(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6155439
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】CMC材料製の部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/80 20060101AFI20170626BHJP
F01D 5/28 20060101ALI20170626BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20170626BHJP
B32B 18/00 20060101ALI20170626BHJP
【FI】
C04B35/80 300
F01D5/28
F02C7/00 D
F02C7/00 C
B32B18/00 A
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-543954(P2014-543954)
(86)(22)【出願日】2012年11月22日
(65)【公表番号】特表2015-506892(P2015-506892A)
(43)【公表日】2015年3月5日
(86)【国際出願番号】FR2012052700
(87)【国際公開番号】WO2013079853
(87)【国際公開日】20130606
【審査請求日】2015年10月6日
(31)【優先権主張番号】1160941
(32)【優先日】2011年11月30日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】512162432
【氏名又は名称】サフラン セラミクス
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100168273
【弁理士】
【氏名又は名称】古田 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】ブイヨン,エリック
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ,エリック
(72)【発明者】
【氏名】ラフォン,アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】ラムルー,フランク
【審査官】
今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−159199(JP,A)
【文献】
特表2001−505863(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/034937(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/80
B32B 18/00
F01D 5/28
F02C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部がセラミックでできたマトリクスを有する複合材料製の部品を製造する方法であって、
‐繊維の構造体を作るステップであって、前記繊維の構造体の前記繊維が炭素繊維又はセラミック繊維であるステップと、
‐前記繊維に中間相の被膜を形成するステップであって、前記被膜が熱分解炭素(PyC)又はホウ素がドープされた炭素(BC)の少なくとも一つの層であって10nm〜1000nmの厚みを有する層によって形成されているステップと、
‐成形設備を用いて前記繊維の構造体を成形して製造されるべき前記部品の予備形状体を得るステップと、
‐前記成形設備において前記繊維の前記予備形状体を補強するステップと、
‐前記中間相に第一マトリクス相を形成するステップであって、前記第一マトリクス相は、熱分解炭素(PyC)及びホウ素がドープされた炭素(BC)から選ばれる材料の一つ以上の層と交互に重なっている自己修復性の材料の複数の層を備え、前記自己修復性の材料の複数の層と前記熱分解炭素(PyC)又は前記ホウ素がドープされた炭素(BC)の層とをCVIによって形成して、部分的に密度が高められ補強された予備形状体を得るステップと、
‐前記成形設備から前記予備形状体を取り出した後、前記部分的に密度が高められ補強された予備形状体の内部に、炭素及び/又はセラミックの粉を分散させ、かつ、溶融シリコン又はシリコンが主成分である液体組成物を浸潤させることによってさらに密度を高めるステップと、を備えた
方法。
【請求項2】
