特許第6155796号(P6155796)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社島津製作所の特許一覧

<>
  • 特許6155796-アークプラズマ成膜装置 図000002
  • 特許6155796-アークプラズマ成膜装置 図000003
  • 特許6155796-アークプラズマ成膜装置 図000004
  • 特許6155796-アークプラズマ成膜装置 図000005
  • 特許6155796-アークプラズマ成膜装置 図000006
  • 特許6155796-アークプラズマ成膜装置 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6155796
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】アークプラズマ成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20170626BHJP
【FI】
   C23C14/24 F
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-89951(P2013-89951)
(22)【出願日】2013年4月23日
(65)【公開番号】特開2014-214322(P2014-214322A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】森元 陽介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正康
【審査官】 宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−242929(JP,A)
【文献】 特開2005−240182(JP,A)
【文献】 特開2009−179863(JP,A)
【文献】 特公平07−033576(JP,B2)
【文献】 特開2006−104512(JP,A)
【文献】 特開2006−219687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜用ターゲットの材料元素のイオンを含むアークプラズマを形成して、前記材料元素を主成分とする薄膜を処理対象の基板上に形成するアークプラズマ成膜装置であって、
前記基板が設置される試料室及び前記アークプラズマが形成される放電室を有するチャンバーと、
複数のターゲットが格納され、前記放電室と貫通孔を介して連結する成膜位置が定義されたターゲット保管室と、
前記複数のターゲットの1つが前記成膜用ターゲットとして前記成膜位置に配置されるように前記ターゲット保管室内で前記複数のターゲットを支持し、相対的位置関係を変化させずに前記複数のターゲットを同時に移動させるターゲット支持装置と、
前記成膜位置に配置された前記成膜用ターゲットを前記放電室に搬送するターゲット搬送機構と
を備え、
前記複数のターゲットのそれぞれが、ターゲットホルダの底面に前記ターゲットの一部が前記底面から突出して露出するように前記ターゲットホルダに装着された構造を有し、
前記成膜用ターゲットを装着した前記ターゲットホルダの前記底面の前記成膜用ターゲットの一部が露出した領域の残余の領域が、前記貫通孔の周囲で前記放電室の外側に密着することで、前記放電室と前記ターゲット保管室の間を気密シールする
ことを特徴とするアークプラズマ成膜装置。
【請求項2】
前記ターゲット保管室内で前記複数のターゲットが環状に配置され、前記ターゲット支持装置が前記複数のターゲットを回転させ、且つ前記ターゲット搬送機構が前記複数のターゲットの1つを前記成膜用ターゲットとして前記放電室に搬送することを特徴とする請求項1に記載のアークプラズマ成膜装置。
【請求項3】
前記ターゲット保管室が、前記複数のターゲットを同一平面内に配列した前記ターゲット支持装置の主面と平行に、前記複数のターゲットとは独立に移動して前記貫通孔を塞ぐゲートバルブを備え、前記ゲートバルブによって前記貫通孔が塞がれた状態において、前記ターゲット保管室内の圧力状態に関わりなく前記チャンバー内の真空状態を維持することを特徴とする請求項1又は2に記載のアークプラズマ成膜装置。
【請求項4】
前記ターゲット搬送機構が、前記ターゲットホルダの前記底面の面法線方向を回転軸として前記成膜用ターゲットを回転させるターゲット回転機構を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアークプラズマ成膜装置。
【請求項5】
前記ターゲット搬送機構が、前記アークプラズマを形成するために前記成膜用ターゲットに給電するターゲット給電機構を備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のアークプラズマ成膜装置。
【請求項6】
