(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6156265
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】アース端子
(51)【国際特許分類】
H01R 4/64 20060101AFI20170626BHJP
H01R 4/38 20060101ALI20170626BHJP
H01R 4/26 20060101ALI20170626BHJP
【FI】
H01R4/64 C
H01R4/38 B
H01R4/26
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-127034(P2014-127034)
(22)【出願日】2014年6月20日
(65)【公開番号】特開2016-6732(P2016-6732A)
(43)【公開日】2016年1月14日
【審査請求日】2016年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 健司
(72)【発明者】
【氏名】森本 新也
【審査官】
前田 仁
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−125374(JP,A)
【文献】
実開昭63−198180(JP,U)
【文献】
実公昭36−012622(JP,Y1)
【文献】
実開昭57−048572(JP,U)
【文献】
特開2003−106319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/64
H01R 4/26
H01R 4/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の金属からなる筐体の接地面に非導電膜が被着されてなるボディに対してボルトで取り付けられるアース端子であって、
全体として角部が丸くされた略正方形の板状をなし、その中心部に円形の取付孔が形成されており、前記ボルトが前記取付孔に挿通可能とされた端子本体部を備え、
前記端子本体部における、前記ボルトとの締結部のうち、前記ボルトの締め付けによる軸方向の力を受ける領域であって前記端子本体部の4つの前記角部に、前記接地面側に突出形成される突出部が設けられ、
前記突出部は前記ボルトの締め付けに伴い前記非導電膜を突き抜けて前記接地面に食い込む食い込み部を有し、前記食い込み部は前記端子本体部の下面側から見て円形状をなして全周に亘って形成され、かつ、斜め下方に突出するとともにその下端が尖った形状をなしているアース端子。
【請求項2】
複数の前記突出部が等間隔で設けられている請求項1に記載のアース端子。
【請求項3】
前記アース端子と前記ボルトとの間にワッシャーを備え、
前記突出部が前記締結部のうち、前記ワッシャーの投影範囲に設けられている請求項1または請求項2に記載のアース端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アース端子に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に配索されるワイヤーハーネス等においては、アース用の電線の端末に圧着されたアース端子をボディの所定位置に取り付けることにより、アースをとるようになっているのが一般的である。自動車のボディには、ボディの所定位置に予め溶接固定されたナットとともに、腐食防止のための塗装が施されているため、塗装により形成された塗装膜を介してアース端子をボディにボルト締めすると、塗装膜にへたりが生じた際に、アース端子にがたつきが生じることがある。
【0003】
この問題を解決する方法として、アース端子とボディの金属面との間の塗装膜を剥ぎ取って、アース端子とボディの金属面との金属同士を固定する方法がある(例えば特許文献1を参照)。
【0004】
特許文献1には、アース端子の取付孔の孔縁に沿って設けた複数の削剥部がナットの上端面の塗装膜を削るように剥がすことで、ナットの上端面を露出させる構成が記載されている。これにより、アース端子とナットとが導通可能に接触させることができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−125374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の発明においては、削剥部が、ボルトの取付孔の孔縁に沿って曲げ加工により設けられているので、塗装膜の状態によっては、削剥部が塗装膜を剥がして金属面が露出する前に、ボルトの締めつけに伴い削剥部が孔の内部にのびて平坦な姿勢になってしまうと、塗装膜が意図したとおりに剥ぎ取られない可能性があった。そのためアース端子をナットの金属面に確実に接続できなくなることが懸念された。
【0007】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、アース端子をボディに対し確実に接続することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、導電性の金属からなる筐体の接地面に非導電膜が被着されてなるボディに対してボルトで取り付けられるアース端子であって、
全体として角部が丸くされた略正方形の板状をなし、その中心部に円形の取付孔が形成されており、前記ボルトが前記取付孔に挿通可能とされた端子本体部を備え、前記端子本体部における、前記ボルトとの締結部のうち、前記ボルトの締め付けによる軸方向の力を受ける領域
であって前記端子本体部の4つの前記角部に、前記接地面側に突出形成される突出部が設けられ、前記突出部は前記ボルトの締め付けに伴い前記非導電膜を突き抜けて前記接地面に食い込む食い込み部を有