前記第一マトリクス相における前記自己修復性の材料の各層の材料が、Si−B−C三成分系及び炭化ホウ素から選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第一マトリクス相における、前記自己修復性の材料の前記複数の層とPyC又はBCの層とを加えた全体の厚みは、500nm〜30μmの範囲に収まる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第一マトリクス相の形成は、ホウ素を含まないセラミック材料の少なくとも一つの層の形成によって完結し、当該層は自己修復性の材料の最後の層に形成されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ホウ素を含まない前記セラミック材料の層は、少なくとも500nmの厚みを有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ホウ素を含まない前記セラミック材料の層は、炭化ケイ素(SiC)又は窒化ケイ素(Si3N4)でできている、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
補強された前記繊維の予備形状体を作るステップは、前記繊維の構造体を成形し、かつ、化学気相浸潤法によって前記予備形状体の繊維に前記中間相の被膜を形成することによって、前記繊維の前記予備形状体を形成するステップと、その後に前記第一マトリクス相を形成するステップとを備え、前記中間相の被膜及び前記第一マトリクス相が前記予備形状体を補強するために十分な全体厚さを有するように形成されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記予備形状体の前記繊維に前記中間相を形成するステップは、第一の中間相の層を形成する第一ステップ及び第二の中間相の層を形成する第二ステップを備え、前記第一ステップと前記第二ステップとは、前記予備形状体を補強するステップによって分離されており、前記予備形状体を補強するステップは、炭素又はセラミックの前駆物質である樹脂を含む液体組成物を含浸させるステップと、前記予備形状体を設備において成形するステップと、前記樹脂を重合させるステップと、前記樹脂を炭素又はセラミックに変化させるステップとを備え、前記予備形状体が少なくとも前記樹脂が重合するまで前記成形設備に保持されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記繊維の前記予備形状体は、三次元織又は多層織によって単一のピースとして作られた繊維の構造体から形成されている、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記炭素及び/又はセラミックの粉は、液体のビヒクルに懸濁している粉を含む泥漿を含浸させることによって、補強された前記繊維の前記予備形状体の内部に分散されている、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
炭素又はセラミックの前駆物質である樹脂に分散された前記炭素及び/又はセラミックの粉を含む液体組成物を用いて、補強された前記繊維の前記予備形状体の内部で前記炭素及び/又はセラミックの粉が分散されている、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記シリコンが主成分である液体組成物は、ホウ素B、チタンTi、及びモリブデンMoから選ばれる少なくとも一つの元素をさらに含んでいる、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下記にCMC材料として説明される、セラミック又は少なくとも一部がセラミックであるマトリクスを有する複合材料製の部品を製造する方法に関する。
【0002】
本発明が適用される分野は、運転時に酸化性雰囲気で高温に曝される部品、特に、航空及び宇宙の分野において、とりわけ、航空機用タービンエンジンの熱くなる部分のための部品の製造である。本発明は、他の分野、例えば、産業用ガスタービンの分野において適用されてもよいということが理解される。
【背景技術】
【0003】
CMC材料は、良好な熱構造特性、すなわち、構造部品を構成するのに適した強い機械的特性を、高温でそれらの特性を維持できる性能とともに有する。
【0004】
そこで、運転時に高温に曝される部品に金属材料に代えてCMC材料を使用することが推奨されている。なぜなら、特にCMC材料は、それらが置換する金属材料の密度より大幅に小さい密度を有するからである。
【0005】
