(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6155268
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】多層フィルム、加飾成形用フィルムおよび成形体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20170619BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20170619BHJP
B29C 47/06 20060101ALI20170619BHJP
B32B 7/02 20060101ALI20170619BHJP
B29K 33/04 20060101ALN20170619BHJP
B29K 69/00 20060101ALN20170619BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20170619BHJP
B29L 9/00 20060101ALN20170619BHJP
【FI】
B32B27/36 102
B32B27/30 A
B29C47/06
B32B7/02 103
B29K33:04
B29K69:00
B29L7:00
B29L9:00
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-529571(P2014-529571)
(86)(22)【出願日】2013年8月2日
(86)【国際出願番号】JP2013071582
(87)【国際公開番号】WO2014025005
(87)【国際公開日】20140213
【審査請求日】2016年7月4日
(31)【優先権主張番号】特願2012-174025(P2012-174025)
(32)【優先日】2012年8月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000231361
【氏名又は名称】日本写真印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080609
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 正孝
(74)【代理人】
【識別番号】100109287
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 泰三
(72)【発明者】
【氏名】前川 祥一
(72)【発明者】
【氏名】芝田 純一
(72)【発明者】
【氏名】西村 剛
(72)【発明者】
【氏名】田谷 周一
【審査官】
長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−009116(JP,A)
【文献】
特開2013−202815(JP,A)
【文献】
特開2009−234184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C47/00−47/96
B32B1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度平均分子量が13,000以上20,000未満のポリカーボネート樹脂を含む層(A層)、およびA層の両面に積層されたアクリル系樹脂を含む層(B−1層およびB−2層)を含み、全体の厚みが50〜200μmで、かつA層の厚みが全体厚みの5%〜30%である多層フィルム。
【請求項2】
ヘイズが4%以下である請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の多層フィルムの一方の面に加飾が施された加飾成形用フィルム。
【請求項4】
基材およびその表面に形成された請求項3に記載の加飾成形用フィルムを含む加飾成形体。
【請求項5】
A層を構成する粘度平均分子量が13,000以上20,000未満のポリカーボネート樹脂を含む成形材料A、B−1層を構成するアクリル系樹脂を含む成形材料B−1およびB−2層を構成するアクリル系樹脂を含む成形材料B−2を共押出することからなるA層の両面にそれぞれB−1層およびB−2層が積層された請求項1記載の多層フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形物の表面加飾用途に用いられる多層フィルムおよびその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
インモールド転写、インモールドラミ、真空圧空成形ラミ等の加飾成形法は家電製品、自動車内装部品、雑貨類等を対象に従来から用いられている手法であるが、近年環境意識の高まりや技術革新も進み、適用範囲が大幅に広がっている。加飾成形には、フィルムに印刷、賦形あるいは金属蒸着等を施した加飾成形用フィルムが用いられる。その基材フィルムとしてこれまで、アクリルフィルム、PETフィルム、ポリカーボネートフィルム等が用いられてきた。
かかる基材フィルムに求められる特性としては、目標の形状に正確に転写されるという熱成形性、印刷等のフィルム表面への加飾の際に必要な耐溶剤性、表面硬度、耐熱性、透明性、耐候性等が挙げられる。しかし、これら特性を全て満足する基材はなく、これまで用途に応じて問題を抱えながらも使用してきたのが現状である。
