【実施例】
【0020】
図1は、本発明が適用される分散性評価装置10の制御機能の要部を説明する図であると共に、分散性評価装置10によって分散性を評価するときの概略構成の一例を説明する図である。
図1において、分散性評価装置10は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより各種制御を実行する。分散性評価装置10には、例えば、撮像装置である画像取得装置30、入力装置40、出力装置50などが有線或いは無線を介して接続されており、入力装置40から各種操作信号が入力され、分散性評価装置10は、画像取得装置30を用いて被評価試料60を撮影し、被評価試料60中に含まれる対象物62(
図2等参照)の分散性を評価するデータを出力し、出力装置50を用いてその出力結果を表示する。
【0021】
画像取得装置30は、例えばEDS(エネルギー分散型X線分析装置)が取り付けられた公知のSEM(走査型電子顕微鏡)である。画像取得装置30は、被評価試料60の表面の状態を撮影し、SEM撮像エリアにおいて対象物62を識別してマッピングした撮像データを取得し、その撮像データの信号を分散性評価装置10へ送信する。
【0022】
入力装置40は、例えばキーボード、マウス、タッチパネルなどの人為的操作を受け付ける公知の入力機器である。出力装置50は、例えば画像を表示するモニタや出力結果を印刷するプリンタなどの公知の出力機器であり、画像取得装置30により取得されたSEM撮像、後述する画像処理部14にて生成された評価用画像70、分散性評価装置10により出力された分散性を評価するデータなどを表示する。被評価試料60は、例えば少なくとも対象物62を含む複数の原料を混合した物質である。
【0023】
分散性評価装置10は、上述した分散性を評価するデータを出力する制御を実行する為に、画像取得手段すなわち画像取得部12、画像処理手段すなわち画像処理部14、画像分割手段すなわち画像分割部16、第1の演算手段すなわち第1の演算部である評価画像変動係数算出手段すなわち評価画像変動係数算出部18、第2の演算手段すなわち第2の演算部である分離時/混合時変動係数算出手段すなわち分離時/混合時変動係数算出部20、及び指標出力手段すなわち指標出力部22等を備えている。
【0024】
画像取得部12は、画像取得装置30を用いて、被評価試料60における所定の領域の画像データを取得する。具体的には、画像取得部12は、画像取得装置30から送信された撮像データのうちで、例えば長方形(正方形を含む)の形状をした所定の領域分の大きさを画像データとして所定の公知の画像形式で取得する。上記所定の領域は、例えば対象物62の分散性を正しく評価することができる大きさとして被評価試料60に応じて適宜設定変更されたり、予め設計的或いは実験的に定められている。また、所定の領域は、複数種類の分割数(例えば、後述する2
n×2
n(nは自然数))で分割することができる大きさである。
【0025】
画像処理部14は、画像取得部12により取得された画像データに基づいて対象画像としての評価用画像70を生成する。具体的には、画像処理部14は、公知の手法により画像データを所定の閾値で二値化して、例えば
図2に示すような評価用画像70を生成する。評価用画像70では、被評価試料60における対象物62の部分が黒で表され、対象物62以外の非対象物の部分が白で表される。所定の閾値は、例えば対象物62の部分のみを適確に抽出することができる値として被評価試料60に応じて適宜設定変更されたり、予め設計的或いは実験的に定められている。
【0026】
画像分割部16は、画像処理部14により生成された評価用画像70を均等な区画サイズに分割した状態を、所定の分割数まで複数種類生成する。上記分割数は、例えば
図2(b),(c),(d)に示すように、2
n×2
n(nは自然数)分割である。上記所定の分割数は、例えば上記区画サイズにおける1辺の大きさが単位長さ(例えば1ピクセル)となる分割数、或いは後述する評価画像変動係数CVbが後述する完全分離時変動係数CVaと同じ数値に到達する分割数である。
【0027】
評価画像変動係数算出部18は、前記分割された各領域における対象物62の面積値に基づく評価画像変動係数CVbを前記区画サイズ毎(すなわち分割数毎)に算出する。具体的には、評価画像変動係数算出部18は、ある区画サイズ(分割数N)において、分割された各領域内の対象物62(例えば二値化後の黒)の面積値xを算出する。次いで、評価画像変動係数算出部18は、算出した各面積値xに基づいて、1区画(1領域)に対象物62が含まれる平均値xave(=対象物62の総面積X/分割数N)を算出する。次いで、評価画像変動係数算出部18は、算出した各面積値x及び平均値xaveに基づいて、標準偏差σ(すなわち分散σ
