【文献】
Taro UEDA et al.,Zirconia-based amperometric sensor using La-Sr-based perovskite-type oxide sensing electrode for detection of NO2,Electrochemistry Communications,2009年,Vol.11,p.1654-1656
【文献】
Taro UEDA et al.,Amperometric-type NOx sensor based on YSZ electrolyte and La-based perovskite-type oxide sensing electrode,Journal of the Ceramic Society of Japan,2010年,Vol.118, No.3,p.180-183
【文献】
Sergei PISKUNOV et al.,Electronic structure and thermodynamic stability of LaMnO3 and La1-xSrxMnO3(001)surfaces:Ab initio calculations,physical review B,2008年,Vol.78,p.121406(R)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書の開示は、NOx応答性素子、当該素子の製造方法、NOxセンサ等に関する。本開示のNOx応答性素子は、酸素イオン伝導性層と、LaSrMn系ペロブスカイト材料相を有する第1の電極層と、第2の電極層と、を備え、前記第1の電極層のNOx暴露面に、NOxの吸着安定化面を有している。このため、NOxの分解効率が高まり、その結果、NOxの検出感度(応答性)やNOx選択性を向上させることができる。
【0011】
さらに、本開示のNOx応答性素子は、第1の電極層に関し、酸素イオン伝導性層側により緻密とすることで、NOxに対する選択性を高めることができる。また、本開示のNOxセンサは、第1の電極層に関し、NOx暴露面側においてペロブスカイト材料の粒子成長が抑制されるようにすることでNOxの分解効率を高めてNOx検出感度を高めることができる。
【0012】
本開示によれば、こうしたNOx応答性素子を製造する方法も提供される。すなわち、ペロブスカイト材料表面に対して吸着安定化面を形成し、緻密性を制御し、さらには、ペロブスカイト材料表面における粒子成長の抑制により、高感度なNOx応答性素子を製造することができる。
【0013】
図1に、本開示のNOx応答性素子(以下、単に本素子ともいう。)におけるNOx応答性の発現の概要を示す。本素子は、NOxによって発生する電流値をセンサ信号とする電流検出型センサとして機能することができる。すなわち、本素子は、NOxを高い選択性で第1の電極層で分解して得られるO
2をさらに、電気化学セルに供給された電力によって電気化学的に還元した結果として生じる酸素イオン(O
2-)を酸素イオン伝導性層を移動させて第2の電極層に到達させることができる。本素子はこの際生じる電流値をセンサ信号として取り出すものである。
【0014】
以下、本開示の各種実施形態について適宜図面を参照しながら説明する。
図2には、本素子の一例の概略を示す。
【0015】
(NOx応答性素子)
本素子2は、酸素イオン伝導性層10を挟んで対向する第1の電極層20と第2の電極層40とを備えている。さらに、本素子2は、第1の電極層20から第2の電極層40への酸素イオン(O
2-)を移動可能な電気化学セルの構成を採ることができる。
【0016】
本素子2が応答対象とするNOxは、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO
2)、亜酸化窒素(一酸化二窒素)(N
2O)、三酸化二窒素(N
2O
3)、四酸化二窒素 (N
2O
4)、五酸化二窒素(N
2O
5)など窒素酸化物を包含している。なかでも、本素子2は、一酸化窒素及び二酸化窒素の少なくとも一方、好ましくは双方を分解対象とすることが好ましい。
【0017】
本素子2に適用されるNOx含有ガスは、NOxを含んでいれば足り、各種の燃焼ガス等を対象とすることができる。なかでも、大気汚染物質の主たる原因の一つと考えられている自動車等の各種移動体の排気ガスをNOx含有ガスとすることが好ましい。
【0018】
(酸素イオン伝導性層)
酸素イオン伝導性層20は、酸素イオン伝導性を有するものであれば特に制限なく使用することができる。酸素イオン伝導性材料としては、例えば、ジルコニア系固体電解質(典型的にはZrO
2−M
2O
3固溶体又はZrO
2−MO固溶体:ここでMはY,Yb,Gd,Ca又はMgであることが好ましい)、セリア系固体電解質(典型的にはCeO
2−M
2O
3固溶体又はCeO
2−M固溶体:ここでMはY又はSmであることが好ましい)、酸化ビスマス系固体電解質(典型的にはBi
2O