例えばアクリルフィルムは、その優れた透明性や耐候性に優れており、またフィルムの脆性が高く割れやすいという特徴から、特定の加飾成形加工方法のトリミング性に優れ、本用途には多く用いられている。しかしながらアクリルフィルムは耐熱性の要求される用途への展開に限界があり、トリミング時の割れやすさを維持しつつ高い耐熱性を要求される分野への適用が困難である。
またポリカーボネートフィルムの場合、耐熱性は高いものの、アクリルフィルムに比べて延性が高く割れにくいためトリミング性に劣っている。
かかる基材特性の改善策の一つとして、ポリカーボネート樹脂層の少なくとも一方の面にアクリル樹脂層を積層させた積層フィルムが提案されている(特許文献1〜10参照)。
この積層フィルムは、アクリルフィルムの耐熱性を改善する一方、ポリカーボネートフィルムの面から見るとその表面硬度、耐溶剤性および耐候性が改善されることになり、いわば“いいところ取り”してバランスのある特性となるように狙ったものである。しかし、トリミング性や表面硬度はアクリル単層フィルムに比べて満足できておらず、また熱成形性や成形後の外観、透明性が問題になる場合が多かった。
このように加飾成形用フィルムの基材として、これまで素材面の改良や積層体にするといった構成面からもその特性改善が様々に検討されてきてはいるが未だ十分ではなく、さらなる改良が求められている。
【特許文献1】特許第3457514号公報
【特許文献2】特許第3489972号公報
【特許文献3】特許第3904262号公報
【特許文献4】特開2005−231257号公報
【特許文献5】特開2005−219330号公報
【特許文献6】特開2007−160892号公報
【特許文献7】特開2009−172953号公報
【特許文献8】特開2009−234183号公報
【特許文献9】特開2009−234184号公報
【特許文献10】特開2009−248363号公報
【発明の開示】
【0003】
本発明の目的は、耐熱性、表面硬度、透明性に優れ、熱収縮率が小さく、脆性が高く加飾成形加工後のトリミング性が容易な多層フィルムを提供することにある。また本発明の目的は、該多層フィルムを用いた加飾成形用フィルムおよび加飾成形体を提供することにある。また本発明の目的は、該多層フィルムの製造方法を提供することにある。
本発明者らは、ポリカーボネート樹脂層およびアクリル樹脂層を有する多層フィルムについて、ポリカーボネート樹脂層の素材面およびポリカーボネート樹脂層とアクリル樹脂層の厚み構成について鋭意検討した。その結果、粘度平均分子量が13,000以上20,000未満のポリカーボネート樹脂からなる層(A層)の両面にアクリル系樹脂からなる層(B−1層およびB−2層)を積層し、A層厚みを全体の厚みの5%〜30%に調整することで、耐熱性、透明性、表面硬度、トリミング性に優れ、低熱収縮率の多層フィルムが得られることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明は以下の通りのものである。
1.粘度平均分子量が13,000以上20,000未満のポリカーボネート樹脂を含む層(A層)、およびA層の両面に積層されたアクリル系樹脂を含む層(B−1層およびB−2層)を含み、全体の厚みが50〜200μmで、かつA層の厚みが全体厚みの5%〜30%である多層フィルム。
2.ヘイズが4%以下である前項1に記載の多層フィルム。
3.前項1または2に記載の多層フィルムの一方の面に加飾が施された加飾成形用フィルム。
4.基材およびその表面に形成された前項3に記載の加飾成形用フィルムを含む加飾成形体。
5.A層を構成する粘度平均分子量が13,000以上20,000未満のポリカーボネート樹脂を含む成形材料A、B−1層を構成するアクリル系樹脂を含む成形材料B−1およびB−2層を構成するアクリル系樹脂を含む成形材料B−2を共押出することからなるA層の両面にそれぞれB−1層およびB−2層が積層された前項1記載の多層フィルムの製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0004】
以下、本発明について詳述する。
[多層フィルム]
本発明の多層フィルムは、ポリカーボネート樹脂を含む層(A層)並びにアクリル系樹脂を含む層(B−1層およびB−2層)を有している。すなわち、A層の両面にそれぞれB−1層およびB−2層が積層された多層フィルムである。
<ポリカーボネート樹脂>
ポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物が炭酸エステル結合により結ばれたポリマーであり、通常、ジヒドロキシ成分とカーボネート前駆体とを界面重合法または溶融重合法で反応させて得られるものである。
ジヒドロキシ成分の代表的な例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン、イソソルビド、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。これらを単独で使用したホモポリマーでも、2種類以上共重合した共重合体であっても良い。物性面、コスト面からビスフェノールAが好ましい。本発明ではビスフェノール成分の50モル%以上がビスフェノールAであるポリカーボネートが好ましく、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。
