(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1記載の強磁性窒化鉄粒子粉末の製造方法において、還元工程における還元剤として金属ハイドライド、金属ハライド、金属ボロハイドライドから選ばれる少なくとも1種以上の化合物を用いるとともに、窒化工程の窒素源として窒素含有化合物を用いる強磁性窒化鉄粒子粉末の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る強磁性窒化鉄粒子粉末は、鉄化合物の還元及び窒化を同一工程にて行うことで、平均粒子長軸長が5〜150nmであって、主相が強磁性窒化鉄粒子粉末が得られる。
【0025】
まず、本発明に係る強磁性窒化鉄粒子粉末の製造に用いる鉄化合物について述べる。
【0026】
鉄化合物としては、α−FeOOH、β−FeOOH、γ−FeOOH、α−Fe
2O
3、β−Fe
2O
3、Fe
3O
4、γ−Fe
2O
3、シュウ酸鉄、酢酸鉄、硝酸鉄、ステアリン酸鉄、オレイン酸鉄など特に限定されない。また、異種類で使用してもよく、二種類以上を合わせて使用してもよい。二種類以上を用いる場合の各化合物の比率は特に限定されない。形状は特に限定されないが、針状、紡錘状、米粒状、球状、粒状、六面体状、八面体状などいずれでもよい。
【0027】
オキシ水酸化鉄を用いる場合は、必要により、脱水処理を行う場合、脱水処理の温度は80〜350℃が好ましい。80℃未満では脱水はほとんど進行しない。350℃を超える場合、次の還元処理において、低温で金属鉄粒子粉末を得ることが難しくなる。より好ましい脱水処理温度は85〜300℃である。
【0028】
本発明における還元剤は、金属ハイドライド、金属ハライド、金属ボロハイドライドから選ばれる少なくとも1種以上の化合物と鉄化合物とを混合し、熱処理することで得られる。これら還元剤の具体的な例としては、ジメチルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライド、カルシウムハイドライド、マグネシウムハイドライド、ナトリウムハイドライド、カリウムハイドライド、リチウムハイドライド、チタンハイドライド、ジルコニウムハイドライドなどの金属ハイドライド、マグネシウムボロハイドライド、ナトリウムボロハイドライドなどの金属ハライド、又は、イソプロピルマグネシウムハライド、ガリウムハライド、インジウムハライド、スズハライド、亜鉛ハライド、カドニウムハライド、銅ハライド、ニッケルハライド、マンガンハライド、ナトリウムアルミニウムハイドライドなどの金属ボロハイドライドが挙げられる。これら還元剤は一種類で使用してもよく、また二種類以上を合わせて使用してもよい。二種類以上の還元剤を使用する際の比率は特に限定されない。
【0029】
還元剤は粉末として、鉄化合物及び窒素含有化合物と乾式混合されている状態がよく、予め乳鉢などで鉄化合物、窒素含有化合物及び還元剤を粉砕・混合することが好ましい。
【0030】
また、特に還元剤に水成分が含まれている場合や水分の吸着が激しい場合には、予め乾燥やプレ熱処理することが好ましい。
【0031】
鉄化合物と還元剤との混合比率は特に限定されないが、鉄化合物に対する重量比で0.5〜50、好ましくは、0.8〜30である。
【0032】
本発明における強磁性窒化鉄粒子粉末を得るために用いる窒素含有化合物は、尿素、アンモニア水、塩化アンモニウム、硝酸、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、ピペラジン、アニリン、ナトリウムアミド、リチウムジイソプロピルアミド、カリウムアミドなどの固体又は液体であり、特に限定されない。これら窒素含有化合物は一種類で使用してもよく、また二種類以上を合わせて使用してもよい。二種類以上の窒素含有化合物を使用する際の比率は特に限定されない。これらの窒素含有化合物において好ましいのは無機金属アミド化合物、有機アミン化合物であり、特に好ましいのは無機金属アミド化合物である。
