特許第6155303号(P6155303)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6155303
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】コウモリ種の判別方法
(51)【国際特許分類】
   A01M 23/00 20060101AFI20170619BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20170619BHJP
   G01N 1/04 20060101ALI20170619BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20170619BHJP
【FI】
   A01M23/00 Z
   G01N33/48 S
   G01N1/04 H
   G01N33/50 P
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-116199(P2015-116199)
(22)【出願日】2015年6月9日
(65)【公開番号】特開2017-57(P2017-57A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2016年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】591146239
【氏名又は名称】いであ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100060575
【弁理士】
【氏名又は名称】林 孝吉
(74)【代理人】
【識別番号】100169960
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 貴光
(72)【発明者】
【氏名】田悟 和巳
(72)【発明者】
【氏名】益子 理
(72)【発明者】
【氏名】堀江 源
【審査官】 坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−292645(JP,A)
【文献】 特開2015−152321(JP,A)
【文献】 特開2014−92842(JP,A)
【文献】 特開2006−292432(JP,A)
【文献】 特開2003−315244(JP,A)
【文献】 特開2015−228803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 23/00
A01K 67/00
G01N 1/04
G01N 33/48
G01N 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コウモリ種の判別方法であって、
空中に浮遊し得る飛翔体と、
前記飛翔体に取り付けられて空中に該飛翔体と共に浮遊し、少なくとも前記コウモリ種自体または該コウモリ種の毛の一部を検体として採取し得る採取器とを備え、
前記採取された検体からコウモリ種の判別を行う、ことを特徴とするコウモリ種の判別方法。
【請求項2】
前記採取された検体のDNAを分析してコウモリ種の判別を行う、ことを特徴とする請求項1に記載のコウモリ種の判別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば環境アセスメントなどに使用するデータを得るためのコウモリ種の判別方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高くて視認性が悪い送電線などの構造物や、発電用風車の設置、飛行場の建設などを行う場合に、野鳥などが衝突するバードストライクが問題となる。バードストライクは鳥類だけでなく、コウモリ種も数多く含まれている。したがって、それらの生息保全を検討する際には、飛翔行動状況の把握が必要になる。また、鳥類やコウモリ種のうち、特にコウモリ種は夜行性であり、外見が類似しているため、捕獲をしないと種の判別が難しい。そのため、調査方法は、カスミ網による捕獲や、テレビカメラなどを用いた定点観測に限られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
カスミ網により捕獲して調査する方法は、日中、コウモリ種の既知のねぐら付近に高さが1〜5メートル程の網を仕掛けておき、夜中にその網に引っ掛かったコウモリ種を捕獲することで、コウモリ種の種類を特定する方法である。
【0004】
