(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6154688
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】耐火処理材、貫通部の閉鎖構造、及び貫通部の閉鎖方法
(51)【国際特許分類】
A62C 3/16 20060101AFI20170619BHJP
A62C 2/00 20060101ALI20170619BHJP
F16L 5/00 20060101ALI20170619BHJP
H02G 3/22 20060101ALI20170619BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20170619BHJP
【FI】
A62C3/16 B
A62C2/00 X
F16L5/00 G
H02G3/22 286
E04B1/94 L
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-150654(P2013-150654)
(22)【出願日】2013年7月19日
(65)【公開番号】特開2015-19853(P2015-19853A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2016年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000243803
【氏名又は名称】未来工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉原 伸和
【審査官】
石川 貴志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−295696(JP,A)
【文献】
特開2006−257752(JP,A)
【文献】
特表2006−514524(JP,A)
【文献】
実開平02−116086(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 3/16
A62C 2/00
F16L 5/00
H02G 3/22
E04B 1/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の防火区画体を厚み方向に貫通して形成された貫通部の内面と、前記貫通部に挿通された配線・配管材との間に耐火処理材を充填して構成された貫通部の閉鎖構造であって、
前記耐火処理材は、偏平ブロック状をなす処理材本体を備え、少なくとも前記処理材本体の厚み方向両面に熱膨張性材料製の熱膨張部を有するとともに、金属層を有するカバー体を備え、前記カバー体は前記金属層が表面に露出する状態で前記処理材本体を覆っており、
前記耐火処理材が、前記貫通部の縦方向及び横方向のサイズに合わせて複数充填され、金属製の基材と、該基材の一面に設けられた粘着層とからなる粘着テープによって、隣接する前記耐火処理材同士が前記貫通部内で位置ずれしないように連結されているとともに、隣接する前記耐火処理材同士の隙間が前記粘着テープによって塞がれていることを特徴とする貫通部の閉鎖構造。
【請求項2】
前記粘着テープは、前記隙間が延びる方向に前記粘着テープの長手方向が沿うように、前記隙間を跨いで、隣接する前記耐火処理材に貼着されていることを特徴とする請求項1に記載の貫通部の閉鎖構造。
【請求項3】
前記処理材本体は、偏平ブロック状のクッション材を有するとともに、前記クッション材の全体に前記熱膨張性材料を分散させてなり、前記熱膨張部が前記処理材本体の全体に設けられている請求項1又は2に記載の貫通部の閉鎖構造。
【請求項4】
前記カバー体は、基材シートに前記金属層を蒸着して形成されている請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の貫通部の閉鎖構造。
【請求項5】
建築物の防火区画体を厚み方向に貫通して形成された貫通部の内面と、前記貫通部に挿通された配線・配管材との間に耐火処理材を充填して構成された貫通部の閉鎖方法であって、
前記耐火処理材は、偏平ブロック状をなす処理材本体を備え、少なくとも前記処理材本体の厚み方向両面に熱膨張性材料製の熱膨張部を有するとともに、金属層を有するカバー体を備え、前記カバー体は前記金属層が表面に露出する状態で前記処理材本体を覆っており、
