(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態について添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1.
まず、この発明の実施の形態1に係る電動過給機101の構成を説明する。
図1を参照すると、電動過給機101は、吸入した流体(たとえば気体であり、本実施の形態では空気とする)を過給するための過給部1と、過給部1を回転電機である電動モータ30を用いて駆動するための駆動部2とによって構成されている。
【0013】
過給部1は、回転することによって吸入空気を過給するインペラ40と、インペラ40と一体回転可能なシャフト22と、コンプレッサカバー11及びシールプレート12とを備えている。コンプレッサカバー11及びシールプレート12はたとえば金属製であり、互いに組み付けられることによって内部にインペラ40を収容する。ここで、シャフト22は回転軸を構成している。
【0014】
シャフト22は、コンプレッサカバー11の内部からシールプレート12を貫通して駆動部2に延在している。このとき、シールプレート12はシャフト22の径方向に延在している。
コンプレッサカバー11及びシールプレート12によって囲まれた内部には、インペラ40を回転可能に収容するインペラ室15と、インペラ室15からシャフト22の軸方向に延在して外部に開口する吸入路16と、インペラ室15に連通し且つインペラ40の周囲を囲むように延在して外部に開口する環状の排出路17とが形成されている。
【0015】
駆動部2は、金属製の有底筒状のモータケース13と、モータケース13の開口を閉鎖するエンドプレート14及び後端部材35とを備えている。そして、モータケース13、エンドプレート14及び後端部材35は、その内部に電動モータ30を収容するモータ室18を形成している。ここで、モータ室18は、回転電機室を構成している。
【0016】
モータケース13の筒状の側壁13aの外周側には、周囲の空気によるモータケース13の冷却効率を向上させるために複数の放熱フィン13cが一体に突出形成されている。
そして、コンプレッサカバー11、シールプレート12、モータケース13、エンドプレート14及び後端部材35は、電動過給機101のハウジング10を形成している。
【0017】
モータケース13の底部である底壁13bには、シールプレート12が固定されている。そして、底壁13bの中央には、モータ室18内に開口すると共にシールプレート12に向かって開口する底壁貫通穴13b1が貫通形成されている。底壁貫通穴13b1は、シャフト22の外径よりも大きい内径を有し、シャフト22を通している。そして、底壁13bは、シャフト22の径方向に延在している。ここで、底壁13bは、モータ室18とインペラ室15とを隔てる隔壁を構成し、底壁貫通穴13b1は、シャフト22の回転軸挿通穴を構成している。
【0018】
さらに、シールプレート12には、底壁貫通穴13b1に隣接し且つ連通するプレート貫通穴12aが貫通形成されている。そして、シャフト22は、プレート貫通穴12a及び底壁貫通穴13b1を通って、モータ室18内に延在している。このとき、シャフト22の軸方向はモータケース13の筒状の側壁13aの延在方向に沿う方向となっている。
【0019】
インペラ室15とモータ室18との間には、開口28が設けられる。本実施形態では、開口28は、モータケース13の底壁13bの底壁貫通穴13b1と、シールプレート12のプレート貫通穴12aとによって構成される。開口28は、インペラ室15とモータ室18との間にシャフト22を挿通させるための空間として機能する。
【0020】
また、開口28は、インペラ室15とモータ室18との間で空気が流通可能な流入口としても機能する。「流通可能」とは、本明細書の記載に基づき当業者が適宜定義可能であるが、たとえば、インペラ室15とモータ室18とがいずれも密閉された状態で開口28の両端に気圧差が生じた場合に、比較的短時間(たとえば1秒未満)で、両端の気圧差が無視できる程度に小さくなるような開口面積があることをいう。なお、本実施形態では、開口28には、インペラ室15とモータ室18との間を隔絶するためのいかなるシール構造も設けられない。
【0021】
シャフト22の外周面22cは、モータ室18内に設けられた第一軸受23及び第二軸受24によって周方向に回転可能に支持されている。第一軸受23は、底壁13bの近傍でシャフト22を支持し、第二軸受24は、エンドプレート14側の端部22bの近傍でシャフト22を支持している。第一軸受23及び第二軸受24は、いずれも、外輪及び内輪を備えており、外輪及び内輪は互いに回転可能である。第一軸受23及び第二軸受24はたとえばボールベアリングである。また、本実施形態では、第一軸受23及び第二軸受24はグリス封入式のアンギュラーベアリングである。
【0022】
