(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
タンディッシュから浸漬ノズルを介して鋳型に供給される金属溶湯の供給量を調整するためのアクチュエータの開度を所定の制御周期で制御することによって、鋳型内の金属溶湯の湯面レベルを制御する連続鋳造機の湯面レベル制御装置であって、
前記アクチュエータの開度の指示値である開度指令と、前回の制御周期での開度指令または前回の制御周期での前記アクチュエータの開度の実績値と、の差分である開度指令の差分を導出する開度指令差分導出手段と、
前記開度指令差分導出手段により導出された、前記開度指令の差分を補正した値である開度指令の差分の補正値を導出する開度指令差分補正手段と、
前記アクチュエータを駆動するパルスモータの単位ステップ当たりの動作に対応する前記アクチュエータの移動量に、前記アクチュエータを駆動するパルスモータの回転方向に応じた正負の符号が付された値であるアクチュエータ操作量で、前記開度指令差分補正手段により導出された、前記開度指令の差分の補正値を除する除算手段と、
前記除算手段で得られた商の整数部分の値である整数値が、第1の上下限の範囲内にあるか否かを判定する上下限判定手段と、
前記整数値と、所定の最小パルス幅とに基づいて、前記アクチュエータの開度を制御するためのパルス信号である開閉パルス信号を生成するパルス信号生成手段と、
前記整数値と、前記アクチュエータ操作量と、に基づいて、前記アクチュエータの移動量の積算値を、前記アクチュエータの開度の実績値として導出する積算値導出手段と、
前記パルス信号生成手段により生成された開閉パルス信号に基づく情報を出力する出力手段と、
を有し、
前記第1の上下限は、前記パルス信号生成手段により1つの前記開閉パルス信号を生成するための制御周期と、前記アクチュエータの移動速度と、前記アクチュエータの最小操作量の逆数と、の積に基づいて定められ、
前記開度指令差分補正手段は、前記上下限判定手段により、前記整数値が、前記第1の上下限の範囲内にあると判定された場合には、前記開度指令の差分と、前記除算手段で得られた商の小数点以下の部分の値である剰余と、を加算した値を、前記開度指令の差分の補正値として導出し、前記上下限判定手段により、前記整数値が、前記第1の上下限の範囲内にないと判定された場合には、前記剰余を使用せずに、前記開度指令の差分を、前記開度指令の差分の補正値として導出することを特徴とする連続鋳造機の湯面レベル制御装置。
前記開度指令差分導出手段は、前記アクチュエータの開度の指示値である開度指令と、前記積算値導出手段により前回の制御周期で導出された、前記アクチュエータの開度の実績値と、の差分を導出することを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造機の湯面レベル制御装置。
タンディッシュから浸漬ノズルを介して鋳型に供給される金属溶湯の供給量を調整するためのアクチュエータの開度を所定の制御周期で制御することによって、鋳型内の金属溶湯の湯面レベルを制御する連続鋳造機の湯面レベル制御方法であって、
前記アクチュエータの開度の指示値である開度指令と、前回の制御周期での開度指令または前回の制御周期での前記アクチュエータの開度の実績値と、の差分である開度指令の差分を導出する開度指令差分導出工程と、
前記開度指令差分導出工程により導出された、前記開度指令の差分を補正した値である開度指令の差分の補正値を導出する開度指令差分補正工程と、
前記アクチュエータを駆動するパルスモータの単位ステップ当たりの動作に対応する前記アクチュエータの移動量に、前記アクチュエータを駆動するパルスモータの回転方向に応じた正負の符号が付された値であるアクチュエータ操作量で、前記開度指令差分補正工程により導出された、前記開度指令の差分の補正値を除する除算工程と、
前記除算工程で得られた商の整数部分の値である整数値が、第1の上下限の範囲内にあるか否かを判定する上下限判定工程と、
前記整数値と、所定の最小パルス幅とに基づいて、前記アクチュエータの開度を制御するためのパルス信号である開閉パルス信号を生成するパルス信号生成工程と、
前記整数値と、前記アクチュエータ操作量と、に基づいて、前記アクチュエータの移動量の積算値を、前記アクチュエータの開度の実績値として導出する積算値導出工程と、
前記パルス信号生成工程により生成された開閉パルス信号に基づいて、前記アクチュエータの開度を制御する制御工程と、
を有し、
前記第1の上下限は、前記パルス信号生成工程により1つの前記開閉パルス信号を生成するための制御周期と、前記アクチュエータの移動速度と、前記アクチュエータの最小操作量の逆数と、の積に基づいて定められ、
前記開度指令差分補正工程は、前記上下限判定工程により、前記整数値が、前記第1の上下限の範囲内にあると判定された場合には、前記開度指令の差分と、前記除算工程で得られた商の小数点以下の部分の値である剰余と、を加算した値を、前記開度指令の差分の補正値として導出し、前記上下限判定工程により、前記整数値が、前記第1の上下限の範囲内にないと判定された場合には、前記剰余を使用せずに、前記開度指令の差分を、前記開度指令の差分の補正値として導出することを特徴とする連続鋳造機の湯面レベル制御方法。
前記開度指令差分導出工程は、前記アクチュエータの開度の指示値である開度指令と、前記積算値導出工程により前回の制御周期で導出された、前記アクチュエータの開度の実績値と、の差分を導出することを特徴とする請求項6に記載の連続鋳造機の湯面レベル制御方法。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造機の操業に際し、鋳型内の金属溶湯の湯面レベルを目標レベルに保つべく、湯面レベル制御を行うことは、鋳型内での金属溶湯の冷却と凝固状態とを安定化させることによって、製造される鋳片の品質を向上させる観点から極めて重要である。また、このような湯面レベル制御を行うことは、鋳型からの金属溶湯の溢れ出しやブレークアウトの発生等、安定操業を阻害する各種の不都合を未然に防止して、生産能率の向上を図る観点からも極めて重要である。
【0003】
