【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によると、この目的は、とりわけ、ポリヌクレオチドの提供により解決され、該ポリヌクレオチドは、例えば、単離されたポリヌクレオチド、組み換えポリヌクレオチドまたは合成ポリヌクレオチドであり得、α−1,2−フコシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードしており、以下ものから成る群より選択される配列を含む、または該配列から成る:
a)添付の配列表の配列番号1;
b)配列番号1に相補的な核酸配列;
c)a)およびb)で定義した核酸配列またはそれらの相補鎖にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸配列。
【0011】
本発明によるポリヌクレオチド(配列番号1参照)は、大腸菌種血清群O126のフコシルトランスフェラーゼを表す。
【0012】
この新たに同定されたフコシルトランスフェラーゼには驚くべき効果がある。それらを使用することにより、それらの供給源生物において自然に発生しない反応を行うことができるからである。本発明の範囲内で、上記のように同定されたα−1,2−フコシルトランスフェラーゼはラクトースを基質として使用でき、フコシル化オリゴ糖、特に2’−フコシルラクトースを生産できることが判明した。今日までに、細菌から単離された既知α−1,2−フコシルトランスフェラーゼで、フコシルラクトースの生産に天然基質としてラクトースを使用することが証明されているものはない。したがって、フコシル化オリゴ糖の生産のための使用へのこの新たに同定されたフコシルトランスフェラーゼの適性は非常に驚くべきものであり、したがってその使用は、例えば、フコシルラクトースなどの人乳オリゴ糖(HMO)を、簡単に、効率的に、かつ費用を節約して生産するための優れたツールとなる。今日、HMOに属する80を超える化合物が構造解析されており、これらは、プレバイオティクスとして機能する類の複合オリゴ糖の代表である。さらに、上皮細胞エピトープとのHMOの構造的相同性により、病原菌に対する防御性が説明される。乳児消化管内のHMOは、選択された菌株の増殖を選択的に助長するので、母乳栄養児の場合、特有の腸内微生物叢の発達を誘発する。
【0013】
これまで、これらのオリゴ糖の構造の複雑さによりそれらの合成生産が阻まれてきたため、HMOの主要供給源は今以て人乳である。それ故、容易かつ簡単に得ることができるHMOが必要とされており、該HMOを本明細書に提示する驚くほど好適なフコシルトランスフェラーゼの使用により提供することができる。
【0014】
本発明によると、用語「ポリヌクレオチド」は、一般に、任意のポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドを指し、未修飾RNAもしくはDNAである場合もあり、修飾RNAもしくはDNAである場合もある。「ポリヌクレオチド」には、限定ではないが、1本鎖および2本鎖DNA;1本鎖領域と2本鎖領域との混合物または1本鎖領域と2本鎖領域と3本鎖領域との混合物であるDNA;1本鎖および2本鎖RNA;ならびに1本鎖領域と2本鎖領域との混合物であるRNA;1本鎖または、より典型的には2本鎖もしくは3本鎖領域であり得るまたは1本鎖領域と2本鎖領域との混合物であり得るDNAおよびRNAを含むハイブリッド分子が含まれる。さらに、「ポリヌクレオチド」は、本明細書において用いる場合、RNAまたはDNAまたはRNAとDNA両方を含む3本鎖領域を指す。かかる領域内の鎖は、同じ分子からのものであることもあり、異なる分子からのものであることもある。上記領域は、1つ以上の分子の全てを含むこともあるが、より一般的にはいくつかの分子の1領域のみを含む。三重らせん領域の分子の1つは、多くの場合、オリゴヌクレオチドである。本明細書において用いる場合、用語「ポリヌクレオチド」は、1つ以上の修飾塩基を含有する、上記したようなDNAまたはRNAも含む。したがって、安定性のためにまたは他の理由で修飾された主鎖を有するDNAまたはRNAは、本明細書においてこの用語が意図されるところの「ポリヌクレオチド」である。さらに、この用語を本明細書において用いる場合、2つだけ例を挙げると、通常のものでない塩基、例えばイノシン、または修飾された塩基、例えばトリチル化塩基を含むDNAまたはRNAは、ポリヌクレオチドである。当業者に既知の多くの有用な目的に役立つDNAおよびRNAに、非常に多岐にわたる修飾が施されていることが理解されよう。用語「ポリヌクレオチド」は、それを本明細書において用いる場合、かかる化学的に、酵素的にまたは代謝的に修飾された形態のポリヌクレオチド、ならびにウイルスおよび細胞(例えば、単純および複雑型細胞を含む)に特有の化学的形態のDNAおよびRNAを包含する。また、「ポリヌクレオチド」は、オリゴヌクレオチドと多くの場合呼ばれる短鎖ポリヌクレオチドも包含する。
