特許第6155999号(P6155999)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6155999樹脂成形体、フィルム・レンズ、透明導電フィルム、樹脂組成物、重合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6155999
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】樹脂成形体、フィルム・レンズ、透明導電フィルム、樹脂組成物、重合体
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/12 20060101AFI20170626BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20170626BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20170626BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20170626BHJP
【FI】
   C08G61/12
   C08J5/18CER
   H01B5/14 Z
   G02B3/00 Z
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-190384(P2013-190384)
(22)【出願日】2013年9月13日
(65)【公開番号】特開2015-54946(P2015-54946A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】宇野 高明
(72)【発明者】
【氏名】木村 優
(72)【発明者】
【氏名】藤冨 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】畑瀬 一輝
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−505011(JP,A)
【文献】 特開平08−183853(JP,A)
【文献】 特開平08−183900(JP,A)
【文献】 特表2009−517537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 61/00−61/12
C08J 5/18
G02B 3/00−3/14
H01B 5/00−5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(A1)で表される繰返し構造単位、および式(A2)で表される繰返し構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位を有する重合体(A)を含有する樹脂成形体。
【化1】
[式(A1)および(A2)中、
Ar1は、アリーレン基、またはアリーレン基が有する水素原子の1つ以上を1価の有機基に置き換えてなる基であり;Ar2は、それぞれ独立にアリーレン基、またはアリーレン基が有する水素原子の1つ以上を1価の有機基に置き換えてなる基であり;
1は、水素原子、アルキル基もしくはアリール基、またはこれらのアルキル基およびアリール基が有する水素原子の1つ以上を1価の有機基に置き換えてなる基であり;
2は、水素原子、アルキル基もしくはアリール基、またはこれらのアルキル基およびアリール基が有する水素原子の1つ以上を1価の有機基に置き換えてなる基であり;
3は、2個以上の原子を有し、かつ芳香環を有さない2価の有機基であり、ただし、2つのAr2はR3中の異なる原子に結合しており、R3は、−O−C(O)−O−ではなく;
EWGは、電子求引性基を示し;
nは、0または1である。]
【請求項2】
式(A1)および式(A2)中のR3が、炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、−COO−、−CONH−、または、炭化水素基及び/又はハロゲン化炭化水素基と、エーテル結合、カルボニル基、エステル結合及びアミド結合から選ばれる少なくとも1種とを有する基(ただし、これらの基は芳香環を有さない)である、請求項1の樹脂成形体。
【請求項3】
式(A1)および式(A2)中のR3における炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基の炭素数が2〜18である、請求項2の樹脂成形体。
【請求項4】
式(A1)および式(A2)中のR3が、炭素数2以上のアルカンジイル基、−O−R31−O−(式中、R31は炭素数1以上のアルカンジイル基である)で表される2価の基、または、これらの基が有する水素原子の1つ以上をハロゲン原子に置き換えてなる基である、請求項1〜3のいずれか1項の樹脂成形体。
【請求項5】
式(A1)および式(A2)中のR3が、−O−R31−O−(式中、R31は炭素数1以上のアルカンジイル基である)で表される2価の基である、請求項4の樹脂成形体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項の樹脂成形体からなるフィルム。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項の樹脂成形体からなるレンズ。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項の樹脂成形体からなる重合体層と、
透明導電層と
を有する透明導電フィルム。
【請求項9】
式(A1)で表される繰返し構造単位、および式(A2)で表される繰返し構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位を有する重合体(A)と、
有機溶媒(B)と
を含有する樹脂組成物。
【化2】
[式(A1)および(A2)中、
Ar1は、アリーレン基、またはアリーレン基が有する水素原子の1つ以上を1価の有機基に置き換えてなる基であり;Ar2は、それぞれ独立にアリーレン基、またはアリーレン基が有する水素原子の1つ以上を1価の有機基に置き換えてなる基であり;
1は、水素原子、アルキル基もしくはアリール基、またはこれらのアルキル基およびアリール基が有する水素原子の1つ以上を1価の有機基に置き換えてなる基であり;
2は、水素原子、アルキル基もしくはアリール基、またはこれらのアルキル基およびアリール基が有する水素原子の1つ以上を1価の有機基に置き換えてなる基であり;
