特許第6155255号(P6155255)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6155255
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】FZD10結合性ペプチド
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20170619BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20170619BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20170619BHJP
   A61K 38/08 20060101ALI20170619BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20170619BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20170619BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20170619BHJP
   A61K 49/14 20060101ALI20170619BHJP
   A61K 51/08 20060101ALI20170619BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20170619BHJP
   C07K 14/715 20060101ALN20170619BHJP
【FI】
   C07K7/06ZNA
   C07K7/08
   C12Q1/04
   A61K38/08
   A61K38/10
   A61P35/00
   A61K49/00
   A61K49/14
   A61K51/08
   G01N33/574 D
   !C07K14/715
【請求項の数】13
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2014-511166(P2014-511166)
(86)(22)【出願日】2013年4月5日
(86)【国際出願番号】JP2013060465
(87)【国際公開番号】WO2013157410
(87)【国際公開日】20131024
【審査請求日】2016年3月15日
(31)【優先権主張番号】特願2012-93982(P2012-93982)
(32)【優先日】2012年4月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000173588
【氏名又は名称】公益財団法人がん研究会
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯森 祐介
(72)【発明者】
【氏名】山形 瑞恵
(72)【発明者】
【氏名】塩野 智隆
(72)【発明者】
【氏名】芝 清隆
【審査官】 福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−526891(JP,A)
【文献】 特表2010−509368(JP,A)
【文献】 特表2008−509076(JP,A)
【文献】 特開2011−193728(JP,A)
【文献】 特開2011−217608(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/010031(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
C12Q 1/00−3/00
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記式(1)で表されるアミノ酸配列を有するアミノ酸数11〜18のペプチド。
【化1】
(式中、X1Leu又はMetを示し、
2はPro、Val、Ile、Met又はLeuを示し、
3はSer又はAlaを示し、
4はLeu、Met、Phe又はTrpを示し、
5はHis又はAlaを示し、
6はMet又はAlaを示し、
7はTyr又はPheを示す。)
【請求項2】
少なくとも下記式(2)で表されるアミノ酸配列を有し、アミノ酸数が12〜18である請求項1記載のペプチド。
【化2】
(式中、XaはArg、Lys、His、Asn、Gln、Ser、Thr、Asp、Glu又はAlaを示し、X1〜X7は前記と同じ)
【請求項3】
FZD10結合性を有する請求項1又は2に記載のペプチド。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のペプチド又はその標識体を含有する医薬。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のペプチド又はその標識体を含有する癌細胞又は癌組織検出薬。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のペプチド又はその標識体を含有する癌診断薬。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のペプチド又はその標識体を含有する癌治療薬。
【請求項8】
癌細胞又は癌組織を検出するための、請求項1又は2に記載のペプチド又はその標識体。
【請求項9】
癌診断のための、請求項1又は2に記載のペプチド又はその標識体。
【請求項10】
癌治療のための、請求項1又は2に記載のペプチド又はその標識体。
【請求項11】
癌細胞又は癌組織検出薬製造のための、請求項1又は2に記載のペプチド又はその標識体の使用。
【請求項12】
癌診断薬製造のための、請求項1又は2に記載のペプチド又はその標識体の使用。
【請求項13】
癌治療薬製造のための、請求項1又は2に記載のペプチド又はその標識体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Frizzled−10(FZD10)に特異的に結合するペプチド及びこれを含有する医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
FrizzledタンパクはWntタンパク質リガンドに対する結合部位を有するGタンパク質結合受容体のファミリーである。遺伝子解析から、これまで18種のWnt遺伝子および10種のFrizzled遺伝子(FZD1〜FZD10)が同定されており、これらは全て構造的に高度に類似していることが明らかになっている。
Frizzledタンパクは7回膜貫通型タンパクであり、N末端に細胞外システインリッチドメインを有する。このシステインリッチドメインがWntリガンドの結合部位である。WntリガンドとFrizzled受容体との結合は必ずしも一対一ではなく、一種のWntリガンドが複数種のFrizzled受容体と、一種のFrizzled受容体に複数種のWntリガンドが結合することが確認されている。
【0003】
WntリガンドとFrizzled受容体との結合によりWntシグナル伝達経路が活性化されると言われている。Wntシグナル伝達経路にはβ−カテニン経路を活性化させるものと、β−カテニンを介さない経路が数種存在し、WntリガンドとFrizzled受容体の組み合わせによって異なる経路を活性化しているものと考えられている。
受容体結合により活性化されたWnt/β−カテニンシグナル伝達経路は、Frizzled受容体と直接相互作用する細胞質タンパク質であるDishevelled(Dsh)によって仲介されて、β−カテニンの細胞質での安定化および蓄積をもたらす。Wntシグナルが存在しない場合、β−カテニンは腫瘍抑制タンパク質である大腸腺腫様ポリポーシス(APC)およびオーキシンを含む細胞質の分解複合体に局在する。これらのタンパク質はグリコーゲン合成酵素キナーゼ(GSK)−3βがβ−カテニンに結合してリン酸化し、これをユビキチン/プロテアソーム経路を介した分解用に指定するための重大な足場として機能する。Dshの活性化がGSKを介して核へ輸送され、そこでTcf/LefファミリーのDNA結合性タンパク質と相互作用して転写を活性化する(特許文献1)。
【0004】