【0015】
「ポリペプチド」は、ペプチド結合または修飾ペプチド結合によって互いに連結された2以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質を指す。「ポリペプチド」は、一般にペプチド、オリゴペプチドおよびオリゴマーと呼ばれる短鎖と、一般にタンパク質と呼ばれるより長鎖の両方を指す。ポリペプチドは、20の遺伝子コードアミノ酸以外のアミノ酸を含有することもある。「ポリペプチド」は、天然プロセス、例えば、プロセシングおよび他の翻訳後修飾によって修飾されたものを含むが、化学的修飾技術によって修飾されたものも含む。かかる修飾は、基礎的教科書や、より詳細な研究書や、大量の研究文献に十分に記載されており、当業者に周知である。同じタイプの修飾が、1つの所与のポリペプチドのいくつかの部位に、同程度にまたは様々な程度に存在することがあることが理解されよう。また、1つの所与のポリペプチドが、多くのタイプの修飾を含有することもある。修飾は、ペプチド主鎖、アミノ酸側鎖およびアミノまたはカルボキシル末端を含めて、ポリペプチドのあらゆる位置で生じ得る。修飾としては、例えば、アセチル化、アシル化、ADP−リボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質または脂質誘導体の共有結合、ホスファチジルイノシトールの共有結合、架橋、環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、共有結合架橋の形成、ピログルタメートの形成、ホルミル化、γ−カルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク質分解性プロセシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、脂質結合、硫酸化、グルタミン酸残基のγ−カルボキシル化、ヒドロキシル化およびADP−リボシル化、セレノイル化、タンパク質へのアミノ酸の転移RNA介在付加、例えばアルギニン化およびユビキチン化が挙げられる。ポリペプチドは、分岐ポリペプチドであることもあり、分岐を伴うもしくは伴わない環状ポリペプチドであることもある。環状、分岐および分岐環状ポリペプチドは、翻訳後天然プロセスの結果として生ずることもあり、完全に合成法によっても作られることもある。
【0016】
「単離(された)」とは、その天然の状態から「人間の手によって」改変されたこと、すなわち、それが天然に存在する場合、それが変化させられた、もしくはその元の環境から取り出された、または両方であることを意味する。例えば、この用語を本明細書において用いる場合、生体内に天然に存在するポリヌクレオチドまたはポリペプチドは「単離」されていないが、その天然状態の共存物質から分離された同じポリヌクレオチドまたはポリペプチドは「単離」されている。同様に、「合成」配列は、この用語を本明細書において用いる場合、合成により生成され配列であって、天然源から直接単離されたものでない任意の配列を意味する。「組み換え」とは、ある種からの遺伝子を異なる種の宿主生物の細胞に移植またはスプライシングすることにより調製された遺伝子操作DNAを意味する。かかるDNAは、宿主の遺伝子構造の一部となり、複製される。
【0017】
用語「ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド」は、本明細書において用いる場合、配列番号2で示されるようなアミノ酸配列を有する本発明のポリペプチド、特にα−1,2−フコシルトランスフェラーゼをコードする配列を含むポリヌクレオチドを包含する。この用語は、コーディングおよび/または非コーディング配列を含有することもある追加の領域と共に、上記ポリペプチドをコードする単一連続領域または複数の非連続領域(例えば、組み込まれているファージまたは挿入配列またはエディティングが介在している)を含むポリヌクレオチドも包含する。
【0018】
「変異体」は、この用語を本明細書において用いる場合、本質的な特性を保持するが、それぞれ参照ポリヌクレオチドまたはポリペプチドとは異なる、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドである。あるポリヌクレオチドの典型的変異体と別の参照ポリヌクレオチドとは、ヌクレオチド配列の点で異なる。変異体のヌクレオチド配列の変化により、参照ポリヌクレオチドによってコードされたポリペプチドのアミノ酸配列が改変されることもあり、されないこともある。ヌクレオチド変化は、以下で論ずるように、参照配列によりコードされたポリペプチドのアミノ酸置換、付加、欠失、融合およびトランケーションを生じさせる結果となり得る。あるポリペプチドの典型的変異体と別の参照ポリペプチドとは、アミノ酸配列点で異なる。