具体的なポリカーボネートとして、ビスフェノールAのホモポリマー、ビスフェノールAと1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンとの2元共重合体、ビスフェノールAと9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレンとの2元共重合体等を挙げることができる。ビスフェノールAのホモポリマーが最も好ましい。
該ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、100〜200℃の範囲が好ましく、より好ましく120〜180℃の範囲であり、さらに好ましくは135〜150℃の範囲である。ガラス転移温度が高すぎるとその溶融粘度が高くなりすぎて溶融製膜が困難となるため好ましくなく、またガラス転移温度が低すぎると多層フィルムの耐熱性が不足するため本用途には相応しくない。
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、カーボネートエステルまたはハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。
上記二価ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体を界面重合法または溶融重合法によって反応させてポリカーボネート樹脂を製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールの酸化防止剤等を使用してもよい。またポリカーボネート樹脂は三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂であっても、芳香族または脂肪族の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂であってもよく、また、得られたポリカーボネート樹脂の2種以上を混合した混合物であってもよい。
ポリカーボネート樹脂の分子量は、粘度平均分子量で表して13,000以上20,000未満の範囲である。該分子量が13,000より低いと溶融粘度が低すぎてしまい溶融製膜が困難となり、また20,000以上になると多層フィルムとして靭性が強くなり、加飾成形した後のトリミングが困難となる。好ましくは14,000以上19,000以下の範囲であり、より好ましくは15,000以上18,500以下の範囲である。ポリカーボネート樹脂が2種以上の混合物の場合は混合物全体での分子量を表す。ここで粘度平均分子量とは、塩化メチレン100mLにポリカーボネート0.7gを溶解した溶液の20℃における比粘度(η
sp)を測定し、下記式から粘度平均分子量(Mv)を算出したものである。
η
sp/c=[η]+0.45×[η]
2c
[η]=1.23×10
−4M
0.83
(但しc=0.7g/dL、[η]は極限粘度)
さらにかかるポリカーボネート樹脂に、一般的な熱安定剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、着色剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤等の各種添加剤を加えても良い。
<アクリル系樹脂>
本発明においてB−1層およびB−2層用のアクリル系樹脂は、メタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルの重合体を主体とするものである。アクリル系樹脂として、メタクリル酸メチルのホモ重合体、あるいはメタクリル酸メチルを好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上含む共重合体を挙げることが出来る。
他の共重合成分として、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。
また他の共重合成分として、他のエチレン性不飽和単量体が挙げられる。具体的にはスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のビニル芳香族化合物、1,3−ブタジエン、イソプレン等のジエン系化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のアルケニルシアン化合物、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、N−置換マレイミド等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。共重合成分の含有量は、好ましくは0〜50重量%、より好ましくは0〜30重量%、さらに好ましくは0〜20重量%である。
アクリル樹脂の製造方法は一般に、乳化重合法、懸濁重合法、連続重合法に大別されるが、本発明に用いられるアクリル樹脂はいずれの重合方法により製造されたものであっても良い。