2の平方根の正値)を算出する。そして、評価画像変動係数算出部18は、算出した標準偏差σ及び平均値xaveに基づいて、ある区画サイズにおける評価画像変動係数CVb(=σ/xave)を算出する。評価画像変動係数算出部18は、この評価画像変動係数CVbを算出する一連の演算を、複数種類生成された区画サイズ毎(すなわち分割数毎)に、所定の分割数まで算出する。
【0028】
分離時/混合時変動係数算出部20は、評価用画像70において対象物62と対象物62以外の非対象物とが完全に分離されたとした場合における対象物62の面積値に基づく完全分離時変動係数CVaを前記区画サイズ毎(すなわち分割数毎)に算出する。また、分離時/混合時変動係数算出部20は、評価用画像70において対象物62と非対象物とが完全に混合されたとした場合における対象物62の面積値に基づく完全混合時変動係数CVcを前記区画サイズ毎(すなわち分割数毎)に算出する。分離時/混合時変動係数算出部20は、完全分離時変動係数CVa及び完全混合時変動係数CVcをそれぞれ算出する一連の演算を、評価画像変動係数CVbを算出する一連の演算と同様に実行する。対象物62と対象物62以外の非対象物とが完全に分離している状態とは、例えば二値化後の評価用画像70において黒部と白部が完全に分離している状態である。従って、完全に分離されたとした場合は、仮想的に黒をある区画(領域)やそれに隣接する区画に固めた場合である。例えば、画像の大きさが8×8(=64)で対象物の総面積が30のとき、画像を4分割したとき(1区画の大きさが16のとき)の完全分離時の各区画の対象物の各面積は0,0,14,16となる。また、対象物62と非対象物とが完全に混合している状態とは、例えば二値化後の評価用画像70において各区画の黒部の面積が等しい状態である。従って、完全に混合されたとした場合は、仮想的に黒を各区画に均等に振り分けた場合である。尚、黒部の面積によって完全に等しくすることができない場合には、例えば端数は1ずつ振り分けられる。例えば、画像の大きさが8×8(=64)で対象物の総面積が30のとき、画像を4分割したとき(1区画の大きさが16のとき)の完全混合時の各区画の対象物の各面積は7,7,8,8となる。
【0029】
指標出力部22は、区画サイズと評価画像変動係数CVbとの相関を示す第1の関係bを算出する。この第1の関係bは、例えば
図3に示すように、区画サイズ(例えば分割した区画の1辺の大きさ)と変動係数CVとを変数とする二次元座標上において、区画サイズ毎に算出された評価画像変動係数CVbが隣接する区画サイズ間で直線的に結ばれたものである。指標出力部22は、第1の関係bを上記二次元座標上にグラフ化する(
図3参照)。又、指標出力部22は、区画サイズと完全分離時変動係数CVaとの相関を示す第2の関係a、及び区画サイズと完全混合時変動係数CVcとの相関を示す第3の関係cをそれぞれ算出する。この第2の関係a及び第3の関係cは、各々、例えば
図4に示すように、
図3と同じ二次元座標上において、第1の関係と同様に、完全分離時変動係数CVa及び完全混合時変動係数CVcが隣接する区画サイズ間で直線的に結ばれたものである。指標出力部22は、第2の関係a及び第3の関係cを各々上記二次元座標上にグラフ化する(
図4参照)。
【0030】
指標出力部22は、第1の関係bと、第2の関係a及び第3の関係cとの相対関係を示す指標を出力する。この指標は、区画サイズと変動係数CVとを変数とする同一の二次元座標上において、第1の関係bが、第2の関係aに近い状態にあることを示す度合或いは第3の関係cに近い状態にあることを示す度合である。第1の関係bが第3の関係cに近い状態にある程、被評価試料60中に含まれる対象物62の分散性が良好であると評価される。このような度合を出力する方法は、種々の方法が考えられるが、本実施例では以下に示す各方法を、単独で或いは組み合わせて行う。
【0031】
指標出力部22は、第1の関係b、第2の関係a、及び第3の関係cを、
図5に示すように、前記同一の二次元座標上に重ねた状態で明示することで、前記度合を出力する。具体的には、指標出力部22は、各々算出した第1の関係b、第2の関係a、及び第3の関係cに対応した各信号を出力装置50へ出力して、出力装置50のモニタ上に各関係a,b,cを前記同一の二次元座標上に重ねた状態で表示する(