【0033】
鉄化合物と窒素含有化合物との混合比率は特に限定されないが、鉄化合物に対する重量比で0.5〜50、好ましくは、0.8〜30である。
【0034】
還元剤の純度は特に限定されない。還元剤の有効性とコストを考え合わせると、例えば、50〜99.9%、好ましくは60〜99%である。
【0035】
本発明に係る強磁性窒化鉄粒子粉末を得るための鉄化合物は、シリカによって被覆されていてもよい。シリカ被覆厚は20nm以下である。好ましくは、17nm以下である。
【0036】
大気中もしくはグローブボックス等の雰囲気・湿度・温度調整ができる設備にて、鉄化合物、還元剤、及び窒素含有化合物を秤量後、乳鉢等にて粉砕・混合することが望ましい。
【0037】
本発明に係る強磁性窒化鉄粒子粉末は、鉄化合物に対し還元及び窒化を同一工程において行い、洗浄する工程を経ることで得られる。
【0038】
鉄化合物、還元剤及び窒素含有化合物の熱処理方法としては、静置式、流動式のどちらでもよく、密閉容器内で行うことが好ましい。研究室レベルであれば例えばガラス管に鉄化合物、還元剤及び窒素含有化合物の混合物を封入させる手法が考えられる。また、パイロットスケールであれば、金属管に鉄化合物、還元剤及び窒素含有化合物の混合物を封入させ流動させながら熱処理する方法もある。
【0039】
鉄化合物、還元剤及び窒素含有化合物の混合物の熱処理温度は50〜280℃である。熱処理温度は還元剤の種類や添加量、鉄化合物が個々に持つ還元温度によって決めればよく、好ましくは80〜275℃、より好ましくは100℃〜250℃である。温度が高すぎるとFe
4Nなどの別の相と混在するようになる。また、熱処理の時間は、好ましくは0.5h〜7day、より好ましくは、1h〜3dayである。
【0040】
熱処理は連続炉やRF高周波炉など適宜選べばよい。
【0041】
洗浄は特に限定されないが、脱水したエタノールやメタノールなどを用いるとよい。洗浄溶媒量は特に限定されないが、強磁性窒化鉄粒子粉末1gに対して100ml以上使用すればよい。洗浄方法は特に限定されないが、ヌッチェ、プレスフィルター、ガラスフィルター、遠心分離器を利用した洗浄法などを利用すればよい。乾燥は、自然乾燥、真空乾燥、(真空)凍結乾燥、エバポレータなど適宜利用すればよい。
【0042】
本発明の製造方法によって得られた強磁性窒化鉄粒子粉末について述べる。
【0043】
本発明によって得られる強磁性窒化鉄粒子粉末は、平均粒子長軸長が5〜150nmであり、主相が強磁性窒化鉄である。平均粒子長軸長が5nm未満の強磁性窒化鉄粒子粉末では粒子表面界面に接する原子が多く存在するため、強磁性窒化鉄粒子粉末としても、大きな磁化は期待できない。150nmを超えると窒化が進みにくく、金属鉄やFe
4Nなどが混在するようになる。好ましくは、5〜140nm、より好ましくは、6〜135nmである。
【0044】
本発明によって得られる強磁性窒化鉄粒子粉末の形状は特に限定されないが、針状、紡錘状、米粒状、球状いずれでもよい。ここで、平均長軸長とは、一次粒子の形状に由来する長手側の長さを表し、球状では直径を意味する。必要な平均長軸長はその用途によって適宜選択することができる。
【0045】
本発明で得られた強磁性窒化鉄粒子粉末は、メスバウアースペクトルデータよりFe
16N
2化合物相が80%以上で構成されることが好ましい。メスバウア−では、Fe
16N
2が生成される場合、内部磁場が330kOe以上の鉄サイトのピ−クが確認され、特に特徴的なのは、395kOe近傍のピ−クが現れることである。