一方、テレビカメラなどを用いた定点観測は、日中、コウモリ種の既知のねぐら付近にテレビカメラを設置しておき、夜間テレビカメラの視野範囲に入ったコウモリ種を、モニターの画面を調査員が目で見て、その種類などを特定する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−292645号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したカスミ網により捕獲して調査する方法は、カスミ網が5メートル程の高さまでしか設置できない。そのため、捕獲できるのは、森林の低い空間を生息環境とする特定の種に限られる。
【0007】
一方、テレビカメラなどを用いた定点観測は、夜間にテレビカメラの視野範囲に入ったコウモリ種を、調査員がモニター画面を目で見て、そのモニターに映し出された画像から種類などを特定するので、テレビカメラから離れて小さく映る、例えば高高度を飛翔するコウモリ種の判別は不可能であり、また調査員の負担も大きく、精度的にも悪い。
【0008】
そこで、高高度を飛翔するコウモリ種などであっても、簡単、かつ効率的に判別することができるコウモリ種の判別方法を提供するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、コウモリ種の判別方法であって、空中に浮遊し得る飛翔体と、前記飛翔体に取り付けられて空中に該飛翔体と共に浮遊し、少なくとも前記コウモリ種自体または該コウモリ種の毛の一部を検体として採取し得る採取器とを備え、前記採取された検体からコウモリ種の判別を行う、コウモリ種の判別方法を提供する。
【0010】
この方法によれば、コウモリ種自体または該コウモリ種の毛の一部を検体として採取し得る採取器を、飛翔体と共に空気中の高高度の位置に浮遊させ、その採取器により採取された検体からコウモリ種の判別を直接行うことができる。したがって、従来、カスミ網などで捕獲して調査する方法では、せいぜい5メートル程度の高さを飛ぶコウモリ種の検体しか得ることができなかったが、本発明の方法によれば、それよりも遙かに高い高高度の空中を飛んでいるコウモリ種の調査を行うことができる。また、従来、テレビカメラなどで間接的に判別している方法に対して、検体を直接得て判別を行うことができるので、精度も向上する。さらに、採取器を飛翔体と共に浮遊させて、その設置位置を容易に変更することができるので、広範囲に亘る調査を短期間で終わらせることができる。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の方法において、前記採取された検体のDNAを分析してコウモリ種の判別を行う、コウモリ種の判別方法を提供する。
【0012】
この方法によれば、採取された検体のDNAを分析してコウモリ種の判別を正確に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コウモリ種の既知のねぐらや、飛来位置付近、及び、低空位置から高高度の位置まで広い範囲に亘って飛翔体と共に採取器を浮遊させ、コウモリ種自体またはコウモリ種の毛の一部を採取器により検体として直接採取し、その検体からコウモリ種を直接判別することができるので、判別精度が向上する。また、採取器を飛翔体と共に浮遊させながら位置を容易に変更することができるので、作業性が向上し、広範囲に亘る調査を効率的に短期間で終わらせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係るコウモリ種の判別方法を実施するのに好適な、第1のシステム構成装置を示す全体図である。
図2】前記第1のシステム構成装置の一変形例を説明する図である。
図3】前記第1のシステム構成装置の別の変形例を説明する図である。
図4】本発明に係るコウモリ種の判別方法を実施するのに好適な、第2のシステム構成装置を示す全体図である。
図5】本発明に係るコウモリ種の判別方法を実施するのに好適な、第3のシステム構成装置を示す全体図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、高高度を飛翔するコウモリ種などであっても簡単、かつ効率的に判別することができるコウモリ種の判別方法を提供するという目的を達成するために、空中に浮遊し得る飛翔体と、前記飛翔体に取り付けられて空中に該飛翔体と共に浮遊し、少なくとも前記コウモリ種自体または該コウモリ種の毛の一部を検体として採取し得る採取器とを備え、前記採取された検体からコウモリ種の判別を行う、ようにしたことにより実現した。
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態によるコウモリ種の判別方法の好適な実施例を説明する。
【実施例】
【0017】