かかる湯面レベル制御では、鋳型への金属溶湯の注入量を調整する装置として、スライディングノズル或いはストッパーを配置するとともに、湯面レベルを検出するレベル計を鋳型内の湯面の上方に配置する。そして、鋳型内の湯面レベルをレベル計で常時検出し、レベル計で検出した湯面レベルに基づいて、スライディングノズル或いはストッパーの開度をフィードバック制御することでタンディッシュから鋳型内へ注入する金属溶湯の注入量を調整する。このように連続鋳造機では、鋳型内の金属溶湯の湯面レベルを可及的に一定の目標レベルに保持する自動制御が実施される。
【0004】
前述したスライディングノズル或いはストッパーの駆動方式として、パルスモータを回転駆動して、ステッピングシリンダー(油圧シリンダー)のロッド位置を制御することにより、スライディングノズル或いはストッパーの開度を調整する方式がある。パルスモータを回転させる時間は、パルス信号のパルス幅に応じて定まり、ステッピングシリンダー(油圧シリンダー)のロッドの移動速度にパルス幅を乗じた時間だけ、パルスモータは回転する。また、スライディングノズル或いはストッパーの開度を大きくするときと小さくするときとではパルスモータの回転方向を異ならせる。したがって、パルスモータを用いた湯面レベル制御では、パルスモータの回転量と回転方向とを決定する必要がある。
【0005】
パルス信号の生成方法には種々の方法がある。例えば、スライディングノズル或いはストッパーの開度を大きくするためのパルス信号と、スライディングノズル或いはストッパーの開度を小さくするためのパルス信号と、を個別に生成する方法がある。また、例えば、パルス信号の値が正の場合に、スライディングノズル或いはストッパーの開度を大きくし、パルス信号の値が負の場合に、スライディングノズル或いはストッパーの開度を小さくする方法もある。
【0006】
かかる湯面レベル制御の手法として特許文献1、2に記載の技術がある。
まず、特許文献1に記載の技術を説明する。
図19は、特許文献1に記載の技術で、スライディングノズル或いはストッパーの開度を調整するためのパルス信号を生成する構成を示す図である。
図19において、減算器1901は、レベル計から逐次入力される鋳型内の溶鋼の表面の高さ位置(実測値)の目標値からの偏差を計算する。
PID制御部1902は、当該偏差を入力とするPID演算を一定の制御周期で行うことで、当該偏差を解消するために必要な目標開度を開度指令MVとして生成する。
差分化部1903は、今回の開度指令MVから前回の開度指令MVを減算して、開度指令の差分ΔMVを計算する。
加算器1904は、開度指令の差分ΔMVに、除算器1905から出力された剰余ΔMVAを加算して、開度指令の差分の補正値ΔMVBを計算する。
除算器1905は、開度指令の差分の補正値ΔMVBを、スライディングノズル或いはストッパーの最小操作量ΔNで除した商の整数部分の値である整数値Nをパルス発生器1906に出力する。また、除算器1905は、開度指令の差分の補正値ΔMVBを、スライディングノズル或いはストッパーの最小操作量で除した商の小数点以下の部分の値である剰余ΔMVAを加算器1904に出力する。以下の説明では、「開度指令の差分の補正値ΔMVBを、スライディングノズル或いはストッパーの最小操作量ΔNで除した商の整数部分の値である整数値N」を必要に応じて「整数値N」と略称する。また、「開度指令の差分の補正値ΔMVBを、スライディングノズル或いはストッパーの最小操作量ΔNで除した商の小数部分の値である剰余ΔMVA」を必要に応じて「剰余ΔMVA」と略称する。
【0007】
整数値Nの絶対値は、ステッピングシリンダー(油圧シリンダー)のロッドの位置を変更するために、パルスモータに与えるパルス数を表す。また、整数値Nの符号(正負)は、パルスモータの回転方向を表す。例えば、整数値Nが正の場合、スライディングノズル或いはストッパーの開度を大きくするようにパルスモータを回転させることを表し、負の場合、スライディングノズル或いはストッパーの開度を小さくするようにパルスモータを回転させることを表す。
【0008】
パルス発生器1906は、除算器1905から出力された整数値Nに、パルス発生器1906で生成されるパルス信号の最小パルス幅を乗じたパルス幅を有し、且つ、整数値Nの符号に対応する極性を有するパルス信号を、パルスモータの制御装置と積算カウンタ1907に出力する。
積算カウンタ1907は、パルス発生器1906から出力されたパルス信号に基づいて、スライディングノズル或いはストッパーの移動量の積算値MVSを導出する。このパルス信号の積算値MVSにより、ステッピングシリンダー(油圧シリンダー)のロッドの位置を特定することができる。
【0009】
ところで、パルス発生器1906から発生するパルス信号のパルス幅には上限値(最大パルス幅)がある。すなわち、パルス発生器1906は、以下の(1)式の範囲の整数値Nに、ステッピングシリンダー(油圧シリンダー)のロッドの移動速度を乗じたパルス幅を有するパルス信号しか生成することができない。
−NMAX≦N≦NMAX ・・・(1)
【0010】
したがって、(1)式の範囲外の整数値Nが除算器1905から出力されても、パルス発生器1906は、(1)式の上限値NMAX又は下限値−NMAXに、ステッピングシリンダー(油圧シリンダー)のロッドの移動速度を乗じたパルス幅を有するパルス信号を生成して出力することになる。このことをパルスの飽和と呼ぶ。
【0011】
特許文献1に記載の技術では、このようなパルスの飽和があっても、整数値Nの不足分を補正しないので、パルスの飽和があると、スライディングノズル或いはストッパーの移動量の積算値MVSと、開度指令MVとの差が大きくなる。よって、開度指令MVに合うようにスライディングノズル或いはストッパーの開度を制御することができず、鋳型内の金属溶湯の湯面レベルを目標値に正常に追従させることができなくなる虞がある。
【0012】
このような課題に対し、特許文献2に記載の技術がある。以下に、特許文献2に記載の技術を説明する。
図20は、特許文献2に記載の技術で、スライディングノズル或いはストッパーの開度を調整するためのパルス信号を生成する構成を示す図である。
図20において、減算器2001は、レベル計から逐次入力される鋳型内の溶鋼の表面の高さ位置(実測値)の目標値からの偏差を計算する。
PID制御部2002は、当該偏差を入力とするPID演算を一定の制御周期で行うことで、当該偏差を解消するために必要な目標開度を開度指令MVとして生成する。
