(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6154994
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】多層配線基板
(51)【国際特許分類】
H05K 3/46 20060101AFI20170619BHJP
【FI】
H05K3/46 N
H05K3/46 U
H05K3/46 Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-111682(P2012-111682)
(22)【出願日】2012年5月15日
(65)【公開番号】特開2013-239585(P2013-239585A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2015年4月20日
【審判番号】不服2016-9584(P2016-9584/J1)
【審判請求日】2016年6月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】竹井 涼
(72)【発明者】
【氏名】木村 昌義
【合議体】
【審判長】
阿部 利英
【審判官】
冨岡 和人
【審判官】
内田 博之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−277784(JP,A)
【文献】
特開2001−156462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷配線が形成されてなる層が上下方向に積層されているとともに、表面に電子部品が実装される多層配線基板であって、
端面スルーホールからなる金属層が形成された端面を有し、
前記表面に実装されて熱源となる電子部品から前記端面スルーホールが形成されている端面までの領域に、貫通スルーホールが形成され、
各層に形成されている前記印刷配線のうち、電子回路の一部として前記熱源となる電子部品に接続されている印刷配線と、当該印刷配線と互いに接続される全ての印刷配線とを共通配線として、当該共通配線が形成されている全ての層では、当該共通配線が前記貫通スルーホールに接続されているとともに、前記金属層を起点として延長する印刷配線が前記貫通スルーホールに接続され、
前記共通配線が形成されていない全ての層では、前記電子回路を形成していない印刷配線が、前記金属層を起点として延長して前記貫通スルーホールに接続されている、
ことを特徴とする多層配線基板。
【請求項2】
請求項1において、前記金属層が形成されている端面が凹凸形状に形成されていることを特徴とする多層配線基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、多層配線基板に関する。具体的には、多層配線基板における放熱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
配線基板上に電子部品を高密度実装する場合、配線抵抗や電子部品自体の発熱に由来する熱を放出し、熱による電子部品の故障などを未然に防ぐことが必要である。しかし、基板が多層配線基板である場合には、内層の配線抵抗に由来する熱など、基板の内部に蓄積された熱を外部に逃がすことが難しい。そこで、以下の特許文献1には、基板の周縁に導体を設け、内層の印刷配線をその周縁に導いて基板内部の熱を外部に放出する、という技術について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−37094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、高密度実装技術の進歩により、大電力を扱うDC−DCコンバーターなども小型化が進んでいる。例えば、多層配線基板を用いた高密度実装技術により、1/8Brickのサイズで300W(12V/25A)の出力が可能なDC−DCコンバーターも実現している。このような、極めて小型でありながら、大電力を扱う電子回路では、狭い領域に大量の熱が発生することになり、放熱による冷却が発熱による温度上昇に追いつかない。そのため、電子部品の温度が使用上限温度、あるいは耐熱温度を超えてしまう可能性がある。
【0005】