前記耐火処理材を、前記貫通部の縦方向及び横方向のサイズに合わせて複数充填し、、金属製の基材と、該基材の一面に設けられた粘着層とからなる粘着テープによって、隣接する前記耐火処理材同士を前記貫通部内で位置ずれしないように連結するとともに、隣接する前記耐火処理材同士の隙間を前記粘着テープによって塞ぐことを特徴とする貫通部の閉鎖方法。
【請求項6】
前記隙間が延びる方向に前記粘着テープの長手方向が沿うように、前記隙間に前記粘着テープを跨がせて、隣接する前記耐火処理材に前記粘着テープを貼着することを特徴とする請求項5に記載の貫通部の閉鎖方法。
【請求項7】
前記処理材本体は、偏平ブロック状のクッション材を有するとともに、前記クッション材の全体に前記熱膨張性材料を分散させてなり、前記熱膨張部が前記処理材本体の全体に設けられている請求項6に記載の貫通部の閉鎖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の防火区画体を厚み方向に貫通して形成された貫通部の内面と、貫通部に挿通された配線・配管材との間に充填される耐火処理材、該耐火処理材を用いた貫通部の閉鎖構造、及び貫通部の閉鎖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建築物における防火区画体としての防火区画壁に配線・配管材を貫通させるために、防火区画壁には貫通部が形成されている。そして、防火区画壁において貫通部の内面と配線・配管材との間に耐火処理が施されている。この耐火処理は、例えば、防火区画壁を挟んだ一方の壁表側で火災等が発生したとき、貫通孔を経由して他方側に火炎、煙、有毒ガスが流入するのを阻止し、かつ火災の延焼を遅延化するために設けられている。すなわち、耐火処理は、火災等の発生時、貫通孔と配線・配管材との間を閉鎖することで、火炎、煙、有毒ガスの火災発生側と反対側への流入を阻止するようになっている。
【0003】
このような耐火処理として、貫通孔と配線・配管材との間に耐火処理材を充填して施されるものがある。耐火処理材としては、例えば、特許文献1に開示される防火処理用シートが挙げられる。
【0004】
図8に示すように、防火処理用シート80は、難燃性発泡プラスチックシート81と、その難燃性発泡プラスチックシート81の一部に熱膨張性耐火材シート82を複合した内部充填材83を備える。また、防火処理用シート80は、内部充填材83を覆うカバーシート84を備え、このカバーシート84は、金属箔と耐火性布を張り合わせて形成されている。
【0005】
そして、貫通部86において、貫通部86に挿通された金属管(配線・配管材)85に防火処理用シート80を巻き付け、防火処理用シート80の外周面と貫通部86の内周面との間の空隙にモルタル87を充填することで、耐火処理が施されるようになっている。万が一の火災に遭遇した場合、難燃性発泡プラスチックシート81が焼失しても、その焼失による体積減少が熱膨張性耐火材シート82の膨張で補われ、貫通部86の防火性が確保されるようになっている。
【0006】
また、配線・配管材が、特許文献1のような金属管でない貫通部であっても、耐火処理として、貫通孔と配線・配管材との間に耐火処理材が充填されている。そして、万が一の火災に遭遇した場合に、配線・配管材が焼失しても、その配線・配管材の体積減少分が耐火処理材の膨張で補われるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−262305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献1の防火処理用シート80は、火災時の熱によって熱膨張性耐火材シート82を膨張させやすくするため、熱膨張性耐火材シート82が火災発生の可能性がある側(
図8では下方)に位置するように、防火処理用シート80を配線・配管材85に巻き付ける必要がある。すなわち、特許文献1の防火処理用シート80は、その施工に方向性を必要としている。さらに、防火処理用シート80は、内部充填材83を覆うカバーシート84を備え、そのカバーシート84によって熱膨張性耐火材シート82の位置が外部から視認できなくなっている。このため、特許文献1の防火処理用シート80は、施工に方向性を必要としながらカバーシート84によって、その作業性をさらに悪くしている。
