【実施例】
【0033】
以下、本発明を以下に示す実施例によってさらに詳しく説明する。
【0034】
<原料K
2MnF
6の製造>
まず、以下の実施例及び比較例における蛍光体のMn原料として使用したK
2MnF
6の製造方法について説明する。
容量1リットルのテフロン(登録商標)製のビーカーに濃度40質量%フッ化水素酸800mlを入れ、KHF
2粉末(和光純薬工業株式会社製特級試薬)260g及び過マンガン酸カリウム粉末(和光純薬工業株式会社製試薬1級)12gを溶解させた。
このフッ化水素酸反応液をマグネティックスターラーで撹拌しながら、30%過酸化水素水(和光純薬工業株式会社製特級試薬)8mlを少しずつ滴下した。過酸化水素水の滴下量が一定量を超えると黄色粒子が析出し始め、反応液の色が紫色から変化し始めた。過酸化水素水を一定量滴下後、しばらく撹拌を続けてから撹拌を止め、析出粒子を沈殿させた。上記反応は全て常温で行った。
析出粒子の沈殿後、上澄み液を除去し、メタノールを加え、撹拌・静置し、上澄み液を除去し、さらにメタノールを加えるという操作を、液が中性になるまで繰り返した。その後、ろ過により析出粒子を回収し、乾燥を行い、メタノールを完全に蒸発除去し、K
2MnF
6粉末を19g得た。
【0035】
[実施例1〜8及び比較例1]
実施例1〜8及び比較例1は、いずれも一般式:A
2MF
6:Mn
4+で表され、元素AはK、元素MはSi、Fはフッ素、Mnはマンガンである蛍光体、すなわちK
2SiF
6:Mn
4+で表される蛍光体に関する。比較例1は粒子表面にCa含有化合物を含有しない従来の蛍光体であり、実施例1〜8は粒子表面にCa含有化合物を付着させた蛍光体である。
【0036】
<比較例1>
常温下で、容量1リットルのテフロン(登録商標)製のビーカーに濃度48質量%フッ化水素酸500mlを入れ、そこにK
2SiF
6粉末(和光純薬工業株式会社製、等級:化学用)50g及び前記方法で合成したK
2MnF
6粉末5gを入れ、懸濁液を調製した。
懸濁液の入ったテフロン(登録商標)製のビーカーをホットプレート上に載せ、撹拌しながら加熱を行った。約80℃まで加熱し、しばらく保持したところでビーカー内を確認したところ、粉末は完全に溶解し、薄褐色の溶液に変化した。このフッ化水素酸水溶液をさらに加熱し続け、溶媒を蒸発させた。溶媒の蒸発に伴い、淡黄色の結晶が析出した。溶媒量がかなり少なくなった状態で加熱を止め、室温まで冷却した。その後、濃度20質量%フッ化水素酸、メタノールでの洗浄を行い、ろ過により固形部を分離回収し、さらに乾燥処理により、残存メタノールを蒸発除去した。乾燥処理後の蛍光体に対し、目開き75μmのナイロン製篩を用い、この篩を通過したものだけに分級し、比較例1の蛍光体K
2SiF
6:Mn
4+を得た。
【0037】
<実施例1>
比較例1の蛍光体20gを濃度20%のフッ化水素酸とメタノールの混合溶液(容積比が1:1)、100mlに添加し、懸濁液を調製した。
この懸濁液を撹拌しながら、濃度0.6mol%の塩化カルシウム水溶液を25ml添加した。添加後、さらに10分間撹拌した。撹拌終了後、懸濁液を静置し、蛍光体を沈殿させ、上澄み液を除去し、そこにメタノールを加え、撹拌・静置し、上澄み液を除去し、さらにメタノールを加えるという操作を、液が中性になるまで繰り返した。
その後、ろ過により、析出粒子を回収し、さらに乾燥を行い、メタノールを完全に蒸発除去し、実施例1の蛍光体を得た。
【0038】
<実施例2〜4>
実施例2、3及び4は、蛍光体懸濁液に添加する塩化カルシウム水溶液の濃度をそれぞれ0.3mol%、0.8mol%、1.2mol%に変えたこと以外は実施例1と全く同じ方法及び条件で製造した。
【0039】
<実施例5〜8>
実施例5〜8は、蛍光体懸濁液に添加する塩化カルシウム水溶液の濃度をそれぞれ0.7mol%、0.2mol%、0.5mol%、1.4mol%に変えたこと以外は実施例1と全く同じ方法及び条件で製造した。
【0040】
<蛍光体の評価>
次に、得られた蛍光体を以下の方法で評価した。
まず、比較例1及び実施例1〜4の蛍光体について、結晶相、励起スペクトル・蛍光スペクトル、量子効率、色度座標、原子組成比Ca/(K+Ca)、表面構造、耐湿性を評価した。評価結果を表1及び
