特許第6154772号(P6154772)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6154772
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】アルミナ−炭化珪素−炭素質れんが
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/103 20060101AFI20170619BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20170619BHJP
   C21C 1/06 20060101ALN20170619BHJP
【FI】
   C04B35/103
   F27D1/00 N
   !C21C1/06
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-68860(P2014-68860)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-189640(P2015-189640A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 賢典
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅人
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−025160(JP,A)
【文献】 特開2012−036064(JP,A)
【文献】 特開平06−183828(JP,A)
【文献】 特開平09−239503(JP,A)
【文献】 特開平11−189477(JP,A)
【文献】 特開2013−001584(JP,A)
【文献】 特開2001−072474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/101−35/106
F27D 1/00−1/18
C21C 1/00−1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火原料配合物にバインダーを添加して混練、成形、熱処理してなるアルミナ−炭化珪素−炭素質れんがであって、
前記耐火原料配合物は、
粒径0.075mm以上1mm未満の中間粒のアルミナを35質量%以上55質量%以下、
粒径1mm以上5mm未満の粗粒のアルミナを前記中間粒のアルミナに対して質量比で0.25以上1.00以下、
粒径0.075mm未満の微粒のアルミナを前記中間粒のアルミナに対して質量比で0.05以上0.30以下、
粒径0.075mm以上1.0mm未満の中間粒が50質量%以上である黒鉛を3質量%以上20質量%以下、
粒径0.075mm未満の微粒が50質量%以上である炭化珪素を1質量%以上10質量%以下、
粒径0.075mm未満の微粒が70質量%以上である金属を0.1質量%以上5質量%以下含有し、
かつ、前記耐火原料配合物中のアルミナの合量が60質量%以上95質量%以下である、アルミナ−炭化珪素−炭素質れんが。
【請求項2】
前記耐火原料配合物が、更に、粒径0.075mm以下の微粒が70質量%以上であるガラスを5質量%以下含有する、請求項1に記載のアルミナ−炭化珪素−炭素質れんが。
【請求項3】
前記耐火原料配合物が、更に、粒径0.075mm以上5mm未満の粒子が70質量%以上であるマグネシア及び/又はスピネルを10質量%以下含有する、請求項1又は2に記載のアルミナ−炭化珪素−炭素質れんが。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶銑の運搬、貯蔵、精製などを行う際に使用する溶銑容器の内張り材に好適に使用されるアルミナ−炭化珪素−炭素質れんがに関する。
【背景技術】
【0002】
製銑工程において、溶銑を高炉から転炉へ運搬する間に、溶銑中のSi、P、Sを除去するいわゆる溶銑予備処理が広く行われている。また、溶銑予備処理の一環として混銑車において脱Si処理を行う、いわゆる混銑車脱Siも広く行われている。
【0003】
近年、特に我が国においては鋼の高級化志向に伴い、鋼中のSi、P、S等の含有量が極めて少ないことが要求されるようになってきた。これに伴い、溶銑予備処理の条件が過酷化し、結果として溶銑容器に使用される耐火物の損傷が増大する傾向にある。そこで、混銑車等の溶銑容器の内張り材として一般に使用されているアルミナ−炭化珪素−炭素質れんがについても、更なる高耐用化が強く望まれてきている。