一般に、参照ポリペプチドの配列と変異体の配列が全体的に近似しており、多くの領域内で同一であるように、相違が限定される。変異体および参照ポリペプチドは、任意の組み合わせでの1以上の置換、付加、欠失によりアミノ酸配列が異なり得る。置換または挿入アミノ酸残基は、遺伝子コードによりコードされていることもあり、されていないこともある。ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの変異体は、対立遺伝子変異体などの天然に存在する変異体であることもあり、天然に存在することが知られていない変異体であることもある。ポリヌクレオチドおよびポリペプチドの天然に存在しない変異体は、突然変異誘発技術によって、直接的合成によって、および当業者に既知の他の組み換え法によって作ることができる。
【0019】
用語「α−1,2−フコシルトランスフェラーゼ」、または「フコシルトランスフェラーゼ」、または「α−1,2−フコシルトランスフェラーゼ」もしくは「フコシルトランスフェラーゼ」をコードする核酸/ポリヌクレオチドは、α−1,2−連結におけるドナー基質、例えばGDP−フコースからのアクセプター分子へのフコースの転移を触媒するグリコシルトランスフェラーゼを指す。上記アクセプター分子は、炭水化物、オリゴ糖、タンパク質もしくは糖タンパク質、または脂質もしくは糖脂質であり得、例えば、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルラクトサミン、ガラクトース、フコース、シアル酸、グルコース、ラクトースまたはこれらの任意の組み合わせであり得る。本発明の範囲内では、配列番号1からの核酸または配列番号2からのアミノ酸配列によってコードされたポリペプチドと、好ましくは少なくとも約25、50、100、200、500または1000アミノ酸以上の領域にわたり、約60%より高いアミノ酸配列同一性、65%、70%、75%、80%、85%、90%、好ましくは91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、核酸/ポリヌクレオチドおよびポリペプチド多型変異体、対立遺伝子、突然変異体および種間ホモログも、これらの用語に含まれる。
【0020】
さらに、α−1,2−フコシルトランスフェラーゼポリペプチドをペプチド配列の付加または欠失によって改変して、その活性を修飾することができる。例えば、ポリペプチド配列をα−1,2−フコシルトランスフェラーゼポリペプチドに融合させて、さらなる酵素活性を生じさせることができる。あるいは、アミノ酸を欠失させて、タンパク質の活性を除去または修飾することができる。α−1,2−フコシルトランスフェラーゼ酵素活性は無いが、その構造の三次元構造をなお保持するように、タンパク質を修飾することができる。かかる修飾は、α−1,2−フコシルトランスフェラーゼポリペプチドに対する抗体の産生に有用であるものと思われる。
【0021】
加えて、α−1,2−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子産物は、機能的に等価の遺伝子産物に相当するタンパク質またはポリペプチドを含み得る。かかる等価のα−1,2−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子産物は、上記したようなα−1,2−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子配列によってコードされたアミノ酸配列内にアミノ酸残基の欠失、付加または置換を含有することがあるが、これは、結果としてサイレント変化(silent change)となり、それ故、機能的に等価のα−1,2−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子産物が生産される。アミノ酸置換は、関係する残基の極性、電荷、可溶性、疎水性、親水性および/または両親媒性の類似性に基づいて行うことができる。例えば、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファンおよびメチオニンが挙げられ、平面型中性アミノ酸としては、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギンおよびグルタミンが挙げられ、正電荷を有する(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、リシンおよびヒスチジンが挙げられ、負電荷を有する(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられる。本発明に関連して本明細書において用いる場合の「機能的に等価の」は、酵素活性ばかりでなく、抗原性、すなわち抗α−1,2−フコシルトランスフェラーゼに結合する能力、免疫原性、すなわちα−1,2−フコシルトランスフェラーゼタンパク質またはポリペプチドを結合することができる抗体を産生する能力も含む(しかしこれに限定されない)多数の基準のいずれかによって判断して、上記したα−1,2−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子配列によってコードされた内因性α−1,2−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子産物と実質的に同様のin vivo活性を呈示することができるポリペプチドを指す。