図1参照)。これにより、第1の関係bが、第2の関係aに近い状態にあることを示す度合或いは第3の関係cに近い状態にあることを示す度合が視覚的に判断できるので、ユーザは分散性を評価することができる。尚、指標出力部22は、モニタ上に表示することに替えて、或いは加えて、出力装置50のプリンタにて前記同一の二次元座標上に重ねた状態の各関係a,b,cを出力しても良い。
【0032】
指標出力部22は、第1の関係b、第2の関係a、及び第3の関係cにおいて区画サイズの最小値(すなわち分割数の最大値)から区画サイズの最大値(すなわち分割数の最小値)までの範囲における積分値をそれぞれ算出する。そして、指標出力部22は、それら各積分値の相対関係に基づいて分散性を評価する分散度指数αを算出することで、前記度合を出力する。具体的には、上記算出した、第2の関係aにおける積分値をA、第1の関係bにおける積分値をB、第3の関係cにおける積分値をCとする。つまり、
図6に示すように、前記同一の二次元座標において区画サイズの最小値から最大値までの範囲で、第2の関係aと横軸で囲まれた面積をA、第1の関係bと横軸で囲まれた面積をB、第3の関係cと横軸で囲まれた面積をCとする。指標出力部22は、次式(1)を用いて分散度指数αを算出する。指標出力部22は、この分散度指数αに対応した信号を出力装置50へ出力して、出力装置50のモニタ上に分散度指数αを表示する(
図1参照)。また、指標出力部22は、モニタ上に表示することに替えて、或いは加えて、出力装置50のプリンタにて分散度指数αを出力しても良い(
図1参照)。この分散度指数αが100[%]に近い程、被評価試料60中に含まれる対象物62の分散性が良好である(すなわち対象物62が完全混合状態に近い高分散である)と評価される。これにより、対象物62の分散性が数値的に判断できるので、ユーザは分散性を評価することができる。
α=(1−(B−C)/(A−C))×100[%] ・・・(1)
【0033】
図7は、分散性評価装置10の制御作動の要部すなわち被評価試料60中に含まれる対象物62の分散性を正しく評価する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。また、このフローチャートは、被評価試料60中に含まれる対象物62の分散性を評価するデータを出力する分散性評価方法を実現する為の各工程を説明するものでもある。
【0034】
図7において、先ず、画像取得部12に対応する画像取得工程としてのステップ(以下、ステップを省略する)S10において、例えばSEM/EDS等の画像取得装置30を用いて撮影された被評価試料60の表面の撮像データに基づいて、例えば1辺の大きさが複数種類の2
n×2
n(nは自然数)で分割することができる画像データが取得される。次いで、画像処理部14に対応する画像処理工程としてのS20において、例えば画像処理/解析により上記S10にて取得された画像データが二値化されて評価用画像70が生成される。次いで、画像分割部16に対応する画像分割工程としてのS30において、例えば上記S20にて生成された評価用画像70を2
n×2
n(nは自然数)の分割数で所定の分割数まで分割される。次いで、評価画像変動係数算出部18に対応する第1の演算工程である評価画像変動係数算出工程としてのS40において、例えばある区画サイズにて、分割された各領域内の対象物62の面積値xが算出される。次いで、評価画像変動係数算出部18に対応する評価画像変動係数算出工程としてのS50において、例えばS40にて算出された各面積値xに基づいて1区画に対象物62が含まれる平均値xaveが算出され、上記各面積値x及び平均値xaveに基づいて標準偏差σが算出され、上記標準偏差σ及び平均値xaveに基づいて評価画像変動係数CVbが算出される。次いで、評価画像変動係数算出部18に対応する評価画像変動係数算出工程としてのS60において、例えば上記S30にて分割された全ての区画サイズにおける評価画像変動係数CVbの算出が完了したか否かが判定される。全ての区画サイズにおける評価画像変動係数CVbの算出が未だ完了しておらず上記S60の判断が否定されると、評価画像変動係数算出部18に対応する評価画像変動係数算出工程としてのS70において、例えば評価画像変動係数CVbの算出が完了していない区画サイズに変更され、上記S40に戻される。つまり、S40乃至S70において、評価画像変動係数CVbを算出する一連の演算が複数種類の分割数で分割された各区画サイズで算出される。