【0009】
本発明は、施工に方向性を必要とせず簡単に施工することができる耐火処理材、貫通部の閉鎖構造、及び貫通部の閉鎖方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題点を解決するために、
本発明の耐火処理材は、建築物の防火区画体を厚み方向に貫通して形成された貫通部の内面と、前記貫通部に挿通された配線・配管材との間に充填される耐火処理材であって、偏平ブロック状をなす処理材本体を備え、少なくとも前記処理材本体の厚み方向両面に熱膨張性材料製の熱膨張部を有するとともに、金属層を有するカバー体を備え、前記カバー体は前記金属層が表面に露出する状態で前記処理材本体を覆っていることを要旨とする。
【0011】
これによれば、万が一、火災に遭遇した場合、火炎の熱や、配線・配管材が燃焼するときの熱が金属層に伝播すると、熱は金属層全体に速やかに伝わる。すると、金属層によって覆われた処理材本体では、その熱膨張部に金属層から熱が速やかに伝わる。その結果、熱膨張部が速やかに膨張し、貫通部が閉塞される。したがって、耐火処理材は、ブロック体がカバー体で覆われ、熱膨張部の位置が外部から視認できなく、しかも、熱膨張部がいずれの位置に配置されていても、金属層を設けたことで熱膨張部を速やかに膨張させることができる。よって、貫通部に耐火処理材を充填して施工する際に、その施工に方向性を考慮しなくて済む。
【0012】
また、耐火処理材について、前記処理材本体は、偏平ブロック状のクッション材を有するとともに、前記クッション材の全体に前記熱膨張性材料を分散させてなり、前記熱膨張部が前記処理材本体の全体に設けられているのが好ましい。
【0013】
これによれば、熱膨張部が処理材本体の全体に設けられるため、金属層から処理材本体の全面に伝わった熱により、処理材本体の全面側、すなわち全方位へ膨張させることができる。また、処理材本体に対し、いずれの方向から熱が伝わっても処理材本体を速やかに膨張させることができる。よって、貫通部に耐火処理材を充填する際に、その方向性を考慮しなくてもよい。
【0014】
また、耐火処理材をいずれの方向から切断しても、その切断面に熱膨張部が現れる。このため、耐火処理材を切断するときも、その方向性を考慮しなくてもよく、作業性に優れる。さらに、クッション材により耐火処理材にクッション性を持たせることができる。よって、耐火処理材が、圧縮した状態で貫通部に充填されたとき、圧縮状態からの復帰力が大きくなり、貫通部の内面と配線・配管材との間の隙間を確実に埋めることができる。
【0015】
また、耐火処理材について、前記金属層は、前記貫通部内で隣り合う別の耐火処理材に貼着される貼着部を備えていてもよい。
これによれば、貼着部により、耐火処理材の位置ずれを防止することができる。
【0016】
また、耐火処理材について、前記カバー体は、前記処理材本体全体を収容する袋状の収容部を複数備えるとともに、隣り合う前記収容部同士の間に、前記収容部同士を繋ぐ連結部を備えていてもよい。
【0017】
これによれば、耐火処理材は、複数の処理材本体を一体に備えるため、一度の充填作業で複数の処理材本体を貫通部に充填することができる。また、耐火処理材を連結部から分割することができ、耐火処理材のサイズを小さくすることもできる。このとき、連結部から分割するため、処理材本体を直接切断する必要がなく、切断面からクッション材が飛散することがない。
【0018】
また、耐火処理材について、前記カバー体は、前記基材シートに金属層を蒸着して形成されていてもよい。
これによれば、基材シートと金属層が分離すること防止できる。
【0019】
また、貫通部の閉鎖構造は、建築物の防火区画体を厚み方向に貫通して形成された貫通部の内面と、前記貫通部に挿通された配線・配管材との間に耐火処理材を充填して構成された貫通部の閉鎖構造であって、前記耐火処理材は、偏平ブロック状をなす処理材本体を備え、少なくとも前記処理材本体の厚み方向両面に熱膨張性材料製の熱膨張部を有するとともに、金属層を有するカバー体を備え、前記カバー体は前記金属層が表面に露出する状態で前記処理材本体を覆っており、前記耐火処理材が、前記貫通部の縦方向及び横方向のサイズに合わせて複数充填され、隣接する前記耐火処理材同士の隙間が、金属製の基材と、該基材の一面に設けられた粘着層とからなる粘着テープによって塞がれていることを要旨とする。