【0022】
翻訳中または翻訳後に別様に修飾されるα−1,2−フコシルトランスフェラーゼタンパク質、ポリペプチドおよび誘導体(断片を含む)は、本発明の範囲内に含まれる。さらに、非古典的アミノ酸または化学的アミノ酸類似体をα−1,2−フコシルトランスフェラーゼポリペプチド配列への置換または付加として導入することができる。
【0023】
当該技術分野において周知の技術を用いて組み換えDNA技術によりα−1,2−フコシルトランスフェラーゼポリペプチドを生産することができる。当業者に周知である方法を用いて、α−1,2−フコシルトランスフェラーゼコーディング配列と適切な転写翻訳制御シグナルとを含有する発現ベクターを構築することができる。これらの方法としては、例えば、in vitro組み換えDNA技術、合成技術およびin vivo遺伝子組み換えが挙げられる。例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.(1989)に記載されている技術を参照のこと。
【0024】
「オリゴ糖」は、この用語を本明細書において用いる場合、およびこの用語が現在の技術水準で一般に理解されているように、少数、一般には3から10個の単純な糖、すなわち単糖を含有する糖ポリマーを指す。
【0025】
本発明の別の態様に従うと、α−1,2−フコシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする上記したような核酸配列を含有するベクターが提供され、この場合、該核酸配列は、該ベクターで形質転換された宿主細胞によって認識される制御配列に作動可能に連結されている。特に好ましい実施形態において、上記ベクターは発現ベクターであり、本発明の別の態様によると、上記ベクターは、プラスミド、コスミド、ファージ、リポソームまたはウイルスの形態で存在し得る。
【0026】
また、本発明は、本発明による上記したようなポリヌクレオチドから成る配列を含有する宿主細胞に関し、この場合、該配列は、該宿主細胞にとって外来の配列であり、該配列は、該宿主細胞のゲノムに組み込まれている。それに関して、「宿主細胞にとって外来の」は、その配列が該宿主細胞中に天然に存在しない、すなわち、その配列が該宿主細胞に対して異種であることを意味する。異種配列は、例えば、トランスフェクション、形質転換または形質導入によって、宿主細胞のゲノムに安定的に導入することができ、適用され得る技術は、その配列を導入することとなる宿主に依存する。様々な技術が当業者に既知であり、例えば、Sambrookら、1989、上掲に開示されている。したがって、異種配列が導入された宿主細胞は、本発明によるポリヌクレオチドがコードされた異種タンパク質を生産することとなる。
【0027】
組み換え産生の場合、宿主細胞を遺伝子操作して、発現系もしくはその一部分または本発明のポリヌクレオチドを組み込むことができる。宿主細胞へのポリヌクレオチドの導入は、多くの標準的な実験マニュアル、例えば、Davisら、Basic Methods in Molecular Biology、(1986)およびSambrookら、1989、上掲に記載されている方法によって果たすことができる。
【0028】
したがって、例えば、宿主細胞に安定的に形質転換/トランスフェクトすることができるベクターに、本発明によるポリヌクレオチドを含めることができる。ベクター内では、本発明のポリヌクレオチドは、例えば誘導性プロモーターの制御下にあるので、遺伝子/ポリヌクレオチドの発現を特異的に標的にすることができ、必要に応じて、このようにして遺伝子を過発現させることができる。
【0029】