β−カテニン非依存経路は多数のプロセスに関係していることが示されているが、細胞骨格系の制御に関与する細胞内平面極性(PCP)、細胞の運動および接着に関与しているWnt/Ca2+経路、プロテインキナーゼAを介して筋新生の制御に関与する経路などが存在する。
Frizzled受容体は2量体化することができ、この2量体化はWntシグナル経路の活性化に関与しているとの報告がある(非特許文献1)。
FZD10 mRNAは、頸部、消化管および膠芽腫の細胞系統を含む多数の癌細胞系統で、ならびに約40%の原発性胃癌、原発性結腸癌およびほとんどの滑膜肉腫組織でアップレギュレーションされているとの報告がある(特許文献1、非特許文献2、3)。
【0005】
かかる観点から抗腫瘍剤の開発をめざして、FZD10に対する抗体が報告されている(特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2009−513708号公報
【特許文献2】特表2007−526891号公報
【特許文献3】特表2009−541204号公報
【特許文献4】特表2010−509368号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Charles E Dann et al.,Nature 2001,412:86−90
【非特許文献2】H.Terasaki et al.,Int.J.Mol.Med.(2002)9,107−112
【非特許文献3】S.Nagayama et al.,Oncogene(2005)24,6201−6212
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
抗体医薬による腫瘍の治療においては、標的腫瘍の大部分において過剰発現が認められ、かつ正常組織では発現されないか、最小限しか発現されない細胞タンパクを同定することが重要である。しかしながら、腫瘍において特異的に発現されるタンパク質を同定することは困難であり、そのようなタンパク質に対する抗体を得ることは困難である。また、抗体は分子量が大きく、投与手段が限定されるという問題もある。
【0009】
従って、本発明の課題は、FZD10に特異的かつ高親和性で結合する物質及びそれを含む医薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで本発明者は、ファージディスプレイ法を用いてFZD10に特異的に結合するペプチドを提示するファージを探索したところ、特定のアミノ酸配列を有するペプチドがリコンビナントヒトFZD10タンパク質に特異的に結合すること、及びこのペプチド又はその標識体を用いてFZD10を発現する細胞や組織を特異的に検出できることを見出した。さらに、該ペプチド又はその標識体がFZD10とWntとの結合を競合的に阻害することから、該ペプチド又はその標識体は癌治療薬としても有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、次の〔1〕〜〔18〕を提供するものである。
〔1〕少なくとも下記式(1)で表されるアミノ酸配列を有するアミノ酸数11〜50のペプチド。
【化1】
(式中、XはLue又はMetを示し、
はPro、Val、Ile、Met又はLeuを示し、
はSer、Ala、Thr、Gly、Asn、Asp、Glu、Arg又はLysを示し、
はLeu、Met、Phe又はTrpを示し、
はHis、Tyr、Phe、Lys、Arg、Ala、Leu又はMetを示し、
はMet、Leu、Ile、Val、Ala、Phe、Tyr、Trp又はCysを示し、
はTyr又はPheを示す。)
〔2〕少なくとも下記式(2)で表されるアミノ酸配列を有し、アミノ酸数が12〜50である〔1〕記載のペプチド。
【化2】
(式中、XはArg、Lys、His、Asn、Gln、Ser、Thr、Asp、Glu又はAlaを示し、X〜Xは前記と同じ)
〔3〕XがSer又はAla、XがHis又はAla、XがMet又はAlaである〔1〕又は〔2〕記載のペプチド。
〔4〕アミノ酸数の上限が30である〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のペプチド。
〔5〕FZD10結合性を有する〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のペプチド。
〔6〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチド又はその標識体を含有する医薬。
〔7〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチド又はその標識体を含有する癌細胞又は癌組織検出薬。
〔8〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチド又はその標識体を含有する癌診断薬。
〔9〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチド又はその標識体を含有する癌治療薬。
〔10〕癌細胞又は癌組織を検出するための、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチド又はその標識体。
〔11〕癌診断のための、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチド又はその標識体。
〔12〕癌治療のための、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチド又はその標識体。
〔13〕癌細胞又は癌組織検出薬製造のための、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチド又はその標識体の使用。
〔14〕癌診断薬製造のための、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチド又はその標識体の使用。
〔15〕癌治療薬製造のための、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチド又はその標識体の使用。
〔16〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチド又はその標識体を使用することを特徴とする癌細胞又は癌組織の検出方法。
〔17〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチド又はその標識体を使用することを特徴とする癌の診断方法。
〔18〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のペプチド又はその標識体を投与することを特徴とする癌の治療方法。
ここで、癌細胞又は癌組織の検出方法、及び癌の診断方法には、インビトロ及びインビボが含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】D12ライブラリーでのパニング実験のアウトプット力価/インプット力価比を示す。
図2】C7Cライブラリーでのパニング実験のアウトプット力価/インプット力価比を示す。
図3】FZD10標的パニング4ラウンドで回収したファージが提示しているペプチド配列を示す。
図4】S−406ファージの固相化タンパクに対する結合性試験結果を示す。
図5】M13KEファージの固相化タンパクに対する結合性試験結果を示す。
図6】S−406ファージの液相化タンパクに対する結合性試験結果を示す。
図7】M13KEファージの液相化タンパクに対する結合性試験結果を示す。
図8】アラニン置換ファージの提示ペプチド配列を示す。
図9】アラニン置換ファージの固相化タンパクに対する結合性試験結果を示す。
図10】S−406ファージとペプチドPep15の競合試験結果を示す。
図11】S−406ファージとペプチドPep20の競合試験結果を示す。
図12】S−406ファージとrmWnt−5aの競合試験結果を示す。
図13】S−406ファージとrhIGF−1の競合試験結果を示す。
図14】アミノ酸置換ファージおよび短鎖ペプチドファージの提示ペプチド配列を示す。
図15】アミノ酸1個置換ファージの結合性試験結果を示す。
図16】アミノ酸2個置換ファージの結合性試験結果を示す。
図17】短鎖ペプチドファージの結合性試験結果を示す。
