特許第6156075号(P6156075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6156075樹脂組成物、プリプレグ、樹脂シート、金属箔張積層板及びプリント配線板
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  • 特許6156075-樹脂組成物、プリプレグ、樹脂シート、金属箔張積層板及びプリント配線板 図000015
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6156075
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】樹脂組成物、プリプレグ、樹脂シート、金属箔張積層板及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20170626BHJP
   C08L 71/12 20060101ALI20170626BHJP
   C08K 5/315 20060101ALI20170626BHJP
   C08K 3/00 20060101ALI20170626BHJP
   C08L 25/02 20060101ALI20170626BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20170626BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20170626BHJP
   B32B 15/092 20060101ALI20170626BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20170626BHJP
   H01B 3/30 20060101ALI20170626BHJP
   H01B 3/42 20060101ALI20170626BHJP
   H01B 17/60 20060101ALI20170626BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20170626BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20170626BHJP
【FI】
   C08L63/00 Z
   C08L71/12
   C08K5/315
   C08K3/00
   C08L25/02
   C08J5/24
   B32B15/08 J
   B32B15/092
   H05K1/03 610L
   H01B3/30 M
   H01B3/42 G
   H01B3/30 P
   H01B3/30 N
   H01B17/60 D
   H01B5/14 Z
   H01B5/14 B
   C08G59/40
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-232116(P2013-232116)
(22)【出願日】2013年11月8日
(65)【公開番号】特開2014-240474(P2014-240474A)
(43)【公開日】2014年12月25日
【審査請求日】2016年4月1日
(31)【優先権主張番号】特願2013-104816(P2013-104816)
(32)【優先日】2013年5月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】深澤 絵美
(72)【発明者】
【氏名】柳沼 道雄
(72)【発明者】
【氏名】土田 隆樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 裕介
【審査官】 藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/041137(WO,A1)
【文献】 特開2011−252152(JP,A)
【文献】 特開2010−212689(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/083818(WO,A1)
【文献】 特開2008−075012(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/141298(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/146302(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
C08G 59/00−59/72
C08J 5/04−5/10、5/24
B29B 11/16、15/08−15/14
B32B 1/00−43/00
H01B 3/16−3/56、5/00−5/16
H01B 17/56−19/04
H05K 1/00−1/02、1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンエーテル(A)、エポキシ樹脂(B)、シアン酸エステル化合物(C)、スチレン及び/又は置換スチレンの低重合体(D)並びに無機充填材(E)を含有する樹脂組成物であって、該シアン酸エステル化合物(C)のシアネート当量から該エポキシ樹脂(B)のエポキシ当量を引いた、余剰シアネート当量が0.05〜0.15であり、かつ該エポキシ樹脂(B)が、ブロム化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ブロム化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂、多官能フェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、シクロペンタジエン型エポキシ樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂から選択されるいずれか一種以上である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリフェニレンエーテル(A)の数平均分子量が、500〜3000である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記シアン酸エステル化合物(C)が、ビスフェノールA型シアン酸エステル及びそのプレポリマー、及びナフトールアラルキル型シアン酸エステル樹脂からなる群のうち、いずれか一種以上である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記無機充填材(E)が、天然シリカ、溶融シリカ、合成シリカ、アモルファスシリカ、中空シリカ、ガラス短繊維からなる群のうち、いずれか一種以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリフェニレンエーテル(A)の樹脂組成物における含有量が、樹脂組成物の樹脂固形分100質量部に対して5〜60質量部である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記スチレン及び/又は置換スチレンの低重合体(D)の樹脂組成物における含有量が、樹脂組成物の樹脂固形分100質量部に対して3〜15質量部である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記無機充填材(E)の樹脂組成物における含有量が、樹脂組成物の樹脂固形分100質量部に対して35〜150質量部である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
