様にして受光素子で受光された光は光電変換される。前記の境界線を挟んだ各領域に関して第4の手段の受光素子で光電変換された各々の電気信号の周波数に応じて第5の手段が増幅度を変化させつつ、増幅する。
そして、この第5の手段である信号比較器において2つの光の分離方向に対して略垂直な方向を境界線とし、この境界線を挟んで対称な位置にある各々の出力の差信号または和信号を作成する。この差信号または和信号を第6の手段であるデータ処理部においてヘテロダイン検波することにより、位相差の検出をし、あるいは強度差の検出をする。
【0063】
この検出された位相差や強度差は、反射の場合には試料表面のプロファイルの高さ情報を示し、透過の場合には厚みや屈折率分布等の情報、すなわち、行路差情報を示す。この際、
図3に示す光の照射領域A,Bを対物レンズで絞った回折限界スポット径と考えればよい。
【0064】
以下、本実施例における空間周波数再現装置の動作原理について詳細に説明する。
図3に示す2つの光の照射領域A,B間の中心距離Δxをこれらの光が有する回折限界以下に設定したとする。この場合、各々の光の照射領域A,Bは、アッべの理論の回折限界以下にはならないが、わずかにずらした各々別の周波数の光であるため、これらの光をヘテロダイン検波することにより、微分情報を取得することができる。この時、2以上に分割されて配置された各受光素子の和信号を用いると、実質的に光学顕微鏡の一種の微分干渉顕微鏡と等価になり、これらの差信号を用いると、微分干渉顕微鏡よりはるかに高い横分解能が得られる。
【0065】
簡単のために1次元で考える。まず、微生物等の試料である測定対象物G1のプロファイルd(x)の位相分布をAe
jθ(x)とおく。ここで、θ(x)=2πd(x)/λである。本実施例のように反射の場合には、行路差は2倍になるので、観測されるθ(x)の半分を高さ情報とすればよい。
上記のように測定対象物G1上での2つの光の照射領域A,B間の中心距離をΔxとし、光の複素振幅分布をu(x)とする。この場合、測定対象物G1に対して十分離れた場所では、測定対象物G1のプロファイルとビームプロファイルの積のフーリエ変換となる。
【0066】
本空間周波数再現装置においては、一方の受光素子で受信される光は、e
j(ωc-ωm)tで変調を受けていることになり、中心距離Δxだけ離れて配置された他方の受光素子で受信される光は、e
j(ωc+ωm)tで変調を受けていることになる。
従って、各受光素子上の複素振幅分布Eは、以下のようになる。
E=∫(Ae
jθ(x) u(x)e
jkxdx・e
j(ωc-ωm)t+Ae
jθ(x+Δx) u(x)e
jkxdx・e
j(ωc+ωm)t)
【0067】
これら各受光素子により強度Iの検出を行うと、I=EE
*、さらに、2ωmのヘテロダイン検波を行うので、以下の(4)式のようになる。
I(k)=A
2∫e
j(θ(x)-θ(x'+Δx') u(x) u(x’) e
jk(x-x')dxdx’e
-j2ωmt
+A
2∫e
-j(θ(x)-θ(x'+Δx') u(x) u(x’) e
jk(x-x')dxdx’e
j2ωmt・・・・・(4)式
【0068】
そして、2つの光の重なっている照射領域A,Bのほぼ中心を
図2、
図3の境界線Cとし、この境界線Cを挟んだ位置であって、各々の照射領域A,Bの分離方向に沿った位置に対応して2つの受光素子を測定対象物G1から離して配置する。ここでまず、2つの受光素子で受信した信号の和信号がどのようになるかを考える。測定対象物G1から離れた位置では、フーリエ変換面であると考えられるので、受光素子で受信できる最大空間周波数をKmaxとすると、和信号では強度Iが下記式から求められる。
I=∫I(k)dk(積分範囲は-KmaxからKmax)
=A
2∫cos(θ(x)−θ(x’+Δx’)−2ωmt) u(x) u(x’)sin(Kmax(x-x’))/(x-x’)dxdx’
【0069】
受光素子を大きくして広い空間周波数まで受信するように配置すると、
sin(Kmax(x-x’))/(x-x’)=Kδ(x-x’)となるので、以下の(5)式のようになる。
I=A
2∫cos(θ(x) −θ(x+Δx) −2ωmt) u(x)
2dx・・・・・(5)式
【0070】
すなわち、2つの光の分離位置の位相差を光のプロファイルのウェイトで積分したことになる。
(5)式を変形すると下記の式を得る。
Iq=A
2∫cos(θ(x)−θ(x+Δx) u(x)
2dx・cos(2ωmt)
Ii=A
2∫sin(θ(x)−θ(x+Δx) u(x)
2dx・sin(2ωmt)
【0071】
従って、直交変換により、観測される位相差Θは以下の(6)式のようになる。
Θ=tan
-1(∫sin(θ(x)−θ(x+Δx)) u(x)
2dx/∫cos(θ(x)−θ(x+Δx)) u(x)
2dx)・・・・・(6)式
【0072】
この一方、2つの受光素子の差信号を考えると、和信号の場合と同様にして下記の式が得られる。
I=∫I(k)dk(積分範囲は0からKmax)−∫I(k)dk(積分範囲は−Kmaxから0)
=A
2∫sin(θ(x)−θ(x’+Δx’)−2ωmt) u(x) u(x’)( cos(Kmax(x-x’)-1)/(x-x’)dxdx’
【0073】
受光素子を大きくして広い空間周波数まで受信するように配置すると、
(cos(Kmax(x-x’)-1)/(x-x’)=δ’(x-x’)+1/x(δ(x)-1)となるので、下記(7)式のようになる。
I=A
2∫d/dx(sin(θ(x)―θ(x+Δx)―2ωmt) )u(x)
2dx・・・・・(7)式
さらに、この(7)式を変形すると、下記のようになる。
Iq=A
2∫d/dx(sin(θ(x)−θ(x+Δx)) u(x)
2dx・cos(2ωmt)
Ii=−A
2∫d/dx(cos(θ(x)−θ(x+Δx)) u(x)
2dx・sin(2ωmt)
【0074】
従って、直交変換により観測される位相差Θは以下の(8)式のようになる。
Θ=tan
-1(−∫d/dx(cos(θ(x)−θ(x+Δx)) u(x)
2dx/∫d/dx(sin(θ(x)−θ(x+Δx))u(x)
2dx)・・・・・(8)式
【0075】
ここで、(6)式と(8)式の比較を行う。定性的には、以下の点がわかる。
まず、(6)式では、照射領域A,Bの中心距離Δxだけ離れた2点の位相差をu(x)の重み関数で、平滑化した結果として得られる位相差を示しているので、照射領域A,B内の平均的な位相差を示している。これは、微分干渉顕微鏡と等価な処理である。
