特許第6154909号(P6154909)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6154909ハット形断面部品の製造装置および製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6154909
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】ハット形断面部品の製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/26 20060101AFI20170619BHJP
   B21D 24/00 20060101ALI20170619BHJP
【FI】
   B21D22/26 D
   B21D24/00 H
   B21D24/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2015-543822(P2015-543822)
(86)(22)【出願日】2014年10月16日
(86)【国際出願番号】JP2014077612
(87)【国際公開番号】WO2015060202
(87)【国際公開日】20150430
【審査請求日】2016年3月14日
(31)【優先権主張番号】特願2013-221522(P2013-221522)
(32)【優先日】2013年10月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504322378
【氏名又は名称】トップ金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 康治
(72)【発明者】
【氏名】麻生 敏光
(72)【発明者】
【氏名】宮城 隆司
(72)【発明者】
【氏名】小川 操
(72)【発明者】
【氏名】山本 忍
(72)【発明者】
【氏名】林田 栄三
【審査官】 細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭54−121954(JP,U)
【文献】 実公昭44−002698(JP,Y1)
【文献】 実開平04−000422(JP,U)
【文献】 実開昭59−175427(JP,U)
【文献】 特開平07−185684(JP,A)
【文献】 特開2013−006208(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/042067(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/26
B21D 24/00
B21D 24/04
B21D 24/10−24/16
B21D 5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の両側部分を加圧する成形面を有すると共に開口を有するダイと、
前記ダイの開口と対向配置されると共に型締時に前記開口内へ配置され、前記金属板の中央部分を加圧する成形面を有するパンチと、
前記ダイに形成された開口内に配置され、型締時に前記金属板の中央部分を前記パンチとの間に加圧挟持する成形面が前記パンチの成形面と対応する成形面とされたパッドと、 前記ダイと対向配置され、型締時に前記金属板の両側部分を前記ダイとの間に加圧挟持する成形面が前記ダイの成形面と対応する成形面とされたホルダと、
断面ハット形状のハット形断面部品の成形後離型時に前記ホルダと共に移動し、前記パッドと前記ホルダとの間に介在して、前記パッドと前記ホルダによる前記ハット形断面部品への加圧を制限する加圧制限部を含んで構成された加圧制限装置と、
を備えたハット形断面部品の製造装置。
【請求項2】
前記加圧制限装置は、前記ホルダが所定の距離移動した際に前記加圧制限部を前記ホルダに対して相対移動可能とさせる保持解除部を含んで構成されている請求項1記載のハット形断面部品の製造装置。
【請求項3】
前記加圧制限装置は、前記ホルダに設けられ、前記ハット形断面部品の成形完了時に前記加圧制限部に係合し、前記パッドが前記加圧制限部から離れた後に前記加圧制限部との係合が解除される保持部を含んで構成されている請求項1又は請求項2記載のハット形断面部品の製造装置。
【請求項4】
前記保持部は、前記ホルダに回動可能に支持されており、
前記保持部が一方側へ回動されることによって前記保持部が前記加圧制限部に係合し、 前記保持部が他方側へ回動されることによって前記保持部と前記加圧制限部との係合が解除される請求項3記載のハット形断面部品の製造装置。
【請求項5】
前記保持解除部が、前記保持部に当接することによって、前記保持部と前記加圧制限部との係合が解除される請求項2を引用する請求項3又は請求項2を引用する請求項4に記載のハット形断面部品の製造装置。
【請求項6】
前記保持解除部が、前記加圧制限部と一体に設けられている請求項2又は請求項2を引用する請求項3〜請求項5のいずれか1項に記載のハット形断面部品の製造装置。
【請求項7】
前記保持解除部が、前記パンチが固定されるベース部材に設けられている請求項2又は請求項2を引用する請求項3〜請求項5のいずれか1項に記載のハット形断面部品の製造装置。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載されたハット形断面部品の製造装置を用い、
前記パンチと前記パッドで前記金属板の中央部分を挟持すると共に前記ダイと前記ホルダで前記金属板の両側部分を挟持することで上下に湾曲した金属板とし、前記ホルダ及び前記ダイと前記パンチ及び前記パッドとを上下に相対移動させることで、前記ハット形断面部品を成形する成形工程と、
前記パッドと加圧制限部とを当接させた状態で、前記ダイおよび前記ホルダの一方または双方を離型方向へ移動させることによって前記ハット形断面部品を離型する離型工程と、
を経るハット形断面部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハット形断面とされた部品を製造するハット形断面部品の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体の骨格を構成する構造部材としては、例えばフロントサイドメンバのようにハット形断面とされた形状のプレス成形部品(本明細書では「ハット形断面部品」ともいう)が知られている。また、このようなハット形断面部品は、素材である金属板(例えば鋼板)にプレス加工(絞り加工)等が施されることによって形成される(例えば、特開2003−103306号公報、特開2004−154859号公報、特開2006−015404号公報及び特開2008−307557号公報参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、絞り加工を金属板に施すことによってハット形断面部品を形成する場合、離型時にハット形断面部品を可及的に変形させないで取り出すことが肝要である。
【0004】