【0004】
このアルミナ−炭化珪素−炭素質れんがの損傷原因は種々挙げられるか、近年の溶銑予備処理条件の過酷化を考慮すると、スラグによる損耗が主と考えられる。
【0005】
スラグによる損耗の理由は、主としてスラグがれんがの組織中へ浸透して骨材のアルミナが溶損することにあり、この溶損は、酸化によって組織中のカーボンボンドが劣化して組織がポーラスになった場合により顕著になる。
【0006】
従来、この溶損を抑制するための手法としては、マグネシアやマグネシアリッチスピネルをれんがに含有させておき、使用中にアルミナと反応してスピネルを生成することで組織を緻密にし、スラグの浸透を防止する手法が知られている。このマグネシアやマグネシアリッチスピネルの使用は、スピネルの生成によってれんがの残存膨張が大きくなるため目地開きによる目地溶損を防止できることにもなる。また、酸化防止のためアルミニウム等の金属、あるいはガラス粉末等の原料配合への使用も良く知られている。
【0007】
例えば、特許文献1にはスピネルやマグネシアの使用例として、アルミナ質材料30〜90%、炭素質材料3〜30%、粒径1mm以下のAl―MgO系スピネル質材料5〜50%、ガラス質材料を外掛けで0.1〜5%含む配合物を使用した炭素含有耐火物が開示されている。そして、ガラス質材料の介在で微粉のスピネル粒子同士が結合し、耐火物使用中の稼動面にスピネル架橋層が構成される結果、耐食性及び耐酸化性が向上するとされている。
【0008】
また、特許文献2には、スピネル超微粉を2質量%以上20質量%以下使用したアルミナカーボン系不焼成れんがが開示されている。スピネル超微粉から発生する気相Mgによって周囲のアルミナ骨材表面で再酸化されて、多孔質の二次スピネルを生成するために、耐食性や熱間強度が向上するとされている。
【0009】
一方、組織を緻密化する例として、特許文献3には、高純度仮焼アルミナを5〜25重量%配合した炭化珪素・アルミナれんがが開示されている。仮焼アルミナを配合することにより成形性が良好になり、また、焼成によって焼結が促進されて、アルミナと炭化珪素を緻密に結合させることができ、得られるれんがの気孔率及び通気性を著しく低下させることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−25160号公報
【特許文献2】特開2012−36064号公報
【特許文献2】特開平5−105507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1のれんがは、例えば配合組成において1mm以下の原料を使用するなど原料粒子の粒度分布幅が広く、微粒のコントロールができていない。この結果、使用中の組織の緻密性が不十分となっている可能性が高い。しかも、微粒が多い場合には焼結が過度に進行するため耐熱衝撃性(耐スポーリング性)が悪化する問題がある。更に、上述の混銑車における脱Si処理条件下ではれんが中にMgO成分を含有しているためその耐食性は低下してしまう。
【0012】
特許文献2のれんがも同様に、実施例の耐火原料配合物において粒径0.1mm以下の電融アルミナを使用しており、この原料中の微粒のコントロールが不十分であるため、れんがの使用中を想定した1400℃3時間焼成後の見掛け気孔率が低く、使用中の組織の緻密性が不十分となっている可能性がある。更に、上述の混銑車における脱Si処理条件下ではれんが中にMgO成分を含有しているためその耐食性は低下してしまう。
【0013】
また、特許文献3のように、アルミナ−炭化珪素−炭素質れんがにおいて仮焼アルミナを使用すると、使用中に焼結が進行してれんがが収縮するため目地が開きやすくなるという問題がある。更には焼結が過度に進行するため耐熱衝撃性も低下する。
【0014】
つまり、従来は、マグネシア、スピネル、あるいはガラス等の各種添加剤を添加することで耐酸化性や耐食性を向上する手法が採られていたが、特に、近年の溶銑予備処理が過酷になった混銑車などでは耐用性の改善に限界が生じていた。
【0015】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、これまでになかった耐用性の高いアルミナ−炭化珪素−炭素質れんがを提供することにあり、より具体的には、耐熱衝撃性を維持しつつ、現状よりも耐食性及び耐酸化性を向上させ、しかも適切な残存膨張性を有するアルミナ−炭化珪素−炭素質れんがを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、れんがの使用中にその組織を緻密に維持することができれば、れんが組織中への酸素やスラグの浸透が抑制されて、れんがの耐食性及び耐酸化性が向上し、しかも酸化防止剤等の添加を最小限にできると考えた。