本発明のポリペプチドを生産するために、多種多様な発現系を使用することができる。かかるベクターとしては、数ある中でも、染色体由来、エピソーム由来およびウイルス由来ベクター、例えば細菌プラスミドに由来するベクター、バクテリオファージに由来するベクター、トランスポゾンに由来するベクター、酵母エピソームに由来するベクター、挿入エレメントに由来するベクター、酵母染色体エレメントに由来するベクター、ウイルスに由来するベクター、およびこれらの組み合わせに由来するベクター、例えば、プラスミドおよびバクテリオファージ遺伝子エレメント、例えばコスミドおよびファージミドに由来するものが挙げられる。上記発現系構築物は、発現を生じさせるばかりでなく調節もする制御領域を含有し得る。一般に、この点から、ポリヌクレオチドの維持、伝播もしくは発現に適する、および/または宿主におけるポリペプチドの発現に適する任意の系またはベクターを発現に使用することができる。例えばSambrookら(上記参照)に示されているものなどの、様々な周知の常例的な技術のいずれかによって、適切なDNA配列を発現系に挿入することができる。
【0030】
したがって、本発明は、次のものから成る群より選択されるアミノ酸配列から成る、α−1,2−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する単離されたポリペプチドにも関する:
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列;
(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列の対立遺伝子変異体のアミノ酸配列であって、上記対立遺伝子変異体が、配列番号1で示される核酸分子の反対の鎖にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によってコードされているものであるアミノ酸配列;
(c)配列番号2で示されるアミノ酸配列のオルソログのアミノ酸配列であって、上記オルソログが、配列番号1で示される核酸分子の反対の鎖にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によってコードされているものであるアミノ酸配列;および
(d)配列番号2で示されるアミノ酸配列の断片であって、少なくとも10個の連続するアミノ酸を含み、α−1,2−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する断片。
【0031】
用語「ストリンジェントな条件」は、プローブがその標的配列にハイブリダイズするが、他の配列にはハイブリダイズしない条件を指す。ストリンジェントな条件は、配列依存的であり、状況によって異なる。長い配列ほど、高い温度で特異的にハイブリダイズする。一般的に、ストリンジェントな条件は、既定のイオン強度およびpHでの特定の配列についての熱融解点(Tm)より約15℃低くなるように選択される。上記Tmは、標的配列に相補的なプローブの50%が、平衡時に標的配列にハイブリダイズする(既定のイオン強度、pHおよび核酸濃度下での)温度である。例示的ストリンジェントハイブリダイゼーション条件は、次のとおりであり得る
:65℃でインキュベートしながら、5xSSC、1%SDS、65℃で0.2xSSCおよび0.1%SDSでの洗浄。
【0032】
また、本発明は、上で定義したとおりのベクターを含有する宿主細胞、または該宿主細胞のゲノムに導入された異種配列として本発明によるポリヌクレオチドを含有する宿主細胞、ならびに特に、真菌(酵母を含む)、細菌、昆虫、動物および植物細胞から成る群より選択される宿主細胞に言及する。宿主が大腸菌細胞であれば、特に好ましい。
【0033】
本明細書において用いる場合、用語「宿主細胞」を、外因性ポリヌクレオチド配列によって形質転換もしくはトランスフェクトされた、または形質転換もしくはトランスフェクトされ得る細胞と今般定義する。
【0034】
本発明のα−1,2−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子コーディング配列を発現させるために、様々な宿主発現ベクター系を利用することができる。かかる宿主発現系は、対象となるコーディング配列を生産し、その後、精製することができるビヒクルを表すが、適切なヌクレオチドコーディング配列で形質転換またはトランスフェクトされたときにin situで本発明のα−1,2−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子産物を提示する細胞も表す。
【0035】
例えば、ヘリコバクター・ピロリからのα−1,2−フコシルトランスフェラーゼを扱っているWO/0026383および欧州特許第1243647号(これらの公報は、本明細書で明確に参照される)の中で多数の適する発現系および宿主を見つけることができる。
【0036】
本発明の別の態様によると、α−1,2−フコシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする上記核酸は、それぞれの細胞のコドン使用頻度に適合している。
【0037】
本発明は、フコシル化オリゴ糖、(糖)タンパク質および/または(糖)脂質の生産のための、本発明によるポリヌクレオチド、ベクターまたはポリペプチドそれぞれの使用にさらに関する。
【0038】