本発明は、上記事実を考慮し、離型時にハット形断面部品が変形することを抑制することができるハット形断面部品の製造装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するハット形断面部品の製造装置は、金属板の両側部分を加圧する成形面を有すると共に開口を有するダイと、前記ダイの開口と対向配置されると共に型締時に前記開口内へ配置され、前記金属板の中央部分を加圧する成形面を有するパンチと、前記ダイに形成された開口内に配置され、型締時に前記金属板の中央部分を前記パンチとの間に加圧挟持する成形面が前記パンチの成形面と対応する成形面とされたパッドと、前記ダイと対向配置され、型締時に前記金属板の両側部分を前記ダイとの間に加圧挟持する成形面が前記ダイの成形面と対応する成形面とされたホルダと、断面ハット形状のハット形断面部品の成形後離型時に前記ホルダと共に移動し、前記パッドと前記ホルダとの間に介在して、前記パッドと前記ホルダによる前記ハット形断面部品への加圧を制限する加圧制限部を含んで構成された加圧制限装置と、を備えている。
【0006】
また、上記課題を解決するハット形断面部品の製造方法は、上記ハット形断面部品の製造装置を用い、前記パンチと前記パッドで前記金属板の中央部分を挟持すると共に前記ダイと前記ホルダで前記金属板の両側部分を挟持することで上下に湾曲した金属板とし、前記ホルダ及び前記ダイと前記パンチ及び前記パッドとを上下に相対移動させることで、前記ハット形断面部品を成形する成形工程と、前記パッドと加圧制限部とを当接させた状態で、前記ダイおよび前記ブランクホルダの一方または双方を離型方向へ移動させることによって前記ハット形断面部品を離型する離型工程と、を経る。
【0007】
上記課題を解決するハット形断面部品の製造装置及び製造方法によれば、パンチとパッドで金属板の中央部分を挟持させると共にダイとホルダで金属板の両側部分を挟持させて、ホルダ及びダイとパンチ及びパッドとを上下に相対移動させることで、断面ハット形状のハット形断面部品が形成される。そして、加圧制限部をパッドとホルダとの間に介在させて、パッドとホルダによるハット形断面部品への加圧を制限した状態で、ダイおよびブランクホルダの一方または双方を離型方向へ移動させる。これにより、成形されたハット形断面部品が離型時にパッドとホルダとの間で加圧されることが制限された状態で、ハット形断面部品が金型(ホルダ、ダイ、パンチ及びパッド)から取り出される。
【発明の効果】
【0008】
本発明のハット形断面部品の製造装置及び製造方法によれば、離型時にハット形断面部品が変形することを抑制することができる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】ハット形断面とされた湾曲部品の一例を示す斜視図である。
図1B図1Aに示す湾曲部品を上方から見た平面図である。
図1C図1Aに示す湾曲部品の正面図である。
図1D図1Aに示す湾曲部品を一方の端部から見た側面図である。
図2】凹状湾曲部及び凸状湾曲部に対応する部位の稜線を説明するための図1Aに対応する湾曲部品の斜視図である。
図3A】成形前の素材金属板を示す斜視図である。
図3B】絞りパネルを示す斜視図である。
図4】絞りパネルにおいて割れやしわが発生し易い部位を示す図3Bに対応する斜視図である。
図5】ハット形断面部品の製造装置の要部を分解して示す分解斜視図である。
図6A図5に示すハット形断面部品の製造装置の加工開始時の段階を示す断面図である。
図6B図5に示すハット形断面部品の製造装置において、ダイおよびパッドと、ホルダおよびパンチとの間に素材金属板が挟持および拘束された段階を示す断面図である。
図6C図6Bに示す段階からパンチを押し込んだ段階を示す断面図である。
図6D図6Cに示す段階からパンチをさらに押し込んで、パンチがダイに対して完全に押し込まれ状態を示す断面図である。
図7】他のハット形断面部品の製造装置を分解して示す分解斜視図である。
図8A図7に示すハット形断面部品の製造装置の加工開始時の段階を示す断面図である。
図8B図7に示すハット形断面部品の製造装置における、ダイおよびパッドと、ホルダおよびパンチとの間に素材金属板が挟持および拘束された段階を示す断面図である。
図8C図8Bに示す段階からパンチを押し込んだ段階を示す断面図である。
図8D図8Cに示す段階からパンチをさらに押し込んで、パンチがダイに対して完全に押し込まれ状態を示す断面図である。
図9A】パンチをダイに完全に押し込み、素材金属板を湾曲部品に成形した後に、湾曲部品を金型から取り出す際に生じ得る不具合を説明するための金型を示す断面図である。
図9B図9Aに示す状態からパンチをダイに対して後退させる段階における金型を示す断面図である。
図9C図9Bに示す状態からパンチをダイに対して完全に後退させた段階における金型を示す断面図である。
図10A】パンチをダイに完全に押し込んだ状態の金型を示す断面図である。
図10B図10Aに示す状態からパンチをダイに対して後退させる段階における金型を示す断面図である。
図10C図10Bの状態からパンチをダイに対して完全に後退させた段階における金型を示す断面図である。
図11A】パンチをダイに完全に押し込んだ状態で示す金型を示す断面図である。
図11B図11Aの状態からパンチをダイに対して後退させる段階における金型を示す断面図である。
図11C図11Bの状態からパンチをダイに対して完全に後退させた段階における金型を示す断面図である。
図12A】加圧制限装置を示す斜視図である。
図12B】パンチが固定されたベース盤及び加圧制限装置の一部を構成するフローティングブロックを示す斜視図である。
図12C】ブランクホルダを示す斜視図である。
図12D】ブランクホルダに組み込まれたフローティングブロックを示す斜視図である。
図12E】ハット形断面部品の製造装置において加圧制限装置が設けられた部位を示す部分平面断面図である。
図13A図12B図12C図12Eに示されたA−A線に沿って切断したハット形断面部品の製造装置の断面を経時的に示す説明図である。
図13B図12B図12C図12Eに示されたA−A線に沿って切断したハット形断面部品の製造装置の断面を経時的に示す説明図であり、図13Aよりも後の時間の断面を示している。
図13C図12B図12C図12Eに示されたA−A線に沿って切断したハット形断面部品の製造装置の断面を経時的に示す説明図であり、図13Bよりも後の時間の断面を示している。
図13D図12B図12C図12Eに示されたA−A線に沿って切断したハット形断面部品の製造装置の断面を経時的に示す説明図であり、図13Cよりも後の時間の断面を示している。
図13E図12B図12C図12Eに示されたA−A線に沿って切断したハット形断面部品の製造装置の断面を経時的に示す説明図であり、図13Dよりも後の時間の断面を示している。
図13F図12B図12C図12Eに示されたA−A線に沿って切断したハット形断面部品の製造装置の断面を経時的に示す説明図であり、図13Eよりも後の時間の断面を示している。
図13G図12B図12C図12Eに示されたA−A線に沿って切断したハット形断面部品の製造装置の断面を経時的に示す説明図であり、図13Fよりも後の時間の断面を示している。
図14A図12B図12C図12Eに示されたB−B線に沿って切断したハット形断面部品の製造装置の断面を経時的に示す説明図であり、図13Aと同じ時間の断面を示している。