一般には他相が多いと、ソフト磁石としての特性が強く表れてしまうために、強磁性ハード磁石材料としては不向きとなる。しかしながら、本発明では、強磁性ハード磁石材料として十分な特性を発揮できる。
【0046】
強磁性窒化鉄粒子粉末は、粒子コアはFe
16N
2であり粒子外殻にFeOが存在するものであり、粒子のコアより外殻に向けFe
16N
2/FeOというシンプルな構造から構成されることが好ましい。Fe
16N
2とFeOはトポタクティックに接合しており、結晶学的に連続していることが好ましい。この外殻の酸化膜にはFe
3O
4やFe
2O
3、α−Feが含まれていてもよい。Fe
16N
2粒子が低純度であるとこれらの不純物が含まれることもあるが、高純度化によりFeOのみとなる。FeO膜厚は5nm以下であり、好ましくは4nm以下である。Fe
16N
2の高純度化に伴い、このFeO膜厚は薄くなる。FeO膜厚は、特に限定されないが、薄ければ薄いほど粒子に含まれるFe
16N
2体積分率が向上するため望ましい。FeO膜厚の下限値は特に限定されないが0.5nm程度である。
【0047】
本発明で得られた強磁性窒化鉄粒子粉末表面のFeOの体積分率は、FeO体積/粒子全体体積において、25%以下であることが好ましい。Fe
16N
2を高純度化することでFeOの体積分率は減少する。より好ましいFeOの体積分率は23%以下であり、更に好ましくは3〜20%である。
【0048】
本発明で得られた強磁性窒化鉄粒子粉末は、保磁力H
Cが1.5kOe以上、5Kでの飽和磁化σ
Sは150emu/g以上であることが好ましい。飽和磁化値σ
s及び保磁力H
cが前記範囲未満の場合、硬磁性材料として磁気特性が十分とは言い難い。より好ましくは保磁力H
cが1.6kOe以上、飽和磁化値σ
sが180emu/g以上である。
【0049】
本発明で得られた強磁性窒化鉄粒子粉末は、格子定数より求められる窒化率が8〜13mol%であることが好ましい。Fe
16N
2という化学組成式より求められる11.1mol%が最適である。より好ましい窒化率は8.5〜12.5mol%、更により好ましくは9.0〜12mol%である。
【0050】
本発明で得られた強磁性窒化鉄粒子粉末のBET比表面積は5.0〜40m
2/gであることが好ましい。BET比表面積が5m
2/g未満では窒化率が低くなり、結果としてFe
16N
2の生成率が低下し、所望の保磁力や飽和磁化が得られない。40m
2/gを超えると、所望とする飽和磁化値が得られない。より好ましいBET比表面積は5.5〜38m
2/g、更により好ましくは6.0〜35m
2/gである。
【0051】
次に、本発明に係る異方性磁石について述べる。
【0052】
本発明に係る異方性磁石の磁気特性は目的とする用途に応じて所望の磁気特性(保磁力、残留磁束密度、最大エネルギ−積)となるように調整すればよい。
【0053】
磁気的な配向をさせる方法は特に限定されない。例えばガラス転移温度以上温度においてEVA(エチレン−酢酸ビニル共重合)樹脂にメスバウア−スペクトルよりFe
16N
2化合物相が80%以上で構成される強磁性窒化鉄粒子粉末を分散剤などとともに混練して成形し、ガラス転移温度を超えた付近の温度で所望の外部磁場をかけて、磁気的配向を促せばよい。または、ウレタン等の樹脂と有機溶剤と該強磁性窒化鉄粒子粉末をペイントシェ−カ−などで強く混合・粉砕したインクをブレ−ドやRoll−to−Roll法によって樹脂フィルムに塗布印刷し、素早く磁場中を通して、磁気的な配向をさせればよい。また、RIP(Resin Isostatic Pressing)を用いて、より高密度に、且つ、結晶磁気異方性を最大限に活かした磁気配向を行ってもよい。強磁性窒化鉄粒子粉末に予めシリカやアルミナ、ジルコニア、酸化錫、酸化アンチモンなどの絶縁被覆を行ってもよい。絶縁被覆の方法は特に限定されることなく、溶液中で粒子表面電位を制御することで吸着させる方法や、CVDなどで蒸着してもよい。