図1〜4に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
<結晶相>
蛍光体のX線回折パターンをX線回折装置(株式会社リガク製UltimaIV)で測定した。測定にはCuKα管球を使用した。
比較例1及び実施例1〜4の蛍光体は、いずれもK
2SiF
6結晶と同一パターンであり、他の結晶相を含んでいなかった。K
2SiF
6結晶、実施例1の蛍光体、比較例1の蛍光体のX線回折の結果を
図1に示す。
【0043】
<励起スペクトル・蛍光スペクトル>
蛍光体の励起・蛍光スペクトルを分光蛍光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製F−7000)で測定した。この測定における蛍光スペクトルの励起波長は455nm、励起スペクトルのモニター蛍光波長は632nmである。
比較例1の蛍光体の測定結果を
図2に示す。比較例1の蛍光体は、ピーク波長350nm近傍の紫外光とピーク波長450nm近傍の青色光の二つの励起帯を有し、600〜700nmの赤色域に複数の狭帯発光を有する蛍光体であった。
実施例1〜4の蛍光体について分光蛍光光度計により測定した励起・蛍光スペクトルは、比較例1とほとんど同じ形状であった。
【0044】
<量子効率>
蛍光体の量子効率を次の方法により、常温で評価した。
積分球(φ60mm)の側面開口部(φ10mm)に反射率が99%の標準反射板(Labsphere社製スペクトラロン)をセットした。この積分球に、発光光源としてのXeランプから455nmの波長に分光した単色光を光ファイバーにより導入し、反射光のスペクトルを分光光度計(大塚電子株式会社製MCPD−7000)により測定した。その際、450〜465nmの波長範囲のスペクトルから励起光フォトン数(Qex)を算出した。
次に、凹型のセルに表面が平滑になるように蛍光体を充填したものを積分球の開口部にセットし、波長455nmの単色光を照射し、励起の反射光及び蛍光のスペクトルを分光光度計により測定した。得られたスペクトルデータから励起反射光フォトン数(Qref)及び蛍光フォトン数(Qem)を算出した。
励起反射光フォトン数は、励起光フォトン数と同じ波長範囲で、蛍光フォトン数は、465〜800nmの範囲で算出した。
得られた三種類のフォトン数から、外部量子効率=Qem/Qex×100、吸収率=(Qex−Qref)/Qex×100、内部量子効率=Qem/(Qex−Qref)×100を求めた。
【0045】
<色度座標>
蛍光体をセットして測定したスペクトルについてJIS Z 8724(色の測定方法−光源色−)に準じた方法で、JIS Z 8701に規定されるXYZ表色系における算出法により、CIE1931等色関数を用いて色度座標(x、y)を算出した。色度座標算出に用いる波長範囲は465〜780nmとした。
【0046】
<原子組成比Ca/(Ca+A)>
X線光電子分光法により分析した蛍光体表面の原子組成比Ca/(Ca+A)は、蛍光体の粒子表面にあるCaの存在量の指標である。Ca及びKの存在量(原子%)は、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製K−Alphaを用いて、次の条件でXPS法により測定した。
X線源: 単色化Al−Kα
帯電中和: 電子銃100μA
分光系: パスエネルギー
200.00eV=ワイドスペクトル
50.0eV=ナロースペクトル[O1s,F1s,Si2p,K2p,Ca2p,Cl2p,Mn2p]
・測定領域: 400×200μm
・取り出し角: 90°(表面より)
【0047】
上記方法により測定した比較例1の蛍光体表面にCaは存在していなかった。具体的には、Caは検出下限である0.1原子%未満であった。
一方、実施例1について蛍光体粒子表面の元素分析を行ったところ、Kが23原子%で、Caが6原子%であった。その結果、実施例1の蛍光体表面の原子組成比Ca/(K+Ca)は、Ca/(Ca+K)=6/(6+23)=0.21であった。実施例2、3、4の原子組成比Ca/(K+Ca)は、それぞれ0.07、0.36、0.52であった。