前記ターゲット搬送機構が、前記成膜用ターゲットを冷却するターゲット冷却機構を備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のアークプラズマ成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アークプラズマを形成して成膜を行うアークプラズマ成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイアモンドライクカーボン(DLC)膜の形成などに使用するために、アークプラズマを用いるアークプラズマ成膜装置が提案されている。アークプラズマ成膜装置では、長期間の連続使用の実現が課題の1つである。アークプラズマ成膜装置は固体ターゲットを使用するが、アーク放電中にアークスポットによってターゲットの表面が局所的に溶融される。これにより形成される深い穴(凹部)の中にアーク放電が落ち込むことで、放電が不安定になる。その結果、成膜レートが低下したり、或いはアーク放電が消失し、成膜が途絶したりするという問題があった。
【0003】
特に、DLC膜形成用のアークプラズマ成膜装置では、カーボンターゲット表面でのアーク放電により、アークスポット部に凹状の穴が形成され、放電が不安定になったり、放電が途絶したりするなどの問題が顕著である。
【0004】
このため、チャンバー内でターゲット表面を切削し、ターゲット表面を平坦に修正加工を行う方法が提案されている。1回の切削量は3mm程度である。従来の方法では、100mmから200mmの長いターゲットを使用し、定期的にチャンバー内でターゲット表面の切削を行い、平坦面を担保する。これにより、同一のターゲットを一定期間使用する。その結果、ターゲット交換時間、真空ベント、排気時間を抑制することで装置の稼働率の向上を図る。また、複数のターゲットを用意し、一方のターゲットで成膜処理を行い、他方のターゲットの表面を切削加工することにより、装置の稼働率を更に改善しようとする方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−240182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、チャンバー内でターゲット表面の切削加工を行う方法では、チャンバー内にパーティクル源となる粉塵が大量に蓄積し、成膜面に混入してしまうなどの問題が生じる。
【0007】
上記問題点に鑑み、本発明は、高い稼働率を実現し、且つチャンバー内でターゲットの切削粉塵の蓄積が無いアークプラズマ成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、成膜用ターゲットの材料元素のイオンを含むアークプラズマを形成して、材料元素を主成分とする薄膜を処理対象の基板上に形成するアークプラズマ成膜装置であって、(イ)基板が設置される試料室及びアークプラズマが形成される放電室を有するチャンバーと、(ロ)複数のターゲットが格納され、放電室と貫通孔を介して連結する成膜位置が定義されたターゲット保管室と、(ハ)複数のターゲットの1つが成膜用ターゲットとして成膜位置に配置されるようにターゲット保管室内で複数のターゲットを支持し、相対的位置関係を変化させずに複数のターゲットを同時に移動させるターゲット支持装置と、(ニ)成膜位置に配置された成膜用ターゲットを放電室に搬送するターゲット搬送機構とを備え、複数のターゲットのそれぞれが、ターゲットホルダの底面にターゲットの一部が底面から突出して露出するようにターゲットホルダに装着された構造を有し、成膜用ターゲットを装着したターゲットホルダの底面の成膜用ターゲットの一部が露出した領域の残余の領域が、貫通孔の周囲で放電室の外側に密着することで、放電室とターゲット保管室の間を気密シールするアークプラズマ成膜装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い稼働率を実現し、且つチャンバー内でターゲットの切削粉塵の蓄積が無いアークプラズマ成膜装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係るアークプラズマ成膜装置の構成を示す模式図である。
図2】本発明の実施形態に係るアークプラズマ成膜装置において成膜用ターゲットが成膜位置に配置された例を示す模式図であり、図2(a)は成膜用ターゲットが貫通孔に押し込まれる前の状態を示し、図2(b)は成膜用ターゲットが貫通孔に押し込まれた後の状態を示す。
図3】本発明の実施形態に係るアークプラズマ成膜装置におけるターゲットの配置例を示す模式図である。
図4】本発明の実施形態に係るアークプラズマ成膜装置のターゲット搬送機構及びゲートバルブの構成を示す模式図であり、図4(a)はゲートバルブにより貫通孔が塞がれた状態を示し、図4(b)はゲートバルブがターゲット保管室に支持される例を示す。
図5】本発明の実施形態に係るアークプラズマ成膜装置のターゲット搬送機構が有するターゲット回転機構の機能を説明するための模式図である。