図18】HS−SY−II細胞を用いたin vitro結合性試験結果を示す。
図19】rhWNT−3a添加条件での、HS−SY−II細胞を用いたin vitro結合性試験結果を示す。
図20】合成ペプチドPep23−FのHS−SY−II染色像を示す。
図21】合成ペプチドPep39−FのHS−SY−II染色像を示す。
図22】合成ペプチドPep23−FのMCF7染色像を示す。
図23】合成ペプチドPep39−FのMCF7染色像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のペプチドは、少なくとも下記式(1)で表されるアミノ酸配列を有するアミノ酸数11〜50のペプチドである。
【0014】
【化3】
【0015】
(式中、XはLue又はMetを示し、
はPro、Val、Ile、Met又はLeuを示し、
はSer、Ala、Thr、Gly、Asn、Asp、Glu、Arg又はLysを示し、
はLeu、Met、Phe又はTrpを示し、
はHis、Tyr、Phe、Lys、Arg、Ala、Leu又はMetを示し、
はMet、Leu、Ile、Val、Ala、Phe、Tyr、Trp又はCysを示し、
はTyr又はPheを示す。)
【0016】
上記式(1)中、XはLeu又はMetを示すが、Leuがより好ましい。
はPro、Val、Ile、Met又はLeuを示すが、Pro又はIleがより好ましい。
はSer、Ala、Thr、Gly、Asn、Asp、Glu、Arg又はLysを示すが、このうち、Ser、Ala、Thr、Gly、Asnが好ましく、Ser、Alaが特に好ましい。
はLeu、Met、Phe又はTrpを示すが、Leuがより好ましい。
はHis、Tyr、Phe、Lys、Arg、Ala、Leu又はMetを示すが、このうちHis、Tyr、Phe、Lys、Arg又はAlaが好ましく、His、Alaが特に好ましい。
はMet、Leu、Ile、Val、Ala、Phe、Tyr、Trp又はCysを示すが、Met、Leu、Ile、Val、Alaがより好ましく、Met、Alaが特に好ましい。
はTyr又はPheを示すが、Tyrがより好ましい。
【0017】
本発明のペプチドのうち、少なくとも下記式(2)で表されるアミノ酸配列を有し、アミノ酸数が12〜50であるペプチドがより好ましい。
【0018】
【化4】
【0019】
(式中、XはArg、Lys、His、Asn、Gln、Ser、Thr、Asp、Glu又はAlaを示し、X〜Xは前記と同じ)
【0020】
式(2)中、XはArg、Lys、His、Asn、Gln、Ser、Thr、Asp、Glu又はAlaを示すが、このうちArg、Lys、His、Asn 又はAlaが好ましく、Arg、Lys、His又はAlaがより好ましく、Arg又はAlaが特に好ましい。また、式(2)中のX〜Xは、前記のものがより好ましい。
【0021】
式(1)及び(2)中、XはSer又はAla、XはHis又はAla、XはMet又はAlaが特に好ましい。
【0022】
また、本発明ペプチドのアミノ酸数としては、11〜50であるが、12〜50がより好ましい。なお、アミノ酸数の上限は40が好ましく、30がより好ましく、20がさらに好ましく、18が特に好ましい。
【0023】
本発明ペプチドのX〜X及びXの置換は、後記実施例記載の結合性試験結果、保存的置換及び半保存的置換であれば同様の活性を示すことに基づくものである。ここで典型的な保存的置換及び半保存的置換を表1に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
本発明のペプチドは、前記アミノ酸配列をコードするDNAを用いる組み換え技術によって製造することもできるが、有機合成化学的ペプチド合成法によって製造することができる。有機合成化学的ペプチド合成法は、一般的な官能基の保護、カルボキシル基の活性化、ペプチド結合の形成、保護基の脱保護の手段によって行われる。これらの反応は固相法で行うのが好ましい。
【0026】
本発明のペプチドのうち、配列番号2で示されるペプチド(S−406)は、ランダムなペプチド配列を提示させたファージライブラリーからファージディスプレイ法によって、FZD10と結合性を有するペプチドをスクリーニングすることにより選択することができる。ファージディスプレイ法に用いられるファージとしてはM13が好ましい。ファージライブラリーからFZD10と強く結合するものを選択するには、ファージ集団をFZD10とインキュベートし、FZD10に結合しなかったファージを洗い流した後に、結合したファージを回収する。回収したファージがどのような配列のペプチドを提示しているかは、ファージゲノムの該当部分をシークエンスすればよい。FZD10とペプチドの相互作用がそれほど強いものではない場合には、弱い結合力を持つファージがバックグラウンドとしてつきまとってしまう。そこで、結合→洗浄→回収の一連の流れの後に、再度大腸菌に感染させ、二次ライブラリーを調製し、このライブラリーを用いて再度一連の操作を繰り返すパニング操作を行う。パニングを繰り返していくことによって得られるライブラリーの中には、FZD10に高い結合能力を持ったファージの数が増えてくる。このようにして、目的とするFZD10と強い結合性を有するファージが選択できる。
【0027】
本発明のペプチドは、FZD10に特異的に結合する。従って、本発明のペプチド又はその標識体は、FZD10又はFZD10を発現している細胞若しくは組織を検出するための試薬として有用である。ここで本発明のペプチドの標識体としては、FZD10に結合したペプチドを検出し得る標識体であればよく、放射性同位体、アフィニティー標識(例えば、ビオチン、アビジン等)、酵素標識(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等)、蛍光標識(例えば、FITC、ローダミン等)、常磁性原子等が挙げられる。これらの標識体のうち、蛍光標識やポジトロン核種による標識は、例えば大腸癌等のFZD10が発現している癌細胞又は癌組織を検出するうえでより好ましい。このとき、本発明のペプチド又はその標識体は、対象細胞、対象組織に直接適用してもよいし、対象患者に投与してもよい。
【0028】
本発明のペプチドの標識体は、FZD10が発現している癌診断、例えば早期癌診断に有用である。例えば、癌組織の存在の有無の確認を目的とした診断においては、対象部位に例えば上記蛍光標識ペプチドを散布又は注射などの手段により接触させた後、洗浄処理により余剰な蛍光成分を除去した後、該当部位に励起光を照射し、蛍光染色された組織の有無を肉眼的又は顕微鏡的に確認することができる。
より好ましい形態としては、本発明の蛍光標識ペプチドを蛍光造影剤として内視鏡による癌診断に用いることである、例えば、蛍光標識ペプチドを経内視鏡的に散布などの手段により組織に接触させた後、洗浄処理を行い、内視鏡光源により励起光を該当部に照射し、蛍光染色された組織の有無を内視鏡的に確認すればよい。これにより早期癌の発見診断に使用可能となるばかりではなく、通常内視鏡的に病変と疑われる部位を染色し、拡大蛍光観察をすることにより蛍光の有無による病変部位と非病変部位の境界を判別することにも使用可能となる。内視鏡の種類は特に限定されないが、内視鏡光源としてフルオレセインのための励起光を照射できる蛍光内視鏡又は、加えて拡大能を有する共焦点内視鏡が好ましい。
また、修飾する蛍光色素はフルオレセインだけではなく、たとえばシアニン系化合物など励起波長の異なる蛍光色素を用いてもよい。蛍光剤としてインドシアニングリーンなどのシアニン系化合物を用いた場合、フルオレセインと比較して励起波長がさらに長波長側にシフトするため、より深部の病変の確認に有効である。またポジトロン核種を本発明ペプチドに修飾させた場合、PETやSPECTなどにより検出可能となる。また、ガドリニウムを本発明ペプチドに修飾させた場合、MRIにより検出可能である。これにより主に消化器などといった経内視鏡的に到達可能な部位の癌のみならず、全身の癌病変において、本発明ペプチドが利用可能となる。癌の診断においては、本発明のペプチド又はその標識体は、対象部位に直接適用してもよいし、対象患者に投与してもよい。
【0029】
また、本発明ペプチド又はその標識体はFZD10とWntとの結合を競合的に阻害することから、上記のような癌細胞検出、癌診断だけでなく、癌の治療にも用いることができる。
【0030】
