(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6155376
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】可動物体型波力発電システム
(51)【国際特許分類】
F03B 13/16 20060101AFI20170619BHJP
H02K 21/18 20060101ALI20170619BHJP
【FI】
F03B13/16
H02K21/18 G
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-182639(P2016-182639)
(22)【出願日】2016年9月20日
【審査請求日】2016年10月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516282569
【氏名又は名称】田村 由和
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 正広
(72)【発明者】
【氏名】田村 由和
【審査官】
北川 大地
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−182480(JP,A)
【文献】
特開2004−239244(JP,A)
【文献】
特開2000−295828(JP,A)
【文献】
特開昭63−097878(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0353973(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03B 13/16
H02K 21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海上に設置された構造物に取付けられる波力発電システムであって、
内部に空間が形成され、海水に対して浮くように構成された浮体容器と、
前記浮体容器の前記空間内に固定された発電ユニットと、
前記発電ユニットを前記構造物に連結する連結機構であって、可撓性のある紐状の連結部材と、前記連結部材と前記構造物との接続部分に設けられたベアリングとを含む連結機構とを備え、
前記発電ユニットは、
誘導コイル及び前記誘導コイルから延びるリード線と、
歯車部及び前記歯車部の重心を偏らせる偏重心錘を有する偏重心歯車と、
誘導コイルに変動磁場を生じさせる複数の磁石が設けられ、前記偏重心歯車の回転が伝えられて回転するように構成された多極回転子と、
前記偏重心歯車と前記多極回転子とを回転可能に支持し、前記浮遊容器に固定された支持体と、
両端が前記多極回転子の前記磁石とギャップを介して対向するように配置された固定子であって、前記浮体容器に固定される固定子とを含み、
前記誘導コイルは前記固定子に巻き付けられており、前記固定子の少なくとも一部が、前記磁石からの磁力線を前記コイルに導く磁気回路を構成していることを特徴とする波力発電システム。
【請求項2】
前記発電ユニットは、前記偏重心歯車及び前記回転子に接続されて、前記偏重心歯車の回転を前記回転子に伝える歯車をさらに備える請求項1に記載の波力発電システム。
【請求項3】
前記偏重心歯車の前記偏重心錘は、前記浮体容器が水平面から15°以上傾いたときに、前記偏重心歯車を回転させるように構成されている請求項1又は2に記載の波力発電システム。
【請求項4】
前記連結部材は、チェーン状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の波力発電システム。
【請求項5】
前記連結機構は、前記チェーン状の連結部材を覆う保護チューブを有し、
前記リード線は前記保護チューブを通って前記構造物側に引き出されている請求項4に記載の波力発電システム。
【請求項6】
前記発電ユニットは、水平方向において、前記浮体容器の中央の50%以内の部分を占めるようにに配置されている請求項1〜5のいずれか一項に記載の波力発電システム。
【請求項7】
前記偏重心歯車及び前記回転子の回転軸の軸受けとして、ボールベアリングが設けられている請求項1〜6のいずれか一項に記載の波力発電システム。
【請求項8】
前記固定子は、複数の固定子として構成されている請求項1〜7のいずれか一項に記載の波力発電システム。
【請求項9】