他方、(8)式では、照射領域A,Bの中心距離Δxだけ離れた2点の位相差の微分に対して、u(x)の重み関数で平滑化しているので、おおよそ元の関数を復元していることになる。
従って、照射領域A,Bの分離度に相当する横分解能で、位相差情報および位置情報を取得することが可能となる。
【0076】
ここでは、2つの受光素子を配置した場合を記述したが、照射領域A,Bの重なった領域の中心付近に、2つの光の分離方向に沿って複数の受光素子を測定対象物G1から離して配置した場合も同様になる。特に、差出力を得る場合には、照射領域A,Bの重なった部分の中心付近に対応して配置した複数の受光素子のうちの、対応する複数の受光素子間同士で差演算を行うようにすれば良い。
また、複数の受光素子の和出力だけを用いるのであれば、実質上1つの受光素子を用いることで、同様のことが実現できることになる。
【0077】
尚、説明を簡単にするために取得する空間周波数が広い場合を想定して式を簡略化したが、取得できる空間周波数が大きくない場合には、式中のδ関数の部分がコンボリューションになるだけで、本質的に分解能が向上することに変わりはない。この場合には、測定対象物G1のプロファイル等に多少のボケが生じることになる。
【0078】
上記説明においては位相に関して詳述したが、強度についても同様なことが言える。特に、照射領域A,Bよりも小さいプロファイルの変化に対しては、照射されている領域のフーリエ変換の0次回折波と1次回折波との干渉により形成された干渉縞のファーフィールドにおけるパターンが2つの受光素子で異なる。このため、受光素子の差信号はプロファイルの傾きに反映した強度差となってあらわれる。
以上述べたように、ヘテロダイン検波を用い、フーリエ変換面にて空間周波数情報を処理することにより、特に差演算では非常に高い横分解能の向上をもたらすことができる。
【0079】
すなわち、光電変換されたそれぞれの信号の和信号に基づくヘテロダイン検波では、2つの光であるビームの中心距離だけ離れた2点間の位相差をu(x)の重み関数で平滑化し、この結果として得られる位相差を示している。このため、この和信号に基づくヘテロダイン検波は、ビーム内の平均的な位相差を示していることになるが、これは微分干渉顕微鏡と等価な処理である。
【0080】
この一方、光電変換されたそれぞれの信号の差信号に基づくヘテロダイン検波では、ビームの中心距離だけ離れた2点間の位相差の微分に対して、u(x)の重み関数で平滑化しているので、おおよそ元の関数を復元していることになる。
以上より、ビームを瞳伝達光学系により走査した場合、ビーム分離度に相当する横分解能で、位相差および位置情報を取得することが可能となる。
【0081】
上記においては、光軸を境界線として2分割された受光素子を適用した場合を記述したが、ビームの分離方向に沿って複数の受光素子を試料から離して配置した場合も同様になる。特に、差出力を得る場合には、境界線を挟んで隣り合う受光素子間同士で行うようにすれば良い。また、複数の受光素子の和出力だけを用いるのであれば、実質上1つの受光素子を用いることで、同様のことが実現できることになる。特に、和出力の場合、試料が吸収率や反射率の異なるような強度パターンとなっている場合には有効である。たとえば、対象物が細胞で染色されているような場合である。
【0082】
そして、試料に関し、ビーム内にプロファイルの傾きがあれば、定性的には光が反射または透過する方向が異なるので、2つの受光素子に強度としての差出力が与えられる。具体的に説明すると、ビーム径よりも小さいプロファイルの変化があれば、光が照射されている領域のフーリエ変換の0次回折波と1次回折波との干渉により形成された干渉縞のファーフィールドにおけるパターンが、2つの受光素子間で異なる。このため、これら2つの受光素子の差信号は、プロファイルの傾きを反映した強度差となって表れることになる。
また、詳細は後述するが、対物レンズによる空間周波数はビームの走査と受光素子により電気的な周波数信号に変換しているので、対物レンズが本来有する空間周波数の漸減度を電気的な増幅度で修正することにより、対物レンズで取得できる空間周波数までは完全に復元することができる。
【0083】
以下、本発明に係る空間周波数再現装置の実施例1を図面を用いて具体的に説明する。
図1は、本実施例に係る空間周波数再現装置の構成を示すブロック図である。この
図1に示すように、レーザー光が出射される光源であるレーザー光源21と、AODドライバー24が接続されて動作が制御される第1の手段である音響光学素子(AOD)23との間に、コリメーターレンズ22が配置されている。
また、この音響光学素子23に対して、2群のレンズからなる瞳伝達拡大レンズ系25、入力されたレーザー光を2次元走査する2次元走査デバイス26、入力されたレーザー光を分離して出射する偏光ビームスプリッター27が順に並んで配置されている。但し、音響光学素子23に対して、瞳伝達拡大レンズ系25、ビームスプリッター27、2次元走査デバイス26の順に並べて配置しても良い。
【0084】
さらに、この偏光ビームスプリッター27に隣り合って、2群のレンズからなる瞳伝達レンズ系30が位置し、この隣に対物レンズ31が測定対象物G1と対向して配置されている。つまり、これら部材が光軸Lに沿って並んでいることになる。他方、光軸Lが通過する方向に対して直交する方向であって偏光ビームスプリッター27の両隣の位置には、それぞれ光センサである受光素子28及び受光素子29が配置されている。
これら受光素子28、29が、これら受光素子28、29からの信号を比較する信号比較器33にそれぞれ接続され、この信号比較器33が、最終的にデータを処理して測定対象物G1のプロフィル等を得るデータ処理部34に繋がっている。
【0085】
また、このレーザー光源21は、He-Ne等のガスレーザー、もしくは、半導体レーザー、固体レーザーであり、コヒーレントなレーザー光を発生する。このレーザー光をコリメーターレンズ22により平行光束にし、音響光学素子23に入射させる。このとき、レーザー光の入射ビーム径は、後段の瞳伝達拡大レンズ系25との兼ね合いより、絞り機構(図示せず)等を用いて適正化しておくことにする。さらに、この音響光学素子23には、AODドライバー24より、sin(2πfct)sin(2πfmt)のようなDSB変調信号が変調信号として加えられる。
【0086】
