(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、好適な実施形態に基づいて、本発明を説明する。
本実施形態の超電導線材の構造は特に限定されないが、
図1に示すように、テープ状の基材2、中間層5、超電導層6、及び安定化層8などを含む超電導線材1が一例として挙げられる。基材2、中間層5、及び超電導層6は積層体7を構成する。
【0014】
基材2は、テープ状の金属基材であり、厚さ方向の両側に、それぞれ主面を有する。基材を構成する金属の具体例として、ハステロイ(登録商標)に代表されるニッケル合金、ステンレス鋼、ニッケル合金に集合組織を導入した配向Ni−W合金などが挙げられる。基材の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、例えば10〜500μmの範囲である。
【0015】
中間層5は、基材から超電導層に向かって、拡散防止層、配向層、及びキャップ層をこの順に有する。超電導層6の結晶配向性を制御し、基材2中の金属元素の超電導層6側への拡散を防止し、両者の物理的特性(熱膨張率や格子定数等)の差を緩和するバッファ層として機能する金属酸化物からなることが好ましい。中間層5は、一例として、拡散防止層5Aと配向層5Bとキャップ層5Cの積層構造とすることができるが、拡散防止層5Aは単層構造としてもベッド層との積層構造としても良く、配向層5Bとキャップ層5Cも単層構造、積層構造のいずれでも良い。
拡散防止層5Aは、例えば、Si
3N
4、Al
2O
3、GZO(Gd
2Zr
2O
7)等から構成される。拡散防止層の厚さは、例えば10〜400nmである。
【0016】
配向層5Bは、その上のキャップ層5Cの結晶配向性を制御するために2軸配向する物質から形成される。配向層5Bの材質としては、例えば、Gd
2Zr
2O
7、MgO、ZrO
2−Y
2O
3(YSZ)、SrTiO
3、CeO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、Zr
2O
3、Ho
2O
3、Nd
2O
3等の金属酸化物を例示することができる。この配向層はIBAD(Ion-Beam-Assisted Deposition)法で形成することが好ましい。
【0017】
キャップ層5Cは、上述の配向層5Bの表面に成膜されて、結晶粒が面内方向に自己配向し得る材料を有する。キャップ層5Cの材質としては、例えば、CeO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、ZrO
2、YSZ、Ho
2O
3、Nd
2O
3、LaMnO
3等が挙げられる。キャップ層5Cの厚さは、50〜5000nmの範囲が挙げられる。
【0018】
なお、中間層5の積層構造において拡散防止層5Aの上に、界面反応性を低減しその上に形成される膜の配向性を得るため層であるベッド層を形成しても良い。ベッド層の材質としては、例えばY
2O
3、Er
2O
3、CeO
2、Dy
2O
3、Er
2O
3、Eu
2O
3、Ho
2O
3、La
2O
3等が挙げられる。ベッド層の厚さは、例えば10〜100nmである。
【0019】
超電導層6は、希土類元素を含む酸化物超電導体を含む。本実施形態の超電導層6は、RE
aBa
bCu
3O
7−x(REは希土類元素の1種又は2種以上の組み合わせを表し、1.05≦a≦1.35及び1.80≦b≦2.05を満たし、xは酸素欠損量を表す。)で表される組成を有する酸化物超電導体を含む。
【0020】
さらに本実施形態の酸化物超電導体は、超電導相中に粒子の外径が30nm以下の非超電導相を含む。上記組成は、超電導相及び非超電導相の平均組成である。平均組成は、酸化物超電導体(超電導層)を溶解して得た溶液を対象として、ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分析などにより定量することができる。粒子の外径は、AFM(原子間力顕微鏡)、TEM(透過型電子顕微鏡)もしくはSTEM(走査透過型電子顕微鏡)等の観察により測定することができる。また、粒子の組成分析には、EDS(エネルギー分散型X線分光器)等を用いることができる。
図2に、本実施形態の酸化物超電導体(RE=Gd)の一部をAFMで観察して得られた写真(2μm×2μm)の一例を示す。写真の明暗は、0.00〜54.93nmのバーに対応して、試料の表面プロファイル(高さ方向の凹凸)を表す。