前記浮体容器の側面には、転覆防止用の浮き輪が設けられている請求項1〜8のいずれか一項に記載の波力発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海上に設置されて波力により発電を行う可動物体型波力発電機に関する。
【背景技術】
【0002】
日本においては、主に火力発電、水力発電、原子力発電により電力が供給されてきた。火力発電は、電力需要に合せて出力を容易に調整でき、安価に大規模な発電所を設けることができるという利点がある。しかしながら、石油、石炭、LNG等の化石燃料の価格変動の影響を受けるとともに、CO
2の排出量が非常に大きくなり環境負荷が非常に大きいという欠点がある。水力発電は、CO
2の排出が少ないクリーンな発電方式であると言えるが、水力発電を行うためには大型のダムを建設する必要があるため、環境に対する負荷が非常に大きくなる。原子力発電は、燃料単価が安く、広く世界に分布しているウラン資源を利用しているため、価格変動の影響を受けにくく、CO
2の排出量も低減できる。しかしながら、核分裂反応に起因した放射性廃棄物が必然的に生成されてしまうため、その適切な処理、処分が必要になる。また、チェルノブイリ原子力発電所や福島第1、第2原子力発電所のように、ひとたび大規模な原子力事故が発生してしまうと、発電所の周辺に大量の放射性物質が放出される危険性がある。
【0003】
そこで、近年では、火力、水力、原子力以外の発電方式が注目されており、特に、太陽光発電、風力発電、地熱発電、波力発電などの、自然エネルギーを利用した発電方式に注目が集まっている。
【0004】
特に、波力発電は、沿岸域であれば条件さえ整えばどこにでも設置できるというメリットがあるため、四方を海に囲まれた島国である日本に適した発電方法であるといえる。また、波力エネルギーは、比重の重い液体(海水)で力を伝えるため、面積当たりのエネルギーは太陽光の20〜30倍、風力の5〜10倍ある。また風力と比較して波の状況は予測しやすいため、発電量の見通しが付けやすいという利点がある。また、風が止むと発電力が無くなる風力発電と比べて、波の高さは年中を通してある程度予測が立つため、発電量の予測も立てることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−135094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
波力発電システムは、主に、「振動水柱型」、「可動物体型」、「越波形」の3つの種類に大別できる。振動水柱型の発電システムは、
図1に示されるように、システムの中に空気室を設け、寄せ波、引き波によって海面が上下する際の空気の振動でタービンを回転させて発電する方式である。可動物体型の発電システムは、
図2に示されるように、海中に設置した振り子式の受圧板で波のエネルギーを受けることで振り子の回転エネルギーを発生させ、その運動エネルギーでモータ(発電機)を回転させて発電する方式である。越波形の発電システムは、
図3に示されるように、貯留池と防波堤を設けたシステムであって、寄せ波で海面が上昇する際に防波堤を越えた波が貯留池に流入し、貯まった水と海面との高低差を利用して水車タービン(発電機)を回転させて発電する方式である(特許文献1参照)。
【0007】
本願発明者は、可動物体型の波力発電システムにおいて、高い効率で発電が可能なシステムを鋭意検討の結果、本願発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様に従えば、海上に設置された構造物に取付けられる波力発電システムであって、
内部に空間が形成され、海水に対して浮くように構成された浮体容器と、
前記浮体容器の前記空間内に固定された発電ユニットと、
前記発電ユニットを前記構造物に連結する
連結機構であって、可撓性のある紐状の
連結部材と、前記連結部材と前記構造物との接続部分に設けられたベアリングとを含む連結機構とを備え、
前記発電ユニットは、
誘導コイル及び前記誘導コイルから延びるリード線と、
歯車部及び前記歯車部の重心を偏らせる偏重心錘を有する偏重心歯車と、
誘導コイルに変動磁場を生じさせる磁石が設けられ、前記偏重心歯車の回転が伝えられて回転するように構成された回転子と、
前記回転子が配置されるギャップを有し、前記回転子及び前記偏重心歯車を回転可能に支持した状態で前記浮体容器に固定される固定子とを含み、