図6】本発明の実施形態に係るアークプラズマ成膜装置におけるターゲットの配置の他の例を示す模式図であり、図6(a)は垂直方向にターゲットを縦列に配列する例であり、図6(b)は水平方向にターゲットを横列に配列する例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであることに留意すべきである。又、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施形態は、構成部品の構造、配置などを下記のものに特定するものでない。この発明の実施形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0012】
本発明の実施形態に係るアークプラズマ成膜装置1は、成膜用ターゲットの材料元素イオンを含むアークプラズマをアーク放電によって形成して、その材料元素を主成分とする薄膜を処理対象の基板上に形成するアークプラズマ成膜装置である。「成膜用ターゲット」は、基板に所望の薄膜を形成するためにアークプラズマに曝される。
【0013】
アークプラズマ成膜装置1は、図1に示すように、処理対象の基板100が設置されるチャンバー10と、複数のターゲット40が格納されるターゲット保管室20と、複数のターゲット40の1つが成膜位置25に配置されるように、ターゲット保管室20内で複数のターゲット40を支持するターゲット支持装置30と、成膜位置25に配置されたターゲット40を放電室12に搬送するターゲット搬送機構50とを備える。
【0014】
チャンバー10は、基板100が配置される試料室11とアークプラズマが形成される放電室12を有する。更にチャンバー10は、試料室11と放電室12を連結し、アークプラズマを放電室12から試料室11に誘導する誘導管13を有する。
【0015】
基板100に成膜する材料であるターゲット40は、ターゲットホルダ42に装着された状態で支持され、アーク放電によって蒸発する。例えばDLC膜を基板100に成膜する場合には、ターゲット40にカーボンが採用される。
【0016】
ターゲット40は例えば円柱形状である。ターゲット40は、ターゲットホルダ42の底面にターゲット40の表面が露出するように、ターゲットホルダ42に装着されている。ターゲットホルダ42の底面におけるターゲット40が露出した領域の残余の領域が貫通孔120の周囲で放電室12の外側に密着することにより、放電室12とターゲット保管室20間が気密シールされる。したがって、ターゲット40の外形の形状と貫通孔120の形状は対応している。
【0017】
ターゲット保管室20には、放電室12と貫通孔120を介して連結する成膜位置25が定義されている。図2(a)に示すように、ターゲット支持装置30は、ターゲット40をそれぞれ装着した複数のターゲットホルダ42の1つを選択的に成膜位置25に配置する。そして、ターゲット搬送機構50は、図2(b)に示すように、成膜位置25に配置された成膜用ターゲット40Tが放電室12内に露出するように、ターゲットホルダ42を貫通孔120に押し込む。ターゲット支持装置30に支持された成膜用ターゲット40T及びターゲットホルダ42は、搬送ロッド500を伸縮させることによって、放電室12に搬送される。
【0018】
また、上記のように成膜用ターゲット40Tを装着したターゲットホルダ42を貫通孔120に押し当てることによって、貫通孔120がターゲットホルダ42によって塞がれて、ターゲット保管室20に対してチャンバー10内が気密シールされる。このため、ターゲット保管室20内の圧力状態に関わりなく、例えばターゲット保管室20内が大気圧になっても、チャンバー10内の真空状態が維持される。
【0019】
図3に、回転軸Cを中心にして複数のターゲット40が円状にターゲット保管室20に配置された例を示す。図3は、回転軸Cの延伸する方向から見た側面図であり、回転軸Cに沿って成膜用ターゲット40Tが貫通孔120に押し込まれる。図3に示したように、ターゲット支持装置30がターゲット40をリボルバー構造で支持しているため、矢印で示したように回転軸Cを中心に複数のターゲット40を回転させることにより、任意のターゲット40を成膜位置25に配置することができる。
【0020】
なお、図3ではターゲット保管室20に8個のターゲット40が保管される例を示したが、ターゲット保管室20に保管されるターゲットの個数は8個に限られない。また、真円状に限らず、楕円状に複数のターゲット40を配置してもよい。或いは、環状以外の配置形態で複数のターゲット40をターゲット保管室20内で保管してもよい。
【0021】
アークプラズマ成膜装置1では、成膜用ターゲット40Tを陰極として発生させたアーク放電によって、成膜用ターゲット40Tに含まれる原料の正イオンを含むアークプラズマを生成する。このプラズマを誘導管13を介して放電室12から試料室11内の基板100表面に導いて、基板100上に薄膜を形成する。例えば誘導管13の周囲に配置したコイル(図示略)によって形成した磁場により、誘導管13に沿ってプラズマを輸送する。アーク放電ではプラズマとは別に中性粒子であるドロップレットといわれる微粒子が発生するが、図1に示すように湾曲した誘導管13を用いることにより、プラズマはコイル磁場により誘導管13に沿って屈曲輸送されるの対して、電荷を帯びていない中性粒子は誘導管13の屈曲部でフィルタリングされ基板100に到達することはない。