【0017】
そこで熱間で組織の緻密化に最も影響を与えるアルミナの粒度構成に着目し、アルミナを粒径1mm以上5mm未満の粗粒、粒径0.075mm以上1mm未満の中間粒、及び粒径0.075mm未満の微粒の3つのグループに分け、これらの配合割合と見掛け気孔率、耐食性及び耐酸化性との関係について調査した。
【0018】
その結果、中間粒を粗粒よりも富化した配合割合とすることで、今までになかった緻密なれんがとなり、耐食性及び耐酸化性に格段に優れ、更に微粒の配合量を制御することにより過度な焼結の進行が阻止され、しかも適切な残存膨張性を有するアルミナ−炭化珪素−炭素質れんがが得られた。
【0019】
すなわち、本発明によれば、以下の(1)から(3)のアルミナ−炭化珪素−炭素質れんがが提供される。
(1)耐火原料配合物にバインダーを添加して混練、成形、熱処理してなるアルミナ−炭化珪素−炭素質れんがであって、
前記耐火原料配合物は、
粒径0.075mm以上1mm未満の中間粒のアルミナを35質量%以上55質量%以下、
粒径1mm以上5mm未満の粗粒のアルミナを前記中間粒のアルミナに対して質量比で0.25以上1.00以下、
粒径0.075mm未満の微粒のアルミナを前記中間粒のアルミナに対して質量比で0.05以上0.30以下、
粒径0.075mm以上1.0mm未満の中間粒が50質量%以上である黒鉛を3質量%以上20質量%以下、
粒径0.075mm未満の微粒が50質量%以上である炭化珪素を1質量%以上10質量%以下、
粒径0.075mm未満の微粒が70質量%以上である金属を0.1質量%以上5質量%以下含有し、
かつ、前記耐火原料配合物中のアルミナの合量が60質量%以上95質量%以下である、アルミナ−炭化珪素−炭素質れんが。
(2)前記耐火原料配合物が、更に、粒径0.075mm以下の微粒が70質量%以上であるガラスを5質量%以下含有する、(1)に記載のアルミナ−炭化珪素−炭素質れんが。
(3)前記耐火原料配合物が、更に、粒径0.075mm以上5mm未満の粒子が70質量%以上であるマグネシア及び/又はスピネルを10質量%以下含有する、(1)又は(2)に記載のアルミナ−炭化珪素−炭素質れんが。
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
アルミナは、アルミナ−炭化珪素−炭素質れんがにおいて、耐食性を左右する重要な原料であり、耐火原料配合物に占める割合で60質量%以上95質量%以下含有させる。アルミナが60質量%未満では耐食性が不十分となり、95質量%を超えると黒鉛が不足するため、耐熱衝撃性が不十分となる。
【0022】
アルミナ−炭化珪素−炭素質れんがの代表的な用途である混銑車での使用温度においては、アルミナ同士の焼結や他の原料との反応などにより組織が変化する。このため、アルミナの粒度構成のコントロールが極めて重要である。ここで、本発明者らの過去の使用済みれんがの解析などの経験上、アルミナは粒径0.075mmを境界として微粒側は活性が高く粒径の小さな他のアルミナや他の原料と反応して組織を変化させやすい。このため本発明ではアルミナの中間粒と微粒との境界値を0.075mmとした。また、同様に本発明者らの経験上、アルミナは粒径が1mm以上になると1mm未満のアルミナよりも明らかに反応性が低くなる傾向にあるため、アルミナの粗粒と中間粒との境界値を1mmとした。すなわち、本発明では、粒径0.075mm未満を微粒、粒径0.075mm以上1mm未満を中間粒、粒径1mm以上5mm未満を粗粒と定義した。
【0023】
本発明におけるアルミナの粒度構成について説明すると、まず、粒径0.075mm以上1mm未満の中間粒の割合は、耐火原料配合物に占める割合で35質量%以上55質量%以下である。中間粒が35質量%未満ではれんがの見掛け気孔率が高くなり、耐食性が低下する。中間粒が55質量%を超えると成形時の充填性が悪くなり、見掛け気孔率が上昇し、耐食性が低下する。このアルミナの中間粒の割合は43質量%以上55質量%以下であることが好ましい。
【0024】
粒径1mm以上5mm未満の粗粒は、中間粒よりも多くなると見掛け気孔率が高くなるため、中間粒の含有割合に対して少ない量を含有させる。具体的には、中間粒に対して質量比(粗粒/中間粒)で0.25以上1.00以下とする。0.25未満では成形時の充填性が悪くなり、見掛け気孔率が上昇する。
【0025】