【0054】
次に、本発明におけるボンド磁石用樹脂組成物について述べる。
【0055】
本発明におけるボンド磁石用樹脂組成物は、本発明に係る強磁性窒化鉄粒子粉末を結合剤樹脂中に分散してなるものであって、該強磁性窒化鉄粒子粉末を85〜99重量%含有し、残部が結合剤樹脂とその他添加剤とからなる。
【0056】
強磁性窒化鉄粒子粉末に予めシリカやアルミナ、ジルコニア、酸化錫、酸化アンチモンなどの絶縁被覆を行ってもよい。絶縁被覆の方法は特に限定されることなく、溶液中で粒子表面電位を制御することで吸着させる方法や、CVDなどで蒸着してもよい。
【0057】
前記結合剤樹脂としては、成形法によって種々選択することができ、射出成形、押し出し成形及びカレンダ−成形の場合には熱可塑性樹脂が使用でき、圧縮成形の場合には、熱硬化性樹脂が使用できる。前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ナイロン(PA)系、ポリプロピレン(PP)系、エチレンビニルアセテ−ト(EVA)系、ポリフェニレンサルファイド(PPS)系、液晶樹脂(LCP)系、エラストマ−系、ゴム系等の樹脂が使用でき、前記熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ系、フェノ−ル系等の樹脂を使用することができる。
【0058】
なお、ボンド磁石用樹脂組成物を製造するに際して、成形を容易にしたり、磁気特性を十分に引き出したりするために、必要により、結合剤樹脂の他に可塑剤、滑剤、カップリング剤など周知の添加物を使用してもよい。また、フェライト磁石粉末などの他種の磁石粉末を混合することもできる。
【0059】
これらの添加物は、目的に応じて適切なものを選択すればよく、可塑剤としては、それぞれの使用樹脂に応じた市販品を使用することができ、その合計量は使用する結合剤樹脂に対して0.01〜5.0重量%程度が使用できる。
【0060】
前記滑剤としては、ステアリン酸とその誘導体、無機滑剤、オイル系等が使用でき、ボンド磁石全体に対して0.01〜1.0重量%程度が使用できる。
【0061】
前記カップリング剤としては、使用樹脂とフィラ−に応じた市販品が使用でき、使用する結合剤樹脂に対して0.01〜3.0重量%程度が使用できる。
【0062】
本発明におけるボンド磁石用樹脂組成物は、強磁性窒化鉄粒子粉末を結合剤樹脂と混合、混練してボンド磁石用樹脂組成物を得る。
【0063】
前記混合は、ヘンシェルミキサ−、V字ミキサ−、ナウタ−等の混合機などで行うことができ、混練は一軸混練機、二軸混練機、臼型混練機、押し出し混練機などで行うことができる。
【0064】
次に、本発明に係るボンド磁石について述べる。
【0065】
ボンド磁石の磁気特性は目的とする用途に応じて所望の磁気特性(保磁力、残留磁束密度、最大エネルギ−積)となるように調整すればよい。
【0066】
本発明におけるボンド磁石は、前記ボンド磁石用樹脂組成物を用いて、射出成形、押出成形、圧縮成形又はカレンダ−成形等の周知の成形法で成形加工した後、常法に従って電磁石着磁やパルス着磁することにより、ボンド磁石とすることができる。
【0067】
次に、本発明における焼結磁石について述べる。
【0068】
本発明における焼結磁石は、強磁性窒化鉄粒子粉末を圧縮成形及び熱処理すればよい。磁場や圧縮成形の条件は、特に限定されず、作製する圧粉磁石の要求値になるよう調整すればよい。例えば、磁場は1〜15T、圧縮成形圧力は1.5〜15ton/cm
2が挙げられる。成形機器は特に限定されないが、CIPやRIPを用いてもよい。成形体の形状や大きさは用途に合わせて選択すればよい。
