特許第6155382号(P6155382)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6155382
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】蛍光体、発光素子及び発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/61 20060101AFI20170619BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20170619BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20170619BHJP
【FI】
   C09K11/61CPF
   C09K11/08 G
   H01L33/50
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-505258(P2016-505258)
(86)(22)【出願日】2015年2月25日
(86)【国際出願番号】JP2015055382
(87)【国際公開番号】WO2015129741
(87)【国際公開日】20150903
【審査請求日】2017年2月13日
(31)【優先権主張番号】特願2014-36011(P2014-36011)
(32)【優先日】2014年2月26日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-36007(P2014-36007)
(32)【優先日】2014年2月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149294
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 直人
(72)【発明者】
【氏名】江本 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】柳 慎一
(72)【発明者】
【氏名】市川 真義
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和弘
【審査官】 西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−044951(JP,A)
【文献】 特表2013−533363(JP,A)
【文献】 特開2013−014715(JP,A)
【文献】 特開2010−209311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00− 11/89
H01L 33/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:AMF:Mn4+で表され、元素Aは少なくともKを含有するアルカリ金属元素であり、元素MはSi、Ge、Sn、Ti、Zr及びHfから選ばれる一種以上の金属元素であり、Fはフッ素であり、Mnはマンガンである蛍光体であって、粒子表面にCa含有化合物を含有し、X線光電子分光法により分析した原子組成比Ca/(Ca+A)が0.06以上0.6以下である蛍光体。
【請求項2】
Ca含有化合物が蛍光体の表面から1.5μmの深さまでの範囲に存在している請求項1記載の蛍光体。
【請求項3】
蛍光体の粒子最表面のMn量が粒子内部のMn量より少ない請求項1又は2に記載の蛍光体。
【請求項4】
蛍光体の粒子最表面のMn量が粒子内部のMn量の60%以下である請求項記載の蛍光体。
【請求項5】
元素AがKであり、元素MがSi及び/又はGeである請求項1〜のいずれか一項に記載の蛍光体。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか一項に記載の蛍光体と発光光源とを有する発光素子。
【請求項7】
請求項記載の発光素子を有する発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線又は青色光により励起されて赤色を発光する蛍光体、この蛍光体を用いた発光素子、及び、この発光素子を用いた発光装置に関する。より詳しくは、粒子表面の改質により耐湿性が改善されたMn4+付活複フッ化物蛍光体、並びに、この蛍光体を用いることにより優れた演色性と安定性を有する発光素子及び発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
白色LEDとして、青色LEDチップと黄色蛍光体とを組み合わせて疑似白色光を得る方式のものが広く普及している。しかし、この方式の白色LEDは、その色度座標値としては白色領域に入るものの、赤色領域等の発光成分が少ないため、この白色LEDで照射される物体の見え方が、自然光で照射される物体の見え方と大きく異なる。すなわち、この白色LEDは、物体の見え方の自然さの指標である演色性に劣る。