このような状況にあっては、上記特許文献1に記載の技術を含め、従来の技術では、基板や電子部品の温度上昇を抑制することができず、実装されている電子部品が故障してしまう可能性がある。過熱防止回路があったとしても、その電子回路が組み込まれる電子機器が頻繁に停止することになる。また、多層配線基板の周囲にある他の電子部品や電子機器、あるいは筐体の材質などにより、使用に際して上限温度が設定されている場合もある。したがって、多層配線基板の放熱効率をより向上させることが求められている。もちろん、その効率向上によってコストが大きく嵩むようでは、現実的ではない。
【0006】
そこで、本発明は、コストアップを伴うことなく放熱効率が極めて高い多層配線基板を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、印刷配線が形成されてなる層が上下方向に積層されているとともに、表面に電子部品が実装される多層配線基板であって、
端面スルーホールからなる金属層が形成された端面を有し、
前記表面に実装されて熱源となる電子部品から前記端面スルーホールが形成されている端面までの領域に、貫通スルーホールが形成され、
各層に形成されている前記印刷配線のうち、電子回路の一部として前記熱源となる電子部品に接続されている印刷配線と
、当該印刷配線と互いに接続される全ての印刷配線
とを共通配線として、当該共通配線が形成されている全ての層では、当該共通配線が前記貫通スルーホールに接続されているとともに、前記金属層を起点として延長する印刷配線が前記貫通スルーホールに接続され、
前記共通配線が形成されていない全ての層では、前記電子回路を形成していない印刷配線が、前記金属層を起点として延長して前記貫通スルーホールに接続されている、
ことを特徴とする多層配線基板としている。
【0008】
また、前記金属層が凹凸形状に形成された端面に形成されている多層配線基板と
することもできる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の多層配線基板によれば、小さな面積に高温になる電子部品が高密度実装される場合であっても、効率よく放熱することができ、実装される電子部品の破損を防止することができる。また、基板自身や実装されている電子部品、および周囲の機器や部品について、使用に際しての上限温度が設定されている場合では、その設定温度以下に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明実施例に係る多層配線基板を含んで構成されているDC−DCコンバーターの概略図である。
【
図2】上記実施例の放熱効果をシミュレーションにより評価するために設計されたDC−DCコンバーターの概略図である。
【
図3】上記シミュレーションの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
===本発明の実施例===
本発明の一適用例として、DC−DCコンバーターを挙げる。
図1に、そのDC−DCコンバーター100の概略構造を示した。ここに示したDC−DCコンバーター100は、1/8Brickの多層配線基板を用いた出力240W(12V/200A)のものである。そして、
図1(A)は、そのDC−DCコンバーター100の斜視図であり、(B)は(A)におけるa−a矢視断面図である。また、(C)は要部の拡大平面図である。(A)に示したように、本発明の対象となる多層配線基板(以下、基板)1の表面2には多数の電子部品20が実装されてDC−DCコンバーター100が構成されている。そして、(B)に示したように、基板1の表面2や内層3には、実装されている電子部品(以下、実装部品)20間を相互接続するための印刷配線10、あるいは貫通スルーホール11やBVH(Blind Via Hole)12などの異なる層の印刷配線同士を接続するための層間接続構造(以下、ビア)が形成されている。また、基板1の端面4には、放熱構造の一部として機能する金属層30が適所に形成されている。
【0012】
この金属層30は、基板端面4の一部に金属メッキを施すことで形成される。本実施例では、端面スルーホール31の内面を金属層30としている。図中に示したように基板1の厚さ方向を上下方向とすると、端面スルーホール31は、(C)に示した平面図のように、基板1上下を貫通する孔の内面に金属層30を電解メッキにより施した一般的な貫通スルーホール32を上下方向に切断し、その切断面を基板1の端面4としたものである。図示した例では、開口形状が長円形の貫通スルーホール32をその長手方向で切断した形状となっている。
【0013】