全ての区画サイズにおける評価画像変動係数CVbの算出が完了して上記S60の判断が肯定されると、分離時/混合時変動係数算出部20に対応する第2の演算工程である分離時/混合時変動係数算出工程としてのS80において、例えば評価用画像70において対象物62と対象物62以外の非対象物との割合に基づいて、対象物62が完全混合したとき及び完全分離したときの対象物62の面積値の完全混合時変動係数CVc及び完全分離時変動係数CVaが各区画サイズ毎に算出される。つまり、このS80では、完全分離時変動係数CVa及び完全混合時変動係数CVcをそれぞれ算出する一連の演算が、評価画像変動係数CVbを算出する一連の演算であるS40乃至S70と同様に実行される。次いで、指標出力部22に対応する指標出力工程としてのS90において、例えば二次元座標における横軸を区画サイズ(例えば分割した1区画の1辺の大きさ、或いは1区画の面積)、縦軸を変動係数CVにして、上記S50及びS80にて区画サイズ毎に算出された評価画像変動係数CVb、完全分離時変動係数CVa、及び完全混合時変動係数CVcのそれぞれのグラフが作成される(
図6参照)。次いで、指標出力部22に対応する指標出力工程としてのS100において、例えば上記S90にて作成されたグラフから対象物62の分散性が数値的に判断できる分散度指数αが算出される(
図6、前記式(1)参照)。
【0035】
以下に、本実施例と比較例1とを比較した結果を説明する。この比較例1は、前記非特許文献1に記載された従来技術であり、「混合度」を用いて分散性を数値的に評価するものである。
【0036】
図8は、被評価試料60中に含まれる対象物62の分散性を評価する異なる3つの評価用画像70を示す図であって、(a)は画像Aであり、(b)は画像Bであり、(c)は画像Cである。各画像A,B,Cの設定条件及び分散性の解析条件は以下の通りである。
・画像のピクセル数:32pixel×32pixel(1024pixel)
・対象物62(黒色)と非対象物(白色)のピクセル比:340:684
・解析を実施した画像の分割数 : 表1参照
【0037】
【表1】
【0038】
本実施例の分散性評価方法を用いて各画像A,B,Cにおける対象物62の分散性を数値的に評価した解析結果は以下の通りである。表2は、分割した各区画サイズ(分割数)での各画像A,B,C毎の評価用画像70における対象物62の面積の評価画像変動係数CVb及び完全分離時/完全混合時における対象物62の面積の完全分離時変動係数CVa/完全混合時変動係数CVcを示している。
図9は、分割した区画サイズの1辺の大きさと対象物62の面積の変動係数CVとを変数とする二次元座標上に、表2に示す数値をプロットして作成したグラフを示す図である。表3は、
図9に示した評価画像変動係数CVb,完全分離時変動係数CVa,完全混合時変動係数CVcの各グラフから算出した各画像A,B,C毎の各面積B,A,C(
図6参照)、及び各面積B,A,Cに基づいて算出した各画像A,B,C毎の分散度指数αを示している。
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
一方、比較例1の従来技術の「混合度」を用いて各画像A,B,Cにおける対象物62の分散性を数値的に評価した解析結果は以下の通りである。表4は、分割した各区画サイズ(分割数)での各画像A,B,C毎の評価用画像70における対象物62の面積の分散値σ
2、完全分離時における対象物62の面積の分散値σ
02、及び完全混合時における対象物62の面積の分散値σ
r2を示している。表5は、表4に示した各分散値σ
2,σ
02,σ
r2に基づいて算出した各区画サイズでの各画像A,B,C毎の混合度Mを示している。
【0042】
【表4】
【0043】
【表5】
【0044】
比較例1の従来技術では、表5に示すように、分割する区画サイズによっては対象物62の分散性を表す混合度Mの値に違いが見られない場合(例えば4×4で分割したときの混合度M参照)や、混合度Mの値の傾向が異なっている場合(例えば2×2で分割したときの混合度Mの傾向と、8×8(16×16)で分割したときの混合度Mの傾向とを参照)や、混合度Mの値自体が算出できない場合(例えば32×32で分割したときの混合度M参照)がある。又、比較例1の従来技術では、1画像に対して区画サイズによって混合度Mの値が異なる場合、すなわち1画像において分散性が複数の数値で表されてしまう場合がある。従って、比較例1の従来技術では、どの数値を採用して良いのか判らないなど、正しく分散性を評価することが難しい場合があり、「混合度」の手法を正しく活用するには、予め画像を分割する適切な区画サイズを決定できることが必要とされる。