本発明ペプチドが検出、診断又は治療可能な細胞又は組織としては、FZD10を発現している細胞又は組織であればよく、例えば癌細胞又は癌組織、具体的には、肺癌、乳癌、大腸癌、胃癌、骨肉腫、子宮頸癌、卵巣癌、滑膜肉腫、肝臓癌、胆のう癌、膵臓癌、前立腺癌、頭頚部癌、腎細胞癌、膀胱癌等が挙げられる。
【0031】
本発明のペプチド又はその標識体を癌検出薬、癌診断薬、癌治療薬として用いる場合、本発明ペプチド又はその標識体はそのまま用いることもできるが、薬学的に許容される担体とともに各種投与形態に適した組成物とすることができる。該組成物としては、注射用剤、散布用剤、経口投与用剤、経直腸用剤等が挙げられる。薬学的に許容される担体としては、水、生理食塩水、各種緩衝剤、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤等が挙げられる。
【0032】
本発明のペプチド又はその標識体を癌治療薬として用いる場合の投与量は、症状、体重等によっても異なるが、通常成人1日あたり0.1mg〜1000mgが好ましい。
【実施例】
【0033】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0034】
実施例1(ファージディスプレイ)
[手順]
1.パニング実験−ラウンド1
96wellプレートに5μg/mLのRecombinant human IgG Fc(rhIgG、R&D Systems)、Recombinant human Frizzled 10 Fc Chemera(rhFZD10、R&D Systems)を個別に200μLずつ添加し(1μg/well)、4℃、一晩、静置インキュベートした(プレートへの固相化)。ウェル内の非固相タンパクを除去し、Blocking buffer(5mg/mL BSA(牛血清アルブミン)/TBS(50mM Tris−HCl/150mM NaCl))を300μL/well添加し、37℃、1時間、静置インキュベートし、その後、0.1%TBST(0.1%Tween20/TBS)200μL/wellで3回洗浄した。
ペプチド提示ファージライブラリー(NEW ENGLAND BioLabs Inc.)は、2種類利用し、D12ライブラリーは、12残基の直線状ランダムペプチドを提示しており、2.7×10種の異なるペプチド配列を持つファージライブラリーである。C7Cライブラリーは、7残基の環状ランダムペプチドを提示しており、1.2×10種の異なるペプチド配列を持つファージライブラリーである。
本実験で用いたrhFZD10は、その構造にIgG部位が含まれている。そのため、IgG部位に結合してしまうペプチド提示ファージ(以下ファージと略す)を除去する目的で、まず、rhIgG固相化ウェルに0.1%TBSTを100μL添加し、D12ファージライブラリー(1×1013PFU/mL)、C7Cファージライブラリー(2×1013PFU/mL)をそれぞれ10μL添加した。ここで、rhFZD10固相化ウェルには、乾燥防止のため0.1%TBSTを200μL添加した。
*PFU:plaque forming units(プラーク形成単位)
【0035】
室温、1時間、シーソーを用いて振とうインキュベートし、ウェルからrhIgGに結合していないファージを含んだ上清を回収し、rhFZD10固相化ウェルに添加した。
室温、1時間、シーソーを用いて振とうインキュベートし、固相化したrhFZD10に結合させた後、ファージ溶液を除去し、0.1%TBST 200μL/wellで10回洗浄した。1mg/mL BSA/0.2M Glycine−HCl(pH2.2)100μL添加し、室温、10分、振とうインキュベートしファージを溶出させた。溶出液を回収し、回収溶液に1M Tris−HCl(pH9.1)を15μL添加することで中和した。回収した溶出液の一部を用いてファージの力価を測定した。
【0036】
2.回収ファージの増幅
1の操作で得られたファージ溶出液をLB20mL中で対数増殖中のER2738菌[F’laclΔ(lacZ) M15 proAzzf::Tn10(Tet)/fhuA2 supE thiΔ(lac−proAB)Δ(hsdMSmcrB) 5 (rMcrBC)]に感染させ、振とう培養機を用いて、37℃で激しく攪拌しながら、4時間30分インキュベートした。ファージ感染菌培養液を50mL遠心チューブに移し、上記サンプルをマイクロ冷却遠心機を用いて、4℃、10分、8,900×gで遠心した。遠心後、ER2738菌を除去する目的で、上清を新しいチューブに回収した。回収ファージ溶液に3.6mL(1/5量)のPEG/NaCl(20% Polyehtylene glycol 6,000、2.5M NaCl溶液)を添加し、ミキサーでよく攪拌して、4℃、16時間、インキュベートして、ファージを沈殿させた。沈殿したファージを回収するために、マイクロ冷却遠心機で4℃、10分、8,900×gで遠心して、上清を除去した。上清を完全除去する目的で、もう一度遠心し、上清を除去した。沈殿ファージに、氷冷TBS 1mLを加え、懸濁し、マイクロチューブに移した。ファージ懸濁液を、コンパクト高速冷却遠心機を用いて、4℃、5分、16,000×gで遠心した。上清を別のチューブに回収し、懸濁されない残渣を取り除き、回収溶液に、200μLのPEG/NaClを加えて、ミキサーで攪拌した。上記溶液を氷上、1時間、インキュベートしファージを沈殿させた。溶液を高速遠心機で4℃、10分、16,000×g遠心してファージを沈殿させ上清を除去した。この遠心工程を再び行い、上清を完全に除去した。得られたファージ沈殿に、200μLの0.02%NaN/TBSを加え、完全に懸濁させ、コンパクト冷却遠心機で、4℃、5分、16,000×g、遠心し、上清を回収することで懸濁されなかった残渣を除去した。回収ファージ濃縮液の力価を測定した。
【0037】
3.パニング実験−ラウンド2、3、4
濃縮ファージ溶液を用いて、2及び3・4ラウンドのパニング実験を実施した。2回目のパニング実験において、1ラウンドの操作と異なる点は添加ファージ量を2×1011PFU/well、洗浄液を0.3%TBST(0.3%Tween20/TBS)にしたことである。3・4ラウンドのパニング実験では、1ラウンドの操作と異なる点は添加ファージ量を2×1011PFU/well、洗浄液を0.5%TBST(0.5%Tween20/TBS)にしたことである。
【0038】
4.力価測定
LB 3mL内でER2738菌を対数増殖期(OD600;〜0.5)となるまで培養し、ER2738培養液200μLに、必要濃度となるよう希釈したファージ液を10μL添加した。この混合溶液をミキサーでよく攪拌し、室温、5分間インキュベートした後、溶解したトップアガー溶液4mLと混合させ、LB/IPTG/Xgalプレート上に播種した。
ファージ感染大腸菌播種プレートを37℃、16時間、インキュベートした後、得られた青色プラークの数をカウントした。ファージ希釈倍率を用いて、ファージ数を算出した。
【0039】
[結果]
ファージライブラリーを用いた実験のインプット力価(標的分子に加えたファージ力値)とアウトプット力価(洗浄後の標的分子から溶出されたファージ力値)の比の値の変化をD12ライブラリーの結果を図1、C7Cライブラリーの結果を図2に示す。
D12ライブラリーを利用した、rhFZD10標的パニング実験を4ラウンドまで進めた結果、アウトプット力価/インプット力価比を比較したところ、4ラウンドは1ラウンドの400倍程度の増加が観察された。したがって、rhFZD10特異結合性を示すファージがセレクションされたことが予想された。
C7Cライブラリーを利用した、rhFZD10標的パニング実験も4ランドまで進めたが、アウトプット力価/インプット力価比の増加は観察されなかった。
【0040】
実施例2(シークエンス解析)
[手順]
D12ライブラリーを用いたパニング実験の4ラウンドで得られたファージを、常法(Phage Display A Laboratory Manual,Cole Spring Harbor Laboratory Press,2001)に従いクローン化し、ファージの提示ペプチド部分の塩基配列を決定した。塩基配列の決定には、提示ペプチド領域から96残基下流に位置する塩基配列の相補鎖に相当するプライマー[−96gIII シーケンシングプライマー(5’−HOCCCTCATAGTTAGCGTAACG−3’)(配列番号1)、S1259A、NEB]を用いて、ダイデオキシターミネイト法により決定した(CEQ DTCS Quick start kit、ベックマン)。反応産物の泳動とデータ解析には、キャピラリーシーケンサー(CEQ2000、ベックマン)を用いた。
