(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6155663
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/68 20060101AFI20170626BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20170626BHJP
【FI】
A23L2/00 D
A23L2/00 F
【請求項の数】5
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-13808(P2013-13808)
(22)【出願日】2013年1月29日
(65)【公開番号】特開2013-176356(P2013-176356A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2016年1月8日
(31)【優先権主張番号】特願2012-17851(P2012-17851)
(32)【優先日】2012年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松土 貴一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】新井 寛子
【審査官】
福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】
韓国公開特許第10−2009−0082706(KR,A)
【文献】
特表2009−539405(JP,A)
【文献】
特開2004−242509(JP,A)
【文献】
特表2009−527252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
準粘性流動を示す増粘剤、タウリン、及び有機酸又は無機酸である酸味剤を含有し、前記酸味剤の濃度が0.2質量%〜2.0質量%であり、粘度が6.5〜20mPa・sである飲料組成物。
【請求項2】
酸味剤が、アジピン酸、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、及び塩酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の飲料組成物。
【請求項3】
準粘性流動を示す増粘剤が、キサンタンガム、グアーガム、カラギーナン及びジェランガ
ムからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の飲料組成物。
【請求項4】
酸味剤1質量部に対し、タウリン1.4質量部以上含有する請求項1記載の飲料組成物。
【請求項5】
酸味剤の濃度が0.2質量%〜2.0質量%である飲料に、準粘性流動を示す増粘剤及び
タウリンを配合し、かつ粘度を6.5〜20mPa・sに調整したことを特徴とする、酸味剤
のむせを抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸味剤、準粘性流動を示す増粘剤、タウリンを含有する飲料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
酸味は、食品、医薬品及び医薬部外品などの経口摂取又は口内利用可能な製品において塩味、苦味、甘味などとともに総合的な味覚の完成に重要な要素であり、上記製品に酸味剤などを添加することにより付与される場合がある(特許文献1)。
【0003】
酸味剤は、酸味を付与するだけでなく、防腐、保存、抗菌、凝固、緩衝作用、粘性調整、ゲル化の調整及び膨張剤としても有用であるため、単に味覚の構成にとどまらない。しかしながら、酸味剤はむせを誘発する成分として知られており、大量に配合すると、服用性を損なう恐れがある。
【0004】
そのような背景から、従来、粘度をゼリー状まで高くすることで、酸味を抑える等してむせの誘発を抑制する方法が広く行われている。 しかしながら、この方法では、飲料本来の風味又は物性を大きく変えてしまう(特許文献2)。そのため、低粘性の範囲で酸味によるむせを抑制する酸味剤配合技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−215793号公報
【特許文献2】特開2006-174830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、低粘性の範囲(20mPa・s以下)で酸味剤によるむせの誘発を抑制させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、酸味飲料に準粘性流動を示す増粘剤とタウリンを配合することにより、酸味剤によるむせの誘発を抑制することができ、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は
(1)準粘性流動を示す増粘剤、及びタウリンを含有し、酸味剤の濃度が0.2質量%〜2.0質量%であり、粘度が6.5〜20mPa・sである飲料組成物、
(2)準粘性流動を示す増粘剤がキサンタンガム、グアーガム、カラギーナン及びジェランガムからなる群から選ばれる少なくとも1種である(1)に記載の飲料組成物、
(3)酸味剤1質量部に対し、タウリン1.4質量部以上含有する(1)記載の飲料組成物、
(4)酸味剤の濃度が0.2質量%〜2.0質量%である飲料に、準粘性流動を示す増粘剤及びタウリンを配合し、かつ粘度を6.5〜20mPa・sに調整したことを特徴とする、酸味剤のむせを抑制する方法、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、酸味飲料のむせの誘発を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の酸味剤とは、飲料に酸味を付け、酸の強さを調整し、あるいはpH調整を目的として使用されるものであれば特に限定されず、例えば、アジピン酸、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸のような有機酸、リン酸、塩酸などの無機酸等が挙げられる。このうち、特に好ましい酸味剤としてはクエン酸又はリンゴ酸である。酸味剤の含有量は飲料組成物中、0.2質量%〜2.0質量%が好ましく、0.5質量%〜1.0質量%がさらに好ましい。2質量%を超えるとむせの抑制効果が充分でない場合があり、また0.2質量%未満であるとむせを誘発しないからである。
【0011】