前記誘導コイルは前記固定子に巻き付けられており、前記固定子の少なくとも一部が、前記磁石からの磁力線を前記コイルに導く磁気回路を構成していることを特徴とする波力発電システムが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の波力発電システムは、錘付き歯車を備えている。そして、波の動きによって浮体容器が傾くと、錘付き歯車もそれに追随して傾くように構成されている。小さな波の動きによってわずかに浮体容器が傾いたとしても、それに追随して錘付き歯車を回すことができる。そして、少しでも錘付き歯車が回ると、回転子が回るように構成されているので、効率よく発電を行うことができる。また、浮体容器(及び発電ユニット)は、チェーンなどの可撓性のある紐状の連結機構によって構造物から吊り下げられているため、波がどの方向から浮体容器に当たったとしても、浮体容器及び発電ユニットを水平面から傾けることができ、発電を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は従来の振動水柱型波力発電を示す概略図である。
【
図2】
図2は従来の可動物体型波力発電を示す概略図である。
【
図3】
図3は従来の越波型波力発電を示す概略図である。
【
図5】
図5(a)は発電ユニット20の概略断面図であり、
図5(b)は発電ユニット20の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る可動物体型の波力発電システム1(以下、単に波力発電システム1と呼ぶ)について、図面を参照しつつ説明する。
【0012】
図4に示されるように、波力発電システム1は、浮体容器10と、浮体容器10の内部に配置される発電ユニット(交流発電機)20と、発電ユニット20を海上に設置された構造物(例えば、船体、橋桁、浮遊ブイなど。以下、単に海上構造物と呼ぶ)に取付けるための連結機構30とを主に備える。
【0013】
浮体容器10は、略直方体形状の容器であり、その内部には発電ユニット20を配置するための空間が形成されている。浮体容器10の材質は特に限定されない。例えば、プラスチック等の樹脂材料、金属、木材などで形成することができる。浮体容器10の内部には空間が形成されており、発電ユニット20を取付けた状態で、海水に浮くように構成されている。
【0014】
連結機構30は一端が海上構造物に取付けられ、他端が発電ユニット20に固定されたチェーン31と、チェーン31の一端を海上構造物に回動可能(揺動可能)に取付けるためのベアリング32と、チェーン31を保護するための保護チューブ33とを有する。チェーン31の一端がベアリング32を介して海上構造物に取付けられているため、チェーン31は海上構造物に対して回転自在に動くことができる。また、チェーン31の他端に取付けられた発電ユニット20の動きを妨げずに追随できるように、保護チューブ33は柔軟なホースにより形成されている。
【0015】
発電ユニット20は、浮体容器10に固定された固定子21と、固定子21に巻き付けられたコイル22と、複数の永久磁石を備えた回転子23と、錘付き歯車24とを主に備える。
【0016】
固定子21は、コの字型の形状を有している。固定子21は、後述のように磁気回路の一部を構成しており、鉄などの透磁率の高い材料で形成されている。固定子21は、浮体容器10に固定されており、後述のように海上に浮かんだ浮体容器10が波により揺れると、浮体容器10に固定された固定子21も揺れるように構成されている。なお、固定子21は、一体のものとして形成されてもよく、複数のパーツに分かれていてもよい。例えば、複数のパーツがネジや接着剤などで接合されていてもよい。
【0017】
固定子21の端部に対面するように、回転子23が回転可能に配置されている。回転子23は、略円盤状の形状を有しており、その円周部分には複数の磁石部分23Aが設けられている。また、円盤形状の中心には、回転軸23Bが設けられている。
図5Bに示されるように、各磁石部分23Aは、角形の棒磁石であり、固定子21の円周方向にそって、N極、S極が並ぶように配置されている。なお、隣り合う2つの磁石部分23Aは、N極同士、S極同士が互いに向き合うように配置されている。このように、隣り合う2つの磁石部分23Aが互いに反発するように配置されているので、磁石部分23Aの外側に磁束を放出させることができ、固定子21が磁束を受け取りやすくなっている。本実施形態においては、16個の磁石部分23Aが回転子23の円周方向に並べられている。これにより、回転子23はその円周方向に16極の磁極を有する多極回転子として機能する。そして、固定子21の一端は16極の磁極のうちN極と対面するように配置され、固定子21の他端は16極の磁極のうちS極と対面するように配置されている。なお、回転子23回転軸23Bは