【0013】
減算器2003は、開度指令MVから、積算カウンタ2007によりフィードバックされたパルス信号の積算値MVSを減算して開度指令の差分ΔMVを計算する。
加算器2004は、開度指令の差分ΔMVに、除算器2005から出力された剰余ΔMVAを加算して、開度指令の差分の補正値ΔMVBを計算する。
除算器2005は、開度指令の差分の補正値ΔMVBを、スライディングノズル或いはストッパーの最小操作量ΔNで除した値の整数部分の値である整数値Nをパルス発生器2006に出力する。また、除算器2005は、開度指令の差分の補正値ΔMVBを、スライディングノズル或いはストッパーの最小操作量で除した値の小数点以下の部分を剰余ΔMVAとして加算器2004に出力する。
【0014】
パルス発生器2006は、除算器2005から出力された整数値Nに、パルス発生器2006で生成されるパルス信号の最小パルス幅を乗じたパルス幅を有し、且つ、整数値Nの符号に対応する極性を有するパルス信号を、パルスモータの制御装置と積算カウンタ2007に出力する。
積算カウンタ2007は、パルス発生器2006から出力されたパルス信号に基づいて、スライディングノズル或いはストッパーの移動量の積算値MVSを導出する。そして、積算カウンタ2007は、スライディングノズル或いはストッパーの移動量の積算値MVSを減算器2003に出力(フィードバック)する。このパルス信号の積算値MVSにより、ステッピングシリンダー(油圧シリンダー)のロッドの位置を特定することができる。
【0015】
このように特許文献2に記載の技術では、開度指令MVから、スライディングノズル或いはストッパーの移動量の積算値MVSを減算して、開度指令の差分ΔMVを算出し、開度指令の差分ΔMVを、整数値Nに反映させる。したがって、特許文献1に記載の技術に比べると、パルスの飽和があった場合でも、スライディングノズル或いはストッパーの移動量の積算値MVSと、開度指令MVとの差が大きくなることを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。尚、各図では、説明の都合上、説明に必要な部分のみを省略化又は簡略化して示す。
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態の連続鋳造機の湯面レベル制御装置を適用した連続鋳造機の構成の一例を示す図である。尚、以下の説明では、連続鋳造機の湯面レベル制御装置を必要に応じてレベル制御装置と略称する。
図1において、連続鋳造機は、タンディッシュ11と、浸漬ノズル12と、ストッパー13と、鋳型(モールド)14と、ピンチロール15と、冷却スプレー16とを有する。
【0026】
タンディッシュ11は、不図示の取鍋から供給された溶鋼(金属溶湯)17を一時的に貯留する。
鋳型14は、タンディッシュ11と間隔を有して、タンディッシュ11の下方に配置される。鋳型14は、例えば筒形状を有する。また、鋳型14は水冷される。
浸漬ノズル12は、タンディッシュ11に貯留されている溶鋼17を鋳型14の内部に注入する。浸漬ノズル12は、その基端がタンディッシュ11の底面に位置するとともに、先端側の所定の領域が鋳型14の内部に位置するように配置される。また、浸漬ノズル12の内部とタンディッシュ11の内部は連通している。
【0027】
ストッパー13は、タンディッシュ11から浸漬ノズル12に供給される溶鋼17の供給量を制御するためのものであり、タンディッシュ11と浸漬ノズル12との接続部分に配置される。ストッパー13は、高さ方向(
図1の上下方向)に移動する。ストッパー13が最も低い位置にあるときに、タンディッシュ11と浸漬ノズル12との接続部分は全閉する。ストッパー13が当該位置よりも高い位置に位置するほど、タンディッシュ11と浸漬ノズル12との接続部分の開口面積が増加する。ストッパー13が所定の上限位置まで上昇すると、タンディッシュ11から浸漬ノズル12に供給される溶鋼17の供給量は最大となる。
【0028】
鋳型14から下方に引き出された鋼(の相互に対向する端部)の搬送経路に沿うように、複数対のピンチロール15が配置される。ピンチロール15の外側には、鋳型14から下方に引き出された鋼を冷却するための冷却水を当該鋼に対して噴射する複数の冷却スプレー16が配置される。
このように、鋳型14の内部の注入された溶鋼は、鋳型14で冷却され、その表面から凝固殻18が形成されて凝固する。表面は凝固殻18となっているが内部は凝固していない鋼が、ピンチロール15によって挟まれながら鋳型14の下端部から連続的に引き出される。このようにして鋳型14から引き出される過程で、冷却スプレー16から噴射される冷却水によって鋼の冷却を進めることで、内部まで鋼を凝固させる。このようにして凝固した鋼は、図示しない連続鋳造機の下流側で所定の大きさに切断され、スラブ、ブルーム、ビレッド等、断面の形状が異なる鋳片が製造される。
【0029】
以上のような連続鋳造機の鋳型14の内部に滞留する溶鋼の表面を臨むように、鋳型14の上方に、レベル計19が配置される。レベル計19は、鋳型14の内部に滞留する溶鋼17の表面の高さ位置(湯面レベル)を検出する。
レベル制御装置100は、レベル計19で検出された溶鋼の高さ位置を湯面レベルとして入力し、ストッパー13の開度の変更分を表すパルス信号である開閉パルス信号を出力する。レベル制御装置100の詳細については後述する。
【0030】
ST制御装置200は、油圧シリンダー300を動作させるためのパルスモータの駆動回路を備える。ST制御装置200は、レベル制御装置100から出力された開閉パルス信号を入力して、当該駆動回路等による処理を行った後の開閉パルス信号を、油圧シリンダー300に出力する。尚、レベル制御装置100は、開閉パルス信号の代わりに、当該開閉パルス信号に含まれる情報を表すアナログ信号をST制御装置200に出力することができる。この場合、ST制御装置200は、レベル制御装置100から出力されたアナログ信号に基づいて開閉パルス信号を生成して油圧シリンダー300に出力する。
【0031】
油圧シリンダー300は、パルスモータを備える。パルスモータは、ST制御装置200から送信される開閉パルス信号に基づいて回転し、この回転により、油圧シリンダー300のロッドの位置を変更する。油圧シリンダー300は、公知の技術で実現できるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