3は、2個以上の原子を有し、かつ芳香環を有さない2価の有機基であり、ただし、2つのAr2はR3中の異なる原子に結合しており、R3は、−O−C(O)−O−ではなく;
EWGは、電子求引性基を示し;
nは、0または1である。]
【請求項10】
式(A1)で表される繰返し構造単位、および式(A2)で表される繰返し構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位を有する重合体(A)。
【化3】
[式(A1)および(A2)中、
Ar1は、アリーレン基、またはアリーレン基が有する水素原子の1つ以上を1価の有機基に置き換えてなる基であり;Ar2は、それぞれ独立にアリーレン基、またはアリーレン基が有する水素原子の1つ以上を1価の有機基に置き換えてなる基であり;
1は、水素原子、アルキル基もしくはアリール基、またはこれらのアルキル基およびアリール基が有する水素原子の1つ以上を1価の有機基に置き換えてなる基であり;
2は、水素原子、アルキル基もしくはアリール基、またはこれらのアルキル基およびアリール基が有する水素原子の1つ以上を1価の有機基に置き換えてなる基であり;
3は、2個以上の原子を有し、かつ芳香環を有さない2価の有機基であり、ただし、2つのAr2はR3中の異なる原子に結合しており、R3は、−O−C(O)−O−ではなく;
EWGは、電子求引性基を示し;
nは、0または1である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の重合体を含有する樹脂成形体、この成形体を用いたフィルム・レンズおよび透明導電フィルム、前記重合体を含有する樹脂組成物、ならびにこれらの用途で好適に用いられる重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
光学フィルム等の光学材料として、フィルム特性に応じた重合体が用いられている。代表的な透明樹脂として、例えば、ポリメチルメタクリレートが挙げられる。ポリメチルメタクリレートは、高透明性および低複屈折性等の光学特性に優れておりフィルムおよびレンズの材料として使用されてきたが、耐熱性が低く用途が限定されるという問題がある。
【0003】
一方、1,2−ジケトン類やフッ素化ケトン類等の活性カルボニル基を有する化合物と、アリール化合物とを、超強酸存在下で重縮合反応(Superstrong acid-Catalyzed Polycondensation;以下「SCP」ともいう)することで、ポリアリーレンが得られることが知られている(例えば、非特許文献1〜4参照)。
【0004】
SCPで得られるポリアリーレンは、溶媒に対する溶解性をポリマーに付与するために特別な官能基を導入しなくとも種々の溶媒に対して溶解性が高く、また耐熱性にも優れる。また、SCPでは、SCP以外の重縮合反応では触媒成分として通常残存する、塩化銅や、塩化カリウム、炭酸カリウム等の無機塩類を除去する必要がないため、得られるポリアリーレンは、不純物として残存する無機塩類による劣化が起こる恐れがないという利点がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Macromolecules 2001, 34, 1122-1124
【非特許文献2】Macromolecules 2004, 37, 6227-6235
【非特許文献3】Macromolecules 2005, 38, 6005-6014
【非特許文献4】Macromolecules 2008, 41, 8504-8512
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、SCPで得られるポリアリーレンをレンズ、フィルム等の樹脂成形体で使用することを検討した。しかしながら、検討の結果、従来公知の、SCPで得られるポリアリーレンでは、複屈折率が高いことが判明した。複屈折率が高い材料は、光学用途には使用することが困難となる場合がある。
【0007】
本発明は、SCPで得られる重合体等のポリアリーレンを含有しながら、低複屈折性を有する樹脂成形体、前記成形体を用いたフィルム・レンズおよび透明導電フィルムを提供することを課題とし、また、前記成形体の形成に好適に用いられる重合体および樹脂組成物を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、以下の構成を有する樹脂成形体を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下の[1]〜[6]に関する。
[1]式(A1)で表される繰返し構造単位、および式(A2)で表される繰返し構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位を有する重合体(A)を含有する樹脂成形体。
【0010】
【化1】
[式(A1)および(A2)中、Ar1は、アリーレン基、またはアリーレン基が有する水素原子の1つ以上を1価の有機基に置き換えてなる基であり;Ar2は、それぞれ独立にアリーレン基、またはアリーレン基が有する水素原子の1つ以上を1価の有機基に置き換えてなる基であり;R1は、水素原子、アルキル基もしくはアリール基、またはこれらのアルキル基およびアリール基が有する水素原子の1つ以上を1価の有機基に置き換えてなる基であり;R2は、水素原子、アルキル基もしくはアリール基、またはこれらのアルキル基およびアリール基が有する水素原子の1つ以上を1価の有機基に置き換えてなる基であり;R3は、2個以上の原子を有し、かつ芳香環を有さない2価の有機基であり、ただし、2つのAr2はR3中の異なる原子に結合しており;EWGは、電子求引性基を示し;nは、0または1である。]
【0011】
[2]式(A1)および式(A2)中のR3が、−O−R31−O−(式中、R31は炭素数1以上のアルカンジイル基である)で表される2価の基である、前記[1]の樹脂成形体。
[3]前記[1]または[2]の樹脂成形体からなるフィルムまたはレンズ。
[4]前記[1]または[2]の樹脂成形体からなる重合体層と、透明導電層とを有する透明導電フィルム。
[5]前記式(A1)で表される繰返し構造単位、および前記式(A2)で表される繰返し構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位を有する重合体(A)と、有機溶媒(B)とを含有する樹脂組成物。