本実施例において、金属層30を端面スルーホール31の内面としたのは、基板1が個別に製造されるのではなく、一枚の大きな基板を多数の領域に区画し、各領域を切断することで形成されるのが一般的であるからである。すなわち、基板1に形成されている他の貫通スルーホール11と同様に、金属層30の形成位置に所定形状の貫通スルーホール32を形成しておけば、個々の基板1に分離するだけで、基板1の端面4に端面スルーホール31、すなわち、金属層30を形成することができるからである。したがって、本実施例の基板1によれば、金属層30を形成するための工程を基板1の形成工程に組み込むことができ、工程の追加によるコストアップを招くことがない。
【0014】
端面スルーホール31は、インダクタやFETなど、大きな電流が流れ、発熱の起源となる実装部品20に対して至近の端面4に設けられている。もちろん、冷却が必要なその他の実装部品20の近傍の端面4に設けてもよい。そして、(B)に示したように、異なる層間で互いに接続しつつ、熱源となる実装部品20bにも接続されている印刷配線10aが基板1の端面4まで案内され、その案内された先端部分が端面スルーホール31の内面となる金属層30に接続されている。この例では、ビア(ここでは貫通スルーホール11)と端面スルーホール31とが基板1の表面や内層の印刷配線(10a,10b)を介して接続されている。このようにビアを介して実装部品20と端面スルーホールとを接続することで、例えば、金属層がない既存の基板に対し、端面スルーホールを追加するように設計や仕様を変更するような場合でも、既存の基板に従来から存在するビアをそのまま流用することができる。したがって、基板の回路構成を大きく変更することなく、設計変更や仕様変更に伴うコストアップを抑制することができる。もちろん、ビアを介さずに実装部品に接続されている印刷配線10aを端面スルーホールまで案内してもよい。
【0015】
また、金属層30を基点とした印刷配線10は、全ての層に形成されている。すなわち、熱源となる実装部品20bと電子回路の一部として相互に接続されている印刷配線(以下、共通配線)10aが形成されている層だけではなく、それ以外の層にも形成されている印刷配線10bについても金属層30に接続されている。図示した基板1では、上下に10層あり、共通の貫通スルーホール11を介して、上方から1層、2層,3層、6層、8層、10層の各層に共通配線10aが形成されている。この共通配線10aは、DC−DCコンバーター100を構成する電子回路の一部である。そして、端面スルーホール31の金属層30には、共通配線10aが形成されている層に加え、上方から4層、5層、7層、9層の各層に形成された印刷配線10bも接続されている。そして、これら全ての層に形成されている印刷配線(10a,10b)が先の貫通スルーホール11に接続されている。
【0016】
本実施例の基板1では、図に示した構造により、熱源となる実装部品20bからの熱や、電子回路の一部としてその実装部品20bに接続されている共通配線10aに流れる電流に起因して発生した熱を、端面スルーホール31に導くとともに金属層30より外部に直接放出する。さらに、金属層30には、電子回路とは関係なく各層に形成された印刷配線10bも接続されて、層間に閉じこめられた熱がそれらの印刷配線10bを介して端面スルーホール31まで運ばれ、同様に金属層30から外部に放出される。それによって、基板をより効果的に冷却することができる。
【0017】
===放熱効果===
ここで、本発明の実施例に係る基板の放熱効果を実際に評価してみた。具体的には基板端面4の金属層30の有無を除けば、同じサイズで同じ形状の2種類の基板を想定し、各基板にDC−DCコンバーターを構成する主要な電子部品が実装されているものとした。そして、各基板に対して外部から定常的に熱を加えるともに、発熱源となる実装部品を所定の電力で駆動した際に、各基板の所定位置での温度をシミュレーションにより計算することで評価した。
【0018】
図2に当該評価に用いた基板1bの概略図を示した。図示したように、基板1bには、4箇所に端面スルーホール(31a〜31d)が形成されており、各種実装部品20が実装されていることとした。そして、基板1bには、自身を外部から定常的に加熱させるための複数本のピン13が植設されている。ここで、
図2に示したように上下、左右、前後の各方向を規定すると、ピン13は、上端14が同じ高さ位置まで基板1bに挿入されており、下端15が基板1bの下面から突出している。そして、ピン13の下端15を所定温度の熱源に接触させることとした。ここでは85℃の熱源に接触させることとした。
【0019】