本発明のタウリンとは、化学名が2‐アミノエチルスルホン酸で表される化合物であり、その作用は、肝細胞賦活と胆汁酸分泌促進の両面から肝機能を改善し、また、心筋におけるCa
2+動態を調節し、心機能の賦活・改善を行うものである。タウリンの配合量は飲料組成物中、0.4質量%〜4.0質量%が好ましく、1.0質量%〜3.0質量%がさらに好ましく、2.0質量%〜3.0質量%が最も好ましい。本発明の飲料組成物において、酸味剤とタウリンの配合比は、酸味剤1質量部に対して1.4質量部以上が好ましく、2質量部以上がさらに好ましい。1.4質量部未満であると、むせの抑制効果が充分でないことがあるからである。
【0012】
本発明における準粘性流動とは、ずり速度の増加に伴いみかけの粘度が減少する流動特性のことを指す。キサンタンガムやグアーガム、カラギーナン、ジェランガム、トラガント、アルギン酸ナトリウム、メチルセルロースなどの水溶液は準粘性流動を示す。これらの系において、攪拌などによるせん断力が増加するにつれ、みかけの粘度が減少する。
本発明の準粘性流動を示す増粘剤のうち、好ましいのはキサンタンガム、グアーガム、カラギーナン、ジェランガムであり、特に好ましいのはキサンタンガム又はグアーガムである。
【0013】
本発明の準粘性流動を示す増粘剤の含有量は飲料組成物中、0.25質量%〜1.0質量%が好ましく、0.3質量%〜0.5質量%がさらに好ましい。本発明の飲料組成物において、酸味剤と準粘性流動を示す増粘剤の配合比は、酸味剤1質量部に対して0.15質量部以上が好ましい。0.15質量部未満であると、酸味剤によるむせの抑制効果が充分でないことがあるからである。
【0014】
本発明の飲料組成物の粘度は、6.5〜20mPa・sが好ましい。粘度の調整は、本発明の準粘性流動を示す増粘剤を配合して調整するが、準粘性流動を示す増粘剤以外の増粘剤(例えば、ペクチン、ポビドン、デンプン等)の配合を妨げるものではない。本発明の飲料組成物は、特定の粘度にすることにより、本発明の準粘性流動を示す増粘剤とタウリンを含有させることと併せて、食したときにむせを抑制することができる。これに対し、前記範囲より粘度が低い場合には、酸味剤のむせの誘発を抑制する効果が得られない。一方、前記範囲より粘度が高い場合には、本発明の飲料組成物の物性を大きく変えてしまい、好ましくないものとなる。
【0015】
本発明の飲料の好ましいpHは2.0以上である。pHが2.0未満であると酸味が強すぎて服用性の点で好ましくないからである。
【0016】
本発明における「飲料」とは、内服することができる液体であれば特に制限はないが、好ましくは飲料全体に対して90質量%以上の水分を含むものである。また、飲料として必要とされる甘味料等を配合していないものも含まれる。具体的には、例えば内服液剤、ドリンク剤等の医薬品及び医薬部外品の他、栄養機能性食品、特定保険用食品等の各種飲料や、果実・野菜系飲料、炭酸飲料、スポーツ・健康機能性飲料、乳性飲料といった食品飲料領域における各種飲料が挙げられる。
【0017】
本発明の飲料には、ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸類、生薬、生薬抽出物、カフェインなどを本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合できる。また、必要に応じて抗酸化剤、着色剤、香料、矯味剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、甘味料などの添加物を本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することもできる。
【0018】
本発明の飲料を調製する方法は特に限定されるものではない。通常、準粘性流動を示す増粘剤を適量の精製水で溶解した後、酸味剤を溶解し、更に精製水を加えて容量調整することにより、酸味飲料として提供することができる。
【0019】
本発明に記載の実施例、比較例の粘度は、(株)山一エレクトロニクス製の振動粘度計で、品温20℃、周波数500Hzの条件で、プローブPR‐100‐Lを用いてプローブ端部が液面より約1mm深くなるよう設置し、測定値が安定したところで記録した値である。
【実施例】
【0020】
以下に、実施例、比較例及び試験例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等に何ら限定されるものではない。
【0021】
試験例
(1)各飲料の調製
表2及び表3に示す組成の各成分を精製水に溶解し,全量を100mLとした、比較例1−12、実施例1−8の各飲料を調製した。
【0022】
(2)試験方法
飲料中のむせる感じの差を明確にするため、調製した各飲料を、表1の評価基準に基づき、3名のパネルに、各飲料5mLを空気とともにすするように飲み込ませた際のむせる感じの評価を実施した。この結果を表2〜3に示した。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
【表3】
【0026】
(3)結果
表2〜3に示したように、比較例1、11〜12の結果から、酸味剤を配合した酸味飲料をすすって飲むとむせる感じが強いことがわかる。
【0027】
比較例2、3の結果からキサンタンガムを多く配合してもタウリンを配合しないと「むせる感じ」は抑制されないことがわかる。また、粘度を20.1mPa・s以上に調整すると、むせる感じは「すごく弱く感じる」以下になるが、飲料としては適さないものであった。
【0028】
比較例4の結果から、タウリンのみを配合した飲料組成物は、むせる感じは「かなり強く感じる」ことがわかる。
【0029】
また比較例5〜7の結果からキサンタンガムとタウリンを配合しても粘度が5.3mPa・s以下の場合、むせる感じの抑制効果は得られないことがわかる。
【0030】
比較例8の結果から、タウリンをグリシンに置き換えた場合にはむせる感じの抑制効果は得られないことがわかる。
【0031】
比較例9〜10の結果から、キサンタンガムを他の増粘剤に置き換えて粘度を調整しても、むせる感じの抑制効果は得られないことがわかる。
【0032】
実施例1〜8からタウリンとキサンタンガム若しくはグアーガムを配合し、粘度を6.6mPa・s〜20mPa・sに調整すると、むせる感じが大きく抑制され、飲料として適することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明により、酸味剤を含有する飲料のむせの誘発を抑制することが可能となったので、商品性の高い酸味剤含有飲料を医薬品、医薬部外品及び食品の分野において提供することができる。