積層板又は樹脂シートを作成した際に、2GHzにおける誘電正接が0.001〜0.006となる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の樹脂組成物を、基材に含浸又は塗布して作成される、プリプレグ。
【請求項10】
請求項9に記載のプリプレグ及び金属箔を用いて作成される金属箔張積層板。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の樹脂組成物をシート状に成形してなる単層シート。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の樹脂組成物をシート基材の表面に塗工及び乾燥させてなる積層樹脂シート。
【請求項13】
絶縁層と、前記絶縁層の表面に形成された導体層とを含むプリント配線板であって、前記絶縁層が請求項1〜8のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含むプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板材料に有用な樹脂組成物、プリプレグ、樹脂シート、金属箔張積層板及びこれらを用いたプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピューター、サーバーをはじめとする情報端末機器及びインターネットルーター、光通信などの通信機器は、大容量の情報を高速で処理することが要求され、電気信号の高速化・高周波化が進んでいる。それに伴い、これらに用いられるプリント配線板用材料には、従来求められていた難燃性、耐熱性及び銅箔等とのピール強度等の特性に加え、低誘電率化・低誘電正接化が求められており、これらの特性要求に応えるべく樹脂組成物の構成に種々の試みがなされている。
【0003】
このような材料に誘電特性を付与するためには、フッ素樹脂やシアン酸エステル化合物(例えば特許文献1参照)、ポリフェニレンエーテル樹脂(例えば特許文献2参照)、スチレンを主としたビニル化合物(例えば特許文献3参照)といった、低誘電率・低誘電正接を有する樹脂を樹脂組成物に含有させる処方が知られている。
【0004】
プリント配線板用樹脂組成物の熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂及びシアン酸エステルを併用する場合には、樹脂組成物の硬化性や、樹脂組成物を硬化して得られる積層板の難燃性、誘電特性及び吸湿耐熱性を良好なものとするため、シアネート当量とエポキシ当量の比を指標として用いることが知られている(例えば特許文献4〜6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−120173号公報
【特許文献2】特開2005−112981号公報
【特許文献3】特開2005−89636号公報
【特許文献4】特開2008−75012号公報
【特許文献5】特開2008−88400号公報
【特許文献6】特開2009−35728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、エポキシ樹脂並びにシアン酸エステルの他にポリフェニレンエーテルやスチレン及び/又は置換スチレンの低重合体など他の成分を併用した際に、シアネート当量とエポキシ当量の比では測れない、余剰の官能基が硬化物の特性に与える影響については検討がなされていなかった。
本発明の課題は、様々な樹脂組成物の成分を使用することに加え、成分中のシアネート当量及びエポキシ当量の差の絶対量を算出し、この値をコントロールすることにより高いレベルのガラス転移温度及び吸湿時の耐熱性を有し、積層板にした際における銅箔との密着力及び誘電特性に優れる樹脂組成物、プリプレグ、樹脂シート、金属箔張積層板及びこれらを用いたプリント配線板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、ポリフェニレンエーテル(A)、エポキシ樹脂(B)、シアン酸エステル化合物(C)、スチレン及び/又は置換スチレンの低重合体(D)並びに無機充填材(E)を含有する樹脂組成物において、該シアン酸エステル化合物(C)のシアネート当量から該エポキシ樹脂(B)のエポキシ当量を引いた、余剰シアネート当量が0.05〜0.15となるように組成設計すると、硬化した際に誘電特性、ガラス転移温度、耐熱性及び吸湿時の耐熱性に優れる樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0008】
本発明の樹脂組成物から得られるプリプレグや、これを硬化した金属箔張積層板及び樹脂シートは、ガラス転移温度が高く、低誘電正接であり、多層板での吸湿耐熱性にも優れることから、高周波高多層用のプリント配線板材料に好適であり、工業的な実用性は極めて高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】余剰シアネート当量に対する4層板吸湿耐熱サイクル試験の耐回数
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されない。
【0011】
本実施形態の樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル(A)、エポキシ樹脂(B)、シアン酸エステル化合物(C)、スチレン及び/又は置換スチレンの低重合体(D)並びに無機充填材(E)を少なくとも含有し、該シアン酸エステル化合物(C)のシアネート当量から該エポキシ樹脂(B)のエポキシ当量を引いた、余剰シアネート当量が0.05〜0.15である、樹脂組成物である。
【0012】
ポリフェニレンエーテルとは、一般式(1):
【化1】
(式中、R1、R2、R3、及びR4は、同一又は異なってもよく、炭素数6以下のアルキル基、アリール基、ハロゲン、又は水素を表す。)
で表される繰り返し単位を少なくとも含んでなる重合体である。該重合体は、一般式(2):
【化2】
(R5,R6,R7,R11,R12は、同一又は異なってもよく、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基である。R8,R9,R10は、同一又は異なってもよく、水素原子、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基である。)
で表される繰り返し単位、及び/又は、一般式(3):
【化3】
(R13,R14,R15,R16,R17,R18,R19,R20は、同一又は異なってもよく、水素原子、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基である。−A−は、炭素数20以下の直鎖状、分岐状又は環状の2価の炭化水素基である。)
で表される繰り返し単位をさらに含んでもよい。
【0013】