【0003】
そこで、黄色蛍光体の他に赤色蛍光体又は橙色蛍光体等を組み合わせて、不足している赤色成分を補うことにより、演色性を向上させた白色LEDが実用化されている。
このような赤色蛍光体として、Eu2+で付活された窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体が知られている。これらの代表的な蛍光体としては、SrSi:Eu2+、CaAlSiN:Eu2+、(Ca,Sr)AlSiN:Eu2+などがある。
【0004】
ところが、発光中心イオンとしてEu2+を付活した蛍光体は、発光スペクトルの半値幅がブロードであるため、人間の可視範囲を超えた波長帯域にスペクトル成分を比較的多く含む傾向があり、高輝度を実現することが難しかった。
【0005】
近年、発光スペクトルの半値幅が狭く、視感度が高い領域にスペクトル成分を多く含む赤色蛍光体として、発光中心イオンにEu3+、Mn4+を用いたものが開発されている。特許文献1乃至4には、複フッ化物結晶KSiFにMn4+を付活した蛍光体及び当該蛍光体を用いた発光装置が開示されており、この蛍光体は半値幅の狭い赤色発光を実現することができ、この蛍光体を応用した発光装置は優れた演色性や色再現性を実現するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2009−528429号公報
【特許文献2】国際公開2009/110285号パンフレット
【特許文献3】米国特許第3576756号明細書
【特許文献4】特開2012−224536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、複フッ化物結晶を母体とするMn4+付活の蛍光体は、安定性が低く、特に水や水蒸気との接触で蛍光体の加水分解が進行し易い。そして、加水分解が生じると、蛍光特性が低下するばかりでなく、分解に伴って発生するフッ素イオンやフッ化水素によって周辺部材が腐食されることもある。このため、水蒸気を完全に遮断できない封止樹脂中に蛍光体を分散したLED発光装置では、耐久性、信頼性の観点から実用化に問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、輝度に優れるMn4+付活複フッ化物蛍光体をCa源となる化合物で処理して粒子表面を改質することにより、蛍光特性を低下させることなく、耐湿性を改善できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明の蛍光体は、一般式:AMF:Mn4+で表され、元素Aは少なくともKを含有するアルカリ金属元素であり、元素MはSi、Ge、Sn、Ti、Zr及びHfから選ばれる一種以上の金属元素であり、Fはフッ素であり、Mnはマンガンである蛍光体であって、粒子表面にCa含有化合物を含有することを要旨とする。
【0010】
この蛍光体は、X線光電子分光法(X−ray Photoelectron Spectroscopy)により分析した原子組成比Ca/(Ca+A)が0.05以上1以下であることが好ましい。
【0011】
この蛍光体は、Ca含有化合物が蛍光体の表面から1.5μmまでの深さの範囲に存在していることが好ましい。
【0012】
この蛍光体は、蛍光体の粒子最表面のMn量(原子%)が粒子内部のMn量より少ないことが好ましい。特に、粒子内部のMn量に対する粒子最表面のMn量の比率([粒子最表面のMn量]/[粒子内部のMn量])が60%以下であることが好ましい。
【0013】
この蛍光体は、元素AがKであり、元素MがSi及び/又はGeであることが好ましい。
【0014】
また、本発明の発光素子は、前記蛍光体と発光光源とを有することを要旨とする。さらに、本発明の発光装置は、前記発光素子を有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る蛍光体は、高輝度の赤色発蛍光体として知られるMn4+付活複フッ化物蛍光体の粒子表面にCa含有化合物を含有させた蛍光体であり、耐湿性に著しく優れている。
このため、この蛍光体を用いた本発明に係る発光素子及び発光装置は、高い演色性及び色再現性を有することに加え、経時的変化が少なく長寿命である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】KSiF、実施例1、比較例1のX線回折パターンを示す図である。
図2】比較例1の蛍光体の励起・蛍光スペクトルを示す図である。
図3】比較例1の蛍光体粒子表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図4】実施例1の蛍光体粒子表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図5】KSiF、実施例5、比較例1のX線回折パターンを示す図である。