図2の写真によれば、外径が0.5〜1μm程度の粒子として、GdBCOの結晶粒が観察される。さらに、これらGdBCOの結晶粒の表面上には、RE成分を含み、粒子の外径が30nm以下の微粒子が分散して導入されていることが観察される。
【0021】
図3に、上記酸化物超電導体(RE=Gd)の一部をSTEMで観察して得られた写真の一例を示す。
図3では、図の縦方向が試料の高さ方向(成膜方向もしくは積層方向)に対応し、層間プロファイルを表す。すなわち、
図2が試料の表面を示すのに対して、
図3では試料の断面を示す。
図3によれば、粒子の外径が30nm以下の複数の微粒子が、成膜方向に対してほぼ直交する複数の方向(複数層)に沿って配列していることが観察される。すなわち、複数の微粒子が、成膜方向に対してほぼ直交するもしくは基材面にほぼ平行な複数の面上に分散して導入されていることがわかる。本試料は、後述するパルスレーザー蒸着法を用いて作製しているため、微粒子の成膜方向における間隔はパルスによる成膜間隔とみなしてもよい。各成膜終了後の膜上に微粒子が観察できていること、及び、微粒子が分散している面の間隔(成膜方向の間隔)は、1ターンで成膜される膜厚に一致していることから、粒子が複数の面上に分散するのは、レーザーで成膜する際に、基材をターンさせて複数回噴流(プルーム)中を通過させているためと考えられる。
【0022】
さらに、
図4(b)〜
図4(e)に、上記で観察された粒子(
図4(a))をEDSにより分析して得られた写真の一例を示す。
図4(b)はGd、
図4(c)はBa、
図4(d)はCu、及び
図4(e)はOの検出結果を示す。これらの結果によれば、Gd,Ba,Cuの元素が検出されているので、粒子は少なくともGd,Ba,Cuを有していることが明らかである。従って、超電導層に含まれる超電導相を構成する成分と類似の成分を有する物質が超電導層内に導入されていることがわかる。
また、各画像における濃淡の差異に基づき、
図4(b)では粒子のGd組成が超電導相のGd組成より多く、
図4(c)では粒子のBa組成が超電導相のBa組成より少なく、
図4(d)では粒子のCu組成が超電導相のCu組成より多いことがわかる。
【0023】
本実施形態の酸化物超電導体に含まれる希土類元素REとしては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちの1種又は2種以上が挙げられる。中でも、Y、Gd、Eu、Smの1種か、又はこれら元素の2種以上の組み合わせが好ましい。超電導層の厚さは、例えば0.5〜5μm程度である。この厚さは、長手方向に均一であることが好ましい。酸素欠損量xは、例えば0.0〜0.5程度である。
【0024】
本実施形態の酸化物超電導体において、非超電導相の粒子は、上記平均組成の酸化物超電導体を成膜する際に形成される。成膜方法として、例えば、パルスレーザー蒸着法(PLD法:Pulse Laser Deposition)が挙げられる。微細な非超電導相の粒子を超電導相の中に分散させる(
図2及び
図3参照)ことで、人工ピンを導入する場合とは異なり、ベースのIcを落さず、低温磁場中のIcを上げることができる。粗大な粒子(例えば数十〜数百μm)が超電導相中に分散する場合、これらの粗大粒子によって電流パスが阻害される結果、かえって特性が低下するため、粒子を微細化することが重要である。
【0025】
PLD法によって酸化物超電導層を成膜する場合、成膜装置(レーザー蒸着装置)は、レーザー光によってターゲットから叩き出され、又は蒸発した構成粒子の噴流(プルーム)を、基材又はこれを含む積層体に向けることにより、構成粒子を堆積させて超電導層を形成する。このため、成膜装置は、ターゲット、基材の走行装置、処理容器、レーザー光源などを有する。
【0026】
ターゲットは、超電導層と同等、又は近似した組成を有する複合酸化物の焼結体、あるいは、成膜中に逃避しやすい成分を多く含有させた焼結体、あるいは、金属、合金、セラミックス、酸化物超電導体などの板材を用いることができる。ターゲットは、均一な組成を有することが好ましい。従来、ターゲットとして、人工ピンの元となる材料(異物)として、BaSnO
3(BSO)、BaZrO
3(BZO)、BaHfO
3(BHO)、BaTiO