ポリフェニレンエーテルは、一部又は全部を、ビニルベンジル基等のエチレン性不飽和基、エポキシ基、アミノ基、水酸基、メルカプト基、カルボキシル基、及びシリル基等で官能基化された変性ポリフェニレンエーテルを用いることもできる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いても良い。末端が水酸基であるポリフェニレンエーテルとしては例えば、SABICイノベーティブプラスチックス社製SA90等が挙げられる。
【0014】
変性ポリフェニレンエーテルの製造方法は本発明の効果が得られるものであれば特に限定されない。例えば、ビニルベンジル基で官能基化されたものは、2官能フェニレンエーテルオリゴマーとビニルベンジルクロライドを溶剤に溶解させ、加熱攪拌下で塩基を添加して反応させた後、樹脂を固形化することで製造できる。カルボキシル基で官能基化されたものは、例えばラジカル開始剤の存在下又は非存在下において、ポリフェニレンエーテルに不飽和カルボン酸やその官能基化された誘導体を溶融混練し、反応させることによって製造される。あるいは、ポリフェニレンエーテルと不飽和カルボン酸やその官能的誘導体とをラジカル開始剤存在下又は非存在下で有機溶剤に溶かし、溶液下で反応させることによって製造される。
【0015】
ポリフェニレンエーテルは、両末端にエチレン性不飽和基を有する変性ポリフェニレンエーテルを含むものであることが好ましい。エチレン性不飽和基としては、エテニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基及びオクテニル基等のアルケニル基、シクロペンテニル基及びシクロヘキセニル基等のシクロアルケニル基、ビニルベンジル基及びビニルナフチル基等のアルケニルアリール基が挙げられ、ビニルベンジル基が好ましい。両末端の2つのエチレン性不飽和基は、同一の官能基であってもよいし、異なる官能基であってもよい。
【0016】
本実施形態におけるポリフェニレンエーテルは、一般式(4):
【化4】
(式中、−(O−X−O)−は、一般式(5):
【化5】
(R21,R22,R23,R27,R28は、同一又は異なってもよく、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基である。R24,R25,R26は、同一又は異なってもよく、水素原子、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基である。)
又は一般式(6):
【化6】
(R29,R30,R31,R32,R33,R34,R35,R36は、同一又は異なってもよく、水素原子、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基である。−B−は、炭素数20以下の直鎖状、分岐状又は環状の2価の炭化水素基である。)
で表される構造からなることが好ましい。−(Y−O)−は、一般式(7):
【化7】
(R39,R40は、同一又は異なってもよく、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基である。R37,R38は、同一又は異なってもよく、水素原子、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基である。)
で表され、1種類の構造又は2種類以上の構造がランダムに配列している。a,bは、少なくともいずれか一方が0でない、0〜100の整数を示す。)
で表される変性ポリフェニレンエーテルを含むことが特に好ましい。
【0017】
一般式(6)における−B−としては、例えば、メチレン、エチリデン、1−メチルエチリデン、1,1−プロピリデン、1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)、1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)、シクロヘキシリデン、フェニルメチレン、ナフチルメチレン、1−フェニルエチリデン、等の2価の有機基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
ポリフェニレンエーテルのなかでは、R21,R22,R23,R27,R28,R39,R40が炭素数3以下のアルキル基であり、R24,R25,R26,R29,R30,R31,R32,R33,R34,R35,R36,R37,R38が水素原子又は炭素数3以下のアルキル基であるポリフェニレンエーテルが好ましく、特に一般式(5)又は一般式(6)で表される−(O−X−O)−が、式(8)、一般式(9)、又は一般式(10)であり、一般式(7)で表される−(Y−O)−が、式(11)又は式(12)であるか、あるいは式(11)と式(12)がランダムに配列した構造であるポリフェニレンエーテルがより好ましい。
【0019】
【化8】
【0020】
【化9】
(式中、R31,R32,R33,R34は、同一でも異なってもよく、水素原子又はメチル基である。−B−は、炭素数20以下の直鎖状、分岐状又は環状の2価の炭化水素基である)
【0021】
【化10】
(−B−は、炭素数20以下の直鎖状、分岐状又は環状の2価の炭化水素基である)
【0022】
【化11】
【0023】
【化12】
【0024】
式(4)で表される構造を有する変性ポリフェニレンエーテルの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、2官能フェノール化合物と1官能フェノール化合物を酸化カップリングさせて得られる2官能フェニレンエーテルオリゴマーの末端フェノール性水酸基をビニルベンジルエーテル化することで製造することができる。
また、このような変性ポリフェニレンエーテルは、例えば、三菱ガス化学(株)(OPE−2St 1200など)から入手することができる。
【0025】
ポリフェニレンエーテル(A)の数平均分子量は、GPC法によるポリスチレン換算で500〜3000の範囲が好ましく、1000〜2500の範囲がより好ましい。数平均分子量が500以上であれば、塗膜状にした際にべたつき難く、また、3000以下であれば、溶剤への溶解性の低下の防止や、プリプレグ製造時、あるいは製造後に、プリプレグより樹脂粉の脱落する現象、粉落ちが抑制される。
【0026】
また、本実施形態の樹脂組成物におけるポリフェニレンエーテル(A)の含有量は、樹脂組成物の樹脂固形分100質量部に対し、5〜60質量部であることが、誘電特性や耐熱性の観点から、好ましく、10〜50質量部であることが特に好ましい。
ここで、樹脂組成物の樹脂固形分とは、ワニスにおける無機充填材及び溶媒を除いた各成分をいうものとする。
【0027】
本実施形態におけるエポキシ樹脂(B)としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物であれば特に限定されない。
例えばブロム化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ブロム化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂、多官能フェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、シクロペンタジエン型エポキシ樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂などが例示される。
この中でも、シクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノールA型エポキシ樹脂が誘電特性の観点から、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ブロモ化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂がガラス転移温度を高くする観点から好ましい。
これらのエポキシ樹脂(B)は、1種あるいは2種類以上を適宜混合して使用することも可能である。
【0028】
本実施形態のエポキシ樹脂(B)のエポキシ当量は、特に限定されないが、後述する余剰シアネート当量の値をコントロールしやすくするために、200〜500g/eq.であることが好ましい。
【0029】
また、本実施形態の樹脂組成物におけるエポキシ樹脂(B)の含有量は、使用するエポキシ樹脂(B)が有する固有のエポキシ当量の値に応じ、後述する余剰シアネート当量をどの値に設定するかで決定されるが、エポキシ樹脂が有する一般的な特性である、銅箔への密着性等の観点から、樹脂組成物の樹脂固形分100質量部に対し、5〜50質量部であることが好ましく、10〜50質量部であることが特に好ましい。
【0030】
本実施形態におけるシアン酸エステル化合物(C)としては、1分子中に2個以上のシアネート基を有する化合物であれば特に限定されない。
例えば、ビスフェノールA型シアン酸エステル樹脂及びそのプレポリマー、ナフトールアラルキル型シアン酸エステル樹脂、1,3−又は1,4−ジシアナトベンゼン、1,3,5−トリシアナトベンゼン、1,3−、1,4−、1,6−、1,8−、2,6−又は2,7−ジシアナトナフタレン、1,3,6−トリシアナトナフタレン、4,4−ジシアナトビフェニル、ビス(4−ジシアナトフェニル)メタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモー4−シアナトフェニル)プロパン、ビス(4−シアナトフェニル)エーテル、ビス(4−シアナトフェニル)チオエーテル、ビス(4−シアナトフェニル)スルホン、トリス(4−シアナトフェニル)ホスファイト、トリス(4−シアナトフェニル)ホスフェート並びにノボラックとハロゲン化シアンとの反応により得られるシアン酸エステル化合物などが挙げられる。これらのなかでビスフェノールA型シアン酸エステル樹脂及びそのプレポリマーやナフトールアラルキル型シアン酸エステル樹脂が耐熱性の面で特に好ましい。これらのシアン酸エステル化合物は1種もしくは2種以上を適宜混合して使用することも可能である。
【0031】
本実施形態のシアン酸エステル化合物(C)のシアネート当量は、特に限定されないが、後述する余剰シアネート当量の値をコントロールしやすくするために、100〜300g/eq.であることが好ましい。
【0032】
また、本実施形態の樹脂組成物におけるシアン酸エステル化合物(C)の含有量は、使用するシアン酸エステル化合物(C)が有する固有のシアネート当量の値に応じ、後述する余剰シアネート当量をどの値に設定するかで決定されるが、シアン酸エステル化合物が有する一般的な特性である、積層板のガラス転移温度等の観点から、樹脂組成物の樹脂固形分100質量部に対し、10〜40質量部であることが好ましく、20〜35質量部であることが特に好ましい。
【0033】
本発明における余剰シアネート当量は、本実施形態の樹脂組成物における樹脂固形分を100質量部とした場合のシアン酸エステル化合物(C)の含有量をそのシアン酸エステル化合物(C)が有する固有のシアネート当量で除した値から、本実施形態の樹脂組成物における樹脂固形分を100質量部とした場合のエポキシ樹脂(B)の含有量をそのエポキシ樹脂(B)が有する固有のエポキシ当量で除した値を引くことにより算出される。
また、シアン酸エステル化合物(C)及びエポキシ樹脂(B)がそれぞれ2種以上の種類が含有される場合には、それぞれの含有量をそれぞれの当量で除した値が使用される。
本実施形態において、積層板等にした場合の耐燃性、誘電特性に優れ、さらに高いレベルのガラス転移温度及び吸湿耐熱性を実現する観点から、余剰シアネート当量は、0.05〜0.15とすることが必要とされる。その中でも0.06〜0.14とすることが、特に好ましい。
【0034】
本実施形態におけるスチレン及び/又は置換スチレンの低重合体(D)とは、スチレン、ビニルトルエン、α―メチルスチレンからなる芳香族ビニル化合物の1種あるいは2種以上を重合してなる、数平均分子量178〜800、平均の芳香核数が2〜6、芳香核数の2〜6の合計の含有量が50質量%以上、沸点が300℃以上である分岐構造のない化合物である。
例えば、ハーキュレス社製のクリスタレックス3085等の化合物が挙げられる。
【0035】
また、本実施形態の樹脂組成物におけるスチレン及び/又は置換スチレンの低重合体(D)の含有量は、樹脂組成物の樹脂固形分100質量部に対し、3〜15質量部であることが、誘電特性特に誘電正接及びガラス転移点の観点から好ましく、5〜10質量部であることが特に好ましい。
【0036】
本実施形態における無機充填材(E)は一般にプリント配線板や積層板用の絶縁性樹脂に用いられるものであれば特に限定されないが、例えば、天然シリカ、溶融シリカ、合成シリカ、アモルファスシリカ、中空シリカ等のシリカ類、アルミナ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、水酸化アルミニウム、ベーマイト、窒化ホウ素、凝集窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化モリブデン、モリブデン酸亜鉛等のモリブデン化合物、ホウ酸亜鉛、窒化アルミニウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム加熱処理品(水酸化アルミニウムを加熱処理し、結晶水の一部を減じたもの)、水酸化マグネシウム等の金属水和物、錫酸亜鉛、クレー、カオリン、タルク、焼成クレー、焼成カオリン、焼成タルク、天然マイカ、合成マイカ、E−ガラス、A−ガラス、NE−ガラス、C−ガラス、L−ガラス、D−ガラス、S−ガラス、M−ガラスG20、ガラス短繊維(Eガラス、Tガラス、Dガラス、Sガラス、Qガラス等のガラス微粉末類を含む。)、中空ガラス、球状ガラス等が挙げられる。これらの中でも、誘電特性及び低熱膨張性の観点から天然シリカ、溶融シリカ、合成シリカ、アモルファスシリカ、中空シリカ等のシリカ類が好ましい。
【0037】
本実施形態における無機充填材(E)の平均粒子径(D50)は特に限定されないが、分散性を考慮すると平均粒子径(D50)が0.1〜3μmであることが、成形時の流れ特性や小径ドリルビットを使用した時に折損を抑える観点から好ましい。
平均粒子径(D50)は次のようにして測定した。レーザー回折式粒度分布計により、水分散媒中に所定量投入された粉体の粒度分布を測定、小さい粒子から体積積算し、全体積の50%に達した時の粒子の径を平均粒子径(D50)とした。
【0038】