【0032】
図2は、連続鋳造機の湯面レベル制御装置100aの構成の第1の例を示す図である。レベル制御装置100aのハードウェアは、例えば、プログラマブルコントローラ又はパーソナルコンピュータを用いることにより実現することができる。
図2において、減算器101は、レベル計19から、溶鋼の表面の高さ位置の情報を逐次入力する。減算器101は、溶鋼の表面の高さ位置の目標値から、レベル計19から入力した溶鋼の表面の高さ位置の実測値を減算し、溶鋼の表面の高さ位置の実測値の目標値からの偏差を計算する。
【0033】
PID制御部102は、減算器101で計算された偏差を入力とするPID演算を一定の制御周期で行うことで、当該偏差を解消するために必要なストッパー13の目標開度を開度指令MVとして生成する。本実施形態では、ストッパー13の開度は、運転状態の釣り合い点のときに0(ゼロ)をとるものとする。また、ストッパー13の開度は、このときよりもストッパー13が開く場合に正の値となり、閉まる場合に負の値をとるものとする。開度指令MVは、このようなストッパー13の開度の指示値である。尚、運転状態が釣り合うとは、鋳型14の水平断面積と鋳造速度(鋳型14から引き抜かれる鋼の引き抜き速度)とを乗算した値と、ストッパー13の開度により定まる浸漬ノズル12の開口面積とタンディッシュ11から鋳型14に流出する溶鋼の流出速度とを乗算した値と、の釣り合いがとれることをいう。
【0034】
差分化部103は、以下の(2)式の計算を行って、開度指令の差分ΔMVを計算する。
ΔMV(i)=MV(i)−MV(i−1) ・・・(2)
(2)式において、MVは、PID制御部102で生成された開度指令である。また、変数iは、レベル制御装置100aの制御周期が経過する(開閉パルス信号の計算を開始する)たびに、1から順にインクリメントされる正の整数である。すなわち、MV(i)は、レベル制御装置100aの今回の制御周期で得られた開度指令であり、MV(i−1)は、レベル制御装置100aの前回の制御周期で得られた開度指令である。
【0035】
加算器104は、以下の(3)式により、開度指令の差分の補正値ΔMVBを計算する。
ΔMVB(i)=ΔMV(i)+ΔMVA(i−1) ・・・(3)
(3)式において、ΔMVAは、後述する切り捨て処理部107から出力された剰余(開度指令の差分の補正値ΔMVBを、ストッパー13の最小操作量ΔNで除した商の小数点以下の部分)である。この(3)式の計算を行うことによって、前回の開度指令の差分ΔMVのうち、前回の開閉パルス信号に反映することができなかった部分を、今回の開閉パルス信号の計算に反映させることができる。
【0036】
ここで、ストッパー13の最小操作量ΔNは、ストッパー13の開度の分解能に対応するものであり、パルスモータの単位ステップ(1ステップ)の回転により変更されるストッパー13の開度(油圧シリンダー300のロッドの移動量)を表す。ストッパー13の最小操作量ΔN[mm]は、以下の(4)式で表される。
ΔN=MPW×SV×1000 ・・・(4)
(4)式において、MPWは、パルス発生器108で生成される開閉パルス信号の最小パルス幅[msec]である。SVは、ストッパー13(油圧シリンダー300のロッド)の移動速度[mm/sec]である。本実施形態では、ストッパー13の移動速度SVは、一定であり、予め定められるものとする。
このように、ストッパー13の最小操作量ΔN[mm]は、ST制御装置200で受け付けることができるパルス幅の最小値に相当する時間内に、ストッパー13(油圧シリンダー300のロッド)を移動させることができる距離を表す。本実施形態では、ストッパー13の開度を大きくする方向(正の方向)のストッパー13の最小操作量ΔNを正の値とし、小さくする方向(負の方向)のストッパー13の最小操作量ΔNを負の値とする。
【0037】
パルス発生器108では、最小パルス幅MPWよりも小さいパルス幅の開閉パルス信号を出力することができない。ST制御装置200やパルスモータで最小パルス幅MPWよりも小さいパルス幅の開閉パルス信号を識別できないことや、レベル制御装置100aのパルス発生器108で最小パルス幅MPVよりも小さいパルス幅の開閉パルス信号を生成できないこと等によって、このような最小パルス幅MPWが生じる。このように最小パルス幅MPWは、システムの制約により予め定められるものである。
【0038】
除算器105は、以下の(5)式のように、加算器104で計算された開度指令の差分の補正値ΔMVBを、ストッパー13の最小操作量ΔNで除して、その商Xnの整数部分の値である整数値Nを計算する。
N(i)=切り捨て(ΔMVB(i)÷ΔN) ・・・(5)
(5)式において、切り捨て(X)は、商Xの絶対値を超えない大きさの整数値であって、商Xに最も近い整数値を与える関数である。
【0039】
上下限判定部106は、除算器105で計算された整数値Nが、下限値−NMAXから上限値NMAXまでの範囲内にあるか否かを判定する(発明が解決しようとする課題の欄に示した(1)式を参照)。ここで、整数値Nの上限値NMAXは、以下の(6)式で表される。
NMAX=ΔT×SV×1000÷ΔN ・・・(6)
(6)式において、ΔTは、レベル制御装置100aの(1つの開閉パルス信号を生成するための)制御周期[msec]である。
また、上下限判定部106は、(5)式で計算した整数値Nをパルス発生器108に出力する。
【0040】
切り捨て処理部107は、以下の(7)式により、開度指令の差分の補正値ΔMVBを、ストッパー13の最小操作量ΔNで除した商の小数点以下の部分の値である剰余ΔMVAを計算する。
ΔMVA(i)=ΔMVB(i)−N(i)×ΔN ・・・(7)
【0041】
切り捨て処理部107は、上下限判定部106により、除算器105で計算された整数値Nが、下限値−NMAXから上限値NMAXまでの範囲内にあると判定された場合に、(7)式で計算した剰余ΔMVAを加算器104に出力する。一方、上下限判定部106により、除算器105で計算された整数値Nが、下限値−NMAXから上限値NMAXまでの範囲内にないと判定された場合、切り捨て処理部107は、(7)式で計算した剰余ΔMVAを加算器104に出力しない。この場合、切り捨て処理部107は、例えば、0(ゼロ)を剰余ΔMVAとして加算器104に出力する。