第一軸受23は、底壁貫通穴13b1に隣接して位置している。第一軸受23は、第一軸受スリーブ25によって支持及び固定される。第一軸受スリーブ25は、第一軸受23の外周を囲むフランジ付円筒形状を有する。第一軸受スリーブ25は、底壁13bに固定される。底壁貫通穴13b1の内径は、第一軸受23の外径よりも小径であり、第一軸受23は、底壁貫通穴13b1における底壁13bとシャフト22との間の隙間を塞いでいる。
【0023】
第二軸受24は、第二軸受スリーブ26によって支持及び固定されている。第二軸受スリーブ26は、第二軸受24の外周を囲むフランジ付円筒形状を有する。第二軸受スリーブ26は、エンドプレート14に固定される。
【0024】
シャフト22は、端部22a側において、インペラ40の中心の挿通孔41内に通されている。シャフト22の外周面22c上には、固定ナット27が取り付けられている。固定ナット27は、インペラ40に対して端部22a側に位置し、シャフト22に逆ねじ方式で螺合する。
【0025】
シャフト22は、自由端を持つオーバーハング部22dを含む。オーバーハング部22dとは、シャフト22が支持されている部分より端部に近い部分をいう。
図1の例では、オーバーハング部22dは、端部22aから、第一軸受23の前端23a(第一軸受23の軸方向両端のうちシャフト22の端部22aに近い側のもの)までの部分として定義される。
【0026】
モータ室18内における第一軸受23及び第二軸受24の間において、シャフト22の外周面22c上には、円筒状のロータコア31がシャフト22と一体に回転するように設けられている。ロータコア31内には、その外周面に沿って永久磁石32が埋め込まれている。
【0027】
さらに、モータ室18内では、ロータコア31の外周を囲むようにして円筒状のステータコア33が設けられている。ステータコア33は、モータケース13の側壁13aに固定されている。さらに、ステータコア33内では巻線が巻回され、この巻線はコイル34(交流巻線)を形成し、ステータコア33の両端から突出している。
【0028】
そして、巻線に電力が供給されると、コイル34から回転磁界が発生し、この回転磁界の作用を永久磁石32が受けることによって、ロータコア31がシャフト22及びインペラ40と共に回転駆動される。
【0029】
上述のようなシャフト22、ロータコア31、永久磁石32、ステータコア33及びコイル34は、電動モータ30を構成している。そして、シャフト22は、インペラ40及び電動モータ30の回転軸を兼ねている。
【0030】
駆動部2は、開口28以外の部分において、モータ室18を外部から隔絶するシール構造を備える。本実施形態では、このシール構造は、Oリング50,51及び52を含む。Oリング50は、シールプレート12とモータケース13との間において、モータ室18を外部から隔絶し、Oリング51は、モータケース13とエンドプレート14との間において、モータ室18を外部から隔絶し、Oリング52は、エンドプレート14と後端部材35との間において、モータ室18を外部から隔絶する。なお、このシール構造は、モータケース13、エンドプレート14及び後端部材35を含むということもできる。
【0031】
次に、この発明の実施の形態1に係る電動過給機101の動作を説明する。
図1を参照すると、電動過給機101において、図示しない電源によって電動モータ30のコイル34に電力が印加されると、コイル34が発生する回転磁界によってロータコア31が回転駆動され、それによって、シャフト22及びインペラ40が中心軸CAを中心に高速回転駆動される。これに伴い、インペラ40は、吸入路16から吸入する空気を圧縮つまり過給して排出路17へと圧送する。
【0032】
ここで、開口28はシールされていないので、インペラ室15内で圧縮された空気は、開口28を通ってモータ室18に流入することが可能となっている。ただし、モータ室18は、開口28以外の部分において外部から隔絶されているので、モータ室18に流入した空気が開口28以外の部分からモータ室18の外部に流出することは抑制される。
【0033】
電動過給機101の動作に伴ってシャフト22が回転すると、回転振動に伴って端部22aが振動する。シャフト22は第一軸受23及び第二軸受24によって支持されているので、端部22aの振動の振幅はオーバーハング部22dの長さに依存する。本実施形態では、開口28にシール構造を設ける必要がないので、開口28の軸方向の長さを短く設計することができ(たとえば、シールプレート12やモータケース13の底壁13bを薄くできる)、オーバーハング部22dの長さを短くできる。結果として、回転振動に伴う端部22aの振幅が縮小される。
【0034】
このように、実施の形態1に係る電動過給機101によれば、回転振動に伴う端部22aの振幅を縮小することができる。また、シャフト22の周りにシールカラーやシールリング等を設ける必要がないので、シャフト22を含む回転体の組み付け精度が向上するとともに、動バランスも向上する。さらに、部品点数が削減されるので、コストも低減可能である。