本実施形態における無機充填材(E)の樹脂組成物における含有量は、樹脂組成物の樹脂固形分100質量部に対し、35〜150質量部であることが、難燃性、銅箔とのピール強度、成形性、耐熱性、誘電特性の観点から好ましく、40〜100質量部の範囲が特に好ましい。
【0039】
本実施形態における樹脂組成物においては、前記無機充填材(E)について、無機充填材の分散性、樹脂と無機充填材やガラスクロスの接着強度を向上させるために、シランカップリング剤や湿潤分散剤を併用することも可能である。
これらのシランカップリング剤としては、一般に無機物の表面処理に使用されているシランカップリング剤であれば、特に限定されるものではない。具体例としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノシラン系、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのエポキシシラン系、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのビニルシラン系、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩などのカチオニックシラン系、フェニルシラン系などが挙げられ、1種もしくは2種以上を適宜組み合わせて使用することも可能である。
また湿潤分散剤としては、塗料用に使用されている分散安定剤であれば、特に限定されるものではない。例えばビッグケミー・ジャパン(株)製のDisperbyk−110、111、180、161、BYK−W996、W9010、W903等の湿潤分散剤が挙げられる。
【0040】
本実施形態における樹脂組成物には、所期の特性が損なわれない範囲において、他の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂及びそのオリゴマー、エラストマー類などの種々の高分子化合物、他の難燃性化合物、添加剤などの併用も可能である。これらは一般に使用されているものであれば、特に限定されるものではない。例えば、難燃性の化合物では、リン酸エステル、リン酸メラミン、リン含有エポキシ樹脂、メラミンやベンゾグアナミンなどの窒素化合物、オキサジン環含有化合物、シリコン系化合物等が挙げられる。また、臭素化合物としてはブロモ化ポリカーボネートオリゴマー等との併用も可能である。添加剤としては、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光重合開始剤、蛍光増白剤、光増感剤、染料、顔料、増粘剤、滑剤、消泡剤、分散剤、レベリング剤、光沢剤等、所望に応じて適宜組み合わせて使用することも可能である。
【0041】
本実施形態における樹脂組成物には、必要に応じ硬化速度を適宜調節するために硬化促進剤を併用することも可能である。このような化合物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチル−ジ−パーフタレート等で例示される有機過酸化物;アゾビスニトリル当のアゾ化合物;N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチルトルイジン、2−N−エチルアニリノエタノール、トリ−n−ブチルアミン、ピリジン、キノリン、N−メチルモルホリン、トリエタノールアミン、トリエチレンジアミン、テトラメチルブタンジアミン、N−メチルピペリジンなどの第3級アミン類;2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール及びトリフェニルイミダゾールなどのイミダゾール類;フェノール、キシレノール、クレゾール、レゾルシン、カテコールなどの単量体フェノール類;ナフテン酸鉛、ステアリン酸鉛、ナフテン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、オレイン酸錫、ジブチル錫マレート、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸コバルト、アセチルアセトン鉄などの有機金属塩;これら有機金属塩をフェノール、ビスフェノールなどの単量体水酸基含有化合物に溶解してなるもの;塩化錫、塩化亜鉛、塩化アルミニウムなどの無機金属塩;ジオクチル錫オキサイド、その他のアルキル錫、アルキル錫オキサイドなどの有機錫化合物などが挙げられる。
【0042】
さらに、本実施形態の樹脂組成物は、必要に応じて溶剤を含有していてもよい。例えば、有機溶剤を用いると、樹脂組成物の調製時における粘度が下がり、ハンドリング性を向上されるとともにガラスクロスへの含浸性が高められる。溶剤の種類は、ポリフェニレンエーテル(A)、エポキシ樹脂(B)、シアン酸エステル化合物(C)並びにスチレン及び/又は置換スチレンの低重合体(D)の混合物の一部又は全部を溶解可能なものであれば、特に限定されない。その具体例としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルセルソルブなどのケトン類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、プロピレングリコールメチルエーテル及びそのアセテートなどが挙げられるが、これらに特に限定されない。溶剤は、1種を単独で或いは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0043】
本実施形態における樹脂組成物は、常法にしたがって調製することができ、ポリフェニレンエーテル(A)、エポキシ樹脂(B)、シアン酸エステル化合物(C)、スチレン及び/又は置換スチレンの低重合体(D)並びに無機充填材(E)、上述したその他の任意成分を均一に含有する樹脂組成物が得られる方法であれば、その調製方法は、特に限定されない。例えば、ポリフェニレンエーテル、エポキシ樹脂、シアン酸エステル化合物、スチレン及び/又は置換スチレンの低重合体、シリカを順次溶剤に配合し、十分に攪拌することで本実施形態の樹脂組成物を容易に調製することができる。
【0044】
本実施形態における樹脂組成物の調製時において、必要に応じて有機溶剤を使用することができる。有機溶剤の種類は、ポリフェニレンエーテル(A)、エポキシ樹脂(B)、シアン酸エステル化合物(C)、スチレン及び/又は置換スチレンの低重合体(D)の混合物を一部又は全部溶解可能なものであれば、特に限定されない。その具体例は、上述したとおりである。
【0045】
なお、樹脂組成物の調製時に、各成分を均一に溶解或いは分散させるための公知の処理(攪拌、混合、混練処理など)を行うことができる。例えば、無機充填材(E)の均一分散にあたり、適切な攪拌能力を有する攪拌機を付設した攪拌槽を用いて攪拌分散処理を行うことで、樹脂組成物に対する分散性が高められる。上記の攪拌、混合、混練処理は、例えば、ボールミル、ビーズミルなどの混合を目的とした装置、又は、公転・自転型の混合装置などの公知の装置を用いて適宜行うことができる。
【0046】
一方、本実施形態のプリプレグは、上記の樹脂組成物を基材と組み合わせる、具体的には、上記の樹脂組成物を基材に含浸又は塗布させることにより、得ることができる。プリプレグの作製方法は、常法にしたがって行うことができ、特に限定されない。例えば、本実施形態における樹脂成分を基材に含浸又は塗布させた後、100〜200℃の乾燥機中で1〜30分加熱するなどして半硬化(Bステ−ジ化)させることで、本実施形態のプリプレグを作製することができる。なお、本実施形態のプリプレグは、特に限定されないが、プリプレグの総量に対する樹脂組成物(無機充填剤を含む。)の量が、30〜90質量%の範囲であることが好ましい。