それに関して、上記使用の態様によると、上記フコシル化オリゴ糖、(糖)タンパク質および/または(糖)脂質の生産を、α−1,2−フコシルトランスフェラーゼをコードする上記ポリヌクレオチドの異種または同種発現によって行う。
【0039】
上記使用の別の態様によると、上記フコシル化オリゴ糖は、人乳から既知のオリゴ糖、例えば2’−フコシルラクトースである。
【0040】
本発明は、以下の段階を含む、フコシル化オリゴ糖、(糖)タンパク質および(糖)脂質の生産方法にも関する:
a.本発明によるα−1,2−フコシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドを提供する段階、
b.段階aのα−1,2−フコシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドを、フコース残基を含むドナー基質、および単糖、オリゴ糖、(糖)タンパク質または(糖)脂質を含むアクセプター基質と、該ポリペプチドが、該ドナー基質から該アクセプター基質へのフコース残基の転移を触媒する条件下で接触させ、それによってフコシル化オリゴ糖、(糖)タンパク質または(糖)脂質を生産する段階。
【0041】
本発明によると、上記フコシル化オリゴ糖生産方法を、無細胞系で行うことができ、または細胞を含有する系において行うことができる。酵素反応生成物の形成を可能にするのに十分な時間にわたって、十分な条件下で、上記基質をα−1,2−フコシルトランスフェラーゼポリペプチドと反応させる。上記系が無細胞系であろうと、細胞に基づく系であろうと、これらの条件が、上記基質および酵素の量および純度に依存して変わることとなることが理解されよう。これらの変数は、当業者によって容易に調整されよう。
【0042】
無細胞系に関しては、本発明によるポリペプチドと、アクセプター基質と、ドナー基質と、場合により他の反応混合物成分(他のグリコシルトランスフェラーゼおよび補助酵素を含む)とを水性反応媒体中で混合により併せる。上記酵素を溶液中で遊離状態で利用することができ、またはポリマーなどの支持体に結合させるもしくは固定化することができ、上記基質を上記支持体に付加させてもよい。上記支持体を、例えば、カラムに充填してもよい。
【0043】
フコシル化オリゴ糖の合成のための細胞含有系としては、組み換え修飾宿主細胞を挙げることができる。
【0044】
したがって、本発明は、以下の段階を含む、フコシル化オリゴ糖、(糖)タンパク質および(糖)脂質の生産方法にも関する:
a.フコシル化オリゴ糖、(糖)タンパク質および/または(糖)脂質の生産が可能かつα−1,2−フコシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドの発現が可能な適する栄養条件下で、上記したような宿主細胞を増殖させる段階;
b.段階aと同時にまたは段階aの後に、フコース残基を含むドナー基質と、オリゴ糖、(糖)タンパク質または(糖)脂質を含むアクセプター基質とを提供する段階であって、その結果、上記宿主細胞において発現されたα−1,2−フコシルトランスフェラーゼが、該ドナー基質から該アクセプター基質へのフコース残基の転移を触媒し、それによってフコシル化オリゴ糖、(糖)タンパク質または(糖)脂質を生産する段階;および
c.上記宿主細胞またはその増殖培地から、上記フコシル化オリゴ糖、(糖)タンパク質および/または(糖)脂質を単離する段階。
【0045】
本発明による上記方法において、上記ドナー基質はGDP−フコースであり得る。上記ドナー基質がGDP−フコースであれば、特に好ましい。
【0046】
本発明の1つの態様によると、上記アクセプター基質は、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルラクトサミン、ガラクトース、フコース、シアル酸、グルコース、ラクトースまたはそれらの任意の組み合わせから選択される。特に、ラクトースがアクセプター基質として好ましい。
【0047】
用語「基質」は、本明細書において用いる場合、本発明のポリペプチドによる作用を受けてフコシル化オリゴ糖、(糖)タンパク質または(糖)脂質を生じさせることができる、任意の材料または異なる材料の組み合わせを意味する。
【0048】
上記基質と上記α−1,2−フコシルトランスフェラーゼポリペプチドとを、酵素反応生成物の形成を可能にするのに十分な時間にわたって、十分な条件下で反応させる。これらの条件は、上記系が無細胞系であろうと、細胞に基づく系であろうと、基質および酵素の量および純度に依存して変わることとなる。これらの変数は、当業者によって容易に調整される。
【0049】
