特許第6154757号(P6154757)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6154757動力伝達装置及び動力伝達装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6154757
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】動力伝達装置及び動力伝達装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/17 20060101AFI20170619BHJP
   B23K 20/12 20060101ALI20170619BHJP
   F16H 55/22 20060101ALI20170619BHJP
   F16H 48/08 20060101ALI20170619BHJP
   F16H 48/40 20120101ALI20170619BHJP
【FI】
   F16H55/17 A
   B23K20/12 G
   F16H55/22
   F16H48/08
   F16H48/40
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-13189(P2014-13189)
(22)【出願日】2014年1月28日
(65)【公開番号】特開2015-140834(P2015-140834A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2016年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000146010
【氏名又は名称】株式会社ショーワ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(74)【代理人】
【識別番号】100111545
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 悦夫
(72)【発明者】
【氏名】大宮 和宣
【審査官】 塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−004736(JP,A)
【文献】 特開2005−313234(JP,A)
【文献】 特開2011−149513(JP,A)
【文献】 特開昭55−130387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/17
B23K 20/12
F16H 48/08
F16H 48/40
F16H 55/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通したピン貫通孔を有する回転体と、
前記ピン貫通孔の一端側に配置されて前記回転体に当接するリングギヤと、
前記ピン貫通孔の他端側から挿入され、一端側が前記リングギヤに摩擦圧接されたピンと、
を備え、
前記ピン貫通孔の他端側の内周面は、他端側に向かうにつれて拡径した孔側円錐面であり、
前記ピンは、前記孔側円錐面に対応し、他端側に向かうにつれて拡径したピン側円錐面を有し、
前記リングギヤの他端側には、前記ピン貫通孔に対応するとともに前記貫通孔から視て前記ピンの一端側よりも大きく、前記ピンの一端側と摩擦圧接するための凹面が形成され、
前記摩擦圧接において前記ピンが前記リングギヤに押し付けられることで、前記ピン側円錐面と前記孔側円錐面とは密着している
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記回転体は、差動装置のデフケースであることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記回転体は、副変速機のリングギヤシャフトであることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記回転体は、シャフトドライブを用いた自動二輪車の終減速装置のリングギヤシャフトであることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
貫通したピン貫通孔を有する回転体と、
前記ピン貫通孔の一端側に配置されて前記回転体に当接するリングギヤと、
前記ピン貫通孔の他端側から挿入され、一端側が前記リングギヤに摩擦圧接されたピンと、