【0047】
本実施形態で使用される基材としては、特に限定されるものではなく、各種プリント配線板材料に用いられている公知のものを、目的とする用途や性能により適宜選択して使用することができる。その具体例としては、例えば、Eガラス、Dガラス、Sガラス、Qガラス、球状ガラス、NEガラス、Lガラス、Tガラス等のガラス繊維、クォーツ等のガラス以外の無機繊維、ポリパラフェニレンテレフタラミド(ケブラー(登録商標)、デュポン株式会社製)、コポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミド(テクノーラ(登録商標)、帝人テクノプロダクツ株式会社製)等の全芳香族ポリアミド、2,6−ヒドロキシナフトエ酸・パラヒドロキシ安息香酸(ベクトラン(登録商標、クラレ(株)製)、株会社クラレ製)、ゼクシオン(登録商標、KBセーレン製)等のポリエステル、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(ザイロン(登録商標)、東洋紡績株式会社製)、ポリイミドなどの有機繊維が挙げられるが、これらに特に限定されない。
これらの中でも入手性と低誘電正接の観点から、Eガラス、、NEガラス、Lガラスが好ましい。
これら基材は1種を単独で或いは2種以上を組み合わせて使用することができる。
基材の形状としては織布、不織布、ロービング、チョップドストランドマット、サーフェシングマットなど、織布の織り方としては、平織り、ななこ織り、綾織り等が知られており、これら公知のものから目的とする用途や性能により適宜選択して使用することができ、これらを開繊処理したものやシランカップリング剤などで表面処理したガラス織布が好適に使用される。基材の厚さや質量は、特に限定されないが、通常は0.01〜0.3mm程度のものが好適に用いられる。とりわけ、強度と吸水性の観点から、基材は、厚み200μm以下、質量250g/m2以下のガラス織布が好ましく、Eガラスのガラス繊維からなるガラス織布がより好ましい。
【0048】
他方、本実施形態の金属箔張積層板は、上述のプリプレグを少なくとも1枚以上重ね、その片面もしくは両面に金属箔を配して積層成形することにより、得ることができる。具体的には、前述のプリプレグを1枚あるいは複数枚以上を重ね、所望によりその片面もしくは両面に銅やアルミニウムなどの金属箔を配置した構成とし、これを必要に応じて積層成形することにより、本実施形態の金属箔張積層板を作製することができる。ここで使用する金属箔は、プリント配線板材料に用いられるものであれば、特に限定されないが、圧延銅箔や電解銅箔などの公知の銅箔が好ましい。また、金属箔の厚みは、特に限定されないが、2〜70μmが好ましく、より好ましくは2〜35μmである。金属箔張積層板の成形方法及びその成形条件についても、特に限定されず、一般的なプリント配線板用積層板及び多層板の手法及び条件を適用することができる。例えば、金属箔張積層板の成形時には多段プレス機、多段真空プレス機、連続成形機、オートクレーブ成形機などを用いることができ、また、温度は100〜300℃、圧力は面圧2〜100kgf/cm2、加熱時間は0.05〜5時間の範囲が一般的である。さらに、必要に応じて、150〜300℃の温度で後硬化を行うこともできる。また、本実施形態のプリプレグと、別途作製した内層用の配線板とを組み合わせて積層成形することにより、多層板とすることも可能である。
【0049】
上記の本実施形態の金属箔張積層板は、所定の配線パターンを形成することにより、プリント配線板として好適に用いることができる。そして、本発明の金属箔張積層板は、低い熱膨張率、鉛フリーはんだ性、及び良好な誘電特性を有し、そのような性能が要求される高周波・高多層用プリント配線板として、殊に有効に用いることができる。
【0050】
本実施形態におけるプリント配線板は、例えば、以下の方法により製造することができる。まず、本実施形態の銅張積層板等の金属箔張積層板を用意する。金属箔張積層板の表面にエッチング処理を施して内層回路の形成を行い、内層基板を作製する。この内層基板の内層回路表面に、必要に応じて接着強度を高めるための表面処理を行い、次いでその内層回路表面に本発明のプリプレグを所要枚数重ね、更にその外側に外層回路用の金属箔を積層し、加熱加圧して一体成形する。このようにして、内層回路と外層回路用の金属箔との間に、基材及び熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる絶縁層が形成された多層の積層板が製造される。次いで、この多層の積層板にスルーホールやバイアホール用の穴あけ加工を施した後、硬化物層に含まれている樹脂成分に由来する樹脂の残渣であるスミアを除去するためデスミア処理が行われる。その後この穴の壁面に内層回路と外層回路用の金属箔とを導通させるめっき金属皮膜を形成し、更に外層回路用の金属箔にエッチング処理を施して外層回路を形成し、プリント配線板が製造される。
本実施形態のプリプレグ(基材及びこれに添着された本発明の樹脂組成物)、金属箔張積層板の樹脂組成物層(本発明の樹脂組成物からなる層)が、本実施形態の樹脂組成物を含む絶縁層を構成することになる。
【0051】
他方、本実施形態の積層樹脂シートは、上記の本実施形態の樹脂組成物を溶剤に溶解させた溶液をシート基材に塗布し乾燥することで得ることができる。ここで用いるシート基材としては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体フィルム、並びにこれらのフィルムの表面に離型剤を塗布した離型フィルム、ポリイミドフィルム等の有機系のフィルム基材、銅箔、アルミ箔等の導体箔、ガラス板、SUS板、FRP等の板状のものが挙げられるが、これらに特に限定されない。塗布方法としては、例えば、本実施形態の樹脂組成物を溶剤に溶解させた溶液を、バーコーター、ダイコーター、ドクターブレード、ベーカーアプリケーター等でシート基材上に塗布する方法が挙げられる。また、乾燥後に、積層樹脂シートからシート基材を剥離又はエッチングすることで、単層シート(樹脂シート)とすることもできる。なお、上記の本実施形態の樹脂組成物を溶剤に溶解させた溶液を、シート状のキャビティを有する金型内に供給し乾燥する等してシート状に成形することで、シート基材を用いることなく単層シート(樹脂シート)を得ることもできる。
【0052】
なお、本実施形態の単層或いは積層シートの作製において、溶剤を除去する際の乾燥条件は、特に限定されないが、低温であると樹脂組成物中に溶剤が残り易く、高温であると樹脂組成物の硬化が進行することから、20℃〜170℃の温度で1〜90分間が好ましい。また、本実施形態の単層或いは積層シートの樹脂層の厚みは、本実施形態の樹脂組成物の溶液の濃度と塗布厚みにより調整することができ、特に限定されないが、一般的には塗布厚みが厚くなると乾燥時に溶剤が残り易くなることから、0.1〜500μmが好ましい。
【0053】
以下に、合成例、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
(実施例1)