3(BTO)、SnO
2、TiO
2、ZrO
2、LaMnO
3、ZnO等の結晶粒子をターゲットに配合し、人工ピンを含有する超電導層を成膜することがある。しかし、人工ピンは、均一に超電導層に分散させることが難しい。特に、有機金属分解法(MOD法)等の液相を利用する方法では、原料液の調製、塗布、乾燥等の条件により結果が左右されやすく、均一な分散が容易でない。
【0027】
本実施形態により分散する非超電導相の粒子は、酸化物超電導体の原料に由来する、RE、Ba、Cuの1又は2以上の元素の化合物(例えば酸化物)から構成される。一例において、通常のRE123系超電導体よりもREの比率が高い211系酸化物や、REとBaの酸化物が多く含まれる。ただし、不可避な不純物程度に他の元素を含むことはあり得る。
【0028】
基材が、その表面(超電導層が形成される側の面)に中間層などを有してもよいことは上述のとおりである。基材がテープ状である場合、基材を長手方向に走行させるため、走行装置を設けることが好ましい。走行装置は、基材を繰り出す供給リールと、基材を巻き取る巻取リールと、基材を転向させながら案内する1又は2以上の転向部材を有してもよい。転向部材は、例えば支持軸に支持されたリールである。基材は、単結晶基板や積層体などでもよい。このような走行装置を用いて、基材をターンさせてプルームを複数回通過させて成膜し、超電導層の膜厚を厚くしていくことができる。
【0029】
ターゲット、基材及び走行装置は、真空チャンバ等の処理容器に格納される。処理容器は、気密性を有するとともに、内部が高真空状態とされるため耐圧性を有する。ターゲットと基材との間でプルームが生じる範囲及びその周辺部を含む成膜空間の温度調整をするため、処理容器内にヒーターボックス等の温度制御手段を設けることができる。成膜空間を加熱する場合、加熱手段としては、熱板、電熱ヒータなどが挙げられる。ここで、加熱手段は、基材の表面に対向するように配置される。すなわち、本実施形態では、加熱手段は基材の成膜される面を直接加熱する。これにより、基材の成膜面の温度を膜形成に最適な温度に安定して制御することができる。
処理容器には、内部にガスを導入するガス供給手段と、内部のガスを排気する排気手段が設けられる。ガスとしては、雰囲気ガス、キャリアーガス、反応性ガス等が挙げられる。
【0030】
レーザー光源は、ターゲットにレーザー光を照射する。レーザー光源が処理容器の外部に設けられる場合は、処理容器の一部に、レーザー光源を透過する窓が設けられる。窓とターゲットとの間には、集光レンズなどの光学部品を設けることができる。ターゲットは成膜時に移動させてもよい。例えばターゲットを支持するターゲットホルダごと、回転移動又は往復移動させることができる。レーザー光源としては、エキシマレーザー、YAGレーザー等のようにパルスレーザーとして良好なエネルギー出力を示すものを用いることができる。例えば、パルス周波数が100Hz〜1200Hz程度、エネルギー密度が0.1〜50J/cm
2程度のレーザー光源を用いることができる。ターゲットに入射させるレーザーのエネルギーを調整してもよい。例えば、ある種の条件で、エネルギー(mJ)を変更したとき、非超電導相の粒子の外径(nm)は次のようになった。150mJのとき12nm、200mJのとき25nm、250mJのとき30nm、300mJのとき38nm、350mJのとき42nm。
【0031】
上記のように基材2に超電導層6が積層された超電導線材1には、さらに種々の構成を付加することができる。例えば、安定化層8は、事故時に発生する過電流をバイパスしたり、酸化物超電導層6と上に設ける層との間で起こる化学反応を抑制したりする等の機能を有する。
安定化層8の材質としては、例えばAg、Cu、又はこれらの合金が挙げられる。安定化層8は、超電導層6の上に積層したり、超電導層6の周囲をC字状などに囲んだりしてもよい。
図1では安定化層8を単層のように描いているが、一例として安定化層8は上記材料を含む層を2層以上積層した積層体の構造であってもよい。また、安定化層8は酸化物超電導層6の表面または表面に限らず、積層体7の基材2の外面上、積層体7の側面を含めた全周に形成しても良い。また、積層体7の周面の一部に安定化層8が形成されていない部分があっても良い。