【0035】
また、モータ室18は、開口28以外の部分において外部から隔絶されているので、圧縮された空気が外部に漏れることがない。したがって、圧縮された空気の漏れ量が低減され、コンプレッサ効率が向上する。
【0036】
なお、従来の電動過給機では、シールカラーやシールリング等を用いてインペラ室とモータ室との間を隔絶する一方で、モータ室は外部から隔絶しない構成となっているが、このような構成では、シャフトの円滑な回転を保証するため密閉性がある程度犠牲になり、漏れ量が大きくなる。したがって、本実施形態の電動過給機101は、従来の構成と比較しても、圧縮された空気の漏れ量を低減するということができる。
【0037】
また、モータ室18を、少なくとも開口28以外の部分において外部から隔絶するという構成は、たとえば外部からモータ室18への潤滑剤(オイル等)の供給が困難となる可能性があるため、当業者が容易に想到し得ないものである。この点について、本実施形態では、第一軸受23及び第二軸受24をグリス封入式の軸受とすることにより、潤滑剤の供給を不要とし、潤滑剤の供給に関する問題を解決している。ただし、モータ室18をシールしつつ軸受の潤滑が十分に維持できる場合等には、グリス封入式でない軸受を用いる構成としてもよい。
【0038】
本実施形態では、開口28には、インペラ室15とモータ室18との間を隔絶するためのいかなるシール構造も設けられない。変形例として、開口28において、空気の流通を抑制すること以外の目的のためのシール構造を設けてもよい。また、インペラ室15とモータ室18との間において、空気の流通が可能な程度に維持されるものであれば、空気の流通をある程度抑制する構造等を設けてもよい。
【0039】
実施の形態2.
実施の形態2は、実施の形態1の電動過給機101を備える過給システムに係るものである。
図2に、実施の形態2に係る過給システム200の構成概略を示す。過給システム200は、いわゆる2ステージターボの構成を有し、吸気を2段階で圧縮し過給する。
【0040】
過給システム200は、内燃機関103の吸気を過給する。このために、過給システム200は、実施の形態1に係る電動過給機(第一過給機)101と、第二過給機102とを備える。第一過給機101は低圧側の過給機であり、所定の第一圧力P1(たとえば大気圧)の空気を、第一圧力P1より高い所定の第二圧力P2に圧縮して第二過給機102に供給する。
【0041】
なお、
図2は概略を示すものであり、インタークーラーや、逆止弁を含む切り替え構造等については省略しているが、これらを適宜設けてもよい。
【0042】
第二過給機102は高圧側の過給機であり、本実施形態では内燃機関103の排気圧を利用して吸気を過給する。第二過給機102は、第一過給機101の下流に設けられ、第一過給機101から供給される第二圧力P2の空気を、第二圧力P2より高い所定の第三圧力P3に圧縮して内燃機関103に供給する。
【0043】
ここで
図1を参照すると、第一過給機101では動作に伴って内部に熱が発生し、モータ室18内の温度が上昇する。一方で、開口28を介して、吐出圧(第二圧力P2)の圧縮空気がモータ室18に流入するので、モータ室18の室内温度は圧縮空気の温度に応じて変動する。したがって、圧縮空気の温度が所定の閾値温度未満となるように、第一過給機101の過給率を設定しておけば、モータ室18内の温度がこの閾値温度以上となった場合には、圧縮空気によってモータ室18内を冷却することができる。
【0044】
たとえば、第二圧力P2の圧縮空気の温度が70℃またはこれ未満となるように第一過給機101を設計することができ、この場合にはモータ室18内において有意の冷却効果を得ることができる。とくに、
図1に示すように第一軸受23はモータ室18内において開口28に近い位置に配置されるので、第一軸受23に対して大きな冷却効果を得ることができる。
【0045】
なお、上述のように第一過給機101の下流には第二過給機102が設けられるので、第二圧力P2が比較的低い圧力であっても、内燃機関103に対しては十分に過給された第三圧力P3の圧縮空気を供給することが可能である。
【0046】
このように、実施の形態2に係る過給システム200によれば、第一過給機101において、開口28を介して第一軸受23を効率的に冷却することができる。また、実施の形態1と同様に、第一過給機101において、回転振動に伴う端部22aの振幅を縮小することができる。
【0047】
なお、
図2では第二過給機102は電動過給機ではないが、冷却が適切に行える場合には、第二過給機102も第一過給機101のような電動過給機としてもよい。また、冷却が適切に行える場合において、第二過給機すなわち高圧側の過給機が電動過給機である場合には、第一過給機すなわち低圧側の過給機を電動式以外のもの(たとえば実施の形態2の第二過給機102のように排気圧を利用するもの)としてもよい。