この様な変調を行うと、fc+fmとfc-fmの2つの周波数変調が加えられたことになる音響光学素子23は、ブラッグ回折格子のピッチdに相当する音波の粗密波を発生する。すなわち、超音波の速度をVa、印加する周波数をfとすると、d=Va/fとなる。具体的には、この粗密波により、音響光学素子23に入射されたレーザー光であるビームは、±1次回折光に分離され、各々の回折光は周波数fc±fmの周波数で変調される。たとえば、音響光学素子23の材料としてTeO
2が用いられるが、この材料の音速は、660m/sである。
【0087】
キャリアー周波数の周波数fcとして40MHzを選択すると、d=16.5μmとなり、He-Neレーザーをレーザー光源21に用いた場合、回折角θは2.19791度程度の角度になる。
図1においては、光軸Lが変化していないように図示してあるが、実際には音響光学素子23以降の光学系を回折角θだけ傾けておくか、2次元走査デバイス26にバイアスを付与して、回折角θの傾きを実効上与えておくことにする。
【0088】
このキャリアー周波数に10KHz程度の周波数fmを加えると、±1次回折光はθ=2.19847度とθ=2.19737度となり、40.01MHzと39.99MHzでそれぞれ変調されることになる。この角度を維持したまま、対物レンズ31にレーザー光を入射させた場合、対物レンズ31の焦点距離を2mm、NA0.9とすると、ビームの中心距離は、0.6μm程度になり、この時の回折限界はw=0.857μmとなる。つまり、このように回折限界系よりもビームの分離度を小さくしておくことにする。
【0089】
尚、ビームの中心距離であるビーム分離度をより小さくすれば、分解能を向上させることが出来るが、ヘテロダイン検波の周波数を低下させると、処理スピードが遅くなってしまう。この場合、より音速の早い音響光学素子を使用すれば、ブラッグの回折格子ピッチdを大きくすることが出来るので、処理速度を向上させることが出来る。実際、音速Vaが4.2E+3m/s程度のものも知られ、市販されている。
【0090】
ここで、音響光学素子23と偏光ビームスプリッター27との間に配置されている瞳伝達拡大レンズ系25は、音響光学素子23の出射面位置を次の2次元走査デバイス26に共役に伝達するための光学系である。この瞳伝達拡大レンズ系25を通過した光は2次元走査デバイス26に送られるが、対物レンズ31の瞳位置に共役にする瞳伝達レンズ系30により、この2次元走査デバイス26からの光は、角度差を有した±1次回折光として対物レンズ31に入射する。
【0091】
つまり、キャリア周波数fcと変調周波数fmの2つのDSB変調された信号を外部からAODドライバー24を経て、音響光学素子23に入力することで、きわめて接近したこれら2つの光束を作成することができる。
そして、上記のように音響光学素子23の実質的な瞳位置を2次元走査デバイス26の瞳位置に伝達する瞳伝達レンズ系25、光を面上に走査する2次元走査デバイス26および、2次元走査デバイス26の瞳位置を対物レンズ31の瞳に伝達するための瞳伝達レンズ系30を経て、対物レンズ31に、きわめて接近した2方向に出射された光束が入射される。
このようにして、
図2の実線で示すビームLAおよび点線で示すビームLBのように、非常に接近して相互に同一径とされる2つのビームを得ることができる。
【0092】
この結果として、対物レンズ31で収束された光束であるビームLA、LBは、きわめて接近された2つのスポットとして、測定対象物G1を面上に走査することになる。この2つのスポットは周波数fc+fmと周波数fc−fmの2つの信号となるので、これらの信号をヘテロダイン検波することにより、測定対象物G1の凸凹情報、屈折率分布を反映した信号が得られる。
【0093】
また、これら2つのビームLA、LBの有する周波数は、「光の振動数+キャリア周波数fc±変調周波数fm」となる。2つの接近したビームの中心距離を上記したように回折限界以下に設定した場合、各々のビームは、アッべの理論の回折限界以下にはならないが、わずかにずらした各々別の周波数の光であるために、ヘテロダイン検波をすることにより、微分情報を取得することができる。さらに、
図1に示す受光素子29を2分割以上の受光素子とする。そして、光軸Lを境界線として、この境界線を挟んでビームの分離方向に対して垂直な方向に暗線を有するように、これら受光素子を配置し、その和信号あるいは差信号より、ビート信号を取得させる。この時、和信号を用いると、実質的に微分干渉顕微鏡と等価になり、差信号を用いるとはるかに高い横分解能が得られる。
【0094】
ここで、測定対象物G1に送られる光の性質について具体的に説明する。対物レンズ31で絞られた光は、
図2に示すように近接した2つのビームLA、LBとなり、測定対象物G1に送られる。なお、ビームLAの複素振幅EaおよびビームLBの複素振幅Ebは、下記式のようになる。
Ea=Aexpj(2π(fo+fc+fm)t)
Eb=Bexpj(2π(fo+fc-fm)t+δ)
この複素振幅Ebの式のδは、ビームLAを基準としたビームLBの高さ方向の位相差を表わし、foは光の周波数を表す。なお、前述したようにこの2つのビームの間隔は、音響光学素子23に加えた変調周波数fmによって決定されるので、走査速度とは無関係である。
【0095】
図1および
図2に示す測定対象物G1で反射されたこの2つのビームLA、LBは、対物レンズ31、瞳伝達レンズ系30および偏光ビームスプリッター27を介して、受光素子29に導かれる。この受光素子29を2次元走査デバイス26の位置と共役な位置に配しておくと、2つのビームLA、LBは同じ位置に戻るので、2つのビームLA、LBの位相差δがビート信号として検出される。
【0096】
すなわち、この受光素子29は図示しない光電変換部を有した構造とされているので、受光素子29上における2つのビームLA、LBの強度Iは、下記式に基づく値で受光素子29の光電変換部により検出され、信号比較器33に送られる。
I=(Ea+Eb)(Ea+Eb)
*=A
2+B
2+2ABcos(2π*2fmt+δ)
これに伴い、
図1に示す信号比較器33を用いて、周波数2fmのヘテロダイン検波の位相比較を行うことにより、位相差δを測定することができる。このようにして、位相情報を取得する。
【0097】
ところで、受光素子29と偏光ビームスプリッター27を挟んで対向して配置されている受光素子28も図示しない光電変換部を有した構造とされている。そして、音響光学素子23で生じる回折光の入射ビームのビート信号がこの受光素子28に入射されて、受光素子28の光電変換部により検出される。つまり、音響光学素子23までに光学系等で生じた位相差を受光素子28の光電変換部により検出することになるので、この受光素子28は位相の基準を与える役割をしている。