図6】比較例2の蛍光体の励起・蛍光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、一般式:AMF:Mn4+で表され、元素Aは少なくともKを含有するアルカリ金属元素であり、元素MはSi、Ge、Sn、Ti、Zr及びHfから選ばれる一種以上の金属元素であり、Fはフッ素であり、Mnはマンガンである蛍光体であって、粒子表面にCa含有化合物を含有する蛍光体である。
【0018】
ここで、「粒子表面」とは、Ca源となる化合物による表面改質が及ぶ範囲であり、好ましくは蛍光体の表面(深さ0μm)から1.5μmの深さまでの範囲である。改質の範囲が深すぎると、蛍光体の励起光の吸収効率及び蛍光体からの蛍光の取り出し効率が低下することがある。
また、Ca含有化合物を粒子表面に「含有する」とは、典型的には、蛍光体粒子表面にフッ化カルシウムのようなCa含有化合物の微粒子が付着している状態を含む。
【0019】
上記一般式:AMF:Mn4+において、Mn4+は、発光中心として付活されたイオンであり、元素Mの一部を置換する形で固溶したものである。
元素Aは、少なくともKを含有するアルカリ金属元素であり、K含有量は多い方が好ましい。元素Aとしては、具体的にはK単独、KとNaの組合せ、KとLiの組合せ、KとNaとLiの組合せを挙げることができる。より強い発光強度を得るためにはK単独が好ましい。
【0020】
元素Mは、Si、Ge、Sn、Ti、Zr及びHfから選ばれる一種以上の金属元素である。元素Mは、少なくともSi及び/又はGeを含有することが好ましく、具体的にはSi単独、Ge単独、SiとGeの組合せ、SiとSnの組合せ、SiとTiの組合せ、SiとGeとSnの組合せ、SiとGeとTiの組合せ、SiとSnとTiの組合せ、SiとGeとSnとTiの組合せを挙げることができる。元素Mは、蛍光体の励起帯に影響を与える。青色光で効率良く発光させる観点からSi及び/又はGeが好ましい。
【0021】
粒子表面を改質する前の蛍光体の製造方法は特に限定されず、特許文献1乃至4に記載されているような周知の製造方法を使用することができる。具体的には、
・蛍光体の母体結晶となる化合物と発光中心であるMn4+を含有する化合物とをフッ化水素酸中に溶解させ、溶媒を蒸発乾固させて再析出させる方法(特許文献1)、
・ケイ素などの単体金属をフッ化水素酸と過マンガン酸カリウムの混合液に浸漬する方法(特許文献2)、
・複フッ化物蛍光体の構成元素を溶解させたフッ化水素酸水溶液にアセトンやメタノール等の貧溶媒を添加し、蛍光体を析出させる方法(特許文献3)、
・複フッ化物蛍光体の構成元素を固体が析出しない二種類以上のフッ化水素酸に溶解させ、それらを混合し、反応晶析させる方法(特許文献4)
を使用することができる。
【0022】
これらの方法によって製造された表面改質前のMn4+付活複フッ化物蛍光体は、水に対する溶解性を有し、水と反応して加水分解し、二酸化マンガンのような可視光を吸収する有色の化合物や腐食性の高いフッ化水素を生成する。フッ化水素は、発光素子を構成する構成部材の劣化を加速させる。
【0023】
この蛍光体をCa源となる化合物で処理して粒子表面にCa含有化合物を含有させることにより、耐湿性を著しく向上させることができる。
蛍光体の粒子表面にCa含有化合物を含有させる手段は、Ca源から生成するCa含有化合物を蛍光体粒子表面に物理的又は化学的に付着できるものであれば特に限定されず、湿式・乾式を問わない。Ca含有化合物は、水溶性が低いものであれば、結晶質か非晶質かを問わず、好ましくはフッ化カルシウム(CaF)を挙げることができる。フッ化カルシウムは、水に対する溶解度が非常に低いだけでなく、蛍光体製造時に使用されるフッ化水素酸、アセトン、メタノール、エタノール等の有機溶剤に対しても溶解しにくいためCa含有化合物として好適である。
【0024】
蛍光体の粒子表面にCa含有化合物を付着させる好適な例を以下に示す。
まず、蛍光体粒子を有機溶媒単体又はフッ化水素酸との混合液に分散させ、懸濁液を調製する。有機溶媒としては、アセトン、メタノール、エタノールが好ましい。次いで、この懸濁液に塩化カルシウムのようなCa源となる化合物を溶解した溶液を添加する。この溶媒としては水又は有機溶媒がある。溶液中のCaイオンは懸濁液中に存在するフッ化水素と反応し、CaFとして蛍光体粒子表面に析出する。
この反応の反応源となるフッ化水素としては、水溶液を添加した場合に蛍光体の加水分解により生成するフッ化水素、蛍光体に存在する残留フッ化水素、溶媒として添加したフッ化水素酸などがある。この反応は、蛍光体が溶媒に分散した状態で行われるため、蛍光体の製造過程で複フッ化物結晶が析出した後の洗浄工程等において、Ca源となる化合物を添加することで実施することもできる。
【0025】
Ca含有化合物は、必ずしも蛍光体の粒子表面全体に存在する必要はなく、その一部に存在していても耐湿性を改善することができる。