3−WO
3固溶体)、あるいはぺロブスカイト型構造のLaGaO
3系化合物が挙げられる。自動車等の内燃機関(エンジン)からの排ガスをNOx含有ガスとした場合の安定性と酸素イオン伝導性の観点からジルコニア系固体電解質が好ましい。なかでも、全体の3〜10mol%となる量のイットリア、マグネシア又はカルシアが固溶した安定化ジルコニアが特に好ましい。
【0019】
(第1の電極層)
第1の電極層20は、酸素イオン伝導性層10に接して(密着して)、NOx暴露側に備えられている。第1の電極層20は、NOxを分解するための分解極として機能する。第1の電極層20は、酸素イオン伝導性と電子伝導性との双方を有し、かつ、NOx分解触媒活性を有している1種又は2種以上の材料からなるNOx分解触媒相22(以下、単に触媒相22という。)をNOx暴露側に有している。第1の電極層20は、好ましくは触媒相22のみからなり、NOx含有ガスに暴露される表層に何ら被覆層を有しない。こうした触媒相22は、例えば、2種類以上の材料を用いて構成してもよいが、好ましくは、単一材料でこれらを充足する材料を用いて構成する。
【0020】
触媒相22は、例えば、酸素イオン伝導性材料と電子伝導性材料とNOx分解触媒活性材料とから形成されていてもよいが、好ましくはペロブスカイト型酸化物を有し、より好ましくは、ペロブスカイト型酸化物を主体とし、さらに好ましくは実質的にペロブスカイト型酸化物のみからなる。ペロブスカイト型酸化物は、酸素イオン伝導性と電子伝導性との双方を有し、かつ、NOx分解触媒活性を有している。このため、上記事象が高い酸素濃度下でもNOxに対して高い選択性で生じると考えられる。この結果、高い酸素濃度下でも十分な選択的分解能と応答速度とを確保できると考えられる。
【0021】
第1の電極層20がこうしたペロブスカイト型酸化物を含む触媒相22を有していることで、第1の電極層20がNOx含有ガスに暴露され、本素子2に電圧が印加され第1の電極層20に電子が流入されるとき、以下の事象が生じる。以下の事象はペロブスカイト型酸化物に共通するものと考えられる。
【0022】
(1)外部回路から第1の電極層20に電子が流入されることで、ペロブスカイト型酸化物の触媒相22に電子が拡散される。
(2)NOx含有ガスに暴露された触媒相22は吸着しているNOxを優先的に電子と反応させ還元(分解)する。この還元によって生じた混合導電性であるO
2-は触媒相22を拡散し、さらに、酸素イオン伝導性層10に到達し、拡散し、第2の電極層40に到達する。
【0023】
ペロブスカイト型酸化物は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ペロブスカイト型酸化物は、ABO
3で表され、Aは、それぞれ希土類元素、アルカリ土類金属元素及びアルカリ金属元素から選択される2種以上の元素を表す。分解機能に寄与する酸素空孔の形成を考慮すると、前記AはLaのほか、Sr、Mg、Ca及びBaから選択される1種又は2種以上を表していることが好ましい。酸素空孔の安定性を考慮すると、前記Aは、La、Sr及びMgから選択されることが好ましい。また、酸素空孔量を考慮すると、Aとして価数の異なる元素を2種類含むことが好ましい。例えば、価数の大きな元素のモル%が価数の小さい元素のモル%よりも大きいことが好ましい。より具体的には、Aがより価数の大きな元素A1とより価数の小さい元素A2で表されるペロブスカイト型酸化物A1pA2qBO
3であるとき、pは0.6以上0.8以下であることが好ましく、qは0.2以上0.4以下であることが好ましい。A1は好ましくは、価数3の金属元素であり、典型的にLaである。また、A2は価数2の金属元素であり、典型的にはSr及びMgである。
【0024】
前記Bは、Al、Ni、Fe、Co、Mn、Cr及びCuからなる群から選択される1種又は2種以上を表すことが好ましい。Bとして2種類以上の元素を有するペロブスカイト型酸化物においては、これらの元素の組み合わせは、耐久性や酸素イオン伝導性や電子伝導性、触媒活性を考慮して決定されるが、好ましくは、Ni、Fe、Co及びMnから選択される1種又は2種以上が挙げられる。また、Bは、Alを含んでいなくてもよいが、AlをB元素として含むことで、例えば、750℃近傍の高温でかつ還元雰囲気下での構造安定性を維持でき、NOx分解触媒能を維持できる。
【0025】
ペロブスカイト型酸化物としては、La−Sr−Ni−Oペロブスカイト酸化物、La−Sr−Fe−Oペロブスカイト酸化物の他、La−Sr−Co−Oペロブスカイト酸化物、La−Sr−Mn−Oペロブスカイト酸化物、La−Sr−Co−Mn−Oペロブスカイト酸化物を含むペロブスカイト型酸化物La
xSr
1-xCo
yMn
1-yO
3(0<x<1、0≦y≦1)が挙げられる。
【0026】