図14B図12B図12C図12Eに示されたB−B線に沿って切断したハット形断面部品の製造装置の断面を経時的に示す説明図であり、図13Bと同じ時間の断面を示している。
図14C図12B図12C図12Eに示されたB−B線に沿って切断したハット形断面部品の製造装置の断面を経時的に示す説明図であり、図13Cと同じ時間の断面を示している。
図14D図12B図12C図12Eに示されたB−B線に沿って切断したハット形断面部品の製造装置の断面を経時的に示す説明図であり、図13Dと同じ時間の断面を示している。
図14E図12B図12C図12Eに示されたB−B線に沿って切断したハット形断面部品の製造装置の断面を経時的に示す説明図であり、図13Eと同じ時間の断面を示している。
図14F図12B図12C図12Eに示されたB−B線に沿って切断したハット形断面部品の製造装置の断面を経時的に示す説明図であり、図13Fと同じ時間の断面を示している。
図14G図12B図12C図12Eに示されたB−B線に沿って切断したハット形断面部品の製造装置の断面を経時的に示す説明図であり、図13Gと同じ時間の断面を示している。
図15A】他の形態のホールドアームを示す斜視図である。
図15B】他の形態のフローティングブロックを示す斜視図である。
図16A図12Bに示されたベース盤に設けられた保持解除部を示す側面図である。
図16B図16Aに示された保持解除部を備えたハット形断面部品の製造装置の断面を経時的に示す図13Dに対応する説明図である。
図16C図16Aに示された保持解除部を備えたハット形断面部品の製造装置の断面を経時的に示す図13Fに対応する説明図である。
図16D図16Aに示された保持解除部を備えたハット形断面部品の製造装置の断面を経時的に示す図13Gに対応する説明図である。
図17A】縦壁に生じる応力を模式的に示す湾曲部品の斜視図である。
図17B】縦壁に生じる剪断じわを示す湾曲部品の斜視図である。
図17C】縦壁に生じる剪断じわを示す湾曲部品の側面図である。
図18A】剪断じわの発生を防止するための各部の寸法等を説明するためのハット形断面部品の製造装置を示す断面図である。
図18B】剪断じわの発生を防止するための各部の寸法等を説明するための湾曲部品の断面を示す断面図である。
図18C】剪断じわの発生を防止するための各部の寸法等を説明するためのハット形断面部品の製造装置を示す断面図である。
図18D】剪断じわの発生を防止するための各部の寸法等を説明するための湾曲部品の断面を示す断面図である。
図19A図5に示されたハット形断面部品の製造装置によって製造された湾曲部品を示す斜視図である。
図19B図19Aに示された湾曲部品を上方から見た平面図である。
図19C図19Aに示された湾曲部品の側面図である。
図19D図19Aに示された湾曲部品を一方の端部から見た正面図である。
図20図20は、表1におけるクリアランスbを示す金型の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に係るハット形断面部品の製造装置及び製造方法について説明する。以下、先ずハット形断面部品の構成について説明し、次いでハット形断面部品の製造装置及び製造方法について説明する。
【0011】
(ハット形断面部品の構成)
図1A図1D及び図2には、本実施形態のハット形断面部品の製造装置500(図5参照)で絞り加工が施されることによって製造されたハット形断面部品としての湾曲部品10が示されている。これらの図に示されるように、湾曲部品10は、長手方向へ延びる天板11と、天板11の短手方向の両側からそれぞれ天板11の厚み方向一方側に向けて屈曲して延びる縦壁12a,12bと、を備えている。また、湾曲部品10は、縦壁12aの天板11とは反対側の端から縦壁12bと離間する側に向けて屈曲して延びる外向きフランジ13aと、縦壁12bの天板11とは反対側の端から縦壁12aと離間する側に向けて屈曲して延びる外向きフランジ13bと、を備えている。
【0012】
天板11と縦壁12a,12bのそれぞれとの間には、湾曲部品10の長手方向に沿って延びる稜線14a,14bが形成されている。また、縦壁12a,12bそれぞれと外向きフランジ13a,13bとの間には湾曲部品10の長手方向に沿って延びる凹線15a,15bが形成されている。
【0013】
稜線14a,14bと凹線15a,15bとは略平行に延設されている。すなわち、縦壁12a,12bそれぞれの外向きフランジ13a,13bからの高さは、湾曲部品10の長手方向に沿って略一定となっている。
【0014】
図2に示されるように、天板11の一部には、ハット形の横断面の外側、すなわち天板11の外表面側に弧状に湾曲する凸状湾曲部11aが形成されており、天板11の他の一部には、ハット形の横断面形状の内側、すなわち天板11の内表面側に弧状に湾曲する凹状湾曲部11bが形成されている。凸状湾曲部11a,凹状湾曲部11bでは、天板11と縦壁12a,12bとがなす稜線14a,14bも凸状湾曲部11a,凹状湾曲部11bに対応する部位16a,16bおよび17a,17bで弧状に湾曲する。ここで「弧状」は、完全な円の一部に限定されるものではなく、例えば、楕円、双曲線、正弦曲線その他の曲線の一部であってもよい。
【0015】
以上説明した湾曲部品10は、図3Aに示された金属板としての矩形状の素材金属板201に絞り加工が施されることによって図3Bに示された絞りパネル301が形成され、この絞りパネル301の不要部分がトリミングされることによって形成される。
【0016】
ところで、ハット形断面とされた湾曲部品10を絞り加工を経て製造する場合、図4に示されるように、絞りパネル301を成形する段階で、絞りパネル301の凹状湾曲部の天板301aおよび凸状湾曲部のフランジ301bでは材料が余りしわが発生し易い。しわの発生を抑制するためには、ブランクホルダの加圧力を高めたり、あるいはブランクホルダにドロービードを形成する部位を追加する等により、成形過程における素材金属板201の周囲の拘束を高め、素材金属板201のブランクホルダ内への流入を抑制することが有効であることが知られる。
【0017】
しかし、素材金属板201のブランクホルダ内への流入の抑制を強化すると、絞りパネル301の凸状湾曲部の天板301c、凹状湾曲部のフランジ301d、長手方向の両端部301e,301e等の各部において板厚が大きく減少し、素材金属板201が伸び性の特に低い材料(例えば高張力鋼)の場合には、これら各部において割れが発生することが考えられる。
【0018】
このため、車体の骨格の一部を構成するフロントサイドメンバ等のようなハット形断面とされた湾曲部品を、絞り成形によるプレス成形により、しわおよび割れを発生させないで製造するためには、伸び性の低い高強度材料を素材金属板201として使用することは困難であり、伸び性の高い低強度材料を用いざるを得なかった。
【0019】
しかしながら、本実施形態のハット形断面部品の製造装置500を用いて後述する湾曲部品の製造工程を経ることによって、上記のしわや割れの発生を抑制することができる。
【0020】
(ハット形断面部品の製造装置の構成)