し、前記食い込み部は前記端子本体部の下面側から見て円形状をなして全周に亘って形成され、かつ、斜め下方に突出するとともにその下端が尖った形状をなしているアース端子である。
【0009】
本発明においては、ボルトとの締結部のうち、ボルトの締めつけによる軸方向の力を受ける領域に突出部が設けられているので、ボルトが挿通され取り付けられる取付孔の孔縁に沿って設けられている場合のように、平坦な姿勢になりにくく、ボルトの締め付けによる軸方向の力を直接受ける。その結果、本発明によれば、ボルトの締め付けによる軸方向の力を直接受けて、突出部の食い込み部が接地面の非導電膜を突き抜けて接地面に食い込むので、アース端子をボディに対し確実に接続することができる。
また、食い込み部の形状を円形状にすることによりアース端子の食い込み部と接地面との接触部分が増えるので、電気的な接続が安定する。
【0010】
本発明は以下の構成であってもよい。
複数の前記突出部が等間隔で設けられていてもよい。このような構成とするとアース端子の筐体への着座姿勢が安定するので、アース端子と接地面との固定及び導通が安定する。
【0012】
前記アース端子と前記ボルトとの間にワッシャーを備え、前記突出部が前記締結部の前記ワッシャーの投影範囲に設けられていてもよい。
このような構成とすると、ボルトの回転によるアース端子の傷つきを防止することができる。加えて、上記のような構成とすると、ワッシャーがボルトの締めつけによる軸方向の力を受けて、ワッシャー面がアース端子の締結部を押すので、締結作業の際にアース端子が傾きにくく締結作業を効率的に行え、アース端子と接地面との固定および導通も安定する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アース端子をボディに対し確実に接続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図4】アース端子をボディに載置した様子を示す部分斜視図
【
図6】アース端子をボディに取り付ける前の様子を示す斜視図
【
図8】アース端子をボディに締結状態としたときの部分断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を
図1ないし
図8によって説明する。
本実施形態におけるアース端子10は、導電性の金属からなる筐体31の接地面32に塗装膜33(非導電膜の一例)が被着されてなるボディ30に対して、ボルト25によって取り付けられる。以下、各構成部材において、上下方向については、
図2、
図7および
図8を基準とする。また、アース端子10の前後方向については、
図2の左側を前方とし、
図2の右側(電線20側)を後方とする。
【0016】
ボディ30は、導電性の良い金属製の筐体31を有しており、
図6〜
図8に示すように、筐体31の表面がアース接続用の接地面32とされている。この接地面32は、腐食防止のための塗装処理により形成された塗装膜33によって覆われている。また、ボディ30の筐体31には、ボルト25と螺合可能な雌ネジ孔34が接地面32に開口して形成されている。
【0017】
ボルト25は六角形の頭部27を有しており、その頭部27よりも拡径した円形のワッシャー28が一体となった構成とされる。また、ボルト25は、雌ネジ孔34と螺合可能な雄ネジが形成された軸部26を有している。
【0018】
アース端子10には、
図1および
図2に示すように、ワイヤーハーネスの電線20が圧着されるオープンバレル形式のワイヤバレル18とインシュレーションバレル19とが設けられている。ワイヤバレル18は、電線20の端末において絶縁被覆22の剥離により露出する芯線21にかしめられており、ワイヤバレル18の後方に形成されたインシュレーションバレル19は、電線20の絶縁被覆22で覆われた被覆部23にかしめられている。
【0019】
さらに、アース端子10には、ワイヤバレル18の前方に連なり、ボディ30にボルト25によって締結される端子本体部11が一体に設けられている。端子本体部11は、全体として角部が丸くされた略正方形の板状をなし、その中心には、円形の取付孔13が形成されている。この取付孔13は、ボルト25の軸部26が挿通可能とされており、取付孔13の内径寸法が、軸部26の外径寸法よりもわずかに大きい寸法に設定されている。このことにより、取付孔13の孔縁が軸部26のネジ山と当接することで、ボルト25と端子本体部11との中心位置がほぼ同じになるように保たれるようになっている。
【0020】
端子本体部11の取付孔13の周囲の領域は、ボルト25の締め付けにより発生する力を受ける締結部12である。本実施形態においては、アース端子10の端子本体部11の締結部12とボルト25との間にワッシャー28が配されているので、ボルト25の締め付けによる軸方向(
図7における矢線Xの方向)の力は、締結部12のうち、ワッシャー28の上面と当接する領域に直接かかって、端子本体部11が下方に押されるようになっている。
【0021】
つまり、端子本体部11の締結部12のうち、ワッシャー28と当接する領域がボルト25の締め付けによる軸方向の力を受ける領域14に相当し、当該領域14は、
図1に示すように、ワッシャー28の投影範囲15(
図1の二点鎖線で囲まれたドーナツ状の領域)内である。
【0022】
本実施形態においては、端子本体部11における端子本体部11の締結部12のうち、ボルト25の締め付けによる軸方向の力を受ける領域14には、接地面32側(下方)に突出形成される突出部16が4つ(複数)設けられている。
【0023】
4つの突出部16(複数の突出部16)は、等間隔で設けられている。突出部16は、
図3および
図4に示すように、中心に貫通孔17Bを有するとともに上面側が凹んで下方へ突出する形状である。突出部16は、例えば、バーリング加工によって形成することができる。
【0024】