Bとして2種類以上の元素を有するペロブスカイト型酸化物においては、これらの元素の組み合わせは、耐久性や酸素イオン伝導性や電子伝導性、触媒活性を考慮して決定されるが、Alを含む場合、Alは、50モル%以上100モル%以下であることが好ましい。Al以外の1種又は2種以上の元素は、触媒活性の観点からCo及びMnとすることが好ましい。その場合、Alは、含まれる元素のモル%(y)は60モル%以上100モル%未満であることが好ましく、また、残余の元素の総モル%(1−y)は、好ましくは、0モル%超40モル%以下である。
【0027】
こうしたペロブスカイト型酸化物は、典型的には、La−Sr−Al−Oペロブスカイト型酸化物を含む、La−Sr−Al−C−Oペロブスカイト酸化物を含むペロブスカイト型酸化物La
xSr
1-xAl
yC
1-yO
3(Cは、Ni、Fe、Co、Mn、Cr、Cu,Rh及びVからなる群から選択される1種又は2種以上を表し、0<x<1、0<y≦1)が挙げられる。このペロブスカイト型酸化物La
xSr
1-xAl
yC
1-yO
3において、0.6≦x≦0.8であり、0.6≦y≦1であることがより好ましく、さらに好ましくは0.6≦y≦0.8である。
【0028】
なお、第1の電極層20は、触媒相22による、選択的NOx分解能を損なわない範囲で、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、及びロジウム(Rh)等の貴金属を含んでいてもよい。
【0029】
(NOx吸着安定化面)
本素子2は、触媒相22のNOx暴露面にNOx吸着安定化面24を有している。上述のように、触媒相22におけるNOxの分解は、NOxの触媒相22への吸着に基づいている。したがって、吸着安定化面24を備えることで、NOxの分解効率及びNOxの選択性(O
2に対する)が向上される。
【0030】
NOx吸着安定化面24は、触媒相22を構成する材料に応じて設定される。吸着安定化面24は、触媒相22の構成材料の結晶構造に含まれる複数の端面から選択される。吸着安定化面24は、実験的に選択することができる。例えば、異なる端面が触媒相22の表層に露出されるように触媒相22を合成して第1の電極層20を構成し、NOx及びO
2の吸着脱離試験(Temperature Programmed Desorption;TPD)を行って、分子の脱離状況等から最もNOxの吸着を安定化できる端面を選択してもよい。さらに、全体として本素子2を構成して、NOx応答感度や選択性を評価して最もNOxの吸着を安定化できる端面を選択してもよい。さらにまた、第1原理計算を用いてTPDを行い、NOx吸着時において吸着エネルギー(ガスが表面に吸着することで得る(失う)エネルギー)が低くなる端面を選択してもよい。
【0031】
第一原理計算を用いる場合、密度汎関数理論に基づく電子状態計算パッケージVASP(VASP(Vienna Ab initio Simulation Package(http://www.vasp.at/)、G. Kresse and D. Joubert. “From ultrasoft pseudopotentials to the projector augmented-wave method” Phys. Rev. B, 59:1758 (1999))(ウィーン大学J. Hafner教授らによって開発されている商用ソフトウェア)を用いることができる。
【0032】
手法としては、平面波基底]のPAW法(PAW(Projector Augmented Wave)法: Blochlによって開発された原子間結合にあまり寄与しない内殻電子を取り扱う方法。P. E. Blochl,”Projector augmented-wave method”, Phys. Rev. B 50, 17953 (1994).)に基づく計算手法を用い、電子の交換相関相互作用計算にはPBE-GGA (PBE-GGA (Perdew - Burke - Ernzerhof generalized gradient approximation, PBE一般化勾配近似): Perdewらによって開発された電子間の相互作用を量子力学の枠組みで扱うための近似方法、Perdew, J. P.; Burke, K.; Ernzerhof, M. “Generalized Gradient Approximation Made Simple”. Phys. Rev. Lett. 77, 3865 (1996).)を用い、平面波カットオフエネルギーには500eV, Mnのd軌道に対してDFT+U法(DFT+U法: PBE-GGAでは表現できないMnのd軌道電子の相互作用について補正を加える方法である。 S. L. Dudarev, G. A. Botton, S. Y. Savrasov, C. J. Humphreys A. P. Sutton, “Electron-energy-loss spectra and the structural stability of nickel oxide: An LSDA+U study”, Phys. Rev. B 57, 1505 (1998).