【0069】
強磁性窒化鉄粒子粉末に予めシリカやアルミナ、ジルコニア、酸化錫、酸化アンチモンなどの絶縁被覆を行ってもよい。絶縁被覆の方法は特に限定されることなく、溶液中で粒子表面電位を制御することで吸着させる方法や、CVDなどで蒸着してもよい。
【0070】
滑剤としては、ステアリン酸とその誘導体、無機滑剤、オイル系等が使用でき、ボンド磁石全体に対して0.01〜1.0重量%程度を使用してもよい。
【0071】
結着剤としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、PPS、液晶ポリマー、PEEK、ポリイミド、ポリエ−テルイミド、ポリアセタール、ポリエ−テルサルホン、ポリサルホン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンオキサイド、ポリフタールアミド、ポリアミド等の熱可塑性樹脂あるいはこれらの混合物をボンド磁石全体に対して0.01〜5.0重量%程度を使用してよい。
【0072】
熱処理は連続炉やRF高周波炉など適宜選べばよい。熱処理条件は特に限定されない。
【0073】
次に、本発明に係る圧粉磁石について述べる。
【0074】
本発明に係る圧粉磁石は、得られた強磁性窒化鉄粒子粉末を磁場中で圧縮成形すればよい。磁場や圧縮成形の条件は、特に限定されず、作製する圧粉磁石の要求値になるよう調整すればよい。例えば、磁場は1.0〜15T、圧縮成形圧力は1.5〜15ton/cm
2が挙げられる。成形機器は特に限定されないが、CIPやRIPを用いてもよい。成形体の形状や大きさは用途に合わせて選択すればよい。
【0075】
強磁性窒化鉄粒子粉末に予めシリカやアルミナ、ジルコニア、酸化錫、酸化アンチモンなどの絶縁被覆を行ってもよい。絶縁被覆の方法は特に限定されることなく、溶液中で粒子表面電位を制御することで吸着させる方法や、CVDなどで蒸着してもよい。
【0076】
滑剤としては、ステアリン酸とその誘導体、無機滑剤、オイル系等が使用でき、ボンド磁石全体に対して0.01〜1.0重量%程度を使用してもよい。
【0077】
結着剤としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、PPS、液晶ポリマー、PEEK、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、ポリエ−テルサルホン、ポリサルホン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンオキサイド、ポリフタールアミド、ポリアミド等の熱可塑性樹脂あるいはこれらの混合物をボンド磁石全体に対して0.01〜5.0重量%程度を使用してよい。
【0078】
熱処理は連続炉やRF高周波炉など適宜選べばよい。熱処理条件は特に限定されない。
【実施例】
【0079】
本発明の代表的な実施の形態は次の通りである。
【0080】
試料の比表面積値は、窒素によるB.E.T.法により測定した。
【0081】
鉄化合物、金属鉄、強磁性窒化鉄粒子のサイズは透過型電子顕微鏡(日本電子(株)、JEM−1200EXII)を用いて測定した。粒子120個をランダマイズに選び粒子サイズを計測して平均値を求めた。
【0082】
出発原料及び得られた強磁性窒化鉄粒子粉末の構成相は、粉末X線回折装置(XRD、(株)BRUKER製、D8 ADVANCE)による同定と、透過型電子顕微鏡(日本電子(株)、JEM−2000EX)、電子線分光型超高分解能電子顕微鏡(HREM、日立ハイテク、HF−2000)を用いた電子線回折(ED)を行い決定した。XRD測定は、グローブボックス中で強磁性窒化鉄粒子粉末をシリコングリースに混ぜた試料の測定を行った。
【0083】