ポリフェニレンエーテル(OPE−2St 1200、三菱ガス化学(株)製、数平均分子量1187、ビニル基当量:590g/eq.)30質量部、ブロモ化ビスフェノールA型エポキシ(EPICRON 153、DIC製、エポキシ当量:400g/eq.、Br含有量 48%)8質量部、ブロモ化フェノールノボラック型エポキシ(BREN―S、日本化薬製、エポキシ当量:285g/eq.、Br含有量36%)3質量部、クレゾールノボラック型エポキシ(N680、DIC製、エポキシ当量:215g/eq.)11.8質量部、ビスフェノールA型エポキシ(エピコート828EL、ジャパンエポキシレジン製、エポキシ当量:190g/eq.)2質量部、2、2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパンのプレポリマー(CA210、三菱ガス化学製、シアネート当量139g/eq.)33.2質量部、ブロム化ポリカーボネートオリゴマ−(FG8500、帝人化成製、質量平均分子量3000、Br.含有量 58%)7質量部、α―メチルスチレンオリゴマー(クリスタレックス3085、ハーキュレス社製、質量平均分子量:664)5質量部、2−フェニル、4−メチルイミダゾール(2P4MZ、四国化成製)0.1質量部、球状シリカ(SC2050、(株)アドマテックス製、平均粒子径0.5μm)75質量部を混合し、メチルエチルケトンで固形分を65質量%に希釈しワニスを得た(余剰シアネート当量:0.14、シアネート基/エポキシ基比:2.5)。この得られたワニスを厚さ0.08mm(IPC No.#3313)のEガラスクロスに含浸塗工し、乾燥機(耐圧防爆型スチーム乾燥機、(株)高杉製作所製))を用いて165℃、10分加熱乾燥し、樹脂組成物57質量%のプリプレグを得た。この57質量%のプリプレグ8枚を重ねた両面に18μm銅箔(3EC―III、三井金属鉱業(株)製)を配置し、圧力30kg/cm2、温度210℃で150分間真空プ
レスを行い、厚さ0.8mmの18μm銅張り積層板を得た。得られた銅張り積層板を用いて、吸湿耐熱性、ガラス転移温度、誘電特性、ピール強度の評価を行った。
次いで厚さ0.1mm、35μm銅張積層板に回路を形成し、この回路に黒化処理を実施し、内層回路板とした後、樹脂量57質量%のプリプレグを上下に2枚ずつ重ねた両面に厚さ18μm銅箔を配置し、上記のプレス条件で真空プレスを行い、厚さ0.5mmの4層板を得た。
得られた4層板を用いて吸湿耐熱サイクル試験を行った。
結果を表1に示す。
【0055】
(測定方法)
1)ガラス転移温度(Tg):DMA法により測定し、2回の平均値を記載した。
2)誘電率・誘電正接:厚さ0.8mmの銅張り積層板の銅箔を除去した試験片を使用し、空洞共振器摂動法(Agilent 8722ES、アジレントテクノロジー製)にて2GHzの誘電正接の測定を5回実施した結果の平均値が0.006未満の場合を(○)0.006以上の場合を(×)とした。
3)ピール強度:JIS C6481に準じて、18μm銅箔付きの試験片(30mm×150mm×0.8mm)を用い、銅箔の引き剥がし強度を2回測定し、2回とも0.8kg/cm以上の場合を(○)、1回だけ0.8kg/cm以上の場合を(△)、2回とも0.8kg/cm未満の場合を(×)とした。
4)吸湿耐熱性:厚さ約0.8mm 18μm銅箔付き積層板の50mm×50mmサンプルの片面の半分以外の全銅箔をエッチング除去した試験片をプレッシャークッカー試験機(平山製作所社製、PC−3型)で121℃、2気圧で5時間処理後、288℃のはんだの中に30秒浸漬した後の外観変化を目視で観察(フクレなし:○、フクレあり:×、n=3)
5)4層板吸湿耐熱サイクル試験:厚さ約0.5mm 18μm銅箔付き4層板の50mm×50mmサンプルの全銅箔をエッチング除去した試験片をプレッシャークッカー試験機(平山製作所社製、PC−3型)で121℃、2気圧で1時間処理後、260℃のはんだの中に30秒浸漬するのを2回繰り返し、外観変化を観察しフクレがなければ、プレッシャークッカー試験機で121℃、2気圧で1時間処理後、260℃のはんだの中に30秒浸漬するのを2回繰り返すことを、フクレが発生するまで繰り返し、フクレが出なかった回数を耐回数とした(n=4)耐回数が7回以上のものを(○)、7回未満のものを(×)とした。また、余剰シアネート当量に対して4層板吸湿耐熱サイクル試験の耐回数をプロットしたグラフを図1に記載した。
【0056】
(実施例2)
ポリフェニレンエーテル(SA90、SABICイノベーティブプラスチックス社製、数平均分子量1700、フェノール基当量:g/eq.)20質量部、ブロモ化ビスフェノールA型エポキシ(EPICRON 153)14質量部、ジシクロペンタジエン型エポキシ(EPICRON HP7200、DIC製、エポキシ当量:259g/eq.)18.5質量部、2、2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパンのプレポリマー(CA210)29.5質量部、ブロム化ポリカーボネートオリゴマ−(FG8500)13質量部、α―メチルスチレンオリゴマー(クリスタレックス3085)5質量部、2−フェニル、4−メチルイミダゾール(2P4MZ)0.04質量部、球状シリカ(SC2050)75質量部を混合し、メチルエチルケトンで固形分を65質量%に希釈しワニスを得た(余剰シアネート当量:0.11、シアネート基/エポキシ基比:2.0)。このワニスを使用する以外は実施例1と同様に行った。得られた銅張り積層板、4層板の物性値を表1に示す。
【0057】
(実施例3)
ポリフェニレンエーテル(SA90)10質量部、ブロモ化ビスフェノールA型エポキシ(EPICRON 153)22質量部、ジシクロペンタジエン型エポキシ(EPICRON HP7200)25.9質量部、2、2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパンのプレポリマー(CA210)30.1質量部、ブロム化ポリカーボネートオリゴマ−(FG8500)7質量部、α―メチルスチレンオリゴマー(クリスタレックス3085、)5質量部、2−フェニル、4−メチルイミダゾール(2P4MZ)0.29質量部、球状シリカ(SC2050)75質量部を混合し、メチルエチルケトンで固形分を65質量%に希釈しワニスを得た(余剰シアネート当量:0.06、シアネート基/エポキシ基比:1.4)。このワニスを使用する以外は実施例1と同様に行った。得られた銅張り積層板、4層板の物性値を表1に示す。
【0058】
(実施例4)
ポリフェニレンエーテル(SA90)10質量部、ブロモ化ビスフェノールA型エポキシ(EPICRON 153)22質量部、ジシクロペンタジエン型エポキシ(EPICRON HP7200)22.5質量部、2、2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパンのプレポリマー(CA210)33.5質量部、ブロム化ポリカーボネートオリゴマ−(FG8500)7質量部、α―メチルスチレンオリゴマー(クリスタレックス3085、)5質量部、2−フェニル、4−メチルイミダゾール(2P4MZ)0.29質量部、球状シリカ(SC2050)75質量部を混合し、メチルエチルケトンで固形分を65質量%に希釈しワニスを得た(余剰シアネート当量:0.10、シアネート基/エポキシ基比:1.7)。このワニスを使用する以外は実施例1と同様に行った。得られた銅張り積層板、4層板の物性値を表1に示す。