図1は、本発明に係るコウモリ種の判別方法を実施するのに好適な、第1のシステム構成装置を示す全体図である。その第1のシステム構成装置11では、空中に浮遊し得る飛翔体12と、その飛翔体12に取り付けられて該飛翔体12と共に空中に浮遊される採取器13等で構成されている。
【0018】
前記飛翔体12は、遠隔操作やコンピュータ制御によって飛行して、空中を浮遊し得る、例えばドローンと呼ばれる無人航空機である。その飛翔体12には、GPS(全地球測位システム)が組み込まれており、現在地の緯度・経度及び高さを計算しながら、予め設定された定位置(緯度・経度及び高さ)に浮遊された状態で飛行し得る。その飛翔体12の高度は、遠隔制御により250メートル程度まで浮遊することが可能である。
【0019】
前記採取器13は、円環状に形成されたヘリウムガス風船14と、そのヘリウムガス風船14の下面全周から環状に垂れ下がった状態にして、該ヘリウムガス風船14に取り付けられているカスミ網15と、よりなる。また、ヘリウムガス風船14内には、空気よりも軽い機体であるヘリウムガスが充填されている。したがって、ヘリウムガス風船14は浮力を有し、カスミ網15と共に空中に浮遊し得る状態になっている。一方、カスミ網15は、黒色若しくは半透明な糸を使用して網状に形成されており、飛来するコウモリ種が網目内に突入して捕獲できるようになっている。
【0020】
さらに、前記採取器13には、環状に垂れ下がったカスミ網15の内部に、コウモリ種の餌となる蛾などを誘引するための集虫灯16が取り付けられている。その集虫灯16は、明るくて電力消費の少ない、例えばLEDなどが使用される。
【0021】
そして、採取器13と飛翔体12との間は、連結紐17と連結棒18及び連結ロープ19を介して連結されており、この連結により前記飛翔体12と採取器13と集虫灯16は一体化されている。
【0022】
このように構成されたシステム構成装置11は、図1に示すように、夜間、採取器13及び集虫灯16を吊り下げた飛翔体12をコウモリ種の既知のねぐらや飛来位置付近などにおける、森林上空の定位置(例えば、10メートルから100メートル程度の高高度位置)に浮遊させておく。この状態で、コウモリ種が集虫灯16に集まった蛾などの餌をめがけて飛来してくると、カスミ網15にコウモリ種が懸かり、コウモリ種自体が検体として捕獲される。そして、コウモリ種自体が捕獲された場合は、そのコウモリ種からコウモリの種類を直接判別することができる。
【0023】
したがって、このようにして飛来しているコウモリ種の判別を行うにより、周囲に生息するコウモリ種を知り、バードストライクや環境アセスメント資料として使用することができる。
【0024】
なお、図1に示したシステム構成装置11では、採取器13と飛翔体12との間を、連結紐17と連結棒18及び連結ロープ19を介して連結し、その連結により採取器13と前記飛翔体12と集虫灯16を一体化してなる構成を開示した。しかし、この構成に限ることなく、例えば図2に示すような構成にすることも可能である。
【0025】
すなわち、図2図1に示したシステム構成装置11の変形例である。その図2に示すシステム構成装置11の構成を、図1と同じ部材には同じ符号を付し、構成の異なる部分だけを次に説明する。図2に示すシステム構成装置11では、飛翔体12の下面側から支柱20を垂下させている。また、その支柱20の下端部分に集虫灯16を取り付け、さらに支柱20の途中に連結紐17を介して採取器13を取り付けている。これにより、前記飛翔体12と採取器13と集虫灯16が一体化されている。
【0026】
したがって、図2に示す変形例によるシステム構成装置11でも、夜間、採取器13及び集虫灯16が吊り下げられた飛翔体12を、コウモリ種の既知のねぐらや飛来位置付近などにおける、森林上空の定位置(高高度位置)に浮遊させておくと、カスミ網15でコウモリ種を検体として採取することができる。そして、その検体から飛来しているコウモリ種の判別を行い、周囲に生息するコウモリ種を知って環境モニタリング資料として使用することができる。
【0027】
また、図2図1の変形例として示したシステム構成装置11を更に図3に示す変形例のようにして実施することも可能である。すなわち、図3図2に示したシステム構成装置11を更に変形例したものである。その図3に示すシステム構成装置11の構成を、図1及び図2と同じ部材には同じ符号を付し、構成の異なる部分だけを次に説明する。図3に示すシステム構成装置11では、支柱20の下端部分に採取器13を取り付けている。その採取器13は、支柱20の外周等間隔の位置から放射状に外側へ水平に延びる4本の梁21と、各梁21からそれぞれ幕状にして垂れ下がる、4枚のカスミ網25とでなる。そして、前記集虫灯16は、その垂れ下がった4つのカスミ網25の中心に配置されている。
【0028】
