【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1のれんがは、例えば配合組成において1mm以下の原料を使用するなど原料粒子の粒度分布幅が広く、微粒のコントロールができていない。この結果、使用中の組織の緻密性が不十分となっている可能性が高い。しかも、微粒が多い場合には焼結が過度に進行するため耐熱衝撃性(耐スポーリング性)が悪化する問題がある。更に、上述の混銑車における脱Si処理条件下ではれんが中にMgO成分を含有しているためその耐食性は低下してしまう。
【0012】
特許文献2のれんがも同様に、実施例の耐火原料配合物において粒径0.1mm以下の電融アルミナを使用しており、この原料中の微粒のコントロールが不十分であるため、れんがの使用中を想定した1400℃3時間焼成後の見掛け気孔率が低く、使用中の組織の緻密性が不十分となっている可能性がある。更に、上述の混銑車における脱Si処理条件下ではれんが中にMgO成分を含有しているためその耐食性は低下してしまう。
【0013】
また、特許文献3のように、アルミナ−炭化珪素−炭素質れんがにおいて仮焼アルミナを使用すると、使用中に焼結が進行してれんがが収縮するため目地が開きやすくなるという問題がある。更には焼結が過度に進行するため耐熱衝撃性も低下する。
【0014】
つまり、従来は、マグネシア、スピネル、あるいはガラス等の各種添加剤を添加することで耐酸化性や耐食性を向上する手法が採られていたが、特に、近年の溶銑予備処理が過酷になった混銑車などでは耐用性の改善に限界が生じていた。
【0015】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、これまでになかった耐用性の高いアルミナ−炭化珪素−炭素質れんがを提供することにあり、より具体的には、耐熱衝撃性を維持しつつ、現状よりも耐食性及び耐酸化性を向上させ、しかも適切な残存膨張性を有するアルミナ−炭化珪素−炭素質れんがを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、れんがの使用中にその組織を緻密に維持することができれば、れんが組織中への酸素やスラグの浸透が抑制されて、れんがの耐食性及び耐酸化性が向上し、しかも酸化防止剤等の添加を最小限にできると考えた。
【0017】
そこで熱間で組織の緻密化に最も影響を与えるアルミナの粒度構成に着目し、アルミナを粒径1mm以上5mm未満の粗粒、粒径0.075mm以上1mm未満の中間粒、及び粒径0.075mm未満の微粒の3つのグループに分け、これらの配合割合と見掛け気孔率、耐食性及び耐酸化性との関係について調査した。
【0018】
その結果、中間粒を粗粒よりも富化した配合割合とすることで、今までになかった緻密なれんがとなり、耐食性及び耐酸化性に格段に優れ、更に微粒の配合量を制御することにより過度な焼結の進行が阻止され、しかも適切な残存膨張性を有するアルミナ−炭化珪素−炭素質れんがが得られた。
【0019】
すなわち、本発明によれば、以下の(1)から(3)のアルミナ−炭化珪素−炭素質れんがが提供される。
(1)耐火原料配合物にバインダーを添加して混練、成形、熱処理してなるアルミナ−炭化珪素−炭素質れんがであって、
前記耐火原料配合物は、
粒径0.075mm以上1mm未満の中間粒のアルミナを35質量%以上55質量%以下、
粒径1mm以上5mm未満の粗粒のアルミナを前記中間粒のアルミナに対して質量比で0.25以上1.00以下、
粒径0.075mm未満の微粒のアルミナを前記中間粒のアルミナに対して質量比で0.05以上0.30以下、
粒径0.075mm以上1.0mm未満の中間粒が50質量%以上である黒鉛を3質量%以上20質量%以下、
粒径0.075mm未満の微粒が50質量%以上である炭化珪素を1質量%以上10質量%以下、
粒径0.075mm未満の微粒が70質量%以上である金属を0.1質量%以上5質量%以下含有し、
かつ、前記耐火原料配合物中のアルミナの合量が60質量%以上95質量%以下である、アルミナ−炭化珪素−炭素質れんが。
(2)前記耐火原料配合物が、更に、粒径0.075mm以下の微粒が70質量%以上であるガラスを5質量%以下含有する、(1)に記載のアルミナ−炭化珪素−炭素質れんが。
(3)前記耐火原料配合物が、更に、粒径0.075mm以上5mm未満の粒子が70質量%以上であるマグネシア及び/又はスピネルを10質量%以下含有する、(1)又は(2)に記載のアルミナ−炭化珪素−炭素質れんが。
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
アルミナは、アルミナ−炭化珪素−炭素質れんがにおいて、耐食性を左右する重要な原料であり、耐火原料配合物に占める割合で60質量%以上95質量%以下含有させる。アルミナが60質量%未満では耐食性が不十分となり、95質量%を超えると黒鉛が不足するため、耐熱衝撃性が不十分となる。
【0022】
アルミナ−炭化珪素−炭素質れんがの代表的な用途である混銑車での使用温度においては、アルミナ同士の焼結や他の原料との反応などにより組織が変化する。このため、アルミナの粒度構成のコントロールが極めて重要である。ここで、本発明者らの過去の使用済みれんがの解析などの経験上、アルミナは粒径0.075mmを境界として微粒側は活性が高く粒径の小さな他のアルミナや他の原料と反応して組織を変化させやすい。このため本発明ではアルミナの中間粒と微粒との境界値を0.075mmとした。また、同様に本発明者らの経験上、アルミナは粒径が1mm以上になると1mm未満のアルミナよりも明らかに反応性が低くなる傾向にあるため、アルミナの粗粒と中間粒との境界値を1mmとした。すなわち、本発明では、粒径0.075mm未満を微粒、粒径0.075mm以上1mm未満を中間粒、粒径1mm以上5mm未満を粗粒と定義した。