【0059】
(比較例1)
ポリフェニレンエーテル(OPE−2St 1200)50質量部、クレゾールノボラック型エポキシ(N680)10質量部、ビスフェノールA型エポキシ(EPICRON 1051、DIC製、エポキシ当量:475g/eq.)6.7質量部、2、2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパンのプレポリマー(CA210)8.3質量部、フェニルフォスファゼン化合物(SPB−100、大塚化学(株)製)20質量部、α―メチルスチレンオリゴマー(クリスタレックス3085)5質量部、オクチル酸亜鉛(日本化学産業製)0.0043質量部、球状シリカ(SC2050)85質量部を混合し、メチルエチルケトンで固形分を65質量%に希釈しワニスを得た(余剰シアネート当量:0.00、シアネート基/エポキシ基比:1.0)。このワニスを使用する以外は実施例1と同様に行った。得られた銅張り積層板、4層板の物性値を表1に示す。
【0060】
(比較例2)
ポリフェニレンエーテル(OPE−2St 1200)50質量部、クレゾールノボラック型エポキシ(N680)8.5質量部、ビスフェノールA型エポキシ(EPICRON 1051)5.7質量部、2、2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパンのプレポリマー(CA210)10.8質量部、フェニルフォスファゼン化合物(SPB−100)20質量部、α―メチルスチレンオリゴマー(クリスタレックス3085)5質量部、オクチル酸亜鉛0.0057質量部、球状シリカ(SC2050)85質量部を混合し、メチルエチルケトンで固形分を65質量%に希釈しワニスを得た(余剰シアネート当量:0.03、シアネート基/エポキシ基比:1.5)。このワニスを使用する以外は実施例1と同様に行った。得られた銅張り積層板、4層板の物性値を表1に示す。
【0061】
(比較例3)
ポリフェニレンエーテル(OPE−2St 1200)50質量部、クレゾールノボラック型エポキシ(N680)7.5質量部、ビスフェノールA型エポキシ(EPICRON 1051)5質量部、2、2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパンのプレポリマー(CA210)12.5質量部、フェニルフォスファゼン化合物(SPB−100)20質量部、α―メチルスチレンオリゴマー(クリスタレックス3085)5質量部、オクチル酸亜鉛0.0076質量部、球状シリカ(SC2050)85質量部を混合し、メチルエチルケトンで固形分を65質量%に希釈しワニスを得た(余剰シアネート当量:0.04、シアネート基/エポキシ基比:2.0)。このワニスを使用する以外は実施例1と同様に行った。得られた銅張り積層板、4層板の物性値を表1に示す。
【0062】
(比較例4)
ポリフェニレンエーテル(OPE−2St 1200)30質量部、ブロモ化ビスフェノールA型エポキシ(EPICRON 153)8質量部、ブロモ化フェノールノボラック型エポキシ(BREN―S)3質量部、クレゾールノボラック型エポキシ(N680)9.5質量部、ビスフェノールA型エポキシ(エピコート828EL)2質量部、2、2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパンのプレポリマー(CA210)35.5質量部、ブロム化ポリカーボネートオリゴマ−(FG8500)7質量部、α―メチルスチレンオリゴマー(クリスタレックス3085)5質量部、2−フェニル、4−メチルイミダゾール(2P4MZ)0.1質量部、球状シリカ(SC2050、(株)アドマテックス製、平均粒子径0.5μm)75質量部を混合し、メチルエチルケトンで固形分を65質量%に希釈しワニスを得た(余剰シアネート当量:0.17、シアネート基/エポキシ基比:3.0)。このワニスを使用する以外は実施例1と同様に行った。得られた銅張り積層板、4層板の物性値を表1に示す。
【0063】
(比較例5)
ポリフェニレンエーテル(OPE−2St 1200)30質量部、ブロモ化ビスフェノールA型エポキシ(EPICRON 153)8質量部、ブロモ化フェノールノボラック型エポキシ(BREN―S)3質量部、クレゾールノボラック型エポキシ(N680)7.7質量部、ビスフェノールA型エポキシ(エピコート828EL)2質量部、2、2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパンのプレポリマー(CA210)37.3質量部、ブロム化ポリカーボネートオリゴマ−(FG8500)7質量部、α―メチルスチレンオリゴマー(クリスタレックス3085)5質量部、2−フェニル、4−メチルイミダゾール(2P4MZ)0.1質量部、球状シリカ(SC2050、(株)アドマテックス製、平均粒子径0.5μm)75質量部を混合し、メチルエチルケトンで固形分を65質量%に希釈しワニスを得た(余剰シアネート当量:0.19、シアネート基/エポキシ基比:3.5)。このワニスを使用する以外は実施例1と同様に行った。得られた銅張り積層板、4層板の物性値を表1に示す。
【0064】
(比較例6)
ポリフェニレンエーテル(OPE−2St 1200)20質量部、ブロモ化ビスフェノールA型エポキシ(EPICRON 153)8質量部、ブロモ化フェノールノボラック型エポキシ(BREN―S)3質量部、クレゾールノボラック型エポキシ(N680)12.9質量部、ビスフェノールA型エポキシ(エピコート828EL)2質量部、2、2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパンのプレポリマー(CA210)42.1質量部、ブロム化ポリカーボネートオリゴマ−(FG8500)7質量部、α―メチルスチレンオリゴマー(クリスタレックス3085)5質量部、2−フェニル、4−メチルイミダゾール(2P4MZ)0.1質量部、球状シリカ(SC2050、(株)アドマテックス製、平均粒子径0.5μm)75質量部を混合し、メチルエチルケトンで固形分を65質量%に希釈しワニスを得た(余剰シアネート当量:0.20、シアネート基/エポキシ基比:3.0)。このワニスを使用する以外は実施例1と同様に行った。得られた銅張り積層板、4層板の物性値を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1から、本発明による実施例1〜4ではガラス転移温度、誘電正接、銅箔ピール強度、耐熱性、多層板での吸湿耐熱性に優れている。一方、比較例の樹脂組成物では、ガラス転移温度、誘電正接、銅箔ピール強度、耐熱性、多層板での吸湿耐熱性の全てにバランスがとれたものは無く、いずれかの特性に劣っている。
1)比較例1〜3では、余剰シアネート当量が0.05より小さいためガラス転移温度が210℃よりも低くなっている。また、誘電正接も2GHzで0.006以上であり、耐燃性も劣っているものがある。
2)比較例4〜6では、余剰シアネート当量が0.15より大きいため4層板吸湿耐熱サイクル試験の耐サイクル回数が7回未満であった。
以上より本発明により得られるプリプレグによる積層板は、ガラス転移温度、誘電正接、銅箔ピール強度、耐熱性、多層板での吸湿耐熱性に優れていることを確認した。
図1