【0020】
これによれば、万が一、火災に遭遇した場合、火炎の熱や、配線・配管材が燃焼するときの熱が金属層に伝播すると、熱は金属層全体に速やかに伝わる。すると、金属層によって覆われた処理材本体では、その熱膨張部に金属層から熱が速やかに伝わる。その結果、熱膨張部が速やかに膨張し、貫通部が閉塞される。したがって、耐火処理材は、ブロック体がカバー体で覆われ、熱膨張部の位置が外部から視認できなく、しかも、熱膨張部がいずれの位置に配置されていても、金属層を設けたことで熱膨張部を速やかに膨張させることができる。よって、貫通部に耐火処理材を充填して施工する際に、その施工に方向性を考慮しなくて済む。
【0021】
加えて、粘着テープは、金属製の基材を有するため、耐熱性がよく、火災時にも、容易に焼失せず、処理材本体が膨張するまでの間、隙間を塞ぐことができる。
また、貫通部の閉鎖構造について、前記処理材本体は、偏平ブロック状のクッション材を有するとともに、前記クッション材の全体に前記熱膨張性材料を分散させてなり、前記熱膨張部が前記処理材本体の全体に設けられているのが好ましい。
【0022】
これによれば、熱膨張部が処理材本体の全体に設けられるため、金属層から処理材本体の全面に伝わった熱により、処理材本体の全面側、すなわち全方位へ膨張させることができる。また、処理材本体に対し、いずれの方向から熱が伝わっても処理材本体を速やかに膨張させることができる。よって、貫通部に耐火処理材を充填する際に、その方向性を考慮しなくてもよい。
【0023】
また、貫通部の閉鎖方法は、建築物の防火区画体を厚み方向に貫通して形成された貫通部の内面と、前記貫通部に挿通された配線・配管材との間に耐火処理材を充填して構成された貫通部の閉鎖方法であって、前記耐火処理材は、偏平ブロック状をなす処理材本体を備え、少なくとも前記処理材本体の厚み方向両面に熱膨張性材料製の熱膨張部を有するとともに、金属層を有するカバー体を備え、前記カバー体は前記金属層が表面に露出する状態で前記処理材本体を覆っており、前記耐火処理材を、前記貫通部の縦方向及び横方向のサイズに合わせて複数充填し、隣接する前記耐火処理材同士の隙間を、金属製の基材と、該基材の一面に設けられた粘着層とからなる粘着テープによって塞ぐことを要旨とする。
【0024】
これによれば、万が一、火災に遭遇した場合、火炎の熱や、配線・配管材が燃焼するときの熱が金属層に伝播すると、熱は金属層全体に速やかに伝わる。すると、金属層によって覆われた処理材本体では、その熱膨張部に金属層から熱が速やかに伝わる。その結果、熱膨張部が速やかに膨張し、貫通部が閉塞される。したがって、耐火処理材は、ブロック体がカバー体で覆われ、熱膨張部の位置が外部から視認できなく、しかも、熱膨張部がいずれの位置に配置されていても、金属層を設けたことで熱膨張部を速やかに膨張させることができる。よって、貫通部に耐火処理材を充填して施工する際に、その施工に方向性を考慮しなくて済む。
【0025】
加えて、粘着テープは、金属製の基材を有するため、耐熱性がよく、火災時にも、容易に焼失せず、処理材本体が膨張するまでの間、隙間を塞ぐことができる。
また、貫通部の閉鎖方法について、前記処理材本体は、偏平ブロック状のクッション材を有するとともに、前記クッション材の全体に前記熱膨張性材料を分散させてなり、前記熱膨張部が前記処理材本体の全体に設けられているのが好ましい。
【0026】
これによれば、熱膨張部が処理材本体の全体に設けられるため、金属層から処理材本体の全面に伝わった熱により、処理材本体の全面側、すなわち全方位へ膨張させることができる。また、処理材本体に対し、いずれの方向から熱が伝わっても処理材本体を速やかに膨張させることができる。よって、貫通部に耐火処理材を充填する際に、その方向性を考慮しなくてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、施工に方向性を必要とせず簡単に施工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】実施形態の耐火処理を施した防火区画壁を示す斜視図。