図5(B)の紙面に垂直な方向に延在しており、磁石部分23Aは、図中の矢印Bまたは矢印Cの方向に回転可能である。なお、回転子23の回転軸23Bは、2枚の軸受け板26A、26Bにより回転可能に支持される。なお、軸受け板26A,26Bも固定子21と同様に浮体容器10に固定されている。軸受け板26A,26Bに設けられた回転軸23Bの軸受けには、ベアリング付きの転がり軸受けを採用することができる。なお、本実施形態においては、2枚の軸受け板26A,26Bで回転軸23B(及び後述の回転軸24B)を挟む構造を採用しているので、回転軸23B(及び後述の回転軸24B)を確実に保持することができる。
【0018】
固定子21の略中央部分には、銅線が巻き付けられることによってコイル22が形成されている。コイル22から引き出されたリード線22Aは、連結機構30の保護チューブ33の内部を通って海上構造物側に引き出される。
【0019】
錘付き歯車24は、
図5(B)に示されるように、略円盤状の歯車であり、周方向において略半分を覆う、アーチ状の錘24Aが取付けられている。錘付き歯車24の回転軸24Bは回転子23の回転軸23Bと同じ方向に延在しており、上述の2枚の軸受け板26A,26Bにより回転可能に支持されている。
【0020】
回転子23の回転軸23Bには、回転子歯車25が設けられており、錘付き歯車24の歯車は回転子歯車25に嵌合している。これにより、錘付き歯車24が回転したとき、その回転が回転子歯車25に伝わる。これにより、回転軸23Bが回転するので、回転子23が回転する。
【0021】
次に、海上に波力発電システム1を配置したときの発電ユニット20の動作について説明する。上述のように、海上構造物から吊り下げられたチェーン31の先端に発電ユニット20が取付けられており、発電ユニット20は浮体容器10に固定されている。ここで、チェーン31はベアリング32を介して海上構造物に取付けられているため、チェーン31は海上構造物に対して自在に動くことができる。そして、浮体容器10は海水に浮くように構成されているため、波の動きによって浮体容器10が揺動する。発電ユニット20は浮体容器に固定されているため、波の動きによって浮体容器10が揺動すると、それに伴って発電ユニット20も揺動する。
【0022】
例えば、波の動きによって浮体容器10が
図4の矢印Aの向きに傾いた場合、それに伴って発電ユニット20も矢印Aの向きに傾く(
図5(B)参照)。これに伴って、錘付き歯車24も矢印Aの向きに傾くため、錘付き歯車24の錘24Aが鉛直方向下方から矢印Aの向きにずれることになる。このとき、錘付き歯車24の重心が矢印Aの向きにずれることになるので、錘付き歯車24は元に戻ろうとして、矢印Aと反対側に回転する。この錘付き歯車24の回転が、回転子歯車25を介して回転子23に伝達されて、回転子23が回転する。回転子23が回転すると、固定子21の端部に対面する複数の磁石部分23Aが回転子23の円周方向に移動する。これに伴って、固定子21の端部を貫く磁束密度が変化するので、コイル22を貫く磁束密度が変化することになる。これにより、コイル22の両端に誘導起電力が発生してコイル22に誘導電流が流れる。
【0023】
なお、上記の説明においては、
図5(A)が上面視の概略図であり、
図5(B)が側面視の概略図となるように、浮体容器10の内部に発電ユニット20が配置されていた場合を例に挙げている。しかしながら、例えば、
図5(A)が側面視の概略図であり、
図5(B)が上面視の概略図となるように、浮体容器10の内部に発電ユニット20が配置されていてもよい。言い換えると、錘付き歯車24が浮体容器10の底面と平行になるように、浮体容器10の内部に発電ユニット20が配置されていてもよい。この場合においても、波の動きによって浮体容器10が
図4の矢印Aの向きに傾いた場合、それに伴って発電ユニット20も
図5(A)の矢印A’の向きに傾くので、錘付き歯車24の錘24Aが歯車中心よりも高い位置になる。そして、錘24Aが低い位置に戻ろうとして錘付き歯車24が回転する。上述の説明と同様に、錘付き歯車24の回転が、回転子歯車25を介して回転子23に伝達されて、回転子23が回転し、コイル22の両端に誘導起電力が発生してコイル22に誘導電流が流れる。