【0023】
本発明におけるアルミナの粒度構成について説明すると、まず、粒径0.075mm以上1mm未満の中間粒の割合は、耐火原料配合物に占める割合で35質量%以上55質量%以下である。中間粒が35質量%未満ではれんがの見掛け気孔率が高くなり、耐食性が低下する。中間粒が55質量%を超えると成形時の充填性が悪くなり、見掛け気孔率が上昇し、耐食性が低下する。このアルミナの中間粒の割合は43質量%以上55質量%以下であることが好ましい。
【0024】
粒径1mm以上5mm未満の粗粒は、中間粒よりも多くなると見掛け気孔率が高くなるため、中間粒の含有割合に対して少ない量を含有させる。具体的には、中間粒に対して質量比(粗粒/中間粒)で0.25以上1.00以下とする。0.25未満では成形時の充填性が悪くなり、見掛け気孔率が上昇する。
【0025】
粒径0.075mm未満の微粒は、中間粒に対する質量比(微粒/中間粒)で0.05以上0.30以下とする。0.05未満では耐食性が不十分となり、0.30を超えると見掛け気孔率が高くなって耐食性が不十分となり、残存膨張がマイナスあるいは小さくなり、更に耐熱衝撃性が悪くなる。
【0026】
このようにアルミナの粒度構成を、1mmと0.075mmとを境界値として粗粒、中間粒、及び微粒の3つのグループに分けて、常に中間粒が多い粒度構成とすることで、組織を緻密にすると同時に、残存膨張性と十分な耐熱衝撃性を満足することができる。
【0027】
次に、本発明において使用するアルミナ以外の原料について説明する。
【0028】
黒鉛は主に耐熱衝撃性及び耐食性を付与するために使用し、3質量%以上20質量%以下で使用する。その粒度構成としては、粒度が大きいほど熱処理後の残存膨張率が小さくなり熱処理後の見掛け気孔率が低下するため、0.075mm以上1.0mm未満の中間粒を50質量%以上含有するものを使用する。
【0029】
炭化珪素は酸化防止剤として使用し、1質量%以上10質量%以下で使用する。1質量%未満では耐酸化性が不足し、10質量%を超えると使用中のれんがに生成するSiO
2の影響で耐食性が低下する。炭化珪素の使用量は3質量以上8質量%以下であることが好ましい。一方、炭化珪素の粒度構成としては、十分な耐酸化性を得るため、粒径0.075mm未満の微粒を50質量%以上含有するものを使用する。
【0030】
金属も酸化防止剤として使用し、0.1質量%以上5質量%で使用する。金属としては、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、マグネシウム(Mg)及びこれらの合金が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用できるが、耐食性及び耐酸化性の面からはアルミニウムが最も好ましい。金属の使用量が5質量%を超えると、二次結合が過度に発達するため耐熱衝撃性が低下し、また、生成した金属の酸化物が耐食性を低下させる。金属の使用量は、0.1質量%以上3.0質量%以下であることが好ましい。金属の粒度構成としては、十分な耐酸化性を得るため、粒径0.075mm未満の微粒を70質量%以上含有するものを使用する。
【0031】
ガラスは酸化防止剤として必要に応じて使用する。例えば硼珪酸系ガラス、燐酸系ガラス等を使用できる。ただし、ガラスの使用量が5質量%を超えると耐食性を大きく低下させるため5質量%以下で使用し、好ましくは3質量%以下で使用する。ガラスの粒度構成としては、十分な耐酸化性を得るため、粒径0.075mm未満の微粒を70質量%以上含有するものを使用する。
【0032】
マグネシア及び/又はスピネルは、残存膨張性及び耐酸化性を更に高めたい場合に使用することができる。その使用量は10質量%以下が好ましい。10質量%を超えて使用すると耐食性が著しく低下し、また残存膨張率が大きくなりすぎてしまうため、れんが同士のせりによる割れが発生し、更には耐熱衝撃性の低下によりれんがに剥離が発生する。マグネシア及び/又はスピネルの粒度構成としては、粗粒を多く使用すると残存膨張率を上昇させることができる。一方、微粒を多く使用すると上述したアルミナとの反応により耐酸化性を著しく向上させることができるが、それと同時に耐食性が低下し、特に粒径0.075mm未満の微粉を多く使用しすぎると耐食性の低下が顕著となる。そのため、マグネシア及び/はスピネルの粒度構成としては、粒径0.075mm以上5mm未満の中間粒及び粗粒を70質量%以上含有するものを使用する。
【0033】
本発明においてマグネシア及び/又はスピネルは、ガラスと併用することで更に耐酸化性の向上に寄与する。そのメカニズムは次のように考えられる。本発明のアルミナ−炭化珪素−炭素質れんがにおいて炭化珪素(SiC)は、高温下では酸素と反応してSiO及びSiO
2を生成し、またこのときアルミナ(Al
2O
3)共存下では、複合化合物であるムライト(3Al
2O
3・2SiO
2)を生成する。また、ガラスは高温下ではシリカ系の液相を生成し、またAl
2O
3共存下では3Al
2O
3・2SiO
2の液相を生成する。更に、これら複合化合物の生成段階で、マグネシア(MgO)及び/又はスピネル(MgO・Al
2O
3)が共存した場合、その液相はSiO
2−Al
2O
3−MgOの三成分系となり、従来の一成分、二成分系よりも融点が低下し、それに伴い粘性が低下する。この三成分系の液相は一成分系、二成分系よりも低温側で低粘性の酸化被膜として作用するため、炭素含有耐火物の耐酸化性の低下を抑制し、あるいは耐酸化性を向上させる。