[6]前記式(A1)で表される繰返し構造単位、および前記式(A2)で表される繰返し構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位を有する重合体(A)。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、例えばSCPで得られる重合体のように特定構造を有するポリアリーレンを含有しながら、低複屈折性を有する樹脂成形体、前記成形体を用いたフィルム・レンズおよび透明導電フィルムを提供することができ、また、前記成形体の形成に好適に用いられる重合体および樹脂組成物を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A図1Aは、実施例1で得られた重合体のNMRスペクトルである。
図1B図1Bは、上記スペクトルの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について好適態様も含めて説明する。
〔重合体(A)〕
本発明の重合体(A)は、式(A1)で表される繰返し構造単位、および式(A2)で表される繰返し構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位を有する。以下、これらの構造単位をそれぞれ「構造単位(A1)」および「構造単位(A2)」ともいう。
【0015】
【化2】
式(A1)および(A2)中の各記号の意味は、以下のとおりである。
【0016】
Ar1は、アリーレン基、またはアリーレン基が有する水素原子の1つ以上を1価の有機基に置き換えてなる基である。アリーレン基の炭素数は、通常6〜18、好ましくは6〜12である。
【0017】
なお、Ar1のアリーレン基は、単環でも多環でもよく、また縮合環であってもよく、環が直接結合で連結した構造または環が2価の基を介して連結した構造も含むものとする。前記環が連結した構造としては、フェニレン基をPhで表すと、例えば、−Ph−Ph−(環が直接結合で連結した例)、−Ph−CH2−Ph−(環が2価の基を介して連結した例)が挙げられる。
【0018】
Ar2は、それぞれ独立にアリーレン基、またはアリーレン基が有する水素原子の1つ以上を1価の有機基に置き換えてなる基である。アリーレン基の炭素数は、通常6〜18、好ましくは6〜12である。
【0019】
なお、Ar2のアリーレン基は、主鎖方向の分極および複屈折性の観点から、芳香環が直接結合で連結した構造、および酸素原子、硫黄原子、−CH2−、−CH(CH3)−、−C(CH32−、−CO−等の2つの芳香環に結合する原子が同一である2価の基を介して、芳香環が連結した構造を、主鎖方向に含まないことが好ましい。例えば、Ar2は、−Ph−Ph−(芳香環が直接結合で連結した例)、−Ph−CH2−Ph−、−Ph−O−Ph−(芳香環が前記2価の基を介して連結した例)ではないことが好ましい。
【0020】
1は、水素原子、アルキル基もしくはアリール基、またはこれらのアルキル基およびアリール基が有する水素原子の1つ以上を1価の有機基に置き換えてなる基である。
2は、水素原子、アルキル基もしくはアリール基、またはこれらのアルキル基およびアリール基が有する水素原子の1つ以上を1価の有機基に置き換えてなる基である。
【0021】
1およびR2において、アルキル基の炭素数は、通常1〜12、好ましくは1〜4であり;アリール基の炭素数は、通常6〜18、好ましくは6〜12である。
3は、2個以上の原子を有し、かつ芳香環を有さない2価の有機基であり、ただし、2つのAr2はR3中の異なる原子に結合している。したがって、例えば、−C(=O)−、−CH(CH3)−、−C(CH32−等の基は、R3からは除外される。
【0022】
3における有機基としては、例えば、炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、酸素原子および窒素原子から選ばれる少なくとも1種の原子を含む有機基(ただし、これらの基は芳香環を有さない)が挙げられる。
【0023】
炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基としては、直鎖状のまたは分岐鎖を有する基が挙げられる。これらの基の炭素数は、好ましくは2〜18、より好ましくは2〜6である。
【0024】
酸素原子および窒素原子から選ばれる少なくとも1種の原子を含む有機基としては、例えば、−COO−、−CONH−が挙げられる。また、水素原子および炭素原子(さらに場合によってはハロゲン原子)と、酸素原子および/または窒素原子とからなる基を挙げることもでき、具体的には、炭化水素基および/またはハロゲン化炭化水素基と、エーテル結合、カルボニル基、エステル結合およびアミド結合から選ばれる少なくとも1種とを有する基が挙げられる。
【0025】
3における有機基の具体例としては、炭素数2以上、好ましくは2〜18のアルカンジイル基、−O−R31−O−(R31はアルカンジイル基である)、これらの基が有する水素原子の1つ以上をハロゲン原子に置き換えてなる基が挙げられる。
【0026】
3は、好ましくは−O−R31−O−で表される2価の基であり、式中、R31はアルカンジイル基である。R31におけるアルカンジイル基の炭素数は、通常1〜18、好ましくは1〜6である。アルカンジイル基としては、具体的には、メチレン基、エタン−1,2−ジイル基、プロパン−1,3−ジイル基、ブタン−1,4−ジイル基、オクタン−1,8−ジイル基等の直鎖状アルカンジイル基が挙げられる。
【0027】
重合体(A)は、ポリマー主鎖に含まれる2つのアリーレン基Ar2の間に、スペーサーとなる2価の基R3を有する。このため、重合体(A)を含有する樹脂成形体は、複屈折率が低いという特徴を有する。これは、ポリマー主鎖に含まれる2つの芳香環の間に、主鎖部分に2原子以上存在するスペーサー部分(ただし、芳香環を含まない)を導入することで、主鎖中の芳香環同士が離れ、また主鎖がフレキシブルに動くことができるため、各方向の分極を低減でき、その結果複屈折率を低減できたためであると推測される。
【0028】
EWGは、電子求引性基を示す。
EWGにおける電子求引性基としては、例えば、炭素数1〜4のパーハロアルキル基、パーハロアリール基、パーハロアルキル基置換アリール基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基が挙げられる。パーハロアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ナノフルオロブチル基等のパーフルオロアルキル基、パークロロアルキル基、パーブロモアルキル基が挙げられる。パーハロアリール基およびパーハロアルキル基置換アリール基としては、例えば、ペンタフルオロフェニル基、ビス(トリフルオロメチル)フェニル基が挙げられる。ハロゲン原子としては、例えば、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられる。