良く知られているCMC材料製の部品を製造する第一の方法は、織られた繊維のテクスチャから繊維の予備形状体を作るステップと、化学気相浸潤法(CVI(Chemical Vapor Infiltration))を用いてセラミックのマトリクスによって、予備形状体を補強し予備形状体の密度を高めるステップとを備えている。例えば、CMC材料製の航空機用タービンエンジンのための部品を製造する方法に関する文献である、WO 2010/061140、WO 2010/116066、及びWO 2011/080443を参照することができる。
【0006】
良く知られている第二の方法は、炭化ケイ素系の繊維が、炭素又は炭化物の層、特には炭化ケイ素SiCの層に覆われた、窒化ホウ素BNの層にCVIによって被覆されている、繊維の複数の層から予備形状体を作るステップからなる。その繊維の複数の層に、炭素の粉又はセラミックの粉及び有機質の粘結剤を含む組成物を予め含浸させ、又は、別の方法では、それらに、予備形状体が形成された後でそのような組成物を含浸させる。粘結剤が除去されると、ホウ素濃度ができるだけ高められた溶融シリコンを浸潤させることによって予備形状体の密度が高められる。このような密度を高めるプロセスは、溶融浸潤(MI(Melt Infiltration))プロセスとして知られている。例えば、文献US 4 889 686、US 4 944 904、又はUS 5 015 540を参照することができる。良く知られている態様において、繊維を被覆しているBNである中間相の材料は、複合材料において脆化を緩和する働きをなし、MIプロセスを行う間に繊維を溶融シリコンから隔離している。
【0007】
CVIによる密度を高めるプロセスによって、厚みが均一で、かつ、組成物が制御されているマトリクス相、特に、き裂を逸らす、又は、自己修復する特殊な機能を有する材料でできたマトリクス相を得ることができる。これにより、高温での酸化性雰囲気において長期の寿命が実現される。ここで、自己修復性の材料は、酸素の存在下で、特定の温度範囲においてペースト状の状態又は流動する状態に移行できるガラス状の組成物を形成する材料を意味し、これにより、材料の内部に出現するき裂を修復する。自己修復性の材料の例は、ボロシリケート系ガラスを形成できる、Si−B−C三成分系又は炭化ホウ素系の材料である。ところが、CVIによる密度を高めるプロセスは、比較的長期間を要し、高価である。
【0008】
逆に、MIプロセスによって密度を高めるステップは、厚み及び組成物が制御されたマトリクス相を形成することができないが、このステップは、CVIによる密度を高めるステップよりもより早くかつより容易に行うことができ、この観点から魅力的である。しかしながら、き裂が存在すると、上述の第二の方法によって製造された部品の寿命は、酸化性雰囲気において800℃あたりの温度から短くなる。なぜなら、BNである中間相の材料の被膜がB
2O
3へ酸化し、水分が存在すると揮発性の酸化物が形成され、結果としてBNである材料が減耗して脆性を緩和する働きが次第になくなっていくからである。残念ながら、運転時に受ける熱サイクルが原因で、CMC材料にき裂が発生することが実際には避けられない。また、CVIによるBNの形成は、複雑であり、かつ、NH
3及びBCl
3又はBF
3系のガス性の前駆物質を使用する。このため、特に、工業的なスケールで廃水を処理するために、複雑な設備を必要とする。さらに、BNである中間相の材料の被膜にSiCの層を付着させることは、溶融シリコンを浸潤させつつその被膜を保護するという効果を制限する可能性がある。なぜなら、CVIによって得られるSiCの付着物は、一般的に、溶融シリコンを浸潤させることができる柱状の構造を有するからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、特に、上述した既知の方法の欠点を有しない方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、
複合材料製の部品を製造する方法であって、
‐繊維の構造体を作るステップであって、前記繊維の構造体の前記繊維が炭素繊維又はセラミック繊維であるステップと、
‐前記繊維に中間相の被膜を形成するステップであって、前記被膜が熱分解炭素(PyC)又はホウ素がドープされた炭素(BC)の少なくとも一つの層によって形成されているステップと、
‐成形設備を用いて前記繊維の構造体を成形して製造されるべき前記部品のための予備形状体を得るステップと、
‐前記成形設備において前記繊維の前記予備形状体を補強するステップと、