【0041】
[結果]
決定した塩基配列から予想される提示ペプチド配列を図3に示す。
この中で、得られたS−406ファージの提示するペプチド配列(配列番号2)は、4ラウンドで調べた12個のクローンの中に同じ配列を持つクローンが7個であった(58%)。S−407ファージ(配列番号3)、S−408ファージ(配列番号4)、S−409ファージ(配列番号5)、S−410ファージ(配列番号6)、S−411ファージ(配列番号7)は各1クローンしか得られなかった。
したがって、パニングの回数が進むにつれ、S−406ファージがセレクションされていることが明らかとなった。特定のファージクローンがセレクションされている理由として、そのファージクローンが標的分子に対し強い結合性を示していることが挙げられる。
【0042】
実施例3(ファージ結合性試験(タンパク固相化条件))
[手順]
標的タンパクであるrhFZD10とrhFZD10に標識されたFc部位であるrhIgG、標準タンパクとしてBSAを1μg/wellになるように96ウェルマイクロプレートに添加し、4℃で一晩放置することで固相化した。タンパク溶液を除去し、Blocking bufferを300μL添加し、37℃で1時間インキュベートすることでウェルをブロッキングした。Blocking bufferを除去後、洗浄液0.5%TBST 200μLでウェルを3回洗浄し、最後に0.5%TBSTを100μL添加した。上記ウェルに増幅ファージ液(S−406又はM13KE(ペプチド非提示ファージ))を1×1010PFUになるように添加し、ピペッティングにより混合した。反応は、室温で1時間、穏やかに振とうさせた。反応液を除去し、0.5%TBST 200μLでウェルを10回洗浄後、0.2M Glycine−HCl(pH2.2)をウェルに100μL添加し、ピペッティングで撹拌した後、室温下で10分間穏やかに振とうさせた。溶出液をウェルからマイクロチューブへ回収し、1M Tris−HCl(pH9.1)を15μL添加することで中和し、標的結合ファージ液を得た。回収したファージの結合能は、力価測定により行った。
【0043】
[結果]
固相化法による結合性試験のインプット力価/アウトプット力価比の変化についてS−406ファージの結果を図4に、M13KEファージの結果を図5に示す。
S−406のFZD10への結合性は、Fc部であるrhIgGより1928倍高く、標準タンパクであるBSAよりも993倍高いことが明らかとなった。
M13KEファージでは、固相化したタンパク間に結合性の差は見られず、どれも低い値であった。
図4の結果からS−406ファージは、タンパク固相化条件においてFZD10に特異的に結合することが明らかとなった。
また、S−406ファージとM13KEファージのFZD10への結合性を比較すると、S−406の方が12198倍高い事が明らかとなった。この結果より、S−406ファージの提示するペプチド配列がFZD10との結合に関与している可能性が示唆された。
【0044】
実施例4(ファージ結合性試験(タンパク液相化条件))
[手順]
マイクロチューブに0.01%PBST(0.01%Tween20/PBS)を200μL分注、ProteinAがコートしてある磁気ビーズ(Dynabeads ProteinA、invitrogen)を10μL添加してピペッティングで混合し、磁石をマイクロチューブ側面に押し当て、上清を除去した。その後、磁石をマイクロチューブから離し、0.01% PBSTを200μL添加してピペッティングで混合し、磁石をマイクロチューブに押し当て、上清を除去した。上記工程を3回繰り返し、磁気ビーズを洗浄した。0.01% PBSTを200μL添加し、新しいマイクロチューブへ移し、磁石を用いて上清を除去した。5mg/mL BSA/0.01% PBSTで5μg/mLに調製したrhFZD10を200μL添加し、Voltexで混合後、室温で1時間、マイクロチューブ撹拌機を用い磁気ビーズと反応させた。反応後、磁石をマイクロチューブに押し当てながら上清を除去した後、磁石をマイクロチューブから離して、0.01% PBSTを200μL添加してピペッティングで混合し、磁石をマイクロチューブに押し当て、上清を除去した。上記工程を3回繰り返し、洗浄した。0.01% PBSTを200μL添加し、新しいマイクロチューブへ移し、磁石を用いて上清を除去した。上記マイクロチューブに増幅ファージ液(S−406又はM13KE)を1×1010PFUになるように添加し、ピペッティングにより混合した。反応は、室温で1時間、マイクロチューブ撹拌機を用い反応させた。磁石を用い反応液を除去し、0.01% PBST 200μLで5回洗浄した。0.01% PBSTを200μL添加し、新しいマイクロチューブへ移し、磁石を用いて上清を除去した。0.2MGlycine−HCl(pH2.2)をマイクロチューブに100μL添加し、ピペッティングで撹拌した後、室温下で10分間マイクロチューブ撹拌機を用い撹拌した。その後、ピペッティングを行い、磁石を用いて上清を新しいマイクロチューブへ回収し、1M Tris−HCl(pH9.1)を15μL添加することで中和し、標的結合ファージ液を得た。回収したファージの結合能は、力価測定により行った。
【0045】
[結果]
液相化法による結合性試験のインプット力価/アウトプット力価比の値の変化をS−406ファージの結果は図6、M13KEファージの結果は図7に示す。
S−406ファージは、FZD10を結合させた磁気ビーズに強く結合しており、FZD10を結合させていない場合(磁気ビーズのみ)と比較すると、2229倍高い結合性を示した。
M13KEファージでは、FZD10の有無で結合性に大きな変化は無く、どれも低い値を示した。
図6に示すように、S−406ファージはFZD10に特異的に結合する事が明らかとなった。
また、S−406ファージとM13KEファージのFZD10への結合性を比較すると、S−406の方が9220倍高い事が明らかとなり、S−406ファージの提示するペプチドがFZD10の結合に大きく関与している事が示唆された。
上記結果は、実施例3の固相化条件でも同様の結果が得られており、S−406ファージはFZD10の構造状態に関わらず、特異的にFZD10を認識している可能性がある。
【0046】
実施例5(アラニン置換ファージ作製)
[手順]
1.部位特異的変異誘発
KOD−Plus−Mutagenesis kit(SMK−101、TOYOBO)を用いて、M13KEファージのペプチド提示部分のアミノ酸をアラニンに置換したファージの作製を行った。提示ペプチド配列のヌクレオチド配列に所望の変異を含むオリゴヌクレオチドプライマーを受託合成した(日本遺伝子研究所)。合成プライマーは、HPLCにて精製した脱塩オリゴヌクレオチドである。今回合成したプライマーは、長さ24〜27bpであり、GC含量が50−60%となるよう設計した。今回使用したKOD−Plus−Mutagenesis Kitでは、PCR産物のセルフライゲーションと同時にリン酸化を行うことができるので、プライマーのリン酸化はしていない。鋳型プラスミドDNAはS−406ファージ感染ER2738菌より、QIAGEN Plasmid kitを用いて精製した。
鋳型プラスミドDNA、プライマー、dNTPs、KOD−plus−を用いて、[94℃、2分]→{[98℃、10秒]→[68℃、7.5分]}×8サイクル→[4℃、Hold]条件でPCRを実施した。PCR反応はサーマルサイクラー(PCR Thermal Cycler Dice、TAKARA)を利用した。PCR反応条件は増幅サイズを基に設定した。
DpnI処理により鋳型プラスミドの消化を行ない、T4 Polynucleotide Kinase処理によりPCR産物のセルフライゲーションを行った。
【0047】
2.形質転換