【0029】
上記電子求引性基の中でも、熱安定性の観点から、パーフルオロアルキル基、パーハロアリール基およびパーハロアルキル基置換アリール基が好ましく、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロフェニル基およびビス(トリフルオロメチル)フェニル基がより好ましい。
nは、0または1である。
【0030】
上記各基において、置換基としての有機基としては、例えば、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数6〜18のアリーロキシ基、これらの基が有する水素原子の1つ以上をハロゲン原子に置き換えてなる基、ハロゲン原子が挙げられる。以下では、これらの置換基を有する基を「置換誘導体」ともいう。
【0031】
Ar1およびAr2におけるアリーレン基およびその置換誘導体としては、例えば、炭素数6〜18のアリーレン基、およびその置換誘導体であるアルキル基置換アリール基、ハロゲン化アリール基が挙げられる。具体的には、フェニレン基、ナフチレン基、アントリレン基、フェナントリレン基、メチルフェニレン基、エチルフェニレン基、フルオロフェニレン基、クロロフェニレン基、ブロモフェニレン基が挙げられる。Ar1におけるアリーレン基としては、ビフェニレン基を挙げることもできる。
【0032】
1およびR2におけるアルキル基、アリール基およびこれらの置換誘導体としては、例えば、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基、およびこれらの置換誘導体であるアルキル基置換アリール基、ハロゲン化アリール基、ハロゲン化アルキル基置換アリール基が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アントリル基、1−フェナントリル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、フルオロフェニル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基、ビス(トリフルオロメチル)フェニル基が挙げられる。
【0033】
〔重合体(A)の製造方法〕
本発明の重合体(A)は、例えば、式(a1)で表される化合物および式(a2)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種と、式(b1)で表される化合物とを、超強酸の存在下で重縮合させることで、得ることができる。以下、これらの化合物をそれぞれ「化合物(a1)」、「化合物(a2)」および「化合物(b1)」ともいう。
【0034】
【化3】
上記方法では、活性ケトン種に対して超強酸を作用させることで生じた活性カルボカチオンが、アリール化合物に対して親電子攻撃を行うことで直接的に炭素−炭素結合を形成しながら重合体を生成すると考えられる。上記方法を用いることで、ワンポット合成が可能であり、また、副生物としては水のみであり、アルカリ金属塩や有機金属化合物等の触媒残渣のない重合体を合成することができる。
【0035】
上記方法の反応条件および反応機構の詳細については、Macromolecules 2001, 34, 1122-1124、Macromolecules 2004, 37, 6227-6235、Macromolecules 2005, 38, 6005-6014、Macromolecules 2008, 41, 8504-8512、Macromolecules 2012, 45, 6774-6780、Macromolecules 2010, 43, 6968-6979、Macromolecules 2004, 37, 5140-5141、Chem. Commun., 2004, 1030-1031の記載を参照することができる。
【0036】
《化合物(a1)》
化合物(a1)は、式(a1)で表される
【0037】
【化4】
式(a1)中、Ar1、R1およびnは、式(A1)中の同一記号と同義である。
【0038】
化合物(a1)としては、例えば、式(a1)中のnが1である、式(a1−1)で表される化合物が挙げられる。以下、前記化合物を「化合物(a1−1)」ともいう。
【0039】
【化5】
式(a1−1)中、R11は、式(A1)中のR1と同義であり、好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、アルキル基置換アリール基、ハロゲン化アリール基またはハロゲン化アルキル基置換アリール基であり;Rは、水素原子またはハロゲン原子である。ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が挙げられる。
【0040】
化合物(a1−1)としては、例えば、イサチン、N−フェニルイサチン、5−ブロモイサチン、N−[m−(トリフルオロメチル)フェニル]イサチン、N−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]イサチンが挙げられる。
【0041】
化合物(a1)としては、その他、式(a1)中のnが0である、下記式で表される化合物、これらの化合物中の芳香環炭素が有する水素原子の1つ以上をハロゲン原子に置き換えてなる化合物が挙げられる。
【0042】
【化6】
《化合物(a2)》
化合物(a2)は、式(a2)で表される。
【0043】
【化7】
式(a2)中、EWGおよびR2は、式(A2)中の同一記号と同義である。
【0044】
化合物(a2)としては、例えば、ペンタフルオロフェニルメチルケトン、ペンタフルオロベンズアルデヒド、3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンズアルデヒド、トリフルオロメチルメチルケトン、2,2,2−トリフルオロアセトフェノンが挙げられる。
【0045】
《化合物(b1)》
化合物(b1)は、式(b1)で表される。
【0046】
【化8】
式(b1)中、Ar2およびR3は、式(A1)および式(A2)中の同一記号と同義である。式(b1)中の2つの水素原子に結合する芳香環炭素が、式(a1)または式(a2)中の活性カルボニル炭素と結合して、重合体が形成される。
【0047】
化合物(b1)としては、例えば、式(b1−1)で表される化合物、式(b1−2)で表される化合物が挙げられる。以下、これらの化合物をそれぞれ「化合物(b1−1)」および「化合物(b1−2)」ともいう。