‐前記中間相に第一マトリクス相を形成するステップであって、前記第一マトリクス相は、熱分解炭素(PyC)及びホウ素がドープされた炭素(BC)から選ばれる材料の一つ以上の層と交互に重なっている自己修復性の材料の複数の層を備え、前記自己修復性の材料の複数の層と前記熱分解炭素(PyC)又は前記ホウ素がドープされた炭素(BC)の層とをCVIによって形成して、部分的に密度が高められ補強された予備形状体を得るステップと、
‐前記成形設備から前記予備形状体を取り出した後、前記部分的に密度が高められ補強された予備形状体の内部に、炭素及び/又はセラミックの粉を分散させ、かつ、溶融シリコン又はシリコンが主成分である液体組成物を浸潤させることによってさらに密度を高めるステップと、を備えた
方法によって達成される。
【0011】
この場合、PyC又はBCのシート構造は、前記マトリクスにおいて広がった後に前記中間相に伸びるき裂が逸れることを促し、その結果、PyC又はBCの中間相は前記複合材料に対して脆化を緩和する典型的な機能を有する。これにより、このようなき裂によって繊維が破壊することが防止され、又は、破壊に至るまでに時間がかかるようになる。
【0012】
ホウ素がドープされた炭素、すなわち、BCは、5at%(原子パーセント)〜20at%のホウ素を含み、残りが炭素である組成物を意味する。このような組成物は、ターボストラティック構造(une structure turbostratique)、すなわち、ぴったりとは重ならずに積層されたシート構造を有する。これにより、脆化を緩和する働きが高まる。なお、BNでこのような構造を得ることは難しい。
【0013】
本発明の方法は、特に、き裂を逸らす材料であるPyC又はBCの1つ以上の層と交互に重なっている自己修復性の材料の層でシーケンスマトリクス相を作る方法であって、そのシーケンスマトリクス相が前記中間相の被膜と上記のMIプロセスによって得られる上記のマトリクス相との間に配置されている方法を提供する場合に、素晴らしい。
【0014】
上記のMIプロセスによって得られた上記のマトリクス相には、モノリシックなセラミックと同じようにき裂が生じる。一方、上記のシーケンスマトリクス相は、前記自己修復性の材料及び上記のき裂を逸らす材料を含み、前記中間相の被膜までき裂が広がることを阻む点で効果的であり、それゆえ、酸化性の環境に前記中間相の被膜を露出させることを阻む点で効果的である。これにより、PyC又はBCの前記中間相の被膜は酸化し得る性質を有するにもかかわらず、前記中間相の被膜によってもたらされる脆化を緩和する働きが維持される。上述の問題を伴うBNの中間相の被膜を形成する必要がない。同時に、上記のシーケンスマトリクス相が存在することによって、高温、特に800℃より高い温度での酸化性雰囲気に耐える能力が確保される。加えて、上記のシーケンスマトリクス相は、上記のMIプロセスの期間中に、溶融シリコン又はシリコン系の液体組成物から前記中間相の被膜を保護することにも貢献する。
【0015】
有利には、前記第一マトリクス相における自己修復性の材料の各層の材料は、Si−B−C三成分系及び炭化ホウ素から選ばれてもよく、好ましくはアモルファス材料である。
【0016】
前記第一マトリクス相における自己修復性の材料のすべての層とPyC又はBCの層とを加えた全体の厚みは、500ナノメートル(nm)〜30マイクロメートル(μm)の範囲であってもよい。
【0017】
本発明の方法の一つの態様において、前記第一マトリクス相の形成はホウ素を含まないセラミック材料の層の形成によって完結し、この層は、自己修復性の材料の最後の層に形成される。
【0018】
前記ホウ素を含まないセラミック材料の層は少なくとも500nmの厚みを有していてもよい。
【0019】
前記ホウ素を含まないセラミック材料の層は、特に、炭化ケイ素(SiC)又は窒化ケイ素(Si
3N
4)でできていてもよい。
【0020】
一の実施態様において、補強された前記繊維の予備形状体を作るステップは、前記繊維の構造体を成形することによって前記繊維の予備形状体を形成するステップと、化学気相浸潤法によって前記予備形状体の前記繊維に前記中間相の被膜を形成するステップと、その後に前記第一マトリクス相を形成するステップとを備え、前記中間相の被膜及び第一マトリクス相は、前記予備形状体を補強するために十分な全体厚みを有するように形成されている。例えば、このような、前記予備形状体を補強するために十分な厚みは500nm以上である。
【0021】
別の実施態様において、前記予備形状体の前記繊維に前記中間相を形成するステップは、第一の中間相の層を形成する第一ステップと、第二の中間相の層を形成する第二ステップとを備え、前記第一ステップと前記第二ステップとは前記繊維の予備形状体を補強するステップで分離されている。前記予備形状体を補強するステップは、炭素又はセラミックの前駆物質である樹脂を含む液体組成物を含浸させるステップと、前記予備形状体を成形設備で成形するステップと、前記樹脂を重合させて前記樹脂を炭素又はセラミックに変化させるステップとを備え、前記予備形状体は少なくとも前記樹脂が重合するまで前記成形設備でその形状が保たれている。