を備え、
前記ピン貫通孔の他端側の内周面は、他端側に向かうにつれて拡径した孔側円錐面であり、
前記ピンは、前記孔側円錐面に対応し、他端側に向かうにつれて拡径したピン側円錐面を有し、
前記リングギヤの他端側には、前記ピン貫通孔に対応するとともに前記貫通孔から視て前記ピンの一端側よりも大きく、前記ピンの一端側と摩擦圧接するための凹面が形成された動力伝達装置の製造方法であって、
前記ピンの一端側を前記凹面に突き合わせながら、前記ピンを中心軸周りに回転させ、摩擦熱を生成する摩擦熱生成工程と、
前記ピンを前記リングギヤに押し付け、前記ピン側円錐面と前記孔側円錐面とを密着させる押圧工程と、
を備えることを特徴とする動力伝達装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置及び動力伝達装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される差動装置(「デファレンシャル装置」とも呼ばれる。)は、左右の車輪に対し略中央部に配置され、車両がカーブを走行する場合、外側の車輪の回転速度を内側の車輪の回転速度より大きくすることで、円滑な走行を可能とする装置である。
なお、前輪駆動の車両では、変速機内に差動装置が設けられ、後輪駆動の車両では、終減速装置内に差動装置が設けられている。
【0003】
差動装置は、サイドギヤ、ピニオンギヤ等が格納されるデフケース(回転体)を備えている。このデフケースには、リングギヤが外嵌され、リングギヤと一体に回転するように構成されている。
ここで、デフケースとリングギヤとの固定方法として、リングギヤをデフケースのフランジに、ボルトで締結する方法が一般的である。
【0004】
一方で、ボルトで締結する方法には、以下のような不利益がある。
第1に、リングギヤからデフケースに伝達される動力が大きい場合、高強度材料からなるボルトを厳格に管理された高い締め付けトルクで締結する必要がある。また、ねじ部への油分付着有無の管理や接着剤塗布を行なう場合もあり、締結作業は煩雑となることが多い。
第2に、リングギヤに、ボルトが螺合するためのねじ穴を形成する場合、そのねじ穴の径よりも小径なねじ下穴を形成する必要がある。そして、ねじ下穴の深さは、ねじ穴よりも深く形成する必要があるため、ねじ下穴がリングギヤの歯底近傍まで到達し、強度が低下するおそれがある。
【0005】
また、上記不利益を回避するため、下記特許文献1では、ボルトで締結することなく、デフケースのフランジとリングギヤとをレーザ溶接により一体化する方法が提案されている。特許文献2では、ねじ穴(ねじ下穴)の軸線をリングギヤの歯の中心線上に配置する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5206656号公報
【特許文献2】特開2010−265924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、レーザ溶接を行うための装置が比較的大型であるという問題がある。また、溶接不良が発生していないことを検査する必要性から、作業工数が多いという問題がある。
特許文献2の技術では、ねじ穴を短縮することができず、リングギヤの厚みを抑えることができない。このため、リングギヤの小型化、軽量化を図ることができない。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するために創作されたものであり、レーザ溶接を行うことなく回転体とリングギヤとを固定でき、かつ、リングギヤの小型化、軽量化を図ることができる動力伝達装置及び動力伝達装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明に係る動力伝達装置は、貫通したピン貫通孔を有する回転体と、前記ピン貫通孔の一端側に配置されて前記回転体に当接するリングギヤと、前記ピン貫通孔の他端側から挿入され、一端側が前記リングギヤに摩擦圧接されたピンと、を備え、前記ピン貫通孔の他端側の内周面は、他端側に向かうにつれて拡径した孔側円錐面であり、前記ピンは、前記孔側円錐面に対応し、他端側に向かうにつれて拡径したピン側円錐面を有し、前記リングギヤの他端側には、前記ピン貫通孔に対応するとともに前記貫通孔から視て前記ピンの一端側よりも大きく、前記ピンの一端側と摩擦圧接するための凹面が形成され、前記摩擦圧接において前記ピンが前記リングギヤに押し付けられることで、前記ピン側円錐面と前記孔側円錐面とは密着していることを特徴とする。