【0048】
【化9】
式(b1−1)中、R31は、アルカンジイル基である。R31におけるアルカンジイル基の炭素数は、通常1〜18、好ましくは1〜6である。式(b1−2)中、R32は、炭素数2以上のアルカンジイル基、−COO−、−CONH−である。R32におけるアルカンジイル基の炭素数は、好ましくは2〜18、より好ましくは2〜6であり、直鎖状であることが好ましい。
【0049】
化合物(b1−1)としては、例えば、ジフェノキシメタン、1,2−ジフェノキシエタン、1,3−ジフェノキシプロパン、1,4−ジフェノキシブタン、1,8−ジフェノキシオクタン等のジフェノキシアルカンが挙げられ;化合物(b1−2)としては、例えば、1,2−ジフェニルエタン、1,3−ジフェニルプロパン、1,4−ジフェニルブタン、1,8−ジフェニルオクタン等のジフェニルアルカンが挙げられる。
【0050】
《超強酸》
超強酸は、上述の重縮合反応の触媒として用いる。
超強酸とは、100%硫酸よりも強い酸性度を有する酸であり、超酸ともいう。
【0051】
超強酸としては、例えば、トリフルオロ酢酸、ペンタフルオロフェニル酢酸、フルオロスルホン酸、クロロスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、炭素数2以上のパーフルオロアルカンスルホン酸(例えば、C25SO3H、C49SO3H、C511SO3H、C613SO3H、およびC817SO3H)、ペンタフルオロフェニルスルホン酸、ペンタフルオロプロピオン酸が挙げられる。
【0052】
また、超強酸とともに、メタンスルホン酸等の強酸を使用してもよい。
触媒の好適例としては、トリフルオロメタンスルホン酸を単独で使用する例、トリフルオロメタンスルホン酸と、メタンスルホン酸およびトリフルオロ酢酸から選ばれる少なくとも1種とを組み合わせて使用する例が挙げられる。
【0053】
超強酸は、化合物(a1)および化合物(a2)から選ばれる少なくとも1種の合計1モルに対して、通常0.01〜100モル、好ましくは0.1〜50モルの量で用いることができる。
【0054】
《溶媒》
上記超強酸または上記重縮合反応に対して不活性な溶媒を用いることができる。不活性溶媒としては、例えば、メシチレン等の芳香族炭化水素(上記重縮合反応で反応する化合物を除く);塩化メチレン、ヘキサクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素(上記重縮合反応で反応する化合物を除く);炭素数4〜12のn−アルカン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等の酢酸アルキルエステルが挙げられる。
【0055】
《反応条件》
重縮合の反応条件は、以下が好ましい。
化合物(b1)の使用量は、化合物(a1)および化合物(a2)から選ばれる少なくとも1種の合計1モルに対して、通常0.5〜1.5モル、好ましくは0.9〜1.1モル、より好ましくは0.95〜1.05モルである。例えば、化合物(b1)の使用量は、化合物(a1)および化合物(a2)の合計量と等モル程度が好ましい。
【0056】
反応時の反応液温度は、好ましくは−50〜150℃、より好ましくは−30〜50℃、より好ましくは室温(25℃程度)である。反応時間は、好ましくは0.1〜8時間、より好ましくは0.5〜4時間である。
反応終了後は、得られた重合体(A)は、公知の方法で精製することができる。
【0057】
《重合体(A)の構成・物性》
本発明の重合体(A)は上述の構成を有することから、これを用いることで、高透明性、高屈折率・低複屈折性(低位相差発現性)、耐熱性にバランス良く優れる樹脂成形体、例えば光学フィルムを得ることができる。
【0058】
重合体(A)において、構造単位(A1)および構造単位(A2)の含有量の合計は、通常50質量%以上である。含有量が前記範囲にあると、重合体(A)を含有する樹脂成形体が優れた高屈折率・低複屈折性、高透明性および耐熱性を示す。含有量は、1H−NMR、13C−NMRにて測定することができる。
【0059】
重合体(A)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定した、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、好ましくは10,000〜1,000,000、さらに好ましくは30,000〜200,000である。また、分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.0〜4.0、より好ましくは1.0〜3.0である。分子量は、例えば超強酸の使用量により調節することができる。
【0060】
重合体(A)は、示差走査熱量法(DSC)で測定したガラス転移温度(Tg)が、好ましくは170〜350℃、より好ましくは170〜300℃である。本発明では、化合物(b1)(アリール化合物)の選択により、種々のTgを有する重合体を容易に設計することができる。例えば、低複屈折性を維持しながら、低いTgを有する重合体を設計することも容易である。
【0061】
本発明の重合体(A)は、熱重量分析法(TGA)で測定した熱分解温度(5%重量減少温度)が、好ましくは350℃以上、より好ましくは380℃以上である。上限値は特に限定されないが、例えば550℃である。
【0062】
重合体(A)のガラス転移温度または熱分解温度が上記範囲にあると、充分な耐熱性を示すため、当該重合体を含有する樹脂成形体は、ディスプレイ用の基材フィルム、光ディスク用の基材フィルム、透明導電フィルム用の基材フィルム、タッチパネル用の基材フィルム、導光板、偏光板、導波路板等として好適に使用することができる。
【0063】
〔樹脂組成物〕
本発明の樹脂組成物は、上述の重合体(A)および有機溶媒(B)を含有する。
上述の方法で得られた重合体と溶媒との混合物(重合体合成後の混合物)を、本発明の樹脂組成物としてそのまま使用することができる。このような樹脂組成物を用いることで、容易かつ安価に樹脂成形体を製造することができる。
【0064】
また、上述の方法で得られた重合体と溶媒との混合物から、重合体(A)を固体分として単離・精製した後、有機溶媒(B)に再溶解させて本発明の樹脂組成物を調製することもできる。このような樹脂組成物を用いることで、より着色が少なく、光透過性に優れるフィルムを製造することができる。重合体(A)を固体分として単離・精製する方法は、例えば、メタノール等の重合体の貧溶媒に重合体を再沈殿させ、その後ろ過し、次いでろ物を減圧乾燥すること等により行うことができる。