【0098】
この一方、前述のように受光素子29においては、ビームLAとビームLBの2つのビーム間の位相差情報を加えたビート信号が受光素子29内の光電変換部により検出され、信号比較器33に送られる。したがって、信号比較器33においてこの2つの位相比較を行うことにより、真の位相差δが検出されることになる。この真の位相差δは、ビームLAとビームLBの平均の位相差、すなわち、平均の高さhの差情報であるδh=λδ/4πとなる。ここで、λはレーザー光源21から出射されるレーザー光の波長を表す。
【0099】
信号比較器33と接続されたCPUやメモリ等からなるデータ処理部34にこれらの情報を送り込めば、データ処理部34でこの情報を平面の走査情報とともに記録していき、測定対象物G1の表面のプロファイル情報を簡単に導くことができる。また、さらに高速なデータを取得するには、できるだけ音速Vaの大きい音響光学素子23を用いれば実現できる。
【0100】
他方、本実施例において、ヘテロダイン検波を行うには、照射された変調信号の一部をビームスプリッター27で取り出して受光素子28でレファランス信号を得る。そして、このレファランス信号と2分割された受光素子29で検出された信号とで差動出力を求め、信号比較器33により位相差情報および強度情報を取得し、データ処理部34に送る。
データ処理部34では走査情報とともに取得された情報を画像やデータの形として、ディスプレイに表示したり、メモリにデータとして蓄積したりする。
【0101】
ただし、受光素子28は必ずしも必要ではなく、音響光学素子23に出力する信号、 すなわち音響光学素子23に印加される信号自体と比較してもよい。この場合、回路系や音響光学素子等による遅延が発生するが、予め補正するなどしておけば、位相差検出等に大きな影響を与えることはない。
【0102】
また、測定対象物G1の表面を面上に走査する極めて接近した2つのスポット光は、相互に周波数の異なる光となる。但し、実質上、瞳伝達レンズ系25、30等の拡大光学系を使用することにより、高い周波数でも極めて接近させたスポットにすることができる。これにより高速な走査により高速な情報取得ができることになる。
【0103】
以上より、このような本実施例の空間周波数再現装置の光学系を用いれば、2次元走査を行うたびに3次元計測データを取得することが可能となる。このため、本実施例の空間周波数再現装置によれば、細胞や微生物の状態変化や表面状態の過渡的な変化等を、高速に観察、計測することができる。
【0104】
この一方、このようにして得られた2つの光は、上記手法により分離度を非常に小さくすることができ、実質上1つのビームで走査した情報と変わらない。これに対し、一つのビームで走査し、ファーフィールドに配置した少なくとも2分割された受光素子の差動出力を得る方法が、前記したDPC法である。
【0105】
つまり、DPC法に比較すると、このような本ヘテロダイン法をさらに使用した方法では、ヘテロダイン検出することにより、位相変化および強度変化をきわめて精度よく検出できる点と、受光素子29で受光される光が非常に微弱でも検出回路系のゲインを高くすることで、高精度に検出できる点と、検出される信号は変調信号だけなので、外乱光の影響を受けることもなくなる点とを有することから、さらに高精度な検出ができることになる。
【0106】
また、製品化されている裸眼立体ディスプレイや偏光めがねを使用した3次元ディスプレイ等を用いることにより、3次元立体画像を表示することもできるので、教育や研究、医療において、有用な装置とすることができる。この際、2つのビームの重なりの程度をビーム径よりも小さくしてあるので、2つのビームの行路差はほとんど生じていない。このことから、外乱や振動の影響も2つのビームで同時に生じるので、これらの影響が相殺される。
【0107】
他方、本実施例では、ビームの分離度を個々のビーム径よりも非常に小さくした例を示した。但し、変調周波数を高くすることにより、ビームの分離度が大きくなり、かつ、ビーム径程度の分離度が必要となる場合にも、本発明の光学系が有用であることになる。
【0108】
尚、本実施例においては、2次元走査デバイスを用いた例で説明をしたが、単純な一方向だけのデータが必要なアプリケーションであれば、この2次元走査デバイスを1次元走査デバイスに置き換えても同様な効果が得られることになる。これらの1次元走査デバイスとして、ガルバノミラー、レゾナントミラー、回転ポリゴンミラー等を採用することができる。また、2次元走査デバイスは、上記した1次元走査デバイスをX方向用とY方向用の2つを用意し、瞳伝達レンズ系を介すことにより、実現できる。また、マイクロマシーンの技術を用いたマイクロミラーデバイスを用いても良い。このマイクロミラーデバイスとしては、1次元用、2次元用ともに知られ製品化されている。
【0109】
以上述べたように、フーリエ変換面にて空間周波数情報を処理することにより、特に差演算では非常に高い横分解能の向上をもたらすことができる。また、前述したように強度差信号がプロファイルデータの高さを反映したデータであることも同様である。
【0110】
さらに以下に、通常の光学結像系で欠落する空間周波数情報を再現する原理を説明する。
測定対象物G1で反射された回折光は
図1に示す対物レンズ31に入射されるが、この対物レンズ31の開口の大きさに合わせて、回折光の内の高い空間周波数の情報が制限される。つまり、空間周波数が高くなれば高くなるほど、対物レンズ31に入射される高次の回折光の量が漸減していくことになる。このため、測定対象物G1が本来有する強度パターンや位相パターンが受光素子29に正確に反映されないことが起こりうるようになる。
【0111】
次に、この現象を定量的に説明するが、まず、測定対象物G1の強度パターンについて考える。受光素子29の表面は測定対象物G1のファーフィールド面になっているので、受光素子29の表面が測定対象物G1の空間周波数面になっている。たとえば、測定対象物G1がピッチdの正弦波状の強度パターンを有すると想定すると、光の振幅Eは、下記式より求まる。
E=A{1+sin(2πx/d−θ
0)}
この強度パターンによる一次回折光E(k)は、上記式のフーリエ変換となるので、空間周波数上で下記式のようになる。
【0112】
【数3】
【0113】
単純化して考えるために対物レンズ31の矩形開口半径をa、焦点距離をfとすると、NA=a/fとなり、照射されるレーザー光の波長をλとすると、測定対象物G1上での合焦状態でのスポット半径wは、下記式より求まる。