60μLのXL−1Blueコンピテント細胞に対し、Self−ligation処理済み溶液を10μL添加し、混合した。氷上、30分間、インキュベートした後、42℃、90秒間、ヒートブロック上でインキュベートし、氷上で2分間、インキュベートした。15mLコニカルチューブ内で、ER2738菌のO/Nカルチャー100μLに、上記XL−Blue菌を1μL添加し、混合した。15mLコニカルチューブ内に、残りのXL−1Blue菌を入れた。上記それぞれのサンプルに、トップアガーを4mL添加し、ボルテックスで混合した。上記大腸菌サンプルをLB/IPTG/Xgalプレート上に播種し、37℃、16時間、インキュベートした。
【0048】
3.変異体のシークエンス解析
得られたLB/IPTG/Xgalプレート上の青プラークを、常法に(Phage Display A Laboratory Mnual,Cole Spring Harbor Laboratory Press,2001)に従いクローン化し、ファージの提示ペプチド部分の塩基配列を確認した。
【0049】
[結果]
図8に示す配列番号8〜19のアラニン置換ファージを得た。
【0050】
実施例6(アラニン置換ファージの結合性試験)
[手順]
標的タンパクrhFZD10を1μg/wellになるように96ウェルマイクロプレートに添加し、4℃で一晩放置することで固相化した。タンパク溶液を除去し、Blocking bufferを300μL添加し、37℃で1時間インキュベートすることでウェルをブロッキングした。Blocking bufferを除去後、洗浄液0.5%TBST 200μLでウェルを3回洗浄し、最後に0.5%TBSTを100μL添加した。上記ウェルに増幅ファージ液(S−406ファージ又は実施例5で作製したアラニン置換ファージ)を1×1010 PFUになるように添加し、ピペッティングにより混合した。反応は、室温で1時間、穏やかに振とうさせた。反応液を除去し、0.5%TBST 200μLでウェルを10回洗浄した後、0.2M Glycine−HCl(pH2.2)をウェルに100μL添加し、ピペッティングで撹拌した後、室温下で10分穏やかに振とうさせた。溶出液をウェルからマイクロチューブへ回収し、1M Tris−HCl(pH9.1)を15μL添加することで中和し、標的結合ファージ液を得た。回収したファージの結合能は、力価測定により行った。
【0051】
[結果]
アラニン置換ファージの結合性試験のインプット力価/アウトプット力価比の値の変化を図9に示す。
図9から分かるように、S−406ファージに比べ結合性が低下したファージは8種存在し、二・三・九番目のL(ロイシン)、四番目のS(セリン)、五番目のP(プロリン)、七番目のE(グルタミン酸)、八番目のW(トリプトファン)、十二番目のY(チロシン)をアラニンに置換したファージである。
特に、二・三番目のL、八番目のWをアラニンで置換したファージの結合性が顕著に低下した。
上記結果より、FZD10との結合に寄与すると考えられるアミノ酸は、二・三・九番目のL、四番目のS、五番目のP、七番目のE、八番目のW、十二番目のYであることが明らかとなった。
その中でも、特にFZD10との結合に関与していると考えられるアミノ酸は、二・三番目のL、八番目のWであった。
【0052】
実施例7(競合試験)
[手順]
標的タンパクrhFZD10を1μg/wellになるように96ウェルマイクロプレートに添加し、4℃で一晩放置することで固相化した。タンパク溶液を除去し、Blocking bufferを300μL添加し、37℃で1時間インキュベートすることでウェルをブロッキングした。Blocking bufferを除去後、洗浄液0.5%TBST 200μLでウェルを3回洗浄し、最後に0.5%TBSTを100μL添加した。上記ウェルにS−406増幅ファージ液を1×1010PFUになるように添加し、次に、S−406ファージ提示ペプチド(配列番号2)を人工的に合成した合成ペプチドPep15(純度90%<,HPLCグレード,AnyGen,Korea)を100μM、1mMの濃度に、rhFZD10との結合には無関係な合成ペプチドPep20(GAASRTYLHELI:配列番号20)(純度90%<,HPLCグレード,AnyGen,Korea)を1mMの濃度になるように添加し、ピペッティングで混合した。どちらも添加せず、S−406のみの反応をコントロールとした。反応は、室温で1時間、穏やかに振とうさせた。反応液を除去し、0.5%TBST 200μLでウェルを10回洗浄した。その後、0.2M Glycine−HCl(pH2.2)をウェルに100μL添加し、ピペッティングで撹拌した後、室温下で10分間穏やかに振とうさせた。溶出液をウェルからマイクロチューブへ回収し、1M Tris−HCl(pH9.1)を15μL添加することで中和し、標的結合ファージ液を得た。回収したファージの結合能は、力価測定により行った。
【0053】
[結果]
S−406ファージとPep15の競合試験のインプット力価/アウトプット力価比の値の変化を図10に、S−406ファージとPep20の結果を図11に示す。
図10からわかるように、Pep15がS−406ファージのFZD10への結合を濃度依存的に阻害していることが明らかとなった。
図11を見ると、S−406ファージのインプット力価/アウトプット力価比は、Pep20を1mMの濃度で添加しても高い値を保っている。
Pep20は、S−406ファージとFZD10の結合に全く関与しないため高濃度でもS−406ファージのインプット力価/アウトプット力価比の低下が見られなかったが、S−406ファージの提示するペプチド配列を持つ合成ペプチドPep15は、濃度依存的にS−406ファージとFZD10の結合を阻害していることが明らかとなった。この結果から、S−406ファージの提示するペプチドはペプチド単体であっても、S−406ファージがFZD10に結合するのと同じ部位に結合している可能性が高いと考えられる。
【0054】
実施例8(rmWnt−5aとS−406ファージの競合試験)
[手順]
標的タンパクrhFZD10を1μg/wellになるように96ウェルマイクロプレートに添加し、4℃で一晩放置することで固相化した。タンパク溶液を除去し、Blocking bufferを300μL添加し、37℃で1時間インキュベートすることでウェルをブロッキングした。Blocking bufferを除去後、洗浄液0.5%TBST 200μLでウェルを3回洗浄した。0.5%TBSTで各濃度(1nM、100nM、1μM)に希釈したRecombinant mouse Wnt5a(rmWnt5a、R&D Systems)を100μL又は、FZD10との結合に関与しないタンパクとしてRecombinant Human Insulin like growth factor 1(rhIGF−1、R&D systems)を1μMになるように添加し、室温で1時間穏やかに振とうさせた。ここでrmWnt−5aを用いたのは、rhFZD10の添付文書中においてrhFZD10に対し結合性を示すことが明記されているからである。ウェルにS−406ファージ増幅液を1×1010PFUになるように添加し、ピペッティングにより混合した。反応は、室温で15分間穏やかに振とうさせた。反応液を除去し、0.5%TBST 200μLでウェルを10回洗浄した後、0.2M Glycine−HCl(pH2.2)をウェルに100μL添加し、ピペッティングで撹拌した後、室温下で10分間穏やかに振とうさせた。溶出液をウェルからマイクロチューブへ回収し、1M Tris−HCl(pH9.1)を15μL添加することで中和し、標的結合ファージ液を得た。回収したファージの結合能は、力価測定により行った。
【0055】
[結果]
Wnt−5aとS−406ファージの競合試験のインプット力価/アウトプット力価比の値の変化を図12に、IGF−1とS−406ファージの結果を図13に示す。
Wnt−5aを添加した場合、添加濃度が増加するにつれ、S−406ファージのFZD10への結合性が減少した。
一方、IGF−1を添加した場合は、S−406ファージとFZD10の結合には影響を与えなかった。
上記結果より、S−406ファージの結合性がWnt−5aの添加濃度依存的に減少している事から、Wnt−5aがS−406ファージのFZD10への結合を阻害している事が明らかとなった。つまり、S−406ファージはWnt−5aのFZD10への結合を阻害できるとも考えられ、S−406ファージの提示するペプチドはWnt−5aの阻害剤になりうる。
【0056】
実施例9(アミノ酸置換ファージ作製)
[手順]
1.部位特異的変異誘発
