【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するためになされた
本発明の電動工具の制動装置においては、駆動源である3相ブラシレスモータの回転時に、当該電動工具の停止指令若しくは減速指令が入力されると、制動制御手段が動作する。
【0010】
そして、制動制御手段は、スイッチング回路において3相ブラシレスモータへの正極側通電経路若しくは負極側通電経路に設けられた3つのスイッチング素子のオン・オフ状態を制御することで、3相ブラシレスモータにブレーキ電流を流して制動力を発生させる。
【0011】
つまり、本発明の制動装置においては、従来のように、3相ブラシレスモータへの正極側通電経路若しくは負極側通電経路に設けられた3つのスイッチング素子を全て導通させる3相短絡制御を行うのではなく、3つのスイッチング素子のオン・オフ状態を切り換えることで、3相ブラシレスモータに流れるブレーキ電流を制御する。
【0012】
このため、本発明の制動装置によれば、従来装置に比べ、3相ブラシレスモータに流れるブレーキ電流を抑制して、3相ブラシレスモータに発生する制動力を低減することができる。
【0013】
また、この制動力は、3相ブラシレスモータに流すブレーキ電流によって制御できることから、本発明によれば、各スイッチング素子のオン・オフ状態の切換タイミングを調整することで、電動工具を停止若しくは減速させる際の減速特性を所望特性に設定することができる。
【0014】
また、制動制御手段は、3相ブラシレスモータの回転時に、スイッチング素子がオフ状態に切り換えられても、当該スイッチング素子に並列に設けられたダイオード(例えば、FETの寄生ダイオード)を介してブレーキ電流を流すことのできるタイミングで、スイッチング素子をオン状態からオフ状態へ切り換える。
【0015】
この結果、本発明の制動装置によれば、スイッチング素子をオフした際に、スイッチング素子を介して3相ブラシレスモータの巻線(コイル)に流れていた電流が遮断されて、コイルに高電圧が発生し、その高電圧により直流電源側に回生電流が流れるのを防止できる。
【0016】
つまり、本発明では、スイッチング素子のオン・オフ状態を切り換えることで、3相ブラシレスモータに流れるブレーキ電流を制御するが、スイッチング素子をオフするタイミングを、そのスイッチング素子に並列に設けられたダイオードに流れないタイミングに設定すると、3相ブラシレスモータの巻線(コイル)に流れていた電流が遮断されて、そのコイルに接続された端子に高電圧が発生する。
【0017】
すると、この高電圧により、同一端子に接続された他のスイッチング素子を介して直流電源側に回生電流が流れ、他のスイッチング素子を劣化させてしまうことがある。
しかし、本発明では、電動工具(延いては3相ブラシレスモータ)の制動時にスイッチング素子をオフするタイミングを、上記のように設定しているので、スイッチング素子のオフ時に高電圧が発生して、直流電源側に回生電流が流れるのを防止し、延いては、その回生電流が流れることによる他のスイッチング素子が劣化するのを防止できる。
【0018】
なお、このように回生電流が流れるのを防止するには、スイッチング素子をオフするタイミングを、スイッチング素子に流れる電流が零になるタイミングに設定するようにしてもよい。
【0019】
しかし、このようにするには、3相ブラシレスモータの回転位置(角度)から、スイッチング素子に流れる電流が零になるタイミングを検出する必要があり、そのためには、高精度の回転位置センサを用い、スイッチング素子をオフするタイミングを高精度に制御する必要があり、制動装置のコストアップを招く。
【0020】
これに対し、本発明によれば、スイッチング素子を介して3相ブラシレスモータに流れる電流方向を検出して、スイッチング素子をオフするタイミングを設定すればよいので、高精度の回転位置センサを用いる必要がなく、回生電流が流れるのを防止し得る制動装置を低コストで実現できる。
【0021】
また、本発明によれば、スイッチング素子をオフした際に、スイッチング素子に並列に設けられたダイオードを介して、ブレーキ電流を流すことから、ダイオードが発熱することが考えられる。しかし、ダイオードの発熱量は、ダイオードに電流が流れる時間によって変化し、その時間は、スイッチング素子をオフするタイミングによって決まる。
【0022】
このため、本発明によれば、スイッチング素子をオフするタイミングを調整することで、回生電流が流れるのを防止しつつ、ダイオード(延いてはスイッチング素子)が高温になるのを防止できる。
【0023】
なお、本発明において、対象となる電動工具は、ドリルドライバ、インパクトドライバ、グラインダ等の一般的な電動工具は勿論のこと、草や小径木を刈払うための刈払機、道具本体を前後に引くことなく対象物を切断できるチェーンソー、といった園芸用の電動工具も含まれる。つまり、駆動源として3相ブラシレスモータを備え、その回転により所定の作業を行うことのできる電動工具であれば、本発明を適用することができる。