【0010】
ここで、摩擦圧接とは、2つの被接合部材の少なくとも1つを摩擦熱によって軟化させた後、押圧力をもって相対的に近づけ相互に密着させて接合することである。
【0011】
このような構成によれば、ピン貫通孔の他端側の内周面は、他端側に向かうにつれて拡径した孔側円錐面であり、ピンは、孔側円錐面に対応し、他端側に向かうにつれて拡径したピン側円錐面を有している。
このため、摩擦圧接において、ピンの一端側を凹面に接触させ、ピンの一端側を摩擦熱により軟化させた後、ピンをリングギヤ側に押し込むと、ピンの中心軸とピン貫通孔の中心軸とが一致するようにピンが誘導され、ピン側円錐面と孔側円錐面とが密着する。
【0012】
また、凹面が貫通孔から視てピンの一端側よりも大きく形成されているため、ピンのリングギヤ側への押し込みにより、軟化した部位がピンの径方向に押し出されたとしても、凹面内に収容される。
このため、軟化した部位がリングギヤと回転体との間に入り込まず、回転体とリングギヤとの当接が維持される。
そして、回転体に当接するリングギヤにピンが接合することで、ピンとリングギヤとが一端側と他端側とから回転体を挟持した状態になる。このため、リングギヤとピンは、回転体に対し、ピンの軸方向と径方向とにガタつくことなく、強固に固定される。
【0013】
以上から、前記する発明によれば、レーザ溶接を行うことなく回転体とリングギヤとを固定できる。また、摩擦圧接に用いられる設備は、比較的小型であり、設備が大型するとう問題が生じない。さらに、摩擦圧接によりピンとリングギヤとを接合するため、溶接不良が生じない。このため、検査作業が不要になり、作業工数の削減を図ることができる。
また、ボルトを利用しないため、リングギヤにねじ穴(ねじ下穴)を形成する必要がない。そして、リングギヤに凹面は、摩擦圧接によりピンの径方向に押し出された軟化した部位を収容するための穴であり、ねじ穴(ねじ下穴)よりも浅底にすることができる。このため、リングギヤを肉薄にしてもリングギヤの強度が損なわれることがなく、リングギヤの小型化、軽量化を図ることができる。
また、ピンとの接合に対し、リングギヤに要求される加工は、比較的加工が容易な凹面の形成であり、加工コストを削減できる。
【0014】
また、前記回転体は、差動装置のデフケースであることが好ましい。また、前記回転体は、副変速機のリングギヤシャフトであることが好ましい。または、前記回転体は、シャフトドライブを用いた自動二輪車の終減速装置のインナーハブであることが好ましい。
【0015】
前記する構成によれば、リングギヤの小型化、軽量化に伴い、終減速装置、副変速機、自動二輪車の終減速装置の小型化、軽量化を図ることができる。
【0016】
また、前記課題を解決するため、本発明に係る動力伝達装置の製造方法は、貫通したピン貫通孔を有する回転体と、前記ピン貫通孔の一端側に配置されて前記回転体に当接するリングギヤと、前記ピン貫通孔の他端側から挿入され、一端側が前記リングギヤに摩擦圧接されたピンと、を備え、前記ピン貫通孔の他端側の内周面は、他端側に向かうにつれて拡径した孔側円錐面であり、前記ピンは、前記孔側円錐面に対応し、他端側に向かうにつれて拡径したピン側円錐面を有し、前記リングギヤの他端側には、前記ピン貫通孔に対応するとともに前記貫通孔から視て前記ピンの一端側よりも大きく、前記ピンの一端側と摩擦圧接するための凹面が形成された動力伝達装置の製造方法であって、前記ピンの一端側を前記凹面に突き合わせながら、前記ピンを中心軸周りに回転させ、摩擦熱を生成する摩擦熱生成工程と、前記ピンを前記リングギヤに押し付け、前記ピン側円錐面と前記孔側円錐面とを密着させる押圧工程と、を備えることを特徴とする。
【0017】
このような構成によれば、押圧工程により、ピンの中心軸とピン貫通孔の中心軸とが一致するようにピンが誘導され、ピン側円錐面と孔側円錐面とが密着する。また、押圧工程により、軟化した部位がピンの径方向に押し出されるものの、凹面内に収容され、回転体とリングギヤとの当接が維持される。
このため、リングギヤが回転体に対し、ピンの軸方向と径方向とにガタつくことなく、強固に固定される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、レーザ溶接を行うことなく回転体とリングギヤとを固定でき、かつ、リングギヤの軽量化、小型化を図ることができる動力伝達装置及び動力伝達装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態に係る動力伝達装置を備えた終減速装置の平断面図である。