【0026】
蛍光体の粒子表面におけるCa含有量は、あまりに少ないと加水分解防止効果を発揮せず、あまりに多いと蛍光体の発光特性に悪影響を及ぼす傾向がある。このため、X線光電子分光法(X−ray Photoelectron Spectroscopy、以下、「XPS法」という。)により以下の条件で測定した蛍光体の表面における原子組成比Ca/(Ca+A)が0.05以上1以下、より好ましくは0.05以上0.8以下、さらに好ましくは0.05以上0.6以下の範囲であることが好ましい。原子組成比Ca/(Ca+A)=1とは、粒子表面全体がCa化合物で完全に覆われていることを意味する。
・X線源: 単色化Al−Kα
・帯電中和: 電子銃100μA
・分光系: パスエネルギー
200.00eV=ワイドスペクトル
50.0eV=ナロースペクトル[O1s,F1s,Si2p,K2p,Ca2p,Cl2p,Mn2p]
・測定領域: 400×200μm
・取り出し角: 90°(表面より)
【0027】
蛍光体の粒子表面近傍の深さ方向の元素分布は、XPS法において、蛍光体サンプルをArイオンでスパッタリングしながら測定することができる。本発明の蛍光体では、Caが蛍光体の表面(0μm)から1.5μm、より好ましくは1.0μmの深さまでの範囲に存在していることが好ましい。1.5μmを超えて存在すると、蛍光体の励起光の吸収効率及び蛍光体からの蛍光の取り出し効率が低下することがある。
【0028】
さらに、蛍光体の粒子表面にCa含有化合物を含有させることに加えて、蛍光体の粒子最表面のMn量(原子%)を粒子内部のMn量より低減することにより、耐湿性を改善することができる。
ここで、蛍光体の「粒子最表面のMn量」とは、蛍光体の表面から300nmの深さまでの範囲のMn量(原子%)をいう。蛍光体の元素分布は粒子表面近傍で深さに対して大きく変化し、ある程度以上の深さになると、原子組成比は一定となる。本発明の蛍光体では、蛍光体の表面から深さが300nm以上になるとMn量は深さ方向に対してほぼ一定となる。この一定となった時のMn量を「粒子内部のMn量」とする。粒子内部のMn量は、蛍光体サンプルをArイオンでスパッタリングしながらXPS法により測定できる。
【0029】
粒子最表面に存在するMn量は蛍光体粒子内部に比べて極力少ない方が好ましく、特に、粒子内部のMn量に対する粒子最表面のMn量の比率([粒子表面のMn量]/[粒子内部のMn量])が60%以下であることが好ましく、さらに好ましくは50%以下、より好ましくは30%以下である。
【0030】
粒子最表面のMn量を減らす方法としては、蛍光体粒子表面にCa含有化合物を付着させてCa含有化合物の量を増やすことにより相対的にMn量を減らす方法、蛍光体粒子自体の表面Mn量を減らす方法、さらには、これらの両方を組み合わせる方法がある。蛍光体の粒子表面にCa含有化合物を付着させる方法は上記の通りである。一方、蛍光体粒子自体の表面Mn量を減らす方法としては、蛍光体をフッ化水素酸中に懸濁させ、Mnが存在しないAMFのフッ化水素酸飽和溶液を添加し、加熱により溶媒を蒸発させ、蛍光体粒子表面にMnが存在しないAMFを析出させる方法がある。
【0031】
本発明に係る発光素子は、前述の本発明の蛍光体と発光光源とを有する。
発光光源としては、250nm以上550nm以下の波長の光を発する紫外LEDや可視光LEDを用いることができ、なかでも420nm以上500nm以下の青色LED発光素子が好ましい。
発光素子に使用する蛍光体として、本発明の蛍光体の他に周知の蛍光体を併用することができる。本発明の蛍光体と、緑色発光蛍光体、黄色発光蛍光体、及び、赤色発光蛍光体等の他の発光色の蛍光体とを適宜組み合わせることによって、より高い演色性、より高い輝度を得ることができる。
【0032】
本発明に係る発光装置は、前述の本発明の発光素子を用いたものであり、液晶パネルのバックライト、照明装置、道路や鉄道で用いられる信号機、プロジェクターを挙げることができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を以下に示す実施例によってさらに詳しく説明する。
【0034】
<原料KMnFの製造>
まず、以下の実施例及び比較例における蛍光体のMn原料として使用したKMnFの製造方法について説明する。
容量1リットルのテフロン(登録商標)製のビーカーに濃度40質量%フッ化水素酸800mlを入れ、KHF粉末(和光純薬工業株式会社製特級試薬)260g及び過マンガン酸カリウム粉末(和光純薬工業株式会社製試薬1級)12gを溶解させた。
このフッ化水素酸反応液をマグネティックスターラーで撹拌しながら、30%過酸化水素水(和光純薬工業株式会社製特級試薬)8mlを少しずつ滴下した。過酸化水素水の滴下量が一定量を超えると黄色粒子が析出し始め、反応液の色が紫色から変化し始めた。過酸化水素水を一定量滴下後、しばらく撹拌を続けてから撹拌を止め、析出粒子を沈殿させた。上記反応は全て常温で行った。