【
図2】実施形態の耐火処理を施した防火区画壁を示す正面図。
【
図6】(a)はカバー体を示す部分断面図、(b)はカバー体を示す拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、耐火処理材、貫通部の閉鎖構造、及び貫通部の閉鎖方法を具体化した一実施形態を
図1〜
図6にしたがって説明する。
図1及び
図2に示すように、耐火処理材11は、防火区画体としての防火区画壁Wに形成された貫通部34に充填して施工されるものであり、貫通部34の閉鎖構造を構成する部品である。貫通部34は、防火区画壁Wを厚み方向に貫通し、防火区画壁Wの一方の壁表側と他方の壁表側とを連通している。貫通部34は、複数の区画板35を防火区画壁Wの縦方向及び横方向に並設し、それら並設された区画板35の内側に形成されている。
【0030】
また、貫通部34には配線・配管材の支持ラック20が配設されている。支持ラック20は、防火区画壁Wの厚み方向に長手方向が延びるように対向配置された一対の支持板21と、一対の支持板21に架設されたラック22を備える。そして、支持ラック20のラック22上に複数の配線・配管材33が支持されるとともに、防火区画壁Wを配線・配管材33が貫通している。なお、配線・配管材33とは、建築物内に配設される配線(制御用ケーブル、同軸ケーブル、光ケーブル等)及び配管材(合成樹脂製可撓電線管、鋼製電線管等)といった長尺体の総称のことである。
【0031】
次に、貫通部34に充填される耐火処理材11について説明する。
図3〜
図5に示すように、耐火処理材11は、偏平な直方体状に形成されている。耐火処理材11は、偏平直方体状(偏平ブロック状)に形成された処理材本体12を備えるとともに、処理材本体12の全体を全面側から覆うカバー体13を備える。
【0032】
処理材本体12において、六つの側面のうち最も面積の大きい2つの側面が対向する方向を、処理材本体12の厚み方向とする。処理材本体12は、処理材本体12にクッション性を持たせるクッション材を主体としている。クッション材は、セラミックファイバー、ロックウール等の不燃・難燃性を有する無機化合物の短繊維をバインダー要素で結合させてなる綿状の塊を材料としている。そして、処理材本体12は、クッション材によって偏平ブロック状に整形されるとともに、クッション材によってクッション性及び柔軟性を有し、所要の弾性を有する。すなわち、処理材本体12は圧縮変形可能であるとともに、圧縮変形した状態から原形状に復帰可能である。
【0033】
処理材本体12は、処理材本体12に熱膨張性を持たせるために、熱膨張性材料としての膨張黒鉛を備える。膨張黒鉛は、クッション材の全体に分散されている。また、膨張黒鉛は、処理材本体12の全表面に現れている。膨張黒鉛は、熱によって数十倍から数百倍に膨張する材料であり、熱によって膨張する未焼成バーミキュライトと比べて膨張率が高い。より詳細には、未焼成バーミキュライトは、膨張率が数倍から十数倍の材料であることから、膨張黒鉛は、未焼成バーミキュライトよりも膨張率が高い。
【0034】
図6(a)及び
図6(b)に示すように、カバー体13は、基材シートとしての、ガラス繊維製のガラスクロス13aを備え、このガラスクロス13aは、ガラス繊維製の複数の経糸と緯糸を一本ずつ交互に組み合わせた平織りによって形成されている。また、カバー体13は、ガラスクロス13aに蒸着されたアルミニウム製の金属層13bを備える。ガラスクロス13a及び金属層13bは共に難燃性であり、カバー体13は難燃性である。
【0035】
カバー体13は、処理材本体12より大きいシート状である。カバー体13は、ガラスクロス13aが内側となり、金属層13bが外側となるように折り畳まれている。また、カバー体13は、処理材本体12を形成する六つの側面の全てを覆っている。このため、カバー体13は、金属層13bが耐火処理材11の表面で露出するように処理材本体12を覆っている。
【0036】
図5に示すように、折り畳まれたカバー体13において、その折り畳みによって重ねられた端縁には、テープ23が貼着され、カバー体13が折り畳む前の形状に開くことを防止している。
【0037】
次に、耐火処理材11を用いて防火区画壁Wに耐火処理を施し、貫通部34の閉鎖構造を形成する方法、すなわち、貫通部34の閉鎖方法について作用と共に説明する。