したがって、図3に示す変形例によるシステム構成装置11でも、採取器13及び集虫灯16が吊り下げられた飛翔体12を、夜間、コウモリ種の既知のねぐらや飛来位置付近などにおける森林上空の定位置(高高度位置)に浮遊させておくと、カスミ網25でコウモリ種を検体として採取することができる。そして、その検体から飛来しているコウモリ種の判別を行い、周囲に生息するコウモリ種を知って環境モニタリング資料として使用することができる。
【0029】
次に、図4は、本発明に係るコウモリ種の判別方法を実施するのに好適な、第2のシステム構成装置31を示す全体図である。その図4に示すシステム構成装置31の構成を、図1図3に示した第1のシステム装置11と同じ部材には同じ符号を付し、構成の異なる部分だけを次に説明する。その第2のシステム構成装置31は、飛翔体12の下面側から支柱32を垂下させ、その支柱32の下端部分に採取器13を取り付けている。その採取器13は、図3に示した採取器13と同様に、支柱32の外周等間隔の位置から放射状に外側へ水平に延びる4本の梁21と、その各梁21からそれぞれ幕状にして垂れ下がる4枚のカスミ網25とでなる。そして、前記集虫灯16は、その垂れ下がった4つのカスミ網25の中心に配置されている。
【0030】
また、各梁21にはそれぞれ、ヘリウムガスが充填された浮遊するヘリウムガス風船34を取り付け、そのヘリウムガス風船で採取器13に浮力を与え、飛翔体12の浮遊力を軽減させている。さらに、支柱32には、ロープ33が取り付けられ、第2のシステム構成装置31が風などで不用意に飛んでいかないようにするために、そのロープ33を介して地上の定位置に留めておくことができるようになっている。
【0031】
このように構成された第2のシステム構成装置31は、図4中に示すように、夜間、採取器13及び集虫灯16を吊り下げた飛翔体12を風力発電装置35付近もしくはその計画予定地に浮遊させておく。この状態で、コウモリ種が集虫灯16に集まった蛾などの餌をめがけて飛来してくると、カスミ網25にコウモリ種が懸かり、コウモリ種自体が検体として捕獲される。そして、捕獲されたコウモリ種からコウモリの種類を直接判別することができる。こうして飛来しているコウモリ種の判別を行うにより、周囲に生息するコウモリ種を知り、またバードストライクや環境アセスメント資料などとして使用することができる。
【0032】
なお、図1図4に示す各実施例及び変形例において、集虫灯16に変えて、コウモリ類の好きな餌、若しくは疑似餌を取り付けてもよい。
【0033】
次に、図5は、本発明に係るコウモリ種の判別方法を実施するのに好適な、第3のシステム構成装置41を示す全体図である。図5に示す第3のシステム構成装置41は、飛翔体として、測量用のバルーン(係留気球)42を使用したものであり、浮遊させたバルーン紐43の途中に採取器としての粘着性のあるトラップ(罠)44と、そのトラップ42にコウモリ種を誘き寄せるための疑似餌45を取り付けた構成になっている。
【0034】
このように構成された第3のシステム構成装置41は、図5中に示すように、バルーン紐43の途中に採取器としてのストラップ44と疑似餌45を吊り下げた飛翔体としてのバルーン42を、夜間、風力発電装置35付近に飛ばして浮遊させておく。この状態で、コウモリ種が疑似餌45をめがけて飛来してくると、ストラップ44にコウモリ種が触れることで検体として毛が残される。そして、その採取された残毛からDNAを分析してコウモリ種を判別する。こうして飛来しているコウモリ種の判別を行うにより、周囲に生息するコウモリ種を知り、またバードストライク資料などとして使用することができる。
【0035】
なお、DNA分析は、例えば国際塩基配列データベース(INSD)及び日本DNAデータバンク(DDBJ)などで実施可能である。
【0036】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り図1図5に示した以外にも種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上説明したように、本発明はコウモリ種の観測以外に、類似する飛翔性動物等の観測にも応用できる。
【符号の説明】
【0038】
11 第1のシステム構成装置
12 飛翔体
13 採取器
14 ヘリウムガス風船
15 カスミ網
16 集虫灯
17 連結紐
18 連結棒
19 連結ロープ
20 支柱
21 梁
25 カスミ網
31 第2のシステム構成装置
32 支柱
33 ロープ
34 ヘリウムガス風船
35 風力発電装置
41 第3のシステム構成装置
42 バルーン(飛翔体)
43 バルーン紐
44 トラップ(採取器)
45 疑似餌
図1
図2
図3
図4
図5