)を用いた(U=3.4eV)。
【0033】
安定構造(エネルギー)を求めるため、共役勾配法による構造最適化アルゴリズムを用い、各原子に働く力が0.01eV/A以下に収束するまで構造最適化を行った。なお、共役勾配法とは、エネルギーの極小値を探索するための方法である。エネルギーを最小化するためには、第1に各原子に働く力を計算し、第2にそれがゼロになる方向に原子を動かす、というステップを繰り返す必要がある。共益勾配法では注目しているステップでの力だけでなく、前のステップでの力の情報も利用して動かす方向を決めることでエネルギー最小化を高速にすることができる。
【0034】
第1原理計算では、吸着安定化面を探索するためのバルクモデルを選択する。以下、バルクモデルとして、ペロブスカイト型酸化物La0.75Sr0.25MnO3を用いた場合について説明する。
【0035】
バルクのモデルから、例えば、MnO
2終端表面とLaO終端表面の2つのタイプの(001)表面モデルなどの対比すべき表面モデルを切り出して作成する。なお、この例において、表面モデルには5原子層のスラブ系を用いており、立方晶ペロブスカイト(001)表面に対して2√2x2√2(8倍)の広さに相当する表面の大きさを用いることができる。
【0036】
このバルクモデルに対するNOとO
2分子の吸着エネルギーの比較により、吸着選択性を調べる。NOとO
2の吸着エネルギーの温度、ガス分圧依存性はJANAF-NIST Thermochemical Tables(NIST-JANAF Thermochemical Tables: NIST(National Institute of Standards and Technology, アメリカ合衆国の国立標準技術研究所)から公開されている熱力学データベースである。 Linstrom PJ, Mallard WG (Eds.). NIST Chemistry WebBook, NIST Standard Reference Database Number 69, National Institute of Standards and Technology, http://webbook.nist.gov, (retrieved July 7, 2013))から計算することができる。ガス分圧は適宜設定することができるが、例えば、ほぼ大気におけるO
2ガス分圧を想定し、ガス分圧はO
2=0.2atm, NOを1000ppm に対応する10
-3atm以下で計算することができる。
【0037】
例えば、上記したペロブスカイト型酸化物の表面モデルに対するNO及びO
2で計算したところ、T<1000℃の温度領域において、MnO
2終端表面ではNOの吸着が選択的に起きやすいのに対して、LaO終端表面ではNOはO
2より吸着しにくいという結果が得られている。
【0038】
以上のことから、LaSrMn系のペロブスカイト型酸化物からなる触媒相22の吸着安定化面24は、MnO
2面とすることができる。他のペロブスカイト型酸化物においても、同様に、実験的にあるいは第1原理計算により、その触媒相22の吸着安定化面24を決定することができる。
【0039】
特定の組成の吸着安定化面24は、例えば、X線光電子分光法(XPS)等により確認することができる。
【0040】
このような吸着安定化面24を備える触媒相22は、既に公知のセラミックスの表面構造における知見や実験を行うことによって特定組成の端面を取得する焼成条件に基づいて触媒相22を合成することにより得ることができる。例えば、LaMnO系ペロブスカイト型酸化物の場合、文献(S. Piskunov et al., "Electronic structure and thermodynamic stability of LaMnO3 and LaSrMnO3 (001) sufaces: Ab intio caluculatoins ", Phys. Rev. B78, 12406(R)(2008))等に基づいて、MnO
2終端面を得られやすい条件を理解することができる。すなわち、LaMnO系ペロブスカイト型酸化物の場合、酸素分圧が0.01気圧以上1気圧以下、530℃以上1300℃以下の条件で焼成することにより、MnO
2終端面を得られやすくなる。より好ましくは、750℃以上1100℃以下であり、さらに好ましくは800℃以上1000℃以下である。また、酸素分圧は、より好ましくは0.1気圧以上であり、さらに好ましくは大気条件である0.2気圧以上である。
【0041】