図1及び
図2に示すように、複数の区画板35を用いて防火区画壁Wに貫通部34を区画する。次に、貫通部34に支持ラック20を配設する。次に、支持ラック20のラック22に複数の配線・配管材33を支持させるとともに、防火区画壁Wに配線・配管材33を貫通させる。
【0038】
そして、貫通部34の内周面と配線・配管材33の外面との間に多数の耐火処理材11を充填する。すなわち、貫通部34の横方向へのサイズに合わせて耐火処理材11を複数充填し、貫通部34の縦方向へのサイズに合わせて耐火処理材11を複数充填する。なお、耐火処理材11は、厚み方向が上下方向に延びるように貫通部34に充填される。このとき、耐火処理材11は、処理材本体12のクッション性及び柔軟性を利用して圧縮された状態で隙間に充填されている。このため、耐火処理材11は、原形状への復帰力により、貫通部34の内周面、配線・配管材33の外周面、及び貫通部34の縦方向及び横方向に隣接する耐火処理材11に圧接している。さらに、カバー体13の金属層13bが耐火処理材11の表面に露出しているため、耐火処理材11同士の隙間に耐火処理材11を充填する際、耐火処理材11同士の間の摩擦が低減され、耐火処理材11同士が互いに滑りやすく、充填しやすい。
【0039】
また、貫通部34の縦方向及び横方向において、耐火処理材11同士の間や貫通部34の内周面と支持ラック20との間に該耐火処理材11のサイズよりも小さい隙間が形成された場合は、該隙間の大きさに合わせた耐火処理材11を充填する。このとき、耐火処理材11を所要のサイズに切断して用いる。そして、可能な限り、耐火処理材11と配線・配管材33との隙間を少なくする。次に、その隙間に熱膨張性耐熱シール材29を充填する。さらに、熱膨張性耐熱シール材29と、配線・配管材33や隣接する耐火処理材11の間に形成された細かな隙間を閉塞するように粘着テープ28を貼着する。例えば、配線・配管材33において、貫通部34側の根本部から充填された耐火処理材11に跨るように粘着テープ28を貼着する。
【0040】
さらに、防火区画壁Wの表面に露出する耐火処理材11において、隣接する耐火処理材11同士の間に形成される隙間は、その隙間を跨ぐように隣接する耐火処理材11に貼着された粘着テープ28によって塞がれている。なお、粘着テープ28は、アルミニウム製の基材と、この基材の一面に設けられた粘着層とからなる。そして、本実施形態では、粘着テープ28が、貫通部34内で隣り合う別の耐火処理材11に貼着される貼着部を構成している。
【0041】
その結果、防火区画壁Wの貫通部34が耐火処理材11によって閉鎖されるとともに、貫通部34の閉鎖構造が形成される。
さて、防火区画壁Wに耐火処理が施され、貫通部の閉鎖構造を有する建築物において、防火区画壁Wの一方の壁表側で万が一、火災に遭遇し、配線・配管材33が燃焼したとする。このとき、配線・配管材33の外面に圧接するのは耐火処理材11のカバー体13となっている。そして、カバー体13は、金属層13bが耐火処理材11の表面に露出している。このため、配線・配管材33の燃焼による熱や火炎からの熱は、金属層13b全体に速やかに伝播する。このため、処理材本体12の全面には、熱が金属層13bから速やかに伝わる。
【0042】
すると、伝わった熱により処理材本体12の膨張黒鉛が膨張する。このとき、膨張黒鉛は、処理材本体12の全体に分散されているため、処理材本体12は全面が全方位に向けて膨張する。処理材本体12が膨張すると、カバー体13は破れ、さらに、膨張した処理材本体12によって、焼失した配線・配管材33の体積減少分や、配線・配管材33と貫通部34との間の隙間が密封閉鎖される。その結果、配線・配管材33の外面と貫通部34との間の隙間が火炎、煙、有毒ガス、熱の経路となり、防火区画壁Wの他方の壁表側へ火炎、煙、有毒ガス、熱が伝わることが防止され、耐火処理材11によって耐火機能が発揮される。