この突出部16は、ボルト25の締め付けに伴い塗装膜33を突き抜けて金属製の接地面32に食い込む食い込み部17Aを有する。食い込み部17Aは
図5に示すように、下面側(突出方向側)から見ると(底面視)、円形状をなしている。また、食い込み部17Aは、
図7および
図8に示すように、斜め下方に突出するとともにその先端が尖った形状をなしており、食い込み部17Aの先端が塗装膜33を突き抜けて接地面32に食い込むことにより、アース端子10をボディ30に対し接続するようになっている。
【0025】
次に、本実施形態のアース端子10の製造方法について説明する。
アース端子10は、導電性の金属板材にうちぬき加工や曲げ加工等を施すことにより作製することができる。このときに端子本体部11のうち、ボルト25の締付による軸方向の力を受ける領域14(ワッシャー28と当接する領域)にバーリング加工等により突出部16を形成しておく。
【0026】
次に、端末の絶縁被覆22を剥離除去することにより芯線21を露出させておいた電線20をアース端子10に接続する。具体的にはアース端子10のワイヤバレル18に電線20の端末において露出した芯線21を配し、インシュレーションバレル19に電線20の端末において絶縁被覆22により覆われた被覆部23を配して各バレル部を電線20の端末に圧着させて接続する。これにより
図1および
図2に示すアース端子10が得られる。
【0027】
次にアース端子10の取付方法について説明する。
図7に示すように、ボディ30の筐体31に設けた雌ネジ孔34の中心軸(Y−Y線)とアース端子10の取付孔13の中心軸(Z−Z線)が一致するように配した後、アース端子10の取付孔13と筐体31の雌ネジ孔34とにボルト25の軸部26を挿入し、ボルト25の軸部26を雌ネジ孔34に螺合させる。
【0028】
ボルト25を締め付けることにより、ボルト25の頭部27とワッシャー28の上面が当接し、かつ、ワッシャー28の下面がアース端子10の端子本体部11の上面に当接すると、アース端子10の端子本体部11は、ボルト25の締め付けによる軸方向の力を受けて下方に押される。本実施形態では4つの突出部16が等間隔で設けられているので、アース端子10が筐体31に対して安定した着座姿勢をとりつつ下方に押される。
【0029】
アース端子10の締結部12のうち、ボルト25の締め付けによる軸方向の力を受ける領域14が下方に押されると、突出部16に設けた食い込み部17Aの先端が塗装膜33に食い込み、食い込み部17Aが塗装膜33を貫通して筐体31の接地面32(金属面)に接触する(
図8を参照)。これによりアース端子10の取り付けは完了する。
【0030】
次に本実施形態の作用および効果を説明する。
本実施形態においては、ボルト25との締結部12のうち、ボルト25の締めつけによる軸方向の力を受ける領域14に突出部16が設けられているので、ボルトが挿通され取り付けられる取付孔の孔縁に沿って突出部が設けられている場合のように、平坦な姿勢になりにくく、ボルト25の締め付けによる軸方向の力を直接受ける。その結果、本実施形態によれば、ボルト25の締め付けによる軸方向の力を直接受けて、突出部16の食い込み部17Aが接地面32の塗装膜33を突き抜けて接地面32に食い込むので、アース端子10をボディ30に対し確実に接続することができる。
【0031】
また、本実施形態によれば、4つ(複数)の突出部16が等間隔で設けられているから、アース端子10の筐体31への着座姿勢が安定するので、アース端子10と接地面32との固定及び導通が安定する。
【0032】
また、本実施形態によれば、食い込み部17Aの形状が円形状であるから、食い込み部17Aが点状の場合等よりも、アース端子10の食い込み部17Aと接地面32との接触部分が増えるので、電気的な接続が安定する。
【0033】
また、本実施形態によれば、アース端子10とボルト25との間にワッシャー28を備え、突出部16が締結部12のワッシャー28の投影範囲15に設けられているから、ボルト25の回転によるアース端子10の傷つきを防止することができる。そのうえ、ワッシャー28がボルト25の締めつけによる軸方向の力を受けて、ワッシャー28面がアース端子10の締結部12を押すので、締結作業の際にアース端子10が傾きにくく締結作業を効率的に行え、アース端子10と接地面32との固定および導通も安定する。
【0034】
<他の実施形態>
本明細書により開示した技術は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態であってもよい。
(1)上記実施形態では、ボディ30に雌ネジ孔34を形成したが、ボディの接地面の下側等にナットを予め溶接しておいても良い。
(2)上記実施形態では、ボルト25を締め込んでいたが、ボディ側にスタッドボルトを立てて、そこにナットで締め込むようにしても良い。
(3)上記実施形態では、塗装膜33が非導電膜である例を示したが、非導電膜はアルミニウム製の筐体の表面に形成される酸化被膜等でも良い
。
(5)上記実施形態では、ワッシャー28と一体となったボルト25を示したが、ワッシャーは、ボルトと別体でも良いし、ワッシャーがないものであってもよい
。
(7)上記実施形態では、アース端子10とボルト25との間にワッシャー28を備え、突出部16が締結部12のうち、ワッシャー28の投影範囲15内に設けられている例を示したが、突出部の一部がワッシャーの投影範囲内に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0035】
10…アース端子
11…端子本体部
12…締結部
13…取付孔
14…ボルトの締め付けによる軸方向の力を受ける領域
15…ワッシャーの投影範囲
16…突出部
17A…食い込み部
25…ボルト
26…(ボルトの)軸部
27…(ボルトの)頭部
28…ワッシャー
30…ボディ
31…筐体
32…接地面
33…塗装膜(非導電膜)
34…雌ネジ孔