図5には、ハット形断面部品としての湾曲部品501を製造するために用いられるハット形断面部品の製造装置500の分解斜視図が示されている。なお、湾曲部品501の構成は上記湾曲部品10(図1A参照)と略同一の構成である。また、図6Aは、図5に示す製造装置の加工開始時を示す断面図であり、図6Bは、図5に示す製造装置において、ダイ502およびパッド503と、ブランクホルダ505およびパンチ504との間に素材金属板601が挟持および拘束された段階を示す断面図であり、図6Cは、図6Bに示す段階からパンチ504を押し込んだ段階を示す断面図であり、さらに、図6Dは、図6Cに示す段階からパンチ504をさらに押し込んで、パンチ504がダイ502に対して完全に押し込まれた状態を示す断面図である。
【0021】
図5に示されるように、ハット形断面部品の製造装置500は、湾曲部品501の縦壁501a,501b及び外向きフランジ501d,501eそれぞれの外表面側の形状を含む形状を有するダイ502と、天板501cの外表面側の形状を含む形状を有するパッド503と、ダイ502およびパッド503に対向するように配置されて湾曲部品501の天板501c,縦壁501a,501bそれぞれの内表面側の形状を含む形状を有するパンチ504と、外向きフランジ501d,501eの内表面側の形状を含む形状を有するホルダとしてのブランクホルダ505と、を備えている。
【0022】
図6A図6Dに示されるように、ダイ502は、パンチ504の上方側に配置されており、このダイ502の短手方向(紙面左右方向)の中央部分には、パンチ504側が開放された開口502aが形成されている。また、ダイ502の開口502aの内壁は、湾曲部品501の縦壁501a,501b(図5参照)の外表面の形状を含む成形面とされている。さらに、ダイ502の短手方向の両側部分におけるブランクホルダ505側の端面は、湾曲部品501の外向きフランジ501d,501eの縦壁501a,501b(図5参照)側の面の形状を含む成形面とされている。また、ダイ502に形成された開口502aの閉止端(上端)には、後述するパッド加圧装置506が固定されている。さらに、ダイ502は、例えばガスクッション,油圧装置,ばね,電動駆動装置等の移動装置509に結合されている。そして、移動装置509が作動することによってダイ502が上下方向に移動することが可能となっている。
【0023】
パッド503は、ダイ502に形成された開口502a内に配置されており、このパッド503は、例えばガスクッション,油圧装置,ばね,電動駆動装置等のパッド加圧装置506に結合されている。また、パッド503のダイ502側の面は、湾曲部品501の天板501c(図5参照)の外表面の形状を含む成形面とされている。そして、パッド加圧装置506が作動することによって、パッド503がパンチ504側に向けて押圧されて、素材金属板601の短手方向(紙面左右方向)の中央部分601aがパッド503とパンチ504との間に加圧挟持されるようになっている。
【0024】
パンチ504は、下型においてパッド503と上下方向に対向する部位がパッド503側に向けて凸状とされることによって形成されており、このパンチ504の側方には、後述するブランクホルダ加圧装置507が固定されている。また、パンチ504の外面は、湾曲部品501の縦壁501a,501b及び天板501c(図5参照)の内表面の形状を含む成形面とされている。
【0025】
ブランクホルダ505は、例えばガスクッション,油圧装置,ばね,電動駆動装置等のホルダ加圧装置としてのブランクホルダ加圧装置507に結合されている。また、ブランクホルダ505におけるダイ502側の端面は、湾曲部品501の外向きフランジ501d,501eの縦壁501a,501b(図5参照)とは反対側の面の形状を含む成形面とされている。そして、ブランクホルダ加圧装置507が作動することによって、ブランクホルダ505がダイ502側に向けて押圧されて、素材金属板601の短手方向の両側部分601b,601cが加圧挟持されるようになっている。
【0026】
次に、上記ハット形断面部品の製造装置500によって素材金属板601をプレスする工程について説明する。
【0027】
はじめに、図6Aに示されるように、素材金属板601が、ダイ502およびパッド503とパンチ504およびブランクホルダ505との間に配置される。
【0028】
次に、図6Bに示されるように、素材金属板601の中央部分601aが、即ち、素材金属板601における天板501c(図5参照)に成形される部分が、パッド503によりパンチ504に押し付けられ、両者間で加圧および挟持される。さらに、素材金属板601の両側部分601b,601cが、即ち、素材金属板601における縦壁501a,501b及び外向きフランジ501d,501e(図5参照)にそれぞれ成形される部分が、ブランクホルダ505によりダイ502に押し付けられ、両者間で加圧および挟持される。
【0029】
また、パッド加圧装置506及びブランクホルダ加圧装置507が作動することによって、素材金属板601の中央部分601a及び両側部分601b,601cが所定の押圧力で加圧及び挟持される。この結果、素材金属板601の中央部分601a及び両側部分601b,601cは、加圧湾曲面の湾曲形状に沿った湾曲形状に形成される。
【0030】
この状態で、移動装置509が作動して、ブランクホルダ505およびダイ502が、ダイ502からブランクホルダ505へ向かう方向へ(下方側へ)相対的に動かされることにより、湾曲部品501が成形される。また、ダイ502が下降するにつれてパッド加圧装置506及びブランクホルダ加圧装置507は上下方向に縮む。パッド加圧装置506及びブランクホルダ加圧装置507が上下方向に縮む際においても、素材金属板601の中央部分601a及び両側部分601b,601cは所定の押圧力で加圧されている。
【0031】
図6Cに示されるように、ブランクホルダ505およびダイ502が移動するにしたがって、ダイ502とブランクホルダ505との間に挟持された素材金属板601が、パンチ504とダイ502との間の開口502a内に流入して縦壁501a,501b(図5参照)が形成されていく。
【0032】
そして、図6Dに示されるように、ブランクホルダ505およびダイ502が所定の距離を移動して、縦壁501a,501bの高さが所定の高さとなった時点で成形が完了する。
【0033】
ここで、図6A図6Dに示された例では、パンチ504及びパッド503が移動しない状態で、ブランクホルダ505及びダイ502を移動させることによって湾曲部品501を成形した。しかしながら、本発明はこれに限定されず、下記のように湾曲部品501を成形してもよい。
【0034】
図7には、湾曲部品501を製造するための他の実施形態に係るハット形断面部品の製造装置600が示されている。また、図8Aは、図7に示す製造装置の加工開始時の段階を示す断面図であり、図8Bは、図7に示す製造装置のダイ602およびパッド603と、ブランクホルダ605およびパンチ604との間に素材金属板601が挟持および拘束された段階を示す断面図であり、図8Cは、図8Bに示す段階からパンチ604を押し込んだ段階を示す断面図であり、図8Dは、図8Cに示す段階からパンチ604をさらに押し込んで、パンチ604がダイ602に対して完全に押し込まれた状態を示す断面図である。