【0048】
さらに、蛍光体の粒子内部、すなわち深さ方向の元素分析を、蛍光体試料をArイオンでスパッタリングしながらXPS法により測定した。
スパッタリング条件は、次の通りである。
スパッタイオン:Arイオン
イオンエネルギー:3keV
スパッタ速度:0.69nm/min(Ta
2O
5換算)
イオン照射範囲:2×4mm
この条件で60秒間スパッタする毎に元素分析を行った。
Caが検出下限以下になる深さは、実施例1の蛍光体で0.6μmであり、実施例2、3、4でそれぞれ0.4μm、0.9μm、1.6μmであった。
【0049】
<蛍光体粒子表面の微細構造観察>
蛍光体の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM/日本電子株式会社製、JSM−7001F SHL)で観察した。
比較例1の蛍光体の表面のSEM写真を
図3に、実施例1の蛍光体の表面のSEM写真を
図4にそれぞれ示す。
比較例1の蛍光体の表面には、結晶成長時に形成されたピット状の欠陥や階段状の欠陥及び異相と思われる微粒子が若干存在するものの、それ以外は平滑であった。
一方、実施例1の蛍光体の表面には、比較例1の蛍光体では見られなかったCa含有化合物の微粒子が多数付着していた。付着しているCa含有化合物はCaF
2である。
【0050】
<耐湿性評価>
蛍光体の耐湿性評価を次の方法で行った。
蛍光体をφ55mmのPFA製シャーレに3g入れ、恒温恒湿器(ヤマト科学株式会社製IW222)の槽内にセットし、温度60℃、相対湿度90%RHの高温高湿条件下で4時間処理した後、上記方法により外部量子効率を測定し、高温高湿処理前の外部量子効率と比較した。すなわち、[高温高湿処理後の外部量子効率]/[高温高湿処理前の外部量子効率]×100を算出し、耐湿性の指標として評価を行った。
比較例1の場合、高温高湿処理後の455nm励起の吸収率、内部量子効率、外部量子効率、色度座標(x、y)は、それぞれ76%、66%、50%、(0.690、0.307)であった。高温高湿処理により、内部量子効率が大幅に低下し、結果として外部量子効率が高温高湿処理前の79%となり、耐湿性評価の合格値である85%を下回った。
一方、実施例1の場合、高温高湿処理後の蛍光体の外部量子効率は62%であり、耐湿性評価は97%であった。また、実施例2〜4の蛍光体の耐湿性評価は、それぞれ95%、98%、98%であった。
【0051】
表1に示されるように、蛍光体の粒子表面にCa含有化合物を含有させることにより、耐湿性が著しく改善することが認められた。この場合のCa含有量は、XPS法により分析した原子組成比Ca/(Ca+A)が0.05以上1以下の範囲であれば十分であることが確認された。また、Ca含有化合物の存在範囲が蛍光体の表面から1.5μmまでの深さまでであれば、外部量子効率を著しく低減すること無く、高輝度を維持できることが確認された。
【0052】
次に、比較例1及び実施例5〜8の蛍光体について、上記評価項目の他に、粒子内部のMn量に対する粒子最表面のMn量の比率([粒子最表面のMn量]/[粒子内部のMn量])を以下の方法で評価した。評価結果を表2に示す。
また、K
2SiF
6結晶、実施例5の蛍光体、比較例1の蛍光体のX線回折の結果を
図5に示す。実施例5〜8の蛍光体は、いずれもK
2SiF
6結晶と同一パターンであり、他の結晶相を含んでいなかった。
【0053】
【表2】
【0054】
<粒子内部のMn量に対する粒子最表面のMn量の比率>
蛍光体の粒子最表面のMn量は、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製K−Alphaを用いて、次の条件でXPS法により測定した。
X線源: 単色化Al−Kα
帯電中和: 電子銃100μA
分光系: パスエネルギー
200.00eV=ワイドスペクトル
50.0eV=ナロースペクトル[O1s,F1s,Si2p,K2p,Ca2p,Cl2p,Mn2p]
・測定領域: 400×200μm
・取り出し角: 90°(表面より)