【0024】
上述のように、コイル22を構成する銅線に接続されたリード線22Aは、連結機構30の保護チューブ33の内部を通って海上構造物側に引き出されている。このようにして発生した誘導電流は、交流電流でありそれをそのまま利用することもできるが、周期や振幅は、海上の波の大きさによって変動するため、一定とはならない。そこで、不図示の整流器を通して直流電流に変換して利用することもできる。
【0025】
本実施形態に係る波力発電システム1の発電ユニット20は、錘付き歯車24を備えている。そして、波の動きによって浮体容器10が傾くと、錘付き歯車24もそれに追随して傾くように構成されている。小さな波の動きによってわずかに浮体容器10が傾いたとしても、それに追随して錘付き歯車24を回すことができる。そして、少しでも錘付き歯車24が回ると、回転子23が回るように構成されているので、効率よく発電を行うことができる。また、浮体容器10(及び発電ユニット20)は、ベアリング32を介して海上構造物に取付けられているとともに、チェーン31によって吊り下げられているため、波がどの方向から浮体容器10に当たったとしても、浮体容器10及び発電ユニット20を水平面から傾けることができる。例えば、横から浮体容器10の側面にぶつかる波、浮体容器10の底の片側を持ち上げる下からのうねりなどを利用することができる。そのため、本実施形態に係る波力発電システム1を海上構造物に取付ける際に、特定の向きに取付けなければならないなどの制限はない。また、多くの種類の波を錘付き歯車24の回転に利用できるので、エネルギー変換効率を高めることができる。
【0026】
また、チェーン31は、浮体容器10の中心(空の浮体容器10の重心)を通るように設けられていてもよい。チェーン31の根元にはベアリング32が取付けられているので、浮体容器10の中心を回転軸とする回転方向において、浮体容器10を容易に回転させることができる。例えば、浮体容器10の中心を回転軸とする回転方向の水流を受けたときに、浮体容器10を浮体容器10の中心を回転軸とする回転方向に回転させることができる。それに伴って、錘付き歯車24も惰性又は慣性力で回転する。これにより、水平面の水流で発生する慣性力を電力に変換することができる。
【0027】
本実施形態に係る波力発電システム1の浮体容器10はチェーン31によって海上構造物から吊り下げられているため、チェーン31の長さを適切に調整すれば、潮汐によって海水面の高さが変動したとしても、常時浮体容器10を海面に浮かべることができる。また、本実施形態に係る波力発電システム1は1台でも動作するが、複数の波力発電システム1を配置することもできる。
【0028】
上記実施形態において、錘付き歯車24の錘24Aは、歯車の周方向の略半分(180°)を覆っていたが、本発明はこのような構成には限られない。例えば、錘24Aが歯車の周方向のうち、90°〜180°を覆うように構成されていてもよい。このようにすることで、錘付き歯車24の重心を偏らせることができ、浮体容器10が傾いたときに、錘付き歯車24の錘24Aにかかる重力のみによって錘付き歯車24を回転させることができる。なお、錘24Aが歯車の周方向を覆う角度及び重さは、波により水平面から15°以上傾くと錘付き歯車24が回転するように調整されていてもよい。
【0029】
上記実施形態において、浮体容器10は略直方体の形状をしている。発電ユニット20は、側面視において、浮体容器10の長手方向、短手方向ともに、中央部分の50%以内を占めるように配置することができる。このように配置することで、発電ユニット20を含む浮体容器10の重心は浮体容器10の中央部分に位置する一方で、浮体容器10は重心から大きく離れた端部(長手方向端部、短手方向端部)を備えることになる。そのため、浮体容器10の長手方向、短手方向の端部に波が当たったとき、浮体容器10を大きく傾けることができる。また、浮体容器10の略中央部分に発電ユニット20が配置されることになるので、装置全体の重心のアンバランスを軽減できる。なお、上記説明においては、浮体容器10の形状は略直方体であったが、本発明はこのような形態には限られず、任意の形状にすることができる。例えば、立方体形状、円柱形、楕円球形等の形状であってもよい。いずれの場合にも、浮体容器10の略中心付近に発電ユニット20を配置することができる。