【0045】
一方で、本実施例の分散性評価方法では、画像の分散性をマクロ的な解析からミクロ的な解析まで実施することで、総合的に分散性を判断することができることや、1画像に対して分散性を1つの指標(例えば分散度指数αの数値)で表す為、従来技術よりも更に簡単に正しく分散性を評価することができる。
【0046】
また、以下に、本実施例と比較例2とを比較した結果を説明する。この比較例2は、前記非特許文献2に記載された従来技術であり、「フラクタル次元を用いた分散性の評価方法」を用いて分散性を数値的に評価するものである。
【0047】
図10は、被評価試料60中に含まれる対象物62の分散性を評価する異なる3つの評価用画像70を示す図であって、(a)は画像Dであり、(b)は画像Eであり、(c)は画像Fである。この被評価試料60は、対象物62となる原料の粒度が異なる3種類のサンプルを一般的な混合機を用いて混合した後、成形体を作製したものである。そして、各画像D,E,Fは、各サンプルの成形体表面をSEM/EDSにより撮影し、撮影した画像から対象物62のみを抜き出した2値化(白黒)画像を作成したものであり、各画像D,E,F毎に分散性を評価した。各画像D,E,Fの設定条件及び分散性の解析条件は以下の通りである。
・画像のピクセル数:512×512pixel(262144pixel、1辺の大きさ2×2
8pixel)
・対象物62(黒色)と非対象物(白色)のピクセル比:画像D(19135:243009)
画像E(19249:242895)
画像F(20967:241177)
・解析を実施した画像の分割数 : 表6参照
【0048】
【表6】
【0049】
本実施例の分散性評価方法を用いて各画像D,E,Fにおける対象物62の分散性を数値的に評価した解析結果は以下の通りである。
図11は、分割した区画サイズの1辺の大きさと対象物62の面積の変動係数CVとを変数とする二次元座標上に、分割した各区画サイズ(分割数)での各画像D,E,F毎の評価用画像70における対象物62の面積の評価画像変動係数CVb及び完全分離時/完全混合時における対象物62の面積の完全分離時変動係数CVa/完全混合時変動係数CVcをプロットして作成したグラフを示す図である。表7は、
図11に示した評価画像変動係数CVb,完全分離時変動係数CVa,完全混合時変動係数CVcの各グラフから算出した各画像D,E,F毎の各面積B,A,C(
図6参照)、及び各面積B,A,Cに基づいて算出した各画像D,E,F毎の分散度指数αを示している。
【0050】
【表7】
【0051】
一方、比較例2の従来技術の「フラクタル次元を用いた分散性の評価方法」を用いて各画像D,E,Fにおける対象物62の分散性を数値的に評価した解析結果は以下の通りである。
図12は、画像分割数の逆数の対数値と対象物62の面積の変動係数CVの対数値とを変数とする二次元座標上に、分割した各区画サイズ(分割数)での各画像D,E,F毎の、画像分割数の逆数の対数値と、評価用画像70における対象物62の面積の評価画像変動係数CVbの対数値との関係をプロットしたグラフと、そのグラフから各画像D,E,F毎に最小自乗法(最小二乗法)を用いて算出した各直線D,E,Fを示す図である。表8は、
図12において近似的に算出した各直線D,E,Fの傾き(=分散度)Dを示している。この「フラクタル次元を用いた分散性の評価方法」では、近似的に算出した直線の傾きが大きな値である程、被評価試料60中に含まれる対象物62の分散性が良好であると評価される。
【0052】
【表8】
【0053】
先ず、各画像D,E,Fにおける対象物62の分散性は、
図10から明らかなように、画像Fが最も良好で、次いで画像E、画像Dの順に分散性が良いことが目視で確認できる。その上で、本実施例の分散性評価方法では、表7に示すように、分散性を示す数値(分散度指数α)は、目視の結果と良く一致している。一方で、比較例2の従来技術では、
図12に示すように、各画像D,E,F毎のグラフは直線関係から外れていることが分かる。試しに、近似的に直線式を算出し、分散性を数値的に表すグラフの傾きを求めたところ、表8に示すように、傾きDの大きさは画像F>画像E>画像Dの順となり、目視の結果と同じではあった。しかしながら、各グラフは直線関係から大きく外れているなど、近似直線式には誤差が大きく含まれており、数値の信頼性に疑問が残る結果となった。
【0054】