【0022】
後述するように、成膜工程においてはチャンバー10内を真空状態にした後、アークプラズマが形成される。一方、ターゲット保管室20の内部とチャンバー10の内部とは、貫通孔120を塞ぐ成膜用ターゲット40Tのターゲットホルダ42によって気密シールされている。このため、チャンバー10内が真空状態にある場合やチャンバー10内にアークプラズマが形成されている場合においても、ターゲット保管室20の内部を例えば大気圧にすることができる。つまり、チャンバー10内部をターゲット保管室20の内部と分離して真空状態にできる。したがって、基板100の成膜工程中に、ターゲット保管室20内に配置されたターゲット40を、未使用の新たなターゲットと交換できる。
【0023】
或いは、基板100の成膜工程中に、ターゲット保管室20内に配置されたターゲット40を外に取り出して、ターゲット40の表面を切削研磨することができる。具体的には、ターゲット支持装置30によって成膜用ターゲット40Tがターゲット保管室20内の他のターゲット40に交換されると同時に、使用済みのターゲット40が成膜位置25から移動される。成膜工程を行いながらターゲット保管室20内を大気圧にすることができるため、ターゲット保管室20内の使用済みターゲット40をターゲット保管室20から取り出せる。このため、使用済みのターゲット40の表面を研磨装置などによって研磨することができる。
【0024】
使用済みのターゲット40の表面を研磨することにより、ターゲット40の表面の平滑性が回復し、放電の安定性を得ることができる。
【0025】
なお、図4(a)に示すような貫通孔120を塞ぐゲートバルブ60をターゲット保管室20に用意することにより、ターゲット保管室20内の圧力状態に関わらずチャンバー10内の真空状態を維持することができる。つまり、貫通孔120をゲートバルブ60で塞ぐことにより、ターゲット40が貫通孔120に押し込まれていない状態でも、チャンバー10内の真空状態を維持しつつ、ターゲット保管室20内を大気圧にすることが可能である。
【0026】
例えば図4(b)に示すように、ターゲット保管室20に支点Fで支持されて移動可能なゲートバルブ60を用意する。そして、成膜工程時には貫通孔120から離れた位置にゲートバルブ60を配置する。一方、ターゲット40のすべてが放電室12内に露出していない場合に、図4(b)に示すように矢印方向に移動させたゲートバルブ60によって貫通孔120を塞ぐ。これによりチャンバー10内の真空状態を破ることなく、ターゲット保管室20内を大気圧にすることができる。このため、チャンバー10内を真空状態のままで、ターゲット保管室20から使用済みのターゲット40取り出したり、新たなターゲット40をターゲット保管室20に配置したりすることが可能となる。チャンバー10内の真空状態は維持されるため、アークプラズマ成膜装置1の稼働率が向上する。
【0027】
図4(a)に示すように、ターゲット搬送機構50は、ターゲット回転機構51、ターゲット給電機構52、及びターゲット冷却機構53を備える。
【0028】
ターゲット回転機構51は、ターゲットホルダ42の底面の面法線方向を回転軸として、成膜用ターゲット40Tを回転させる。例えば、ターゲットホルダ42と連結させた搬送ロッド500を回転させることにより、図5に示すようにターゲットホルダ42ごと成膜用ターゲット40Tを回転させる。アーク放電中に成膜用ターゲット40Tを回転させることにより、成膜用ターゲット40Tの表面の蒸発量を均等にすることができる。例えば、モータなどを用いて搬送ロッド500を回転させる。
【0029】
ターゲット給電機構52は、アークプラズマを形成するために成膜用ターゲット40Tに給電する。具体的には、成膜用ターゲット40Tが陰極となるように、搬送ロッド500とターゲットホルダ42を介して成膜用ターゲット40Tに給電する。これにより、放電室12内に所望のプラズマが形成される。
【0030】
ターゲット冷却機構53は、搬送ロッド500を介して成膜用ターゲット40Tを冷却する。成膜処理中は、アークプラズマに曝された成膜用ターゲット40Tの温度が上昇する。成膜用ターゲット40Tが高温の状態では、アーク放電の維持が困難になる。また、放電室12とターゲット保管室20間の気密シール部の温度が上昇し、シール材料の耐久性を超えてしまうなどの問題が生じる。このため、成膜工程中での成膜用ターゲット40Tの冷却が有効である。ターゲット冷却機構53には、例えば、搬送ロッド500内に冷却水を流す水冷方式などを採用可能である。
【0031】
以下に、図1に示したアークプラズマ成膜装置1によって、処理対象の基板100に成膜する方法の例を説明する。なお、以下の説明では、ターゲット保管室20に配置されたターゲット40を、成膜工程で使用される順に第1のターゲット、第2のターゲット、第3のターゲット、・・・とする。