また、こうした焼成条件によりペロブスカイト型酸化物の触媒相22ないしは第1の電極層20を薄膜(1000nm以下程度の)として形成するには、例えば、以下のような方法を採用できる。すなわち、La、Sr、Mn等の構成成分の各塩(酢酸塩、プロピオン酸塩などの有機酸塩又は硝酸塩などの無機酸塩等)の水性溶液を調整し、酸素イオン伝導性層に対してスピンコーティング等により成膜後、焼成してセラミックス膜を合成する。その際、膜としての均一性及び緻密性を確保するには、適切な安定化剤を添加して、粒子凝集を抑制することが好ましい。こうした安定化剤としては、特に限定しないが、アミノエタノール、アセトインが好ましく用いられる。また、水性液の媒体としては、2−エトキシエタノールなどが好ましく用いられる。
【0042】
ペロブスカイト型酸化物の触媒相22は、原料溶液を酸素イオン伝導性層10(又はその材料層)に塗布し、乾燥(例えば、500℃程度)する成膜ステップを行い、その後、上述の焼成条件による焼成ステップを行うことで得ることができる。成膜ステップを1回以上適数回繰り返した後に、焼成ステップを行うことが好ましい。さらに、こうした成膜ステップ及び焼成ステップからなる触媒相形成ステップのセットを1回又は2回以上、好ましくは3回以上、必要な緻密性や膜厚を得る程度に実施することで得ることができる。
【0043】
触媒相22は、全体として均一な緻密質であることも好ましいが、触媒相22は、酸素イオン伝導性層10側においてより緻密質であり、暴露側において緻密質性が低い(すなわち、多孔質性が高い)ことが好ましい。これにより酸素に対する応答性を低下して結果としてNOxに対する選択応答性を高めることができる。触媒相22の均一な緻密質化及び緻密性の酸素イオン伝導性層10側への傾斜化は、例えば、酸素イオン伝導性層10に対して上記原料溶液を供給し成膜後に焼成することを複数回繰り返すことで、各膜毎にペロブスカイト型酸化物を合成し焼結させることで、結果として、全体として緻密性を高めるとともに均一化することができる。また、酸素イオン電導性層10側においてより焼成回数が高まって緻密性が高まることとなる。
【0044】
触媒相22におけるこうした緻密性の傾斜は、触媒相22の断面等の電子顕微鏡写真等によりその気孔率を測定することにより確認できる。
【0045】
触媒相22は、また、NOx暴露面側において、ペロブスカイト型酸化物の粒子成長が抑制されていることが好ましい。これにより、暴露面側において触媒相22の比表面積を拡大することができる。換言すれば、触媒相22は、NOx暴露面側において比表面積が大きいかあるいは気孔率が高いことが好ましい。これにより、酸素に対する応答性増大を抑制してNOxに対する応答性を増大させることができ、結果としてNOxに対する応答性及び選択性を向上させることができる。
【0046】
NOx暴露面側におけるペロブスカイト型酸化物の粒子成長の抑制は、例えば、触媒相22の断面等を電子顕微鏡等で確認することにより確認することができる。
【0047】
触媒相22のNOx暴露面側におけるペロブスカイト型酸化物の粒子成長の抑制は、原料溶液の焼成条件を上記した焼成条件の範囲内において低温側で行うことで実現できる。具体的には、700℃以上900℃以下で焼成することが好ましく、より好ましくは750℃以上850℃以下程度である。
【0048】
以上説明したことから、本素子2の第1の電極層20の触媒相22は、NOx暴露面にNOx吸着安定化面24を有し、NOx暴露面側においてペロブスカイト型酸化物の粒子成長が抑制されており、酸素イオン伝導性層40側においてより緻密化されている。
【0049】
(第2の電極層)
第2の電極層40は、酸素イオン伝導性層10を介して第1の電極層20と対向するように酸素イオン伝導性層10に接して(密着して)備えられている。第2の電極層40は、分解極としての第1の電極層10の対極であり、基準電極又は参照電極として機能する。第2の電極層40は、電子伝導性であれば足り、その構成材料は特に限定されない。電子伝導性材料としては、白金族元素に属する貴金属(典型的にはPt、Pd、Rh)、それ以外の貴金属(典型的にはAu、Ag)、高導電性の卑金属(例えばNi)が挙げられる。また、それらのいずれかの金属をベースとする合金(例えばPt−Rh、Pt−Irなど)が挙げられる。さらに、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化銅、ランタンマンガンナイト、ランタンコバルタイト、ランタンクロマイト等の金属酸化物も挙げられる。第2の電極層40は、こうした電子伝導性材料の1種又は2種以上を含むことができる。また、第2の電極層40は、酸素イオン伝導性材料を含んでいてもよい。酸素イオン伝導材料としては、酸素イオン伝導性層10に使用するのと同様の材料を使用することができる。例えば、イットリア又は酸化スカンジウムで安定化したジルコニアや酸化ガドリニウム又は酸化サマリウムで安定化したセリア、ランタンガレイト等が挙げられる。第2の電極層40の電子伝導性や酸素イオン伝導性層10との密着性とのバランス等を考慮すると、第2の電極層40の酸素イオン伝導性材料は、当該極層40の全体の質量の0質量%超10質量%以下の範囲とすることが好ましく、より好ましくは1質量%以上5質量%以下である。