析出粒子の沈殿後、上澄み液を除去し、メタノールを加え、撹拌・静置し、上澄み液を除去し、さらにメタノールを加えるという操作を、液が中性になるまで繰り返した。その後、ろ過により析出粒子を回収し、乾燥を行い、メタノールを完全に蒸発除去し、KMnF粉末を19g得た。
【0035】
[実施例1〜8及び比較例1]
実施例1〜8及び比較例1は、いずれも一般式:AMF:Mn4+で表され、元素AはK、元素MはSi、Fはフッ素、Mnはマンガンである蛍光体、すなわちKSiF:Mn4+で表される蛍光体に関する。比較例1は粒子表面にCa含有化合物を含有しない従来の蛍光体であり、実施例1〜8は粒子表面にCa含有化合物を付着させた蛍光体である。
【0036】
<比較例1>
常温下で、容量1リットルのテフロン(登録商標)製のビーカーに濃度48質量%フッ化水素酸500mlを入れ、そこにKSiF粉末(和光純薬工業株式会社製、等級:化学用)50g及び前記方法で合成したKMnF粉末5gを入れ、懸濁液を調製した。
懸濁液の入ったテフロン(登録商標)製のビーカーをホットプレート上に載せ、撹拌しながら加熱を行った。約80℃まで加熱し、しばらく保持したところでビーカー内を確認したところ、粉末は完全に溶解し、薄褐色の溶液に変化した。このフッ化水素酸水溶液をさらに加熱し続け、溶媒を蒸発させた。溶媒の蒸発に伴い、淡黄色の結晶が析出した。溶媒量がかなり少なくなった状態で加熱を止め、室温まで冷却した。その後、濃度20質量%フッ化水素酸、メタノールでの洗浄を行い、ろ過により固形部を分離回収し、さらに乾燥処理により、残存メタノールを蒸発除去した。乾燥処理後の蛍光体に対し、目開き75μmのナイロン製篩を用い、この篩を通過したものだけに分級し、比較例1の蛍光体KSiF:Mn4+を得た。
【0037】
<実施例1>
比較例1の蛍光体20gを濃度20%のフッ化水素酸とメタノールの混合溶液(容積比が1:1)、100mlに添加し、懸濁液を調製した。
この懸濁液を撹拌しながら、濃度0.6mol%の塩化カルシウム水溶液を25ml添加した。添加後、さらに10分間撹拌した。撹拌終了後、懸濁液を静置し、蛍光体を沈殿させ、上澄み液を除去し、そこにメタノールを加え、撹拌・静置し、上澄み液を除去し、さらにメタノールを加えるという操作を、液が中性になるまで繰り返した。
その後、ろ過により、析出粒子を回収し、さらに乾燥を行い、メタノールを完全に蒸発除去し、実施例1の蛍光体を得た。
【0038】
<実施例2〜4>
実施例2、3及び4は、蛍光体懸濁液に添加する塩化カルシウム水溶液の濃度をそれぞれ0.3mol%、0.8mol%、1.2mol%に変えたこと以外は実施例1と全く同じ方法及び条件で製造した。
【0039】
<実施例5〜8>
実施例5〜8は、蛍光体懸濁液に添加する塩化カルシウム水溶液の濃度をそれぞれ0.7mol%、0.2mol%、0.5mol%、1.4mol%に変えたこと以外は実施例1と全く同じ方法及び条件で製造した。
【0040】
<蛍光体の評価>
次に、得られた蛍光体を以下の方法で評価した。
まず、比較例1及び実施例1〜4の蛍光体について、結晶相、励起スペクトル・蛍光スペクトル、量子効率、色度座標、原子組成比Ca/(K+Ca)、表面構造、耐湿性を評価した。評価結果を表1及び図1〜4に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
<結晶相>
蛍光体のX線回折パターンをX線回折装置(株式会社リガク製UltimaIV)で測定した。測定にはCuKα管球を使用した。
比較例1及び実施例1〜4の蛍光体は、いずれもKSiF結晶と同一パターンであり、他の結晶相を含んでいなかった。KSiF結晶、実施例1の蛍光体、比較例1の蛍光体のX線回折の結果を図1に示す。
【0043】
<励起スペクトル・蛍光スペクトル>
蛍光体の励起・蛍光スペクトルを分光蛍光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製F−7000)で測定した。この測定における蛍光スペクトルの励起波長は455nm、励起スペクトルのモニター蛍光波長は632nmである。
比較例1の蛍光体の測定結果を図2に示す。比較例1の蛍光体は、ピーク波長350nm近傍の紫外光とピーク波長450nm近傍の青色光の二つの励起帯を有し、600〜700nmの赤色域に複数の狭帯発光を有する蛍光体であった。
実施例1〜4の蛍光体について分光蛍光光度計により測定した励起・蛍光スペクトルは、比較例1とほとんど同じ形状であった。
【0044】
<量子効率>
蛍光体の量子効率を次の方法により、常温で評価した。
積分球(φ60mm)の側面開口部(φ10mm)に反射率が99%の標準反射板(Labsphere社製スペクトラロン)をセットした。この積分球に、発光光源としてのXeランプから455nmの波長に分光した単色光を光ファイバーにより導入し、反射光のスペクトルを分光光度計(大塚電子株式会社製MCPD−7000)により測定した。その際、450〜465nmの波長範囲のスペクトルから励起光フォトン数(Qex)を算出した。