本発明による方法の1つの態様によると、上記ドナー基質は、それを宿主細胞内で生産させることにより段階bにおいて得られる。そうすると、例えば上記宿主細胞に添加することとなるフコースをGDP−フコースに変換する酵素が、上記宿主細胞において同時に発現される。この酵素は、例えば、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)からのFkpのような二機能性フコースキナーゼ/フコース−1−リン酸グアニリルトランスフェラーゼ、またはホモサピエンス、イノシシ(Sus scrofa)およびドブネズミ(Rattus norvegicus)をはじめとするいくつかの種から既知であるような、1つの個別のフコースキナーゼと1つの個別のフコース−1−リン酸グアニリルトランスフェラーゼとの組み合わせであり得る。
【0050】
あるいは、段階bにおいて、上記ドナー基質を上記培地/宿主細胞に添加してもよく、または上記ドナー基質が上記細胞自体の代謝によって生産されることもある。
【0051】
またさらなる実施形態において、本発明は、以下の段階を含む方法に関する:
a)i)添付の配列表からの配列番号1、ii)配列番号1に相補的な核酸配列、ならびにiii)i)およびii)で定義した核酸配列またはそれらの相補鎖にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸配列から選択される核酸配列を含むように形質転換またはトランスフェクトされた宿主細胞を適する栄養条件下で増殖させる段階であって、その結果、i)、ii)およびiii)から選択される上記核酸配列が、α−1,2−フコシルトランスフェラーゼ活性を有するペプチドとして発現されることとなる段階;
b)段階aと同時にまたは段階aの後に、フコース残基を含むドナー基質と、オリゴ糖、(糖)タンパク質または(糖)脂質を含むアクセプター基質とを提供する段階であって、その結果、上記宿主細胞において発現されたα−1,2−フコシルトランスフェラーゼが、該ドナー基質から該アクセプター基質へのフコース残基の転移を触媒し、それによってフコシル化オリゴ糖、(糖)タンパク質または(糖)脂質を生産する段階;および
c)上記宿主細胞またはその増殖培地から上記フコシル化オリゴ糖、(糖)タンパク質および/または(糖)脂質を単離する段階。
【0052】
本発明による上記方法において、宿主細胞で発現されるペプチドは、α−1,2−フコシルトランスフェラーゼ活性を提示し、したがって、ドナー、例えばグアノシン−二リン酸フコース(GDP−フコース)から、オリゴ糖、(糖)タンパク質および(糖)脂質を含むアクセプターへ、フコース残基を転移させる。このようにして、このようにフコシル化されたアクセプター基質を、ベビーフードの栄養補助のための食品添加物として、または治療活性化合物もしくは医薬活性化合物のいずれかとして使用することができる。この新規の方法を用いると、複雑で時間および費用がかかる合成プロセスの必要なく、フコシル化産物を容易かつ有効に得ることができる。
【0053】
本明細書において用いる場合、用語「単離する」は、本発明によるα−1,2−フコシルトランスフェラーゼによって生産された産物を遺伝子発現系から採取、回収または分離することを意味する。
【0054】
したがって、本発明はまた、本発明による方法によって得られるフコシル化オリゴ糖、(糖)タンパク質および/または(糖)脂質に関することはもちろん、フコシル化オリゴ糖、(糖)タンパク質および/または(糖)脂質の生産のための、ポリヌクレオチド、上記したようなベクターまたはポリペプチドの使用にも関する。
【0055】
さらに別の実施形態によると、上記フコシル化オリゴ糖、(糖)タンパク質および/または(糖)脂質の生産を、上記α−1,2−フコシルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドの異種または同種(過)発現によって行う。
【0056】
別の定義が無い限り、本明細書において用いるすべての技術および科学用語は、一般に、本発明が属する技術分野の当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。一般に、本明細書において用いる命名法、ならびに細胞培養、分子遺伝学、有機化学および核酸化学に関する実験手順、ならびに上記および下記のハイブリダイゼーションは、当該技術分野において周知の一般に用いられているものである。核酸およびペプチド合成には標準的技術を用いる。一般に、酵素反応および精製段階は、それらの製造者の仕様書に従って行われる。
【0057】
本発明は、本明細書に開示されているポリヌクレオチド配列の断片も包含する。
【0058】
さらなる利点は、本実施形態の説明および添付の図面から分かる。
【0059】
本発明の範囲を逸脱することなく、上述の特徴および以下でさらに説明する特徴を、それぞれ明記する組み合わせばりでなく他の組み合わせでも、または独自にでも用いることができることは、言うまでもない。
【0060】
本発明のいくつかの実施形態を図で示し、後続の記述でさらに詳細に説明する。