上述のように、本実施例によれば、分散性評価装置10により、区画サイズと評価画像変動係数CVbとの相関を示す第1の関係bと、区画サイズと完全分離時変動係数CVaとの相関を示す第2の関係a及び区画サイズと完全混合時変動係数CVcとの相関を示す第3の関係cとの、相対関係を示す指標が出力されるので、ある1つの区画サイズにおける分散性を評価するのではなく、分割した各々の区画サイズ全域を1つのものとして総合的に分散性を評価することができる。つまり、1画像に対して分散性を1つの指標で表すことができる。従って、マクロ的、ミクロ的に分散性が変化していても、その違いを適切に評価することが可能である。又、第1の関係b、第2の関係a、及び第3の関係cが直線とならなくても分散性を評価することができる。又、第1の関係b、第2の関係a、及び第3の関係cの各々の算出時に近似的な計算を用いる必要がないことから、指標を出力する際の誤差(評価精度の低下)が抑制される。よって、被評価試料60中に含まれる対象物62の分散性を正しく評価することができる。
【0055】
また、本実施例によれば、前記指標は、区画サイズと変動係数CVとを変数とする同一の二次元座標上において、第1の関係bが、第2の関係aに近い状態にあることを示す度合或いは第3の関係cに近い状態にあることを示す度合であるので、被評価試料60中に含まれる対象物62の分散性を正しく評価することができる。
【0056】
また、本実施例によれば、分散性評価装置10により、第1の関係b、第2の関係a、及び第3の関係cにおいて区画サイズの最小値から最大値までの範囲における積分値B,A,Cがそれぞれ算出され、その積分値B,A,Cの相対関係に基づいて分散性を評価する分散度指数αが算出されることで、前記度合が出力されるので、第1の関係bと、第2の関係a及び第3の関係cとの相対関係を示す指標が適切に出力される。
【0057】
また、本実施例によれば、分散性評価装置10により、前記式(1)を用いて積分値B,A,Cに基づいて分散度指数αが算出されるので、第1の関係bと、第2の関係a及び第3の関係cとの相対関係を示す指標が一層適切に出力される。
【0058】
また、本実施例によれば、分散性評価装置10により、第1の関係b、第2の関係a、及び第3の関係cが、同一の二次元座標上に重ねた状態で明示されることで、前記度合が出力されるので、第1の関係bと、第2の関係a及び第3の関係cとの相対関係を示す指標が適切に出力される。
【0059】
また、本実施例によれば、分散性評価装置10が評価用画像70を均等な区画サイズに分割する際の、分割数は2
n×2
n(nは自然数)分割であり、所定の分割数は区画サイズにおける1辺の大きさが単位長さとなる分割数、或いは評価画像変動係数CVbが完全分離時変動係数CVaと同じ数値に到達する分割数であるので、適度な区画サイズの間隔にて、第1の関係b、第2の関係a、及び第3の関係cの各々が算出され、1画像に対して分散性を1つの指標で適切に表すことができる。
【0060】
また、本実施例によれば、分散性評価装置10に備えられた各部(各手段)に対応する各工程により実現される分散性評価方法においても、上記同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0061】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0062】
例えば、本発明は、分散性評価装置10が有すると同様の、被評価試料60中に含まれる対象物62の分散性を評価するデータを出力する分散性評価機能を、
図13に示すような、画像取得装置30、入力装置40、出力装置50などが有線或いは無線を介して接続されたコンピュータ80に実現させる為のプログラムPを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体90にも適用され得る。つまり、分散性評価装置10が有する分散性評価機能を実行する、画像取得部12に対応する画像取得機能、画像処理部14に対応する画像処理機能、画像分割部16に対応する画像分割機能、評価画像変動係数算出部18に対応する第1の演算機能である評価画像変動係数算出機能、分離時/混合時変動係数算出部20に対応する第2の演算機能である分離時/混合時変動係数算出機能、及び指標出力部22に対応する指標出力機能をコンピュータ80に実現させる為のプログラムPを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体90にも適用され得る。このようにしても前述の実施例と同様の効果が得られることは言うまでもない。尚、