KOD−Plus−Mutagenesis kit(SMK−101、TOYOBO)を用いて、M13KEファージのペプチド提示部分のアミノ酸を他のアミノ酸に置換したファージ、及び、提示ペプチドのアミノ酸数個を離脱させたファージ(短鎖ペプチド提示ファージ)の作製を行った。提示ペプチド配列のヌクレオチド配列に所望の変異を含むオリゴヌクレオチドプライマーを受託合成した(日本遺伝子研究所)。合成プライマーは、HPLCにて精製した、脱塩オリゴである。今回合成したプライマーは、長さ20〜27bpであり、GC含量が50〜60%程度となるよう設計した。今回使用したKOD−Plus−Mutagenesis Kitでは、PCR産物のセルフライゲーションと同時にリン酸化を行うことができるので、プライマーのリン酸化はしていない。以下、アラニン置換ファージ作製(実施例5)の作業手順を参照とする。
【0057】
2.形質転換
アラニン置換ファージ作製(実施例5)の作業手順を参照とする。
【0058】
3.変異体のシークエンス解析
得られたLB/IPTG/Xgalプレート上の青プラークを、常法に(Phage Display A Laboratory Mnual,Cole Spring Harbor Laboratory Press,2001)に従いクローン化し、ファージの提示ペプチド部分の塩基配列を決定した。
【0059】
[結果]
図14に示す配列番号21〜33のアミノ酸置換ファージを得た。
【0060】
実施例10(アミノ酸置換ファージの結合性試験)
[手順]
標的タンパクrhFZD10を1μg/wellになるように96ウェルマイクロプレートに添加し、4℃で一晩放置することで固相化した。タンパク溶液を除去し、Blocking bufferを300μl添加し、37℃で1時間インキュベートすることでウェルをブロッキングした。Blocking bufferを除去後、洗浄液0.5%TBST 200μlでウェルを3回洗浄し、最後に0.5%TBSTを100μl添加した。上記ウェルに増幅ファージ液(S−406ファージ又は実施例9で作成したアミノ酸置換ファージ)を1×1010PFUになるように添加し、ピペッティングにより混合した。反応は、室温で1時間、穏やかに振とうさせた。反応液を除去し、0.5%TBST 200μlでウェルを10回洗浄した後、0.2M Glycine−HCl(pH2.2)をウェルに100μl添加し、ピペッティングで撹拌した後、室温下で10分穏やかに振とうさせた。溶出液をウェルからマイクロチューブへ回収し、1M Tris−HCl(pH9.1)を15μl添加することで中和し、標的結合ファージ液を得た。回収したファージの結合能は、力価測定により行った。
【0061】
[結果]
1.アミノ酸1個置換ファージ
アミノ酸1個置換ファージの結合性試験のインプット力価とアウトプット力価の比の値の変化を図15に示す。
S−406とS−406のアミノ酸1個置換ファージ群のFZD10に対する結合性を比較したところ、S−406の結合性と同等あるいはそれ以上の結合性を示すファージが合計9種存在した。それらファージは、三番目のL(ロイシン)をM(メチオニン)五番目のP(プロリン)をI(イソロイシン)、V(バリン)、M(メチオニン)、L(ロイシン)、九番目のL(ロイシン)をM(メチオニン)、W(トリプトファン)、F(フェニルアラニン)、十二番目のY(チロシン)をF(フェニルアラニン)に置換した場合(配列番号21〜29)であった。その中でも、五番目のPをIに置換したファージ(S−406 P5I、配列番号23)のFZD10に対する結合性は、S−406に比べ約10倍高い値を示した。
【0062】
上記結果より、オリジナル配列であるS−406のFZD10に対する結合性と同等あるいはそれ以上の結合性を示すものが現れたことから、性質の似たアミノ酸で置換可能であることが示唆された。例えば、五番目のPをI、V、L、Mで置換した場合、どのアミノ酸であっても結合性の低下は見られず、IおよびVで置換したファージでは4〜10倍高い結合性を示す事が分かっている。そこで、置換したI、V、L、M、全てのアミノ酸を比べてみると、どれもアルキル鎖を持ち、疎水性であり、さらに構造の類似がみらる。但し、実施例6の結果からPをAに置換した場合は結合性が約40倍低くなっていることから、少なくともV以上の長さが必要であると考えられる。
【0063】
2.アミノ酸2個置換ファージ
アミノ酸2個置換ファージの結合性試験のインプット力価とアウトプット力価の比の値の変化を図16に示す。
S−406の結合性と比較しての3倍高い結合性を示したアミノ酸2個置換ファージは、三番目のLをM、五番目のPをIに置換したファージ(S−406 L3M/P5I、配列番号30)であり、2.5倍高い結合性を示したファージは、五番目のPをV、九番目のLをMに置換したファージ(S−406 P5V/L9M、配列番号31)であり、ほぼ同等の結合性を示したファージは、三番目のLをMに九番目のLをWに置換したファージ(S−406 L3M/L9W、配列番号32)であった。
【0064】
アミノ酸1個置換で結合性の変化が少なかったパターンを組み合わせ、アミノ酸2箇所を置換したファージの結合性は、1個置換の結合性結果と矛盾が無く、FZD10への結合性を保持していることが明らかとなった。
【0065】
3.S−406短鎖ペプチドファージ
S−406短鎖ペプチドファージの結合性試験のインプット力価とアウトプット力価の比の値の変化を図17に示す。
二番目のLから十二番目のY(S−406 L2−Y12、配列番号33)の11残基からなるペプチドを提示しているファージは、S−406の結合性と比較して同等の結合性を示した。
【0066】
上記結果より、S−406のペプチド配列の中でFZD10に結合するために必要な部位は二番目のLから十二番目のY(L2−Y12)までであることが明らかとなった。図示していないが、S−406 L2−Y12の配列の一部がかけているファージ(例L2−L9、L3−Y12等)では、結合性が大きく失われる結果が得られていることからも明らかである。
【0067】
実施例11(半定量的RT−PCR)
【0068】
[手順]
1.mRNA抽出
MCF7;ヒト乳腺癌細胞(DSファーマバイオメディカル)、及び、HS−SY−II;ヒト滑膜肉腫細胞(理化学研究所バイオリソースセンター)を用いて、RNeasey Mini Kit(QIAGEN)のプロトコルに従い、mRNAを抽出した。今回、ゲノム由来のDNAを除去する目的で、mRNA抽出過程において、RNeasyスピンカラム上でRNase−free DNase set(QIAGEN)を用いて、DNase I処理を2回実施した。また、抽出mRNAの溶液条件において、DNase I処理を1回実施した。
【0069】
2.cDNA合成
SuperScript VILO(Invitrogen)のプロトコルに従い、mRNAよりcDNAを合成した。
【0070】
3.半定量的RT−PCR
(1)プライマー、プローブ設計
Human FZD10 mRNA情報(NM#007197.2)より、5’−TTGGACCTCCAAGACTCTGC−3’(配列番号34)、5’−TCCGGCTCTTCTTCTTTAACC−3’(配列番号35)の2つのオリゴを合成した(日本遺伝子研究所)。配列番号34と配列番号35で示されたプライマーを用いてリアルタイムPCRを行なうためのプローブは、Universal Probe#74;GGCAGCAG(配列番号36)をロシュ社より購入し、使用した。
通常、ゲノムDNAとcDNAとの区別を行なう目的でイントロンを挟んだ部位でのプライマーを設計することが望まれるが、FZD10はイントロンを持たない遺伝子であるので、今回、イントロンを挟んだ部位でのプライマーは設計できなかった。
コントロールとして用いたHuman β−Actinのプライマー、及び、プローブはロシュより購入した(Universal ProbeLibrary Reference Gene Assay, Human ACTB Gene Assay)。
【0071】
(2)コントロールプラスミド作製(TAクローニング)
FZD10ベクター(FZD10/pCMV6−XL4)を鋳型として、購入したプライマーを利用し、TaqDNA polymerase(Roche)を用いてPCRを実施した。TA cloning kit(Invitrogen)を用いて、得られたPCR産物より、コントロールプラスミドベクターの作成を試みた。得られたクローンは、T7 promoter primer;5’−TAATACGACTCACTATAGGG−3’(配列番号37)とM13 Reverse Primer;5’−CAGGAAACAGCTATGAC(配列番号38)を用いてシークエンス解析を実施し、確認を行なった。