【0050】
(NOx応答性素子の製造方法)
以上説明した本素子は、概して常法により製造することができる。すなわち、本素子の製造方法は、酸素イオン伝導性材料からなる酸素イオン伝導性層を形成する工程と、酸素イオン伝導性層に対してペロブスカイト型酸化物材料からなる触媒相を有する第1の電極層を形成する工程と、を備えることができる。第2の電極層は、予め酸素イオン伝導性相に形成してもよいし、第1の電極層形成後に付与してもよい。また、酸素イオン伝導性層、第1及び第2の電極層の焼成は、必要に応じて適宜行うことができる。
【0051】
本製造方法においては、本素子を得るために、触媒相の表面に吸着安定化面を形成するように第1の電極形成工程を実施するようにする。吸着安定化面及びその形成方法については既に述べた本素子の実施態様を適用することができる。したがって、LaSrMn系ペロブスカイト材料の原料を焼成して触媒相を形成する場合には、MnO
2を形成するようにすることができる。
【0052】
第1の電極形成工程では、また、触媒相を酸素イオン伝導性層側においてより緻密になるように実施することが好ましい。触媒相をかかる緻密性を付与することの利点及びその形成方法については既に説明した本素子の実施態様を適用することができる。
【0053】
さらにまた、第1の電極形成工程では、触媒相のNOx暴露面側においてペロブスカイト型酸化物材料の粒子成長が抑制されるように実施することが好ましい。触媒相における粒子成長形態を付与することの利点及びその形成方法については既に説明した本素子の実施態様を適用することができる。
【0054】
(NOxセンサ)
本開示によれば、本素子を備えるNOxセンサも提供される。本NOxセンサは、本素子に対して、電圧が印加可能な構成とされる。本NOxセンサは、さらに、NOxセンサにおいて検出される電流値を検出する電流検出ユニットを備えていてもよいし、NOx含有ガスに接触して検出された電流値に基づいてNOx含有濃度を算出可能な制御ユニットを備えていてもよい。
【0055】
また、本NOxセンサは、第1の電極層10の触媒相22がNOx含有ガスに直接暴露されるように構成され、第2の電極層40は、第1の電極層20が暴露されるNOx含有ガスとは遮断された状態又は遮断可能な状態に構成されることが好ましい。第2の電極層40をNOx含有ガスから遮断するための隔壁は、NOxセンサの使用温度域において十分な絶縁性及び耐熱性を有する材料が使用されることが好ましい。例えば、アルミナ、マグネシア、ムライト、コーディエライト等のセラミックス材料が挙げられる。
【0056】
本NOxセンサは、本素子の温度を制御する温度制御ユニットを備えることができる。温度制御手段を備えることにより、酸素イオン伝導性層10のイオン伝導性やNOx(例えば、NO
2)のO
2に対する選択率を適切に調節することができる。温度制御ユニットは、例えば、本素子又はその近傍を加熱又は冷却するための加熱(又は冷却)手段あるいはこれらの双方と、本素子又はその近傍の温度を検出するための温度センサと、温度センサからの信号に基づき本素子等の温度を制御するための制御信号を出力する制御回路とを備えることができる。
【0057】
温度制御手段は、特に限定されないで、各種公知の手段を用いることができる。温度制御手段による温度制御は、NOxを分解できる限り、特に限定されない。本発明のNOx分解装置2の電気化学セル10は、400℃以上800℃以下で安定に作動できる。NOx選択率を考慮すると、電気化学セル10又はその近傍の温度を750℃以下に制御するものであることが好ましい。より好ましくは700℃以下であり、さらに好ましくは600℃以下である。600℃以下であると、NOx選択率を70%以上とすることができる。さらに、NOx選択率を考慮するとより好ましくは550℃以下である。一方、酸素イオン伝導性層10のイオン伝導性を考慮すると、450℃以上とすることが好ましく、より好ましくは500℃以上である。本素子における好ましい温度は、450℃以上700℃以下であり、さらに好ましくは、450℃以上650℃以下であり、さらに好ましくは500℃以上600℃以下である。
【0058】