w=0.5λ/NA=0.5fλ/a
上記した1次回折光の空間周波数kは対物レンズ31上での光軸Lからの距離をyとすると、下記式から求まる。
k=2πy/λf
これに伴い、光軸Lからの距離yが下記式より求まる値となり、この値を中心とする幅2aのビームが回折光となる。
y=±λf/d
【0114】
ここでy=2aの場合には、1次回折光が完全に対物レンズ31に入射されなくなり、この1次回折光が0次回折光と干渉することがなくなるので、強度パターンによる強度情報が再現されなくなる。これがカットオフ周波数であり、下記式のようになる。
1/d=2a/λf
空間周波数と変調度の関係は上記した考察から得られ、これを図示したものが
図4に示すMTF曲線である。
【0115】
他方、レーザー光源21からのレーザー光が走査系とされる2次元走査デバイス26により水平走査方向に速度vで移動しているものとすると、レーザー光の光照射位置xはx=vtとなり、電気的な角周波数ω=2πv/dと空間角周波数k=2π/dとが一義的に対応することになる。
【0116】
以上の考察から明らかなように、受光素子29上での光照射位置の内の空間周波数1/dにおいて、強度情報が再現されなくなる。そして、この空間周波数1/dに対応したものとして、電気的な周波数v/dの情報が考えられる。
したがって、受光素子29をある程度大きい受光素子で構成するか、複数の分割受光素子で構成するとすれば、受光素子29の電気的な周波数情報自体が空間周波数を表していることに相当する。
【0117】
すなわち、レーザー光を走査したことにより、受光素子29が空間周波数情報を取得するという意味において、実効上、受光素子29がレンズの役割を果たしていることになる。したがって、レンズで欠落した空間周波数情報を、受光素子29を用いて電気的な周波数の増幅度を変更することで、復元できるようになる。
尚、複数の分割受光素子を用いた場合には、別々の増幅度で複数の受光素子の信号を増幅した後、和信号として出力しても良いし、別々の空間周波数領域の信号として使用しても良い。
【0118】
次に、MTF曲線の復元させたい帯域をフラット化する点について、説明する。
図4に示したMTF曲線の復元させたい帯域をフラットにするように実効上、線形のハイパスフィルタを受光素子29の増幅回路に付加したり、あるいは信号比較器33内にAD変換器とデジタルフィルタを配置しておいて、受光素子29からの出力をAD変換した後にデジタルフィルタにより、同様に帯域をフラットにするような操作をしたりすればよい。
【0119】
たとえば、
図4に示す実線A1とされるMTF曲線の内のカットオフ周波数を2av/λfとすると、このカットオフ周波数に対応するカットオフ角周波数ωはω=2π×2av/λfとなり、このカットオフ角周波数の10%の角周波数ω
10は以下のようになる。
ω
10=(2π/10)×2av/λf
また、90%の角周波数ω
90は以下のようになる。
ω
90=(9×2π/10)×2av/λf
そして、10%から90%までのレベルを一定にしたければ、10%の角周波数ω
10のゲインを1とし、90%の角周波数ω
90のゲインを9にするように滑らかにゲインを変化させる。これにより
図4の実線B1で示すように、10%から90%までのMTF曲線のレベルが一定になる。
【0120】
この結果として、このようなハイパスフィルタにより前述のハイパスフィルタやデジタルフィルタを構成すれば、空間周波数をこの帯域でフラットにすることができる。したがって、レンズで欠落した空間周波数を本実施例により完全に復元することができる。もちろん、レンズのカットオフ周波数付近までが有効となる。
【0121】
これに対して、たとえば受光素子の替わりにレンズを用いて測定対象物G1が本来有する強度パターンを考えてみた場合、厳密な意味で空間周波数が高くなると、変調度が低下するので、得られた強度情報を定量化することが困難である。具体的には、細胞等を染色して濃度を測定しようとしても、染色された対象物に構造があると、レンズでは正確な濃度等を測定できない。特に、細胞内の構造等を見ようとする超解像顕微鏡等においては、レンズの有する分解能と同程度かそれ以上の性能を引き出す方法を用いているので、なおさら考慮する必要性があると思われる。
以上より、レンズを用いた結像光学やこれに準じる方法で計測しようとしても、レンズの開口により欠落した空間周波数を光学的に復元することはできなかった。
【0122】
この一方、本実施例では、電気的な周波数情報に空間周波数を変換しているので、容易に欠落した空間周波数を復元できることになる。
【0123】
次に、測定対象物G1の位相パターンについて考える。
例えば、光軸Lを境界線として、この境界線を挟んでビームの分離方向に対して垂直な方向に境目となる暗線を有するように、複数の受光素子を配置し、それぞれの対応する受光素子同士の差出力を得るようにする。これは測定対象物G1が位相物体である場合に、特に有効である。
この場合、単純化のために測定対象物G1がピッチdの正弦波状の位相パターンであると想定すると、光の振幅Eは下記式で求まる。
【0124】
【数4】
【0125】
なお上記式におけるJ
0(A)、J
1(A)はベッセル関数である。この位相パターンによる1次回折光E(k)は、上記式のフーリエ変換となるので、空間周波数上で下記式のようになる。
【0126】
【数5】
【0127】
前述と同様に、上記した1次回折光が0次回折光と干渉できなくなるので、位相パターンによる位相情報が再現されなくなるところがカットオフ周波数であることは、強度情報と同じである。但し、位相情報の場合には、強度情報と異なり、光軸Lを境に1次回折光の位相が180度ずれる。このため、光軸Lを境界にした対応する受光素子間で差出力を得るようにして、0次回折光と干渉させる領域を考察することにより、位相Iは下記式で求まる。
【0128】
【数6】
【0129】
このようにすることで、位相差情報である行路差情報を可視化することができる。この場合のMTF曲線は上記した式により導かれ、
図5に示したようになる。
他方、前述したように、レーザー光源21からのレーザー光が走査系とされる2次元走査デバイス26により水平走査方向に速度vで移動しているものとすると、レーザー光の光照射位置xはx=vtとなり、電気的な角周波数ω=2πv/dと空間角周波数k=2π/dとが一義的に対応することになる。但し、強度情報と異なる点は、MTF曲線がバンドパス的になっている点である。
【0130】
従って、