【0042】
パルス発生器108は、上下限判定部106から出力された整数値Nに、パルス発生器108で生成される開閉パルス信号の最小パルス幅MPWを乗じたパルス幅を有し、且つ、整数値Nの符号に対応する極性を有するパルス信号を、変数iで特定されるレベル制御装置100aの今回の制御周期における開閉パルス信号として、ST制御装置200と積算カウンタ109に出力する。
積算カウンタ109は、以下の(8)式の計算を行って、ストッパー13(油圧シリンダー300のロッド)の移動量の積算値MVSを計算する。
【0044】
以上のように、本発明者らは、
図2に示すようにしてレベル制御装置100aを構成すれば、パルスの飽和が発生した場合には、開度指令の差分の補正値ΔMVBを、ストッパー13の最小操作量ΔNで除した値の剰余ΔMVAを、開度指令の差分ΔMVに加算しないようにすることで、前述した課題を解決できることを見出した。一方で、本発明者らは、
図2に示す構成にした場合、パルスの飽和が発生すると、剰余ΔMVAの切り捨てに伴い、開度指令MVと、ストッパー13(油圧シリンダー300のロッド)の移動量の積算値MVSとの乖離が発生することを見出した。
【0045】
このような知見を踏まえ、本発明者らは、
図3に示すようにしてレベル制御装置を構成することを見出した。
図3は、連続鋳造機の湯面レベル制御装置100bの構成の第2の例を示す図である。レベル制御装置100bのハードウェアも、例えば、プログラマブルコントローラ又はパーソナルコンピュータを用いることにより実現することができる。
図3に示すレベル制御装置100bは、
図2に示したレベル制御装置100aの差分化部103に代えて減算器110を設けたものである。この減算器110は、開度指令MVから、積算カウンタ109により出力(フィードバック)されたストッパー13(油圧シリンダー300のロッド)の移動量の積算値MVSを減算して開度指令の差分ΔMVを計算する。
【0046】
具体的に、減算器110は、以下の(9)式により、開度指令の差分ΔMVを計算する。
ΔMV(i)=MV(i)−MVS(i−1) ・・・(9)
(9)式において、MVは、前述したようにPID制御部102で生成された開度指令である。MVSは、積算カウンタ109により出力された、ストッパー13(油圧シリンダー300のロッド)の移動量の積算値である。
開度指令の差分ΔMVは、これまでにレベル制御装置100で生成されたストッパー13の開度が、新たに生成された今回の開度指令NV(i)と、どのくらい異なるかを示すものである。
このようにして得られた開度指令の差分ΔMVが加算器104に出力される。
【0047】
積算カウンタ109は、前述したように(8)式の計算を行って、ストッパー13(油圧シリンダー300のロッド)の移動量の積算値MVSを計算する。
図3に示すレベル制御装置100bでは、ストッパー13(油圧シリンダー300のロッド)の移動量の積算値MVSは、ストッパー13の開度の実績値として、減算器110に出力される。
レベル制御装置100bのこの他の構成は、
図2に示したレベル制御装置100aの構成と同じであるので、ここでは当該構成の詳細な説明を省略する。
【0048】
以上のように本実施形態では、除算器105で計算された整数値Nが、下限値−NMAXから上限値NMAXまでの範囲にない場合(パルスの飽和が発生した場合)には、開度指令の差分の補正値ΔMVBをストッパー13の最小操作量ΔNで除した値の剰余ΔMVAを、レベル制御装置100の次回の制御周期において、開度指令の差分ΔMVに加算しないようにした。したがって、パルス飽和があった場合に開度指令の差分ΔMVを過剰に補正することを抑制することができる。よって、油圧シリンダー300のロッドを過剰に移動させることがなくなり、ストッパー13の開度が必要以上に大きく(又は小さく)なってしまうことを抑制することができる。これにより、タンディッシュ11から鋳型14内へ注入する溶鋼の注入量が必要以上に多く(又は小さく)なり、鋳型14内の溶鋼の湯面レベルを必要以上に変動させてしまうことを抑制することができる。また、パルス飽和があった場合に開度指令の差分ΔMVを過剰に補正しないので、積算カウンタ109から出力されたストッパー13(油圧シリンダー300のロッド)の移動量の積算値MVSはハンチングせずに、開度指令MVに滑らかに追従するようになる。
【0049】
また、
図3に示すように、開度指令MVから、ストッパー13(油圧シリンダー300のロッド)の移動量の積算値MVSを減算して開度指令の差分ΔMVを生成して加算器104に出力した。したがって、パルスの飽和があった場合に、開度指令MVと、ストッパー13(油圧シリンダー300のロッド)の移動量の積算値MVSとが乖離することを確実に抑制することができる。このように
図3に示す構成にするのが好ましいが、
図2に示す構成にしても、パルス飽和があった場合に開度指令の差分ΔMVを過剰に補正しないので、
図2に示す構成を採用してもよい。
【0050】
本実施形態では、タンディッシュ11から鋳型14内へ注入する溶鋼の注入量を調整するアクチュエータとして、ストッパー13を用いた場合を例に挙げて説明した。しかしながら、タンディッシュ11から鋳型14内へ注入する溶鋼の注入量を制御するアクチュエータは、ストッパー13に限定されるものではない。
図4は、本実施形態の連続鋳造機のレベル制御装置を適用した連続鋳造機の構成の変形例を示す図である。
【0051】
図4に示す連続鋳造機では、
図1に示した連続鋳造機に配置したストッパー13に代えて、スライディングノズル20を配置したものである。連続鋳造機のその他の構成は、
図1に示した連続鋳造機の構成と同じである。
スライディングノズル20は、ストッパー13と同様に、タンディッシュ11から浸漬ノズル12に供給される溶鋼17の供給量を制御するためのものであり、浸漬ノズル12の上部に配置される。スライディングノズル20は、ゲート板21を有する。ゲート板21が水平方向に移動することにより、スライディングノズル20の開度(浸漬ノズル12の開口面積)が変化する。
【0052】