【0022】
前記第一の中間相の層は、化学気相浸潤法によって形成されて300nm以下の厚みを有していてもよい。
【0023】
一の実施形態において、前記繊維の予備形状体は、三次元織又は多層織によって単一のピースとして作られた繊維の構造体から形成されている。
【0024】
炭素及び/又はセラミックの粉は、水に懸濁した状態で前記粉を含む水性の泥漿(une barbotine)を含浸させることによって、補強された前記繊維の予備形状体の内部に分散されていてもよい。
【0025】
補強された前記繊維の予備形状体の内部における炭素及び/又はセラミックの粉の分散は、炭素又はセラミックの前駆物質である樹脂に分散した前記炭素及び/又はセラミックの粉を含む液体組成物を用いて行われてもよい。
【0026】
シリコンが主成分である前記液体組成物は、ホウ素B、チタンT、及びモリブデンMoから選ばれる少なくとも一つの元素を含んでいてもよい。
【0027】
本発明は、添付の図面を参照しつつ、非限定的な記載を用いて与えられる以下の説明を読めば、より良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本発明の第一の実施形態におけるCMC材料製の部品を製造する方法の連続的なステップを示す。
【
図2】
図2は、本発明の第二の実施形態におけるCMC材料製の部品を製造する方法の連続的なステップを示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1を参照して本発明の第一の実施形態を説明する。
【0030】
第一ステップ10は、繊維の構造体を作るステップからなる。その繊維の構造体から、製造されるべき部品の形状に近い形状を有する繊維の予備形状体が作られる。このような繊維の構造体は、糸(fils)又は撚糸(cables)の多層織又は三次元織によって得られてもよい。糸又は撚糸の織物又はシートなどの二次元の繊維のテクスチャから始めて複数の層を形成することも可能である。この複数の層は、その後特定の形状に仕上げられ、かつ、場合によっては、例えば、縫うこと又は糸を埋め込むことによってひとまとまりになるように接合される。
【0031】
繊維の構造体を構成する繊維は、好ましくは、セラミック繊維であり、例えば、炭化ケイ素SiC(以下では、SiC繊維と称する)又は窒化ケイ素(Si
3N
4)で実質的にできている繊維である。特に、日系のサプライヤーである日本カーボンによって"Hi-Nicalon(S)"という名称で販売されているSiC繊維を使用することができる。変形例において、炭素繊維を使用することもできる。
【0032】
既知の態様において、セラミック繊維、特にSiC繊維を用いる場合、サイズ(l'ensimage)及び繊維の表面に存在するシリカSiO
2のような酸化物層を除去するために、中間層の被膜を形成する前に繊維に表面処理(ステップ20)を施すことが好ましい。
【0033】
ステップ30は、成形設備を用いて繊維の構造体を成形して、製造されるべき部品の形状に近い形状を有する予備形状体を得るステップからなる。
【0034】
例えばグラファイト製であるその成形設備に予備形状体が保持されている状態で、脆化を緩和する中間相が予備形状体の繊維にCVIによって形成される(ステップ40)。この中間相は、熱分解炭素、すなわちPyC又はホウ素がドープされた炭素、すなわちBC(5at%〜20at%のホウ素を含み、残りが炭素である)の、少なくとも1つの層によって形成されている。PyC又はBCの中間相の厚さは、好ましくは1ナノメートルから数十ナノメートルの範囲に収まっており、例えば、10nm〜1000nmの範囲に収まっている。
【0035】
次に(ステップ50)、第一マトリクス相が形成される。第一マトリクス相は、CVIによって得られたPyC又はBCの1つ以上の層と交互に重なっている、CVIによって得られた自己修復性の材料の複数の層を備え、第一マトリクス相の最初の層及び最後の層は自己修復性の材料でできている。自己修復性の材料の各層としては、ホウ素を含む材料、例えば、Si−B−C三成分系の又は炭化ホウ素を含むアモルファスを選択することができ、好ましくは、酸素が存在する場合に自己修復特性を有するボロシリケート系ガラスを形成できる炭化ホウ素のアモルファスである。自己修復性の材料の複数の層とPyC又はBCの層とを加えた全体の厚みは数百ナノメートルであり、好ましくは、500nm〜30μmの範囲に収まっている。自己修復性の材料の様々な層の自己修復性の材料は同一であってもよいし、それらが異なっていてもよい。