一方、粒子内部のMn量は、蛍光体サンプルをArイオンでスパッタリングしながらXPS法により測定した。
スパッタリング条件は、次の通りである。
スパッタイオン:Arイオン
イオンエネルギー:3keV
スパッタ速度:0.69nm/min(Ta
2O
5換算)
イオン照射範囲:2×4mm
【0055】
比較例1の蛍光体の場合、粒子最表面のMn量は0.6原子%であり、深さ300nm以上で測定した粒子内部のMn量は0.8原子%であった。つまり、[粒子最表面のMn量]/[粒子内部のMn量]の比率は75%であった。
一方、実施例5の場合、粒子最表面のMn量は0.2原子%であり、粒子内部のMn量は0.8原子%であった。つまり、[粒子最表面のMn量]/[粒子内部のMn量]の比率は25%であった。また、実施例6、7、8の蛍光体の[粒子最表面のMn量]/[粒子内部のMn量]の比率は、それぞれ55%、32%、10%であった。
【0056】
表2に示されるように、蛍光体の粒子表面にCa含有化合物が付着しており、なおかつ、粒子最表面のMn量が粒子内部のMn量より少ない場合に、耐湿性の改善が認められた。特に、[粒子最表面のMn量]/[粒子内部のMn量]の比率が60%以下となる場合に耐湿性の著しい改善が認められた。
【0057】
[実施例9〜10及び比較例2]
実施例9〜10及び比較例2は、いずれも一般式:A
2MF
6:Mn
4+で表され、元素AはK、元素MはGe、Fはフッ素、Mnはマンガンである蛍光体、すなわちK
2GeF
6:Mn
4+で表される蛍光体に関する。比較例2は粒子表面にCa含有化合物を含有させていない従来の蛍光体であり、実施例9及び10は粒子表面にCa含有化合物を含有させた蛍光体である。
【0058】
<原料K
2GeF
6の製造>
実施例9〜10及び比較例2の蛍光体のGe原料として使用するK
2GeF
6を、以下に示す方法で製造した。
常温下で、容量1リットルのテフロン(登録商標)製のビーカーに濃度55質量%フッ化水素酸800mlを入れ、GeO
2粉末(高純度化学研究所社製、純度99.99%以上)42gを溶解させた。GeO
2粉末の溶解熱により溶液温度が40℃以上まで上昇したため、30℃以下になるまで放冷した。このフッ化水素酸水溶液をマグネッティクスターラーで撹拌しながら、KHF
2粉末(和光純薬工業株式会社製特級試薬)95gを添加した。添加後、約10分間撹拌を続けた後、撹拌を止め、溶液中の粒子を沈殿させた。
粒子の沈殿後、上澄み液を除去し、メタノールを加え、撹拌・静置し、上澄み液を除去し、さらにメタノールを加えるという操作を、液が中性になるまで繰り返した。その後、ろ過により、粒子を回収し、さらに乾燥を行い、メタノールを完全に除去し、白色粉末53gを得た。この白色粉末は、X線回折パターンを測定した結果、K
2GeF
6結晶単相であることを確認した。
【0059】
<比較例2>
常温下で、容量1リットルのテフロン(登録商標)製のビーカーに濃度48質量%フッ化水素酸500mlを入れ、そこに前記方法で合成したK
2GeF
6粉末50gとK
2MnF
6粉末4gを入れ、懸濁液を調製した。
この懸濁液を比較例1と同じ方法により加熱を行い、溶媒を蒸発させて、黄色の結晶を析出させ、濃度20質量%フッ化水素酸、メタノールでの洗浄を行い、ろ過、乾燥により黄色粉末状の比較例2の蛍光体を得た。
【0060】
<比較例2の蛍光体の評価>
比較例2の黄色粉末は、X線回折の結果、K
2GeF
6結晶と同一パターンであり、他の結晶相は検出されなかった。
分光蛍光光度計により測定した励起・蛍光スペクトルを
図6に示す。この測定における蛍光スペクトルの励起波長は455nm、励起スペクトルのモニター蛍光波長は632nmであった。比較例2の蛍光体の励起スペクトルは、比較例1に比べ、若干長波長側にシフトしているが、蛍光スペクトルは比較例1とほとんど同じであった。
波長455nmの青色光で励起した時の吸収率は78%、内部量子効率は88%、外部量子効率は68%、及び色度(x、y)は、(0.693、0.305)であった。
【0061】