図5に示したMTF曲線の復元させたい帯域をフラットにするように実効上、バンドエリミネーションフィルタを受光素子29の増幅回路に付加したり、あるいは信号比較器33内にAD変換器とデジタルフィルタを配置しておいて、受光素子29からの出力をAD変換した後にデジタルフィルタにより、同様に帯域をフラットにするような操作をしたりすればよい。
【0131】
この場合のMTF曲線は、カットオフ周波数の1/2の周波数がピークとなるバンドエリミネーションフィルタなので、たとえば、
図5に示す実線A2とされるMTF曲線の内のカットオフ周波数が2av/λfとすると、このカットオフ周波数に対応するカットオフ角周波数ωはω=2π×2av/λfとなり、このカットオフ角周波数の50%の角周波数ω
50は以下のようになる。
ω
50=(5×2π/10)×2av/λf
また、10%の角周波数ω
10および90%の角周波数ω
90は、以下のようになる。
ω
10=(2π/10)×2av/λf
ω
90=(9×2π/10)×2av/λf
そして、10%から90%までのレベルを一定にしたければ、50%の角周波数ω
50のゲインを1とし、10%の角周波数ω
10と90%の角周波数ω
90のゲインを5にするように、滑らかにゲインを変化させる。これにより
図5の実線B2で示すように、10%から90%までのMTF曲線のレベルが一定になる。
【0132】
この結果として、10%から50%までを5倍から1倍のゲインを有するローパスフィルターとし、50%から90%までを1倍から5倍のハイパスフィルタとなるように構成すれば、空間周波数をこの帯域でフラットにすることができる。したがって、レンズで欠落した空間周波数を本実施例により完全に復元することができる。もちろん、レンズのカットオフ周波数付近までが有効となる。
【0133】
このように、受光素子29で検出される信号の周波数に対して、ゲインを適正化することで、MTF曲線に基づく光学系の空間周波数欠落を補正することができる。さらに、これらの周波数を可変とすることで、さまざまな望ましいデータに変更することができる。たとえば、観察対象の強度情報や行路差情報の変化を微細に観察したい場合には、空間周波数の高い情報を強調すればよい。すなわち、受光素子で得られる信号の高周波を強調するようにゲインを変更すればよい。
【0134】
また、画像処理における平滑化を行いたいのであれば、空間周波数の低周波強調を行えばよい。すなわち、受光素子で得られる信号の低周波を強調するようにゲインを変更すればよい。このように、受光素子の信号に対して、周波数を可変に変更するような機能を有する、一種のイコライザーを具備することで、空間周波数の変更ができるようになる。繰り返しになるが、計測に関しては、MTF曲線をフラット化するのが正しいと考えられる。
【0135】
次に、受光素子29を複数の小さい分割受光素子により構成する構造の一例を
図6に示し、この図に基づきこのような受光素子29の構造を以下に説明する。
図6に示すように光軸Lを境界線とし、この境界線を挟んでレーザー光であるビームの分離方向X及びこれと垂直な交差方向Yに複数の分割受光素子を2次元的に配置する。この例の場合は、空間周波数領域を同心円状の3つのエリアに分けた例を示している。
【0136】
つまり、この受光素子29の場合、素子中心とされる光軸Lの周りに8等分でくさび状に形成された内側分割受光素子29Aが配置されている。これら内側分割受光素子29Aの周囲を囲む形で、同じく8等分で台形状に形成された中間分割受光素子29Bが配置されている。さらに、これら中間分割受光素子29Bの周囲を囲む形で、同じく8等分で台形状に形成された外側分割受光素子29Cが配置されている。
【0137】
従って、前述の同心円状の3つのエリアが、大まかに空間周波数の低周波数領域、中間周波数領域、高周波数領域とされ、これに伴い、内側分割受光素子29Aが空間周波数の低周波数領域用とされ、中間分割受光素子29Bが空間周波数の中間周波数領域用とされ、外側分割受光素子29Cが空間周波数の高周波数領域用とされることになる。さらに、これら3つの領域の分割受光素子の増幅率を一定もしくは3つの領域でゲインを変更しておくことにする。その上で、各領域の信号に対して、電気的な周波数による増幅度を変更する。
【0138】
この場合、3つの領域を一つの受光素子で代表するようにした場合と比較して、各周波数領域が独立に設定されているので、電気的にきわめて急峻なフィルタが配置されていることと等価となる。また、受光素子はサイズが大きくなると周波数特性が悪くなるが、このような構造にすることで、この周波数特性の悪化も防げる。
したがって、このように幾つかの分割受光素子で各空間周波数領域を分けて受光することで、走査速度や信号処理速度を全体として向上できるという利点を有することになる。
【0139】
また、ビームを走査するにあたり、水平走査方向が一般に高速走査方向になるが、この水平走査方向の走査デバイスとしては、共振ミラー型のものが使われることが多い。そして、共振ミラー型のものでは正弦波状の走査になり、この正弦波の一部を走査範囲として使うことになる。たとえば、走査範囲を正弦波の80%程度にすると、走査範囲の端部での走査角の速度は中心の速度の60%程度になる。従って、同じ対象物でもその中心の周波数に比較して端部は60%の周波数になる。
【0140】
以上より、走査角か走査速度を計測しておき、この情報に基づき表示位置とともに周波数ゲインの変更を行えばよい。周波数ゲインの変更はデジタル的に位置や速度に対するテーブルを用いて修正すればよい。
【0141】
他方、最近ではマイクロマシーン技術で作成されるマイクロミラーデバイスが登場している。このマイクロミラーデバイスでは、慣性モーメントが低いことから、一走査中における振幅を実効上変えることにより、試料面上での走査速度を一定にできつつある。このようなマイクロミラーデバイスを用いれば走査速度が一定となり、画像を構成する際にもデータの取得タイミングを一定にすれば、等間隔にデータが取得できるとともに、周波数の変更も必要にならずに、簡単になる。尚、このように速度一定にできるデバイスには、ほかに回転ポリゴンミラーや音響光学素子を用いたもの等がある。
【実施例4】
【0155】
本発明に係る空間周波数再現装置の実施例4を以下に
図9を参照しつつ説明する。
図9は、本実施例の空間周波数再現装置の構成を示す概略図である。この