レベル制御装置100は、前述したレベル制御装置100a、100bと同じ構成を有する。ただし、前述した説明において、ストッパー13(油圧シリンダー300)に関する部分がスライディングノズル(油圧シリンダー500)に関するものになる。
具体的に説明すると、スライディングノズル20の開度は、例えば、運転状態の釣り合い点のときに0(ゼロ)となり、このときよりもスライディングノズル20が開く場合に正の値となり、スライディングノズル20が閉まる場合に負の値をとるものとする。MVは、このような開度の指示値である開度指令になる。次に、MVSは、スライディングノズル20(油圧シリンダー500のロッド)の移動量の積算値になる。次に、ΔNは、スライディングノズル20の最小操作量になる。最後に、SVは、スライディングノズル20(油圧シリンダー500のロッド)の移動速度[mm/sec]になる。
【0053】
SN制御装置400は、油圧シリンダー500を動作させるためのパルスモータの駆動回路を備える。SN制御装置400は、
図1に示したST制御装置200と同様に、レベル制御装置100から出力された開閉パルス信号を入力して、当該駆動回路等による処理を行った後の開閉パルス信号を、油圧シリンダー500に出力する。尚、前述したように、レベル制御装置100が、開閉パルス信号に含まれる情報を表すアナログ信号をSN制御装置400に出力する場合、SN制御装置400は、レベル制御装置100から出力されたアナログ信号に基づいて開閉パルス信号を生成して油圧シリンダー500に出力する。
【0054】
油圧シリンダー500は、
図1に示した油圧シリンダー300と同様に、パルスモータを備える。パルスモータは、SN制御装置400から送信される開閉パルス信号に基づいて回転し、この回転により、油圧シリンダー500のロッドの位置を変更する。
図1に示した油圧シリンダー300は、ストッパー13のロッドを高さ方向に動かせるように配置される。これに対し、
図4に示す油圧シリンダー500は、スライディングノズル20のゲート板21を水平方向に動かせるように配置される。
【0055】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
前述した第1の実施形態では、ストッパー13(油圧シリンダー300のロッド)の移動量の積算値の、開度指令MVからの偏差を、開度指令の差分ΔMVとし、当該開度指令の差分ΔMVを一度に解消する場合を例に挙げて説明した。これに対し、本実施形態では、パルスの飽和によって開閉パルス信号に含めることができなかった部分を、ストッパー13(又はスライディングノズル20)の最小操作量ΔNの単位で、次回の開閉パルス信号に反映させる。このように本実施形態と第1の実施形態とは、レベル制御装置の構成のうち、パルスの飽和を抑制するための構成等が主として異なる。したがって、本実施形態の説明において、第1の実施形態と同一の部分については、
図1〜
図4に付した符号と同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0056】
尚、本実施形態では、タンディッシュ11から鋳型14内へ注入する溶鋼の注入量を制御するアクチュエータとして、ストッパー13を用いた場合を例に挙げて説明する。ただし、本実施形態でも、第1の実施形態と同様に、かかるアクチュエータとして、スライディングノズル20等を用いることができる。
【0057】
図5は、連続鋳造機の湯面レベル制御装置100cの構成の第3の例を示す図である。レベル制御装置100cのハードウェアは、例えば、プログラマブルコントローラ又はパーソナルコンピュータを用いることにより実現することができる。
本実施形態のレベル制御装置100cでも、第1の実施形態のレベル制御装置100a、100bと同様に、PID制御部102によって開度指令MVが生成される。また、レベル制御装置100aと同様に、差分化部103による前述した(2)式の計算により、開度指令の差分ΔMVが計算される。
【0058】
加算器601は、差分化部103から出力された開度指令の差分ΔMVを用いて、以下の(10)式の計算を行い、開度指令の差分の補正値ΔMVBを計算する。
ΔMVB(i)=ΔMV(i)+ΔMVA(i−1)+ΔMVC(i−1) ・・・(10)
(10)式において、ΔMVC(i−1)は、後述する最小パルス幅補正部602から出力される補正操作量である。補正操作量ΔMVCの絶対値としてとり得る値は、例えば、ストッパー13の最小操作量ΔNである。
【0059】
第1の実施形態で説明したように、切り捨て処理部107は、除算器105で計算された整数値N(開度指令の差分の補正値ΔMVBを、ストッパー13の最小操作量ΔNで除した商の整数部分)が、上下限判定部106で下限値−NMAXから上限値NMAXまでの範囲にあると判定された場合に限り、当該商の小数点以下の部分である剰余ΔMVAを加算器104に出力する。
パルス発生器108は、第1の実施形態で説明したのと同様の開閉パルス信号を、ST制御装置200と積算カウンタ109に出力する。
積算カウンタ109は、第1の実施形態で説明した(8)式の計算を行って、ストッパー13(油圧シリンダー300のロッド)の移動量の積算値MVSを計算し、指令比較判定部603に出力する。
【0060】
指令比較判定部603は、以下の(11)式、(12)式の計算を行う。すなわち、指令比較判定部603は、積算カウンタ109により出力されたストッパー13(油圧シリンダー300のロッド)の移動量の積算値MVSから、開度指令MVを減算した値が正の閾値Thを上回るか否かを判定する。また、指令比較判定部603は、積算カウンタ109から出力されたストッパー13(油圧シリンダー300のロッド)の移動量の積算値MVSから、開度指令MVを減算した値が負の閾値−Thを下回るか否かを判定する。
MVS(i−1)−MV(i)>Th ・・・(11)
MVS(i−1)−MV(i)<−Th ・・・(12)
(11)式、(12)式において、本実施形態では、閾値Th、−Thの絶対値は同じであるものとする。また、閾値Th、−Thの絶対値として、例えば、ストッパー13の最小操作量ΔNの絶対値を採用することができる。
【0061】
最小パルス幅補正部602は、指令比較判定部603により、積算カウンタ109により出力されたストッパー13(油圧シリンダー300のロッド)の移動量の積算値MVSから、開度指令MVを減算した値が正の閾値Thを上回ると判定された場合、補正操作量ΔMVCとして、ストッパー13の正の方向の最小操作量+ΔN(>0)を選択する。