【0036】
第一マトリクス相の形成は、ホウ素を含まないセラミック材料、例えば、SiC又はSi
3N
4の層の形成によって完結してもよく、その層は、自己修復性の材料と、その後に導入される溶融シリコン又はシリコン系液体組成物との間の反応に対するバリアを構成するために、自己修復性の材料の最後の層に形成されている。反応バリアを形成する、このセラミック材料の層の厚みは、好ましくは、数百ナノメートルであり、例えば、500nm以上であり、典型的には1マイクロメートルから数マイクロメートルの範囲に収まっている。ホウ素を含まない、SiC又はSi
3N
4以外のセラミック材料、例えば、ZrC又はHfCなどの耐熱性の炭化物が、上記の反応バリアを形成するために用いられてもよい。
【0037】
中間相と、反応バリアを形成し得るセラミックの層を含む第一マトリクス相とを加えた全体の厚みは、繊維の予備形状体を補強するために、すなわち、支持工具の補助なしでその形状を保ちつつ、予備形状体を扱えるように十分に予備形状体の繊維を接合するために、十分であるように定められている。この全体の厚みは、好ましくは少なくとも500nmである。予備形状体を補強した後で、予備形状体は多孔質のままである。なぜなら、例えば、最初から存在する孔のうち少ない割合の孔のみに中間相及びマトリクス相が充填されているからである。
【0038】
PyC、BC、B
4C、Si−B−C、又はSiCは、良く知られた態様で、CVIによって付着させることができる。特に、文献US 5 246 736、US 5 965 266、及びUS 6 068 930を参照することができる。
【0039】
繊維の構造体の繊維に中間相を形成するステップは、中間相が、繊維の構造体の変形に関する望ましい性能に影響を与えない十分な薄さになるように、構造体が成形される前にCVIによってなされてもよいことに留意すべきである。
【0040】
部分的に密度が高められ、補強され、多孔質のままである予備形状体は、その成形設備から取り出され、固体フィラーの導入及び溶融金属の浸潤を備えたMIタイプのプロセスを用いてさらに予備形状体の密度が高められる。
【0041】
補強された予備形状体に、炭素及び/又はセラミックの粉を含む液体組成物を含浸させる(ステップ60)。
【0042】
含浸させる組成物は、水などの液体のビヒクルに懸濁している粉を含む泥漿であってもよい。粉は、ろ過(filtration)又は場合によっては補助的な吸着を伴う沈着(decantation)によって予備形状体に留められてもよい。粉は、炭素及び/又はセラミック、特には、炭化物、窒化物、又はケイ化物によって構成され、例えば炭化ケイ素SiCによって構成されている。5μm未満の平均サイズを有する粒子でできた粉を用いることが好ましい。
【0043】
補強された予備形状体を乾燥(ステップ70)させた後、炭素及び/又はセラミックの粉がその孔に分散している補強された予備形状体が得られる。
【0044】
補強された予備形状体には、カーボン樹脂系の有機樹脂、又は、例えば、場合によっては溶媒に添加されているオルガノシリケート樹脂であるセラミックの前駆物質である樹脂に分散された、炭素及び/又はセラミックの粉を含む液体組成物を含浸させることもできる。含浸は、インフュージョン(infusion)、インジェクション(injection)、又はレジントランスファモールディング(RTM)などの既知の方法を用いてなされてもよい。樹脂が重合された後で、熱分解性の熱処理がなされ、樹脂が炭素又はセラミックの残留物に変化する。
【0045】
溶融シリコンSi又は主成分としての溶融シリコンを、場合によってはホウ素B、チタンT、及びモリブデンMoから選択される追加的な元素とともに含む液体組成物を浸潤させることによってさらに密度が高められる(ステップ80)。浸潤は、非酸化性雰囲気でなされ、好ましくは減圧下でなされる。
【0046】
予め導入された粉が炭素でできており、かつ、炭素の残留物の存在が補強された予備形状体に含浸させるために用いられた樹脂によるものである場合、シリコンがこれらと反応して炭化ケイ素SiCが形成される。予め導入された粉が、特に炭化物、窒化物、ケイ化物であるセラミックの粉であり、かつ、補強された予備形状体に含浸させるために用いられた樹脂の、セラミックの残留物が存在する場合に、セラミックの粉と結合しているシリコンで部分的にできているマトリクスが得られる。いずれの場合でも、最終的に得られる全体のマトリクスは、少なくとも一部がセラミックでできており、好ましくは大部分がセラミックでできている。