比較例2のXPS法による蛍光体表面の分析では、蛍光体表面にCaは存在していなかった。また、粒子最表面のMn量は0.9原子%で、粒子内部のMn量は1.0原子%であり、粒子内部のMn量に対する粒子最表面のMn量の比率([粒子最表面のMn量]/[粒子内部のMn量])は90%であった。高温高湿処理(60℃−90%RH−4時間)後の蛍光体の外部量子効率は54%であり、耐湿性評価は78%であった。
【0062】
<実施例9>
比較例2の蛍光体20gを濃度20%のフッ化水素酸とメタノールの混合溶液(容積比が1:1)、100mlに添加し、懸濁液を調製した。
この懸濁液を撹拌しながら、濃度0.6mol%の塩化カルシウムメタノール溶液を25ml添加した。添加後、さらに10分間撹拌した。撹拌終了後、懸濁液を静置し、蛍光体を沈殿させ、上澄み液を除去し、さらにメタノールを加えるという操作を液が中性になるまで繰り返した。その後、ろ過により、析出粒子を回収し、さらに乾燥を行い、メタノールを完全に蒸発除去し、実施例9の蛍光体を得た。
【0063】
<実施例9の蛍光体の評価>
X線回折測定、励起・蛍光スペクトル測定の結果は、比較例2とほとんど同じであった。波長455nmの青色光で励起した時の吸収率は77%、内部量子効率は86%、外部量子効率は66%、及び色度(x、y)は、(0.695、0.305)であった。
【0064】
実施例9のXPS法による元素分析では、Kが23原子%で、Caが7原子%であった。その結果、蛍光体表面の原子組成比Ca/(Ca+K)=7/(7+23)=0.23であった。また、Arイオンスパッタによる深さ方向の分析の結果、Caが検出下限以下になる深さは0.7μmであった。高温高湿処理後の蛍光体の外部量子効率は66%であり、耐湿性評価は100%であった。かくして、K
2GeF
6:Mn
4+で表される蛍光体の粒子表面にCa含有化合物を付着させることにより、耐湿性が著しく向上することが確認された。
【0065】
<実施例10>
比較例2の蛍光体20gを濃度20%のフッ化水素酸とメタノールの混合溶液(容積比が1:1)、100mlに添加し、懸濁液を調製した。
この懸濁液を撹拌しながら、濃度0.7mol%の塩化カルシウムメタノール溶液を25ml添加した。添加後、さらに10分間撹拌した。撹拌終了後、懸濁液を静置し、蛍光体を沈殿させ、上澄み液を除去し、さらにメタノールを加えるという操作を液が中性になるまで繰り返した。その後、ろ過により、析出粒子を回収し、さらに乾燥を行い、メタノールを完全に蒸発除去し、実施例10の蛍光体を得た。
【0066】
<実施例10の蛍光体の評価>
X線回折測定、励起・蛍光スペクトル測定の結果は、比較例2とほとんど同じであった。波長455nmの青色光で励起した時の吸収率は76%、内部量子効率は86%、外部量子効率は65%、及び色度(x、y)は、(0.694、0.305)であった。
【0067】
実施例10のXPS法による元素分析では、Kが21原子%で、Caが10原子%であった。その結果、蛍光体表面の原子組成比Ca/(Ca+K)=10/(10+21)=0.32であった。また、粒子最表面のMn量は0.2原子%で、粒子内部のMn量は1.0原子%であり、粒子内部のMn量に対する粒子最表面のMn量の比率([粒子最表面のMn量]/[粒子内部のMn量])は20%であった。高温高湿処理後の蛍光体の外部量子効率は65%であり、耐湿性評価100%であった。かくして、K
2GeF
6:Mn
4+で表される蛍光体の粒子表面にCa含有化合物が付着しており、なおかつ、粒子最表面のMn量が粒子内部のMn量より少ない場合に、耐湿性が著しく向上することが確認された。
【0068】
<実施例11>
実施例1の蛍光体と、発光光源としての青色発光LEDを有する発光素子を作成した。この発光素子は、耐湿性に優れた実施例1の蛍光体を用いているので、演色性及び色再現性に優れることに加え、比較例1の蛍光体を用いた発光素子よりも時間の経過による輝度の低下が少なかった。
【0069】
<実施例12>
実施例11の発光素子を用いて発光装置としての照明装置を作成した。この発光装置は、耐湿性に優れた実施例1の蛍光体を用いているので、演色性及び色再現性に優れることに加え、比較例1の蛍光体を用いた発光装置よりも時間の経過による輝度の低下が少なかった。