【0024】
また、本発明は、直流電源としてバッテリを備えた電動工具は勿論のこと、ACアダプタ等の外部の直流電源から電源供給を受けて動作する電動工具であっても、或いは、商用電源等の交流電源から電源供給を受けて動作する電動工具であっても、適用することができる。
【0025】
次に、本発明の電動工具の制動装置において、制動制御手段がオン・オフ状態を制御するスイッチング素子が、負極側通電経路に設けられたローサイドスイッチである場合には、制動制御手段は、請求項2に記載のように構成すればよい。
【0026】
また、制動制御手段がオン・オフ状態を制御するスイッチング素子が、正極側通電経路に設けられたハイサイドスイッチである場合には、制動制御手段は、請求項3に記載のように構成すればよい。
【0027】
つまり、請求項2に記載の制動装置において、制動制御手段は、ローサイドスイッチから3相ブラシレスモータに向かってブレーキ電流が流れているときに、ローサイドスイッチをオン状態からオフ状態に切り換える。
【0028】
このため、制動制御手段がローサイドスイッチをオフした際には、ローサイドスイッチに並列に設けられたダイオードを介してブレーキ電流が流れ、ローサイドスイッチのオフ時に高電圧が発生して、他のスイッチング素子(ハイサイドスイッチ)を介して直流電源に回生電流が流れるのを防止できる。
【0029】
また、請求項3に記載の制動装置において、制動制御手段は、3相ブラシレスモータからハイサイドスイッチに向かってブレーキ電流が流れているときに、ハイサイドスイッチをオン状態からオフ状態に切り換える。
【0030】
このため、制動制御手段がハイサイドスイッチをオフした際には、ハイサイドスイッチに並列に設けられたダイオードを介してブレーキ電流が流れ、ハイサイドスイッチのオフ時に高電圧が発生して、他のスイッチング素子(ハイサイドスイッチ)を介して直流電源に回生電流が流れるのを防止できる。
【0031】
次に、本発明において、制動制御手段が制御対象となるスイッチング素子をオン状態からオフ状態に切り換えるタイミング
は、スイッチング素子を介して流れるブレーキ電流が減少方向にあるときに設定
される。
【0032】
つまり、スイッチング素子がオン状態にあるときに流れるブレーキ電流は、3相ブラシレスモータの回転に応じて増・減する。
そして、そのブレーキ電流が上昇しているときにスイッチング素子をオン状態からオフ状態に切り換えるようにすると、ブレーキ電流が上昇して最大電流になり、その後減少して零になるまでの間、ダイオードに電流が流れ続けることになり、ダイオードの発熱量が増加する。
【0033】
これに対し、スイッチング素子をオン状態からオフ状態に切り換えるタイミングを、スイッチング素子に流れるブレーキ電流が減少方向にあるときに設定すれば、ダイオードに電流が流れる期間を短くして、ダイオードの発熱量を低減できる。
【0034】
次に、3つのスイッチング素子がオン状態であるときに各スイッチング素子に流れるブレーキ電流は、3相ブラシレスモータの回転状態に応じて変化する。また、3相ブラシレスモータの回転状態は、3相ブラシレスモータに通常設けられている回転位置検出手段(ホール素子やエンコーダ等)を用いて検出することができる。なお、回転位置検出手段は、3相ブラシレスモータの所定の回転角度毎に回転位置を検出するものである。
【0035】
このため、制動制御手段
は、回転位置検出手段にて検出された回転位置に基づき、スイッチング素子のオン状態からオフ状態への切換タイミングを設定するようにするとよい。
【0036】
つまり、このようにすれば、スイッチング素子の切換タイミングを設定するために、スイッチング素子のオン時に流れる電流方向を検出するための検出素子を別途設ける必要がなく、本発明の制動装置を低コストで実現できる。
【0037】
また、この場
合、制動制御手段は、回転位置検出手段にて所定の回転位置が検出されてから、所定時間経過後に、スイッチング素子をオン状態からオフ状態へ切り換える
ように構成するとよい。
【0038】
このようにすれば、制動制御手段がスイッチング素子をオフするタイミングを、回転位置検出手段からの検出信号を基準として、簡単に設定することができ、制動装置の設計がし易くなる。
【0039】
また、この場合、制動制御手段は、3相ブラシレスモータの駆動状態に基づき、スイッチング素子のオン状態からオフ状態への切換タイミングを設定する
ように構成してもよい。
【0040】
このようにすれば、制動制御手段がスイッチング素子をオフするタイミングを、3相ブラシレスモータの駆動状態に応じて変更できることになり、スイッチング素子のオフ後にダイオードに流れる電流(延いてはダイオードの発熱量)を最適に制御することができる。
【0041】
例えば、モータの回転数(速度)が高いときには、スイッチング素子をオフしたときにダイオードに流れる電流量が大きくなるので、スイッチング素子をオフするタイミングを遅らせ、ダイオードに流れる電流量を少なくして、ダイオードの発熱を抑える、といったことができる。