また、発熱源となる実装部品(20c,20d)が所定の電力で駆動した際の発熱も考慮した。ここでは、一つのインダクタ20cと8個のFET20dを発熱源として設定し、インダクタ20cに対して1.0W、各FET20dに0.5Wの電力を供給して発熱させることとした。さらに、DC−DCコンバーター100bにおいて、大きな熱容量を有するコア20eも実装されているものとした。なお、基板1bは、前後長が58.6mm、左右幅が23.5mm、厚さが2.75mのサイズの10層構造で、各層の厚さを105μmとしている。素材は、FR−4とした。また、4箇所にある端面スルーホール(31a〜31d)は、平面形状が、
図1(C)に示したものと同様に、矩形の長手方向の両端を半円にした長円を、その長手方向で二分割した形状とした。サイズは、
図1(C)に示したように、長円の両端を形成する1/4円弧の直径をφ、その両端の1/4円弧の中心間の距離をDとすると、基板1bの左端面にある端面スルーホール31aをφ=0.6mm、D=11mm、前方の端面4の端面スルーホール31bをφ=0.6mm、D=16.7mm、左方の端面4の前方側の端面スルーホール31cをφ=0.6mm、D=13.2mm、左方の端面4の後方の端面スルーホール31dをφ=0.6mm、D=16.7mmとした。そして、金属層を厚さ30μmの銅メッキ層とした。
【0020】
また、表1に、シミュレーションに用いたパラメーターを示した。
【表1】
【0021】
表1に示したパラメーターは、DC−DCコンバーター100bを構成する各部材や部品の熱伝導率である。ここでは、各部材や部品における部位や素材、方向ごとの熱伝導率も示されている。また、シミュレーションに際し、インダクタ20cとFET20dの発熱密度を、それぞれ、573922102.85W/m
3、1399736.849W/m
3とし、このDC−DCコンバーター100bの平均の熱伝導率を、30.84W/(m
2・K)とした。
【0022】
図3に、当該シミュレーションの結果を画像化して示した。サーモグラフィのように、基板1bの表面2における温度分布が濃淡表示されている。
図3(A)は、金属層30がない場合のシミュレーション結果であり、(B)は金属層30がある場合のシミュレーション結果である。金属層30がある場合、とくにFET20dの温度が低下していることがわかる。シミュレーションでは、基板1bに金属層30が形成されている場合、最も温度が高い部分では、その温度が103.4℃であった。一方、金属層30が形成されていない場合は、104.9℃であり、金属層30があると、金属層30が無い場合と比べて1.5℃温度が低くなることが計算された。なお、このシミュレーション結果は、金属層30の有無のみが反映されたものであり、実際には、各層に印刷配線10が形成されて、層間に熱が蓄積されることが予想される。そして、金属層30がない従来の基板では、端面スルーホール31側に案内される印刷配線10も無いため、層間に蓄積される熱がさらに放出されにくくなる。すなわち、本実施例の基板1では、シミュレーションの結果よりも放熱効果がさらに顕著になることが容易に予想される。
【0023】
===その他の実施例===
端面スルーホール31の形状は、
図1に示した形状に限らない。例えば、放熱部位となる端面スルーホール31の表面は、その面積が大きいほど放熱効果が大きくなることから、
図4に示した基板(1c,1d)ように、端面スルーホール(33、34)の平面形状が凹凸形状となっていてもよい。凹凸形状としては、
図4(A)に示したように、並列する複数の円形の貫通スルーホールをその列方向で切断した形状であってもよいし。(B)に示したように、矩形波形状としてもよい。もちろん、サイン波形状や三角波形状などとすることもできる。また、図示した例では、上下方向(紙面奥行き方向)で一律に同じ平面形状であるが、上下方向にも凹凸形状が形成されていてもよい。いずれにしても、熱源となる実装部品の近傍の端面に端面スルーホールの内面となる金属層が形成され、その実装部品に電子回路の一部として共通して接続されている各層の印刷配線がその金属層に接続されているとともに、それ以外の層には、金属層を起点として延長する印刷配線が形成されていればよい。
【産業上の利用可能性】
【0024】
この発明は、小型大出力のDC−DCコンバーターなどに好適である。
【符号の説明】
【0025】
1,1b〜1d 多層配線基板、2 基板表面、3 基板内層、4 基板端面、
10,10a,10b 印刷配線、11,32 貫通スルーホール、12 BVH、
13 ピン、20,20b〜20e 電子部品、30 金属層、
31,31a〜31d,33,34 端面スルーホール、
100,100b DC−DCコンバーター