【0065】
重合体(A)を溶解する有機溶媒(B)としては、例えば、塩化メチレン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジオキサン、アニソール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンおよびγ−ブチロラクトンが好適に用いられ、塗工性、経済性の観点から、塩化メチレン、N,N−ジメチルアセトアミドおよびN−メチルピロリドンがより好適に使用される。有機溶媒(B)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用することができる。
【0066】
本発明の樹脂組成物中の重合体(A)濃度は、重合体(A)の分子量にもよるが、通常5〜40質量%、好ましくは7〜25質量%である。組成物中の重合体(A)濃度が前記範囲にあると、厚膜化可能で、ピンホールが生じにくく、表面平滑性に優れるフィルムを形成することができる。
【0067】
本発明の樹脂組成物の粘度は、重合体(A)の分子量や濃度にもよるが、通常2,000〜100,000mPa・s、好ましくは3,000〜50,000mPa・sである。組成物の粘度が前記範囲にあると、成膜中の組成物の滞留性に優れ、厚さの調整が容易であるため、フィルムの成形が容易である。
【0068】
本発明の樹脂組成物には、さらに老化防止剤を含有させることができ、老化防止剤を含有することで得られる樹脂成形体の耐久性をより向上させることができる。老化防止剤としては、好ましくはヒンダードフェノール系化合物が挙げられる。老化防止剤は、重合体(A)100質量部に対して、0.01〜10質量部の量で使用することが好ましい。
【0069】
〔樹脂成形体〕
本発明の樹脂成形体は、上述の重合体(A)を含有する。前記成形体は、例えば、上述の樹脂組成物を用いて製造することができる。前記成形体は、光学部材として好適に用いられる。前記成形体は、そのまま光学部材として用いてもよいし、従来公知の方法に従って、適宜加工などを施してもよい。
【0070】
樹脂成形体の具体例としては、例えば、凸レンズ、凹レンズ、フレネルレンズ、コリメートレンズ、レンチキュラーレンズ、ピックアップレンズ、グレーティングレンズ、ジオデシックレンズ、fθレンズ、非球面レンズ等のレンズ、特に光学機器用レンズ;プリズム;ディスプレイ用、光ディスク用、透明導電フィルム用もしくはタッチパネル用の基材フィルム、導光板、偏光板、導波路板等のフィルムまたは板、特に光学フィルム;MO、DVD、CD等の光情報記録媒体が挙げられる。
上述の樹脂組成物を用いて本発明の樹脂成形体を製造する方法としては、例えば、溶液キャスト法(流延法)、溶融押出成形法、射出成形法、射出圧縮成形法が挙げられる。
【0071】
《フィルム》
本発明の樹脂成形体の一例として、以下ではフィルムについて説明する。
本発明のフィルムは、重合体(A)を含んでなる。本発明のフィルムは、所望の用途に応じて、重合体(A)の他に添加剤を含んでもよいが、重合体(A)のみから形成されていてもよい。
【0072】
本発明のフィルムの製造方法は、特に制限されないが、前記樹脂組成物を支持体上に塗布して塗膜を形成する工程と、前記塗膜から前記有機溶媒を蒸発させることにより除去することでフィルムを得る工程とを有することが好ましい。
【0073】
前記樹脂組成物を支持体上に塗布して塗膜を形成する方法としては、例えば、ロールコート法、グラビアコート法、スピンコート法およびドクターブレードを用いる方法が挙げられる。前記支持体としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムおよびSUS板が挙げられる。
【0074】
ここで形成される塗膜の厚さは、最終的に得られるフィルムの厚さが、例えば1〜250μm、好ましくは2〜150μm、さらに好ましくは5〜125μmとなるよう設定すればよい。
【0075】
塗膜から前記有機溶媒を蒸発させることにより有機溶媒を除去する工程は、具体的には塗膜を加熱することにより行うことができる。塗膜を加熱することにより、有機溶媒を蒸発させて除去することができる。
【0076】
加熱条件は、有機溶媒が蒸発すればよく、支持体や重合体に応じて適宜決めればよい。例えば、加熱温度が、好ましくは30〜300℃、より好ましくは40〜250℃、さらに好ましくは50〜230℃であり;加熱時間が、好ましくは10分〜5時間である。
【0077】
なお、加熱は2段階以上で行ってもよい。具体的には、30〜80℃で10分〜2時間乾燥後、100〜250℃でさらに10分〜2時間加熱するなどである。また、必要に応じて、窒素雰囲気下または減圧下にて乾燥を行ってもよい。
【0078】
有機溶媒を除去する工程後の得られたフィルム中の残存溶媒量(熱重量分析法:TGA、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分)は、フィルム100質量%に対して、好ましくは1.2質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
【0079】
以上のようにして得られたフィルムは、支持体から剥離して用いることが好ましく、また、ここで用いた支持体の種類にもよるが、剥離せずにそのまま用いることもできる。
フィルムの厚さは、通常1〜250μm、好ましくは2〜150μm、さらに好ましくは5〜125μmである。厚さは、ダイヤルゲージ等で測定することができる。
【0080】
《フィルム特性》
本発明のフィルムは、重合体(A)を含むため、高透明性、高屈折率・低複屈折性(低位相差発現性)、耐熱性、機械的強度および環境安定性にバランス良く優れるフィルムである。
【0081】
本発明のフィルムは、示差走査熱量法(DSC)で測定したガラス転移温度(Tg)が、好ましくは170〜350℃、より好ましくは170〜300℃である。
本発明のフィルムは、引張強度が、好ましくは80〜150MPa、より好ましくは85〜130MPaである。本発明のフィルムは、破断伸びが、好ましくは5〜100%、より好ましくは10〜100%である。本発明のフィルムは、引張弾性率が、好ましくは2.5〜4.0GPa、より好ましくは2.7〜3.7GPaである。
【0082】
本発明のフィルムは、線膨張係数が、好ましくは5〜100ppm/K、より好ましくは10〜80ppm/Kである。また、本発明のフィルムは、湿度膨張係数が、好ましくは70ppm/%RH以下である。これらの膨張係数が前記範囲にあると、フィルムの寸法安定性(環境安定性)が高いことを示す。