【0030】
上記実施形態において、回転子23、錘付き歯車24の少なくとも1つの歯車の回転軸の上下にボールベアリングを組み込むことができる。これにより、摩擦によるエネルギー損失を抑えることができ、回転軸の摩耗を抑えて歯車の寿命を長くすることができる。
【0031】
上記実施形態において、固定子21は1つだけ設けられている。しかしながら本発明はそのような構成には限られず、複数の固定子21を設けることができる。その場合において、各固定子21について、端部の一方が回転子23のN極と対面し、端部の他方が回転子23のS極と対面している限りにおいて、複数の固定子21の大きさ、形状、向きを自由に設定することができる。また、上記実施形態において、回転子23と、コイル22とは同一平面上に配置されている。しかしながら、本発明はそのような構成には限られない。あるいは、直列又は並列に繋いだ2つ以上のコイル22を固定子21に設けてもよい。誘導起電力はコイル22の巻き数に比例するので、コイル22の巻き数を増やしたり、複数のコイル22を設けたりすることによって、発電量を増やすことができる。
【0032】
上記実施形態において、固定子21の端部の端面と、回転子23の磁石部分23Aとの間の隙間は任意に設定することができるが、例えば、固定子21と回転子23の磁石部分23Aとの間の隙間が、回転子23の直径の1/10以下となるように、隙間の間隔を設定できる。上記隙間の間隔が狭いほど磁気抵抗を小さくできるので、固定子21に流れ込む磁束量を大きくすることができ、発電量を大きくすることができる。
【0033】
上記実施形態において、浮体容器10の側面の上部に、転覆防止用の浮き輪が取付けられていてもよい。例えば、浮体容器10の外周の一部又は全部を取り囲むように設けられていてもよい。これにより、浮体容器10が大きく傾いたときに転覆してしまうことを防止することができる。
【0034】
なお、本発明の形態は上記実施形態に限られず、波力発電システム1を構成する各部分の形状、材質、大きさ、構造等を必要に応じて適宜変更できることは言うまでもない。例えば、上記実施形態において、錘付き歯車24の回転を回転子23に伝達する歯車として、回転子23に同軸に設けられた1つの回転子歯車25を用いていた。しかしながら、本発明はこのような構成には限られず、例えば、複数の歯車からなるギアシステムを用いて錘付き歯車24の回転を回転子23に伝達することができる。あるいは、回転子歯車25を取り除いて、錘付き歯車24が直接回転子23を回転させるように構成されていてもよい。なお、回転子歯車25を設けた場合には、錘付き歯車24が直接回転子23を回転させるように構成されている場合と比べて、適切なギア比に設定できるため、錘付き歯車24のわずかな回転を大きくして回転子23に伝えることができる。また、1つの浮体容器10の中に1つの発電ユニット20が固定されていたが、複数の発電ユニット20が配置されてもよい。なお、浮体容器10の内部において、どのような向きに1又は複数の発電ユニット20を配置するかについては特に制限は無く、任意の向きに配置できる。
【0035】
また、上記実施形態において、回転子23は16極の磁極を有する多極回転子として構成されていたが、本発明はこのような構成には限られない。例えば、磁極の数を任意に設定することができる。なお、磁石部分23Aの数が多すぎる場合には、回転子23の重量が大きくなるため回転子23が回転しにくくなる。しかしながら、回転子23の慣性が大きくなるため、回転子23が急速回転したり、急停止したりすることがない。これにより、発電される交流電力の周波数変動を小さくすることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 波力発電システム1
10 浮体容器
20 発電ユニット
30 連結機構
【要約】
【課題】発電効率の高い波力発電システムを提供する。
【解決手段】浮体容器10と、浮体容器10の内部に配置される発電ユニット20と、発電ユニット20を海上に設置された構造物に取付けるための連結機構30とを主に備える波力発電システム1が提供される。発電ユニット20は、浮体容器10に固定された固定子21と、固定子21に巻き付けられたコイル22と、棒状の永久磁石を備えた多極回転子23と、錘付き歯車24と、錘付き歯車24の回転を多極回転子23に伝える回転子歯車25とを主に備える。
【選択図】
図4