【0035】
ハット形断面部品の製造装置600は、図5及び図6A図6Dに示されたハット形断面部品の製造装置500とは異なり、ブランクホルダ605及びパンチ604がダイ602及びパッド603の上方側に設けられている。ハット形断面部品の製造装置600では、ダイ602を固定するととともに、ブランクホルダ605もダイ602に素材金属板601を押し付けて移動しない状態で、パッド603及びパンチ604を移動させる(下降させる)ことによって湾曲部品501を形成する。なお、ハット形断面部品の製造装置600とハット形断面部品の製造装置500とでは、金型の相対的な動きは同じであり、どちらのハット形断面部品の製造装置500,600を用いても素材金属板601を湾曲部品501に成形することができる。
【0036】
次に、素材金属板601をプレスした後に、即ち、湾曲部品501を成形した後に、湾曲部品501をハット形断面部品の製造装置500(金型)から取り出す工程について説明する。
【0037】
ところで、図9A図9Cに示されるように、湾曲部品501をハット形断面部品の製造装置500(金型)から離型するには、図6Dの状態からパンチ504からダイ502を上方へ離して金型の間に隙間を空ける必要がある。この際、図9B及び図9Cに示されるように、パッド503とブランクホルダ505がそれぞれパッド加圧装置506とブランクホルダ加圧装置507により加圧されていると、湾曲部品501は、離型の際に、パッド503とブランクホルダ505とから互いに反対方向へ向けた加圧力を受けることになるため、この反対方向へ向けた加圧力によって図9Cに示されるように湾曲部品501が変形して潰れてしまう。
【0038】
そこで、図10A図10Cに示されるように、素材金属板601を湾曲部品501に成形した後に、ブランクホルダ505がパンチ504と相対的に移動しないようにして、ブランクホルダ505が成形した湾曲部品をダイ502に押し付けないようにした状態で、ダイ502とパッド加圧装置506をブランクホルダ505から離す。すると、パッド加圧装置506がストロークエンドに伸びるまでパッド503は湾曲部品を加圧しているものの、パッド加圧装置506が一定以上の距離を移動してパッド加圧装置506がストロークエンドまで伸び切った後は、パッド503がパンチ504より離れる。これにより、湾曲部品501がパッド503とブランクホルダ505から同時に加圧を受けることなく、ダイ502およびパッド503と、ブランクホルダ505およびパンチ504とを離すことができ、湾曲部品501を変形させずに金型から取り出すことができる。
【0039】
他の実施形態としては、図11A図11Cに示されるように、素材金属板を湾曲部品501に成形した後に、パッド503がダイ502と相対的に移動しないようにして、パッド503が成形した湾曲部品501をパンチ504に押し付けないようにする。この状態で、パッド503とダイ502を、ブランクホルダ505およびパンチ504から離すと、ブランクホルダ加圧装置507がストロークエンドまで伸びるまで、ブランクホルダ505は湾曲部品を加圧している。そして、ダイ502が一定以上の距離を移動してブランクホルダ加圧装置507がストロークエンドまで伸び切るとその後はブランクホルダ505がダイ502より離れる。これにより、湾曲部品501がパッド503とブランクホルダ505から同時に加圧を受けることなく、ダイ502およびパッド503と、ブランクホルダ505およびパンチ504を離すことができ、湾曲部品501を金型から取り出すことができる。
【0040】
さらに他の実施形態としては、図示を省略するが、素材金属板を湾曲部品501に成形した後に、パッド503がブランクホルダ505と相対的に移動しないようにして、パッド503が成形した湾曲部品をパンチ504に押し付けないようにする。この状態で、パッド503とダイ502およびブランクホルダ505を、パンチ504から離すと、ブランクホルダ加圧装置507がストロークエンドまで伸びるまで、ブランクホルダ505は湾曲部品501を加圧している。そして、ダイ502が一定以上の距離を移動してブランクホルダ加圧装置507がストロークエンドまで伸び切るとその後はブランクホルダ505がダイ502より離れる。これにより、湾曲部品501がパッド503とブランクホルダ505から同時に加圧を受けることなく、ダイ502およびパッド503と、ブランクホルダ505およびパンチ504を離すことができ、湾曲部品501を金型から取り出すことができる。
【0041】
このように、離型時における湾曲部品501の損傷を防止するためには、湾曲部品501がパッド503とブランクホルダ505から同時に加圧を受けることを防ぐことができる加圧制限装置をハット形断面部品の製造装置500に設ければよい。
【0042】
以下、ハット形断面部品の製造装置500に設けられた加圧制限装置の具体的な構成について説明する。
【0043】
(加圧制限装置510の構成)
図12Aに示されるように、加圧制限装置510は、矩形ブロック状に形成された加圧制限部としてのフローティングブロック514を備えている。また、加圧制限装置510は、湾曲部品501の成形完了時にフローティングブロック514と係合することによって当該フローティングブロック514とブランクホルダ505とを一体化させる、即ち、フローティングブロック514がブランクホルダ505と一体に移動することを可能とする保持部としての一対のホールドアーム511を備えている。さらに、加圧制限装置510は、ホールドアーム511によるフローティングブロック514の保持を解除させる保持解除部515を備えている。
【0044】
図12Bに示されるように、二つのフローティングブロック514は、ベース盤508上に設けられている。なお、本実施形態では、フローティングブロック514を二つ用いる場合について説明するが、成形する湾曲部品501の形状や寸法によってはフローティングブロックを一つだけ用いることとしてもよいし、パッド荷重が大きい場合には、3つ以上用いることとしてもよい。
【0045】
二つのフローティングブロック514は、パッド503の加圧力を受けても座屈や塑性変形を生じない剛性や強度を有するブロック状の鋼材を用いて形成されている。また、二つのフローティングブロック514は、ベース盤508上においてパンチ504の長手方向の両側にそれぞれ昇降自在に配置されている。また、図12Aに示されるように、フローティングブロック514の上方側の部位は、側面視で幅寸法が略一定の寸法とされたブロック上部514aとされており、フローティングブロック514の下方側の部位は、側面視で幅寸法がブロック上部514aの幅寸法以上の寸法とされていると共に上方側に向かうにつれて幅寸法が次第に窄まるように形成されたブロック下部514bとされている。ブロック上部514aには、後述する保持解除部515が設けられている。また、図12C図12D及び図12Eに示されるように、ブランクホルダ505の長手方向の両端部には、ブロック上部514aが挿通されるブロック上部挿通孔505aが形成されている。図12Aに示されるように、ブロック下部514bの下端部には、後述するホールドアーム511の係合部511cが係合される凹状の被係合部514cが形成されている。