【0083】
本発明のフィルムは、厚さが30μmである場合に、JIS K7105透明度試験法における全光線透過率が、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上である。また、本発明のフィルムは、厚さが30μmである場合に、波長400nmにおける光線透過率が、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上である。
【0084】
本発明のフィルムは、温度23℃、湿度50%RHにおいて、波長633nmの光に対して、好ましくは1.55〜1.75、より好ましくは1.60〜1.70の屈折率を有する。また、本発明のフィルムは、厚さが30μmである場合に、波長589nmの光を用いて測定したフィルムの厚さ方向の位相差(Rth)が、好ましくは60nm以下、より好ましくは0.1〜10nm、さらに好ましくは0.2〜5nmである。このように本発明のフィルムは、高屈折率・低位相差性(低複屈折性)を有している。
以上の物性の測定条件の詳細は、実施例に記載したとおりである。
【0085】
《透明導電フィルム》
本発明の樹脂組成物の一使用例として、以下では透明導電フィルムについて説明する。
本発明の透明導電フィルムは、上述の樹脂組成物から形成された重合体層(上述の樹脂成形体からなる重合体層)と、前記重合体層上に形成された透明導電層とを有する積層フィルムである。透明導電フィルムを偏光膜に積層することで、偏光板を得ることができる。偏光板は、例えばタッチパネルの構成要素として好適に用いることができる。
【0086】
透明導電層は、可視光領域において透過度を有し、かつ導電性を有する層である。透明導電層の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の従来公知の技術をいずれも使用できるが、膜の均一性や他の層との密着性の観点から、スパッタリング法での薄膜形成が好ましい。本発明の重合体(A)は耐熱性に優れているので、スパッタリング法での薄膜形成時において、幅広いプロセス温度を採用することができる。
【0087】
また、薄膜材料も特に制限されるものではなく、例えば、酸化錫を含有する酸化インジウム、アンチモンを含有する酸化錫等の金属酸化物のほか、金、銀、白金、パラジウム、銅、アルミニウム、ニッケル、クロム、チタン、コバルト、錫、亜鉛またはこれらの合金等が好ましく用いられる。これらの中でも、酸化錫を含有する酸化インジウム(ITO)が好ましい。
【0088】
重合体層の厚さは、好ましくは5〜200μm、より好ましくは10〜100μmである。透明導電層の厚さは、表面抵抗の観点から、好ましくは30Å以上、より好ましくは50〜2000Åである。
【0089】
透明導電フィルムは、重合体層および透明導電層の間に、アンカーコート層を有してもよい。アンカーコート層は、例えば、金属酸化物微粒子および多官能性ポリシロキサンを含有する組成物から形成することができる。前記組成物において、多官能性ポリシロキサンの完全加水分解縮合物換算100質量部に対して、金属酸化物微粒子の含有量は、好ましくは30質量部以上、より好ましくは30〜2000質量部、特により好ましくは50〜1000質量部である。
【0090】
アンカーコート層は、重合体層と透明導電層との接着性を向上させるとともに、ガスバリア性を付与する、積層体における各層の線膨張の差による物理的・光学的歪みを緩和させるという目的で採用することができる。アンカーコート層の詳細は、特開2009−29108号公報に記載されている。
【0091】
重合体層は、透明導電層またはアンカーコート層を積層する面上に、あらかじめハードコート層を有していてもよい。ハードコート層の詳細は、特開2009−29108号公報に記載されている。
【0092】
《レンズ》
本発明の樹脂成形体の一例として、以下ではレンズについて説明する。
レンズ等の光学部材は、例えば、上述の樹脂組成物を射出成形して製造することができる。具体的には、樹脂組成物からなるペレットを射出成形して得られる。樹脂組成物を用いて射出成形を行う場合は、射出成形の前に、予め乾燥装置を用いた公知の方法で樹脂組成物中に溶存する溶媒や酸素成分を除去することが好ましい。
【0093】
射出成形に使用される射出成形機としては、例えば、シリンダー方式としてはインライン方式、プリプラ方式;駆動方式としては油圧式、電動式、ハイブリッド式;型締め方式としては直圧式、トグル式;射出方向としては横型、縦型が挙げられる。
【0094】
射出成形に使用される金型としては、公知の材質や構造を有し、目的とする成形体の形状に対応するキャビティーを有する金型が用いられる。金型の好ましい材質としては、通常の炭素鋼、ステンレス鋼、これらをベースにした公知の合金類が挙げられる。また、金型の表面に、焼き入れ処理、クロム、チタン、ダイヤモンドなどによる公知のコーティング処理;パターン加工のために、ニッケル系金属、銅合金などによる金属メッキを施してもよい。
【0095】
また、集光や反射防止などを目的として成形体表面にパターンを形成する場合には、金型の金属コーティング面もしくは金属メッキ面またはスタンパ表面に、放電加工機、切削加工機などの公知の加工機で直接パターンを形成してもよく、電鋳などの方法でパターンを形成してもよい。
【実施例】
【0096】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
[物性の測定方法]
実施例・比較例で得られた重合体およびフィルムの物性測定は以下のとおりである。
【0097】
(1)構造分析
重合体の構造は、NMRを用いて、1Hおよび13C−NMR分析により確認した。測定溶媒として、重クロロホルムを用いた。
【0098】
(2)重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分子量分布
重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分子量分布は、TOSOH製HLC−8020型GPC装置を使用して測定した。溶媒として臭化リチウムおよび燐酸を添加したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用い、カラムとしてTOSOH製「TSKgel α−M」および「TSKgel α−2500」を順次連結したものを用いて、測定温度40℃、屈折率法にて、ポリスチレン換算の分子量を求めた。
【0099】
(3)ガラス転移温度(Tg)、熱分解温度