【0072】
(3)リアルタイムPCR反応
LigthCyclerTM 480 Probes Master(Roche Applied Science)と各種プライマー(β−Actin、FZD10)、プローブを用いて、cDNA変換サンプルのリアルタイムPCRを実施した。検出には、LightCyclerTM 480 Instrument(Roche Applied Science)を使用した。
【0073】
[結果]
リアルタイムPCR反応により得られた結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
表2より、今回使用した条件では、FZD10に関してHS−SY−IIでPCR反応が進み、Cp値を得ることができた。しかし、MCF7ではPCR反応が進まなかった。2細胞ともに、コントロールであるβ−ActinのPCR反応は進んでいることから、PCR反応自体に問題はない。
今回、FZD10のmRNA発現はHY−SY−IIで確認され、MCF7ではほとんど発現していないものと予想される結果となった。
【0076】
実施例12(結合性試験(in vitro))
実施例7より、FZD10遺伝子発現が最も高いHS−SY−II細胞株を標的として、S−406および実施例10においてS−406よりもFZD10に対し高い結合性を示した、五番目のPをIに置換したファージペプチド(S−406 P5I)の結合性試験を実施した。
【0077】
[手順]
1.HS−SY−II細胞
6ウェル培養プレートにHS−SY−II細胞を5×10cells/wellで播種し、37℃、5%CO条件で一晩培養した。プレートを4℃で30分間インキュベートした後、各ウェルの培地を除去し、1%BSA/PBS 1mLで2回洗浄処理を行った。S−406とS−406 P5Iファージ及び、M13KEファージを力価1×1010PFUとなるように10%FBS培地(増殖培地)1mLに希釈し、各ウェルに添加し、4℃で60分間インキュベートした。反応後、反応液を除去し、1%BSA/PBS 1mLで10回洗浄処理を行い、非結合のファージを除去した。0.05%トリプシン/0.53mM EDTA溶液を100μL添加し、37℃で5分間インキュベートし、増殖培地を900μL添加し、細胞ごと回収し回収ファージ液とした。各回収ファージ液の力価を測定した。
【0078】
[結果]
図18に各ファージのインプット力価とアウトプット力価の比を示す。S−406ファージの力価比はM13KEファージと比較して5倍高かった。これに対し、S−406 P5Iファージの力価比はM13KEファージに対し25倍高かった。
【0079】
次に、FZDのリガンドタンパクであるWntタンパクを添加し、標的細胞であるHS−SY−IIのWntシグナル経路を活性化するような条件下で、S−406 P5Iファージペプチドを用いた結合性試験を実施した。
[手順]
2.HS−SY−II細胞(Wntタンパクの添加有り)
6ウェル培養プレートに細胞を5×10cells/wellで播種し、37℃、5%CO条件で一晩培養した。Recombnant human WNT−3a(rhWNT−3a、StemRD)を500ng/mlになるように各wellに添加し、37℃、5%CO条件で一晩培養した。プレートを4℃で30分間インキュベートした後、各ウェルの培地を除去し、1%BSA/PBS 1mLで2回洗浄処理を行った。S−406 P5Iファージ及び、M13KEファージを力価1×1010PFUとなるように10%FBS培地(増殖培地)1mLに希釈し、各ウェルに添加し、4℃で60分間インキュベートした。反応後、反応液を除去し、1%BSA/PBS1mLで10回洗浄処理を行い、非結合のファージを除去した。0.05%トリプシン/0.53mM EDTA溶液を100μL添加し、37℃で5分間インキュベートし、増殖培地を900μL添加し、回収ファージ液とした。各回収ファージ液の力価を測定した。
【0080】
[結果]
図19に各ファージのインプット力価とアウトプット力価の比を示す。S−406 P5Iファージの力価比はM13KEファージに対し63倍高かった。
【0081】
図18から、HS−SY−II細胞株においても、S−406はペプチド非提示ファージ(M13KE)よりも高い結合性を示し、S−406 P5Iはさらに高い結合性を示す事が明らかとなり、両者ともHS−SY−II細胞の発現するFZD10に結合していると考えられる。
さらに、S−406 P5Iにおいては、rhWNT−3aを添加することにより、その結合性はM13KEよりも63倍高い値を示した。この結果からWnt非添加条件よりも高い結合性を得られたため、rhWNT−3a添加効果が示された。
上記は、FZDは二量化することでWntシグナル経路の活性化に関与していることが報告されていることや(非特許文献1)、ファージディスプレイで標的としたFZD10が二量体であることから、rhWNT−3a添加によりWntシグナル経路が活性化され、細胞が発現するFZDの二量化が促された可能性が考えられる。
【0082】
実施例13(In vitro imaging)
[手順]
トリプルウェルガラスベースディッシュ(ウェル内径φ11mm)にHS−SY−II細胞を7.5×10Cells/Well、MCF7細胞を5×10Cells/Wellになるように播種し、37℃、CO条件下で一晩培養した。各ウェルに、rhWNT−3aが500ng/mlになるように添加し、37℃、CO条件下で一晩培養した。培養後のウェルの培養液を除去後、37℃の増殖培地50μLで3回洗浄した。ペプチドのN末端にアミノカプロン酸リンカーを連結させて、連結されたリンカーの反対側にFITCを標識したS−406 P5Iペプチド(Pep23−F(配列番号23)(純度80%<,HPLCグレード,Thermoscientific)、S−406ファージのランダム配列ペプチドPep39−F(YLPLWRLSESHM:配列番号39))(純度80%<,HPLCグレード,AnyGen,Korea)を増殖培地で100μMに調製し、50μL添加して37℃で1時間インキュベートした。ペプチド溶液を除去し、37℃の増殖培地50μLで10回洗浄し、最後に培地を50μL添加した。観察は、共焦点顕微鏡(Leica SP2)を用い、励起光のレーザー波長は488nmを照射し蛍光観察を行った。
【0083】
[結果]
1. HS−SY−II細胞
図20に、Pep23−Fで染色し、共焦点顕微鏡で観察した結果を示す。
撮影条件は、励起光が488nmで蛍光受光側を500〜535nmに設定し、対物レンズは63倍オイルレンズ(HCX PL APO CS 63x OIL、Leica)を使用し、Gain値700Voltで撮影した像である。
HS−SY−II細胞の細胞内において、ドット状に強く染色されるている様子が観察できる。細胞質や核内部の一様な染色は見られない。
図21に、Pep39−Fで染色し、共焦点顕微鏡で観察した結果を示す。
撮影条件は、Pep23−Fと同様であるが、ドット状の染色は見られず、こちらは細胞質、核内部が薄らと染色されていることが分かる。
2.MCF7細胞
図22図23に、Pep23−FおよびPep39−Fで染色し、共焦点顕微鏡で観察した結果を示す。
どちらにも、ほとんど染色性が見られない。
【0084】
HS−SY−II細胞でのPep23−FとPep39−Fの染色を比較すると、Pep23−Fでのみドット状の強い染色性がみられる。
また、実施例11においてFZD10の遺伝子発現が見られなかったMCF7細胞の染色性は、どちらのペプチドにおいても染色性は見られなかった。
上記結果より、HS−SY−II細胞で見られたPep23−Fによるドット状の染色は、HS−SY−II細胞が発現するFZD10によるものであると考えられ、Pep23−Fは細胞が発現するFZD10に結合していると思われる。
図1
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図20
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]