図2図1の枠線Aで囲まれた範囲を拡大した拡大図である。
図3】摩擦圧接による固定方法において、準備工程を示す断面図である。
図4】摩擦圧接による固定方法において、摩擦熱生成工程のピンを回転させる前の状態を示す断面図である。
図5】摩擦圧接による固定方法において、摩擦熱生成工程のピンを回転させた後の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。また、実施形態では、本発明の動力伝達装置が、FFベースの四輪駆動車に搭載され終減速装置に適用された例を挙げて説明する。
【0021】
(終減速装置100)
図1に示すように、終減速装置(動力伝達装置)100は、ドライブピニオンシャフト1に入力された軸線O1周りの回転運動を減速しつつ軸線O2周りの回転運動に変換し、左右の後輪に伝達する装置である。
終減速装置100は、図示しない推進軸に連結して軸線O1周りに回転するドライブピニオンシャフト1と、ドライブピニオンシャフト1の後端に形成されたドライブピニオンギヤ2と、ドライブピニオンギヤ2に噛合して軸線O2周りに回転するリングギヤ3と、リングギヤ3と一体に回転する差動装置10と、リングギヤ3を差動装置10に固定するための複数のピン20と、を備えている。
【0022】
差動装置10は、略円筒状のデフケース(回転体)4と、デフケース4内に固定されたピニオンシャフト8を中心として回転自在のピニオンギヤ5、5と、ピニオンギヤ5の左右両側に配置されてピニオンギヤ5に噛合するサイドギヤ6、6と、を備えている。
【0023】
そして、デフケース4のボス部4a、4aに外嵌された軸受11、11が、キャリア7aとリアカバー7bとに挟持され、デフケース4が軸線O2周りに回転自在になっている。なお、キャリア7aと、リアカバー7bとは軸線O2を分割面にして組み合せられたハウジングである。
【0024】
デフケース4の外周面には、径方向外側に突出する円環状のフランジ14が設けられている。また、フランジ14には、左右方向(軸線O2に平行)に貫通するピン貫通孔14aが、周方向に間隔を空けて複数形成されている。そして、ピン貫通孔14aの左側にはリングギヤ3が配置され、リングギヤ3がフランジ14の左面に当接している。
ピン貫通孔14aのそれぞれには、ピン貫通孔14aの右側からピン20の軸部21が挿通されており、その軸部21の先端(左端)がリングギヤ3に摩擦圧接されてピン20とリングギヤ3とが接合している。
以下、リングギヤ3と、デフケース4のフランジ14と、ピン20とによる固定構造に絞って説明する。
なお、ピン貫通孔14aの中心線を軸線O3と言い、軸線O3の一方側である左側が特許請求の範囲に記載される「一端側」であり、軸線O3の他方側である右側が特許請求の範囲に記載される「他端側」である。
【0025】
ピン貫通孔14aの右側内周面(孔側円錐面)15は、右側に向かうにつれて次第に拡径した円錐台状に形成されている。
一方で、ピン貫通孔14aの左側内周面16は、円筒状に形成されている。また、左側内周面16は、軸部21の外周よりも僅かに拡径し、ピン貫通孔14aに挿通されたピン20の軸部21との間に隙間が形成されている。このため、後記する摩擦熱生成工程において、ピン貫通孔14a内に挿入したピン20を軸線O3周りに回転することができる。
【0026】
(リングギヤ3)
リングギヤ3は、左側面に歯面が形成されたリング状の部材であり、デフケース4に外嵌されている。
リングギヤ3の右側面は、平面に形成され、フランジ14に当接している。また、リングギヤ3の右側面には、左側に向かって窪む凹面9が周方向に複数形成されている。
【0027】
図2に示すように、凹面9は、フランジ14のピン貫通孔14aに対応した位置に設けられ、ピン貫通孔14aの軸線O3を中心とする丸状の穴面である。
また、凹面9の底面9aの面積は、摩擦圧接される前の軸部21(図4参照のL3参照)の先端面よりも大きく形成されている。このため、後記する押圧工程でピン20の径方向に押し出され、軸部21の外周側に形成されたバリ21aを、凹面9内に収容できるようになっている。
なお、実施形態の凹面9の形状は、軸線O3を中心軸とする丸穴であるが、本発明は、これに限定されない。たとえば、円孤状の溝、または、軸線O2を中心軸としてフランジ14の全周に亘る全円状の溝であってもよい。