重合体またはフィルムのガラス転移温度(Tg)は、Rigaku社製8230型DSC測定装置を用いて、昇温速度20℃/分にて測定した。また、重合体の5%重量減少温度を、熱重量分析法(TGA)で、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分にて測定し、これを重合体の熱分解温度とした。
【0100】
(4)機械的強度
フィルムの室温における引張強度、破断伸びおよび引張弾性率は、INSTRON社製引張試験機5543を用いて、JIS K7127に準じて測定した。
【0101】
(5)環境安定性
フィルムの線膨張係数は、Seiko Instruments社製SSC−5200型TMA測定装置を用いて測定した。フィルムのガラス転移温度(Tg)まで昇温した後、降温速度3℃/分にて降温した際の200〜100℃での勾配から、線膨張係数を算出した。
【0102】
フィルムの湿度膨張係数は、SIIナノテクノロジー社製TMA−SS6100型TMA装置の湿度制御オプションを用いて、湿度40%RH→70%RH(引張法:加重5g)、温度23℃にて測定した。
【0103】
(6)光学特性
フィルムについて、全光線透過率をJIS K7105透明度試験法に準じて測定した。具体的には、フィルムの全光線透過率を、スガ試験社製SM−T型色彩測定器を用いて測定した。波長400nmにおける光線透過率については、JASCO社製V−570型UV/VIS/NIR分光器を用いて測定した。
【0104】
フィルムの屈折率は、Metricon社製2010型プリズムカップラーを用いて測定した。なお、屈折率は、波長633nmにおける屈折率であり、測定は、23℃、50%RHで行った。
【0105】
フィルムの位相差(Rth)は、大塚電子社製RETS分光器を用いて測定した。なお、測定の際の基準波長は589nmであり、位相差の評価膜厚は30μmに規格化した値で示した。
【0106】
(7)比抵抗値
三菱化学(株)製の低抵抗率計「ロレスタ−GP」を用い、下記実施例および比較例で得られた透明導電フィルムの透明導電層の表面抵抗値(比抵抗値)(Ω・cm)を測定した。
【0107】
[実施例1]
撹拌機、窒素導入管付き三方コックを取り付けた、窒素雰囲気下の300mLの3つ口フラスコに、イサチン7.36g(0.050mol)、ジフェノキエタン10.71g(0.050mol)、塩化メチレン50mLを添加した。
【0108】
続いてトリフルオロ酢酸(以下「TFA」ともいう)8.48g(0.743mol)とトリフルオロメタンスルホン酸(以下「TFSA」ともいう)8.48g(0.565mol)とを加え、撹拌を開始し、25℃で3時間反応させた。反応終了後に反応液をメタノールに投じて再沈殿させ、ろ別によりろ物(残渣)を単離した。得られたろ物を60℃で一晩真空乾燥し、白色粉末の重合体を得た。収量は16.30gであり、収率は95%であった。
【0109】
得られた重合体の物性を表1に示す。得られた重合体の構造分析および重量平均分子量の測定を行った。NMRスペクトルを図1A,Bに掲載する。重合体が、上述の構造単位(A1)を有することを確認した。GPC測定から重量平均分子量は74,000であった。
【0110】
次いで、得られた重合体をN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に再溶解し、重合体濃度20質量%の樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を、ポリエチレンテレフタラート(PET)からなる基板上にドクターブレードを用いて塗布し、70℃で30分乾燥させ、ついで100℃で30分乾燥してフィルムとした後、PET基板より剥離した。その後、フィルムを金枠に固定し、さらに180℃で2時間乾燥して、膜厚30μmの評価用フィルムを得た。
【0111】
得られた評価用フィルムの物性を表2に示す。
さらに、スパッタリング装置を用いて、得られた評価用フィルムの片面にアルゴン雰囲気下、180℃で5分間の成膜条件下で透明導電層を形成した。なお、ターゲット材料としては酸化インジウムスズ(ITO)を用いた。得られた透明導電フィルムの比抵抗値は、5.2×10-4(Ω・cm)であった。
【0112】
[実施例2]
イサチンの代わりにN−フェニルイサチン11.16g(0.050mol)を使用したこと以外は、実施例1と同様に行った。得られた重合体、フィルムおよび透明導電フィルムの物性を表1および表2に示す。
【0113】
[実施例3]
イサチンの代わりに2,2,2−トリフルオロアセトフェノン8.71g(0.050mol)を使用したこと以外は実施例1と同様に行った。得られた重合体、フィルムおよび透明導電フィルムの物性を表1および表2に示す。
【0114】
[比較例1]
ジフェノキエタンの代わりに1,4−ジフェノキシベンゼン13.12g(0.050mol)を使用したこと以外は実施例1と同様に行った。得られた重合体、フィルムおよび透明導電フィルムの物性を表1および表2に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
【表2】
【0117】
比較例に対して実施例において、複屈折率の指標となる位相差が小さい理由は、本発明者らは以下のように推測している。実施例1で得られた重合体の繰返し構造単位を下記(a)に、比較例1で得られた重合体の繰返し構造単位を下記(b)に示す。点線囲み部分は、芳香環同士のスペーサーを示す。
【0118】
【化10】
一般的に、重合体の主鎖方向の分極または側鎖方向の分極が大きいと、複屈折率は大きくなると考えられる。比較例1で得られた重合体は、ポリマー主鎖に含まれる2つの芳香環の間のスペーサー部分が−O−Ph−O−である。このため、上記(b)では、主鎖方向の芳香環同士が接近し過ぎて電子が動きやすくなっており、主鎖方向の分極が大きくなり、複屈折率が大きくなったと推測される。
【0119】
一方、実施例1で得られた重合体は、ポリマー主鎖に含まれる2つの芳香環の間のスペーサー部分が−O−(CH22−O−である。このため、上記(a)では、長いスペーサー部分で主鎖がフレキシブルに動くことができ、各方向の分極を低減でき、複屈折率が小さくなったと推測される。
【0120】
上記結果より、本発明のフィルムは、高屈折率・低位相差性を有することが分かる。また、本発明のフィルムは耐熱性に優れるため、その少なくとも一方の面に透明導電層を形成する際の成膜方法が限定されず、表面抵抗値の小さい透明導電フィルムを得ることができる。そのため、透明導電フィルムは、タッチパネル等に好適に用いることができる。
図1A
図1B