次に、凹型のセルに表面が平滑になるように蛍光体を充填したものを積分球の開口部にセットし、波長455nmの単色光を照射し、励起の反射光及び蛍光のスペクトルを分光光度計により測定した。得られたスペクトルデータから励起反射光フォトン数(Qref)及び蛍光フォトン数(Qem)を算出した。
励起反射光フォトン数は、励起光フォトン数と同じ波長範囲で、蛍光フォトン数は、465〜800nmの範囲で算出した。
得られた三種類のフォトン数から、外部量子効率=Qem/Qex×100、吸収率=(Qex−Qref)/Qex×100、内部量子効率=Qem/(Qex−Qref)×100を求めた。
【0045】
<色度座標>
蛍光体をセットして測定したスペクトルについてJIS Z 8724(色の測定方法−光源色−)に準じた方法で、JIS Z 8701に規定されるXYZ表色系における算出法により、CIE1931等色関数を用いて色度座標(x、y)を算出した。色度座標算出に用いる波長範囲は465〜780nmとした。
【0046】
<原子組成比Ca/(Ca+A)>
X線光電子分光法により分析した蛍光体表面の原子組成比Ca/(Ca+A)は、蛍光体の粒子表面にあるCaの存在量の指標である。Ca及びKの存在量(原子%)は、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製K−Alphaを用いて、次の条件でXPS法により測定した。
X線源: 単色化Al−Kα
帯電中和: 電子銃100μA
分光系: パスエネルギー
200.00eV=ワイドスペクトル
50.0eV=ナロースペクトル[O1s,F1s,Si2p,K2p,Ca2p,Cl2p,Mn2p]
・測定領域: 400×200μm
・取り出し角: 90°(表面より)
【0047】
上記方法により測定した比較例1の蛍光体表面にCaは存在していなかった。具体的には、Caは検出下限である0.1原子%未満であった。
一方、実施例1について蛍光体粒子表面の元素分析を行ったところ、Kが23原子%で、Caが6原子%であった。その結果、実施例1の蛍光体表面の原子組成比Ca/(K+Ca)は、Ca/(Ca+K)=6/(6+23)=0.21であった。実施例2、3、4の原子組成比Ca/(K+Ca)は、それぞれ0.07、0.36、0.52であった。
【0048】
さらに、蛍光体の粒子内部、すなわち深さ方向の元素分析を、蛍光体試料をArイオンでスパッタリングしながらXPS法により測定した。
スパッタリング条件は、次の通りである。
スパッタイオン:Arイオン
イオンエネルギー:3keV
スパッタ速度:0.69nm/min(Ta換算)
イオン照射範囲:2×4mm
この条件で60秒間スパッタする毎に元素分析を行った。
Caが検出下限以下になる深さは、実施例1の蛍光体で0.6μmであり、実施例2、3、4でそれぞれ0.4μm、0.9μm、1.6μmであった。
【0049】
<蛍光体粒子表面の微細構造観察>
蛍光体の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM/日本電子株式会社製、JSM−7001F SHL)で観察した。
比較例1の蛍光体の表面のSEM写真を図3に、実施例1の蛍光体の表面のSEM写真を図4にそれぞれ示す。
比較例1の蛍光体の表面には、結晶成長時に形成されたピット状の欠陥や階段状の欠陥及び異相と思われる微粒子が若干存在するものの、それ以外は平滑であった。
一方、実施例1の蛍光体の表面には、比較例1の蛍光体では見られなかったCa含有化合物の微粒子が多数付着していた。付着しているCa含有化合物はCaFである。
【0050】
<耐湿性評価>
蛍光体の耐湿性評価を次の方法で行った。
蛍光体をφ55mmのPFA製シャーレに3g入れ、恒温恒湿器(ヤマト科学株式会社製IW222)の槽内にセットし、温度60℃、相対湿度90%RHの高温高湿条件下で4時間処理した後、上記方法により外部量子効率を測定し、高温高湿処理前の外部量子効率と比較した。すなわち、[高温高湿処理後の外部量子効率]/[高温高湿処理前の外部量子効率]×100を算出し、耐湿性の指標として評価を行った。
比較例1の場合、高温高湿処理後の455nm励起の吸収率、内部量子効率、外部量子効率、色度座標(x、y)は、それぞれ76%、66%、50%、(0.690、0.307)であった。高温高湿処理により、内部量子効率が大幅に低下し、結果として外部量子効率が高温高湿処理前の79%となり、耐湿性評価の合格値である85%を下回った。
一方、実施例1の場合、高温高湿処理後の蛍光体の外部量子効率は62%であり、耐湿性評価は97%であった。また、実施例2〜4の蛍光体の耐湿性評価は、それぞれ95%、98%、98%であった。
【0051】