【0028】
(ピン20)
ピン20は、フランジ14のピン貫通孔14aに挿入され、摩擦圧接によりリングギヤ3に接合された部材である。
ピン20は、摩擦圧接により凹面9に接合されるとともに外周側にバリ21aが生じている軸部21と、軸部21の右端から左側に向かうにつれて次第に拡径する円錐台状の円錐台部22と、円錐台部22の右端に連続する円柱状の頭部23と、を備えている。
【0029】
図3に示すように、摩擦圧接される前の軸部21は、円柱状を呈している。
また、摩擦圧接される前の軸部21の軸方向長さL2は、凹面9の深さとフランジ14の左側内周面16の長さを足し合わせた長さL1よりも長く形成されている。
そして、摩擦圧接により、軸部21の先端部が軸線O3の法線方向に押し出されて短縮している。このため、図2に示すように、軸部21の外周側には、硬化したバリ21aが形成されている。
円錐台部22の外周面(ピン側円錐面)22aは、円錐台状を呈している。
また、円錐台部22の外周面22aは、フランジ14の左側内周面16に対応し、円錐台部22の外周面22aの傾斜角度θ2が、左側内周面16の傾斜角度θ1と同一である。
頭部23は、後記する押圧工程でピン20をリングギヤ3に押し付ける場合に、高い圧力を加える部位であり、軸部21よりも大径に形成されて比較的高い強度となっている。
【0030】
つぎに、摩擦圧接によるリングギヤ3とデフケース4とピン20との固定方法(動力伝達装置の製造方法)について説明する。摩擦圧接による固定方法は、準備工程と、摩擦熱生成工程と、圧接工程とを有している。
また、摩擦圧接による固定方法に用いられるデフケース4のフランジ14には、予め、研削して複数のピン貫通孔14a、円錐台状の右側内周面15、円筒状の左側内周面16を形成する。また、ピン20の外周面を研磨して、円錐台部22を形成する。さらに、リングギヤ3の右側面を切削し、凹面9を形成する。
【0031】
(準備工程)
図3に示すように、リングギヤ3をデフケース4に外嵌し、リングギヤ3をデフケース4のフランジ14に当接させる。また、リングギヤ3の凹面9の中心とフランジ14のピン貫通孔14aの軸線O3とが同軸上になるように位置合わせする。図示しないクランプでリングギヤ3とデフケース4とを挟持し、リングギヤ3とフランジ14とが軸線O3方向に離間しないように固定する。
そして、摩擦圧接機(図示しない)に取り付けられたピン20の軸部21が、フランジ14のピン貫通孔14aを向くように配置するとともに、ピン20の中心軸をピン貫通孔14aの軸線O3に重ね合わせる。
【0032】
(摩擦熱生成工程)
図4に示すように、ピン20の軸部21をフランジ14の右側からピン貫通孔14aに挿入し、ピン20の軸部21の先端部(左端部)をリングギヤ3の凹面9の底面9aに当接させる。なお、底面9aの面積は軸部21の先端面よりも大きいため、凹面9の側面と軸部21の外周面との間には、隙間L3が存在している。
【0033】
当接後、ピン20をさらに左側に移動させて、軸部21の先端部が凹面9の底面9aに突き合わせられた状態にし、軸線O3を回転中心としてピン20を高速回転させる(図4の矢印B参照)。
これにより、図5に示すように、突き合せられたピン20の軸部21の先端部と底面9aの表面部分とに摩擦熱が生成され、ピン20の軸部21の先端部と底面9aの表面部分とが軟化して、ピン20とリングギヤ3とが接合する。
なお、突き合わせ荷重が作用しているため、軟化した部分の一部がピン20の径方向に押し出される。また、軟化した軸部21の一部がピン20の径方向に押し出されて軸部21が短縮するものの、フランジ14の右側内周面15と円錐台部22の外周面22aとの間には、隙間L4が存在している。
【0034】
(押圧工程)
つぎに、ピン20の回転を急停止し、摩擦熱生成工程により生成した熱が軸部21と凹面9とに残っている間に、ピン20をリングギヤ3側に高い圧力で押し付ける(図5矢印C参照)。
これにより、図2に示すように、軟化している軸部21の先端部と底面9aの表面部分とがピン20の径方向に押し出されるとともに、軸部21の先端面と底面9aの表面部分とに付着した不純物もピン20の径方向外側に押し出される。このため、接合される部分には不純物がなく、ピン20と凹面9との接合が強固になる。
そして、軟化した部位が径方向外側に押し出されることで軸部21がさらに短縮し、円錐台部22の外周面22aがフランジ14の右側内周面15に当接する。