一方、積算カウンタ109から出力されたストッパー13(油圧シリンダー300のロッド)の移動量の積算値MVSから、開度指令MVを減算した値が負の閾値−Thを下回ると判定された場合、最小パルス幅補正部602は、補正操作量ΔMVCとして、ストッパー13の負の方向の最小操作量−ΔN(<0)を選択する。
【0062】
さらに、指令比較判定部603により、積算カウンタ109により出力されたストッパー13(油圧シリンダー300のロッド)の移動量の積算値MVSから、開度指令MVを減算した値が、負の閾値−Thから正の閾値Thまでの範囲にある場合、最小パルス幅補正部602は、補正操作量ΔMVCとして、0(ゼロ)を選択する。
以上のようにして最小パルス幅補正部602により得られた補正操作量ΔMVCが、加算器601に出力される。
【0063】
以上のように本実施形態では、ストッパー13(油圧シリンダー300のロッド)の移動量の積算値MVSから、開度指令MVを減算した値が閾値Thを上回る(閾値−Thを下回る)場合に、ストッパー13の最小操作量+ΔN(−ΔN)に相当する補正操作量ΔMVCを、剰余ΔMVA(開度指令の差分の補正値ΔMVBを、ストッパー13の最小操作量ΔNで除した商の小数点以下の部分)とともに、開度指令の差分ΔMVに加算するようにした。
したがって、第1の実施形態で説明したように、パルス飽和があった場合に開度指令の差分ΔMVを過剰に補正することを抑制することができるとともに、ストッパー13(油圧シリンダー300のロッド)の移動量の積算値MVSを開度指令MVに滑らかに追従させることができる。
【0064】
また、本実施形態では、開度指令MVと、ストッパー13(油圧シリンダー300のロッド)の移動量の積算値MVSとの差分を、ストッパー13の最小操作量+ΔN(−ΔN)に相当する補正操作量ΔMVCの単位で整数値Nの計算に反映させるようにした。したがって、開度指令MVと、ストッパー13(油圧シリンダー300のロッド)の移動量の積算値MVSとの差分を補正操作量ΔMVCの単位で解消することになる。よって、浸漬ノズル12の溶損等があることによって、湯面レベルの制御ゲインが相対的に高まり、これにより湯面レベルがハンチングする場合でも、パルスの飽和に伴う補正によってパルスの飽和が起こりやすくなることを抑制することができる。
【0065】
尚、本実施形態では、補正操作量ΔMVCを加算器601で加算する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、
図5に示した加算器601を
図2に示した加算器104に置き換えるとともに、除算器105と上下限判定部106との間に、整数値Nと補正操作量ΔMVCとを加算する加算器を設けるようにしてもよい。
【0066】
尚、以上説明した本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0067】
(実施例)
次に、本発明の実施例について説明する。
ここでは、以下の条件で、特許文献1(
図19)、特許文献2(
図20)、第1の実施形態(
図3)、第2の実施形態(
図5)のレベル制御装置により、
図1に示す連続鋳造機におけるストッパー13の位置(溶鋼17の表面の高さ位置(湯面レベル))を制御するシミュレーションを、コンピュータを用いて行った。尚、レベル制御装置を異ならせた他は、全て同じ条件でシミュレーションを行った。
ストッパー13の移動速度SV=2.0[mm/sec]
最大パルス幅=50[msec]
最小パルス幅=10[msec]
【0068】
図6〜
図18にその結果を示す。
図6は、特許文献1のレベル制御装置を用いた場合の油面レベルと時間との関係を示す図であり、
図7は、特許文献1に記載の技術を用いた場合のストッパー13の開度と時間との関係を示す図である。
図8は、特許文献2のレベル制御装置を用いた場合の油面レベルと時間との関係を示す図であり、
図9は、特許文献2に記載の技術を用いた場合のストッパー13の開度と時間との関係を示す図である。また、
図10は、
図9の0〜20[sec]の部分を拡大して示す図である。同様に、
図11、
図14は、それぞれ、第1、第2の実施形態のレベル制御装置100b、100cを用いた場合の油面レベルと時間との関係を示す図であり、
図12、
図15は、それぞれ、第1、第2の実施形態のレベル制御装置100b、100cを用いた場合のストッパー13の開度と時間との関係を示す図であり、
図13、
図16は、それぞれ、
図12、
図15の0〜20[sec]の部分を拡大して示す図である。
【0069】
図6、
図8、
図11、
図14において、縦軸の湯面レベルの値は、湯面レベルの目標値を0(ゼロ)として規格化した値である。また、
図7、
図9、
図10、
図12、
図13、
図15、
図16において、縦軸のストッパーの開度の値は、運転状態の釣り合い点のときの値を0(ゼロ)として規格化した値である。また、
図6〜
図16において、シミュレーションを開始したタイミングの時間を0(ゼロ)とした。
【0070】
図6、
図8、
図11、
図14において、LTは、湯面レベルの目標値であり、LM1、LM2、LM3、LM4は、シミュレーションにより得られた湯面レベルの実績である。また、
図7、
図9、
図10、
図12、
図13、
図15、
図16において、MVは、開度指令であり、MVS1、MVS2、MVS3、MVS4は、シミュレーションにより得られた開度の実績(ストッパー13の移動量の積算値)である。
【0071】
まず、特許文献1に記載の技術の結果について説明する。
図6に示すように、特許文献1に記載の技術では、パルスの飽和により、湯面レベルの実績LM1は、目標値LTに追従しきれずに、時間の経過に伴い、目標値LTに対する偏差は拡大する。これにより、
図7に示すように、開度指令MVに対する偏差も時間の経過に伴い拡大する。
【0072】
次に、特許文献2に記載の技術の結果について説明する。
特許文献2に記載の技術では、開度指令MVから、ストッパー13の移動量の積算値MVSを減算して、開度指令の差分ΔMVを算出し、開度指令の差分ΔMVを、整数値Nに反映させる。したがって、