粒径0.075mm未満の微粒は、中間粒に対する質量比(微粒/中間粒)で0.05以上0.30以下とする。0.05未満では耐食性が不十分となり、0.30を超えると見掛け気孔率が高くなって耐食性が不十分となり、残存膨張がマイナスあるいは小さくなり、更に耐熱衝撃性が悪くなる。
【0026】
このようにアルミナの粒度構成を、1mmと0.075mmとを境界値として粗粒、中間粒、及び微粒の3つのグループに分けて、常に中間粒が多い粒度構成とすることで、組織を緻密にすると同時に、残存膨張性と十分な耐熱衝撃性を満足することができる。
【0027】
次に、本発明において使用するアルミナ以外の原料について説明する。
【0028】
黒鉛は主に耐熱衝撃性及び耐食性を付与するために使用し、3質量%以上20質量%以下で使用する。その粒度構成としては、粒度が大きいほど熱処理後の残存膨張率が小さくなり熱処理後の見掛け気孔率が低下するため、0.075mm以上1.0mm未満の中間粒を50質量%以上含有するものを使用する。
【0029】
炭化珪素は酸化防止剤として使用し、1質量%以上10質量%以下で使用する。1質量%未満では耐酸化性が不足し、10質量%を超えると使用中のれんがに生成するSiOの影響で耐食性が低下する。炭化珪素の使用量は3質量以上8質量%以下であることが好ましい。一方、炭化珪素の粒度構成としては、十分な耐酸化性を得るため、粒径0.075mm未満の微粒を50質量%以上含有するものを使用する。
【0030】
金属も酸化防止剤として使用し、0.1質量%以上5質量%で使用する。金属としては、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、マグネシウム(Mg)及びこれらの合金が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用できるが、耐食性及び耐酸化性の面からはアルミニウムが最も好ましい。金属の使用量が5質量%を超えると、二次結合が過度に発達するため耐熱衝撃性が低下し、また、生成した金属の酸化物が耐食性を低下させる。金属の使用量は、0.1質量%以上3.0質量%以下であることが好ましい。金属の粒度構成としては、十分な耐酸化性を得るため、粒径0.075mm未満の微粒を70質量%以上含有するものを使用する。
【0031】
ガラスは酸化防止剤として必要に応じて使用する。例えば硼珪酸系ガラス、燐酸系ガラス等を使用できる。ただし、ガラスの使用量が5質量%を超えると耐食性を大きく低下させるため5質量%以下で使用し、好ましくは3質量%以下で使用する。ガラスの粒度構成としては、十分な耐酸化性を得るため、粒径0.075mm未満の微粒を70質量%以上含有するものを使用する。
【0032】
マグネシア及び/又はスピネルは、残存膨張性及び耐酸化性を更に高めたい場合に使用することができる。その使用量は10質量%以下が好ましい。10質量%を超えて使用すると耐食性が著しく低下し、また残存膨張率が大きくなりすぎてしまうため、れんが同士のせりによる割れが発生し、更には耐熱衝撃性の低下によりれんがに剥離が発生する。マグネシア及び/又はスピネルの粒度構成としては、粗粒を多く使用すると残存膨張率を上昇させることができる。一方、微粒を多く使用すると上述したアルミナとの反応により耐酸化性を著しく向上させることができるが、それと同時に耐食性が低下し、特に粒径0.075mm未満の微粉を多く使用しすぎると耐食性の低下が顕著となる。そのため、マグネシア及び/はスピネルの粒度構成としては、粒径0.075mm以上5mm未満の中間粒及び粗粒を70質量%以上含有するものを使用する。
【0033】
本発明においてマグネシア及び/又はスピネルは、ガラスと併用することで更に耐酸化性の向上に寄与する。そのメカニズムは次のように考えられる。本発明のアルミナ−炭化珪素−炭素質れんがにおいて炭化珪素(SiC)は、高温下では酸素と反応してSiO及びSiOを生成し、またこのときアルミナ(Al)共存下では、複合化合物であるムライト(3Al・2SiO)を生成する。また、ガラスは高温下ではシリカ系の液相を生成し、またAl共存下では3Al・2SiOの液相を生成する。更に、これら複合化合物の生成段階で、マグネシア(MgO)及び/又はスピネル(MgO・Al)が共存した場合、その液相はSiO−Al−MgOの三成分系となり、従来の一成分、二成分系よりも融点が低下し、それに伴い粘性が低下する。この三成分系の液相は一成分系、二成分系よりも低温側で低粘性の酸化被膜として作用するため、炭素含有耐火物の耐酸化性の低下を抑制し、あるいは耐酸化性を向上させる。
【発明の効果】
【0034】