本NOxセンサは、種々のNOxセンシング態様を採り得る。典型的には、酸素イオン伝導性層10の酸素イオン伝導性を発揮させる程度の温度の雰囲気下で、第1の電極層20と第2の電極層40に電圧を印加して、第1の電極層10をNOx含有ガスに暴露して、直接NOx含有ガス中のNOxを分解することでNOxをセンシングする態様(直接検知型)が挙げられる。本素子は、高酸素濃度下でもNOxを選択的に分解し、かつNOxに対して高感度であるため、予め酸素濃度が所定範囲に制御されていないNOx含有ガス中のNOxをセンシングできる。本NOxセンサに適用できるNOx含有ガスの酸素濃度は特に限定しないが、0.5%以上であることが好ましく、1%以上であることがより好ましい。さらに、5%以上とすることができる。より好ましくは10%以上であり、さらに好ましくは15%以上である。また、上限も特に限定しないが、大気中の酸素濃度である21%以下であることが好ましい。
【0059】
一方、触媒相が暴露されるNOx含有ガスのNOx濃度、すなわち、1種又は2種類以上の各種の窒素酸化物ガスの総濃度は、1000ppm以下であってもよく、少なくとも10ppm以上であることが好ましい。
【0060】
NOxセンシングに際して、本素子に印加される電圧は、具体的には第1の電極層20に電子を供給するように外部回路から電圧を印加する。印加電圧の大きさ(絶対値)は特に限定しないが、例えば、1V以下程度の電圧とすることができる。より好ましくは、100mV以下とすることができる。
【0061】
本NOxセンサは、還元雰囲気下でも、触媒相22のペロブスカイト型酸化物の構造を安定に維持でき、NOx選択的分解能を発揮でき、NOxをセンシングできる。還元雰囲気とは、還元性ガスを主体とする雰囲気をいう。還元性ガスは、SO
2、H
2S、CO、NO、CO等が挙げられる。典型的には、一酸化炭素(CO)、炭化水素類(HCs)を主体として含む雰囲気が挙げられる。また、本NOxセンサは、800℃近傍の高温の還元雰囲気においても、その構造を安定的に維持できる。こうした還元雰囲気は、例えば、自動車など移動体のエンジンなどにおいて発生しうる環境である。また、こうした還元雰囲気は、空燃比が燃料リッチな状態において発生しやすい。したがって、本NOxセンサは、各種移動体のエンジンの排ガスのNOxセンサ等に好ましく適用できる。
【0062】
なお、本NOxセンサは、NOxを分解してNOxを検出する本素子を備えるものであるため、それ自体NOx分解装置としても利用できる。
【0063】
(NOxセンサによるNOxのセンシング方法)
本開示によれば、本NOxセンサによるNOxのセンシング方法も提供される。本センシング方法は、本NOxセンサをNOx含有ガスに暴露して、NOxをセンシングする工程を備えることができる。本センシング工程は、既に説明したNOxセンサにおける各種態様で実施することができる。なお、本センシング方法は、NOxの分解方法としても実施できる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定するものではない。
【実施例1】
【0065】
以下の実施例では、NOx応答性素子を作製し直接分解型NOxセンサを作製した。作製したNOxセンサを用いて以下の条件でNOxを分解し測定した。すなわち、ペロブスカイト型酸化物を第1の電極層の触媒相に用いた素子を作製して、この素子を電気炉付きのガラス管の中に導入し、以下の表に示すガスを流通し、ポテンシオスタットを用いて分解極と対極との間に電位差を印加し電流値を読み取った。なお、素子は以下のようにして作製した。
【0066】
(1)酸素イオン伝導性層(YSZペレット)の作製
YSZ粉末(8mol%のY
2O
3を固溶させたジルコニア、東ソー株式会社製)を直径10mmの錠剤成型器を用いて一軸加圧成形後、冷間等方圧加圧(CIP)し、大気雰囲気下1530℃で2時間焼成することで直径約9mm、厚さ1mmのペレットを作製した。
【0067】
(2)第1の電極層(分解極)と第2の電極層(対極)の作製
次いで、La(NO
3)・6H
2O、Mn(COOH)
2・4H
2O及びSr(O(C
3H
7)
2))をLaSrMn系ペロブスカイト型酸化物における当モル量を含み、かつエタノールアミン、アセトインを分散剤として使用し、2−メトキシメタノールを溶媒とする原料溶液を調製した。原料溶液は、La:0.08、Sr:0.02、Mn:0.1mol/lとし、エタノールアミン:0.2、アセトイン:0.1mol/lとした。また、各無機原料をメトキシエタノールに溶解した後、エタノールアミン、アセトインを添加して、原料溶液とした。
【0068】