【0046】
図12A及び図12Dに示されるように、一対のホールドアーム511は、ブロック上部挿通孔505aと一体に形成されたホールドアーム収容孔505b内に配置されており、また一対のホールドアーム511は、側面視で上下方向を長手方向とするブロック状に形成された回動ブロック511aと、回動ブロック511aから上方側に延出された棒状の延出部511bと、を備えている。回動ブロック511aの下端部は、フローティングブロック514のブロック下部514bに形成された被係合部514cに係合するフック状の係合部511cとされている。また、回動ブロック511aの上部は、ピン516を介してブランクホルダ505に回動自在に支持されている。
【0047】
成形下死点において、即ち、湾曲部品501(図6D参照)の成形完了時において、図12Aに示されるように、回動ブロック511aが一方側へ回動される(矢印C1方向へ回動される)ことによって回動ブロック511aの係合部511cがフローティングブロック514の被係合部514cに係合するようになっている。これにより、図12Dに示されるように、フローティングブロック514がブランクホルダ505と一体に移動することが可能となる。また、図12Aに示されるように、本実施形態では、ローラ513が取付けられた一対のスプリング512がベース盤508(図12B参照)に固定されている。そして、成形下死点において、一対のスプリング512がローラ513を介してホールドアーム511の回動ブロック511aを押圧することによって、回動ブロック511aが一方側へ回動されて(矢印C1方向へ回動されて)、回動ブロック511aの係合部511cがフローティングブロック514の被係合部514cに係合するようになっている。そして、フローティングブロック514がブランクホルダ505と共に上昇している過程においては、パッド503の一部がフローティングブロック514の上端部に当接している。これにより、パッド503及びパンチ504の接近方向への移動が加圧制限装置510によって阻止されて、成形された湾曲部品501(図6D参照)が離型時にパッド503とブランクホルダ505との間で加圧ない、又は小さな圧力しか作用しないようになっている。
【0048】
図12Aに示された状態から、回動ブロック511aが他方側へ回動される(矢印C2方向に回動される)ことによって、回動ブロック511aの係合部511cとフローティングブロック514の被係合部514cとの係合が解除されるようになっている。また、本実施形態では、後述する保持解除部515の一部が、ホールドアーム511の延出部511bを押圧することによって、回動ブロック511aが他方側へ回動されて(矢印C2方向に回動されて)、回動ブロック511aの係合部511cとフローティングブロック514の被係合部514cとの係合が解除されるようになっている。
【0049】
保持解除部515は、傾倒板518を有している。この傾倒板518は、ブロック上部514aの側方側が開放された開口514d内に配置されていると共に中間部がピン517を介して傾倒可能に支持されている。傾倒板518の上方側には、ブロック上部514aの上端と開口514dとを連通する開口514e内に配置されたパッド荷重伝達棒519が設けられている。また、傾倒板518の下方側には、コイルスプリング520が設けられている。
【0050】
傾倒板518の一端部518aはフローティングブロック514から側方側へ向けて突出しており、また傾倒板518の一端部518aは、図12A及び図12Dに示されるように、フローティングブロック514とブランクホルダ505とが一体化された状態において、ホールドアーム511の延出部511bの上方側に配置されている。
【0051】
パッド荷重伝達棒519は、傾倒板518の他端部518bの上方側に配置されている。このパッド荷重伝達棒519が、パッド503によって下方側に押圧されることによって、パッド荷重伝達棒519が、傾倒板518の他端部518bを押圧するようになっている。これにより、パッド503がブロック上部514aの上端部に当接した状態では、傾倒板518の一端部518aがホールドアーム511の延出部511bと離間するようになっている。そして、ホールドアーム511の矢印C1方向への回動が可能となり、図12Aに示されるように、ホールドアーム511の係合部511cがフローティングブロック514の被係合部514Cに係合することが可能となる。
【0052】
コイルスプリング520は、傾倒板518の他端部518bの下方側に配置されており、このコイルスプリング520は、傾倒板518の他端部518bを上方側に向けて付勢している。これにより、パッド503がブロック上部514aの上端部から離間した状態では、傾倒板518の一端部518aがホールドアーム511の延出部511b側に向けて傾倒して、傾倒板518の一端部518aがホールドアーム511の延出部511bを押圧する。これにより、スプリング512によるローラ513の押圧力に抗して回動ブロック511aが矢印C2方向に回動されて、回動ブロック511aの係合部511cとフローティングブロック514の被係合部514cとの係合が解除される、即ち、ホールドアーム511によるフローティングブロック514の保持が解除されるようになっている。
【0053】
次に、加圧制限装置510の作動について説明する。
【0054】
図13A及び図14Aは湾曲部品501の成形開始前の状況を示す。図13B及び図14Bに示すタイミングでは、パッド503およびパンチ504と、ダイ502およびブランクホルダ505により素材金属板601が挟持される。なお、本実施形態では、パッド503とフローティングブロック514との間には、調整用ブロック521が介装されている。これにより、素材金属板601の板厚の変動等によるクリアランスの調整がなされている。また、本実施形態では、調整用ブロック521はパッド503の長手方向の両端部にそれぞれ固定されている。また、以下の説明において、調整用ブロック521がフローティングブロック514に当接しているとは、パッド503がフローティングブロック514に直接当接していることを含むものとする。また、図13B及び図14Bに示すタイミングにおいて、パッド503の長手方向の両端部が調整用ブロック521を介してフローティングブロック514の上端部に当接する。
【0055】
図13C及び図14Cに示すタイミングでは、ブランクホルダ505およびダイ502が下方側に移動するにしたがって、ダイ502とブランクホルダ505との間に挟持された素材金属板601が、パンチ504とダイ502との間の開口502a内に流入して湾曲部品501の縦壁501a,501bが形成されていく。そして、図13D及び図14Dに示すタイミングでは、ブランクホルダ505およびダイ502が成形下死点まで移動して、湾曲部品501の成形が完了する。この状態においても、パッド503の長手方向の両端部は調整用ブロック521を介してフローティングブロック514の上端部に当接している。
【0056】