本発明のアルミナ−炭化珪素−炭素質れんがは、使用中でも非常に緻密な組織となっているので、従来のようにマグネシアやスピネルを多量に使用しなくても残存膨張性や耐酸化性が十分得られ、格段に耐食性が優れている。また、耐熱衝撃性にも優れている。更に、マグネシアやスピネルを適量使用することで、残存膨張性及び耐酸化性を更に向上させることもできる。このため、溶銑予備処理条件の厳しい混銑車においても十分な耐用性が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明で使用するアルミナは、Alを80質量%以上、好ましくは90質量%以上含有する耐火原料であり、耐火物に一般的に使用されているアルミナ原料を使用することができる。例えば、電融アルミナ、焼結アルミナ、ボーキサイト、及びバン土頁岩のうち1種以上を使用することができる。なお、仮焼アルミナも使用できるが、過焼結を抑制する点から粒径0.075mm未満の仮焼アルミナは3質量%以下で使用することが好ましい。
【0036】
黒鉛としては通常の鱗状黒鉛が使用可能であるが、これに換えて又はこれと併用して膨張黒鉛、人造黒鉛、キッシュグラファイトなどを使用してもよい。その組成は特に限定されるものではないが、より高い耐食性を得るためにはC純度が高い黒鉛を使用した方がよく、C純度は85%以上が好ましく、98%以上がより好ましい。
【0037】
炭化珪素はとして、通常の耐火物に使用される炭化珪素原料でSiC含有量が80質量%以上のものを使用することができる。
【0038】
金属としては、アルミニウム、マグネシウム、シリコン及びこれらの合金のうち1種以上を使用することができる。
【0039】
ガラスとしては、硼珪酸ガラス、燐酸ガラス、珪酸ガラス、鉛含有ガラス、リチウム含有ガラスなどを使用することができる。
【0040】
マグネシアとしては、電融マグネシア、焼結マグネシア等を使用することができ、スピネルとしては、Al及びMgOを主成分とする耐火材料で、MgO含有量が5質量%以上、好ましくはMgOの含有量が20質量%以上のものを使用することができる。
【0041】
上記以外の原料としては、ムライト、カーボンブラック、無煙炭、コークス粉、ピッチ、窒化珪素、炭化硼素等の1種以上を5質量%以下であれば使用することが可能である。
【0042】
本発明のアルミナ−炭化珪素−炭素質れんがは、耐火原料配合物にバインダーを添加して混練後、成形し、150〜500℃程度で熱処理する一般的な製法で製造することができる。なお、バインダーとしては、フェノール樹脂やフラン樹脂などを使用することができる。
【実施例】
【0043】
表1、2に記載の割合にて原料秤量を行い、バインダーとしてフェノール樹脂を添加して混練し、150MPa以上で加圧成形後、250℃で熱処理した。これから物性測定用試料を切り出して見掛け気孔率及び残存膨張率を測定するとともに、耐食性、耐酸化性及び耐熱衝撃性を評価した。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
見掛け気孔率の測定においては形状60×60×60mmの試料を使用した。この見掛け気孔率の測定は、れんがの使用中の緻密性を評価するために1400℃で3時間の還元雰囲気での焼成後に行った。焼成温度を1400℃とした理由は、1400℃未満では、アルミナ−炭化珪素−炭素質れんが内部での反応が完了しきれず、熱負荷も十分でないため緻密性の評価として適当ではなく、また1400℃を超える温度では焼結が進行し、緻密性の評価として焼結の効果を分離して評価することが困難になるうえ、焼成を行う炉への負荷が大きく定常的な測定法として好ましくなくなるためである。焼成の時間は3時間未満ではアルミナ−炭化珪素−炭素質れんが内部での反応が完了しきれず適当ではない。更にこれよりも長時間の焼成では焼結が進行してその効果を分離して評価することが困難になる。本実施例では、1400℃で3時間の還元雰囲気での焼成後の試料を、媒液を白灯油としたアルキメデス法(JIS R 2205)に準じて見掛け気孔率を測定した。
【0047】
残存膨張率の測定においては20×20×80mmの試料を使用し、1400℃で3時間の還元雰囲気での熱処理後前後の試料の寸法を計測して残存膨張率を算出した。
【0048】
耐食性は、回転侵食試験にて評価した。回転侵食試験では、水平の回転軸を有するドラムの内面に供試れんがをライニングし、スラグを投入、加熱してれんが表面を侵食させた。加熱源は酸素−プロパンバーナーとし、試験温度は1500℃、スラグ組成はCaO/SiO=1.0、FeO=1.5質量%とし、スラグの排出、投入を30分毎に10回繰り返した。試験終了後、各れんがの最大溶損部の寸法を計測して侵食量を算出し、表1に記載の「比較例1」の侵食量を100とする耐食性指数で表示した(耐食性指数=100×比較例1の侵食量(cm)/各例の侵食量(cm))。この耐食性指数は数値の大きいものほど耐食性に優れることを示す。