表1に示されるように、蛍光体の粒子表面にCa含有化合物を含有させることにより、耐湿性が著しく改善することが認められた。この場合のCa含有量は、XPS法により分析した原子組成比Ca/(Ca+A)が0.05以上1以下の範囲であれば十分であることが確認された。また、Ca含有化合物の存在範囲が蛍光体の表面から1.5μmまでの深さまでであれば、外部量子効率を著しく低減すること無く、高輝度を維持できることが確認された。
【0052】
次に、比較例1及び実施例5〜8の蛍光体について、上記評価項目の他に、粒子内部のMn量に対する粒子最表面のMn量の比率([粒子最表面のMn量]/[粒子内部のMn量])を以下の方法で評価した。評価結果を表2に示す。
また、KSiF結晶、実施例5の蛍光体、比較例1の蛍光体のX線回折の結果を図5に示す。実施例5〜8の蛍光体は、いずれもKSiF結晶と同一パターンであり、他の結晶相を含んでいなかった。
【0053】
【表2】
【0054】
<粒子内部のMn量に対する粒子最表面のMn量の比率>
蛍光体の粒子最表面のMn量は、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製K−Alphaを用いて、次の条件でXPS法により測定した。
X線源: 単色化Al−Kα
帯電中和: 電子銃100μA
分光系: パスエネルギー
200.00eV=ワイドスペクトル
50.0eV=ナロースペクトル[O1s,F1s,Si2p,K2p,Ca2p,Cl2p,Mn2p]
・測定領域: 400×200μm
・取り出し角: 90°(表面より)
一方、粒子内部のMn量は、蛍光体サンプルをArイオンでスパッタリングしながらXPS法により測定した。
スパッタリング条件は、次の通りである。
スパッタイオン:Arイオン
イオンエネルギー:3keV
スパッタ速度:0.69nm/min(Ta換算)
イオン照射範囲:2×4mm
【0055】
比較例1の蛍光体の場合、粒子最表面のMn量は0.6原子%であり、深さ300nm以上で測定した粒子内部のMn量は0.8原子%であった。つまり、[粒子最表面のMn量]/[粒子内部のMn量]の比率は75%であった。
一方、実施例5の場合、粒子最表面のMn量は0.2原子%であり、粒子内部のMn量は0.8原子%であった。つまり、[粒子最表面のMn量]/[粒子内部のMn量]の比率は25%であった。また、実施例6、7、8の蛍光体の[粒子最表面のMn量]/[粒子内部のMn量]の比率は、それぞれ55%、32%、10%であった。
【0056】
表2に示されるように、蛍光体の粒子表面にCa含有化合物が付着しており、なおかつ、粒子最表面のMn量が粒子内部のMn量より少ない場合に、耐湿性の改善が認められた。特に、[粒子最表面のMn量]/[粒子内部のMn量]の比率が60%以下となる場合に耐湿性の著しい改善が認められた。
【0057】
[実施例9〜10及び比較例2]
実施例9〜10及び比較例2は、いずれも一般式:AMF:Mn4+で表され、元素AはK、元素MはGe、Fはフッ素、Mnはマンガンである蛍光体、すなわちKGeF:Mn4+で表される蛍光体に関する。比較例2は粒子表面にCa含有化合物を含有させていない従来の蛍光体であり、実施例9及び10は粒子表面にCa含有化合物を含有させた蛍光体である。
【0058】
<原料KGeFの製造>
実施例9〜10及び比較例2の蛍光体のGe原料として使用するKGeFを、以下に示す方法で製造した。
常温下で、容量1リットルのテフロン(登録商標)製のビーカーに濃度55質量%フッ化水素酸800mlを入れ、GeO粉末(高純度化学研究所社製、純度99.99%以上)42gを溶解させた。GeO粉末の溶解熱により溶液温度が40℃以上まで上昇したため、30℃以下になるまで放冷した。このフッ化水素酸水溶液をマグネッティクスターラーで撹拌しながら、KHF粉末(和光純薬工業株式会社製特級試薬)95gを添加した。添加後、約10分間撹拌を続けた後、撹拌を止め、溶液中の粒子を沈殿させた。
粒子の沈殿後、上澄み液を除去し、メタノールを加え、撹拌・静置し、上澄み液を除去し、さらにメタノールを加えるという操作を、液が中性になるまで繰り返した。その後、ろ過により、粒子を回収し、さらに乾燥を行い、メタノールを完全に除去し、白色粉末53gを得た。この白色粉末は、X線回折パターンを測定した結果、KGeF結晶単相であることを確認した。
【0059】
<比較例2>
常温下で、容量1リットルのテフロン(登録商標)製のビーカーに濃度48質量%フッ化水素酸500mlを入れ、そこに前記方法で合成したKGeF粉末50gとKMnF粉末4gを入れ、懸濁液を調製した。
この懸濁液を比較例1と同じ方法により加熱を行い、溶媒を蒸発させて、黄色の結晶を析出させ、濃度20質量%フッ化水素酸、メタノールでの洗浄を行い、ろ過、乾燥により黄色粉末状の比較例2の蛍光体を得た。
【0060】
<比較例2の蛍光体の評価>
比較例2の黄色粉末は、X線回折の結果、KGeF結晶と同一パターンであり、他の結晶相は検出されなかった。