【0043】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)耐火処理材11は、処理材本体12に膨張黒鉛を備え、その処理材本体12の全面を覆うカバー体13を備える。そして、カバー体13は、金属層13bが耐火処理材11の表面に露出するように設けられている。このため、万が一、火災に遭遇した場合、金属層13bによって耐火処理材11の表面全体に熱を伝えることができ、処理材本体12の膨張黒鉛に熱を速やかに伝えることができる。よって、火災時には、耐火処理材11がいずれの面から加熱されても、処理材本体12全体を速やかに膨張させることができる。その結果として、処理材本体12がカバー体13で覆われていても、耐火処理材11の施工に方向性を必要とせず、耐火処理材11を簡単に施工することができる。
【0044】
(2)耐火処理材11の処理材本体12は、カバー体13で覆われている。処理材本体12のクッション材は短繊維製であるが、カバー体13で覆うことで、短繊維が飛散することを防止できる。
【0045】
(3)耐火処理材11は、表面にカバー体13の金属層13bが露出している。このため、耐火処理材11同士は金属層13bによって摩擦が低減され、滑りやすくなっている。したがって、貫通部34の隙間に耐火処理材11を充填する際、耐火処理材11を滑らせることで隙間に充填しやすく、耐火処理材11を簡単に施工することができる。
【0046】
(4)耐火処理材11において、処理材本体12の全体に膨張黒鉛が分散されている。このため、金属層13bから処理材本体12のいずれの側面に熱が伝わっても、処理材本体12を膨張させることができる。
【0047】
(5)耐火処理材11において、処理材本体12の全体に膨張黒鉛が分散されている。このため、耐火処理材11を切断して使用するとき、その切断面にも膨張黒鉛が現れる。よって、金属層13bから処理材本体12の切断面に熱が伝わっても、処理材本体12を膨張させることができる。
【0048】
(6)耐火処理材11において、処理材本体12はクッション材を備える。このため、処理材本体12によって、耐火処理材11にクッション性及び柔軟性を持たせながらも、火災等の発生時は処理材本体12そのものが高い膨張率で膨張する。よって、処理材本体12そのものが押し潰されてしまうことが無く、耐火処理材11で貫通部34を確実に閉鎖することができる。
【0049】
(7)貫通部34内では、隣り合う耐火処理材11同士には粘着テープ28が貼着されている。このため、粘着テープ28により、貫通部34内での耐火処理材11の位置ずれを防止することができる。
【0050】
(8)カバー体13は、ガラスクロス13aに金属層13bを蒸着して形成されている。このため、ガラスクロス13aと金属層13bが分離することを防止でき、耐火処理材11を貫通部34に充填するとき、金属層13bがガラスクロス13aから剥がれる(分離する)ことを防止でき、処理材本体12を金属層13bで覆った状態を維持できる。
【0051】
(9)貫通部34の閉鎖構造及び閉鎖方法において、隣り合う耐火処理材11同士の間に形成される隙間は、粘着テープ28によって塞がれる。粘着テープ28は、金属製の基材と、その基材の一面に設けられた粘着層とからなる。このため、粘着テープ28は、金属層によって火災時にも容易に焼失せず、処理材本体12が膨張するまでの間、耐火処理材11同士の隙間を塞いでおくことができ、隙間からの火炎や煙の侵入を防止できる。
【0052】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 実施形態では、耐火処理材11を、処理材本体12をカバー体13で一つずつ覆う構成としたが、耐火処理材を、複数の処理材本体12を一つのカバー体で纏めて包む構成としてもよい。
【0053】
図7に示すように、耐火処理材50において、カバー体40は、長尺帯状であり、処理材本体12を一つずつ収容する収容部41を、カバー体40の長手方向に複数備える。なお、カバー体40は、実施形態と同様に、ガラスクロス13aにアルミニウム製の金属層13bを蒸着して形成されている。また、カバー体40は、長手方向に隣り合う収容部41同士の間に、収容部41同士を連結する連結部42を備える。
【0054】
このように構成した場合、耐火処理材50は、複数の処理材本体12を一体に備えるため、一度の充填作業で複数の処理材本体12を貫通部34に充填することができる。また、連結部42から処理材本体12を一つ又は複数に分割することができ、耐火処理材50のサイズを小さくすることもできる。このとき、連結部42から耐火処理材50を分割するため、処理材本体12を直接切断する必要がなく、切断面からクッション材が飛散することも防止できる。