得られた強磁性窒化鉄粒子粉末の磁気特性は、物理特性測定システム(PPMS+VSM、日本カンタム・デザイン(株))を用いて室温(300K)にて、0〜9Tの磁場中で測定した。別に5K〜300Kまでの磁化率の温度依存性の評価も行った。
【0084】
実施例1
<金属鉄粒子の生成>
空冷式還流管と温度計を装着した無色透明のガラス製3口セパラブルフラスコ(100mL)にジオクチルエーテル(Aldrich製試薬)25mL及びオレイルアミン(Aldrich製試薬)8mmolを入れた。ジオクチルエーテル及びオレイルアミンは事前に室温から50℃でロータリーポンプを用いて真空引きを1時間行ったものを用いた。
【0085】
別途、鉄ペンタカルボニル(関東化学株式会社製試薬)2mmolをフラスコ内の溶液の一部(ジオクチルエーテル+オレイルアミン)2mLに溶解した原料溶液を調製した。マントルヒーターによりアルゴンガスをバブリングしたフラスコ内の溶液を200℃に加熱し、この原料溶液を、注射器で一気に注入した。注入直後に5nmの球状金属鉄粒子が生成した。原料溶液注入後、更に加熱して30分還流した(反応液の温度289℃)後に熱源を除去し室温まで放冷し、酸素/アルゴン=0.5:99.5vol%混合ガスを1hバブリングさせ、金属鉄の粒子表面0.8nmを酸化させた。
【0086】
得られた試料粒子生成液(10mL)に脱水エタノール(和光純薬工業株式会社製試薬)30mLを加えて黒色の不溶物を生じさせた後、遠心分離を行い、更に上澄み液をデカンテーションにより除去した。
【0087】
なお、以上の操作はすべて、酸素及び水分がいずれも10ppm以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
【0088】
<シリカ被覆>
続いて、得られた試料粉末90mgに対して、Igepal CO−520(Aldrich社製)3.65g、シクロヘキサン(和光純薬工業株式会社製試薬)48.75g、28%アンモニア水(和光純薬工業株式会社製試薬)0.38ml、テトラエトキシシラン(ナカライテスク株式会社製試薬)0.4gをそれぞれ秤量した。まず、4口セパラブルフラスコにシクロヘキサンを入れ、続けて、5nmの試料粉末、Igepal CO−520を投入し、フッ素樹脂製撹拌翼にて160rpmの撹拌を開始した。温度は室温のまま、0.5h撹拌し続けた。次いで、これにテトラエトキシシランを投入した後、28%アンモニア水を投入した。撹拌した状態で18h保持した。
【0089】
得られた試料は、平均粒子長軸長(=直径)が5nmの鉄化合物粒子表面にシリカ層が6nmほぼ均一に被覆されていた。
【0090】
<強磁性窒化鉄粒子粉末の調製>
上記で得られたシリカ被覆鉄化合物粒子を遠心分離器にて取り出し、エバポレータで乾燥させた粉末を空気中に取り出し、この粉末0.8gと塩化アンモニウム(和光純薬工業株式会社製試薬)2.5g、ナトリウムアミド(ナカライテスク株式会社製試薬)2.5gを、グルーブボックス中でめのう乳鉢にて軽く混合し、ガラス管に真空封入した。続いて、電気炉にこれを入れ、130℃にて48hの熱処理を行い、急冷して取り出した。再びグローブボックスに入れ、ガラス管より試料を取り出して、メタノール洗浄・遠心分離器での処理を十分行い不純物を除去した。
【0091】
<得られた試料の分析・評価>
得られた試料はXRDより強磁性窒化鉄Fe
16N
2単相であった。強磁性窒化鉄粒子の平均粒子長軸長(=直径)は4nmであり、シリカ被覆厚は6nmであった。また、強磁性窒化鉄部分の5Kでの飽和磁化は磁場14.5kOeにて216emu/gであった。
【0092】
実施例2
<金属鉄の調整>