図8に示すように、パルスの飽和があっても、湯面レベルの実績LM2と目標値LTとの乖離は解消される。また、
図9に示すように、開度指令MVに対する偏差の拡大も抑制される。
しかしながら、特許文献2に記載の技術では、加算器2004によって、除算器2005で得られた剰余ΔMVAの分だけ過剰に補正をすることになる。したがって、
図10に示すように、開度指令MVに対し、開度の実績MV2は、ハンチングしながら追従する。
【0073】
次に、第1の実施形態の結果について説明する。
第1の実施形態でも、開度指令MVから、ストッパー13の移動量の積算値MVSを減算して、開度指令の差分ΔMVを算出し、開度指令の差分ΔMVを、整数値Nに反映させる。したがって、
図11に示すように、パルスの飽和があっても、湯面レベルの実績LM2と目標値LTとの乖離は解消される。また、
図12に示すように、開度指令MVに対する偏差の拡大も抑制される。さらに、パルスの飽和が発生した場合には、開度指令の差分の補正値ΔMVBを、ストッパー13の最小操作量ΔNで除した値の剰余ΔMVAを、レベル制御装置100の次回の制御周期において、開度指令の差分ΔMVに加算しない。したがって、
図13に示すように、開度指令MVに対し、開度の実績MV3は、ハンチングせずに滑らかに追従する。
【0074】
次に、第2の実施形態の結果について説明する。
第2の実施形態では、ストッパー13の移動量の積算値MVSから、開度指令MVを減算した値が閾値Thを上回る(閾値−Thを下回る)場合に、ストッパー13の最小操作量+ΔN(−ΔN)に相当する補正操作量ΔMVCを、開度指令の差分ΔMVに加算する。したがって、
図14に示すように、パルスの飽和があっても、湯面レベルの実績LM2と目標値LTとの乖離は解消される。また、
図15に示すように、開度指令MVに対する偏差の拡大も抑制される。さらに、パルスの飽和が発生した場合には、開度指令の差分の補正値ΔMVBを、ストッパー13の最小操作量ΔNで除した値の剰余ΔMVAを、レベル制御装置100の次回の制御周期において、開度指令の差分ΔMVに加算しない。したがって、
図16に示すように、開度指令MVに対し、開度の実績MV4は、ハンチングせずに滑らかに追従する。尚、第1の実施形態に比べると、剰余ΔMVAの値が小さくなる傾向にあるので、開度指令MVに対し、開度の実績MV4は、若干遅れ気味に追従する。
【0075】
図17は、
図6、
図8、
図11、
図14に示した結果から求めた、湯面レベルの実績LM1、LM2、LM3、LM4の目標値LTに対する偏差の平均値と標準偏差を示す図である。
図17に示す平均値が小さいほど、湯面レベルの実績LM1、LM2、LM3、LM4が目標値LTによく追従できていることになる。また、
図17に示す標準偏差が小さいほど、湯面レベルの変動を抑制できていることになる。
【0076】
図17に示すように、特許文献1に記載の技術では、パルスの飽和が生じた場合の補正を行わないため、平均値も標準偏差も大きくなり、湯面レベルの目標値LTに対する偏差を解消することができない。これに対し、特許文献2に記載の技術では、パルスの飽和が生じた場合に補正を行うので、特許文献1に記載の技術を用いた場合に比べて、平均値も標準偏差も小さくなり、湯面レベルの目標値LTに対する偏差を解消することができる。しかしながら、特許文献2に記載の技術では、パルスの飽和が生じた場合の補正が過剰であるので、第1、第2の実施形態で説明したレベル制御装置100b、100cを用いた場合に比べ、標準偏差が大きくなる。これに対し、第1、第2の実施形態では、平均値も標準偏差も小さくなる。このように、第1、第2の実施形態で説明したレベル制御装置100b、100cを用いると、平均値を、特許文献2に記載の技術と同程度にしつつ、標準偏差を、特許文献2に記載の技術よりも更に改善することができる。したがって、第1、第2の実施形態のようにすることによって、湯面レベルの目標値に対する追従性と、湯面レベルの変動の双方において優れたレベル制御装置を実現することができる。
【0077】
また、
図18は、
図7、
図9、
図12、
図15に示した結果から求めた、ストッパー13の開度の実績MVS1、MVS2、MVS3、MVS4の開度指令MVに対する偏差の標準偏差を示す図である。
図18に示す標準偏差が小さいほど、開度指令MVに対して忠実なフィードバック信号が得られている(すなわち、適切なパルス信号への変換が行われている)ことになる。
図18に示すように、特許文献1に記載の技術では、パルスの飽和が生じた場合の補正を行わないため、標準偏差が大きくなり、開度指令MVに対して忠実なフィードバック信号を生成することができない。これに対し、特許文献2に記載の技術では、パルスの飽和が生じた場合に補正を行うので、特許文献1に記載の技術を用いた場合に比べて、標準偏差が小さくなり、開度指令MVに応じたフィードバック信号を生成することができる。しかしながら、特許文献2に記載の技術では、パルスの飽和が生じた場合の補正が過剰であるので、第1、第2の実施形態で説明したレベル制御装置100b、100cを用いた場合に比べ、標準偏差が大きくなる。これに対し、第1、第2の実施形態では、特許文献2に記載の技術を用いた場合よりも更に標準偏差を小さくなる。したがって、第1、第2の実施形態のようにすることによって、従来よりも、開度指令MVに対して忠実なフィードバック信号を生成することができる。
【0078】
(請求項と実施形態との対応)
開度指令差分導出手段は、例えば、減算器110または差分化部103を用いることにより実現できる。
開度指令差分補正手段は、例えば、加算器104または601と切り捨て処理部107とを用いることにより実現できる。
除算手段は、例えば、除算器105を用いることにより実現できる。また、アクチュエータ操作量は、例えば、スライディングノズル或いはストッパーの最小操作量ΔNに対応する。
上下限判定手段は、例えば、上下限判定部106を用いることにより実現できる。
パルス信号生成手段と出力手段は、例えば、パルス発生器108を用いることにより実現できる。
積算値導出手段は、例えば、積算カウンタ109を用いることにより実現できる。
指令比較判定手段は、例えば、指令比較判定部603を用いることにより実現できる。
補正値加算手段は、例えば、加算器601、最小パルス幅補正部602を用いることにより実現できる。