本発明では発明の効果を損なわない範囲で、多層フィルムの熱成形時のバリ、割れの改善のためアクリル樹脂にゴム粒子を添加しても良い。アクリル樹脂にゴム粒子を加えることによる靭性改善は公知の技術であり広く用いられており、本発明でも用いることが出来る。一般にゴム粒子を加えると透明性が低下する傾向にあり、本発明では出来るだけ透明性の高いゴム粒子を用いることが好ましい。好ましいゴム粒子として、アクリル系の架橋弾性重合体からなるコア層をメタクリル酸エステル樹脂で包んだコアシェル構造としたもの、また中心部のメタクリル酸エステル樹脂をアクリル系の架橋弾性重合体で包み、さらにその外側をメタクリル酸エステル樹脂で被覆した3層構造としたもの等が挙げられる。かかる多層構造のゴム粒子はアクリル樹脂に対する分散性が良好であり、透明性の高い多層フィルムを得ることが可能である。本発明では加飾成形の際に基材フィルムに要求される靭性、透明性を総合的に勘案して、ゴム粒子の有無、およびゴム粒子を含有する場合はかかるゴム粒子の種類、量、サイズ等を決定すれば良い。
さらにかかるアクリル系樹脂に、一般的な熱安定剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、着色剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、艶消し剤等の各種添加剤を加えても良い。
<層構成>
本発明の多層フィルムは、その総厚みが50〜200μmの範囲であり、好ましくは50〜150μmの範囲であり、より好ましくは60〜130μmの範囲である。総厚みが薄すぎるとハンドリングが困難となり加飾フィルム用途として相応しくなくまた生産上も困難となる。一方、総厚みが厚すぎるのも、熱成形時のフィルム加熱に時間がかかったり、熱成形性が低下したりすることがあるため好ましくない。
また本発明で好ましい多層フィルムの厚み組成は、A層の厚みが総厚みの5〜30%である。A層の厚みは、より好ましくは総厚みの10〜25%である。A層の厚みが5%未満では耐熱性や熱収縮率が劣り、30%を超えるとトリミング性が劣り好ましくない。
B−1層およびB−2層の厚みは20μm以上であることが好ましい。B−1層またはB−2層の厚みが20μmより薄いと、表面硬度や耐溶剤性の特性が不十分となるため好ましくない。より好ましくはB−1層またはB−2層の厚みが30μm以上であり、さらに好ましくは40μm以上である。B−1層またはB−2層の厚みの上限は、総厚みおよびA層の厚みにより決まってくるが、90μm以下が好ましく、70μm以下がより好ましい。
加飾成形用フィルムの基材フィルムとしては透明性の高いものが好ましい。本発明の多層フィルムは、その全光線透過率は90%以上が好ましく、91%以上がより好ましい。また、ヘイズが4%以下であることが好ましく、より好ましくは3%以下であり、さらに好ましくは2%以下であり、特に好ましくは1%以下である。
<多層フィルムの製造方法>
本発明の多層フィルムは、従来公知の方法により製造することが出来る。例えば各層を予め別々に製膜しておきラミネートする、あるいは熱圧着プレスする方法、予め製膜した一方の層のフィルムを基材として、その両面にコーティングしてもう一方の層を形成させる方法、それぞれの樹脂層を共押出法により積層製膜する方法等が挙げられる。中でも経済性、生産安定性等から共押出法による製造方法がもっとも好ましい。
即ち、本発明の多層フィルムは、A層用の成形材料A、B−1層用の成形材料B−1およびB−2層用の成形材料B−2を共押出して製造することができる。
共押出法は、成形材料A、成形材料B−1および成形材料B−2を別々の押出機を用いて溶融押出しし、フィードブロックまたはマルチマニホールドダイを用いて積層することにより多層フィルムを得る方法であり、各押出機の押出量や製膜速度、ダイスリップ間隔等を調整することにより、得られる多層フィルムの総厚みおよび厚み組成をコントロールすることが可能である。
共押出法の場合、一般にダイスから出た溶融樹脂を冷却ロールで冷却した後、ロール状に巻き取ることによりフィルムを製造するが、本発明ではかかる際に多層フィルムにプロテクトフィルムを付けて巻き取っても良い。特にアクリル系樹脂がゴム粒子を含まない場合、表面の滑り性が不足してそのまま巻き取ることが困難な場合があり、かかる場合にはプロテクトフィルムを付けて巻き取ることが好ましい。かかる際には、ポリエチレン系、ポリプロピレン系等の公知のプロテクトフィルムを用いることが出来る。またアクリル系樹脂がゴム粒子を含み、得られる多層フィルムの表面の滑り性が良好な場合は、プロテクトフィルムを使用せずにそのまま巻き取ることも可能である。
[加飾成形用フィルム]
本発明の加飾成形用フィルムは前述の多層フィルムの一方の面に加飾が施されたフィルムである。
加飾方法としては、印刷による図柄層の形成、金属または金属酸化物の薄膜層の形成等が挙げられ、これらを組み合わせて用いても良い。