図9に示すように、光を照射する光源であるレーザー光源21が図示しない光学装置を介して、対物レンズ31と対向して配置され、このレーザー光源21が照射した光が、透過物の測定対象物である試料Sに収束照射されている。このレーザー光源21の収束照射の照射光軸とされる光軸L0上には、凸レンズとされる第1のレンズであるレンズ75が位置していて、測定対象物である試料Sを透過して出射された光束をレンズ75が平行な光束に変換している。
【0156】
このレンズ75の下方の光軸L0上には、レンズ75から出射された平行な光束をそれぞれ左右に分割する2つの第1のビームスプリッター72A、72Bが連続して配置されており、この下方にこの光を受光する第1の受光素子6が位置している。ただし、この第1の受光素子6は、光軸L0を挟んで位置する2つの分割受光素子6A、6Bにより構成されている。そして、右側寄りの分割受光素子6Aが、レンズ75からの透過光の内の光軸L0の右側寄り部分を受光し、左側寄りの分割受光素子6Bが、レンズ75からの透過光の内の光軸L0の左側寄り部分を受光することになる。
【0157】
この一方、光軸L0に対して
図9の右側に傾きを有した傾斜光軸とされる光軸L1上には、凸レンズとされる第2のレンズであるレンズ76が位置しており、このレンズ76が試料Sから出射された光束を平行な光束としている。この光軸L1上には、この平行な光束を反射するための反射鏡78が配置されており、また、この反射鏡78の下方には、第2のビームスプリッター73が位置している。このため、レンズ76と第2のビームスプリッター73との間に配置される反射鏡78が、レンズ76からの出射光を第2のビームスプリッター73側に反射させている。また、第2のビームスプリッター73の下方には、複数の分割受光素子から構成される第2の受光素子群4が位置している。
【0158】
さらに、2つの第1のビームスプリッター72A、72Bの内の上側の第1のビームスプリッター72Aが分割された光束を第2のビームスプリッター73側に送り出している。このため、レンズ75から出射された光束とレンズ76から出射された光束とを第2のビームスプリッター73が干渉させて、この光束を第2の受光素子群4が受光するようにさせている。
【0159】
他方、上記と同様の構成を有したレンズ77、反射鏡79、第2のビームスプリッター74および、第2の受光素子群5が照射光軸L0を挟んで対称に、
図9の左側にも配置されている。以上より、2つの第1のビームスプリッター72A、72Bおよび左右の第2のビームスプリッター73、74が、レンズ75から出射された光束とレンズ76、77から出射された光束とを干渉させている。
【0160】
さらに、前述の分割受光素子6A、6B、受光素子群4、5が、これら受光素子6A、6B、受光素子群4、5からの信号を比較するための比較器7にそれぞれ接続されている。そして、この比較器7が、最終的にデータを処理して試料Sのプロフィル等を得るデータ処理部8に繋がっている。このため、比較器7及びデータ処理部8が、光軸L0を挟んで位置する第1の受光素子6の分割受光素子6A、6B間の出力和や出力差および、一対の第2の受光素子群4、5間の出力和や出力差を検出する出力和差検出部とされている。
【0161】
以上のことより、この
図9に示す対物レンズ31で収束された光は、測定対象物である試料S上にスポットを形成する。このスポットは理想的には回折限界の径を有し、このスポット径内における試料Sのパターンの空間周波数情報が透過光として回折される。ここで、試料Sの有する空間周波数の1次回折光でレンズ75に入射されない空間周波数を考えた場合、レンズ75には試料Sを透過した0次回折光と上記空間周波数よりも低い空間周波数成分の光が入射される。このことで、レンズ75単体では、レンズ75の有するカットオフ周波数まで、試料Sのパターンが再現されうることになる。
【0162】
ところが、レンズ75に入射されない空間周波数はカットされ、像情報に欠落を生じることになる。そこで、
図9に示すように0次回折光の光軸L0に対して、レンズ76及びレンズ77が相互に対称な位置であって、ある傾きを有して配置されている。ここで、0次回折光の光軸L0に対するこのレンズ76及びレンズ77の光軸L1、L2の傾き角は、試料Sのコントラストが最大になる空間周波数に匹敵するようにする。
【0163】
すなわち、レンズ76の光軸L1上の光束は、反射鏡78で折り返され、ビームスプリッター72Aにより分離された0次回折光の光軸L0上の光束とビームスプリッター73により合成される。合成された光自体は受光素子群4に導かれる。したがって、0次回折光とレンズ76から出射される1次回折光とを干渉させて受光素子群4が受光する。このとき、最も高いコントラストを有する光束は、レンズ76の光軸L1に一致する空間周波数の光束となるからである。
【0164】
0次回折光の光軸L0に対し、上記した光学系と反対方向にある同様な光学系について考えた場合、レンズ77の傾斜光軸とされる光軸L2上の光束は反射鏡79で折り返される。このレンズ77の光軸L2上の光束は、ビームスプリッター72Aを経てビームスプリッター72Bにより折り返された0次回折光の光軸L0上の光束と、ビームスプリッター74により合成される。合成された光自体は受光素子群5に導かれる。0次回折光とレンズ77から出射される−1次回折光とを干渉しつつ受光素子群5が受光する。
【0165】
ここで、受光素子群4は複数の分割受光素子よりなり、おのおのの分割受光素子は0次回折光と1次回折光で干渉された干渉縞を適当なピッチでサンプリングした干渉縞強度を取得する。つまり、0次回折光の光軸L0と1次回折光の光軸L1が傾きを持たなければ、光束内で一様な干渉強度となるが、多少傾きを有した場合には一様なピッチの干渉縞を生じるからである。この干渉縞のピッチは、1次回折光の出射角度によるので、レンズ76に入射される空間周波数を反映したものとなる。
【0166】
また、受光素子群5も複数の分割受光素子よりなり、おのおのの分割受光素子は0次回折光と−1次回折光で干渉された干渉縞を適当なピッチでサンプリングした干渉縞強度を取得し、上記と同様に動作する。
【0167】
したがって、受光素子群4、5は、複数の分割受光素子によりそれぞれ構成される形で配置され、空間周波数の反映した情報が取得できるようになる。受光素子群4,5の実質上対応する空間周波数を取得している受光素子の差の出力を取得することにより、より高い空間周波数情報を取得できるようになる。
【0168】
以上は、DPC法の光学系および、発明者たちが提案するDPC法とヘテロダイン法とを組み合わせた光学系において、特に有効となる。簡単のために上記においては透過光学系で説明したが、試料面に対して反射する方向に本空間周波数再現装置を配置しても同様な効果をもたらすことになる。