分光蛍光光度計により測定した励起・蛍光スペクトルを図6に示す。この測定における蛍光スペクトルの励起波長は455nm、励起スペクトルのモニター蛍光波長は632nmであった。比較例2の蛍光体の励起スペクトルは、比較例1に比べ、若干長波長側にシフトしているが、蛍光スペクトルは比較例1とほとんど同じであった。
波長455nmの青色光で励起した時の吸収率は78%、内部量子効率は88%、外部量子効率は68%、及び色度(x、y)は、(0.693、0.305)であった。
【0061】
比較例2のXPS法による蛍光体表面の分析では、蛍光体表面にCaは存在していなかった。また、粒子最表面のMn量は0.9原子%で、粒子内部のMn量は1.0原子%であり、粒子内部のMn量に対する粒子最表面のMn量の比率([粒子最表面のMn量]/[粒子内部のMn量])は90%であった。高温高湿処理(60℃−90%RH−4時間)後の蛍光体の外部量子効率は54%であり、耐湿性評価は78%であった。
【0062】
<実施例9>
比較例2の蛍光体20gを濃度20%のフッ化水素酸とメタノールの混合溶液(容積比が1:1)、100mlに添加し、懸濁液を調製した。
この懸濁液を撹拌しながら、濃度0.6mol%の塩化カルシウムメタノール溶液を25ml添加した。添加後、さらに10分間撹拌した。撹拌終了後、懸濁液を静置し、蛍光体を沈殿させ、上澄み液を除去し、さらにメタノールを加えるという操作を液が中性になるまで繰り返した。その後、ろ過により、析出粒子を回収し、さらに乾燥を行い、メタノールを完全に蒸発除去し、実施例9の蛍光体を得た。
【0063】
<実施例9の蛍光体の評価>
X線回折測定、励起・蛍光スペクトル測定の結果は、比較例2とほとんど同じであった。波長455nmの青色光で励起した時の吸収率は77%、内部量子効率は86%、外部量子効率は66%、及び色度(x、y)は、(0.695、0.305)であった。
【0064】
実施例9のXPS法による元素分析では、Kが23原子%で、Caが7原子%であった。その結果、蛍光体表面の原子組成比Ca/(Ca+K)=7/(7+23)=0.23であった。また、Arイオンスパッタによる深さ方向の分析の結果、Caが検出下限以下になる深さは0.7μmであった。高温高湿処理後の蛍光体の外部量子効率は66%であり、耐湿性評価は100%であった。かくして、KGeF:Mn4+で表される蛍光体の粒子表面にCa含有化合物を付着させることにより、耐湿性が著しく向上することが確認された。
【0065】
<実施例10>
比較例2の蛍光体20gを濃度20%のフッ化水素酸とメタノールの混合溶液(容積比が1:1)、100mlに添加し、懸濁液を調製した。
この懸濁液を撹拌しながら、濃度0.7mol%の塩化カルシウムメタノール溶液を25ml添加した。添加後、さらに10分間撹拌した。撹拌終了後、懸濁液を静置し、蛍光体を沈殿させ、上澄み液を除去し、さらにメタノールを加えるという操作を液が中性になるまで繰り返した。その後、ろ過により、析出粒子を回収し、さらに乾燥を行い、メタノールを完全に蒸発除去し、実施例10の蛍光体を得た。
【0066】
<実施例10の蛍光体の評価>
X線回折測定、励起・蛍光スペクトル測定の結果は、比較例2とほとんど同じであった。波長455nmの青色光で励起した時の吸収率は76%、内部量子効率は86%、外部量子効率は65%、及び色度(x、y)は、(0.694、0.305)であった。
【0067】
実施例10のXPS法による元素分析では、Kが21原子%で、Caが10原子%であった。その結果、蛍光体表面の原子組成比Ca/(Ca+K)=10/(10+21)=0.32であった。また、粒子最表面のMn量は0.2原子%で、粒子内部のMn量は1.0原子%であり、粒子内部のMn量に対する粒子最表面のMn量の比率([粒子最表面のMn量]/[粒子内部のMn量])は20%であった。高温高湿処理後の蛍光体の外部量子効率は65%であり、耐湿性評価100%であった。かくして、KGeF:Mn4+で表される蛍光体の粒子表面にCa含有化合物が付着しており、なおかつ、粒子最表面のMn量が粒子内部のMn量より少ない場合に、耐湿性が著しく向上することが確認された。
【0068】
<実施例11>
実施例1の蛍光体と、発光光源としての青色発光LEDを有する発光素子を作成した。この発光素子は、耐湿性に優れた実施例1の蛍光体を用いているので、演色性及び色再現性に優れることに加え、比較例1の蛍光体を用いた発光素子よりも時間の経過による輝度の低下が少なかった。
【0069】
<実施例12>
実施例11の発光素子を用いて発光装置としての照明装置を作成した。この発光装置は、耐湿性に優れた実施例1の蛍光体を用いているので、演色性及び色再現性に優れることに加え、比較例1の蛍光体を用いた発光装置よりも時間の経過による輝度の低下が少なかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6