撹拌子で撹拌している180℃のオレイルアミン(金属鉄重量比10倍)を添加したケロシン溶媒 50mlに、ペンタカルボニル鉄ガスを30ml/minにて10分間流入させ、1h保持することで、平均粒子長軸長(=直径)9.7nmの球状金属鉄粒子を得た。これをグローブボックス中で遠心分離後、メタノール洗浄して金属鉄のペーストを得た。
【0093】
<シリカ被覆>
次に、脱水したシクロヘキサン(和光純薬工業株式会社製試薬)48.75g、テトラエトキシシラン(和光純薬工業株式会社製試薬)0.4gの溶媒に、この金属鉄固形分15mg相当のペースト、Igepal CO−520(Aldrich製試薬)3.65gを入れ、よくかき混ぜた。続いて、0.525mlの28wt%アンモニア水(和光純薬工業株式会社製試薬)を添加し、室温にて28hスターラー撹拌を行った。その後、空気中で遠心分離後、メタノール洗浄した。得られた試料は平均粒子長軸長(=直径)9.7nmのγ−Fe
2O
3であり、シリカ被覆厚は13nmであった。
【0094】
<強磁性窒化鉄粒子粉末の調整>
上記の試料粉末0.8gと塩化アンモニウム(和光純薬工業株式会社製試薬)2.5g、ナトリウムアミド(ナカライテスク製試薬)2.5gを、グルーブボックス中でめのう乳鉢にて軽く混合し、ガラス管に真空封入した。続いて、電気炉にこれを入れ、130℃にて48hの熱処理を行い、急冷して取り出した。再びグローブボックスに入れ、ガラス管より試料を取り出して、メタノール洗浄・遠心分離器での処理を十分行い不純物を除去した。
【0095】
<得られた試料の分析・評価>
得られた試料はXRDより強磁性窒化鉄Fe
16N
2単相であった。強磁性窒化鉄粒子の平均粒子長軸長(=直径)は8.4nmであり、シリカ被覆厚は13nmであった。また、強磁性窒化鉄部分の5Kでの飽和磁化は磁場14.5kOeにて221emu/gであった。
【0096】
実施例3
<金属鉄の調整>
四ツ口セパラブルフラスコにアルゴンガスを500ml/minにて流通させながら、エチレングリコール(和光純薬工業株式会社製試薬)0.25L、粒状苛性ソーダ(ナカライテスク株式会社製試薬)7.2g、オレイルアミン(和光純薬工業株式会社製試薬)0.67g、鉄アセチルアセトナト(Aldrich製試薬)6.39g、白金アセチルアセトナト(和光純薬工業株式会社製試薬)0.15gを入れ、撹拌しながら125℃まで昇温した。1h保持した後、185℃まで昇温して、2.5h保持した。その後、室温まで冷却した。分液ロートに脱水ヘキサン(和光純薬工業株式会社製試薬)250mlを用意して、これに反応させた試料を移した。外部より超音波をあてながらよく振ることで、生成したナノ粒子がエチレングリコールからヘキサン溶媒に移るようにした。ナノ粒子の移ったヘキサンを50mlのビーカーに移し、ドラフト内で自然乾燥した。得られたナノ粒子粉末はγ−Fe
2O
3であり、平均粒子長軸長(=直径)16nmのほぼ球状粒子であった。
【0097】
<強磁性窒化鉄粒子粉末の調整>
次にこのγ−Fe
2O
3 0.5gとカルシウムハイドライド(和光純薬工業株式会社製試薬)8.5gを軽く混合し、さらに塩化アンモニウム(和光純薬工業株式会社製試薬)3g、ナトリウムアミド(ナカライテスク株式会社製試薬)0.3g、尿素(和光純薬工業株式会社製試薬)0.1gを、グローブボックス中でめのう乳鉢にて軽く混合し、ガラス管に真空封入した。続いて、電気炉にこれを入れ、128℃にて40hの熱処理を行い、急冷して取り出した。再びグローブボックスに入れ、ガラス管より試料を取り出して、メタノール洗浄・遠心分離器での処理を十分行い不純物を除去した。
【0098】
<得られた試料の分析・評価>
得られた試料はXRDより強磁性窒化鉄Fe
16N
2単相であった。強磁性窒化鉄粒子の平均粒子長軸長(=直径)は13nmであった。また、強磁性窒化鉄粒子粉末の5Kでの飽和磁化は磁場14.5kOeにて206emu/gであった。
【0099】
実施例4