【0169】
上記光学系により取得できる実質的な空間周波数を大きくできる点を以下に定量的に明らかにする。ただし、説明を簡単にするために試料Sが高さhでピッチdの正弦波状の形状をしているものとする。すなわち、光学的な位相θが以下の式で表される。
θ=2πh/λsin(2πx/d+θ0)・・・・・(9)式
【0170】
試料Sから回折された光の振幅Eは、fだけ離れた面においては、(9)式のフーリエ変換とレンズの開口とのコンボリューションとして、与えられるので、以下のように表される。ただし、(9)式の位相のフーリエ変換であるベッセル関数は±1次まで取るものとする。ここで、E
0、E
1は、おのおの0次回折光と1次回折光が入射されるレンズ75、レンズ76を経た複素振幅分布である。おのおの(10)、(11)式で表される。
【0171】
【数7】
【0172】
同様にE
-1を−1次回折光が入射されるレンズ77を経た振幅分布である複素振幅分布であるとすると、下記(12)式のようになる。
【0173】
【数8】
【0174】
0次回折光の複素振幅分布を表す(10)式と1次回折光の複素振幅分布を表す(11)式とから、レンズ75の光束とレンズ76の光束とをビームスプリッター72A,73で合成して、受光素子群4上で干渉させた結果とされる受光素子群4上の強度I
1は、下記式のようになる。
【0175】
【数9】
【0176】
同様に0次回折光の複素振幅分布を表す(10)式と−1次回折光の複素振幅分布を表す(12)式とから、レンズ75の光束とレンズ77の光束とをビームスプリッター74,72Bで合成して受光素子群5上で干渉させた結果とされる受光素子群5上の強度I
2は、下記式のようになる。
【0177】
【数10】
【0178】
ただし、上記強度I
1と強度I
2は簡単のために0次回折光および±1次回折光の光路差が実質上ないものとした。このようにして、受光素子群4と受光素子群5との差出力を表すと下記式のようになる。
【0179】
【数11】
【0180】
ここで、単独の受光素子を用いずに、適正個数の分割受光素子よりなる受光素子群としたのは、受光素子と空間周波数が対応関係にすることになるので、受光量より試料Sに含まれる空間周波数成分の分布も考慮に入れた解析ができるからである。
もし、0次回折光と1次回折光とを干渉させないと、±1次回折光の強度は、下記式のようになり、差出力を取得すると0となる。
【0181】
【数12】
【0182】
また、たとえ和の出力を取得したとしても位相情報θ0は完全に失われることになり、試料Sにその空間周波数が存在するか否かの情報だけとなり、プロファイル情報等の知りたい情報を取得することはできない。
【0183】
以下、上記光学系を具体的に適用して効果のあるDPC法の光学系および、DPC法とヘテロダイン法とを組み合わせた光学系について述べる。ここで、
図10はDPC法における透過光学系のブロック図を示し、
図11はDPC法における反射光学系のブロック図を示す。
【0184】
まず、
図10に示すように、レーザー光源21からの光束はコリメーターレンズ22により平行光束とされ、2次元走査デバイス26に入射される。この2次元走査デバイス26は光を面上に走査するデバイスであり、MEMSやガルバノミラー、レゾナントミラー等で構成されるものである。
【0185】
この平行光束は、2次元走査デバイス26の瞳位置を対物レンズ31の瞳位置に伝達するための瞳伝達レンズ系30を経て、対物レンズ31に入射された後、試料Sに収束される。試料Sに収束された光は透過光となり、受光素子29に入射される。この受光素子29は、試料Sから実質上ファーフィールドとなる位置に配置され、光軸Lに対して対称に少なくとも2分割された受光素子とされている。
【0186】
この結果、光軸L上の平行光束が試料Sの屈折率分布や凸凹により0次回折光と±1次回折光とに分離され、分離されたこれらの光が干渉しつつ、受光素子29に受光される。これに伴い、試料Sの屈折率分布や凸凹の情報が、0次回折光と±1次回折光との干渉情報に基づき、受光素子29内の図示しない光電変換部において、変換される。このとき、光軸Lに対して対象な受光素子29の2つの受光素子間の差出力に試料Sの上記情報が反映される。
【0187】
これに対して、
図11は反射光学系のブロック図であり、
図10の透過光学系と異なるのは、コリメーターレンズ22と2次元走査デバイス26との間にビームスプリッター27を配置したことである。そして、このビームスプリッター27により光束の一部を取り出し、この光束を少なくとも2分割された受光素子からなる受光素子29によりそれぞれ受光することにより、これらの差出力を検出することである。この際、試料Sからの反射平行光は、実質上ファーフィールド情報であることになる。
【0188】
空間周波数再現装置に係る実施例を表す前述の
図1および
図7に示す構造は、発明者たちが提案するDPC法とヘテロダイン法とを組み合わせた光学系でもある。ここで、
図1はDPC法とヘテロダイン法とを組み合わせた反射光学系のブロック図でもあり、
図7はDPC法とヘテロダイン法とを組み合わせた透過光学系のブロック図でもある。
以上より、DPC法とヘテロダイン法とを組み合わせた光学系についての詳細な説明は省略する。但し、これらの光学系が
図10および
図11に示す光学系と異なるのは、
図1および
図7に示すように、音響光学素子23によりきわめて接近した2つの光束を作成し、測定対象物である試料Sに照射することにある。
【0189】
また、上記のような光学系の受光素子部分に
図9に示す光学系を用いることで、さらに空間周波数の高い情報、すなわち横分解能の大幅な向上が図れるようになる。さらに、試料Sに照射する光束を平行光束として、
図9に示すレンズ75,76,77を省き、その他の光学系は上記実施例と同じようにすることで、平行光束系に対する空間周波数再現装置とすることもできる。
なお、本実施例は、試料Sが屈折率や行路差情報との位相差情報を有する場合であるので、受光素子間の差信号に関する説明を主体的に行った。この一方、実施例1で述べたように本実施例でも強度情報については、対応する受光素子同士の和信号や、すべての受光素子の和信号を求めることで、超解像を実現できる。
【0190】
以下の実施例においては、DPC法の光学系の受光素子部分および、DPC法とヘテロダイン法とを組み合わせた光学系の受光素子部分に、以下の実施例の受光素子系を適用すればよいので、受光素子系以外の光学系についての説明は省略する。