なお、ピン20の径方向に押し出された不純物は、凹面9内に収容され、リングギヤ3とフランジ14との間には進入しない。
しかも、万一バリ21aが使用過程において衝撃等により脱落しても、凹面9で形成された空間に留まるため、ギヤ噛合い部に混入してギヤの破損を招くようなこともない。
【0035】
また、円錐台部22の外周面22aとフランジ14の右側内周面15とは、傾斜角度が同一の円錐台状に形成されているため、円錐台部22の外周面22aが右側内周面15を摺動し、円錐台部22の中心軸がピン貫通孔14aの軸線O3と重なるように誘導される。このため、円錐台部22の中心軸がピン貫通孔14aの軸線O3と同軸になり、円錐台部22の外周面22aの全周が右側内周面15に密着した状態となる。
【0036】
そして、円錐台部22の外周面22aの全周が右側内周面15に密着した状態を維持しながら、軟化した部位が冷却して硬化するのを待つ。
これにより、ピン20が、フランジ14の右端面に当接するリングギヤ3と一体になり、フランジ14を左右両側から挟持した状態になる。このため、リングギヤ3とピン20とは、フランジ14に対し、ピン20の軸方向及び径方向にガタつくことなく強固に固定される。
さらに、フランジ14の周方向に間隔を空けて、複数のピン20がリングギヤ3に接合されているため、より強固に固定されている。
【0037】
以上から、実施形態によれば、リングギヤ3とデフケース4とを固定方法として、摩擦圧接による固定する方法を利用し、レーザ溶接を行う必要がない。そして、摩擦圧接を行うための摩擦圧接機は、比較的小型であるため、レーザ溶接を行うために設備が大型化するという問題が生じない。
【0038】
また、実施形態によれば、摩擦圧接によりピン20とリングギヤ3とを接合するため、溶接不良が生じない。このため、検査作業が不要になり、作業工数の削減を図ることができる。
【0039】
また、実施形態によれば、ボルトを利用しないため、リングギヤ3にねじ穴(ねじ下穴)を形成する必要がない。そして、リングギヤ3に形成する凹面9は、ねじ穴よりも浅底であるため、リングギヤ3を肉薄にしても強度が損なわれるおそれもない。よって、リングギヤ3の小型化、軽量化を図ることができる。
【0040】
以上、実施形態に係る動力伝達装置について説明したが、本発明は実施形態で説明した例に限定されるものでなく、適宜変更してもよいものである。
【0041】
また、実施形態では、回転体の例として、四輪駆動車に搭載され終減速装置内に収容されるデフケース4を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されない。
以下、他の適用例について説明する。
【0042】
FFベースの四輪駆動車では、フロント用の差動装置のデフケースが左右方向の軸線周りに回転しているところ、そのデフケースの回転運動をプロペラシャフトを介して終減速装置に伝達するため、副変速機が設けられている。
また、副変速機は、デフケースに固定されてデフケースと一体に回転する筒状のリングギヤシャフト(回転体)と、リングギヤシャフトに外嵌されたリングギヤと、リングギヤに直交して噛合して後方へ延出する出力軸と、を備えている。なお、出力軸の後部は、十字軸ジョイント等の自在継手を介して、プロペラシャフトと連結している。
よって、副変速機のリングギヤシャフトとリングギヤとを固定するために、本発明を適用してもよい。
【0043】
また、自動二輪車では、後部にドライブピニオンギヤを有するシャフトドライブを用いて、車体の中央部に搭載された原動機で発生した動力を後輪に伝達する場合、車体後部に終減速装置が設けられている。
また、終減速装置は、シャフトドライブの後部に連結する筒状の連結シャフトと、連結シャフトの後部に連結して回転するドライブピニオンギヤと、ドライブピニオンギヤと略直交して噛合し、左右方向の軸線回りに回転するリングギヤと、リングギヤに内嵌されるリングギヤシャフト(回転体)と、を備えている。
よって、終減速装置のリングギヤとリングギヤシャフトとを固定するために、本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0044】
100 終減速装置(動力伝達装置)
3 リングギヤ
4 デフケース(回転体)
9 凹面
10 差動装置
11 軸受
14 フランジ
14a ピン貫通孔
15 右側内周面(孔側円錐面)
20 ピン
21 軸部
21a バリ
22 円錐部
22a 外周面(ピン側円錐面)
図1
図2
図3
図4
図5