【0047】
得られる部品は、既知の態様の耐環境コーティング、すなわちEBC("Environmental Barrier Coating")を備えてもよい(ステップ90)。EBCの組成物としては、特には、バリウム・ストロンチウムアルミニウムシリケート(BSAS)などのアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素のアルミノシリケートの層を備えた組成物が良く知られている。とりわけ、次の文献:US 2009/169873、US 2010/003504、及びWO 2010/072978を参照することができる。
【0048】
図2を参照しつつ、本発明の方法に係る別の実施形態を以下に説明する。
【0049】
図2の方法は、特に、繊維の予備形状体を補強する方法によって、
図1の方法と異なっている。
【0050】
ステップ110の繊維の構造体を作るステップ及びステップ120の繊維の構造体を処理するステップは、繊維がセラミック繊維である場合、
図1の方法のステップ10及びステップ20に類似している。
【0051】
ステップ120の後、かつ、繊維の構造体を成形する前に、PyC又はBCの第一の中間相の層をCVIを用いて形成するステップ125が行われる。PyC又はBCの中間相の厚さは、繊維の構造体の変形に関する性能に影響を及ぼすことを避けるために十分に薄くなるように定められている。すなわち、その厚さは、例えば、300nm以下である。
【0052】
その後、液体法によって補強が行われる。この目的のために、中間相の被膜であるPyC又はBCの層を備えた繊維の構造体に、炭素又はセラミックの前駆物質を含む液体の組成物を含浸させる(ステップ130)。繊維の構造体は設備において成形され(ステップ135)、所望の形状の予備形状体が得られる。炭素又はセラミックの前駆物質は、場合によっては溶媒中で希釈されている、樹脂の形態であってもよい。溶媒が除去された後、樹脂の重合、熱処理が行われ(ステップ140)、熱分解による残留物の粒(de grains de residus de pyrolyse)の形態の炭素又はセラミックの補強固体相が得られる。繊維の構造体は、少なくとも樹脂が重合するまでは成形設備に保持される。例えば、炭素の前駆物質である樹脂はエポキシ樹脂、フラン樹脂、又はフェノール樹脂であってもよく、一方、セラミックの前駆物質である樹脂はポリシラン、ポリシロキサン、ポリシラザン、又はシリコーン樹脂であってもよい。
【0053】
繊維の構造体が設備において成形された後で、繊維の構造体に補強用の液体組成物を十分に均等に含浸させてもよく、含浸は、インフュージョン、インジェクション、又はRTMタイプのプロセスによって行われる。
【0054】
その後、第一の中間相の層及び補強用の樹脂の熱分解による残留物の不連続な粒を覆う、PyC又はBCである第二の中間相の層を形成(ステップ145)することによって、中間相の形成が続けられる。第二の中間相の層の厚みは少なくとも100nmであってもよい。液体法を用いた補強ステップによって分離されている2つのステップで中間相の層を形成するステップは、文献US 2010/015428に説明されている。
【0055】
その後、CVIによって第一マトリクス相が形成される(ステップ150)。ステップ150は、
図1の方法のステップ50に類似している。上記の通り、第一マトリクス相はCVIによって得られたPyC又はBCの一つ以上の層と交互に重なっている、CVIによって得られた自己修復性の材料の複数の層によって形成されている。上記の通り、第一マトリクス相の自己修復性の材料の外側の層は、例えばSiC又はSi
3N
4である、ホウ素を含まないセラミック材料でできた反応バリア形成層に覆われていてもよい。自己修復性の材料の複数の層及びPyC又はBCの層の全体の厚みは、数百ナノメートルであり、好ましくは、500nm以上であり、例えば、1μm〜30μmの範囲に収まっている。場合によっては反応バリアを形成するセラミックの層の厚みは、好ましくは数百ナノメートルであり、例えば500nm以上であり、典型的には1マイクロメートル〜数マイクロメートルの範囲に収まる。
【0056】
以下のステップ;炭素又はセラミックの前駆物質である樹脂に分散された炭素又はセラミックの粉を含む水性の泥漿又は液体組成物を含浸させるステップ(ステップ160)、乾燥させるステップ(ステップ170)、溶融シリコン又は溶融シリコンを主成分とする液体組成物を浸潤させるステップ(ステップ180)、及びEBCを選択的に形成するステップ(ステップ190)は、
図1の方法のステップ60、ステップ70、ステップ80、及びステップ90に類似している。