さらに超電導線材1には、保護層、半田層、樹脂層、絶縁層などを設けることができる。超電導線材1の使用形態は特に限定されず、具体例として、線状(テープ状)、コイル状、ケーブル状等が挙げられる。
【0032】
本実施形態によれば、(1)超電導層を構成する酸化物超電導体の組成を、通常のRE123系超電導体の組成からずらすことにより、超電導相の中に非超電導相の微粒子が分散するようにし、元素置換を促進し、低温での磁場補足を促すことができる。また、(2)結晶性を高めることにより、自己磁場中のIcを高いままに保つことができる。これらの結果、(3)低温磁場中のIcを高く保つことができる。
ターゲットにレーザーを照射して上記の酸化物超電導体を製造することにより、ターゲットの状態を常に一定にした上で、レーザーの照射条件を制御することにより、非超電導相の粒子を超電導層に導入することができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
【0034】
ハステロイ(米国ヘインズ社商品名)からなるテープ基材上に、Al
2O
3の拡散防止層と、Y
2O
3のベッド層と、IBAD法によるMgOの配向層と、PLD法によるCeO
2のキャップ層を成膜したテープ基板(PLD−CeO
2/IBAD−MgO/Y
2O
3/Al
2O
3/Hastelloy)を用意した。テープ基板をリールtoリールで走行させ、ReBCO(RE、Ba及びCuの酸化物)からなるターゲットを使用し、キャップ層の上にPLD法によりReBCO膜を成膜した。成膜条件は、例えば、次のとおりである。光源:エキシマレーザー(KF:248nm)、0.5〜10J/cm
2(300mJ)、ターゲット−基板間距離(T−S)7cm、テープ基板の線速40m/h、パルス周波数200Hz,処理容器内の酸素分圧PO
2=40Pa、加熱装置(熱板)の温度910℃。ただし、この成膜条件は一例であって、下記の製造例では、上記とは異なる成膜条件を用いた場合もある。
【0035】
得られた超電導層の膜厚を1.5μmとしたときの臨界電流Ic(単位A)、臨界温度Tc(単位K)、Icの比、AFM又はTEMで測定した粒子の最大径(単位nm)を、表1〜10に示す。
【0036】
組成は、表1、表2、表4、表5、及び表7〜表10では、「RE
aBa
bCu
3O
7−x」の一般式におけるRE、a及びbを記載し、表3及び表6では、REの元素及びRE:Ba:Cuの比率(人工ピンを加える場合は、「+」につづけて材料とその重量百分率)を記載した。
【0037】
Icの比は、bを一定にした場合(表1、表4、表7、表9)は、aが最小である組成のIcを基準(1.0)とし、aを一定にした場合(表2、表5、表8、表10)は、bが最小である組成のIcを基準(1.0)とした。Icの測定条件は、温度が77K、50K又は20K、磁場が自己磁場中(self)又は3Tである。粒子の最大径は、表では「径(nm)」の欄に示し、粒子が観察されないときは「なし」と記載した。
【0038】
表1〜表3では、RE=Yである。表1ではb=1.95で、aの値が異なる。表2ではa=1.3で、bの値が異なる。表3は、Y123の場合(Y:Ba:Cu=1:2:3)と、人工ピンとしてBZO(BaZrO
3)を添加した例を示し、人工ピンを入れても特性が大きく変わることはないことがわかる。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
表4〜表6では、RE=Gdである。表4ではb=1.95で、aの値が異なる。表5ではa=1.3で、bの値が異なる。表6は、Gd123の場合(Gd:Ba:Cu=1:2:3)と、人工ピンとしてBZO(BaZrO
3)を添加した例を示す。
【0043】
【表4】
【0044】
【表5】
【0045】
【表6】
【0046】
表7及び表8では、RE=Euである。表7ではb=1.95で、aの値が異なる。表8ではa=1.3で、bの値が異なる。
【0047】
【表7】
【0048】
【表8】
【0049】
表9及び表10では、RE=Smである。表9ではb=1.95で、aの値が異なる。表10ではa=1.3で、bの値が異なる。
【0050】
【表9】
【0051】
【表10】
【0052】
以上の結果より、1.05≦a≦1.35及び1.80≦b≦2.05を満たす場合、粒子の最大の外径が30nm以下の粒子が分散した構造で、低温磁場中でもIcが高い超電導体が得られたことを確認することができた。