また、ブランクホルダ505が成形下死点に移動した際に、図12Aに示されるように、調整用ブロック521がパッド荷重伝達棒519の頂部を矢印Z方向に押し下げるので、傾倒版518の一端部518aがホールドアーム511の延出部511bから離れて、ホールドアーム511の係合部511cがスプリング512の付勢力によってフローティングブロック514の被係合部514cに係合する。これにより、ブランクホルダ505とフローティングブロック514とが連結し、以降の離型工程では、ブランクホルダ505とフローティングブロック514は一体になって上昇する。
【0057】
また、この成形下死点以降に、図13E及び図13F並びに図14E及び図14Fに示されるように、ブランクホルダ505がフローティングブロック514と共に上昇すると、パンチ504の上面に接していた湾曲部品501の天板501cがパンチ504の上面から離れる。ここで、ブランクホルダ505がフローティングブロック514と共に上昇している際においては、フローティングブロック514はホールドアーム511を介してブランクホルダ505と連結されており、パッド503とブランクホルダ505とは上下接近方向の相対移動が阻止されている。このため、離形工程中にパッド加圧装置506及びブランクホルダ加圧装置507(図11B参照)からの力で接近する方向への力を受けても、成形された湾曲部品501がパッド503とブランクホルダ505との間で変形するほどの加圧がされなくなる。
【0058】
そして、図13G及び図14Gに示されるように、ダイ502が上死点まで上昇することによって、湾曲部品501を取り出すことができる。また、ダイ502が上死点に達した時に、パッド503がフローティングブロック514から離れると、即ち、パッド503に取付けられた調整用ブロック521がフローティングブロック514から離れると、図12Dに示されるように、コイルスプリング520の付勢力で傾倒板518の一端部518aがホールドアーム511の延出部511bを押圧する。これにより、回動ブロック511aが矢印C2方向に回動されて、回動ブロック511aの係合部511cとフローティングブロック514の被係合部514cとの係合が解除される。そして、図13Gに示されるように、フローティングブロック514は、ブロック上部挿通孔505a及びホールドアーム収容孔505b(図12C参照)内を落下してベース盤508上の定位置に復帰する(図12B参照)。
【0059】
以上説明したように、本実施形態では上記加圧制限装置510を備えたハット形断面部品の製造装置500を用いることにより、成形された湾曲部品501を損傷させることなく離型することができる。また、本実施形態のハット形断面部品の製造装置500によれば、上記加圧制限装置510を備えていない従来の製造装置に比してサイクルタイムを一切増加させることなく湾曲部品501を離型することができる。これにより、湾曲部品501を低コストで量産することができる。
【0060】
なお、本実施形態では、ホールドアーム511を用いることによってフローティングブロック514とブランクホルダ505とが一体に移動可能となるように構成した例について説明したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、成形下死点においてフローティングブロック514を保持するとともに、パッドが二つのフローティングブロック514から離れた後にフローティングブロック514を離すことができる機構であれば、同様に適用可能である。このような機構としては、
(1)ラッチ式(フローティングブロック514にラッチアームを設置するタイプ)
(2)プッシュピン式(フローティングブロック514またはブランクホルダ505からバネ式のピンを固定用の穴に入れ一体化させる方式)
(3)ギヤ式(フローティングブロック514に内蔵したギヤをパッド503の押し圧で保持、ブランクホルダ505に内蔵したギヤとでロックする)
(4)カム式(ブランクホルダ505が下降する動きに応じて水平に動くカムを内蔵し、カム先端でフローティングブロック514をロックする)
が例示される。
【0061】
また、本実施形態では、ホールドアーム511の回動ブロック511aに形成されたフック状の係合部511cをフローティングブロック514のブロック下部514bに形成された被係合部514cに係合させた例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、図15A及び図15Bに示されるように、ホールドアーム511の回動ブロック511aに形成された係合部としての係合凹部511dを、フローティングブロック514のブロック下部514bに形成された被係合部としての係合凸部514fに係合させてもよい。
【0062】
また、本実施形態では、保持解除部515が、フローティングブロック514のブロック上部514aに設けられている例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、図16Aに示されるように、上記保持解除部515と同一の機能を有する保持解除部522をベース部としてのベース盤508の長手方向の両端部に立設された枠部508a(図12Bも参照)に設けることもできる。この保持解除部522は、ベース盤508の枠部508aにブラケット523を介して傾倒可能に支持された傾倒部524と、傾倒部524の先端側524aを下方側に付勢するコイルスプリング525と、を含んで構成されている。当該保持解除部522では、図16Bに示された成形下死点からブランクホルダ505及びダイ502が所定の距離上昇した時に、ホールドアーム511の延出部511bが傾倒部524の先端側524aに当接して、ホールドアーム511の延出部511bが傾倒部524の先端側524aによって下方側に押圧されるようになっている。これにより、図16C及び図16Dに示されるように、回動ブロック511aの係合部511cとフローティングブロック514の被係合部514cとの係合が解除されるようになっている。
【0063】
さらに、本実施形態では、パッド503の一部が調整用ブロック521を介してフローティングブロック514の上端部に当接することによって、成形された湾曲部品501がパッド503とブランクホルダ505との間で加圧されることを抑制した例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、パッド503と共に移動する部材がフローティングブロック514の上端部に当接することによって、成形された湾曲部品501がパッド503とブランクホルダ505との間で加圧されることを抑制してもよい。
【0064】
(本実施形態の作用並びに効果,各種パラメータの好適値等)
次に、本実施形態の作用並びに効果や各種パラメータの好適値等について説明する。
【0065】
図12A図14Gに示されるように、本実施形態では、前述の加圧制限装置510がハット形断面部品の製造装置500に設けられている。そのため、成形された湾曲部品501が、離型時にパッド503およびブランクホルダ505から同時に加圧されることが加圧制限装置510によって防止された状態で、湾曲部品501を金型(ブランクホルダ505、ダイ502、パンチ504及びパッド503)から取り出すことができる。