【0032】
先ず、処理対象の基板100を試料室11内に格納し、試料室11内を真空排気する。試料室11とターゲット保管室20間は、ゲートバルブ60によって気密シールされている。成膜工程で使用される複数のターゲット40をターゲット保管室20に配置し、ターゲット保管室20を真空排気する。ターゲット40は、基板100に形成する膜の原料を含む。
【0033】
次いで、第1のターゲットが成膜用ターゲット40Tとして成膜位置25に配置されるように、ターゲット支持装置30がターゲット保管室20に配置された複数のターゲット40を移動させる。そして、ゲートバルブ60を開放し、成膜位置25に配置された第1のターゲットが貫通孔120に押し込まれ、第1のターゲットのターゲット40が放電室12内に露出する。
【0034】
そして、放電室12内に露出した第1のターゲットの表面上にアークプラズマを形成する。アークプラズマは、例えば高電界によってアーク放電を発生することによって形成される。つまり、アーク放電の発生により、ターゲット40が蒸発すると共にイオン化され、アークプラズマが形成される。このアークプラズマ中のターゲット40のイオンを基板100の表面に導いて堆積させることにより、第1のターゲットを用いた成膜処理が行われる。
【0035】
所定の放電時間後、アーク放電を停止し、ターゲット支持装置30によってターゲット保管室20内のターゲット40の配置を変更する。具体的には、使用済みの第1のターゲットに代えて第2のターゲットが成膜位置25に移動する。このターゲット交換時においては、ターゲット保管室20内もチャンバー10内と同様に真空状態が維持される。その後、アーク放電が再開され、第2のターゲットを用いた成膜処理が行われる。
【0036】
更に、所定の放電時間後、アーク放電を停止し、ターゲット支持装置30によって使用済みの第2のターゲットに代えて第3のターゲットを成膜位置25に移動する。そして、第3のターゲットを用いた成膜処理が行われる。
【0037】
その後、所定の放電時間が経過する度に、成膜用ターゲット40Tを交換しながら成膜処理が行われる。
【0038】
なお、1つのターゲット40を用いて成膜を行う上記の所定の放電時間は、例えばアークスポットによってターゲット40の表面に形成される凹部の大きさがアーク放電の生成、維持が著しく劣化しない程度に設定される。一定の頻度で成膜用ターゲット40Tを交換することにより、成膜用ターゲット40Tの表面の平滑性が常に確保され、安定したアーク放電が得られる。
【0039】
上記のように、アークプラズマ成膜装置1では、チャンバー10内を高真空状態にしたままで、ターゲット保管室20内の複数のターゲット40を用いて成膜用ターゲット40Tを交換しながらの成膜処理が行われる。このため、高い稼働率を維持することができる。
【0040】
更に、チャンバー10内での成膜処理を行いつつ、ターゲット保管室20内の使用済みのターゲット40を未使用の新たなターゲット40と交換したり、使用済みのターゲット40の表面を研磨したりできる。この場合にも、高い稼働率を維持することができる。また、チャンバー10内でターゲット40の研磨を行わないため、チャンバー10内にパーティクル源となる切削粉塵の蓄積がなく、基板面へのパーティクルの混入が低減される。
【0041】
以上に説明したように、本発明の実施形態に係るアークプラズマ成膜装置1によれば、高い稼働率を実現し、且つチャンバー10内でターゲットの切削粉塵の蓄積が無いアークプラズマ成膜装置を提供することができる。
【0042】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0043】
既に述べた実施形態の説明においては、ターゲット保管室20に複数のターゲット40が環状に配置される例を示した。しかし、環状以外にも、例えばターゲット保管室20に複数のターゲット40を直線状に配置してもよい。具体的には、図6(a)に示すように垂直方向にターゲット40を配列したり、図6(b)に示すように水平方向にターゲット40を配列したりしてもよい。ターゲット支持装置30が直線状に配置された複数のターゲット40をスライドさせることにより、所望のターゲット40を成膜位置25に配置できる。
【0044】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0045】
1…アークプラズマ成膜装置
10…チャンバー
11…試料室
12…放電室
13…誘導管
20…ターゲット保管室
25…成膜位置
30…ターゲット支持装置
40…ターゲット
40T…成膜用ターゲット
42…ターゲットホルダ
50…ターゲット搬送機構
51…ターゲット回転機構
52…ターゲット給電機構
53…ターゲット冷却機構
60…ゲートバルブ
100…基板
120…貫通孔
500…搬送ロッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6