【0055】
○ カバー体13において、ガラスクロス13aと金属層13bの接合方法は、蒸着ではなくてもよく、接着剤による接合や熱溶着であってもよい。
○ 耐火処理材11同士に接合される粘着テープ28は、全部又は一部無くてもよい。例えば、隣接する耐火処理材11同士が隙間なく充填されている部分等は、粘着テープ28は無くてもよい。また、耐火処理材11を貫通部34に充填する際、複数の耐火処理材11を粘着テープ28で予め一体化しておき、その一体化した状態で貫通部34に充填してもよい。又は、粘着テープ28を耐火処理材11に対し貼り外し自在に設けておいてもよく、この場合には、一体化された複数の耐火処理材11の大きさが、貫通部34より大きい場合には、粘着テープ28を外して、一体化した耐火処理材11の数を減らすことができる。一方、一体化された複数の耐火処理材11の大きさが、貫通部34より小さい場合には、粘着テープ28を追加して、一体化した耐火処理材11の数を増やすことができる。
【0056】
○ 粘着テープ28は、貫通部34内で隣り合う耐火処理材11のうち、一方の耐火処理材11に貼り付けておいて、この一方の耐火処理材11を、金属層13bに貼着部としての粘着テープ28を備えた耐火処理材11としてもよい。また、貼着部を、アルミニウム製の基材を備えておらず、両面に粘着層が露出する両面テープで形成してもよい。
【0057】
○ 粘着テープ28は、アルミニウム製の基材を備えておらず、両面に粘着層が露出する両面テープであってもよい。この場合、隣り合う耐火処理材11の対向面の間に両面テープが介在し、その両面テープにより隣り合う耐火処理材11同士が接合される。
【0058】
このように構成すると、耐火処理材11を一つずつ貫通部34に充填する場合と比べると、充填作業の作業性が良くなる。
○ カバー体13の金属層13bはアルミニウムに限らず、他の金属材料で形成してもよい。
【0059】
○ カバー体13のガラスクロス13aは、他の繊維材料でもよく、炭素繊維や不織布等、さらに、繊維材料に限らず適宜変更してもよい。
○ 実施形態では、カバー体13をシート状に形成し、処理材本体12を覆うようにカバー体13を折り畳んだが、カバー体13を挿入口を有する袋状に形成し、カバー体13内に処理材本体12を収容した後、挿入口を塞いで耐火処理材11を形成してもよい。
【0060】
○ 処理材本体12のクッション材は、処理材本体12にクッション性を持たせることができる不燃・難燃性を有する無機化合物の短繊維であれば、適宜変更してもよい。
○ 処理材本体12のクッション材は、例えば、難燃性のスポンジやゴムでもよい。
【0061】
○ 処理材本体12は、直方体状の一塊となっていなくてもよく、クッション材に膨張黒鉛を添加し、層状に成形したものを複数積層して直方体状にしたものでもよい。
○ 処理材本体12とカバー体13とは接着剤によって接着されていてもよい。
【0062】
○ 耐火処理材11は直方体状でなくてもよく、球状、八面体状、三角錐状のように形状を変更してもよい。
○ 耐火処理材11において、処理材本体12の厚み方向の両面のみに膨張黒鉛を分散させて、処理材本体12の厚み方向両面に熱膨張部を設けた構成としてもよい。
【0063】
○ 耐火処理材11において、カバー体13は、処理材本体12の全面を覆っていなくてもよく、例えば、処理材本体12の六つの側面のうち一つの側面だけが露出するように五つの側面を覆っていてもよい。この場合、六つの側面のうち最も面積の大きい2つの側面は覆っている。
【0064】
○ 熱膨張性材料は、膨張黒鉛の他に未焼成バーミキュライトといった他の熱膨張性材料であってもよい。
○ 防火区画壁Wにおいて、貫通部34は、防火区画壁Wを貫通する貫通孔の内周面に沿って配設された円筒状のスリーブの内側に形成されていてもよい。
【0065】
○ 防火区画体は、防火区画床であってもよい。
【符号の説明】
【0066】
W…防火区画体としての防火区画壁、11,50…耐火処理材、12…処理材本体、13,40…カバー体、13a…基材シートとしてのガラスクロス、13b…金属層、28…貼着部としての粘着テープ、33…配線・配管材、34…貫通部、41…収容部、42…連結部。