【0042】
なお、制動制御手段がスイッチング素子をオフするタイミングを制御するのに用いる3相ブラシレスモータの駆動状態として
は、3相ブラシレスモータの回転数、温度、直流電源の電圧、及び、電動工具の駆動を指令する操作部の操作量、を挙げることができる。
【0043】
次
に、制動制御手段は、回転位置検出手段にて検出された回転位置に基づき、スイッチング素子のオフ状態からオン状態への切換タイミングを設定するよう
に構成してもよい。
【0044】
つまり、
制動制御手段が、スイッチング素子をオフするタイミングだけでなく、スイッチング素子をオンするタイミングについても、回転位置検出手段にて検出された回転位置に基づき設定する
ように構成するのである。
【0045】
このようにすれば、制動制御手段がスイッチング素子をオン状態にして、3相ブラシレスモータにブレーキ電流を流す期間(換言すれば、その期間に流れる電流量に応じて発生する制動力)を、回転位置検出手段にて検出された回転位置に基づき設定することができる。
【0046】
また、
この場合、制動制御手段
は、回転位置検出手段にて所定の回転位置が検出されてから、所定時間経過後に、スイッチング素子をオフ状態からオン状態へ切り換える
ようにしてもよい。
【0047】
このようにすれば、制動制御手段がスイッチング素子をオンするタイミングを、回転位置検出手段からの検出信号を基準として、簡単に設定することができ、制動装置の設計がし易くなる。
【0048】
また、制動制御手段
は、3相ブラシレスモータの駆動状態に基づき、スイッチング素子のオフ状態からオン状態への切換タイミングを設定
するようにしてもよい。
【0049】
このようにすれば、制動制御手段がスイッチング素子をオンするタイミングを、3相ブラシレスモータの駆動状態に応じて変更できることになり、3相ブラシレスモータに流れるブレーキ電流(延いては制動力)を最適に制御することができる。
【0050】
例えば、モータの回転数(速度)が高いときには、低速時よりも大きなブレーキ電流(延いては制動力)が発生するため、スイッチング素子をオンするタイミングを遅くして、その間のブレーキ電流(延いては制動力)を小さくし、制動力による反動を低減する、といったことができる。
【0051】
なお、制動制御手段がスイッチング素子をオンするタイミングを制御するのに用いる3相ブラシレスモータの駆動状態として
は、3相ブラシレスモータの回転数、温度、直流電源の電圧、及び、電動工具の駆動を指令する操作部の操作量、を挙げることができる。
【0052】
次に、
本発明の制動装置において、制動制御手段は、3つのスイッチング素子のオン・オフ状態を制御して、3相ブラシレスモータに制動力を発生させる際、少なくとも一定期間は、3つのスイッチング素子を同時にオフ状態に
するよう構成してもよい。
【0053】
このようにすれば、制動制御手段が、3つのスイッチング素子を同時にオフすることによって、3相ブラシレスモータにブレーキ電流が流れない期間が設定され、これによって、3相ブラシレスモータに発生する制動力をより小さくすることができる。
【0054】
また、
この場合、制動制御手段は、3つのスイッチング素子のオン・オフ状態を制御する際、3つのスイッチング素子を選択的にオン状態にして3相ブラシレスモータにブレーキ電流を流す導通制御と、3つのスイッチング素子を同時にオフ状態にする非導通制御とを交互に行う
ようにしてもよい。
【0055】
このようにすれば、3相ブラシレスモータにはブレーキ電流が間欠的に流れることになり、この間欠制御における導通制御と
非導通制御との実施割合を調整することで、3相ブラシレスモータに発生する制動力の調整可能範囲を拡大することができる。
【0056】
一方、
本発明の制動装置において、制動制御手段は、3つのスイッチング素子のオン・オフ状態を制御する際、少なくとも一定期間は、3つのスイッチング素子を同時にオン状態に
するよう構成してもよい。
【0057】
このようにすれば、制動制御手段が、3つのスイッチング素子を同時にオンすることによって、3相ブラシレスモータに最大の制動力を発生させる期間を設定することができ、この期間を調整することで、3相ブラシレスモータに発生する制動力を調整することができる。
【0058】
また
次に、制動制御手段は、3つのスイッチング素子のオン・オフ状態を制御する際、制御の対象となるスイッチング素子を、正極側通電経路に設けられた3つのスイッチング素子と、負極側通電経路に設けられた3つのスイッチング素子との何れかに、交互に切り換える
ようにしてもよい。
【0059】
このようにすれば、3相ブラシレスモータの制動時にブレーキ電流が流れるダイオードを、正極側通電経路と負極側通電経路との間で交互に切り換えることができ、一つのダイオードに流れる電流量を少なくして、ダイオードの発熱をより低減することができる。