図柄層を形成するための印刷方法としては、グラビア印刷、平板印刷、フレキソ印刷、ドライオフセット印刷、パット印刷、スクリーン印刷等の公知の印刷方法を製品形状や印刷用途に応じて使用することが出来る。また金属または金属酸化物の薄膜層形成の方法としては、蒸着、溶射法、メッキ法等が挙げられる。蒸着法として具体的には、真空蒸着法、スパッタリング、イオンプレーティング、熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法等の方法を挙げることが出来る。また溶射法としては、大気圧プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法等が挙げられる。メッキ法としては、無電解メッキ法、溶融メッキ法、電気メッキ法等が挙げられる。これらの中でも蒸着法が容易に金属層形成可能であり、また品質面、環境対応の面からも好ましく使用される。
かくして多層フィルムの一方の面に加飾されたフィルムにさらに粘着層や接着層を形成させても良い。かかる粘着層や接着層は、熱成形の際に加飾対象体と加飾成形用フィルムとの接着性を向上させるものである。通常、真空成形や圧空成形の場合、加飾された面が加飾対象体側になることが多く、従ってかかる粘着層および接着層は基材フィルムの加飾面の上に形成されることが好ましい。材料としては基材フィルムおよび加飾対象体の材質に適した感熱性または感圧性の粘着剤や接着剤を適用することが出来る。粘着層や接着層を有する場合は、通常、その上に離型フィルムを付けた形で提供される。
また本発明の加飾成形用フィルムは加飾対象体とは反対側の表面に、ハードコート、撥水・撥油コート、紫外線吸収コート、赤外線吸収コート、金属蒸着コート等、各種の表面処理を行っても良い。
[加飾成形体]
本発明の加飾成形体は、基材およびその表面に形成された前述の加飾成形用フィルムを含む。基材は後述する各種部品の形状を有する成形体である。基材は、熱可塑性樹脂、熱硬化樹脂等の各種樹脂で構成される。
加飾成形体として、自動車内装材、自動車のインジケーターパネル、電化製品、化粧品ケース、建材内装および外装品、各種機器や製品および雑貨類のケース、スイッチ、キー、キーパット、ハンドル、レバー、ボタン、家電・AV機器であるパソコンや携帯電話およびモバイル機器のハウジングや外装部品等を挙げることが出来る。加飾成形体は、加飾層の転写性に優れ、表面硬度が高く、また耐候性や耐熱性に優れ、各種電子・電気機器、車両部品、機械部品、その他建材、農業・漁業用資材、搬送容器、包装容器、雑貨等の各種の製品として有用である。
加飾成形体は、加飾成形用フィルムを用いて、従来公知の各種成形を行うことにより表面に加飾成形体を得ることが出来る。
成形法としては、射出成形における金型内加飾工法で、予め射出成形金型に沿うように真空成形された加飾成形用フィルムを金型内にセットし、そこに溶融樹脂を射出して射出成形と同時にフィルムを製品に溶着させるインサートモールド成形法が挙げられる。
また、射出成形金型内での加飾であるが、加飾成形用フィルムを金型キャビティ側に真空圧で貼り付けておき、射出成形時に同時成形して熱と圧力がかかることによりフィルムを成形体に貼合させる方法が挙げられる。また、真空成形や圧空成形でラミネーションする方法が挙げられる。また、射出成形金型内での加飾方法で、加飾成形用フィルムを射出成形時に同時成形する際、加飾層のみを成形体に転写するインモールド転写成形法にも好ましく用いられる。
熱成形の際の加飾成形用フィルムの加熱方法としては、赤外線ヒーター、電気ヒーター、高周波誘導、ハロゲンランプ、マイクロ波、高温誘導体(スチーム等)、レーザー等各種の方法を用いることが出来る。
【実施例】
【0005】
以下に実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。実施例、比較例で行った物性測定は以下の方法で行った。
(1)ポリカーボネートの粘度平均分子量
ポリカーボネートの粘度平均分子量(M)は、濃度0.7g/dLの塩化メチレン溶液の20℃での粘度測定から極限粘度[η]を求め、下記式より算出した。
η
SP/c=[η]+0.45×[η]
2c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10
−4M
0.83
c=0.7
(2)ガラス転移温度(Tg)
TA Instruments製 2920型DSCを使用し、昇温速度20℃/分で測定し、立ち下り点を求めた。
(3)多層フィルムの総厚み
アンリツ(株)製の電子マイクロ膜厚計で測定し、フィルム幅方向における中央部の値である。
(4)多層フィルムの厚み組成
(株)キーエンス製のレーザー顕微鏡VA−9710を用い、フィルム断面の観測により測定した。フィルム幅方向における中央部の値である。
(5)フィルムの全光線透過率、ヘイズ
日本電色工業(株)製のヘーズメーターNDH−5000型を用いて測定した。
(6)フィルムの表面硬度
JIS K 5600に従って、鉛筆硬度を測定した。
(7)熱収縮率
フィルムを200mm×50mmサイズにカットして、精密定規(最小目盛り0.5mm)を使って中央部に100.0mm標線を記入する。(但し0.25mm単位まで読み取ることとする。)140℃オーブンで90秒加熱後の標線の変化率を熱収縮率とした。
熱収縮率(%)=(100.0−加熱後の標線長さ)/100.0×100
(8)トリミング性