この原料溶液を用いて、以下の条件でスピンコーティングにより作製したYSZペレットの片面に塗布し、乾燥し、焼成した。さらに、YSZペレット反対面には白金ペースト(TR7095、田中貴金属株式会社製)を直径3mmのスクリーンを用いて印刷して、各種の素子試料を作製した。なお、触媒相の厚みは、50〜500nmとするとともに、YSZペレットとNOx含有ガスとの接触を遮断できるようにした。
【0069】
【化1】
【0070】
【化2】
【0071】
【化3】
【0072】
(3)集電体取り付け
得られた素子の分解極表面に、
図2に示す態様でPt線をPtペースト(TR7905、田中貴金属株式会社製)で接合し、大気中、1000℃で2時間焼き付けて、集電体及びリード線を付設した。
【0073】
(4)マグネシア管の取り付け
分解極と対極とをNOx含有ガスに対して区画するための隔壁としてマグネシア管(MgO、外径×内径×長さ=6mm×4mm×350mm)を用いた。マグネシア管を、
図2に例示するような形態で、検知極と対極とが異なるガス雰囲気にさらされるように無機系接着剤を用いて電気化学セルに接合し、直接分解型NOx分解装置とした。
【0074】
(5)NOx含有ガスの準備
ベースガス及びNOx含有ガスを準備した。ベースガスは、空気組成を模倣した合成空気とし、NOx含有ガスは、500ppmのNO
2をベースガスで希釈して調製した。これらのガスは、純酸素(O
2)、純窒素(N
2)、1000ppm二酸化窒素(NO
2、純窒素と1000ppm(0.1%)のNO
2の混合ガス)のガスボンベを用いてマスフローメーターを用い、それぞれのボンベ流量を調整することで濃度を調節して準備した。
【0075】
(6)測定方法
作製した素子を、
図3に例示する態様で、フランジ付きのガラス管の中に入れ、ベースガスを流し、その後、NOx含有ガスに切り替えて流通させ、ガスの流通にあたり、ポテンシオスタットを用いて分解極と対極との間に電位差を印加し、電流値を読み取った。なお、ガスの流通は、ヒーターを用いて500℃又は600℃に昇温した状態で行い、流速はマスフローメーターを用いて100cm
3/分、印加電位差は0〜50mVとした。
【0076】
(7)結果
結果を
図4〜
図6に示す。
図4に示すように、試料1(大気中で焼成した場合)と、試料2(低O2雰囲気で焼成した場合)とでは、いずれの作動温度であっても、大気中焼成試料において、高いNOx感度と選択性を示した。大気中焼成条件は、LaSrMnの終端面がMnO
2となる条件であり、低O
2雰囲気焼成条件は、LaO面が終端面となる条件である。これらの条件の相違による終端面の相違においては、XPSにて確認することができた。以上のことから、MnO2を終端面とすることで、NOxに対する良好な感度と選択性を得ることができることがわかった。また、大気中焼成条件などの酸素リッチな条件がMnO
2面を形成するのに好ましいことが確認できた。
【0077】
また、
図5に示すように、試料3(複数回焼成)と試料4(一回焼成)とを比較すると、複数回焼成条件の場合、NOxに対する感度も選択性も優れていることがわかった。試料3と試料4の分解極との断面を電子顕微鏡観察にて比較すると、試料3において、YSZ側においてより緻密質になっていることがわかった。以上のことから、酸素イオン伝導性側において緻密質とすることで、NOxに対する感度も選択性も向上することがわかった。
【0078】
さらに、
図6に示すように、試料5(3回の焼成のうち最終焼成を800℃とする)と試料6(全て1000℃焼成)とを比較すると、最終焼成を800℃とした場合、NOxに対する感度も選択性も優れていることがわかった。試料5と試料6との分解極の断面を電子顕微鏡観察にて比較すると、試料5において、NOxガス暴露側において、LaSrMnのYSZ側においてより緻密質になっていることがわかった。以上のことから、酸素イオン伝導性層側において緻密質とすることで、NOxに対する感度も選択性も向上することがわかった。
【0079】
NOx含有ガスを供給すると、NOx分解電流値は、ベースガス供給時に比べて約10倍となり、電力消費効率は93.4%を示した。また、上記条件及び得られた電流値によれば、5μAの分解電流が得られたことがわかった。このNOx分解条件及び結果を、典型的な排ガス(2000ccエンジン、2m
3/分、500ppmNO)を500cm
2の電極面積を有する電気化学セルで分解した場合に適用する、NOの分解率を算出した。その結果、本発明の電気化学セルによると、上記典型的な排ガス中の98.8%のNOを分解浄化可能であることがわかった。
【0080】
以上の実施例から、本発明のNOx分解装置によれば、大過剰の酸素存在下でも、その影響を抑制して高い電力使用効率でNOxを選択的に分解できることがわかった。