【0066】
また、本実施形態では、図5図6Dに示されたハット形断面部品の製造装置500によって湾曲部品501の縦壁501a,501bを形成していく間に、素材金属板601における天板501cに成形される部分は、パッド503とパンチ504により加圧および挟持されている。そのため、加圧力が十分であれば、素材金属板601において天板501cに形成される部分は成形過程でその厚み方向に変形することができず、当該部分のしわの発生を抑制することができる。また、素材金属板601における外向きフランジ501d,501eに成形される部分もブランクホルダ505とダイ502とによって加圧および挟持されているので、加圧力が十分であれば、素材金属板601において外向きフランジ501d,501eに形成される部分はその厚み方向に変形することができず、当該部分のしわの発生を抑制することができる。
【0067】
しかし、上記加圧力が不十分である場合には、素材金属板601のその厚み方向に変形を防止できず、素材金属板601における天板501cに成形される部分や外向きフランジ501d,501eに成形される部分にしわが発生してしまう。自動車車体の骨格を成す構造部材(例えばフロントサイドメンバ)で一般的に使用される板厚が0.8mm以上3.2mm以下で、さらに引張強度が200MPa以上1600MPa以下の鋼板を、図5図6Dに示されたハット形断面部品の製造装置500によって成形する場合には、上記加圧力は0.1MPa以上であることが望ましい。
【0068】
図17Aには、湾曲部品501の縦壁501a,501bに生じる応力が示されている。また、図17B及び図17Cには、湾曲部品501の縦壁501a,501bに生じるせん断じわが示されている。
【0069】
図17Aに示されるように、湾曲部品501の縦壁501a,501bの成形の前後では、素材金属板601における縦壁501a,501bに成形される部分が、せん断変形を主体とする変形を伴うことがわかる。せん断変形を主体とする変形を伴って湾曲部品501の縦壁501a,501bを成形することにより、縦壁501a,501bの板厚が素材金属板601の板厚に比して減少することが抑制される。これにより、縦壁501a,501bにしわや割れが発生することを抑制することができる。
【0070】
また、縦壁501a,501bを成形していく間、素材金属板601において縦壁501a,501bに成形される部分は、剪断変形の最小主ひずみ方向に圧縮変形する。したがって、ダイ602とパンチ604とのクリアランスが大きくなると、図17Bおよび図17Cに示されるように、湾曲部品501の縦壁501a,501bに剪断じわWが発生する。この剪断じわWを抑制するためには、縦壁501a,501bの成形が成形される間、ダイ602とパンチ604とのクリアランスを小さくして、当該クリアランスを素材金属板601の板厚に近づけることが有効である。
【0071】
図18A図18Dに示されるように、縦壁501a,501bと天板501cとの成す内角θは、成形時に金型の負角にならないように90°以上必要であるが、90°よりあまり大きいと成形初期のクリアランスが大きくなるので、90°以上でより90°に近い角度が有利である。また、自動車車体の骨格を成す構造部材で一般的に使用される、板厚:0.8mm以上3.2mm以下、引張強度:200MPa以上1600MPa以下の鋼板において縦壁501a,501bの高さが200mm以下の部品を成形する場合、天板501cと縦壁501a,501bとの成す内角が90°以上かつ92°以下であることが望ましく、また縦壁501a,501bの成形が完了した時点における、縦壁501a,501bに形成される部分でのダイ502とパンチ504とのクリアランスbは、素材金属板601の板厚の100%以上120%以下であることが望ましい。
【0072】
次に、(1)縦壁501a,501bと天板501cとのなす角度、(2)金型クリアランス(一定のクリアランスbに対して板厚tを変更)、(3)パッド503に印加する圧力(パッド圧)、(4)ブランクホルダ505に印加する圧力(ホルダ圧)、(5)材料の引張強度、をパラメータとして、湾曲部品501に生じるしわの発生の有無の検証結果について説明する。
【0073】
図19Aは、湾曲部品501を示す斜視図であり、図19Bは、図19Aの湾曲部品501を上方から見た平面図であり、図19Cは、図19Aの湾曲部品501の側面図であり、図19Dは、図19Cに示されたA−A線に沿って切断した湾曲部品501の断面を示す断面図である。また、図20は、金型の断面図である。
【0074】
【表1】
【0075】
また、上記表1における角度θは、図19Dに示されるように、縦壁501a,501bと天板501cとの成す内角θである。さらに、表1におけるクリアランスbは、図20に示されるように、パッド503とパンチ504との間、ダイ502とパンチ504との間、ダイ502とブランクホルダ505との間の隙間である。
【0076】
表1における例1〜19はいずれも本実施形態の一例であって、表1における「若干発生」とは、許容される程度のしわが発生したことを示し、(1)No.1〜5は縦壁501a,501bと天板501cとのなす角度を変更した場合の事例であり、(2)No.6〜9は金型クリアランス、より詳細には一定のクリアランスbに対して板厚tを変更した場合の事例であり、(3)No.10〜13はパッド503に印加する圧力(パッド圧)を変更した場合の事例であり、(4)No.14〜16はブランクホルダ505に印加する圧力(ホルダ圧)変更した場合の事例であり、(5)No.17〜19は材料の引張強度を変更した場合の事例である。各々例において製造した湾曲部品にしわの発生の有無を検証した。
【0077】
上記表に示されるように、検証を行ったパラメータの範囲においては、製品として許容されないしわが湾曲部品501に生じていないことがわかる。
【0078】
なお、上記においては、ハット形断面部品の製造装置500(図5参照)を用いて湾曲したハット形断面部品(湾曲部品501)を成形した例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、長手方向に沿って一定の断面とされていると共に側面視及び平面視で湾曲していないハット形断面部品を前述のハット形断面部品の製造装置500によって成形することもできる。
【0079】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも種々変形して実施することが可能であることは勿論である。
【0080】
また、2013年10月24日に出願された日本国特許出願2013−221522号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図13A
図13B
図13C
図13D
図13E
図13F
図13G
図14A
図14B
図14C
図14D
図14E
図14F
図14G
図15A
図15B
図16A
図16B
図16C
図16D
図17A
図17B
図17C
図18A
図18B
図18C
図18D
図19A
図19B
図19C
図19D
図20