成形体外周に端面から30mmほど余分なフィルムがはみ出した加飾成形体をインサートモールド法により作成した。この余分な部分のフィルムをトリミングする工程の際に、手で折り曲げて容易に除去でき、さらに成形体端面にバリを残りなく取り除くことが出来るかで良否を判断した。
○:余分な部分のフィルムを手で折り曲げて容易に除去することができ、さらに基材側にバリが残らない。
×:余分な部分のフィルムを手で折り曲げても容易には除去できず、基材側にもバリが残る。
実施例1
(成形材料A)
ポリカーボネート樹脂ペレット(帝人化成(株)製パンライトAD5503、粘度平均分子量15,200)を用意した。
(成形材料B−1およびB−2)
B−1層用の成形材料B−1およびB−2層用の成形材料B−2としてアクリル樹脂(デグサ製PLEXIGLAS8N(8N);標準グレード)を用意した。
(共押出)
成形材料Aおよび成形材料B−1、B−2を、それぞれスクリュー径40mmの単軸押出機を用いて、シリンダー温度240℃(成形材料A)、250℃(成形材料B−1、B−2)の条件で、フィードブロック方式にて650mm幅のTダイから押出し、冷却ロールに溶融樹脂の一方の面をタッチさせて冷却した後、エッジトリミングしてB−1層/A層/B−2層の3層構造を有するフィルム幅400mmの多層フィルムを作成した。なお巻き取りにはポリエチレン系の弱粘着性のプロテクトフィルムを用いた。
得られた多層フィルムの総厚みは125μm、厚み組成は、B−1層/A層/B−2層=48/27/50(μm)であり、A層の厚みが全体厚みの22%であった。これらはいずれもフィルム幅方向中央部の値であるが、幅方向の厚み斑は±3μmであり、また厚み組成の幅方向分布を測定したところ、各層で±2μm以内であり均一性の高いフィルムであった。全光線透過率、ヘイズ、表面硬度を表1に示す。熱収縮率は0.50%と非常に低く、また脆性が高いことからトリミング性も容易であった。
実施例2
A層の厚み比率、巻き取り速度を変えた他は実施例1と同様に製膜して、総厚み129μm、A層の厚みが全体厚みの11%に調整した多層フィルムを得た。フィルム物性を表1に示す。熱収縮率、トリミング性は実施例1と同様に良好であった。
実施例3
A層の厚み比率、巻き取り速度を変えた他は実施例1と同様に製膜して、総厚み73μm、A層の厚みが全体厚みの10%に調整した多層フィルムを得た。フィルム物性を表1に示す。熱収縮率、トリミング性は実施例1と同様に良好であった。
実施例4
成形材料Aを、帝人化成(株)製パンライトL1225JM(粘度平均分子量18,500)に変更し、A層の厚み比率、巻き取り速度を変えた他は実施例1と同様に製膜して、厚み123μm、A層の厚みが全体厚みの15%に調整した多層フィルムを得た。フィルム物性を表1に示す。熱収縮率、トリミング性は実施例1と同様に良好であった。
実施例5
成形材料B−1およびB−2としてアクリル樹脂(三菱レーヨン(株)製アクリペットVH001)に変更し、A層の厚み比率、巻き取り速度を変えた他は実施例4と同様に製膜して、厚み75μm、A層の厚みが全体厚みの16%に調整した多層フィルムを得た。フィルム物性を表1に示す。熱収縮率、トリミング性は実施例1と同様に良好であった。
比較例1
成形材料Aとして帝人化成(株)パンライトL−1250(粘度平均分子量23,700)に変更し、A層の厚み比率、巻き取り速度を変えた他は実施例1と同様に製膜して、厚み128μm、A層の厚みが全体厚みの20%に調整した多層フィルムを得た。フィルム物性を表1に示す。粘度平均分子量が高く、延性が高く割れにくいためトリミング性が困難であった。
比較例2
A層の厚み比率、巻き取り速度を変えた他は実施例1と同様にして製膜し、厚み125μmの多層フィルムを得た。厚み組成は、B−1層/A層/B−2層=40/45/40(μm)であり、A層の厚みが全体厚みの36%であった。フィルム物性を表1に示す。延性が高く割れにくいためトリミング性が困難であった。
比較例3
成形材料B−1およびB−2としてアクリル樹脂(三菱レーヨン(株)製アクリペットVH001)に変更し、A層の厚み比率、巻き取り速度を変えた他は実施例1と同様に製膜して、厚み113μmの多層フィルムを得た。厚み組成は、B−1層/A層/B−2層=26/63/24(μm)であり、A層の厚みが全体厚みの56%であった。フィルム物性を表1に示す。延性が高く割れにくいことからトリミング性が困難であった。
比較例4
アクリル樹脂(三菱レーヨン(株)製製アクリペットVH001)を、フィードブロック方式ではなく単層方式で、スクリュー径40mmの単軸押出機によりシリンダー温度250℃で650mm幅のTダイから押出し、その後は実施例1と同様にして幅400mmのアクリルフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。ヘイズおよび熱収縮率が高く、また耐熱性が低いフィルムであった。
【表1】
発明の効果
本発明の多層フィルムは、耐熱性、トリミング性、表面硬度、熱収縮率等に優れる。本発明の製造方法によれば、上記の優れた特性を有する多層フィルムを製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0006】
本発明の多層フィルムは、加飾成形の材料として有用である。