塩化第二鉄6水塩(和光純薬工業株式会社製試薬)27.05gをビーカーに秤取り純水で500mlとした。これに尿素2.12gを加えて、室温で30min撹拌した。次にこの溶液を閉鎖系の圧力耐性容器に移して撹拌翼にて200rpmで撹拌子ながら85℃にて3.5h反応した。これをヌッチェで濾別分離し、試料1gに対して純水30ml相当の純水でよく洗浄した。得られた試料は、平均粒子長軸長130nmの針状アカガナイトであった。
【0100】
この鉄化合物粉末2gと塩化アンモニウム(和光純薬工業株式会社製試薬)5.0g、ナトリウムアミド(ナカライテスク株式会社製試薬)1.5gをグローブボックス中で軽く混合し、ガラス管に真空封入した。続いて、電気炉にこれを入れ、145℃にて18hの熱処理を行い、急冷して取り出した。再びグローブボックスに入れ、ガラス管より試料を取り出して、メタノール洗浄・遠心分離器での処理を十分行い不純物を除去した。
【0101】
得られた試料はXRDより強磁性窒化鉄Fe
16N
2単相であった。強磁性窒化鉄粒子の平均粒子長軸長は118nmであった。また、強磁性窒化鉄粒子粉末の5Kでの飽和磁化は磁場14.5kOeにて218emu/gであった。
【0102】
実施例5
酢酸鉄(II)(和光純薬製試薬)25mg、ナトリウムハイドライド(和光純薬製試薬)25mg、塩化アンモニウム(和光純薬製試薬)75mg、ナトリウムアミド(ナカライテスク株式会社製試薬)75mgをグローブボックス中でよく混合し、ガラス管に真空封入した。続いて、電気炉にこれを入れ、125℃にて20hの熱処理を行い、急冷して取り出した。再びグローブボックスに入れ、ガラス管より試料を取り出して、メタノール洗浄・遠心分離器での処理を十分行い不純物を除去した。
【0103】
得られた試料はXRDより強磁性窒化鉄Fe
16N
2主相、α−Feがわずかに確認された。強磁性窒化鉄粒子の平均粒子長軸長は12nmであった。また、強磁性窒化鉄粒子粉末の5Kでの飽和磁化は磁場14.5kOeにて196emu/gであった。
【0104】
比較例
塩化第一鉄4水塩180gを2Lの純水に溶解させて22℃とした。空気を10L/min流通させて10分後に11.16gの苛性ソーダを溶かした209mlの水溶液を20分かけてゆっくりと加え、pHは7.0であった。1時間後、pH6.7となった反応溶液の100mlを300mlガラスビーカーに移し、室温にて、撹拌子を300rpmで回転させ24h反応した。これをヌッチェで濾別分離し、試料5gに対して純水200ml相当の純水でよく洗浄した。
【0105】
得られた試料は、平均粒子長軸長2700nm、アスペクト比45.0、比表面積83.2m
2/gの針状レピドクロサイト粒子であった。120℃で1晩乾燥させ、続けて350℃で1hの熱処理を行った。瑪瑙乳鉢を用いたライカイ機で1h粉砕した。さらに振動篩で180μm以下の凝集粒子のみを抽出した。
【0106】
続いて、還元処理を水素気流中で260℃にて3h行った。さらにアンモニアガスと窒素ガスと水素ガスの混合比が9.5:0.45:0.05の混合ガスを全量で10L/min流しながら、148℃で9h窒化処理を行った。その後、アルゴンガスを流通させて室温まで降温し、アルゴンガス供給を止めて、窒素置換を3hかけて行った。次いで、直結しているグローブボックスに試料を取り出した。
【0107】
得られた粒子粉末はXRDよりFe
16N
2であった。強磁性窒化鉄粒子の平均粒子長軸長は2630nmであった。また、強磁性窒化鉄粒子粉末の5Kでの飽和磁化は磁場14.5kOeにて218emu/gであった。
【0108】
比較例では、還元工程及び窒化工程の合計時間(昇温時間、冷却時間を含む)が29.5時間であり、長時間を要するものであった。また、アンモニアガスを使用するものであり、流量の制御が困難であった。