【0049】
耐酸化性の評価においては乾燥後の試料からφ50×50mmに切り出し、大気雰囲気下で電気炉中1400℃で15時間焼成した。焼成後の試料の高さ方向の中央を切断し、炭素成分が脱炭して変色した部分の厚さを4方向計測してこの値の平均値を脱炭層厚さとした。そして、表1に記載の「比較例1」の脱炭層厚さを100とする耐酸化性指数で表示した(耐酸化性指数=100×比較例1の脱炭層厚さ(mm)/各例の脱炭層厚さ(mm))。この耐酸化性指数は数値の大きいものほど耐酸化性に優れることを示す。
【0050】
耐熱衝撃性の評価においては、40×40×190mmの大きさの試料を、1400℃3時間還元焼成の後、1500℃の溶銑に90秒浸漬後、30秒水冷の熱衝撃を10回繰り返す試験を行い、亀裂・剥落の状態を観察した。表中で、◎は試験後に亀裂・剥落がなかったもの、○は軽微な亀裂・剥落が発生したもの、△は中程度の亀裂・剥落が発生したもの、×は大きな亀裂又は割れが発生したものである。
【0051】
以下、表1及び表2を参照して各例の評価結果を説明する。
【0052】
実施例1〜3はアルミナの中間粒が異なる割合になっているが、本発明の範囲内である。ガラス、マグネシア、あるいはスピネルを使用していないにもかかわらず、焼成後の見掛け気孔率が低いことから組織が緻密になっており、耐食性及び耐酸化性に優れている。また、十分な残存膨張性も有している。
【0053】
これに対して、比較例1は、アルミナの中間粒が30質量%と本発明の下限値35質量%未満であるため、焼成後の見掛け気孔率が高くラフな組織となり、耐食性及び耐酸化性が不十分である。また、比較例2は、アルミナの中間粒が60質量%と本発明の上限値55質量%を上回っているため、焼成後の見掛け気孔率が高く、耐食性及び耐酸化性が低下している。更に、比較例20はガラスとマグネシアを添加した例であるが、アルミナの中間粒が30質量%と本発明の下限値を下回っているため、実施例1〜3と比較すると耐食性がかなり劣る結果となっている。
【0054】
実施例4〜6はアルミナの微粒が異なる割合になっているが、本発明の範囲内であり、焼成後の見掛け気孔率が低いことから組織が緻密になっており、耐食性及び耐酸化性に優れている。また、十分な残存膨張性も有している。
【0055】
これに対して、比較例3は、アルミナの微粒の割合(微粒/中間粒)が0.00と本発明の下限値0.05を下回っているため、耐食性が不十分である。比較例4は、微粉/中間粒が0.35と本発明の上限値0.30を超えているため、焼成後の見掛け気孔率が高くなり耐食性及び耐酸化性が不十分となり、残存膨張が小さくなっている。更に耐熱衝撃性も低下している。
【0056】
実施例7〜9はアルミナの粗粒が異なる割合になっているが、本発明の範囲内であり、焼成後の見掛け気孔率が低いことから組織が緻密になっており、耐食性及び耐酸化性に優れている。また、十分な残存膨張性も有している。
【0057】
これに対して、比較例5は、アルミナの粗粒の割合(粗粒/中間粒)が0.1と本発明の下限値0.25を下回っているため、焼成後の見掛け気孔率が高くなり耐食性が低下している。比較例6は、粗粒/中間粒が1.25と本発明の上限値1.00を超えているため、焼成後の見掛け気孔率が高くなり耐食性及び耐酸化性が低下している。
【0058】
実施例10〜12は黒鉛量が異なる割合になっているが、本発明の範囲内であり、焼成後の見掛け気孔率が低いことから組織が緻密になっており、耐食性及び耐酸化性に優れている。また、十分な残存膨張性も有している。
【0059】
これに対して、比較例7は黒鉛量が0質量%と本発明の下限値3質量%を下回っているため、焼成後の見掛け気孔率が高くなり耐食性が低下している。比較例8は、黒鉛量が23質量%と本発明の上限値20%を上回っているため、焼成後の見掛け気孔率が高くなり耐食性及び耐酸化性が低下している。
【0060】
実施例13は、硼珪酸ガラスを1質量%添加したものであるが耐酸化性が改善されている。
【0061】
実施例14〜19は、アルミニウム、シリコン、硼珪酸ガラス、燐酸ガラス、マグネシア、及びスピネルの添加量を変えた例であるが、いずれも本発明の範囲内であり、焼成後の見掛け気孔率が低いことから組織が緻密になっており、耐食性及び耐酸化性に優れている。また、十分な残存膨張性も有している。