図13において、コンピュータ80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより各種制御を実行する。また、記録媒体90は、CD、DVD、Blu-ray(登録商標) Disc等の光ディスク、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクドライブ等の記憶装置、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリなどの、プログラムPを記録することができる媒体である。また、予めプログラムPが記録された記録媒体90を用いることでコンピュータ80がプログラムPを読み取る態様、プログラムPが保存されているサーバ(これも一種の記録媒体90)から通信を介してダウンロードされて記録媒体90に記録されたプログラムPをコンピュータ80が実行する態様など、プログラムPをコンピュータ80に実現させる態様は種々の態様がある。
【0063】
また、前述の実施例における
図7のフローチャートにおいて、ステップS80をステップS40の前に実行したり、或いはステップS80をステップS40乃至S70の間で実行したり、ステップS80とステップS40乃至S70とを並行して実行しても良いなど、各ステップの実行順は差し支えのない範囲で適宜変更することができる。
【0064】
また、前述の実施例では、第1の関係b、第2の関係a、及び第3の関係cを同じ二次元座標上にグラフ化し、面積(積分値)B、面積A、及び面積Cを求めて、分散度指数αを算出したが、これに限らない。例えば、グラフ化しなくても直接的に上記各関係b,a,cを表す各関係式から各面積B,A,Cを求めて、分散度指数αを求めても良い。従って、必ずしも同一の二次元座標上に重ねた状態で上記各関係b,a,cを明示する必要はなく、
図7のフローチャートにおけるS90は必ずしも備えられていなくても良い。一方で、上記各関係b,a,cを明示することだけでも分散性を評価するという一定の効果は得られる。従って、必ずしも分散度指数αを求めて数値的に分散性を評価する必要はない。この場合には、
図7のフローチャートにおけるS100は必ずしも備えられていなくても良く、例えばS90にてグラフがモニタ上に表示されれば良い。又、前記式(1)を用いて分散度指数αを算出したが、これに限らない。要は、第1の関係bが第2の関係a或いは第3の関係cに近い状態にあることを示す度合が数値的に表される所定の式を用いて分散度指数αを算出すれば良い。
【0065】
また、前述の実施例では、分割数を2
n×2
n(nは自然数)分割としたが、これに限らない。要は、評価用画像70を均等な区画サイズに分割した状態が、複数種類生成されれば良い。
【0066】
また、前述の実施例では、二次元座標の一方の変数である区画サイズとして分割した1区画の1辺の大きさを用いたが、これに限らない。例えば、区画サイズとして1区画の面積を用いても良い。尚、1区画が長方形である場合には、1辺の大きさは、長辺及び短辺の内で、第1の関係b、第2の関係a、及び第3の関係cにおいて共通する一方の辺が用いられることは言うまでもない。
【0067】
また、前述の実施例において、被評価試料60に含まれる対象物62は、混合物の1つを構成する物質であるが、結果的に空隙となるものであっても本発明は適用され得る。つまり、本発明は、被評価試料60中における空隙の分散性を評価することが可能である。
【0068】
また、前述の実施例では、画像取得装置30としてSEM/EDSを例示したが、これに限らない。画像取得装置30は、評価用画像70を生成する基になる撮像データを取得できる撮像装置であれば良い。また、出力装置50としてモニタやプリンタなどを例示したが、これに限らない。出力装置50においては、出力結果が分かる出力装置が少なくとも1つ備えられておれば良い。また、画像取得装置30により取得されたSEM撮像は、出力装置50ではなく、画像取得装置30に直接的に接続されたモニタにて表示されても良い。また、画像取得装置30,入力装置40、出力装置50の少なくとも1つが分散性評価装置10と一体的に構成されていても良い。見方を換えれば、分散性評価装置10が画像取得装置30、入力装置40、出力装置50の何れかに組み込まれている態様であっても良い。
【0069】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。